特許第5825894号(P5825894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5825894二次電池用電極、二次電池用電極の製造方法並びに二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5825894
(24)【登録日】2015年10月23日
(45)【発行日】2015年12月2日
(54)【発明の名称】二次電池用電極、二次電池用電極の製造方法並びに二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20151112BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20151112BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20151112BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20151112BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/64 A
   H01M4/70 A
   H01M4/139
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-157241(P2011-157241)
(22)【出願日】2011年7月15日
(65)【公開番号】特開2013-25902(P2013-25902A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung SDI Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000981
【氏名又は名称】アイ・ピー・ディー国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高野 靖男
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/137889(WO,A2)
【文献】 特開2004−296386(JP,A)
【文献】 特表2012−528451(JP,A)
【文献】 特開2005−078991(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/024798(WO,A1)
【文献】 特開2008−243825(JP,A)
【文献】 特開2009−164137(JP,A)
【文献】 特開2008−218125(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/078755(WO,A1)
【文献】 特開2009−004370(JP,A)
【文献】 特開2011−134492(JP,A)
【文献】 特開2002−313319(JP,A)
【文献】 特開2010−061825(JP,A)
【文献】 特開2002−170554(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0130564(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 4/64
H01M 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質、導電材及び結着剤を含む合剤層と、該合剤層が直上に配置され且つ導電性金属箔とからなる集電体を有し、
前記集電体表面に開口された第1凹部及び該第1凹部の壁面を構成する第1凸部を有し、前記第1凹部及び前記第1凸部の少なくともいずれかの側面の少なくとも一部が、第2凹部及び第2凸部の少なくともいずれかを有し、前記第1凹部の開口の幅は、平均1μmであり、前記第1凹部の開口面と平行ないずれかの断面における前記第1凹部の最大幅は、2〜3μmであり、
前記第1凹部の空間内に前記結着剤、導電材、活物質のいずれからなる混合物が入り込んでいることを特徴とする、二次電池用電極。
【請求項2】
前記の集電体表面の表面粗さ(Ra)が0.21μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
正極及び負極のうち少なくともいずれかに、請求項1または2に記載の二次電池用電極を備えることを特徴とする、二次電池。
【請求項4】
活物質、電材及び電解液との共存による膨潤により体積が増加する結着剤を含有する混合物を溶媒に混合してスラリーを作製し、
表面に凹凸が形成されており、更にその第1凹部及び第1凸部の少なくともいずれかの側面の少なくとも一部が、第2凹部及び第2凸部の少なくともいずれかを有しており、前記第1凹部の開口の幅は、平均1μmであり、前記第1凹部の開口面と平行ないずれかの断面における前記第1凹部の最大幅は、2〜3μmである集電体の表面上に、前記スラリーを塗布し、
前記スラリーが表面に塗布された集電体を乾燥させて、合剤層を形成したことを特徴とする、二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体の表面に微細な凹凸が形成された電極と、該電極の製造方法、並びに前記電極を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム含有オリビン型リン酸鉄リチウムは、電池として充放電する際にリチウムの挿入脱離反応が遅く、従来の正極活物質として用いられているコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム等と比べて電子伝導性が非常に低い。この為、電池の内部抵抗が高く、ハイレート放電時の分極が大きくなる。
【0003】
上記の課題を解決するため、特許文献1においては、リチウム含有オリビン型リン酸塩の粒子径を小さくすることが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術において、粒子径の小さな正極活物質を使用するため、活物質粒子と集電体との密着性が低下するという問題が生じる。
【0005】
一方、特許文献2に開示されているように、正極の集電体の表面を粗くすることによって集電体の表面積を増大し、該集電体上に正極合剤を配置することによる改善策が提案されている。
【0006】
特許文献2において用いられているブラスト法による表面粗化は、正極の集電体の表面積を増加することができるが、比較的滑らかな凹凸しか得ることが出来ない。従って、集電体の表面積は増加するが、電解液が共存する条件下において、結着剤が電解液を吸収して膨潤し、正極合剤層と集電体との間の界面に応力が生じ、正極合剤層は集電体との界面から剥離して、電池の内部抵抗が上昇するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−110162号公報
【特許文献2】WO2005/086260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、集電体の表面上に堆積した結着剤が電解液を吸収して膨潤して変形した場合であっても、結着剤が集電体の表面から剥離し難い表面形状を有する集電体を備えるリチウム二次電池用電極とその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、前記電極を備えたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、活物質と、導電材と、電解液との共存による膨潤により体積が増加する結着剤を含む合剤層を、導電性金属箔からなる集電体上に配置した二次電池用電極であって、前記集電体表面に開口された第1凹部及び該第1凹部の壁面を構成する第1凸部が形成されており、更に前記第1凹部及び前記第1凸部の少なくともいずれかの側面の少なくとも一部が、第2凹部及び第2凸部の少なくともいずれかを有し、前記第1凹部の空間内に前記結着剤、導電材、活物質のいずれからなる混合物が入り込んでいることを特徴としている。
【0010】
本発明は、上記構成において、集電体表面の表面粗さ(Ra)が0.21μm以上であることが好ましく、上限は、集電体表面の耐久性が維持され、且つ合剤層或いは活物質の剥離若しくは脱落を防止する効果が発揮される限り、特に限定されない。但し、集電体表面の表面粗さ(Ra)が大きすぎる場合には凹凸の強度が低下する恐れがあるため、アルミニウム箔を集電体として使用する場合、そのRaの上限は1.0μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る一実施形態では、化学エッチング法や電解エッチング法のような化学的手法により集電体表面に形成した第1凹部及び第1凸部において、その第1凸部の側面の少なくとも一部が、その先端に近づくにつれて外側に拡がる反り返しの形状を有することを特徴とする。更に、本発明は、前記の第1凹部内部に、導電助剤及び活物質の少なくともいずれかと、電解液との共存による膨潤により体積が増加する結着剤からなる混合物が入り込んでいることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る一実施形態における集電体は、集電体の表面に上向きに開口された第1凹部が形成されており、該第1凹部の壁面を形成する第1凸部の側面の少なくとも一部が、先端に近づくにつれて外側に拡がる反り返りの形状を有する。これによって、前記の合剤層と集電体との接触面積を大きくすることができ、前記の合剤層と集電体の密着性を向上することが出来る。その結果、本発明の二次電池用電極は、集電体から前記の合剤層或いは活物質が剥離することを抑制でき、電池の内部抵抗が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に従う一実施形態の二次電池用電極の模式図である。
図2】(a)及び(b)は本発明に従う他の一実施形態の二次電池用電極の集電体の模式図である。
図3】通常の平滑な表面を有するアルミニウム箔(a1)を用いた電極断面のSEM観察像である。
図4】化学エッチング法により形成した表面粗化アルミニウム箔(c2)を用いた電極断面のSEM観察像である。
図5】電解エッチング法により形成した表面粗化アルミニウム箔(d4)を用いた電極断面のSEM観察像である。
図6】本発明に係る発明電池1乃至5と、比較電池1乃至4の模式的な断面図である。
図7】化学エッチングされていないアルミニウム箔を用いた電極断面のSEM観察像である。
図8】化学エッチング法により形成した表面粗化アルミニウム箔1を用いた電極断面のSEM観察像である。
図9】化学エッチング法により形成した表面粗化アルミニウム箔2を用いた電極断面のSEM観察像である。
図10図7乃至図9に示すアルミニウム箔について、モバイル用途電池の通常使用領域での充放電試験及びハイレート放電試験を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の二次電池用電極の集電体表面の上記凹凸形状は、以下のようにして、化学エッチング法または電解エッチング法によって形成できる。
【0015】
[第1の実施形態]
(化学エッチング法を用いた二次電池用電極の製造(1))
集電体がアルミ箔で形成されている場合、無機酸5〜30重量%(以下同様)、第二鉄イオン源として鉄イオンを1.5〜9%、マンガンイオン源をマンガンイオンとして0.02〜1.5%及び第二銅イオンを銅イオンとして0.05〜1%含有する水溶液からなるアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面粗化剤を用いる。
【0016】
この場合、前記無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、スルファミン酸などが挙げられる。前記無機酸の濃度は5〜30%、好ましくは7〜25%、さらに好ましくは12〜18%である。前記濃度が5%未満ではアルミニウムの粗化速度が遅くなり、30%を超えると液温が低下した際にアルミニウム塩の結晶が生じやすく、スプレーノズルを詰まらせるなど、作業性を低下させる恐れがある。
【0017】
前記第二鉄イオン源としては、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄などが挙げられる。前記第二イオン源の濃度は、鉄イオン濃度として1.5〜9%、好ましくは2.5〜7%、さらに好ましくは4〜6%である。前記濃度が1.5%未満ではアルミニウムの粗化速度が遅くなり、9%を超えると粗化速度が速くなり過ぎて、均一な粗化が困難になる。
【0018】
前記マンガンイオン源の濃度は、マンガンイオン濃度として0.02〜1.5%、好ましくは0.06〜0.6%、さらに好ましくは0.1〜0.5%である。前記濃度が0.02%未満では、マンガンイオン源を添加する効果が十分発揮されず、また1.5%を超えて添加しても添加量の増加に見合う効果の増大が得られない。
【0019】
前記第二銅イオン源としては、硫酸第二銅、塩化第二銅、硝酸第二銅、水酸化第二銅などが挙げられる。第二銅イオン源の濃度は、銅イオン濃度として0.05〜1%、好ましくは0.1〜0.8%、さらに好ましくは0.15〜0.4%である。前記濃度が0.05%未満では酸化物層の除去が困難となり、また1%を超えて添加すると金属銅がアルミニウム表面に置換析出しやすくなる。
【0020】
表面粗化剤を用いて集電体を表面粗化する際、アルミニウム表面が機械油などにより汚染されている場合、脱脂を行った後、表面粗化剤による処理を行う。前記表面粗化剤による処理としては、浸漬法、スプレー法が挙げられ、処理時の温度は20〜30℃が好ましく、処理時間は10〜120秒間程度が好ましい。この処理によって、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面が、深く入り込んだ凹凸形状となる。
【0021】
本発明に係る一実施形態における集電体は、図1に示すように、集電体1の表面に上向きに開口された第1凹部が形成されており、該第1凹部の壁面を形成する第1凸部の側面の少なくとも一部が、先端に近づくにつれて外側に拡がる反り返りの形状を有する。これによって、前記の合剤層と集電体との接触面積を大きくすることができ、前記の合剤層と集電体の密着性を向上することが出来る。
【0022】
図1は、その表面に平均約1μmの開口21を備え且つ約2〜3μmの最大内寸22を有する第1凹部20と、2つの第1凹部20の間において括れた側面を有する第1凸部30が形成されている集電体1を示す。
【0023】
また、図1は、活物質41、導電材42、及び結着剤43を含む合剤層40が前記第1凹部20内で電解液50によって膨潤し、その結果、前記の合剤層或いは活物質の剥離若しくは脱落を防止する効果(以下、「アンカー効果」と称する。)によって前記第1凹部から剥離するのを防止されている状態を示す。
【0024】
本発明における集電体1が有する凹凸形状は、図1に示される凹凸形状に限定されない。すなわち、本発明において、第1凹部及び第1凸部の少なくともいずれかの側面の少なくとも一部が、第2凹部及び第2凸部の少なくともいずれかを有しており、前記第1凹部は、その空間内に前記結着剤、導電材、活物質のいずれからなる混合物が入り込める大きさを有していれば足りる。
【0025】
図2(a)及び(b)は、図1の二次電池用電極に用いられる集電体1の変形例である。図2(a)に示される集電体1の第1凹部20は錐台形であって、その底部において開口縁20aよりも奧側へ抉られた形状を有するように、第2凹部20bが形成されている。また、図2(b)は、不均一な側面を有する第1凹部20及び第1凸部30が形成された集電体を示しており、第1凹部20の側面に複数の第2凹部20bと少なくとも一つの第2凸部20cが形成されている。
【0026】
従来技術で提案されているブラスト法による粗化処理は、物理的処理であるため、凹凸の凸部は先端に近づくにつれて徐々に細くなるピラミッド形状である。その結果、前記のアンカー効果が効果的に発現されるためには、密着性の向上が不十分である。
【0027】
一般に、ブラスト法のような物理的手法による表面粗化で形成される凹凸部は直線から構成されており、凹凸部は比較的平滑であることから、結着剤、又は結着剤と活物質の混合物を凹凸部に一旦は入り込んでも、これらの混合物は剥離或いは流動し易い。そのため、前記ブラスト法によって形成された凹凸部は、本発明のようなアンカー効果が発現しにくい。
【0028】
これに対して、本発明の二次電池用電極は、電解液との共存下において、集電体の表面に形成された凹凸内部に入り込んだ結着剤、又は活物質と導電材とを含む混合物が電解液との共存によって膨張することにより、凹凸内部で強固に固定化されるという特徴を有する。その結果、本発明の二次電池用電極は、集電体から前記の合剤層或いは活物質が剥離することを抑制でき、電池の内部抵抗を抑制することが可能となる。
【0029】
[第2の実施形態]
(化学エッチング法を用いた二次電池用電極の製造(2))
アゾール類の第二銅錯体および有機酸を含有し、さらにハロゲンイオンを添加した水溶液からなる表面処理剤を用いる。前記アゾール類の第二銅錯体は、金属銅などを酸化するための酸化剤として作用するものである。酸化作用を有する種々の第二銅錯体のうちでもアゾール類の第二銅錯体を用いることにより、表面処理剤として適度なエッチングスピードを発現させることができる。前記アゾール類としては、ジアゾール、トリアゾール、テトラゾール、それらの誘導体等が挙げられる。
【0030】
前記アゾール類の第二銅錯体の含有量は、目的とする酸化力等により適宜設定すればよいが、溶解性や錯体の安定性の点から1〜15%(重量%、以下同様)が好ましい。前記アゾール類の第二銅錯体は、銅錯体として添加してもよく、また第二銅イオン源とアゾール類とを別々に添加し、液中で銅錯体となるようにしてもよい。前記第二銅イオン源としては、例えば水酸化銅や後述する有機酸の銅塩が好ましい。
【0031】
前記有機酸は、アゾール類の第二銅錯体によって酸化された銅を溶解させるために配合されるものである。その具体例としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン等の不飽和脂肪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸等の脂肪族飽和ジカルボン酸、マレイン酸などの脂肪族不飽和ジカルボン酸、安息香酸、フタル酸、桂皮酸等の芳香族カルボン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等のオキシカルボン酸、スルファミン酸、β−クロロプロピオン酸、ニコチン酸、アスコルビン酸、ヒドロキシピバリン酸、レブリン酸等の置換基を有するカルボン酸、それらの誘導体等があげられる。
【0032】
前記有機酸の含有量は0.1〜30%程度が好ましい。前記含有量が少なすぎると酸化銅を充分に溶解することができず、活性な銅表面が得られなくなり、また多すぎると銅の溶解安定性が低下する。
【0033】
前記ハロゲンイオンは、銅の溶解やアゾール類の酸化力を補助し、密着性に優れた銅表面を作るために配合されるものである。前記ハロゲンイオンとしては、例えばフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン等があげられる。これらのハロゲンイオンは、例えば塩酸、臭化水素酸等の酸、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化カリウム等の塩、塩化銅、塩化亜鉛、塩化鉄、臭化錫等の金属塩やその他溶液中で解離しうる化合物として添加すればよい。前記ハロゲンイオンの含有量は0.01〜20%程度が好ましい。前記含有量が少なすぎると密着性のよい銅表面が得られず、また多すぎると銅の溶解安定性が低下する。
【0034】
前記の成分を含有する表面処理剤のpHは、使用する有機酸や添加剤の種類により1以下から8程度にまでなるが、使用によるpHの変動を少なくするために有機酸のナトリウム塩やカリウム塩やアンモニウム塩等の塩を添加してもよい。さらに表面処理剤には、銅の溶解安定性を向上させるエチレンジアミン、ピリジン、アニリン、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等の錯化剤や、その他、密着性に優れた銅表面にするための種々の添加剤等を添加してもよい。
【0035】
前記表面処理剤の使用方法に特に限定はないが、例えば処理される銅または銅合金にスプレーして吹き付ける方法、銅または銅合金を表面処理剤中に浸漬する方法等があげられる。浸漬による場合には、銅や銅合金のエッチングによって処理剤中に生成した第一銅イオンを第二銅イオンに酸化するため、バブリング等による空気の吹き込みが行われる。
処理温度は30〜50℃が好ましく、処理時間は10〜120秒間程度が好ましい。
【0036】
[第3の実施形態]
(電解エッチング法を用いた二次電池用電極の製造)
集電体がアルミ箔で形成されている場合、集電体を直流エッチングするには、塩酸3〜10%、シュウ酸0.05〜1%を含む液温50〜80℃の水溶液中において、電流密度を100〜500mA/ cm2、電気量30〜60C/ cm2の直流電流を印加することが好ましい。
【0037】
また、アルミ箔で形成された集電体を交流エッチングするには、塩酸5〜10%、リン酸0.5〜2%、硫酸0.1〜1%を含む液温30〜50℃の水溶液中において、電流密度200〜600mA/ cm2、周波数20〜70Hz、電気量50〜100C/ cm2の交流電流を印加することが好ましい。
【0038】
尚、集電体がアルミ箔の場合、正極活物質としては、リチウムマンガン複合酸化物(LixMn24又はLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi1-yCoy2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LiMnyCo1-y2)、スピネル構造リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、オリビン構造リチウムリン酸化物(LixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4など)、硫化リチウム(Li2S)を用いることができる。また、正極活物質としては、Li2MnO3、Li2-x-yFexMny2、Li2Fe1-xMnxSiO4、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、二酸化マンガン(MnO2)、バナジウム酸化物(V25)などを用いることもできる。なお、前記した化合物におけるx及びyは0を超え1以下の範囲であることが好ましい。また、正極活物質は、前記した化合物を単独で又は複数混合して用いることができる。さらに、正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であれば前記した化合物に限定されることなく用いることができることはいうまでもない。
【0039】
尚、集電体はアルミ箔の場合、負極活物質として、チタン酸リチウム(LiTi12)を使用することができる。
【0040】
集電体に用いられるアルミニウムの純度は、耐食性の向上および高強度化のため、99.99%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、アルミニウムの他に、鉄、マグネシウム、亜鉛、マンガン及びケイ素よりなる群から選択される1種類以上の元素を含む合金が好ましい。例えば、Al−Fe合金、Al−Mn系合金およびAl−Mg系合金は、アルミニウムよりさらに高い強度を得ることが可能である。
【0041】
一方、アルミニウムおよびアルミニウム合金中のニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は100ppm以下(0ppmを含む)にすることが好ましい。例えば、Al−Cu系合金では、強度は高まるが、耐食性は悪化するので、集電体としては不適である。アルミニウム合金中のアルミニウム含有量は、95重量%以上、99.5重量%以下にすることが望ましい。この範囲を外れると、十分な強度を得られない恐れがあるからである。より好ましいアルミニウム含有量は、98重量%以上、99.5重量%以下である。
【0042】
アルミニウム又はアルミニウム合金箔基材の厚さも特に制限はなく、用途や要求特性に応じて適宜選択すればよい。一般的には1〜100μmであるが、例えばリチウム二次電池の集電体として使用する場合、アルミニウム箔を薄肉化した方がより高容量の電池を得ることができる。そのような観点から、好ましくは2〜50μm、さらに好ましくは10〜30μm程度である。
【0043】
一方、集電体が銅箔の場合、使用される負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入、又は、リチウムイオンと、そのリチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、ClO)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることができれば特に限定されず、公知のリチウムイオン二次電池要素に用いられているものと同様の材料を使用することができる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、メソカーボンファイバー(MCF)、コークス類、ガラス状炭素、有機化合物焼成体等の炭素材料、Al、Si、Sn等のリチウムと化合することができる金属、SiO、SnO等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、LiTi12、等が挙げられる。
【0044】
銅又は銅合金箔基材に使用する銅又は銅合金の種類には特に制限はなく、用途や要求特性に応じて適宜選択すればよい。例えば、限定的ではないが、高純度の銅(無酸素銅やタフピッチ銅等)を用いることができる。銅合金箔基材としては、例えば、Cu−Ag、Cu−Te、Cu−Mg、Cu−Sn、Cu−Si、Cu−Mn、Cu−Be−Co、Cu−Ti、Cu−Ni−Si、Cu−Cr、Cu−Zr、Cu−Fe、Cu−Al、Cu−Zn、Cu−Co系合金等を用いることができる。
【0045】
銅又は銅合金箔基材の厚さも特に制限はなく、用途や要求特性に応じて適宜選択すればよい。一般的には1〜100μmであるが、例えばリチウム二次電池負極の集電体として使用する場合、銅箔を薄肉化した方がより高容量の電池を得ることができる。そのような観点から、好ましくは2〜50μm、さらに好ましくは5〜20μm程度である。
【0046】
結着剤(バインダー)としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などや、これらの変性体及び誘導体、並びにアクリロニトリル体を含む共重合体、ポリアクリル酸誘導体などを用いることができる。本発明において、前記のアンカー効果を効果的に発現するためには、電解液との共存下において適度に膨潤するポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル体を含む共重合体、ポリアクリル酸誘導体などを用いることが好ましい。
【0047】
導電助材を電極活物質層中に含有させることにより、電極活物質層における各電極活物質と集電体との電子伝導性をより良好に確保し、電極活物質層自体の体積抵抗率を効率よく下げることができるため、望ましい。上記導電助材としては、通常、非水電解液二次電池用電極板に用いられるものを使用することができ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の粒子状のカーボンブラック等の導電性の炭素材料が例示される。上記導電材の平均一次粒径は20nm〜50nm程度であることが好ましい。
【0048】
また異なる導電材としては気相成長炭素繊維(VGCF)が公知である。上記炭素繊維は、長さ方向に非常に良好に電気を導くことができ、電気の流動性を向上させることができるもので、繊維長さは、1μmから20μm程度である。したがって、上述するアセチレンブラックなどの粒子状の導電材に加えて、炭素繊維も併せて用いることにより、導電材添加効果を向上させることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明をさらに具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(正極の作製)
正極を作製するにあたっては、正極活物質として用いるオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO4を得るにあたり、原料となるリン酸鉄八水和物Fe3(PO42・8H2Oとリン酸リチウムLi3PO4とを1:1のモル比になるように混合し、この混合物と直径1cmのステンレス製ボールとを直径10cmのステンレス製ポットに入れ、公転半径:30cm、公転回転数:150rpm、自転回転数:150rpmの条件で12時間混練させた。そして、この混練物を非酸化性雰囲気中の電気炉において600℃の温度で10時間焼成させ、これを粉砕させて分級し、平均粒子径が100nmになったリン酸鉄リチウムLiFePO4を得た。
【0051】
得られたリン酸鉄リチウムLiFePO4粉末90重量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック(電気化学工業製 デンカブラック)5重量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量部を混合し、さらに溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)溶液を適量加えて混合することによりスラリーを作製した。
【0052】
次に、作製したスラリーを、乾燥後の塗布重量が10.2mg/cm2となるようにドクターブレード法によりアルミニウム箔(a1)からなる厚み20μmの正極集電体の片面に塗布した。その後、NMP蒸気を排気しながら100℃に保った恒温槽中で乾燥させて、NMPを揮発させた。乾燥後、2.5cm×7cmの大きさに切り取り、ローラーを用いて所定の活物質充填密度(1.9g/cc)となるように圧延し、さらにこれを100℃で乾燥させることにより正極を作製した。
【0053】
(負極の作製)
負極を作製するにあたっては、負極活物質の黒鉛と、結着剤のスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤のカルボキシメチルセルロース(CMC)を溶解させた水溶液とを、負極活物質と結着剤と増粘剤との重量比が98:1:1になるように調製したものを混練して負極スラリーを作製した。
【0054】
次に、この負極スラリーを、乾燥後の塗布重量が5.5mg/cm2となるように銅箔からなる厚み10μmの負極集電体の片面に塗布し、80℃に保った恒温槽中で乾燥させて、水を揮発させた。乾燥後、2.7cm×7.5cmの大きさに切り取り、ローラーを用いて所定の活物質充填密度(1.3g/cc)となるように圧延し、さらにこれを100℃で乾燥させることにより負極を作製した。
【0055】
(電解液の作製)
電解液として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比3:7で混合した溶媒に対し、LiPF6を1モル/リットル溶解して電解液を作製し、この電解液100重量部に対し1重量部のビニレンカーボネートを混合して、電池に用いる電解液とした。
【0056】
(電池の作製)
上記の方法で作製した正極2及び負極3を所定の大きさに切り出し、集電体である金属箔に集電タブ2a、3aを取付け、ポリオレフィン系微多孔膜からなる厚さ25μmのセパレータ4をこれらの電極の間に挟んで積層し、平板状電極体とした。この平板状電極体を、PET(ポリエチレンテレフタート)及びアルミニウムを積層して作製したラミネート材からなる外装体5中に挿入し、開口部から集電タブ2a、2bが外部に突き出る状態とした後、前記外装体5の封止部5aを封止した。
【0057】
次に、上記の外装体の開口部から、上記電解液0.35mlを注入し、その後、開口部を封止することにより、図6に示す比較電池1を作製した。
【0058】
表面粗さRa及び粗化方法について、表1のb1、b2、c1乃至c3、d1乃至d4に示される通りに変更した以外、集電体a1と同様にして、本発明に係る発明電池1乃至5、比較電池2乃至5を作成した。
【0059】
(電池の充放電特性の評価)
室温の環境中において9mAの定電流定電圧充電を上限電圧3.8Vまで行った後、9mAの定電流放電を下限電圧2.0Vまで行い、作製した電池の充放電特性を評価した。
【0060】
(電池の充電保存試験の評価)
上記各電池について、充電保存特性を評価した。9mAの定電流定電圧充電を上限電圧3.8Vまで行った後、電池の内部抵抗を測定し、保存試験前内部抵抗とした。また、60℃の恒温槽中で15日間保存した電池の内部抵抗を測定し、保存試験後内部抵抗とした。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から明らかなように、ブラスト法により作製した集電体は、Raの増加とともに、電池の内部抵抗は減少していることが分かる。これは、ブラスト処理による表面積増加の効果と考えられる。一方、60℃15日間の保存試験後の内部抵抗は2倍程度まで増加していることから、集電体表面から剥離していることが推測される。
【0063】
これに対して、表1から明らかなように、集電体表面の第1凹部の開口部分に反り返り形状を備える集電体c2、c3、d2、d3及びd4を用いた発明電池1〜5は、集電体表面に形成された凹部に反り返り形状を備えない集電体を用いた比較電池1〜5よりも、60℃の恒温槽中で15日間保存した後も低い内部抵抗を維持していることが分かる。
【0064】
これは、表面積増加による効果だけではなく、集電体表面の第1凹部の開口部分に反り返り形状を備え、さらにこの第1凹部の内部に電解液との共存により膨潤する結着剤を含んでいることによる効果と考えられる。
【0065】
比較電池1、発明電池1及び発明電池5の電極断面のSEM観察像をそれぞれ、図3乃至図5に示す。
【0066】
図3に示すように、比較電池1の集電体及び合剤層は、ほぼ平坦な境界面で接した状態になっている。これに対して、図4及び図5によれば、発明電池1及び発明電池2の電極は、合剤層が集電体c2及び集電体d4の表面近傍において根を張るようにこれらの集電体に食い込んでいる構造を有していることが分かる。図4及び図5の白色の点線で囲まれた領域は、前記のアンカー効果が特に発現する部分である。
【0067】
図3に示される比較電池の集電体の表面は、凹凸部が殆ど形成されていないので、結着剤、又は結着剤と活物質の混合物は剥離或いは流動し易い。これに対して、本発明に係る発明電池は、図4及び図5に示されるように合剤層が集電体に根を張るような構造を有するので、合剤層と集電体の密着性を向上することが出来る。
【0068】
(化学エッチングによる表面粗化Al箔の評価)
アルミニウム箔(Al箔)表面への化学エッチングによる粗化処理が、正極の集電体として利用した際に前記Al箔への合剤層の密着性及び高率放電特性にどのような効果を与えるのか、電池特性について下記の要領にて評価を行った。
【0069】
活物質、炭素及びPVdFを含む混合物のスラリーを表2に示す各種Al箔上に塗布することにより、正極電極を作製した。
【0070】
表2の各種のAl箔を用いて作製された正極電極、黒鉛を負極電極とし、セパレータと共にラミネートパウチセルを作製することによって、電池を作製した。作製されたそれぞれの電池について、高率放電特性の観点から特性評価を行った。上記のように作製した発明電池1,2及び比較電池1の各非水電解質二次電池について、それぞれ室温において、9mAの定電流で3.8Vになるまで充電し、さらに3.8Vの定電圧で電流値が0.9mAになるまで定電圧充電させ、10分間休止した後、9mAの定電流で2.0Vになるまで放電させる充放電を行った。その後、9mAの定電流で3.8Vになるまで充電し、さらに3.8Vの定電圧で電流値が0.9mAになるまで定電圧充電させ、10分間休止した後、180mAの定電流で2.0Vになるまで放電させる高率放電を行った。このときの(180mAでの放電容量/9mAでの放電容量)×100を高率放電特性の指標とした。
【0071】
【表2】
【0072】
表2の「a1」、「c2」及び「c3」を用いた電極断面のSEM観察像を図7図9にそれぞれ示す。
【0073】
表2の比較電池1、発明電池1及び発明電池2について、低率放電試験及び高率放電試験を行った。その結果を図10に示す。
【0074】
図10から分かるように、9mA及び18mAでの低率放電試験結果において、いずれのAl箔を用いても同等の電池特性を示した。この結果によると、エッチングされたAl箔の優位性は無いと考えられる。しかし、90mAh及び180mAでの高率放電試験において、エッチングAl箔を用いることにより、電池の内部抵抗に起因する電圧低下が抑制されていることが分かる。
【0075】
高率放電(90mAや180mA)で放電すると、内部抵抗の高い電池ではすぐに電池電圧が低下する。集電体番号a1では、活物質層と集電体の密着性が不十分であるため電池の内部抵抗が高く、高率放電を行うと電池の電圧低下が大きい。一方、集電体番号c2、c3を用いた場合、活物質層と集電体の密着性が良好であるため電池の内部抵抗が低く、高率放電を行った際の電圧低下を小さく抑えられる。
【0076】
このことから、エッチング箔を用いることによって、正極における活物質とAl箔との界面の密着性が改善し、界面の接触抵抗が低減したことに起因すると考えられる。このように、高率放電特性において、集電体の表面へのエッチングが与える効果があり、エッチングされたAl箔の優位性が認められる。
【符号の説明】
【0077】
1 集電体
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 外装体
20 第1凹部
20b 第2凹部
20c 第2凸部
30 第1凸部
40 合剤層
41 活物質
42 導電材
43 結着剤
50 電解液
図1
図2
図6
図3
図4
図5
図7
図8
図9
図10