【文献】
末弘祐基、外2名,トンネル構造MnO2のカルシウムインターカレーション特性,第49回セラミックス基礎科学討論会講演要旨集,日本,第49回セラミックス基礎科学討論会実行委員会 実行委員長 三宅道博,2011年 1月11日,p.155
【文献】
湯衛平、外2名,β−MnO2/カーボンブラックのナノ複合体の合成,日本イオン交換学会・日本溶媒抽出学会連合年会講演要旨集,日本,2002年,p.21
【文献】
湯衛平、外2名,β−MnO2/カーボンブラックのナノ複合体の合成と放電性能,電池討論会講演要旨集,日本,2002年,43rd,p.p.136−137
【文献】
橋本浩明、外2名,ナノMnOx/カーボン複合体の電気化学特性,日本化学会講演予稿集,日本,2005年,85th,1,p.462
【文献】
米倉大介、外4名,超遠心力処理による高分散酸化マンガン/ナノ炭素複合負極材料の創製,第52回電池討論会講演要旨集,日本,社団法人電気化学会電池技術委員会,2010年11月 8日,p.245
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施する形態について、以下、説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0014】
本実施の形態に係るマンガン化合物とカーボン粉末複合体は、出発原料であるマンガン化合物を水溶液中で、メカノケミカル反応の一つである超遠心力処理(Ultra-Centrifugal force processing method:以下、UC処理という。)し、その生成物を洗浄・ろ過し、その後、熱処理することにより、得られる。この場合、
図1に示すように、UC処理を複数回行うこともできる。UC処理を複数回行う場合は、1回目の複合化処理として、マンガンの価数が2<=x<4のマンガン化合物とカーボン粒子とをUC処理し、中間生成物である第1の複合体を生成する。その後、2回目の複合化処理として、1回目の複合化処理を経た第1の複合体とマンガンの価数が4<x<=7のマンガン化合物とをUC処理し、最終生成物である複合体を生成する。
【0015】
本実施形態の複合体は、サブナノサイズのトンネル構造を有する。このトンネル構造は、二酸化マンガン(MnO
2)を骨格とするマンガン化合物の管が複数集まったものであり、具体的には、2×2のトンネル構造であるCryptomelane(クリプトメレン)または3×3のトンネル構造であるTodorokite(トドロカイト)を有するものである。Cryptomelane(クリプトメレン)及びTodorokite(トドロカイト)は、
図2に示すような構造をしている。また、このトンネルの径は、4〜8Åの範囲となるのが好ましい。この範囲外であると、コンバージョン(Conversion)反応、カーボンへのリチウム吸蔵、及びLi
2O
2のレドックス(Redox)が効率よく起こらなくなり、充放電容量が低下する。
【0016】
(UC処理)
本発明で用いるUC処理は、メカノケミカル反応を利用した処理である。このメカノケミカル反応は、化学反応の過程で、旋回する反応の過程で、旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加えて化学反応を促進させる。
【0017】
この反応方法は、例えば、
図9に示すような反応器を用いて行うことができる。
図9に示すように、反応器は、開口部にせき板1−2を有する外筒1と、貫通孔2−1を有し旋回する内筒2からなる。この反応器の内筒内部に反応物を投入し、内筒を旋回することによってその遠心力で内筒内部の反応物が内筒の貫通孔を通って外筒の内壁1−3に移動する。この時反応物は内筒の遠心力によって外筒の内壁に衝突し、薄膜状となって内壁の上部へずり上がる。この状態では反応物には内壁との間のずり応力と内筒からの遠心力の双方が同時に加わり、薄膜状の反応物に大きな機械的エネルギーが加わることになる。この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われるが、そのことによって、短時間で反応が進行する。
【0018】
この反応において、薄膜状であると反応物に加えられる機械的エネルギーは大きなものとなるため、薄膜の厚みは5mm以下、好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。なお、薄膜の厚みはせき板の幅、反応液の量によって設定することができる。
【0019】
この反応方法は、反応物に加えられるずり応力と遠心力の機械的エネルギーによって実現できるものと考えられるが、このずり応力と遠心力は内筒内の反応物に加えられる遠心力によって生じる。したがって、本発明に必要な内筒内の反応物に加えられる遠心力は1500N(kgms
-2)以上、好ましくは60000N(kgms
-2)以上、さらに好ましくは270000N(kgms
-2)以上である。
【0020】
この反応方法においては、反応物にずり応力と遠心力の双方の機械的エネルギーが同時に加えられることによって、このエネルギーが化学エネルギーに転化することによるものと思われるが、従来にない速度で化学反応を促進させることができる。
【0021】
(マンガン化合物)
本実施形態で使用するマンガン化合物としては、マンガンの価数が2<=x<4のマンガン化合物及び4<x<=7のマンガン化合物を使用する。それぞれのマンガン化合物は、無水物でもよいし、水和物でもよい
【0022】
マンガンの価数が2<=x<4のマンガン化合物は、出発原料として使用する。
具体的には、マンガンの価数が2<=x<4のマンガン化合物として、以下にあげる2価のマンガン化合物を使用することができる。
酢酸マンガン Manganese acetate: Mn(CH
3CO
2)
2
ギ酸マンガン Manganese formate: Mn(COO)
2
シュウ酸マンガン Manganese oxalate: MnC
2O
4
酒石酸マンガン Manganese tartrate: MnC
4H
4O
6
オレイン酸マンガンManganese oleate: Mn(C
17H
33COO)
2
塩化マンガン Manganese chloride: MnCl
2
臭化マンガン Manganese bromide: MnBr
2
フッ化マンガン Manganese fluoride: MnF
2
ヨウ化マンガン Manganese iodide: MnI
2
水酸化マンガン Manganese hydroxide: Mn(OH)
2
硫化マンガン Manganese sulfide: MnS
炭酸マンガン Manganese carbonate: MnCO
3
過塩素酸マンガン Manganese perchlorate: Mn(ClO
4)
2
硫酸マンガン Manganese sulfate: MnSO
4
硝酸マンガン Manganese nitrate: Mn(NO
3)
2
リン酸マンガン Manganese phosphate: Mn
3(PO
4)
2,MnHPO
4,Mn(H
2PO
4)
2
二リン酸マンガン anganese diphosphate: Mn
2P
2O
7
次亜リン酸マンガン Manganese Hypophosphite: H
4MnO
4P
2
メタリン酸マンガン Manganese metaphosphate: Mn(PO
3)
2
ヒ酸マンガン Manganese arsenate: Mn
3(AsO
4)
2
ホウ酸マンガン Manganese borate: MnB
4O
7
【0023】
また、マンガンの価数が2<=x<4のマンガン化合物として、以下にあげる3価のマンガン化合物を使用することができる。
酢酸マンガン Manganese acetate: Mn(CH
3CO
2)
3
ギ酸マンガン Manganese formate: Mn(COO)
3
フッ化マンガン Manganese fluoride: MnF
3
水酸化マンガン Manganese hydroxide: MnO(OH)
硫酸マンガン Manganese sulfate: Mn
2(SO
4)
3
リン酸マンガン Manganese phosphate: MnPO
4
二リン酸マンガン anganese diphosphate: Mn
4(P
2O
7)
3
ヒ酸マンガン Manganese arsenate: MnAsO
4
マンガンアセチルアセトナート Manganese acetylacetonate: Mn(CH
3COCHCOCH
3)
3
【0024】
一方、マンガンの価数が4<x<=7のマンガン化合物は、UC処理を複数回行う場合に、複合化処理を経た中間生成物の複合物に対して、更に複合化する材料として使用する。具体的には、マンガンの価数が4<x<=7のマンガン化合物として、以下にあげる7価のマンガン化合物を使用することができる。
過マンガン酸カリウム Potassium permanganate: KMnO
4
過マンガン酸ナトリウム Sodium permanganate: NaMnO
4
過マンガン酸リチウム Lithium permanganate: LiMnO
4
過マンガン酸マグネシウム Magnesium permanganate: Mg(MnO
4)
2
過マンガン酸カルシウム Calcium permanganate: Ca(MnO
4)
2
【0025】
(カーボン粒子)
反応過程で所定のカーボン粒子を加えることによって、マンガン化合物とカーボン粒子との複合体を得ることができる。すなわち、反応器の内筒の内部にマンガン化合物を投入して、内筒を旋回してカーボン粒子を混合、分散する。さらに、さらに内筒を旋回させながらマンガン化合物を投入して混合する。反応終了後にこれを加熱することで、サブナノサイズのトンネル構造を有するマンガン化合物とカーボンとの複合体を形成することができる。
【0026】
ここで用いるカーボン粒子としては、中空シェル状の構造を持っているカーボン粒子を使用することができる。具体的には、ケッチェンブラック(以下、KBとする)を使用することが望ましい。ケッチェンブラック以外に、カーボンナノチューブも使用可能である。
【0027】
(溶媒)
溶媒としては、アルコール類、水、これらの混合溶媒を用いることができる。例えば、酢酸と酢酸マンガンをイソプロパノールと水の混合物に溶解した混合溶媒を使用することができる。
【0028】
(加熱)
本実施形態では、メカノケミカル反応によりサブナノサイズのトンネル構造を有するマンガン化合物とカーボン粒子との複合体を得ると共に、この複合体を真空中で加熱することによって、マンガン化合物のトンネル構造化を促進させ、この複合体を使用した電極や電気化学素子の容量、出力特性を向上させる。
【0029】
すなわち、UC処理によって得られた複合体の加熱工程において、真空中において、100℃〜200℃の温度の範囲で加熱を行う。この範囲内で加熱を行うことにより、マンガン化合物の凝集を防止することができ、トンネル構造を有するマンガン酸化物が得られる。加熱処理時の温度が100℃以下であると、アモルファス(非晶質)のマンガン酸化物が形成される。このアモルファス(非晶質)のマンガン酸化物は、結晶性が低いので、マンガン酸化物のリチウムの吸収、放出特性が低下する。また、加熱処理時の温度が200℃を超えると、粒子の凝集が進行し、トンネル構造の径が大きくなったり、トンネル構造が崩壊し、充放電容量が低下する。
【0030】
(電極)
本発明により得られたマンガン化合物とカーボン粒子との複合体は、バインダーと混練、成型し、電気化学素子の電極、すなわち電気エネルギー貯蔵用電極とすることができ、その電極は高出力特性、高容量特性を示す。
【0031】
(電気化学素子)
この電極を用いることができる電気化学素子は、リチウムやマグネシウムなどの金属イオンを含有する電解液を用いる電気化学キャパシタや電池である。すなわち、本発明の電極は、金属イオンの吸蔵、脱着を行うことができ、負極や正極として作動する。したがって、金属イオンを含有する電解液を用い、対極として活性炭、金属イオンが吸蔵、脱着するカーボンや金属酸化物等を用いることによって、電気化学キャパシタや電池を構成することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0033】
[1.複合体の特性比較]
本特性比較では、次のようにして実施例1〜5の複合体を合成した。
マンガンの価数が2<=x<4のマンガン化合物の2価のマンガンであるMn(OOCCH
3)
2・4H
2Oを0.8457g、KBを0.5g、溶媒として水を20ml加え、これを加速度66000N(kgms
-2)のUC処理によって5分間処理して、中間生成物である第1の複合体を得た。
この第1の複合体が形成された溶液に対して、更に、マンガンの価数が4<x<=7のマンガン化合物であるKMnO
4を0.36356g、20mlの水溶媒中で、5分間、第2回目のUC処理する。さらに、洗浄・ろ過の後、100℃〜200℃で12時間熱処理して、最終生成物であるマンガン化合物とKBの複合体(50:50)を合成した。
【0034】
本実施例においては、前記のようにして得られた最終生成物の複合体を、種々の温度で、真空中で12時間加熱したものを実施例1〜5とする。
すなわち、100℃で加熱した複合体を実施例1、130℃で加熱した複合体を実施例2、150℃で加熱した複合体を実施例3、170℃で加熱した複合体を実施例4、200℃で加熱した複合体を実施例5とする。
この実施例1〜5の複合体に対して、リチウム吸蔵特性、XRD(X線粉末回折法)による結晶構造の解析、TG(熱重量分析)による熱特性及びカーボン比率の算出、及びTEM(透過型電子顕微鏡)による結晶系の同定および形態観察をおこなった。
【0035】
[リチウム吸蔵特性]
図3は、複合体のリチウム吸蔵特性を表した図である。
図3に示すように、実施例1〜5の充電及び放電のどちらにおいても、グラファイト電極の理論容量である372mAh
-1を大幅に超える充放電容量を発現した。特に、130℃で熱処理を行った実施例2においては、グラファイト電極の約6倍の2200mAh
-1の大容量を発現した。すなわち、
図3の測定結果より、特に優れた充放電特性を発現するためには、好ましくは130℃〜170℃の間で熱処理を行うことが望ましいことがわかる。
【0036】
[XRDによる結晶構造解析]
図4は、複合体に対して行ったXRD(X線粉末回折法)による結晶構造解析の結果を表した図である。
この図によれば、実施例1,3,5の結晶構造において、Mn
3O
4が存在している。また、実施例1,3の結晶構造においては、MnOOHつまりMn
2O
3・H
2Oが存在している。また、200℃の結晶構造においては、MnOOHは存在しないが、その代わりに、Akhtenskite MnO
2が存在する。
さらに、
図4には、記載していないが、実施例1〜5の結晶構造においては、MnOが存在している。すなわち、
図4の測定結果より、本実施例の結晶構造をもつ複合体においては、MnO、MnOOH、Mn
3O
4またはAkhtenskite MnO
2のいずれか1つを含むことが望ましい。
【0037】
[TGによる熱特性、カーボン比率の算出]
図5は、真空において100℃で加熱した複合体に対するTG(熱重量分析)による熱特性及びカーボン比率を表した図である。
DTA(示差熱分析)の結果によると、200℃近傍で、一時的に値が上昇している(変曲点A)。この反応は、カーボンによるトンネル構造の崩壊が始まるために起こるものと推測される。そのため、トンネル構造による本実施例の効果が低下する。すなわち、
図4の測定結果より、優れた充放電特性を発現するためのトンネル構造を形成するためには、加熱処理時の過熱温度を200℃より大きくし過ぎないことが望ましい。
【0038】
[TEMによる結晶系の同定および形態観察]
図6は、熱処理温度を変化させたときの複合体の結晶構造の変化と発現容量の関係を表した図である。複合体の結晶構造は、TEM(透過型電子顕微鏡)を使用することにより観察した。
図6からは、熱処理温度が100℃になると、複合体の結晶構造は、2×2のトンネル構造であるCryptomelane が観察される。その後、熱処理温度を高くするにしたがって、トンネル構造はより安定する。
熱処理温度が130℃になると、複合体の結晶構造は安定した2×2のトンネル構造のCryptomelane が観察され、発現容量が最大となる。
熱処理温度が150℃になると複合体の結晶構造は、3×3のトンネル構造であるTodorokiteが観察される。熱処理温度が200℃になると、K、OHの脱離と結晶化や含水酸化物の消失が始まりトンネル構造の一部は崩壊を始める。それに伴い、発現容量も低下する。
【0039】
[推定される充放電メカニズム]
以上より、本実施例の複合体においては、次のような反応が起こっていると推定される。
図7は、130℃で加熱した実施例2の10サイクル目の放電カーブを示す図である。この図においては、実施例2の複合体の全電位領域において起こっていると推定される放電メカニズムを示している。
【0040】
実施例2の複合体の低電位領域においては、コンバージョン反応(MnO+2Li
++2e
-→Mn+Li
2O)及び、カーボンへのリチウム吸蔵(C
6+xLi+ xe
-→ C
6Lix)が起こっていると推定される。また、実施例2の複合体の高電位領域においては、Li
2O
2のレドックス(Li
2O
2+2Li
++2e
-→2Li
2O)が起こっていると推定される。この3つの反応により、本実施例の複合体は、優れた充放電特性を発現できるものと考えられる。
【0041】
[2.複合体を用いた電極の特性比較]
本特性比較では、実施例1〜5の複合体を用いて作成した電極の特性を比較する。
【0042】
本実施例で使用する電極は、実施例1〜5の複合体にバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を加えて、銅集電体上に製膜し電極を作製した。この電極の対極には、Li金属を用い、電解液に1.0MLiPF
6/EC DEC(1:1)を用い、2032コインセルを作製した。このコインセルに対して、電流密度400mAg
-1、0.0〜2.5Vで100サイクルまで充放電を行い、充放電特性を評価した。
【0043】
[充電サイクル特性]
図8は、複合体の放電サイクル特性を表した図である。
図8からは、130℃で熱処理をした複合体は、100サイクルまで安定的に容量を発現していることが判る。また、100℃、150℃、170℃、200℃で熱処理した複合体においても、100回の放電サイクルを経ても容量の減少が起きることなく、安定的に容量を発現している。すなわち、本実施例の複合体を用いた電極では、優れた充放電特性だけでなく、放電サイクルを経ても容量の減少が起きることのない特性を有している。