特許第5835738号(P5835738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835738
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】アセチレン重合化合物
(51)【国際特許分類】
   C08F 38/02 20060101AFI20151203BHJP
   C08F 8/06 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   C08F38/02
   C08F8/06
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-201016(P2012-201016)
(22)【出願日】2012年9月12日
(65)【公開番号】特開2014-55240(P2014-55240A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】土原 健治
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−169618(JP,A)
【文献】 特開2007−169619(JP,A)
【文献】 特開昭59−059709(JP,A)
【文献】 特開2010−111796(JP,A)
【文献】 特開平09−176243(JP,A)
【文献】 特開平08−133991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08C 19/00 − 19/44
C08F 6/00 − 246/00
C08F 301/00
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするアセチレン重合化合物。
【化1】
式中、Arは、オルト位に、−L−Xを有する縮合多環式アリール基を表す。ここで、Lは2価の連結基を表し、Xは水素結合性の水素供与性基を表す。
【請求項2】
前記Xで表される水素結合性の水素供与性基が、水酸基、カルボキシル基、−NHR、−SONHR、−C(=O)NHR、−C(=O)CHZ、−CH(Z)(Z)およびメルカプト基から選択される基(ここで、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、アシル基またはアルキルもしくはアリールスルホニル基を表し、Rは水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、ZおよびZは各々独立に、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルもしくはアリールカルバモイル基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、シアノ基またはニトロ基を表す)であることを特徴とする請求項1に記載のアセチレン重合化合物。
【請求項3】
前記Lが、前記Xの該Lに直接結合する原子と、前記縮合多環式アリール基の該Lに直接結合する原子との間を、結合を介して連結する最少の原子数が4以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のアセチレン重合化合物。
【請求項4】
オルト位に、−L−Xを有する前記縮合多環式アリール基の縮合多環式アリール基が、ベンゼン環が2〜4個縮合したアリール基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物。
【請求項5】
オルト位に、−L−Xを有する前記縮合多環式アリール基の縮合多環式アリール基が、1−ナフトリル基、9−フェナントリル基、1−アントリル基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物。
【請求項6】
前記繰り返し単位を少なくとも10以上有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物。
【請求項7】
前記アセチレン重合化合物が、共重合化合物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物。
【請求項8】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位と下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物。
【化2】
式中、Arは、Arとは異なる縮合多環式アリール基を表す。
【請求項9】
前記Arが、オルト位に置換基を有することを特徴とする請求項8に記載のアセチレン重合化合物。
【請求項10】
前記Arが、前記Arと同じ環骨格であることを特徴とする請求項8または9に記載のアセチレン重合化合物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物に対し、主鎖の電子を除去する酸化処理してなることを特徴とするアセチレン重合化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミックス素子、電子ペーパー、酸化状態の検出を含めた各種の発色インジケーター等として有用なアセチレン重合化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種高分子化合物の開発が積極的に進められ、これらの高分子化合物は各種構造材料あるいは機能材料として利用されてきた。
なかでも、アセチレン系高分子化合物はそのユニークな構造により特異な性質を示すことが知られている。アセチレン系高分子化合物の色は、アセチレン化合物の重合が進むにつれて主鎖共役の共役系の増加により、無色から青色〜紫色や黒色に変化し、また置換基の種類によっても変化する。さらに、熱、物理的応力や、溶媒または対イオンの変化等の外部刺激にさらされることにより、平面主鎖配座のゆがみによって、さらに色変化を示す。これに加えて、置換基の種類により溶解性や空気中での安定性等が大きく変化する。ビニルポリマーに比較して剛直な主鎖構造を持ち、嵩高い置換基の存在によって広い分子鎖間隙を持たせることにより気体などの高い物質透過性能が期待できる。
このような特性を利用して、エレクトロクロミックス素子、電子ペーパー、酸化状態の検出を含めた各種の発色インジケーター等への応用が期待される。
特に、置換基がアリール基の場合、より剛直な主鎖構造とすることが可能であり、また、アリール基の種類を種々調整することが可能となる。
【0003】
一方、アリール基が置換したアセチレン化合物から得られる高分子化合物としては、エチレン結合の繰り返し単位の側鎖にフェニル基を有するもの(例えば特許文献1参照)、ナフチル基等を有するもの(例えば特許文献2、3参照)、フルオレニル基を有するもの(特許文献4参照)等が知られている。
それ自身の色を利用する場合、吸光係数が高いものが求められ、また消色速度(応答速度)の向上、電荷もしくは化学的酸化/還元処理による高い透明性や耐熱性、安定性等が求められるが、これらのアセチレン系高分子化合物は、必ずしも満足できるものではなく、更なる性能改良が求められていた。しかも、製造適正を考慮した場合、加工特性や基材への接着性も改良することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−318801号公報
【特許文献2】特開昭54−112986号公報
【特許文献3】特開2007−169618号公報
【特許文献4】特開2003−137932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、耐溶剤性や、耐熱性を含めた安定性がそれぞれ高く、吸光係数が高く、かつ消色速度(応答速度)に優れ、電荷もしくは化学的酸化/還元処理による高い透明性を示す新規なアセチレン重合化合物を提供することにある。さらに、環境負荷の少ない溶媒への溶解性を含めた加工特性や基材への接着性に優れた、より高い製造適正を有する新規なアセチレン重合化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特定の置換基が置換したアセチレン重合化合物の置換基の重要性に着目し、特定の置換基を有する特定のアリール基が、耐溶剤性、耐熱性に優れ、しかも簡便な化学的酸化/還元処理により高い透明性を示すことを明らかにした。しかしながら、吸光係数の更なる増大、速度の更なる向上、製造適性、特に基材への接着性の向上が求められた。
このため、アリール基に置換する置換基の種類を種々検討し、重合体中のアリール環同士の相互作用、特に水素結合相互作用が、重合体分子中の構造の固定化、配置に重要であることも見出し、しかもこの置換基が特定の位置で、かつ相互作用をするためには特定の距離が必要であることがわかり、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするアセチレン重合化合物。
【0008】
【化1】
【0009】
式中、Arは、オルト位に、−L−Xを有する縮合多環式アリール基を表す。ここで、Lは2価の連結基を表し、Xは水素結合性の水素供与性基を表す。
(2)前記Xで表される水素結合性の水素供与性基が、水酸基、カルボキシル基、−NHR、−SONHR、−C(=O)NHR、−C(=O)CHZ、−CH(Z)(Z)およびメルカプト基から選択される基(ここで、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、アシル基またはアルキルもしくはアリールスルホニル基を表し、Rは水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、ZおよびZは各々独立に、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルもしくはアリールカルバモイル基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、シアノ基またはニトロ基を表す)であることを特徴とする(1)に記載のアセチレン重合化合物。
(3)前記Lが、前記Xの該Lに直接結合する原子と、前記縮合多環式アリール基の該Lに直接結合する原子との間を、結合を介して連結する最少の原子数が4以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載のアセチレン重合化合物。
(4)オルト位に、−L−Xを有する前記縮合多環式アリール基の縮合多環式アリール基が、ベンゼン環が2〜4個縮合したアリール基であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物。
(5)オルト位に、−L−Xを有する前記縮合多環式アリール基の縮合多環式アリール基が、1−ナフトリル基、9−フェナントリル基、1−アントリル基であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物。
(6)前記繰り返し単位を少なくとも10以上有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物。
(7)前記アセチレン重合化合物が、共重合化合物であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物。
(8)前記一般式(1)で表される繰り返し単位と下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載のアセチレン重合化合物。
【0010】
【化2】
【0011】
式中、Arは、Arとは異なる縮合多環式アリール基を表す。
(9)前記Arが、オルト位に置換基を有することを特徴とする(8)に記載のアセチレン重合化合物。
(10)前記Arが、前記Arと同じ環骨格であることを特徴とする(8)または(9)に記載のアセチレン重合化合物。
(11)前記(1)〜(10)のいずれか1項に記載のアセチレン 重合化合物に対し、主鎖の電子を除去する酸化処理してなることを特徴とするアセチレン重合化合物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、耐溶剤性や、耐熱性を含めた安定性がそれぞれ高く、吸光係数(特に360〜760nmでの可視光領域)が高く、かつ消色速度(応答速度)に優れ、電荷もしくは化学的酸化/還元処理による高い透明性を示す新規なアセチレン重合化合物が提供できる。さらに、環境負荷の小さな溶媒への溶解性を有するため、このような溶媒を用いた加工特性や基材への接着性に優れた、より製造適正の高い新規なアセチレン重合化合物が提供できる。これにより、エレクトロクロミックス素子、電子ペーパー、酸化状態の検出を含めた各種の発色インジケーター等や、透明導電性材料、透明非線形光学材料、透明熱線遮断材、透明電磁波遮蔽材等として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で作製した9−エチニル−10−(12−ヒドロキシドデシル)フェナントレンと9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンの共重合体と比較例1で作製したポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)の吸収スペクトルを重ね書きしたスペクトル図である。
図2】実施例1で作製した9−エチニル−10−(12−ヒドロキシドデシル)フェナントレンと9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンの共重合体と比較例1で作製したポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)の薄膜試料を、酸化処理した後の吸収スペクトルを重ね書きした測定結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<<アセチレン重合化合物>>
本発明のアセチレン重合化合物は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合化合物(ポリマー)である。
【0015】
【化3】
【0016】
式中、Arは、オルト位に、−L−Xを有する縮合多環式アリール基を表す。ここで、Lは2価の連結基を表し、Xは水素結合性の水素供与性基を表す。
【0017】
ここでオルト位とは、上記繰り返し単位の主鎖であるエチレンの炭素原子に直接結合するArの環構成原子と隣接して結合する環構成原子の位置であり、縮合多環式アリール基とは、芳香環であるベンゼン環が2つ以上縮合した炭素環系芳香族基である。
【0018】
このような縮合多環式アリール基における芳香環としては、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、クリセン環等が挙げられる。本発明においては、ベンゼン環が2〜4個縮合した環が好ましく、2〜3個縮合した環がより好ましく、3個縮合した環が特に好ましく、なかでもフェナントレン環が好ましい。
【0019】
縮合多環式アリール基において、上記繰り返し単位の主鎖であるエチレンの炭素原子に直接結合する位置は、どの位置でも構わないが、ナフタレン環では、1−ナフチル基、アントラセン環では、フェナントレン環では9−フェナントリル基、1−アントリル、ピレン環では1、9もしくは10−ピレニル基、トリフェニレン環では1−トリフェニレニル基、1−ナフタセニル基、1、4もしくは12−クリセニル基が好ましい。
【0020】
Arは、オルト位に、−L−Xを有する。
Xは水素結合性の水素供与性基を表す。水素結合性の水素供与性基は、重合体中のアリール基の置換基同士で水素結合を形成することができる基であって、かつ水素供与できる基である。このような基としてはどのような基であっても構わないが、水酸基、カルボキシル基、−NHR、−SONHR、−C(=O)NHR、−C(=O)CHZ、−CH(Z)(Z)およびメルカプト基から選択される基が好ましい。
ここで、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、アシル基またはアルキルもしくはアリールスルホニル基を表し、Rは水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、ZおよびZは各々独立に、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルもしくはアリールカルバモイル基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、シアノ基またはニトロ基を表す。
Xは、水酸基、カルボキシル基、Rがアルキルもしくはアリールスルホニル基である−NHR、−SONHR、−C(=O)CHZ、−CH(Z)(Z)がより好ましく、水酸基が特に好ましい。水酸基はアルコール性の水酸基であってもフェノール性の水酸基であってもよいが、アルコール性の水酸基が最も好ましく、なかでも一級アルコールの水酸基が好ましい。
【0021】
、Rにおけるアルキル基は、炭素数は1〜20が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜8がさらに好ましく、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、n−ドデシル、n−オクタデシルが挙げられる。
、Rにおけるアリール基は、炭素数は6〜20が好ましく、6〜16がより好ましく、6〜12がさらに好ましく、例えば、フェニル、ナフチルが挙げられる。
、ZおよびZにおけるアシル基は、炭素数は1〜20が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜8がさらに好ましく、アルキルカルボニル基であってもアリールカルボニル基であっても構わない。例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ピバロイル、ミリストイル、ステアロイル、ベンゾイルが挙げられる。
【0022】
、ZおよびZにおけるアルキルもしくはアリールスルホニル基は、炭素数は1〜20(アリールスルホニル基の最低炭素数は6である)が好ましく、1〜12がより好ましく、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、n−オクチルスルホニル、ベンゼンスルホニルが挙げられる。
、Zにおけるアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基としては、炭素数は、2〜20(アリールオキシカルボニル基の最低炭素数は7である)が好ましく、1〜12がより好ましく、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、2−エチルヘキシルオキシカルボニル、フェノキシカルボニルが挙げられる。
、Zにおけるアルキルもしくはアリールカルバモイル基は、炭素数は2〜30(アリールカルバモイル基の最低炭素数は7である)が好ましく、2〜20がより好ましく、2〜12がさらに好ましく、例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N−2−エチルヘキシルカルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N−エチル−N−フェニルカルバモイルが挙げられる。
なお、水素結合性の水素供与性基は、水素結合性を高めるためには、水素結合性の水素供与性基自身がコンパクトであることが好ましく、従って、水素結合性の水素供与性基の水素原子以外の総原子数が1〜12が好ましく、1〜8がより好ましい。
【0023】
Lは2価の連結基を表すが、このような連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、−O−、−S−、−NRa−、−C(=O)−、−SO−またはこれらが組み合わされた基が好ましい。ここで、Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。
アルキレン基、アリーレン基、−O−、−S−、−NRa−、−C=O)−または−SO−が組み合わされた基としては、例えば、−アルキレン−アリーレン−、−O−アルキレン−、−O−アリーレン−、−アルキレン−O−アルキレン−、−アルキレン−O−アリーレン−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−SO−NRa−、−NRa−SO−が挙げられる。
【0024】
本発明においては、Lが、Xの該Lに直接結合する原子と、前記縮合多環式アリール基の該Lに直接結合する原子との間を、結合を介して連結する最少の原子数が4以上(好ましくは4〜25)であることが好ましく、5以上(好ましくは5〜25)であることがより好ましく、6以上(好ましくは6〜25)であることがさらに好ましく、8以上(好ましくは8〜25)であることが特に好ましい。
このようにすることで、水素結合性の水素結合供与性基における水素原子と他の縮合多環式アリール基の該水素結合供与性基中のヘテロ原子(例えば水酸基であれば、酸素原子、カルボキシル基であれば、−C(=O)−の酸素原子、アミノ基であれば、窒素原子、メルカプト基であれば、硫黄原子のように、炭素原子よりも電気陰性度の高い酸素、硫黄、窒素原子)との間に効率的な水素結合を形成し、配置、配座安定性を保つことが可能となる。
【0025】
本発明において、Lは、アルキレン基、アリーレン基、−O−、−S−、−NRa−、またはこれらが組み合わされた基がより好ましく、アルキレン基、フェニレン基がさらに好ましく、アルキレン基が特に好ましい。
ここで、アルキレン基としては、テトラメチレン、ペンタメチレン、ドデカメチレンが挙げられ、アリーレン基としてはフェニレン、特にp−フェニレンが挙げられる。
【0026】
本発明においては、前記一般式(1)で表される繰り返し単位は、10以上が好ましく、10〜100000がより好ましく、10〜10000がさらに好ましい。
また本発明の前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するアセチレン重合化合物の質量平均分子量は、2000〜5000000が好ましい。
【0027】
本発明のアセチレン重合化合物は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する単独重合体であっても前記一般式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を有する共重合体であっても構わないが、共重合体である場合が重合体の特性を微調整できる点で好ましい。
【0028】
共重合体の共重合成分としては、エチレン性不飽和結合を有するモノマー成分であればどのようなものでも構わないが、好ましくはアセチレンもしくは置換アセチレン成分であり、さらに好ましくは、下記一般式(2)で表される繰り返し単位である。
【0029】
【化4】
【0030】
式中、Arは、Arとは異なる縮合多環式アリール基を表す。
ここで、縮合多環式アリール基の芳香環は、前記一般式(1)におけるArで挙げた芳香環が好ましい。なかでも、一般式(1)におけるArと同じ環骨格の芳香環が好ましい。
【0031】
さらに、Arは、オルト位に置換基を有することが好ましい。
このような置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アルキルもしくはアリールアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
本発明においては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アルキルもしくはアリールアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルもしくはアリールスルホニル基が好ましい。本発明においては、なかでもアルキル基が特に好ましい。
【0032】
Arのオルト位に置換基する置換基は、総炭素原子数が4〜40のものが好ましく、また立体的に嵩高い基が好ましい。立体的に嵩高い基としては、α位で分岐したアルキル基(例えば、イソプロピル、t−ブチル)、シクロアルキル基(例えばシクロペンチル、シクロヘキシル)、N,N−ジ置換アミノ基、フェニル基(特にオルト位に置換基を有するフェニル基)、酸素原子や硫黄原子のα位で分岐したアルコキシ基、やアルキルチオ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基等の官能基にアリール基が直結した基等が挙げられる。
【0033】
アセチレン重合化合物が共重合体である場合、共重合成分の含有量は、40モル%〜90モル%が好ましく、70モル%〜85モル%であることがより好ましい。
【0034】
本発明の一般式(1)で表されるアセチレン重合化合物の主鎖のエチレン結合の構造は、シソイド(cisoid)構造であってもシス−トランソイド(cis−transoid)構造であっても、またトランソイド(transoid)構造のいずれであっても構わない。また、置換基は目的に応じて、光学異性の置換基を使用することもできる。
また、共重合化合物の場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであっても構わないが、ランダム共重合体、交互共重合体であることが好ましい。
【0035】
以下に、本発明のアセチレン重合化合物における一般式(1)で表される繰り返し単位を示すが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0036】
【化5】
【0037】
【化6】
【0038】
【化7】
【0039】
以下に、共重合成分である前記一般式(2)で表される繰り返し単位を示すが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0040】
【化8】
【0041】
【化9】
【0042】
以下に、本発明のアセチレン重合化合物を示すが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0043】
【表1】
【0044】
本発明のアセチレン重合化合物は、下記一般式(A)で表されるアセチレン化合物または共重合体の場合は、これに加えて共重合成分のモノマー、好ましくは下記一般式(B)で表されるアセチレン化合物を触媒の存在下に重合反応を行うことにより、合成することができる。
【0045】
【化10】
【0046】
式中、Ar、Arは、対応する前記一般式(1)におけるAr、前記一般式(2)におけるArと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0047】
ここで、触媒は金属化合物や有機金属錯体を挙げることができ、下記一般式(C−1)で表される金属化合物または下記一般式(C−2)で表される金属触媒が好ましい。
【0048】
【化11】
【0049】
式中、Mは、5族〜10族の金属元素を表し、好ましくはW、Mo、Cr、Ta、Nb、Mn、Ni、Pd、RuおよびRhから選択される金属元素である。Yは、ハロゲン原子またはCOを表す。Yは無機の配位子を表し、Yは有機の配位子を表す。l1、l2およびl3は、各々独立に整数を表す。
の無機の配位子は、CO、ハロゲン原子、水素原子が好ましく、有機の配位子は、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、アセチルアセトナート、オレフィン化合物、ジエン化合物、アルキレン、アルキルから選ばれる有機基の配位子が好ましい。Y、Yにおけるハロゲン原子は塩素、フッ素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
【0050】
一般式(C−1)で表される金属化合物としては、WCl、WBr、WI、WF、W(CO)、MoCl、CrCl、TaCl、NbCl、MnCl、PdCl、RuCl、RhCl等を挙げることができる。
また、一般式(C−2)で表される金属錯体としては、Ni(cycloocatadiene)、[Ru(norbornadiene)Cl]を挙げることができる。
【0051】
上記の金属化合物または有機金属錯体触媒の使用量は出発原料のモノマーに対し、好ましくは0.1〜10モル%、より好ましくは1〜5モル%である。
【0052】
反応溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、四塩化炭素のようなハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエンのような炭素環芳香族溶媒が挙げられる。
反応に際しては、原料のモノマーに上記触媒を添加して加熱する。反応の進行とともに粘性が上昇する。重合の進行に応じて質量平均分子量を調整しながら反応を停止させる。
具体的には、例えば、特開2007−169618合公報に記載の方法またはこれに準じた方法で容易に合成できる。
【0053】
原料モノマーの置換アセチレン化合物、前記一般式(A)または(B)で表される化合物は、種々の公知の方法で合成することができる。例えば、特開2007−169618合公報、特開2010−111796号公報、国際公開第2007/061061号パンフレット等に記載の方法またはこれに準じた方法で容易に合成できる。
具体的には、実施例で示すように、縮合多環式アリールアセチレンに2当量のノルマルブチルリチウムなどのアルキルリチウム等のリチオ化剤を反応させ、アセチレン水素とオルト位の水素をリチオ化し、これにアルキルブロマイド等を反応させる。
【0054】
<<アセチレン重合化合物の酸化体>>
本発明のアセチレン重合化合物は、主鎖の電子を除去することで酸化体を得ることができる。
本発明のアセチレン重合化合物から得られる酸化体は、耐溶剤性や、耐熱性を含めた安定性に優れ、しかも高い透明性を示す。
すなわち、酸化剤等の酸化処理により、下記のような正電荷ソリトンが生成し、本発明の特定の置換基の効果で、安定な酸化体が生じ、また、この酸化体を還元することで、元の還元体に容易に速やかに戻る。しかも生成した酸化体は透明度が高い。
加えて、この酸化・還元の応答速度は従来のものと比較して速く、酸化・還元を繰り返し行なっても、重合化合物は安定である。
また、本発明のアセチレン重合化合物を同様に還元剤で還元処理しても負電荷ソリとンが生成する。
以下に、正電荷ソリトンが生成した状態を示す。なお、下記ではトランソイド構造として示しているが、これに限定されるものではない。
【0055】
【化12】
【0056】
酸化方法は、例えば、塩素や沃素、硝酸、塩化第2鉄、塩化第2金など種々の酸化剤の存在下に、本発明のアセチレン重合化合物と気相もしくは液相で直接接触させる方法を採用できる。反応に際して酸化剤を添加する。
酸化剤の濃度、温度、反応時間を制御することにより酸化の状態を分けることが可能である。酸化の度合いを調節することによって、透明度を向上させ、着色を防止することができる。好ましくは酸化剤の濃度はアセチレン重合化合物の10〜200質量%、反応温度は20〜50℃、反応時間は1〜10分である。
【0057】
本発明のアセチレン重合化合物は、使用目的に応じて特定形状に加工して用いる。また、基材上に塗布して用いる場合には、基材としては透明性の材料が好ましく、このような材料としては、例えば、ガラスや、アクリル系、ビニル系、ビニル系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリカーボネ−ト系等のホモポリマー、コポリマー、ポリマーブレンド物等が挙げられ、これらの中から適宜選択して使用すればよい。
【0058】
上記基材に塗布する方法としては特に限定されるものではないが、本発明のアセチレン重合化合物を、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素等の溶媒に溶解し、得られた溶液を、例えば、スピンコートなどにより基材に塗布して乾燥する方法が好ましい。
また、上記の塗布層の膜厚は目的に応じて適宜設定すればよく、通常、10nm〜100μmが好ましく、より好ましくは100nm〜1μmである。
得られた塗布層は置換基によりその色調が大きく異なった。例えばオルト位に長鎖アルキル基を有する場合、アルキル鎖長が長くなるにつれて結晶性が向上するとともに吸収波長は長波長シフトした。これはアルキル基の鎖長が長くなるにつれてアルキル基同士の相互作用が増すことにより一次構造、高次構造の規則性が増したためと考えられる。さらにこれを加熱すると自己組織化により結晶化が進行し、一次構造、高次構造の規則性がさらに増すことにより吸収波長はさらに長波長シフトした。なお、アセチレン重合化合物の結晶化は加熱前後の広角X線散乱を比較することにより確認することができる。加熱処理は、温度80〜300℃が好ましく、150〜250℃がより好ましい。加熱時間は10秒〜10分が好ましく、30秒〜5分がより好ましい。
【0059】
このアルキル基の末端に、水素結合の水素供与性基、例えば水酸基を導入すると波長シフトはそれほど大きくなく、置換基によっては実質的に変化せずに、吸光係数が大きく増加した。また、水素結合の水素供与性基を導入することで、基材、特にガラスに対する接着性が増加した。
【0060】
本発明のアセチレン重合化合物は、上記のような優れた性能を有することから、エレクトロクロミックス素子、電子ペーパー、酸化状態の検出を含めた各種の発色インジケーター等や、透明導電性材料、透明非線形光学材料、透明熱線遮断材、透明電磁波遮蔽材等として利用できる。
【0061】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
以下のようにして、本発明のアセチレン重合化合物P−1を合成した。
【0063】
【化13】
【0064】
(1)9−エチニル−10−(12−(t−ブチルジフェニルシロキシ)−n−ドデシル)フェナントレンの合成
窒素雰囲気下−20℃でエチニルフェナントレン2gのテトラヒドロフラン溶液20mLにノルマルブチルリチウムの1.6mol/Lヘキサン溶液13mLを添加した。−78℃に冷却後、カリウムターシャリーブトキシドの1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液11mLを添加し、−80℃で1時間撹拌後5℃まで昇温した。−70℃に冷却後1−ブロモ−12−(t−ブチルジフェニルシロキシ)−n−ドデカン3.7gを滴下し、室温で1時間撹拌した。0℃で水100mLを滴下し、エーテルを加え、生成した化合物を抽出した。このエーテル層を蒸留水で3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、溶媒を留去した。カラムクロマトグラフィーにて精製し、3.2gの9−エチニル−10−(12−(t−ブチルジフェニルシロキシ)−n−ドデシル)フェナントレンの液体を得た。収率は50%であった。
【0065】
H−NMR(400MHz、測定溶媒:CDCl) δ8.7(2H),8.5(1H),8.1(1H),7.6(8H),7.4(6H),3.7(1H),3.6(2H),3.4(2H),
1.6(2H),1.4(2H),1.3(16H),1.1(9H)
【0066】
(2)9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンの合成
窒素雰囲気下−20℃でエチニルフェナントレン1gのテトラヒドロフラン溶液10mLにノルマルブチルリチウムの1.6mol/Lヘキサン溶液7mLを添加した。−78℃に冷却後、カリウムターシャリーブトキシドの1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液5.5mLを添加し、−80℃で1時間撹拌後5℃まで昇温した。−70℃で1−ブロモオクタデカン1.7gを滴下し、室温で1時間撹拌した。0℃で水100mLを滴下し、エーテルを加え、生成した化合物を抽出した。このエーテル層を蒸留水で3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、溶媒を留去した。
カラムクロマトグラフィーにて精製し、1.4gの9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンの白色結晶(融点70℃)を得た。収率は60%であった。
【0067】
H−NMR(400MHz、測定溶媒:CDCl) δ8.7(2H),8.5(1H),8.1(1H),7.6(4H),3.7(1H),3.4(2H),1.7(2H),1.4(2H),1.3(28H),0.9(3H)
【0068】
(3)本発明のアセチレン重合化合物P−1の合成
9−エチニル−10−(12−(t−ブチルジフェニルシロキシ)−n−ドデシル)フェナントレン0.44g(0.7ミリモル)、9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン0.068g(0.15ミリモル)をトルエン溶媒に溶解し、これに重合触媒のWClを0.002g添加し、40℃で3時間反応させた。反応後、大量のアセトンに沈殿、ろ過、乾燥させて回収した共重合体0.33gにテトラブチルアンモニウムフルオリドの1.0mol/LTHF溶液2.8mLを添加し、2時間撹拌した。エーテルで抽出し、塩水、水で洗った後大量のアセトンに沈殿、ろ過、乾燥させることにより、0.2gのアセチレン重合化合物P−1を収率60%(基準は仕込みモルである)で得た。
質量平均分子量は150000(ポリスチレン換算)であった。
アセチレン重合化合物P−1は、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテルに溶解した。
【0069】
[比較例1]
以下のようにして、比較のアセチレン重合化合物P−aを合成した。
【0070】
【化14】
【0071】
9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン0.27g(0.6ミリモル)をトルエン溶媒に溶解し、これに重合触媒のWClを12mg添加し、40℃で0.5時間反応させた。反応後、ポリマーをアセトンに沈殿させ、0.16gの比較のアセチレン重合化合物P−aを収率60%(基準は仕込みモルである)で得た。
質量平均分子量は180000であった。
アセチレン重合化合物P−aは、クロロホルム、トルエンに容易に溶解した。
【0072】
(吸収スペクトルの測定)
得られた本発明のアセチレン重合化合物P−1および比較のアセチレン重合化合物P−aのテトラヒドロフラン溶液(0.1mモル/リットル)での吸収スペクトルを紫外可視分光光度計で測定した。これらの吸収スペクトルを図1に示した。実線が本発明のアセチレン重合化合物であり、破線が比較のアセチレン重合化合物である。
本発明のアセチレン重合化合物P−1:λmaxは640nm(ε12000)
比較のアセチレン重合化合物P−a:λmaxは642nm(ε10000)
本発明のアセチレン重合化合物の吸光度は比較のアセチレン重合化合物より20%高い。
【0073】
(酸化処理)
上記のようにして作製したアセチレン重合化合物P−1の薄膜の試料を作成し、この試料を硝酸蒸気に暴露した。これらの各試料を、分光光度計で、吸収スペクトルを測定した。
この結果を図2に示した。
実線が本発明のアセチレン重合化合物の酸化体であり、破線が比較のアセチレン重合化合物の酸化体である。
本発明のアセチレン重合化合物P−1の酸化体は800〜2500nmの赤外領域に吸収ピークが存在せず、吸光度0.1以下の吸収の裾のみであった。これに対して、比較のアセチレン重合化合物の酸化体では、800〜2500nmの赤外領域で長波になるに従い、吸光度が0.1弱から0.45と上昇した。
【符号の説明】
【0074】
― 実線:実施例1で合成した本発明のアセチレン重合化合物の吸収スペクトル
… 破線:実施例1で合成した本発明のアセチレン重合化合物の硝酸蒸気暴露後の吸収スペクトル
図1
図2