(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5838106
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置用防音カバー及び荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/16 20060101AFI20151203BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
H01J37/16
H01J37/09 Z
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-55233(P2012-55233)
(22)【出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2013-191333(P2013-191333A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年8月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】武藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】菊池 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩大
(72)【発明者】
【氏名】長沖 功
(72)【発明者】
【氏名】高野 靖
【審査官】
遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−222778(JP,A)
【文献】
特開2006−079870(JP,A)
【文献】
特開2009−220652(JP,A)
【文献】
特開2008−009014(JP,A)
【文献】
特開2008−138505(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/158458(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/16
H01J 37/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置を包囲する防音カバーにおいて、
当該防音カバーの内壁に沿った壁面を持つ筒状体を形成する空洞部形成部材を備え、
当該空洞部形成部材によって形成される筒状体の一端は開放され、
当該筒状部の他端は閉じられていることにより、当該防音カバー内で発生する音響定在波を低減し、
前記空洞形成部材は、前記防音カバーの側壁に前記筒状体を形成し、
前記筒状体は当該防音カバーの天板と接する第1の空間、当該防音カバーの高さ方向の中心領域を含む第2の空間、及び底部を含む第3の空間の少なくとも1つに位置する開口を有し、
前記筒状体は、前記側壁の高さ方向に、少なくとも4つ配列され、
天板に一番近い筒状体は、前記第1の空間に開口を持ち、
天板に2番目と3番目に近い筒状体は、前記第2の空間に開口を持ち、
天板から4番目に近い筒状体は、前記第3の空間に開口を持つことを特徴とする荷電粒子線装置用防音カバー。
【請求項2】
請求項1において、
前記空洞部形成部材は、複数の前記筒状体を、前記防音カバーの内壁に沿って配列するように、当該筒状体を形成することを特徴とする荷電粒子線装置用防音カバー。
【請求項3】
請求項1において、
前記荷電粒子線装置とは、走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、及び荷電粒子線を用いた試料加工装置の少なくとも1つである荷電粒子線装置用防音カバー。
【請求項4】
請求項1において、
前記荷電粒子線装置とは、測長装置、レビュー装置、及び欠陥検査装置の少なくとも1つである荷電粒子線装置用防音カバー。
【請求項5】
請求項1において、
前記筒状体の空洞部の長さを、前記防音カバーの高さの1/4程度としたことを特徴とする荷電粒子線装置用防音カバー。
【請求項6】
請求項1において、
前記開口に多孔板を設置したことを特徴とする荷電粒子線装置用防音カバー。
【請求項7】
請求項1において、
前記空洞形成部材は、前記防音カバーの天板に前記筒状体を形成することを特徴とする荷電粒子線装置用防音カバー。
【請求項8】
請求項1において、
前記空洞形成部材は、前記防音カバーの底部に前記筒状体を形成することを特徴とする荷電粒子線装置用防音カバー。
【請求項9】
請求項1において、
前記空洞部形成部材は、前記筒状体を、前記防音カバーの内側、外側、あるいはその両方に対して、多段重ねて形成することを特徴とする荷電粒子線装置用防音カバー。
【請求項10】
請求項1において、
前記空洞部形成部材は、前記筒状体を、前記防音カバーの内側の空間に対して、一段もしくは多段重ねて形成することを特徴とする荷電粒子線装置用防音カバー。
【請求項11】
荷電粒子源と、当該荷電粒子源から放出される荷電粒子線が照射される試料を保持する試料台を備えた荷電粒子線装置において、
当該荷電粒子線装置を包囲する防音カバーを有し、
当該防音カバーは、当該防音カバーの内壁に沿った壁面を持つ筒状体を形成する空洞部形成部材を備え、
当該空洞部形成部材によって形成される筒状体の一端は開放され、
当該筒状部の他端は閉じられていることにより、当該防音カバー内で発生する音響定在波を低減し、
前記空洞形成部材は、前記防音カバーの側壁に前記筒状体を形成し、
前記筒状体は、当該防音カバーの天板と接する第1の空間、当該防音カバーの高さ方向の中心領域を含む第2の空間、及び底部を含む第3の空間の内、少なくとも第2の空間に位置する開口を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記空洞部形成部材は、複数の前記筒状体を、前記防音カバーの内壁に沿って配列するように、当該筒状体を形成することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項11において、
前記空洞形成部材は、前記防音カバーの側壁に前記筒状体を形成し、
前記開口が、当該防音カバーの天板と接する第1の空間、当該防音カバーの高さ方向の中心領域を含む第2の空間、及び底部を含む第3の空間の少なくとも1つに位置するように、前記筒状体を形成していることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項11において、
前記荷電粒子線装置とは、走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、前記荷電粒子線を用いた試料加工装置、測長装置、レビュー装置、及び欠陥検査装置の少なくとも1つであることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項15】
請求項11において、
前記試料台は、前記第2の空間に配置されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置等に用いられる防音カバーに係り、特に特定周波数の音の影響を抑制し得る防音カバー及び、荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線を用いた微小構造の高分解能での観察を行う電子顕微鏡などの荷電粒子線装置では、分解能の向上に伴って外部からの微小な振動や音によって画像障害の発生が顕在化している。このため、設置環境音が照射されることによって発生する画像障害の発生を防ぐことを目的に、装置へ照射される音波の伝達を遮断する手段として装置を外側から覆うに防音カバーが設置される。
【0003】
防音カバーは音波の回り込む性質を考慮し、さらに施工性や低コスト化を鑑みて通常は上下、左右、上下面を有する6面体構造を形成する。
【0004】
このカバーの防音性能を向上するには、カバー内部を吸音することが有効で、有機多孔質材料をカバー内面に張り巡らすのが効果的である。しかしながら、荷電粒子線装置はクリーンルーム内で使われることが一般的であり、これら有機材料の飛沫による発塵性がクリーンルームの防塵性を阻害して問題となる場合がある。これを回避する手段として、防塵繊維で吸音材を覆って防音カバー内面に取り付ける技術が特許文献1に開示されている。
【0005】
また、一般に音響工学の分野では、フラスコ型の容器の形状の口部における空気振動に起因して容器の形状に依存した共鳴周波数が存在することが知られている。これはヘルムホルツ共鳴器と呼ばれ、この吸音原理を利用して吸音する技術がある。例えばこの技術を利用したものとして、特許文献2には、多数の小孔を備えた箱部材からなる吸音構造体が開示されている。また、特許文献3および特許文献4には二重窓のサッシ部分にヘルムホルツ共鳴器を設置した構造が、特許文献5には鉄道車両のスカート部下部にヘルムホルツ共鳴器を設置した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−79870号公報
【特許文献2】特開2008−138505号公報
【特許文献3】特許第4232153号公報
【特許文献4】特開2010−216104号公報
【特許文献5】特許第3911208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
分解能の高い荷電粒子線装置には、装置へ照射される音波の伝達を遮断する手段として防音カバーが設置され、これにより比較的高周波の耐騒音性能は向上する。しかし一方で、低周波数領域においては耐騒音性能が低下する場合がある。これは、一般的な設計では装置の中で振動に対して敏感な部位がカバー中央部付近に配置されるのに対し、ある周波数ではカバー内に発生した音響定在波の音圧の腹が、ちょうどそのカバー中央にきてしまうことによって、振動に対して敏感な部位をよく加振させてしまうために引き起こされる。
【0008】
この特定周波数の音によって生じる振動に対して、特許文献1の防音カバーで対応する場合、対象となる周波数が低いために設置するべき吸音材の厚さが厚くなる。また、特許文献2に開示されている従来技術では、板厚と同程度以下の開口径の穴を無数に開ける必要があり、一般的なパンチング加工では困難であるため、別途レーザー加工が必要となり、製作コストが膨らむ可能性がある。さらに、特許文献3ないし特許文献5では、荷電粒子線装置において問題となる周波数に特化した吸音構造によって、効率的に吸音を行うことのできる形状や設置箇所などの構造を提供するものではない。
【0009】
以下に、特定周波数によってもたらされる画像障害の抑制と、小型化の両立を実現することを目的とする防音カバー、及び荷電粒子線装置について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための一態様として、以下に荷電粒子線装置を包囲する防音カバーにおいて、当該防音カバーの内壁に沿った壁面を持つ筒状体を形成する空洞部形成部材を備え、当該空洞部形成部材によって形成される筒状体の一端は開放され、当該筒状部の他端は閉じられている防音カバー、及び当該防音カバーに包囲される荷電粒子線装置を提案する。
【発明の効果】
【0011】
上記構成によれば、厚い吸音材等を必要とせず、小型であり、且つ特定周波数によってもたらされる画像障害を抑制することができる防音カバー、及び荷電粒子線装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】荷電粒子線装置の耐騒音性能の周波数特性を示す図。
【
図3】荷電粒子線装置に対して防音カバーを設置した例を示す図。
【
図5】荷電粒子線装置と、防音カバー内に発生する音響定在波との関係を示す図。
【
図6】防音カバーを設置した荷電粒子線装置の一例を示す図。
【
図8】防音カバーの効果を検証する数値解析モデルを説明する図。
【
図9】本発明の実施例1の効果を検証する数値解析の結果を説明する図。
【
図10】防音カバーの効果を検証する数値解析の結果を説明する別の図。
【
図11】防音カバーを設置した荷電粒子線装置の他の例を示す図。
【
図12】防音カバーを設置した荷電粒子線装置の更に他の例を示す図。
【
図13】防音カバーを設置した荷電粒子線装置の更に他の例を示す図。
【
図14】防音カバーを設置した荷電粒子線装置の更に他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に説明する実施例は、音響加振されることによって像障害が発生する荷電粒子線装置に関する。その一例として、外部環境からの騒音や振動を低減するための防音カバーに関するもので、特にクリーンルームなどで使用されることを想定したものである。
【0014】
特に、本実施例では、設置環境音によって引き起こる画像障害の発生を防止することを目的に設置される高分解能荷電粒子線装置用の防音カバーについて、全周波数帯域に渡って満遍なく耐騒音性能を向上させ、且つ、荷電粒子線装置の設置環境であるクリーンルームの使用に耐えうる防塵性と、メンテナンスを考慮したカバー開閉の容易性を損なうことなく、安価に実現する構造を説明する。
【0015】
より具体的には、本実施例では電子銃と試料室、および検出器から構成される荷電粒子線装置と、該荷電粒子線装置の外側を覆う防音カバーに関し、該荷電粒子線装置は100nm以下のものも判別できる非常に高分解能で観察できるものであり、且つ、装置の端部に電子銃、もしくは検出器、あるいはその両方が配置されるもので、且つ、装置の中央部に試料室が配置され、該防音カバーは、内面に対して、一方が開き他方が閉じた筒状空洞部を有し、該筒状空洞部の開口部分を、カバー内部の上下左右方向端部、もしくは上下左右方向中央部、あるいはその両方にくるように配置した例について説明する。
【0016】
上述のように、防音カバーの内壁に沿った壁面を持つ筒状体を形成する空洞部形成部材を備え、当該空洞部形成部材によって形成される筒状体の一端は開放され、当該筒状体の他端は閉じられている防音カバーは、カバー内にもたらされる音の影響を効率良く排除することができる。具体的には、カバー内で発生する音響定在波の音圧の腹の位置に、該音響定在波の発生周波数での吸音特性が大きな吸音機構を設置することが可能となる。以下に詳述する防音カバーは、特に高分解能の荷電粒子線装置に適用することが有効であり、設置環境音によって引き起こされる画像障害の発生を防止することができる。
【0017】
また、以下に説明する防音カバーは、全周波数帯域に渡って満遍なく耐騒音性能を向上させることができる。また、荷電粒子線装置の設置環境であるクリーンルームの使用に耐えうる防塵性とメンテナンスを考慮したカバー開閉の容易性を損なうことなく、安価に提供することができる。
【0018】
以下でいう荷電粒子線装置とは、汎用の走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、測長装置(CD−SEM)、レビュー装置、欠陥検査装置、荷電粒子線を用いた試料加工装置等、高精度の検査、観察、加工をする装置を指し、装置の微小な振動によって、画像障害が発生する装置全般をいう。
【0019】
図1は荷電粒子線装置100の一例である透過電子顕微鏡の全体構成を示す模式図である。
図1の透過電子顕微鏡は、カラム101と収束器102、試料室103、ステージ104、ホルダ105、試料106、検出器107、架台108、除振台109などからなり、カラム101内にある電子銃110(荷電粒子源)から射出された電子が試料106を透過して検出器107で検出される。収束器102での電磁場の与え方を変化させると、電子銃110から射出される電子の軌道が極僅かに歪むため、試料106を電子が透過する位置が極僅かに変化し、それに伴って検出器107で検出される電子の強度が変化する。このようにして試料106中を透過する電子の強度を対応する座標に対する濃淡として画像化することで、試料の微細構造の拡大像を得ることができる。
【0020】
このように荷電粒子線装置は撮像装置であるため、主性能は分解能である。しかし、大変微小な構造を拡大表示しているために、非常に些細な外乱によっても画像障害が発生する。先述の除振台109は床からの振動によって発生する画像障害を防ぐために設置されているものであり、その効果として床振動による画像障害は低減した。一方で、ますます高精細化する分解能の向上に伴って、特に100nm以下の分解能を実現する最近の高分解能機種では、荷電粒子線装置の設置環境音によって発生する画像障害も顕在化してきた。
【0021】
この設置環境音と画像障害の量の対応関係について、以下で説明する。荷電粒子線装置に音波を照射したときの照射音圧と画像障害の量を測定・把握しておき、その対応関係をもとに、画像障害の程度が所定の値以下となるためには、何dB以下の設置環境音が求められるかを換算したものを「許容音圧」と呼び、値が大きいほど煩い環境でも所定の分解能を確保できることを意味し、耐騒音性能がよいことを表す。
図2は、この「許容音圧」を示した一例で、一般に周波数特性を持つことが知られており、特にある周波数で下に凸となることが知られている。このように、許容音圧の周波数特性がある周波数において下に凸になるのは、この周波数で設置環境音によって画像障害が発生しやすいということを表しているが、これは、荷電粒子線装置の構造のいずれかにこの周波数で振動しやすい部位があり、その固有振動の影響をうけているためである。透過電子顕微鏡の場合では、一般にこれはホルダ105の固有振動に起因し、許容音圧が落ち込む周波数もホルダ105の固有振動周波数と一致することが多い。
【0022】
このような設置環境音によって発生する画像障害への耐性、つまり耐騒音性能を向上するための方法として、最近では高分解能の荷電粒子線装置に対して
図3に示すような防音カバー200が設置される。この防音カバー200の設置により、高い周波数では広い範囲で耐騒音性能を向上させ、先述の荷電粒子線装置の構造各部の固有振動に起因した許容音圧の落ち込みも改善される。
【0023】
しかし
図4に示すように、防音カバー200の設置によって高周波数領域において耐騒音性能が向上する一方で、低周波数領域の特にある限定した周波数帯域においては、かえって耐騒音性能は悪化するという現象が確認されている。
【0024】
これは
図5に示すような音響定在波がカバー内で発生するためで、一般的な設計では装置の中で振動に対して敏感な部位がカバー中央部付近に配置されるのに対し、カバー内で発生した音響定在波の音圧の腹が、ちょうどこのカバー中央にきてしまうことによって、振動に対して敏感な部位をよく加振させてしまうために引き起こされる。
【0025】
以下に説明する実施例では、このカバー内で発生する音響定在波がカバーの寸法で決まる周波数で発生することを逆手に取り、カバー内音響定在波を効果的に低減する構造を提供する。以下、実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0026】
本実施例では、カバー内音響定在波を効果的に低減できる防音カバー構造とそれを具備した荷電粒子線装置の実施例について
図6ないし
図7を用いて説明する。
【0027】
図6は、本実施例の荷電粒子線装置およびその防音カバーの構成の断面図の例で、このうち破線で示す部分の斜視図を
図7に示す。
図6に示す実施例では、カバー内面に対して、一方が閉じ他方が開いた筒状空洞部210について、その筒状空洞部210の開口部211を音響定在波の音圧の腹となるカバー内部の上面、下面およりカバー上下方向中央部にくるように、防音カバーの側壁内面に設置されている。
図7に例示する防音パネルは、荷電粒子線装置を包囲する防音カバー内壁に設置され、当該防音カバーの内壁に沿った壁面を持つ筒状体が複数、防音カバー内壁に沿って配列されるように形成されている。この防音パネルは、筒状体の閉じられた側が、他の筒状体の閉じられた側と連結するように形成されている。本実施例の場合、この防音パネルが空洞部形成部材となるが、これに限られることはなく、後述するような効果を発揮できる他の筒状体とするようにしても良い。
【0028】
先述のように、荷電粒子線装置の中でも特に透過電子顕微鏡は、その構造上、ホルダ105の部分が振動に弱く、これによりホルダ105の固有周波数近辺で周囲の周波数よりも耐騒音性能が悪い。この周波数における耐騒音性能の落ち込みは防音カバー200の設置で改善するが、さきほどのホルダ105の固有振動数よりも低い別の周波数では、ホルダが配置されるカバー中央付近にて音圧の腹となる音響定在波が発生して耐騒音性能が悪化する。ところでこのホルダが配置されるカバー中央で音圧の腹となる音響定在波(音響モード)の発生周波数はカバーの形状・寸法に依存し、例えば縦方向三段腹モードでは、カバーの高さをh[m]とすると340/h[Hz]に発生する。仮にカバーの高さを2[m]とすると縦方向三段腹モードの発生周波数は170[Hz]となる。
【0029】
これに対して一方が閉じ他方が開いた筒はその筒の長さの4倍の波長の音が到来した時に、その到来音波の逆位相の音を再放射することによって、元の到来音を打ち消し、低減(吸音)することが知られている。これは吸音管とよばれ、その長さをl[m]とすると、この吸音管が最も吸音効果を発揮する周波数は340/4l[Hz]である。
【0030】
この吸音管を用いて先ほどの高さh[m]のカバー内に発生する縦方向三段腹モードの定在波を効果的に吸音する場合、その長さl[m]はl=h/4[m]となり、ちょうど高さ方向を4等分する長さとなる。また、吸音効果を最大限に発揮するには開口部211を音圧の腹の位置に設置するのがよく、縦方向三段腹モードではカバー上内面、カバー下内面およびカバー内高さ方向中央に開口部が来るように設置する。
【0031】
本実施例では、天板と接する第1の空間、当該第1の空間より下方に位置し、防音カバーの高さ方向の中心領域を含む第2の空間、及び当該第2の空間より下方に位置し、底部を含む第3の空間に開口が位置するように、
図7に例示する防音パネルを、4面の側壁のそれぞれに各2つ設置している。本例の防音パネルは、高さ方向に4つの筒状体が配列され、上記第1〜第3の空間のそれぞれに開口が位置するように形成されている。このうち、第2の空間は、防音カバーの高さ方向のほぼ中央に位置し、透過電子顕微鏡の試料ホルダ(試料台)が位置する領域となる。
【0032】
このような構成を
図6および
図7に示すような配置でカバー内面に設置することで、吸音管として機能する筒状空洞部210同士が重なることはなく、結果、カバー内に発生する縦方向三段腹モードを効果的に抑制することができ、全周波数帯域において満遍なく耐騒音性能を向上することのできる防音カバー構造を提供することができる。
【0033】
実施例1に示した構造の効果について、数値解析を用いて検証した結果について、
図8ないし
図10を用いて説明する。
【0034】
図8は実施例1に示した構造の効果について検証するために作成した解析モデルである。モデルは防音カバーのみをモデル化しており、カバーは一般的な透過電子顕微鏡に相当する高さ2m、幅1m、奥行き1.4mとした。内部の吸音管の設置については、吸音管を設置しない場合(モデル1)、実施例1に相当する場合(モデル2)、実施例1のうち下1/4のみを設置した場合(モデル3)、吸音管の長さは実施例1と同等だが開口の位置が異なる場合(モデル4)の4種類を用意した。
【0035】
これらのモデルに対して、カバー側面外側1m、床上1mの位置に点音源を配置し、カバー下端から10mm下の位置に床を模擬した反射面を設定したときに、この床とカバーの隙間から漏洩してカバー内部に伝わる音を計算した結果を
図9に示す。図は175Hzにおける縦方向の音圧レベル(コンターの単位は[dB])の断面を示したもので、モデル1では先述のようにして計算される当該周波数で縦方向三段腹モードが発生することがわかる。これに対し、実施例1に相当するモデル2では上記の音響定在波が効果的に抑制されているのが分かる。一方、モデル3では定在波の抑制が十分ではなく、モデル4に至っては縦方向三段腹モードが未だ確認できるほどに抑制効果は小さい。
【0036】
図10は上記に示す各モデルについて音圧の周波数特性を求めたもので、
図10の上図に示す音圧評価点の平均音圧について示している。これについても上記と同様に説明でき、実施例1に相当するモデル2が当該周波数で最もカバー内騒音を低減できることが示される。
【実施例2】
【0037】
本実施例では、側面のみでなく天井の内面や床面を利用して吸音管を設置することで、縦方向三段腹モードや横方向二段腹モードの音響定在波も抑制できる構造の例について
図11を用いて説明する。
図11は防音カバー200の天井の内面や床面を有効利用することを目的に
図6で示した実施例1の筒状空洞部210についてその筒の長さ方向を、カバー内においてカバー高さ方向ではなくカバー横方向に設置している。このようにすることで防音カバー200の天井の内面や床面を有効利用することができるほか、寄与は小さいがカバー内横方向二段腹モードを低減することができ、実施例1に対して更に画像障害の低減ができると期待される。
【実施例3】
【0038】
次に別の実施例として、多孔板と組み合わせたパターンについて
図12を用いて説明する。
図12では
図6に示し実施例1にて説明した構造の筒状空洞部210の開口部211に対して多孔板を設置した例について示している。このように多孔板を開口部に設置することにより、開口部で振動する空気の動きやすさを妨げることで、多孔板を設けない場合に比べて短い長さの筒状空洞部でも、吸音効果を発揮することができる。これによりカバー内面の一帯に筒状空洞部を設置できない場合でも、同等の吸音効果を発揮できる。また多孔板の開孔率が極めて小さい場合には、筒状空洞部長さを短く取ることができ、これにより開口方向をカバー面に垂直な方向に設置することができるようになって設計上の自由度が増す。
【実施例4】
【0039】
次に更に別の実施例として、筒状空洞部を防音カバー内面に対して多段設置したパターンについて、
図13を用いて説明する。
図13では、
図6に示し実施例1にて説明した構造において防音カバー200の内面に対して設置された筒状空洞部210のさらに内面に対して、再度筒状空洞部210を設置した例を示している。このように筒状空洞部は多段にして設置してもよく、その筒状空洞部の長さは1段目と同じである必要はない。また、
図11で示した実施例2のような防音カバー天井面や床面を用いた場合でも同様に多段にしてもよい。
【0040】
このような筒状空洞部の多段構造をうまく設定することにより、全周波数帯的な耐騒音性能向上が期待できる。たとえば、
図10の下図にて実施例1を適用したモデル2において、実施例1を適用しないモデル1よりもカバー内音圧が上昇してしまう帯域に対しても、二段目・三段目の筒状空洞部の設置により改善することが期待される。
【実施例5】
【0041】
次に更に別の実施例として、多段配置した筒状空洞部を防音カバー天井より吊るすようにして配置したパターンについて、
図14を用いて説明する。
図14では
図13に示し実施例4にて説明した構造において筒状空洞部の多段構造を防音カバー内面に直接配置するのではなく、例えば防音カバー天井面から持具を用いて吊り下げて構成した例について示している。荷電粒子線装置の防音カバーの内側は上の方に比較的広いスペースがある。一方で、防音カバー自体はメンテナンスの都合上、開閉作業が容易にできるようにする必要があるため、あまり内面に構造物を設置できないという制約がある。このような場合は、図のように実施例4に示した筒状空洞部の多段構造を天井面から持具を用いて吊り下げて構成するなどして、防音カバー内面へ直接設置させないような構成としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
100 荷電粒子線装置
101 カラム
102 収束器
103 試料室
104 ステージ
105 ホルダ
106 試料
107 検出器
108 架台
109 除振台
110 電子銃
200 防音カバー
210 筒状空洞部
211 筒状空洞部の開口部
212 多孔板