特許第5837429号(P5837429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許5837429核酸分析用反応デバイスの再生方法およびその方法に用いる洗浄機構を有する核酸分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5837429
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】核酸分析用反応デバイスの再生方法およびその方法に用いる洗浄機構を有する核酸分析装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20151203BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20151203BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALN20151203BHJP
   G01N 33/543 20060101ALN20151203BHJP
【FI】
   C12M1/00 A
   !C12N15/00 A
   !C12Q1/68 A
   !G01N33/543 531
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-12856(P2012-12856)
(22)【出願日】2012年1月25日
(65)【公開番号】特開2013-150568(P2013-150568A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2014年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中澤 太朗
(72)【発明者】
【氏名】奈良原 正俊
(72)【発明者】
【氏名】伊名波 良仁
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−027984(JP,A)
【文献】 特表2010−523942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00− 3/10
G01N 33/48−33/98
Google Scholar
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸試料を固定するためのサンプル固定層と、サンプル固定層上に形成される1以上の流路とを備えるフローセルタイプの核酸分析用反応デバイスを、その一部流路の使用後に、或いは未使用のまま空気中に長時間放置されてしまった場合に、その未使用流路のサンプル固定層の機能を再生させる方法であって、
前記サンプル固定層は、前記核酸試料を固定する無機酸化物によって形成され、
前記デバイスの未使用流路にサンプル固定層還元用液体を注入し且つ該デバイスを温度調整することにより、前記サンプル固定層に還元反応を生じさせる第1の工程と、
その後に、該未使用流路に純水を流すことで、前記サンプル固定層還元用液体を洗い流す第2の工程と、を含むことを特徴とする核酸分析用反応デバイスの再生方法。
【請求項2】
請求項1において、前記デバイスは、複数の流路を有し、使用済み流路に係る全ての分析が終了した後に、そのデバイスに残されている未使用流路に前記第1、第2の工程を適用することを特徴とする核酸分析用反応デバイスの再生方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記サンプル固定層還元用液体が水酸化カリウム水であることを特徴とする核酸分析用反応デバイスの再生方法。
【請求項4】
請求項3において、前記水酸化カリウム水を用いた前記還元反応の温度が40℃から70℃の間であることを特徴とする核酸分析用反応デバイスの再生方法。
【請求項5】
核酸試料を固定するためのサンプル固定層と、サンプル固定層上に形成される1以上の流路とを備えるフローセルタイプの核酸分析用反応デバイスを用いて、核酸伸長反応および核酸分析を行なう核酸分析装置であって、
前記流路に液体を注入する送液ユニットと、
前記デバイスを温度調整するホルダユニットと、
洗浄水としての純水と、
温度調整されて前記サンプル固定層に還元反応を生じさせるサンプル固定層還元用液体と、を備え
前記サンプル固定層は、前記核酸試料を固定する無機酸化物によって形成されていることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項6】
請求項5において、前記サンプル固定層還元用液体が水酸化カリウム水であることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記サンプル固定層は、酸素を含む官能基を介して又は担体を介して前記核酸試料を固定する無機酸化物によって形成され、前記無機酸化物がチタニア、ジルコニア、アルミナ、ゼオライト、五酸化バナジウム、シリカ、サファイア、酸化タングステン及び五酸化タンタルからなる群から選択される少なくとも1種の無機酸化物よりなり、或いはこれらの少なくとも2種類を含む化合物よりなることを特徴とする核酸分析装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸分析用反応デバイスを再利用に供するためのデバイス再生方法及びその方法に用いる洗浄機構を有する核酸分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAやRNAの塩基配列を決定する新しい技術が開発されてきている。
【0003】
現在、通常用いられている電気泳動を利用した方法においては、予め配列決定用のDNA断片又はRNA試料から逆転写反応を行い合成したcDNA断片試料を調製し、周知のサンガー法によるジデオキシ反応を実行した後、電気泳動を行い、分子量分離展開パターンを計測して解析する。
【0004】
これに対し、近年、基板に試料となるDNA断片を数多く固定して、パラレルに数多くの断片の配列情報を決定する方法が提案されている。
【0005】
例えば、非特許文献1では、DNA断片を担時する担体としていわゆるビーズと称せられる微粒子を用い、微粒子上でPCR(Polymerase Chain Reaction)を行う。その後、微粒子のサイズに穴径を合わせた数多くの穴を設けたプレートに、PCR増幅されたDNA断片を担持した微粒子を入れてパイロシーケンス方式で読み出している。
【0006】
また、非特許文献2では、DNA断片を担持する担体として微粒子を用い、微粒子上でPCRを行う。その後、微粒子をガラス基板上にばら撒いて固定し、ガラス基板上で酵素反応(ライゲーション)を行い、蛍光色素付き基質を取り込ませて蛍光検出を行うことにより各断片の配列情報を得ている。
【0007】
さらに、非特許文献3では、基板上に、同一配列を有する多数のDNAプローブを固定しておく。また、DNA試料を切断後、DNAプローブ配列と相補鎖のアダプター配列を各DNA試料断片の端に付加させる。これらを基板上でハイブリダイゼーションさせることにより、基板上にランダムに一分子ずつ試料DNA断片を固定化させている。この場合、基板上でDNA伸長反応を起こない、蛍光色素付き基質を取り込ませた後、未反応基質の洗浄を行い、固定化された分子の蛍光検出を行い、試料DNAの配列情報を得ている。
【0008】
以上のように、基板上に、核酸断片試料を数多く固定することにより、パラレルに数多くの断片の配列情報を決定する方法が開発され、実用化されつつある。
【0009】
ちなみに、特許文献1には、パラレルに数多くの配列情報を決定する方法を実現するための核酸分析用反応デバイスと核酸試料の固定方法が開示されている。核酸分析用反応デバイスは、サンプル固定層を有する基板と中央部が繰り抜かれたスペーサをチャンバに設置し、チャンバ上面、スペーサ、基板下面を加圧により圧着する。チャンバ上面とスペーサより形成された中空と基板下面より流路が形成される。チャンバ上部の二つの管より、流路における液の出し入れが行われる。使用時は常にチャンバおよび基板を、スペーサを介在させて加圧することで、チャンバとスペーサの界面、及びスペーサと基板の界面からの液漏れを防止する。
【0010】
特許文献1のサンプル固定層は、核酸試料と基板との接着性を向上させる配慮がなされている。すなわち、核酸試料に官能基を導入し、核酸試料に導入された官能基とサンプル固定層の官能基が相互作用することで、接着性を向上させている。サンプル固定層としては、アクリルアミド、ポリリジン、ストレプトアビジン、またはシランカップリング剤などの有機物を用いる。シランカップリング剤を用いる方法では、アミノ基、カルボン酸、アルデヒド基などの官能基をサンプル固定層に導入する。任意のリンカー試薬を介して、サンプル固定層に導入された官能基と核酸試料に導入される官能基を反応させて核酸試料を固定する。核酸試料に導入される官能基としては、アクリダイト、ビオチン、アミノ基などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US2009/0062129
【特許文献2】特開2006-87974
【特許文献3】US7115400B1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Nature 2005, vol. 437, pp. 376-380.
【非特許文献2】Science 2005, voL. 309, pp.1728-1732
【非特許文献3】Science 2008, vol. 320, pp. 106-109.
【非特許文献4】Langmuir 2007, vol. 23, pp.377-381
【非特許文献5】Anal.Biochem. 2003, vol. 320, pp.55-65
【非特許文献6】Applied Catalysis A: General.2005, vol. 286, pp.128-136
【非特許文献7】J. Environ. Monit.2000, vol.2, pp550-555
【非特許文献8】Proc. Natl. Acad. Sci. USA.1996, Vol. 93, pp. 10614-10619,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
スペーサ変形量は、スペーサの膜厚に依存する。膜厚が大きい場合は、スペーサ変形量も大きく、スペーサが基板の凹凸に追従しやすくなるため、液漏れは生じにくい。しかしながら、スペーサを薄くすると加圧による変形量が少なくなるため、液漏れのリスクが高くなり、スペーサを薄くできない。特許文献1の反応デバイスは、スペーサが厚く流路内の容量が大きくなる傾向がある。
【0014】
一般に、核酸分析に用いられる試薬は高価であるため、特許文献1の核酸分析システムは試薬使用量が多く、解析のランニングコストが高い。
【0015】
これに対し、流路内容量が少ない反応デバイスとして、特許文献2では、チャンバ、スペーサ、及び基板が一体化した反応デバイスが開示されている。スペーサ材料として、エポキシ樹脂やアクリル樹脂、またはポリジメチルシロキサンを用いる。しかしながら、上記スペーサ材料の加工温度、及びスペーサ材料とサンプル層との接合温度は、100℃以上と高いので、サンプル固定層である有機物が熱変性によって劣化する要因となる。サンプル層の劣化は、核酸試料が伸長反応時にはがれる原因となる。
【0016】
非特許文献4や非特許文献5には、サンプル固定層として、チタニアやジルコニアなどの無機酸化物を用いる方法が開示されている。無機酸化物は100℃以上の温度でも安定である。スペーサ材料の加工、及びサンプル層との接合時の熱変性を防止できる。
【0017】
一般に、酸素を含む官能基が無機酸化物に特異的に吸着することが知られている。この様な官能基として、非特許文献4ではリン酸が、非特許文献6では硫酸が、非特許文献7では酢酸が、それぞれ開示されている。非特許文献4では、ジルコニア上に末端がリン酸化されたオリゴヌクレオチドを固定するする方法が開示されている。
【0018】
これらの核酸分析用反応デバイスは、複数のサンプルを同時に評価できるよう、ひとつのデバイスに複数の流路が設けられることが多い。しかしながら、設計された流路数よりもサンプル数が満たない場合は、流路が余ることになる。また、サンプル数が多い場合も、デバイス数を増やすが、結局はサンプル数が満たないケースが多々存在する。
【0019】
ここで、一度使用したデバイスの未使用流路に、次回、さらにサンプルを追加することができれば多くの問題は解消されるが、発明者の評価の結果、一度使用したデバイスの未使用流路にサンプルをそのまま固定すると、サンプルである核酸試料が伸長反応時に剥がれることが解かった。
【0020】
これは、該デバイスが一度目に使用された時にかけられた熱が原因となる。すなわち、流路内のサンプルである核酸試料の伸張反応を行うために、デバイス全体に70度付近の熱をかけるが、この熱により未使用流路のサンプル固定層が酸化し、サンプル固定能が低下することによる。
【0021】
さらに別の理由として、デバイスが一度目の使用された時に、装置の仕様により、未使用流路内にも多少の化学試薬がわずかに入り込んでしまった場合にも、サンプル固定層の酸化がさらに顕著に進んでしまうことが明らかとなった。
【0022】
このため、従来は、サンプル数が設計された流路数に満たさず、未使用の流路が残った状態で分析を行った場合、高価な核酸分析用反応デバイスを充分に使用しないまま廃棄するしかなかったので、使用者にとって無駄を強いられることになっている。
【0023】
さらに別の理由として、未使用の核酸分析用反応デバイスでも、密封状態から取り出して空気中に長時間放置しておくことで、サンプル固定層の酸化が進み、サンプル固定能が低下してしまうことが明らかとなっている。この場合も高価な核酸分析用反応デバイスを使用しないまま廃棄せざるを得ず、使用者にとって無駄が生じることになる。
【0024】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、核酸分析用反応デバイスが一度目に使用された時に余った未使用流路が生じた場合、或いは未使用の核酸分析用反応デバイスが空気中に長時間放置された場合に、酸化により劣化した未使用流路におけるサンプル固定層の機能を再生(修復)して、核酸分析用反応デバイスを再利用に供し得る方法、及びその方法に用いる洗浄機構を有する核酸分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の発明者は、上記したように、一度使用された核酸分析用反応デバイスに残る未使用流路や、空気中に放置された未使用核酸分析用反応デバイスの劣化、すなわち核酸試料に対する固定能或いは吸着能の劣化原因(サンプル固定層の酸化)を追究し、その知見のもとに、以下に述べるように、サンプル固定層の劣化(減衰)した固定能または吸着能を再生する方法、およびそれに用いる洗浄機構を有する核酸分析装置を完成させた。
(1)本願発明は、一つは、核酸分析用反応デバイスの再生方法に関する発明である。
【0026】
すなわち、核酸試料を固定するためのサンプル固定層と、サンプル固定層上に形成される1以上の流路とを備えるフローセルタイプの核酸分析用反応デバイスを、その一部流路の使用後に、或いは未使用のまま空気中に長時間放置されてしまった場合に、その未使用流路のサンプル固定層の機能を再生させる方法であって、
前記デバイスの未使用流路にサンプル固定層還元用液体を注入し且つ該デバイスを温度調整することにより、前記サンプル固定層に還元反応を生じさせる第1の工程と、
その後に、該未使用流路に純水を流すことで、前記サンプル固定層還元用液体を洗い流す第2の工程と、
を含むことを特徴とする。
(2)もう一つは、上記(1)の核酸分析用反応デバイスの再生方法に使用する洗浄機構を備えた核酸分析装置の発明に関する。
【0027】
すなわち、核酸試料を固定するためのサンプル固定層と、サンプル固定層上に形成される1以上の流路とを備えるフローセルタイプの核酸分析用反応デバイスを用いて、核酸伸長反応および核酸分析を行なう核酸分析装置であって、
前記流路に液体を注入する送液ユニットと、
前記デバイスを温度調整するホルダユニットと、
洗浄水としての純水と、
温度調整されて前記サンプル固定層に還元反応を生じさせるサンプル固定層還元反応用の溶液と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、核酸分析用反応デバイスが一度目に使用された時に余った未使用流路が生じた場合、或いは未使用状態で空気中に長時間放置された場合でも、酸化により劣化した未使用流路を還元し且つ洗浄することで、次回の使用に供することができるように、サンプル固定層の機能を再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施例に係る核酸分析装置の構成を示す図。
図2】本発明の核酸分析用反応デバイスの再生方法の工程例を示す説明図。
図3】上記実施例に用いる核酸分析用反応デバイスの一例を示す組み立て前の分解斜視図。
図4】上記核酸分析用反応デバイスの組み立て後の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を添付した実施例の図面に基づいて説明する。
【0031】
ここでは、本発明を理解してもらうため、特定の実施形態について詳細な説明を行うが、本発明はここに記した内容に限定されるものではない。
【0032】
本発明の核酸分析用反応デバイス再生用の洗浄機構を有する核酸分析装置の一実施例を、図1を用いて説明する。
【0033】
核酸分析装置101は、核酸分析用反応デバイス用のホルダユニット103と、X軸およびY軸の移動機構を有するステージユニット104と、各種の試薬容器105と、ノズル107を備えた送液ユニット106と、ノズル107を移動させるためのノズル移動ユニット108と、核酸分析用の検出ユニット109と、廃液を収容する廃液容器110と、ノズル洗浄機構113とを備える。
【0034】
ホルダユニット103は、複数の流路111を有するフローセルタイプの核酸分析用反応デバイス102を固定し、かつ核酸分析用反応デバイス102を温度調整する機能を有する。
【0035】
フローセルタイプの核酸分析用反応デバイス102は、背景技術でも述べたように種々の態様のものが考えられる。本実施例では、一例として、図3に示すように、基板31及び基板41と、それらの間に介在するスペーサ51とにより構成される。スペーサ51は、複数の流路形成用の細長の切り抜き111´を有し、このスペーサ51を挟み込む形で、基板31とスペーサ51と基板41とを接着、または溶着により一体化してなる(図4参照)。スペーサ51の切り抜き111´と基板31の一面(下面)と基板41の一面(上面)とで、複数の流路111が形成される。
【0036】
符号の32、52、42は、基板31とスペーサ51と基板41とを貼り合せ場合の位置決めに用いられる穴である。
【0037】
基板31またはそれに加えて基板41は、透明な、特に核酸分析に用いる蛍光検出法における蛍光を透過し得るガラス、またはアクリル樹脂やシクロオレフィンポリマー等の樹脂製のものを用いることが好ましい。基板31には、複数の流路111(切り抜き111´)に対応して、それぞれの流入口33と流出口34とが設けられている。基板31および基板41の少なくとも一方(本実施例では、基板31)には、流路111に面する側の一面にサンプル固定層60が形成されている。サンプル固定層60は、自らの官能基と核酸サンプルに導入される官能基を反応させて核酸試料を固定する。
【0038】
サンプル固定層60としては、酸素を含む官能基が特異的に吸着することが知られている無機酸化物を用いる。特に、表面にルイス酸サイトやブロンステッド酸サイトを持つ化合物が望ましい。この様な無機酸化物として、チタニア、ジルコニア、アルミナ、ゼオライト、五酸化バナジウム、シリカ、サファイア、酸化タングステン及び五酸化タンタルからなる群から選択され、これらの少なくとも2種類の混合物或いは化合物であってもよい。特に、表面のルイス酸サイトやブロンステッド酸サイトの密度が高い、チタニア、ジルコニア、アルミナ、ゼオライト、五酸化バナジウムから選ばれる化合物が望ましい。無機酸化物は熱変性が生じにくく、フローセル(核酸分析用反応デバイス)を、スペーサ51と基板31および基板51とを加熱溶着して製作する際も、変性することがない。
【0039】
また、スペーサ51を省いて、基板31および41で核酸分析用反応デバイスを構成し、基板31および41の一方或いは両方に流路となる溝を設けてもよい。
【0040】
試薬容器105は、複数の種々の試薬容器であって、例えば、核酸試料の伸長反応および分析(核酸分子の蛍光検出)に用いる各種試薬、核酸伸長反応工程や蛍光基質の取り込み工程で生じる不要物質を洗浄するための洗浄水の容器などである。試薬容器105の数は、図1では、簡略的に表現しているが、実際には、図示よりも多数用意される。本実施例では、試薬容器105には、本発明のデバイス再生方法に利用するサンプル固定層還元用液体の容器105´も含まれる。サンプル固定層還元用液体は、一度使用された核酸分析用反応デバイスで余った未使用流路や、長時間、空気中に放置された未使用核酸分析用反応デバイスの未使用流路における酸化されたサンプル固定層を、還元反応により再生するために使用される。溶液は、本実施例では、一例として、水酸化カリウム(以下、KOHとする)を含む水溶液を用いる。このサンプル固定層還元用液体は、温度調整されることで、酸化されたサンプル固定層60に還元反応を生じさせるものである。試薬容器105は、さらに、エタノールを収容する容器を含む。エタノールの用途については、後述する。
【0041】
ステージユニット104は、核酸分析用反応デバイス102が装着されたホルダユニット103を移動させる。
【0042】
ノズル107は、ノズル移動ユニット108を介して、試薬容器105と核酸分析用反応デバイス102とノズル洗浄機構113との間を移動する。
【0043】
ここで、本実施例に係る核酸分析装置の動作について説明する。
【0044】
まず、核酸分析について説明する。予備工程で核酸試料を保持した核酸分析用反応デバイス102を、ホルダユニット103に設置する。予備工程では、流路111のうち選択された流路に核酸試料を導入して、サンプル固定層60に官能基を介して或いは担体を介して核酸試料を固定している。
【0045】
この状態で、ノズル107が核酸伸長反応および蛍光検出に必要な試薬容器にアクセスし、試薬をノズル107及び送液ユニット106を介して吸引する。ノズル107は、ノズル移動ユニット108により核酸分析用反応デバイス102上面に搬送され、核酸分析用反応デバイス102の選択した流路の流入口33を介して試薬を注入する。試薬注入後、ノズル107は、洗浄機構113まで移動させられて洗浄される。ノズル洗浄機構113は、図示省略されたノズル洗浄槽やそれに洗剤液や洗浄水を供給する機構からなる。
【0046】
一方、核酸分析用反応デバイス102における核酸試料及び注入試薬は、ホルダユニット103にて温度調整され、それにより核酸試料に蛍光色素付き基質を取り込んだ核酸伸長反応が起こる。核酸伸長反応した核酸試料を蛍光観察するために、核酸分析用反応デバイス102は、ステージユニット104によって観察位置まで移動させられる。観察位置では、検出ユニット109を介して、核酸分析用反応デバイス102に励起光を当てて観察領域内にある複数の核酸試料におけるそれぞれの伸長反応を蛍光検出する。検出後、核酸分析用反応デバイス102を、ステージ104を介して所定移動量だけ微小に動かし、同様の方法で蛍光検出という動作を複数回繰り返す。全ての観察領域での蛍光検出が終了したら、ノズル107が試薬容器105に収容された洗浄水(純水)容器にアクセスして、洗浄水を送液ユニット106により吸引し、核酸分析用反応デバイス102へ注入することで、核酸分析用反応デバイス102の流路111内を洗浄する。洗浄により流路111の流出口34を介して排出される洗浄排液(使用済みの試薬および核酸伸長反応で生じる不要物質)は、図示されない排水通路及びドレインチューブ114を通して排液容器110に送られる。
【0047】
以後、同様に流路111内における試薬の注入、洗浄、伸長反応における核酸検出という動作を複数回繰り返すことで、核酸伸長反応完了後の核酸試料の配列を分析することができる。
【0048】
以上のようにして核酸分析に一度使用された核酸分析用反応デバイス102には、図1に示すように、既に分析に使用した使用済み流路111aのほかに、分析に使用しておらず核酸試料も保持されていない未使用流路111bが存在する場合がある。
【0049】
既述したように一度、核酸分析に供された核酸分析用反応デバイス102は、デバイス全体に70度付近の熱をかけられている。未使用流路111bは、この熱によりサンプル固定層60が酸化しているため、サンプル固定能が低下している。本実施例では、かような未使用流路111bのサンプル固定層の固定機能を再生させるために、デバイス102が分析に供されていない時に、次のような再生方法が実行される。
【0050】
第1の工程:まず、ノズル107によりKOH水溶液を収容した容器105´をアクセスして、KOH水溶液(サンプル固定層還元用液体)を、ノズル107及び送液ユニット106を介して吸引し、そのノズル107を未使用流路111bの流入口33に移動させて、未使用流路111bにKOH水溶液を注入する。さらにホルダユニット103にて核酸分析用反応デバイス102全体を温度調整することで、一度目の分析で酸化してしまった未使用流路111b内のサンプル固定層に対し、KOH水溶液による還元反応を生じさせる。
【0051】
第2の工程:ノズル107は、未使用流路111bにおけるサンプル固定層60が充分な還元反応を終えた後、洗浄水の試薬容器に収容された洗浄水(純水)をノズル107及び送液ユニット106を介して吸引し、未使用流路111bへと注入することで、KOH水溶液を洗い流す。
【0052】
このKOH水溶液による還元反応と洗浄水による洗いを複数回繰り返した後、洗浄水による洗いのみを複数回繰り返して、未使用流路111b内にKOH水溶液が残らないようにする。
【0053】
最後に、ノズル107による空吸い、または空気のみの吐出を行い、未使用流路111bに残留する液体を排除する。
【0054】
ノズル107の性能や核酸分析用反応デバイス102の流路構成、またはサンプル固定層の構成によっては、洗浄水に満たされた流路内から洗浄水を完全に排除することは難しい。この場合は、試薬容器に収容されたエタノールを注入した後に、ノズル107の空吸いなどを行うことで、流路内から洗浄水の排除を効率よく行うこともできる。
【0055】
図2に核酸分析用反応デバイス102の再生方法における具体的一例を示す。なお、工程において例示される条件は、適宜変更可能であり、本例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0056】
図2において、工程1では、未使用流路111bに10%濃度のKOH水溶液を常温(25℃)でノズル107を介して45μl注入する。工程2で、KOH水溶液を55℃で温度調整し、2分間、未使用流路111bに滞留させる。その後、工程3で、常温の純水を125μl、未使用流路111bに供給してKOH水溶液を洗い流す。工程4で工程1同様のKOH水溶液注入を行い、工程5で工程2同様の温度調整を行なう。その後、工程6、7、8で未使用流路111bの洗浄を3回繰り返す。最後に、工程9で、未使用流路111bに濃度100パーセント、125μlのエタノールを注入した後に、ノズル107の空吸い或いは空気吐き出しなどを行うことで、流路内から残留洗浄水の排除を行なう。
【0057】
上記実施例によれば、核酸分析用反応デバイスが一度目に使用された時に余った未使用流路が生じた場合、酸化により劣化した未使用流路を還元し且つ洗浄することで、サンプル固定層の機能を再生し、次回の使用に供することができる。
【0058】
本実施例では、サンプル固定層還元用液体として、水酸化カリウム(以下、KOHとする)を含む水溶液を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、それに代わるものとして、水酸化ナトリウム水、トリエチルアミドアンモニア水、硫酸アンモニア化水等でも同様の効果を奏するものと考えられる。
【0059】
また、サンプル固定層還元用液体の還元反応温度は、15℃〜70℃で可能であり、さらに好ましい温度として、40℃〜70℃が考えられる。また、流路内から洗浄水の排水を行なうには、エタノールに代わって、イソプロパノールやメタノールでも良い。
【0060】
また、本実施例では、一度使用された核酸分析用反応デバイスの再生方法について説明したが、この再生方法は、開封後、長時間空気中に放置された未使用核酸分析用反応デバイスに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0061】
60…サンプル固定層、101…核酸分析装置、102…核酸分析用反応デバイス、103…ホルダユニット、104…ステージユニット、105…試薬容器、105´…サンプル固定層還元用液体の容器、106…送液ユニット、107…ノズル、108…ノズル移動ユニット、109…検出ユニット、110…廃液容器、111…流路、111a…使用済み流路、111b…未使用流路、113…洗浄機構。
図1
図2
図3
図4