特許第5823277号(P5823277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5823277バリア性積層体、ガスバリアフィルムおよびこれらを用いたデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5823277
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月25日
(54)【発明の名称】バリア性積層体、ガスバリアフィルムおよびこれらを用いたデバイス
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20151105BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20151105BHJP
   H01L 31/048 20140101ALI20151105BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20151105BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20151105BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20151105BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B32B27/18 Z
   H01L31/04 560
   H05B33/02
   H05B33/04
   H05B33/14 A
【請求項の数】15
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2011-271327(P2011-271327)
(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公開番号】特開2013-121702(P2013-121702A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信也
(72)【発明者】
【氏名】向井 厚史
(72)【発明者】
【氏名】塚原 次郎
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−005159(JP,A)
【文献】 特開2010−228446(JP,A)
【文献】 特開2004−224056(JP,A)
【文献】 特開2004−291306(JP,A)
【文献】 特開2010−030292(JP,A)
【文献】 特開2003−335880(JP,A)
【文献】 特開2004−160833(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/128415(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/061634(WO,A1)
【文献】 特開2009−098659(JP,A)
【文献】 特開2005−272702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機バリア層とを有し、前記有機層は、主成分として重合体を含み、かつ、少なくとも1つのカルボニル基を有する光分解性ラジカル重合開始剤であって、該カルボニル基のβ位に炭素−炭素結合以外の結合を持ち、前記β位側のα位において分解した際の分解物の分子量が110以上である光ラジカル重合開始剤の分解物と、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシランカップリング剤を含む、バリア性積層体。
【請求項2】
少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機バリア層とを有し、前記有機層は、重合性化合物と、少なくとも1つのカルボニル基を有する光分解性ラジカル重合開始剤であって、該カルボニル基のβ位に炭素−炭素結合以外の結合を持ち、前記β位側のα位において分解した際の分解物の分子量が110以上である光ラジカル重合開始剤と、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシランカップリング剤を含む重合性組成物を硬化させてなる、バリア性積層体。
【請求項3】
前記分解物の分子量が140以上である、請求項1または2に記載のバリア性積層体。
【請求項4】
無機バリア層が、珪素酸化物、珪素窒化物、珪素炭化物、あるいはその混合物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項5】
前記有機層の表面に前記無機バリア層が設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項6】
前記無機バリア層、前記有機層、前記無機バリア層が、該順に、互いに隣接して設けられている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項7】
前記有機層が、芳香族基を含む、請求項1〜6のいずか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項8】
前記有機層が、下記一般式(3)で表される重合性化合物を含む重合性組成物を硬化してなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
一般式(3)
【化1】

(一般式(3)中、R1は、置換基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは、0〜5の整数を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、R1の少なくとも1つは重合性基を含む。)
【請求項9】
少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機バリア層が、交互に積層している、請求項1〜8のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項10】
基材フィルム上に、請求項1〜9のいずれか1項に記載のバリア性積層体を設けたガスバリアフィルム。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のバリア性積層体または請求項10に記載のガスバリアフィルムを含むデバイス。
【請求項12】
前記デバイスが、有機EL素子または太陽電池素子である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のバリア性積層体または請求項10に記載のガスバリアフィルムを含む封止用袋。
【請求項14】
前記有機層を塗布により設けることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のバリア性積層体の製造方法。
【請求項15】
有機層を150℃未満の状態で形成することを特徴とする、請求項14に記載のバリア性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性積層体、ガスバリアフィルムおよびこれらを用いたデバイスに関する。特に、有機EL素子および太陽電池素子等の電子デバイスの封止または基板として有益な、バリア性積層体およびガスバリアフィルムに関する。さらに、これらのバリア性積層体またはガスバリアフィルムを用いた封止用袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックフィルムの表面に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素等の金属酸化物薄膜を形成したガスバリアフィルムは、水蒸気や酸素など各種ガスの遮断を必要とする物品の包装や、食品、工業用品および医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。
【0003】
近年、有機デバイス(有機ELデバイス、有機太陽電池デバイス、有機TFTデバイス等)の分野においては、ガラス基板に代わって、ガスバリアフィルムを採用するニーズが高まっている。ガスバリアフィルムは軽量であり、ロールトゥロール(Roll to Roll)方式に適用可能であることから、コストの点で有利である。しかし、ガスバリアフィルムはガラス基板と比較して水蒸気バリア性に劣るという問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1には有機層と無機バリア層の複数層の交互積層体(バリア性積層体)により、水蒸気透過率として0.005g/m2/day未満を実現する技術が開示されている。該明細書によれば有機層と無機バリア層がそれぞれ1層ずつしか積層されていない場合は、水蒸気透過率が0.011g/m2/dayであり、多層積層することの技術的価値が明確に示されている。バリア性積層体をフィルム上に設置したガスバリアフィルムは有機デバイスの基板としての応用が期待される。
ここで、バリア性積層体の有機層の形成方法として、重合性化合物と重合開始剤を含む組成物を層状にして硬化する方法が知られている(特許文献2)。特許文献2では、有機層を形成するための組成物を蒸着により層状にしているが、後述する本発明の最も好ましい態様のように、有機層を形成するための組成物を塗布によって層状にする場合には、組成物の組成も蒸着の場合と必然的に異なり、その結果新たな問題が生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,413,645号明細書
【特許文献2】特開2003−335880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バリア性積層体やガスバリアフィルムは、電子デバイスや封止用袋など、各種用途に適用されるにあたり、高温(例えば、150℃以上)で処理されることが多い。このような高温プロセスでは、バリア性積層体やガスバリアフィルムの有機層と無機バリア層の層間剥離やこれらの層の破壊等の故障が起こっており、その改善が求められていた。
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、高温にさらされても上記故障を引き起こすことのない、バリア性積層体およびガスバリアフィルムを提供することを目的とする。特に、塗布により有機層を形成しても、上記課題を解決できるバリア性積層体およびガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもと、発明者が鋭意検討を行った結果、塗布によって有機層を設けた場合、バリア性積層体やガスバリアフィルムの有機層と無機バリア層の間の層間剥離や層の破壊の理由の1つが、光重合開始剤の分解物の存在にあることが分かった。すなわち、バリア性積層体の有機層を、重合性化合物および重合開始剤を含む重合性組成物を塗布にて層状にし、光照射を行って重合性化合物を重合させて形成する場合、重合開始剤の分解物が、有機層に残ってしまう。そして、かかる光重合開始剤の分解物は、バリア性積層体やガスバリアフィルムが高温プロセスにさらされたときに、ガスとなって放出し、層間剥離や層の破壊などを引き起こしていることが分かった。より具体的には、図1は、従来のバリア性積層体の断面概略図を示したものであって、1は無機バリア層を、2’は無機バリア層の表面に設けられた光重合開始剤を含む重合性組成物を用いて形成した有機層を、3は有機層の表面にさらに設けられた無機バリア層を示している。従来の有機層2’では、重合開始剤の分解物が加熱されるとガス4が放出し、有機層にダメージを与えていた。さらに、図1のような、有機層2’を無機バリア層で挟んだ構成では、ガス4が隣接する無機バリア層3を破壊してしまうこともあった。しかしながら、本発明では、特定の重合開始剤を採用することにより、この点を回避することに成功した。
具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>〜<14>により、上記課題は解決された。
<1>少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機バリア層とを有し、前記有機層は、主成分として重合体を含み、かつ、少なくとも1つのカルボニル基を有する光分解性ラジカル重合開始剤であって、該カルボニル基のβ位に炭素−炭素結合以外の結合を持ち、前記β位側のα位において分解した際の分解物の分子量が110以上である光ラジカル重合開始剤の分解物と、シランカップリング剤を含む、バリア性積層体。
<2>少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機バリア層とを有し、前記有機層は、重合性化合物と、少なくとも1つのカルボニル基を有する光分解性ラジカル重合開始剤であって、該カルボニル基のβ位に炭素−炭素結合以外の結合を持ち、前記β位側のα位において分解した際の分解物の分子量が110以上である光ラジカル重合開始剤と、シランカップリング剤を含む重合性組成物を硬化させてなる、バリア性積層体。
<3>無機バリア層が、珪素酸化物、珪素窒化物、珪素炭化物、あるいはその混合物を含む、<1>または<2>に記載のバリア性積層体。
<4>前記有機層の表面に前記無機バリア層が設けられている、<1>〜<3>のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
<5>前記無機バリア層、前記有機層、前記無機バリア層が、該順に、互いに隣接して設けられている、<1>〜<4>のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
<6>前記有機層が、芳香族基を含む、<1>〜<5>のいずか1項に記載のバリア性積層体。
<7>前記有機層が、下記一般式(3)で表される重合性化合物を含む重合性組成物を硬化してなる、<1>〜<5>のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
一般式(3)
【化1】
(一般式(3)中、R1は、置換基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは、0〜5の整数を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、R1の少なくとも1つは重合性基を含む。)
<8>少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機バリア層が、交互に積層している、<1>〜<7>のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
<9>基材フィルム上に、<1>〜<8>のいずれか1項に記載のバリア性積層体を設けたガスバリアフィルム。
<10><1>〜<8>のいずれか1項に記載のバリア性積層体または<9>に記載のガスバリアフィルムを含むデバイス。
<11>前記デバイスが、有機EL素子または太陽電池素子である、<10>に記載のデバイス。
<12><1>〜<8>のいずれか1項に記載のバリア性積層体または<9>に記載のガスバリアフィルムを含む封止用袋。
<13>前記有機層を塗布により設けることを特徴とする、<1>〜<8>のバリア性積層体の製造方法。
<14>有機層を150℃未満の状態で形成することを特徴とする、<13>に記載のバリア性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、バリア性積層体やガスバリアフィルムの有機層と無機バリア層の層間剥離や層の破壊等の故障が起こりにくく、さらには、バリア性積層体やガスバリアフィルムの強度を向上させることが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来のバリア性積層体からガスが放出する状態を示す断面概略図である。
図2】本発明のバリア性積層体の一例を示す断面概略図である。
図3】本発明のガスバリアフィルムの構成の一例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本発明における有機EL素子とは、有機エレクトロルミネッセンス素子のことをいう。本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの両方を含む意味で使用される。
【0011】
<バリア性積層体>
本発明のバリア性積層体は、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機バリア層とを有し、前記有機層は、主成分として重合体を含み、かつ、少なくとも1つのカルボニル基を有する光分解性ラジカル重合開始剤であって、該カルボニル基のβ位に炭素−炭素結合以外の結合を持ち、前記β位側のα位において分解した際の分解物の分子量が110以上である光ラジカル重合開始剤の分解物と、シランカップリング剤を含む、バリア性積層体であることを特徴とする。
また、本発明のバリア性積層体は、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機バリア層とを有し、前記有機層は、重合性化合物と、少なくとも1つのカルボニル基を有する光分解性ラジカル重合開始剤であって、該カルボニル基のβ位に炭素−炭素結合以外の結合を持ち、前記β位側のα位において分解した際の分解物の分子量が110以上である光ラジカル重合開始剤と、シランカップリング剤を含む重合性組成物を硬化させてなる、バリア性積層体である。
【0012】
図2は、本発明のバリア性積層体の一例を示す断面概略図であって、1は第1の無機バリア層を、2は有機層を、3は第2の無機バリア層を、10はバリア性積層体をそれぞれ示している。
有機層を形成する際、重合性化合物と重合開始剤を含む組成物を無機バリア層の表面に層状に適用し、光を照射して層状の組成物を硬化させることが一般的に行われている。しかしながら、この方法では、重合開始剤の分解物が有機層に残り、その後の熱処理プロセス、例えば、デバイスに組み込んだ後の段階で、大量のガスとなって放出することが分かった。特に、図2に示す本実施形態のように、有機層が2つの無機バリア層で挟まれている構成の場合には、ガスが無機バリア層を破壊してしまっていた。これに対し、本願発明では、重合開始剤の分解物のガスが発生しにくいことから、上記のような問題が起こらない。すなわち、本発明のバリア性積層体は、高いガスバリア性を高温や真空プロセス化でも維持でき、なおかつ、有機層と無機バリア層の密着性を確保できる。
【0013】
図2では、有機層2は1層のみであるが、さらに、第2の有機層を有していてもよい。2層以上の有機層を有する場合、そのうちの無機バリア層に隣接する1層が少なくとも上記有機層であればよい。すなわち、本願発明では、少なくとも2層の有機層と少なくとも2層の無機バリア層が交互に積層している構成が好ましい。さらに、バリア性積層体を構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。
【0014】
<有機層>
本発明の有機層は、主成分として重合体を含む。主成分とは、有機層に含まれる最も含有量が多い成分をいい、通常は、該層の80質量%以上であり、好ましくは、90質量%以上である。
このような重合体は、例えば、重合性化合物と光ラジカル分解性重合開始剤を含む重合性組成物を硬化することによって得られる。
【0015】
重合性化合物
本発明における重合性組成物は、重合性化合物を含む。
重合性化合物は、多官能重合性化合物であることが好ましい。官能基の数は、3〜6が好ましい。また、重合性化合物は、(メタ)アクリレートであることが好ましく、芳香族基を含有する(メタ)アクリレートがより好ましく、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0016】
以下に、(メタ)アクリレート系化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】
【化5】
【0020】
【化6】
【0021】
【化7】
【0022】
さらに、本発明では、一般式(3)で表されるメタアクリレート系化合物が好ましく採用できる。
一般式(3)
【化8】
(一般式(3)中、R1は、置換基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは、0〜5の整数を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、R1の少なくとも1つは重合性基を含む。)
【0023】
1の置換基としては、−CR22−(R2は水素原子または置換基)、−CO−、−O−、フェニレン基、−S−、−C≡C−、−NR3−(R3は水素原子または置換基)、−CR4=CR5−(R4、R5は、ぞれぞれ、水素原子または置換基)の1つ以上と、重合性基との組み合わせからなる基が挙げられ、−CR22−(R2は水素原子または置換基)、−CO−、−O−およびフェニレン基の1つ以上と、重合性基との組み合わせからなる基が好ましい。
2は、水素原子または置換基であるが、好ましくは、水素原子またはヒドロキシ基である。
1の少なくとも1つが、ヒドロキシ基を含むことが好ましい。ヒドロキシ基を含むことにより、機層の硬化率が向上する。
1の少なくとも1つの分子量が10〜250であることが好ましく、70〜150であることがより好ましい。
1が結合している位置としては、少なくともパラ位に結合していることが好ましい。
nは、0〜5の整数を示し、0〜2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、いずれも1であることがさらに好ましい。
【0024】
一般式(3)で表される化合物は、R1の少なくとも2つが同じ構造であることが好ましい。さらに、nは、いずれも1であり、4つのR1の少なくとも2つずつがそれぞれ同じ構造であることがより好ましく、nは、いずれも1であり、4つのR1が同じ構造であることがさらに好ましい。一般式(3)が有する重合性基は、(メタ)アクリロイル基またはエポキシ基であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基であることがより好ましい。一般式(3)が有する重合性基の数は、2つ以上であることが好ましく、3つ以上であることがより好ましい。また、上限は特に定めるものではないが、8つ以下であることが好ましく、6つ以下であることがより好ましい。
一般式(3)で表される化合物の分子量は、600〜1400が好ましく、800〜1200がより好ましい。
【0025】
本発明では、一般式(3)で表される化合物を1種類のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。2種類以上含んでいる場合、例えば、同じ構造のR1を含み、かつ、該R1の数が異なる化合物およびそれらの異性体を含んでいる組成物が例示される。
【0026】
以下に、一般式(3)で表される化合物の具体例を示すが、これによって本発明が限定されることはない。また、下記化合物では、一般式(3)の4つのnがいずれも1の場合を例示しているが、一般式(3)の4つのnのうち、1つまたは2つまたは3つが0のもの(例えば、2官能や3官能化合物等)や、一般式(3)の4つのnのうち、1つまたは2つまたは3つ以上が2つ以上のもの(R1が1つの環に、2つ以上結合しているもの、例えば、5官能や6官能化合物等)も本発明の好ましい化合物として例示される。
【0027】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【0028】
一般式(3)で表される化合物は、市販品として入手することができる。また、上記化合物は、公知の方法によって合成することもできる。例えば、エポキシアクリレートは、エポキシ化合物とアクリル酸との反応で得ることができる。これらの化合物は、通常、反応の際、2官能、3官能、5官能やその異性体なども生成する。これらの異性体を分離したい場合は、カラムクロマトグラフィによって分離できるが、本発明では、混合物として用いることも可能である。
【0029】
本発明における重合性組成物における、重合性化合物(特に、(メタ)アクリレート)の配合量は、溶媒を除く固形分に対し、50〜99質量%であることが好ましく、85〜95質量%であることがより好ましい。
【0030】
重合開始剤
本発明における有機層は、少なくとも1つのカルボニル基を有する光分解性ラジカル重合開始剤であって、該カルボニル基のβ位に炭素−炭素結合以外の結合を持ち、前記β位側のα位において分解した際の分解物の分子量が110以上である光ラジカル重合開始剤の分解物を含む。かかる重合開始剤の分解物は、少なくとも1つのカルボニル基を有する光分解性ラジカル重合開始剤であって、該カルボニル基のβ位に炭素−炭素結合以外の結合を持ち、前記β位側のα位において分解した際の分解物の分子量が110以上である光ラジカル重合開始剤と重合性化合物を含む重合性組成物を光照射したときに産生される。すなわち、従来から、重合性化合物と重合開始剤を含む重合性組成物を層状に塗布し、光硬化して有機層を形成することが行われているが、この重合開始剤の残留物が有機層にダメージを与えてしまっていることが分かった。本発明では、重合開始剤を選択することにより、この問題点を回避したものである。
ここで、光分解性ラジカル重合開始剤とは、光吸収によって活性種ラジカルを生成し、重合性化合物の重合を開始するための添加剤である。
【0031】
このような重合開始剤の分子量は、100〜2000であることが好ましく、200〜1000であることがより好ましい。
このような重合開始剤の分解物の分子量は、110以上であることが好ましく、140以上であることがより好ましい。
このような重合開始剤としては、IRGACURE369、IRGACURE379、IRGACURE819、IRGACURE907、DAROCUR TPOが例示され、IRGACURE369、IRGACURE379、DAROCUR TPOが好ましい。
このような重合開始剤は、重合性組成物の固形分の0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。
また、本発明では上記以外の重合開始剤を含んでいても良い。この場合、かかる他の重合開始剤の含有量は、重合性組成物に含まれる全重合開始剤の全量に対し、10質量%以下であることが好ましい。
【0032】
シランカップリング剤
本発明における重合性組成物には、シランカップリング剤を含む。本発明の最も好ましい形態では、有機層は重合性組成物を層状に塗布して光硬化させるが、このような態様ではシランカップリング剤が隣接層との密着性を向上させるために使われている。しかしながら、本願発明では、シランカップリング剤が、加熱後のバリア性積層体の強度向上にも働く点で意義が高い。これに対し、上述の特許文献2のような有機層を形成するための組成物を蒸着により層状にする態様では、シランカップリング剤は本来的に必要のないものである。
シランカップリング剤としては、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシランカップリング剤が好ましい。
市販品としては、信越シリコーン社製 KBM−5103が挙げられる。
シランカップリング剤の分子量は、50〜500であることが好ましく、100〜300であることがより好ましい。
シランカップリング剤の配合量は、重合性組成物中、5〜50重量%であることが好ましく、10〜30重量%であることがより好ましい。
【0033】
本発明の有機層は、通常、膜面に垂直な方向において、膜面から10%の範囲のシランカップリング剤の含有量が、膜面から45〜55%の範囲のシランカップリング剤の含有量よりも多い態様となっている。すなわち、シランカップリング剤が有機層の膜の界面に偏在することによって、有機層と隣接する無機バリア層の密着性を向上させている。
【0034】
(有機層の形成方法)
重合性組成物を層状にする方法としては、通常、基材フィルムまたは無機バリア層等の支持体の上に、重合性組成物を適用して形成する。適用方法としては、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパ−を使用するエクストル−ジョンコート法が例示され、この中でも塗布による方法が好ましく採用できる。
照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.1J/cm2以上が好ましく、0.5J/cm2以上がより好ましい。重合性化合物として、(メタ)アクリレート系化合物を採用する場合、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で0.5J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0035】
本発明における有機層は、平滑で、膜硬度が高いことが好ましい。有機層の平滑性は1μm角の平均粗さ(Ra値)として1nm未満であることが好ましく、0.5nm未満であることがより好ましい。モノマーの重合率は85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、92%以上であることが特に好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(例えば、アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。重合率は赤外線吸収法によって定量することができる。
【0036】
有機層の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難になるし、厚すぎると外力によりクラックを発生してバリア性が低下する。かかる観点から、有機層の厚みは50nm〜5000nmが好ましく、200nm〜4000nmがより好ましく、300nm〜3000nmであることがより好ましい。
有機層の表面にはパーティクル等の異物、突起が無いことが要求される。このため、有機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
本発明の有機層は、150℃未満の状態形成することが好ましい。このような状態で形成することにより、バリア性積層体の欠陥をより効果的に防ぐことが容易になる。
有機層の硬度は高いほうが好ましい。有機層の硬度が高いと、無機バリア層が平滑に成膜されその結果としてバリア能が向上することがわかっている。有機層の硬度はナノインデンテーション法に基づく微小硬度として表すことができる。有機層の微小硬度は100N/mm以上であることが好ましく、150N/mm以上であることがより好ましい。
【0037】
本発明における有機層は、通常、重合性化合物、重合開始剤、シランカップリング剤および溶剤を含む重合性組成物を支持体や無機バリア層の表面に適用して形成するため、残留溶媒が残る。この残留溶媒の量は、有機層の質量に対し、通常、0.1〜5質量%である。
【0038】
(無機バリア層)
無機バリア層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機バリア層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)、種々の化学的気相成長法(CVD)、めっきやゾルゲル法等の液相成長法がある。本発明では、スパッタリング法で作成した場合であっても、高いバリア性を維持することができる。無機バリア層に含まれる成分は、上記性能を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物または金属炭化物であり、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTa等から選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物、炭化物もしくは酸化窒化物、酸化窒化炭化物などを好ましく用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましく、特にSiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。本発明では、無機バリア層の材料として、金属酸化物を用い、プラズマプロセスにより成膜した場合であっても、高いバリア性を有するバリア性積層体が得られる点で、極めて有意である。本発明では特に、無機バリア層が、実質的に、珪素酸化物、珪素窒化物、珪素炭化物、あるいはその混合物からなることが好ましい。実質的にとは、これら以外の成分を積極的に添加しないことをいい、不純物等までも除く趣旨ではない。これらの無機物を採用することにより、有機層と無機バリア層の密着性がより向上する。さらに好ましくは、窒化珪素であることにより、緻密な膜が得られ高いバリア性を有するバリア積層体が得られる点で望ましい。
本発明により形成される無機バリア層の平滑性は、1μm角の平均粗さ(Ra値)として1nm未満であることが好ましく、0.5nm以下がより好ましい。このため、無機バリア層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
【0039】
無機バリア層の厚みに関しては特に限定されないが、1層に付き、通常、5〜500nmの範囲内であり、好ましくは20〜200nmである。無機バリア層は2層以上積層してもよい。本発明では、無機バリア層を2層以上設ける態様において、層間の密着性が向上し、かつ、電子デバイスに用いたときの故障率を低減することができる。また、2層以上設ける場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上積層する場合は、各々の無機バリア層が上記の好ましい範囲内にあるように設計することが望ましい。また、上述したとおり、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように有機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層を含んでいてもよい。
【0040】
(有機層と無機バリア層の積層)
有機層と無機バリア層の積層は、所望の層構成に応じて有機層と無機バリア層を順次繰り返し成膜することにより行うことができる。特に、本発明は、少なくとも2層の有機層と少なくとも2層の無機バリア層を交互に積層した場合に、高いバリア性を発揮することができる。さらに、2層の無機バリア層に挟まれた有機層が2層以上含まれる構成、例えば、無機バリア層、有機層、無機バリア層、有機層、無機バリア層が該順に互いに隣接している構成では、さらに高いバリア性を発揮することができる。特に、本発明では、重合性芳香族シランカップリング剤由来の有機層の表面に無機バリア層を設けることにより、該有機層と該無機バリア層の密着性が向上し、より好ましい。
【0041】
(機能層)
本発明のデバイスにおいては、バリア性積層体上、もしくはその他の位置に、機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0042】
バリア性積層体の用途
本発明のバリア性積層体は、通常、支持体の上に設けるが、この支持体を選択することによって、様々な用途に用いることができる。支持体には、基材フィルムのほか、各種のデバイス、光学部材等が含まれる。具体的には、本発明のバリア性積層体はガスバリアフィルムのバリア層として用いることができる。また、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、バリア性を要求するデバイスの封止に用いることができる。本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、光学部材にも適用することができる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0043】
<ガスバリアフィルム>
ガスバリアフィルムは、基材フィルムと、該基材フィルム上に形成されたバリア性積層体とを有する。図3は、本発明のガスバリアフィルムの構成の一例を示したものであって、基材フィルム5の上に、有機層と無機バリア層が交互に設けられた構成を示している。具体的には、基材フィルム5の側から順に、有機層6、無機バリア層1、有機層2、無機バリア層3の順に、それぞれの面が互いに隣接するように設けられている。有機層6は、アンダーコート層とも呼ばれ、基材フィルム5と無機バリア層13の密着性を向上させている。有機層6は、上記本発明における重合性組成物を重合させてなる有機層であってもよいし、他の有機層であってもよい。
ガスバリアフィルムにおいて、本発明のバリア性積層体は、基材フィルムの片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。本発明のバリア性積層体は、基材フィルム側から無機バリア層、有機層の順に積層していてもよいし、有機層、無機バリア層の順に積層していてもよい。本発明のバリア性積層体の最上層は無機バリア層でも有機層でもよい。
ガスバリアフィルムはバリア性積層体、基材フィルム以外の構成成分(例えば、易接着層等の機能性層)を有しても良い。機能性層はバリア性積層体の上、バリア性積層体と基材フィルムの間、基材フィルム上のバリア性積層体が設置されていない側(裏面)のいずれに設置してもよい。
【0044】
(プラスチックフィルム)
本発明におけるガスバリアフィルムは、通常、基材フィルムとして、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、有機層、無機バリア層等の積層体を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、金属支持体(アルミニウム、銅、ステンレス等)ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0045】
本発明のガスバリアフィルムを後述する有機EL素子等のデバイスの基板として使用する場合は、プラスチックフィルムは耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学(株)ネオプリム:260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。
【0046】
本発明のガスバリアフィルムを偏光板と組み合わせて使用する場合、ガスバリアフィルムのバリア性積層体がセルの内側に向くようにし、最も内側に(素子に隣接して)配置することが好ましい。このとき偏光板よりセルの内側にガスバリアフィルムが配置されることになるため、ガスバリアフィルムのレターデーション値が重要になる。このような態様でのガスバリアフィルムの使用形態は、レターデーション値が10nm以下の基材フィルムを用いたガスバリアフィルムと円偏光板(1/4波長板+(1/2波長板)+直線偏光板)を積層して使用するか、あるいは1/4波長板として使用可能な、レターデーション値が100nm〜180nmの基材フィルムを用いたガスバリアフィルムに直線偏光板を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0047】
レターデーションが10nm以下の基材フィルムとしてはセルローストリアセテート(富士フイルム(株):富士タック)、ポリカーボネート(帝人化成(株):ピュアエース、(株)カネカ:エルメック)、シクロオレフィンポリマー(JSR(株):アートン、日本ゼオン(株):ゼオノア)、シクロオレフィンコポリマー(三井化学(株):アペル(ペレット)、ポリプラスチック(株):トパス(ペレット))ポリアリレート(ユニチカ(株):U100(ペレット))、透明ポリイミド(三菱ガス化学(株):ネオプリム)等を挙げることができる。
また1/4波長板としては、上記のフィルムを適宜延伸することで所望のレターデーション値に調整したフィルムを用いることができる。
【0048】
本発明のガスバリアフィルムは有機EL素子等のデバイスとして利用されることから、プラスチックフィルムは透明であること、すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
本発明のガスバリアフィルムをディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、プラスチックフィルムとして不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
本発明のガスバリアフィルムに用いられるプラスチックフィルムの厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらのプラスチックフィルムは、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0049】
<デバイス>
本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等)等の電子デバイスを挙げることができ有機EL素子に好ましく用いられる。
【0050】
本発明のバリア性積層体は、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のバリア性積層体を設ける方法である。バリア性積層体を設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
【0051】
本発明のガスバリアフィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、ガスバリアフィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
【0052】
従来のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、これらをデバイスに組み込み、その状態で、80℃以上の温度で加熱したとき、シランカップリング剤由来のアルコールガスを放出し、デバイスにダメージを与えてしまっていた。しかしながら、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、80℃以上の温度(例えば、80〜200℃)で加熱してもアルコールガスを大量に放出しないため、デバイスにダメージを与えることを効果的に抑制できる。
【0053】
(有機EL素子)
ガスバリアフィルム用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。有機EL素子の製造工程には、ITOのエッチング工程後の乾燥工程や湿度の高い条件下での工程があるため、本発明のガスバリアフィルムを用いることは極めて優位である。
【0054】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるガスバリアフィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明の基板は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN型(Twisted Nematic)、STN型(Super Twisted Nematic)またはHAN型(Hybrid Aligned Nematic)、VA型(Vertically Alignment)、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)、IPS型(In Plane Switching)であることが好ましい。
【0055】
(太陽電池)
本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、太陽電池素子の封止フィルムとしても用いることができる。ここで、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、接着層が太陽電池素子に近い側となるように封止することが好ましい。太陽電池は、ある程度の熱と湿度に耐えることが要求されるが、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは好適である。本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムが好ましく用いられる太陽電池素子としては、特に制限はないが、例えば、単結晶シリコン系太陽電池素子、多結晶シリコン系太陽電池素子、シングル接合型、またはタンデム構造型等で構成されるアモルファスシリコン系太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、色素増感型太陽電池素子、有機太陽電池素子等が挙げられる。中でも、本発明においては、上記太陽電池素子が、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子であることが好ましい。
【0056】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー、特開平9−18042号公報に記載の太陽電池等が挙げられる。
また、ポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等の樹脂フィルムと、本発明のバリア性積層体またはガスバリアフィルムを積層して封止用袋として用いることができる。これらの詳細については、特開2005−247409号公報、特開2005−335134号公報等の記載を参酌できる。
【0057】
<光学部材>
本発明のガスバリアフィルムを用いる光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるガスバリアフィルムを基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0059】
<ガスバリアフィルムの作製>
ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製、テオネックスQ65FA、厚さ100μm)上に、下記に示す重合性化合物(50グラム)、下記表に記載のそれぞれの重合開始剤(1グラム)、シランカップリング剤(信越化学工業社、KBM5103)(10グラム)、2−ブタノン(400グラム)からなる重合性組成物を乾燥膜厚が1000nmとなるように塗布製膜して、酸素含有量100ppm以下の窒素雰囲気下で紫外線照射量0.5J/cm2で照射して硬化させ、有機層を作製した。
【0060】
【化14】
【0061】
次に、前記有機層の上にプラズマCVD法を用いて窒化珪素からなる無機バリア層を形成した。膜厚は40nmであった。このようにして有機層の上に無機バリア層を積層したガスバリアフィルムを作製した。
実施例6については、さらに、前記無機バリア層の表面に、前記と同様の方法によって有機層および無機バリア層をそれぞれ形成し、ポリエチレンフタレートフィルム/有機層/無機バリア層/有機層/無機バリア層からなるガスバリアフィルムを作製した。
得られたガスバリアフィルムについて、以下の評価を行った。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
下記に本願実施例で用いた重合開始剤の構造を示す。波線の部分が重合によって分解する箇所を示す。
【化15】
【0065】
<耐熱性テスト>
作製した各ガスバリアフィルムを、200℃で60分間保持後、表面を拡大倍率50倍にて100cm2の領域を観察した。領域内の欠陥数をカウントし、平均値を求めた。このときカウントできた欠陥は、最大長が10μm以上の長さを有する欠陥である。
この方法にて領域内に観察された欠陥を数え、下記に示すように評価した。
【0066】
【表3】
【0067】
<密着性>
JIS K5600−5−6に準じた方法で試験を行い、以下の通り評価した。
【表4】
【0068】
<バリア性>
作製した各ガスバリアフィルムを、200℃で60分間保持後、G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-1438頁に記載の方法を用いて水蒸気透過率(g/m2/day)を測定した。このときの温度は40℃、相対湿度は90%とした。下記に示すように評価した。
【表5】
【0069】
上記結果から明らかなとおり、所定の重合開始剤とシランカップリング剤を併用した場合、本発明の効果が効果的に発揮された。
【0070】
有機EL発光素子での評価
上記で得られたガスバリアフィルムを用いて、有機EL素子を作成した。まず、ITO膜(抵抗:30Ω)を上記ガスバリアフィルムに上にスパッタで形成した。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の化合物層を順次蒸着した。
(第1正孔輸送層)
銅フタロシアニン:膜厚10nm
(第2正孔輸送層)
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチルベンジジン:膜厚40nm
(発光層兼電子輸送層)
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム:膜厚60nm
(電子注入層)
フッ化リチウム:膜厚1nm
この上に、金属アルミニウムを100nm蒸着して陰極とし、その上に厚さ3μm窒化珪素膜を平行平板CVD法によって付け、有機EL素子を作成した。
次に、熱硬化型接着剤(エポテック310、ダイゾーニチモリ(株))を用いて、作成した有機EL素子上と、上記で作製したガスバリアフィルムを、バリア性積層体が有機EL素子の側となるように貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子を計10素子作製した。
この結果、比較例1のガスバリアフィルムを用いた場合、ITO膜基板として用いたガスバリアフィルムがダメージを受けてしまい、良好な素子が得られなかった。一方、実施例1のガスバリアフィルムを用いた場合、ITO膜基板として用いたガスバリアフィルムがダメージを受けずに、良好な有機EL素子が得られた。
【0071】
太陽電池の作成
上記で作成した実施例1のガスバリアフィルムを用いて、太陽電池モジュールを作成した。具体的には、太陽電池モジュールよう充填剤として、スタンダードキュアタイプのエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いた。10cm角の強化ガラス上に厚さ450μmのエチレン−酢酸ビニル共重合体でアモルファス系のシリコン太陽電池セルを挟み込み充填し、さらにその上のガスバリアフィルムを設置することで太陽電池モジュールを作成した。設置条件は、150℃にて真空引き3分行ったあと、9分間圧着を行った。本方法で作成した太陽電池モジュールは、良好に作動し、85℃、85%相対湿度の環境下でも良好な電気出力特性を示した。
【0072】
封止用袋の作成
上記で作成した実施例1のガスバリアフィルムを用いて、封止用袋を作成した。ガスバリアフィルムの基材フィルム側と、樹脂フィルムからなるバック(ポリエチレン製のバッグ)をヒートシール法によって融着し、封止用袋を作成した。得られた封止用袋に、薬剤として、セファゾリンナトリウム(大塚製薬工場製)を封入し、40℃相対湿度75%の条件で6ヶ月保存して色調の変化を評価したところ、色調に変化はほとんど見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のガスバリアフィルムは、高いバリア性能を有するため、バリア性が求められる各種素子に広く採用することができる。本発明のガスバリアフィルムにおいは、有機層の平滑性を向上させることができるため、無機層も平滑に設けることができる。この結果、最表面の平滑性も向上させることができ、該ガスバリアフィルム上に形成するデバイスの性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 無機バリア層
2 有機層
3 無機バリア層
4 ガス
5 基材フィルム
6 有機層
10 バリア性積層体
図1
図2
図3