【実施例】
【0032】
以下に本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
<実施例1.合金組成が与える影響>
水素透過モジュールの水素透過膜を形成する銅合金の合金組成が水素透過モジュールの水素透過率に与える影響を検討するための試験を以下のように行った。
まず、アーク溶解で作製したV−Ni合金に対し、熱処理と圧延によって厚さ100μmのV−Ni合金箔(非Pd合金層)を作製した。続いて、Cu、Pd及びAlで構成され、表1に記載の原子比を満足する組成となるように成分調整したCu−Pd−Al合金をスパッタリングターゲットとして、前記非Pd合金層の両面に以下の条件でスパッタリングを行い、表1に記載した所定の膜厚の水素透過膜を形成した。スパッタリングに使用したターゲットは純度が3Nのものを用いた。
・装置:バッチ式スパッタリング装置(アルバック社、型式MNS−6000)
・到達真空度:1.0×10
-5Pa
・スパッタリング圧:0.2Pa
・スパッタリング電力:DC100W
次に、水素のガスボンベ(図示せず)、加熱炉11、一次側水素配管12、二次側水素配管13、管状炉内に配置され、一次側水素配管及び二次側水素配管を連結する1/2VCR(登録商標)継手内にガスケットと共に固定された水素透過モジュール14(水素透過部の直径5.6mm)、二次側の水素配管に連結した水素測定器(水素用マスフローコントローラ(山武、MQV9050))を備えた測定系を構築した(
図1参照)。水素のガスボンベから配管を通じて供給される水素はVCR継手の一次側に入り、水素透過モジュール14を通過して、VCR継手の二次側から出てくる。水素透過モジュール14を固定したVCR継手が入っている管状炉は所定の温度に加熱可能となっており、水素固定部のVCR継手部分の温度を熱電対で測定している。測定試験は、一次側圧と二次側圧との差(ΔP)をそれぞれ表1に記載の通りとし、一次側の水素供給量を50sccmとして600℃に水素を加熱しながら2時間供給し続けたときの水素透過量を測定し、以下の式により水素透過係数qを測定した。
q=f
M・d・S
-1・(P
1/2−p
1/2)
-1
q:水素透過係数(mol・m
-1・sec
-1・Pa
-1/2)
f
M:二次側水素流量(mol・sec
-1)
d:膜厚(m)
S:膜面積(m
2)
P:一次側圧力(Pa)
p:二次側圧力(Pa)
【0034】
試験結果を表1に示す。
図2は、横軸に[Pd]/([Cu]+[Pd])
×100(以下、「Pd比」ともいう)、縦軸に[Al]/([Cu]+[Pd])
×100(以下、「Al比」ともいう)をとり、試験したデータ範囲を示している。台形で囲った範囲が本発明の範囲である。得られた結果を幾つかの切り口で以下に検討する。
【表1】
【0035】
(1)[Pd]/([Cu]+[Pd])
×100:約4
1
表1からPd比が4
1付近の例を抽出し、Al比の小さい順に並べたのが表2である。表2より、Al比が0のとき(No.1)は水素透過係数が最も低く、Al比が増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Al比が0.5
0のとき(No.15)に最大の水素透過係数が得られた。その後、更にAl比を増加させていくと今度は徐々に水素透過率が減少していき、Al比が2.1
0まで増えると(No.16)、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(
0.64/9)を満たさなくなったため、優れた水素透過係数は得られなくなった。
【0036】
【表2】
【0037】
(2)[Pd]/([Cu]+[Pd])
×100:約4
6
表1からPd比が4
6付近の例を抽出し、Al比の小さい順に並べたのが表3である。表3より、Al比が0のとき(No.4)は水素透過係数が最も低く、Al比が増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Al比が1.0
3のとき(No.17)に最大の水素透過係数が得られた。その後、更にAl比を増加させていくと今度は徐々に水素透過率が減少していき、Al比が3.2
7まで増えると(No.11)、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(
0.64/9)を満たさなくなったため、優れた水素透過係数は得られなくなった。
【0038】
【表3】
【0039】
(3)[Pd]/([Cu]+[Pd])
×100:約5
0
表1からPd比が5
0付近の例を抽出し、Al比の小さい順に並べたのが表4である。表4より、Al比が0のとき(No.22)は水素透過係数が最も低く、Al比が増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Al比が1.9
6のとき(No.9)に最大の水素透過係数が得られた。その後、更にAl比を増加させていくと今度は徐々に水素透過率が減少していき、Al比が4.25(No.12)のときは、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(
0.64/9)を満たさなくなったため、優れた水素透過係数は得られなくなった。
【0040】
【表4】
【0041】
(4)[Al]/([Cu]+[Pd])
×100:約0.0
5
表1からAl比が0.0
5付近の例を抽出し、Pd比の小さい順に並べたのが表5である。表5より、Pd比が41.
3のとき(No.2)から増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Pd比が46.
8のとき(No.18)に最大の水素透過係数が得られた。その後、更にPd比を増加させていくと今度は徐々に水素透過率が減少していき、Pd比が51.
9まで増えると(No.19)、優れた水素透過係数は得られなくなった。
【0042】
【表5】
【0043】
(5)[Al]/([Cu]+[Pd])
×100:約2.
0
表1からAl比が2.
0付近の例を抽出し、Pd比の小さい順に並べたのが表6である。表6より、Pd比が39.
5のとき(No.13)は水素透過係数が最も低く、Pd比が増加するにつれて水素透過係数が徐々に上昇し、Pd比が45.
8のとき(No.6)に最大の水素透過係数が得られた。その後、更にPd比を増加させていくと今度は徐々に水素透過率が減少していき、Pd比が52.
4まで増えると(No.14)、優れた水素透過係数は得られなくなった。また、Pd比41.
3でAl比2.1
0のとき(No.16)は、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(
0.64/9)を満たさなくなったため、水素透過係数が低かった。
【0044】
【表6】
【0045】
(6)[Al]/([Cu]+[Pd])
×100:約4.
0
表1からAl比が4.
0付近の例を抽出し、Pd比の小さい順に並べたのが表7である。表7より、Pd比が40.
1のとき(No.20)は水素透過係数が最も低く、Pd比が50.
1のとき(No.10)に最大の水素透過係数が得られた。Pd比が51.
6まで増えると(No.21)、優れた水素透過係数は得られなくなった。また、Pd比50.
2、Al4.2
5のとき(No.12)は、式:[Al]/([Cu]+[Pd])≦(2/9)×[Pd]/([Cu]+[Pd])−(
0.64/9)を満たさなくなったため、水素透過係数が低かった。
【0046】
【表7】
【0047】
(7)膜厚0.01〜1.5μm
表1からPd比46.
1、Al比1.0
3のPdCuAl層について、水素透過膜の膜厚が0.01μmから1.5μmの例を抽出したのが表8である。膜厚0.01μmのとき(No.23)、水素は透過しなかった。試験終了後の試料は表面が酸化していた。膜厚が1.5μmの場合は膜厚が厚すぎるため透過量が低下した。
【0048】
【表8】
【0049】
<実施例2.加熱温度の影響>
水素ガスの加熱温度が水素透過モジュールの水素透過率に与える影響を検討するための試験を以下のように行った。
【0050】
実施例1のNo.4,6,17の試料に対して、実施例1と同様の手順で水素透過係数を測定した。ただし、水素ガスの加熱温度を300℃、400℃、500℃、及び600℃に変動させることで、水素透過係数の変化を調べた。
【0051】
試験結果を、温度(℃)を横軸に、水素透過係数を縦軸にしてプロットして示したのが
図3である。これらから、Cu−Pd合金に対してAlを所定量添加した場合、水素透過係数は、低温領域ではAlを添加しない場合よりも低いにもかかわらず、高温条件下(とりわけ600℃付近)では逆転し、Alを添加しない場合よりも高いことが分かる。
【表9】