特許第5823166号(P5823166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5823166制御パラメータ推定方法及び制御パラメータ設定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5823166
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月25日
(54)【発明の名称】制御パラメータ推定方法及び制御パラメータ設定装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 3/12 20060101AFI20151105BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20151105BHJP
【FI】
   G05D3/12 305V
   G05B13/02 B
【請求項の数】2
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-115399(P2011-115399)
(22)【出願日】2011年5月24日
(65)【公開番号】特開2012-243231(P2012-243231A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年4月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成23年3月8日に、社団法人電気学会 発行の「電気学会研究会資料」にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博志
【審査官】 青山 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−210273(JP,A)
【文献】 特開平05−046253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 3/00− 3/20
G05B 19/18ー19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を予め定められた軸方向に案内する案内機構部と、駆動モータの動力によって前記移動体を移動させる駆動機構部とを備え、前記案内機構部及び駆動機構部の少なくとも一方に転動体を備えた送り装置の制御において、前記駆動モータの作動を制御するための制御パラメータである慣性モーメントに関するパラメータJ、粘性摩擦に関するパラメータD及び転がり摩擦に関するパラメータTdを推定する方法であって、
前記駆動モータに入力されるトルク値をTとして、位置対時間で表された線図が予め定められた軌道を描くように前記移動体を前記軸方向に往復動させ、一定時間毎又は移動体の予め定められた位置毎の前記駆動モータの角速度ωを計測し、
ついで、前記パラメータJ及びDを任意の初期値に設定して、前記計測された各角速度ω及びその時の前記入力トルクTを基に、下式に従って、前記各角速度ω及び入力トルクTに応じた前記パラメータTdを算出し、算出したパラメータTdを前記位置との関係で線図化するとともに、
得られる前記パラメータTdと位置との関係線図が、予め設定した略長方形状の基準線図と近似するように、前記パラメータJ及びDの少なくとも一方の値を調整して、前記パラメータTdを再算出し、
得られた調整後のパラメータJ、D及びTdの値を該パラメータJ、D及びTdの適正な値と推定するようにしたことを特徴とする制御パラメータ推定方法。
(数1)
Td=T−J(dω/dt)−Dω
【請求項2】
移動体を予め定められた軸方向に案内する案内機構部と、駆動モータの動力によって前記移動体を移動させる駆動機構部とを備え、前記案内機構部及び駆動機構部の少なくとも一方に転動体を備えた送り装置の制御において、前記駆動モータの作動を制御するための制御パラメータである慣性モーメントに関するパラメータJ、粘性摩擦に関するパラメータD及び転がり摩擦に関するパラメータTdを設定するための装置であって、
前記パラメータJ,D及びTdの値を記憶するパラメータ記憶部と、
前記駆動モータに入力されるトルク値をTとして、位置対時間で表された線図が予め定められた軌道を描くように前記移動体を前記軸方向に往復動させる制御部と、
一定時間毎又は移動体の予め定められた位置毎の前記駆動モータの角速度ωを計測する角速度計測部、
前記角速度計測部によって計測された角速度ωの値と、その時の前記制御部から前記駆動モータに入力される前記入力トルクTの値とを、相互に関連付けて記憶する計測データ記憶部と、
外部から、前記パラメータJ,Dの値、及び更新指令の入力を受け付ける入力部と、
前記入力部から入力された前記パラメータJ及びDの値と、前記計測データ記憶部に記憶された各角速度ω及びその時の前記入力トルクTの値とを基に、下式に従って、前記各角速度ω及び入力トルクTに応じた前記パラメータTdを算出するパラメータ算出部と、
前記パラメータ算出部によって算出されたパラメータTdの値を位置との関係で線図化して表示する表示部と、
前記入力部から入力された更新指令を受けて、その時点での前記パラメータ算出部で用いた前記パラメータJ,Dの値、及び算出されたパラメータTdの値で、前記パラメータ記憶部に記憶された各パラメータJ,D及びTdの値を更新する更新処理部とから構成したことを特徴とする制御パラメータ設定装置。
(数2)
Td=T−J(dω/dt)−Dω
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、案内機構部及び駆動機構部の少なくとも一方に転動体を備えた送り装置の制御に用いる制御パラメータ、より具体的には、慣性モーメントに関するパラメータJ、粘性摩擦に関するパラメータD及び転がり摩擦に関するパラメータTdを推定する方法、並びに前記各制御パラメータを設定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転動体を備え、移動体を移動させる送り装置は、通常、移動体の移動を案内する案内機構部と、移動体を移動させる駆動機構部とを備えており、前記案内機構部は、例えば、転がり案内機構から構成され、前記駆動機構部は、例えば、ボールねじと、移動体に固設され、ボールねじに螺合するナットと、ボールねじをその軸中心に回転させ、ナット及びこれに連結された移動体を移動させる駆動モータとから構成される。
【0003】
このような送り装置を制御する制御装置は、移動体の目標移動位置を基に制御信号を生成して駆動モータに送信し、当該駆動モータによりボールねじを軸中心に回転させて移動体を目標移動位置に移動させる。
【0004】
例えば、工作機械では、近年ますます高精度な位置決め制御が要求されている。しかしながら、案内機構部が転がり案内機構から構成された送り装置や、駆動機構部がボールねじにより移動体を駆動する送り装置では、移動体を移動させる際に、これら案内機構部や駆動機構部に含まれる転動体に起因した摩擦力が生じるため、この摩擦力によって移動体の目標移動位置と実際の移動位置との間に移動誤差を生じ、移動体を高精度に位置決めすることができなかった。
【0005】
本願発明者らは、このような移動誤差を効果的に補正する装置として、特願2010−049816号を提案している。同願に記載された発明は、駆動モータに送信される制御信号を解析して、その解析結果と、駆動機構部からフィードバックされる移動体の現在位置とを基にテーブルの移動誤差量を算出し、算出した移動誤差量を基に移動体の移動位置を補正する構成としており、応答結果が分かってからしか補正を行うことができないという従来装置(特開2002−23852号公報)の問題点を解決し、移動体を目標移動位置に移動させる際に生じる各指令移動位置における外力を推定して、推定した外力を基に移動体の各指令移動位置を補正するフィードフォワード制御による移動位置補正により、高精度の誤差補正を可能としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−23852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
移動体とそれを送るボールねじ機構(送り装置)とを動作させる駆動モータの軸系の運動方程式は、次の(数1)式で記載される。(数1)式において、Tは駆動モータに入力する入力トルク、ωは駆動モータの角速度、tは時間、さらに、J,D,Tdは、それぞれ、駆動モータの駆動軸に係る送り系の慣性モーメントに関するパラメータ(慣性モーメント係数),粘性摩擦に関するパラメータ(粘性摩擦係数),転がり摩擦に関するパラメータのことである。転がり摩擦に関するパラメータTdに関しては、2軸の円弧補間による指令動作において、摩擦抵抗と遅れ要素により指令の通りに動かない誤差が象限突起として生じることが知られており、一般的に外乱要素として取り扱われる。
(数1)
Td=T−J(dω/dt)−Dω
【0008】
本願発明者らは、特願2010−049816号に開示した発明において、フィードバック制御時の偏差に乗ずる値(位置ループゲイン)を非常に大きく設定し、前記(数1)式における各速度ωないしその微分dω/dtをゼロとみなせるほどゆっくり駆動モータを動作させることによって、転がり摩擦に関するパラメータTdを推定した。
【0009】
しかしながら、転がり摩擦に関するパラメータTdの推定時に送り装置の動作を過敏にせず、不要振動を生じさせない安定的なものとするには、前記位置ループゲインの値をあまり大きく設定しないことが好ましい。
【0010】
また、特願2010−049816号に開示した発明では、上述のとおり、前記(数1)式における角速度ωないしその微分dω/dtをゼロとみなせるほどゆっくり駆動モータを動作させる必要があるが、このような制限は、実際の工作機械の動作において現実的ではないこともある。
【0011】
さらに、送り装置において、その制御を的確に行うには、転がり摩擦に関するパラメータTdだけでなく、慣性モーメント係数J、粘性摩擦係数Dについても正確な値を推定する必要がある。
【0012】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、移動体の移動制御を適正に実現するために制御パラメータを的確に推定し、移動体を高精度に位置決め制御することができる制御パラメータ推定方法及び制御パラメータ推定装置の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明は、次の構成としている。
移動体を予め定められた軸方向に案内する案内機構部と、駆動モータの動力によって前記移動体を移動させる駆動機構部とを備え、前記案内機構部及び駆動機構部の少なくとも一方に転動体を備えた送り装置の制御において、前記駆動モータの作動を制御するための制御パラメータである慣性モーメントに関するパラメータJ、粘性摩擦に関するパラメータD及び転がり摩擦に関するパラメータTdを推定する方法であって、
前記駆動モータに入力されるトルク値をTとして、位置対時間で表される線図が予め定められた軌道を描くように前記移動体を前記軸方向に往復動させ、一定時間毎又は移動体の予め定められた位置毎の前記駆動モータの角速度ωを計測し、
ついで、前記パラメータJ及びDを任意の初期値に設定して、前記計測された各角速度ω及びその時の前記入力トルクTを基に、下式に従って、前記各角速度ω及び入力トルクTに応じた前記パラメータTdを算出した後、算出したパラメータTdの前記位置への依存が小さくなるように、前記パラメータJ及びDの少なくとも一方の値を調整して、前記パラメータTdを再算出し、
得られた調整後のパラメータJ、D及びTdの値を該パラメータJ、D及びTdの適正な値と推定するようにしたことを特徴とする制御パラメータ推定方法。
(数1)
Td=T−J(dω/dt)−Dω
【0014】
上記の構成によれば、まず駆動モータに入力トルクTが入力され、位置対時間で表される線図が予め定められた軌道を描くように前記移動体が前記軸方向に往復動させられる。上記の予め定められた軌道とは、正弦波状の軌道であることが好ましい。正弦波を描くように運動させれば、速度、加速度が常に変化して計算に都合がよく、物理的にも動きが理解しやすいためである。その往復動をする状態で、移動体の予め定められた位置毎に、駆動モータの角速度ωが計測され、両者の組み合わせが基礎データとして蓄積されていく。
【0015】
上記では、移動体の予め定められた位置毎に、角速度ωを計測するものとしたが、移動体の予め定められた位置の代わりに、一定時間毎に駆動モータの角速度ωを計測ないし算出するようにしてもよい。上記のように、位置対時間で表された線図が予め定められた軌道を描くように前記移動体を前記軸方向に往復動させているので、時間と移動体の位置とは一対一の関係にあり、一定時間毎に駆動モータの角速度ωを計測するようにすれば、移動体の予め定められた位置毎に角速度ωを計測したのと等価な基礎データが取得できるからである。
【0016】
このようにして取得した基礎データは、位置対時間で表された線図が予め定められた軌道を描くように前記移動体を前記軸方向に往復動させた場合の駆動モータにおける角速度ωと入力トルクTとの関係を示すものであり、この角速度ωと入力トルクTと関係は、移動体の位置毎に異なるものとなっている。
【0017】
次に、パラメータJ及びDが任意の初期値に設定される。本発明では、後にパラメータJ及びDの少なくとも一方の調整により、パラメータJ、D及びTdの値を次第に適正化していくので、未調整のパラメータJ及びDの初期値としては、何ら特定の値に限定されず任意のものを用いることができる。
【0018】
そして、得られた基礎データを基に、移動体の位置毎に、入力トルクT,ω,dω/dtと暫定的な値のパラメータJ及びDを、駆動モータの軸系の運動方程式(前記(数1)式)に代入していくことにより、前記各角速度ω及び入力トルクTに応じた前記パラメータTdを算出すると、パラメータTdと移動体の位置との関係が得られることになる。
【0019】
本発明は、パラメータTdが移動体の位置にできるだけ依存しないように、すなわち、パラメータTdの前記位置依存が小さくなるように、パラメータJ,D(少なくともパラメータJ,Dのうちの一方)を調整することにより、J、D及びTdの値を適正な値と推定するものである。パラメータJ,Dを調整する際には、パラメータJ及びDのうちの一方を調整ないし増減した後に他方を調整ないし増減するようにしてもよいし、両者を同時に調整ないし増減してもよい。
【0020】
なお、一般に、前記基礎データはヒステリシス曲線として表されるので、本発明において、パラメータTdの前記位置依存が小さいとは、移動体の移動方向が一定(正または負)の領域において、パラメータTdの標準偏差やバラつき、変化量が小さいことなどをいう。また、ヒステリシス曲線における正または負の2領域はほぼ対称に変化する。
【0021】
パラメータTdの前記位置依存が小さくなるように、パラメータJ,Dを調整するには、ユーザがJ,Dの更新指令を適宜入力部から入力指示する他、たとえば移動体の位置の変化に対するパラメータTdの変化量の許容範囲を予め設定しておき、移動体の位置の変化に対するパラメータTdの変化量が同許容範囲内に収まるように、パラメータJ,Dの調整を繰り返し、同許容範囲内に収まったときのパラメータJ,D、そしてパラメータTdの平均値や代表値を、適正なパラメータJ,D、パラメータTdの組み合わせとして採用することが考えられる。
【0022】
本発明によれば、駆動モータの角速度ωを小さくするなどの制限なしに、適正なパラメータTd,及びJ,Dをすべて簡便に推定することができるので、移動体の移動制御や各指令移動位置を補正する制御を適正に実現し、移動体を高精度に位置決め制御することができるという作用効果を奏する。
【0023】
また、前記目的を達成するための本発明は、次の構成とすることが好ましい。
【0024】
前記の構成において、前記角速度ω及び入力トルクTに応じた前記パラメータTdを算出した後、算出したパラメータTdを前記位置との関係で線図化し、
ついで、得られる線図が予め設定した基準線図と近似するように、前記パラメータJ及びDの少なくとも一方の値を調整することにより、算出したパラメータTdの前記位置への依存が小さくなるように、パラメータTdを再算出し、得られた調整後のパラメータJ、D及びTdの値を該パラメータJ、D及びTdの適正な値と推定することを特徴としている。
【0025】
上記の構成によれば、パラメータTdと移動体の位置との対応関係が求められた後、この対応関係がユーザインタフェース(操作盤)となる外部ディスプレイやモニタなどに線図として表示される。そして、この線図が予め設定した基準線図と近似するように、前記パラメータJ及びDの少なくとも一方の値を調整することにより、算出したパラメータTdの前記位置への依存が小さくなるように、パラメータTdが再算出されていく。
【0026】
本発明では、パラメータTdが移動体の位置にできるだけ依存しないように、すなわち、パラメータTdの前記位置依存が小さくなるように、パラメータJ,D(少なくともパラメータJ,Dのうちの一方)を調整することにより、J、D及びTdの値を適正な値と推定するものである。パラメータJ,Dを調整する際には、パラメータJ及びDのうちの一方を調整ないし増減した後に他方を調整ないし増減するようにしてもよいし、両者を同時に調整ないし増減してもよい。
【0027】
このようなパラメータJ,Dの調整作業は、ユーザが、外部インタフェース(ディスプレイ、モニタ、タッチパネルなどを備えた操作盤)を通じてパラメータJ,Dの指示指令ないし変更指令(更新指令)を、入力指示することによって行われる。ユーザの更新指令により、パラメータJ,Dの調整が行われるたびに、パラメータTdと移動体の位置との対応関係がディスプレイ等に再描画される構成としておけば、ユーザは、自らの更新指令により、パラメータTdの前記位置依存が大きくなったか、小さくなったかを視覚的に容易に確認できる。すなわち、ユーザは、ディスプレイ画面などを確認しながら、パラメータTdと移動体との位置を直感的に理解し、その結果に応じて、パラメータJ,Dの値を順次調整していくことが可能となる。
【0028】
それゆえ、ユーザは、直感的かつ簡便な操作に基づいて、パラメータJ,Dの調整によるパラメータTdの安定化ないし収束化動作を指示できるので、ディスプレイやモニタにおいて、グラフとして表示された線図が変化する様子や、基準線図と似通っていく様子等をリアルタイムで確認しながら、迅速かつ簡便にパラメータJ,D,Tdの適正化を行うことができる。
【0029】
また、前記目的を達成するための本発明は、次の構成とすることが好ましい。
【0030】
前記予め設定した基準線図とは、算出したパラメータTdを前記位置との関係で線図化したヒステリシス曲線が略長方形状となっている。
【0031】
この構成によれば、ユーザは、算出したパラメータTdを前記位置との関係で線図化したヒステリシス曲線が、略長方形状の基準線図と近似していくように、パラメータJ,Dの値を順次調整していくことが可能となるので、ユーザは、迅速かつ簡便にパラメータJ,D,Tdの適正化を行うことができる。このような基準線図が理想的と考えられるのは、速度反転直後を除いて、運動方程式の非線形摩擦項を定数として取り扱うことができるので、数値制御における追従誤差を大幅に小さくすることが可能となるからである。
【0032】
本発明によれば、角速度ωを小さくするなどの制限なしに、適正なパラメータTd,及びJ,Dをすべて簡便に推定することができるので、移動体の移動制御や各指令移動位置を補正する制御を適正に実現し、移動体を高精度に位置決め制御することができるという作用効果を奏する。
【0033】
また、駆動モータの軸にカップリングされた系の特性(例えば慣性モーメントなど)が経年変化(例えばボールねじ内のボール劣化など)によって変化した場合でも、簡便な操作によって、適正なパラメータを再導出することが可能となるので、駆動モータやそれにより駆動される送り系のメンテナンスが極めて容易となる。
【0034】
そして、この制御パラメータ推定方法は、以下の制御パラメータ推定装置によってこれを好適に実施することができる。
【0035】
移動体を予め定められた軸方向に案内する案内機構部と、駆動モータの動力によって前記移動体を移動させる駆動機構部とを備え、前記案内機構部及び駆動機構部の少なくとも一方に転動体を備えた送り装置の制御において、前記駆動モータの作動を制御するための制御パラメータである慣性モーメントに関するパラメータJ、粘性摩擦に関するパラメータD及び転がり摩擦に関するパラメータTdを設定するための装置であって、
前記パラメータJ,D及びTdの値を記憶するパラメータ記憶部と、
前記駆動モータに入力されるトルク値をTとして、位置対時間で表された線図が予め定められた軌道を描くように前記移動体を前記軸方向に往復動させる制御部と、
一定時間毎又は移動体の予め定められた位置毎の前記駆動モータの角速度ωを計測する角速度計測部、
前記角速度計測部によって計測された角速度ωの値と、その時の前記制御部から前記駆動モータに入力される前記入力トルクTの値とを、相互に関連付けて記憶する計測データ記憶部と、
外部から、前記パラメータJ,Dの値、及び更新指令の入力を受け付ける入力部と、
前記入力部から入力された前記パラメータJ及びDの値と、前記計測データ記憶部に記憶された各角速度ω及びその時の前記入力トルクTの値とを基に、下式に従って、前記各角速度ω及び入力トルクTに応じた前記パラメータTdを算出するパラメータ算出部と、
前記パラメータ算出部によって算出されたパラメータTdの値を位置との関係で線図化して表示する表示部と、
前記入力部から入力された更新指令を受けて、その時点での前記パラメータ算出部で用いた前記パラメータJ,Dの値、及び算出されたパラメータTdの値で、前記パラメータ記憶部に記憶された各パラメータJ,D及びTdの値を更新する更新処理部とから構成したことを特徴とする制御パラメータ設定装置。
(数2)
Td=T−J(dω/dt)−Dω
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、角速度ωを小さくするなど生産条件に与える付加的な制限なしに、適正なパラメータTd,及びJ,Dをすべて簡便に推定することができるので、移動体の移動制御や各指令移動位置を補正する制御を適正に実現し、移動体を高精度に位置決め制御することができるという作用効果を奏する。
【0037】
また、本発明によれば、ユーザは、直感的かつ簡便な操作に基づいて、パラメータJ,Dの調整によるパラメータTdの安定化ないし収束化動作を指示できるので、表示された線図が変化する様子や、基準線図と似通っていく様子等をリアルタイムで確認しながら、迅速かつ簡便にパラメータJ,D,Tdの適正化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置などの概略構成を示した説明図である。
図2】本実施形態に係る制御装置の詳細な構成を示したブロック図である。
図3】本実施形態に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
図4】移動体を往復動させたときの理想的な基準線図の様子(略長方形状のヒステリシス曲線)を示すグラフである。
図5】シミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は、シミュレーション上において、位置(縦軸)対時間(横軸)で表される線図が正弦波を描くように移動体を送ったときの軌道の様子を示したグラフ、(b)は、(a)のように移動中の前記移動体の位置(横軸)とパラメータTd(縦軸)との関係をシミュレーションで求めた結果を示したグラフである。
図6】シミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は、シミュレーション上において、パラメータDを0にしたときの前記移動体の位置(横軸)とパラメータTd(縦軸)との関係をシミュレーションで求めた結果を示したグラフ、(b)は、(a)のグラフに適切なパラメータ調整を施した結果を示したグラフである。
図7】シミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は、シミュレーション上において、パラメータDを理想的な基準線図のときの2倍にしたときの前記移動体の位置(横軸)とパラメータTd(縦軸)との関係をシミュレーションで求めた結果を示したグラフ、(b)は、(a)のグラフに適切なパラメータ調整を施した結果を示したグラフである。
図8】シミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は、シミュレーション上において、パラメータJを0にしたときの前記移動体の位置(横軸)とパラメータTd(縦軸)との関係をシミュレーションで求めた結果を示したグラフ、(b)は、(a)のグラフに適切なパラメータ調整を施した結果を示したグラフである。
図9】シミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は、シミュレーション上において、パラメータJを理想的な基準線図のときの2倍にしたときの前記移動体の位置(横軸)とパラメータTd(縦軸)との関係をシミュレーションで求めた結果を示したグラフ、(b)は、(a)のグラフに適切なパラメータ調整を施した結果を示したグラフである。
図10図4の理想的な基準線図に近いものとして最終的に実験で得られたパラメータTdのヒステリシス曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の具体的な実施形態について、添付図面に基づき説明する。
【0040】
〔1,本装置の構成例〕
まず、図1を参照して、本発明に係る制御パラメータ推定方法を用いる送り装置50およびそれを制御する制御装置1(制御パラメータ推定装置を含む)の構成について簡単に説明する。この送り装置50は、例えば、工作機械に設けられるもので、支持体51によって移動自在に支持された移動体52を駆動するようになっており、移動体52の矢示方向への移動を案内する案内機構部60と、制御装置1の制御信号によって駆動制御される駆動モータ73の動力によって移動体52を移動させる駆動機構部70とを備える。
【0041】
前記案内機構部60は、支持体51に矢示方向に沿って配設されるガイドレール61と、移動体52に固設され、ガイドレール61に係合にするスライダ62とから構成される。一方、前記駆動機構部70は、矢示方向に沿って設けられるボールねじ71と、支持体51に配設され、ボールねじ71の両端部を回転自在に支持する支持部材72と、支持体51に配設され、ボールねじ71をその軸中心に回転させる駆動モータ73と、移動体52に固設され、ボールねじ71に螺合するナット74と、例えば、ロータリエンコーダから構成され、移動体52の矢示方向における移動位置を検出する位置検出器75とから構成される。
【0042】
位置検出器75は、ロータリエンコーダによって、駆動モータ73の回転位置、回転量を測定すると共に、並設された解析回路により、その時間微分量である角速度やさらにその時間微分量を算出する構成を備えており、駆動モータ73の回転量、角速度、その時間微分などの情報を計測ないし算出する構成となっている。すなわち、位置検出器75はロータリエンコーダとその付属回路との協働によって、駆動モータの回転位置や回転量だけでなく、その角速度も直接的に計測し、その計測結果を外部に出力できる構成となっている。また、前記スライダ62及びナット74は、転動体(図示せず)を備えて構成される。
【0043】
次に、図2を用いて、制御装置1の制御動作を実現する機能ブロックについて説明する。
【0044】
図2に示されるように、駆動モータ73を駆動制御する制御装置1は、プログラム記憶部2,プログラム解析部3,位置指令生成部4,位置制御部5,速度制御部6,電流制御部7,パラメータ記憶部8,反転時補償部9,計測データ記憶部10,パラメータ算出部11,表示制御部12,更新処理部13,ディスプレイ14と入力部15とから構成される操作盤16から構成されている。以下、各部の詳細について説明する。
【0045】
前記NCプログラム記憶部2は、半導体メモリなどから構成され、数値制御(Numerical Control)を行うために予め作成された所定のNCプログラムを格納する機能部であり、前記プログラム解析部3は、プログラム記憶部2に格納されたNCプログラムの内容(加工プログラムや外部からの入力データ)を解析して、移動体52の送り速度,移動位置などに関する指令をNCプログラムから具体的に抽出する機能部である。
【0046】
前記位置指令生成部4は、プログラム解析部3のNCプログラム解析結果に従い、移動体52の時間当たりの移動目標位置に関する信号(動作指令信号)を生成する処理部であり、プログラム解析部3で抽出された指令を基に予め定められた時定数を加味して、送り系70の前記動作指令信号を生成し、これを前記位置制御部5に逐次送信する。
【0047】
前記位置制御部5は、前記位置指令生成部4から受信した動作指令信号と前記位置検出器75からフィードバックされる現在位置信号との偏差に位置ループゲインを乗じて速度指令信号を生成する処理部であり、前記速度制御部6は、位置制御部5で生成された速度指令信号と位置検出器75からフィードバックされる現在速度信号との偏差に速度ループゲインを乗じて電流指令信号を生成する処理部である。
【0048】
前記電流制御部7は、速度制御部6から与えられた電流指令信号と、駆動モータ73の前段に配されるサーボアンプ(図示せず)からフィードバックされる現在電流信号との偏差に電流ループゲインを乗じて駆動指令信号を生成する処理部である。サーボアンプでは、前記電流制御部7から送信されD/A変換器(図示せず)でデジタル信号からアナログ信号に変換された電流指令信号を駆動指令信号として受信した後、当該駆動指令信号を増幅して前記駆動モータ73に送信し、前記駆動モータ73は受信した駆動指令信号に基づいてその作動が制御される。
【0049】
前記パラメータ記憶部8は、後述のパラメータをデータテーブルとして格納する機能部であり、前記位置制御部5で使用される位置ループゲイン、速度制御部6で使用される速度ループゲイン、電流制御部7で使用される電流ループゲインなどが格納されている。
【0050】
さらに、パラメータ記憶部8は、上記のループゲインと相関を有する物理量として、駆動モータ73の運動方程式(再掲(数1)式)の各パラメータを格納している。具体的には、駆動モータ73に入力される入力トルクT、駆動モータ73の角速度ω、時間t、さらに、駆動モータ73の駆動軸に係る送り系70全体の慣性モーメント係数J,粘性摩擦係数D,転がり摩擦に関するパラメータTdである。転がり摩擦に関するパラメータTdは、反転制御の時に最も特徴的に現れるパラメータであり、反転時補償部9で使用される補正量でもある。
(数1)
Td=T−J(dω/dt)−Dω
【0051】
パラメータ記憶部8は、前記パラメータ群の組み合わせをデータテーブルとして格納しており、外部の入力部15を介したユーザの更新指令により、またはパラメータ算出部11に格納された更新プログラムにより、更新処理部13(後述)の指示に基づいて逐次、そのデータテーブルを更新する構成となっている。
【0052】
そして、パラメータ記憶部8は、位置制御部5および速度制御部6に対しては直接、前記データテーブルの最新値を提供する一方、電流制御部7に対しては、象限反転補償の補償項を加える反転時補償部9を介して、前記データテーブルの最新値を提供し続ける構成である。ここで、反転時補償部9は、移動体52の送り方向を実際に反転させた時において、フィードバック制御の遅れに影響されずに、外乱(転がり摩擦)を補償し、送り系70により正確な反転動作をさせる機能部である。
【0053】
前記計測データ記憶部10は、パラメータ算出部11の統括的な指令のもとに、位置検出器75によって検出ないし算出した駆動モータ73の回転位置データを経時的に取得し続け、その結果を記憶し続けるものである。また、計測データ記憶部10は、後述のように、位置検出器75によって計測された角速度ωの値と、その時の駆動モータ73に入力される入力トルクTの値とを、基礎データとして相互に関連付けて記憶する。
【0054】
前記パラメータ算出部11は、位置検出器75による駆動モータ73のモニタリングを行うと共に、パラメータJ、D及びTdの値を適正な値と推定する推定フロー(制御パラメータ推定方法)を実行するものである。また、パラメータ算出部11は、中央演算処理装置(CPU)に相当する集積回路を兼ねており、表示制御部12および入力部15と接続されることによって、ユーザインタフェース(操作盤16)となるディスプレイ14(CRTや液晶ディスプレイ、タッチパネルなどから構成される)や入力部15(キーボードやマウス、タッチパネルなどから構成される)の動作を統括的に司る。
【0055】
前記更新処理部13は、パラメータ算出部11の指令フローに基づいて、パラメータ記憶部8が記憶管理する前記データテーブルにおける各パラメータJ,D及びTdの値を逐次、最新の推定値ないしユーザに更新指令を与えられた更新値に更新する機能部である。
【0056】
ディスプレイ14は、制御装置1の各種設定パラメータや送り系70の各種情報の他、パラメータ算出部11によって算出されたパラメータTdの値を、移動体52の位置との関係で線図化して表示し、これに応じて、入力部15は、各種設定変更や制御動作の開始、送り系70の動作停止指令の他、パラメータJ,Dの値、及び更新指令の入力をユーザから受け付ける構成となっている。
【0057】
ディスプレイ14および入力部15は、操作盤16を構成しており、ユーザは、操作盤16を目視確認しながら、各種の操作を行うことにより、本発明の制御パラメータ設定装置を備える制御装置1の動作を制御する。
【0058】
において、パラメータ記憶部8,計測データ記憶部10,パラメータ算出部11,表示制御部12,更新処理部13,ディスプレイ14及び入力部15からなる制御盤16,並びに位置検出器75は、制御装置1の制御パラメータを設定する制御パラメータ設定装置20を構成している。この制御パラメータ設定装置20は、制御装置1が特別なメンテナンス動作ではなく、通常の生産動作をしている際、ユーザの指令に従って、または任意のタイミングにおいて、制御装置1の適正な制御パラメータを設定することができる。
【0059】
〔2,制御パラメータ推定フロー〕
次に、図3を用いて、制御装置1が、パラメータ算出部11の演算結果に基づいて実行する制御パラメータ推定方法の動作フローをステップ別に説明する。
【0060】
まず、送り系70の運動特性を調べるために基礎データの取得を行う(ステップ1。以下「S1」のように略記する)。具体的には、駆動モータ73に入力されるトルク値をTとして、移動体52を矢示軸方向(図1参照)に所定距離だけ往復動させる。本例では、後の解析作業を簡単にするため、移動体52の位置を時間に対してプロットしたときにその軌跡が正弦波を描くように軸方向に往復動させるものとしている。例えば、位置をr、時間をtとすれば、r(t)=Rsin(2πft)で表される目標移動位置及び移動速度で移動させることにより、移動体52の位置と時間との関係は、正弦波を描く。ここで、Rは振幅(m)、fは周波数(Hz)である。そして、一定時間毎又は移動体52の予め定められた位置毎の駆動モータ73の角速度ωを位置検出器75を用いて計測する。
【0061】
そして、基礎データは、移動体52を移動させ、位置検出器75によって移動体52の移動位置を検出すると共に、前記駆動モータ73で発生するトルク、即ち、駆動モータ73に供給される電流値を適宜検出器によって検出することで取得することができる。図4において、縦軸の摩擦力はパラメータTdに対応するものである。転がり摩擦に関するパラメータTdは、反転制御の時に最も特徴的に現れるパラメータである。
【0062】
上記のように、移動体52が往復動をする状態で、移動体52の予め定められた位置毎に、駆動モータの角速度ωが計測ないし算出され、両者の組み合わせが基礎データとして蓄積されていく。なお、移動体52の予め定められた位置の代わりに、経過時間tに対してモータの角速度ωが計測ないし算出されてもよい。上記のように、位置対時間で表された線図が予め定められた軌道を描くように移動体52を前記軸方向に往復動させているので、時間と位置とは一対一の関係にあり、一定時間毎に駆動モータの角速度ωを計測するようにすれば、移動体52の予め定められた位置毎に角速度ωを計測したのと等価な基礎データが取得できるからである。
【0063】
このようにして取得する基礎データは、駆動モータ73の角速度ωと入力トルクTとの関係を示すものであり、この角速度ωと入力トルクTと関係は、移動体52の位置毎に異なるものとなっている。
【0064】
本例では、理想的な基準線図として、図4に太線で示したような、移動体52の移動位置に対する転がり摩擦に関するパラメータTdの依存がほとんどないもの、を考える。図4に示された基準線図は、経時につれて点a→点b→点c→点dのようにパラメータTdを繰り返しプロットしたものである。このような基準線図が理想的と考えられる理由は、運動方程式の非線形摩擦項を定数として取り扱うことができるので、数値制御における追従誤差を大幅に小さくすることが可能となるからである。
【0065】
本願発明者が鋭意検討した結果、移動体の移動位置に対する転がり摩擦に関するパラメータTdのヒステリシス曲線は、一般に、凹凸の弓なり形状を有し、さらには、傾斜を有する形状となったり、これらの形状の組み合わせとなったりする特徴を有することを見出した〔後述の図6図9の各(a)を参照〕。パラメータTdのヒステリシス曲線が凹凸の弓なり形状を有する場合にも、傾斜を有する場合にも、移動体の移動位置に対してパラメータTdは大きく変化し、パラメータTdの位置依存性は大きなものとなる。
【0066】
すなわち、一般に、パラメータTdは移動体の移動位置に依存しているが、本発明の骨子は、上記のヒステリシス曲線の形状を、ユーザの更新指令または制御パラメータ設定装置20の自動制御によって、図4のような長方形状のヒステリシス曲線とするように、駆動モータの軸系の運動方程式におけるパラメータJ,Dを順次適正化することにより、煩雑な計算を不要としながら、迅速に適正なパラメータJ,D,Tdの値を推定することにある。
【0067】
図3に戻って、次のステップ(S2)では、パラメータJ及びDに適当な初期値を付与する。本フローでは、後にパラメータJ及びDの少なくとも一方を調整することにより、パラメータJ、D及びTdの値を次第に適正化していくので、未調整のパラメータJ及びDの初期値は特定の値に限定されず任意のものを用いることができる。本例では、最も簡明な例として、J=0,D=0としておく。
【0068】
そして、制御装置1は、駆動モータ73の運動方程式に関する各パラメータのうち、転がり摩擦に関するパラメータTdを算出する(S3)。具体的には、S1で計測した基礎データに基づいて、移動体52の位置毎に、入力トルクT,ω,dω/dtと暫定的なパラメータJ及びDを、駆動モータの軸系の運動方程式(数1)式に代入していくことにより、前記各角速度ω及び入力トルクTに応じた前記パラメータTdを算出する。この結果、パラメータTdと移動体52の位置との関係が導出されることになる。
【0069】
次のステップ(S4)では、制御装置1は、基礎データから導出された、移動体52の位置と転がり摩擦に関するパラメータTdとの関係をグラフとして線図化し、表示制御部12を制御することにより、線図化した情報をディスプレイ14に表示する。これにより、ユーザは、ディスプレイ14の表示により、移動体52の位置と転がり摩擦に関するパラメータTdとの関係を即座に理解することができる。
【0070】
次のステップ(S5)では、入力部15を通じて入力されたユーザからの更新指令に基づいて、パラメータTdが移動体52の位置にできるだけ依存しないように、すなわち、パラメータTdの前記位置依存が小さくなるように、パラメータJ,D(少なくともパラメータJ,Dのうちの一方)を調整する。
【0071】
パラメータJ,Dを調整する際には、パラメータJ及びDのうちの一方を調整ないし増減した後に他方を調整ないし増減するようにしてもよいし、両者を同時に調整ないし増減してもよい。例えば、パラメータJを0から0.001に変更したり、または、パラメータDを0から0.001に変更したりし、または両方を同時に変更してもよい。一般には、このときの変更量が小さいほど、極め細やかなパラメータの適正化が実現できるが、パラメータTdの前記位置依存が小さくなるまでに、ユーザ(制御パラメータ設定装置20が自動制御する場合には、同装置)の繰り返す処理回数が大きくなる。
【0072】
なお、制御パラメータ設定装置20がパラメータJ,Dの自動調整を行う場合には、必ずしもディスプレイ14への線図表示や入力部15からの更新指令は必須ではないが、ユーザがパラメータJ,Dの調整作業が適正に行われていることを確認するためには、少なくともディスプレイ14への線図表示は逐次行われることが好ましい。
【0073】
パラメータJ,Dの変更一回あたりの変更量は特に制限されるものではないから、最初は比較的大きな変更量で(例えば0.1ずつ)調整しつつ、微調整の段階になってから小さな変更量で(例えば0.001ずつ)調整する構成とすることも効率的なパラメータ調整のためには好ましい。
【0074】
前述のとおり、パラメータTdと移動体52の位置との関係は、ヒステリシス曲線として表されるので、本発明において、パラメータTdの前記位置依存が小さいとは、移動体52の移動軸方向が一定(正または負)の各領域(図4において移動体が図中右方向に向かう際のパラメータTdがFcの領域、同移動体が図中左方向に向かう際のパラメータTdが−Fcの領域の各領域)の少なくとも一方において、パラメータTdの標準偏差やバラつき、変化量が小さいことなどをいう。なお、図4において、摩擦力(に対応するTd)に正負の符号があるのは、移動体の位置移動方向が図中左右いずれの方向であるかによって摩擦力の向きが異なることに対応したものである。
【0075】
本例では、理想的な基準線図として、図4に示したような、移動体52の移動位置に対する転がり摩擦に関するパラメータTdの依存がほとんどなく、移動体52の移動方向に応じて摩擦力ないしパラメータTdが一定のものを考える。このような基準線図が理想的と考えられる理由は、運動方程式の非線形摩擦項を定数として取り扱うことができるので、数値制御における追従誤差を大幅に低減することが可能となるからである。
【0076】
本ステップ(S5)では、ユーザは、ディスプレイ14に表示された線図が、予め設定した基準線図(図4に示すような、略長方形のヒステリシス曲線)と近似するように、そして、算出したパラメータTdの前記位置への依存が小さくなるように、パラメータJ,Dを調整する。
【0077】
本発明では、パラメータTdが移動体52の位置にできるだけ依存しないように、すなわち、パラメータTdの前記位置依存が小さくなるように、パラメータJ,D(少なくともパラメータJ,Dのうちの一方)を調整することにより、J、D及びTdの値を適正な値と推定するものである。なお、前述のとおり、パラメータJ,Dを調整する際には、パラメータJ及びDのうちの一方を調整ないし増減した後に他方を調整ないし増減するようにしてもよいし、両者を同時に調整ないし増減してもよい。
【0078】
このようなパラメータJ,Dの調整作業は、ユーザが、外部インタフェース(操作盤16)を通じてパラメータJ,Dの指示指令ないし変更指令(更新指令)を、入力指示することによって行われる。
【0079】
ユーザの更新指令により、パラメータJ,Dの調整が行われるたびに、パラメータTdと移動体52の位置との対応関係が再描画される構成としておけば、ユーザは、自らの更新指令により、パラメータTdの前記位置依存が大きくなったか、小さくなったかを視覚的に容易に確認できる。具体的な線図の変化の様子は、次節の〔3,線図による調整のイメージ〕欄で詳述する。
【0080】
このような確認ないし把握作業を容易とするために、ディスプレイ14には、図4のような基準線図をあわせて表示する構成としておくことも好ましい。このようにすれば、ユーザは、現在のパラメータ(データテーブル)を用いた線図と目標とすべき基準線図がどの程度似通ったり、ずれたりしているかを常時把握することが容易となる。
【0081】
このようにして、ユーザは、ディスプレイ14の画面などをみながら、パラメータTdと移動体52との位置との関係を直感的に理解し、その結果に応じて、パラメータJ,Dの値を順次調整していくことが可能となる。
【0082】
本発明によれば、ユーザは、直感的かつ簡便な操作に基づいて、パラメータJ,Dの調整によるパラメータTdの安定化ないし収束化動作を指示できるので、ディスプレイやモニタにおいて、グラフとして表示された線図が変化する様子や、基準線図と似通っていく様子等をリアルタイムで確認しながら、迅速かつ簡便にパラメータJ,D,Tdの適正化を行うことができる。
【0083】
また、次節の〔3,線図による調整のイメージ〕欄にて後述するように、ユーザが、現在のパラメータJ,Dが大きすぎたり、小さすぎたりした場合の各線図のパターンや特徴を覚えたり、前記更新指令におけるパラメータの変更量などを経験的に適切なものとできるよう習熟したりするほど、本発明に係る制御パラメータ推定フローを効率的に実行することが可能となる。
【0084】
なお、本例では、パラメータTdと移動体52の位置との関係を目視確認しやすい線図としてディスプレイ14上に表示される構成を示したが、パラメータTdと移動体52の位置との関係をユーザに提示する態様はこれに限られず、線図やグラフではなく、数値テーブルとして表示したり、パラメータTdの移動体52の位置に対する変化量や偏差量を数値として表示する構成を採用したりしてもよい。
【0085】
次のステップでは、調整後のパラメータJ,Dに基づいてパラメータTdを再算出し、移動体52の移動位置に対する転がり摩擦に関するパラメータTdの線図をディスプレイ14上に再描する(S6)。ユーザのパラメータJ,Dの調整が適切であれば、再描された移動体52の移動位置に対する転がり摩擦に関するパラメータTdの線図は、前述の基準線図により近似したものとなり、転がり摩擦に関するパラメータTdの位置依存はより小さくなるはずである。
【0086】
そして、次のステップ(S7)では、再算出したパラメータTdの値が、位置に依存しなくなったか否か(パラメータTdの位置依存は許容範囲内か)を判定し、位置に依存しなくなった、すなわちパラメータTdの前記位置依存が十分に小さくなったならば、次のステップに進む一方、再算出したパラメータTdの値が位置に依存するならばS5に戻って処理を繰り返す。
【0087】
本ステップ(S7)において、パラメータTdの前記位置依存が十分に小さくなったかの判定は、ディスプレイ14に表示された線図の様子を確認することにより、ユーザが行う。ユーザは、目視判定の結果、再算出したパラメータTdの値が位置に依存しなくなったか(パラメータTdの前記位置依存が十分に小さくなった)否かを、前述の基準線図との比較や、ディスプレイ14に適宜表示されるパラメータTdの変化量や偏差量に基づいて判断し、入力部15を通じて制御装置1に指示する。
【0088】
なお、本ステップ(S7)の判定動作、すなわち本ステップにおけるパラメータTdの値が位置に依存しなくなったか否かの判定を、ユーザではなく、制御装置1の制御パラメータ設定装置20に自動で行わせることもできる。具体的には、移動体52の位置の変化に対するパラメータTdの変化量(や偏差量)の許容範囲を予め設定しておき、移動体52の位置の変化に対するパラメータTdの変化量(や偏差量)が同許容範囲内に収まるように、パラメータJ,Dの調整を(自動で)繰り返し、同許容範囲内に収まったならば、パラメータTdの前記位置依存が十分に小さくなったものとして、次のステップに進む一方、同許容範囲内に収まらなければ、S5に戻って処理を繰り返す。この場合には、所定回数処理を繰り返しても、上記の許容範囲内に収束しなければ、上記の許容範囲を広く再設定して当該処理を繰り返すことが好ましい。
【0089】
S7において、パラメータTdの前記位置依存が十分に小さくなった(パラメータTdの位置依存は許容範囲内になった)と判定されれば、得られたパラメータTd、調整されたパラメータJ,Dの値を、適正なパラメータTd、パラメータJ,Dの組み合わせとして推定し、採用する(S8)。ここで、Tdの値は、位置変化に対しての平均値や代表値を用いることが推定値の誤差を小さくするために好ましい。算出されたパラメータJ,Dの値は、パラメータTdと同様に電流制御部7(図2参照)に与えられ、その後は、電流制御部7が、付与されたパラメータに基づいて、駆動モータ73に入力される電流値(トルクに対応するもの)を制御することになる。
【0090】
本発明によれば、制御モータ31の角速度ωを小さくするなどの制限なしに、パラメータTdだけでなく、適正なパラメータTd,及びJ,Dをすべて簡便に推定することができるので、その制御を適正に実現し、移動体を高精度に位置決め制御することができるという作用効果を奏する。
【0091】
また、本発明によれば、ユーザは、直感的かつ簡便な操作に基づいて、パラメータJ,Dの調整によるパラメータTdの安定化ないし収束化動作を指示できるので、表示された線図が変化する様子や、基準線図と似通っていく様子等をリアルタイムで確認しながら、迅速かつ簡便にパラメータJ,D,Tdの適正化を行うことができる。
【0092】
〔3,線図による調整のイメージ〕
〔3−1,シミュレーション例〕
次に、移動体52の位置に応じて線図化されるパラメータTdの様子を理解するために、パラメータJ,Dの値が調整されていない状態から調整された状態となることによって、パラメータTdの線図がどのように変化するかを、シミュレーション結果を用いて確認する。なお、このシミュレーションでは、前記S1の基礎データ取得時における移動体52の目標軌道r(t)=Rsin(2πft)の振幅Rを20(mm)に設定した。
【0093】
図4に示したように、理想的な基準線図としては、移動体52の移動位置に対する転がり摩擦に関するパラメータTdの依存がほとんどないもの(理想的には、転がり摩擦に関するパラメータTdの位置依存がゼロのもの)を想定する。このような場合、移動体52の位置と転がり摩擦に関するパラメータTdとの関係を示す線図は、移動体52の位置に依存せずパラメータTdが定常的なもので、視覚的にはフラットな形状となり、そのヒステリシス曲線は略長方形を描くことになる。
【0094】
図5は、参照のために、シミュレータにおいて、図4のような理想的な基準線図を再現するパラメータ群(データテーブル)の組み合わせにおいて、パラメータTdの位置分布を示した図面である。図5(a)には、シミュレータ上の移動体52の移動様子(位置対時間で表される線図が振幅20mmの正弦波を描くように移動体を送ったときの軌道様子)が示されており、同図(a)のように移動中の前記移動体の位置(横軸)とパラメータTd(縦軸)との関係をシミュレーションで求めた結果を示したヒステリシス曲線が図5(b)に示されている。
【0095】
図5(b)のとおり、移動体52の位置とパラメータTdとの軌跡が描くヒステリシス曲線は略長方形となっており、理想的な振る舞いを示していることがわかる。このときのパラメータJ=0.00713,パラメータD=0.0937であった。
【0096】
これに対して、図6(a)は、前記シミュレータのパラメータのうち、パラメータDを0にしたときのものである。ここで、パラメータJは図5(b)の理想的な基準線図と同じ0.00713である。図5(b)の理想的な基準線図と比較すると、パラメータTdのヒステリシス曲線が太鼓形状に膨張していることが読み取れる。そこで、ユーザは、パラメータDを適宜0.0937まで増やしていくことにより、パラメータTdの位置分布を図6(b)の理想的な基準線図(ヒステリシス曲線)に近似させていくことができる。
【0097】
これに対して、図7(a)は、前記シミュレータのパラメータのうち、パラメータDを理想的な基準線図のときの2倍(0.1874)にしたときのものである。ここで、パラメータJは図5(b)の理想的な基準線図と同じ0.00713である。図5(b)の理想的な基準線図と比較すると、パラメータTdのヒステリシス曲線が中央の窪んだ凹形状となっていることが読み取れる。そこで、ユーザは、パラメータDを適宜0.0937まで減らしていくことにより、パラメータTdの位置分布を図7(b)の理想的な基準線図(ヒステリシス曲線)に近似させていくことができる。
【0098】
これに対して、図8(a)は、前記シミュレータのパラメータのうち、パラメータJを0にしたときのものである。ここで、パラメータDは図5(b)の理想的な基準線図と同じ0.0937である。図5(b)の理想的な基準線図と比較すると、パラメータTdのヒステリシス曲線が平行四辺形となっていることが読み取れる。そこで、ユーザは、パラメータJを適宜0.00713まで増やしていくことにより、パラメータTdの位置分布を図8(b)の理想的な基準線図(ヒステリシス曲線)に近似させていくことができる。
【0099】
これに対して、図9(a)は、前記シミュレータのパラメータのうち、パラメータJを理想的な基準線図のときの2倍(0.01426)にしたときのものである。パラメータDは図5(b)の理想的な基準線図と同じ0.0937である。図5(b)の理想的な基準線図と比較すると、パラメータTdのヒステリシス曲線が平行四辺形となっていることが読み取れる。そこで、ユーザは、パラメータJを適宜0.00713まで減らしていくことにより、パラメータTdの位置分布を図9(b)の理想的な基準線図(ヒステリシス曲線)に近似させていくことができる。
【0100】
このように、パラメータJ,Dの両方が適正値を備えていない限り、決して、図4のようなパラメータTdのヒステリシス曲線はあらわれない。しかし、本願発明者は、任意のヒステリシス曲線について、パラメータJ,Dを適宜調整すれば、必ず図4(実際にはオーバーシュート部分を備える図5(b)のようなパラメータTdのヒステリシス曲線)を導くことができ、理想的なパラメータTd,J,Dの組み合わせをすべて得ることができることを見出した。
【0101】
〔3−2,ヒステリシス曲線の形状の補正〕
前述のように、図6(a)と図7(a)とのパラメータTdのヒステリシス曲線は、パラメータJを理想値(J=0.00713)としつつ、パラメータDとして不適正なものを採用した場合のシミュレーション結果である。両図(a)から読み取れるとおり、パラメータDが不適正であると、パラメータTdのヒステリシス曲線には横軸に平行なフラット部分が生じず、弓なりの形状を描くことが読み取れる。
【0102】
すなわち、図6(a)では、パラメータDが小さすぎる(D=0)ために、パラメータTdのヒステリシス曲線は、理想的な略長方形から長方形外部に弓なりに膨張した形状となる一方、図)では、パラメータDが大きすぎる(D=0.1874)ために、パラメータTdのヒステリシス曲線は、理想的な略長方形から長方形内部に弓なりに潰れた形状となっている。このような特性を理解しておけば、任意のパラメータJ、Dに基づいてヒステリシス曲線を描いたときに、パラメータTdのヒステリシス曲線が理想的な略長方形から長方形外部に弓なりに膨張した形状となっていれば、パラメータDを大きく調整し、パラメータTdのヒステリシス曲線が理想的な略長方形から長方形内部に弓なりに潰れた形状となっていれば、パラメータDを小さく調整すれば、パラメータDを適正化できることがわかる。すなわち、パラメータDの調整により、パラメータTdのヒステリシス曲線の弓なり形状は補正ないし調整できることになる。
【0103】
〔3−3,ヒステリシス曲線の傾きの補正〕
また、前述のように、図8(a)と図9(a)とのパラメータTdのヒステリシス曲線は、パラメータDを理想値(D=0.0937)としつつ、パラメータJとして不適正なものを採用した場合のシミュレーション結果である。両図(a)から読み取れるとおり、パラメータJが不適正であると、パラメータTdのヒステリシス曲線には横軸に平行なフラット部分が生じず、パラメータTdのヒステリシス曲線は傾いた平行四辺形状となることが読み取れる。
【0104】
すなわち、図8(a)では、パラメータJが小さすぎる(J=0)ために、パラメータTdのヒステリシス曲線は、理想的な略長方形から図中右下がりに傾き、平行四辺形状となる一方、図9(a)では、パラメータJが大きすぎる(J=0.01426)ために、パラメータTdのヒステリシス曲線は、理想的な略長方形から図中右上がりに傾いた形状となっている。このような特性を理解しておけば、任意のパラメータJ、Dに基づいてヒステリシス曲線を描いたときに、パラメータTdのヒステリシス曲線(やその接線)が横軸に対して図中右下がりに傾いていれば、パラメータJを大きく調整し、パラメータTdのヒステリシス曲線(やその接線)が横軸に対して図中左下がりに傾いていれば、パラメータJを小さく調整すれば、パラメータJの不適正さを補正ないし調整できることになる。
【0105】
〔3−4,実機での補正実験〕
このようなシミュレーション結果から推論するところ、パラメータJ、Dがどのような値であっても、パラメータTdのヒステリシス曲線の前記形状補正と前記傾き補正とを組み合わせれば、常に、図4のような略長方形状の基準線図を得ることができる。そこで、本願発明者らは、X−Y軸の2軸ボールねじ駆動ステージを用いて検証実験を行った。ボールねじとしては12mmピッチのものを用い、このボールねじをサーボモータ(駆動モータ73)とカップリングで直結し、テーブルは転がり案内により案内されるように構成した。
【0106】
本実験では、位置検出器75のロータリエンコーダとして、220pulse/revのものを用いて、X軸のみを制御するものとした。移動体の振幅は16mmとなるように往復動させた。運動方程式の各パラメータを算出する手順としては、図3に示したフローを用いたが、前記ステップ5(S5)における実際の実験手順は次のとおりである。
【0107】
まず、パラメータJを0で固定した状態で、パラメータDを変化させた。パラメータDを大きくしていくと、パラメータTdのヒステリシス曲線に、前述の凹状の弓なり形状があらわれたので、パラメータTdのヒステリシス曲線の上側部分(図4参照)がほぼ平行となるように、パラメータDを0.01に調整した。
【0108】
次に、パラメータDを0で固定した状態で、パラメータDを変化させた。パラメータDを大きくしていくと、パラメータTdのヒステリシス曲線に、前述の傾いた平行四辺形状があらわれたので、まず、パラメータTdのヒステリシス曲線が横軸と平行となるように、パラメータDを0.1に調整した。
【0109】
次に、パラメータTdのヒステリシス曲線が略長方形状となるように、調整量を小さくしながら微調整し、最終的には、パラメータJを0.010,パラメータDを0.14とすることにより、パラメータTdの値が横軸に対して安定的となるヒステリシス曲線が得られた。
【0110】
図10は、図4の理想的な基準線図に近いものとして最終的に本実験で得られたパラメータTdのヒステリシス曲線である。同図では、時間の経過とプロットを重ねているため軌跡が完全には一致していないものの、全体としては、図4の理想的な基準線図に近似したヒステリシス曲線が得られていることがわかる。
【0111】
本実験のように、パラメータJ、Dの調整を手動で行えば、前述の特性理解(パラメータDの調整によるヒステリシス曲線の弓なり形状の補正要領、パラメータJの調整によるヒステリシス曲線の傾きの補正要領)に基づいて、ユーザは操作盤16の操作による更新指令による操作作業に習熟しながら、迅速かつ簡便に、パラメータJ,パラメータD、パラメータTdの適正値をすべて得ることができる。
【0112】
また、パラメータJ、Dの調整を制御パラメータ設定装置20による自動制御で実現する場合、前述のように、任意のパラメータJ、Dに基づいてヒステリシス曲線を描いたときに、パラメータTdのヒステリシス曲線が理想的な略長方形から長方形外部に弓なりに膨張した形状となっているならば、パラメータDを大きく調整し、パラメータTdのヒステリシス曲線が理想的な略長方形から長方形内部に弓なりに潰れた形状となっているならば、パラメータDを小さく調整すれば、パラメータDを適正化できる一方、パラメータTdのヒステリシス曲線(やその接線)が横軸に対して図中右下がりに傾いているならば、パラメータJを大きく調整し、パラメータTdのヒステリシス曲線が(やその接線)が横軸に対して図中左下がりに傾いているならば、パラメータJを小さく調整すれば、パラメータJの不適正さを補正ないし調整できることになる。
【0113】
上述のように、図4のような(そして実際の実験結果としては図10のような)理想的な基準線図を想定すると、ユーザ(または制御パラメータ設定装置20による自動制御)は、操作盤16のディスプレイ14に表示された線図(グラフ)を確認しながら、移動体52の移動位置に対する転がり摩擦に関するパラメータTdの依存を小さくするために、表示された線図が略長方形状となるように、各パラメータの値を増減調整することが可能になる。
【0114】
それゆえ、算出したパラメータTdを前記位置との関係で線図化したヒステリシス曲線が、略長方形状の基準線図と近似していくように、パラメータJ,Dの値を順次調整していくことが可能となるので、ユーザは、迅速かつ簡便にパラメータJ,D,Tdの適正化を行うことができる。
【0115】
本発明によれば、角速度ωを小さくするなどの制限なしに、適正なパラメータTd,及びJ,Dをすべて簡便に推定することができるので、移動体の位置や各指令を補正する制御を適正に実現し、移動体を高精度に位置決め制御することができるという作用効果を奏する。したがって、駆動モータの角速度ωを極端に小さくするなど生産の障害となる特別の制約や作業を必要とせず、実際の生産時に通常の制御動作をさせながら、リアルタイムで上記制御用パラメータの適正化を図ることが可能となる。
【0116】
また、本願発明者らが、シミュレーションだけでなく、実機の検証実験においても、本発明の有効性確認に成功したことは、工場内等において、駆動モータの軸にカップリングされた系の特性(例えば慣性モーメントなど)が経年変化した場合(例えばボールねじ内のボール劣化、各種部品の摩耗・サビなどに起因するもの)や各種の生産条件を変更した場合でも、簡便な操作によって、実際に適正なパラメータを再導出することが可能であることを意味する。これにより、駆動モータやそれにより駆動される送り系のメンテナンスが極めて容易となるという作用効果を奏する。
【0117】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の採り得る具体的な態様は、何らこれに限定されるものではない。
【0118】
前述のとおり、送り系の運動特性を調べるために取得する基礎データは、駆動モータ73の角速度ωと入力トルクTとの関係を示すものであり、この角速度ωと入力トルクTと関係は、移動体52の位置毎に異なるものとなるが、パラメータTdを移動体52の位置や駆動モータ73の回転量との関数として表現し、その関数に基づいてパラメータTdの位置分布を導出したり、パラメータ記憶部8(図2参照)のデータテーブルを作成ないし更新したりする構成としても好ましい。
【0119】
また、本発明において、移動体の位置に対するパラメータTdの依存を小さくするため、パラメータJ及びDの少なくとも一方の値を調整して、パラメータTdを再算出する構成は、制御パラメータ設定装置20がユーザの更新指令に基づいて、またはその自動制御によって行われるものとしたが、これらは択一的に選択されるものではなく、ユーザによる更新指令と自動制御とを組み合わせたものとしてもよい。
【0120】
例えば、通常生産時に効率的な自動制御が実行できている間は、自動制御によって、パラメータJ,Dの調整を行わせる一方、所定の処理回数を経てもパラメータTdの依存が小さくならない場合には、ユーザによる手動の更新指令制御とする構成としてもよい。
【0121】
また、図1及び図2では、送り系70が1つの送り軸を備え、位置制御部5,速度制御部6,電流制御部7及び駆動モータ73によって、この1つの送り軸を送り制御するようにした構成を図示して説明したが、送り軸の数はこれに限定されるものではなく、本発明の制御パラメータ設定方法と装置とを適用する送り系70は、2以上の送り軸を備え、これらを制御するように構成されてもよい。
【0122】
なお、案内機構部と駆動機構部とから構成される装置であれば、装置の具体的形態によらず、本発明は広く適用可能である。もちろん、移動体52の構成や、その移動方向についても、何ら限定はなく(例えば、移動体は、水平方向に移動するテーブルには限られない)、移動体が工具主軸を含む構成であっても、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0123】
1 制御装置
2 プログラム記憶部
3 プログラム解析部
4 位置指令生成部
5 位置制御部
6 速度制御部
7 電流制御部
8 パラメータ記憶部
9 反転時補償部
10 計測データ記憶部
11 パラメータ算出部
12 表示制御部
13 更新処理部
14 ディスプレイ
15 入力部
16 操作盤
20 制御パラメータ設定装置
50 送り装置
52 移動体
70 送り系
73 駆動モータ
75 位置検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10