特許第5835742号(P5835742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許5835742細胞分別方法、細胞培養基材、および細胞分別装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835742
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】細胞分別方法、細胞培養基材、および細胞分別装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/02 20060101AFI20151203BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20151203BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20151203BHJP
【FI】
   C12N1/02
   C12M3/00 A
   !C12Q1/02
【請求項の数】10
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-509462(P2012-509462)
(86)(22)【出願日】2011年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2011057674
(87)【国際公開番号】WO2011125615
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2013年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2010-86132(P2010-86132)
(32)【優先日】2010年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】須丸 公雄
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 鏡子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 琢
(72)【発明者】
【氏名】山口 麻奈絵
(72)【発明者】
【氏名】金森 敏幸
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−008975(JP,A)
【文献】 特開平08−160607(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0055759(US,A1)
【文献】 特開昭59−042885(JP,A)
【文献】 米国特許第05906934(US,A)
【文献】 特開2007−065612(JP,A)
【文献】 特開2007−043055(JP,A)
【文献】 Langmuir,2006, Vol.22, pp.2719-2725
【文献】 Analytical Chemistry,2007, Vol.79, pp.682-687
【文献】 Lab on a Chip,2005, Vol.5, pp.30-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12N 5/00−5/02
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長200〜1000nmの光の照射により酸性物質を発生する光酸発生剤を含む細胞培養基材の表面に細胞を付着させ、
前記細胞のうち除去対象となる細胞が付着した前記細胞培養基材の一部領域にのみ波長200〜1000nmの光を照射することにより前記領域に前記酸性物質を発生させ、
前記酸性物質の作用により、前記除去対象となる細胞を、前記光を照射した領域から除去することによって、前記除去対象となる細胞と他の細胞とを分別し、
前記光酸発生剤は、ナフタレンイミド系スルホン酸誘導体;チオキサントン系スルホン酸誘導体;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドメチルスルホネート;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドトシルスルホネート;テトラフルオロボレート(BF)またはヘキサフルオロホスフェート(PF)であるアニオンを有する、スルホニウム塩またはヨードニウム塩、からなる群から選ばれる少なくとも1つである細胞分別方法。
【請求項2】
前記除去は、前記除去対象となる細胞を、前記光の照射により前記領域に発生させた前記酸性物質の作用により死滅させることにより行う請求項1に記載の細胞分別方法。
【請求項3】
前記除去は、前記除去対象となる細胞を、前記光の照射により前記領域に発生させた前記酸性物質の作用により前記細胞培養基材から剥離させることにより行う請求項1に記載の細胞分別方法。
【請求項4】
前記細胞培養基材が、ポリビニルピリジン系樹脂を含む請求項3に記載の細胞分別方法。
【請求項5】
前記細胞培養基材は、その表面の一部領域のみに接着阻害性物質を含む層が形成され、
前記接着阻害性物質を含む層が形成されていない領域に、前記除去対象となる細胞を付着させた細胞培養基材を、前記波長200〜1000nmの光の照射に供する請求項1に記載の細胞分別方法。
【請求項6】
前記波長200〜1000nmの光を照射する前に、前記細胞のうち一部を標識し、前記標識された細胞の位置情報に基づいて前記波長200〜1000nmの光を照射する領域を定める請求項1に記載の細胞分別方法。
【請求項7】
前記光酸発生剤は、式(1)の化合物、式(2)の化合物、式(3a)の化合物、式(3b)の化合物、式(3c)の化合物、および式(3d)の化合物から選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の細胞分別方法。
【化1】
【化2】
【化3】
【請求項8】
波長200〜1000nmの光の照射により酸性物質を発生する光酸発生剤を含み、
前記光酸発生剤は、ナフタレンイミド系スルホン酸誘導体;チオキサントン系スルホン酸誘導体;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドメチルスルホネート;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドトシルスルホネート;テトラフルオロボレート(BF)またはヘキサフルオロホスフェート(PF)であるアニオンを有する、スルホニウム塩またはヨードニウム塩、からなる群から選ばれる少なくとも1つである細胞培養基材。
【請求項9】
表面の一部領域のみに接着阻害性物質を含む層を形成した請求項に記載の細胞培養基材。
【請求項10】
波長200〜1000nmの光の照射により酸性物質を発生する光酸発生剤を含む細胞培養基材と、
前記細胞培養基材の表面に前記波長200〜1000nmの光を照射する照射手段と、を備え、
前記照射手段は、前記光を発する光源と、前記光源からの光を前記細胞培養基材の表面の任意の一部領域にのみ照射させる照射領域調整手段とを有し、
前記照射領域調整手段は、前記細胞のうち除去対象となる細胞が付着した前記細胞培養基材の一部領域にのみ前記波長200〜1000nmの光を照射することにより前記領域に前記酸性物質を発生させ、前記酸性物質の作用により、前記除去対象となる細胞を、前記光を照射した領域から除去することによって、前記除去対象となる細胞と他の細胞とを分別し、
前記光酸発生剤は、ナフタレンイミド系スルホン酸誘導体;チオキサントン系スルホン酸誘導体;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドメチルスルホネート;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドトシルスルホネート;テトラフルオロボレート(BF)またはヘキサフルオロホスフェート(PF)であるアニオンを有する、スルホニウム塩またはヨードニウム塩、からなる群から選ばれる少なくとも1つである細胞分別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞などの細胞を分別する方法、これに用いる細胞培養基材、および細胞分別装置に関する。
本願は、2010年4月2日に、日本に出願された特願2010−086132号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
細胞分別技術としては、フローサイトメトリー(FACS;蛍光表示式細胞分離システム)や磁気細胞分離システム(MACS)がある。
これらの方法は、白血球、リンパ球等の浮遊細胞を分別回収するには有効であるが、足場依存性細胞の分別回収に適用する場合は、基材に接着した足場依存性細胞を、トリプシン等の酵素処理や、超音波ノズルによる細胞の物理的分離によって浮遊状態にさせる必要がある。
このため、前記技術では、酵素処理によって細胞接着因子や細胞外マトリックスがダメージを受けたり、超音波により細胞が損傷を受けることがある。
細胞へのダメージを防ぐことができる技術としては、温度応答性の高分子化合物を含有させた培養基材を用いる分別技術がある。
この技術では、温度変化により培養基材の接着性を増減させることができるため、細胞接着物質や膜タンパクを分解せず、その器官特異的機能を維持したまま細胞を剥離・回収することができる(特許文献1および非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−349643号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】エー.キクチ,エム.オクハラ,エフ.カリクサ,ワイ.サクライ及びティー.オカノ,“ジェー.バイオマテル.サイ.,ポリム.イ一ディーエヌ.”(A.Kikuchi, M.Okuhara, F.Karikusa, Y.Sakurai and T.Okano, J.Biomater.Sci., Polym.Edn.) 9, 1331 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、温度応答性材料を用いる方法では、温度変化によって接着性の制御を行うため、培養基材上の局所的な条件設定が難しいことから、複数の細胞のうち特定の細胞のみを分別回収することは困難であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、培養基材上の複数の細胞のうち特定の細胞を分別するにあたって、対象となる細胞を、ダメージを与えることなく確実に分別することができる細胞分別方法、細胞培養基材、および細胞分別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を行った結果、光照射により酸を発生する光酸発生剤を培養基材に用いることにより、対象となる細胞を、ダメージをも与えることなく分別可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成は以下のとおりである。
すなわち、本発明の第1の態様は、波長200〜1000nmの光の照射により酸性物質を発生する光酸発生剤を含む細胞培養基材の表面に細胞を付着させ、前記細胞のうち除去対象となる細胞が付着した前記細胞培養基材の一部領域にのみ波長200〜1000nmの光を照射することにより前記領域に前記酸性物質を発生させ、前記酸性物質の作用により、前記除去対象となる細胞を、前記光を照射した領域から除去することによって、前記除去対象となる細胞と他の細胞とを分別し、前記光酸発生剤は、ナフタレンイミド系スルホン酸誘導体;チオキサントン系スルホン酸誘導体;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドメチルスルホネート;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドトシルスルホネート;テトラフルオロボレート(BF)またはヘキサフルオロホスフェート(PF)であるアニオンを有する、スルホニウム塩またはヨードニウム塩、からなる群から選ばれる少なくとも1つである細胞分別方法である。
本発明の第2の態様においては、前記第1の態様において、前記除去は、前記除去対象となる細胞を、前記光の照射により前記領域に発生させた前記酸性物質の作用により死滅させることにより行う。
本発明の第3の態様においては、前記第1の態様において、前記除去は、前記除去対象となる細胞を、前記光の照射により前記領域に発生させた前記酸性物質の作用により前記細胞培養基材から剥離させることにより行う。
本発明の第4の態様は、前記第3の態様において、前記細胞培養基材が、ポリビニルピリジン系樹脂を含む細胞分別方法である。
本発明の第5の態様は、前記第1の態様において、前記細胞培養基材は、その表面の一部領域のみに接着阻害性物質を含む層が形成され、前記接着阻害性物質を含む層が形成されていない領域に、前記除去対象となる細胞を付着させた細胞培養基材を、前記波長200〜1000nmの光の照射に供する細胞分別方法である。
本発明の第6の態様は、前記第1の態様において、前記波長200〜1000nmの光照射する前に、前記細胞のうち一部を標識し、前記標識された細胞の位置情報に基づいて前記波長200〜1000nmの光を照射する領域を定める細胞分別方法である。
本発明の第の態様は、前記第1の態様において、前記光酸発生剤が」、式(1)の化合物、式(2)の化合物、式(3a)の化合物、式(3b)の化合物、式(3c)の化合物、および式(3d)の化合物から選ばれる少なくとも1つである細胞分別方法である。
【化4】
【化5】
【化6】
本発明の第の態様は、波長200〜1000nmの光の照射により酸性物質を発生する光酸発生剤を含み、前記光酸発生剤が、ナフタレンイミド系スルホン酸誘導体;チオキサントン系スルホン酸誘導体;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドメチルスルホネート;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドトシルスルホネート;テトラフルオロボレート(BF)またはヘキサフルオロホスフェート(PF)であるアニオンを有する、スルホニウム塩またはヨードニウム塩、からなる群から選ばれる少なくとも1つである細胞培養基材である。
本発明の第の態様は、前記第の態様において、表面の一部領域のみに接着阻害性物質を含む層を形成した細胞培養基材である。
本発明の第10の態様は、波長200〜1000nmの光の照射により酸性物質を発生する光酸発生剤を含む細胞培養基材と、前記細胞培養基材の表面に前記波長200〜1000nmの光を照射する照射手段と、を備え、前記照射手段は、前記光を発する光源と、前記光源からの光を前記細胞培養基材の表面の任意の一部領域にのみ照射させる照射領域調整手段とを有し、前記照射領域調整手段は、前記細胞のうち除去対象となる細胞が付着した前記細胞培養基材の一部領域にのみ前記波長200〜1000nmの光を照射することにより前記領域に前記酸性物質を発生させ、前記酸性物質の作用により、前記除去対象となる細胞を、前記光を照射した領域から除去することによって、前記除去対象となる細胞と他の細胞とを分別し、前記光酸発生剤は、ナフタレンイミド系スルホン酸誘導体;チオキサントン系スルホン酸誘導体;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドメチルスルホネート;1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドトシルスルホネート;テトラフルオロボレート(BF)またはヘキサフルオロホスフェート(PF)であるアニオンを有する、スルホニウム塩またはヨードニウム塩、からなる群から選ばれる少なくとも1つである細胞分別装置である。

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、細胞培養基材の一部領域にのみ活性エネルギー線を照射するので、この領域内の細胞にのみ酸性物質を作用させることができる。
従って、対象となる細胞に悪影響を与えることなく、この対象細胞を精度よく分別することができる。
本発明は、細胞工学分野、再生医療分野、バイオ関連工業分野、組織工学分野などにおいて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る細胞分別方法の一実施形態を示す工程図である。
図2】本発明に係る細胞分別装置の一実施形態の構成を示す図である。
図3】本発明に係る細胞培養基材の一実施形態の構成を示す図である。
図4】本発明に係る細胞培養基材の他の実施形態の構成を示す図である。
図5】本発明に係る細胞培養基材のさらに他の実施形態の構成を示す図である。
図6】本発明の実施例における細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図7】本発明の実施例における細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図8A】本発明に係る実施例における活性エネルギー線照射前の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図8B】本発明の実施例における活性エネルギー線照射中の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図8C】本発明の実施例における活性エネルギー線照射後の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図9A】本発明の実施例における活性エネルギー線照射前の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図9B】本発明の実施例における活性エネルギー線照射中の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図9C】本発明の実施例における活性エネルギー線照射後の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図10A】本発明の実施例における活性エネルギー線照射前の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図10B】本発明の実施例における活性エネルギー線照射中の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図10C】本発明の実施例における活性エネルギー線照射後の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図11A】本発明の実施例における紫外線照射前の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
図11B】本発明の実施例における紫外線照射後の細胞培養基材上の細胞の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で使用される光酸発生剤は、紫外線、可視光、赤外線、X線、α線、β線、γ線等の活性エネルギー線を照射することにより、酸性物質を発生し得る光酸発生剤である。
前記光酸発生剤としては、例えば、光を吸収する発色団と、分解後に酸性物質となる酸前駆体とからなる構造を有する光酸発生剤が使用できる。
分解により生成する酸性物質のpKaは、例えば3以下、好ましくは1以下であってよい。
【0010】
前記光酸発生剤としては、例えば、スルホン酸誘導体、カルボン酸エステル類、オニウム塩類等がある。
スルホン酸誘導体としては、例えば、ナフタレンイミド系スルホン酸誘導体、及びチオキサントン系スルホン酸誘導体が挙げられる。
ナフタレンイミド系スルホン酸誘導体としては、スルホン酸1,8−ナフタルイミドが使用できる。チオキサントン系スルホン酸誘導体としては、スルホン酸1,3,6−トリオキソ−3,6−ジヒドロ−1H−11−チア−アザシクロペンタ[a]アントラセン−2−イルエステルが使用できる。
スルホン酸誘導体としては、このほか、ジスルホン類、ジスルホニルジアゾメタン類、ジスルホニルメタン類、スルホニルベンゾイルメタン類、イミドスルホネート類、及びベンゾインスルホネート類も使用できる。
カルボン酸エステルとしては、1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドメチルスルホネート、1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドトシルスルホネートなどを挙げることができる。
オニウム塩としては、テトラフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF)等のアニオンを有するスルホニウム塩またはヨードニウム塩を使用することができる。
【0011】
前記光酸発生剤の具体例としては、以下の化合物(1)〜(3d)を挙げることができる。
【0012】
【化1】
【0013】
上記式(1)に示す化合物(以下、化合物(1)という)は、ナフタレンイミド系スルホン酸誘導体(カンファスルホン酸1,8−ナフタルイミド)であり、ナフタレン骨格(ナフタルイミド)を有する発色団と、スルホン酸類である酸前駆体とを有する。
化合物(1)は、例えば波長330〜380nmの紫外線などの活性エネルギー線の照射により、次に示すように分解し、酸性物質であるスルホン酸類を生成する。
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
上記式(2)に示す化合物(以下、化合物(2)という)は、チオキサントン系スルホン酸誘導体(p−トルエンスルホン酸1,3,6−トリオキソ−3,6−ジヒドロ−1H−11−チア−アザシクロペンタ[a]アントラセン−2−イルエステル)であり、チオキサントン骨格を有する発色団と、スルホン酸類である酸前駆体とを有する。なお、Tsはトシル基である。
化合物(2)は、例えば波長400〜460nmの可視光(青色光)などの活性エネルギー線の照射により、次に示すように分解し、酸性物質であるスルホン酸類を生成する。
【0017】
【化4】
【0018】
化合物(2)は、分解後のチオキサントン骨格部分は水に不溶であるため細胞に取り込まれにくく、細胞への影響を抑制できる。
また、化合物(2)は、可視光領域の光によって酸性物質を発生させることができる。さらに、化合物(2)は、可視光領域の光を使用できるため、細胞に与えられるダメージを小さくでき、しかも光学レンズに対する透過性が高い可視光を用いるため汎用の光学レンズが使用できるという利点がある。
【0019】
【化5】
【0020】
上記式(3a)〜(3d)に示す化合物(以下、化合物(3a)〜(3d)という)は、チオキサントン系スルホン酸誘導体であり、チオキサントン骨格を有する発色団と、スルホン酸類である酸前駆体とを有する。xのモル比率(全モノマー成分(x+y)に対する前記チオキサントン骨格を有するモノマー成分(x)のモル比率)は、例えば1〜20mol%としてよい。 化合物(3a)〜(3d)は、紫外線、可視光などの活性エネルギー線、例えば波長400〜460nmの可視光の照射により、次に示すように分解し、酸性物質である高分子のスルホン酸類を生成する。
【0021】
【化6】
【0022】
化合物(3a)〜(3d)は、可視光領域の光を使用できるため、細胞に与えられるダメージを小さくでき、しかも光学レンズに対する透過性が高い可視光を用いるため汎用の光学レンズが使用できるという利点がある。
また、生成した酸性物質は高分子化合物であるため細胞に取り込まれにくいことから、細胞への影響を抑制できる。また、分解後のチオキサントン骨格部分は水に不溶であるため細胞に取り込まれにくく、細胞への影響を抑制できる。
化合物(3b)から分解により生成した高分子の酸性物質は水に可溶となる。
【0023】
本発明では、光酸発生剤を含有する培養基材を用いて、培養基材表面の細胞の一部を他部から分別する。
すなわち、本発明の細胞分別方法では、細胞培養基材の表面に2以上の細胞を一層になるよう付着させ、細胞培養基材の一部領域にのみ活性エネルギー線を照射して前記一部領域の細胞にのみ光酸発生剤を作用させる。これにより、前記一部領域の細胞を選択的に除去することができるため、前記一部領域の細胞と他部領域の細胞とを分別することができる。
細胞分別の具体的な方法としては、前記一部領域の細胞を死滅させる方法と、前記一部領域の細胞を細胞培養基材から剥離させる方法とを挙げることができる。以下、各方法について詳細に説明する。
【0024】
(1)細胞の一部を死滅させることにより分別を行う方法
(a)細胞培養基材
細胞培養基材の構成材料としては、プラスチック、ガラス、改質ガラス、金属等を挙げることができる。
プラスチックとして好適な材料としては、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA))、ポリビニルピリジン系樹脂(ポリ(4−ビニルピリジン)、4−ビニルピリジン−スチレン共重合体等)、シリコーン系樹脂(例えば、ポリジメチルシロキサン樹脂)、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等)、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET))、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂等がある。
【0025】
光酸発生剤は、前記基材の構成材料に含有させてもよいし、前記基材の表面(またはその近傍)に前記光酸発生剤を含む層を形成してもよい。
前記光酸発生剤を含む層は、例えば前述のプラスチック(ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂等)に光酸発生剤を含有させた原料液を、スピンコート法、キャスト法等により塗布し、硬化させる方法により形成することができる。
前記原料液は、前記光酸発生剤を溶剤(1,2−ジクロロエタン、メタノール等)に溶解させた原料液であってもよい。
前記基材の構成材料中に光酸発生剤を含有させる場合の光酸発生剤の濃度は、酸前駆体成分のモル濃度として、例えば0.1〜2mol/lとすることができる。
基材の表面に光酸発生剤を含む層を形成する場合における前記層中の光酸発生剤の濃度も、上記と同じ範囲とすることができる。
基材10の表面に光酸発生剤層である第1層11を形成した細胞培養基材の構成を図3に示す。
前記細胞培養基材の表面には、ゼラチン、コラーゲンなどからなる保護層を形成してもよい。例えば、図4に示すように、基材10の表面に、光酸発生剤層である第1層11を形成し、その上にゼラチン、コラーゲン等からなる保護層である第2層12を形成することができる。
保護層である第2層12には、アゾ色素を含む樹脂(以下、色素ポリマーという場合がある。)、例えばアゾ色素を含むアクリル系樹脂(例えばPMMA)を使用することもできる。前記アゾ色素を含む樹脂を用いることによって、高い細胞付着性を確保でき、しかも酸性物質や活性エネルギー線の悪影響を低減できる。
【0026】
前記細胞培養基材の表面には、細胞の付着(以下、接着という場合もある)を阻害する性質を有する物質(以下、接着阻害性物質という場合がある。)、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリペンタメチレングリコール、およびポリヘキサメチレングリコールからなる群より選ばれる1種または2種以上のポリアルキレングリコール;水酸基を有するポリビニルアルコール等の水溶性あるいは水膨潤性ポリマーを含ませてもよい。
例えば、前記接着阻害性物質を含む層を基材表面に形成することができる。具体的には、例えば前述のプラスチック(ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂等)に前記接着阻害性物質を含有させた原料液を基材表面に塗布し、硬化させることによって前記層を形成することができる。
前記接着阻害性物質を含む層として、例えば、光酸発生剤を含む層と接着阻害性物質を含む層とを基材表面に形成してもよいし、光酸発生剤と接着阻害性物質の両方を含む層を基材表面に形成してもよい。
図4を利用して前記細胞培養基材の具体的構成を説明する。例えば、前記細胞培養基材は、基材10表面に光酸発生剤層である第1層11と、接着阻害性物質を含む第2層12とを形成して構成される。
前記層中の接着阻害性物質の濃度は、例えば5〜95質量%とすることができる。
【0027】
接着阻害性物質を含む層(第2層12)は、基材(基材10)表面の一部領域にのみ形成することができる。
接着阻害性物質は、光照射によって除去できるため、光照射によって所定の領域の接着阻害性物質を除去すれば、その領域では細胞の付着が可能となる。
例えば、図4に示す例において、接着阻害性物質を含む第2層12を、第1層11の一部領域にのみ形成することができる。第2層12を一部領域にのみ形成するには、いったん第2層12を第1層11の全面に形成した後、一部領域への紫外線照射などによって照射領域の第2層12を除去する方法により可能である。
第2層12が除去された領域では、細胞は付着が可能となる。このため、特定の領域にのみ細胞を接着させることができる。
すなわち、細胞培養基材に、光酸発生剤と接着阻害性物質を用いることによって、前記細胞培養基材は、光追記機能(細胞接着阻害を光解除する機能)および光致死機能(細胞を光で死滅させる機能)の両方を有する。
【0028】
(b)細胞分別装置
この分別方法に使用できる細胞分別装置の一例を図2に示す。この装置は、基材20(細胞培養基材)を保持する保持台21(保持手段)と、基材20の任意の領域に光30を照射する照射手段22と、基材20を観察可能な倒立型顕微鏡23(観察手段)と、パソコンなどの制御手段24とを備えている。
【0029】
照射手段22は、光源(活性エネルギー線源)(図示略)と、DMD25(デジタルマイクロミラーデバイス(Digital Micromirror Device))(照射領域調整手段)とを備えている。DMD25は複数のマイクロミラーに分割されている。各マイクロミラーは、制御手段24からの信号により独立に角度を設定できるようにされ、光源からの光を反射することによって、前記信号に応じたパターンの光30を基材20に照射できるようになっている。
DMD25は、この構成によって、基材20の任意の領域に光30を照射できる。基材20の表面の任意形状の一部領域にのみ光30を照射することもできるし、全領域に光30を照射することもできる。
光源としては、光酸発生剤に酸性物質を発生させ得る光源が選択され、例えば紫外線、可視光、赤外線等の活性エネルギー線を照射できるもの(例えば紫外線ランプ、可視光ランプ等)が使用できる。
倒立型顕微鏡23は、観察光26によって基材20上の細胞を観察することができるようになっている。
なお、光を基材の一部領域にのみ照射させるための構成としては、DMDに限らず、液晶シャッターアレイ、光空間変調素子、所定形状のフォトマスク等も採用できる。
【0030】
(c)分別の対象となる細胞
本発明において分別対象となる細胞は、特に限定されず、目的に応じて、動物由来の細胞(例えばヒト細胞)、植物由来の細胞、微生物由来の細胞等を使用できる。
具体例としては、例えば、造血幹細胞、骨髄系幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞などの体性幹細胞や胚性幹細胞、および人工多能性幹細胞がある。
また、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球(T細胞、NK細胞、B細胞等)等の白血球;血小板、赤血球、血管内皮細胞、リンパ系幹細胞、赤芽球、骨髄芽球、単芽球、巨核芽球および巨核球等の血液細胞、内皮系細胞、上皮系細胞、肝実質細胞、膵ラ島細胞等のほか、研究用に樹立された各種株化細胞も本発明の対象となり得る。
【0031】
(d)分別方法
ここに示す方法は、活性エネルギー線の照射により酸性物質を発生する光酸発生剤を含む細胞培養基材の表面に細胞を付着させ、前記細胞培養基材の一部領域にのみ前記活性エネルギー線を照射することにより前記一部領域の細胞を選択的に死滅させることによって、前記一部領域の細胞とそれ以外の領域にある細胞とを分別する細胞分別方法である。
【0032】
図1および図2を参照しつつ、本発明における細胞分別方法の一例を説明する。
図1に示す細胞培養基材1(図2における基材20)の表面に複数の細胞2を播種する(図1の符号3)。細胞2は基材1表面に付着する。
細胞2は、基材1の全面に付着させてもよいが、所定領域にのみ付着させてもよい。
前述の接着阻害性物質(PEG等)を使用した基材1を使用する場合には、所定領域への活性エネルギー線照射によって、酸性物質により接着阻害性を弱め、この領域を細胞付着可能とすることができる。このため、所定領域にのみ細胞を付着させることができる。
【0033】
図1の例では、基材1表面に4つの細胞2(細胞群)が互いに離間して形成されている。
図2に示す顕微鏡23で観察しつつ、複数の細胞2のうち細胞2Aの位置情報を制御手段24に取り込み(図1の符号5A)、これに基づく照射パターン6A(DMD等)により、基材1表面の一部領域にのみ活性エネルギー線(紫外線等)を照射する(図1の符号7A)。すなわち、細胞2Aおよびこれが付着した領域の基材1にのみ前記活性エネルギー線を照射する。
【0034】
前記活性エネルギー線の波長域は、光酸発生剤の種類に応じて設定されるが、例えば200〜1000nmを例示できる。特に300〜800nm、なかでも350〜600nmは好適である。
前記活性エネルギー線の照射エネルギーは、細胞2Aを死滅させ、かつ細胞2Bに悪影響を与えない範囲内で設定され、通常は0.1〜10000J/cm、好ましくは1〜1000J/cm、より好ましくは10〜100J/cmである。
【0035】
細胞2Aは、例えば、遺伝子導入操作後、導入に成功しなかった細胞;ES細胞の分化誘導後、分化しなかった細胞;生体組織から採取した初代細胞のうち不必要な細胞;形状が異常な細胞などである。
これに対し、それ以外の細胞(細胞2B)は、例えば、遺伝子導入に成功した細胞、分化したES細胞、採取細胞のうち必要な細胞、形状が正常な細胞などである。
【0036】
細胞2Aの位置情報は、形状等に基づいて顕微鏡観察により細胞2Aを特定することで取得できる。
また、色素、蛍光物質、放射性物質などの標識物質により細胞2Aを標識し、色や蛍光強度に基づいて細胞2Aの位置情報を取得することもできる。
図示例の照射パターン6Aは、細胞2Aの外形に沿うものであって、細胞2Aがある領域にのみ活性エネルギー線を照射できる。この活性エネルギー線を照射することによって、照射領域の基材1に含まれる光酸発生剤は、前記分解反応により酸性物質を発生する。
【0037】
前記酸性物質の発生によって細胞2Aは死滅する。細胞2Aは死滅するため、複数の細胞2から選択的に除去されたということができる。
この分別方法は、基材1の一部領域にのみ活性エネルギー線を照射して、光酸発生剤に酸性物質を発生させて照射領域の細胞2Aを死滅させることによって、細胞2Aと、照射領域外の細胞2Bとを分別する方法である。
例えば、活性エネルギー線照射後の細胞2Aの生存率が10%以下(または5%以下)となった場合に、細胞2Aが死滅したと判定することができる。
生存率は、例えば生細胞と死細胞を区別し得る染色法(例えばLive/Dead染色、トリパンブルー染色など)を用いて、顕微鏡観察などにより活性エネルギー線照射前後の生細胞数を数えることなどにより算出することができる。生存率は、例えば、100以上の細胞の生死を判定することにより算出できる。
【0038】
細胞2Aが死滅するのは、酸性物質の発生によりpH等の条件が局所的に変化し、細胞2の生存に適さなくなるためであると推測できる。
対象外である細胞2Aが除去されたことによって、対象となる細胞2Bが生細胞として分別される。この場合、酸性物質は光照射された領域のみで局所的に発生するため、照射領域にない細胞2Bは、たとえ照射領域に近接していても損傷を受けることはない。
死滅した細胞2Aは、培地や緩衝液等による洗浄等によって、基材1から除去することができる。
【0039】
本方法によれば、細胞培養基材1の一部領域にのみ活性エネルギー線を照射するので、この領域にある細胞2Aにのみ酸性物質を作用させることができる。
よって、対象となる細胞2Bに悪影響を与えることなく、細胞2Bを細胞2Aから精度よく分別することができる。
対象外の細胞2Aにのみ酸性物質を作用させるため、対象となる細胞2Bについては細胞外マトリックスや膜タンパク質が損なわれず、器官特異的機能を維持することができる。このため、細胞工学分野、再生医療分野、バイオ関連工業分野、組織工学分野などにおいて有用である。
本方法では、対象外の細胞2Aを死滅させるため、細胞2Aが細胞2Bに生細胞として混入することがなく、精度の高い分別が可能となるという利点がある。
【0040】
(2)細胞の一部を剥離させることにより分別を行う方法
本方法においても、図2に示す細胞分別装置を使用することができる。以下の説明において、前述の「細胞死滅による分別方法」との共通部分については同一符号を付してその説明を省略する。
(a)細胞培養基材
細胞培養基材の構成材料としては、上述の「細胞死滅による分別方法」で説明したものと同じ構成が使用可能である。
光酸発生剤は、前記基材の構成材料に含有させてもよいし、前記基材の表面(またはその近傍)に前記光酸発生剤を含む層を形成してもよい。
前記基材の構成材料中に光酸発生剤を含有させる場合の光酸発生剤の濃度は、酸前駆体成分のモル濃度として、例えば0.1〜2mol/lとすることができる。
基材の表面に光酸発生剤を含む層を形成する場合における前記層中の光酸発生剤の濃度も、上記と同じ範囲とすることができる。
【0041】
前記細胞培養基材の構成としては、図3に示すように、基材10表面に光酸発生剤層である第1層11を形成した構成が可能である。
細胞の剥離を効率的に誘起するために、この光酸発生剤層である第1層11の構成材料そのものが、酸性物質の発生反応の結果、水溶性または水膨潤性に変化する材料(xのモル比率が5%程度である化合物(3b)等)であってもよい。
また、前記細胞培養基材の構成としては、図4に示すように、基材10表面に、光酸発生剤層である第1層11を形成し、その上にゼラチン、コラーゲンまたは色素ポリマーからなる第2層12(保護層)を形成する構成も可能である。
上述の「細胞死滅による分別方法」で説明したとおり、前記細胞培養基材の表面には、接着阻害性物質を含有させることもできる。
【0042】
前記細胞培養基材としては、ポリビニルピリジン系樹脂を含む基材を用いることができる。
ポリビニルピリジン系樹脂としては、ポリ(4−ビニルピリジン)、および4−ビニルピリジン−スチレン共重合体のうち1以上の樹脂が使用できる。
ポリビニルピリジン系樹脂の使用にあたっては、ポリビニルピリジン系樹脂を基材の構成材料に含有させてもよいし、ポリビニルピリジン系樹脂を含む層を基材表面(またはその近傍)に形成してもよい。
ポリビニルピリジン系樹脂は、酸性物質と反応して中和しつつ、その構造が親水性に変化して細胞の剥離を起こりやすくする剥離促進層として機能すると考えられる。そのため、ポリビニルピリジン系樹脂の使用は、酸性物質量が少なくても十分な剥離効果が得られることから、酸性物質による細胞へのダメージを小さくできるという利点がある。
ポリビニルピリジン系樹脂は、単独で用いてもよいし、他の構成材料との混合樹脂として用いることもできる。
【0043】
ポリビニルピリジン系樹脂を含む樹脂層(剥離促進層)が形成された細胞培養基材の構成の例を図5に示す。この例では、基材10表面に、光酸発生剤層である第1層11が形成され、その上にポリビニルピリジン系樹脂からなる樹脂層12(剥離促進層)が形成され、その上にゼラチン、コラーゲンまたは色素ポリマーからなる第3層13(保護層)が形成されている。
なお、ポリビニルピリジン系樹脂は、上述の「細胞死滅による分別方法」で用いる細胞培養基材にも使用できる。
【0044】
(b)細胞分別装置
上述の「細胞死滅による分別方法」で説明した細胞分別装置(図2参照)を使用できる。
【0045】
(c)分別の対象となる細胞
上述の「細胞死滅による分別方法」で説明したものと同じ細胞を対象とすることができる。
【0046】
(d)分別方法
以下、図1を参照しつつ本方法の一例を説明する。
図1に示す細胞培養基材1(図2における基材20)の表面に複数の細胞2を播種する(図1の符号3)。細胞2は基材1表面に付着する。 本発明において、「細胞が付着する(接着する)」とは、例えば、培地や緩衝液等による洗浄等の一定の物理的刺激によってもその位置から移動しなくなることを意味する。例えば、所定の剪断応力(例えば0.1〜10N/m)の洗浄操作(培地や緩衝液等の流れによる)により移動しない状態を「付着状態」と定義することができる。前記のような状態あるいはより強固な付着状態については、「接着する」及び「接着状態」と表現することができるが、本明細書で用いる用語「付着」とは、このような用語「接着」を包含する。
図2に示す顕微鏡23で観察しつつ、複数の細胞2のうち細胞2Aの位置情報を制御手段24に取り込み(図1の符号5A)、これに基づく照射パターン6Aにより、基材1表面の一部領域にのみ活性エネルギー線(例えば、紫外線等)を照射する(図1の符号7A)。すなわち、細胞2Aおよびこれが付着した領域の基材1にのみ活性エネルギー線を照射する。
【0047】
前記活性エネルギー線の波長域は、光酸発生剤の種類に応じて設定されるが、例えば200〜1000nmを例示できる。特に300〜800nm、なかでも350〜600nmは好適である。
前記活性エネルギー線の照射エネルギーは、細胞2Aを剥離させ、かつ細胞2Bに悪影響を与えない範囲内で設定され、通常は0.1〜10000J/cm、好ましくは1〜1000J/cm、より好ましくは10〜100J/cmである。
【0048】
細胞2Aの位置情報は、形状等に基づいて顕微鏡観察により細胞2Aを特定することにより取得できる。また、色素、蛍光物質、放射性物質などの標識物質により細胞2Aを標識し、色や蛍光強度に基づいて細胞2Aの位置情報を取得することもできる。
照射パターン6Aは、細胞2Aの外形に沿うものであって、細胞2Aがある領域にのみ活性エネルギー線を照射できる。この活性エネルギー線を照射することによって、照射領域の基材1に含まれる光酸発生剤は、前記分解反応により酸性物質を発生する。
【0049】
前記酸性物質の発生により細胞2Aは基材1から剥離する。
本発明において、「細胞が剥離する」とは、例えば、培地や緩衝液等による洗浄等の一定の物理的刺激によって前記付着位置から移動できる状態となることである。
例えば、活性エネルギー線の照射前は所定の剪断応力(例えば0.1〜10N/m)の洗浄操作により細胞が移動しなかったが、活性エネルギー線の照射によって、洗浄操作により細胞の移動が起こった場合を「活性エネルギー線の照射により細胞が剥離した」と規定できる。
酸性物質により細胞の付着性が変化する機構は明らかでないが、細胞の表面物質と基材1との相互作用または結合が酸性物質の影響により弱められることが原因であると推測できる。
【0050】
細胞2Aは、剥離させた後、培地や緩衝液等により洗浄すること等によって基材1から選択的に除去することができる。
対象外の細胞2Aが除去されたことによって、対象となる細胞2B(遺伝子導入に成功した細胞、分化したES細胞、採取細胞のうち必要な細胞、形状が正常な細胞など)が分別される。
【0051】
本方法によれば、細胞培養基材1の一部領域にのみ活性エネルギー線を照射するので、この領域にある細胞2Aにのみ酸性物質を作用させることができる。
よって、本方法によれば、対象となる細胞2Bに悪影響を与えることなく、細胞2Bを細胞2Aから精度よく分別することができる。
また、本方法によれば、細胞2Aにのみ酸性物質を作用させるため、細胞2Bについては細胞外マトリックスや膜タンパク質が損なわれず、器官特異的機能を維持することができる。このため、本方法は、細胞工学分野、再生医療分野、バイオ関連工業分野、組織工学分野などにおいて有用である。
また、本方法では、対象外の細胞2Aを剥離させるため、洗浄等により細胞2Aを容易に基材1から除去できる。そのため、分別のための操作が容易であるという利点がある。
【0052】
上記方法では、対象外の細胞2Aを剥離させ除去するが、逆に、対象となる細胞2Bを剥離させ回収することもできる。
すなわち、図1に示すように、複数の細胞2のうち細胞2Bの位置情報を制御手段24(図2参照)に取り込み(符号5B)、これに基づく照射パターン6Bにより、細胞2Bおよびこれが付着した領域の基材1にのみ活性エネルギー線を照射する(図1の符号7B)。照射パターン6Bは、細胞2Bの外形に沿うものである。
活性エネルギー線を照射することによって、光酸発生剤は酸性物質を発生し、酸性物質の発生により細胞2Bは基材1から剥離する。
細胞2Bは、剥離させた後、培地や緩衝液等により洗浄すること等によって、この洗浄液中に細胞2Bを回収することができる。この際、細胞2Aは剥離せず基材1上に残る。
これによって、細胞2B(遺伝子導入に成功した細胞、分化したES細胞、採取細胞のうち必要な細胞、形状が正常な細胞など)を基材1から選択的に除去、回収し、細胞2Aから分別することができる。
本方法によっても、対象となる細胞2Bに悪影響を与えることなく、細胞2Bを細胞2Aから精度よく分別することができる。
【実施例】
【0053】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
ポリスチレンからなる基材の表面に、化合物(1)(みどり化学製、NAI−106)を含む溶液を塗布し乾燥させることにより化合物(1)を含む層を形成し、その上にゼラチン層を形成した。これによって、基材表面に化合物(1)含有層およびゼラチン層を有する細胞培養基材1を得た。
基材1表面に、MDCK細胞を全面にわたって播種した。
次いで、図2に示す顕微鏡23で観察しつつ、基材1(図1参照)の一部領域にのみ紫外線(波長365nm)を照射した(照射エネルギー6J/cm)。
生細胞を緑、死細胞を赤に蛍光染色するLive/Dead染色を行った結果、照射領域の細胞のみを死滅させることができたことが確認できた。
【0055】
(実施例2〜4)
化合物(1)を含むPMMAからなる層を表面に有する細胞培養基材1に、MDCK細胞(実施例2)、Hek293細胞(実施例3)、またはNIH/3T3細胞(実施例4)のうちいずれか1種の細胞を播種し、一部領域にのみ紫外線(波長365nm)を照射した。その他の条件は実施例1に準じた。
Live/Dead染色を行った結果、照射領域の細胞のみを死滅させることができたことが確認できた。
【0056】
(実施例5、6)
化合物(2)を含むPMMAからなる層を表面に有する細胞培養基材1に、CHO−K1細胞(実施例5)、またはNIH/3T3細胞(実施例6)のうちいずれか1種の細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例1に準じた。
Live/Dead染色を行った結果、照射領域の細胞のみを死滅させることができたことが確認できた。
【0057】
(実施例7〜10)
化合物(3a)(xのモル比率は1.0mol%)を含む層を表面に有する細胞培養基材1に、CHO−K1細胞(実施例7)、MDCK細胞(実施例8)、Hek293細胞(実施例9)、またはNIH/3T3細胞(実施例10)のうちいずれか1種の細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例1に準じた。
Live/Dead染色を行った結果、照射領域の細胞のみを死滅させることができたことが確認できた。
CHO−K1細胞(実施例7)を用いた場合のLive/Dead染色後の細胞の状態を図6に示す。暗く見える部分が可視光照射領域R1であり、この領域R1では細胞が死滅していることが確認できる。
NIH/3T3細胞(実施例10)を用いた場合のLive/Dead染色後の細胞の状態を図7に示す。暗く見える部分が可視光照射領域R2であり、この領域R2では細胞が死滅していることが確認できる。
【0058】
(実施例11)
実施例7〜10で用いた化合物(3a)と同じ化合物(3a)を含む層を表面に有する細胞培養基材1に、CHO−K1細胞を播種した。その一部の細胞2Aを細胞の生死に関わらず染色する赤色蛍光色素(DiI)で標識し、細胞付着後、生細胞のみを緑色染色するカルセインAMで染色し、細胞2Aが黄色(すなわち、赤色+緑色で、死滅すると緑色蛍光が失われ赤色になる。)の蛍光を示し、その他の細胞が緑色の蛍光を示すことを確認した。そして、細胞2Aを含む一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例1に準じた。
前記可視光照射前の細胞培養基材上の細胞の状態を図8Aに示す細胞2Aが蛍光標識によって他の細胞と区別されていること、および全ての細胞が生存していることが確認できる。
細胞培養基材上の細胞2Aにのみ前記可視光を照射している状態を図8Bに示す。
前記可視光照射後の細胞培養基材上の細胞の状態を図8Cに示す。蛍光によって、他の細胞が生存する一方で、細胞2Aのみが死滅したことが確認できる。
【0059】
(実施例12、13)
化合物(3b)(xのモル比率は4.3mol%)を含む層を表面に有する細胞培養基材1に、CHO−K1細胞(実施例12)、またはNIH/3T3細胞(実施例13)のうちいずれか1種の細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例1に準じた。
Live/Dead染色を行った結果、照射領域の細胞のみを死滅させることができたことが確認できた。
【0060】
(実施例14、15)
化合物(3d)(xのモル比率は1.4mol%)を含む層を表面に有する細胞培養基材1に、CHO−K1細胞(実施例14)、またはNIH/3T3細胞(実施例15)のうちいずれか1種の細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例1に準じた。
Live/Dead染色を行った結果、照射領域の細胞のみを死滅させることができたことが確認できた。
【0061】
(実施例16、17)
実施例14および15で用いた化合物(3d)と同じ化合物(3d)を含むポリ(4−ビニルピリジン)からなる樹脂層を表面に有する細胞培養基材1に、Hek293細胞(実施例16)、またはNIH/3T3細胞(実施例17)のうちいずれか1種の細胞を播種し、一部領域にのみ紫外線(波長365nm)を照射した。その他の条件は実施例1に準じた。
Live/Dead染色を行った結果、照射領域の細胞のみを死滅させることができたことが確認できた。
【0062】
(実施例18)
実施例7〜10で用いた化合物(3a)と同じ化合物(3a)を含む光酸発生剤層を形成し、その上にPEGからなる細胞接着阻害層を形成した。次いで、光追記機能および光致死機能が与えられた細胞培養基材1の一部領域にのみ紫外線(波長365nm)を照射して、この領域の細胞接着阻害層を除去し、この領域にCHO−K1細胞を播種した。
前記領域のうち一部に可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例1に準じた。
前記可視光の照射前の細胞培養基材上の細胞の状態を図9Aに示す。細胞培養基材1の矩形状の領域R3への紫外線(波長365nm)照射により細胞接着阻害層が除去されたため、領域R3に細胞が付着していることが確認できる。
細胞が付着した領域R3のうち一部である所定形状の領域R4に前記可視光(波長436nm)を照射している状態を図9Bに示す。
前記可視光の照射後の細胞培養基材上の細胞をLive/Dead染色した状態を図9Cに示す。蛍光によって、照射領域R4の細胞は死滅したことが確認できる。
【0063】
(比較例1)
ポリスチレンからなる基材の表面に、CHO−K1細胞を全面にわたって播種し、基材表面に紫外線(波長365nm)を照射した。照射エネルギーは、6J/cm、28J/cm、または69J/cmとした。
照射領域における細胞の増殖性を、CyQUAUTの添加による蛍光強度を非照射の参照条件と比較することによって評価した。なお、CyQUAUTは細胞個数に比例した強度の蛍光を発する。
その結果、いずれの条件でも、細胞の増殖性は非照射の参照条件に対し90%以上となった。このことから、いずれの条件においても大部分の細胞が死滅しなかったことがわかる。
また、1mMのEDTAを含むリン酸緩衝液を用いて基材表面を洗浄し、残った細胞の量を目視にて確認することによって、照射領域における細胞の付着性を評価した。非照射の細胞を除去するのに必要十分な一定の洗浄操作を行った後の細胞の残存率は、いずれの条件でも80%以上となった。
【0064】
(比較例2)
ポリスチレンからなる基材の表面に、NIH/3T3細胞を全面にわたって播種し、基材の一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。照射エネルギーは、75J/cm、150J/cm、または300J/cmとした。
死細胞のみを染色する性質を有するトリパンブルーを用いて、照射領域の細胞を染色したところ、いずれの条件でも細胞の致死率は1%以下であり、非照射域と有意な差は見出されなかった。また、いずれの条件でも細胞の剥離は見られなかった。
【0065】
比較例1では細胞の死滅は起こらなかったのに対し、実施例1〜4、および16〜18では、比較例1と同波長かつ照射エネルギーが同等以下の紫外線を用いたにもかかわらず、照射領域の細胞の大部分が死滅したことから、細胞の死滅は光酸発生剤の作用により起きたと考えられる。
比較例2では細胞の死滅は起こらなかったのに対し、実施例5〜15では、比較例2と同波長かつ照射エネルギーが低い可視光を用いたにもかかわらず、照射領域の細胞の大部分が死滅したことから、細胞の死滅は光酸発生剤の作用により起きたと考えることができる。
【0066】
(実施例19)
化合物(1)を含む層と、その上に形成されたポリ(4−ビニルピリジン)からなる樹脂層とを有する細胞培養基材1に、MDCK細胞を播種し、一部領域にのみ紫外線(波長365nm)を照射した(照射エネルギー17J/cm)。その他の条件は実施例1に準じた。
細胞培養基材1の表面をPBS(リン酸緩衝溶液)で洗浄し、細胞培養基材1の表面を観察した結果、照射領域の細胞の大部分(約90%以上)が剥離し、除去されたことが確認できた。
前記紫外線照射前の細胞培養基材上の細胞の状態を図10Aに示す。視野領域のほぼ全面に細胞が付着していることが確認できる。
中央の矩形状の領域R5に紫外線を照射している状態を図10Bに示す。
紫外線照射後の細胞培養基材上の細胞の状態を図10Cに示す。照射領域R5の細胞の一部が剥離したことが確認できる。
【0067】
(実施例20、21)
化合物(2)を含む層と、その上に形成されたポリ(4−ビニルピリジン)からなる樹脂層と、その上に形成されたゼラチン層とを有する細胞培養基材1に、MDCK細胞(実施例20)、またはHek293細胞(実施例21)のうちいずれか1種の細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例19に準じた。
細胞培養基材1の表面をPBS(リン酸緩衝溶液)で洗浄したところ、照射領域の細胞の大部分が剥離し、除去されたことが確認できた。
【0068】
(実施例22)
化合物(2)を含むPMMAからなる層と、その上に形成されたポリ(4−ビニルピリジン)からなる樹脂層と、その上に形成されたゼラチン層とを有する細胞培養基材1に、Hek293細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例19に準じた。
細胞培養基材1の表面をPBS(リン酸緩衝溶液)で洗浄したところ、照射領域の細胞の大部分が剥離し、除去されたことが確認できた。
【0069】
(実施例23)
化合物(2)を含むPMMAからなる層と、その上に形成された樹脂層と、その上に形成されたゼラチン層とを有する細胞培養基材1に、Hek293細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。樹脂層には、ポリ(4−ビニルピリジン)とポリ酢酸ビニルとからなる混合樹脂を使用した。その他の条件は実施例19に準じた。
細胞培養基材1の表面をPBS(リン酸緩衝溶液)で洗浄したところ、照射領域の細胞の大部分が剥離し、除去されたことが確認できた。
【0070】
(実施例24)
化合物(2)を含むPMMAからなる層と、その上に形成された樹脂層とを有する細胞培養基材1に、Hek293細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。前記樹脂層には、4−ビニルピリジン−スチレン共重合体を使用した。その他の条件は実施例19に準じた。
細胞培養基材1の表面をPBS(リン酸緩衝溶液)で洗浄したところ、照射領域の細胞の大部分が剥離し、除去されたことが確認できた。
【0071】
(実施例25、26)
実施例7〜10で用いた化合物(3a)と同じ化合物(3a)を含む層と、その上に形成されたポリ(4−ビニルピリジン)からなる樹脂層とを有する細胞培養基材1に、Hek293細胞(実施例25)、またはMDCK細胞(実施例26)のうちいずれか1種の細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例19に準じた。
細胞培養基材1の表面をPBS(リン酸緩衝溶液)で洗浄したところ、照射領域の細胞の大部分が剥離し、除去されたことが確認できた。
【0072】
(実施例27、28)
実施例7〜10で用いた化合物(3a)と同じ化合物(3a)を含む層と、その上に形成された樹脂層とを有する細胞培養基材1に、Hek293細胞(実施例27)、またはNIH/3T3細胞(実施例28)のうちいずれか1種の細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。前記樹脂層には、4−ビニルピリジン−スチレン共重合体を使用した。その他の条件は実施例19に準じた。
細胞培養基材1の表面をPBS(リン酸緩衝溶液)で洗浄したところ、照射領域の細胞の大部分が剥離し、除去されたことが確認できた。
【0073】
(実施例29)
化合物(3c)(xのモル比率は1.0mol%)を含む層を表面に有する細胞培養基材1に、Hek293細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例19に準じた。
細胞培養基材1の表面をPBS(リン酸緩衝溶液)で洗浄したところ、照射領域の細胞の大部分が剥離し、除去されたことが確認できた。
【0074】
(実施例30)
実施例12、および13で用いた化合物(3b)と同じ化合物(3b)を含むポリ(4−ビニルピリジン)からなる第1の樹脂層と、その上に形成された保護層とを有する細胞培養基材1に、NIH/3T3細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。
前記保護層には、アゾ色素(Disperse Red1)を側鎖に有するPMMA(アルドリッチ社製)を使用した。その他の条件は実施例19に準じた。
細胞培養基材1の表面をPBS(リン酸緩衝溶液)で洗浄したところ、照射領域の細胞の大部分が剥離し、除去されたことが確認できた。
【0075】
(実施例31)
実施例12および13で用いた化合物(3b)と同じ化合物(3b)を含む層と、その上に形成された、4−ビニルピリジン−スチレン共重合体からなる樹脂層とを有する細胞培養基材1に、NIH/3T3細胞を播種し、一部領域にのみ可視光(波長436nm)を照射した。その他の条件は実施例19に準じた。
細胞培養基材1の表面をPBS(リン酸緩衝溶液)で洗浄したところ、照射領域の細胞の大部分が剥離し、除去されたことが確認できた。
前記可視光照射前の細胞培養基材上の細胞の状態を図11Aに示す。視野領域のほぼ全面に細胞が付着していることがわかる。
前記可視光照射後の細胞培養基材上の細胞の状態を図11Bに示す。前記可視光の照射領域(図11Aに仮想線で示す略扇形の領域R6)の細胞の大部分が剥離し、除去されたことがわかる。
剥離し回収された細胞は、80%以上が生存していることをトリパンブルー染色により確認できた。
【0076】
(比較例3)
ポリスチレンからなる基材の表面に、実施例30で用いたPMMAと同じアゾ色素を側鎖に有するPMMAからなる保護層を形成し、その表面にHepG2細胞、Hek293細胞、NIH/3T3細胞、またはMDCK細胞のいずれか1種の細胞を播種し、一部領域にのみで可視光(波長436nm)を照射した。照射エネルギーは120J/cm、または240J/cmとした。
その結果、いずれの条件でも細胞の剥離は見られなかった。また、トリパンブルーを用いて照射領域の細胞を染色したところ、細胞の致死率は1%以下であり、非照射域と有意な差は見出されなかった。
【0077】
上述の比較例1では基材表面の洗浄後の細胞の残存率は80%以上となったのに対し、実施例19では、比較例1と同波長かつ照射エネルギーが低い紫外線を用いたにもかかわらず剥離が起きたことから、細胞の剥離は光酸発生剤の作用により起きたと考えられる。
上述の比較例2では細胞の剥離は見られなかったのに対し、実施例20〜31では、比較例2と同波長かつ照射エネルギーが低い可視光を用いたにもかかわらず剥離が起きたことから、細胞の剥離は光酸発生剤の作用により起きたと考えることができる。
また、比較例3では細胞剥離は見られなかったのに対し、実施例30では、比較例3と同波長かつ照射エネルギーが低い可視光を用いたにもかかわらず細胞の剥離が起きた。このことからも、細胞の剥離は光酸発生剤の作用により起きたと判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、特定の細胞にのみ酸性物質を作用させるため、対象となる細胞を、ダメージを与えず分別可能であることから、細胞工学分野、再生医療分野、バイオ関連工業分野、組織工学分野などにおいて使用することができ、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0079】
1、20・・・細胞培養基材、2・・・細胞、22・・・照射手段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B