(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が307〜500μg/dm2の範囲、ニッケル量が50μg/dm2以上の範囲、かつニッケルの質量比率が0.16〜0.40の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えており、
コバルトの合計付着量が300〜2800μg/dm2であることを特徴とする印刷回路用銅箔。
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記粗化処理層は付着量が15〜40mg/dm2銅−100〜2000μg/dm2コバルト−100〜1000μg/dm2ニッケルの銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層であり、
前記コバルト−ニッケル合金めっき層のコバルトの付着量が200〜800μg/dm2であり、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が307〜500μg/dm2の範囲、ニッケル量が50μg/dm2以上の範囲、かつニッケルの質量比率が0.16〜0.40の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えていることを特徴とする印刷回路用銅箔。
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜500μg/dm2の範囲、ニッケル量が50μg/dm2以上の範囲、かつニッケルの質量比率が0.16〜0.40の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えており、
コバルトの合計付着量が300〜2800μg/dm2である印刷回路用銅箔;
又は
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記粗化処理層は付着量が15〜40mg/dm2銅−100〜2000μg/dm2コバルト−100〜1000μg/dm2ニッケルの銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層であり、
前記コバルト−ニッケル合金めっき層のコバルトの付着量が200〜800μg/dm2であり、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜500μg/dm2の範囲、ニッケル量が50μg/dm2以上の範囲、かつニッケルの質量比率が0.16〜0.40の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えている印刷回路用銅箔;
であって、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜500μg/dm2の範囲、ニッケル量が50μg/dm2以上の範囲、かつニッケルの質量比率が0.16〜0.24の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えていることを特徴とする印刷回路用銅箔。
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜500μg/dm2の範囲、ニッケル量が50μg/dm2以上の範囲、亜鉛量が212μg/dm2以上の範囲かつニッケルの質量比率が0.16〜0.40の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の印刷回路用銅箔(ただし、前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が350μg/dm2かつ亜鉛の付着量が250μg/dm2かつニッケルの付着量が100μg/dm2かつ、ニッケルの質量比率が0.29であるものを除く)。
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が352〜500μg/dm2の範囲、ニッケル量が50μg/dm2以上の範囲、かつニッケルの質量比率が0.16〜0.40の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷回路用銅箔。
前記防錆処理層がクロム酸化物の単独皮膜処理層若しくは亜鉛及び亜鉛酸化物のうちのいずれか一つ以上とクロム酸化物との混合皮膜処理層であることを特徴とする請求項8に記載の印刷回路用銅箔。
【背景技術】
【0002】
銅及び銅合金箔(以下銅箔と称する)は、電気・電子関連産業の発展に大きく寄与しており、特に印刷回路材として不可欠の存在となっている。印刷回路用銅箔は一般に、合成樹脂ボード、フィルム等の基材に接着剤を介して、又は接着剤を使用せずに高温高圧下で積層接着して銅張積層板を製造し、その後目的とする回路を形成するために、レジスト塗布及び露光工程を経て必要な回路を印刷した後、不要部を除去するエッチング処理が施される。
最終的に、所要の素子が半田付けされて、エレクトロニクスデバイス用の種々の印刷回路板を形成する。印刷回路板用銅箔に関する品質要求は、樹脂基材と接着される面(粗化面)と非接着面(光沢面)とで異なり、それぞれに多くの方法が提唱されている。
【0003】
例えば、粗化面に対する要求としては、主として、1)保存時における酸化変色のないこと、2)基材との引き剥し強さが高温加熱、湿式処理、半田付け、薬品処理等の後でも充分なこと、3)基材との積層、エッチング後に生じる所謂積層汚点のないこと等が挙げられる。
【0004】
粗化処理は銅箔と基材との接着性を決定するものとして、大きな役割を担っている。粗化処理としては、当初銅を電着する銅粗化処理が採用されていたが、その後様々の技術が提唱され、特に耐熱剥離強度、耐塩酸性及び耐酸化性の改善を目的として銅−ニッケル粗化処理が一つの代表的処理方法として定着するようになった。
本件出願人は、銅−ニッケル粗化処理を提唱し(特許文献1参照)、成果を納めてきた。銅−ニッケル処理表面は黒色を呈し、特にフレキシブル基板用圧延処理箔では、この銅−ニッケル処理の黒色が商品としてのシンボルとして認められるに至っている。
【0005】
しかしながら、銅−ニッケル粗化処理は、耐熱剥離強度及び耐酸化性並びに耐塩酸性に優れる反面で、近時ファインパターン用処理として重要となってきたアルカリエッチング液でのエッチングが困難であり、150μmピッチ回路巾以下のファインパターン形成時に処理層がエッチング残となってしまう。
そこで、ファインパターン用処理として、本件出願人は、先にCu−Co処理(特許文献2及び特許文献3参照)及びCu−Co−Ni処理(特許文献4参照)を開発した。これら粗化処理は、エッチング性、アルカリエッチング性及び耐塩酸性については良好であったが、アクリル系接着剤を用いたときの耐熱剥離強度が低下することが改めて判明し、また耐酸化性も所期程充分ではなくそして色調も黒色までには至らず、茶〜こげ茶色であった。
【0006】
最近の印刷回路のファインパターン化及び多様化への趨勢にともない、1)Cu−Ni処理の場合に匹敵する耐熱剥離強度(特にアクリル系接着剤を用いたとき)及び耐塩酸性を有すること、2)アルカリエッチング液で150μmピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングできること、3)Cu−Ni処理の場合と同様に、耐酸化性(180℃×30分のオーブン中での耐酸化性)を向上すること、4)Cu−Ni処理の場合と同様の黒化処理であることが更に要求されるようになった。
【0007】
即ち、回路が細くなると、塩酸エッチング液により回路が剥離し易くなる傾向が強まり、その防止が必要である。回路が細くなると、半田付け等の処理時の高温により回路がやはり剥離し易くなり、その防止もまた必要である。ファインパターン化が進む現在、例えばCuCl
2エッチング液で150μmピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングできることはもはや必須の要件であり、レジスト等の多様化にともないアルカリエッチングも必要要件となりつつある。黒色表面も、位置合わせ精度及び熱吸収を高めることの点で銅箔の製作及びチップマウントの観点から重要となっている。
【0008】
こうした要望に答えて、本出願人は、銅箔の表面に銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理後、コバルトめっき層或いはコバルト−ニッケル合金めっき層を形成することにより、印刷回路銅箔として上述した多くの一般的特性を具備することはもちろんのこと、特にCu−Ni処理と匹敵する上述した諸特性を具備し、しかもアクリル系接着剤を用いたときの耐熱剥離強度を低下せず、耐酸化性に優れそして表面色調も黒色である銅箔処理方法を開発することに成功した(特許文献5参照)。
好ましくは、前記コバルトめっき層或いはコバルト−ニッケル合金めっき層を形成した後に、クロム酸化物の単独皮膜処理或いはクロム酸化物と亜鉛及び(又は)亜鉛酸化物との混合皮膜処理を代表とする防錆処理が施される。
【0009】
その後、電子機器の発展が進む中で、半導体デバイスの小型化、高集積化が更に進み、これらの印刷回路の製造工程で行われる処理が一段と高温となりまた製品となった後の機器使用中の熱発生により、銅箔と樹脂基材との間での接合力の低下があらためて問題となるようになった。
このようなことから、特許文献5において確立された銅箔の表面に銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理後、コバルトめっき層或いはコバルト−ニッケル合金めっき層を形成する印刷回路用銅箔の処理方法において、さらに該粗化処理後コバルトめっき層より耐熱劣化性に優れるコバルト−ニッケル合金めっき層を形成する場合に、耐熱剥離性を更に一層改善する発明を行った。
【0010】
これは、銅箔の表面に銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理後、コバルト−ニッケル合金めっき層を形成し、更に亜鉛−ニッケル合金めっき層を形成する印刷回路用銅箔の処理方法である。非常に有効な発明であり、今日の、銅箔回路材料の主要製品の一つとなっている。
本願発明は、この銅箔回路材料をさらに改良するものである。上記のように銅箔回路は、一段と細線化されているが、基板上で一旦回路を形成した後、銅回路の上表面を硫酸と過酸化水素を含有するエッチング液によりソフトエッチングする工程が行われているが、この工程において、ポリイミド等の樹脂基板と銅箔の接着部のエッジ部にエッチング液が染み込むという問題が生じた。
これは、銅箔の処理面の一部が侵食されているとも言える。このような侵食は、微細な回路においては、銅箔と樹脂との接合力を低下させるので、重要な問題である。これを解決することが要求されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において使用する銅箔は、電解銅箔或いは圧延銅箔いずれでも良い。通常、銅箔の、樹脂基材と接着する面即ち粗化面には積層後の銅箔の引き剥し強さを向上させることを目的として、脱脂後の銅箔の表面に、「ふしこぶ」状の電着を行なう粗化処理が施される。電解銅箔は製造時点で凹凸を有しているが、粗化処理により電解銅箔の凸部を増強して凹凸を一層大きくする。
本発明においては、この粗化処理は銅−コバルト−ニッケル合金めっきにより行なわれる。粗化前の前処理として銅の正常めっき等が、そして粗化後の仕上げ処理として電着物の脱落を防止するために銅の正常めっき等が行なわれることもある。
圧延銅箔と電解銅箔とでは処理の内容を幾分異にすることもある。本発明においては、こうした前処理及び仕上げ処理をも含め、銅箔粗化と関連する公知の処理を必要に応じて含め、総称して粗化処理と云うものとする。
【0017】
本発明における粗化処理としての銅−コバルト−ニッケル合金めっきは、電解めっきにより、付着量が15〜40mg/dm
2銅−100〜3000μg/dm
2コバルト−100〜500μg/dm
2ニッケルであるような3元系合金層を形成するように実施される。Co付着量が100μg/dm
2未満では、耐熱性が悪化し、エッチング性が悪くなる。Co付着量が3000μg/dm
2を超えると、磁性の影響を考慮せねばならない場合には好ましくなく、エッチングシミが生じ、また、耐酸性及び耐薬品性の悪化が考慮されうる。
Ni付着量が100μg/dm
2未満であると、耐熱性が悪くなる。他方、Ni付着量が500μg/dm
2を超えると、エッチング性が低下する。すなわち、エッチング残ができ、またエッチングできないというレベルではないが、ファインパターン化が難しくなる。好ましいCo付着量は2000〜3000μg/dm
2であり、そして好ましいニッケル付着量は200〜400μg/dm
2である。
ここで、エッチングシミとは、塩化銅でエッチングした場合、Coが溶解せずに残ってしまうことを意味し、そしてエッチング残とは塩化アンモニウムでアルカリエッチングした場合、Niが溶解せずに残ってしまうことを意味するものである。
一般に、回路を形成する場合には、下記の実施例の中で説明するようなアルカリ性エッチング液及び塩化銅系エッチング液を用いて行われる。このエッチング液及びエッチング条件は、汎用性のあるものであるが、この条件に限定されることはなく、任意に選択できることは理解されるべきことである。
【0018】
こうした3元系銅−コバルト−ニッケル合金めっきを形成するための一般的浴及びめっき条件は次の通りである。
(銅−コバルト−ニッケル合金めっき)
Cu:10〜20g/リットル
Co:1〜10g/リットル
Ni:1〜10g/リットル
pH:1〜4
温度:30〜50℃
電流密度D
k:20〜50A/dm
2
時間:1〜5秒
【0019】
本発明は、粗化処理後、粗化面上にコバルト−ニッケル合金めっき層を形成する。このコバルト−ニッケル合金めっき層は、コバルトの付着量が200〜3000μg/dm
2であり、かつコバルトの比率が60〜66質量%とする。この処理は広い意味で一種の防錆処理とみることができる。
このコバルト−ニッケル合金めっき層は、銅箔と基板の接着強度を実質的に低下させない程度に行なう必要がある。コバルト付着量が200μg/dm
2未満では、耐熱剥離強度が低下し、耐酸化性及び耐薬品性が悪化する。また、もう一つの理由として、処理表面が赤っぽくなってしまうので好ましくない。
コバルト付着量が3000μg/dm
2を超えると、磁性の影響を考慮せねばならない場合には好ましくなく、エッチングシミが生じ、また、耐酸性及び耐薬品性の悪化が考慮される。好ましいコバルト付着量は500〜3000μg/dm
2である。
【0020】
また、コバルト付着量が多いと、ソフトエッチングの染み込み発生の原因となる場合がある。このことからコバルトの比率が60〜66質量%とするのが望ましいと言える。後述するように、ソフトエッチングの染み込み発生の直接の大きな原因は、亜鉛−ニッケル合金めっき層からなる耐熱防錆層であるが、コバルトもソフトエッチングの際の染み発生の原因になることもあるので、上記に調整することが、より望ましいとする条件である。
一方、ニッケル付着量が少ない場合には、耐熱剥離強度が低下し、耐酸化性及び耐薬品性が低下する。また、ニッケル付着量が多すぎる場合には、アルカリエッチング性が悪くなるので、上記コバルト含有量とのバランスで決めることが望ましい。
コバルト−ニッケル合金めっきの条件は次の通りである。
(コバルト−ニッケル合金めっき)
Co:1〜20g/リットル
Ni:1〜20g/リットル
pH:1.5〜3.5
温度:30〜80℃
電流密度D
k:1.0〜20.0A/dm
2
時間:0.5〜4秒
【0021】
本発明は、コバルト−ニッケル合金めっき上に更に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を形成するが、亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量を150〜500μg/dm
2とし、かつニッケルの比率を16〜40質量%とする。これは、耐熱防錆層という重要な役割を有する。
印刷回路の製造工程で行われる処理が一段と高温となり、また製品となった後の機器使用中の熱発生がある。例えば、樹脂に銅箔を熱圧着で接合する、いわゆる二層材では、接合の際に300℃以上の熱を受ける。このような状況の中でも、銅箔と樹脂基材との間での接合力の低下を防止することが必要である。
【0022】
また、従来の技術では、樹脂に銅箔を熱圧着で接合した二層材における亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた微小な回路では、ソフトエッチングの際に、回路のエッジ部に染み込みによる変色が発生した。この様子を
図1に示す。この回路の染み込みは亜鉛が原因と考えられた。このことから、亜鉛−ニッケル合金めっき層では、亜鉛の増加は考えられないことであった。
しかし、この原因を究明したところ、樹脂に銅箔を熱圧着で接合した二層材では、300℃以上の熱を受けるために、銅箔の亜鉛−ニッケル合金めっき層中の亜鉛が銅層へ拡散する減少が見られた。これは必然的に亜鉛−ニッケル合金めっき層中の亜鉛が減少し、ニッケルの比率が高まるということでもある。ニッケルは、ソフトエッチングの際に使用するエッチング剤(H
2SO
4:10wt%、H
2O
2:2wt%のエッチング水溶液)の染み込みを抑制する効果がある。
【0023】
以上から、拡散によって消耗する亜鉛の量だけ、亜鉛−ニッケル合金めっき層中の亜鉛量を増加させること、したがって、亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量を増加させ、かつ同亜鉛−ニッケル合金めっき層中のニッケル量を、所定量に維持することにより、亜鉛−ニッケル合金めっき層の持つ耐熱防錆層の役割を維持するとともに、ソフトエッチングの際に使用するエッチング剤の染み込みを抑制できるという知見を得た。これは従来にない新しい知見であり、本願発明は、この点に着目した有用な発明である。
上記の通り、前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量を150〜500μg/dm
2とすると共に、当該合金層中のニッケル比率の下限値を0.16に、上限値を0.40とし、かつニッケルの含有量を50μg/dm
2以上とすることが、耐熱防錆層という重要な役割を備えると共に、ソフトエッチングの際に使用するエッチング剤の染み込みを抑制し、腐食に回路の接合強度の弱体化を防止するものである。この条件が、本願発明の基本となるものである。
【0024】
ここで、亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150μg/dm
2未満では、耐熱防錆力が低下して耐熱防錆層としての役割を担うことができず、同総量が500μg/dm
2を超えると、耐塩酸性が悪くなるためである。
また、合金層中のニッケル比率の下限値が0.16未満では、ソフトエッチングの際の染み込み量が9μmを超えるので、好ましくない。ニッケル比率の上限値0.40については、亜鉛−ニッケル合金めっき層を形成できる技術上の限界値であり、必然的なことである。
【0025】
さらに、本発明は、銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜500μg/dm
2の範囲で、かつニッケル比率が0.16〜0.40の範囲にあり、下記ニッケル比率とめっき総量との関係
図3において、前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が500μg/dm
2の場合にニッケル比率が0.16であるA点、同総量が400μg/dm
2の場合に、ニッケルの比率が0.17であるB点、同総量が300μg/dm
2の場合に、ニッケルの比率が0.18であるC点、同総量が200μg/dm
2の場合に、ニッケルの比率が0.24であるD点、同総量が150μg/dm
2の場合に、ニッケルの比率が0.30であるE点及び同総量が150μg/dm
2の場合に、ニッケルの比率が0.40であるF点を、それぞれ結合した、
図3の線の右上の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えていることである。
これによって、上記印刷回路銅箔を用いて基板上の形成された銅箔回路に、ソフトエッチングを行った際に、銅箔回路エッジ部の染み込みの量が9μm以下とすることが可能であり、印刷回路用銅箔として、十分な機能を有する。
前記染み込み量は、全く発生しないことは勿論ベストであるが、5μm以下であれば、特に有効であることは言うまでも無い。本願発明の印刷回路用銅箔はこれらを全て包含するものである。
【0026】
亜鉛−ニッケル合金めっきの条件は、次の通りである。
(亜鉛−ニッケル合金めっき)
Zn:0〜30g/リットル
Ni:0〜25g/リットル
pH:3〜4
温度:40〜50℃
電流密度D
k:0.5〜5A/dm
2
時間:1〜3秒
【0027】
上記の通り、本発明は、粗化処理としての銅−コバルト−ニッケル合金めっき層、コバルト−ニッケル合金めっき層そして亜鉛−ニッケル合金めっき層が順次形成されるが、これら層における合計量のコバルト付着量及びニッケル付着量を調節することもできる。コバルトの合計付着量が300〜5000μg/dm
2、ニッケルの合計付着量が260〜1200μg/dm
2とすることが望ましい。
コバルトの合計付着量が300μg/dm
2未満では、耐熱性及び耐薬品性が低下し、コバルトの合計付着量が5000μg/dm
2を超えると、エッチングシミが生じることがある。また、ニッケルの合計付着量が260μg/dm
2未満では、耐熱性及び耐薬品性が低下する。ニッケルの合計付着量が1200μg/dm
2を超えると、エッチング残が生じる。好ましくは、コバルトの合計付着量は2500〜5000μg/dm
2であり、そしてニッケルの合計付着量は580〜1200μg/dm
2、特に好ましくは600〜1000μg/dm
2であるが、上記の条件を満たせば、特にこの段落に記載する条件に制限される必要はない。
【0028】
この後、必要に応じ、防錆処理が実施される。本発明において好ましい防錆処理は、クロム酸化物単独の皮膜処理或いはクロム酸化物と亜鉛/亜鉛酸化物との混合物皮膜処理である。クロム酸化物と亜鉛/亜鉛酸化物との混合物皮膜処理とは、亜鉛塩または酸化亜鉛とクロム酸塩とを含むめっき浴を用いて電気めっきにより亜鉛または酸化亜鉛とクロム酸化物とより成る亜鉛−クロム基混合物の防錆層を被覆する処理である。
めっき浴としては、代表的には、K
2Cr
2O
7、Na
2Cr
2O
7等の重クロム酸塩やCrO
3等の少なくとも一種と、水溶性亜鉛塩、例えばZnO、ZnSO
4・7H
2Oなど少なくとも一種と、水酸化アルカリとの混合水溶液が用いられる。代表的なめっき浴組成と電解条件例は次の通りである。
【0029】
(クロム防錆処理)
K
2Cr
2O
7(Na
2Cr
2O
7或いはCrO
3):2〜10g/リットル
NaOH或いはKOH:10〜50g/リットル
ZnO或いはZnSO
4・7H
2O:0.05〜10g/リットル
pH:3〜13
浴温:20〜80℃
電流密度D
k:0.05〜5A/dm
2
時間:5〜30秒
アノード:Pt-Ti板、ステンレス鋼板等
クロム酸化物はクロム量として15μg/dm
2以上、亜鉛は30μg/dm
2以上の被覆量が要求される。
【0030】
こうして得られた銅箔は、優れた耐熱性剥離強度、耐酸化性及び耐塩酸性を有する。また、CuCl
2エッチング液で150μmピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングでき、しかもアルカリエッチングも可能とする。また、ソフトエッチングの際の、回路エッジ部への染み込みを抑制できる。
ソフトエッチング液には、H
2SO
4:10wt%、H
2O
2:2wt%の水溶液が使用できる。処理時間と温度は任意に調節できる。
アルカリエッチング液としては、例えば、NH
4OH:6モル/リットル、NH
4Cl:5モル/リットル、CuCl
2:2モル/リットル(温度50℃)等の液が知られている。
【0031】
得られた銅箔は、Cu−Ni処理の場合と同じく黒色を有している。黒色は、位置合わせ精度及び熱吸収率の高いことの点から、意味がある。例えば、リジッド基板及びフレキシブル基板を含め印刷回路基板は、ICや抵抗、コンデンサ等の部品を自動工程で搭載していくが、その際センサーにより回路を読み取りながらチップマウントを行なっている。このとき、カプトンなどのフィルムを通して銅箔処理面での位置合わせを行なうことがある。また、スルーホール形成時の位置決めも同様である。このとき処理面が黒に近い程、光の吸収が良いため、位置決めの精度が高くなる。更には、基板を作製する際、銅箔とフィルムとを熱を加えながらキュワリングして接着させることが多い。このとき、遠赤外線、赤外線等の長波を用いることにより加熱する場合、処理面の色調が黒い方が、加熱効率が良くなる。
【0032】
最後に、必要に応じ、銅箔と樹脂基板との接着力の改善を主目的として、防錆層上の少なくとも粗化面にシランカップリング剤を塗布するシラン処理が施される。このシラン処理に使用するシランカップリング剤としては、オレフィン系シラン、エポキシ系シラン、アクリル系シラン、アミノ系シラン、メルカプト系シランを挙げることができるが、これらを適宜選択して使用することができる。
塗布方法は、シランカップリング剤溶液のスプレーによる吹付け、コーターでの塗布、浸漬、流しかけ等いずれでもよい。例えば、特公昭60−15654号は、銅箔の粗面側にクロメート処理を施した後シランカップリング剤処理を行なうことによって銅箔と樹脂基板との接着力を改善することを記載している。詳細はこれを参照されたい。この後、必要なら、銅箔の延性を改善する目的で焼鈍処理を施すこともある。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例のみに制限されるものではない。すなわち、本発明に含まれる他の態様または変形を包含するものである。
【0034】
圧延銅箔に下記に示す条件範囲で銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理を施して、銅を17mg/dm
2、コバルトを2000μg/dm
2、そしてニッケルを500μg/dm
2付着した後に、水洗し、その上にコバルト−ニッケル合金めっき層を形成した。この場合、コバルト付着量800〜1400μg/dm
2、そしてニッケル付着量400〜600μg/dm
2とした。
使用した浴組成及びめっき条件は、次の通りである。
[浴組成及びめっき条件]
【0035】
(A)粗化処理(Cu−Co−Ni合金めっき)
Cu:15g/リットル
Co:8.5g/リットル
Ni:8.6g/リットル
pH:2.5
温度:38℃
電流密度D
k:20A/dm
2
時間:2秒
銅付着量:17mg/dm
2
コバルト付着量:2000μg/dm
2
ニッケル付着量:500μg/dm
2
【0036】
(B)防錆処理(Co−Ni合金めっき)
Co:4〜7g/リットル
Ni:10g/リットル
pH:2.5
温度:50℃
電流密度D
k:8.9〜13.3A/dm
2
時間:0.5秒
コバルト付着量:800〜1400μg/dm
2
ニッケル付着量:400〜600μg/dm
2
水洗後、コバルト−ニッケル合金めっき層上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を形成した。
【0037】
(C)耐熱防錆層(Zn−Ni合金めっき)
Znイオン濃度:2〜11g/リットル
Niイオン濃度:15〜25g/リットル
pH:3.5
温度:40℃
電流密度D
k:0〜15A/dm
2
時間:0.3〜2秒
【0038】
上記のZn−Ni合金のめっき浴組成を用いて、次のZn−Ni合金めっきをコバルト−ニッケル合金めっき層上に形成した。そして、最後に防錆処理を行ない、乾燥した。
(Zn−Ni合金のめっき中のNi比率を0.23とした場合)
実施例1:Zn−Ni合金付着量:300μg/dm
2、Ni比率:0.23、但し、Ni量:69μg/dm
2
実施例2:Zn−Ni合金付着量:371μg/dm
2、Ni比率:0.23、但し、Ni量:85μg/dm
2
実施例3:Zn−Ni合金付着量:470μg/dm
2、Ni比率:0.23、但し、Ni量:108μg/dm
2
実施例4:Zn−Ni合金付着量:569μg/dm
2、Ni比率:0.23、但し、Ni量:131μg/dm
2
実施例5:Zn−Ni合金付着量:613μg/dm
2、Ni比率:0.23、但し、Ni量:141μg/dm
2
【0039】
(比較例1−2)
(Zn−Ni合金のめっき中のNi比率を0.18とした場合)
比較例1:Zn−Ni合金付着量:189μg/dm
2、Ni比率:0.18、但し、Ni量:34μg/dm
2
比較例2:Zn−Ni合金付着量:271μg/dm
2、Ni比率:0.18、但し、Ni量:49μg/dm
2
(実施例6−8)
実施例6:Zn−Ni合金付着量:352μg/dm
2、Ni比率:0.18、但し、Ni量:63μg/dm
2
実施例7:Zn−Ni合金付着量:429μg/dm
2、Ni比率:0.18、但し、Ni量:77μg/dm
2
実施例8:Zn−Ni合金付着量:517μg/dm
2、Ni比率:0.18、但し、Ni量:93μg/dm
2
【0040】
(比較例3−7)
(Zn−Ni合金のめっき中のNi比率を0.14とした場合)
比較例3:Zn−Ni合金付着量:217μg/dm
2、Ni比率:0.14、但し、Ni量:30μg/dm
2
比較例4:Zn−Ni合金付着量:298μg/dm
2、Ni比率:0.14、但し、Ni量:42μg/dm
2
比較例5:Zn−Ni合金付着量:392μg/dm
2、Ni比率:0.14、但し、Ni量:55μg/dm
2
比較例6:Zn−Ni合金付着量:473μg/dm
2、Ni比率:0.14、但し、Ni量:66μg/dm
2
比較例7:Zn−Ni合金付着量:550μg/dm
2、Ni比率:0.14、但し、Ni量:77μg/dm
2
【0041】
(D)防錆処理(クロメート)
K
2Cr
2O
7(Na
2Cr
2O
7あるいはCrO
3):5g/リットル
NaOHあるいはKOH:30g/リットル
ZnOあるいはZnSO
4・7H
2O:5g/リットル
pH:10
温度:40℃
電流密度D
k:2A/dm
2
時間:10秒
アノード:Pt−Ti板
【0042】
以上により製造した銅箔を、該銅箔にポリアミック酸ワニス(宇部興産製ワニスA)を塗布し、20μm厚のポリイミドフィルムに310℃で加熱圧着した。この加熱圧着工程は、全て大気中で実施した。次に、銅箔を、下記のエッチング液を用いて回路を形成した。
(アルカリエッチング液)
NH
4OH:6モル/リットル
NH
4Cl:5モル/リットル
CuCl
2・2H
2O:2モル/リットル
温度:50℃
エッチングシミは下記の塩化銅−塩酸液を使用してエッチング状態の目視による観察を行った。
(塩化銅エッチング液)
CuCl
2・2H
2O:200g/リットル
HCl:150g/リットル
温度:40℃
【0043】
形成した銅の回路を、さらにH
2SO
4:10wt%、H
2O
2:2wt%のエッチング水溶液を用いて、5分間ソフトエッチングを実施した。
そして、この場合の、染み込みをポリイミドの裏面から光学顕微鏡で観察した。ポリイミドは薄く透過性なので、ポリイミドの裏面から染み込みの観察可能である。
この結果を
図2に示す。
図2に示すように、実施例1〜5は、
図2Aの(a)〜(e)に相当する。実施例1では、8μmの染み込みが観察され、実施例2では、5μmの染み込みが観察され、実施例3では、2μmの染み込みが観察され、実施例4では、4μmの染み込みが観察され、実施例5では、1μmの染み込みが観察された。いずれも、染み込み量は9μm以下であり、本願発明の染み込み量の限界値内であり、良好な結果を示した。
【0044】
比較例1〜2及び実施例6〜8は、それぞれ
図2Bの(a)〜(e)に相当する。比較例1では、10μmの染み込みが観察され、比較例2では、12μmの染み込みが観察された。いずれも、染み込み量は9μmを超え、本願発明の染み込み量の限界値を超え、悪い結果となった。この原因は、Ni量が本願発明の50μm/dm
2以上を達成していないのが原因と考えられた。
一方、実施例6では、5μmの染み込みが観察され、実施例7では、5μmの染み込みが観察され、実施例8では、2μmの染み込みが観察された。いずれも、染み込み量は9μm以下であり、本願発明の染み込み量の限界値内であり、良好な結果を示した。
【0045】
上記比較例3〜7については、それぞれ
図2Cの(a)〜(e)に相当する。比較例3では、15μmの染み込みが観察され、比較例4〜7では、いずれも10μmの染み込みが観察された。いずれも、染み込み量は9μmを超え、本願発明の染み込み量の限界値を超え、悪い結果となった。
この原因は、Zn−Ni合金中のNiの比率が、本願発明の0.16以上を達成していないのが原因と考えられた。この
図2Cに示す通り、H
2SO
4:10wt%、H
2O
2:2wt%のソフトエッチング液による、回路両サイドのエッジ部の染み込み幅(μm)がそれぞれ10μm以上となり、非常に腐食され易い状況になっていた。
【0046】
以上の結果を、
図3に示す。
図3では、上記実施例及び比較例の多くを掲載し、見易くしてある。この
図3では、亜鉛−ニッケルめっきの総量が500μg/dm
2のところで、太線にして耐塩酸劣化性が20%を超えるところを表示しているが、これは本願発明の制限ラインを示すものではない。必要に応じて、この制限ラインを超え、650μg/dm
2の亜鉛−ニッケルめっきの総量とすることも可能である。このラインを超えるものであっても、染み込み幅を減少させることは、可能である。
また、染み込み量と亜鉛−ニッケルめっきの総量との関係を
図4に示す。この
図4から、亜鉛−ニッケルめっきの総量が増加するにしたがって、染み込み量は低減しているのが分かる。亜鉛−ニッケルめっきの総量が増加することは、ニッケル量が増加することを意味するが、それに伴って染み込み量が低減することを意味している。
【0047】
(実施例9−12)
次に、亜鉛量をあまり変えずに、ニッケルの比率を増加させた場合の例を示す。
実施例9:Zn−Ni合金付着量:394μg/dm
2、Ni比率:0.40、但し、Ni量:159μg/dm
2
実施例10:Zn−Ni合金付着量:344μg/dm
2、Ni比率:0.34、但し、Ni量:118μg/dm
2
実施例11:Zn−Ni合金付着量:307μg/dm
2、Ni比率:0.29、但し、Ni量:89μg/dm
2
実施例12:Zn−Ni合金付着量:314μg/dm
2、Ni比率:0.24、但し、Ni量:66μg/dm
2
【0048】
以上の結果について、同様にソフトエッチング後の染み込み幅を観察した。この結果を
図5に示す。
図5の(A)は実施例9に、(B)は実施例10に、(C)は実施例11に、(D)は実施例12に、それぞれ対応するものである。
実施例12(D)は、Ni比率:0.24であり、非常にわずかな染み込み幅が見られる。しかし、実施例11(C)Ni比率:0.29、実施例10(B)Ni比率:0.34、実施例9(9)Ni比率:0.40とNi比率が増加すると、染み込みは消失していることが分かる。これによって、染み込みをニッケルの比率を高めることにより、著しく低減できることを示している。
【0049】
上記実施例1〜12について、常態(室温)剥離強度(kg/cm)と耐熱劣化性を調べた。耐熱劣化性は、180°×48時間加熱後の剥離強度の劣化率(%)を調べた結果である。そして、耐塩酸劣化性は18%塩酸に1時間浸漬した後の剥離強度を0.2mm幅×10本回路で測定した場合である。
また、アルカリエッチングは下記の液を使用してエッチング状態の目視による観察を実施した。この結果、本願発明の銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜650μg/dm
2であり、当該合金層中のニッケル比率の下限値が0.16、上限値が0.40で、かつニッケル含有量が50μg/dm
2以上ある印刷回路用銅箔は、従来の亜鉛量が200μg/dm
2以下の銅箔と同程度の常態剥離強度を持ち、また耐熱剥離性、耐薬品性を有していた。
【0050】
(アルカリエッチング液)
NH
4OH:6モル/リットル
NH
4Cl:5モル/リットル
CuCl
2・2H
2O:2モル/リットル
温度:50℃
エッチングシミは下記の塩化銅−塩酸液を使用してエッチング状態の目視による観察をした。
(塩化銅エッチング液)
CuCl
2・2H
2O:200g/リットル
HCl:150g/リットル
温度:40℃
【0051】
(比較例8、比較例9)
Zn−Ni合金めっき条件を、上記実施例と同様にして行い、Zn量とNi量のみを、次のようにして変化させた場合の例を、比較例8及び比較例9に示す。なお、この場合、Zn−Ni合金めっき総量に対するNi比率は、0.22の場合である。
比較例8:Zn量:114μg/dm
2、Ni量:33μg/dm
2
比較例9:Zn量:152μg/dm
2、Ni量:44μg/dm
2
上記の通り、比較例8は、Ni比率は本願発明の範囲にあるが、Zn−Ni合金めっき総量とNi量が、本願発明の範囲から逸脱している。このため、染み発生量は12μmと悪くなった。また、比較例9は、Ni比率とZn−Ni合金めっき総量は、本願発明の範囲にあるが、Ni量が本願発明の範囲から逸脱している。
このため、染み発生量は同様に12μmと悪くなった。この結果を、
図3と
図7に示す。なお、
図7において、(E)は比較例8、(F)は比較例9の回路の染み込み量を観察した結果を示す図である。なお、この場合の耐酸性(耐塩酸劣化率)は、比較例8で3.6、比較例9で3.7であり、耐塩酸劣化率では問題とはならない。
【0052】
(実施例13、実施例14、実施例15)
Zn−Ni合金めっき条件を、上記実施例と同様にして行い、Zn量とNi量のみを、次のようにして変化させた場合の例を、実施例13〜実施例15に示す。なお、この場合、Zn−Ni合金めっき総量に対するNi比率は、0.22の場合である。
実施例13:Zn量:212μg/dm
2、Ni量:61μg/dm
2
実施例14:Zn量:238μg/dm
2、Ni量:69μg/dm
2
実施例15:Zn量:273μg/dm
2、Ni量:79μg/dm
2
上記の通り、実施例13〜実施例15は、Zn−Ni合金めっき総量、Ni量、Ni比率は、いずれも本願発明の範囲の範囲にある。この結果、染み発生量は実施例13で4μm、実施例14と実施例15は、いずれも2μmと良好な結果となった。
この結果を、同様に
図3と
図7に示す。なお、
図7において、(G)は実施例13、(H)は実施例14、(I)は実施例15の回路の染み込み量を観察した結果を示す図である。なお、この場合の耐酸性(耐塩酸劣化率)は、実施例13で3.7、実施例14で5.0、実施例15で3.6であり、耐塩酸劣化率でも問題ではなかった。
【0053】
上記に示すように、銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜650μg/dm
2であり、当該合金層中のニッケル比率の下限値が0.16、上限値が0.40で、かつニッケル含有量が50μg/dm
2以上ある印刷回路用銅箔は、ソフトエッチングの際の染み込みを抑制できることが明らかであり、さらに樹脂と銅箔を二層にして高温高圧で加熱圧着し、積層体(銅張積層板)とする場合に、特に有効であることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
印刷回路の製造工程で行われる処理が一段と高温となり、また製品となった後の機器使用中の熱発生があるが、このような状況の中でも、銅箔と樹脂基材との間での接合力が低下することなく、さらに銅箔回路のソフトエッチングの際に、回路エッジ部の染み込み及び変色を効果的に防止できるという優れた効果を有するので、半導体デバイスの小型化、高集積化が進む電子機器用印刷回路材料として有用である。
【0055】
[本発明の態様]
さらに、本発明は、次の(1)〜にもある。
(1)
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜500μg/dm
2の範囲、ニッケル量が50μg/dm
2以上の範囲、かつニッケルの質量比率が0.16〜0.40の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えており、
コバルトの合計付着量が300〜2800μg/dm
2であることを特徴とする印刷回路用銅箔。
(2)
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記粗化処理層は付着量が15〜40mg/dm
2銅−100〜2000μg/dm
2コバルト−100〜1000μg/dm
2ニッケルの銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層であり、
前記コバルト−ニッケル合金めっき層のコバルトの付着量が200〜800μg/dm
2であり、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜500μg/dm
2の範囲、ニッケル量が50μg/dm
2以上の範囲、かつニッケルの質量比率が0.16〜0.40の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えていることを特徴とする印刷回路用銅箔。
(3)
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜500μg/dm
2の範囲、ニッケル量が50μg/dm
2以上の範囲、かつニッケルの質量比率が0.16〜0.24の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えていることを特徴とする印刷回路用銅箔。
(4)
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が150〜500μg/dm
2の範囲、ニッケル量が50μg/dm
2以上の範囲、亜鉛量が212μg/dm
2以上の範囲かつニッケルの質量比率が0.16〜0.40の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えていることを特徴とする印刷回路用銅箔(ただし、前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が350μg/dm
2かつ亜鉛の付着量が250μg/dm
2かつニッケルの付着量が100μg/dm
2かつ、ニッケルの質量比率が0.29であるものを除く)。
(5)
銅箔の表面に、銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層、当該粗化処理層の上に形成されたコバルト−ニッケル合金めっき層及び当該コバルト−ニッケル合金めっき層の上に、亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えた印刷回路用銅箔において、
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層の総量が352〜500μg/dm
2の範囲、ニッケル量が50μg/dm
2以上の範囲、かつニッケルの質量比率が0.16〜0.40の範囲にある亜鉛−ニッケル合金めっき層を備えていることを特徴とする印刷回路用銅箔。
(6)
上記印刷回路用銅箔を用いて基板上の形成された銅箔回路に、H
2SO
4:10wt%、H
2O
2:2wt%のエッチング水溶液を用いてソフトエッチングを行った際に、銅箔回路エッジ部の染み込みの量が9μm以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の印刷回路用銅箔。
(7)
前記染み込み量が5μm以下であることを特徴とする(6)に記載の印刷回路用銅箔。
(8)
前記亜鉛−ニッケル合金めっき層上に、防錆処理層を備えていることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の印刷回路用銅箔。
(9)
前記防錆処理層がクロム酸化物の単独皮膜処理層若しくは亜鉛及び亜鉛酸化物のうちのいずれか一つ以上とクロム酸化物との混合皮膜処理層であることを特徴とする(8)に記載の印刷回路用銅箔。
(10)
前記防錆処理層上に、さらにシランカップリング層を備えていることを特徴とする(8)または(9)に記載の印刷回路用銅箔。
(11)
前記混合皮膜処理層上に、さらにシランカップリング層を備えていることを特徴とする(9)に記載の印刷回路用銅箔。
(12)
前記印刷回路用銅箔において、銅箔の表面に付着量が15〜40mg/dm
2銅−100〜3000μg/dm
2コバルト−100〜1000μg/dm
2ニッケルの銅−コバルト−ニッケル合金めっきによる粗化処理層を備えていることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の印刷回路用銅箔。
(13)
前記コバルト−ニッケル合金めっき層は、コバルトの付着量が200〜3000μg/dm
2であり、かつコバルトの比率が60〜66質量%であることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載の印刷回路用銅箔。
(14)
前記(1)〜(13)のいずれかに記載の印刷回路銅箔を、接着剤を介さずに熱圧着により、樹脂基板と接着させた銅張積層板。
【0056】
さらに、本発明は、上記(1)〜(2)のいずれかに従属する(3)に係る発明、上記(1)〜(3)のいずれかに従属する(4)に係る発明、上記(1)〜(4)のいずれかに従属する(5)に係る発明にもある。