(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
(表面性状測定機の説明)
本実施形態に係る表面性状測定機は、
図1に示すように、ベース1と、このベース1上に載置され上面に被測定物を載置するステージ10と、被測定物の表面に接触されるスタイラス26A,26Bを有するスタイラス変位検出器20と、このスタイラス変位検出器20とステージ10とを相対移動させる相対移動機構40とを備える。
【0017】
相対移動機構40は、ベース1とステージ10との間に設けられステージ10を水平方向の一方向(Y軸方向)へ移動させるY軸駆動機構41と、ベース1の上面に立設されたコラム42と、このコラム42に上下方向(Z軸方向)へ移動可能に設けられたZスライダ43と、このZスライダ43を上下方向へ昇降させるZ軸駆動機構44と、Zスライダ43に設けられスタイラス変位検出器20をステージ10の移動方向(Y軸方向)およびZスライダ43の昇降方向(Z軸方向)に対して直交する方向(X軸方向)へ移動させるX軸駆動機構45とを備える。従って、相対移動機構40は、ステージ10をY軸方向へ移動させるY軸駆動機構41と、スタイラス変位検出器20をZ軸方向へ移動させるZ軸駆動機構44と、スタイラス変位検出器20をX軸方向へ移動させるX軸駆動機構45とを含む三次元移動機構によって構成されている。
【0018】
Y軸駆動機構41およびZ軸駆動機構44は、図示省略されているが、例えば、ボールねじ軸と、このボールねじ軸に螺合されたナット部材とを有する送りねじ機構によって構成されている。
X軸駆動機構45は、
図2に示すように、Zスライダ43に固定された駆動機構本体46と、この駆動機構本体46にX軸方向と平行に設けられたガイドレール47と、このガイドレール47に沿ってX軸方向へ移動可能に設けられたXスライダ48と、このXスライダ48のX軸方向位置を検出するX軸位置検出器49と、Xスライダ48をガイドレール47に沿って移動させる送り機構50とを備える。
送り機構50は、駆動機構本体46にガイドレール47と平行に設けられXスライダ48に螺合された送りねじ軸51と、駆動源としてのモータ52と、このモータ52の回転を送りねじ軸51に伝達する回転伝達機構53とから構成されている。回転伝達機構53は、例えば、歯車列や、ベルトおよびプーリなどの機構によって構成されている。
【0019】
スタイラス変位検出器20は、
図2に示すように、Xスライダ48にボルト21を介して着脱可能に吊り下げ支持されたブラケット22と、このブラケット22に回転軸23を支点として上下方向(Z軸方向)へ揺動可能に支持された測定アーム24と、この測定アーム24の先端に設けられた一対のスタイラス26A,26Bと、測定アーム24のZ軸方向の揺動量(変位量)を検出するZ軸位置検出器27と、測定アーム24が揺動方向の一方向(例えば、上方向)に付勢される姿勢および他方向(下方向)に付勢される姿勢に切り替える測定アーム姿勢切替機構60と、ブラケット22、測定アーム24、Z軸位置検出器27、測定アーム姿勢切替機構60を覆うケーシング28とを含んで構成されている。
【0020】
測定アーム24は、ブラケット22に回転軸23を支点として上下方向へ揺動可能に支持された第1測定アーム24Aと、この第1測定アーム24Aの先端に着脱機構25を介して交換可能に取り付けられた第2測定アーム24Bとから構成されている。
スタイラス26A,26Bは、第2測定アーム24Bに対して揺動方向に突出して設けられている。つまり、第2測定アーム24Bに対して上向スタイラス26Aと下向スタイラス26Bとが上下方向に直角に突出して設けられている。
Z軸位置検出器27は、測定アーム24の揺動範囲に沿って設けられ、測定アーム24の揺動量に対応した数のパルス信号を出力する検出器によって構成されている。例えば、ケーシング28に測定アーム24の揺動範囲に沿って設けられたスケール27Aと、このスケール27Aに対向して測定アーム24に取り付けられ検出ヘッド(図示省略)とを備える。
【0021】
(オフセット量算出方法の説明)
上向スタイラス26Aと下向スタイラス26Bとの相互位置関係(オフセット量)を求めるには、
図3に示すように、第1軸としてのY軸形状測定データおよび最大直径部取得工程(S1)、第2軸としてのX軸形状測定データ取得工程(S2)、オフセット量算出工程(S3)を順番に行う。
【0022】
Y軸形状測定データおよび最大直径部取得工程(S1)では、
図4に示すように、基準球100をステージ10上にセットしたのち、この基準球100の上側表面に下向スタイラス26Bを接触させ、この状態において、スタイラス変位検出器20とステージ10とをY軸方向へ相対移動、ここでは、ステージ10をY軸方向へ移動させる。そして、スタイラス変位検出器20をX軸方向へ所定ピッチずつずらしながら、上記測定動作を繰り返すと、基準球100のY軸上側形状測定データが複数得られるから、このY軸上側形状測定データのうち最も高い位置を基準球100の上側最大直径部として求める。
また、基準球100の下側表面に上向スタイラス26Aを接触させ、この状態において、ステージ10をY軸方向へ相対移動させる。そして、スタイラス変位検出器20をX軸方向へ所定ピッチずつずらしながら、上記測定動作を繰り返すと、基準球100のY軸下側形状測定データが複数得られるから、このY軸下側形状測定データのうち最も低い位置を基準球100の下側最大直径部として求める。
【0023】
X軸形状測定データ取得工程(S2)では、
図5に示すように、基準球100の上側最大直径部に下向スタイラス26Bを接触させ、この状態において、スタイラス変位検出器20とステージ10とをY軸方向に対して直交するX軸方向へ相対移動、ここでは、スタイラス変位検出器20をX軸方向へ移動させる。すると、基準球100のX軸上側形状測定データが取得される。
また、基準球100の下側最大直径部に上向スタイラス26Aを接触させ、この状態において、スタイラス変位検出器20をX軸方向へ相対移動させる。すると、基準球100のX軸下側形状測定データが取得される。
【0024】
オフセット量算出工程(S3)では、Y軸上側形状測定データから得られる第1中心座標、Y軸下側形状測定データから得られる第2中心座標、X軸上側形状測定データから得られる第3中心座標およびX軸下側形状測定データから得られる第4中心座標から、上向スタイラス26Aおよび下向スタイラス26Bのオフセット量を算出する。
例えば、
図6に示すように、Y軸上側形状測定データから得られる第1中心座標O1と、Y軸下側形状測定データから得られる第2中心座標O2との差から上向スタイラス26Aと下向スタイラス26BのY軸方向のオフセット量Δyを算出する。また、
図7に示すように、X軸上側形状測定データから得られる第3中心座標O3と、X軸下側形状測定データから得られる第4中心座標O4との差から、Y軸およびX軸に直交するZ軸方向のオフセット量Δzと、X軸方向のオフセット量Δxとを算出する。
【0025】
このようにして上向スタイラス26Aと下向スタイラス26Bとの相互位置関係を正確に把握することができるから、上向スタイラス26Aで測定した測定結果および下向スタイラス26Bで測定した測定結果に対してオフセット量を補正すれば、上向スタイラス26Aで測定した測定結果と下向スタイラス26Bで測定した測定結果との相互関係を正確に評価することができる。
従って、例えば、被測定物の厚みを測定する場合、まず、上向スタイラス26Aで被測定物の下面形状を測定したのち、下向スタイラス26Bで被測定物の上面形状を測定し、下面測定結果および上面測定結果に対してオフセット量を補正したのち、その補正結果から被測定物の厚みを求めることにより、被測定物の厚みを正確に評価することができる。
また、円筒被測定物の内径上下面を測定する場合でも、上向スタイラス26Aによって円筒被測定物の内径上面を測定したのち、下向スタイラス26Bによって円筒被測定物の内径下面を測定し、これらの測定結果に対してオフセット量を補正すれば、その補正結果から円筒内面の上面および下面を正確に評価することができる。
【0026】
なお、X軸方向およびY軸方向の何れか一方の方向については上向スタイラス26A、及び下向スタイラス26Bの位置にズレが無い(位置が同じ)と看做せる場合には、他方の方向についてのみの上側および下側形状測定データを求めればよい。
例えば、上記実施形態において、Y軸方向についてズレが無いと看做せる場合には、Y軸形状データおよび最大直径部取得工程(S1)は省略でき、X軸を第1軸として、X軸形状データ取得工程(S2)を実施する。このとき上側表面及び下側表面にスタイラスを接触させてX軸上側形状データ及びX軸下側形状データを取得すればよく、上側最大直径部及び下側最大直径部でのスタイラス接触でなくても構わない。そして、オフセット量算出工程(S3)では、X軸上側形状測定データから得られる中心座標を第1中心座標、X軸下側形状測定データから得られる中心座標を第2中心座標として、上向スタイラス26Aおよび下向スタイラス26Bのオフセット量を算出する。
【0027】
また、Y軸形状データおよび最大直径部取得工程(S1)を実施して、上側最大直径部及び下側最大直径部を求め、X軸形状データ取得工程(S2)では上側最大直径部及び下側最大直径部でスタイラスを接触させるとしてもよい。この場合は、Y軸が第1軸、X軸が第2軸となる。
【0028】
また、上記実施形態において、X軸方向についてズレが無いと看做せる場合には、Y軸を第1軸として、Y軸形状データおよび最大直径部取得工程(S1)を実施し、X軸形状データ取得工程(S2)を省略することもできる。オフセット量算出工程(S3)では、Y軸上側形状測定データから得られる中心座標を第1中心座標、Y軸下側形状測定データから得られる中心座標を第2中心座標として、上向スタイラス26Aおよび下向スタイラス26Bのオフセット量を算出する。なお、Y軸形状データおよび最大直径部取得工程(S1)において、最大直径部を求める工程は必須ではない。
【0029】
また、基準球100については、
図12に示すように基準球100を配した校正治具200を使用してもよい。この校正治具200は、段差部210、基準球100、及びピンゲージ220が並んで配置されており、支持板230でこれらの上下面を露出させて支持している。また、校正治具200は、ゲージブロック240を段差ゲージ210の側面に突き当ててベース250の上面に立設されたコラム260に支持板230を固定することで、支持板230の水平性を担保する構成になっている。
【0030】
下向スタイラス26Bを段差部210の上面に接触させ、この状態において、スタイラス変位検出器20とステージ10とをX軸方向へ相対移動し、下向スタイラス26Bに段差部210、基準球100、及びピンゲージ220の上側表面を順に走査させて、X軸上側形状データを取得する。次に、上向スタイラス26Aを段差部210の下面に接触させ、この状態において、スタイラス変位検出器20とステージ10とをX軸方向へ相対移動し、上向スタイラス26Aに段差部210、基準球100、及びピンゲージ220の下側表面を順に走査させて、X軸下側形状データを取得する。このように取得されたX軸上側形状データ及びX軸下側形状データを用いることで、オフセット量のみならず、Z軸ゲイン、対称性(同じ被測定物を上り斜面として測定した場合と下り斜面として測定した場合とで測定値が同一)、及びスタイラス半径の校正も同時に行なうことができる。
【0031】
<第2実施形態>
第1実施形態で説明した表面性状測定機の構造では、測定アーム24が回転軸23を支点として上下方向へ揺動運動(円弧運動)するため、測定誤差が生じる。つまり、
図8に示すように、例えば、下向スタイラス26Bによって得られる測定データ(x
m,z
m)は、測定アーム24の円弧運動の影響のため、正しい測定位置(x
r,z
r)とは異なる値となる。このため、高精度な測定を行うためには、測定データ(x
m,z
m)に対して適切な補正処理を行う必要がある。
第2実施形態では、測定アーム24の円弧運動による測定誤差を補正するための補正機構を備える。補正機構の詳細については、本出願人が先に出願した特開2007−316046号公報に記載されているが、ここでは概要について簡単に説明する。なお、以下の説明において、X軸駆動機構45およびスタイラス変位検出器20を含む機構をピックアップ機構という。
【0032】
(補正機構の説明)
補正機構118は、
図9に示すように、Zレンジ分割工程(測定範囲分割工程)を行うためのZレンジ分割手段(測定範囲分割手段)130と、補正パラメータ設定工程を行うための補正パラメータ設定手段132と、測定データ補正工程を行うための測定データ補正手段134と、この測定データ補正手段134で得られた補正処理済データから、被測定物の形状を解析する形状解析手段140と、これら手段(工程)をコンピュータ70に実行させるための補正プログラム142とを備える。
【0033】
本実施形態においては、スタイラスを有する測定アーム24の円弧運動による測定誤差を高精度に補正するため、スタイラスのZ軸測定範囲を複数領域に分割した各領域毎に最適な補正パラメータの値を用いている。このため、本実施形態においては、補正プログラム142が、
図10に示すような、校正測定工程(S11)と、Zレンジ分割工程(S12)と、補正パラメータ設定工程(S13)をコンピュータ70に実行させている。
【0034】
校正測定工程(S11)では、第1実施形態で説明したX軸形状測定データ取得工程で得られたX軸上側形状測定データおよびX軸下側形状測定データを取得する。つまり、X軸位置検出器49よりのX軸方向移動量、および、Z軸位置検出器27よりのZ軸方向変位量に基づき、スタイラスのX軸方向移動量、および、Z軸方向変位量を取得する。取得されたX軸方向移動量およびZ軸方向変位量からスタイラスのXZ座標値を求め、そのXZ座標値から校正測定データを得る。
【0035】
Zレンジ分割工程(S12)では、スタイラスで測定可能なZレンジ(高さ方向の測定範囲)を、複数の領域に分割する。つまり、
図11に示されるような多層構造モデルを採用することにある。スタイラスで測定可能なZレンジを複数領域(領域1,領域2,…領域N)に分割し、各領域(領域1,領域2,…領域N)毎に、最適な補正パラメータの値を設定する。ピックアップ機構の円弧運動モデルを適用する場合、測定アーム24のアーム長L、スタイラス26A,26Bのエッジ長H、ゲイン係数Gが補正パラメータとなり、各領域毎に各補正パラメータが設定される。
本実施形態においては、Zレンジ分割工程(S12)等を含むことにより、スタイラスの実際の円弧運動が、理想的な円弧運動から逸脱している状況までを適切にモデル化することができる。従って、スタイラスの実際の円弧運動の、Z軸方向からのずれによる測定誤差を、より正確に求めることができるので、測定誤差をより適切に補正することができる。
【0036】
補正パラメータ設定工程(S13)では、XZ平面内において、校正測定工程(S11)で得られた校正測定データと基準球100の有する基準形状情報である円とを比較し、スタイラスの円弧運動による測定誤差を補正するのに最適な、Zレンジ分割工程(S12)で分割された各領域毎の補正パラメータの値、および、各領域に共通の補正パラメータの値を同時に推定して設定する。
本実施形態においては、非線形最小二乗法により、校正測定データと基準球の基準形状情報とを比較し、スタイラスの円弧運動による測定誤差を補正する際に必要な補正パラメータの値を全て同時に算出する。従って、一度の基準球100の校正測定で、補正に必要な全ての補正パラメータの値を同時に算出することができるので、補正の際の効率化を図ることができる。
【0037】
補正パラメータ設定工程(S13)において、各領域毎に最適な補正パラメータが設定されたのち、被測定物について測定を行うと、測定データ補正手段134は、測定データのZ座標値情報に基づき測定データの属する領域Iを特定し、特定された領域Iにおいて最適な補正パラメータの値を、補正パラメータ補正工程で求められた補正パラメータのなかから選択し、この補正パラメータで測定データを補正する。
形状解析手段140は、測定データ補正手段134によって補正された補正処理済データから、被測定物の形状を求める。
【0038】
従って、測定アーム24が回転軸23を支点として上下方向へ円弧運動することに伴う測定誤差を補正した測定結果が得られる。とくに、本実施形態によれば、測定された測定データを、Zレンジの各領域に対してそれぞれ最適な補正パラメータで補正することができるので、従来のように、Zレンジの全域において同じ値の補正パラメータを用いたものに比較し、より高精度に誤差を補正することができる。
これは、多層構造のアルゴリズム、つまり、Z軸測定範囲を複数領域に分割して各領域毎に最適な補正パラメータの値を設定することにより得られる。
【0039】
そこで、本実施形態の多層構造アルゴリズムを適用するモデルについて説明する。
図8に示すモデルにおいて、スタイラスによって得られる測定データ(x
m,z
m)は、測定アーム24の円弧運動の影響のため、正しい測定位置(x
r,z
r)とは異なる値となる。このため、高精度な測定を行うためには、測定データ(x
m,z
m)に対して適切な補正処理を行う必要がある。
いま、Z軸のゲイン係数をgとすると、スタイラスで得られた測定データのZ座標値z
mは、次の数式1で与えられる。
【0040】
【数1】
真のZ座標値は、次の数式2で与えられる。
【0041】
【数2】
真のX座標値X
rと測定データのX座標値X
mとは、次の数式3で表わせる関係が成り立つ。
【0042】
【数3】
従って、正しい測定位置(x
r,z
r)は、次の数式4で表わせる。
【0044】
次に、前記モデルに本発明の多層構造アルゴリズムを適用した例について説明する。
多層構造アルゴリズムの基本概念は、
図8に示したモデルにおいて、
図11に示されるような多層構造モデルを採用することにある。つまり、本発明においては、スタイラスで測定可能なZレンジを複数領域(領域1,領域2,…領域N)に分割し、各領域(領域1,領域2,…領域N)毎に、最適な補正パラメータの値を設定している。
例えば、数式4等で表わせるピックアップ機構の円弧運動モデルを適用する場合、測定アーム24のアーム長l、スタイラス26A,26Bのエッジ長h、ゲイン係数gが補正パラメータとなり、各領域毎に各補正パラメータが設定される。
【0045】
次に、
図8に示したモデルに、
図11に示した本発明の多層構造アルゴリズムを適用し、補正パラメータの推定を行う例について説明する。
補正パラメータを推定するために、基準球100を使った校正測定を行う。これは、第1実施形態で説明したX軸形状測定データ取得工程を行う。なお、基準球100は表面が精密に仕上げられた真球に近い半径値Rが既知のワーク、スタイラス26A,26Bの先端形状は球、ZレンジはN個の複数領域(領域1,領域2,…領域N)に分割すると仮定する。ただし、この領域の分割は等分割である必要はない。
スタイラス26A,26Bで基準球100を測定して得られた測定データを(x
km,z
km)k=1,2,…nとし、基準球100との誤差の二乗和が最小になるように補正パラメータの値を推定する。
基準球100の半径をRとし、基準球100の中心座標を(x
c,z
c)とし、スタイラス26A,26Bの先端半径をrとすると、評価量φは、次の数式5で表わせる。
【0046】
【数5】
ただし、補正値(x
kr,z
kr)は、測定データ(x
km,z
km)の補正値であり、補正パラメータl
i、h
i、g
iを使って、次の数式6で表わせる。
【0047】
【数6】
また、補正値(x
kr,z
kr)は、ZレンジをN個に分割したうちの領域iに存在するものとし、補正パラメータl
i、h
i、g
iは、それぞれ領域iにおけるアーム長、エッジ長、ゲイン係数とする。
【0048】
(非線形最小二乗法)
次に、補正パラメータの推定に用いるのに好適な非線形最小二乗法について説明する。
本発明においては、補正パラメータの推定に、非線形最小二乗法を利用することで、評価量φを最小にする補正パラメータの組(l
i、h
i、g
i)(i=1,2…N)、基準球の中心座標(x
c,z
c)、スタイラスの先端半径Rを同時に求めることができる。
従来は、段差標準、ピンゲージを使って校正していたゲイン係数、ピボット式スタイラスの先端半径rも、本発明では、基準球を測定するだけで、校正値を得ることができる。
【0049】
次に、非線形最小二乗法で重要な初期値の設定について説明する。
非線形最小二乗法による補正パラメータの推定を適正に行うためには、補正パラメータの初期値の設定は非常に重要であり、最適な補正パラメータの初期値を与えなければならない。もしこの補正パラメータの初期値の与え方が悪いと、収束に長い時間がかかり、場合によっては全く異なった解を与えてしまうからである。
このため、次の初期値を補正パラメータの初期値として非線形最小二乗法を行うことが好ましい。
例えば、スタイラス26A,26Bの先端半径r,測定アーム24のアーム長l
i(i=1,2,…,N)、スタイラス26A,26Bのエッジ長h
i(i=1,2,…,N)は、初期値として設計値を使うことが好ましい。Z軸のゲイン係数g
i(i=1,2,…,N)は、1を初期値とすることが好ましい。基準球100の中心座標(x
c,z
c)は、次の数式7で表わせる評価量とする最小二乗法による円あてはめにより求めた値を初期値とすることが好ましい。
【0050】
【数7】
具体的には、次の数式8を解いて、中心座標(x
c,z
c)の初期値を得ることができる。
【0051】
【数8】
ここで、上記の数式8は、次の数式9で表わせる関係があるから、解くべき方程式は、次の数式10で表わせる。
【0053】
【数10】
ただし、上記の数式10は、次の数式11を満たす。
【0055】
また、非線形最小二乗法によるパラメータの推定を効率的に行うためには、以下のLevenberg−Marqurdt法を用いることができる。
非線形最小二乗法の計算にLevenberg−Marqurdt法を使う場合、評価量を、ヤコビアン行列をJ、ダンピングファクターをμとして、次の数式12を解くことで、未知パラメータの更新量ベクトルΔXを求めることができる。
【0056】
【数12】
ここで、Iは単位行列である。未知パラメータの更新は、更新量ベクトルΔXが十分小さい、あるいは評価量の変化が十分小さいといった収束条件を満たした時点で終了すればよい。
具体的には、次の数式13として、ヤコビアン行列の各要素は、次の数式14により求めることができる。
【0058】
【数14】
ただし、上記の数式14において、次の数式15とおいた。
【0060】
さて、未知パラメータは、繰り返し計算のM回目に得られる更新ベクトルΔX
(m)を使って、次の数式16によって、収束条件を満足するまで、逐次更新していくことで求めることができる。
【0061】
【数16】
ここで、X
(0)は、未知パラメータの初期値とする。
【0062】
従って、上述したような構成によれば、上向スタイラス26Aと下向スタイラス26Bとの相互位置関係を正確に把握することができるだけでなく、測定アーム24が回転軸23を支点として上下方向へ円弧運動することに伴う測定誤差を補正する補正データ、つまり、測定アーム24のアーム長l、スタイラス26A,26Bのエッジ長h、Z軸のゲイン係数g、スタイラス26A,26Bの先端半径rを求めることができるから、高精度な測定が期待できる。
【0063】
<変形例>
本発明は、上述の実施形態に限定されるものでなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
例えば、上記実施形態では、測定アーム24の上下にスタイラス26A,26Bを直角に突設したが、スタイラス26A,26Bは測定アーム24に対して直角でなくてもよい。例えば、測定アーム24に対して傾斜して設けられていてもよく、測定アーム24の揺動方向に突出する構造であれば、取り付け角度は問わない。
【0064】
また、相対移動機構40は、ステージ10をY軸方向へ、スタイラス変位検出器20をX軸方向およびZ軸方向へ移動可能に構成したが、これに限られない。要するに、ステージ10とスタイラス変位検出器20とが三次元方向へ移動可能であれば、どちらが移動する構造であっても構わない。