特許第5839150号(P5839150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5839150圧力センサ及びそれを用いたマスフローメータ並びにマスフローコントローラ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5839150
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】圧力センサ及びそれを用いたマスフローメータ並びにマスフローコントローラ
(51)【国際特許分類】
   G01L 9/00 20060101AFI20151210BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20151210BHJP
【FI】
   G01L9/00 303L
   H01L29/84 A
【請求項の数】20
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-518156(P2015-518156)
(86)(22)【出願日】2014年4月15日
(86)【国際出願番号】JP2014060673
(87)【国際公開番号】WO2014188817
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2015年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-109618(P2013-109618)
(32)【優先日】2013年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健悟
(72)【発明者】
【氏名】坂口 勇夫
(72)【発明者】
【氏名】風間 敦
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5186725(JP,B2)
【文献】 特開2013−011478(JP,A)
【文献】 特許第4337656(JP,B2)
【文献】 特許第5064658(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
本件特許出願に対応する国際特許出願PCT/JP2014/060673の調査報告が利用された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力により変形する薄膜部と支持部から成る第1の材料で形成されたダイアフラムと、該ダイアフラム上に接合され、第2の材料に複数のひずみゲージを形成しているひずみセンサとを備え、前記ひずみセンサが前記ダイアフラムの中心から離れた端部位置に接合されていると共に、前記ひずみセンサは、2つが相対向して配置されるひずみゲージが4つ一組でブリッジ回路が形成され、そのうちの一方の相対向する2つの前記ひずみゲージと他方の相対向する2つの前記ひずみゲージは垂直な方向になるように配置され、しかも、前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向に対して垂直な方向で、かつ、前記ひずみセンサと隣接又は所定距離離れたダイアフラム上に段差が形成されていることを特徴とする圧カセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の圧力センサにおいて、
前記複数のひずみゲージは、前記ひずみセンサの中心近傍に形成され、かつ、前記ひずみセンサの中心が、前記ダイアフラムの薄膜部の端近傍に合うように接合されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧力センサにおいて、
前記段差は、前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向に対して垂直な方向に、前記ひずみセンサを挟むように少なくとも2個形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項4】
請求項3に記載の圧力センサにおいて、
前記段差は、前記ダイアフラムの薄膜部を貫通しない深さで形成されていると共に、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向においては、その長さが前記ひずみセンサと同等で、かつ、その位置は前記ひずみセンサの端から端まで位置ずれなく設けられ、一方、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向に対して垂直な方向においては、その長さが前記ダイアフラムの端までは形成されておらず、かつ、その位置は前記ひずみセンサと隣接又は所定距離離れ、少なくとも一部が前記ダイアフラムの薄膜部を含む範囲に形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項5】
請求項3に記載の圧力センサにおいて、
前記段差は、前記ダイアフラムの薄膜部を貫通しない深さで形成されていると共に、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向においては、その長さは前記ひずみセンサより長く形成され、かつ、前記ひずみセンサと同等の位置から中心を跨ぐ範囲に設けられ、一方、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向に対して垂直な方向においては、その長さは前記ダイアフラムの端まで形成されておらず、かつ、その位置は前記ひずみセンサと隣接又は所定距離離れ、少なくとも一部が前記ダイアフラムの薄膜部を含む範囲に形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項6】
請求項3に記載の圧力センサにおいて、
前記段差は、前記ダイアフラムの薄膜部を貫通しない深さで形成されていると共に、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向においては、前記ダイアフラムの端から端まで設けられ、一方、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向に対して垂直な方向においては、その長さは前記ダイアフラムの端まで形成されておらず、その位置は前記ひずみセンサと隣接又は所定距離離れ、少なくとも一部が前記ダイアフラムの薄膜部を含む範囲に形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項7】
請求項3に記載の圧力センサにおいて、
前記段差は、前記ダイアフラムの薄膜部を貫通しない深さで形成されていると共に、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向においては、前記ダイアフラムの端から端まで設けられ、一方、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向に対して垂直な方向においては、前記ひずみセンサと隣接又は所定距離離れた位置から前記ダイアフラムの端まで形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項8】
請求項3に記載の圧力センサにおいて、
前記段差は、前記ダイアフラムの薄膜部を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向においては、前記ダイアフラムの端から端まで設けられ、一方、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向に対して垂直な方向においては、前記ひずみセンサの隣接した位置から前記ダイアフラムの端まで形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項9】
請求項3に記載の圧力センサにおいて、
前記段差は、前記ダイアフラムの薄膜部を貫通しない深さで形成されていると共に、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向においては、その長さは前記ひずみセンサより長く形成され、かつ、その位置は、前記ダイアフラムの端から前記ダイアフラムの中心位置まで設けられ、一方、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向に対して垂直な方向においては、前記ひずみセンサと隣接又は所定距離離れた位置から前記ダイアフラムの端まで形成され、少なくとも一部が前記ダイアフラムの薄膜部を含む範囲に形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項10】
請求項3に記載の圧力センサにおいて、
前記段差は、前記ダイアフラムの薄膜部を貫通しない深さで形成されていると共に、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向においては、前記ダイアフラムの薄膜部の端部から前記ダイアフラムの中心を跨いだもう一方の前記ダイアフラムの薄膜部の端部まで設けられ、一方、前記段差の前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向に対して垂直な方向においては、前記ひずみセンサと隣接又は所定距離離れた位置から前記ダイアフラムの薄膜部の端部まで形成され、前記ダイアフラムの支持部の表面には形成されていないことを特徴とする圧力センサ。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の圧力センサにおいて、
前記ひずみセンサがシリコンで形成され、かつ、前記ダイアフラムが金属材料で形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項12】
請求項11に記載の圧力センサにおいて、
前記ダイアフラムの金属材料は、SUS316L材であることを特徴とする圧力センサ。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の圧力センサにおいて、
前記ひずみセンサの接合に、Au/Sn共晶接合或いはAu/Ge共晶接合又はバナジウム系低融点ガラス(V−glass)を用いていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の圧力センサにおいて、
前記ダイアフラムの底部に他部材と締結するためのフランジを備え、前記フランジが気密ハウジングと固定され、前記ダイアフラムと前記気密ハウジングで囲まれた気密空間が一定の気圧を維持するように構成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載の圧力センサにおいて、
前記フランジの上方で、かつ、前記ダイヤフラムの支持部の側面に、前記ひずみセンサが接合された位置から前記ダイアフラム中心方向に伸延する切欠きが形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の圧力センサにおいて、
前記ダイヤフラムは、その表面に前記ひずみセンサの線膨張係数と近い線膨張係数の材質からなる被接合部材を有し、該被接合部材を介して前記ひずみセンサが接合されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項17】
請求項16に記載の圧力センサにおいて、
前記被接合部材の表面に、前記段差が形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の圧力センサにおいて、
前記被接合部材は、Kovar(Ni-Co-Fe)又は42Alloy(42Ni-Fe)で形成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の圧力センサを組み込んで評価対象の圧力をモニタリングすることを特徴とするマスフローメータ。
【請求項20】
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の圧力センサを組み込んで評価対象の圧力をモニタリングすることを特徴とするマスフローコントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧力センサに係り、特に、圧力印加に伴うダイアフラムの変形を利用して圧力を検出するのに好適な圧力センサ及びそれを用いたマスフローメータ並びにマスフローコントローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧力印加に伴うダイアフラムの変形を利用して圧力を検出する圧力センサとしては、ダイアフラム上にひずみゲージを形成(貼り付け等)することにより、圧力印加に伴うダイアフラムの変形をひずみとして検出する圧力センサが良く知られている。
【0003】
上述のひずみゲージは、わずかな変形であっても自身の電気抵抗を変える。通常、ひずみゲージは4つ一組で形成されており、ブリッジ回路を構成することで圧力に比例した差動電圧出力として計測する方法が良く用いられており、ブリッジ回路を構成し、ひずみゲージ自体の温度特性を補償することを可能としている。例えば、ひずみゲージ自体に温度特性を有していても、温度変化による4つのひずみゲージの変形が各々等しい時には、ひずみセンサの出力は変動しない。
【0004】
また、計測対象の圧力が低い場合には、シリコン基板を一部薄膜化することで受圧部となるシリコンダイアフラムを形成し、このダイアフラム上にひずみゲージを不純物拡散で形成する構成の圧力センサが用いられる。このセンサは、感度が高く、ICを一体構造として形成することが可能であるなどの利点を有している。
【0005】
しかしながら、計測対象の圧力が高い場合や耐食性が必要な場合には適しておらず、金属製のダイアフラムにひずみゲージを貼りつけるか、ひずみゲージを形成したひずみセンサを貼りつけた構成の圧力センサが多く使用される。
【0006】
特許文献1には、圧力センサが開示され、第1の材料から成る第1のダイアフラムが、温度に関しての横膨脹を、第2の材料のひずみセンサのひずみゲージに伝達するようになっており、横膨脹の伝達が、第1のダイアフラムと少なくとも一部との間に設けられた第1の結合材料を介して行われるようになっている。しかも、第1の材料から成る第1のダイアフラムが、第2の材料のひずみセンサよりも大きな熱膨張係数を有しており、第1のダイアフラムが、温度に関しての横膨脹を、ひずみセンサのひずみゲージに伝達し、横膨脹の伝達を、第1のダイアフラムと第1の領域の少なくとも一部との間に設けられた第1の結合材料を介して行うようになっている。
【0007】
また、特許文献2には、ダイアフラムの直径方向の厚肉の梁部と、この厚肉の梁部を除く薄肉の膜部と、厚肉の梁部の上面に形成されたひずみセンサとから成る半導体圧力センサのダイヤフラムが記載され、厚肉の梁部と薄肉の膜部とで段差が形成されることが想定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−227283号公報
【特許文献2】特開平6−241930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の特許文献1には、ひずみセンサとダイアフラムの熱膨張係数の差によるひずみセンサの破損を防止する圧力センサの仕組みが記載されているが、ひずみセンサを高温で固定することによる初期ゼロ点出力のオフセットや、センサ使用時の温度変化に伴うゼロ点出力の変動を改善する効果は期待できない。
【0010】
通常、圧力印加や温度変化に伴いひずみセンサが等方的に変形する場所にひずみセンサを設置した場合は、ブリッジ回路の機能により出力は変動しない。しかし、ひずみセンサの設置場所は、圧力印加に伴い出力を得るために、ひずみセンサにひずみの差が発生する場所である必要がある。よって、温度変化に伴いひずみセンサとダイアフラムの熱膨張係数の差によって引き起こされるひずみセンサの変形も等方的では無く、上記の課題が発生する。
【0011】
即ち、従来構造の圧力センサにおいては、ダイアフラム薄膜部の端部にひずみセンサを固定した場合には、温度変化に伴い出力が発生する。これは、ダイアフラムの材料である鋼の熱膨張係数が、ひずみセンサの材料であるシリコンの5倍以上と差があるためである。また、ダイアフラム薄膜部の変形を効率良くひずみセンサに伝えるための接合層が、堅い材料であるAu/SnやAu/Geで形成されている影響も大きい。
【0012】
また、圧力センサの外部の温度が低下すると、ひずみセンサにはX方向(図2参照)とY方向(図2参照)共に、圧縮のひずみが発生する。両者のひずみが等しければ出力は変化しないが、ダイアフラム薄膜部の端部の厚みのある部分にひずみセンサが固定されているので、X方向よりY方向の圧縮ひずみの方が大きくなるために、出力が変化する。これは、X方向はダイアフラム薄膜部が変形することにより応力緩和しているが、Y方向ではダイアフラム薄膜部の面積が小さく変形し辛いため、X方向よりも応力を緩和できないことが原因である。
【0013】
また、ダイアフラムとひずみセンサの固定には、Au/Sn共晶接合などの280℃以上の高温での接合を用いるため、接合後に温度を低下させると、X方向とY方向でひずみ差が発生し、初期ゼロ点の出力オフセットとして検出される。この初期ゼロ点の出力オフセットが発生すると、オフセット分をゼロに修正するための回路が必要となったり、圧力センサの使用範囲が狭くなったりするなどの課題が発生する。また、圧力センサの使用時においても、民生用圧力センサにおいては100℃程度、車載用圧力センサにおいては160℃程度の温度変化があるため、圧力センサのゼロ点出力は変動してしまう。
【0014】
また、特許文献2には、ひずみセンサがダイアフラムの端部に配置されることについては記載されておらず、ひずみセンサと段差との位置関係も不明であり、上記課題を解決できないことは明らかである。
【0015】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、ひずみセンサの初期ゼロ点の出力オフセット及び温度変化に伴うゼロ点の出力変動を改善した圧力センサ及びそれを用いたマスフローメータ並びにマスフローコントローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の圧力センサは、上記目的を達成するために、圧力により変形する薄膜部と支持部から成る第1の材料で形成されたダイアフラムと、該ダイアフラム上に接合され、第2の材料に複数のひずみゲージを形成しているひずみセンサとを備え、前記ひずみセンサが前記ダイアフラムの中心から離れた端部位置に接合されていると共に、前記ひずみセンサは、2つが相対向して配置されるひずみゲージが4つ一組でブリッジ回路が形成され、そのうちの一方の相対向する2つの前記ひずみゲージと他方の相対向する2つの前記ひずみゲージは垂直な方向になるように配置され、しかも、前記ダイアフラム中心から前記ひずみセンサが接合された方向に対して垂直な方向で、かつ、前記ひずみセンサと隣接又は所定距離離れたダイアフラム上に段差が形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のマスフローメータは、上記目的を達成するために、上記構成の圧力センサを組み込んで評価対象の圧力をモニタリングすることを特徴とする。
【0018】
更に、本発明のマスフローコントローラは、上記目的を達成するために、上記構成の圧力センサを組み込んで評価対象の圧力をモニタリングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ひずみセンサの初期ゼロ点の出力オフセット及び温度変化に伴うゼロ点の出力変動を改善した圧力センサ及びそれを用いたマスフローメータ並びにマスフローコントローラを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の圧力センサの実施例1の全回構成を示す平面図である。
図2図1に示す圧力センサを破線A−Aに沿った断面を含む斜視図である。
図3】本発明の圧力センサに採用されるひずみセンサを示し、4つのひずみゲージで形成したブリッジ回路の例である。
図4】本発明の圧力センサの実施例1におけるダイアフラムとひずみセンサで構成される受圧構造を示す平面図である。
図5図4の一点鎖線A−Aに沿った断面図である。
図6】本発明の圧力センサの実施例2におけるダイアフラムとひずみセンサで構成される受圧構造を示す平面図である。
図7図6の一点鎖線A−Aに沿った断面図である。
図8】本発明の圧力センサの実施例3におけるダイアフラムとひずみセンサで構成される受圧構造を示す平面図である。
図9図8の一点鎖線A−Aに沿った断面図である。
図10】本発明の圧力センサの実施例4におけるダイアフラムとひずみセンサで構成される受圧構造を示す平面図である。
図11図10の一点鎖線A−Aに沿った断面図である。
図12】本発明の圧力センサの実施例5におけるダイアフラムとひずみセンサで構成される受圧構造を示す平面図である。
図13図12の一点鎖線A−Aに沿った断面図である。
図14】本発明の圧力センサの実施例6におけるダイアフラムとひずみセンサで構成される受圧構造を示す平面図である。
図15図14の一点鎖線A−Aに沿った断面図である。
図16】本発明の圧力センサの実施例7におけるダイアフラムとひずみセンサで構成される受圧構造を示す平面図である。
図17図16の一点鎖線A−Aに沿った断面図である。
図18】本発明の圧力センサの実施例8におけるダイアフラムとひずみセンサで構成される受圧構造を示す平面図である。
図19図18の一点鎖線A−Aに沿った断面図である。
図20】本発明の圧力センサの実施例9におけるダイアフラムとひずみセンサで構成される受圧構造を示す平面図である。
図21図20の一点鎖線A−Aに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の圧力センサを説明する。なお、本発明の対象は圧力センサであり、以下の実施例では、ひずみセンサを用いた絶対圧センサを例にして説明する。また、各実施例において、同一構成部品には同符号を使用する。
【実施例1】
【0022】
先ず、本発明の対象である圧力センサの全体構成を図1及び図2を用いて説明する。
【0023】
該図に示す如く、本実施例での圧力センサ1は、気密ハウジング5と、この気密ハウジング5の中央部に形成されている気密空間6に配置されるダイアフラム2と、このダイアフラム2上に接合層4を介して設置されるひずみセンサ3とから概略構成されている。
【0024】
上述したダイアフラム2は、ダイアフラム薄膜部21と、このダイアフラム薄膜部21を支持するダイアフラム支持部22と、ダイアフラム支持部22を気密ハウジング5に固定するフランジ23と、後で詳述するダイアフラム薄膜部21に設けられた段差(図示せず)とで構成されている。
【0025】
また、ダイアフラム2は第1の材料で形成されており、例えば、耐食性の高い鋼などの金属材料を材質とする。しかも、ダイアフラム2は円筒形をしており、中央部を加工により薄膜化するか、又は加工を施した薄い基板を重ね合わせることで、ダイアフラム薄膜部21を形成している。薄膜化の加工方法としては、切削やプレス加工、拡散接合等がある。
【0026】
一方、ダイアフラム薄膜部21の端部は、フィレットが形成されており、圧力印加や温度変化に伴う応力集中を緩和する構造となっている。また、ダイアフラム薄膜部21は、計測対象の圧力をひずみセンサ3の設置面と逆の面から受けることで変形し、接合したひずみセンサ3に圧力に比例したひずみを発生させる構造となっている。更に、ダイアフラム支持部22は、ダイアフラム薄膜部21より厚いため、計測対象の圧力の影響で変形し辛い構造となっている。また、フランジ23は、ダイアフラム支持部22と気密ハウジング5との接続のために形成されており、抵抗溶接やレーザー溶接が可能な厚みと幅を備えている。
【0027】
次に、ひずみセンサ3の構成について、図1乃至図3を用いて説明する。図3に示すように、ひずみセンサ3の表面中心には、4つのひずみゲージ7a、7b、7c、7dが形成されており、4つ一組のブリッジ回路が構成されている。また、ひずみセンサ3は、線膨張率がダイアフラム2の第1の材料と異なる第2の材料(例えば、シリコンなど)で形成されており、ひずみゲージ7a、7b、7c、7dは、例えば、シリコン基板に不純物拡散することなどにより形成されている。更に、ひずみゲージ7a、7bは、図2に示すダイアフラム2の水平方向であるダイアフラム2の中心からひずみセンサ3が接合された方向(以下、X方向という)が、ひずみゲージ7c、7dは、図2に示すダイアフラム2の前後方向であるダイアフラム2の中心からひずみセンサ3が接合された方向に対して垂直な方向(以下、Y方向という)が電流方向となるように配置されている。
【0028】
このようなひずみセンサ3の構成により、X方向とY方向のひずみ差に比例した出力が、ブリッジ回路の中間電位の差動出力として得られる。一方で、ひずみゲージ7a、7b、7c、7dのゲージ率の温度特性による影響は、温度特性が4つのひずみゲージ7a、7b、7c、7dで等しければ、抵抗変化も等しくなり、ブリッジ回路で補償することができる。
【0029】
また、円筒形のダイアフラム2の圧力による変形は、軸対称で、かつ、ダイアフラム2の中央にひずみセンサ3を配置すると、X方向とY方向のひずみ差が得られない。よって、ひずみセンサ3は感度の向上を目的に、ダイアフラム薄膜部21の端部に設置している。ひずみセンサ3をダイアフラム薄膜部21の端部に設置することで、ひずみセンサ3にX方向とY方向とで、それぞれ圧縮ひずみと引張ひずみが発生し、ひずみ差を大きくすることが可能になる。これにより、圧力センサ1の感度の向上が見込める。
【0030】
また、ダイアフラム2とひずみセンサ3は、接合層4を介して強固に固定されている。
例えば、ダイアフラム2とひずみセンサ3の接合に金属接合或いはガラス接合を用いることにより、長期間の温度や圧力印加に伴うクリープ変形を抑制することができる。また、金属は堅い材料であるため、ダイアフラム薄膜部21の変形をひずみセンサ3に効率よく伝達できる。
【0031】
上述した金属接合として、Au/Sn共晶接合やAu/Ge共晶接合などを用いることができ、280℃以上の高温で接合できる。また、上述したガラス接合として、バナジウム系低融点ガラス(V−glass)を用いることができ、370℃以上の高温で接合できる。
【0032】
また、気密ハウジング5は、ダイアフラム2やひずみセンサ3を囲うようにフランジ23と固定されており、ダイアフラム薄膜部21の周囲の気密空間6を、一定の気圧(例えば、真空)に維持している。気密ハウジング5とフランジ23の固定には、例えば、抵抗溶接やレーザー溶接などの気密性を維持可能な固定方法を用いることができる。これにより、圧力センサ1の使用時には、計測対象以外の圧力変動の影響を受けない絶対圧センサとして構成することができる。
【0033】
更に、気密ハウジング5には、圧力センサ1を所定の箇所に固定するための複数のネジ穴を設けることができる。このネジ穴は、ネジの締結により気密ハウジング5に不測の応力が加わって、ひずみセンサ3によるひずみの測定に悪影響を及ぼさないように、例えば、ダイアフラム2から離れた位置に設けることが好ましい。
【0034】
また、圧力センサ1には、ひずみセンサ3からの出力を外部に取り出すことができる電極(図示しない)を設けることができる。この電極は、例えば、気密ハウジング5の気密空間6と外部と連通する穴に、電気的絶縁を有して複数本貫通させて設けることができる。更に、電極の気密空間6側の端部とひずみセンサ3とは、例えば、フレキシブルフラットケーブルなどの柔軟性のある配線部材(図示しない)を用いて電気的に接続することができる。これにより、ダイアフラム薄膜部21及びこれに接合されたひずみセンサ3が、評価対象の圧力変動に応じて移動した場合であっても、電極とひずみセンサ3との電気的接続を安定して維持することができる。
【0035】
次に、本実施例におけるダイアフラム薄膜部21に設けられた段差24について、図4及び図5を用いて説明する。なお、図4の破線は、ダイアフラム薄膜部21の外形を示す隠れ線である(以下に説明する各実施例における破線も同様である)。
【0036】
該図に示す如く、本実施例では、ダイアフラム2に加工を施すことによって、ダイアフラム2をY方向にも変形しやすくし、ひずみセンサ3に加わるY方向の圧縮ひずみを低減するようにしたものである。即ち、ダイアフラム2の中心からひずみセンサ3が接合された方向(X方向)に対して垂直な方向(Y方向)で、かつ、ひずみセンサ3と隣接又は所定距離(実装位置ずれ(加工ずれ含む)を含み、ダイアフラム薄膜部21を含む範囲の距離)離れたダイアフラム2上に、段差24a、24bを形成したものである。つまり、図4及び図5に示す如く、本実施例では、ダイアフラム2の表面を掘り下げることで、ひずみセンサ3のY方向に、ひずみセンサ3を挟むように2箇所に段差24a、24bを形成している。この段差24a、24bを形成することにより、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなるので、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制することが可能となる。
【0037】
上述した段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されている。また、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bの長さは接合したひずみセンサ3と同等の長さで形成されており、段差24a、24bの位置はひずみセンサ3の端から端まで位置ずれなく設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bの長さはダイアフラム2の端までは形成されておらず、段差24a、24bの位置は、ひずみセンサ3と隣接又は所定距離離れており、少なくとも一部がダイアフラム薄膜部21を含む範囲に形成されている。
【0038】
更に、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げた段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。
【0039】
また、段差24a、24bが、ひずみセンサ3の隣にのみ形成されているので、圧力が印加された場合のダイアフラム薄膜部21全体の変形量が抑制され、ダイアフラム薄膜部21へ集中する応力を段差24a、24bが無い場合と同等にできる。これにより、温度変化に伴うゼロ点出力の変動を抑制しつつ、圧力印加に伴う変形でのダイアフラム2の破損を防止できる。
【0040】
また、段差24a、24bは、ひずみセンサ3からY方向に一定距離離れた場所に形成されており、ひずみセンサ3を実装する位置をずらすことで、ひずみセンサ3と段差24a、24bが重なることは無い。これにより、ひずみセンサ3の接合面積減少の防止、段差24a、24bの端部で発生する応力集中起因の接合層4のクリープ変形を防止する効果がある。
【0041】
このような本実施例の構成とすることにより、ひずみセンサ3の初期ゼロ点の出力オフセット及び温度変化に伴うゼロ点の出力変動を改善した圧力センサ1を得ることができる。即ち、本実施例の圧力センサ1のように、ダイアフラム2上を掘り下げることで段差24a、24bを形成し、ひずみセンサ3の固定のための接合に伴う熱応力による初期ゼロ点の出力オフセットや、センサ使用時の温度変化に伴う熱応力によるゼロ点出力変動を抑制することが可能な圧力センサ1を提供できる。例えば、低コスト化を目的に、ダイアフラム2の材料をひずみセンサ3と熱膨脹係数の異なる安い材料にした場合においても、初期ゼロ点出力のオフセットを抑制し、使用温度の変化に伴う出力変動である温度特性を改善する効果が得られる。
【実施例2】
【0042】
図6及び図7に本発明の圧力センサの実施例2を示す。以下に示す実施例2では、実施例1との相違点のみ説明する。
【0043】
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bの長さは接合したひずみセンサ3より長く形成されており、ひずみセンサ3と同等の位置から中心を跨ぐ範囲に設けられている。また、ダイアフラム支持部22の表面に大きく段差24a、24bを設けないのは、ダイアフラム支持部22がダイアフラム薄膜部21より厚く変形し辛いため、圧縮ひずみを緩和する効果がダイアフラム薄膜部21より小さいためである。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bの長さはダイアフラム2の端まで形成されておらず、段差24a、24bの位置はひずみセンサ3から隣接又は所定距離離れており、少なくとも一部がダイアフラム薄膜部21を含む範囲に形成されている。
【0044】
このように構成することにより、実施例1と同様な効果が得られる。
【0045】
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみには、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。また、段差24a、24bを実施例1よりも大きくすることで、ダイアフラム薄膜部21のY方向への変形は、実施例1より容易であり、より圧縮ひずみを緩和できる効果がある。
【実施例3】
【0046】
図8及び図9に本発明の圧力センサの実施例3を示す。以下に示す実施例3では、実施例1との相違点のみ説明する。
【0047】
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bは、ダイアフラム2の端から端まで設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bの長さはダイアフラム2の端まで形成されておらず、段差24a、24bの位置はひずみセンサ3から隣接又は所定距離離れており、少なくとも一部がダイアフラム薄膜部21を含む範囲に形成されている。
【0048】
このように、段差24a、24bをダイアフラム2の端まで形成する構造にすることによって、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、ダイアフラム薄膜部21の形成後に、フライス盤などを用いた加工が容易に行え、低コスト化も図れる。
【0049】
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。また、段差24a、24bを実施例1よりも大きくすることで、ダイアフラム薄膜部21のY方向への変形は、実施例1より容易であり、より圧縮ひずみを緩和できる効果がある。
【実施例4】
【0050】
図10及び図11に本発明の圧力センサの実施例4を示す。以下に示す実施例4では、実施例1との相違点のみ説明する。
【0051】
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bがダイアフラム2の端から端まで設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bは、ひずみセンサ3と隣接又は所定距離離れた位置からダイアフラム2の端まで形成されている。
【0052】
このように構成することにより、実施例1と同様な効果が得られる。
【0053】
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。また、段差24a、24bを実施例1乃至3よりも大きくすることで、ダイアフラム薄膜部21のY方向への変形は、実施例1乃至3より容易であり、より圧縮ひずみを緩和できる効果を有する。また、実施例1乃至3のような加工を施しても、Y方向の圧縮ひずみがX方向より大きい場合においては、本実施例の構成により、ゼロ点の出力変動をさらに抑制することができる。
【実施例5】
【0054】
図12及び図13に本発明の圧力センサの実施例5を示す。以下に示す実施例5では、実施例1との相違点のみ説明する。
【0055】
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bがダイアフラム2の端から端まで設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bは、ひずみセンサ3の隣接した位置からダイアフラム2の端まで形成されている。
【0056】
このように、段差24a、24bが隣接することによって、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、ひずみセンサ3の実装時のアライメントに利用でき、ひずみセンサ3の位置決めを容易に行える。
【0057】
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。また、段差24a、24bを実施例1乃至3よりも大きくすることで、ダイアフラム薄膜部21のY方向への変形は、実施例1乃至3より容易であり、より圧縮ひずみを緩和できる効果を有する。また、実施例1乃至3のような加工を施しても、Y方向の圧縮ひずみがX方向より大きい場合においては、本実施例の構成により、ゼロ点の出力変動をさらに抑制することができる。
【実施例6】
【0058】
図14及び図15に本発明の圧力センサの実施例6を示す。以下に示す実施例6では、実施例1との相違点のみ説明する。
【0059】
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、長さは接合したひずみセンサ3より長く形成されており、段差24a、24bの位置は、ダイアフラム2の端からダイアフラム2の中心位置まで設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bがひずみセンサ3と隣接又は所定距離離れた位置からダイアフラム2の端まで形成されており、少なくとも一部がダイアフラム薄膜部21を含む範囲に形成されている。
【0060】
このように構成することにより、実施例1と同様な効果が得られる。
【0061】
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。
【0062】
更に、段差24a、24bの加工を施さない構造においては、圧力印加に伴い、ダイアフラム2の中心からひずみセンサ3の設置方向とは逆方向のダイアフラム薄膜部21の端部で応力が集中する。よって、段差24a、24bを応力が集中するひずみセンサ3の設置方向には段差を形成しないことで、ダイアフラム薄膜部21への応力集中の増加が抑制でき、ダイアフラム2の破損が防止できる。
【実施例7】
【0063】
図16及び図17に本発明の圧力センサの実施例7を示す。以下に示す実施例7では、実施例1との相違点のみ説明する。
【0064】
該図に示す本実施例では、段差24a、24bは、ダイアフラム薄膜部21を貫通しない一定の深さで形成されていると共に、段差24a、24bのX方向においては、段差24a、24bがダイアフラム薄膜部21の端部からダイアフラム2の中心を跨いだもう一方のダイアフラム薄膜部21の端部まで設けられている。一方、段差24a、24bのY方向においては、段差24a、24bがひずみセンサ3と隣接又は所定距離離れた位置からダイアフラム薄膜部21の端部まで形成されており、ダイアフラム支持部22の表面には形成されていない。
【0065】
このように構成することにより、実施例1と同様な効果が得られる。
【0066】
また、温度変化によりひずみセンサ3に加わる圧縮ひずみは、ひずみセンサ3のY方向のダイアフラム2の表面を掘り下げて段差24a、24bを形成することで、Y方向のダイアフラム薄膜部21の変形が容易になり、Y方向の圧縮ひずみが緩和される。これにより、X方向とY方向とのひずみの差が小さくなり、温度変化に伴うゼロ点の出力変動を抑制できる。
【0067】
更に、段差24a、24bの加工を施さない構造においては、圧力印加に伴い、ダイアフラム薄膜部21の端部で応力集中が発生する。よって、段差24a、24bを応力が集中するダイアフラム薄膜部21の端部を跨いで形成しないことで、ダイアフラム薄膜部21への応力集中の増加が抑制でき、ダイアフラム2の破損が防止できる。
【実施例8】
【0068】
図18及び図19に本発明の圧力センサの実施例8を示す。以下に示す実施例8は、図8及び図9に示す実施例3の変形例であり、実施例3と相違点のみ説明する。
【0069】
該図に示す本実施例では、フランジ23の上方で、かつ、ダイヤフラム支持部22の側面に、ひずみセンサ3が接合された位置からダイアフラム中心方向(X方向)に伸延する切欠き25が形成されているものである。他の構成は、実施例3と同様である。
【0070】
通常、フランジ23は、他部材である例えばガス流路ベース(図示せず)に取付けるためのものであるが、このガス流路ベースに取付ける際、ガスが漏れないようにフランジ23の底部とガス流路ベースの間にOリング又はメタルOリングを介してネジ締結している。しかし、そのネジ締結によりフランジ23が変形し、ダイヤフラム支持部22並びにダイヤフラム薄膜部21に歪を与え、歪センサ3がその歪を検知してしまい、歪センサ3で検知した歪が、経時的に変化するとセンサ精度に影響を及ぼしてしまう恐れがある。
【0071】
しかしながら、上述した本実施例によれば、実施例3と同様な効果が得られることは勿論、ダイヤフラム支持部22の側面に切欠き25を設けることで、フランジ23の変形をダイヤフラム薄膜部21に伝搬することを抑制することができ、ネジ締結によりフランジ23が変形したとしても、フランジ23の変形をダイヤフラム薄膜部21に伝搬することが抑制されるので、歪センサ3が歪を検知することがなくなり、センサ精度に影響を及ぼすことはないと言う効果がある。
【実施例9】
【0072】
図20及び図21に本発明の圧力センサの実施例9を示す。以下に示す実施例9は、図18及び図19に示す実施例8の変形例であり、実施例8と相違点のみ説明する。
【0073】
該図に示す本実施例では、ダイヤフラム2の表面に、ひずみセンサ3の線膨張係数と近い線膨張係数の材質からなる被接合部材26を有し、この被接合部材26及び接合層4を介してひずみセンサ3が接合されていると共に、被接合部材26面に、実施例8と同様な段差24a、24bが形成されている。
【0074】
通常、シリコンからなるひずみセンサ3をダイヤフラム2面に接合する手段は、クリープ等の問題から強固な金属接合(Au/Sn共晶接合やAu/Ge共晶接合)或いはガラス接合(V−glass)が有効である。どちらの接合も280℃以上の温度で接合材を溶融させて接着するものであり、線膨張係数が異なる材料を接合すると固着時に大きな歪が残留してしまう。
【0075】
線膨張係数が15.9×10−6/℃の耐食性良好なSUS316L材からなるダイヤフラム2と線膨張係数が3.1×10−6/℃のシリコンからなるひずみセンサ3を接合すると、線膨張係数が異なり過ぎ、極端な場合、ひずみセンサ3にクラックが入ってしまう。また、クラックなく接合できたとしても、温度変化により熱収縮差によるひずみが生じ、温度特性の悪いセンサとなってしまう。
【0076】
しかしながら、上述した本実施例によれば、実施例8と同様な効果が得られることは勿論、ダイヤフラム2の表面に、ひずみセンサ3の線膨張係数と近い線膨張係数の材質からなる被接合部材26を有し、この被接合部材26を介してひずみセンサ3が接合されているので、両者が線膨張係数が近く、ひずみセンサ3にクラックが入ることがなくなり、温度変化により熱収縮差によるひずみも生じることはなく、温度特性の良好なセンサを得ることができる。
【0077】
なお、上述した被接合部材26は、線膨張係数がシリコンに近いものとすることが最良であり、例えば線膨張係数5×10−6/℃程度のKovar(Ni-Co-Fe)又は42Alloy(42Ni-Fe)等が好ましい。
【0078】
但し、これらの材料は、耐食性から接ガス部材として好ましくない。そこで、低線膨張材とSUS316L材を張り合わせた複合材を加工し、接ガス部をSUS316L材としたダイヤフラム2を実現している。また、ダイヤフラム薄膜部21は、極力SUS316L層が薄いことが良く、ダイヤフラム薄膜部21の全体厚さ(図21にLで示す)の1/4以下が望ましい。
【0079】
なお、実施例9では、ダイヤフラム2の表面全体に被接合部材26を有しているが、ひずみセンサ3が設置されている箇所のダイヤフラム薄膜部21に被接合部材26が有していることでもよい。この場合は、ダイヤフラム2の表面に上述した段差24a、24bが形成されることになる。
【0080】
次に、本発明におけるダイアフラム薄膜部21の段差24a、24bの効果を確認するため、本発明者等が行った有限要素法によるコンピュータシミレーションを用いて圧力センサ1の感度と温度特性を計算した結果を説明する。
【0081】
計算に用いたダイアフラム2の形状は、ダイアフラム支持部22の外径が10.0mm、ダイアフラム2の高さが2.0mm、ダイアフラム支持部22の内径が7.6mm、ダイアフラム薄膜部21の厚さが0.25mmとし、段差24a、24bの形状は図4乃至図7または図10及び図11の形状とし、段差24a、24bの深さは0.1mmとした。また、ダイアフラム2の線膨張率の値にはNi−Co合金(コバール)の値である5.1×10−6/Kを使用した。
【0082】
計算に用いたひずみセンサ3の形状は、縦横がそれぞれ2.4mm、厚さが0.16mmとし、ひずみセンサ3の線膨張率の値にはシリコンの値である3.0×10−6/Kを使用した。また、ひずみセンサ3の接合位置は、ひずみセンサ3の中心がダイアフラム薄膜部21の中心から径方向に2.9mmだけ離れた位置にくるような位置とした。
【0083】
計算に用いた接合層4の形状は、縦横がそれぞれ2.4mm、厚さが0.01mmとし、接合層4の線膨張係数の値にはAu/Sn共晶合金の値である17.5×10−6/Kを使用した。
【0084】
圧力センサ1の感度は、ダイアフラム薄膜部21に評価対象の圧力が加わった場合のひずみセンサ3で検知されるX方向のひずみεとY方向のひずみεの差ε−εで評価し、段差24a、24bがない場合の感度を1とした場合の係数として求めた。
【0085】
圧力センサ1の温度特性は、Au/Sn共晶合金の融点である280℃から20℃まで冷却される過程で生じるε−εの値を計算し、段差24a、24bがない場合の温度係数を1とした場合の係数として求めた。
【0086】
シミュレーションの結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示す通り、本発明にかかる図4乃至図7または図10及び図11に示す段差24a、24bを設けたダイアフラム2を採用した場合は、段差24a、24bがない場合に比べて圧力センサ1の感度、温度特性が共に改善されることが確認できた。
【0089】
上記したコンピュータシミュレーションの結果を実際に確認するため、上記のサイズと図8及び図9の形状を有するダイアフラム2をNi−Co合金(コバール)で作製し、これに上記のサイズのひずみセンサ3を上記の位置にAu/Sn共晶合金を用いて金属接合して、圧力センサaを作製した。
【0090】
また、比較資料として、同じ材料で段差のないダイアフラムを作製し、同様にひずみセンサを金属接合して、圧力センサbを作製した。
【0091】
これらの圧力センサのダイアフラムに、圧力500Paの窒素ガスを加えたときの感度を測定したところ、圧力センサbが1.00であるのに対し、圧力センサaでは1.13であった。
【0092】
また、これらの圧力センサを5℃から60℃まで加熱したときの温度係数の絶対値を測定したところ、圧力センサbでは0.60με/℃であったのに対し、圧力センサaでは0.42με/℃であった。
【0093】
以上の結果より、本発明に係る圧力センサは、従来の圧力センサに比べて感度及び温度特性が改善されることが確認できた。
【0094】
次に、本発明の実施例8において、メタルOリングを介してフランジ23を流路ベースに締結した時のひずみセンサ3が感受する出力を表2に示す(表2は、切欠き25がない場合の出力を1として表示している)。その時の図19に示すW寸法は1.4mm、高さ寸法Hは2.8mmである。
【0095】
【表2】
【0096】
表2から明らかのように、切欠き25があることで締結歪がダイヤフラム薄膜部21に伝搬しにくくなり、ひずみセンサ3の出力は軽減されていることが分かる。また、高さHを大きくすると、更にその効果が大きいことも分かる。
【0097】
以上説明した本発明に係る圧力センサ1の用途は、特に限定されるものではないが、ダイアフラム2を形成する第1の材料に耐食性の高い鋼などの材料を採用した場合には、例えば、腐食性の高い計測対象の圧力を測定する用途などに好適に用いることができる。かかる用途に用いる場合、ダイアフラム2を形成する第1の材料に耐食性の高い鋼などの材料を採用することに代えて、または、耐食性の高い鋼などの材料を採用することに加えて、第1の材料の表面に各種のコーティングを施すことができる。コーティングは、例えば、ニッケルや金などの耐食性に優れた金属のめっき層として構成してもよいし、フッ素樹脂などの耐腐食性に優れた樹脂の塗布層として構成してもよく、これらの組み合わせでもよい。
【0098】
また、本発明に係る圧力センサ1は、小型で、温度特性に優れているので、例えば、半導体製造装置に用いられるマスフローメータやマスフローコントローラなどに組み込んで計測対象の圧力をモニタリングする用途にも好適に用いることができる。
【0099】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものでは無く、様々な変形例が含まれる。
例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものでは無い。また、実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1…圧力センサ、2…ダイアフラム、3…ひずみセンサ、4…接合層、5…気密ハウジング、6…気密空間、7a、7b、7c、7d…ひずみゲージ、21…ダイアフラム薄膜部、22…ダイアフラム支持部、23…フランジ、24、24a、24b…段差、25…切欠き、26…被接合部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21