(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アミン類が反応温度において固体である場合に、当該反応温度より高い沸点を有する有機溶媒中で前記反応を行う、請求項1から請求項6のいずれか記載のカルボン酸アミドの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、そのような製造方法は平衡反応であるため、カルボン酸アミドを効率よく生成するためには、過剰の有機カルボン酸を用いる必要があった。そのため、有機カルボン酸が酢酸(沸点:118℃)である場合には、過剰の酢酸が存在することにより、常圧下では反応温度を上げることができず、通常、加圧して反応が行われていた。また、その反応を促進するために、種々の試薬や触媒等を用いることも行われていた。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、常圧下において、必ずしも触媒を必要とすることなく、アミン類のアミド化を行うカルボン酸アミドの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の課題に対して鋭意研究の末、アミン類と無水酢酸とを反応させることにより、アミン類の一部と無水酢酸とが反応することによってカルボン酸アミドと酢酸とが生成される第1段階と、アミン類の残りと第1段階で生成された酢酸とが反応することによってカルボン酸アミドが生成される第2段階とを経ることにより、常圧下において、必ずしも触媒を必要とすることなくカルボン酸アミドを製造できることを見いだし、発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記の通りである。
[1] 一般式(1):
NHR
1R
2 (1)
(式中、R
1は水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、R
2は
置換基を有していてもよい炭素数6の直鎖のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数
7〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜30のアリール基、または置換基を有していてもよい単環もしくは縮合環の複素環基である。なお、R
1及びR
2は末端で、ヘテロ原子の介在または非介在下で、互いに結合し環状構造をなしていてもよい)により表されるアミン類と、当該アミン類1当量に対して0.5〜0.75当量の無水酢酸とを、常圧下で120〜180℃で反応させることによる一般式(2):
CH
3−CO−NR
1R
2 (2)
(式中、R
1及びR
2は前記と同じ)により表されるカルボン酸アミドの製造方法。
【0008】
[2] 前記R
1は水素原子である、[1]記載のカルボン酸アミドの製造方法。
[3] 前記反応が、140〜160℃の範囲内で行われる、[1]または[2]記載のカルボン酸アミドの製造方法。
[4] 前記無水酢酸の量は、前記アミン類1当量に対して0.55〜0.6当量である、[1]から[3]のいずれか記載のカルボン酸アミドの製造方法。
[5] 前記反応において、マイクロ波を照射することによって加熱する、[1]から[4]のいずれか記載のカルボン酸アミドの製造方法。
[6] 前記アミン類は4−アミノフェノールである、[1]から[5]のいずれか記載のカルボン酸アミドの製造方法。
[7] 前記アミン類が反応温度において固体である場合に、当該反応温度より高い沸点を有する有機溶媒中で前記反応を行う、[1]から[6]のいずれか記載のカルボン酸アミドの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるカルボン酸アミドの製造方法によれば、常圧下において、必ずしも触媒を必要とすることなくカルボン酸アミドを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、アミン類は一般式(1):
NHR
1R
2 (1)
により表されるものである。その式中、R
1は特に限定されないが、例えば、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基を示すものであってもよい。炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、及びt−ブチル基等を挙げることができる。その炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基は、置換基を有していてもよく、あるいは、有していなくてもよい。そのアルキル基の置換基としては、例えば、アルコキシ基、ヒドロキシ基、エステル基、アルキルチオ基、チオール基、シアノ基、ニトロ基、またはハロゲン原子等を挙げることができる。その置換基の数は特に限定はなく、その置換基が複数である場合に、置換基は同一であってもよく、あるいは、異なっていてもよい。また、R
1として、例えば、水素原子、またはメチル基が好適に使用される。
【0011】
また上記一般式(1)中、R
2は特に限定されないが、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜30のアリール基、または置換基を有していてもよい単環もしくは縮合環の複素環基を示すものであってもよい。
【0012】
炭素数1〜30の直鎖または分岐のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、n−オクチル基、ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、及びエイコサン基等を挙げることができる。その炭素数1〜30の直鎖または分岐のアルキル基は、置換基を有していてもよく、あるいは、有していなくてもよい。そのアルキル基の置換基としては、例えば、アリール基、アルコキシ基、メトキシ基、ヒドロキシ基、エステル基、アルキルチオ基、チオール基、シアノ基、ニトロ基、複素環基、またはハロゲン原子等を挙げることができる。その置換基の数は特に限定はなく、その置換基が複数である場合に、置換基は同一であってもよく、あるいは、異なっていてもよい。水素原子がアリール基で置換されているアルキル基として、例えば、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基、1−ナフチルメチル基、または2−ナフチルメチル基等のアラルキル基を挙げることができる。炭素数1〜30のアルキル基として、例えば、炭素数1〜10のアルキル基が好適に使用される。
【0013】
炭素数6〜30のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、O−キシリル基、1−ナフチル基、及び2−ナフチル基等を挙げることができる。その炭素数6〜30のアリール基は、置換基を有していてもよく、あるいは、有していなくてもよい。そのアリール基の置換基としては、例えば、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ケトン基、エステル基、カルボン酸基、アルキルチオ基、チオール基、シアノ基、ニトロ基、ニトリル基、複素環基、またはハロゲン原子等を挙げることができる。その置換基の数は特に限定はなく、その置換基が複数である場合に、置換基は同一であってもよく、あるいは、異なっていてもよい。炭素数6〜30のアリール基として、例えば、炭素数6〜12のアリール基が好適に使用され、炭素数6〜10のアリール基がより好適に使用され、フェニル基が特に好適に使用される。
【0014】
複素環基は、単環または縮合環の複素環基であり、例えば、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含む5〜10員の単環またはその縮合環の複素環基である。単環の複素環基としては、例えば、フラン基、ピロール基、チオフェン基、ピリジン基、イミダゾール基、ピラゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、イミダゾリン基、ピラジン基、モルホリン基、及びチアジン基等を挙げることができる。縮合環の複素環基としては、例えば、インドール基、イソインドール基、ベンゾイミダゾール基、プリン基、キノリン基、イソキノリン基、キノキサリン基、シンノリン基、プテリジン基、クロメン基(ベンゾピラン基)、イソクロメン基(ベンゾピラン基)、アクリジン基、キサンテン基、またはカルバゾール基等を挙げることができる。その複素環基は、置換基を有していてもよく、あるいは、有していなくてもよい。その複素環基の置換基は、例えば、上述したアルキル基やアリール基が有していてもよい置換基と同様の基であってもよい。また、その置換基の数は特に限定はなく、その置換基が複数である場合に、置換基は同一であってもよく、あるいは、異なっていてもよい。また、その複素環基は、飽和であってもよく、あるいは、不飽和であってもよい。また、その複素環基は、芳香族性のものであってもよく、あるいは、非芳香族性のものであってもよい。複素環基として、例えば、5〜6員の単環複素環基が好適に使用され、フラン基、またはピリジン基が特に好適に使用される。
なお、上記一般式(1)中、R
1及びR
2は末端で、ヘテロ原子の介在もしくは非介在下で、互いに結合し環状構造をなしていてもよく、または、そうでなくてもよい。
【0015】
上記一般式(1)で表されるアミン類としては、例えば、芳香族アミン、及び脂肪族アミン等を挙げることができる。芳香族アミンの具体例としては、例えば、アニリン、4−アミノフェノール、2−フェニルエチルアミン、1−アミノ−2−メチルベンゼン(2−メチルアニリン)、2−アミノベンゾニトリル、4−メトキシ−1−アミノベンゼン(4−メトキシアニリン)、4−クロロアニリン、4−ニトロアニリン、1−アミノ−2−メトキシ−4−ニトロベンゼン(2−メトキシ−4−ニトロアニリン)、N−ベンジル−N−メチルアミン、N−メチルアニリン、1−フェニルエチルアミン、L−フェニルアラニンメチルエステル、2−(アミノメチル)ピリジン、2−アミノピリジン、またはフルフリルアミン等を挙げることができる。脂肪族アミンの具体例としては、例えば、シクロヘキシルアミン、ヘプチルアミン、または1−ドデカンアミン(ドデシルアミン)等を挙げることができる。なお、上記一般式(1)で表されるアミン類は、カルボン酸アミドを製造する際の反応温度よりも高い沸点を有することが好適である。
【0016】
上記一般式(1)で表されるアミン類と無水酢酸とを反応させることにより、一般式(2):
CH
3−CO−NR
1R
2 (2)
により表されるカルボン酸アミドを、次式のようにして生成することができる。なお、上記一般式(2)において、R
1及びR
2は前記と同じものである。上記一般式(2)で表されるカルボン酸アミドの具体例としては、例えば、アセトアニリド(N−フェニルアセトアミド)、4−アセトアミドフェノール(アセトアミノフェン)、N−2−フェニル−アセトアミド(N−(2−フェニルエチル)アセトアミド)、2'−メチルアセトアニリド、2−(アセチルアミノ)ベンゾニトリル、4'−メトキシアセトアニリド、4'−クロロアセトアニリド、4'−ニトロアセトアニリド、2−アセトアミド−1−メトキシ−5−ニトロベンゼン、N−ベンジル−N−メチルアセトアミド、N−メチルアセトアニリド、N−アセチル−1−フェニルエタンアミン(N−(1−フェニルエチル)アセトアミド)、N−アセチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、2−(アセトアミドメチル)ピリジン(N−(2−ピリジルメチル)アセトアミド)、2−アセトアミドピリジン(2−アセチルアミノピリジン)、フルフリルアセトアミド(N−アセチルフルフリルアミン)、N−シクロヘキシルアセトアミド、N−ヘプチルアセトアミド(CH
3−CO−NH−(CH
2)
6−CH
3)、またはN−ドデシルアセトアミド等を挙げることができる。なお、上記一般式(2)で表されるカルボン酸アミドは、その製造の際の反応温度よりも高い沸点を有することが好適である。
NHR
1R
2+n×(CH
3CO)
2O
→ CH
3CONR
1R
2+(2n−1)×CH
3COOH+(1−n)×H
2O
【0017】
ただし、nは、一般式(1)で示されるアミン類1モル当量に対する無水酢酸のモル当量を示すものである。後述するように、nは、0.5以上1未満である。ここで、アミン類と、そのアミン類から生成されるカルボン酸アミドとの対応を示しておく。矢印の左側がアミン類であり、矢印の右側がそのアミン類をアセチル化することによって生成されるカルボン酸アミドである。
アニリン→アセトアニリド、4−アミノフェノール→4−アセトアミドフェノール、2−フェニルエチルアミン→N−2−フェニル−アセトアミド、シクロヘキシルアミン→N−シクロヘキシルアセトアミド、ヘプチルアミン→N−ヘプチルアセトアミド、1−ドデカンアミン→N−ドデシルアセトアミド、1−アミノ−2−メチルベンゼン→2'−メチルアセトアニリド、2−アミノベンゾニトリル→2−(アセチルアミノ)ベンゾニトリル、4−メトキシ−1−アミノベンゼン→4'−メトキシアセトアニリド、4−クロロアニリン→4'−クロロアセトアニリド、4−ニトロアニリン→4'−ニトロアセトアニリド、1−アミノ−2−メトキシ−4−ニトロベンゼン→2−アセトアミド−1−メトキシ−5−ニトロベンゼン、N−ベンジル−N−メチルアミン→N−ベンジル−N−メチルアセトアミド、N−メチルアニリン→N−メチルアセトアニリド、1−フェニルエチルアミン→N−アセチル−1−フェニルエタンアミン、L−フェニルアラニンメチルエステル→N−アセチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、2−(アミノメチル)ピリジン→2−(アセトアミドメチル)ピリジン、2−アミノピリジン→2−アセトアミドピリジン、フルフリルアミン→フルフリルアセトアミド。
【0018】
また、上記反応式は、詳細には次式のように、第1段階の反応と第2段階の反応との組み合わせとして行われていると推定される。
【化1】
【0019】
第1段階の反応において、1モル当量のアミン類と、nモル当量の無水酢酸とが反応し、nモル当量のカルボン酸アミドが生成されると共に、(1−n)モル当量のアミン類が未反応として残り、nモル当量の酢酸が生成される。また、第2段階の反応において、その未反応の(1−n)モル当量のアミン類と、第1段階で生成されたnモル当量の酢酸とが反応し、(1−n)モル当量のカルボン酸アミドと、(1−n)モル当量の水とが生成され、(2n−1)モル当量の酢酸が残る。なお、酢酸は、アセチル化試薬になり得るがカルボニル炭素のδ+性が小さいため、その働きは無水酢酸よりも劣る。したがって、第2段階における酢酸によるアセチル化反応の反応速度増大または収率向上には、過剰の酢酸投入、酸触媒の使用、高い反応温度のいずれかが必要になる。一方、酢酸の沸点は118℃であるため、酢酸が過剰な場合には、それよりも高い反応温度を実現することが困難となる。一方、本発明では、上記第1及び第2段階の反応が、第1段階が完全に終了した後に第2段階が開始される、というように直列的に行われるのではなく、第1段階と第2段階とが並列して順次、行われることになると考えられる。したがって、生成される酢酸のモル当量自体が少ない上に、一時期に存在する酢酸の量はそれよりもさらに少ないことになると考えられる。そのため、反応温度を酢酸の沸点よりも高い温度に保つことが可能となり、その結果、高い反応温度を実現でき、高い収率を得ることができるようになる。なお、第2段階は平衡反応であると考えられるが、水の沸点よりも高い反応温度で反応させることによって、水が蒸発して系外に除去されることになり、反応が促進されることになる。
【0020】
上記反応において、アミン類1.0モル当量に対する無水酢酸のモル当量は、0.5以上1.0未満である。そのようにすることで、反応後に残存する酢酸の量が、少なくとも従来例よりも少なくなる。なお、酢酸の中和の工程を簡略化することを考えると、上記反応において、無水酢酸の量は、アミン類1.0モル当量に対して、0.5〜0.75モル当量であることが好ましく、0.55〜0.60モル当量であることがさらに好ましい。ここで、理論上は、無水酢酸の量は、アミン類1.0モル当量に対して0.50モル当量でよいことになる。しかし、実際には、第1段階の反応が100%進行するのではない。そのため、第2段階の反応における酢酸の量が、アミン類1モル当量に対して、1モル当量以上となるように、無水酢酸の量は、アミン類1.0モル当量に対して0.50モル当量より少し多い量以上、例えば、0.55モル当量以上であることが好適である。また、反応後に残る酢酸の量を少なくするため、無水酢酸の量は、アミン類1.0モル当量に対して0.50モル当量を大きく超えない範囲であることが好適である。
【0021】
また、上記反応は、常圧下で行われる。常圧下とは、加圧や減圧を行わないで反応を行うことである。常圧は、約1気圧である。また、上記反応は、100〜180℃の範囲内で行われる。なお、その反応は、120〜180℃の範囲内で行われることが好適であり、140〜160℃の範囲内で行われることがさらに好適であり、145〜160℃の範囲内で行われることがさらにまた好適であり、150〜160℃の範囲内で行われることが特に好適である。反応時間は、原料のアミン類、反応温度により異なるが、通常、0.5時間から9時間であり、好ましくは1時間から3時間である。反応の終了は、例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)法などによって容易に確認することができる。また、ガスクロマトグラフィー(GC),NMR,高速液層クロマトグラフィー(HPLC)等によって反応の終了を確認することもできる。
【0022】
また、上記反応のための加熱は、例えば、マイクロ波を照射することによって行ってもよく、油浴によって行ってもよく、誘導加熱によって行ってもよく、それらを併用してもよく、あるいは、その他の加熱方法を用いてもよい。上記反応において、マイクロ波を照射することによって加熱することが好適である。従来の加熱手法では、外部熱により反応容器を加温し、その壁面からの熱伝導により、被加熱物(反応物)を加熱するのに対し、マイクロ波の照射によって加熱する場合には、空間を伝搬する電磁波エネルギーを直接被加熱物に供与することができるため、加熱のエネルギーロスが少なく、被加熱物を直接かつ急速に加熱することができる。さらに、反応対象の沸点以上に加熱することも可能となる。通常、物質の沸点は、熱供与エネルギーと蒸発潜熱が平衡になる温度が沸点と定められるが、数GHzの周波数を持つ電磁波であるマイクロ波は、瞬時に高いエネルギー供与が可能であるため、蒸発がこのエネルギー供与追随できなくなり、物質(溶液)の温度を沸点以上に加熱することができる。例えば、水を溶媒とした場合、常圧下ではマイクロ波照射により110℃まで溶媒の温度を加熱することができる。マイクロ波を照射することによって化学反応を行う化学反応装置としては、例えば、特開2011−235262、特開2011−235263、特開2011−240213等で開示されているものを挙げることができる。照射するマイクロ波の周波数は、例えば、例えば、2.45GHzであってもよく、5.8GHzであってもよく、24GHzであってもよく、913MHzであってもよく、または、その他の300MHzから300GHzの範囲内の周波数であってもよい。また、2以上の周波数のマイクロ波を照射することによって加熱してもよい。また、マイクロ波の照射出力は反応の種類やスケール等に応じて任意に決定することができる。また、マイクロ波の照射容器は、例えば、マルチモードのものであってもよく、あるいは、シングルモードのものであってもよい。また、マイクロ波の照射は、連続的に行われてもよく、あるいは、断続的(不連続)に行われてもよい。
【0023】
また、上記反応において、溶媒を用いてもよく、あるいは、用いなくてもよい。アミン類が反応温度において固体である場合には、そのアミン類の流動性を向上させるために、有機溶媒中で反応を行うことが好適である。なお、アミン類が反応開始温度(通常、室温である)において固体である場合にも、アミン類の流動性を少なくとも反応初期において向上させるために、有機溶媒中で反応を行ってもよい。その有機溶媒は、反応温度より高い沸点を有していることが好適である。反応中に有機溶媒の沸点を超えないことが好適だからである。また、その有機溶媒は、上記反応において副反応を生じないものが好適である。具体的には、アミン類が4−アミノフェノール(融点:188℃)である場合には、溶媒希釈を行って反応を行うことが好適である。その反応で用いる有機溶媒としては、例えば、エステル溶媒や、アミド系の溶媒等を用いることができる。エステル溶媒としては、例えば、酢酸ブチル、または酢酸プロピル等を挙げることができる。一方、アミン類が反応温度で液体である場合には、溶媒を用いないで反応を行ってもよい。例えば、水などの沸点の低い溶媒を用いた場合には、その溶媒の潜熱により反応温度を上げることが困難となるが、そのような溶媒を用いないことによって、反応温度を上げることが可能となる。
【0024】
また、反応雰囲気は、特に限定がなく、空気のほか、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよい。また、上記反応は、バッチ式の方法によって行ってもよく、あるいは、フロー式の方法によって行ってもよい。また、上記反応において、触媒を必ずしも用いる必要はないが、触媒の使用を妨げるものではない。触媒を用いない場合には、反応後に触媒を除去する処理が不要となる。
【0025】
反応終了後、目的とするカルボン酸アミドは、通常の手段により単離される。そのカルボン酸アミドを再結晶により精製する場合には、反応後の溶液のPHが6〜7付近であることが好適である。その場合には、容易に再結晶化するからである。したがって、反応後に酢酸が過剰に残っている場合には、それを中和した後に再結晶化を行うことが好ましい。なお、それ以外の方法、例えば、蒸留、クロマトグラフィー、分液操作等の通常の方法によって精製を行ってもよい。また、反応後に残っている酢酸を、中和以外の方法、例えば、減圧蒸去等によって除いてもよい。
【0026】
以上のように、本発明によるカルボン酸アミドの製造方法によれば、必ずしも触媒を用いることなく、常圧下で効率よくカルボン酸アミドを製造することができるという優れた効果が奏される。なお、反応後に残留する酢酸の量が多くなると、カルボン酸アミドの精製に次のような弊害の生じるおそれがある。目的物が水に難溶性の場合には、反応後の溶液に水を添加し、低温で静沈することで目的とする結晶を生成し、濾別することで容易に目的物を精製することができる。一方、酢酸の含有量が多いと目的物が酢酸水溶液に一部溶解するため、高収量の目的物を精製するには、反応後の溶液を中和する必要がある。したがって、従来例のように、多量の酢酸を用いてカルボン酸アミドを生成した場合には、目的生成物を精製する際に、過剰の酢酸を中和する必要があった。一方、本発明において、無水酢酸の当量を0.5〜0.6程度にした場合には、反応後に残る酢酸の量を抑えることができ、後述する実施例のように、中和することなく目的結晶を容易に析出させ、濾別することが可能となる。また、無水酢酸の当量が0.75以下である場合にも、反応後に残る酢酸の量を従来例より抑えることができ、その酢酸の中和工程を簡略化することができる。また、常圧下で反応できるため、簡易な製造装置によってカルボン酸アミドを製造することができる。
【0027】
また、従来例のように、沸点の低い酢酸を多量に用いる場合には、常圧下では、還流による蒸発潜熱により一定の温度以上に温度を上げることが難しくなる。一方、本発明のように、無水酢酸の使用量が少なく、結果として生成される酢酸の量が少ない場合には、酢酸の蒸発潜熱が小さくなるため、反応溶液を高温まで加熱することができ、高い収率を得ることが可能となる。また、アミン類が反応温度において固体である場合に、その反応温度より高い沸点を有する有機溶媒中で反応を行うことにより、アミン類の流動性を高めることができ、反応時間を短くすることができることになる。また、マイクロ波を用いて加熱を行うことによって、油浴等の場合よりも反応温度を高くしうることができるため、より収率の高い反応を実現することが可能となりうる。
【実施例1】
【0028】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例1 アセトアニリドの合成
500ml石英フラスコにアニリン(180mmol)を仕込み、室温下、攪拌しながら無水酢酸(0.6等量、108mmol)を滴下した。フラスコ上部に還流管を接続し、上記溶液を、周波数2.45GHzのマイクロ波を照射することで昇温速度20℃/minにて160℃に加熱し、その温度にて1時間保持した(マイクロ波装置:μ−Reactor Ex、四国計測工業社製)。なお、その温度はフラスコ内の反応溶液の温度であり、光ファイバー温度計(安立計器社製、FL−2000)を用いて測定した。また、本実施例では160℃に加熱しても、激しい還流は起こらなかった。その後、50℃以下に冷却した溶液に60gのイオン交換水を加え希釈し、90℃に加温することで生成物を再溶解させた。10℃で終夜放置すること得られた白色結晶を濾別し、再度5〜10℃に冷却したイオン交換水で洗浄後、60℃の真空乾燥をすることで目的するアセトアニリドを得た(収率:80.7%)。
【0029】
ガスクロマトグラフィー(GC)により、得られた白色粉末に含有するアセトアニリドの純度を求めると99.5%であった。収率は得られた白色粉末の重量を計測し、GC測定による純度から算出した。
ガスクロマトグラフィー分析条件:得られた粉末を酢酸エチルで希釈した後、このGC調整溶液にシリル化剤(N,O−トリメチルシリル−トリフルオトアセトアミド,BSTFA)を添加することで粉末を溶解させた。上記溶液を以下のGC測定条件により収率を算出した。
GC分析装置:GC−2014,Shimadzu社製
カラム:DB−5HT(アジレント J&W GCカラム)
【0030】
以上の結果から、実施例1によれば、触媒を使用しなくても常圧下でアセトアニリドを効率よく製造することができることが分かる。また、反応後に残存する酢酸の量が少ないため、中和を行うことなく、アセトアニリドを結晶化させることができる。
【0031】
実施例2〜6 アセトアニリドの合成
次の表に示す反応温度、保持時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、目的とするアセトアニリドを得た。実施例2〜6に関する各収率は、次の表に示されるとおりである。
【表1】
【0032】
以上の結果から、実施例2〜6によれば、反応温度が高くなることに応じて収率が上がり、また反応時間(保持時間)が長くなることに応じて収率が上がることが分かる。なお、反応温度を160℃以上とすることによって、収率のさらなる向上が期待されうる。
【0033】
実施例7,8 アセトアニリドの合成
無水酢酸の使用量を変更した以外は、実施例3と同様の方法により、目的とするアセトアニリドを得た。実施例7,8に関する各収率は、次の表に示されるとおりである。
【表2】
【0034】
実施例9 N−2−フェニル−アセトアミドの合成
反応基質であるアミン類をアニリンから2−フェニルエチルアミンに変更した以外は、実施例3と同様の方法により、目的とするN−2−フェニル−アセトアミドを得た(収率:87.5%)。
【0035】
実施例10 N−シクロヘキシルアセトアミドの合成
反応基質であるアミン類をアニリンからシクロヘキシルアミンに変更した以外は、実施例3と同様の方法により、目的とするN−シクロヘキシルアセトアミドを得た(収率70.1%)。
【0036】
以上の結果から、実施例9,10によれば、触媒を使用しなくても常圧下でN−2−フェニル−アセトアミドやN−シクロヘキシルアセトアミドを効率よく製造することができることが分かる。
【0037】
実施例11 4−アセトアミドフェノールの合成
500ml石英フラスコに60gの酢酸ブチルを仕込み、白色粉末4−アミノフェノール(180mmol)を攪拌しながら仕込むことで4−アミノフェノールを分散させた。その後、室温下、攪拌しながら無水酢酸(0.6等量、108mmol)を滴下した。上記溶液を、周波数2.45GHzのマイクロ波を照射することで昇温速度20℃/minにて130℃に加熱還流し、その温度にて1時間保持した。これ以降の操作は実施例1と同様の手法により精製し、目的とする4−アセトアミドフェノールを得た(収率67.2%)。
実施例12〜14 4−アセトアミドフェノールの合成
【0038】
次の表に示す保持時間、無水酢酸の滴下量に変更した以外は、実施例11と同様の方法により、目的とする4−アセトアミドフェノールを得た。実施例12〜14に関する各収率は、次の表に示されるとおりである。
【表3】
【0039】
以上の結果から、実施例11〜14によれば、触媒を使用しなくても常圧下で4−アセトアミドフェノールを効率よく製造することができることが分かる。なお、実施例11〜14では、溶媒として酢酸ブチルを使用したが、酢酸ブチルよりも沸点の高い有機溶媒を使用し、反応温度を高くすることによって、4−アセトアミドフェノールをより高収率で製造できると考えられる。
【0040】
比較例1
無水酢酸を1.2当量の酢酸(アセチル基の量は無水酢酸0.6当量と同じ)に変更し、反応温度を144℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、アセトアニリドを得た(収率50.2%)。なお、酢酸の沸点(118℃)は、無水酢酸の沸点(140℃)よりも低いため、比較例1では、酢酸が激しく還流し、反応温度をこれ以上、上げることはできなかった。
【0041】
このことから、比較例1によれば、アセチル化剤として酢酸を使用した場合には、常圧下では反応温度を上げることが困難であり、効率よくアセトアニリドを製造できないことが分かる。
【0042】
なお、本発明は、以上の実施例に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。