【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、アニール処理を受けた白金触媒の初期活性が低い要因を検討した。その結果、アニール後の白金触媒は、アニール前の状態(白金担持後の状態)に対して、親水性(濡れ性)が低下しているとの考察に至った。固体高分子形燃料電池用触媒で構成される電極は、触媒表面での反応で生じるプロトンが水分及び電解質を介して伝導することで発電するものであるため、上記水分等に対する親水性(濡れ性)が触媒には必要であり、親水性は反応初期において特に要求される。
【0010】
本発明者等は、アニール処理による白金触媒の親水性低下の一因として、触媒表面(担体表面)における水分の吸着能の消失にあると考えた。白金触媒の担体である炭素微粉末には、水分(水蒸気)の吸着サイトが存在している。この吸着サイトは、通常の触媒製造工程では失われることはないが、アニール処理の高温加熱では容易に消失すると想定される。そして、触媒の親水性はその表面の吸着サイト由来の水分吸着能に影響を受けるため、アニール処理後の触媒は親水性を失い初期活性に乏しいものとなると考えられる。そこで、本発明者等は、この検討結果を基にアニール処理された白金触媒に、消失した吸着サイトを発現させて水分吸着能を改良し、アニール処理前に近いものとすることで初期活性を確保できると考え本発明を想到した。
【0011】
即ち、本発明は、炭素粉末担体上に、白金からなる触媒粒子が担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、前記炭素粉末担体は、25℃で測定される水蒸気吸着等温線における最大水蒸気吸着量が、触媒質量基準で150〜250
cm3/g(STP換算)であり、前記白金粒子は、平均粒径3.5〜8.0nmであり、CO吸着による白金比表面積(COMSA)が40〜100m
2/gであることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒である。
【0012】
本発明に係る触媒は、アニール処理によって白金粒子の平均粒径が調整された状態にあり、その上で水蒸気吸着等温線における最大水蒸気吸着量から規定される水分の吸着能が所定範囲にあることを特徴とする。以下、これら2つの特徴について説明する。
【0013】
白金粒子について、平均粒径3.5〜8.0nmとするのは、3.5nm未満は長時間の活性持続特性が明確に得られなくなるからであり、8.0nmを超えると触媒の初期質量活性が十分に得られなくなるからである。また、本発明では白金粒子について、CO吸着による白金比表面積(COMSA)を規定し、その範囲を40〜100m
2/gとする。この構成は、それ自体が触媒の性能を大きく作用させるものではないが、耐久性向上のためのアニール処理を受けた履歴を明確にするものである。即ち、担体に白金粒子を担持させた状態のアニール処理のない従来の触媒との区別を明確にするためのものである。尚、従来のアニール処理のない、担体(比表面積250〜1200m
2/g)に担持させただけの白金触媒における白金粒子の白金比表面積は、100〜150m
2/gであるのが一般的である。
【0014】
そして、本発明に係る固体高分子形燃料電池用触媒は、25℃で測定される水蒸気吸着等温線における最大吸着量が触媒質量基準で150〜250
cm3/g(STP換算)となるように水分の吸着能を備える。150cm
3/g未満の吸着量では、アニール処理された白金触媒と実質的に変らず、親水性が不足し初期活性が不十分となる。一方、水分の吸着能も上限なしに高ければ良いというわけではなく、250cm
3/gを超えると吸着する水分が触媒活性を阻害するおそれがある。
【0015】
触媒の水分吸着能について、水蒸気吸着等温線の測定結果における最大吸着量により規定するのは、この測定方法が簡便性を有することに加えて再現性のある物性評価手段だからである。本発明に係る触媒では、25℃での水蒸気吸着等温線における最大吸着量を採用する。尚、本発明に係る触媒の水蒸気吸着等温線における最大吸着量は、相対圧(P/P
0)85%以上で見られ上記範囲内の値となる。水蒸気吸着等温線の測定にあたっては、一般のガス/蒸気吸着量測定装置を使用することができる。
【0016】
また、本発明においては、上記水分吸着能の改良に加えて、親水基が所定範囲で付加されているものがより好ましい。この親水基は水分吸着サイトと同様、アニール処理を受ける前の触媒表面に存在するものであり、アニール処理の熱により消失する。そして、親水基もまた触媒の親水性に影響を及ぼすものと考えられることから、アニール処理後に親水基を付加することで触媒の初期活性を向上することができる。
【0017】
ここで、親水基とは、広くは親水性の官能基であり、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等に可溶な官能基を示す。より具体的には、ヒドロキシル基、ラクトン基、カルボキシル基等が挙げられる。担体に結合する官能基は、前記の1種のみからなっても良いが、複数種が結合していても良い。この官能基の結合量は、担体重量を基準として0.7〜3.0mmol/gとする。0.7mmol/g未満は、アニール処理前と同等である。また、3.0mmol/gを上限とするのは、これを超えても活性の向上は認められないだけでなく触媒の親水性が高くなり過ぎ取り扱い性が悪化するためである。
【0018】
尚、担体である炭素粉末は、比表面積が250〜1200m
2/gの炭素粉末を適用するのが好ましい。250m
2/g以上とすることで、触媒が付着する面積を増加させることができるので触媒粒子を高い状態で分散させ有効表面積を高くすることができる一方、1200m
2/gを超えると、電極を形成する際にイオン交換樹脂の浸入しにくい超微細孔(約20Å未満)の存在割合が高くなり触媒粒子の利用効率が低くなるからである。
【0019】
また、本発明に係る触媒は、固体高分子形燃料電池の電極としての性能を考慮し、触媒粒子の担持密度を30〜70%とするのが好ましい。ここでの担持密度とは、担体に担持させる触媒粒子質量(本発明においては、白金質量)の触媒全体の質量に対する比をいう。
【0020】
本発明に係る固体高分子形燃料電池の触媒の製造方法について説明する。本発明に係る固体高分子形燃料電池は、その特徴に基づき、白金触媒について、アニール処理を行う工程と、アニール処理後の触媒について水分吸着能を改良する工程とを有するものである。即ち、炭素粉末担体上に白金粒子が担持されてなる白金触媒を600〜1180℃で1時間以下熱処理する工程と、前記熱処理後の白金触媒を少なくとも1回酸化性溶液に接触させる工程と、を備える。
【0021】
アニール処理前の白金触媒の調整については、従来の白金触媒と同様に製造する。白金触媒の製造法は、白金塩溶液に炭素粉末を浸漬し還元処理をすることで白金粒子が担持された白金触媒を得ることができる。
【0022】
白金触媒の熱処理は、600〜1180℃で1時間以下加熱する。600℃未満では、平均白金粒子径3.5nm以上とならず長時間の活性持続特性が得られないからであり、1180℃を超えると平均白金粒子径が8.0nmより大きくなり、触媒の初期質量活性低下が顕著となるからである。
【0023】
そして、アニール処理後の触媒の水分吸着能の改良は、所定の溶存酸素量の酸化性溶液を触媒に接触させることで行う。酸化性溶液としては、硫酸、硝酸、亜リン酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩酸、塩素酸、次亜塩素酸、クロム酸等の溶液が好ましい。これらの酸化性溶液の濃度は、0.1〜10.0mol/Lとするのが好ましく、溶液に触媒を浸漬するのが好ましい。そして、酸化性溶液中の溶存酸素量については、酸素溶解度の温度依存性と、下記の好適な処理温度(50〜90℃)とを考慮すると、0.01〜0.02cm
3/cm
3(酸化性溶液1cm
3当たりの酸素容積(STP換算))とすることが好ましい。尚、この溶存酸素量は、例えば、処理前の酸化性溶液に酸素等の酸素含有ガスを吹き込む等により調整することができる。
【0024】
酸化性溶液処理の条件としては、接触時間は、0.5〜3時間が好ましく、処理温度は、50〜90℃が好ましい。尚、酸化性溶液処理は、触媒を酸化性溶液に1回接触させる場合のみならず、複数回繰り返し行っても良い。また、複数回の酸処理を行う場合には、処理ごとに溶液の種類を変更しても良い。
【0025】
上記の触媒に対する酸化性溶液処理は、吸着能の改良に加えて親水基結合処理を兼ねることができる。この場合、接触処理の回数を複数とすると、最大水蒸気吸着量の向上と親水基結合の双方を同時に効果的に行うことができる。また、過マンガン酸カリウムを酸化性溶液として適用すると、水酸基の結合を効率的に行うことができる。