(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加熱装置において、前記流体を前記加熱室の内部空間の入口側から該内部空間内に吹付けて、その内部空間の出口側から排出する、請求項1に記載の不織布の嵩回復方法。
前記加熱装置は、前記不織布を鉛直上向きに流通させながら加熱する上方向け加熱室と、前記不織布を鉛直下向きに流通させながら加熱する下方向け加熱室とを有し、これらの上方向け加熱室又は下方向け加熱室のいずれか一方の加熱室の内部空間から送出された不織布を、他方の加熱室の内部空間に送入して該不織布を連続的に加熱する、請求項3に記載の不織布の嵩回復方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明に係る不織布の嵩回復方法を説明する。
図1〜
図3は、本発明に係る不織布の嵩回復方法を第1の実施の形態を実施するための嵩回復装置を示すもので、この嵩回復装置1は、嵩回復させる対象となる搬送中の不織布2を加熱する加熱装置3と、該加熱装置3によって加熱された不織布2を冷却する冷却装置4とを備えている。
なお、前記嵩回復装置1は、ロール状に巻き付けられた不織布原反から繰り出された不織布2を、搬送方向(MD方向)の上流側及び下流側にそれぞれ配設された上下一対の搬送ロール6,6・7,7によって、前記加熱装置3及び冷却装置4を含めた搬送ライン上を搬送することができるようになっている。また、搬送される不織布2には、長さ方向(搬送方向)に張力がかけられていて、可及的にたわみを抑えることができるようになっている。
【0015】
前記加熱装置3は、搬送中の不織布2を収容する、該不織布2の搬送方向に貫通する内部空間9を備えた加熱室8と、該加熱室8の内部空間9に所定の温度の加熱用の流体を吹付ける流体吹付け装置10とを備えている。
前記加熱室8は、不織布2を内部空間9に送入させる、不織布2の搬送方向の上流側に位置する入口9aと、不織布2を内部空間9の外に送出する、搬送方向の下流側に位置する出口9bとを有している。そして、前記不織布2を入口9aから出口9bに向けて内部空間9を略直線的に流通させることにより、該不織布2を搬送しながら加熱することができようになっている。
【0016】
この実施の形態における嵩回復装置1の加熱装置3の場合、前記加熱室8の内部空間9は略水平方向に延設されていて、前記不織布2を、略水平方向に流通させることが可能となっている。
ここで、前記加熱室8の内部空間9の幅(不織布2の幅方向に沿う方向の大きさ)及び高さ(不織布2の厚さ方向に沿う方向の大きさ)は、収容する不織布2の効率的な加熱を考慮すると、該不織布2と接触しない範囲内において可及的に小さいことが好ましい。
【0017】
ただし、一般に、不織布は搬送時において幅方向に蛇行したり、厚さ方向にばたついたりする可能性があるため、加熱室の内部空間の幅及び高さがあまりに小さすぎると不織布が接触してしまう可能性がある。また、加熱室の内部空間の幅方向の断面積、即ち、流体の流路面積が過度に小さいと加熱室における圧力損失が大きくなる。そのため、加熱室8の内部空間9の幅は、不織布2の幅よりも10〜100mm程度大きくすることが好ましく、より好ましくは10〜50mm程度、さらに好ましくは10〜30mm程度大きくする。10mm未満となると、不織布2の搬送中に加熱室8の内部空間9の内壁に接触するようなことがあった場合に、該不織布2への摩擦抵抗が大きくなるため、幅方向で嵩回復の度合いにばらつきが生じる可能性がある。100mm超となると、不織布に随伴する空気によって内部空間9内の温度が低下し、嵩回復に影響を与えるおそれがある。
また、加熱室8の内部空間9の高さについては、不織布2の厚さよりも2〜10mm程度大きくすることが好ましく、3〜5mm程度大きくすることがさらに好ましい。
また、前記加熱室8の内部空間9の長さ(不織布の搬送方向に沿う長さ)については、不織布2の搬送速度及び該不織布の加熱時間との関係で決定され、搬送中の不織布2を、後で詳述する時間について確実に加熱することできる程度の大きさに設定される。
【0018】
前記流体吹付け装置10は、前記加熱室8の内部空間9に向けて加熱用の流体を噴射する加熱用ノズル11と、該加熱用ノズル11から噴射する加熱用の流体の流体源12と、これら該流体源12から加熱用ノズル11に流体を供給する供給管13と、該供給管13中に設けられた、流体を所定の温度に加熱するためのヒータ14とを備えている。また、前記供給管13中におけるヒータ14よりも上流側には、加熱用ノズル11から噴射される流体の流速の調整に供される圧力調整弁15と、流体の流量を測定する流量計16とが配設されている。なお、前記加熱用の流体としては、例えば空気等の不活性の気体が用いられ、前記流体源においては該空気等を圧縮して使用される。
【0019】
この嵩回復装置1の場合、前記加熱用ノズル11は、前記嵩回復対象の不織布2の幅よりも大きく、且つ加熱室8の入口9aの幅よりも小さい横長の噴射孔11aを備えていて、前記加熱室8の入口9a側に配設されている。これにより、加熱室8の内部空間9内の不織布2に対して、該加熱室8の入口9a側から前記加熱用の流体を、該不織布2の搬送方向に沿うように吹付けることができるようになっている。
また、前記加熱用ノズル11の噴射孔11aの近傍には、該噴射孔11aから噴射される流体の温度を検出する温度センサが取付けられていて、加熱用の流体の温度を管理することができるようにしている。
さらに、前記加熱用ノズル11の噴射方向は、前記不織布2の搬送方向、即ち水平方向に対する角度θ
1を0〜30度程度とすることが好ましく、さらに好ましくは0〜10度であり、0度、即ち、不織布2の搬送方向と平行に噴射することが最も好ましい。
【0020】
また、前記加熱用ノズル11から噴射された流体は、加熱室8の内部空間9を流通して前記出口9aから排出されるようになっていて、これにより、該加熱室8の内部空間全体体を後述する所定の温度に保って、この内部空間9内に位置する不織布2に対しては確実に加熱を行うことが可能となっている。
【0021】
一方、前記冷却装置4は、搬送中の不織布2を収容する冷却室17と、該冷却室17の内部空間18内の不織布2に冷却用の流体を吹付ける冷却用の流体吹付け装置19とを備えている。
前記冷却室17は、該不織布2を内部空間18に送入させる、搬送方向の上流側に位置する入口18aと、不織布2を内部空間18の外に送出する、搬送方向の下流側に位置する出口18bとを有している。そして、前記不織布2を入口18aから出口18bに向けて内部空間18内を略直線的に流通させることにより、該不織布2を搬送しながら冷却することができようになっている。
【0022】
この実施の形態における嵩回復装置1の冷却装置4の場合、前記冷却室17の内部空間18は略水平方向に延設されていて、前記不織布2を内部空間18の内壁に接触させることなく、略水平方向に流通させることが可能となっている。なお、冷却室17の内部空間18の幅及び高さの大きさについては、前記加熱室8の内部空間9の幅及び高さとほぼ同じ大きさとなっている。また、前記冷却室17の内部空間18の長さ(不織布2の搬送方向に沿う長さ)は、不織布2の搬送速度及び該不織布2の冷却時間との関係で決定され、搬送中の不織布2を、確実に冷却することできる程度の大きさに設定される。
【0023】
前記冷却用の流体吹付け装置19は、前記冷却室17に向けて冷却用の流体を噴射して、該流体を前記不織布2に接触させる冷却用ノズル20と、該冷却用ノズル20から噴射する冷却用の流体の流体源21と、該流体源21から冷却用ノズル20に流体を供給する供給管22と、該供給管中22に設けられた、流体を所定の温度に冷却するための冷却機器23とを備えている。さらに、前記供給管22中における冷却機器23よりも上流側(流体源側)には、冷却用ノズル20から噴射される流体の流速の調整に供される圧力調整弁24が配設されている。また、前記冷却用の流体としては、加熱用の流体と同様に、圧縮された空気等の不活性の流体が用いられる。
なお、前記冷却用ノズル20の構成や噴射方向については、基本的に前記加熱装置3の加熱用ノズル11とほぼ同じである。
【0024】
そして、前記冷却用ノズル20から噴射された流体は、冷却室17の内部空間18内を流通して前記出口18bから排出されるようになっていて、これにより、該冷却室17の内部空間全体を所定の温度に保って、この内部空間18内に位置する不織布2に対して確実に冷却を行うことが可能となっている。
【0025】
ここで、この実施の形態及び後述する第2の実施の形態を含め、本発明において嵩回復の対象となる不織布としては、例えばエアスルー不織布、ポイントボンド不織布(ヒートロール不織布)、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布等の各種製法による不織布が対象となる。
また、前記不織布を構成する繊維として、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアミド等の熱可塑性樹脂からなる、熱可塑性の単独繊維又は複合繊維が用いられる。
【0026】
さらに、前記複合繊維として、例えば、芯成分の融点が鞘成分の融点よりも高い芯鞘タイプ、偏心芯鞘タイプ、左右成分の融点が互いに異なるサイドバイサイドタイプが用いられる。また、中空タイプの繊維、扁平、Y型、C型などの異型繊維、潜在捲縮繊維及び顕在捲縮のような立体捲縮繊維、水流、熱、エンボスなどの物理的負荷により分割された分割繊維などが混合されていてもよい。
【0027】
さらに、3次元捲縮形状の不織布を形成するため、顕在捲縮繊維及び潜在捲縮繊維の一方又は両方を配合することができる。3次元捲縮形状にはスパイラル形状、ジグザグ形状、Ω形状などが含まれる。この場合、繊維配向は、主体的には平面方向へ向いていても部分的には厚さ方向へ向くことになる。これにより、不織布の厚さ方向における繊維の挫屈強度が高められるので、不織布に外圧が加わっても不織布の嵩が減少しにくい。特に、スパイラル形状の場合、不織布への外圧が解放されたときに、嵩が回復しやすい。
【0028】
一方、上述したように、前記不織布が、特に生理用ナプキンや使い捨ての紙オムツ等で使用される液透過性シート(いわゆるトップシート)として用いられる場合には、不織布の繊度は、液体の入り込み性や肌触りを考慮して、1.1〜8.8dtexが好ましい。
この場合、例えば、肌に残るような少量な経血や汗などをも吸収するために、不織布を構成する繊維に、パルプ、化学パルプ、レーヨン、アセテート、天然コットンなどのセルロース系の親水性繊維が含まれていてもよい。ただし、セルロース系繊維は、一度吸収した液体を排出しにくいので、全体に対し0.1〜5質量%の範囲で含まれるのが好ましい。さらに、液体の入り込み性やリウェットバックを考慮して、疎水性合成繊維に、親水剤や撥水剤などが練り込まれ又はコーティングされていてもよい。また、コロナ処理やプラズマ処理によって繊維に親水性が付与されてもよい。
【0029】
また、白化性を高めるために、繊維に、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどの無機フィラーが含有されていてもよい。特に、繊維が芯鞘タイプの複合繊維である場合、芯にのみ無機フィラーが含有されていてもよく、鞘にも無機フィラーが含有されていてもよい。
【0030】
前記不織布が、例えばエアスルー法を用いて作られた不織布である場合、鞘を高密度ポリエチレン、芯をポリエチレンテレフタレートから形成した芯鞘タイプの複合繊維であって、繊維長が20〜100mm、好ましくは35〜65mmであり、繊度が1.1〜8.8dtex、好ましくは2.2〜5.6dtexであるものを主体としたものとすることが好ましい。
【0031】
ここで、前記構成を有する嵩回復装置1を用いて、本発明に係る嵩回復方法を実施する場合について説明する。
図1に示すように、所定の方法で形成された不織布をロール状に巻き付けた不織布原反5から不織布2を繰り出し、その不織布2を上流側の搬送ロール6,6及び下流側の搬送ロール7,7との間に配設されている加熱装置3の加熱室8、及び冷却装置4の冷却室17を通して搬送する。
【0032】
そして、まず、前記加熱装置3において、加熱用の流体吹付け装置10の加熱用ノズル11から加熱室8の内部空間9に加熱用の流体を噴射し、該内部空間9内に加熱された加熱用の流体を供給することにより、該流体を内部空間9内に位置する不織布2に接触させ、該不織布2を加熱する。
その際、前記加熱用の流体を、前記不織布2が含んでいる熱可塑性繊維の融点よりも50°C低い温度以上、該融点の温度未満の温度で、0.2〜4秒、前記不織布2の搬送速度よりも早い流速で加熱室8の内部空間9内に吹付けることにより、前記不織布2を加熱する。
なお、前記加熱用の流体を吹付ける際の流速は、1000〜4000m/min程度が好ましく、1000m/min未満であると搬送されている不織布に随伴している空気により流体の温度が低下する場合があり、嵩回復が阻害される可能性があり、4000m/min超となると流体によって不織布が搬送方向に過度に引っ張られ、幅入りや切断が生じる可能性がある。
【0033】
これにより、加熱された不織布2は、含まれている繊維がほぐされて嵩が回復する。また、前記加熱室8の内部空間9内に吹付けられた加熱用の流体は、不織布2の表面を該不織布2の搬送方向に沿うように進行するため、流体の流れが不織布2の嵩の回復を阻害することはない。
【0034】
また、加熱室8の内部空間9内の流体の流速は不織布2の搬送速度よりも大きいため、不織布2の表面の空気の流れに乱れが生じるが、空気中に含まれる各種分子は不織布2の表面にランダムな角度で衝突し、該不織布2の繊維が効率良くほぐされるため、嵩の回復が一層促進される。さらに、不織布2の表面の空気の流れに乱れが生じると、該不織布2が加熱室8の内部空間9の内壁に接触しない程度に小さくばたつく可能性があるが、このばたつきによって不織布2の内部に加熱した流体が入り込みやすくなるため、不織布3の加熱がより効果的に行われる。
【0035】
ここで、前記不織布2の加熱温度を、該不織布2に含まれている前記熱可塑性繊維の融点よりも50°C低い温度以上、該融点の温度未満の温度としたのは、嵩回復を確実且つ安定的に回復させるためである。加熱温度が融点よりも50°C超低いと、温度が低すぎて熱可塑性繊維に対して嵩回復に必要な熱を十分に与えることができず、加熱によっても不織布2の嵩が十分に回復されないおそれがあるためである。また、加熱温度が融点以上であると、前記熱可塑性繊維が溶けてしまい、これにより繊維同士が溶着しまた不織布全体が硬化してしまうため、不織布2の嵩が回復しないためである。
【0036】
なお、前記不織布2の熱可塑性繊維が、複合繊維である場合、該複合繊維を構成する熱可塑性樹脂のうち、もっとも融点が低い熱可塑性樹脂の融点を基準として、前記加熱温度は設定される。これは、融点が高い熱可塑性樹脂を基準として加熱温度を設定すると、融点が低い熱可塑性樹脂が先に溶けて繊維同士を溶着させるため、不織布全体としての嵩回復を阻害することから、このような事態を確実に防止して防止する必要があるためである。
例えば、前記不織布2の熱可塑性繊維が、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートの芯鞘構造の複合繊維である場合、融点の低いポリエチレンの融点である130℃を基準に、その融点よりも50℃低い温度以上、130℃未満の温度で加熱する。
【0037】
さらに、前記不織布2の加熱を0.2〜4秒行うのは、加熱室8の内部空間9内に位置する不織布2の嵩回復を確実に行うためである。即ち、加熱時間が0.2秒未満であると、加熱時間が短すぎて、不織布全体に熱が行き渡らないため繊維がほぐれず、嵩が回復しない。特に、例えば吸収性物品、特にオムツ加工機内に嵩化回復装置を設置して不織布の嵩回復を行う場合には不織布の搬送速度は高くなる傾向にあるが、このように不織布の搬送速度が高くなると、その不織布が加熱室に入る前に不織布表面に高速の随伴流が発生するため、熱が不織布内部まで伝わりにくくなり、嵩が一層回復しにくくなる。
逆に、加熱時間が4秒超となると、不織布の嵩が所定の大きさまでほぼ回復することから、加熱の効果が著しく低下するが、不織布の搬送速度と加熱時間との関係から算出される加熱室の長さが増加するため、設置スペースの関係から嵩回復装置の設置自体が困難になる可能性がある。さらに、不織布の搬送距離も増加することから、不織布の幅、長さ等の寸法が安定しにくくなる。
なお、前記不織布の加熱時間については、0.3〜3秒がより好ましく、0.4〜2秒がさらに好ましい。
【0038】
次に、前記加熱装置3における加熱室8の内部空間9の出口9bから送出された不織布2を、冷却装置4の冷却室17の内部空間18に送入させ、該内部空間18内に位置する不織布2を冷却する。
その際、前記冷却装置4において、冷却用の流体吹付け装置19の冷却用ノズル20から内部空間18に冷却用流体を噴射して、該内部空間18内に該冷却用流体を供給することにより、その冷却用流体を内部空間18内に位置する不織布2に接触させ、該不織布2を冷却する。このように不織布を冷却することにより、吸収性物品、特に紙オムツの製造工程等の、嵩回復を行った後の工程において、その工程中に該不織布が厚さ方向に圧縮されても、嵩回復装置によって回復した厚さを維持するという効果が得られる。即ち、加熱された不織布を構成する熱可塑性繊維は塑性変形しやすい状態になっているが、冷却することにより繊維の温度が低下し、弾性変形する温度領域になるため、不織布が圧縮されたとしても、弾性変形により元の厚さに回復することができる。
なお、前記冷却装置4による冷却は、加熱後の不織布が30℃以下、さらに好ましくは20〜25℃程度の室温にまで冷却することができればよいが、例えば、温度10〜30℃で0.2〜4秒程度冷却することが好ましい。
【0039】
この冷却装置4による冷却の場合、冷却室17の内部空間18内の流体の流速は不織布2の搬送速度よりも大きいため、不織布2の表面の空気の流れに乱れが生じて、空気中に含まれる各種分子が不織布の表面にランダムな角度で衝突し、冷却効果を一層促進する。さらに、不織布2の表面の空気の流れに乱れによって不織布2がばたつくと、不織布2の内部に冷却用流体が入り込みやすくなるため、該不織布2の冷却がより効果的に行われる。
【0040】
前記嵩回復装置1において本発明に係る嵩回復方法を実施した後、嵩が回復した不織布2は各種吸収性物品の製造に供される。
図4は、前記嵩回復装置1を吸収性物品としての生理用ナプキンの製造装置100に組み込み、この嵩回復装置1において嵩が回復した不織布2を、吸収性物品としての生理用ナプキンの製造工程において直接的且つ連続的に使用する例を示している。
この製造工程で製造される吸収性物品101は、液透過性シート(いわゆるトップシート)と、液不透過性シート(いわゆるバックシート)と、これらの液透過性シートと液不透性シートとの間に設けられた吸収体とを備えたものである。
具体的に、この吸収性物品101の製造は、吸収体102を形成する第1の工程と、吸収体102に液透過性シートを積層して積層体103を形成する第2の工程と、該積層体103にエンボス加工を施す第3の工程と、前記積層体103に液不透過性シートを積層する第4の工程と、生理用ナプキンとしての形状に切り出す第5の工程とを含んでいて、前記製造装置100により実施される。
【0041】
前記第1の工程においては、吸収体102に含まれる吸収性材料104を詰める型となる凹部105aが外周面に所定のピッチで形成された、機械方向MDへ回転するサクションドラム105を用い、該サクションドラム105を回転させながら前記凹部105a内に、そのサクションドラム105に向けて空気搬送されている吸収性材料104を吸引させることにより前記吸収体102を形成する。
そして、前記凹部105a内に形成された吸収体102は、サクションドラム105の回転により、機械方向MDに向かって進むキャリアシート106上に搬送され、該キャリアシート106に転写される。その後、製造ライン上を搬送されて次工程に送られる。
【0042】
なお、前記吸収体102に含有される吸収性材料104としては、経血等の液状排泄物を吸収・保持可能である限り特に限定されない。吸収性材料としては、例えば、吸水性繊維、高吸水性材料(例えば、高吸水性樹脂、高吸水性繊維等)が挙げられる。
吸水性繊維としては、例えば、針葉樹又は広葉樹を原料として得られる木材パルプ(例えば、砕木パルプ、リファイナーグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等の機械パルプ;クラフトパルプ、サルファイドパルプ、アルカリパルプ等の化学パルプ;半化学パルプ等);木材パルプに化学処理を施して得られるマーセル化パルプ又は架橋パルプ;バガス、ケナフ、竹、麻、綿(例えばコットンリンター)等の非木材パルプ;レーヨン、フィブリルレーヨン等の再生セルロース;アセテート、トリアセテート等の半合成セルロース等が挙げられるが、コストが低く、成形しやすいこと点から、粉砕パルプが好ましい。
高吸水性材料としては、例えば、デンプン系、セルロース系、合成ポリマー系の高吸水性材料が挙げられる。デンプン系又はセルロース系の高吸水性材料としては、例えば、デンプン−アクリル酸(塩)グラフト共重合体、デンプン−アクリロニトリル共重合体のケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物等が挙げられ、合成ポリマー系の高吸水性材料としては、例えば、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、無水マレイン酸塩系、ポリアクリルアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレンオキシド系、ポリアスパラギン酸塩系、ポリグルタミン酸塩系、ポリアルギン酸塩系、デンプン系、セルロース系等の高吸水性樹脂(Superabsorbent Polymer:SAP)等が挙げられるが、これらのうちポリアクリル酸塩系(特に、ポリアクリル酸ナトリウム系)の高吸水性樹脂が好ましい。
【0043】
前記第2の工程においては、前記嵩回復装置1において本発明の嵩回復方法を実施したことにより嵩が回復した不織布2を、前記第1の工程から搬送されてきた吸収体102の上面側に積層し、前記積層体103を形成する。
この第2の工程では、前記嵩回復装置1での嵩回復方法の実施により嵩が回復した不織布2を直接的且つ連続的に供給して、その嵩が回復した不織布2をそのまま使用する。そして、この不織布2を、生理用ナプキンにおいて使用者の肌に接して該使用者からの体液を吸収体に透過させる液透過性シート107としている。
【0044】
前記第3の工程においては、第2の工程から搬送されてきた前記積層体103を、エンボス加工装置108の上段ロール108a及び下段ロール108bとの間を通過させることにより、エンボス加工による圧搾溝を形成する。なお、上段ロール108aの外周面には圧搾溝に対応する凸部が形成されている一方、下段ロールは外周面が平滑なプレーンロールである。この圧搾溝が形成されることより、前記積層体103の一部は一体化されることとなる。
【0045】
前記第4の工程においては、液不透過性シートロール109から供給された液不透過性シート110を、前記圧搾溝が形成された積層体103の下側(液透過性シート107とは反対側)の面に、例えばホットメルト型接着剤等の各種接着剤による接着剤層を介して積層し、生理用ナプキンの連続体111を形成する。
なお、前記液不透過性シート110は、使用者から排泄される体液が透過し得ないシートであり、使用時には、前記液透過性シート側とは反対側の面が使用者の着衣(下着)と接触するようになっている。この液透過性シート110としては、例えば、防水処理を施した不織布、合成樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等)フィルム、不織布と合成樹脂フィルムとの複合シート(例えば、スパンボンド、スパンレース等の不織布に通気性の合成樹脂フィルムが接合された複合フィルム)、耐水性の高いメルトブローン不織布を強度の強いスパンボンド不織布で挟んだSMS不織布等が挙げられる。
【0046】
前記第5の工程においては、カッタ112を使用して生理用ナプキンの前記連続体111を切断し、生理用ナプキンの形状に切り出し、これにより吸収性物品としての生理用ナプキンが完成することとなる。
このように、前記嵩回復装置を各種吸収性物品の製造装置に組み込んで、本発明に係る不織布の嵩回復方法によって嵩を回復した不織布を直接的に吸収性物品の製造工程に供給することにより、嵩が回復した不織布を、その嵩が維持されたまま安定的に各種吸収性物品に使用することが可能となる。
【0047】
このように、本発明に係る不織布の嵩回復方法によれば、搬送に伴って不織布2に随伴している周囲の空気の影響をほとんど受けることなく、また、前記加熱室8の内部空間9内に吹付けられる加熱用の流体によって前記不織布2の厚さ方向の嵩回復を阻害することなく効果的に該不織布2を加熱することができる。
したがって、前記不織布2の嵩を確実且つ安定的に回復させることが可能となる。
【0048】
図5〜
図7は、本発明に係る不織布の嵩回復方法を第2の実施の形態を実施するための嵩回復装置を示すもので、この嵩回復装置31は、前記第1の実施の形態と同様に、搬送中の不織布2を加熱する加熱装置と、該加熱装置によって加熱された不織布2を冷却する冷却装置とを備えている。
しかしながら、前記嵩回復装置31は、加熱装置33及び冷却装置34の構造が前記第1の実施の形態で使用されている嵩回復装置1と異なっている。
【0049】
なお、加熱装置33及び冷却装置34以外の構成については、基本的に第1の実施の形態の嵩回復装置1と同じ構成であるため、同様の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0050】
即ち、前記加熱装置33は、略鉛直方向に延設された複数の加熱室35〜38と、各加熱室35〜38にそれぞれ配設された、各加熱室35〜38の内部空間39〜42内に所定の温度の加熱用の流体をそれぞれ吹付ける複数の流体吹付け装置43〜46とを備えている。
【0051】
前記複数の加熱室35〜38は、嵩回復させる不織布2を鉛直上向きに流通させながら加熱する上方向け加熱室35,37、及び前記不織布2を鉛直下向きに流通させながら加熱する下方向け加熱室36,38の2種類に分かれている。そして、これらの上方向け加熱室35,37又は下方向け加熱室36,38のいずれか一方の加熱室から送出された不織布2を、隣接する他方の加熱室の内部空間に送入して該不織布2を連続的に加熱する構成となっている。
【0052】
この実施の形態においては、第1及び第2の上方向け加熱室35,37と、第1及び第2の下方向け加熱室36,38との、計4つの加熱室を備えている。
前記第1及び第2の上方向け加熱室35,37は、下端側に内部空間39,41の入口39a,41a、上端側に出口39b,41bがそれぞれ配設され、前記第1及び第2の下方向け加熱室36,38は、上端側に内部空間40,42の入口40a,42a、下端側に出口40b,42bがそれぞれ配設されていて、いずれもほぼ同じ軸線方向(延設方向)長さに形成されている。また、これらの第1及び第2の上方向け加熱室35,37、第1及び第2の下方向け加熱室36,38は、
図5に示すように、第1の上方向け加熱室35、第1の下方向け加熱室36、第2の上方向け加熱室37、第2の下方向け加熱室38の順(
図5中の加熱装置の右側から)に並設されていて、それぞれの加熱室35〜38の上端側及び下端側がいずれもほぼ同じ高さに位置し、且つ各加熱室35〜38の軸線方向が相互に略平行となるように位置固定されている。
【0053】
さらに、第1の上方向け加熱室35及び第1の下方向け加熱室36の上端側、該第1の下方向け加熱室36及び第2の上方向け加熱室37の下端側、該第2の上方向け加熱室37及び第2の下方向け加熱室38の上端側には、不織布2の搬送方向を転向する第1〜第3の転向ロール47〜49がそれぞれ配設されている。
これにより、第1の上方向け加熱室35の出口39bから鉛直上方向きに送出された不織布2は、前記第1の転向ロール47によって、鉛直下方向きに搬送方向が転向され、第1の下方向け加熱室36の入口40aに向けて搬送される。また、第1の下方向け加熱室36の出口40bから鉛直下方向きに送出された不織布は、前記第2の転向ロール48によって、鉛直上方向きに搬送方向が転向され、第2の上方向け加熱室37の入口41aに向けて搬送される。さらに、第2の上方向け加熱室37の出口41bから鉛直上方向きに送出された不織布2は、前記第3の転向ロール49によって、鉛直下方向きに搬送方向が転向され、第2の下方向け加熱室38の入口42aに向けて搬送される。
【0054】
したがって、ロール状に巻き付けられた不織布原反5から繰り出された不織布2は、第1の上方向け加熱室35、第1の下方向け加熱室36、第2の上方向け加熱室37、第2の下方向け加熱室38の順に送入され、それぞれの加熱室を通して連続的に加熱されることとなる。
【0055】
なお、前記第1及び第2の上方向け加熱室35,37、第1及び第2の下方向け加熱室36,38の各内部空間39〜42の大きさについては、前記不織布2を、内部空間内の内壁に接触させることなく、略鉛直方向に流通させることが可能な大きさとなっている。
前記各加熱室35〜38のそれぞれの内部空間39〜42における不織布2の幅方向に沿う方向の大きさ、及び不織布の厚さ方向に沿う方向の大きさについては、収容する前記不織布の効率的な加熱を考慮すると、該不織布と接触しない範囲内において可及的に小さいことが好ましい。
ただし、前記第1の実施の形態の場合と同様に、不織布が搬送時において幅方向に蛇行したり、厚さ方向にばたついたりする可能性があるため、加熱室の幅及び高さがあまりに小さすぎると不織布が接触してしまう可能性がある。また、加熱室の幅方向の断面積、即ち、流体の流路面積が過度に小さいと加熱室における圧力損失が大きくなる。
【0056】
そのため、前記各加熱室35〜38のそれぞれの内部空間39〜42における不織布2の幅方向に沿う方向の大きさについては、不織布の幅よりも10〜100mm程度大きくすることが好ましい。また、前記各加熱室35〜38のそれぞれの内部空間39〜42における不織布2の厚さ方向に沿う方向の大きさについては、不織布の厚さよりも2〜10mm程度大きくすることが好ましく、3〜5mm程度大きくすることがさらに好ましい。
2mm未満では、流体の流速と不織布の搬送速度との差により該不織布のばたつきが大きくなる可能性がある。10mm超となると、加熱室の内部空間の断面積が大きくなり、流体の供給量が増大し、ランニングコストが増加する。
さらに、前記各加熱室35〜38の長さ(不織布の搬送方向に沿う長さ)については、不織布2の搬送速度及び該不織布の加熱時間との関係で決定されるが、すべての加熱室35〜38の長さの合計が、搬送中の不織布2を後で詳述する時間だけ確実に加熱することできる程度の大きさに設定される。ただし、あまりに長すぎると不織布のたるみを抑えるために張力を大きくする必要があり、場合によってはいわゆる幅入りとよばれる現象が生じるため、1〜10m程度の長さとすることが好ましく、さらに好ましくは3〜5mとすることである。なお、1つの加熱室の長さは、設定されたすべての加熱室35〜38の長さの合計の1/4の長さとなる。
【0057】
前記各流体吹付け装置43〜46は、各加熱室35〜38の内部空間39〜42の入口39a〜42a側にそれぞれ1つずつ配設されている。
前記第1及び第2の上方向け加熱室35,37の内部空間39,41の入口39a,41a側に配設された流体吹付け装置43,45は、加熱用の流体を、対応する上方向け加熱室35,37の内部空間39,41内に向けて、不織布2の搬送方向に沿うように上方向きに吹き付けるようになっている。
一方、前記第1及び第2の下方向け加熱室36,38の内部空間40,42の入口40a,42a側に配設された流体吹付け装置44,46は、加熱用の流体を、対応する下方向け加熱室36,38の内部空間40,42内に向けて、不織布2の搬送方向に沿うように下方向きに吹き付けるようになっている。
【0058】
前記各流体吹付け装置43〜46は、対応する加熱室35〜38の内部空間39〜42に向けて加熱用の流体(圧縮された空気等の不活性の流体)を噴射する噴射孔を有する加熱用ノズル50〜53と、該加熱用ノズル50〜53から噴射する加熱用の流体の流体源54〜57とをそれぞれ備えている。さらに、前記各流体源54〜57から加熱用ノズル50〜53に流体を供給する供給管58〜61と、該供給管58〜61中に設けられた、流体を所定の温度に加熱するためのヒータ62〜65とをそれぞれ有している。また、前記供給管58〜61中におけるヒータ62〜65よりも上流側(流体源側)には、加熱用ノズル50〜53から噴射される流体の流速の調整に供される圧力調整弁66〜69と、流体の流量を測定する流量計70〜73とがそれぞれ配設されている。
そして、前記加熱用ノズル50〜53から噴射された流体は、吹付けられた各加熱室35〜38の内部空間39〜42内を流通して前記出口39b〜42bからそれぞれ排出されるようになっている。これにより、各内部空間39〜42内全体を、後述する所定の温度に保ち、この内部空間39〜42内に位置する不織2布に対してはそれぞれ確実に加熱を行うことが可能となっている。
【0059】
なお、前記各流体吹付け装置43〜46については、加熱用のノズル50〜53の噴射方向以外は、基本的に前記第1の実施の形態において使用されている嵩回復装置の流体吹付け装置10とほぼ構成同じであるため、詳細な説明は省略する。
また、各流体吹付け装置43〜46における、加熱用のノズルの噴射方向50〜53については、前記不織布2の搬送方向に対する角度θ
2を0〜30度程度で入射する角度とすることが好ましく、さらに好ましくは0〜10度であり、0度、即ち、不織布2の搬送方向と平行(つまり鉛直)に噴射することが最も好ましい。
【0060】
一方、前記冷却装置34は、略鉛直方向に延設された2つの冷却室74,75と、各冷却室74,75の内部空間76,77の入口76a,77a側にそれぞれ配設された、各内部空間76,77内に所定の温度の冷却用流体を吹付ける第1及び第2の冷却用の流体吹付け装置78,79とを備えている。
【0061】
前記複数の冷却室は、冷却対象の不織布2を鉛直上向きに流通させながら冷却する上方向け冷却室74と、逆に該不織布2を鉛直下向きに流通させながら冷却する下方向け冷却室75との2種類に分かれている。そして、これらの上方向け加熱室74から送出された不織布が下方向け加熱室75に送入されて、該不織布を連続的に冷却することが可能な構成となっている。
【0062】
前記上方向け冷却室74は、下端側に内部空間76の入口76a、上端側に出口76bがそれぞれ配設され、また、前記下方向け冷却室75は、上端側に内部空間77の入口77a、下端側に出口77bがそれぞれ配設されていて、いずれもほぼ同じ軸線方向(延設方向)長さに形成されている。
また、これらの上方向け冷却室74及び下方向け冷却室75は、それぞれの冷却室74,75の上端側及び下端側がいずれもほぼ同じ高さに位置し、且つ各冷却室の軸線方向が相互に略平行(この場合略鉛直方向)となるように並設されている。なお、この実施の形態の場合、これらの上方向け冷却室74及び下方向け冷却室75は、前記加熱室35〜38と、上端側及び下端側がいずれもほぼ同じ高さに位置し、且つ各冷却室74,75の軸線方向と各加熱室35〜38の軸線方向が相互に略平行(この場合略鉛直方向)となるように配設されている。
【0063】
さらに、前記上方向け冷却室74及び前記第2の下方向け加熱室38の下端側、上方向け冷却室74及び下方向け冷却室75の上端側には、不織布2の搬送方向を転向する第4及び第5の転向ロール80,81がそれぞれ配設されている。
これにより、第2の下方向け加熱室38の出口42bから鉛直下方向きに送出されて、補助ロール92によって略水平に転向された不織布2は、前記第4の転向ロール80によって鉛直上方向きに搬送方向が転向され、上方向け冷却室74の入口76aに向けて搬送される。また、上方向け冷却室74の出口76bから鉛直上方向きに送出された不織布2は、前記第5の転向ロール81によって鉛直下方向きに搬送方向が転向され、下方向け冷却室75の入口77bに向けて搬送される。
したがって、第2の下方向け加熱室38の出口42bから送出された加熱された不織布2は、上方向け冷却室74、下方向け冷却室75の順に送入され、それぞれの冷却室74,75を通して連続的に冷却されることとなる。
【0064】
前記第1及び第2の冷却用の流体吹付け装置78,79は、前記上方向け冷却室74及び下方向け冷却室75の内部空間76,77内に向けて冷却用の流体(圧縮された空気等の不活性の流体)を噴射して、該流体を前記不織布2に接触させる冷却用ノズル82,83と、該冷却用ノズル82,83から噴射する冷却用の流体の流体源84,85と、これら該流体源84,85から冷却用ノズル82,83に流体を供給する供給管86,87と、該供給管86,87中に設けられた、流体を所定の温度に冷却するための冷却機器88,89とをそれぞれ備えている。また、前記供給管86,87中における冷却機器88,89よりも上流側(流体源側)には、冷却用ノズル82,83から噴射される流体の流速の調整に供される圧力調整弁90,91がそれぞれ配設されている。そして、前記上方向け冷却室74の各冷却用の流体吹付け装置78は冷却用流体を
上方向きに、前記下方向け冷却室75の各冷却用の流体吹付け装置79は冷却用流体を
下方向きに、各冷却室74,75の内部空間76,77に対して吹付ける。
【0065】
なお、各冷却用の流体吹付け装置78,79については、冷却用ノズル82,83の噴射方向以外は、基本的に前記第1の実施の形態において使用されている嵩回復装置1の冷却用の流体吹付け装置19と同じであるため、詳細な説明は省略する。
また、各冷却用の流体吹付け装置78,79における、冷却用ノズル82,83の噴射方向については、基本的に前記加熱用の流体吹付け装置43〜46の加熱用ノズル50〜53の角度と同様の角度とすることが好ましい。
【0066】
前記構成を有する嵩回復装置31を用いて、本発明の不織布の嵩回復方法を実施する場合について説明する。
基本的に、
図5に示すように、所定の方法で形成された不織布をロール状に巻き付けた不織布原反5から不織布2を繰り出し、その不織布2を前記加熱装置33の加熱室35〜38、及び前記冷却装置34の冷却室74,75を通して搬送することにより、該不織布2の嵩回復を行う。
【0067】
まず、前記加熱装置33において、第1の上方向け加熱室35、第1の下方向け加熱室36、第2に上方向け加熱室37、第2の下方向け加熱室38の順に前記不織布2を搬送すると共に、各加熱室35〜38の内部空間39〜42の入口39a〜42a側にそれぞれ配設された各流体吹付け装置43〜46の加熱用ノズル50〜53から対応する加熱室35〜38内に加熱用の流体を噴射し、各内部空間39〜42内に加熱された流体を供給する。これにより、4つの各加熱室35〜38の内部空間39〜42内において、加熱用の流体を各々の内部空間39〜42内に位置する不織布2に接触させ、結果的に、搬送中の不織布2を、第1の上方向け加熱室35から第2の下方向け加熱室42にわたって、ほぼ連続的に加熱する。
【0068】
その際、すべての加熱室35〜38の内部空間39〜42において、前記加熱用の流体を、前記不織布2が含んでいる熱可塑性繊維の融点よりも50°C低い温度以上、該融点の温度未満の温度で、前記不織布の搬送速度よりも早い流速で各加熱室内にそれぞれ吹付ける。
そして、すべての加熱室での不織布の加熱時間の合計が0.2〜4秒となるように、前記不織布を加熱する(即ち、各加熱室での加熱時間は0.05〜1秒程度)。
なお、前記加熱用の流体を吹付ける際の流速は、第1の実施の形態の場合と同様に、1000〜4000m/min程度が好ましい。
【0069】
このとき、前記各加熱室35〜38の内部空間39〜42内において不織布2が加熱され、その熱の影響によって不織布2の繊維がほぐされ、嵩が回復する。特に、不織布2の搬送方向の下流側の加熱室側(第2の下方向け加熱室38側)側に行くに従って、該不織布2の嵩が回復していくため、その不織布2の厚みが増していくこととなる。
また、前記加熱室35〜38の内部空間39〜42内に吹付けられた加熱用の流体は、不織布2の表面を該不織布の搬送方向に沿うように進行するため、流体の流れが不織布2の嵩の回復を阻害することがほとんどない。
【0070】
さらに、各々の各加熱室35〜38の内部空間39〜42内においては、前記第1の実施の形態と同様に、該内部空間39〜42内に吹付けられた流体の流速が不織布2の搬送速度よりも大きいことに伴う効果をそれぞれ得ることができる。即ち、不織布2の表面の空気の流れに乱れに伴って生じる、空気中の各種分子の不織布の表面へのランダムな角度での衝突による不織布2の繊維のほぐれや、不織布2のばたつきによる、加熱した流体の不織布内部への入り込み等による嵩回復の促進等の効果を、個々の加熱室においてそれぞれ得ることができる。
【0071】
なお、前記不織布2の加熱温度を、すべての加熱室35〜38を通じて、前記熱可塑性繊維の融点よりも50°C低い温度以上、該融点の温度未満の温度とした理由については、前記第1の実施の形態と同様である。
また、前記不織布2の加熱を、すべの加熱室35〜38での合計で0.2〜4秒行う理由についても、前記第1の実施の形態と同様である。
【0072】
次に、前記加熱装置33の第2の下方向け加熱室38から送出された不織布2を、冷却装置34の上方向け冷却室74、さらには下方向け冷却室75に順次に送入させ、各冷却室74,75の内部空間76,77内に位置する不織布2をそれぞれ冷却する。
前記冷却装置34による冷却は、加熱後の不織布が30℃以下、さらに好ましくは20〜25℃程度の室温にまで冷却することができればよく、例えば、上方向け冷却室及び下方向け冷却室における冷却温度を共に10〜30℃として、これらの2つの冷却室での冷却時間の合計が0.2〜4秒程度となるように冷却することが好ましい。
なお、前記冷却装置34における加熱後の不織布2の冷却の効果については、前記第1の実施の形態と同じである。
【0073】
なお、これらの上方向け冷却室74及び下方向け冷却室75のそれぞれにおいては、前記第1の実施の形態と同様に、各冷却室74,75の内部空間76,77内に吹付けられた冷却用流体の流速が不織布2の搬送速度よりも大きいことに伴う効果を得ることができる。即ち、不織布2の表面の空気の流れに乱れに伴う、空気中の各種分子の不織布の表面へのランダムな角度での衝突や、不織布のばたつくきに伴う、不織布2の内部への冷却用流体の入り込みによる冷却効果の向上等の効果を得ることができる。
【0074】
このように、本発明に係る不織布の嵩回復方法によれば、基本的に前記第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
しかしながら、前記加熱装置33は、前記不織布2を鉛直方向に向けて流通させる複数の加熱室35〜38を備え、これらの複数の加熱室35〜38によって不織布2を連続的に加熱可能としたことにより、必要な不織布2の加熱時間を比較的容易に確保することができるという利点がある。特に、近年の不織布の嵩回復に係る操業のように、不織布の搬送速度が非常に大きい場合であっても、前述の0.2〜4秒の加熱時間を確実に確保することができるため、不織布の嵩回復をより安定的に且つ確実に行うことができる。
【0075】
しかも、前記各加熱室35〜38は、いずれも鉛直方向に延設されて、不織布2を鉛直方向に向けて流通させる構成であるため、水平方向に延設された加熱室に比べて大きな面積の設置スペースを必要としないことから、加熱室数を容易に増やすことができる。したがって、不織布2の加熱に十分な加熱室の内部空間の長さ(すべての加熱室の内部空間の長さを合計した長さ)を、省スペース化を図りながらも比較的容易に確保することができる。
【0076】
なお、不織布2の搬送方向が、第1の上方向け加熱室35から第1の下方向け加熱室36へ転換する場合や、第1の下方向け加熱室36から第2の上方向け加熱室37へ転換する場合、さらに第2の上方向け加熱室37から第2の下方向け加熱室38へ転換する場合には、不織布2は加熱室外に送出され、一時的に不織布の加熱は行われない。しかしながら、不織布2が外気に触れるのはごく短時間である上、該不織布2には直前の加熱室での加熱による余熱を有した状態であるため、嵩回復にそれほど大きな影響はなく、実質的に連続で加熱した状態であるといえる。
特に、不織布2の搬送速度が大きくなるに従って、隣接する加熱室への転換及び搬送も早くなるため、外気に触れる時間はより少なくなり、嵩回復への影響は一層小さくなる。
【0077】
また、冷却装置34において、不織布2の搬送方向が、上方向け冷却室74から下方向け冷却室75へと転換する場合についても、不織布2は冷却室外に送出されて一時的に不織布の冷却が行われないが、冷却装置34においては、不織布2を室温程度まで冷却できれば問題ないため、冷却中の不織布2がごく短時間外気に触れたとしても、冷却にはそれほど影響はない。
【0078】
前記第1及び第2の実施の形態においては、不織布2の加熱の後に、該加熱した不織布2を冷却装置により冷却を行っているが、加熱温度が高くない場合や自然冷却を行う場合等、積極的な冷却が特に必要でない場合は、加熱後の不織布の冷却は行わなくてもよい。
また、不織布の冷却を行う必要がない場合には、不織布の嵩回復装置に冷却装置を設ける必要はない。なお、仮に冷却装置を設けた場合でも、不織布の冷却が必要でない場合は、冷却装置を駆動することなく不織布を次の工程に搬送すればよい。
【0079】
前記第1及び第2の実施の形態においては、加熱用の流体を加熱装置の加熱室の内部空間の入口側から該内部空間内に吹付けて、出口から排出するようにしているが、加熱用の流体については、加熱室の出口側から内部空間に吹付けて、入口から排出するようにしてもよい。この場合、不織布の搬送方向に反して流体を加熱室に吹付けることになる。
【0080】
前記第2の実施の形態においては、嵩回復対象の不織布2を、加熱装置33における上方向け加熱室に最初に送入し、次に下方向け加熱室に送入しているが、上方向け加熱室と下方向け加熱室との配列を変更して、不織布を最初に下方向け加熱室に送入するようにしてもよい。
また、前記第2の実施の形態においては、加熱装置33が、上方向け加熱室を2つ、下方向け加熱室2つの計4つの加熱室を備えたものとなっているが、この加熱室の数については、単数であってもよく、あるいは2つ又は3つ、さらには5つ以上であってもよく、不織布の搬送速度との関係で、該不織布を0.2〜4秒加熱することができる加熱室の長さ(すべての加熱室の合計の長さ)に応じて、適宜選択することができる。
ただし、上述のように、すべての加熱室の長さの合計は、1〜10m、より好ましくは3〜7mの範囲とすることが肝要である。また、1つの加熱室の長さとしては、300〜3000mmとすることが好ましく、300mm未満であると流体が内部空間に均一に行き渡らず、温度にばらつきが生じる可能性があり、3000mm超となると長すぎて設置上の問題が生じる可能性がある。
【0081】
また、前記第1の実施の形態において、本発明に係る嵩回復方法を用いて嵩を回復させた不織布を、吸収性物品としての生理用ナプキンの製造に使用した例を説明したが、本発明に係る嵩回復方法を用いて嵩を回復させた不織布は、生理用ナプキン以外、例えば使い捨ての紙オムツや失禁パッド、パンティーライナー、失禁ライナー等の各種吸収性物品に使用することができる。
また、この場合には、本発明の嵩回復方法を実施する嵩回復装置を、各種吸収性物品の製造装置に組み込んで、その嵩回復装置によって嵩が回復した不織布を各種吸収性物品の製造に連続的且つ直接的に使用することが好ましい。
【実施例】
【0082】
本発明の効果を確認するため、本発明に係る嵩回復方法と、本発明に依らない従来の嵩回復方法とで、嵩回復状態を比較する実験を行った。
具体的に、この実施例においては、前記第2の実施の形態で説明した嵩回復装置を用いて本発明に係る嵩回復方法を実施し、従来の嵩回復方法として、上述の特許文献1に記載のような、搬送されている不織布の面に略垂直に熱風を噴射するエアスルー方式の装置による嵩回復方法を実施した。
そして、本発明に係る嵩回復方法によって嵩回復が行ったサンプル(以下、実施例という。)と、本発明に依らない従来の嵩回復方法によって嵩回復を行ったサンプル(以下、「比較例」という。)との、嵩回復効率を比較して嵩回復効果を評価した。
ここで、「嵩回復効率」とは、嵩回復方法を実施した不織布の厚み(嵩回復前厚み)を、嵩回復方法を実施する前の不織布の厚み(嵩回復後厚み)で割った値(嵩回復前厚み/嵩回復後厚み)である。
【0083】
前記比較実験に際して、本発明例の場合は、次の3種類の不織布サンプルA〜Cを使用した。これらの不織布サンプルA〜Cは、いずれも、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートの芯鞘型複合繊維(鞘側にポリエチレンを配置)で形成した、エアスルー不織布である。なお、この複合繊維において融点の低い方の熱可塑性樹脂であるポリエチレンの融点は130℃である。なお、坪量については、JIS L 1906の5.2に従って測定した。
また、前記不織布サンプルAについては、繊維密度2.5dtex、坪量25g/m
2であり、不織布(不織布原反)の巻長4000m、巻径950mm、嵩回復前厚みは0.44mmである。
前記不織布サンプルBについては、繊維密度2.3dtex、坪量24g/m
2であり、不織布(不織布原反)の巻長4000m、巻径870mm、嵩回復前厚みは0.42mmである。
前記不織布サンプルCについては、繊維密度2.3dtex、坪量29g/m
2であり、不織布(不織布原反)の巻長4000m、巻径800mm、嵩回復前厚みは0.50mmである。
【0084】
一方、比較例において使用した不織布は、坪量58g/m
2であり、嵩回復前厚みが1.06mmであるエアスルー不織布を用いた。なお、この不織布は、前記特許文献1中の段落[0043]〜[0045]に記載の方法で製造されたものである。
【0085】
本発明の嵩回復方法を実施する嵩回復装置における、加熱装置の4つの加熱室(内部空間)は、軸線方向長さを1675mm、不織布の幅方向に沿う大きさを200mm、不織布の厚さ方向に沿う大きさを5mmとした。また、実際に不織布に対して加熱を行う加熱室の数を増減することにより、加熱に使用する加熱室の合計の長さを、1675mm、3350mm、5025mm、6700mmに段階的に変更できるようにしている。
【0086】
また、本発明の嵩回復方法を実施する場合には、加工速度(不織布の搬送速度)、流速、流体の温度、嵩回復装置における総加熱室長さ(使用した加熱室の合計の長さ)、加工時間(加熱時間)の各パラメータを変更して、実施例1〜13を得た。
そして、実施例1〜13、及び比較例における、それぞれの嵩回復前厚み、嵩回復後厚みから前記嵩回復効率を計算した。
なお、不織布の嵩(厚み)は、不織布に3.0gf/cm
2荷重を加えた状態で、厚み計((株)大栄科学精器製作所製, THICKNESS GAUGE UF−60)を用いて、不織布の10箇所で行い、その平均値を嵩(厚み)とした。
結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1からわかるように、実施例1〜13については、いずれも比較例の嵩回復効率を上回った。
また、不織布サンプルAを用いた実施例の中で、加工速度500m/minで、実施例の中で加熱室が最も短い実施例3については、加工時間が0.4秒であったが、比較例よりも嵩回復効率が高かった。これは、比較例に係る嵩回復方法(エアスルー方式)よりも不織布に熱が伝わり易かったためであると考えられる。
一方で、実施例1〜実施例3を比較すると、加工時間が長いほど嵩回復効率が高い。したがって、本発明の加熱時間の範囲においては、加熱時間が長いほど嵩回復の効果があらわれやすいことがわかる。
さらに、不織布サンプルAを用いた実施例の中で、加工速度500m/minで、実施例の中で加熱室が最も長い実施例4については、加工時間が最も長い実施例1に近い嵩回復効率が得られた。これは、総加熱室長さが増加することにより、実施例1で実施している100m/minで加えられた熱量が500m/minでも十分に不織布に与えられたためであると考えられる。
【0089】
実施例5〜7については、不織布原反のロールの外周寄りの部分、中間の径の部分、芯側の部分の不織布であるが、芯側にいくに従って嵩回復効率が向上し、嵩回復後の厚さは実施例5〜7の間ではあまり差異がなくなっていることがわかる。特に実施例7については、嵩回復前の厚みがこの3つの実施例の中で最も小さいが、嵩回復後は他の2つと遜色のない厚みとなっていることから、しっかりと加熱されて嵩回復が行われていると推測される。
【0090】
また、実施例1〜7については液透過速度を計測した。なお、この液透過速度は、LENZING社のLISTERストライクスルー試験機を用いて計測した。計測の手順は次のとおりである。
(1)100×100mmの大きさにカットしたろ紙(ADVANTEC FILTER PAPER GRADE2)5枚の上に、100×100mmの大きさにカットした試料を配置し、その上に通電透液プレートを配置する。
(2)ストライクスルー試験機本体に、ろ紙、試料及び通電透液プレートをセットする。
(3)ストライクスルー試験機本体に、生理食塩水5mLを入れる。
(4)ストライクスルー試験機本体から、生理食塩水5mL(室温)を、通電透液プレートの開孔部に落下させる。
(5)通電透液プレートの通電時間を記録する。
(6)計3回の測定を行い、透液時間の平均値を算出する。
なお、試料をセットしない場合、即ち、ろ紙5枚における透液時間は、69.13秒であった。
【0091】
この液透過速度を計測した結果、表1に示すように、いずれの実施例1〜7も、嵩回復前に比べて液透過速度が著しく向上していることがわかる。したがって、この実施例1〜7に係る不織布を生理用ナプキンや使い捨ての紙オムツの液透過性シート(トップシート)に使用した場合には、体液を素早く吸収体に透過させることができ、使用者の肌表面をドライに保つことができる。
【0092】
このように、本発明に係る不織布の嵩回復方法を実施することにより、不織布を加熱した流体によって効果的に加熱して、確実且つ安定的に不織布の嵩を回復することができることが実証された。