特許第5826677号(P5826677)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5826677スターラーシャフトパイプ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5826677
(24)【登録日】2015年10月23日
(45)【発行日】2015年12月2日
(54)【発明の名称】スターラーシャフトパイプ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/187 20060101AFI20151112BHJP
   B01F 15/00 20060101ALI20151112BHJP
   C23C 30/00 20060101ALI20151112BHJP
   B21K 25/00 20060101ALI20151112BHJP
   B21K 21/06 20060101ALI20151112BHJP
   B21K 1/10 20060101ALI20151112BHJP
   B21D 53/10 20060101ALI20151112BHJP
【FI】
   C03B5/187
   B01F15/00 C
   C23C30/00 A
   B21K25/00 Z
   B21K21/06 Z
   B21K1/10
   B21D53/10 Z
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-50146(P2012-50146)
(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公開番号】特開2013-184845(P2013-184845A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】高木 美和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏也
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−188375(JP,A)
【文献】 特開平6−107419(JP,A)
【文献】 特開平7−223823(JP,A)
【文献】 特開2010−265505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00−5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと前記シャフトに突設された攪拌翼とからなるガラス製造用スターラーの前記シャフトを構成するスターラーシャフトパイプにおいて、
n層(n=2〜5)の複数のパイプが積層する多層構造を有し、
多層構造を構成する前記複数のパイプのうち少なくとも1層のパイプが、長手方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比(長手方向/径方向)が10〜100であると共に、円周方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比(円周方向/断面方向)が5〜100であることを特徴とするスターラーシャフトパイプ。
【請求項2】
多層構造を構成する複数のパイプについて、長手方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比(長手方向/径方向)の厚さ加重平均が10〜100であると共に、円周方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比(円周方向/断面方向)の厚さ加重平均が5〜100である請求項1記載のスターラーシャフトパイプ。
【請求項3】
多層構造を構成する複数のパイプの全てにおいて、長手方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比(長手方向/径方向)が10〜100であると共に、円周方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比(円周方向/断面方向)が5〜100である請求項1又は請求項2記載のスターラーシャフトパイプ。
【請求項4】
最外層となるパイプの外側に、保護金属層を備える請求項1〜請求項3のいずれかに記載のスターラーシャフトパイプ。
【請求項5】
多層構造を構成する複数のパイプが、拡散接合又は鍛接により一体化された請求項1〜請求項4のいずれかに記載のスターラーシャフトパイプ。
【請求項6】
多層構造を構成する複数のパイプは、板材を管状に巻回し、当接する板材両端部を接合することにより成形されるものであり、
シャフト断面において、シャフト中心軸と各パイプの接合線とを結ぶ線が相互に重複しないように各パイプが積層してなる請求項1〜請求項5のいずれかに記載のスターラーシャフトパイプ。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載のスターラーシャフトパイプの製造方法であって、
インゴットから複数の板材を製造する工程と、前記板材を管状に巻回し、当接する板材両端部を接合して複数のパイプを製造する工程と、製造した複数のパイプを積層させて多層構造を有するパイプとする工程とを含み、
前記複数の板材を製造する工程は、少なくとも一つの板材について、パイプとしたときにおける長手方向及び円周方向の両方向について75〜95%の加工率を付与して板材を製造するものであるスターラーシャフトパイプの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載のスターラーシャフトパイプの製造方法であって、
インゴットから複数の板材を製造する工程と、前記板材を深絞り加工して複数のパイプを製造する工程と、製造した複数のパイプを積層させて多層構造を有するパイプとする工程とを含み、
前記複数の板材を製造する工程は、少なくとも一つの板材について、パイプとしたときにおける長手方向及び円周方向の両方向について75〜95%の加工率を付与して板材を製造するものであるスターラーシャフトパイプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ガラス製品の製造工程において、溶融状態のガラスを攪拌・均質化するためのガラス製造用スターラーを構成するスターラーシャフトパイプ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のガラス製品の製造工程においては、調整・混合されたガラス原料を溶融し、溶融状態のガラスを攪拌することによりその成分の均質化、屈折率の均一化を行った後、成型をしてガラス製品としている。そして、品質に優れたガラスを製造するためには、攪拌工程が特に重要である。
【0003】
溶融ガラスの攪拌工程においては、通常、溶融ガラス槽にガラス製造用スターラーを挿入して回転させることにより行われる。このガラス製造用スターラーは、回転軸となるシャフトに攪拌翼が突設されている。また、これらのガラス製造に供される機器(溶融ガラス槽、製造用スターラー)は、酸化物分散強化型白金合金や白金−ロジウム合金等の白金材料(一般に、強化白金と呼ばれることがある。)から構成されるものが主流となっている。白金材料は、高温における機械的特性、特に高温クリープ強度に優れているからである。また、白金材料は、化学的にも安定であり、溶融ガラスによる侵食も少なく、高品質のガラス製造に好適だからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−149338号公報
【0005】
図6は、一般的なガラス製造用スターラーの製造工程を説明する図である。まず、合金インゴットを圧延加工等して長方形の板材を準備し、これを巻回して両端部の突合せを接合して管形状とする。次に、このパイプをドローベンチ等で引抜加工することで、所定の寸法、肉厚のシャフトを製造する。そして、このシャフトに所定形状の攪拌翼を接合することでスターラーとしている。
【0006】
ガラス製造用スターラーは、高温で粘性のある溶融ガラスに晒され、且つ、長時間の回転運動をする構造体である。そのため、ガラス製造用スターラーは、上記した製造工程においてその部材寸法はもとより材料組織についても十分な設計がなされている。この点、回転軸となるスターラーシャフトは、攪拌翼の重量や、稼動中に攪拌翼が受ける応力を高温下で支えるという大きな負荷を受ける。そのため、相応の厚さで設計されると共に、上記のように白金系材料という高強度の材料を使用すると共にその材料組織の調整が行われている。
【0007】
しかし、上記のようにして十分な配慮のもと製造されるガラス製造用スターラーでも、長期使用による変形・破損が生じることがある。特に、設計上想定される耐用期間に到達する前の変形は問題である。この変形は、攪拌翼にも生じることがあるが、スターラーシャフトでの発生頻度も高く、曲がり、捩れといった変形が見られる。ここで、スターラーシャフトの強度向上には、その肉厚を増やすことが有効ではあるが、これは装置サイズの観点から対応が困難であり、また、多量の材料が必要となりコスト面からも好ましい対応ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、ガラス製造用スターラーのスターラーシャフトを構成するパイプについて、従来よりも高強度で変形の恐れの少ないものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の通り、従来のスターラーシャフトパイプの設計においては、寸法設計の他、材料組織の検討もなされてきた。スターラーシャフトが受ける応力は、攪拌翼の重量の他、スターラーの稼動時溶融ガラスの粘性力等である。これらの応力は主に垂直方向(スターラーシャフトの長手方向)に作用すると考えられてきた。このことから、従来のスターラーシャフトパイプは、長手方向の強度向上が着目されてきた。そのため、材料組織も長手方向の断面が重視されており、加工組織により結晶粒アスペクト比(長手方向/径方向)を調整するといった配慮がなされていた。そして、長手方向における材料組織への関心が高かった分、円周方向の材料組織に関しては関心が薄く、この方向における強度上の設計は肉厚の調整程度しかなされていなかった。そこで、本発明者等は、スターラーシャフトの強度向上には、パイプの長手方向のみではなく、円周方向の材料組織の調整を行い、双方向の結晶粒アスペクト比をバランス良く強化することが好ましいと考えた。
【0010】
ここで、結晶粒アスペクト比の調整は、材料加工により行うことが一般的であり、一定方向で加工しその加工率を高めることで加工方向に細長い高アスペクト比の結晶組織を形成することができる。この点、従来のスターラーシャフトパイプの製造にあたっては、パイプに成形する前の板材を圧延加工等により製造する際、パイプ加工後における長手方向についての結晶粒アスペクト比の調整のみが行われており、この方向での加工率を高くしていた。これは、上記のように従来は、長手方向における材料組織のみへの注意が払われていたからである。
【0011】
一方、本発明者等が検討したように、スターラーシャフトパイプの強度向上のためには、その長手方向と円周方向の双方の結晶粒アスペクト比を調整することが好ましい。しかし、従来と同様の構成のパイプについてこれを行うことは困難である。円周方向の結晶粒アスペクト比を高くするためには、パイプ成形前の板材の製造工程において円周方向の加工率を高くすることが必要となるが、長手方向に加えて円周方向の加工率も高くすると製造される板材が薄くなり、パイプの肉厚が不足することになるからである。この点については、加工率を確保するためインゴットの寸法を大きくし、必要な加工率を確保した後に必要な寸法で板材を切断して使用することで対応可能であるが、これは加工設備との関係で困難といえる。
【0012】
そこで、本発明者等は、スターラーシャフトパイプの構造に関し複数のパイプを積層させた多層構造を採用すると共に、これを構成するパイプとして、その長手方向と円周方向の双方の結晶粒アスペクト比を調整したものを組み合わせることで、上記の相反する要求を満足することができるとして本発明に想到した。
【0013】
上記課題を解決する本発明は、シャフトと前記シャフトに突設された攪拌翼とからなるガラス製造用スターラーの前記シャフトを構成するスターラーシャフトパイプにおいて、n層(n=2〜5)の複数のパイプが積層する多層構造を有し、多層構造を構成する前記複数のパイプのうち少なくとも1層のパイプが、長手方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比(長手方向/径方向)が10〜100であると共に、円周方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比(円周方向/断面方向)が5〜100であることを特徴とするスターラーシャフトパイプである。
【0014】
以下、本発明につき詳細説明する。尚、本発明では、パイプの各断面における結晶粒アスペクト比を求めるための各方向(長手方向、径方向、円周方向、断面方向)の意義を明確にするため、図1に示すよう定義する。
【0015】
本発明は、薄肉のパイプを組み合わせることで必要な肉厚を確保するものであり、その層数は2〜5とする。単層では、パイプの厚さを維持しつつ、円周方向の結晶粒アスペクト比を好適な範囲するのが困難である。また、あまりに多くの層で構成しても効果はなく、5層を超えるパイプを製造しようとすると、工程が多くなり製造コストに影響を及ぼすからである。
【0016】
その上で本発明は、少なくとも1層のパイプについて長手方向と円周方向の双方の結晶粒アスペクト比が調整されたパイプを組み合わせる。ここで、長手方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比(長手方向/径方向)を10〜100とするが、これは攪拌翼の重量等のスターラーシャフトが主に受ける応力に耐えるための範囲であり、従来技術でも考慮されてきた範囲である。一方、円周方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比(円周方向/断面方向)を5〜100とするのは、従来のスターラーシャフトの円周方向断面の結晶粒アスペクト比を考慮し、強度を向上させるために設定したものである。即ち、5未満では従来技術とさほど差はない。また、円周方向についても結晶粒アスペクト比が高い程好ましいといえるが、製造上の観点から100を上限とするものである。これらの結晶粒アスペクト比について、より好ましい範囲は、双方が10〜60としたものである。
【0017】
上記のように長手方向と円周方向の双方の結晶粒アスペクト比が調整されたパイプは、少なくとも1層のパイプに対して適用する。このように少なくとも1層のパイプに適用することにより従来以上の強度が期待できる。但し、スターラーシャフトにおいて熱的・構造的に最も負荷がかかるのは、溶融ガラスに直接接触し、攪拌翼等が接合される最外層のパイプである。そこで、上記結晶粒アスペクト比が調整されたパイプを最外層に適用するものが特に好ましい。
【0018】
但し、全体的に結晶粒アスペクト比が上記の好適範囲にあることが好ましい。スターラーシャフトパイプ全体において好適な強度を有する方が、長期の耐久性を確保することができるからである。即ち、各層を構成するパイプにおける長手方向及び円周方向の結晶粒アスペクト比の平均値が長手方向断面で10〜100であると共に、円周方向断面の結晶粒アスペクト比の平均値が5〜100であることが好ましい。尚、ここでの平均とは各層の厚さを考慮した厚さ加重平均である。具体的な算出方法としては、各層のパイプの厚さと結晶粒アスペクト比と掛けた値の全層の合計値をスターラーシャフトパイプ全体の厚さで割った値である。
【0019】
そして、最も好ましいのは、各層を構成するパイプの全てが、長手方向の結晶粒アスペクト比が10〜100であると共に、円周方向断面の結晶粒アスペクト比が5〜100であるものである。スターラーシャフトパイプ全体で略均一な強度を有するからである。
【0020】
各パイプの厚さについては、全て同じである必要はなく、複数の厚さのパイプを組み合わせて積層させても良い。尚、組み合わせる各パイプの実用上好ましい厚さとしては、1.5mm以下が好ましい。また、最終的なスターラーシャフトパイプの肉厚調整のために、1mm以下のパイプを組み合わせても良い。
【0021】
更に、各パイプの構成材料としては、従来のガラス製造用スターラーと同様のものが適用できる。好ましくは、各種の白金材料(酸化物分散型白金合金、白金合金(白金−ロジウム合金等))である。また、各層を構成するパイプの材質が完全に同じ組成であることは必要ないが、同じ組成のものが好ましい。各パイプの構成材料が相違すると、熱膨張量の相違等で変形の恐れがあるからである。
【0022】
また、本発明に係るスターラーシャフトパイプは、ガラス侵食性や耐熱性等を考慮した保護のため、最外層のパイプの外側(溶融ガラスに接触する面)に金属層を備えていても良い。例えば、各パイプの構成材料として酸化物分散型白金合金を適用し、その外側に純白金の層を形成しても良い。この場合、スターラーシャフトパイプの強度面は本発明の多層構造のパイプが担い、耐食性等を保護金属層が担うこととなる。保護金属層としては、純白金の他、白金−ロジウム合金、白金−金合金、純金等が好ましく、これらについてはアスペクト比の調整はなされていなくても良い。また、その厚さは特に限定されず、本発明を構成するパイプと同等のものでもよい。
【0023】
本発明に係るスターラーシャフトパイプを構成する各パイプ間の接合の要否については、各パイプの寸法合わせを精密にすることで無接合とすることができる。即ち、内側のパイプの外径と外側のパイプの内径がほぼ等しく、重ねたときの隙間が微小であれば、ろう付けや溶接等の接合無しで適用できる。但し、寸法合わせが精密であっても各パイプを接合しても良い。各パイプの接合としては、拡散接合、鍛接によるのが好ましく、これら接合により一体化しているのが好ましい。
【0024】
また、後述するように、各パイプは板材を管状に巻回して当接する板材両端部を接合して製造されたものが適用できるが、各パイプを積層させたとき、シャフトパイプ断面において、シャフト中心軸と各パイプの接合線とを結ぶ線が相互に重複しないものが好ましい。接合部は、他の箇所に対して、熱履歴が局所的に異なる部位である。スターラーとした後に高温で加熱された場合、発生する熱歪の不均一さにより変形するおそれがある。例えば、スターラーを製造し、シャフトの芯出しをした後に焼鈍する場合や、ガラス攪拌工程で溶融ガラスにより加熱された場合等、熱変形が生じることがある。そこで、各パイプの接合線が重複しないようにすることで、全体的な変形を相殺し、また、一部のパイプに亀裂等が生じても全体としての破損を防止することができる。
【0025】
本発明に係るスターラーシャフトパイプの製造工程としては、従来の工程に従い、インゴットを圧延加工等して長方形の板材を準備し、これを巻回して両端部の突合せを接合し管形状として、これを適宜に引き抜き加工する。但し、本発明においては、少なくとも1つの板材製造において、パイプとしたときにおける長手方向及び円周方向の両方向について75〜95%の加工率を付与して板材を製造する点で相違する。そして、板材製造工程を複数回繰り返し、複数の板材を製造してパイプを製造し、各パイプを積層させる。尚、板材の加工方向について、パイプとしたときにおける長手方向及び円周方向とは、図2で示すように、板材をパイプに成形した状態を想定したときの加工方向である。
【0026】
板材製造において、加工率を75〜95%とするのは、板材の長手方向及び円周方向の両方向についての断面の結晶組織を調整し、その結晶粒アスペクト比を好適範囲とするためである。この加工は、圧延加工が適用される。圧延加工は、加工率や目標とする板厚に応じて複数回行っても良い。尚、この板材加工の工程で、加工装置に合わせて適宜に切断を行っても良い。製造する板材の数は、使用するパイプの数に対応するが、パイプ毎に板材の種類(板厚)を製造する必要はなく、共通する板厚の板材を使用できる。パイプの製造は、予め目的の径となるように、板材の寸法を調整し、板材を巻回して板材の両端部を接合してパイプとする。パイプ成形のための接合は、熱拡散接合、溶接、鍛接が適用できる。
【0027】
また、板材製造後にパイプを製造する方法としては、上記の他、板材を深絞り加工しても良い。深絞り加工によるパイプ製造では、各層のパイプが接合線のないシームレスなものとなり、接合線の存在による強度・耐食性低下を抑制することができる点で有用である。
【0028】
積層するパイプ(2〜5本)の製造後、小径のパイプを大径のパイプへ順次挿入し、多層構造のパイプを形成する。そして、この多層構造のパイプを、必要に応じドローペンチ等で引き抜き加工しスターラーシャフトパイプとする。引き抜き加工を行うのは、スターラーシャフトパイプの最終的な寸法合わせを行うと共に、各層のパイプをより緊密に密着させるためである。この引き抜き加工の加工率は、5〜20%とするのが好ましい。但し、引き抜き加工は必須の工程ではない。
【0029】
多層構造のパイプの製造においては、各層のパイプを相互に接合しても良い。この場合の接合は、溶接でも良いが、拡散接合が好ましい。各パイプの重なり部分を均一に接合できるからである。拡散接合を行う場合、その条件としては、加熱温度を1400〜1600℃として0.5〜5時間加熱するのが好ましい。
【0030】
以上説明した製造工程により、製造したスターラーシャフトパイプは、必要に応じて引き抜き加工等で寸法調整しても良い。そして、その後、攪拌翼を接合することでガラス攪拌用スターラーとすることができる。尚、接合する攪拌翼については特に限定はなく、用途に応じた形状、材質の攪拌翼が設けられる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように本発明に係るスターラーシャフトパイプは、従来のものよりも高強度であり、使用中に受ける応力による変形に対する耐力を有する。また、要求強度が同じものについてスターラーシャフトパイプを薄肉化することができ材料費低減の効果もある。更に、本発明に係るスターラーシャフトパイプは、比較的製造も容易であり、その寸法にも融通がきくため、大規模のガラス製造装置へも対応可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明における結晶粒アスペクト比の測定方向を説明する図。
図2】本発明における加工方向を説明する図。
図3】本実施形態で製造した板材の製造条件を説明する図。
図4】クリープ試験片の概略図。
図5】実施例3及び比較例の長手方向及び円周方向の断面組織を示す写真。
図6】従来のガラス攪拌用スターラーの製造工程を説明する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施例を説明する。
第1実施形態:ここでは、1種のインゴットから数種の加工工程を経た複数の板材を製造しこれを加工してパイプとした後、多層構造を有するスターラーシャフトパイプを製造した。ここで使用したインゴットは、強化白金合金(田中貴金属工業製 商品名:Nano−Plat−BPR)のインゴット(寸法:幅170mm×長さ130mm×厚さ50mm)である。そして、このインゴットを原料として、表1の5種の板材を製造した。板材の寸法は、幅200mm×長さ900mmであり、厚さは板材毎に相違する。各板材の加工履歴の詳細について図3に示し、その最終加工率、断面結晶粒アスペクト比を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
上記で製造した板材A〜Eを用いてパイプに成形し、適宜に積層させて合計厚さ3.5mmのスターラーシャフトパイプを製造した。製造したのは、板材Aを2枚用いた2層のスターラーシャフトパイプ(実施例1)、板材B、Cをそれぞれ3枚、1枚用いた4層のスターラーシャフトパイプ(実施例2)、板材Dを5枚用いた5層のスターラーシャフトパイプ(実施例3)である。また、板材Eを1枚用いて単層のスターラーシャフトパイプも製造した(比較例)。
【0036】
図5は、実施例3及び比較例のスターラーシャフトパイプの断面組織(長手方向及び円周方向)を示すものである。図5から、比較例のスターラーシャフトパイプは、長手方向断面のアスペクト比はは高くなっているが、円周方向断面のアスペクト比が低くなっている。一方、実施例は、円周方向断面のスペクト比も高くなっている。
【0037】
そして、製造したスターラーシャフトパイプについて、クリープ強度試験を行った。クリープ試験は、荷重方向が円周方向となるように図4で示すように試験片を切出し加工し、荷重25MPa、試験温度1400℃とし、破断時間を測定した。この結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2から、各実施例に係る多層構造を有するスターラーシャフトパイプは、単層の比較例よりもクリープ破断時間が増大することがわかる。特に、実施例2、3においては比較例の10倍以上に延長されることがわかる。
【0040】
第2実施形態:ここでは、実施例3、比較例で製造したスターラーシャフトパイプ、及び、深絞り加工で製造したスターラーシャフトパイプ(実施例4とする)の3種のスターラーシャフトパイプから攪拌棒を製造し、溶融ガラスの攪拌試験を行った。
【0041】
実施例4のスターラーシャフトパイプは、第1実施形態の板材Dと同条件で製造した板材(厚さ0.7mm)を深絞り加工してパイプとし、これらを積層させてスターラーシャフトパイプとした。また、攪拌棒は、各スターラーシャフトパイプに丸棒形状の攪拌翼4本を同一間隔で溶接して製造した。
【0042】
溶融ガラスの攪拌試験は、攪拌槽に溶融ガラスを投入してこれを攪拌棒で所定時間攪拌し、その後の攪拌棒の変形を評価した。尚、溶融ガラスの温度は1450℃〜1500℃の間になるように制御した。また、攪拌棒の回転数は15rpmとし、攪拌時間を400時間とした
【0043】
攪拌試験後、攪拌棒を取り出して冷却、付着したガラスを除去し、スターラーシャフトパイプの変形を調査したところ、実施例3、4のスターラーシャフトパイプには変形の形跡は全く見られなかった。一方、比較例の単層のスターラーシャフトパイプは大きな変形はなかったものの、ミリオーダーでの曲がり、捩れが生じていた。比較例のスターラーシャフトパイプでも破断や大変形といった操業を急停止させるほどの問題は生じないと考えられるが、長時間の使用に伴い溶融ガラス流を不規則にする等の不具合が生じるおそれがあると予測される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るスターラーシャフトパイプは、多層構造を採用して長手方向断面に加えて円周方向断面の材料組織における結晶粒アスペクト比を調整しているため、高強度のものとなっている。本発明を適用するガラス攪拌棒は、長期間形状変化も少なく安定して使用することができる。また、その寸法調整も容易であり小規模のガラス製造装置から大規模のものまで広く対応することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6