【0009】
コーティング層に用いるコーティング材としては、チーズから呈時物質へ、もしくは、呈味物質からチーズに水分を透過しないようにするため、可食性高融点油脂、シェラックまたはタンパク質からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を用いることができる。
可食性高融点油脂としては、融点が70℃以上、好ましくは85℃以上の可食性高融点油脂を用いることができるが、なかでも長鎖脂肪酸、そのモノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドなどの植物性硬化油が好ましい。融点が70℃未満の油脂を用いると、チーズの熟成後などに加熱を行なった場合に油脂が溶解してしまう場合があるため、十分な効果を得ることができないからである。それぞれのチーズの加熱条件などを考慮して、用いるコーティング材を適宜選択することができる。
植物性硬化油の例としては、パーム硬化油、菜種硬化油、大豆硬化油、ヤシ硬化油などである。なお、ここで、述べる融点とは、加熱によって固体が熱によって液体になり始める温度、すなわち上昇融点をいう。
シェラックとは、ラックカイガラ虫がある種の樹木に寄生して、樹液を吸って生活しながら分泌する樹脂状物質であり、オキシカルボン酸が化学的にラクトンとして互いに結合して生じた天然縮合生成物と考えられているが、完全な構造は明らかにされていない。
タンパク質としては、とうもろこしのゼインなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。これらのコーティング材としては、それぞれのチーズの加熱条件などを考慮して、用いるコーティング材を適宜選択することができる。
コーティング層の厚みは、コーティングされた呈味物質の食感が著しく変化しない範囲であることが好ましく、5〜1000μm程度が好ましい。5μm未満であると、呈味物質への水分移行が起こり、風味や食感などが好ましくなく、コーティング層が1000μmを超えて厚すぎると、呈味物質本来の味や食感が損なわれてしまう場合がある。よって、この範囲内で使用する呈味物質の特徴を考慮して、コーティング層の厚みを適宜調整すればよい。
【0012】
水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質を添加したチーズは、水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質をチーズまたはチーズカードに添加する工程以外は、通常の各チーズの製造方法に従って製造することができる。
水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質をチーズに添加する方法としては、以下の方法が挙げられるが、特に限定されるものではない。
例えば、原料乳に乳酸菌、レンネット、乳酸菌やカビなどを用いて常法によりチーズカードを成型させ、成型されたチーズカードの表面に水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質を付着させて添加することができる。さらに、水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質を付着させて添加したチーズカードを熟成させてチーズを得ることもできる。プロセスチーズ、チーズフードや乳等を主原料とする食品の場合には、呈味物質が水分を透過しないコーティング層を有するため、乳化工程後のまだ完全に固まっていないチーズカード表面に付着させて添加することができるし、完全に固まった後に付着させて添加することもできる。
さらに、ナチュラルチーズなどでは、例えば、呈味物質が水分を透過しないコーティグ層を有するため原材料の一部として添加して、チーズカードを製造することができるし、熟成途中でチーズカードを水平にカットして、カード間に水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質をはさみこませて添加することもできる。さらに、水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質を添加したチーズカードを熟成させてチーズを得ることができる。なお、熟成終了後に、得られたチーズを加熱することにより、保存期間の長いチーズを得ることができる。例えば、70℃以上のレトルト殺菌を行うことができるし、チーズの殺菌に用いる一般的な殺菌条件、殺菌方法、殺菌装置などをそのまま用いることができる。
プロセスチーズ、チーズフードや乳等を主原料とする食品などの場合には、
呈味物質が水分を透過しないコーティング層を有するため、乳化工程後のまだ完全に固まっていないチーズカードを水平にカットして、カード間に水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質をはさみこませて添加することができるし、完全に固まった後に同様な方法により添加することもできる。さらに、プロセスチーズなどの他の原材料と一緒に添加・混合して乳化させてプロセスチーズ、チーズフード、乳等を主原料とする食品を製造することもできる。
また、水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質をチーズに添加した後、常法に従って包装処理を行うことができるし、熟成させた後に包装処理を行うこともできる。一般的なチーズに用いられる包装材や包装機械をそのまま用いることができる。
【実施例】
【0016】
〔実施例1〕
呈味物質としては、ブラックペッパー粉末(ヱスビー食品社製)、アーモンド微粉(正栄食品工業社製)、ドライフルーツ微粉(正栄食品工業社製)を用いた。
具体的には、ブラックペッパー粉末100gに加温融解した植物性硬化油(ダイアモンドワックス(新日本理化社製))を均一に噴霧して、良く撹拌した。この作業を繰り返し、1gの植物性硬化油を噴霧した。このようにして調製した植物性硬化油をコーティングしたブラックペッパー粉末を均一なもとのするために、不均一な固まりを10μmのメッシュで取り除いた。得られた均一な粉末を「植物性硬化油コーティングブラックペッパー」とした。同様の方法で、アーモンド微粉(正栄食品工業社製)を用いた「植物性硬化油コーティングアーモンド」、ドライフルーツ微粉(正栄食品工業社製)を用いた「植物性硬化油コーティングドライフルーツ」も調製した。
一般的な製造工程に従ってカードメイキングおよび表面にカビが生育するま3日間発酵させたチーズカード(100g)を植物性硬化油コーティングブラックペッパー、植物性硬化油コーティングアーモンド、植物性硬化油コーティングドライフルーツを満たした各バットに入れて、チーズカードの表面に水分を透過しないコーティング層を有する各呈味物質を付着させて添加し、過剰な水分を透過しないコーティング層を有する各呈味物質を除去後、ポリプロピレン包材で包装後、さらに10℃で15日間熟成させた。熟成終了後、加熱殺菌を行ない、カマンベールチーズを製造した(実施品1〜3)。
なお、植物性硬化油を用いてコーティング処理を行わなかった(呈味物質そのまま)ブラックペッパー、アーモンド、ドライフルーツを用いて実施例1と同様な方法で呈味物質を添加したカマンベールチーズを製造した(比較品1〜3)。
得られたカマンベールチーズについて、以下に記載した評価方法により呈味物質への水分移行について評価を行った。なお、評価は訓練されたパネラー5名で行った。
【0017】
「評価方法」
(1)呈味物質の風味
○:呈味物質の風味がチーズへの添加前後で変わらない。
△:呈味物質の風味がチーズへの添加前後でやや異なる。
×:呈味物質の風味がチーズへの添加前後で異なる。
(2)呈味物質の食感
○:呈味物質の食感がチーズへの添加前後で変わらない
△:呈味物質の食感がチーズへの添加前後でやや異なる。
×:呈味物質の食感がチーズへの添加前後で異なる。
【0018】
【表1】
【0019】
結果を表1に示した。水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質を用いたカマンベールチーズは、カマンベールチーズへの添加前と後で呈味物質の風味が変わらず良好な結果であった。一方、水分を透過しないコーティング層を有しない呈味物質を用いたカマンベールチーズは、カマンベールチーズから呈味物質への水分の移行により、カマンベールチーズへの添加前と後で呈味物質の食感が異なった。また、ドライフルーツ本来の甘みや酸味が水分により失われていた。
また、水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質を用いたカマンベールチーズは、長期間保存を行っても食感や風味の変化はほとんど認められなかったが、水分を透過しないコーティング層を有しない呈味物質を用いたカマンベールチーズは、保存期間が長くなるに伴い、食感や風味が劣化した。
【0020】
〔実施例2〕
呈味物質としては、ブラックペッパー粉末(ヱスビー食品社製)、アーモンド微粉(正栄食品工業社製)、ドライフルーツ微粉(正栄食品工業社製)を用いた。
具体的には、ブラックペッパー粉末100gに加温融解したシェラック溶液(ラックグレーズ32E(日本シェラック工業社製))を均一に噴霧して、良く撹拌した。この作業を繰り返し、1gのシェラックを噴霧した。このようにしてシェラックをコーティングしたブラックペッパー粉末を均一なもとのするために、不均一な固まりを10μmのメッシュで取り除いた。得られた均一な粉末を「シェラックコーティングブラックペッパー」とした。同様の方法で、アーモンド微粉を用いた「シェラックコーティングアーモンド」、ドライフルーツ微粉を用いた「シェラックコーティングドライフルーツ」も調製した。
得られたシェラックコーティングブラックペッパー、シェラックコーティングアーモンド、シェラックコーティングドライフルーツをそれぞれ添加したカマンベールチーズを製造した。
一般的な製造工程に従ってカードメイキングおよび表面にカビが生育するまで2日間発酵させたチーズカード(100g)を水平方向に切断し、切断面に調製した各シェラックコーティング呈味物質を切断面一面にそれぞれ添加した後、再び接着させてもとの状態に戻した。3日間前熟成してからポリプロピレン包材で包装後、さらに本熟成させた。本熟成終了後、80℃で加熱殺菌を行ない、呈味物質を添加したカマンベールチーズを製造した(実施品4〜6)。
なお、シェラックを用いてコーティング処理を行わなかった(呈味物質そのまま)ブラックペッパー、アーモンド、ドライフルーツを用いて実施例1と同様な方法で呈味物質を添加したカマンベールチーズを製造した(比較品4〜6)。
得られたカマンベールチーズについて、実施例1と同様の評価方法により呈味物質への水分移行について評価を行った。なお、評価は訓練されたパネラー5名で行った。
【0021】
【表2】
【0022】
結果を表2に示した。水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質を添加したカマンベールチーズは、カマンベールチーズへの添加前と後で呈味物質の風味が変わらず良好な結果であった。一方、水分を透過しないコーティング層を有しない呈味物質を用いたカマンベールチーズは、カマンベールチーズから呈味物質への水分の移行により、カマンベールチーズへの添加前と後で呈味物質の食感が異なった。
また、水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質を用いたカマンベールチーズは、長期間保存を行っても食感や風味の変化はほとんど認められなかったが、水分を透過しないコーティング層を有しない呈味物質を用いたカマンベールチーズは、保存期間が長くなるに伴い、食感や風味が劣化した。
【0023】
〔実施例3〕
呈味物質としては、ブラックペッパー粉末(ヱスビー食品社製)、アーモンド微粉(正栄食品工業社製)、ドライフルーツ微粉(正栄食品工業社製)を用いた。
具体的には、ブラックペッパー粉末100gに加温融解したツェインDP(小林香料社製)を均一に噴霧して、良く撹拌した。この作業を繰り返し、2gのツェインDPを噴霧した。このようにして調製したツェインDPをコーティングしたブラックペッパー粉末を均一なもとのするために、不均一な固まりを10μmのメッシュで取り除いた。得られた均一な粉末を「ツェインDPコーティングブラックペッパー」とした。同様の方法で、アーモンド微粉を用いた「ツェインDPコーティングアーモンド」、ドライフルーツ微粉を用いた「ツェインDPコーティングドライフルーツ」も調製した。
得られたツェインDPコーティングブラックペッパー、ツェインDPコーティングアーモンド、ツェインDPコーティングドライフルーツをそれぞれ添加したカマンベールチーズを製造した。
一般的な製造工程に従ってカードメイキングおよび表面にカビが生育するまで5日間発酵させたチーズカード(100g)を水平方向に切断し、切断面に調製した各ツェインDPコーティング呈味物質を切断面一面にそれぞれ添加した後、再び接着させてもとの状態に戻した。その後、2日間熟成後、縦方向に6等分に切断後、個装包装後、さらに熟成が完了するまで本熟成を継続した。本熟成終了後、加熱殺菌を行なった後、呈味物質を添加したカマンベールチーズを製造した(実施品7〜9)。
なお、ツェインDPを用いてコーティング処理を行わなかった(呈味物質そのまま)ブラックペッパー、アーモンド、ドライフルーツを用いて実施例1と同様な方法で呈味物質を添加したカマンベールチーズを製造した(比較品7〜9)。
得られたカマンベールチーズについて、実施例1と同様の評価方法により呈味物質への水分移行について評価を行った。なお、評価は訓練されたパネラー5名で行った。
【0024】
【表3】
【0025】
結果を表3に示した。水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質を用いたカマンベールチーズは、カマンベールチーズへの添加前と後で呈味物質の風味が変わらず良好な結果であった。一方、水分を透過しないコーティング層を有しない呈味物質を用いたカマンベールチーズは、カマンベールチーズから呈味物質への水分の移行により、カマンベールチーズへの添加前と後で呈味物質の食感が異なった。
また、水分を透過しないコーティング層を有する呈味物質を用いたカマンベールチーズは、長期間保存を行っても食感や風味の変化はほとんど認められなかったが、水分を透過しないコーティング層を有しない呈味物質を用いたカマンベールチーズは、保存期間が長くなるに伴い、食感や風味が劣化した。
【0026】
〔実施例4〕
脂肪を9.5%に調整をしたチーズ原料乳を均質、高温短時間殺菌後、冷却した。ジャケット付タンクにチーズ原料乳を22℃に調整してから乳酸菌スターター(クリスチャンハンセン社製CHN19)とレンネットを添加し、充分に撹拌し発酵させた。発酵後に加温およびホエー分離を行い、ホエー分離したカードに安定剤を添加してクリームチーズを製造した。
実施例1と同様に調製した「植物性硬化油コーティングドライフルーツ」で満たしたバットに、製造したクリームチーズを入れてチーズ表面に「植物性硬化油コーティングドライフルーツ」を付着させて添加した。その後、過剰な「植物性硬化油コーティングドライフルーツ」を除去して呈味物質を添加したクリームチーズを製造した(実施品10)。
呈味物質を添加したクリームチーズを評価した結果、呈味物質の風味はチーズへの添加前と後で変わらず、良好な結果であった。また、一定期間保存後に同じ評価を行ったが、食感や風味の変化はほとんど認められなかった。
【0027】
〔実施例5〕
乳化釜にゴーダーチーズ(雪印乳業社製)50.0%、チェダーチーズ(雪印乳業社製)48.7%、リン酸塩1.0%、食塩0.3%を添加後、前撹拌を行い、蒸気で加熱して乳化を行なった。乳化後、ある程度チーズカードが固まった段階でチーズカードを水平方向に切断し、切断面に実施例1と同様に調製した「シェラクコーティングドライフルーツ」を一面に添加した後、再び接着させてもとの状態に戻し、呈味物質を挟んだプロセスチーズを製造した(実施品11)。
呈味物質をはさんだプロセスチーズを評価した結果、呈味物質の風味はチーズへの添加前と後で変わらず良好な結果であった。また、一定期間保存後に同評価を行ったが、食感や風味の変化はほとんど認められなかった。
【0028】
〔実施例6〕
乳化釜にチェダーチーズ(雪印乳業社製)93.7%、リン酸塩1.0%、食塩0.3%、実施例1と同様に調製した「ツェインDPコーティングドライフルーツ」5.0%を添加後、前撹拌を行い、蒸気で加熱して乳化を行なった。乳化後、冷却して呈味物質を添加したプロセスチーズを製造した(実施品12)。
呈味物質を添加したプロセスチーズを評価した結果、呈味物質の風味はチーズへの添加前と後で変わらず良好な結果であった。また、一定期間保存後に同評価を行ったが、食感や風味の変化はほとんど認められなかった。