【文献】
Yasushi MURAKAMI et al.,Preparation of ultrafine ruthenium oxide particles with ammonium hydrogencarbonate,Denki Kagaku,1997年12月 5日,Vol.65, No.12,pp.992-996
【文献】
Kuo-Hsin CHANG et al.,Coalescence inhibition of hydrous RuO2 crystallites prepared by a hydrothermal method,Applied Physics Letters,2006, Vol.88,pp.193102-1 - 193102-3
【文献】
Todd P. LUXTON et al.,Characterization and dissolution properties of ruthenium oxides,Journal of Colloid and Interface Science,Available online 27 March 2011, Vol.359,pp.30-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導電性粒子として、さらに銀(Ag)粉、パラジウム(Pd)粉もしくはパラジウムによりコートされた銀粉の酸化物粉末及び貴金属粉末のいずれか1種以上を配合したことを特徴とする請求項4に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【背景技術】
【0002】
一般にチップ抵抗器、ハイブリッドIC、または、抵抗ネットワーク等の厚膜抵抗体は、セラミック基板に厚膜抵抗ペーストを印刷して焼成することによって形成されている。厚膜抵抗体用の組成物は、導電粒子として酸化ルテニウムを代表とするルテニウム酸化物粉末とガラス粉末を主な成分としたものが広く用いられている。
【0003】
ルテニウム酸化物とガラス粉末が厚膜抵抗体に用いられる理由は、空気中での焼成ができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づける事が可能である事に加え、広い領域の抵抗値の抵抗体が形成可能である事などが挙げられる。
【0004】
ルテニウム酸化物とガラス粉末からなる厚膜抵抗用組成物では、その配合比によって抵抗値が変わる。導電粒子であるルテニウム酸化物の配合比を多くすると抵抗値が下がり、導電物の配合比を少なくすると抵抗値が上がる。この事を利用して、厚膜抵抗体では、ルテニウム酸化物とガラス粉末の配合比を調整して所望する抵抗値を出現させている。
【0005】
ルテニウム酸化物として最も一般的なものは、ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO
2)であり、後述するルテニウム酸化物の種類の中では比抵抗が最も低い。そして、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末とガラス粉末の組み合わせでは、一般に10
−2Ω・cm〜10
4Ω・cm(10
−4Ω・m〜10
2Ω・m)の領域の抵抗体が形成できる。
【0006】
ルテニウム酸化物としては、ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO
2)、パイロクロア型の結晶構造を有するルテニウム酸鉛、ルテニウム酸ビスマス、ペロブスカイト型結晶構造を有するルテニウム酸カルシウム、ルテニウム酸ストロンチウム、ルテニウム酸バリウム、ルテニウム酸ランタン等があり、これらはいずれも金属的な導電性を示す酸化物である。
ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO
2)は、例えば、不定形酸化ルテニウム水和物を焙焼して得られたRuO
2 粒子に、例えば、KOHおよびNaOHの少なくとも一方を被覆させ、再び焙焼したのち、水洗、乾燥するなどの方法で製造されている(特許文献4参照)。
【0007】
ルテニウム酸化物とガラス粉末からなる厚膜抵抗用組成物は、優れた抵抗体特性が得られるため広く用いられているが、ルテニウムは高価な貴金属であり、これを用いる厚膜抵抗体はコストが高い欠点がある。
そのためルテニウム酸化物とガラス粉末の組み合わせでは到達することが難しい、低い抵抗値領域の厚膜抵抗用組成物においては、導電物としてパラジウムと銀を添加することで所望の抵抗値を出現させている。しかし、パラジウムはルテニウムよりも高価な貴金属であり、この抵抗値が低い領域の厚膜抵抗体も同様にコストが高くなる欠点がある。また、ルテニウムとパラジウムは産出量が少ないため価格変動が激しく厚膜抵抗体の製造にかかる原料コストが安定しない。特に抵抗値が低い厚膜抵抗体程、ルテニウムもしくはパラジウム含有率が高いために価格が高く、製品価格が不安定になる。したがって、ルテニウム、抵抗値が低い領域においてはルテニウムとパラジウムの使用量を極力削減した低価格の厚膜抵抗体用組成物が望まれていた。
【0008】
これまでに粒径の細かい酸化ルテニウム(RuO
2)を厚膜抵抗体に用いた例として、特開平7−22202(特許文献1)がある。この特許文献1では、比表面積が大きい酸化ルテニウムを使用する事によって静電放電(ESD)に対する耐久性を改善されると述べており、比表面積が50m
2/g以上であり、かつ結晶子サイズが25nm以下である酸化ルテニウムの固形物を使用した厚膜抵抗体組成物の例を挙げている。しかしながら、ここに記載された実施例では比表面積が最も大きいものでも51.9m
2/gであり、結晶子サイズの最も小さいものでも13.3nmである。この比表面積と結晶子サイズでは、厚膜抵抗体用組成物として十分に経済的な効果が得られるほどルテニウムを削減できない。
【0009】
また、特開平8−217459(特許文献2)には、比表面積が70m
2/g以上の酸化ルテニウム粉末を製造した例が記載されている(実施例)。しかし、結晶子に関する記載はない。また、酸化ルテニウム中のルテニウム含有量が最大73.9%であることから水和した結晶の完全性が低い酸化ルテニウムであり、このような酸化ルテニウム粉末を用いた厚膜抵抗体は抵抗値が高くなり、厚膜抵抗体用組成物としてルテニウムを削減する事はできない。
【0010】
この他、特開平4−290401(特許文献3)にも比表面積が200m
2/gであるルテニウム酸化物を導電粒子とする抵抗体ペーストが記載されている(実施例)。しかし、これも結晶子に関する記載はなく、H
2Oが20%付加されているルテニウム酸化物と記載されていることから、水和した結晶の完全性が低いものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ルテニウムの含有率が低くても充分な性能を有するチップ抵抗器、ハイブリッドIC、または、抵抗ネットワーク等の電子部品材料として安価に製造できる酸化ルテニウム粉末、それを用いた厚膜抵抗体用組成物および厚膜抵抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述した従来の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、導電性粒子とガラス粉末を主な構成成分とする厚膜抵抗体用組成物において、結晶性の高い酸化ルテニウムを用いることによって、その結晶子径が微細であっても、抵抗ペースト焼成時に粒成長が抑制されるようになることを見出し、このような酸化ルテニウム(RuO
2)を原料とすることによって、抵抗値が低くルテニウム含有率を削減した安価な厚膜抵抗体
用組成物を提供できることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ルチル型結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO
2)粉末であって、X線回折法でその(110)面を測定した結晶子径が3〜10nmであり、かつRu含有量が73質量%以上であることを特徴とする酸化ルテニウム粉末が提供される。
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末の比表面積が70〜200m
2/gであることを特徴とする酸化ルテニウム粉末が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1または2の発明において、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末は、結晶子径D1と比表面積径D2の比が、下記の式(1)を満たすことを特徴とする酸化ルテニウム粉末が提供される。
D1/D2≧0.70 ・・・(1)
(ただし、結晶子径D1は、X線回折法によるルチル型結晶構造の(110)面での測定値(nm)であり、比表面積径D2は、粉末の比表面積をS(m
2/g)、比重をρ(g/cm
3)と表したときの6×10
−6/(ρ・S)の計算値(nm)である)
【0016】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、酸化ルテニウム粉末からなる導電性粒子とガラス粉末を主要構成成分として配合してなる厚膜抵抗体用組成物が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、導電性粒子として、さらに銀(Ag)粉、パラジウム(Pd)粉、もしくはパラジウムによりコートされた銀粉の酸化物及び貴金属粉末のいずれか1種以上が配合されることを特徴とする厚膜抵抗体用組成物が提供される。
一方、本発明の第6の発明によれば、第4又は5の発明において、導電性粒子とガラス粉末は、質量比として5:95〜70:30の範囲で配合されることを特徴とする厚膜抵抗体用組成物が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第4〜6のいずれかの発明において、ガラス粉末は、50%累計粒度が5μm以下であることを特徴とする厚膜抵抗体用組成物が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第4〜7のいずれかの発明において、厚膜抵抗体
用組成物が脂肪酸を含む有機ビヒクル中に分散した厚膜抵抗体ペーストであって、脂肪酸の含有量が酸化ルテニウム100重量部に対して0.1〜10重量部であることを特徴とする厚膜抵抗体ペーストが提供される。
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、脂肪酸が、炭素数が12以上の高級脂肪酸であることを特徴とする厚膜抵抗体ペーストが提供される。
【0017】
また、本発明の第10の発明によれば、第8の発明において、導電性粒子とガラス粉末は、質量比として5:95〜70:30の範囲で配合されることを特徴とする厚膜抵抗体ペーストが提供される。
さらに、本発明の第11の発明によれば、第4〜7のいずれかの発明の厚膜抵抗体用組成物を、セラミック基板上で焼成してなる厚膜抵抗体が提供される。
また、本発明の第12の発明によれば、第8〜10のいずれかの発明の厚膜抵抗体ペーストを、セラミック基板に塗布した後、焼成して形成された厚膜抵抗体が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、ルチル型結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO
2)粉末が、X線回折法でその(110)面を測定した結晶子径が3〜10nmと微細であり、かつRu含有量が73質量%以上と結晶性が高いため、微細でありながら、抵抗ペースト焼成時に粒成長が抑制されるようになる。この効果は、酸化ルテニウム(RuO
2)の比表面積が特定範囲であるとより大きくなり、該比表面積と比重から算出される比表面積径が、前記X線回折法でその(110)面を測定した結晶子径に対して特定の範囲にあると、一層大きな効果が得られるようになる。
したがって、本発明の酸化ルテニウム(RuO
2)粉末を原料とする事によって、安価で経済性に優れた厚膜抵抗体用組成物および厚膜抵抗体ペーストを提供することができる。
さらに、本発明によれば、このルテニウム酸化物粉末を厚膜抵抗体用組成物として用い、セラミック基板上で焼成することで、高性能な厚膜抵抗体が形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の酸化ルテニウム粉末、それを用いた厚膜抵抗体用組成物および厚膜抵抗体について詳細に説明する。
【0020】
1.酸化ルテニウム粉末
本発明の酸化ルテニウム粉末は、ルチル型結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO
2)粉末であって、X線回折法でその(110)面を測定した結晶子径が3〜10nmであり、かつRu含有量が73質量%以上であることを特徴とする。
【0021】
厚膜抵抗体用の酸化ルテニウム(RuO
2)粉末は、一般に、湿式で合成された水和した酸化ルテニウム粉末を熱処理することによって製造されており、その合成方法や熱処理の条件によって粒径や結晶性が異なる。また、粒径や結晶性によって特性も異なっている。本発明は、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末の粒径や結晶性が、下記(イ)の条件を満たしていることで、所望される抵抗値の厚膜抵抗体を安価に提供しようとするものである。
(イ)X線回折法によってルチル型結晶構造の(110)面で測定した結晶子径が3〜10nmであり、かつRu含有量が73質量%以上である酸化ルテニウム(RuO
2)粉末。
【0022】
厚膜抵抗体用原料の酸化ルテニウム(RuO
2)粉末は、一次粒子の粒径が小さく一次粒子をほぼ単結晶と見なす事が出来る場合、粒径をX線回折法によって測定された結晶子径で代用する事ができる。ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO
2)では、回折ピークのうち、結晶構造の(110)、(101)、(211)、(301)、(321)面の回折ピークが比較的大きいが、本発明では、(110)面で測定した結晶子径が3〜10nmでなければならない。
【0023】
厚膜抵抗体の抵抗値は、抵抗体幅と抵抗体長さの比を1:1とした面積抵抗値で評価される。酸化ルテニウム(RuO
2)粉末とガラス粉末を主な構成成分とする厚膜抵抗体用組成物では、これらの配合比が同一であっても、原料粉末の粒径によって出現する面積抵抗値が異なる。前述したように、一般に厚膜抵抗体では、粒径15nm〜500nmの酸化ルテニウム粉末と粒径500nm〜10μmのガラス粉末が用いられている。
【0024】
粒径が15nm以上の酸化ルテニウム(RuO
2)粉末を用いた場合、粒径が小さい方が抵抗値は低くなる傾向があるが、粒径を小さくしていくと3nm以下で抵抗値は逆に高くなる。そのためか3nm〜15nmの粒径の酸化ルテニウム(RuO
2)粉末を原料とした厚膜抵抗体の例はほとんど見当たらない。
粒径の小さい酸化ルテニウム(RuO
2)粉末では、抵抗ペーストを焼成し形成された厚膜抵抗膜中の酸化ルテニウム(RuO
2)粒子間の距離が小さくなり、面積抵抗値が低くなると考えられる。しかし、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末の粒径を小さくし過ぎた場合、抵抗ペーストを焼成している間に酸化ルテニウム(RuO
2)粒子の成長が起こり、酸化ルテニウム(RuO
2)間の距離が大きくなって面積抵抗値が高くなると考えられる。
【0025】
このようなことから、本発明では、粒径が小さく且つ抵抗ペースト焼成時に粒成長が抑制された酸化ルテニウム(RuO
2)粉末を原料として用いる事によって、抵抗値が低くルテニウム含有率を削減した安価な厚膜抵抗体
用組成物を得ようとするものである。酸化ルテニウム(RuO
2)粉末の結晶子径が3nm未満であると、上記のように焼成している間に粒子の成長が起こり、面積抵抗値が高くなる問題があり、また、結晶子径が10nmを超えると面積抵抗値が高くなる問題がある。酸化ルテニウム(RuO
2)粉末の結晶子径は3.2〜9.8nmがより好ましい。
また、本発明では、酸化ルテニウム(RuO
2)のRu含有量が73質量%以上でなければならない。Ru含有量が73質量%未満であると、結晶性が低いので、抵抗ペーストの焼成中に酸化ルテニウム粒子の成長がおこり面積抵抗値が高くなる問題がある。Ru含有量は74質量%以上であることが好ましい。
【0026】
本発明では、厚膜抵抗体用の酸化ルテニウム(RuO
2)粉末は、前記(イ)の条件を満たす必要があるが、さらに下記(ロ)の条件を満たすことが好ましく、さらには(ハ)の条件も満たすことがより好ましい。これにより厚膜抵抗体の面積抵抗値が高くならず、さらに安価な厚膜抵抗体を提供することができる。
(ロ)比表面積が70m
2/g以上、200m
2/g以下である、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末。
(ハ)X線回折法によってルチル型結晶構造の(110)面で測定した結晶子径をD1(nm)、導電性粒子の比表面積をS(m
2/g)、比重をρ(g/cm
3)と表した時、6×10
−6/(ρ・S)として算出される比表面積径D2(nm)として、D1/D2≧0.70である酸化ルテニウム(RuO
2)粉末。
【0027】
酸化ルテニウム(RuO
2)粉末の比表面積が70m
2/g未満の場合、厚膜抵抗体としたときの抵抗値が高くなり、ルテニウム含有率の削減効果が得られない。また、200m
2/gを越えると厚膜抵抗体ペースト中での分散が低下し、酸化ルテニウム粉末の凝集が生じるため、厚膜抵抗体の抵抗値が高くなり、ルテニウム含有率の削減効果が得られない。好ましい比表面積は75〜190m
2/gである。
厚膜抵抗体に用いられる酸化ルテニウム(RuO
2)粉末の一次粒子の粒径は小さいので、結晶子径や比表面積径で代表する事ができる。そして一次粒子をほぼ単結晶と見なす事が出来る場合、粒径をX線回折法によって測定された結晶子径で代用する事ができる。結晶子が小さくなると完全にBraggの条件を満たす結晶格子が減り、X線を照射した際の回折線プロファイルが広がる。格子歪が無いと仮定した場合、結晶子径をD1(nm)、X線の波長をλ(nm)、回折線プロファイルの広がりをβ、回折角をθとすると以下のScherrerの式から結晶子径が測定される。
D1(nm)=(K・λ)/(β・cosθ) ・・・(2)
(式中、KはScherrer定数であり、0.9を用いる。)
【0028】
前記したとおり、ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO
2)では、回折ピークのうち、結晶構造の(110)、(101)、(211)、(301)、(321)面の回折ピークが比較的大きく、これらの回折線プロファイルの広がりから結晶子径を算出する事が可能である。
一方、比表面積径は、粉末の粒径が細かくなるとその比表面積が大きくなる。これにより粉末の粒径をD2(nm)、密度をρ(g/cm
3)、比表面積をS(m
2/g)とすると、粉末が真球や立方体の形状の場合は、以下の関係式が成り立つ。このD2によって算出される粒径は比表面積径と呼ばれている。
D2(nm)=6×10
3/(ρ・S) ・・・(3)
【0029】
酸化ルテニウム(RuO
2)の粉末が多結晶である場合、あるいは水和などによって結晶の完全性が乏しい場合などは、結晶子径D1よりも比表面積径D2の方が大きくなり、D2に対するD1の割合すなわちD1/D2は1より小さくなる。したがって、D1/D2の値は粒子の結晶完全性の目安となり、D1/D2が小さいほど粒子を形成している結晶の完全性は低く、D1/D2が大きいほど結晶の完全性は高いと判断できる。一般に、粉末が微細になるにつれて粒子を形成している結晶の完全性は低下し、D1/D2の値は小さくなる傾向がみられる。本発明では、結晶性が高く、単結晶に近いので、D1/D2≧0.70となるものが好ましい。より好ましいのは、D1/D2≧0.73となるものである。
【0030】
2.ルテニウム酸化物粉末の製造方法
厚膜抵抗体用の酸化ルテニウム(RuO
2)粉末は、その製造方法によって制限されるものではないが、湿式で合成された水和した酸化ルテニウム粉末を熱処理することによって製造することが望ましい。この製造方法では、その合成方法や熱処理の条件によって粒径や結晶性が異なる。
【0031】
Ru酸化物の水和物を合成する際のRu溶液や合成法には、代表的な方法としてK
2Ru
2O
4水溶液にエタノールを加える方法や、RuCl
3水溶液をKOH等で中和する方法が挙げられる。
水和した酸化ルテニウム粉末は、酸化雰囲気下で400℃を超える温度で熱処理することで結晶水がとれ、粉末の結晶性が高くなる。ここで酸化雰囲気とは、酸素を10容積%以上含む気体であり、例えば空気を使用することができる。
熱処理の温度は400℃より低いとルテニウム酸化物が完全に生成されず、一方、800℃を超えると、ルテニウム酸化物の粒径が大きくなり過ぎたり、ルテニウムが6価や8価の酸化物(RuO
3やRuO
4)となって揮発する割合が高くなり好ましくない。したがって、熱処理温度は、500〜800℃とすることが一般的である。また、適正な熱処理の時間は、熱処理温度、熱処理の雰囲気、熱処理方法等により適宜設定する。熱処理時間が1時間以上だと、特に高温ではルテニウム酸化物の粒径が大きくなり、ルテニウムが6価や8価の酸化物(RuO
3やRuO
4)となって揮発する傾向がある。好ましいのは40分以下、より好ましいのは30分以下である。
【0032】
3.厚膜抵抗体
用組成物
本発明は、特定の結晶子径を有し、かつ特定のルテニウム含有量であるルテニウム酸化物粉末を合成し、それを厚膜抵抗体用組成物の導電成分とすることで、ルテニウム酸化物の配合量を少なくし、安価な厚膜抵抗体を得ようとするものである。
すなわち、本発明は、酸化ルテニウム粉末からなる導電性粒子とガラス粉末を主要構成成分として配合してなる厚膜抵抗体用組成物である。
【0033】
(1)導電性粒子
本発明は、導電性粒子として前記のルテニウム酸化物粉末を使用するが、本発明の厚膜抵抗体用組成物には、必要に応じて、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末以外の導電性粒子を含んでも良い。これらの導電性粒子としては、銀(Ag)粉、パラジウム(Pd)粉もしくはパラジウムによりコートされた銀粉の酸化物粉末及び貴金属粉末を挙げることができる。形状は球状、フレーク状など特に限定されず、平均粒径は0.1〜10μmのものが好ましい。
また、これらの他にも、パイロクロア型の結晶構造を有するルテニウム酸鉛、ルテニウム酸ビスマス、ペロブスカイト型結晶構造を有するルテニウム酸カルシウム、ルテニウム酸ストロンチウム、ルテニウム酸バリウム、ルテニウム酸ランタン等のルテニウム酸化物等が挙げられる。
【0034】
(2)ガラス粉末
ガラス粉末は、その組成や製造方法によって限定されない。厚膜抵抗体には、一般的に鉛を含有するアルミノホウケイ酸鉛が多く用いられており、その他ホウケイ酸亜鉛系、ホウケイ酸カルシウム系、ホウケイ酸バリウムなどの鉛を含有しない組成系のガラス粉末も用いられている。ガラスは、一般的に、所定の成分またはそれらの前駆体を目的とする抵抗値が得られるような配合で混合し、これらを溶融し急冷する事によって製造される。溶融温度は1400℃前後、急冷は溶融物を冷水中に入れるか冷ベルト上に流す事によって行われる事が多い。ガラスの粉砕はボールミル、振動ミル、遊星ミル、あるいはビーズミルなどで目的とする粒度まで行われる。
【0035】
ガラス粉末の粒径も限定されないが、レーザー回折を利用した粒度分布計の50%累計粒度は5μm以下が好ましく、更に好ましくは3μm以下である。ガラス粉末の粒度が大き過ぎると、焼成された厚膜抵抗体の面積抵抗値は低くなるが、面積抵抗値のバラツキが大きくなり歩留まりが低下する、負荷特性が低下するなどの不具合が生じる可能性が高くなる。
【0036】
酸化ルテニウム(RuO
2)粉末などの導電性粒子とガラス粉末の割合は、目的とする面積抵抗値によって任意に変える事ができる。すなわち、目的とする抵抗値が高い場合には導電性粒子を少なく配合し、目的とする抵抗値が低い場合には導電性粒子を多く配合する。好ましい重量比は導電性粒子:ガラス粉末=5:95〜70:30の範囲である。これよりも導電性粒子が少ないと抵抗値が高くなり過ぎて不安定となる。また、これよりも導電性粒子が多いと形成される抵抗体膜が脆くなる。
【0037】
本発明の厚膜抵抗体用組成物には、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末、ガラス粉末の他に面積抵抗値や抵抗温度係数の調整、膨張係数の調整、耐電圧性の向上やその他の改質を目的とした添加剤を含んでもなんら差し支えない。厚膜抵抗体用組成物の添加剤としては、MnO
2、CuO、TiO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、SiO
2、Al
2O
3、ZrO
2、ZrSiO
4などが一般に用いられている。また、添加剤の割合は、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末とガラス粉末の重量の合計に対して0.05〜20%が一般的である。
【0038】
(3)樹脂成分
本発明の厚膜抵抗体用組成物は、ビヒクルと呼ばれる樹脂成分を溶解した溶剤中に分散すれば厚膜抵抗体ペーストになる。本発明では、ビヒクルの樹脂や溶剤の種類や配合によって限定されない。樹脂成分としては、エチルセルロース、マレイン酸樹脂、ロジンなどが一般的であり、溶剤はターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等が一般に用いられている。これらの配合比は所望とする粘度によって調整される。また、ペーストの乾燥を遅らせる目的で沸点が高い溶剤を加える事もできる。
厚膜抵抗体用組成物に対するビヒクルの割合は、特に限定されないが重量で30%〜100%が一般的である。
【0039】
本発明の厚膜抵抗体用組成物をビヒクル中に分散させて厚膜抵抗体ペーストを製造するには、スリーロールミルのほか遊星ミル、ビーズミルなどを用いる事ができるが、ペーストの製造方法に限定はされない。予め本発明の厚膜抵抗体用組成物をボールミルやらいかい機で混合してから、ビヒクル中に分散させる事もできる。
【0040】
厚膜抵抗体ペーストでは、無機原料粉末の凝集を解し、樹脂成分を溶解した溶剤中に分散する事が望ましい。一般に、粉末の粒径が小さくなると凝集が強くなり、二次粒子を形成し易くなる。本発明の酸化ルテニウム(RuO
2)粉末では、二次粒子をほぐし一次粒子に分散させることを容易にするために、脂肪酸を分散剤として用いる事が有効である。脂肪酸は酸化ルテニウム(RuO
2)粉末の表面に付着して分散を容易にする働きがあると考えられる。
本発明で用いられる脂肪酸は、飽和、不飽和を問わないが、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末を分散させ、再び凝集するのを防ぐ観点から、炭素数が12以上の高級脂肪酸がより望ましい。脂肪酸は無機原料粉末をビヒクル中に分散させる際に加えても、あるいは予め酸化ルテニウム(RuO
2)粉末に付着させた後に、ビヒクル中に分散させても良い。
【0041】
4.厚膜抵抗体
本発明の厚膜抵抗体は、前記厚膜抵抗体用組成物を、セラミック基板上で焼成してなる厚膜抵抗体であり、また、前記厚膜抵抗体ペーストを、セラミック基板に塗布した後、焼成して形成された厚膜抵抗体である。
厚膜抵抗体中の無機成分中のRu含有量は、目的とする抵抗値の大きさによって調整する。例えば、抵抗値が1KΩ前後の厚膜抵抗体を得るには、Ruの含有量が18%以下、特に15%以下とするのが経済的であり、抵抗値がより小さく100Ωの厚膜抵抗体が必要であれば、更にRu含有率は高くする必要がある。本発明では、厚膜抵抗体の無機成分中のRu含有量を23質量%以下にすることで広範な抵抗値への要求に対応できるようになる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を用いて、本発明によるルテニウム酸化物粉末の製造とそれを用いた厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
ルテニウム酸化物粉末の形状・物性を評価するために、X線回折に物質同定と結晶子径を測定した。結晶子径はX線回折のピークの広がりより算出できる。ここではX線回折によって得られたルチル構造のピークをKα1、Kα2に波形分離した後、測定機器の光学系による広がりを補正したKα1のピークの広がりとして半価幅を測定し、Scherrerの式より算出した。
形成された厚膜抵抗体は、膜厚、抵抗値、25℃から−55℃までの抵抗温度係数(COLD−TCR)、25℃から125℃までの抵抗温度係数(HOT−TCR)、電流ノイズ、静電気を放電した際の抵抗値変化率(ESD特性)を評価した。
【0044】
膜厚は触針の厚さ粗さ計で5個の厚膜抵抗体の膜厚を測定した値を平均した。
また、抵抗値は25個の厚膜抵抗体の抵抗値をデジタルマルチメーターで測定した値を平均した。
【0045】
抵抗温度係数は、厚膜抵抗体を−55℃、25℃、125℃にそれぞれ15分保持してから、それぞれの抵抗値(R
−55、R
25、R
125)を測定し、以下の式(4)(5)によって計算し、5個の厚膜抵抗体の平均をとった。
COLD−TCR(ppm/℃)=(R
−55−R
25)/R
25/(−80)×10
6 ・・・(4)
HOT−TCR(ppm/℃)=(R
125−R
25)/R
25/(100)×10
6 ・・・(5)
【0046】
電流ノイズは、Quan−Tech社MODEL315Cで、1/10Wの電圧を印加して測定された電流ノイズをノイズインデックスで表し、5個の厚膜抵抗体での平均をとった。
ESD特性は、200pF−0Ωのユニットに1KVの電圧で電荷を充電した後、厚膜抵抗体に放電して、放電前の抵抗値をR
0、放電後の抵抗値をR
1として、放電後の抵抗値変化を以下の式(6)によって計算した。5個の厚膜抵抗体で変化率を測定し、平均をとった。
ESD特性(%)=(R
1−R
0)/R
0×100 ・・・(6)
【0047】
(実施例1〜12)
実施例1では、ルテニウム酸カリウムを溶解した水溶液を原料にして、水溶液中で酸化ルテニウムの沈殿を合成し、これを固液分離し、洗浄後80℃で乾燥して酸化ルテニウム粉末を得た。乾燥後の酸化ルテニウムはルテニウム含有率が61.5質量%であり、酸化水和物であった。この乾燥後の酸化ルテニウム粉末を650℃で10分熱処理し、Ru含有量73.8質量%の酸化ルテニウム(RuO
2)粉末を得た。一方、実施例2〜12では、実施例1とは異なり、この乾燥後の酸化ルテニウム粉末を表1のように、680〜800℃、10〜30分の範囲で熱処理条件を変化させた。
得られた酸化ルテニウム(RuO
2)粉末を平均粒径1.5μmのガラス粉末と共に、エチルセルロース5質量%〜15質量%とターピネオール75質量%〜95質量%からなるビヒクルにスリーロールミルで分散させて厚膜抵抗
体ペーストを作
製した。ガラス粉末としては、ガラス粉末A(PbO:50質量%−SiO
2:35質量%−B
2O
3:10質量%−Al
2O
3:5質量%)を用いた。なお、実施例4,7ではガラス粉末B(SiO
2:35質量%−B
2O
3:20質量%−Al
2O
3:5質量%−CaO:5質量%−BaO:20質量%−ZnO:15質量%)を使用した。酸化ルテニウム(RuO
2)粉末とガラス粉末の配合は、実施例1〜10では、形成された厚膜抵抗体の面積抵抗値がおよそ1KΩになるように調整した。
厚膜抵抗
体ペーストの作
製では、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末とガラス粉末の合計100重量部に対してビヒクル43重量部の配合にした。このとき、実施例10以外でステアリン酸をスリーロールミルでビヒクル中に分散させて、厚膜抵抗
体ペーストを作
製した。これらの厚膜抵抗
体ペーストを純度96質量%のアルミナ基板上に印刷、乾燥、焼成して厚膜抵抗体を形成して評価した。
予めアルミナ基板に焼成して形成された1質量%Pd、99質量%Agの電極上に、作成した厚膜抵抗
体ペーストを印刷し、150℃×5分で乾燥した後、ピーク温度850℃×9分、トータル30分で焼成し厚膜抵抗体を形成した。厚膜抵抗体のサイズは抵抗体幅を0.3mm、抵抗体長さを0.3mm、厚さ10μmとなるようにした。評価結果を表1に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
(比較例1〜7)
実施例1と同様に、ルテニウム酸カリウムを溶解した水溶液を原料にして、水溶液中で酸化ルテニウムの沈殿を合成し、これを固液分離し、洗浄後80℃で乾燥して酸化ルテニウム粉末を得た。次に、実施例1とは異なり、この乾燥後の酸化ルテニウム粉末を表2のように、200〜850℃、10〜60分の範囲で熱処理条件を変化させた。
その後、実施例1と同様に、厚膜抵抗ペーストを作
製し、厚膜抵抗体を形成して評価した。なお、全ての比較例でガラス粉末Aを使用した。酸化ルテニウム(RuO
2)粉末とガラス粉末の配合は、比較例1〜5では、形成された厚膜抵抗体の面積抵抗値がおよそ1KΩになるように調整した。また、比較例2,5以外でステアリン酸を用い、スリーロールミルでビヒクル中に分散させて、厚膜抵抗ペーストを作
製した。
【0050】
【表2】
【0051】
(実施例13〜18)
実施例1〜12で使用した原材料に加え、平均粒径1.0μmの銀(Ag)粉、平均粒径0.3μmのパラジウム(Pd)粉と添加剤を使用し、実施例13〜18では、形成された厚膜抵抗体の面積抵抗値がおよそ5Ωになるように調整した。
厚膜抵抗
体ペーストの作
製では、酸化ルテニウム(RuO
2)粉末、Ag粉、Pd粉の導電粉とガラス粉末、添加剤粉の合計100重量部に対してビヒクル43重量部の配合にした。このとき、ステアリン酸をスリーロールミルでビヒクル中に分散させて、厚膜抵抗ペーストを作
製した。これらの厚膜抵抗ペーストを、実施例1〜12と同様に、印刷、乾燥、焼成して評価した。評価結果を表3に示した。
実施例13〜18では厚膜抵抗体のESD特性の印加電圧を3KVに変更した以外は、実施例1〜12と同じ手法で評価した。
【0052】
【表3】
【0053】
(比較例8〜12)
比較例1〜7と同様の方法で得た乾燥後の酸化ルテニウム粉末を、表4のように、200〜850℃、10〜60分の範囲で熱処理条件を変化させた。
その後、実施例13〜18と同様に、実施例1〜12で使用した原材料に加え、平均粒径1.0μmの銀(Ag)粉、平均粒径0.3μmのパラジウム(Pd)粉と添加剤を使用し、比較例8〜12では、形成された厚膜抵抗体の面積抵抗値がおよそ5Ωになるように調整した。また、比較例2,5以外でステアリン酸を用い、スリーロールミルでビヒクル中に分散させて、厚膜抵抗
体ペーストを作成した。これらの厚膜抵抗
体ペーストを、比較例13〜18と同じ手法で評価した。
【0054】
【表4】
【0055】
「評価」
表1の実施例、表2の比較例に示したように、実施例では、本発明の特定の結晶子径、高結晶性を有する酸化ルテニウム(RuO
2)粉末を用いたため、無機成分中のRu含有率が実施例12以外は比較例よりも少なくなっている。また、実施例では、電流ノイズの値が低く、静電気を放電させた際の抵抗値変化(ESD特性)も優れている。
また、酸化ルテニウムに加え、パラジウムと銀を添加した低い抵抗値領域においては、表3の実施例、表4の比較例に示したように、実施例では、本発明の特定の結晶子径、高結晶性を有する酸化ルテニウム(RuO
2)粉末を用いたため、無機成分中のRu含有率を低下させることができている。また、静電気を放電させた際の抵抗値変化(ESD特性)も優れている。したがって、本発明によれば、高価なルテニウムの使用量を削減した、経済的に有利なしかも電気特性にすぐれた厚膜抵抗体
用組成物が得られることが分かる。
これに対し比較例では、結晶子径が本発明の範囲から外れるルテニウム酸化物を用いたので、無機成分中の酸化ルテニウム(RuO
2)の含有率が全般に実施例よりも大きくなり、所望の結果が得られなかった。