特許第5835349号(P5835349)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835349
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】希土類元素の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20151203BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20151203BHJP
   C22B 3/20 20060101ALI20151203BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   C22B59/00
   C22B7/00 G
   C22B3/20
   B09B3/00 304J
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-552407(P2013-552407)
(86)(22)【出願日】2012年12月21日
(86)【国際出願番号】JP2012083256
(87)【国際公開番号】WO2013103099
(87)【国際公開日】20130711
【審査請求日】2014年7月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-961(P2012-961)
(32)【優先日】2012年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-963(P2012-963)
(32)【優先日】2012年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 素之
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋
(72)【発明者】
【氏名】安田 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】古澤 克佳
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−204554(JP,A)
【文献】 特開2011−001584(JP,A)
【文献】 特開2011−074408(JP,A)
【文献】 特表平10−510879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の希土類元素を分離回収する方法であって、
希土類酸塩化物と希土類塩化物とを含む混合物であり、前記希土類塩化物を構成する希土類元素とは異なる種類の希土類元素から前記希土類酸塩化物が構成されている前記混合物を液体に入れることにより、前記希土類酸塩化物を含む不溶物と、前記希土類塩化物が溶解した液体とを得る工程と、
前記不溶物から前記希土類酸塩化物を回収する工程と、
前記希土類塩化物が溶解した前記液体から前記希土類塩化物を回収する工程と、
を有し、
前記希土類酸塩化物は、ジスプロシウム酸塩化物であり、
前記希土類塩化物は、ネオジム塩化物であり、
前記混合物を入れる前記液体は、純水、エタノール、純水とエタノールの混合液、メタノール、2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランのうちのいずれか1つである、
ことを特徴とする希土類元素の分離回収方法。
【請求項2】
複数種の希土類元素を分離回収する方法であって、
第1の希土類酸塩化物と第2の希土類酸塩化物とを含む混合物であり、前記第2の希土類酸塩化物を構成する希土類元素とは異なる種類の希土類元素から前記第1の希土類酸塩化物が構成されている前記混合物を液体に入れることにより、前記第1の希土類酸塩化物が溶解した液体を得る工程と、
前記第1の希土類酸塩化物が溶解した前記液体から前記第1の希土類酸塩化物を回収する工程と、
前記混合物を入れた前記液体に溶解しなかった不溶物から前記第2の希土類酸塩化物を回収する工程と、
を有し、
前記第1の希土類酸塩化物は、ジスプロシウム酸塩化物であり、
前記第2の希土類酸塩化物は、ネオジム酸塩化物であり、
前記混合物を入れる前記液体は、純水、エタノール、純水とエタノールの混合液、及び純水と有機溶媒の混合液のうちのいずれか1つであり、前記有機溶媒は、メタノール、2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランのうちのいずれか1つであって前記純水との前記混合液中の割合が50質量%である、
ことを特徴とする希土類元素の分離回収方法。
【請求項3】
複数種の希土類元素を分離回収する方法であって、
前記複数種の希土類元素を含む組成物を塩素雰囲気中で加熱することにより、希土類酸塩化物と希土類塩化物とを含む混合物であり、前記希土類塩化物を構成する希土類元素とは異なる種類の希土類元素から前記希土類酸塩化物が構成されている前記混合物を生成する工程と、
前記混合物を液体に入れることにより、前記希土類酸塩化物を含む不溶物と、前記希土類塩化物が溶解した液体とを得る工程と、
前記不溶物から前記希土類酸塩化物を回収する工程と、
前記希土類塩化物が溶解した前記液体から前記希土類塩化物を回収する工程と、
を有し、
前記希土類酸塩化物は、ジスプロシウム酸塩化物であり、
前記希土類塩化物は、ネオジム塩化物であり、
前記混合物を入れる前記液体は、純水、エタノール、純水とエタノールの混合液、メタノール、2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランのうちのいずれか1つである、
ことを特徴とする希土類元素の分離回収方法。
【請求項4】
複数種の希土類元素を分離回収する方法であって、
前記複数種の希土類元素を含む組成物を塩素雰囲気中で加熱することにより、第1の希土類酸塩化物と第2の希土類酸塩化物とを含む混合物であり、前記第2の希土類酸塩化物を構成する希土類元素とは異なる種類の希土類元素から前記第1の希土類酸塩化物が構成されている前記混合物を生成する工程と、
前記混合物を液体に入れることにより、前記第1の希土類酸塩化物が溶解した液体を得る工程と、
前記第1の希土類酸塩化物が溶解した前記液体から前記第1の希土類酸塩化物を回収する工程と、
前記混合物を入れた前記液体に溶解しなかった不溶物から前記第2の希土類酸塩化物を回収する工程と、
を有し、
前記第1の希土類酸塩化物は、ジスプロシウム酸塩化物であり、
前記第2の希土類酸塩化物は、ネオジム酸塩化物であり、
前記混合物を入れる前記液体は、純水、エタノール、純水とエタノールの混合液、及び純水と有機溶媒の混合液のうちのいずれか1つであり、前記有機溶媒は、メタノール、2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランのうちのいずれか1つであって前記純水との前記混合液中の割合が50質量%である、
ことを特徴とする希土類元素の分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素を分離回収する方法に関し、より詳細には、複数種の希土類元素を含む組成物から希土類元素を分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続的な地球環境保全の重要性が認識され、化石燃料の使用を最小化できる産業システム、交通システム、及び製品等の開発が精力的に行われている。このような環境適合型のシステムや製品としては、例えば、風力発電システム、鉄道システム、ハイブリッド自動車、及び電気自動車が挙げられる。
【0003】
これらの環境適合システムや製品に用いられる主要なデバイスとして、高効率回転電機(モータや発電機)がある。この高効率回転電機には、希土類元素を含む磁石(いわゆる希土類磁石)が用いられている。例えば、ハイブリッド自動車の高効率回転電機で用いられている希土類磁石には、高温環境でも高い保磁力を有することが要求されており、ネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)などの希土類元素を含んだ希土類磁石が用いられている。希土類磁石は、高効率回転電機には今やなくてはならない存在となっており、今後ますます需要の拡大が予想される。
【0004】
一方、希土類原料資源の地理的な偏在に伴う希土類原料の価格高騰により、希土類磁石での希土類成分の使用量の低減や、使用した希土類磁石から希土類元素を分離回収する方法が検討されている。この分離回収方法の一例として、希土類磁石の製造工程において発生する削り粉(スラッジ)や使用済みの廃磁石から希土類元素を分離回収する方法が挙げられる。
【0005】
希土類磁石のように複数種の希土類元素を含む組成物(以下、「希土類組成物」と称する)から希土類元素を分離回収する方法として、特許文献1には、ネオジム(Nd)とジスプロシウム(Dy)の硫酸塩の溶解度差を利用した分離が記載されている。特許文献2には、スラッジを酸浸出し、次いで溶媒抽出法を行う手法が記載されている。特許文献3には、複数の希土類元素またはその化合物を含む混合物中の希土類元素をハロゲン化することにより、2価希土類ハロゲン化物と3価希土類ハロゲン化物の性質の違いを利用して分離する方法が記載されている。また、特許文献4には、スラッジや廃磁石などと鉄塩化物を反応させて、希土類元素を塩化物として分離回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−285680号公報
【特許文献2】特開2009−249674号公報
【特許文献3】特開2001−303149号公報
【特許文献4】特開2003−73754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に記載の方法では、極めて高濃度の強酸や揮発性の高い溶媒を使用するため、地球環境に与える影響が少なくない。特許文献2に記載の方法は、一回の分離率が十分でないため、多段での分離を要する。特許文献3や特許文献4に記載の方法には、希土類の分離率が小さいという課題がある。
【0008】
本発明は、これらの課題に対して、地球環境に与える影響が少なく、分離率をさらに高めることが可能な、希土類元素の分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による希土類元素の分離回収方法は、以下のような特徴を備える。複数種の希土類元素を分離回収する方法であって、希土類酸塩化物と希土類塩化物とを含む混合物であり、前記希土類塩化物を構成する希土類元素とは異なる種類の希土類元素から前記希土類酸塩化物が構成されている前記混合物を液体に入れることにより、前記希土類酸塩化物を含む不溶物と、前記希土類塩化物が溶解した液体とを得る工程と、前記不溶物から前記希土類酸塩化物を回収する工程と、前記希土類塩化物が溶解した前記液体から前記希土類塩化物を回収する工程とを有する。
【0010】
本発明による希土類元素の分離回収方法は、以下のような特徴を備えることもできる。複数種の希土類元素を分離回収する方法であって、第1の希土類酸塩化物と第2の希土類酸塩化物とを含む混合物であり、前記第2の希土類酸塩化物を構成する希土類元素とは異なる種類の希土類元素から前記第1の希土類酸塩化物が構成されている前記混合物を液体に入れることにより、前記第1の希土類酸塩化物が溶解した液体を得る工程と、前記第1の希土類酸塩化物が溶解した液体から前記第1の希土類酸塩化物を回収する工程と、前記液体に溶解しなかった不溶物から前記第2の希土類酸塩化物を回収する工程とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、地球環境に与える影響が少なく、高い分離率で、希土類組成物から希土類元素を分離回収することが可能となる。例えば、希土類磁石の製造工程で発生するスラッジや使用済みの廃磁石から、高い分離率で希土類元素を再生して使用することが可能となる。このため、地球上の資源を有効に利用することができ、持続可能な地球環境保全に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】1000KにおけるNd−O−Cl化学ポテンシャル図。
図1B】1000KにおけるDy−O−Cl化学ポテンシャル図。
図2】液体により、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を分離回収する工程の模式図。
図3】液体により、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を分離回収する工程の模式図。
図4】実施例1における、液体中に含まれるDy量を示す図。
図5】実施例1における、不溶物のDy分離率を示す図。
図6】実施例2における、液体中のエタノール量と不溶物のDy分離率との関係を示す図。
図7】実施例3における、ネオジム塩化物とジスプロシウム酸塩化物の混合割合を変えたときの、不溶物のDy分離率を示す図。
図8】実施例4における、液体の種類を変えたときの、不溶物のDy分離率を示す図。
図9】実施例6における、酸化ネオジムと塩化ネオジムの混合粉末の熱処理で得られた粉末のX線回折パターン。
図10】実施例6における、酸化ジスプロシウムと塩化ジスプロシウムの混合粉末の熱処理で得られた粉末のX線回折パターン。
図11】実施例6における、液体中のエタノール量を変えた場合の、溶液のNd量とDy量を示す図。
図12】実施例6における、液体中のエタノール量を変えた場合の、溶液のDy分離率を示す図。
図13】実施例7における、NdOClの粒径と溶液のNd量との関係、及びDyOClの粒径と溶液のDy量との関係を示す図。
図14】実施例7における、NdOClとDyOClの粒径を変化させた場合の、溶液のDy分離率を示す図。
図15】実施例8における、液体の種類を変えたときの、溶液のNd量とDy量を示す図。
図16】実施例8における、液体の種類を変えたときの、溶液のDy分離率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による希土類元素の分離回収方法の実施形態について、詳細に説明する。以下では、希土類組成物として、ネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)などを含有する希土類磁石(NdFeB磁石)を例にとり、この希土類磁石からNdやDyを分離回収する方法を例にとって説明する。
【0014】
但し、本発明は、この例に限定されるものではなく、例えば、蛍光体やブラウン管に使用されている希土類を分離回収する方法等にも適用することができる。また、NdやDyだけでなく、ランタン(La)、セリウム(Ce)、及びプラセオジム(Pr)をはじめとする、他の希土類元素を分離回収する方法にも適用可能である。以下では、希土類組成物に含まれている2種(Nd、Dy)の希土類元素を分離回収する例を説明するが、本発明は、希土類組成物に3種以上の希土類元素が含まれていても、それぞれの希土類元素を分離回収することができる。
【0015】
(1)希土類元素を分離回収する基本原理
希土類元素を分離回収する基本原理を、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物からNdとDyを分離回収する方法と、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物からNdとDyを分離回収する方法を例にとって、説明する。
【0016】
まず、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物からNdとDyを分離回収する方法の例を説明する。
【0017】
初めに、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の生成方法について説明する。但し、本発明は、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の生成方法については限定しないので、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)をこの方法で生成しなくてもよい。
【0018】
図1Aは、Nd−O−Cl化学ポテンシャル図であり、図1Bは、Dy−O−Cl化学ポテンシャル図である。図1A図1Bにおいて、横軸は塩素ポテンシャルを表し、縦軸は酸素ポテンシャルを表している。また、図1A図1Bでは、代表的な温度の一例として、1000Kにおける化学ポテンシャル図を示している。
【0019】
いずれの化学ポテンシャル図でも、酸素ポテンシャルが高く塩素ポテンシャルの低い領域では、酸化物(Nd、Dy)が安定、塩素ポテンシャルが高く酸素ポテンシャルの低い領域では、三価の塩化物(NdCl、DyCl)が安定、酸素ポテンシャルと塩素ポテンシャルのいずれも低い領域では、金属(Nd、Dy)が安定となっている。さらに、塩化物の状態のうち塩素ポテンシャルが低い領域では、金属の状態との間に二価の塩化物の状態(NdCl、DyCl)が見られる。また、酸化物の領域と塩化物の領域の間に、酸塩化物(NdOCl、DyOCl)の安定領域が存在する。
【0020】
図1A図1Bの化学ポテンシャル図において、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)が安定な点Aに塩素と酸素のポテンシャル(分圧)を固定することにより、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)とが共存し、NdとDyを含む希土類組成物からネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物を生成することが可能となる。
【0021】
このように生成したネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物を液体に入れることで、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を分離回収することができる。
【0022】
図2は、液体により、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を分離回収する工程の模式図である。図2に示すように、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物10を液体20に入れると、ネオジム塩化物(NdCl)は液体20に溶解し、ジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)は液体20に溶解せず不溶物30となる。このようにして、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物10から、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を分離回収することができる。
【0023】
次に、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物からNdとDyを分離回収する方法の例を説明する。
【0024】
初めに、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の生成方法について説明する。但し、本発明は、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の生成方法については限定しないので、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)をこの方法で生成しなくてもよい。
【0025】
図1A図1Bの化学ポテンシャル図において、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)が安定な領域に塩素と酸素のポテンシャル(分圧)を固定することにより、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)とが共存し、NdとDyを含む希土類組成物からネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物を生成することが可能となる。
【0026】
このように生成したネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物を液体に入れることで、液体に対する溶解度の差を利用して、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を分離回収することができる。
【0027】
図3は、液体に対する溶解度の差を利用して、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を分離回収する工程の模式図である。図3に示すように、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物40を液体50に入れると、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)は液体50に溶解するが、両者の溶解度は異なる。両者の溶解度の違いにより、液体50中のDy量とNd量は異なる。例えば、後述する図15に示すように、液体50が純水に有機溶媒を50%混合した混合液である場合には、液体50中のDy量はNd量よりも極めて大きくなる。すなわち、この場合には、ジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)は液体50に大量に溶解し、ネオジム酸塩化物(NdOCl)はあまり溶解しない(不溶物60)。このように液体に対する溶解度の差を利用して、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物から、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を分離回収することができる。
【0028】
(2)希土類組成物から希土類元素とその他の元素との分離
ネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、鉄(Fe)、及びホウ素(B)を主成分とする希土類磁石(NdFeB磁石)から、希土類元素と他の元素を分離する方法について述べる。ここで、分離に供する原料(希土類組成物)としては、希土類磁石の廃棄物、例えば、不用品、不良品、または磁石作製時の切削等の加工屑(スラッジ)などを用いることが好ましい。化学反応のしやすさの観点から、原料は粉末状であることが好ましい。以下では、スラッジの粉末から分離する例を示す。
【0029】
希土類元素と他の元素の分離方法としては、以下に述べるような例が挙げられるが、これらに限定されるものではない。第1の方法は、スラッジを加熱して酸化し、これに水を加えてスラリー状にし、このスラリーに酸やアルカリを添加してpHを調整し、希土類元素以外の成分を水酸化物として沈殿させる方法である。第2の方法は、スラッジの粉末を硫酸などで溶解した後、シュウ酸沈殿法により、希土類元素以外の成分を分離する方法である。第3の方法は、スラッジ粉末を塩素雰囲気中で加熱して混合塩化物とした後、これを減圧しながら加熱することにより、各々の塩化物(希土類塩化物や鉄塩化物など)の蒸気圧の差を利用して、希土類元素とその他の元素を分離する方法である。第4の方法は、塩化マグネシウムやヨウ化亜鉛などの溶融塩中にスラッジの粉末を入れ、希土類元素を塩化またはヨウ化して浸漬させ、鉄やホウ素等を分離する方法である。
【0030】
また、希土類元素は、上記の分離方法によって、希土類酸化物、希土類シュウ酸塩、希土類炭酸塩、希土類ヨウ化物、希土類塩化物、及び希土類硫酸塩などの形態で回収される。これらを出発原料として、塩素雰囲気中で塩素分圧と酸素分圧を調整して加熱処理を行うことにより、所望の希土類塩化物と希土類酸塩化物を得ることができる。上記の例では、図1A図1Bに示す点Aに塩素分圧と酸素分圧を調整して、出発原料を塩素雰囲気中で加熱処理することにより、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を得ることができる。また、図1A図1Bに示すネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)が安定な領域に塩素分圧と酸素分圧を調整して、出発原料を塩素雰囲気中で加熱処理することにより、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を得ることができる。
【0031】
(3)Dy、Ndの分離
ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物を液体に入れると、図2に示すように、ネオジム塩化物(NdCl)は液体に溶解し、ジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)は液体に溶解せず不溶物となるので、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)とを分離回収することができる。また、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物を液体に入れると、液体に対するネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の溶解度の違いを利用して、NdとDyを分離することができる。液体としては、純水、純水に有機溶媒を混合した溶液、及び有機溶媒を用いることができる。有機溶媒には、アルコールを用いることが好ましく、アルコールのなかでも特にメタノールやエタノールを用いることが好ましい。これらの有機溶媒は、特許文献1や特許文献2などで用いられている有機溶媒などに比べて揮発性が少なく、地球環境に与える影響が小さい。
【0032】
DyとNdの分離は、上述したように、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物を液体に入れること、または、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物を液体に入れることで行う。ここで、液体の量や入れる混合物の量に応じて、液体を撹拌することが好ましい。撹拌には、例えば、撹拌子、撹拌羽根、または超音波振動などを用いることができる。また、撹拌に際しては、液体の揮発を防止するため、密閉することが好ましい。撹拌時に加熱することで、液体への溶出を促進することができる。但し、加熱温度が液体の沸点より高くなると液体の量が減少するため、撹拌する際の温度は、液体の沸点以下であることが好ましい。
【0033】
ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物からNdとDyを分離回収する方法において、液体に溶解しない不溶物に含まれるDyの割合をDy分離率と称する。また、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物からNdとDyを分離回収する方法において、液体(溶液)に含まれるDyの割合をDy分離率と称する。これらのDy分離率は、Dyの質量をM、Ndの質量をMと表すと、M/(M+M)×100で表される。Dy分離率が大きいと、Dyを効率的に分離することができる。Dy分離率は、1回の分離にて90%以上であることが好ましく、95%であればより好ましい。
【0034】
(4)Dy、Ndの回収
上述したように、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物からNdとDyを分離回収する方法では、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物を液体に入れると、ネオジム塩化物が溶解した溶液が得られるとともに、固体の不溶物としてジスプロシウム酸塩化物が得られる。なお、不溶物には、ジスプロシウム酸塩化物の他に、不純物として他の成分が含まれることがある。ネオジム塩化物が溶解した溶液とジスプロシウム酸塩化物を含む不溶物は、濾過や遠心分離などの一般的な方法で、分離することができる。
【0035】
ネオジム塩化物溶液に対しては、これをスプレードライヤを用いて加熱雰囲気中に噴霧することで、Ndをネオジム酸塩化物の粉末として回収することができる。または、ネオジム塩化物溶液に対して、pH調整を行った後、沈殿材を添加することにより、難溶性のネオジム塩を生成させる。この不溶物を濾過し、乾燥させた後、大気中にて900℃程度で焙焼することにより、Ndを酸化ネオジムとして回収することができる。沈殿材には、例えば、炭酸アンモニウム((NHCO)、炭酸水素アンモニウム(NHHCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、シュウ酸((COOH))、シュウ酸ナトリウム((COONa))、または水酸化アンモニウム(NHOH)等を用いることができる。
【0036】
固体の不溶物として得られたジスプロシウム酸塩化物に対しては、これを乾燥させることで、Dyをジスプロシウム酸塩化物として回収することができる。または、ジスプロシウム酸塩化物を酸(例えば、塩酸や硝酸など)で溶解して水和物を得て、この水和物に対して、pH調整を行った後、沈殿材を添加することにより、難溶性のジスプロシウム塩の不溶物を生成させる。
【0037】
また、上述したように、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物からNdとDyを分離回収する方法では、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物を液体に入れると、これらが溶解した溶液が得られる。ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)のうち、液体に溶解しなかったものは、固体の不溶物として沈殿する。溶液と固体の不溶物は、濾過や遠心分離などの一般的な方法で、分離することができる。
【0038】
ここでは、一例として、液体として純水に有機溶媒を50%混合した混合液を用いた場合、すなわち、溶液には主にDyが含まれ、不溶物には主にNdが含まれる場合について説明する。液体として純水を用いた場合などで、溶液には主にNdが含まれ、不溶物には主にDyが含まれる場合についても、以下で述べる方法と同様にして、溶液からNdを回収し、不溶物からDyを回収することができる。
【0039】
Dyを主に含んだ溶液に対しては、これをスプレードライヤを用いて加熱雰囲気中に噴霧することで、Dyをジスプロシウム酸塩化物の粉末として回収することができる。または、Dyを主に含んだ溶液に対して、pH調整を行った後、沈殿材を添加することにより、難溶性のジスプロシウム塩の不溶物を生成させる。
【0040】
固体の不溶物からは、これを乾燥させることで、Ndを含んだ酸塩化物を回収することができる。
【0041】
上述の2つの方法で生成した不溶物を濾過し、乾燥させた後、大気中にて900℃程度で焙焼することにより、Dyを酸化ジスプロシウム、Ndを酸化ネオジムとして回収することができる。沈殿材には、例えば、炭酸アンモニウム((NHCO)、炭酸水素アンモニウム(NHHCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、シュウ酸((COOH))、シュウ酸ナトリウム((COONa))、または水酸化アンモニウム(NHOH)等を用いることができる。
【0042】
以下、本発明の具体的な実施例について述べる。初めに、実施例1〜5で、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物からNdとDyを分離回収する方法の実施例について述べ、次に、実施例6〜9で、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合物からNdとDyを分離回収する方法の実施例について述べる。
【実施例1】
【0043】
本実施例では、希土類塩化物としてネオジム塩化物(NdCl)を用い、希土類酸塩化物としてジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を用いた。これらのサンプルで溶解試験を行い、液体中に含まれるDy量と不溶物のDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)を求めた。サンプルの作製方法と溶解試験方法を以下に述べる。
【0044】
サンプルのネオジム塩化物(NdCl)には、株式会社高純度化学研究所製の純度3Nの塩化ネオジム粉末を用いた。サンプルのジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)は、以下の方法で作製した。株式会社高純度化学研究所製の純度3Nの酸化ジスプロシウムと純度3Nの塩化ジスプロシウムを、大気圧のArガス雰囲気のグローブボックス中で秤量して混合し、ステンレス製の反応容器中に密閉した。この反応容器を電気炉中に入れ、図1A図1Bに示した化学ポテンシャル図の点Aに酸素分圧と塩素分圧を調整して、熱処理を行った。加熱温度は800℃、保持時間は6時間である。熱処理後の反応容器から粉末を回収した。得られた粉末に対してX線回折試験を行い、粉末の結晶相はDyOClのみであることを確認した。
【0045】
溶解試験は、以下のように行った。生成したネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を各々0.25gずつ(総量0.5g)ガラス製容器(60cc)に入れ、液体を50cc混合して、スターラで20時間撹拌した。本実施例では、液体に純水を用いた溶解試験と、エタノールを用いた溶解試験を行った。液体の温度は25℃、撹拌速度は500rpmである。撹拌後の液体及び不溶物を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP―AES)で分析して、Dy量とNd量を定量分析した。
【0046】
図4に、それぞれの液体中に含まれるDy量を示す。液体が純水の場合には、Dyが800mg/L含まれており、液体がエタノールの場合には、Dyが32mg/L含まれている。従って、液体がエタノールの場合は、液体が純水の場合に比べて、DyOClの液体への溶出が抑制されていた。すなわち、液体がエタノールであると、不溶物として回収するDyOClの量が多いことが分かる。
【0047】
図5に、不溶物のDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)を示す。液体が純水の場合には、Dy分離率が94.5mass%程度であり、液体がエタノールの場合には、Dy分離率が98.8mass%である。従って、液体がエタノールの場合は、液体が純水の場合に比べて、Dy分離率が向上していることが分かる。
【0048】
以上より、液体がエタノールの場合は、液体が純水の場合に比べて、DyOClが液体中に溶けずに沈殿しやすいことと、不溶物のDy分離率が高いことが分かった。
【実施例2】
【0049】
図6は、純水にエタノールを混合した液体を用いた場合の、液体中のエタノール量と不溶物のDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)との関係を示す図である。図6では、得られたデータの近似曲線を示している。エタノール量は、液体中のエタノールの割合で表している。サンプルの作製方法及び溶解試験方法は、実施例1と同様である。
【0050】
図6に示すように、液体中のエタノール量の増加に伴い、Dy分離率は向上する傾向を示した。以上より、純水とエタノールが混合した液体では、エタノール量が多いと、不溶物のDy分離率が高いことが分かった。
【実施例3】
【0051】
本実施例では、サンプルであるネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の混合割合を変えて、溶解試験を行った。サンプルの作製方法及び溶解試験方法は実施例1と同様であるが、ネオジム塩化物とジスプロシウム酸塩化物の混合割合のみが実施例1と異なる。
【0052】
図7は、ネオジム塩化物とジスプロシウム酸塩化物の混合割合を変えたときの、不溶物のDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)を示す図である。図7には、液体が純水(エタノール量が0mass%)の場合とエタノール(エタノール量が100mass%)の場合のDy分離率を示した。また、本実施例と比較するために、実施例1のDy分離率も、液体が純水の場合とエタノールの場合について示した。本実施例では、実施例1よりも、ジスプロシウム酸塩化物の混合割合を小さくした。図7の横軸は、サンプル中のDy量(サンプル中のDyの割合)である。Dy量は、本実施例では13.3mass%であり、実施例1では、57.6mass%である。
【0053】
図7に示すように、サンプル中のDy量を少なくした本実施例では、実施例1に比べて、不溶物のDy分離率が低下している。液体が純水の場合には、Dy分離率は、94.5mass%から85.4mass%へと大きく低下した。これに対し、液体がエタノールの場合には、Dy分離率は、98.8mass%から95.7mass%への小さな低下にとどまった。液体がエタノールの場合は、液体が純水の場合ほど大きなDy分離率の低下は見られなかった。
【0054】
以上より、液体がエタノールの場合は、液体が純水の場合に比べて、ネオジム塩化物とジスプロシウム酸塩化物の混合物においてDy量が少なくても、Dy分離率の低下が小さく、高いDy分離率を示した。
【実施例4】
【0055】
本実施例では、液体の種類を変えて溶解試験を行った。サンプルの作製方法及び溶解試験方法は実施例1と同様であるが、液体の種類のみが実施例1と異なる。本実施例で用いた液体は、純水、エタノール、メタノール、2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランである。
【0056】
図8は、液体の種類を変えたときの、不溶物のDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)を示す図である。図8に示すように、液体が純水の場合には、Dy分離率は94.5mass%である。一方、液体がエタノール、メタノール、2−プロパノール、アセトン、またはテトラヒドロフランという有機溶媒の場合には、Dy分離率は、いずれも97mass%を超えている。
【0057】
以上より、液体が有機溶媒の場合は、液体が純水の場合に比べて、Dy分離率が高いことが分かった。
【実施例5】
【0058】
本実施例では、希土類組成物として希土類磁石のスラッジを用い、このスラッジから希土類元素の分離回収を行った。本実施例で用いた希土類磁石は、ネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)などを含有するNdFeB磁石である。用いたスラッジの質量組成は、鉄(Fe)が61.2%、Ndが23.1%、Dyが3.5%、プラセオジム(Pr)が2.0%、及びホウ素(B)が1.0%である。
【0059】
スラッジの粉末を硫酸で溶解した後、希土類元素をシュウ酸で沈殿させて、希土類元素以外の成分を除去した(シュウ酸沈殿法)。次に、シュウ酸沈殿法で得られたシュウ酸塩を加熱処理して、希土類混合酸化物とした。得られた希土類混合酸化物に対して、塩素雰囲気中で、図1A図1Bに示した化学ポテンシャル図の点Aに示す酸素分圧と塩素分圧に調整して、800℃で熱処理を行い、ネオジム塩化物(NdCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を得た。
【0060】
得られたネオジム塩化物とジスプロシウム酸塩化物の混合物50gをエタノール中(約5L)に入れ、撹拌羽根で20時間撹拌した。液体の温度は約25℃、撹拌速度は200rpmである。撹拌後の不溶物を110℃で12時間乾燥させた後、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP―AES)により、Dy量とNd量を定量分析した。得られたDy量とNd量とから不溶物のDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)を算出したところ、98.5%であった。このように、本実施例では、95%を超える高いDy分離率を得ることができた。
【0061】
この不溶物には、さらに、エタノール中で同様の条件で撹拌する処理を行ってもよい。不溶物には不純物が混ざっている可能性があるので、この処理により、さらに不純物を除去することができる。本実施例では、この不溶物に対し、再度、エタノール中で同様の条件で撹拌する処理を行い、Dy分離率を算出した。この結果、Dy分離率は99.8%であり、極めて高い値が得られた。
【0062】
以上のようにして、1回の分離にて90%以上という高いDy分離率で、希土類組成物からDyを分離することができた。Ndは、「(4)Dy、Ndの回収」で述べたように、液体(ネオジム塩化物のエタノール溶液)から回収することができる。本実施例では、不溶物のDy分離率が高い、すなわち液体に含まれるDyの量が少ないので、Ndの分離率も、必然的に高くなる。
【実施例6】
【0063】
本実施例では、希土類酸塩化物としてネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)を用いた。これらのサンプルに溶解試験を行い、溶液に含まれるNd量とDy量、及び溶液のDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)を求めた。サンプルの作製方法と溶解試験方法を以下に述べる。
【0064】
サンプルとして、ネオジム酸塩化物(NdOCl)には、株式会社高純度化学研究所製の純度3Nの酸化ネオジムと純度3Nの塩化ネオジムを用い、ジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)には、純度3Nの酸化ジスプロシウムと純度3Nの塩化ジスプロシウムを用い、以下の方法でそれぞれ作製した。酸化ネオジムと塩化ネオジムの混合粉末、及び酸化ジスプロシウムと塩化ジスプロシウムの混合粉末を、それぞれ大気圧のArガス雰囲気のグローブボックス中で秤量して混合し、それぞれをステンレス製の反応容器中に密閉した。これらの反応容器を電気炉中に入れ、図1A図1Bに示した化学ポテンシャル図にてそれぞれNdOClとDyOClが生成する条件(NdOClとDyOClが安定な領域の酸素分圧と塩素分圧)で熱処理を行った。加熱温度は800℃、保持時間は6時間である。熱処理後の反応容器から粉末を回収した。得られた2種類の粉末に対して、X線回折試験を行い、粉末の結晶相を調べた。
【0065】
図9図10には、この熱処理により得られた粉末のX線回折試験の結果として、これらの粉末のX線回折パターンを示す。図9は、酸化ネオジムと塩化ネオジムの混合粉末を熱処理して得られた粉末のX線回折パターンである。図10は、酸化ジスプロシウムと塩化ジスプロシウムの混合粉末を熱処理して得られた粉末のX線回折パターンである。図9には、粉末X線回折の標準データ集であるICDD(International Centre for Diffraction Data)によるNdOClのX線回折パターンを、図10には、ICDDによるDyOClのX線回折パターンを、X線回折試験で得られたX線回折パターンの下にそれぞれ併記している。
【0066】
図9に示すように、酸化ネオジムと塩化ネオジムの混合粉末からは、NdOClのみが生成していた。また、図10に示すように、酸化ジスプロシウムと塩化ジスプロシウムの混合粉末からは、DyOClのみが生成していた。
【0067】
これらの酸塩化物を液体に入れ、液体に対する溶解性を評価する溶解試験を行った。評価方法は、以下の通りである。生成した酸塩化物(NdOClとDyOCl)を各々0.25gずつ(総量0.5g)ガラス製容器(60cc)に入れ、液体を50cc混合した。このガラス製容器に入れた回転子をスターラで、回転速度500rpmで20時間撹拌した。撹拌後の溶液を、濾紙(粒子保持能2.5μm)及びシリンジフィルタ(孔径0.2μm)で濾過した後、濾過液(以下、溶液と記載)を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP―AES)で分析して、液体中に溶解したDy量とNd量を定量分析した。なお、本実施例では、液体に純水を用いた場合の溶解試験と、純水とエタノールの混合液を用いた場合の溶解試験を行った。
【0068】
図11は、液体中のエタノール量を変えた場合の、溶液のNd量とDy量を示す図である。図11では、得られたデータの近似曲線を表示している。エタノール量は、液体中のエタノールの割合で表している。エタノール量が100mass%のとき、液体はエタノールのみであり、エタノール量が0mass%のとき、液体は純水である。Nd量は、エタノール量の増加に伴い減少していき、液体がエタノールのみの場合には、液体が純水の場合の約1/1000まで減少した。Dy量は、エタノール量が約60mass%まではエタノール量の増加に伴い緩やかに減少したが、エタノール量が約60mass%を超えると大幅に減少していき、液体がエタノールのみの場合には、液体が純水の場合の約1/150の値を示した。
【0069】
図11に示すように、エタノール量に対して、NdOClとDyOClでは溶解挙動が異なっている。図11に示した溶液のNd量とDy量とから、溶液のDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)を算出した。
【0070】
図12は、溶液のNd量とDy量とから算出したDy分離率を示す図である。図12に示すように、Dy分離率は、エタノール量の増加に伴い上昇していき、エタノール量が60%近傍で最大値を示した。また、Dy分離率は、エタノール量が30%以上の場合に80%以上を示し、特にエタノール量が50%から80%の範囲では90%以上の値を示した。
【0071】
以上より、液体中のエタノール量(液体中のエタノールと純水の割合)が50%から80%の範囲では、Dy分離率が90%以上の値を示すことが分かった。
【実施例7】
【0072】
本実施例では、サンプルであるネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)の粒径を変えて、溶解試験を行った。サンプルの作製方法及び溶解試験方法は実施例6と同様であるが、熱処理条件を変えることにより、NdOClとDyOClの粒径を変化させた。なお、液体には、純水にエタノールを50%混合した混合液を用いた。
【0073】
図13は、NdOClの粒径と溶液のNd量との関係、及びDyOClの粒径と溶液のDy量との関係を示す図である。図13では、得られたデータの近似曲線を表示している。図13に示すように、NdOClとDyOClのどちらも、粒径が大きくなるに従い、溶液のNd量とDy量がそれぞれ減少する傾向を示した。但し、NdOClとDyOClでは、溶出挙動が異なる。NdOClの場合、粒径3μm以上では、溶液のNd量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP―AES)の検出限界以下であった。これに対し、DyOClでは、粒径10μmでも溶液からDyが検出された。
【0074】
図14は、NdOClとDyOClの粒径を変化させた場合の、溶液のNd量とDy量とから算出したDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)を示す図である。図14において、粒径3μm以上の場合は、溶液のNd量として、ICP―AESの検出限界値を用いた。
【0075】
図14に示すように、粒径が約0.5μmから約8μmの範囲で、Dy分離率は90%以上の値を示した。特に、粒径が1μmから5μmの範囲では、Dy分離率は95%以上の高い値を示した。
【0076】
以上より、NdOClとDyOClの粒径が1μmから5μmの範囲では、Dy分離率が95%以上の高い値を示すことが分かった。
【実施例8】
【0077】
本実施例では、液体の種類を変えて溶解試験を行った。サンプルの作製方法及び溶解試験方法は実施例6と同様であるが、液体の種類のみが実施例6と異なる。本実施例で用いた液体は、純水、及び純水に各種の有機溶媒を50%混合した混合液である。有機溶媒には、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランを用いた。
【0078】
図15は、液体の種類を変えたときの、溶液のNd量とDy量を示す図である。図15に示すように、液体が純水の場合には、溶液のDy量はNd量より少ないが、液体が純水と有機溶媒の混合液の場合には、溶液のDy量はNd量より多くなった。また、液体が混合液の場合は、溶液のDy量とNd量の差が大きく、液体に対する両者の溶解度の差が顕著に表れることが分かった。このため、液体が純水と有機溶媒の混合液の場合には、溶液のDy分離率が大きくなることが予想される。
【0079】
図16は、液体の種類を変えたときの、溶液のNd量とDy量とから算出したDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)を示す図である。図16に示すように、いずれの混合液でも、純水に比べて高いDy分離率を示した。有機溶媒としてメタノール、エタノール、2−プロパノール、またはアセトンを用いた混合液では、Dy分離率は90%以上の値を示し、特に、メタノールを用いた混合液では、Dy分離率が95%以上と高い値になった。
【0080】
以上より、純水に有機溶媒を50%混合した混合液を液体として用いると、Dy分離率が90%以上の値を示すことが分かった。
【実施例9】
【0081】
本実施例では、希土類組成物として希土類磁石のスラッジを用い、このスラッジから希土類元素の分離回収を行った。本実施例で用いた希土類磁石は、ネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)などを含有するNdFeB磁石である。用いたスラッジの質量組成は、鉄(Fe)が61.2%、Ndが23.1%、Dyが3.5%、プラセオジム(Pr)が2.0%、及びホウ素(B)が1.0%である。
【0082】
スラッジの粉末を硫酸で溶解した後、希土類元素をシュウ酸で沈殿させて、希土類元素以外の成分を除去した(シュウ酸沈殿法)。次に、シュウ酸沈殿法で得られたシュウ酸化物を加熱処理して、希土類混合酸化物とした。得られた希土類混合酸化物に対して、塩素雰囲気中で、図1A図1Bに示した化学ポテンシャル図に基づき、ネオジム酸塩化物(NdOCl)とジスプロシウム酸塩化物(DyOCl)が安定な領域の酸素分圧と塩素分圧に調整して、800℃で熱処理を行い、ネオジム酸塩化物とジスプロシウム酸塩化物を得た。
【0083】
得られたネオジム酸塩化物とジスプロシウム酸塩化物の混合物50gを、純水にエタノールを50%混合した混合液(約5L)に入れ、撹拌羽根で20時間撹拌した。液体の温度は約25℃、撹拌速度は200rpmである。撹拌後の溶液を実施例6と同様の手順で濾過して、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP―AES)により、Nd量とDy量を定量分析した。得られたNd量とDy量とから溶液のDy分離率(=M/(M+M)×100、MはDyの質量、MはNdの質量)を算出したところ、95.6%であった。このように、本実施例では、95%を超える高いDy分離率を得ることができた。
【0084】
以上のようにして、1回の分離にて90%以上という高いDy分離率で、希土類組成物からDyを分離することができた。Ndは、「(4)Dy、Ndの回収」で述べたように、固体の不溶物から回収することができる。本実施例では、溶液のDy分離率が高い、すなわち液体に含まれるDyの量が多いので、Ndの分離率も、必然的に高くなる。
【0085】
以上の実施例では、希土類組成物に2種の希土類元素が含まれている場合について説明した。希土類組成物に3種以上の希土類元素が含まれている場合には、上記と同様の分離回収方法を繰り返して、1種ずつ希土類元素を分離回収していけばよい。このようにして、複数種の希土類元素を含む希土類組成物から、それぞれの希土類元素を分離回収することができる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16