(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
差動信号を伝送する一対の導線を絶縁体で被覆してなる絶縁電線の外周側に、導電性の金属層を有する帯状部材からなるシールドテープ導体を幅方向の両端部が互いに重なり合い前記絶縁電線の長手方向に沿って縦添え巻きするように巻く第1ステップと、
前記シールドテープ導体の外周側に、前記シールドテープ導体の外周面に沿って第1の樹脂テープを螺旋巻きする第2ステップと、
第1の樹脂テープの外周側に、前記第1の樹脂テープの外周面に沿って第2の樹脂テープを螺旋巻きする第3ステップとを備え、
前記シールドテープ導体ならびに前記第1及び第2の樹脂テープの前記絶縁電線の中心軸に対する周方向における巻き方向が同一方向である
差動信号伝送用ケーブルの製造方法。
前記第2及び第3ステップは、前記第1の樹脂テープを螺旋巻きする際の張力による前記絶縁電線の変位が、前記第2の樹脂テープを螺旋巻きする際の張力によって常に抑制されるように、前記第1及び第2の樹脂テープを螺旋巻きするステップである、
請求項6に記載の差動信号伝送用ケーブルの製造方法。
前記第2及び第3ステップは、環状部材に形成された貫通孔に前記絶縁電線を挿通させ、前記環状部材に固定された第1及び第2のガイド部によって前記第1及び第2の樹脂テープを案内し、前記環状部材を回転させることによって前記第1及び第2の樹脂テープを螺旋巻きするステップであり、
前記第1のガイド部材と前記第2のガイド部材とは、これら両ガイド部材の間に前記絶縁電線を挟む位置に固定されている、
請求項6又は7に記載の差動信号伝送用ケーブルの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように構成された差動信号伝送用ケーブルでは、絶縁体とシールドテープとの間に意図しない隙間が発生すると、一対の導線における信号の伝搬遅延時間の差であるスキューや、高周波帯域(例えば10Gbps以上)での急激な信号減衰が発生し、受信側において信号を正常に受信できないことがある。また、シールドテープの幅方向の両端部が重なるようにシールドテープを重ね巻きする場合には、この重なり部分における両端部の間に隙間が発生することによっても特性が変化し、スキューや急激な信号減衰が発生する場合がある。
【0006】
本発明者らは、二重のテープをシールドテープの外周側に巻き付ける際に、絶縁体とシールドテープとの間及び/又はシールドテープの重なり部分に隙間が発生する場合があることを見出し、二重のテープを巻き付ける際の導線及び絶縁体ならびにシールドテープの揺動を抑えることで、この隙間の発生を抑制できるとの知見を得た。
【0007】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、差動信号を伝送する一対の導線を被覆する絶縁体とシールドテープ導体との間、及び重ね巻きされたシールドテープ導体の重なり部分における隙間の発生を抑制することができる差動信号伝送用ケーブル、多芯差動信号伝送用ケーブル、差動信号伝送用ケーブルの製造方法、及び差動信号伝送用ケーブルの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、差動信号を伝送する一対の導線を絶縁体で被覆してなる絶縁電線と、導電性の金属層を有する帯状部材からなり、その幅方向の端部が互いに重なり合
い前記絶縁電線の長手方向に沿って縦添え巻きするように前記絶縁電線の外周面に沿って巻かれたシールドテープ導体と、前記シールドテープ導体の外周側に、前記シールドテープ導体の外周面に沿って螺旋巻きされた第1の樹脂テープと、第1の樹脂テープの外周側に、前記第1の樹脂テープの外周面に沿って螺旋巻きされた第2の樹脂テープとを備え、前記シールドテープ導体ならびに前記第1及び第2の樹脂テープは、前記絶縁電線の中心軸に対する周方向における巻き方向が同一方向である差動信号伝送用ケーブルを提供する。
【0009】
また、前記第1の樹脂テープの外周側及び前記第2の樹脂テープの内周側には、それぞれ接着層が形成され、前記第1の樹脂テープと前記第2の樹脂テープとは、前記接着層によって互いに接合されているとよい。
【0010】
また、前記第1の樹脂テープは、その幅方向の一部が重なり合うように重ね巻され、前記第2の樹脂テープは、その重なり部分が前記第1の樹脂テープの前記重ね巻きによる重なり部分に対して前記絶縁電線の中心軸方向にずれるように重ね巻されているとよい。
【0011】
また、前記絶縁電線は、前記絶縁体が前記一対の導線を一括して被覆し、前記絶縁電線の長手方向に垂直な断面における前記絶縁体の外周形状が凸円弧状に湾曲して連続しているとよい。
【0012】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、上記の差動信号伝送用ケーブルを複数本備え、前記複数本の前記差動信号伝送用ケーブルを一括してシールドしてなる多芯差動信号伝送用ケーブルを提供する。
【0013】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、差動信号を伝送する一対の導線を絶縁体で被覆してなる絶縁電線の外周側に、導電性の金属層を有する帯状部材からなるシールドテープ導体を幅方向の両端部が互いに重なり合
い前記絶縁電線の長手方向に沿って縦添え巻きするように巻く第1ステップと、前記シールドテープ導体の外周側に、前記シールドテープ導体の外周面に沿って第1の樹脂テープを螺旋巻きする第2ステップと、第1の樹脂テープの外周側に、前記第1の樹脂テープの外周面に沿って第2の樹脂テープを螺旋巻きする第3ステップとを備え、前記シールドテープ導体ならびに前記第1及び第2の樹脂テープの前記絶縁電線の中心軸に対する周方向における巻き方向が同一方向である差動信号伝送用ケーブルの製造方法を提供する。
【0014】
また、前記第2及び第3ステップは、前記第1の樹脂テープを螺旋巻きする際の張力による前記絶縁電線の変位が、前記第2の樹脂テープを螺旋巻きする際の張力によって常に抑制されるように、前記第1及び第2の樹脂テープを螺旋巻きするステップであるとよい。
【0015】
また、前記第2及び第3ステップは、環状部材に形成された貫通孔に前記絶縁電線を挿通させ、前記環状部材に固定された第1及び第2のガイド部によって前記第1及び第2の樹脂テープを案内し、前記環状部材を回転させることによって前記第1及び第2の樹脂テープを螺旋巻きするステップであり、前記第1のガイド部材と前記第2のガイド部材とは、これら両ガイド部材の間に前記絶縁電線を挟む位置に固定されているとよい。
【0016】
また、上記課題を解決することを目的として、上記の差動信号伝送用ケーブルの製造装置であって、前記絶縁電線に張力を付与しながら前記絶縁電線をその長手方向に沿って移動させる移動手段と、前記絶縁電線の長手方向に沿って前記シールドテープ導体を縦添え巻きする縦添え巻き手段と、前記第1の樹脂テープ及び前記第2の樹脂テープを同一方向に螺旋巻きする螺旋巻き手段とを備え、前記螺旋巻き手段は、前記絶縁電線を挿通させる貫通孔が中心部に形成された環状部材と、前記第1の樹脂テープが巻かれた第1のリールを支持する第1の支持部と、前記第2の樹脂テープが巻かれた第2のリールを回転可能に支持する第2の支持部と、前記環状部材を前記第1及び前記第2の支持部と共に前記絶縁電線に対して回転させる回転駆動機構とを有する差動信号伝送用ケーブルの製造装置を提供する。
【0017】
また、前記螺旋巻き手段は、前記第1の樹脂テー
プを前記シールドテープ導体の外周側に案内する第1のガイド部材、及び前記第2の樹脂テープを前記第1の樹脂テープの外周側に案内する第2のガイド部材をさらに有し、前記第1のガイド部材及び前記第2のガイド部材は、これら両ガイド部材の間に前記絶縁電線を挟む位置に固定されているとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、差動信号を伝送する一対の導体を被覆する絶縁体とシールドテープ導体との間、及び重ね巻きされたシールドテープ導体の重なり部分における隙間の発生を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルを複数本含む多芯差動信号伝送用ケーブルの断面構造を示す断面図である。
【0021】
この多芯差動信号伝送用ケーブル100は、差動信号伝送用ケーブル10を複数本(
図1に示す例では8本)束ね、この束ねられた複数の差動信号伝送用ケーブル10を一括してシールド導体12によってシールドし、シールド導体12の外周囲をさらに編組線13によって覆い、これら複数の差動信号伝送用ケーブル10、シールド導体12、及び編組線13を絶縁体からなる可撓性のジャケット14に収容して構成されている。
【0022】
また、
図1に示す例では、多芯差動信号伝送用ケーブル100の中心部に2本の差動信号伝送用ケーブル10が配置され、この2本の差動信号伝送用ケーブル10が撚糸や発泡ポリオレフィン等からなる筒状の介在11に収容されている。また、他の6本の差動信号伝送用ケーブル10は、介在11の外側に略等間隔に配置されている。
【0023】
(差動信号伝送用ケーブル10の構成)
図2は、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル10の構成を示す側面図である。
【0024】
差動信号伝送用ケーブル10は、差動信号を伝送する第1及び第2の導線21,22を絶縁体20で被覆してなる絶縁電線2と、絶縁電線2の外周面に沿って巻かれたシールドテープ導体3と、シールドテープ導体3の外周側に、シールドテープ導体3の外周面に沿って螺旋巻きされた第1の樹脂テープ4と、第1の樹脂テープ4の外周側に、第1の樹脂テープ4の外周面に沿って螺旋巻きされた第2の樹脂テープ5とを備えている。
【0025】
絶縁電線2は、銅等の導電性の金属からなる第1の導線21及び第2の導線22を互いに平行に配置し、この第1の導線21及び第2の導線22を一括して絶縁体20によって被覆している。絶縁体20は、絶縁電線2の長手方向に垂直な断面における外周形状が凸円弧状に湾曲して連続し、第1の導線21及び第2の導線22の並列方向に沿った第1の方向における直径が前記第1の方向に直交する第2の方向における直径よりも大きい長円形状である。すなわち、絶縁体20の外周形状は、平坦な部分や窪んだ部分のない、全体が滑らかに連続した凸曲面からなる形状である。
【0026】
絶縁電線2の中心軸に直交する断面における絶縁体20の外縁は楕円状を呈している。絶縁体20の材料としては、例えば発泡ポリエチレンや発泡テフロン、あるいはテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のテフロン系材料(テフロンは登録商標)を使用することができる。
【0027】
シールドテープ導体3は、導電性の金属層を有する帯状部材からなり、その幅方向の端部が重なり合うように、絶縁体20の外周面に沿って巻かれている。
図2では、シールドテープ導体3の幅方向の一端部及び他端部が重なった重なり部分を符号3aで示し、この重なり部分3aの下側(絶縁体20側)におけるシールドテープ導体3の幅方向の一端面を破線で示している。このシールドテープ導体3は、その長手方向が絶縁電線2の中心軸方向と平行となるように、絶縁体20に縦添え巻きされている。つまり、重なり部3aは、絶縁電線2の中心軸と平行に延びている。
【0028】
第1の樹脂テープ4は、可撓性を有する樹脂からなる帯状のテープ部材からなり、その幅方向の一端部及び他端部が重なり合うように螺旋状に巻き回されている。つまり、第1の樹脂テープ4の長手方向がシールドテープ導体3の重なり部分3aに対して傾斜するように巻き回されている。本実施の形態では、第1の樹脂テープ4の幅方向における重なり部分4a(第1の樹脂テープ4の幅方向の一端部及び他端部が重なった部分)の寸法が、第1の樹脂テープ4の幅寸法の4分の1から2分の1となるように重ね巻きされている。
【0029】
第2の樹脂テープ5は、第1の樹脂テープ4と同様に、可撓性を有する樹脂からなる帯状のテープ部材からなり、その幅方向の一端部及び他端部が重なり合うように螺旋状に巻き回されている。本実施の形態では、第2の樹脂テープ5の幅方向における重なり部分5a(第2の樹脂テープ5の幅方向の一端部及び他端部が重なった部分)の寸法が、第2の樹脂テープ5の幅寸法の4分の1から2分の1となるように重ね巻きされている。なお、
図2では、説明のために、第1の樹脂テープ4及び第2の樹脂テープ5の一部を除去した状態を示している。
【0030】
シールドテープ導体3ならびに第1及び第2の樹脂テープ4,5は、絶縁電線2の中心軸に対する周方向における巻き方向が同一方向である。つまり、第1の樹脂テープ4は、
図2に破線で示すシールドテープ導体3の重なり部3aにおける下側のシールドテープ導体3の一端面から、実線で示す上側の他端面に向かって巻き回され、第2の樹脂テープ5もこの方向に巻き回されている。
【0031】
図3は、差動信号伝送用ケーブル10の
図2のA−A線断面における一部断面図である。なお、この図では、説明のため、シールドテープ導体3、第1の樹脂テープ4、及び第2の樹脂テープ5の厚みを誇張して表している。
【0032】
シールドテープ導体3は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)等の可撓性を有する絶縁性の樹脂からなる樹脂層30と、樹脂層30の一方の表面に設けられた銅やアルミニウム等の導電性の金属からなる金属層31とを積層して構成されている。樹脂層30は、金属層31よりも絶縁電線2側に配置され、樹脂層30の表面30aは絶縁体20の外周面20aに接触している。樹脂層30の厚みは例えば10〜15μm、金属層31の厚みは例えば6〜12μmである。
【0033】
第1の樹脂テープ4は、例えばPET等の可撓性を有する絶縁性の樹脂からなる樹脂層40と、樹脂層40に積層して形成された接着剤を含む接着層41とを有して構成されている。接着層41は、樹脂層40よりも差動信号伝送用ケーブル10の外周側に配置されている。樹脂層40の表面40aは、シールドテープ導体3の金属層31の表面31aに接触している。第1の樹脂テープ4の重なり部分4aでは、下側(シールドテープ導体3側)における第1の樹脂テープ4の一端部の接着層41によって、この一端部における樹脂層40と、上側(第2の樹脂テープ5側)における第1の樹脂テープ4の他端部の樹脂層40とが接合されている。
【0034】
第2の樹脂テープ5は、第1の樹脂テープ4と同様に、例えばPET等の可撓性を有する絶縁性の樹脂からなる樹脂層50と、樹脂層50に積層して形成された接着剤を含む接着層51とを有して構成されている。接着層51は、樹脂層50よりも差動信号伝送用ケーブル10の内周側に配置されている。接着層51の表面51aは、その一部が第1の樹脂テープ4の接着層41の表面41aに接触し、互いに接合されている。つまり、第1の樹脂テープ4と第2の樹脂テープ5とは、第1の樹脂テープ4の外周側及び第2の樹脂テープ5の内周側に設けられた接着層41,51によって互いに接合されている。
【0035】
第2の樹脂テープ5の重なり部分5aでは、上側(差動信号伝送用ケーブル10の外周側)における第2の樹脂テープ5の一端部の接着層51によって、この一端部における樹脂層50と、下側(第1の樹脂テープ4側)における第2の樹脂テープ5の他端部の樹脂層50とが接合されている。
【0036】
本実施の形態では、第1の樹脂テープ4と第2の樹脂テープ5の幅寸法及び厚みが同じである。つまり、第1の樹脂テープ4と第2の樹脂テープ5とは、樹脂層40,50に対する接着層41,51の位置が逆である他は、同一の諸元によって構成されている。樹脂層40,50の厚みは例えば10〜15μm、接着層41,51の厚みは例えば2〜5μmである。
【0037】
図3に示すように、第2の樹脂テープ5は、その重なり部分5aが、第1の樹脂テープ4の重ね巻きによる重なり部分4aに対して、絶縁電線2の中心軸C方向にずれるように重ね巻されている。これにより、絶縁電線2の中心軸Cに沿って隣り合う2つの重なり部分4aのそれぞれの上側における第1の樹脂テープ4の端部が、
図3に示すB
1部及びB
2部において、1つの重なり部分5aの下側における第2の樹脂テープ5に接合されている。このB
1部及びB
2部の間における接着層41の表面41aと接着層51の表面51aとの間には、隙間S
11が形成されている。この隙間S
11は、接着層41と接着層51とが互いに接合されていない空隙となっている。
【0038】
また、絶縁電線2の中心軸Cに沿って隣り合う2つの重なり部分5aのそれぞれの下側における第1の樹脂テープ5の端部が、
図3に示すB
2部及びB
3部において、1つの重なり部分4aの上側における第2の樹脂テープ4に接合されている。このB
2部及びB
3部の間における接着層41の表面41aと接着層51の表面51aとの間には、隙間S
12が形成されている。この隙間S
12は、隙間S
11と同様に、接着層41と接着層51とが互いに接合されていない空隙となっている。
【0039】
以上のように構成された差動信号伝送用ケーブル10は、第1及び第2の導線21,22によって差動信号を伝送する。つまり、この差動信号伝送用ケーブル10を用いた通信では、送信側において第1の導線21及び第2の導線22に互いに逆位相となる信号を出力し、受信側において第1の導線21と第2の導線22との電位差に基づいて送信された信号を受信(復号)する。この通信方式により、例えば第1の導線21にノイズが重畳した場合には第2の導線22にも同様のノイズが重畳するので、受信側における信号の電位差に与える影響が抑制され、耐ノイズ性の高い通信を行うことが可能となる。
【0040】
ただし、絶縁体20の外周面20aとシールドテープ導体3との間に隙間が空いたり、シールドテープ導体3の重なり部分3aにおけるシールドテープ導体3の幅方向の一端部と他端部との間に隙間が空いた場合には、第1の導線21における信号の伝搬遅延時間と第2の導線22における信号の伝搬遅延時間との間に差異が生じ、これらの隙間の大きさによっては、受信側における信号の受信が正常に行えなくなることがあり得る。しかし、本実施の形態では、次に示す製造方法により、絶縁体20の外周面20aとシールドテープ導体3との間、及び/又は重なり部分3aにおけるシールドテープ導体3の幅方向の一端部と他端部との間の隙間の発生を抑制している。
【0041】
(差動信号伝送用ケーブル10の製造方法及び製造装置)
差動信号伝送用ケーブル10の製造方法及び製造装置について、
図4乃至
図7を参照して説明する。
【0042】
図4は、製造過程における差動信号伝送用ケーブル10を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるD矢視図である。
【0043】
差動信号伝送用ケーブル10の製造方法は、絶縁電線2の外周側に、シールドテープ導体3を幅方向の両端部が互いに重なり合うように縦添え巻きする第1ステップと、シールドテープ導体3の外周側に、シールドテープ導体3の外周面に沿って第1の樹脂テープ4を螺旋巻きする第2ステップと、第1の樹脂テープ4の外周側に、第1の樹脂テープ4の外周面に沿って第2の樹脂テープ5を螺旋巻きする第3ステップとを備えている。本実施の形態では、シールドテープ導体3の縦添え巻きと、第1の樹脂テープ4の螺旋巻きと、第2の樹脂テープ5の螺旋巻きとを同時に行う。すなわち、第1乃至第3ステップを同時並行で実行する。
【0044】
図4に示す例では、D矢視におけるシールドテープ導体3の巻き方向、第1の樹脂テープ4の巻き方向、及び第2の樹脂テープ5の巻き方向が共に矢印E方向(反時計回り)である。すなわち、第1〜第3ステップにおいて、シールドテープ導体3ならびに第1及び第2の樹脂テープ4,5の絶縁電線2の中心軸Cに対する周方向における巻き方向が同一方向である。
【0045】
また、本実施の形態における製造方法では、シールドテープ導体3の外周側に巻き回される第1の樹脂テープ4、及び第1の樹脂テープ4の外周側に巻き回される第2の樹脂テープ5が、差動信号伝送用ケーブル10の周辺において互いに平行かつ逆向きとなるように張力が付与された状態で巻き回される。
【0046】
図5は、差動信号伝送用ケーブル10の製造に用いられる製造装置6の構成例を示す概略図である。
図6は、
図5の要部を拡大して示す斜視図である。
【0047】
製造装置6は、基台61に一対の支柱62及び1本のリール支持柱63が立設されている。一対の支柱62には、第1の樹脂テープ4及び第2の樹脂テープ5を同一方向に螺旋巻きする螺旋巻き手段としての旋回機構60が支持されている。
【0048】
旋回機構60は、図略の軸受によって一対の支柱62に回転可能に支持された環板状の環状部材600と、環状部材600の一対の平面のうち一方の平面に固定された第1及び第2の支持部601,602と、第1の樹脂テープ4を案内する第1のガイド部材603と、第2の樹脂テープ5を案内する第2のガイド部材604とを有している。
【0049】
第1の支持部601には、第1の樹脂テープ4が巻かれたリール400が回転可能に支持され、第2の支持部602には、第2の樹脂テープ5が巻かれたリール500が回転可能に支持されている。第1の樹脂テープ4は、リール400から引き出され、第1のガイド部材603によってシールドテープ導体3の外周側に案内される。第2の樹脂テープ5は、リール500から引き出され、第2のガイド部材604によって第1の樹脂テープ4の外周側に案内される。
【0050】
また、第1の支持部601は、リール400の回転に際して、リール400に対して回転抵抗力を作用させるように構成されている。同様に、第2の支持部602は、リール500の回転に際して、リール500に対して回転抵抗力を作用させるように構成されている。
【0051】
第1のガイド部材603及び第2のガイド部材604は、環状部材600における第1及び第2の支持部601,602が固定された側の平面に固定されている。第1のガイド部材603及び第2のガイド部材604は、貫通孔600aを挿通した絶縁電線2を挟んで環状部材600に固定されている。つまり、貫通孔600aを挿通した絶縁電線2は、第1のガイド部材603と第2のガイド部材604との間に位置している。
【0052】
環状部材600の中心部には、絶縁電線2を挿通させる貫通孔600aが形成されている。一対の支柱62のうち一方の支柱には、環状部材600を回転させる駆動力を発生するモータ70が支持されている。モータ70の回転軸701には、ピニオンギヤ71が相対回転不能に固定されている。ピニオンギヤ71は、環状部材600の外周面に形成されたギヤ歯600bに噛み合い、モータ70の回転軸701の回転により、環状部材600が回転するように構成されている。モータ70、ピニオンギヤ71、及び環状部材600のギヤ歯600bは、環状部材600を第1及び前記第2の支持部601,602ならびに第1及び第2のガイド部材603,604と共に絶縁電線2に対して回転させる回転駆動機構を構成する。
【0053】
また、製造装置6は、絶縁電線2に張力を付与しながら絶縁電線2をその長手方向に沿って移動させる移動手段としての第1乃至第4のホイール641〜644を有している。第1及び第2のホイール641,642は、環状部材600の第1及び第2の支持部601,602が設けられた平面に面して配置され、シールドテープ導体3ならびに第1及び第2の樹脂テープ4,5が巻き回された絶縁電線2を挟持している。第3及び第4のホイール643,644は、環状部材600の第1及び第2の支持部601,602が設けられた平面とは反対側の平面に面して配置され、絶縁電線2を挟持している。
【0054】
第1及び第2のホイール641,642は、図略の駆動機構によって回転駆動され、絶縁電線2を貫通孔600aから引き出すように移動させる。第3及び第4のホイール643,644は、例えば図略のブレーキ機構から回転抵抗力を受け、この回転抵抗力を受けながら回転可能に支持されている。絶縁電線2は、第3及び第4のホイール643,644の回転抵抗力に基づく制動力を受けながら第1及び第2のホイール641,642によって引っ張られることにより、中心軸方向の張力が付与された状態で、長手方向に沿って移動する。
【0055】
リール支持柱63には、シールドテープ導体3が巻かれたリール300を回転可能に支持する支持部631が固定されている。また、リール支持柱63における支持部631の上方には、リール300から引き出されたシールドテープ導体3を絶縁電線2の外周側に案内する第3のガイド部材632が固定されている。
【0056】
シールドテープ導体3は、第3のガイド部材632に案内され、絶縁電線2における絶縁体20の外周面20aと第1の樹脂テープ4(樹脂層40の表面40a)との間に挟まれることにより、絶縁電線2の外周面に沿って縦添え巻きされる。すなわち、本実施の形態では、旋回機構60及び第3のガイド部材632が、絶縁電線2の長手方向に沿ってシールドテープ導体3を縦添え巻きする縦添え巻き機構として機能する。
【0057】
図7(a)〜(d)は、環状部材600の回転に伴って第1及び第2の樹脂テープ4,5が螺旋巻きされる際の状態を時系列的に示す模式図である。
【0058】
リール400は、第1の支持部601における回転に際して回転抵抗力を受けるので、第1の樹脂テープ4が巻き回される際には、第1の樹脂テープ4に、その長手方向に沿った張力T
1が作用する。また、リール500は、第2の支持部602における回転に際して回転抵抗力を受けるので、第2の樹脂テープ5が巻き回される際には、第2の樹脂テープ5に、その長手方向に沿った張力T
2が作用する。
【0059】
絶縁電線2の絶縁体20には、第1の樹脂テープ4の張力T
1により、第1の押付力P
1が作用する。また、絶縁電線2の絶縁体20には、第2の樹脂テープ5の張力T
2により、第2の押付力P
2が作用する。
図7(a)〜(d)に示すように、第1の押付力P
1と第2の押付力P
2とは、少なくともその一部が向かい合うように絶縁体20に作用し、その一部が互いに打ち消し合う。
【0060】
換言すれば、第1の樹脂テープ4を螺旋巻きする際の張力T
1による絶縁電線2の変位が、第2の樹脂テープ5を螺旋巻きする際の張力T
2によって常に抑制される。例えば、
図7(a)に示す状態では、絶縁電線2が、張力T
1によって図面左方向に変位する力を受ける一方、張力T
2によって図面右方向に変位する力を受ける。つまり、張力T
1による変位の方向と張力T
2による変位の方向とが逆向きなので、絶縁電線2の変位が抑制される。この張力T
1と張力T
2の関係は、
図7(b)〜(d)に示すように、環状部材600が絶縁電線の周りを1回転する間、常に成立する。これにより、製造時における絶縁電線2の揺動(貫通孔600aの中心軸線に対して所定の間隔を有する環状の軌道に沿って絶縁電線2が揺れ動くこと)が抑制される。
【0061】
(比較例)
次に、比較例としての差動信号伝送用ケーブル10Aについて、
図8乃至
図10を参照して説明する。この差動信号伝送用ケーブル10Aは、絶縁電線2の中心軸Cに対する周方向における第2の樹脂テープ5の巻き方向が第1の樹脂テープ4と逆方向である他は、上記実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル10と同様に構成されている。
図8乃至
図10において、上記実施の形態について説明したものと同様の機能を有する構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0062】
図8は、差動信号伝送用ケーブル10Aの構成を示す側面図である。この図では、第2の樹脂テープ5の下側(絶縁電線2側)における第1の樹脂テープ4の幅方向の端部を破線で示している。この図に示すように、絶縁電線2の中心軸Cに対する周方向におけるシールドテープ導体3の巻き方向と第1の樹脂テープ4の巻き方向とは同一方向である。第1の樹脂テープ4と第2の樹脂テープ5とは、絶縁電線2の中心軸Cに対する周方向における巻き方向が逆であるクロス巻きによって螺旋巻きされている。
【0063】
図9は、差動信号伝送用ケーブル10Aの
図8のF−F線断面における一部断面図である。上記のように第1の樹脂テープ4と第2の樹脂テープ5とはクロス巻きされているため、第1の樹脂テープ4の重なり部分4aと第2の樹脂テープ5の重なり部分5aとが絶縁体20の外周面20aの法線方向にずれることなく重なる領域が発生する。これにより、絶縁電線2の中心軸C方向に沿って隣り合う2つの重なり部分4a,5aの間に、差動信号伝送用ケーブル10における隙間S
11,S
12(
図3参照)よりも大きな隙間S
2が発生する。
【0064】
図10(a)〜(d)は、第1の樹脂テープ4及び第2の樹脂テープ5を同時並行で巻き付ける際の状態を時系列的に示す模式図である。
【0065】
図10(b)に示す状態では、張力T
1及び張力T
2が平行かつ同方向(
図10の上方)に絶縁電線2に対して作用するので、第1及び第2の押付力P
1,P
2によって絶縁電線2が
図10の上方に変位する。
図10(d)に示す状態では、
図10(b)とは反対に、張力T
1と張力T
2によって絶縁電線2が
図10の下方に変位する。すなわち、第1の樹脂テープ4と第2の樹脂テープ5とを同時にクロス巻きした場合には、第1の樹脂テープ4の張力T
1と第2の樹脂テープ4の張力T
2とが、同じ方向に絶縁電線2を変位させるように作用する時期がある。この時、絶縁電線2が大きく撓むので、絶縁電線2の外周に巻かれたシールドテープ導体3の重なり部分3aにおけるシールドテープ導体3の幅方向の両端部がずれやすくなる。
【0066】
(実施の形態の作用及び効果)
本実施の形態によれば、以下に述べる作用及び効果がある。
【0067】
(1)シールドテープ導体3及び第1の樹脂テープ4は、絶縁電線2の中心軸に対する周方向における巻き方向が同一であるので、第1の樹脂テープ4を螺旋巻きする際にシールドテープ導体3の重なり部分3aにおけるシールドテープ導体3の幅方向の両端部がずれてしまうことを抑制できる。つまり、重なり部分3aにおいて上側となる一方の端部から下側となる他方の端部に向かって巻き回されるため、この一方の端部が他方の端部に押し付けられ、重なり部分3aにおいて空隙が発生することが抑制される。これにより、第1の導線21及び第2の導線22における信号のスキューが抑制されると共に、高周波帯域(例えば10Gbps以上)での急激な信号減衰の発生も抑制される。
【0068】
(2)第1の樹脂テープ4及び第2の樹脂テープ5は、絶縁電線2の中心軸に対する周方向における巻き方向が同一であるので、例えば
図7に示すように、第1の樹脂テープ4及び第2の樹脂テープ5を螺旋巻きする際の張力T
1,T
2を絶縁電線2に対して常に互いに逆向きとなるように作用させることができ、第1の樹脂テープ4及び第2の樹脂テープ5を巻き回す際の絶縁電線2の揺動を抑制することができる。これにより、シールドテープ導体3の重なり部分3aにおけるシールドテープ導体3の幅方向の両端部のずれに伴う空隙の発生が抑制され、ひいては信号のスキューや急激な信号減衰を抑制することができる。
【0069】
(3)第1の樹脂テープ4及び第2の樹脂テープ5は、それぞれの接着層41,51が互いに向き合うように巻き回されるので、第1の樹脂テープ4と第2の樹脂テープ5とが強固に接合される。これにより、シールドテープ導体3の緩みが抑えられ、信号のスキューを抑制することができる。
【0070】
(4)第1の樹脂テープ4の重なり部分4aと第2の樹脂テープ5の重なり部分5aとは、絶縁電線2の中心軸C方向にずれるように重ね巻されている。これにより、例えば
図3に示すように、絶縁電線2の中心軸Cに沿って隣り合う2つの重なり部分4aのそれぞれの上側における第1の樹脂テープ4の端部が、B
1部及びB
2部において1つの重なり部分5aの下側における第2の樹脂テープ5に接合される。また、絶縁電線2の中心軸Cに沿って隣り合う2つの重なり部分5aのそれぞれの下側における第1の樹脂テープ5の端部が、B
2部及びB
3部において1つの重なり部分4aの上側における第2の樹脂テープ4に接合される。またさらに、第1の樹脂テープ4と第2の樹脂テープ5との間に形成される隙間S
11,S
12が小さくなる。したがって、第1の樹脂テープ4と第2の樹脂テープ5とがさらに強固に接合される。
【0071】
(5)絶縁電線2の長手方向に対して直交する断面における絶縁体20の外縁は、凸円弧状に湾曲しているので、シールドテープ導体3の幅方向の両端部の重なり部分3aが絶縁体20と第1の樹脂テープ4との間に挟まれ、シールドテープ導体3の一方の端部と他方の端部とが互いに押し付けられるので、この両端部が確実に面接触して電気的に導通し、信号のスキューや急激な信号減衰の発生がより確実に抑制される。
【0072】
(6)環状部材600には第1及び第2の支持部601,602及び第1及び第2のガイド部材603,604が固定され、これらが一体に回転することにより、第1の樹脂テープ4と第2の樹脂テープ5とを同時に巻き付けることができる。これにより、例えば絶縁導線2の全長に亘って第1の樹脂テープ4を巻き付けた後に第2の樹脂テープ5を巻き付ける場合に比較して、差動信号伝送用ケーブル10を効率的に製造することができる。
【0073】
(7)第1のガイド部材603と第2のガイド部材604とは、絶縁電線2を挟む位置に配置されているので、第1の樹脂テープ4の張力T
1による絶縁電線2の変位の方向と第2の樹脂テープ5の張力T
2による絶縁電線2の変位の方向とが逆方向となり、絶縁電線2の揺動が抑制される。
【0074】
(8)第2の樹脂テープ5は、張力T
1が付与された状態で第1の樹脂テープ4と同方向に螺旋巻きされるので、第1の樹脂テープ4の重なり部分4aによる凹凸に沿って密着しやすくなる。つまり、第2の樹脂テープ5が重なり部分4aに対して傾斜する方向に巻き回される場合には、張力T
1によって、重なり部分4aの周辺において第1の樹脂テープ4の外周面(接着層41の表面41a)と第2の樹脂テープ5の内周面(接着層51の表面51a)との間に隙間が発生しやすくなるが、第2の樹脂テープ5を第1の樹脂テープ4と平行に螺旋巻きすることにより、第1の樹脂テープ4の外周面と第2の樹脂テープ5の内周面とが密着しやすくなる。
【0075】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0076】
また、本発明は、上記実施の形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、第1の導線21及び第2の導線22が一括して絶縁体20に被覆された場合について説明したが、これに限らず、第1の導線21を被覆する絶縁体と第2の導線22を被覆する絶縁体とが別体であってもよい。また、多芯差動信号伝送用ケーブル100に含まれる差動信号伝送用ケーブルの本数にも特に制限はない。