特許第5836232号(P5836232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5836232
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置、及び収差補正方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/153 20060101AFI20151203BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20151203BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   H01J37/153 A
   H01J37/28 C
   H01J37/22 501Z
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-202216(P2012-202216)
(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公開番号】特開2014-56788(P2014-56788A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】秋間 学尚
(72)【発明者】
【氏名】吉田 高穂
【審査官】 小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−180013(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/005056(WO,A1)
【文献】 特開2005−108567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/153,37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線源と、前記荷電粒子線源から放出された荷電粒子を試料に対して照射する荷電粒子光学系と、前記荷電粒子光学系の収差を補正する収差補正器と、前記荷電粒子光学系及び前記収差補正器を制御する制御部と、を備えた荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子光学系の焦点位置を変化させたロンチグラムを複数取得するスルーフォーカス撮影部と、
前記取得されたロンチグラムを複数の局所領域に分割し、前記局所領域にて検出されたラインフォーカスに基づいて収差量を算出する収差量算出部と、を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記収差量算出部は、前記局所領域の等強度線を楕円でフィッティングし、前記フィッティングされた楕円に基づいて前記ラインフォーカスを検出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
前記局所領域の等強度線は、自己相関関数またはフーリエ変換によって算出されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
設定値が入力される入力部をさらに有し、
前記スルーフォーカス撮影部は、前記入力された設定値に基づいた範囲にて焦点位置を前記変化させることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記ラインフォーカスの検出は、アンダーフォーカス側及びオーバーフォーカス側において前記取得されたロンチグラムの各々の前記局所領域にて前記ラインフォーカスが検出され、
前記スルーフォーカス撮影部は、前記局所領域にて検出されるラインフォーカスが規定値より少ない場合、前記入力された設定値に基づいた範囲よりも大きな範囲にて焦点位置を変化させたロンチグラムを複数取得することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子光学系は、前記試料に対して荷電粒子を集束する対物レンズを有し、
前記複数の局所領域は、前記荷電粒子光学系における軸上近傍を通る第1の電子線束に対応する第1の局所領域と、前記第1の電子線束よりも前記対物レンズの外側を通る第2の電子線束に対応する第2の局所領域とを含むことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
荷電粒子線源と、前記荷電粒子線源から放出された荷電粒子を試料に対して照射する荷電粒子光学系と、前記荷電粒子光学系の収差を補正する収差補正器と、前記荷電粒子光学系及び前記収差補正器を制御する制御部と、を備えた荷電粒子線装置において、
設定値の入力が可能な入力部と、
前記設定値に基づき前記荷電粒子光学系の焦点位置を変化させたロンチグラムを複数取得するスルーフォーカス撮影部と、
前記スルーフォーカス撮影部にて前記ロンチグラムを複数取得する動作開始の入力を受け付ける補正開始入力部と、
前記取得されたロンチグラムに基づき、ラインフォーカスの検出が成功したかを表示するステータス表示部と、
前記ラインフォーカスの検出が成功した場合、前記検出されたラインフォーカスに基づいて前記収差を補正する収差補正部と、と有し、
前記収差補正部は、前記ラインフォーカスの検出が行われなかった場合、前記入力部に対して再度の設定値の入力を求める指示を送信する、又は前記スルーフォーカス撮影部に対して前記焦点位置を変化させた範囲よりも大きな範囲にて焦点位置を変化させたロンチグラムを複数取得する指示を送信することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
荷電粒子線源と、前記荷電粒子線源から放出された荷電粒子を試料に対して照射する荷電粒子光学系と、前記荷電粒子光学系の収差を補正する収差補正器と、前記荷電粒子光学系及び前記収差補正器を制御する制御部と、を備えた荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子光学系の焦点位置を変化させたロンチグラムを複数取得する第1のステップと、
前記取得されたロンチグラムを複数の局所領域に分割する第2のステップと、
前記局所領域にて検出されたラインフォーカスに基づいて収差量を算出する第3のステップと、を有することを特徴とする収差補正方法。
【請求項9】
請求項8に記載の収差補正方法において、
前記第3のステップはさらに、前記局所領域の等強度線を楕円でフィッティングする第4のステップと、前記フィッティングされた楕円に基づいて前記ラインフォーカスを検出する第5のステップと、を有することを特徴とする収差補正方法。
【請求項10】
請求項9に記載の収差補正方法において、
前記第4のステップにおける前記局所領域の等強度線は、自己相関関数またはフーリエ変換によって算出されることを特徴とする収差補正方法。
【請求項11】
請求項8に記載の収差補正方法において、
前記第1のステップにて用いられる設定値が入力される第6のステップをさらに有し、
前記第1のステップは、前記入力された設定値に基づいた範囲にて焦点位置を前記変化させることを特徴とする収差補正方法。
【請求項12】
請求項11に記載の収差補正方法において、
前記第3のステップは、アンダーフォーカス側及びオーバーフォーカス側において前記取得されたロンチグラムの各々の前記局所領域にて前記ラインフォーカスが検出されるステップであり、
前記局所領域にて検出されるラインフォーカスが規定値より少ない場合、前記入力された設定値に基づいた範囲よりも大きな範囲にて焦点位置を変化させたロンチグラムを複数取得する第7ステップと、を有することを特徴とする収差補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置及びその収差補正方法に係り、特に、収差補正器を備えた荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型透過電子顕微鏡(STEM)等の荷電粒子線装置には、収差補正器を備えたものがある。この収差補正器は、TEMやSTEMにおいて分解能を制限する主な要因である対物レンズの球面収差(Cs)を補正するために用いられる。収差補正器としては、6極子場を発生させる2つの多極子レンズと、その間に2枚の軸対称レンズ(伝達レンズ)を配置したものが知られている。そして、収差補正器により対物レンズのCsは補正される。
【0003】
しかし、収差補正器の不完全性、すなわち、多極子レンズを構成する個々の極子の位置ずれや、極子材料の磁気的特性のばらつきなどにより、寄生収差と呼ばれる余分な収差が発生してしまう。発生する3次以下の寄生収差は、2回対称1次非点収差(A1)、1回対称2次コマ収差(B2)、3回対称2次非点収差(A2)、2回対称3次スター収差(S3)、4回対称3次非点収差(A3)などがある。収差補正器の調整においては、Csの補正に加え、これら寄生収差の補正が必要である。収差補正器の調整は、光学系に残存する各収差の大きさを定量化する収差測定と、測定結果に基づいた収差補正を繰り返すことで行われる。この収差測定の方法に関しては、例えば特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−180013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、光学系に存在する残留する収差を、ロンチグラムの局所領域の変化として観察することが開示されている。また、観察者が正焦点位置付近にてフォーカスを変化させ、中心部に方向性を持った線がないロンチグラムを得ることで二回非点を補正している。すなわち、収差測定では、フォーカスやビームの傾斜角を変えて複数枚取得された電子顕微鏡画像から収差の特徴量を抽出し、収差の大きさと方向を表す収差係数を求める。しかし、収差が非常に大きい場合には電子顕微鏡画像が大きく歪むため、特徴量の抽出が困難になる。例えば2回対称1次非点収差(以下A1と表記する)と1回対称2次コマ収差(以下B2と表記する)は、加速電圧の切り替えや試料交換などの操作に伴って大きく変化することがある。そうした場合、引用文献1のようにユーザーがフォーカスを振りながら電子顕微鏡画像の変化を観察し、A1とB2に特徴的なパターンが減少するように電子線の偏向量などを手動で調整しようとすると、以下のような問題が生じる。
【0006】
すなわち、大きなA1とB2が残存する場合には、それぞれに起因する歪み量も大きいため、A1とB2の調整量を大きく変えないと特徴的なパターンの変化を認めることができない。なので、調整経験の浅いユーザーにとっては、パターンの変化が認められない状態にて、補正したい特定の収差の調整量の大小を適宜判断しながら、正しい方向に調整を進めるのは難しい。調整の前後に係る画像を比較してもパターンの変化が認められない状態では、その前後の調整が正しかったのか判別できないためである。本発明の目的は、従来発明では測定が困難になるほど大きな収差量(例えばA1とB2)が残留した状態からでも収差を測定することのできる荷電粒子線装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の荷電粒子線装置は、荷電粒子線源と、前記荷電粒子線源から放出された荷電粒子を試料に対して照射する荷電粒子光学系と、前記荷電粒子光学系の収差を補正する収差補正器と、前記荷電粒子光学系及び前記収差補正器を制御する制御部と、を備えた荷電粒子線装置において、前記荷電粒子光学系の焦点位置を変化させたロンチグラムを複数取得するスルーフォーカス撮影部と、前記取得されたロンチグラムを複数の局所領域に分割し、前記局所領域にて検出されたラインフォーカスに基づいて収差量を算出する収差量算出部とを有することを特徴とする。
【0008】
また、本願の荷電粒子線装置は、荷電粒子線源と、前記荷電粒子線源から放出された荷電粒子を試料に対して照射する荷電粒子光学系と、前記荷電粒子光学系の収差を補正する収差補正器と、前記荷電粒子光学系及び前記収差補正器を制御する制御部と、を備えた荷電粒子線装置において、設定値の入力が可能な入力部と、前記荷電粒子光学系の焦点位置を変化させたロンチグラムを複数取得するスルーフォーカス撮影部と、前記スルーフォーカス撮影部にて前記ロンチグラムを複数取得する動作開始の入力を受け付ける補正開始入力部と、前記取得されたロンチグラムに基づき、ラインフォーカスの検出が成功したかを表示するステータス表示部と、前記ラインフォーカスの検出が成功した場合、前記検出されたラインフォーカスに基づいて前記収差を補正する収差補正部と、と有し、前記収差補正部は、前記ラインフォーカスの検出が行われなかった場合、前記入力部に対して再度の設定値の入力を求める指示を送信する、又は前記スルーフォーカス撮影部に対して前記焦点位置を変化させた範囲よりも大きな範囲にて焦点位置を変化させたロンチグラムを複数取得する指示を送信することを特徴とする。
【0009】
また、本願の収差補正方法は、荷電粒子線源と、前記荷電粒子線源から放出された荷電粒子を試料に対して照射する荷電粒子光学系と、前記荷電粒子光学系の収差を補正する収差補正器と、前記荷電粒子光学系及び前記収差補正器を制御する制御部と、を備えた荷電粒子線装置において、前記荷電粒子光学系の焦点位置を変化させたロンチグラムを複数取得する第1のステップと、前記取得されたロンチグラムを複数の局所領域に分割する第2のステップと、前記局所領域にて検出されたラインフォーカスに基づいて収差量を算出する第3のステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来方法では測定が困難な収差においても収差を補正することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態例を示す構成図である。
図2】ロンチグラムと軸外デフォーカスの関係を示す図である。
図3】ロンチグラムの局所自己相関関数と軸外非点の関係を示す図である。
図4】軸外非点の方向を示す図である。
図5】C1,A1,B2の自動補正の手順を示すフローチャートである。
図6A】局所自己相関関数のフィッティング楕円の面積の総和を計算した例を示す図である。
図6B】局所自己相関関数のフィッティング楕円の面積の総和を計算した例を示す図である。
図7A】アンダーフォーカス側のラインフォーカス検出の一例を示す図である。
図7B】オーバ−フォーカス側のラインフォーカス検出の一例を示す図である。
図8】フォーカス刻み幅の違いによるラインフォーカスの検出精度を比較した図である。
図9】局所領域の中心座標の取り方の一例を示す図である。
図10】本発明による自動収差補正を実行するGUIの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、スルーフォーカスさせて取得した複数枚のロンチグラムを用いる。各々のロンチグラムを複数の局所領域に分割し、局所領域毎にラインフォーカスを検出することで軸外デフォーカスC1(τ)と軸外非点A1(τ)を算出する。そして、C1(τ)とA1(τ)から最小二乗法により収差係数を求め、その結果に基づいて収差を補正する。以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態の一例を示す構成図である。図1では荷電粒子線装置として走査型透過電子顕微鏡(STEM)を例にとって説明する。電子線源1から放出された電子線2は、照射レンズ3,4の作用を受けて調整レンズ5の物面に焦点を結び、調整レンズ5の作用により収差補正器6に平行入射する。収差補正器6では電子線2の各収差が補正され、転写レンズ7の作用により対物レンズ9の上方に焦点を結ぶ。収差が補正された電子線2は対物レンズ9により収束されて、試料10上に微小なプローブを形成する。該プローブで試料10上をスキャンコイル8により走査し、試料10から出てくる散乱波を暗視野像検出器12で受け、該散乱波の強度を暗視野像観察部14によりプローブ走査と同期させて入出力部15に輝点列として表示することで試料10の暗視野像を得る。
【0014】
ロンチグラムを観察する際には、スキャンコイル8による電子線の走査を止め、試料10から出てくる透過・散乱波をカメラ13で受け、該透過・散乱波の強度の2次元的な分布をロンチグラム観察部16により入出力部15に輝点列として表示する。投影レンズ11は、暗視野像検出器12とカメラ13に入射する電子線の拡がりを調整する。
【0015】
自動収差補正装置17は、スルーフォーカス撮影部18、入力画像正当性判別部19、補正必要性判断部20、軸外収差量算出部21、軸上収差量算出部22、補正制御量算出部23、変換係数テーブル24、最適フォーカス範囲算出部25で構成される。スルーフォーカス撮影部18は、制御部26を介して対物レンズ9の励磁を変えることでフォーカスを変化させながら、ロンチグラム観察部16に指示を出して自動収差補正装置17への入力としてロンチグラムを取り込む。
【0016】
入力画像正当性判別部19は、フォーカスの異なるロンチグラムを使い撮影されたロンチグラムの正当性、具体的には試料の存在する領域で撮影されたものかどうかを判別する。補正必要性判断部20は、不必要な補正を避けるために、ロンチグラムの歪み具合から本発明による補正が必要かどうかを判断する。
【0017】
軸外収差量算出部21は、スルーフォーカスさせて取得した複数枚のロンチグラムをそれぞれ複数の局所領域に分割し、局所領域毎にラインフォーカスを検出することで軸外デフォーカスC1(τ)と軸外非点A1(τ)を算出する。軸上収差量算出部22は、C1(τ)とA1(τ)から最小二乗法により収差係数を求める。
【0018】
補正制御量算出部23は、軸上収差量算出部22により求められた収差係数から変換係数テーブル24を参照することで収差を補正するための各レンズの制御量を算出し、制御部26に制御量を出力する。最適フォーカス範囲算出部25は、軸上収差量算出部22により求められた収差係数から、最適なスルーフォーカス範囲とフォーカス刻み幅を算出する。ここでフォーカス刻み幅は、スルーフォーカス範囲において常に一定である必要はない。ラインフォーカス条件に合わせてフォーカス刻み幅の間隔が変化してもよい。
【0019】
ここで、図2を用いてロンチグラムと軸外デフォーカスの関係について説明する。軸上近傍を通る電子線束1と、対物レンズの外側を通る電子線束2を考えた場合、球面収差Csの影響でレンズの外側を通る電子線ほど強く曲げられるため、電子線束2は電子線束1よりも手前に収束する。電子線束1、すなわち軸上光線が焦点を結ぶ高さが軸上デフォーカスC1で、電子線束2、すなわち軸外光線が焦点を結ぶ高さが軸外デフォーカスC1(τ)である。
【0020】
ここでτは、軸外光線の中心(図2中破線)が投影面と交差する点(局所領域の中心点)の2次元座標を(u,v)とすると、τ=u+iv(iは虚数単位)である。試料面と投影面(カメラの検出面)の距離をLとすると(Lは投影レンズ11の励磁で変えられる)、電子線束1が局所領域1に作る試料の投影像の倍率はM1=(C1+L)/C1,電子線束2が局所領域2に作る試料の投影像の倍率はM2=(C1(τ)+L)/C1(τ)となる。通常はL>>C1,L>>C1(τ)の関係が成り立つため、M1≒L/C1,M2≒L/C1(τ)となる。すなわち、各局所領域で観察される試料の投影像(ロンチグラム)は、局所的なデフォーカス(軸上であれば軸上デフォーカス、軸外であれば軸外デフォーカス)に反比例した倍率を持つ。
【0021】
次に、図3を用いてロンチグラムの局所領域の自己相関関数(以下、局所自己相関関数)と軸外非点の関係について説明する。図3(a)に、スルーフォーカスさせた(フォーカスを一定の領域にわたって複数の状態に変化させた)ときの局所自己相関関数の等強度線を示す。ここでluとlvは、局所領域の中心点を原点とする局所座標である。局所自己相関関数の等強度線が成す楕円の大きさは、その局所領域の投影倍率に比例する。
【0022】
先に述べたように、局所領域の投影倍率はデフォーカスに反比例するため、平面lu=0と平面lv=0における等強度線の包絡線はフォーカスの−1乗に比例する形で変化する。ここで等強度線座標の逆数を取ると、図3(b)に示したように等強度線の包絡線は直線となる。平面lu=0と平面lv=0とでは包絡線がフォーカスを結ぶ位置が異なり、一方の平面でフォーカスを結んだときの等強度線が成す楕円は線状になる(以下、ラインフォーカスと呼ぶ)。
【0023】
ラインフォーカスは、正焦点を挟んでアンダーフォーカス側とオーバーフォーカス側の2箇所で現れ、片方の軸でフォーカスを結んでいる状態をいう。それら2箇所のフォーカスの間隔(非点隔差)が軸外非点の大きさ|A1(τ)|を表す。すなわち、ラインフォーカスとなるときのフォーカス量をf1(アンダーフォーカス側)、f2(オーバーフォーカス側)とすると、|A1(τ)|は数(1)となる。
【0024】
【数1】
【0025】
軸外非点の方向∠A1(τ)は、局所自己相関関数の等強度線が成す楕円の方向に反映される。図4に示すように、オーバーフォーカス側における楕円の長軸がlv軸と成す角度をθとすると、数(2)となる。
【0026】
【数2】
【0027】
また、スルーフォーカスさせる前(初期状態)の各局所領域の正焦点からのずれ、すなわち軸外デフォーカスC1(τ)は数(3)で与えられる。
【0028】
【数3】
【0029】
本発明では、スルーフォーカスさせたロンチグラムについて、局所自己相関関数の等強度線を楕円でフィッティングし、楕円が最も伸びるラインフォーカスにおけるフォーカス量f1及びf2と、f2における楕円の長軸の傾きθを検出することで、軸外デフォーカスと軸外非点を算出する。これら軸外デフォーカスと軸外非点は、軸上収差係数を使って数(4)及び数(5)で表される。
【0030】
【数4】
【0031】
【数5】
【0032】
ここでは、軸上収差係数として5次以下の収差までを考慮した(B4:2回対称4次コマ収差、D4:3回対称4次三つ葉収差、A4:5回対称4次非点収差、C5:5次球面収差、A5:6回対称5次非点収差、S5:2回対称5次スター収差、R5:4回対称5次ロゼッタ収差)。各局所領域について軸外デフォーカスと軸外非点に関する連立方程式を立てることで、最小二乗法により軸上収差係数を求めることが出来る。
【0033】
以下、図5のフローチャートを用いて自動収差補正装置17の動作シーケンスを説明する。ここでは、C1,A1,B2を自動補正の対象とする。まず、スルーフォーカス範囲Tとフォーカス刻み幅Δfを設定する(F1)。Tはアンダーフォーカス側とオーバーフォーカス側のラインフォーカスを挟むように設定する。このように設定すれば、スルーフォーカスの撮影枚数はT/Δf+1(枚)となる。
【0034】
次に、初期状態のロンチグラム1を取得する(F2)。続けて、フォーカスを−nΔf(n≡T/(2Δf))だけ変えたロンチグラム2を取得する(F3)。そしてロンチグラム1とロンチグラム2の相関値を計算する(F4)。もし、ロンチグラム1と2が試料の存在しない領域で取得されたものであれば、画像のコントラストはほとんど変化しないために相関値が大きくなる。
【0035】
従って、相関値をある閾値Rと比較して(F5)相関値がRよりも大きい場合には補正を終了する。相関値がRよりも小さい場合には、ロンチグラム1の局所自己相関関数を計算して(F6)それらのフィッティング楕円の面積の総和を計算する(F7)。
【0036】
図6にロンチグラムと局所自己相関関数、及び局所自己相関関数のフィッティング楕円の面積の総和を計算した例を示す。図6Aの上図は取得したロンチグラムを局所領域に分割した図である。下図には分割した局所領域のそれぞれでフィッティング楕円の面積の総和を計算している。図6Bの上図と下図との関係も同様である。なお、ロンチグラムの局所領域の設定は、補正したい収差の次数と関連している。すなわち、低次の収差ほどロンチグラムの中央部分に表れ、高次の収差ほどロンチグラムの中央部分からはより離れた周辺部分に表れる。よって局所領域の設定の仕方によって、補正できる収差の種類(次数)を調整することができる。
【0037】
図6AはA1とB2が大きい場合で、図6BはA1とB2が小さい場合である。図6Aのフィッティング楕円面積の総和は、図6Bのフィッティング楕円面積の総和に対して約1/10である。
【0038】
そして、面積の総和に任意の閾値Sを設定し、面積の総和がSよりも大きい場合には補正を終了する。例えば、閾値を図6Aの下図の面積の総和と図6Bの下図の面積の総和の間の値を閾値Sとして設定した場合、図6Aの下図の場合には面積が閾値Sよりも小さいので本発明により補正が必要と判断されるが、図6Bの下図の場合には面積が閾値Sよりも大きいので補正は不要と判断される。
【0039】
従って、面積の総和がSよりも小さい場合には、フォーカスがnΔfに達するまでフォーカスをΔfずつ変えてロンチグラムを取得し、それらの局所自己相関関数を計算した後にフォーカスを初期状態に戻す(F9〜F12)。F2〜F12で得られたスルーフォーカスさせたロンチグラムの局所自己相関関数から、局所領域毎にフィッティング楕円が最も伸びるラインフォーカスをアンダーフォーカス側とオーバーフォーカス側でそれぞれ検出する(F13)。
【0040】
ラインフォーカスの検出方法としては、例えばフィッティング楕円の真円度を用いる方法が考えられる。フィッティング楕円の長軸方向の半径(長径)をa、短軸方向の半径(短径)をbとすると、真円度Rは数(6)で与えられる。
【0041】
【数6】
【0042】
Rは真円のときに最大値1となり、真円から外れるほど小さくなる。従って、横軸にフォーカス量、縦軸にRをとったグラフを描いたときに、アンダーフォーカス側とオーバーフォーカス側で見られるグラフの極小点がラインフォーカスとなる。
【0043】
図7Aおよび図7Bにラインフォーカスの検出例を示す。図7中の丸で囲んだものがラインフォーカスで、図7Aのアンダーフォーカス側では左から2番目と3番目の条件で、図7Bのオーバーフォーカス側でも左から2番目と3番目の条件で検出されている。ただしラインフォーカスの検出は、局所領域毎にフォーカスの異なるフィッティング楕円の相対的な伸びを比較して行っているので、検出されたラインフォーカスの条件が真の値であるとは限らない。
【0044】
例えば図8(A)に示したように、スルーフォーカスさせたときのフォーカス刻み幅Δfが十分小さければ、フィッティング楕円が最も伸びた真のラインフォーカスf1及びf2を検出することができるが、図8(B)に示したようにフォーカス刻み幅Δfが大きい場合に検出されるラインフォーカスf1’及びf2’は、真の値からずれたものになる。従って、数(1)及び数(3)から求める|A1(τ)|とC1(τ)は、Δfによってその精度が決まる近似値となる。
【0045】
以上、F6〜F13で局所自己相関関数を用いる方法を示したが、代わりに局所領域のフーリエ変換の絶対値を用いても良い。今求めたいのはC1,A1,B2なので、τが小さいとして数(4)と数(5)を近似した数(7)及び数(8)を用いる。
【0046】
【数7】
【0047】
【数8】
【0048】
未知数はC1,A1の実部ReA1と虚部ImA1,B2の実部ReB2と虚部ImB2,A2の実部ReA2と虚部ImA2の7つであるのに対し、各局所領域について数(7)及び数(8)の実部と虚部に関する3つの方程式が立てられるので、最低でも3つの局所領域でラインフォーカスが検出される必要がある(F14)。もし検出されなかったらA1を導入することでラインフォーカスを強調し、スルーフォーカス範囲Tを相対的に大きくしてから(F15)ラインフォーカスの検出をやり直す。
【0049】
3つ以上の局所領域でラインフォーカスが検出された場合、数(1)〜(3)を用いて各局所領域におけるC1(τ)とA1(τ)(|A1(τ)|と∠A1(τ))を求める(F16)。ここで局所領域の中心座標τを図9のように取ったとすると、解くべき連立方程式は数(9)のようになる。
【0050】
【数9】
【0051】
ここで、ReA1(τ)とImA1(τ)は、|A1(τ)|と∠A1(τ)=θから数(10)及び数(11)で求められる。
【0052】
【数10】
【0053】
【数11】
【0054】
数(9)を最小二乗法で解き(F17)、A1とB2の大きさを目標値と比較する(F18)。目標値よりも小さければ補正終了となるが、目標値よりも大きければC1,A1,B2を補正する(F19)。
【0055】
以上、F2〜F19をA1とB2が目標値よりも小さくなるまで繰り返すが、その都度スルーフォーカス範囲Tとフォーカス刻み幅Δfを小さくすることで(F20)、ラインフォーカスの検出精度、引いては収差係数の測定精度が上がっていく。スルーフォーカス範囲Tの決め方としては、例えば最小二乗法で求めたA1,B2,A2を用いて数(8)から各局所領域についてA1(τ)を計算し、それらの最大値の2倍に設定する方法が考えられる。
【0056】
これは、(F19)でA1とB2を補正する前の非点隔差の最大値であって、補正後の非点隔差はこの値よりも小さくなることが期待できる。フォーカス刻み幅Δfに関しては測定時間と測定精度の兼ね合いで決める必要があるが、例えばTの10分の1とする方法が考えられる。
【0057】
また、上記では求める未知数に関連する方程式が3つ立つことから、3つ以上の局所領域にてラインフォーカスが検出される必要があることを述べた。従って、求める収差の種類により必要な方程式の数は変わることから、必ずしも3つ以上の局所領域にてラインフォーカスが検出される必要はない。
【0058】
ここで図1図5の対応を示すと、スルーフォーカス撮影部18はF2,F3,F9,F11,F12を、入力画像正当性判別部19はF4,F5を、補正必要性判断部20はF6〜F8を、軸外収差量算出部21はF10、F13〜F16を、軸上収差量算出部22はF17,F18を、補正制御量算出部23と変換係数テーブル24、及び制御部26はF19を、最適フォーカス範囲算出部25はF20を、それぞれ担当する。F1は、入出力部15を介してユーザーが行うが、あらかじめ設定された規定値を用いることで省略してもよい。
【0059】
図10に自動収差補正GUIの一例を示す。以下、本GUIを用いて自動補正を行う手法について説明する。先ず、スルーフォーカス範囲Tをスルーフォーカス範囲設定テキストボックス28で設定し、フォーカス刻み幅Δfをフォーカス刻み幅テキストボックス29で設定する。
【0060】
その後、補正開始ボタン31を押すことで、図5のF2からF20までが自動的に実行される。撮影されたロンチグラムは図10のロンチグラム表示部27に表示され、そのときのフォーカス値はフォーカス表示ラベル30に表示される。ラインフォーカスの検出に成功したかどうかといったステータスはステータスバー32に表示される。
【0061】
尚、図5のフローチャートではC1,A1,B2を補正の対象として、軸外デフォーカスと軸外非点に関して数(7)と数(8)を用いたが、5次の収差まで考慮した数(4)と数(5)、あるいはさらに高次の収差までを考慮した式を用い、τの大きい局所領域についても軸外デフォーカスと軸外非点を求めることで、本発明はより高次の収差の測定も可能である。また本発明は、従来方法では測定が困難なほど大きなA1とB2を補正するときに有効な手段であるが、逆にA1とB2が非常に小さくて最終的な微調整を行う段階においても、フォーカス刻み幅Δfを小さくすることで対応可能である。すなわち、まず大きな収差量(A1とB2)を補正するために本発明を用い、ある程度収差が小さくなった後にその他の収差補正の装置や方法を用いて最終的な微調整をするなど、目的に応じて複数の装置や方法を組み合わせて使用することができる。また上述したとおり、単独で最終的な微調整まで行ってもよい。
【0062】
以上、走査型透過電子顕微鏡を例に本発明の一実施の形態を説明したが、本発明はロンチグラム観察手段を備えた他の荷電粒子線装置、例えば透過型電子顕微鏡へ適用することもできる。
【0063】
このように、本発明によれば、スルーフォーカスさせて取得した複数枚のロンチグラムから収差の特徴量を抽出することで、従来方法では測定が困難なほど大きなA1とB2が残留した状態からであっても自動収差補正が可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1…電子線源
2…電子線
3,4…照射レンズ
5…調整レンズ
6…収差補正器
7…転写レンズ
8…スキャンコイル
9…対物レンズ
10…試料
11…投影レンズ
12…暗視野像検出器
13…カメラ
14…暗視野像観察部
15…入出力部
16…ロンチグラム観察部
17…自動収差補正装置
18…スルーフォーカス撮影部
19…入力画像正当性判別部
20…補正必要性判断部
21…軸外収差量算出部
22…軸上収差量算出部
23…補正制御量算出部
24…変換係数テーブル
25…最適フォーカス範囲算出部
26…制御部
27…ロンチグラム表示部
28…スルーフォーカス範囲設定テキストボックス
29…フォーカス刻み幅テキストボックス
30…フォーカス表示ラベル
31…補正開始ボタン
32…ステータスバー
図1
図4
図5
図8
図9
図2
図3
図6A
図6B
図7A
図7B
図10