(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の機能性フィルムについて、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0015】
図1(A)に、本発明の機能性フィルムを利用するガスバリアフィルムの一例を概念的に示す。
図1(A)に示すガスバリアフィルム10は、プラスチックフィルムからなる基板12の上に、窒化珪素からなる無機層(無機膜)14を成膜してなるものである。
【0016】
ここで、ガスバリアフィルム10の無機層14は、200〜4000MPaの残留圧縮応力を有し、さらに、フーリエ変換赤外吸収スペクトル(以下、FT−IRとする)における800〜900cm
-1に位置するSi−N結合のピーク、2100〜2200cm
-1に位置するSi−H結合のピーク、および、3300〜3400cm
-1に位置するN−H結合のピークの強度比が、0.02<SiH/SiN<0.14と0.005<NH/SiN<0.09とを満たす。
この点に関しては、後に詳述する。
【0017】
なお、本発明の機能性フィルムは、ガスバリアフィルムに限定はされない。
すなわち、本発明は、各種の保護フィルム、光学フィルタや光反射防止フィルムなどの各種の光学フィルム等、公知の機能性フィルムに、各種、利用可能である。しかしながら、後述するが、本発明によれば、基板12の表面のゴミ等の異物や、基板12の表面粗さなどの凹凸に起因する無機層14の割れ(クラック)等の損傷を、好適に抑制することができる。そのため、本発明の機能性フィルムは、無機層14の損傷に起因する性能劣化が大きい、ガスバリアフィルムには、好適に利用される。
【0018】
本発明のガスバリアフィルムにおいて、基板12は、可撓性を有するシート状で、かつ、少なくとも1面が有機化合物からなるものである。基板12は、この条件を満たすものであれば、公知のシート状物が、各種、利用可能である。
好ましくは、後述するロール・ツー・ロールでの無機層14(および有機層28)の成膜が可能なように、長尺で、かつ、可撓性を有するシート状の基板12(基板24(支持体26)が利用される。すなわち、本発明においては、いわゆるウエブ状の基板12が、好適に利用される。
【0019】
基板12としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの、各種のプラスチック(高分子材料/樹脂材料)からなるプラスチックフィルムが、好適に例示される。
【0020】
また、本発明においては、このようなプラスチックフィルムの表面に、保護層、接着層、光反射層、反射防止層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための有機化合物からなる層(膜)が成膜されているものを、支持体26(基板)として用いてもよい。
さらに、本発明においては、このようなプラスチックフィルムを支持体(支持体26)として、支持体の上に、無機層14の下地層となる有機層(有機層28)を成膜してなる基板(基板24)も、好適に利用可能である。この支持体の上に有機層を成膜してなる基板については、後に詳述する。
【0021】
本発明のガスバリアフィルム10において、基板12の表面粗さには限定は無い。
ここで、後述するが、無機層14の割れを防止できる点では、基板自身が有する表面の凹凸や、基板表面に付着した異物に起因する凹凸も含んで、基板12の表面は、平滑な方がガスバリア性の点では有利である。その反面、ゴミ等の異物の付着物が無く、また、表面平滑性が高い基板12ほど、高価である。
これに対し、本発明のガスバリアフィルム10は、表面粗さが高い基板12を用いても、基板表面の凹凸に起因する無機層14の割れの発生を防止できる。そのため、本発明によれば、特に高度な平滑化処理や洗浄等を施していない、一般的な安価な基板12を用いても、高性能なガスバリアフィルム10が得られる。
【0022】
ガスバリアフィルム10において、基板12の上には、無機層14が成膜される。
無機層14は、窒化珪素からなる膜(窒化珪素を主成分とする膜)であり、ガスバリアフィルム10において、ガスバリア性を主に発現するものである。すなわち、無機層14は、本発明の機能性フィルムにおいて、目的とする機能を主に発現するものである。
【0023】
ここで、本発明のガスバリアフィルム10(機能性フィルム)において、無機層14は、200〜4000MPaの残留圧縮応力を有する。
【0024】
また、本発明のガスバリアフィルム10において、無機層14は、FT−IR(フーリエ変換赤外吸収スペクトル)における800〜900cm
-1に位置するSi−N結合のピーク(Si−Nの伸縮振動による吸収のピーク(ピーク強度))、2100〜2200cm
-1に位置するSi−H結合のピーク(Si−Hの伸縮振動による吸収のピーク)、および3300〜3400cm
-1に位置するN−H結合のピーク(N−Hの伸縮振動による吸収のピーク)が、所定の強度比を有する。
具体的には、Si−N結合のピークとSi−H結合のピークとの強度比であるSiH/SiNが、0.02<SiH/SiN<0.14であり、Si−N結合のピークとN−H結合のピークとの強度比であるNH/SiNが、0.005<NH/SiN<0.09である。
【0025】
本発明のガスバリアフィルム10は、このような構成を有することにより、基板12の表面に付着したゴミ等の異物や、基板12の表面粗さ等の基板表面の凹凸に起因する無機層14の割れ等の損傷を防止し、かつ、フィルムとして十分な可撓性(柔軟性)を確保した、高性能なガスバリアフィルムを実現している。
【0026】
前述のように、プラスチックフィルムの表面に酸化珪素等からなる無機層を成膜してなるガスバリアフィルムでは、無機層の内部応力を高くすることにより、曲げられた際や引っ張られた際における無機層の割れ等を防止して、ガスバリア性の低下を防げることが知られている。
しかしながら、酸化珪素等の無機酸化物では、緻密な膜を成膜することが難しく、例えば、水蒸気透過率が1×10
-3[g/(m
2・day)]未満となるような、高性能なガスバリアフィルムを得ることは、困難である。
【0027】
これに対し、窒化珪素であれば、非常に緻密な膜を成膜することができ、高性能なガスバリアフィルムを形成することが可能になる。
しかしながら、窒化珪素からなる無機層14であっても、無機層に14に割れやヒビ等が有れば、高いガスバリア性を得ることができない。特に、水蒸気透過率が1×10
-3[g/(m
2・day)]未満となるような高性能なガスバリアフィルムでは、極微細な割れやヒビ等でも、此処から侵入する水分は大きな問題となり、すなわち、目的とする性能を得るためには、大きな障害となる。
【0028】
しかしながら、窒化珪素からなる無機層14には、微細な割れ等が形成されてしまう場合が、往々にして有る。
本発明者は、この微細な割れの原因について、鋭意検討を重ねた。その結果、基板12の表面に付着したゴミなどの異物に起因する凹凸や、基板12自身の表面の凹凸(基板12の表面粗さ)など、無機層14の成膜面(形成面)が有する凹凸が原因であることを見出した。
すなわち、無機層14の成膜面に凹凸が有ると、凸部において、無機層14を外側に押し広げようとする力が働く。その結果、この凸部を起点に無機層14が割れてしまい、無機層14に微細な割れが生じてしまう。
【0029】
本発明者は、さらに検討を重ねた結果、窒化珪素からなる無機層14を有するガスバリアフィルム10(機能性フィルム)では、無機層14の残留圧縮応力(以下、単に圧縮応力とする)を200〜4000MPaとすることにより、基板12の表面の凹凸に起因する無機層14の微細な割れやヒビの発生を防止でき、また、微細な割れやヒビが生じても、これらが広がるのを防止できることを見出した。
【0030】
この無機層14の圧縮応力は、当然、無機層14の含有成分(不可避的に混入する水素(水素化合物)など)によっても影響されるが、中でも、水素量の影響は大きい。
また、ガスバリアフィルム10は、フィルムである以上、良好な可撓性を有するのが好ましい。しかしながら。無機層14の柔軟性が低いと、ガスバリアフィルムを曲げた際に、無機層14が割れてしまい、ガスバリア性が低下してしまう。
ここで、窒化珪素からなる無機層14は、膜中の水素量が多くなると、緻密な膜が成膜できず、十分なガスバリア性を得ることができない。しかしながら、ある程度の水素を含有することにより、無機層14の柔軟性を確保することができる。
【0031】
以上の点につき、本発明者は、さらに検討を重ねた結果、窒化珪素からなる無機層14の、FT−IRにおけるSi−N結合のピークとSi−H結合のピークとの強度比であるSiH/SiNを0.02<SiH/SiN<0.14とし、かつ、Si−N結合のピークとN−H結合のピークとの強度比であるNH/SiNを0.005<NH/SiN<0.09とすることにより、緻密でガスバリア性に優れた無機層14が得られ、かつ、無機層14の圧縮応力を好適に上記範囲にできると共に、良好な無機層14の柔軟性すなわちガスバリアフィルム10の可撓性も確保できることを見出した。
【0032】
すなわち、このような構成を有する本発明によれば、水蒸気透過率が1×10
-3[g/(m
2・day)]未満となるような、高いガスバリア性を有し、かつ、十分な可撓性も確保した、高性能なガスバリアフィルム10を得ることができる。
【0033】
前述のように、本発明のガスバリアフィルム10において、無機層14の圧縮応力は200〜4000MPaである。
無機層14の圧縮応力が200MPa未満では、前述の基板表面の凹凸に起因する無機層14の割れ防止の効果を十分に得ることができない、無機層14の十分な可撓性が確保できない等の不都合が生じる。
無機層14の圧縮応力が4000MPaを超えると、圧縮応力が高すぎて無機層14の割れや剥離を生じてしまう、ガスバリアフィルム10のカールが大きくなる等の不都合が生じる。
【0034】
以上の点を考慮すると、無機層14の圧縮応力は500〜3000MPaが好ましい。
【0035】
また、FT−IRにおける800〜900cm
-1に位置するSi−N結合のピークと、2100〜2200cm
-1に位置するSi−H結合のピークとの強度比であるSiH/SiNが0.02未満、および/または、800〜900cm
-1に位置するSi−N結合のピークと3300〜3400cm
-1に位置するN−H結合のピークとの強度比であるNH/SiNが0.005未満では、無機層14中の水素量が不十分であり、無機層14の柔軟性が確保できずにガスバリアフィルムの曲げ等によって無機層14が割れてしまう等の不都合が生じる。
【0036】
逆に、FT−IRにおけるSi−N結合のピークとSi−H結合のピークとの強度比であるSiH/SiNが0.14を超えると、および/または、Si−N結合のピークとN−H結合のピークとの強度比であるNH/SiNが0.09を超えると、無機層14中の水素量が多すぎて膜の緻密さが低くなり、十分なガスバリア性が得られない等の不都合が生じる。
【0037】
以上の点を考慮すると、SiH/SiNは、0.03<SiH/SiN<0.11であるのが好ましい。
また、NH/SiNは、0.01<NH/SiN<0.05が好ましい。
【0038】
本発明において、無機層14の厚さは、15〜200nmであるのが好ましい。
無機層14の厚さを15nm以下では、安定して目的とするガスバリア性を得ることが困難になる場合がある。また、窒化珪素は、硬く、かつ、脆い。そのため、無機層14の厚さが200nmを超えると、自然に割れやヒビ、剥がれ等を生じ易く、やはり、安定して目的とするガスバリア性(目的性能)を得ることが困難になる場合が有る。
また、このような点を考慮すると、無機層14の厚さは、15〜100nmにするのがより好ましく、特に、20〜75nmとするのが好ましい。
【0039】
図1(A)に示すガスバリアフィルム10は、PET等のプラスチックフィルムを基板12として用いている。
しかしながら、本発明は、これに限定はされず、可撓性を有し、かつ、一面が有機化合物からなる基板であれば、各種の基板が利用可能である。
【0040】
例えば、
図1(B)に示すガスバリアフィルム20のように、支持体26の表面に、有機層28を有するシート状物を、基板24として用いるのも好ましい。
【0041】
支持体26としては、前述の基板12と同様のプラスチックフィルムが好適に例示される。また、必要な可撓性を有するものであれば、金属製のフィルム等も利用可能である。
【0042】
有機層28は、有機化合物からなる層(有機化合物を主成分とする層(膜))で、基本的に、モノマーおよび/またはオリゴマーを、架橋(重合)したものである。
支持体26の表面に成膜された有機層28、すなわち、無機層14の下層となる有機層28は、無機層14を適正に成膜するための、下地層として機能する。
このような有機層28を有することにより、支持体26の表面の凹凸や、支持体26の表面に付着している異物等を包埋して、有機層28の表面を平坦化できる。この有機層表面の平坦化によって、支持体26の表面の凹凸や異物の影のような、無機層14となる無機化合物が着膜し難い領域を無くし、有機層28の表面全面に、適正に無機層14を成膜することが可能になる。
【0043】
また、窒化珪素からなる無機層14は、硬く、かつ、脆いので、外部から受ける衝撃等により損傷し易い。
そのため、
図1(B)に示すガスバリアフィルム20は、好ましい態様として、無機層14を保護する保護層として、最上層にも有機層28を有する。ガスバリアフィルム20は、このような最上層の有機層28を有することにより、無機層14の損傷を防止して、安定して目的とするガスバリア性を発現できる。
【0044】
さらに、本発明のガスバリアフィルムは、
図1(C)に示すガスバリアフィルム30のように、無機層14と、無機層14の下地となる有機層28との組み合わせを、複数、有してもよい(
図1(C)に示すガスバリアフィルム30では、有機層/無機層の組み合わせは2つ)。
言い換えれば、本発明においては、支持体26の上に、下地の有機層28と無機層14との組み合わせを、複数、有し、その上に有機層が成膜された物を、基板として、その上に無機層14を成膜し、さらに、好ましくは、その上に保護層としての有機層28を成膜してなる構成でもよい。
下地の有機層28と無機層14との組み合わせを、複数、有することにより、より高いガスバリア性を有するガスバリアフィルムを得ることができる。
【0045】
なお、本発明のガスバリアフィルムが複数の無機層14を有する場合には、少なくとも1つの無機層14が、前記圧縮応力およびFT−IRのピーク比の条件を満たせばよい。しかしながら、本発明においては、好ましくは、全ての無機層14が、前記圧縮応力およびFT−IRのピーク比の条件を満たす。
また、本発明のガスバリアフィルムが複数の無機層14を有する場合には、各無機層14の厚さは、同じでも異なってもよい。
【0046】
本発明のガスバリアフィルムが複数の有機層28を有する場合には、各有機層28の成膜材料は、同じでも異なってもよいが、生産性等を考慮すれば、全ての有機層28が同じ材料で成膜されるのが好ましい。
さらに、本発明のガスバリアフィルムが複数の有機層28を有する場合には、各有機層28の厚さは、同じでも異なってもよい。
【0047】
有機層28の厚さは、0.5〜5μmとするのが好ましい。
有機層28の厚さを0.5μm以上とすることにより、支持体26(無機層14の成膜面)の表面の凹凸や、支持体26の表面に付着した異物を好適に包埋して、有機層28の表面を平坦化できる。また、最上層の有機層28であれば、無機層14の保護層としての機能を、十分に得ることができる。
また、有機層28の厚さを5μm以下とすることにより、有機層28が厚すぎることに起因する、有機層28のクラックや、ガスバリアフィルム10のカール等の問題の発生を、好適に抑制することができる。
以上の点を考慮すると、有機層28の厚さは、1〜3μmとするのが、より好ましい。
【0048】
前述のように、有機層28は、有機化合物からなる層で、基本的に、モノマーおよび/またはオリゴマーを、架橋(重合)したものである。
有機層28の形成材料には、限定はなく、公知の有機化合物(樹脂/高分子化合物)が、各種、利用可能である。
具体的には、ポリエステル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物、などの熱可塑性樹脂、あるいはポリシロキサン、その他の有機珪素化合物が好適に例示される。
【0049】
中でも、Tgや強度に優れる等の点で、ラジカル重合性化合物および/またはエーテル基を官能基に有するカチオン重合性化合物の重合物から構成された有機層28は、好適である。
中でも特に、上記Tgや強度に加え、屈折率が低い、光学特性に優れる等の点で、アクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーの重合体を主成分とするアクリル樹脂やメタクリル樹脂は、有機層28として好適に例示される。
その中でも特に、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(DPGDA)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)などの、2官能以上、特に3官能以上のアクリレートおよび/またはメタクリレートのモノマーやオリゴマーの重合体を主成分とするアクリル樹脂やメタクリル樹脂は、好適に例示される。
【0050】
このような有機層28は、公知の方法で成膜(形成)すればよい。
例えば、有機溶剤、有機層28となる有機化合物、界面活性剤などを含む塗料を調製して、この塗料を塗布、乾燥した後、架橋する、いわゆる塗布法によって成膜すればよい。
【0051】
本発明のガスバリアフィルム10において、無機層14は、好ましくは、原料ガス(成膜ガス/プロセスガス)として、シランガス、アンモニアガスおよび水素ガス(あるいはさらに窒素ガス)を用いる、プラズマCVDによって成膜(形成)する。
このプラズマCVDによる無機層14の成膜の際に、基板12に掛けるバイアス電界、水素ガスの導入量(水素希釈量)、シランガスとアンモニアガスとの供給量(供給量比)、および、基板温度(成膜温度)の少なくとも1つを調節することにより、成膜する無機層14の圧縮応力を制御できる。
また、水素ガスの供給量、および/または、シランガスとアンモニアガスとの供給量を調節することにより、FT−IRにおけるSi−N結合のピークとSi−H結合のピークとの強度比であるSiH/SiN、および、Si−N結合のピークとN−H結合のピークとの強度比であるNH/SiNを制御できる。
【0052】
プラズマCVDによる窒化珪素からなる無機層14の成膜は、無機層14の圧縮応力およびFT−IRのピーク強度比が前記所定の範囲に入るように、上記各条件を制御して、公知の方法で行えばよい。
ここで、無機層14の成膜は、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll 以下、RtoRとも言う)を利用して行うのが好ましい。RtoRとは、長尺な基板(ウエブ状の基板)12を巻回してなるロールから、基板を送り出し、基板を長手方向に搬送しつつ無機層14を成膜し、無機層14を成膜した基板を、再度、ロール状に巻回する製造方法である。
このようなRtoRを利用することにより、高い生産効率でガスバリアフィルム10を製造することが可能になる。
【0053】
図2に、RtoRによって無機層14を成膜する成膜装置の一例を概念的に示す。
図2に示す成膜装置50は、基本的に、真空チャンバ60と、この真空チャンバ60内の、巻出し室62および成膜室64と、ドラム68とを有して構成される。
なお、
図2においては、成膜室64に配置されるシャワー電極80の一部を断面で示している。また、成膜装置50は、図示した部材以外にも、搬送ローラ対やガイド部材、各種のセンサなど、長尺な被成膜材料を搬送しつつ気相堆積法による成膜を行なう公知の装置に設けられる各種の部材を有してもよい。
【0054】
成膜装置50において、基板12(基板24)を巻回してなる基板ロールRは、巻出し室62に装填される。
基板12は、巻出し室62で基板ロールRから引き出され、ドラム68に巻き掛けられた状態で長手方向に搬送されつつ、成膜室64で無機層14を成膜され、その後、再度、巻出し室62に搬送されて、巻き取られる(ロール状に巻回される)。
【0055】
ドラム68は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材である。
ドラム68は、後述する巻出し室62のガイドローラ76aよって所定の経路で案内された基板12を、周面の所定領域に掛け回して、所定位置に保持しつつ長手方向に搬送して、成膜室64内に搬送して、再度、巻出し室62のガイドローラ76bに送る。
【0056】
ここで、ドラム68は、後述する成膜室64のシャワー電極80(成膜電極)の対向電極としても作用する。すなわち、図示例の成膜装置50においては、ドラム68とシャワー電極80とで、電極対を構成する。
また、ドラム68には、基板12にバイアス電界を掛ける(バイアス電位を印加する)ためのバイアス電源94が接続されている。バイアス電源94は、各種の成膜装置で利用されている、被成膜基板にバイアス電界を掛けるための、高周波電源やパルス電源等の公知の電源が、全て利用可能である。
【0057】
また、ドラム68は、無機層14を成膜の基板12(すなわち成膜温度)の温度調節手段を兼ねてもよい。そのため、ドラム68は、温度調節手段を内蔵するのが好ましい。
ドラム68の温度調節手段には、特に限定はなく、冷媒等を循環する温度調節手段、ペルチェ素子等を用いる冷却手段等、各種の温度調節手段が、全て利用可能である。
【0058】
前述のように、真空チャンバ60内には、巻出し室62と、成膜室64とを有する。図示例において、巻出し室62と成膜室64とは、巻出し室62を上にして、上下方向に配列される。
巻出し室62と成膜室64とは、ドラム68と、真空チャンバ60の側面側の内壁面60aからドラム68の周面近傍まで延在する隔壁70aおよび70bとによって、(略)気密に分離される。
【0059】
巻出し室62は、回転軸72と、巻取り軸74と、ガイドローラ76aおよび76bと、真空排気手段78とを有する。
【0060】
回転軸72は、基板ロールRを軸支して回転する、公知の物である。また、巻取り軸74は、成膜済みの基板12を巻き取る、公知の長尺物の巻取り軸である。
さらに、ガイドローラ76aおよび76bは、基板12を所定の搬送経路で案内する通常のガイドローラである。
【0061】
基板ロールRは、回転軸72に装着される。
基板ロールRが、回転軸72に装着されると、基板12は、ガイドローラ76a、ドラム68、および、ガイドローラ76bを経て、巻取り軸74に至る、所定の経路を通される(挿通される)。
成膜装置50においては、基板ロールRからの基板12の送り出しと、巻取り軸74における成膜済の基板12すなわちガスバリアフィルム10(20,30)の巻き取りとを同期して行なって、長尺な基板12を所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室64において基板12の表面に連続的に無機層14(窒化珪素)の成膜を行なう。
【0062】
真空排気手段78は、巻出し室62内を所定の真空度に減圧するためのものである。
成膜装置50においては、巻出し室62にも真空排気手段78を設け、巻出し室62内を所定の真空度に保つことにより、巻出し室62の圧力が成膜室64での無機層14の成膜に影響を与えることを防止している。
【0063】
本発明において、真空排気手段78には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ロータリーポンプ、ドライポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調節手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。
この点に関しては、後述する真空排気手段92も同様である。
【0064】
前述のように、成膜装置50において、巻出し室62の下(隔壁70aおよび70bの下)は、成膜室64になっている。
成膜室64は、シャワー電極80と、原料ガス供給部86と、高周波電源90と、真空排気手段92とを有する。この成膜室64は、一例として、CCP−CVD(Capacitively Coupled Plasma 容量結合プラズマCVD)によって、基板12(有機層28)の表面に無機層14を成膜するものである。
【0065】
シャワー電極80は、成膜電極であり、前述のドラム68(対向電極)と共にCCP−CVDにおける電極対を構成する。
図示例において、シャワー電極80は、一例として、アルミニウム製で、最大面をドラム68の周面に対面して配置される、略直方体状の形状を有する。また、シャワー電極80は、好ましい態様として、ドラム68との対向面が、ドラム68の周面と一定間隔離間した平行面となるように、曲面状となっている。
【0066】
シャワー電極80の内部には、中空部80aが成膜される。
この中空部80aからドラム68(基板12)との対向面まで連通して、原料ガスを供給するためのガス供給孔80bが、多数、形成される。シャワー電極80において、このガス供給孔80bは、ドラム68との対向面に全面的に形成される。
【0067】
本発明において、シャワー電極80は、プラズマCVDによる成膜等を行う装置に用いられる、公知のシャワー電極(シャワープレート)が利用可能である。
また、シャワー電極80のドラム68との対向面は、堆積した成膜物の剥離を防止するために、溶射膜の成膜やブラスト処理等によって粗面化されていてもよい。
【0068】
原料ガス供給部86は、原料ガスを供給する、プラズマCVD装置に利用される公知のガス供給手段である。
原料ガス供給部86は、原料ガスをシャワー電極80の中空部80aに供給する。従って、原料ガスは、中空部80aからガス供給孔80bに流入し、ガス供給孔80bから、シャワー電極80とドラム68(基板12)との間、すなわちCCP−CVDにおける電極対間に供給される。
【0069】
高周波電源90は、プラズマCVD装置に利用される公知の高周波電源である。
高周波電源90は、プラズマ励起電力(成膜電力)を、成膜電極であるシャワー電極80に供給する。
【0070】
成膜室64においては、原料ガス供給部86から原料ガスをシャワー電極80の中空部80aに供給し、中空部80aに連通するガス供給孔80bから原料ガスを排出することにより、シャワー電極80とドラム68(基板12)との間に原料ガスを供給し、さらに、高周波電源90からシャワー電極80にプラズマ励起電力を供給し、好ましくはバイアス電源94から基板12にバイアス電界を掛けることにより、CCP−CVDによって基板12の表面に無機層14(窒化珪素膜)を成膜する。
【0071】
ここで、前述のように、本発明のガスバリアフィルム10において、窒化珪素からなる無機層14は、シランガス、アンモニアガスおよび水素ガス(あるいはさらに窒素ガス)を原料ガスとして用いるプラズマCVDによって成膜するのが好ましい。
【0072】
半導体装置の製造においては、パッシベーション膜として窒化珪素を成膜する際に、原料ガスとして、シランガスおよびアンモニアガスと、希釈ガスとしての水素ガスとを用い、基板(すなわちシリコンウエハ等)を非常に高温にして、プラズマCVDによって成膜が行われている。この窒化珪素の成膜方法によれば、成膜中に窒化珪素膜に付着した水素を、原料ガスの水素によって引き抜き、窒化珪素膜中の水素ガス濃度を0%近くまで低減できることが知られている。
この半導体装置の製造においては、高温成膜と、水素の引き抜きとによって、非常に緻密で、かつ、硬い窒化珪素膜を成膜している。
【0073】
ここで、この窒化珪素の成膜における水素の引き抜きは、半導体装置の製造のような高温成膜で生じるものであり、PETへのプラズマCVDによる窒化珪素の成膜のような、100℃以下の低温成膜では、生じないと考えられていた。
しかも、PETフィルム等のプラスチックフィルムを基板として、プラズマCVDによって窒化珪素の成膜を行う場合には、基板(成膜面となる有機化合物)のエッチングによって生じる水素が、膜中に混入する。そのため、原料ガスに水素ガスを添加するのは、成膜する窒化珪素膜の密度等の点で不利になる。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、原料ガスにシランガスおよびアンモニアガスを用いるプラズマCVDによる窒化珪素の成膜では、原料ガスに希釈ガスとして水素ガスを用いることにより、高温時に比べれば効果は小さいものの、100℃以下の低温成膜でも、同様の水素の引き抜き効果が得られる。しかも、水素ガスの供給量を調節することにより、水素の引き抜き効果を制御して、膜中の水素量を調節し、窒化珪素膜の圧縮応力の制御、および、FT−IRにおけるピーク強度比の制御も行うことができる。
【0074】
無機層14(窒化珪素)の成膜において、原料ガスの供給量、プラズマ励起電力、成膜圧力、バイアス電界の強度、基板温度(成膜温度)など、成膜条件には、限定はない。
前述のように、無機層14の圧縮応力、および、無機層14のFT−IRにおけるSi−N結合のピーク、Si−H結合のピーク、および、N−H結合のピークは、基板12に掛けるバイアス電界、水素ガスの導入量、シランガスとアンモニアガスとの供給量、および、基板温度等を調節することにより、制御できる。
従って、本発明のガスバリアフィルム10の製造において、無機層14の成膜条件は、無機層14の厚さ、目的とする成膜速度、使用する成膜装置、および、基板12の種類や厚さ等に応じて、無機層14の圧縮応力およびFT−IRにおける各結合のピークが、前記所定の範囲内となる条件を、適宜、設定すればよい。
【0075】
成膜室64で無機層14を成膜された基板12すなわちガスバリアフィルム10(20、30)は、再度、巻出し室62に搬送され、ガイドローラ76bに案内されて巻取り軸74に搬送され、ロール状に巻回されて、ガスバリアフィルム10を巻回してなるロールとして、次工程に供給される。
【0076】
本発明において、
図1(B)や
図1(C)に示されるようなガスバリアフィルム20および30において、有機層28の形成方法は、前述のように、公知の方法で行えばよいが、無機層14と同様に、RtoRで行うのが好ましい。
この際には、一例として、支持体26を巻回してなるロールから、成膜済の支持体26を巻回するまでの、支持体26の搬送経路に、有機層28となる塗料を塗布する塗布手段、塗布装置が塗布した塗料を乾燥する乾燥手段、乾燥した塗料を架橋して有機層28を形成する光照射手段等を配置した成膜装置を用い、支持体26を長手方向に搬送しつつ、塗料の塗布、乾燥および架橋を、連続的に行う。
【0077】
以上、本発明の機能性フィルムについて詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0079】
<実施例1>
[発明例1]
支持体26の表面に有機層28を有する基板24の上に、窒化珪素からなる無機層14を有するガスバリアフィルムを作製した。
すなわち、このガスバリアフィルムは、保護層である最上層の有機層28を有さない以外は、
図1(B)に示すガスバリアフィルム20と同様の構成を有する。
【0080】
支持体26は、幅が1000mmで厚さが100μmの長尺なPETフィルム(東洋紡社製 コスモシャインA4300)を用いた。
【0081】
有機溶剤に有機化合物を投入、攪拌して、有機層28となる塗料を調製した。
有機化合物は、TMPTA(ダイセル・サイテック社製)を用いた。有機溶剤は、MEKを用いた。塗料には、界面活性剤(ビックケミージャパン社製 BYK378)および
光重合開始剤(チバケミカルズ社製 Irg184)を添加した。
【0082】
前述のようなRtoRによる有機層の成膜装置を用いて、支持体26の表面に塗料を塗布し、乾燥して、光照射を行って架橋することにより、支持体26の表面に有機層28を成膜して、基板24を作製した。
塗布手段は、ダイコータを用いた。乾燥手段は、温風を用いた。光照射手段は、紫外線照射装置を用いた。
【0083】
次いで、基板24を巻回した基板ロールを
図2に示す成膜装置50に装填して、基板24(有機層28)の表面に、CCP−CVDによって、無機層14として膜厚30nmの窒化珪素膜を成膜して、ガスバリアフィルムを作製した。
【0084】
ドラム68はステンレス製で、直径1000mmの物を用いた。なお、このドラム68は、温度調節手段を内蔵しており、成膜中は、ドラム68の表面の温度を70℃に制御した。
高周波電源90は、周波数13.5MHzの高周波電源を用い、シャワー電極80に供給するプラズマ励起電力は2000Wとした。また、バイアス電源94は周波数100kHzの高周波電源を用い、ドラム68に200Wのバイアス電力を供給した。
【0085】
成膜ガスは、シランガス(SiH
4)、アンモニアガス(NH
3)、および水素ガス(H
2)を用いた。供給量は、シランガスが100sccm、アンモニアガスが200sccm、水素ガスが1500sccmとした。また、成膜圧力は100Paとした。
【0086】
作製したガスバリアフィルムについて、赤外分光装置(日本分光社製 FT−IR6100にATR−PRO410−Sを取り付けた装置)を用いて、FT−IRのATR(全反射型赤外吸収法)モードにおける800〜900cm
-1に位置するSi−N結合のピーク強度、2100〜2200cm
-1に位置するSi−H結合のピーク強度、および3300〜3400cm
-1に位置するN−H結合のピーク強度を測定した。
この測定結果から、Si−N結合のピーク強度とSi−H結合のピーク強度との強度比であるSiH/SiN、および、Si−N結合のピーク強度とN−H結合のピーク強度との強度比であるNH/SiNを算出した。
その結果、SiH/SiNは0.11、NH/SiNは0.03であった。
【0087】
また、同じ支持体26の表面に、全く同様にして厚さ約300nmの窒化珪素膜を成膜したフィルムを作製して、無機層14の(残留)圧縮応力を測定した。
なお、圧縮応力は、段差計(アルバック社製 dektak)を用いて窒化珪素膜の膜厚を測定し、作製したフィルムの反り量をマイクロメータで計測して、ストーニーの式から算出した。
その結果、無機層14の圧縮応力は、590MPaであった。
【0088】
[発明例2]
ドラム68に供給するバイアス電力を400Wとした以外は、発明例1と同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
作製したガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、SiH/SiNは0.06、NH/SiNは0.04であった。
さらに、発明例1と同様にして無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、無機層14の圧縮応力は1820MPaであった。
【0089】
[発明例3]
水素ガスの供給量を5000sccmとし、ドラム68に供給するバイアス電力を400Wとした以外は、発明例1と同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
作製したガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、SiH/SiNは0.04、NH/SiNは0.03であった。
さらに、発明例1と同様にして無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、無機層14の圧縮応力は2650MPaであった。
【0090】
[発明例4]
アンモニアガスの供給量を150sccmとし、ドラム68に供給するバイアス電力を400Wとした以外は、発明例1と同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
作製したガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、SiH/SiNは0.06、NH/SiNは0.02であった。
さらに、発明例1と同様にして無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、無機層14の圧縮応力は2520MPaであった。
【0091】
[比較例1]
ドラム68にバイアス電力を供給しない以外は、発明例1と同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
作製したガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、SiH/SiNは0.15、NH/SiNは0.06であった。
さらに、発明例1と同様にして無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、無機層14の圧縮応力は70MPaであった。
【0092】
[比較例2]
プラズマ励起電力を1000Wにした以外は、発明例1と同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
作製したガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、SiH/SiNは0.16、NH/SiNは0.05であった。
さらに、発明例1と同様にして無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、無機層14の圧縮応力は180MPaであった。
【0093】
[比較例3]
ドラム68の表面の温度を0℃とし、ドラム68に供給するバイアス電力を400Wとした以外は、発明例1と同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
作製したガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、SiH/SiNは0.1、NH/SiNは0.1であった。
さらに、発明例1と同様にして無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、無機層14の圧縮応力は110MPaであった。
【0094】
[ガスバリア性の測定]
作製した各ガスバリアフィルムについて、水蒸気透過率[g/(m
2・day)]を、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、測定した。
その結果、水蒸気透過率は、
発明例1が2.4×10
-5[g/(m
2・day)]、
発明例2が1.8×10
-5[g/(m
2・day)]、
発明例3が1.5×10
-5[g/(m
2・day)]、
発明例4が2.3×10
-5[g/(m
2・day)]、
比較例1が5.3×10
-4[g/(m
2・day)]、
比較例2が2.1×10
-4[g/(m
2・day)]、
比較例3が3.2×10
-4[g/(m
2・day)]、
であった。
以上の結果を、下記表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示されるように、無機層14の圧縮応力が200〜4000MPaで、SiH/SiNが0.02〜0.14およびNH/SiNが0.005〜0.09の範囲に入っている発明例は、いずれも1×10
-4[g/(m
2・day)]未満の非常に優れたガスバリア性を発現している。
これに対し、圧縮応力が200MPa未満で、SiH/SiNおよびNH/SiNのいずれかが本発明の範囲よりも高い比較例は、1×10
-3[g/(m
2・day)]未満の高いガスバリア性を有するものの、本発明例のようなガスバリア性は得られていない。
【0097】
<実施例2>
[発明例5]
発明例1と同じ基板24を作製した。この基板24の有機層28の表面粗さRa(無機層成膜面の表面粗さRa)を原子間力顕微鏡で測定(10×10μm)したところ、表面粗さRaは1.1nmであった。
また、同じ基板24の有機層28の表面を、金属製の棒に擦り付けることによって処理して、表面粗さRaが4.7nm、10.2nmおよび18.3nmの、3種類の基板24を作製した。
以上の4種類の基板24の有機層28の表面に、発明例1と同様にして厚さ30nmの窒化珪素からなる無機層14を成膜して、4種類のガスバリアフィルムを作製した。
作製した各ガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、全てのガスバリアフィルムで、SiH/SiNは0.11、NH/SiNは0.03であった。
また、作製した各ガスバリアフィルムについて、発明例1と同様に無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、
表面粗さRaが1.1nmのガスバリアフィルムは590MPa、
表面粗さRaが4.7nmのガスバリアフィルムは610MPa、
表面粗さRaが10.2nmのガスバリアフィルムは600MPa、
表面粗さRaが18.3nmのガスバリアフィルムは590MPa、であった。
【0098】
作製したガスバリアフィルムの水蒸気透過率を、実施例1と同様に測定した。
その結果、水蒸気透過率は、
表面粗さRaが1.1nmのガスバリアフィルムは2.4×10
-5[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが4.7nmのガスバリアフィルムは9.2×10
-5[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが10.2nmのガスバリアフィルムは3.0×10
-4[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが18.3nmのガスバリアフィルムは8.8×10
-3[g/(m
2・day)]、
であった。
【0099】
[発明例6]
発明例2と同様にして厚さ30nmの窒化珪素からなる無機層14の成膜した以外は、発明例5と同様にして、4種類のガスバリアフィルムを作製した。
作製した各ガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、全てのガスバリアフィルムで、SiH/SiNは0.06、NH/SiNは0.04であった。
また、作製した各ガスバリアフィルムについて、発明例1と同様に無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、
表面粗さRaが1.1nmのガスバリアフィルムは1800MPa、
表面粗さRaが4.7nmのガスバリアフィルムは1820MPa、
表面粗さRaが10.2nmのガスバリアフィルムは1820MPa、
表面粗さRaが18.3nmのガスバリアフィルムは1830MPa、であった。
【0100】
作製したガスバリアフィルムの水蒸気透過率を、実施例1と同様に測定した。
その結果、水蒸気透過率は、
表面粗さRaが1.1nmのガスバリアフィルムは1.8×10
-5[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが4.7nmのガスバリアフィルムは5.5×10
-5[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが10.2nmのガスバリアフィルムは1.9×10
-4[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが18.3nmのガスバリアフィルムは5.6×10
-3[g/(m
2・day)]、
であった。
【0101】
[比較例4]
比較例1と同様にして厚さ30nmの窒化珪素からなる無機層14の成膜した以外は、発明例5と同様にして、4種類のガスバリアフィルムを作製した。
作製した各ガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、全てのガスバリアフィルムで、SiH/SiNは0.15、NH/SiNは0.06であった。
また、作製した各ガスバリアフィルムについて、発明例1と同様に無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、
表面粗さRaが1.1nmのガスバリアフィルムは50MPa、
表面粗さRaが4.7nmのガスバリアフィルムは40MPa、
表面粗さRaが10.2nmのガスバリアフィルムは70MPa、
表面粗さRaが18.3nmのガスバリアフィルムは70MPa、であった。
【0102】
作製したガスバリアフィルムの水蒸気透過率を、実施例1と同様に測定した。
その結果、
表面粗さRaが1.1nmのガスバリアフィルムは5.3×10
-4[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが4.7nmのガスバリアフィルムは4.4×10
-3[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが10.2nmのガスバリアフィルムは2.5×10
-2[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが18.3nmのガスバリアフィルムは9.2×10
-2[g/(m
2・day)]、
であった。
【0103】
[比較例5]
比較例2と同様にして厚さ30nmの窒化珪素からなる無機層14の成膜した以外は、発明例5と同様にして、4種類のガスバリアフィルムを作製した。
作製した各ガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、全てのガスバリアフィルムで、SiH/SiNは0.16、NH/SiNは0.05であった。
また、作製した各ガスバリアフィルムについて、発明例1と同様に無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、
表面粗さRaが1.1nmのガスバリアフィルムは180MPa、
表面粗さRaが4.7nmのガスバリアフィルムは180MPa、
表面粗さRaが10.2nmのガスバリアフィルムは180MPa、
表面粗さRaが18.3nmのガスバリアフィルムは170MPa、であった。
【0104】
作製したガスバリアフィルムの水蒸気透過率を、実施例1と同様に測定した。
その結果、
表面粗さRaが1.1nmのガスバリアフィルムは2.1×10
-4[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが4.7nmのガスバリアフィルムは1.9×10
-3[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが10.2nmのガスバリアフィルムは7.9×10
-3[g/(m
2・day)]、
表面粗さRaが18.3nmのガスバリアフィルムは7.4×10
-2[g/(m
2・day)]、
であった。
【0105】
以上の結果を、
図3に示す。
前述のように、基板24の表面粗さRaが大きい程、ガスバリア性に関しては不利になるが、従来のガスバリアフィルムでは、基板24の表面粗さRaが5nmになると、水蒸気透過率が1×10
-3[g/(m
2・day)]を超えてしまっている。これに対して、本発明のガスバリアフィルムは、基板24の表面粗さRaが10nmでも、水蒸気透過率が1×10
-3[g/(m
2・day)]未満という高いガスバリア性を有している。
また、本発明のガスバリアフィルムによれば、基板24の表面粗さRaが、さらに大きくなっても、従来のガスバリアフィルムよりも優れたガスバリア性を維持できている。
【0106】
<実施例3>
[発明例7]
支持体26として、幅が1000mmで、厚さが75μmの長尺なポリイミドフィルム(東レデュポン社製 カプトン300H)を用いた。
この支持体26の表面に、発明例1と同様にして有機層28を成膜して、基板24を作製した。
この基板24(有機層28)の表面に、水素ガスの供給量を5000sccmとし、ドラム68に供給するバイアス電力を400Wとした以外は、発明例1と同様にして厚さ30nmの窒化珪素からなる無機層14を成膜して、ガスバリアフィルムを作製した。
すなわち、このガスバリアフィルムも、保護層である最上層の有機層28を有さない以外は、
図1(B)に示すガスバリアフィルム20と同様の構成を有する。
【0107】
作製したガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、SiH/SiNは0.06、NH/SiNは0.03であった。
さらに、発明例と同様にして無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、無機層14の圧縮応力は2230MPaであった。
【0108】
[比較例6]
窒化珪素からなる無機層14の成膜時におけるドラム68の表面の温度を250℃(発明例7=発明例1では70℃)に変更した以外は、発明例7と同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
【0109】
作製したガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、SiH/SiNは0.003、NH/SiNは0.002であった。
さらに、発明例と同様にして無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、無機層14の圧縮応力は370MPaであった。
【0110】
[比較例7]
窒化珪素からなる無機層14の成膜時における水素ガスの供給量を1500sccm、プラズマ励起電力を500W(発明例7=発明例1では2000W)、ドラム68に供給するバイアス電力を600Wに変更した以外は、発明例7と同様にしてガスバリアフィルムを作製した。
【0111】
作製したガスバリアフィルムについて、発明例1と同様にして、SiH/SiNおよびNH/SiNを算出した。その結果、SiH/SiNは0.15、NH/SiNは0.12であった。
さらに、発明例と同様にして無機層14の圧縮応力を測定した。その結果、無機層14の圧縮応力は250MPaであった。
【0112】
[ガスバリア性]
作製したガスバリアフィルムについて、発明例1と同様に水蒸気透過率を測定した。
なお、水蒸気透過率は、作製直後(初期)と、直径6mmの棒にフィルムを巻付け、広げる作業を100回繰り返した後(巻付け後)とで測定した。
その結果、発明例7のガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、初期が9.1×10
-5[g/(m
2・day)]、巻付け後は1.9×10
-4[g/(m
2・day)]であった。
これに対し、比較例6のガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、初期が8.4×10
-5[g/(m
2・day)]、巻付け後は3.6×10
-2[g/(m
2・day)]で、
比較例7のガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、初期が1.1×10
-3[g/(m
2・day)]、巻付け後は4.7×10
-2[g/(m
2・day)]10
-3であった。
結果を下記表2および表3に示す。
【0113】
【表2】
【表3】
【0114】
上記表2および3に示されるように、本発明のガスバリアフィルムである発明例7は、初期のガスバリア性はもちろん、巻付け後でも、1.9×10
-4[g/(m
2・day)]という非常に高いガスバリア性を維持している。
これに対し、SiH/SiNおよびNH/SiNが小さい、すなわち無機層14中の水素量が少なすぎる比較例6は、無機層14の柔軟性が低く、初期は本発明と同等の高いガスバリア性を有しているが、巻付け後は3.6×10
-2[g/(m
2・day)]と、大幅にガス場アリア性が低下してしまった。
また、SiH/SiNおよびNH/SiNが大きい、すなわち無機層14中の水素量が多すぎる比較例7は、膜の緻密さが低く、初期でも十分なガスバリア性が得られない。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。