(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5821706
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】ネットワーク中継機器及びパケット転送制御方法
(51)【国際特許分類】
H04L 12/833 20130101AFI20151104BHJP
【FI】
H04L12/833
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-46699(P2012-46699)
(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公開番号】特開2013-183341(P2013-183341A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】前多 和洋
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 康一郎
【審査官】
衣鳩 文彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−104417(JP,A)
【文献】
特開2003−249953(JP,A)
【文献】
特表2003−504900(JP,A)
【文献】
米国特許第7369500(US,B1)
【文献】
特開2011−15288(JP,A)
【文献】
長谷川 剛 他,バックボーンルータにおけるREDの動的閾値制御方式,電子情報通信学会技術研究報告,2001年 4月13日,第101巻,第9号,p.1〜6
【文献】
西松 三千代 他,PCNのパラメータ設定についての一検討,電子情報通信学会2008年総合大会講演論文集 通信2,2008年 3月 5日,p.177
【文献】
廣瀬 史明 他,2種類のECNマーキングによるTCP RenoとHS TCPの公平な転送の実現,電子情報通信学会技術研究報告,2004年 5月14日,第104巻,第73号,p.55〜60
【文献】
岸本 統久 他,ネットワークの変動に対してロバストとなるアクティブキュー管理機構のパケット棄却方式に関する検討,電子情報通信学会技術研究報告,2002年 7月12日,第102巻,第214号,p.55〜60
【文献】
為重 文覚 他,高帯域遅延積ネットワークにおけるUDTを用いた効率的な高速転送方式,電子情報通信学会技術研究報告,2005年12月 8日,第105巻,第470号,p.65〜68
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/833
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ECN(Explicit Congestion Notification)に対応した端末が行う通信の経路に配置され、輻輳を検知すると、IPヘッダ内のToSフィールドの第7ビットに定義されているCE(Congestion Experience)を輻輳検知情報として1にするネットワーク中継機器であって、
輻輳を検知する輻輳検知部と、
前記輻輳検知部が輻輳を検知し、当該輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定したマーク開始量よりも大きいとき、前記輻輳を検知したポート又はキューから転送するパケットのヘッダに、当該バッファ量に応じたマーク率で前記輻輳検知情報を付与する輻輳通知部と、を備えたネットワーク中継機器において、
前記輻輳通知部は、前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量に応じて、当該バッファ量が前記マーク開始量以下であるときはマーク率が0%、予め設定した最大マーク量以上であるときはマーク率が100%、前記マーク開始量より大きく前記最大マーク量より小さいときは、マーク率が0%から予め設定した最大マーク率まで当該バッファ量に比例して増加するように設定されたマーキングカーブを用いて、マーク率を決定するよう構成され、
前記輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生しているとき、又は前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定した上限閾値を上回るときに、前記最大マーク率を増加し、前記輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生していないとき、又は前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が前記上限閾値を下回るときに、前記最大マーク率を減少するマーク率調整部を備えた
ことを特徴とするネットワーク中継機器。
【請求項2】
前記最大マーク率を減少する時間間隔は、前記最大マーク率を増加する時間間隔と比較して大きく設定される
請求項1記載のネットワーク中継機器。
【請求項3】
前記輻輳検知部は、任意のポート又はキューのバッファ量が0より大きいときに、当該ポート又はキューで輻輳が発生したと判断するよう構成される
請求項1または2記載のネットワーク中継機器。
【請求項4】
ECN(Explicit Congestion Notification)に対応した端末が行う通信の経路に配置され、輻輳を検知すると、IPヘッダ内のToSフィールドの第7ビットに定義されているCE(Congestion Experience)を輻輳検知情報として1にするネットワーク中継機器が行うパケット転送制御方法であって、
輻輳を検知し、当該輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定したマーク開始量よりも大きいとき、前記輻輳を検知したポート又はキューから転送するパケットのヘッダに、当該バッファ量に応じたマーク率で前記輻輳検知情報を付与するパケット転送制御方法において、
前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量に応じて、当該バッファ量が前記マーク開始量以下であるときはマーク率が0%、予め設定した最大マーク量以上であるときはマーク率が100%、前記マーク開始量より大きく前記最大マーク量より小さいときは、マーク率が0%から予め設定した最大マーク率まで当該バッファ量に比例して増加するように設定されたマーキングカーブを用いて、マーク率を決定し、
前記輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生しているとき、又は前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定した上限閾値を上回るときに、前記最大マーク率を増加し、前記輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生していないとき、又は前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が前記上限閾値を下回るときに、前記最大マーク率を減少する
ことを特徴とするパケット転送制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルータやスイッチ等のネットワーク中継機器及びパケット転送制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
輻輳が発生した際に、サーバやストレージ等の端末相互間(end to end)で輻輳発生を認識し、送信レートを抑える仕組みとして、ECN(Explicit Cogestion Notification)が規格化されている(RFC3168参照)。
【0003】
このECNでは、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)通信が行われている経路に配置されたルータやスイッチ等のネットワーク中継機器が輻輳を検知すると、ネットワーク中継機器が、輻輳したポート又はキューのパケットに対してIPレイヤで受信側の端末に輻輳通知を行う。輻輳通知を受け取った受信側の端末は、送信側の端末にTCPレイヤで輻輳通知をする。これにより、送受信の端末相互間で輻輳が認識される。
【0004】
図4を用いてECNの基本動作を具体的に説明する。
【0005】
図4(a)に示すように、3つのサーバ42a〜42cと1つのストレージ43がそれぞれ別ポートに接続されたネットワーク中継機器41において、サーバ42aからストレージ43に送信するデータ量が増加して輻輳が発生した場合を考える。なお、サーバ42aはECNに対応した機器であるとする。
【0006】
サーバ42aは、自身がECNに対応した機器であるため、IPヘッダ内のToS(Type of Service)フィールドの第6ビットに定義されているECT(ECN Capable Transport)を1に設定して、パケットを送信する。
【0007】
ネットワーク中継機器41は、輻輳を検知すると、サーバ42aからストレージ43に送信するパケットのIPヘッダ内のToSフィールドの第7ビットに定義されているCE(Congestion Experience)を1にする。これにより、IPヘッダに輻輳検知情報が付与される。
【0008】
受信側のストレージ43は、CEに1がセットされたパケットを受信すると、通信経路の途中のネットワーク中継機器41で輻輳が発生したことを認識し、
図4(b)に示すように、TCPのACK応答時にTCPヘッダ内のECE(ECN Echo)を1として、送信側のサーバ42aに輻輳を通知する。
【0009】
サーバ42aは、ECEに1がセットされたACKを受信すると、輻輳が発生したことを認識し、TCPのウィンドウサイズを抑える(送信レートを抑える)ことで、輻輳を回避する。サーバ42aは、受信側のストレージ43にTCPヘッダのCWR(Congestion Window Reduce)を1としたパケットを送信し、ウィンドウサイズを減少させたことを通知する。
【0010】
ところで、ネットワーク中継機器41では、輻輳を検知したら全てのパケットのCEを1にするわけではなく、輻輳の度合い(つまり輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量)に応じてCEを1にする割合(マーク率という)を変化させるのが一般的である。マーク率を決定する方法としては、
図5に示すようなCEビットマーキングカーブを用いる方法が知られている。
【0011】
図5に示すように、CEビットマーキングカーブ(以下、単にマーキングカーブという)は、縦軸をマーク率、横軸をバッファ量としたグラフで表され、マーク開始量、最大マーク量、最大マーク率の3つの設定値で特徴付けられるものである。
【0012】
具体的には、マーキングカーブは、
(1)バッファ量が、マーク開始量以下であるときは、マーク率が0%、
(2)バッファ量が、最大マーク量以上であるときは、マーク率が100%、
(3)バッファ量が、マーク開始量より大きく最大マーク量より小さいときは、マーク率が0%から予め設定した最大マーク率までバッファ量に比例して増加するように設定されている。(3)の場合、すなわち、マーク開始量<バッファ量<最大マーク量であるときのマーク率は、次式
マーク率=最大マーク率×(バッファ量−マーク開始量)/(最大マーク量−マーク開始量)
で表される。なお、バッファ量が最大バッファ量(ポート又はキューに割り当てられている最大のバッファ量)以上であるときは、バッファ不可のため、パケットドロップ(パケットロス)が発生する。
【0013】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1〜4がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2011−15288号公報
【特許文献2】国際公開第2008/149434号
【特許文献3】特開2004−104417号公報
【特許文献4】特開2004−357177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述のECNの規格では、ネットワーク中継機器41がどの程度輻輳したら輻輳通知をするか、あるいは、どの程度の割合で輻輳通知をするか、といったことは定義されておらず、マーキングカーブをどのように設定すればよいか不明であった。
【0016】
例えば、
図6(a)に示すように、最大マーク率を大きく設定した場合、マーキング開始直後にマーク率が急激に上昇し、多くのパケットに輻輳検知情報が付与されることとなり、送信側の機器が一気にウィンドウサイズを小さくしてしまう。この場合、バッファに余裕があるためパケットロスは発生しにくいが、ウィンドウサイズを小さくすることにより、送信を中断する回数が増え、結果としてスループットが低下してしまう。
【0017】
他方、
図6(b)に示すように、最大マーク率を小さく設定した場合、マーキング開始後にバッファ量が増加してもマーク率が低いままなので、ウィンドウサイズを抑える動作が働きにくくなる。しかし、ネットワーク中継機器41内の空きバッファに余裕が少ないため、連続して送信されるパケットによりパケットロスが発生し易くなり、このパケットロスによりスループットが低下してしまう(TCPによる再送が行われて実効スループットが低下する)。
【0018】
このように、最大マーク率を大きく設定して早い段階からマーク率を大きくすると、送信元で早い段階から送信レートを抑えるため、スループットが低下してしまう。他方、最大マーク率を小さくしてマーク率の増加を遅らせ過ぎると、バッファの空きが少なくなってパケットロスが発生しやすくなり、パケットロスによってスループットが低下してしまう。
【0019】
本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、輻輳検知時のスループットの低下を抑えることが可能なネットワーク中継機器及びパケット転送制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、
ECN(Explicit Congestion Notification)に対応した端末が行う通信の経路に配置され、輻輳を検知すると、IPヘッダ内のToSフィールドの第7ビットに定義されているCE(Congestion Experience)を輻輳検知情報として1にするネットワーク中継機器であって、輻輳を検知する輻輳検知部と、前記輻輳検知部が輻輳を検知し、当該輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定したマーク開始量よりも大きいとき、前記輻輳を検知したポート又はキューから転送するパケットのヘッダに、当該バッファ量に応じたマーク率で輻輳検知情報を付与する輻輳通知部と、を備えたネットワーク中継機器において、前記輻輳通知部は、前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量に応じて、当該バッファ量が前記マーク開始量以下であるときはマーク率が0%、予め設定した最大
マーク量以上であるときはマーク率が100%、前記マーク開始量より大きく前記最大
マーク量より小さいときは、マーク率が0%から予め設定した最大マーク率まで当該バッファ量に比例して増加するように設定されたマーキングカーブを用いて、マーク率を決定するよう構成され、前記輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生しているとき、又は前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定した上限閾値を上回るときに、前記最大マーク率を増加し、前記輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生していないとき、又は前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が前記上限閾値を下回るときに、前記最大マーク率を減少するマーク率調整部を備えたネットワーク中継機器である。
【0021】
前記最大マーク率を減少する時間間隔は、前記最大マーク率を増加する時間間隔と比較して大きく設定されてもよい。
【0022】
前記輻輳検知部は、任意のポート又はキューのバッファ量が0より大きいときに、当該ポート又はキューで輻輳が発生したと判断するよう構成されてもよい。
【0023】
また、本発明は、
ECN(Explicit Congestion Notification)に対応した端末が行う通信の経路に配置され、輻輳を検知すると、IPヘッダ内のToSフィールドの第7ビットに定義されているCE(Congestion Experience)を輻輳検知情報として1にするネットワーク中継機器が行うパケット転送制御方法であって、輻輳を検知し、当該輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定したマーク開始量よりも大きいとき、前記輻輳を検知したポート又はキューから転送するパケットのヘッダに、当該バッファ量に応じたマーク率で輻輳検知情報を付与するパケット転送制御方法において、前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量に応じて、当該バッファ量が前記マーク開始量以下であるときはマーク率が0%、予め設定した最大
マーク量以上であるときはマーク率が100%、前記マーク開始量より大きく前記最大
マーク量より小さいときは、マーク率が0%から予め設定した最大マーク率まで当該バッファ量に比例して増加するように設定されたマーキングカーブを用いて、マーク率を決定し、前記輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生しているとき、又は前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定した上限閾値を上回るときに、前記最大マーク率を増加し、前記輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生していないとき、又は前記輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が前記上限閾値を下回るときに、前記最大マーク率を減少するパケット転送制御方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、輻輳検知時のスループットの低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るネットワーク中継機器の概略構成図である。
【
図2】
図1のネットワーク中継機器で用いるマーキングカーブを示す図である。
【
図3】
図1のネットワーク中継機器のマーク率調整部における制御フローを示すフローチャートである。
【
図4】(a),(b)は、ECNの基本動作を説明する図である。
【
図6】(a),(b)は、従来のネットワーク中継機器の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0027】
本発明のネットワーク中継機器は、例えば、ルータやスイッチ(L2スイッチを含む)である。ここでは、一例として、ネットワーク中継機器がスイッチである場合を説明する。
【0028】
図1は、本実施の形態に係るネットワーク中継機器の概略構成図である。
【0029】
図1に示すように、ネットワーク中継機器1は、各ポート11毎に設けられたパケット受信部12およびパケット送信部13と、パケット受信部12で受信したパケットを一時的に記憶するパケットバッファ14と、パケットバッファ14と、パケット受信部12およびパケット送信部13との間に設けられたバッファ制御部15と、パケット内容に応じて出力先のポート11を決定する経路制御部16と、を備えている。
【0030】
バッファ制御部15は、パケットバッファ14に空きがあるとき、パケット受信部12から受信したパケットを一旦パケットバッファ14に格納するように構成され、また、経路制御部16からの指示でパケットバッファ14からパケットを読み出して、出力先のポート11(パケット送信部13)へ出力するように構成される。経路制御部16は、パケットの宛先アドレスで図示しないFDB(フォワーディングデータベース)を参照して出力先のポート11を決定し、バッファ制御部15に出力指示を行うように構成される。
【0031】
また、ネットワーク中継機器1は、輻輳検知部2と、輻輳通知部3と、を備えている。
【0032】
輻輳検知部2は、輻輳を検知するものである。本実施の形態では、輻輳検知部2を、任意のポート又はキューのバッファ量が0より大きいときに、当該ポート又はキューで輻輳が発生したと判断するよう構成した。
【0033】
輻輳通知部3は、輻輳発生時に受信側の機器に輻輳の発生を通知するものである。輻輳通知部3は、輻輳検知部2が輻輳を検知し、当該輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定したマーク開始量よりも大きいとき、輻輳を検知したポート又はキューから転送するパケットのヘッダに、当該バッファ量に応じたマーク率で輻輳検知情報を付与するよう構成される。輻輳通知部3は、パケットのIPヘッダのCEを1にすることで、輻輳検知情報を付与するよう構成される。なお、本実施の形態における「パケット」は、レイヤ2の「フレーム」を含み、データの塊の単位を意味するものとする。輻輳通知部3は、パケットバッファ14からバッファ制御部15にパケットを出力する際に、輻輳検知部2からの指示で輻輳検知情報を付与する(輻輳していなければ、何もせずパケットを通過させる)。
【0034】
本実施の形態では、輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量に応じて、マーキングカーブ3aを用いてマーク率を決定するように輻輳通知部3を構成した。マーキングカーブ3aは、
図5で説明したように、マーク開始量、最大マーク量、最大マーク率の3つの設定値で特徴付けられるものである。
【0035】
より具体的には、マーキングカーブ3aは、輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が、マーク開始量以下であるときはマーク率が0%、予め設定した最大
マーク量以上であるときはマーク率が100%、マーク開始量より大きく最大
マーク量より小さいときは、マーク率が0%から予め設定した最大マーク率までバッファ量に比例して増加するように設定されている。マーク開始量<バッファ量<最大マーク量であるときのマーク率は、次式
マーク率=最大マーク率×(バッファ量−マーク開始量)/(最大マーク量−マーク開始量)
で表される。
【0036】
さて、本実施の形態に係るネットワーク中継機器1は、輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生しているときに最大マーク率を増加し、輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生していないときに最大マーク率を減少するマーク率調整部4を、さらに備えている。
【0037】
本実施の形態では、マーク開始量と最大マーク量を一定の値に設定し、マーク率調整部4が、最大マーク率のみを0%から100%の間で増加又は減少する場合を説明する。
【0038】
このように構成することで、最大マーク率を増加又は減少したとき、マーキングカーブ3aでは、
図2に破線で示すように、マーク開始量<バッファ量<最大マーク量の範囲における直線の傾きが変化することになる。
【0039】
次に、本実施の形態に係るパケット転送制御方法を説明する。
【0040】
本実施の形態に係るパケット転送制御方法は、輻輳を検知し、当該輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定したマーク開始量よりも大きいとき、輻輳を検知したポート又はキューから転送するパケットのヘッダに、当該バッファ量に応じたマーク率で輻輳検知情報を付与する方法において、輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生しているときに最大マーク率を増加し、輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生していないときに最大マーク率を減少する方法である。
【0041】
ここで、マーク率調整部4による最大マーク率を増加又は減少する制御を
図3を用いて説明する。
【0042】
図3に示すように、まず、マーク率調整部4は、ステップS1にて、最大マーク率を初期値(例えば50%)に設定すると共に、変数nに初期値0を代入する。なお、最大マーク率の初期値は任意に設定可能である。
【0043】
その後、ステップS2にて、マーク率調整部4が、バッファ量が0以上か否か(つまり輻輳検知部2が輻輳を検知しているか否か)を判断する。ステップS2でNOと判断された場合、ステップS2を繰り返す。ステップS2でYESと判断された場合、ステップS3に進む。
【0044】
ステップS3では、マーク率調整部4が、パケットロスが発生しているか否かを判断する。ステップS3でYESと判断された場合、すなわちパケットロスが発生している場合には、ステップS4にて最大マーク率を増加する。ステップS4で最大マーク率を増加する値は、適宜な値に予め設定しておくとよい。なお、パケットロスの判定方法は公知であるため、ここでは説明を省略する。
【0045】
ステップS4で最大マーク率を増加することにより、輻輳検知情報が付与される(CEが1に設定される)パケットの割合が増加し、TCPのウィンドウサイズが速やかに抑制され、パケットロスによるスループットの低下が抑えられることになる。最大マーク率を増加した後、ステップS8にて変数nをゼロクリアし、ステップS2に戻る。
【0046】
ステップS3でNOと判断された場合、すなわち輻輳が発生しているがパケットロスが発生していない場合、マーク率調整部4は、ステップS5で変数nをインクリメントした後、ステップS6にて、変数nが予め設定した設定値以上か判断する。ステップS6でNOと判断された場合、ステップS2に戻り、ステップS6でYESと判断された場合、ステップS7にて最大マーク率を減少する。
【0047】
つまり、本実施の形態では、ステップS2,S3,S5,S6を予め設定した回数繰り返したとき、換言すれば、輻輳が発生しているがパケットロスが発生していない状態が所定時間継続したときに、はじめて最大マーク率を減少するようにしており、最大マーク率を減少する時間間隔が、最大マーク率を増加する時間間隔と比較して大きく設定されている。なお、ステップS7で最大マーク率を減少する値は、適宜な値に予め設定しておくとよく、ステップS4で最大マーク率を増加する値と同じでも異なっていてもよい。
【0048】
輻輳が発生しているがパケットロスが発生していない状態が継続するということは、現状の中継しているデータ量ではバッファ量に余裕があることを意味している。よって、このような場合は、最大マーク率を減少し、輻輳検知情報が付与される(CEが1に設定される)パケットの割合を減らすことで、TCPのウィンドウサイズの低下によるスループットの低下を抑制する。ただし、一時的に中継するデータ量が減っているような場合に速やかに最大マーク率を減少すると、中継するデータ量が元に戻った際に大量のパケットロスが発生してスループットが大幅に低下する可能性があるため、適宜な時間間隔をもって最大マーク率の減少を行う。ステップS7で最大マーク率を減少した後、ステップS8にて変数nをゼロクリアし、ステップS2に戻る。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態に係るネットワーク中継機器1では、輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生しているときに最大マーク率を増加し、輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生していないときに最大マーク率を減少するマーク率調整部4を備えている。
【0050】
マーク率調整部4を備えることにより、中継するデータ量に応じて、パケットロスによるスループットの低下と、TCPのウィンドウサイズ抑制によるスループットの低下の両者をバランスよく抑制し、輻輳検知時のスループットの低下を抑えることが可能になる。
【0051】
また、本実施の形態では、最大マーク率を減少する時間間隔を、最大マーク率を増加する時間間隔と比較して大きく設定しているため、中継するデータ量が一時的に減少し、その後回復したような場合であっても、パケットロスによるスループットの低下を抑制できる。
【0052】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0053】
例えば、上記実施の形態では、パケットロスの有無により最大マーク率を増加又は減少したが、これに限らず、パケットロスが発生するおそれがあるときに最大マーク率を増加し、パケットロスが発生するおそれがないときに最大マーク率を減少するようにしてもよい。
【0054】
この場合、マーク率調整部4を、輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が予め設定した上限閾値(例えば最大バッファ量の80%)を上回るときに最大マーク率を増加し、輻輳を検知したポート又はキューのバッファ量が上限閾値を下回るときに最大マーク率を減少するように構成すればよい。このように構成することで、実際にパケットロスが発生する前に最大マーク率を増加させることが可能になり、結果としてスループットをより向上させることが可能になる。なお、「上限閾値を上回る」と「上限閾値を下回る」という表現は、「上限閾値以上」と「上限閾値未満」という場合と、「上限閾値を超える」と「上限閾値以下」という場合の両方を含むものとする。
【0055】
また、上記実施の形態では、最大マーク量を一定としたが、最大マーク量を可変にしてもよい。この場合、マーク率調整部4は、上述の最大マーク率の制御に加えて、輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生しているときに最大マーク量を減少し、輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生していないときに最大マーク量を増加する制御を行うことになる。
【0056】
さらに、最大マーク率、最大マーク量に加えて、マーク開始量を可変にすることも可能である。この場合、マーク率調整部4は、さらに、輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生しているときにマーク開始量を減少し、輻輳を検知したポート又はキューでパケットロスが発生していないときにマーク開始量を増加する制御を行うことになる。
【0057】
このように、複数のパラメータ(最大マーク率、最大マーク量、マーク開始量)の制御を行う場合には、各パラメータの制御をそれぞれ独立したプロセスとし同時並行的に処理を行うことが望ましい。これにより、各パラメータは、相互に影響を与えつつ、中継するデータ量に応じた最適値に収束していくことになり、輻輳検知時のスループットの低下をより抑えることが可能になる。
【符号の説明】
【0058】
1 ネットワーク中継機器
2 輻輳検知部
3 輻輳通知部
4 マーク率調整部