特許第5835077号(P5835077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835077
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】ニッケル粉及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20151203BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   B22F9/24 C
   B22F1/00 M
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-94385(P2012-94385)
(22)【出願日】2012年4月18日
(65)【公開番号】特開2013-221192(P2013-221192A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2014年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】上田 聡弘
(72)【発明者】
【氏名】小澤 秀造
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−059467(JP,A)
【文献】 特開2004−332055(JP,A)
【文献】 特開2007−138291(JP,A)
【文献】 特開2011−174121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/24
B22F 1/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル塩水溶液と還元剤溶液とアルカリ溶液を原料溶液とし、これらを混合した反応溶液中でニッケル塩を還元して、平均粒径が0.05〜0.3μmであり、走査型電子顕微鏡を用いて縦19.2μm×横25.6μmの視野を倍率5000倍で100視野撮影したとき、100視野の写真に検出される粒径1μmを超えるニッケル粒子の総数が10個以下であるニッケル粉を得るニッケル粉の製造方法において、反応溶液中のニッケル濃度を2〜10g/lとすると共に、ニッケル塩水溶液、還元剤溶液及びアルカリ溶液として粒径1μmを超える固形物粒子が除去されたものを用いることを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【請求項2】
パラジウムと銀のコロイド粒子が分散したコロイド溶液に、前記還元剤溶液とアルカリ溶液を添加してアルカリ性コロイド溶液とした後、該アルカリ性コロイド溶液を前記ニッケル塩水溶液と混合することを特徴とする、請求項1に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ性コロイド溶液として、粒径1μmを超える固形物粒子が除去されたものを用いることを特徴とする、請求項2に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項4】
前記コロイド溶液には、保護コロイド剤としてゼラチンが添加されていることを特徴とする、請求項2に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項5】
前記コロイド溶液を作製する際にゼラチンを溶液とし、該ゼラチン溶液から粒径1μmを超える固形物粒子を除去することを特徴とする、請求項4に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項6】
前記ニッケル塩水溶液、還元剤溶液及びアルカリ溶液として、粒径0.5μmを超える固形物粒子が除去されたものを用いることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項7】
前記固形物粒子の除去はフィルターを用いたろ過によることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項8】
前記フィルターの孔径が0.05〜0.8μmであることを特徴とする、請求項7に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項9】
前記フィルターの孔径が0.05〜0.5μmであることを特徴とする、請求項7又は8に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項10】
前記反応液中のニッケル濃度を2〜6g/lとすることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のニッケル粉の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサの内部電極材料として好適な小粒径のニッケル粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニッケル粉は厚膜導電体を作製するための導電ペーストの材料として使用されている。厚膜導電体は、電気回路の形成に用いるほか、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板等の積層セラミック部品の電極等に使用されている。特に積層セラミックコンデンサでは、小型・高容量化の要求から高積層化が進み、導電ペーストの使用量も大幅に増加しているため、導電ペーストに使用する金属粉末としては高価な貴金属の使用を避け、安価なニッケルなどの卑金属が主流となっている。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、内部電極層と誘電体層とが交互に積み重なったセラミック積層体の両端に外部電極が設けられた構造を有し、例えば次のような方法で製造されている。即ち、ニッケル粉と、エチルセルロース等の樹脂と、ターピネオール等の有機溶剤等とを混練し、得られた導電ペーストを誘電体グリーンシート上にスクリーン印刷し、その上に誘電体グリーンシートを重ねる。この操作を繰り返して誘電体グリーンシートと導電ペーストを交互に複数積層し、圧着した後、所定の大きさにカットする。
【0004】
次に、得られた積層体に脱バインダ処理を施した後、1300℃まで高温焼成することにより、内部電極層と誘電体層とが交互に積み重なったセラミック積層体とし、外部電極を取り付けて積層セラミックコンデンサが得られる。ここで、内部電極となる導電ペースト中の金属粉末は、上記のように貴金属よりもニッケルなどの卑金属が主流となっていることから、上記積層体の脱バインダ処理は、ニッケル粉などが酸化しないように、極めて微量の酸素を含んだ雰囲気下にて行われている。
【0005】
近年、積層セラミックコンデンサは小型・高容量化が進んでいる。高容量化のためには誘電体層と内部電極層の積層数を増やす必要があるが、積層数を増やすとコンデンサが大きくなり、小型化が困難になってしまう。そのため、一層あたりの層厚を薄くする薄層化による小型・高容量化が進んでいる。例えば内部電極の厚さは、従来の数μmから1〜3μm程度に薄くなってきており、1μm以下の厚さのものも出現している。
【0006】
しかし、薄層化により積層セラミックコンデンサの小型・高容量化を図る場合、内部電極材料として用いるニッケル粉に粗大粒子が含まれていると、粗大粒子が誘電体層を突き破って他の内部電極層と接触して短絡してしまい、十分な容量が得られなくなる可能性がある。そのため、積層セラミックコンデンサの内部電極材料として、平均粒径が小さく且つ単分散性の高い球状のニッケル粉が求められ、この要望に対応するため多くの提案がなされている。
【0007】
例えば、特許文献1には、ニッケル塩水溶液をヒドラジンで還元することによりニッケル粉末を製造する方法において、アルカリ性のヒドラジン水溶液にニッケルに対して5〜5000ppmのパラジウムを含む水溶液とニッケル塩水溶液を添加し、50〜90℃の反応温度に保持する方法が提案されている。この方法では、還元を促進する触媒としてパラジウムを使用し、パラジウムがニッケル粒子析出の核として作用するため、平均粒径の小さいニッケル粉が得られる。しかし、核となるパラジウムが凝集すると、凝集した核を中心にニッケルが成長し、単一の粒子が相互に連結した粒子や単一の粗大な粒子が発生してしまうため、粗大粒子の混入を抑制するには至っていない。
【0008】
また、特許文献2には、パラジウムと銀のコロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質とを混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製し、このアルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、ニッケル粒子を生成させるニッケル粉の製造方法が提案されている。この方法によれば、核となるコロイド粒子の凝集が抑制されるため、析出するニッケル粒子の粗大化が抑制されるとされている。しかしながら、触媒として作用する複合コロイド粒子の凝集に起因する粗大粒子の発生は抑制できるが、ニッケル粉における粗大粒子の発生は十分に抑制されたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−332055号公報
【特許文献2】特開2007−138291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、厚膜導電体、特に小型・高容量化に対応した積層セラミックコンデンサの内部電極材料として好適な、粒径が小さく且つ粗大粒子が十分に少ないニッケル粉と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者らは、ニッケル粉における粗大粒子の生成抑制に関して鋭意研究した結果、湿式還元によるニッケル粉の製造に用いられる原料溶液中に含まれる粗大な固形物粒子が、ニッケル粉の粗大粒子を生成する大きな原因であるとの知見を得た。また、粗大な固形物粒子は不溶性であり、溶液化した原料溶液をフィルタリングすることにより容易に除去することが可能であるとの更なる知見を得て、本発明を完成したものである。
【0012】
即ち、本発明によるニッケル粉の製造方法は、ニッケル塩水溶液と還元剤溶液とアルカリ溶液を原料溶液とし、これらを混合した反応溶液中でニッケル塩を還元して、平均粒径が0.05〜0.3μmであり、走査型電子顕微鏡を用いて縦19.2μm×横25.6μmの視野を倍率5000倍で100視野撮影したとき、100視野の写真に検出される粒径1μmを超えるニッケル粒子の総数が10個以下であるニッケル粉を得るニッケル粉の製造方法において、反応溶液中のニッケル濃度を2〜10g/lとすると共に、ニッケル塩水溶液、還元剤溶液及びアルカリ溶液として粒径1μmを超える固形物粒子が除去されたものを用いることを特徴とする。
【0013】
上記本発明によるニッケル粉の製造方法においては、パラジウムと銀のコロイド粒子が分散したコロイド溶液に、前記還元剤溶液とアルカリ溶液を添加してアルカリ性コロイド溶液とした後、該アルカリ性コロイド溶液を前記ニッケル塩水溶液と混合することができる。この場合には、前記アルカリ性コロイド溶液として、粒径1μmを超える固形物粒子が除去されたものを用いることが好ましい。
【0014】
また、上記本発明によるニッケル粉の製造方法において、前記コロイド溶液には、保護コロイド剤としてゼラチンが添加されていることが好ましい。ゼラチンを添加する場合には、前記コロイド溶液を作製する際にゼラチンを溶液とし、該ゼラチン溶液から粒径1μmを超える固形物粒子を除去することが好ましい。
【0015】
上記本発明によるニッケル粉の製造方法において、前記固形物粒子の除去はフィルターを用いたろ過によることが好ましい。その際使用するフィルターの孔径は0.05〜0.8μmであることが好ましく、0.05〜0.5μmであることが更に好ましい。また、前記反応液中のニッケル濃度については、2〜6g/lとすることが更に好ましい。
【0016】
本発明が提供するニッケル粉は、平均粒径が0.05〜0.3μmであり、走査型電子顕微鏡を用いて縦19.2μm×横25.6μmの視野を倍率5000倍で100視野撮影したとき、100視野の写真に検出される粒径1μmを超えるニッケル粒子の総数が10個以下であることを特徴とする。前記粒径が1μmを超えるニッケル粒子の総数としては、5個以下であることが好ましい。
【0017】
尚、本発明において「粒径」は、走査型電子顕微鏡又は光学顕微鏡での観察により、粒子の最大長を測定することにより求めたものである。また、「平均粒径」は、測定した粒径を個数平均したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、平均粒径が0.05〜0.3μmと小さく、粒径が1μmを超える粗大粒子(連結粒子を含む)が極わずかであり、厚膜導電体用材料として好適なニッケル粉を、容易に且つ量産規模で製造し、提供することができる。特に、本発明のニッケル粉は、薄層化が進む積層セラミックコンデンサの内部電極材料として使用すれば、内部電極層間の短絡を防止することができるため、積層セラミックコンデンサの小型・高容量化に対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、ニッケル粉の粗大粒子生成の抑制に関する研究過程において、湿式還元法によるニッケル粉の製造に用いられる原料溶液について直接検鏡法による固形物粒子の観察を行った。固形物粒子の観察は、原料溶液を孔径0.2μmのフィルターを用いてろ過し、フィルター上に捕捉された固形物粒子に染色を施した後、光学顕微鏡下で観察することによって行った。尚、ニッケル粉の湿式還元法においては、一般的に、ニッケル塩水溶液、還元剤溶液、アルカリ溶液、希釈用の溶媒(純水)が原料溶液として用いられる。
【0020】
そこで、塩化ニッケル水溶液、ヒドラジン水和物水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、純水の各1mlを孔径0.2μmのフィルターでろ過し、フィルター上に残留した固形物粒子をカウントしたところ、塩化ニッケル水溶液では10000個程度、ヒドラジン水和物水溶液では1000個程度、水酸化ナトリウム水溶液では600個程度、純水では2000個程度の固形物粒子が確認された。観察された固形物粒子の大きさは、いずれの原料溶液においても5〜100μm程度が大部分であった。
【0021】
次に、上記原料溶液に含まれる固形物粒子を除去するため、各原料溶液を孔径0.1μmのカートリッジフィルターにてろ過した後、ろ液中に残った固形物粒子の観察及び粒子数の計測を上記と同様の手法にて行った。その結果、ろ液中に残留した固形物粒子は、塩化ニッケル水溶液では20個程度、水酸化ナトリウム水溶液では300個程度、ヒドラジン水和物水溶液では20個程度、純水では200個程度が確認された。また、観察された固形物粒子の大きさはいずれも1μm程度以下であることが確認され、ろ過前と比較すると粒子数及び大きさ共に大幅に減少していることが確認できた。
【0022】
即ち、上記した各原料溶液中の固形物粒子の観察結果から、従来方法により得られたニッケル粉中に含まれる粗大なニッケル粒子は、原料溶液であるニッケル塩水溶液、還元剤溶液及びアルカリ溶液に含まれる粗大な固形物粒子を核として成長し、生成されたものであるとの知見を得るに至った。
【0023】
本発明によるニッケル粉の製造方法は、上記知見に基づいてなされたものであり、ニッケル塩水溶液と還元剤溶液とアルカリ溶液を原料溶液とし、これらを混合した反応溶液中でニッケル塩を還元してニッケル粉を得る際に、粒径が1μmを超える固形物粒子が除去された原料溶液を用いることを大きな特徴の一つとしている。これにより、粒径1μmを超える固形物粒子を核としてニッケル粒子が生成されることを防止でき、粒径が1μmを超える粗大なニッケル粒子の生成を大幅に低減することが可能となった。
【0024】
尚、上記還元剤及びアルカリ性物質として、従来方法では固体を用いる場合もあるが、本発明においては還元剤溶液及びアルカリ溶液を使用し、それぞれ粒径1μmを超える固形物粒子が除去されたものを用いればよい。即ち、各原料溶液を混合した反応液中でニッケル塩からニッケル粒子を還元析出させる前の段階において、各原料溶液から粒径1μmを超える不溶性の固形物粒子が除去されていればよい。
【0025】
上記本発明のニッケル粉の製造方法においては、ニッケル粒子の粗大化を更に抑制して、平均粒径が小さニッケル粉を確実に得るために、パラジウム(Pd)と銀(Ag)のコロイド粒子が分散したコロイド溶液に、還元剤溶液とアルカリ溶液を添加してアルカリ性コロイド溶液とし、そのアルカリ性コロイド溶液をニッケル塩水溶液と混合する方法が好ましい。尚、上記アルカリ性コロイド溶液を用いるニッケル粉の製造方法自体については、公知の方法を用いることができ、例えば上記特許文献2に開示された方法並びに条件を採用することができる。
【0026】
本発明においては、上記アルカリ性コロイド溶液を用いてニッケル粉を製造する方法の場合でも、アルカリ性コロイド溶液をニッケル塩水溶液と混合する前に、アルカリ性コロイド溶液から粒径1μmを超える固形物粒子を除去しておくことによって、粗大粒子をより一層低減させることができる。また、アルカリ性コロイド溶液の作製に用いる原料溶液の還元剤溶液とアルカリ溶液、及びニッケル塩水溶液として、粒径が1μmを超える固体物粒子が除去されたものをそれぞれ用いることは当然である。この方法により、ニッケル粉中の粒径が1μmを超えるニッケル粒子を更に低減することができる。
【0027】
上記アルカリ性コロイド溶液を用いる場合には、コロイド溶液を作製する際に保護コロイド剤としてゼラチンを添加することにより、パラジウムと銀のコロイド粒子を分散させることが好ましい。ゼラチンを添加することによって、コロイド粒子の凝集を抑制することができるため、凝集したコロイド粒子を核とする粒径が1μmを超えるニッケル粒子の生成を更に低減することができる。
【0028】
ゼラチンを添加する場合には、添加前にゼラチンをゼラチン溶液とし、そのゼラチン溶液から粒径1μmを超える固形物粒子を除去することが好ましい。上述のようにアルカリ性コロイド溶液を作製した後に固形物粒子を除去してもよいが、ゼラチンを添加する場合には微細で分散性のよいコロイド粒子が得られるため、アルカリ性コロイド溶液中の固形物粒子はゼラチンに由来するものが多い。そのため、ゼラチンをゼラチン溶液とした後、ゼラチン溶液から固形物粒子を除去することが好ましい。また、ゼラチン以外にコロイド溶液作製に用いられるパラジウム溶液及び銀溶液、溶媒、還元剤等についても、固形物粒子が除去されたものを用いることが好ましい。
【0029】
本発明においては、上記のごとく各原料溶液から、あるいは各原料溶液を用いて調整したアルカリ性コロイド溶液から、粒径1μmを超える固形物粒子が除去されることで、得られるニッケル粉中の粒径が1μmを超える粗大なニッケル粒子を大幅に低減することができる。更に好ましくは、粒径が0.5μmを超える固形物粒子が除去されることで、粒径1μmを超える粗大なニッケル粒子を更に確実に低減することができる。このように粒径が1μmを超える粗大なニッケル粒子が低減されるのは、粒径が1μm又は0.5μmを超える固形物粒子が除去されことで、還元中のニッケルの固形物粒子への付着による成長が抑制されるためである。
【0030】
上記した各原料溶液からの固形物粒子の除去は、固形物粒子となる成分を含まない原料溶液を用いることでも達成されるが、溶液状態の原料溶液をフィルターでろ過することにより固形物粒子を除去する方法が簡単且つ容易であるため好ましい。フィルターによるろ過方法は、一般的に用いられる方法でよく、例えば、カートリッジ式フィルターを通過させることで原料溶液をろ過すればよい。限外ろ過膜を用いることもできるが、粒径の極めて小さい粒子まで捕集するため過剰であり、コスト高となる。フィルターの材質は特に限定されるものではないが、フィルターからの不純物の溶出を抑制するため、PTFEなどのフッ素樹脂系のものを用いることが好ましい。
【0031】
上記フィルターとしては、0.05〜0.8μmの孔径を有するものを用いることが好ましい。上記のごとく粒径が1μmを超える固形物粒子を除去するためには、フィルター孔径の上限を1μm以下とする必要があるが、目開きの誤差を考慮して粒径1μmを超える固形物粒子の除去を確実なものとするため、フィルターの孔径の上限を0.8μmとすることが好ましい。また、粒径が0.5μmを超える固形物粒子を除去する場合には、フィルター孔径の上限は0.5μmとすることが好ましい。尚、固形物粒子除去の観点からは孔径は小さいほどよいが、孔径が小さすぎるとろ過が困難となり、コスト高になる。従って、固形物粒子の捕集能力及びろ過の容易さから、フィルター孔径の下限は0.05μmとすることが好ましい。
【0032】
本発明においては、粒径が1μmを超えるニッケル粒子の生成を抑制するために、上記した粒径1μmを超える固形物粒子が除去された原料溶液を用いると共に、反応溶液中のニッケル濃度を2〜10g/lの範囲とする。ニッケル濃度が10g/lを超えると、ニッケル粒子間での凝集が生じるため、粒径が1μmを超えるニッケル粒子の生成を抑制することが難しくなるからである。一方、ニッケル濃度が2g/l未満になると、反応溶液中のニッケル粒子数が少なくなりすぎるため、生産性が低下するばかりか、排水処理等の費用が増加するため好ましくない。反応溶液中のニッケル濃度は2〜6g/lの範囲が特に好ましい。
【0033】
次に、本発明のニッケル粉の製造方法について条件等を更に詳しく説明する。まず、本発明のニッケル粉の製造方法は、ニッケル塩水溶液と還元剤溶液とアルカリ溶液を混合し、その反応溶液中でニッケル塩を還元してニッケル粉を得るものであり、上記のごとく粒径1μmを超える固形物粒子が除去された原料溶液を用いること以外については、基本的に公知の技術を用いることができる。尚、ニッケル粉の製造装置としては、通常の湿式還元法によるニッケル粉の製造装置、例えば撹拌手段付及び温度制御手段付の反応装置を用いることができる。
【0034】
上記ニッケル塩水溶液としては、例えば、塩化ニッケル、硝酸ニッケル及び硫酸ニッケル等から選ばれた少なくとも1種のニッケル塩を含む水溶液を用いることができる。これらの水溶液の中では、特に排水処理が容易である塩化ニッケル水溶液が好ましい。また、上記アルカリ溶液に用いるアルカリ性物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の水溶性のアルカリ性物質であればよく、その中でも排水処理が容易な水酸化ナトリウムが好ましい。
【0035】
上記還元剤溶液についても、使用する還元剤は特に限定されるものではなく、例えば、ヒドラジン(N)、ヒドラジン化合物、水素化ホウ素ナトリウム等から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの還元剤溶液の中でも、水溶性ヒドラジン化合物を用いたヒドラジン水溶液を用いることが更に好ましい。また、水溶性ヒドラジン化合物の中では、不純物が少ない点でヒドラジンやヒドラジン水和物が特に好ましい。
【0036】
ニッケル塩水溶液と還元剤溶液とアルカリ溶液を混合した反応溶液のpHは、10以上に調整することが好ましい。反応溶液のpHが10未満では、反応速度が遅くなるため、ニッケルの還元析出が起こり難くなる。また、還元時の反応温度としては、50〜90℃が好ましく、60〜80℃が更に好ましい。反応温度が50℃未満ではニッケルの還元析出が進み難く、得られたニッケル粉の形状が不定形になり、粒度分布巾が広くなることがある。一方、反応温度が90℃を超えると、ヒドラジンの分解が進みすぎることから、添加量を多くする必要があり経済的でない。
【0037】
上記した本発明のニッケル粉の製造方法により、平均粒径が0.05〜0.3μmであると同時に、走査型電子顕微鏡を用いて縦19.2μm×横25.6μmの視野を倍率5000倍で100視野撮影したとき、その100視野の写真に検出される粒径1μmを超えるニッケル粒子の総数が10個以下、更に好ましくは5個以下にまで低減されたニッケル粉を得ることができる。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
原料溶液として、ニッケル濃度100g/lの塩化ニッケル水溶液と、60質量%のヒドラジン水溶液と、ナトリウム濃度210g/lの水酸化ナトリウム水溶液とを準備した。これらの各原料溶液を、それぞれフィルター孔径0.1μmのPTFE製カートリッジフィルター(ADVANTEC社製)を用いてろ過した。
【0039】
また、純水にゼラチン0.05gを溶解してゼラチン溶液を作製し、そのゼラチン溶液に60質量%のヒドラジン水溶液0.1gを混合した後、パラジウム0.0025gと銀0.000025gを含むコロイド溶液を滴下して複合コロイド溶液とした。得られた複合コロイド溶液を、フィルター孔径0.2μmのフィルターを用いてろ過した。
【0040】
上記のごとく各原料溶液と複合コロイド溶液をろ過した後、それぞれフィルター上に捕捉した固形物粒子に染色を施し、光学顕微鏡により固形物粒子を観察した。その結果、フィルター上に捕捉された固形物粒子は、いずれも粒径1μmを超えるものがないことが確認された。
【0041】
次に、上記複合コロイド溶液を水で6リットルに希釈してビーカー入れ、恒温槽にて75℃まで撹拌しながら加熱昇温した。その後、この希釈した複合コロイド溶液に上記水酸化ナトリウム水溶液135mlを添加した後、上記ヒドラジン水溶液を185ml加え、ニッケルを還元するためのアルカリ性コロイド溶液とした。アルカリ性コロイド溶液中のパラジウム、銀、ゼラチンの含有量は、混合するニッケル塩水溶液中のニッケルの質量に対して、パラジウムが50質量ppm、銀が0.5質量ppm、ゼラチンが1000質量ppmである。尚、上記水も各原料溶液と同様にろ過したものを用い、ろ過後に粒径1μmを超えるものがないことが確認された。
【0042】
次に、上記アルカリ性コロイド溶液に、上記塩化ニッケル水溶液500mlを滴下して、ニッケル粒子を還元析出させた。このときの反応溶液中のニッケル濃度は7.3g/lである。還元反応が終了した後、固液分離してニッケル粉を回収し、水洗及び乾燥を行った。
【0043】
得られたニッケル粉について、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、商品名JSM−5510)を用い、縦19.2μm×横25.6μmの視野を倍率5000倍で100視野撮影した。撮影した100視野の各写真の全範囲について観察し、粒径が1μmを超える粗大ニッケル粒子の数を計測した。尚、連結粒子の直径については、各粒子の最大になる径を直径とみなした。得られた計測結果を、ゼラチン溶液、複合コロイド溶液及び原料溶液についてのフルターろ過の有無と併せて、下記表1に示した。
【0044】
[実施例2]
複合コロイド溶液をろ過せず、ゼラチン溶液をろ過した以外は、上記実施例1と同様にしてニッケル粉を製造すると共に、得られたニッケル粉中の粒径が1μmを超える粗大ニッケル粒子の数を計測して、その計測結果を下記表1に示した。
【0045】
[実施例3]
複合コロイド溶液をろ過しなかった以外は、上記実施例1と同様にしてニッケル粉を製造すると共に、得られたニッケル粉中の粒径が1μmを超える粗大ニッケル粒子の数を計測して、その計測結果を下記表1に示した。
【0046】
[実施例4]
複合コロイド溶液をろ過せず、反応液中のニッケル濃度が5.3g/lとなるように塩化ニッケル水溶液350mlを滴下した以外は、上記実施例1と同様にしてニッケル粉を製造すると共に、得られたニッケル粉中の粒径が1μmを超える粗大ニッケル粒子の数を計測して、その計測結果を下記表1に示した。
【0047】
[実施例5]
複合コロイド溶液をろ過せず、反応液中のニッケル濃度が3.6g/lとなるように塩化ニッケル水溶液250mlを滴下した以外は、上記実施例1と同様にしてニッケル粉を製造すると共に、得られたニッケル粉中の粒径が1μmを超える粗大ニッケル粒子の数を計測して、その計測結果を下記表1に示した。
【0048】
[比較例1]
フィルターによるろ過を全く行わなかったこと以外は、上記実施例1と同様にしてニッケル粉を製造すると共に、得られたニッケル粉中の粒径が1μmを超える粗大ニッケル粒子の数を計測して、その計測結果を下記表1に示した。
【0049】
[比較例2]
フィルターによるろ過を全く行わず、反応液中のニッケル濃度が3.6g/lとなるように塩化ニッケル水溶液250mlを滴下した以外は、上記実施例1と同様にしてニッケル粉を製造すると共に、得られたニッケル粉中の粒径が1μmを超える粗大ニッケル粒子の数を計測して、その計測結果を下記表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1の結果から分るように、フィルターによる原料溶液のろ過を全く行っていない比較例1及び2では、反応液中のニッケル濃度にかかわらず、走査型電子顕微鏡での100視野の写真に検出された粒径が1μmを超える粗大ニッケル粒子の数が共に10個を超えている。
【0052】
一方、本発明により原料溶液をろ過した実施例1〜5においては、走査型電子顕微鏡での100視野の写真に検出された粒径が1μmを超える粗大ニッケル粒子は10個以下であり、上記比較例1及び2に比べて粗大粒子が非常に少ないニッケル粉であることが確認された。
【0053】
特に、原料溶液と共に複合コロイド溶液をろ過した実施例1、原料溶液と共にゼラチン溶液をろ過した実施例2、並びにゼラチン溶液と複合コロイド溶液をろ過しないが、反応溶液中のニッケル濃度を6g/l以下とした実施例4及び5では、粒径が1μmを超える粗大ニッケル粒子が5個以下となり、粗大粒子が極めて少ないニッケル粉であることが確認された。