特許第5828566号(P5828566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5828566
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】生分解性が制御された生分解性ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/24 20060101AFI20151119BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20151119BHJP
   C08L 77/02 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
   C08G69/24
   C08G63/91
   C08L77/02
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-539565(P2013-539565)
(86)(22)【出願日】2012年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2012071780
(87)【国際公開番号】WO2013058019
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2014年4月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-231817(P2011-231817)
(32)【優先日】2011年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-46422(P2012-46422)
(32)【優先日】2012年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山野 尚子
(72)【発明者】
【氏名】川崎 典起
(72)【発明者】
【氏名】中山 敦好
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−265596(JP,A)
【文献】 特開平05−009291(JP,A)
【文献】 特開2009−155608(JP,A)
【文献】 特開2003−137983(JP,A)
【文献】 特開平06−228287(JP,A)
【文献】 特開2004−285225(JP,A)
【文献】 特表2007−510005(JP,A)
【文献】 特開平05−070697(JP,A)
【文献】 特開2008−214516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
C08G 69/00 − 69/50
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子鎖末端に、ステアロイル基を有する生分解性ポリマーであって、
生分解性ポリマーの主鎖が2−ピロリドンの重合体若しくは共重合体であり且つ重量平均分子量が60,000以上である、生分解性ポリマー。
【請求項2】
前記2−ピロリドンの共重合体がラクタム類との共重合体である、請求項に記載の生分解性ポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生分解性ポリマーと、開始剤由来の2分岐以上の分岐構造を有する2−ピロリドンの重合体又は共重合体とを含有する樹脂組成物。
【請求項4】
高分子鎖末端に、炭素数が8以上の脂肪族炭化水素基を有する生分解性ポリマーであって、
生分解性ポリマーの主鎖が、ポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、及び/又はポリカプロラクトン(PCL)である、生分解性ポリマー。
【請求項5】
請求項1、2及び4のいずれかに記載の生分解性ポリマー、又は請求項に記載の樹脂組成物を含む成形品。
【請求項6】
生分解性ポリマーの高分子鎖末端に、ステアロイル基を導入することを特徴とし、
生分解性ポリマーが2−ピロリドンの重合体若しくは共重合体であり且つ重量平均分子量が60,000以上である生分解性ポリマーの生分解性の制御方法。
【請求項7】
生分解性ポリマーの高分子鎖末端に、炭素数が8以上の脂肪族炭化水素基を導入することを特徴とし、
生分解性ポリマーが、ポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、及び/又はポリカプロラクトン(PCL)である、生分解性ポリマーの生分解性の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性が制御された生分解性ポリマー、及び該生分解性ポリマーを含む成形品に関する。更に、本発明は、生分解性ポリマーの生分解性の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド4(以下、PA4とも称する)の特徴として、バイオマスから合成可能という点がある。すなわち、原料モノマー(2−ピロリドン)が、バイオマス(グルコース)を発酵して工業生産されているグルタミン酸を脱炭酸させたγ-アミノ酪酸を経由して得ることが出来る。次に、ポリアミド4はメチレン鎖長が短い高分子鎖構造であるために分子間の水素結合が強くなり、優れた熱的・機械的性質を持つ。また、ポリアミド類の中で唯一、ポリアミド4は、活性汚泥中、海水中、土壌中等の自然環境下の微生物により生分解を受ける。一方、重合機構より開始剤が結合して重合成長種が生成するため、ポリアミド4は高分子設計が容易にできる。
【0003】
ポリアミド4は1956年にWilliam O.Neyらにより、金属カリウムを塩基性触媒とし、アシル基を含む化合物を活性化剤として使用することにより、2-ピロリドンが活性化モノマー機構で開環重合することにより初めて合成された(特許文献1)。その手法を基にして、1950年代から1990年代にかけて断続的に高分子量化、多分散性制御、製造工程の簡素化を目的に、新規触媒系、重合方法、ε−カプロラクタムとの共重合化等の技術開発が行われてきた(非特許文献1−5)。総じて、汎用材料として線状ポリアミド4を工業生産し、経済的に有利な溶融成形により繊維やフィルムにすることを目標にしていた。それらの研究の中には溶融紡糸が可能となった技術開発例もあったが、強度に問題があることや成形加工が難しいことで課題があり実用化は断念されている。
【0004】
上記のような問題を解決手段として、特許文献2では、塩基性重合触媒およびカルボン酸系化合物を用いて2−ピロリドンを重合させることにより、カルボン酸系化合物に由来する構造を含む特殊構造を有する2−ピロリドン重合体を製造できること、それにより2−ピロリドン重合体の熱安定性、成形加工性等の諸物性を制御、改善できることが報告されている。
【0005】
また、特許文献3では、2−ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒および2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用して、ε−カプロラクタムとの共重合を行い、高分子鎖構造と高分子鎖組成を制御することで、物性(機械的性質、熱的性質)の改質が可能となることが報告されている。
【0006】
このようにポリアミド4はエンプラに位置付けられる高性能プラスチックであるが、生分解性があるため長期安定性を求められる用途には使えず、実用化を阻む大きな要因であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許2,739,959号明細書
【特許文献2】特開2002-265596号公報
【特許文献3】特開2009-155608号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chuchma, F. et al : Polymer, 24, 1491-1494(1983)
【非特許文献2】Kobayashi, F. et al : Journal of Polymer Science: Part A, 1, 111-123(1963)
【非特許文献3】Barzakay, S. et al : Journal of Polymer Science: Part A-1, 4, 2211-2218(1966)
【非特許文献4】Barzakay, S. et al : Journal of Polymer Science: Part A-1, 5, 965-974(1967)
【非特許文献5】Tani, H. et al : Journal of Polymer Science: Part A-1, 4, 301-318(1966)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題の解決のため、非分解性であるポリアミド6やその他ポリマーとの共重合化や、側鎖の修飾などが検討されているが、ポリマー鎖を大きく変えることはポリアミド4の持つ優れた物性の喪失につながることから、ポリアミド4の物性を維持しつつ、非生分解化する技術が待たれていた。
【0010】
そこで、本発明は、基本構造を変更することなく生分解性が制御された生分解性ポリマー、及び該生分解性ポリマーを含む成形品を提供することを目的とする。更に、本発明は、基本構造を変更しない、生分解性ポリマーの生分解性の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ポリアミド4は五員環ラクタムである2-ピロリドンを塩基で活性化した後、アシル化合物を開始剤として重合する。長鎖メチレン鎖を持つアシル化合物を開始剤として用いることにより、ステアリン酸などの長鎖脂肪酸を高分子鎖末端に持つポリアミド4を得ることができるが、今回、こうした一群のポリアミド4では本来の生分解性を失い、ポリアミド4が生分解菌や活性汚泥などによっても生分解され難くなることを見出した。
【0012】
このように、本発明者らは、脂肪族炭化水素基を高分子鎖末端に導入することにより本来生分解性を持つポリアミド4に非生分解性を付与することができ、上記目的を達成することができるという知見を得た。更には、ポリアミド4以外の生分解性ポリマーであるポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA)やポリカプロラクトン(PCL)などにも脂肪族炭化水素基を高分子鎖末端に導入することにより非生分解性を付与することができるという知見も得た。
【0013】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の生分解性ポリマー、該生分解性ポリマーを含む成形品、生分解性の制御方法等を提供するものである。
【0014】
(I) 生分解性ポリマー
(I-1) 高分子鎖末端に、置換基を有していてもよい炭素数が5以上の脂肪族炭化水素基を有する生分解性ポリマーであって、但し該生分解性ポリマーの主鎖が2−ピロリドンの重合体又は共重合体であって高分子鎖末端にステアリン酸を有する場合は、重量平均分子量が35,000以上である、生分解性ポリマー。
(I-2) 前記生分解性ポリマーの主鎖が2−ピロリドンの重合体又は共重合体である、(I-1)に記載の生分解性ポリマー。
(I-3) 塩基性重合触媒及び脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物又は脂肪酸エステルを用いて重合反応を行うことにより得られる、(I-2)に記載の生分解性ポリマー。
(I-4) 前記2−ピロリドンの共重合体がラクタム類との共重合体である、(I-2)又は(I-3)に記載の生分解性ポリマー。
(I-5) 前記ラクタム類がε−カプロラクタムである、(I-4)に記載の生分解性ポリマー。
(I-6) (I-2)〜(I-5)のいずれかに記載の生分解性ポリマーと、開始剤由来の2分岐以上の分岐構造を有する2−ピロリドンの重合体又は共重合体とを含有する樹脂組成物。
(I-7) 前記開始剤由来の2分岐以上の分岐構造が2分岐又は3分岐である、(I-6)に記載の樹脂組成物。
(I-8) 前記生分解性ポリマーの主鎖が、ポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)、乳酸と4〜7員環のラクトン類との共重合体、ポリブチレンアジペート-co-テレフタレート(PBAT)、及び/又はスターチ、セルロースなどの糖鎖ポリマー若しくはその誘導体である、(I-1)に記載の生分解性ポリマー。
【0015】
(II) 成形品
(II-1) (I-1)〜(I-5)及び(I-8)のいずれかに記載の生分解性ポリマー、又は(I-6)若しくは(I-7)に記載の樹脂組成物を含む成形品。
【0016】
(III) 生分解性の制御方法
(III-1) 生分解性ポリマーの高分子鎖末端に、置換基を有していてもよい脂肪族炭素水素基を導入することを特徴とする生分解性ポリマーの生分解性の制御方法。
(III-2) 前記生分解性ポリマーが2−ピロリドンの重合体又は共重合体である、(III-1)に記載の方法。
(III-3) 塩基性重合触媒及び脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物又は脂肪酸エステルを用いて重合反応を行うことを特徴とする、(III-2)に記載の方法。
(III-4) 前記共重合体がラクタム類との共重合体である、(III-2)又は(III-3)に記載の方法。
(III-5) 前記ラクタム類がε−カプロラクタムである、(III-4)に記載の方法。
(III-6) 前記生分解性ポリマーが、ポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)、乳酸と4〜7員環のラクトン類との共重合体、ポリブチレンアジペート-co-テレフタレート(PBAT)、及び/又はスターチ、セルロースなどの糖鎖ポリマー若しくはその誘導体である、(III-1)に記載の方法。
【0017】
(IV) 2−ピロリドンの重合体又は共重合体の製造方法
(IV-1) 塩基性重合触媒及び脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物又は脂肪酸エステルを用いた重合反応を行う工程を含む、生分解性が制御された2−ピロリドンの重合体又は共重合体の製造方法。
(IV-2) 前記共重合体がラクタム類との共重合体である、(IV-1)に記載の方法。
(IV-3) 前記ラクタム類がε−カプロラクタムである、(IV-2)に記載の方法。
【0018】
(V) 生分解性が制御された生分解性ポリマーの製造方法
(V-1) 生分解性ポリマーをエチレングリコールなどのジオール化合物による加溶媒分解処理により末端を水酸化した後、脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物又は脂肪酸エステルを用いた置換基導入を行う工程を含む、生分解性が制御された生分解性ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の脂肪族炭化水素基を高分子鎖末端に有する2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、生分解性が抑制されるという優れた特性を有する上、基本構造が変化していないため2−ピロリドンの重合体又は共重合体が本来有する耐熱性、高強度などの優れた物性を維持している。そのため、本発明の2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、長期安定性を求められる用途にも適用することが可能である。
【0020】
また、その他の生分解性ポリマーの場合は、生分解性という物性は依然有しているが、生分解が開始するまでの時間を大幅に遅らせることが可能であり、一定期間の安定性が求められる生分解性用途に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試験例1の結果を示す写真である。
図2】試験例1の結果を示す写真である。
図3】試験例2の結果を示すグラフである。
図4】試験例3の結果を示すグラフである。
図5】試験例4の結果を示すグラフである。
図6】試験例5の結果を示すグラフである。
図7】試験例6(実験1)の結果を示すグラフである。
図8】試験例6(実験2)の結果を示すグラフである。
図9】試験例6(実験3)の結果を示すグラフである。
図10】試験例6(実験4)の結果を示すグラフである。
図11】試験例7(実験1)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明の生分解性ポリマーは、高分子鎖末端に、置換基を有していてもよい炭素数が5以上の脂肪族炭化水素基を有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明の生分解性ポリマーの生分解性の制御方法は、生分解性ポリマーの高分子鎖末端に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を導入することを特徴とする。
【0025】
本発明における生分解性ポリマー又はその主鎖は、本発明の効果が得られる生分解性を有するポリマーであれば特に限定されないが、例えば、2−ピロリドンの重合体又は共重合体、ポリブチレンサクシネート-co-アジペート、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)、乳酸と4〜7員環のラクトン類との共重合体、ポリブチレンアジペート-co-テレフタレート(PBAT)、スターチ、セルロースなどの糖鎖ポリマー又はその誘導体などが挙げられる。
【0026】
本発明における脂肪族炭化水素基は、生分解性ポリマーの高分子鎖末端に直接結合していてもよく、又はカルボニル基、ウレタン結合、エーテル結合等を介して結合していてもよい。即ち、該脂肪族炭化水素基は、高分子鎖末端に存在する置換基の一部であってもよく、例えば、高分子鎖末端に脂肪酸が結合している場合は、その脂肪族炭化水素部分が本発明における脂肪族炭化水素基となる。
【0027】
本発明における脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分枝鎖状(例えば、3分岐、4分岐)又は環状のいずれでもよく、また飽和炭化水素又は不飽和炭化水素のいずれであってもよいが、好ましくは鎖式炭化水素基である。該脂肪族炭化水素基の炭素数は、5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上、特に好ましくは14以上、最も好ましくは14より大きい値である。この範囲の炭素数の脂肪族炭化水素基であれば、特に優れた生分解性の抑制効果が得られる。
【0028】
本発明の生分解性ポリマーは、好ましくは脂肪酸を高分子鎖末端に有する(即ち、脂肪酸の一部として脂肪族炭化水素基を有する)。脂肪酸は、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、炭素数は5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上、特に好ましくは14以上、最も好ましくは14より大きい値である。この範囲の炭素数の脂肪酸であれば、特に優れた生分解性の抑制効果が得られる。そのような脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸などが挙げられる。
【0029】
本発明の生分解性ポリマーが、高分子鎖末端にステアリン酸を有する2−ピロリドンの重合体又は共重合体である場合、重量平均分子量が35,000以上、好ましくは40,000以上、より好ましくは50,000以上、更に好ましくは60,000以上である。当該重量平均分子量は、GPC法により測定されるものである。
【0030】
本発明の脂肪族炭化水素基を末端に有する2−ピロリドン重合体は、塩基性重合触媒及び脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物又は脂肪酸エステルを用いて2−ピロリドンを重合させることにより製造することができる。
【0031】
前記塩基性重合触媒としては、ラクタム類のアニオン重合法で一般的に用いられるアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物(水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウム等)、塩基性の有機金属化合物(n−ブチルリチウム等)などを使用できる。これらの中ではナトリウムが扱い易さや収率の点で好ましい。
【0032】
塩基性重合触媒の使用量は、2−ピロリドン1 molに対して1〜6 mo1%程度、より好ましくは2〜6 mo1%程度、更に好ましくは3〜6 mo1%程度とすることが望ましい。前記範囲内であれば、2−ピロリドン重合体の収率が極端に低くならないため、モノマーである2−ピロリドンの厳密な精製をあまり必要としない。
【0033】
本発明において脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物及び脂肪酸エステルの中でも、脂肪酸ハロゲン化物及び脂肪酸エステルが好ましい。脂肪酸ハロゲン化物としては、脂肪酸塩化物、脂肪酸フッ化物、脂肪酸臭化物などを用いることができるが、中でも、脂肪酸塩化物を用いるのが好ましい。脂肪酸エステルの中では脂肪酸メチルエステルが好ましい。
【0034】
本発明で使用する脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物及び脂肪酸エステルにおける脂肪酸としては、前述するものが挙げられる。
【0035】
前記脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物又は脂肪酸エステルの使用量は、塩基性重合触媒1 molに対して10〜90 mol%程度、より好ましくは10〜70 mol%程度、更に好ましくは10〜50 mol%程度とするのが望ましい。
【0036】
重合反応に際しては、ヘキサンなどの溶媒を使用することもできる。しかし、無溶媒でバルク重合を行う場合には、溶媒の除去が不要で操作が簡便であり、また収率が高くなる。
【0037】
重合反応においては、10〜50℃程度の消費エネルギーの低い条件を採用することができる。より好ましくは20〜50℃程度、更に好ましくは30〜50℃程度の温度である。また、発生する水素を除去するために、反応は減圧下で行うことが好ましい。
【0038】
このような条件で、2−ピロリドンに塩基性重合触媒を添加し、この塩基性重合触媒が反応して無くなった後、すなわち2〜4時間程度反応させた後、さらに脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物又は脂肪酸エステルを添加して、1〜24時間程度反応させればよい。その後、生成した重合体を、常法に従い回収すればよい。
【0039】
本発明の脂肪族炭化水素基を末端に有する2−ピロリドンの共重合体としては、本発明の効果が得られるものであれば特に限定されないが、例えば2−ピロリドンとε−カプロラクタム等のラクタム類との共重合体が挙げられる。
【0040】
脂肪族炭化水素基を高分子鎖末端に有する2−ピロリドンとε−カプロラクタムの共重合体は、2−ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒と脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物又は脂肪酸エステルを使用してε−カプロラクタムとの共重合を行うことにより製造することができる。
【0041】
上記2−ピロリドンとε−カプロラクタムの配合割合はモル比で(2−ピロリドン/ε−カプロラクタム)=(99/1)〜(2−ピロリドン/ε−カプロラクタム)=(1/99)まで任意の割合が可能であり、その割合により得られたポリアミド4共重合体の物性を制御することができる。
【0042】
上記塩基性重合触媒としては、前述するものと同様のものを使用でき、塩基性触媒の使用量は2−ピロリドンとε−カプロラクタムの合計量1 molに対して好ましくは1.0〜18 mol%、より好ましくは1.5〜9 mol%、更に好ましくは3〜4.5 mol%である。上記脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物及び脂肪酸エステルとしては、前述するものと同様のものを使用でき、脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物及び脂肪酸エステルの使用量は2−ピロリドンとε−カプロラクタムの合計量1 molに対して好ましくは0.5〜16.5 mol%、より好ましくは0.5〜7.5 mol%、更に好ましくは0.5〜3 mol%である。
【0043】
反応に際しては、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒を使用することもできる。一方、無溶媒でバルク重合を行う場合には、溶媒の除去が不要という利点があるが、塊状のポリアミド4共重合体が得られるので粉砕操作が必要となる。
【0044】
また、重合反応は20〜180℃程度の条件で行うことができる。より好ましくは50〜150℃程度、更に好ましくは75〜125℃程度の温度である。ただし、仕込みモノマーであるε−カプロラクタムの割合が高い場合はその融点以上にすることが必要である。発生する水素を除去するために、反応は減圧下で行うことが好ましい。
【0045】
このような条件で、2−ピロリドンに塩基性重合触媒を添加し、この塩基性重合触媒が反応して無くなった後、すなわち2〜4時間程度反応させた後、ε−カプロラクタムを加えて均一な反応混合物とする。なお、均一な反応混合物とするのに2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、及びナトリウムを同時に混合してもよい。さらに脂肪酸ハロゲン化物、脂肪酸無水物又は脂肪酸エステルを添加して、12〜168時間程度反応させればよい。その後、生成した重合体を、常法に従い回収すればよい。
【0046】
また、本発明の脂肪族炭化水素基を末端に有する2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、重合反応後に2−ピロリドンの重合体又は共重合体に脂肪族炭化水素基を導入することにより製造することもできる。これは、例えば、脂肪族炭化水素基を持つイソシアネート化合物やエポキシ化合物を水酸基などの反応性基を導入した2−ピロリドンの重合体又は共重合体と反応させることにより行うことができる。
【0047】
本発明の2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、開始剤由来の2分岐以上(好ましくは2分岐又は3分岐)の分岐構造を有する2−ピロリドンの重合体又は共重合体と混合し、樹脂組成物として使用することもできる。この際の2種類の化合物の混合割合は、所望の性質が得られる割合に適宜設定すればよい。
【0048】
開始剤由来の2分岐以上の分岐構造を有する2−ピロリドンの重合体は、特開2002-265596号公報に記載されているような公知の方法に従い合成することができる。また、開始剤由来の2分岐以上の分岐構造を有する2−ピロリドンの共重合体としては、例えば2−ピロリドンとε−カプロラクタム等のラクタム類との共重合体が挙げられる。これは、特開2009-155608号公報に記載されている方法に従い合成することができる。また、上記開始剤としては、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸エステル及びカルボン酸無水物が挙げられる。
【0049】
2−ピロリドンの重合体又は共重合体以外の生分解性ポリマーについては、高分子鎖末端の水酸基をステアロイル化クロリド等の脂肪酸塩化物により修飾することで長鎖脂肪酸基の導入が可能であり、この手法は水酸基末端を持つ生分解性ポリマーに有効である。生分解性ポリマーが高分子鎖末端に水酸基を持たない場合、エチレングリコールなどのジオールで一部ソルボルシスするなどの手法で水酸基末端を導入することができる。
【0050】
本発明の生分解性ポリマー及び上記樹脂組成物を溶融成形することにより成形品を製造することができる。溶融成形とは、樹脂組成物を加熱溶融し成形する方法を意味し、成形方法としては溶融紡糸、射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形等が挙げられる。当該溶融成形により得られる成形品としては、繊維、フィルム、シート、チューブ、容器、棒等が挙げられる。
【0051】
このように、2−ピロリドンの重合体又は共重合体が脂肪族炭化水素基を高分子鎖末端に有することにより、生分解性を抑制することができ、且つ基本構造が変化していないため2−ピロリドンの重合体又は共重合体が本来有する耐熱性、高強度などの優れた物性を維持することができる。また、その他の生分解性ポリマーの場合は、脂肪族炭化水素基を高分子鎖末端に有していても、生分解性という物性を依然有しているが、生分解が開始するまでの時間を大幅に遅らせることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0053】
製造例1:長鎖脂肪酸末端を有するポリアミド4の合成
塩基性触媒としてナトリウム(和光純薬工業(株)) 4.5 mmolを2-ピロリドン(和光純薬工業(株)) 100 mmolに添加し、50℃にてナトリウムが反応しなくなるまで約4時間撹拌した。その後、連続相としてn-ヘキサン(和光純薬工業(株)) 30 mlを加え、マグネティックスターラーを用いて強く撹拌(例;800rpm)し、十分に懸濁させた後、長鎖脂肪酸導入のための開始剤として塩化ステアロイル(Sigma-Aldrich Co.) 3.0 mmolを加えて、強く撹拌し懸濁状態を保ったまま50℃で約1日間、開環重合を行った。その後、ろ過により、ステアロイル基(C18)を末端とするポリアミド4が収率78%で得られた。表1に示す脂肪酸末端を有するポリアミド4も同様の手法で合成した。本方法は懸濁重合法の例であるが、バルク重合でも合成が可能である。
【0054】
【化1】
【0055】
【表1】
【0056】
PA4: 1,3,5-ベンゼントリカルボニルクロライドを開始剤とした三分岐型ポリアミド4(対照)
C2〜C18: 各種脂肪酸末端を持つポリアミド4
C2〜C16は和光純薬工業(株)、C18はアルドリッチの酸塩化物を重合に用いた。
【0057】
試験例1:脂肪酸末端を有するポリアミド4の生分解性(微生物)
・方法
0.06 mM MgSO4, 0.25 mM CaCl2, 3.72 mM FeCl3, 0.3 mM (NH4)SO4, 0.125 mM KH2PO4, 0.25 mM K2HPO2, 0.25 mM Na2HPO4, 0.064 mM NH4Clに1%ポリマー粉末(ポリマーの種類:PA4, C3, C6, C10, C12, C14, C16, C18)を分散させた培地に、2%寒天末(Difco)を加え平板培地を作成した。培地に用いた試薬は和光純薬工業(株)製、ポリマーは製造例1で合成したポリマーを用いた。ポリアミド4分解菌シュードモナス属ND-11株(特許第3598347号公報参照)を上記の平板培地で培養することにより、脂肪酸末端ポリアミド4の微生物による生分解性をクリアゾーン形成の有無を目視判定して調べた。
【0058】
・結果
37℃で7日間静置培養した結果を図1及び2に示す。PA4及びC2〜C6までは菌体の周辺のポリマーが消失(ハローが生成→生分解)しているが、末端の疎水性が大きくなるC12より長鎖の脂肪酸末端を有するポリマーは生分解していない。
【0059】
試験例2:脂肪酸末端を有するポリアミド4の生分解性(活性汚泥)
・方法
JIS K6950に記載されている無機培地に製造例1で合成したポリマー粉末(ポリマーの種類:PA4, C2, C3, C6, C10, C12, C14, C18)を分散させ、BOD測定装置(タイテック, BOD tester 200F)を用いて、JIS K6950に準拠した方法で生分解に伴う酸素消費量を測定する手法で生分解試験を行った。微生物源としては標準活性汚泥(化学物質評価研究機構)を使用した。
【0060】
・結果
結果を図3に示す。図3の結果から、C10以上の長鎖の場合は生分解が抑えられ、その効果はC12以上で特に高いことが分かった。
【0061】
以下の表に本試験例で使用したポリアミド4の数平均分子量及び重量平均分子量を示す。数平均分子量及び重量平均分子量は、高速GPCシステム(東ソー社製、HLC-8220GPCシステム)により、ポリメチルメタクリレートを標準物質として用いて測定した結果から算出した。
【0062】
【表2】
【0063】
試験例3:ブレンド系の生分解性(活性汚泥)
・方法
製造例1で合成したポリマー(PA4とC18)を重量比95/5, 50/50, 30/70 (PA4/C18)で混合し、トリフルオロエタノールで均一溶液とした後、キャスト法にてブレンドフィルムを作成し、これを凍結粉砕機(米国SPEX社製FreezerMill 6700)で粉砕した後、試験例2と同様の手法で活性汚泥生分解試験を行った。
【0064】
・結果
結果を図4に示す。図4の結果から、通常の生分解性を示すポリアミド4に末端に長鎖脂肪酸を持つポリアミド4をブレンドすることで生分解性を抑制することが可能であり、ブレンド比を変えることによって生分解性の制御が可能であることが分かった。
【0065】
製造例2:ステアロイル末端を持つPBSAの合成
1.PBSAの両末端を水酸基にする
PBSA (昭和高分子製 ビオノーレ#3003) 10 g
エチレングリコール 1 g
上記混合物を180℃24h反応後、クロロホルムに溶解し、メタノール中に注いで再沈殿させて精製した(収率57.6%)。以降、これをPBSAジオールと称する(以下のPCLジオール、PBSジオール、及びPLAジオールも同様である)。
【0066】
2.ステアロイル基の導入
PBSAジオール2 g (0.48 mmol)と溶媒(クロロホルム5 mL)をフラスコに入れ、完全に溶解した後、炭酸水素ナトリウム0.32 g (3.84 mmol)を加え、次いで、ステアロイルクロリド0.29 g (0.96 mmol)を加え、60℃、24時間スターラーで撹拌して反応させた。反応後の処理は、反応溶液を濾紙でろ過し、メタノール中に注いで再沈殿させて、ステアロイル化PBSAを白色固体として1.17 g得た(収率52%、表3中のstPBSA(I))。また、反応時間を変化させるとステアロイル基の導入率を変えることもできる(表3中のstPBSA(II)、(III))。
【0067】
同様にして、PCL、PBS、PLAもステアロイル化することができる。
【0068】
・ステアロイル化PCL
PCLジオール5.4 g (0.5 mmol)と溶媒(クロロホルム5 mL)をフラスコに入れ、完全に溶解した後、炭酸水素ナトリウム0.32 g (3.84 mmol)を加え、次いで、ステアロイルクロリド0.30 g (1 mmol)を加え、60℃、24時間スターラーで撹拌して反応させた。反応後の処理は、反応溶液を濾紙でろ過し、メタノール中に注いで再沈殿させて、ステアロイル化PCL (stPCL)を白色固体として3.41 g得た(収率60%)。
【0069】
・ステアロイル化PBS
PBSジオール3.0 g (0.38 mmol)と溶媒(クロロホルム10 mL)をフラスコに入れ、完全に溶解した後、炭酸水素ナトリウム0.26 g (3.04 mmol)を加え、次いで、ステアロイルクロリド0.23 g (0.76 mmol)を加え、60℃、24時間スターラーで撹拌して反応させた。反応後の処理は、反応溶液を濾紙でろ過し、メタノール中に注いで再沈殿させて、ステアロイル化PBS (stPBS)を白色固体として2.17 g得た(収率68%)。
【0070】
・ステアロイル化PLA
PLAジオール1.0 g (0.77 mmol)と溶媒(クロロホルム5 mL)をフラスコに入れ、完全に溶解した後、炭酸水素ナトリウム0.5 g (5.95 mmol)を加え、次いで、ステアロイルクロリド0.48 g (1.58 mmol)を加え、60℃、24時間スターラーで撹拌して反応させた。反応後の処理は、反応溶液を濾紙でろ過し、メタノール中に注いで再沈殿させて、ステアロイル化PLA (stPLA)を白色固体として0.54 g得た(収率38%)。
【0071】
以下の表に、ステアロイル化(st化)されていない樹脂と上記方法によりst化された樹脂の特性について示す。
【0072】
【表3】
【0073】
試験例4:脂肪酸末端ポリカプロラクトン(PCL)の生分解性(活性汚泥)
・方法
表3に示したPCLとstPCLを試験例2と同様の手法で活性汚泥生分解試験を行った。
【0074】
・結果
結果を図5に示す。図5の結果から、ステアロイル末端を持つPCLでは生分解が抑制されることが分かった。
【0075】
試験例5:脂肪酸末端ポリブチレンスクシネートアジペート(PBSA)の生分解性(活性汚泥)
・方法
表3に示したPBSAとstPBSA(I)を試験例2と同様の手法で活性汚泥生分解試験を行った。
【0076】
・結果
結果を図6に示す。図6の結果から、ステアロイル末端を持つPBSAでは生分解が抑制されることが分かった。
【0077】
試験例6:脂肪酸末端PCL、PBSA及びPBSの生分解性(酵素加水分解試験)
(実験1)
酵素:リパーゼ(Rhizopus Delemar, 生化学工業), 200, 500, 2000 unit
条件:24時間、37℃
ポリマー:表3に示したPCL (ダイセル、プラクセルH1P)、ステアロイル化PCL (導入率10%)を凍結粉砕器(SPEX社, 6700Freezer/Mill)で粉末化した試料として各20 mg
実験方法:容量7.5 mLのスクリューネジ式フタのついた試験管にポリマー試料20 mgを入れ、次いで所定量の粉末リパーゼを溶解させたリン酸緩衝液(pH 7)を5 mL加えて、撹拌した後、37℃温浴中にて所定時間静置し、酵素加水分解反応を進行させた。このとき、対照実験として、ポリマー試料の入っていない酵素とリン酸緩衝液のみの試験管、酵素の入っていないポリマー試料のみの入ったリン酸緩衝溶液の試験管も37℃に静置した。それぞれの試験管はn=3又はn=2で行った。
生分解性評価:37℃で酵素加水分解試験に供された溶液は20 mlに希釈した後、0.20μmディスポフィルターにてろ過した。酵素加水分解によって可溶化した有機物成分の濃度は、このろ液をTOC(全有機性炭素測定装置、Shimadzu製, TOC-VCSH)により測定し、酵素のみと、ポリマー試料のみの対照実験の値を引いた後に、完全可溶化した際の濃度で除することにより酵素加水分解率を求めた。結果を図7に示す。
結果:未修飾のPCLではリパーゼ量が増えると24時間での生分解(加水分解量)は増加したが、ステアロイル化すると若干量は生分解されるが、その量は酵素量によらずほぼ一定であった(酵素量を増やしても生分解が大きく進むわけではない)。
【0078】
(実験2)
酵素:リパーゼ(Rhizopus Delemar), 500 unit
条件:24時間、37℃
ポリマー:表3に示したPBSA (昭和高分子、ビオノーレ#3001のジオール化物), ステアロイル化PBSA (6.8 - 11.4%)を粉砕試料として各20 mg
生分解性評価:実験1と同様の方法により行った。結果を図8に示す。
結果:用いた条件で未修飾PBSAでは10%超分解されたが、末端ステアロイル化が6.8%以上あれば生分解抑制効果が現れることが分かった。
【0079】
(実験3)
酵素:リパーゼ(Rhizopus Delemar), 500 - 2000 unit
条件:24 - 72時間、37℃
ポリマー:表3に示したPBSA (昭和高分子、ビオノーレ#3001のジオール化物), ステアロイル化PBSA (導入率 11.4%)を粉砕試料として各20 mg
生分解性評価:実験1と同様の方法により行った。結果を図9に示す。
結果:実験2では未修飾PBSAとステアロイル化PBSAとの生分解の差がそれほど顕著ではなかったが、より生分解の進行する条件下(2000 units, 72 h)では未修飾PBSAの生分解が進行するのに、ステアロイル化体ではよりゆるい条件(500 units, 24 h)での生分解とほぼ変わらない結果となり、ステアロイル化の効果が明確に分かった。
【0080】
(実験4)
酵素:リパーゼ(Rhizopus Delemar), 500 - 2000 unit
条件:24 - 72時間、37℃
ポリマー:表3に示したPBS, ステアロイル化PBS (導入率 0.4%), 各20 mg
生分解性評価:実験1と同様の方法により行った。結果を図10に示す。
結果:PBSAと比して生分解を受け難いとされるPBSでも2000 units, 72 hでは少ないながらも未修飾体では生分解されるが、ステアロイル化体ではその生分解抑制効果が見られた。
【0081】
試験例7:脂肪酸末端PLAの生分解性(非酵素的加水分解試験及び酵素加水分解試験)
(実験1:非酵素的加水分解試験)
重水(D2O):内部標準としてDSS (3-(トリメチルシリル)-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩, MERCK製) 50 mgを溶解させた重水100 g
条件:121℃、40-200分
ポリマー:表3に示したPLA (ポリ乳酸(Tm165℃)のジオール化物), ステアロイル化PLA (末端OHへのstの導入率=8.1%, 樹脂中のst部の重量%は1.68wt%), 微粉末各30 mg
実験方法:容量15 mLの試験管中にポリマー試料30 mgを入れ、0.05wt%DSSを含んだ重水を7.5 mL加え、オートクレーブ中121℃にて非酵素的加水分解促進試験を行った。
生分解性評価:オートクレーブによる加水分解試験の最中、所定の時間ごとにオートクレーブから試験管を取り出し、ポリマー粉末が混入しないように上澄み部分0.6 mLをサンプリングし、そのまま1HNMR測定して、加水分解によって水溶性化した部分の定量を行った。NMRスペクトル上で、内部標準試薬であるDSSのメチルプロトンを基準(0.000 ppm)とし、またそのピーク強度を100.00として、1.6-1.35 ppmに出現する乳酸と水溶性乳酸オリゴマーのメチルプロトンの強度の総量を計測した。一方で、3.0 mg乳酸を7.5 mLの0.05wt%DSSを含んだ重水に溶解させた試料のNMRを測定し、1.6-1.35 ppmのスペクトル強度を、PLAの10%加水分解したときの強度として検量線を作成した。この検量線と1.6-1.35 ppmの強度とから水溶性乳酸オリゴマー量に基づく加水分解率を求めた。結果を図11に示す。
結果:樹脂末端として導入されたステアロイル基は1.68wt%程度でも加水分解抑制効果を示した。コンポストによる生分解は58-60℃付近での非酵素的な加水分解反応が律速段階といわれており、本結果はコンポストでの生分解を効果的に抑制することを示唆している。
【0082】
(実験2:酵素加水分解試験)
酵素:プロティナーゼK (ProteinaseK, 和光純薬), 200 unit
リン酸緩衝液(0.1M, pH 7):5 ml
条件:90時間、37℃
ポリマー:実験1と同じ試料(PLAジオール化物, ステアロイル化PLA), 微粉末各20 mg
実験方法:試験例6実験1と同様の方法により行った。
生分解性評価:37℃で酵素加水分解試験に供された溶液は40 mlに希釈した後、0.20μmディスポフィルターにてろ過した。ろ液15 mlを蒸発乾固させた。乾固物中に含まれる、酵素加水分解によって可溶化した有機物成分の定量は、乾固物に内部標準としてDSS 0.05wt%を含んだ重水を0.6 mL入れて、乾固物を完全に溶解させた後に1HNMRを測定し、分解物に由来するプロトンピークの強度を別途作成した検量線に照らし合わせて行った。結果を表4に示す。
結果:樹脂末端として導入されたステアロイル基は実験1と同様の加水分解抑制効果を示した。
【0083】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11