(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
イオンビームを発生させるガス電界電離イオン源と、試料を保持する試料ステージと、前記ガス電界電離イオン源から放出されるイオンビームを集束して前記試料上に照射するレンズ系と、前記イオンを偏向して前記試料上のイオンビームの照射位置を変える偏向系と、前記試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器と、前記二次粒子検出器の検出結果を用いて前記試料の観察像を形成する画像処理部と、前記レンズ系および前記偏向系を制御して前記イオンビームの照射位置を調整する制御部とを備えたイオンビーム装置であって、
前記ガス電界電離イオン源は、
先端に単原子または三原子を有する微小突起を備えた、針状の先端を持つエミッタ電極と、
前記エミッタ電極の先端方向に離間した位置に開口を有する引出電極と、
前記エミッタ電極の先端近傍へガスを供給するガス供給部と、
前記ガスの圧力を制御するガス圧制御部と、
前記エミッタ電極と前記引出電極との間に引出電圧を印加して前記エミッタ電極の先端近傍に前記ガスをイオン化する電界を形成する引出電圧印加部と、
前記ガスの圧力を第1のガス圧として、第1の引出電圧を印加したときに、前記エミッタ電極の先端の第1のイオン放出領域からイオンが放出される第1の動作状態と、前記ガスの圧力を前記第1のガス圧より大きい第2のガス圧として、前記第1の引出電圧より大きい第2の引出電圧を印加したときに、前記第1のイオン放出領域より大きい第2のイオン放出領域からイオンが放出される第2の動作状態との少なくとも二つの動作状態で、前記第2の動作状態における前記試料上のイオンビームの電流を前記第1の動作状態よりも大きくするよう、イオンビームを出射するよう制御するイオン源制御部とを有することを特徴とするイオンビーム装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の基本的な概念について図面を用いて説明する。
【0015】
・小領域放出と大領域放出
まず、
図1を用いて引出電圧とイオン電流との関係について説明する。
図1では、ガス電界電離イオン源における動作モードの切り替えを示す電流−電圧特性図(模式的に表した両対数表示のグラフ)が示されている。エミッタ電極と引出電極との間に印加する引出電圧を横軸に取り、エミッタ電極からの放出イオン電流の密度を縦軸に取ったものが
図1(A)である。放出イオン電流の密度とは、放出イオン電流をエミッタ電極の先端部のイオンが放出されている面積で除算したものであり、エミッタ電極の単位領域あたりの放出イオン電流を表す。ここで、線1000はエミッタ電極近傍のガス圧力を通常設定した場合を表す。引出電圧を増加させると、エミッタ電極先端には微小突起があるため、しばらくは限られた小領域からのみイオン放出が起きる。この動作状態を小領域放出状態と呼ぶこととする。この小領域は微小突起の構造に依存して決まり、代表的なものに単原子(Single Atom)や三原子(Trimmer)がある。さらに引出電圧を増加させるとイオン電流の密度は引出電圧の増加量に対して増加割合が小さくなる状態、いわゆる飽和レベルとなる。この飽和のレベルはエミッタ電極近傍のガス圧力で決まる。通常はイオン電流の密度および総電流量が飽和レベルに入ってすぐあたりの動作ポイント2000で使用する。ここで飽和レベルとは、
図1(B)で、引出電圧を上げていくと引出電圧の増加量に対して総電流量の増加割合が小さくなった状態(動作ポイント2000より引出電圧Vが大きい側のグラフで示される状態)を意味する。飽和レベルに入ってすぐの引出電圧を用いることで、引出電圧をなるべく低い状態で電流密度を高くすることができるので、エミッタ電極の先端の形状が破壊されにくくなる。ここからさらに引出電圧を増加させると、小領域以外からもイオン放出が始まり、イオン電流の密度が低下しだす。この動作状態を大領域放出状態と呼ぶこととする。
図1(B)は引出電圧を横軸に取り、エミッタ電極の先端全体からの放出イオン電流を縦軸に取ったものである。同じガス圧力設定での線1100は大領域放出でも下がらない。引出電圧が一定であれば、全放出イオン電流はガス圧力によって決まっている。イオンが放出される領域(以下、イオン放出領域という)にわたって、単位領域あたりの放出されるイオンの量を積算すると全放出イオン電流となる。
【0016】
・小領域放出でのガス圧増加による微小突起破壊
次に、
図1を用いてエミッタ電極近傍に供給されるイオン化ガスの圧力とイオン電流との関係について説明する。ガス圧が一定であれば、電流密度および全電流量は引出電圧で決まるが、ガス圧が変化するとこれらはそれに応じて変化する。
図1(A)の線1001および
図1(B)の線1101は、エミッタ電極近傍のガス圧を通常より低下させた場合を表す。小領域放出である動作ポイント2000から、それと同じ引出電圧の動作ポイント2001へ移行すると、放出イオン電流の密度および全放出イオン電流は低下する。これらの動作ポイントの間の移行は、可逆的に行えるのでイオン光学系を通して試料上に照射するイオンビームの電流を調整するために使われる。
【0017】
次に、
図1(A)の線1002および
図1(B)の線1102は、エミッタ電極近傍のガス圧を通常より増加させた場合を表す。小領域放出である動作ポイント2000から、それと同じ引出電圧の動作ポイント2002に移行すると、放出イオン電流の密度および全放出イオン電流は増加するが、すぐにエミッタ電極先端の微小突起が破壊されてイオン放出が止まってしまう。その理由は、ガス圧を上げると、供給ガス中に含まれる不純物ガスがエミッタ電極に吸着されやすくなり、エミッタ電極の材料の電界蒸発確率が増大するためである。したがって、単純にガス圧力を上げる方法では、放出イオン電流を増大させた後に、その都度エミッタ電極の先端構造を再成形する必要があり、イオンビーム電流の大きさを頻繁に変更することは困難である。
【0018】
・大領域放出でのガス圧増加の作用
本発明では、放出イオン電流を増加させるために、引出電圧を上げることで大領域放出状態にしてからガス圧を増加させる。これは、
図1(A)および
図1(B)において、動作ポイント2000から動作ポイント2003へ移行させる経路に対応する。この方法によれば、エミッタ電極先端の小領域が破壊されないため、可逆的に放出イオン電流を変更することができる。特に、ガス圧を上げ、従来の方法ではエミッタ電極が破壊されやすい状態(線1002、1102で表される状態)と同じまたはそれ以上のガス圧にしてイオン電流を増大させても、本発明の方法によれば、エミッタ電極が破壊される確率を低減できる。したがって、一旦このような大電流の動作状態にした場合であってもその後エミッタ電極を再成形することなく、イオンビーム電流を小さくすることが可能となる。
【0019】
この理由は
図1(A)により説明できる。動作ポイント2003では、放出イオンの電流密度が通常の動作ポイント2000とほぼ同じである。また、動作ポイント2003での電流密度はエミッタ電極が破壊されやすくなる状態である動作ポイント2002での電流密度より小さい。エミッタ電極近傍に供給されるガスはエミッタ電極先端のイオン放出領域に到達する前に多くが周辺でイオン化されて減っている。このことと同様に、エミッタ電極近傍に供給されるガスに含まれる不純物ガスもエミッタ電極先端のイオン放出領域に到達する前に多くが周辺でイオン化されて減っている。したがって、エミッタ電極先端のイオン放出領域すなわち微小突起の近傍のガス環境は、動作ポイント2000と動作ポイント2003の間でほとんど変わらないため、微小突起が短時間で破壊される現象が生じないのである。言い換えれば、エミッタ電極が破壊される確率はガス圧とイオン放出領域の大きさとの割合、すなわちイオン放出領域の単位領域あたりでイオン化により消費される吸着ガス量(またはイオン放出領域の単位領域あたりに供給される吸着ガス量)に依存しており、本発明の方法ではイオン放出領域の大きさを決めている引出電圧をガス圧に連動して制御することでエミッタ電極が破壊される確率を低減している。
図1(B)の動作ポイント2003で示されるように、大領域放出状態でガス圧を増大させることで、エミッタ電極の微小突起の寿命が短くなる確率を低減しつつ、全イオン電流を増大させることができる。
【0020】
なお、動作ポイント2000と動作ポイント2003との間の移行では放出イオン電流の密度が増大しないように、引出電圧とガス圧を制御することが肝要である。
【0021】
本発明のガス電界電離イオン源、およびそれを用いたイオンビーム装置に係る実施の形態ついて、以下、図面と共に説明する。以下では、イオンビーム装置とは、例えばイオン顕微鏡、イオンビーム加工観察装置、イオンビーム加工観察装置とイオン顕微鏡との複合装置、イオン顕微鏡と電子顕微鏡との複合装置、イオン顕微鏡と電子顕微鏡を適用した解析・検査装置を含むものとする。当然ながらガス電界電離イオン源を用いたイオンビーム装置であれば上記の装置に限られない。
【実施例1】
【0022】
・イオン源の基本構成と基本動作
本実施の形態に係るガス電界電離イオン源の全体構成図を
図2に示す。以下、
図2を用いてイオン源の基本構成と基本動作を説明する。ガス電界電離イオン源100の中心部分は、先端が針状のエミッタ電極1と、その先端から離間した位置に配置した、中心に開口を持つ引出電極2である。これらは真空容器10の中に保持されている。エミッタ電極1の先端近傍にはイオン化すべきガスが供給されている。このガスの圧力はガス供給系3とガス排気系11の動作バランスにより調整されている。ガス供給系3にはガス源とガス導入配管が含まれる。ガス排気系11には真空ポンプとガス排気管が含まれる。また、ガス供給系3とガス排気系11の動作はガス圧制御部92によって制御される。エミッタ電極1と引出電極2の間に、引出電圧印加部4によりエミッタ電極1側を正とする高電圧を印加すると、ある閾値以上でガスのイオン化が起こり、エミッタ電極1の先端からイオンビーム5が放出される。イオンビーム5の拡がりが大きい場合、中心に開口を有するイオン源絞り6により、イオンビーム5の外側の一部が通過を制限される。イオン源制御系90は、引出電圧印加部4とガス供給系3とガス排気系11とを含むイオン源全体を制御するとともに、他の機器やユーザからの入出力も制御する。なお、エミッタ電極1や引出電極2の保持部、真空排気部、冷却部、高電圧絶縁部などは説明に不要なので記述を省略した。イオン源制御系90やこれに含まれる各制御部は、専用の回路基板によってハードとして構成されていてもよいし、イオンビーム装置に接続されたコンピュータで実行されるプログラムによって構成されてもよい。
【0023】
・イオン放出の状態
次に引出電圧に対応してエミッタ電極先端部でのイオン放出の状態が変化する様子について説明する。本実施例のエミッタ電極1としては、針状に成形したタングステン(W)の基材にイリジウム(Ir)をコートして、アニールにより先端に三角錐状のナノピラミッド構造を形成したものを用いている。またイオン化すべきガスとしてはネオン(Ne)を用いている。エミッタ電極1の最先端は単原子(Single Atom)である。このエミッタ電極1からのイオン放出の代表的状態を表した模式図を
図3に示す。引出電圧を増加していくと
図3(A)から
図3(B)の状態を経て
図3(C)の状態へ推移する。
図3(A)は
図1で説明した小領域放出状態であり、イオン放出領域は単原子である。
図3(B)は
図1で説明した大領域放出状態の一つで、先端の単原子だけでなく周辺の原子からもイオンを放出する状態である。
図3(C)はさらに引出電圧をあげた際の大領域放出状態で、先端の単原子部分ではイオン放出がおきなくなっている。これは中心の電界が強すぎてイオン化条件を満たさなくなったためである。本実施例では
図3(A)の状態と
図3(B)の状態でイオン源として使用する。
【0024】
・引出電圧とガス圧の連動
次に、本実施例の特徴の一つとして引出電圧とガス圧の制御を連動させる点を説明する。イオン源制御系90では、
図3(A)の小領域放出状態に対応する通常の引出電圧と、
図3(B)の大領域放出状態に対応し
図3(A)の状態での引出電圧より高い引出電圧とがメモリ93に記憶されている。例えば、本実施例では
図3(B)の大領域放出状態では
図3(A)の状態の約10倍の放出領域となる。エミッタ電極1の先端近傍のガス圧を決めるガス供給系3とガス排気系11の動作バランスをつかさどるガス圧制御部92の動作状態として、第1のガス圧の場合と、第1のガス圧より高い第2のガス圧の場合とがメモリ94に記憶されている。以下、第1のガス圧を通常のガス圧ということもある。例えば、本実施例では第2のガス圧は第1のガス圧の約10倍である。イオン放出状態のメモリ95には、通常モードとして通常の引出電圧と通常のガス圧の組合せが記憶されている。また、大電流モードとして高い引出電圧と高いガス圧の組合せが記憶されている。メモリ95に記憶されるイオン放出状態の間の遷移に関するシーケンスはメモリ96に記憶されている。ここで、ユーザまたは他の機器からイオン源制御系90にイオン放出状態の指定があると、制御系本体部91は関連するメモリ93〜96を読みだして、引出電圧印加部4とガス供給系3とガス排気系11とを適正に制御する。ガス供給系3とガス排気系11の制御はガス圧制御部92を通して行われる。
【0025】
通常モードから大電流モードに遷移する場合には、引出電圧を上げてからガス圧を上げる制御を行う。逆に、大電流モードから通常モードに遷移する場合には、ガス圧を下げてから引出電圧を下げる。
【0026】
通常モードと大電流モード間の遷移は
図1(A)において動作ポイント2000と2003との間を遷移することに対応する。このとき、エミッタ電極1の先端部のイオン放出領域におけるイオン放出電流の密度が通常より高くならないように引出電圧とガス圧を連動して制御する。より正確には、イオン放出電流の密度が、予め決められている、イオン放出領域の単位領域あたりでイオン化により消費される吸着ガス量(またはイオン放出領域の単位領域あたりに供給される吸着ガス量)を超えないように、引出電圧とガス圧を連動して制御する。好ましくは動作ポイント2000の状態でのガス圧における最大電流密度以下となるように引出電圧とガス圧を連動して制御するとよい。基本的なルールは、ガス圧が高いモードから遷移するときにはまず下げてから電圧を変化させること、ガス圧が低いモードから遷移するときには電圧を先に変化させること、である。
【0027】
これを
図1(A)を用いて説明する。領域3000を、遷移前の動作ポイント2000、遷移先の動作ポイント2003、およびこれらの動作ポイントで規定される引出電圧値V
1、V
2で囲まれるグラフ上の領域として定義する。本実施例によれば、少なくとも引出電圧がV
1からV
2に遷移する間は領域3000の内部だけを通って動作状態が遷移するように、引出電圧とガス圧を制御する。言い換えれば、少なくとも引出電圧がV
1からV
2に遷移する間は、動作ポイント2000と動作ポイント2003を結ぶ線分上に位置する各動作状態より電流密度が低くなるように、引出電圧とガス圧を制御する。具体的には、
図1(A)の矢印3001のような経路でも遷移させてもよいし、矢印3002のような経路で遷移させても良い。矢印3001の経路は、引出電圧を上げてからガス圧を上げて動作ポイント2000から動作ポイント2003に遷移する状態、またはガス圧を下げてから引出電圧を下げて動作ポイント2003から動作ポイント2000に遷移する状態を表している。矢印3002は引出電圧とガス圧を連動して制御する様子を表している。なお、経路はこれに限定されるものではない。
【0028】
このような適正な制御により、エミッタ電極1の小領域のイオン放出電流の密度が通常より高くならないので、エミッタ電極1の微小突起が破壊される確率が低減される。以上のような特徴的な制御によって、エミッタ電極1先端の微小突起、単原子(Single Atom)を含むナノピラミッド構造を破壊される確率を抑えつつ、大電流のイオンを取り出すことが可能である。このイオン源を走査イオン顕微鏡等のイオンビーム装置に用いれば、反射イオン分析などでイオン電流を調整して高SNRな信号を得ることが可能である。
【0029】
なお、便宜上、大電流モードと通常モードとして説明したが、イオンビーム電流値が異なる二つの状態であればよく、前述の大電流モードを通常モードとし前述の通常モードを小電流モードとして称することもできる。さらに、二つのモードのみで説明したが、モードの数は二つに限られず、イオンビーム電流量に応じて段階的にモードを設けてもよい。
【0030】
・制限絞りの材質
次に、本実施例の更なる特徴として、イオン源絞りの材質について説明する。本実施例ではイオン源絞り6の材質をエミッタ電極1の表面の材質と略同一としている。具体的にはイオン源絞り6の材質はIrを用いている。本実施例のように大電流のイオンビームを取り出したときにはイオンビーム5の開き角が大きくなりイオン源絞り6に当たる確率が高まる。イオンがイオン源絞り6に照射されると僅かながらもスパッタリングが生じ、スパッタされたイオン源絞り6の材料粒子はエミッタ電極1方向にも飛散する。これが長期的にはエミッタ電極1の先端構造を変形させてイオン放出を不安定にする可能性がある。本実施例ではイオン源絞りをIrとしたため、エミッタ電極1に降り注ぐスパッタ粒子はIrである。エミッタ電極1の表面はもともとIrであり、そこへ余分なIrがついても適当なアニールをほどこすことにより元と同じナノピラミッド構造を再生することができる。したがって、イオン源絞りのスパッタを起因とするイオン放出の不安定化を抑制することが可能となるという更なる効果を奏することができる。
【0031】
・補足事項
なお、以上の説明では、
図3(C)の状態は、ガス電界電離イオン源100からのイオンビーム5を後段に接続するイオン光学系などで集束する場合に収差が大きくなるため、使用しないこととした。しかし、この状態でのバーチャルソース(仮想光源)が大きい訳ではないので、使うイオン光学系の許容度が大きければ、より大電流を得るために使用することは可能である。バーチャルソース(仮想光源)とは、エミッタ表面からの放出イオンの軌道群を逆方向に延長したときに最も狭くなる部分のことで、エミッタ表面の面積より小さい。通常、仮想光源をレンズで試料上に投射する光学系とすることで最小のビーム径が得られる。また、イオン光学系の許容度が大きいとは、球面収差などの軸外収差が小さいために、広い開き角のイオンビームを入射させても試料上のイオンビーム径にそれらの影響が出ない状態をいう。言い換えれば、仮想光源の大きさや色収差がビーム径を決める主な要因となる状態である。
【0032】
また、以上の説明では、イオン化するガスとしてNeを用いたが、これ以外のガスであっても良い。ただし、Neよりイオン化電界の高いヘリウム(He)を用いる場合には、極度の低温で動作させる場合を除き、
図3(B)および(C)の状態を実現するのは難しい。ガス圧力に係らず電界蒸発が起きてエミッタ電極先端が破壊するためである。したがって、本実施例で特徴的な効果を得るには、単独のガスを使用する場合にはNeよりイオン化電界の低いガスである、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、水素(H
2)などが望ましい。ただし、極低温で動作させる場合にはヘリウム(He)を用いる場合であっても
図3(B)の状態までは実現可能であるため、本発明を適用できる。
【実施例2】
【0033】
・イオン源の基本構成と基本動作
本実施例では、イオン化すべきガスとして複数種類の混合ガスを用いているガス電界電離イオン源について説明する。特に、イオン化可能な引出電圧が異なる複数種類のガスを混合してイオン化ガスとする。具体的にはイオン化すべきガスとしてArとHeの混合ガスを用いている。なお、ガス電界電離イオン源の全体構成は、基本的に
図2に示した第一の実施例と同じである。以下において、実施例1と同様の部分については説明を省略する。
【0034】
・イオン放出の状態
本実施例での種々のイオン放出状態を表す模式図を
図4に示す。
図4は実施例1の
図3に対応するものである。
図4を用いて、引出電圧に対応してエミッタ電極先端部でのイオン放出の状態が変化する様子について説明する。引出電圧を増加させるにしたがって
図4の(A)(B)(C)(D)の状態の順に遷移していく。
図4(A)の状態はArイオンの小領域放出状態である。
図4(B)の状態はArイオンの大領域放出状態であり、まだ
図4(A)の状態でのイオン放出領域であるエミッタチップの先端部から弱い放出がある。
図4(C)の状態はArイオンの大領域放出状態であるが、
図4(A)の状態でのイオン放出領域であるエミッタチップの先端部から放出が無い状態である。
図4(D)の状態はHeイオンの小領域放出状態とArイオンの大領域放出状態が同時におきている状態である。この状態ではイオン源絞り6で周囲から放出されるArイオンを遮蔽することで、Heイオンだけをビームとして抽出することが可能である。
【0035】
・引出電圧とガス圧の連動
次に、本実施例の引出電圧とガス圧の制御を連動させる点について説明する。
本実施例では、動作状態を三つメモリしている。それぞれ、Ar通常モード、Ar大電流モード、He通常モードと呼ぶ。引出電圧設定としては、「通常」、「中」、「高」の三種類、ガス圧設定としては、「通常」、「高」の二種類をメモリしている。これら三つの動作状態を表す電流−電圧特性図を
図5に示す。これは実施例1の
図1に対応するものである。
【0036】
図5の動作ポイント2010はAr通常モードを表す。引出電圧設定を「通常」、ガス圧設定を「通常」とした状態である。イオン放出の状態は
図4(A)で表される。
図5の動作ポイント2011はAr大電流モードを表す。引出電圧設定を「中」、ガス圧設定を「高」とした状態である。イオン放出の状態は
図4(B)で表される。
図5の動作ポイント2012はHe通常モードを表す。引出電圧設定を「高」、ガス圧設定を「通常」とした状態である。
図5(A)でこれらの動作状態を比較すると、いずれもイオン放出領域である微小突起の先端でのイオン電流の密度が増大しないようにされており、微小突起が破壊を防いでいることが分かる。一方、
図5(B)でこれらの動作状態を比較すると、動作ポイント2011すなわちAr大電流モードだけ、大きなイオン電流が得られていることが分かる。
【0037】
各モード間の遷移は
図5(A)において動作ポイント2010、2011、2012の間をそれぞれ遷移することに対応する。なお、2011の状態を経由せずに2010の状態から2012の状態に直接遷移させることも可能である。このとき、エミッタ電極1の先端部のイオン放出領域におけるイオン放出電流の密度が通常より高くならないように引出電圧とガス圧を連動して制御する。より正確には、イオン放出電流の密度が、予め決められている、イオン放出領域の単位領域あたりでイオン化により消費される吸着ガス量(またはイオン放出領域の単位領域あたりに供給される吸着ガス量)を超えないように、引出電圧とガス圧を連動して制御する。好ましくは動作ポイント2010の状態でのガス圧における最大電流密度以下となるように引出電圧とガス圧を連動して制御するとよい。基本的なルールは、ガス圧が高いモードから遷移するときにはまず下げてから電圧を変化させること、ガス圧が低いモードから遷移するときには電圧を先に変化させること、である。
【0038】
これを、
図5(A)を用いて説明する。まず、2010の状態から2011の状態への遷移について説明する。領域3010を、遷移前の動作ポイント2010、遷移先の動作ポイント2011、およびこれらの動作ポイントで規定される引出電圧値V
1、V
2で囲まれるグラフ上の領域として定義する。本実施例によれば、少なくとも引出電圧がV
1からV
2に遷移する間は領域3010の内部だけを通って動作状態が遷移するように、引出電圧とガス圧を制御する。言い換えれば、少なくとも引出電圧がV
1からV
2に遷移する間は、動作ポイント2010と動作ポイント2011を結ぶ線分上に位置する各動作状態より電流密度が低くなるように、引出電圧とガス圧を制御する。2011の状態から2010の状態への遷移についても同様である。
【0039】
次に、2011の状態から2012の状態への遷移について説明する。領域3011を、遷移前の動作ポイント2011、遷移先の動作ポイント2012、およびこれらの動作ポイントで規定される引出電圧値V
2、V
3で囲まれるグラフ上の領域として定義する。本実施例によれば、少なくとも引出電圧がV
2からV
3に遷移する間は領域3011の内部だけを通って動作状態が遷移するように、引出電圧とガス圧を制御する。言い換えれば、少なくとも引出電圧がV
2からV
3に遷移する間は、動作ポイント2011と動作ポイント2012を結ぶ線分上に位置する各動作状態より電流密度が低くなるように、引出電圧とガス圧を制御する。2012の状態から2011の状態への遷移についても同様である。
【0040】
次に、2010の状態から2012の状態への遷移について説明する。この場合も、前述の例と同様に、少なくとも引出電圧がV
1からV
3に遷移する間は、遷移前の動作ポイント2010、遷移先の動作ポイント2012、およびこれらの動作ポイントで規定される引出電圧値V
1、V
3で囲まれるグラフ上の領域の内部だけを通って動作状態が遷移するように、引出電圧とガス圧を制御する。言い換えれば、少なくとも引出電圧がV
1からV
3に遷移する間は、動作ポイント2010と動作ポイント2012を結ぶ線分上に位置する各動作状態より電流密度が低くなるように、引出電圧とガス圧を制御する。なお、2010の状態から2012の状態への遷移の場合には、前述の二つの例により、領域3010と領域3011の内部での遷移であればエミッタ電極が破壊されにくくなることが分かっているので、少なくとも引出電圧がV
1からV
3に遷移する間は、領域3010と領域3011の内部だけを通って動作状態が遷移するように、引出電圧とガス圧を制御してもよい。なお、2012の状態から2010の状態への遷移についても同様である。
【0041】
なお、以上に説明した遷移については、実施例1と同様に、領域3010、領域3011の内部での経路はどのようでもよい。例えば、引出電圧またはガス圧の一方を制御してから他方を制御することで遷移させてもよいし、引出電圧とガス圧を連動して制御してもよい。
【0042】
以上のような制御によって、エミッタ電極1の先端微小突起、本実施例では単原子(Single Atom)を含むナノピラミッド構造を破壊される確率を抑制しつつ、大電流のイオンを取り出すことが可能である。特に、混合ガスを用いることで、特性の異なる複数のイオンビームの電流値を可変として選択的に利用することができる。本実施例のようにArイオンは重いため加工に適しており、このイオン源をイオン顕微鏡に用いれば、Arイオン電流を調整しての高速加工が行える一方で、Heイオンでの微細領域の観察を行うことが可能であるので、イオンビーム装置において加工モードと観察モードを切り替えて動作させることが可能となる。
【0043】
なお、便宜上、Ar通常モード、Ar大電流モード、He通常モードと表記したが、イオンビーム電流値が異なる複数の状態であればよく、前述のAr大電流モードをAr通常モードとし前述のAr通常モードおよびHe通常モードをAr小電流モード、He小電流モードと称することもできる。さらに、三つのモードのみで説明したが、モードの数は三つに限られず、イオンビーム電流量に応じて段階的にモードを設けてもよい。
【0044】
・補足事項
また、以上の説明では、
図4(C)の状態は、ガス電界電離イオン源100からのイオンビーム5を後段に接続するイオン光学系などで集束する場合に収差が大きくなるため、使用しないこととした。しかし、この状態でのバーチャルソース(仮想光源)が大きい訳ではないので、使うイオン光学系の許容度が大きければ、より大電流を得るために使用することは可能である。なお、バーチャルソース(仮想光源)、イオン光学系の許容度については実施例1で記載した意味と同様である。
【実施例3】
【0045】
・イオン源の基本構成と基本動作
本実施の形態に係るガス電界電離イオン源の全体構成を
図6に示す。その基本構成と基本動作は
図2に示した第1の実施例と同じであるが、エミッタ電極1′の先端が三原子(Trimmer)である点と、イオン源制御系90′がエミッタ駆動系50も制御する点が異なる。詳細は後述する。以下において、実施例1と同様の部分については説明を省略する。
【0046】
・イオン放出の状態
本実施例のエミッタ電極1′としては、針状に成形したタングステン(W)を基材としてその先端を成形したものを用いている。ここで、このW針の成形手順を簡単に説明する。まず酸素(O
2)中で電界をかけて先端周辺をエッチングして先鋭化した後に、真空または希ガス中で電界をかけて電界蒸発により先端を徐々に剥がして行く。先端が適度な曲率を持ちその頂点が三原子となったところで成形を終わる。このエミッタ電極1′からのイオン放出の代表的状態は第1の実施例において
図3(A)から(C)に示したものと基本的に同じである。異なる点は、
図3(A)で示す小領域放出状態において、イオン放出領域が単原子ではなく三原子になっているところである。このイオン源からのイオン放出を後段に接続するイオン光学系で利用する場合、イオン放出領域(三原子)の中心軸をイオン光学系の軸に合わせることは行わない。小領域放出状態では三原子のそれぞれのイオン放出領域は完全に分離しているため、エミッタの中心はイオン放出のない部分となり、イオン光学系で絞りを小さくしていくと試料上にイオンビームが到達しなくなるためである。よって、通常は、三原子のうちの1原子からの放出をイオン光学系の軸に合わせるようにエミッタ電極1′の向きを変更する。なお、向きの変更は図示しないジンバル機構と水平微動機構の動きの組合せで行う。一方、大領域放出状態では、複数の原子からのイオン放出領域は重なり合っている。イオン光学系の絞りを大きくして、できるだけ多くの電流を試料上に届けるためには、エミッタの中心軸がイオン光学系の中心軸に一致するのが良い。
【0047】
・引出電圧とガス圧と向きの連動
次に、本実施例の特徴の一つとして引出電圧とガス圧の制御とエミッタ電極の向きを連動させる点を説明する。イオン源制御系90′では、
図3(A)の小領域放出状態に対応する通常の引出電圧と、
図3(B)の大領域放出状態に対応し
図3(A)の状態での引出電圧より高い引出電圧とがメモリ93に記憶されている。例えば、本実施例では
図3(B)の大領域放出状態では
図3(A)の状態の約10倍の放出領域となる。エミッタ電極1′先端近傍のガス圧を決めるガス供給系3とガス排気系11の動作バランスをつかさどるガス圧制御部92の動作状態として、第1のガス圧の場合と、第1のガス圧より高い第2のガス圧の場合とがメモリ94に記憶されている。以下、第1のガス圧を通常のガス圧ということもある。例えば、本実施例では第2のガス圧は第1のガス圧の約10倍である。エミッタ電極1′の向きを決めるエミッタ駆動系50の動作状態として、エミッタ電極1′先端三原子のうちの1原子に合わせた傾斜の場合と、エミッタ電極1′先端の中心軸に合わせた非傾斜の場合とがメモリ97に記憶されている。イオン放出状態のメモリ98には、通常モードとして通常の引出電圧と通常のガス圧と傾斜時の向きとの組合せが記憶されている。また、大電流モードとして高い引出電圧と高いガス圧と非傾斜時の向きとの組合せが記憶されている。メモリ98に記憶されるイオン放出状態の間の遷移に関するシーケンスはメモリ99に記憶されている。ここで、ユーザまたは他の機器からイオン源制御系90′にイオン放出状態の指定があると、制御系本体部91′は関連するメモリ93〜99を読みだして、引出電圧印加部4とガス供給系3とガス排気系11とエミッタ駆動系50とを適正に制御する。ガス供給系3とガス排気系11の制御はガス圧制御部92を通して行われる。
【0048】
第1の実施例の場合と同様に、通常モードから大電流モードに遷移する場合には、引出電圧を上げてからガス圧を上げる制御を行う。逆に、大電流モードから通常モードに遷移する場合には、ガス圧を下げてから引出電圧を下げる。通常モードと大電流モード間の遷移は
図1(A)において動作ポイント2000から2003間を遷移することに対応する。このとき、エミッタ電極1′の先端部のイオン放出領域におけるイオン放出電流の密度が通常より高くならないように引出電圧とガス圧を連動して制御する。より正確には、イオン放出電流の密度が、予め決められている、イオン放出領域の単位領域あたりの吸着ガス量を超えないように、引出電圧とガス圧を連動して制御する。好ましくは動作ポイント2000の状態でのガス圧における最大電流密度以下となるように引出電圧とガス圧を連動して制御するとよい。基本的なルールは、ガス圧が高いモードから遷移するときにはまず下げてから電圧を変化させること、ガス圧が低いモードから遷移するときには電圧を先に変化させること、である。以上の引出電圧とガス圧との連動動作については実施例1と同様である。本実施例では、実施例1に加えてさらに、エミッタチップの向きもこれらに連動させている。これによって、前述したように、小領域放出状態では微細なビームに、大領域放出状態では大電流のビームに、最適化するようにエミッタチップの向きを調整する作業を、イオン源の動作状態のモード設定だけで簡単に行うことができる。
【0049】
このような適正な制御により、エミッタ電極1′の小領域のイオン放出電流の密度が通常より高くならないので、エミッタ電極1′の微小突起が破壊される確率が低減される。
【0050】
さらに、エミッタ電極1′先端の三原子(Trimmer)を含む微小突起を破壊される確率を抑えつつ、大電流のイオンを取り出すことが可能である。また、通常モードでは三原子のうちの1原子からのイオン放出が自動的に選ばれる。このイオン源を走査イオン顕微鏡等のイオンビーム装置に用いれば、反射イオン分析などでイオン電流を調整しての高SNRの信号を得ることが可能である。
【0051】
なお、便宜上、大電流モードと通常モードとして説明したが、イオンビーム電流値が異なる二つの状態であればよく、前述の大電流モードを通常モードとし前述の通常モードを小電流モードとして称することもできる。さらに、二つのモードのみで説明したが、モードの数は二つに限られず、イオンビーム電流量に応じて段階的にモードを設けてもよい。
【0052】
・補足事項
なお、本実施例では大電流モードにおいて、エミッタ電極1′の向きを非傾斜としたが、傾斜としたままでも使用することも可能である。その場合、イオンビーム5の電流中心が傾くので、イオン源の後段に設置するイオン光学系での収差発生に注意する必要がある。
【実施例4】
【0053】
・イオン顕微鏡の基本構成と基本動作
本実施の形態に係る走査イオン顕微鏡の全体構成図を
図7に示す。走査イオン顕微鏡200の基本構成は、ガリウム液体金属イオン源(Ga−LMIS)用に製作された最大加速電圧40kVの集束イオンビーム(FIB)装置と同じであり、イオン源部を第1の実施例で示したガス電界電離イオン源100へ入れ替えたものである。なお、ガス電界電離イオン源100のうち説明に不要な部分は図示を省略している。以下において、実施例1と同様の部分については説明を省略する。
【0054】
走査イオン顕微鏡200では、ガス電界電離イオン源100から放出されたNeのイオンビーム5をイオン光学系300に入射させる。このイオン光学系300によって加速と集束および偏向されたイオンビーム5は試料ステージ101に載置された試料8上に照射される。イオンビーム5の照射により試料8から発生した二次電子7は、二次電子検出器104で検出される。また図示は省略しているが、反射イオンを検出する反射イオン検出器を備えていても良い。二次電子や反射イオン等、イオンビームの照射によって得られる試料の状態を反映した粒子を総称して二次粒子と呼ぶ。なお、イオンビーム5の通過領域は基本的に真空排気がなされている。
【0055】
イオン光学系300のうちイオンビーム5の加速と集束と軸調整と開き角制限に係る部分は、レンズ系駆動部105で駆動される。また、イオン光学系300のうちイオンビーム5の試料上での偏向と走査に係る部分は、偏向系駆動部106で駆動される。画像処理部110は、二次電子検出器104からの二次電子7の強度信号と偏向系駆動部106の走査信号を対応させて二次電子観察像を形成する。
【0056】
顕微鏡制御系120は、イオン源制御系90、レンズ系駆動部105、偏向系駆動部106、画像処理部110を含む走査イオン顕微鏡200全体を制御するとともに、他の機器やユーザからの入出力も制御する。たとえば、顕微鏡制御系120は、画像処理部110から二次電子観察像を読みだし、図示しない画面上に表示する。顕微鏡制御系120は偏向系駆動部106を制御して、この画面上でユーザが指定した位置へイオンビーム5を照射させることができる。
【0057】
・イオン源動作モードと光学条件の連動
顕微鏡制御系120では、イオン源制御系90へ出力する複数のイオン放出状態がメモリ122に記憶されている。レンズ駆動部に指定する複数の集束状態がメモリ123に記憶されている。イオン放出状態と集束状態の組合せで表されるビーム状態がメモリ124に記憶されている。メモリ124に記憶されているビーム状態の間の遷移に関するシーケンスはメモリ125に記憶されている。ここで、ユーザまたは他の機器から顕微鏡制御系120にビーム状態の指定があると、顕微鏡制御系本体部121は関連するメモリ122〜125を読みだして、イオン源制御系90とレンズ系駆動部105を適切に制御する。
【0058】
たとえば、試料8を高分解能で観察する際には、イオン源を小領域放出状態として通常のガス圧で動作させ、イオン光学系ではイオンビーム5の開き角を最小の絞りで制限する。また、試料8からの反射イオンを(図示しない反射イオン検出器で)高SNRで検出する際には、イオンビーム5の電流を増やす必要があるので、イオン源を大領域放出状態に切り替えるとともにガス圧を高めて動作させ、イオン光学系ではイオンビーム5の開き角の制限を緩めるように最大の絞りを設定する。イオン源が大領域放出状態になると、引出電圧が変化するとともにバーチャルソース(仮想光源)の位置も変化するので、イオン光学系300内のレンズ系の動作条件も変更する必要がある。また、分析の要件によっては、同時に加速電圧を下げることも考えられ、その場合にはイオン光軸の調整条件も連動して変更する必要がある。また、分析の要件によっては、試料8上でのイオンビーム5の電流密度分布を一様にすることも考えられ、その場合にはイオン源のバーチャルソースを試料8上に投影する通常の集束条件ではなく、イオン光学系300中のいずれかの制限絞りの像を試料8上に投影する集束条件に変更する必要がある。まとめると、本実施例の顕微鏡制御系120では、ガス圧と引出電圧から決まるイオン源の動作状態に応じて、イオン光学系の動作条件を切り替えるように構成されている。また別の表現をすれば、イオン源の動作状態を切り替えるのに連動して、イオン光学系の動作条件は前記試料上のイオンビーム電流が最大化するように制御される。
【0059】
本実施例によれば、エミッタ電極1先端の微小突起を壊さず、高分解能観察や高SNRの分析などの必要に応じて、イオンビーム5の電流やビーム径などを自在に変化させることができる。さらに、イオン光学系の動作条件は、複雑に関連するパラメータであり、これらを適切に連動させて切り替えることができるので、イオン源の動作状態の切り替えの際の操作性が向上する。
【0060】
・補足事項
本実施例の走査イオン顕微鏡では、顕微鏡制御系120がイオン源の制御とイオン光学系の制御を連動して行えるように構成した。顕微鏡制御系120をさらに機能拡張して、二次電子検出器や図示しない他の検出器、他の機能の設定変更も連動して制御できるように構成してもよい。
【0061】
また、本実施例の走査イオン顕微鏡では、イオン化するガスとしてNeを用いたが、Krなどの重いガスを用いると加工に適したイオンビームが形成できる。必要に応じてイオンビームの電流やビーム径などを自在に変化させることができるので、Ga−FIBのような液体金属イオン源を用いた加工装置に代えて、加工観察装置として使うことも可能である。
【0062】
<全体の補足事項>
以上で説明したガス電界電離イオン源では、イオン放出状態が引出電圧の増加に対応して
図3または
図4の(A)から(B)を経て(C)に推移するようなエミッタ電極を用いている。また、主に(A)と(B)の状態を用いている。しかしながら、先端のイオン放出領域(単原子または三原子)より外側が急峻な形状のエミッタ電極では、(B)の状態が無いものがある。前述のように(C)の状態が全く使えないわけでは無いが、(B)の状態があるエミッタ電極の方が望ましい。これはイオン光学系において収差の少ない部分を主に使えるため、大電流のイオンビームでも集束性を高く保てるからである。