(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁性シートと、前記磁性シートの厚さ方向に対置された環状のコイルと、磁気吸着手段を備えるコイル部品であって、前記磁性シートは、前記コイルと前記磁気吸着手段の間に折り込まれるように形成された屈折部を有し、当該屈折部は、前記磁性シートに形成された多角形のシート穴の周囲、または、前記磁性シートの多角形の外周の少なくとも一方に複数形成されており、前記磁性シートは、主面内にスリットが形成され、前記スリットは前記磁性シートの厚さ方向に見て、前記コイルの少なくとも一部と重なる位置に形成され、かつ前記スリットの一端は、複数形成された前記屈折部同士の間に繋がるように形成されていることを特徴とするコイル部品。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本出願人は、上記問題を解決するために、
図14に示すような、磁性シートの穴に面内方向及び/又は厚さ方向の磁気ギャップを介して配置された磁気吸着手段を具備する構造を着想し、出願している。上記構造により、磁性シートと磁気吸着手段の間に磁気ギャップを設けることで、磁性シートの磁気飽和を抑制し、高い伝送効率を持つ非接触充電装置を製造することができる。上記磁性シートの効果と、磁気吸着手段の磁気吸着力向上を同時に行なうための形状について、さらに検討を行った。
【0018】
以下、本発明に係るコイル部品、給電装置および充電装置の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施形態において説明する構成は、他の実施形態の趣旨を損なわない限りにおいて他の実施形態においても適用することが可能であり、その場合、重複する説明は適宜省略する。
【0019】
本発明を適用し得る非接触充電装置は
図13に示す回路構成を有する。給電装置20は、交流電流を供給する給電部21と、交流電流を直流電流に整流するために給電部21に接続された整流回路22と、直流電流を入力して所定周波数の高周波電流に変換するスイッチング回路23と、高周波電流が流れるようにスイッチング回路23に接続された一次コイル201と、スイッチング回路23と同じ周波数で共振するように一次コイル201に並列接続された共振用コンデンサ26と、スイッチング回路23に接続された制御回路24と、制御回路24に接続された制御用二次コイル25とを具備する。制御回路24は、制御用二次コイル25から得られる誘導電流に基づきスイッチング回路23の動作を制御する。
【0020】
充電装置30は、一次コイル201から発生した磁束を受ける二次コイル301と、二次コイル301に接続された整流回路32と、整流回路32に接続された二次電池33と、二次電池33の電圧から蓄電状況を検出するために二次電池33に接続された電池制御回路34と、電池制御回路34に接続された制御用一次コイル35とを具備する。二次コイル301には共振用コンデンサ(図示せず)を並列接続しても良い。整流された電流は、二次電池33に蓄電される他、電子回路や駆動部材(図示せず)等に利用される。電池制御回路34は、二次電池33の蓄電状況に応じて最適な充電を行うための信号を制御用一次コイル35に流す。例えば、二次電池33がフル充電になった場合、その情報の信号を制御用一次コイル35に流し、制御用一次コイル35に電磁結合する制御用二次コイル25を介して信号を給電装置20の制御回路24に伝える。制御回路24はその信号に基づきスイッチング回路23をOFFにする。
【0021】
図2は非接触充電装置に用いる給電装置および充電装置を示す断面図である。非接触充電装置の具体例は、例えば携帯通信端末とその充電器である。給電装置および/または充電装置に本発明に係るコイル部品を備える。充電装置には携帯端末など、受電機能を備えた電子機器本体も含まれる。交流電源6に接続される給電装置20は回路部7を有する。回路部7は、交流電流を整流する整流回路、整流された直流電流を所定の周波数の高周波電流に変換するスイッチング回路を備える。回路部7から出力された高周波電流は一次コイルであるコイル3aに流れる。コイル3aは共振用コンデンサ(図示せず)に接続され、スイッチング回路によって変換される所定周波数と同じ周波数で共振する。給電装置20はスイッチング回路の動作を制御するための制御回路が備えられていても良い。
【0022】
充電装置30は、二次コイルであるコイル3bを備える。共振用コンデンサを配置することで共振回路を構成できる。コイル3bには、整流回路(図示せず)を介して二次電池4に接続されており、電磁誘導によってコイル3bに誘起された誘導電流は整流回路で整流され、二次電池4が充電される。
【0023】
給電装置20および充電装置30は樹脂等の非磁性の筐体(破線部)に収容される。給電装置20の筐体は平坦な給電面203を有し、充電装置30の筐体も平坦な受電面303を有する。非接触充電装置は、給電面203と受電面303を対向させて充電を行う。給電装置と充電装置とは、磁石等の磁気吸着手段2a、2bを用いて互いに位置決め、固定される。磁気吸着手段2a、2bはコイルと同程度もしくはそれよりも薄い板状品が用いられる。上記コイル3a、3bは、その巻回軸が前記平坦面に垂直になるように(平面状のコイルの面が前記平坦面に平行になるように)筐体の内側に配置される。コイル3a、3bの、前記平坦面の反対側には、それぞれ磁性シート1a、1bが隣接して配置される。また、磁性シート1a、1bの一部は折り曲げられて屈折部5a,5bを形成し、屈折部5aはコイル3aと磁気吸着手段2aの間に挿入され、屈折部5bはコイル3bと磁気吸着手段2bの間に挿入される。筐体内部には、例えば樹脂基板などの基板8a、8bが配置される。磁性シート1a、1bは、二次電池4等を設置した基板8a、8bとコイル3a、3bとの間において、その主面がコイル3a、3bと重なるように、または覆うように配置される。したがって、コイル3a、3bによって発生した磁束が磁性シート1a、1bに収束して通るようになり、磁性シートが磁気ヨークまたは磁気シールドとして機能する。また、それに加え、屈折部5も磁気ヨークまたは磁気シールドとして機能する。コイル3a、3bと、前記コイルの巻回軸方向に対置された磁性シート1a、1b、及び磁気吸着手段を備えるコイル部品10a、10bの部分について、以下具体的に説明する。
【0024】
簡単化のために、給電装置20において一次コイル、磁気吸着手段及び磁性シートの各々の給電面203側の面を「前面」と呼び、給電面203と反対側の面を「後面」と呼ぶ。また充電装置30において二次コイル、磁気吸着手段及び磁性シートの各々の受電面303側の面を「前面」と呼び、受電面303と反対側の面を「後面」と呼ぶ。さらに各コイル、磁気吸着手段及び磁性シートの厚さ方向を単に「厚さ方向」と呼ぶ。
【0025】
図1は本実施形態のコイル部品10の一例を示す断面図である。
本実施形態のコイル部品10は、磁性シート1と、磁性シート1の厚さ方向に対置された環状のコイル3と、磁気吸着手段2を備える。磁気吸着手段2はコイル3の内周側、外周側の少なくとも一方の側面に配置される。
図1は、磁気吸着手段2がコイル3の内周側に配置された状態を示している。磁性シート1は、コイル3の側面と磁気吸着手段2の間に折り込まれるように形成された屈折部5を有する。
【0026】
屈折部5により、コイルの内周面に沿って磁束が流れ、屈折部5が磁化して磁気吸着力が向上する。また、磁性シートにシート穴を形成し、シート穴に面内方向及び/又は厚さ方向の磁気ギャップを介して磁気吸着手段を配置することで、磁性シートの磁気飽和を抑制し、高い伝送効率を持つ非接触充電装置を製造することができる。
【0027】
(第1の実施形態)
図3は、磁性シートを厚さ方向に見た図である。
磁性シート51は板状の部材で構成される。磁性シート51は屈折部となる屈折部位59を備える。屈折部位59は、磁性シートに形成されたシート穴の周囲に沿って複数形成されている。複数形成された屈折部位59は、その間が磁性シートを切断したスリット54で形成されている。具体的には、屈折部位59は磁性シート51に形成されたシート穴の縁と、シート穴の縁から磁性シートの外周側に伸びる複数のスリット54と、図面上の破線で囲まれた部分である。
図3において、隣接する屈折部同士の間はスリットにより形成され、この板状の状態では隣接する屈折部同士は物理的に接している。破線の位置に沿って屈折部位を折り曲げる事で、屈折部を形成できる。
図3(a)は、中央に正八角形のシート穴を形成した環状の磁性シートである。屈折部位59は、前記のように、シート穴の縁と、正八角形の各角から径方向に伸びるスリット54と、そのスリット54の外側の端部同士を結ぶ破線で囲まれた部位からなる。スリットは、磁性シートのシート穴を打ち抜き加工で形成する際に、同時に形成することができる。スリット54の長さは、コイルの厚みとほぼ同じである。破線部で折り曲げることにより、コイルの厚みとほぼ同じ高さの屈折部を形成できる。折り曲げる位置は、スリット54の外周側の端部同士を結ぶ破線位置なので、破線の位置が一律に決まり、それぞれの屈折部の形状を同じにすることができる。
図4(a)は、
図3(a)の磁性シート51に屈折部を形成し、円環状のコイル53と円盤状の永久磁石52を組み合わせたコイル部品の実施形態である。断面図は
図1に示す断面図と同じ形態であり、省略する。円環状のコイル53のコイル穴の内部に磁気吸着手段52が配置され、コイル53の内周側の側面と磁気吸着手段52の間には、紙面垂直方向に向けて折り曲げられた屈折部55が配置されている。なお、
図1では、磁性シートは説明のために厚く表示しているが、厚さは適宜変更可能である。また、磁気吸着手段の厚みも適宜変更可能であり、コイルの前面から磁性シートの後面までの厚みである必要は無い。
【0028】
図3(b)は、
図3(a)の磁性シートに対して、コイルの少なくとも一部と重なる位置にスリットが形成され、このスリットが複数形成された屈折部同士の間に繋がるように形成されている点で異なる。磁性シート51は、中央の正八角形のシート穴の各角から放射状にスリットが形成され、スリットの外周側はコイルの外周側まで連続して形成される。屈折部位59は、
図3(a)の屈折部位と同じ位置、同じ大きさで形成される。スリットは、破線部よりも内周側が屈折部59の一辺を形成するために使用され、破線部よりも外周側がコイルからの磁束によって磁性シートで発生する渦電流の損失低減を目的として使用される。スリットが屈折部の間で形成され、かつ外周側まで連続して形成されているので、打ち抜き加工が容易である。
図4(b)は、
図3(b)の磁性シート51と、円環状のコイル53と円盤状の永久磁石52を組み合わせたコイル部品の実施形態である。断面図は
図1に示す断面図と同じ形態であり、省略する。円環状のコイル53のコイル穴の内部に磁気吸着手段52が配置され、コイル53の内周側の側面と磁気吸着手段52の間には、紙面垂直方向に向けて折り曲げられた屈折部55が配置されている。また、コイル53と重なる位置にスリット54が形成されている。
【0029】
本発明に係わるコイル部品の磁性シートは、正多角形のシート穴が形成されていることが好ましい。例えば円状のシート穴であると、屈折部位の先端は内側に凹む円弧状の外形となる。そのため、先端の中央は充電面から離れるため、磁化した屈折部5が、相手方の給電装置または充電装置から離れるので、磁気吸着力を向上させがたい。正多角形であれば屈折部の先端は平坦になるため、給電装置と充電装置の間に働く磁気吸着力を保持しやすい。
【0030】
また、正多角形のシート穴であれば、屈折部を形成後のシート穴も同じ正多角形にしやすい。同じ角数の多角形でも正多角形が最も面積が大きくなるため、屈折部で囲まれた位置に配置する磁気吸着手段も大きいものを用いることができる。特に、磁気吸着手段が磁性シートのシート穴に配置されるコイル部品では、磁気吸着手段は厚さ方向にみて円形のものが使用される。これは給電装置と充電装置の向きがいずれの状態であっても同様の吸着力が得られるためである。正多角形であれば、円形の磁気吸着手段を配置するスペースが最も確保しやすい。また、同様の理由から磁気吸着手段と磁性シートの間の磁気ギャップを確保しやすいので、磁性シートの磁気飽和を抑制しやすく、非接触充電装置の電力伝送効率を向上させることができる。
正多角形のシート穴の角数は、5以上とすることが好ましい。屈折部で囲まれるシート穴が円形に近づき、コイルのコイル穴と形状が近似するので、コイル穴内部のスペースが広くなり、寸法の大きな磁気吸着手段を配置することができる。正三十二角形以下であれば、屈折部を折り曲げる工数が減らせる。また、屈折部の幅が広く保てるので屈折部の破損を防止できる。
【0031】
コイル、磁気吸着手段、磁性シートを組み付ける際は、磁性シートの屈折部を形成してから組みつけることができる。また、磁性シートに屈折部位を形成しておき、磁性シートとコイルを組合せ、磁気吸着手段をコイル側に押し込むことで屈折部位を折り曲げて屈折部を形成することもできる。この場合には磁気吸着手段と屈折部が接した状態となるが、磁性シートの磁気飽和が著しい場合には、磁性シートは表面に比較的厚い樹脂シートを設けて、磁性シートの軟磁性材料と磁気的なギャップを確保するなどの手段を用いることができる。
【0032】
(第2の実施形態)
本発明に係るコイル部品は、正方形・長方形などの矩形、円形、リング形状、異形状、さらにはそれらに凹凸をつけた形状など種々の磁性シートを用いることができる。
図5は、正方形の磁性シートを厚さ方向に見た図である。
図5(a)は、中央に正方形のシート穴を形成した環状の磁性シートを用いた実施形態である。屈折部位69は、前記のように、シート穴の縁と、正方形の各角から外周側に伸びるスリット64と、破線で囲まれた部位からなる。屈折部位69の高さは、コイルの厚みとほぼ同じである。破線部で折り曲げることにより、コイルの厚みとほぼ同じ高さの屈折部を形成できる。多角形でかつシート穴も磁性シートの外形と相似であるため、シート穴から外周までの磁性シートの幅を均一にしやすいので、コイルの巻線を行なう面積を十分に確保することができる。また、屈折部の先端も平坦なので、コイルと組み付けた際に、コイルの内周の側面を隙間無く覆うことができる。
図6(a)は、
図5(a)の磁性シート61と、矩形状のコイル63と円盤状の永久磁石62を組み合わせたコイル部品の実施形態である。断面図は
図1に示す断面図と同じ形態であり、省略する。環状のコイル63のコイル穴の内部に磁気吸着手段62が配置され、コイル63の内周側の側面と磁気吸着手段62の間には、紙面垂直方向に向けて折り曲げられた屈折部65が配置されている。軸断面の断面図は
図1に示す断面図と同様である。
【0033】
図5(b)は、
図5(a)の磁性シートに対して、スリット64が長く形成された磁性シートである。屈折部位69は、
図5(a)の屈折部位と同じ大きさ、位置で形成される。
図6(b)は、
図5(b)の磁性シート61と、環状のコイル63と円盤状の永久磁石62を組み合わせたコイル部品の実施形態である。軸断面の断面図は
図1に示す断面図と同様である。環状のコイル63のコイル穴の内部に磁気吸着手段62が配置され、コイル63の内周側の側面と磁気吸着手段62の間には、紙面垂直方向に向けて折り曲げられた屈折部65が配置されている。また、コイル63と重なる位置にスリット64が形成されている。
このスリット64は、コイル部品に組みつけられた状態において磁性シートの厚さ方向に見て、コイルの少なくとも一部と重なる位置まで形成されている。
図6では、スリットはコイル63の内周側から外周側にかけて連続して形成される。スリットにより磁性シートで発生する渦電流を抑制できる。
【0034】
図5では、磁性シートの外形とシート穴の形状を同じにした実施形態を示したが、これに限らず磁性シートの外形とシート穴の形状は異なるものでも良いことは勿論である。
【0035】
(第3の実施形態)
本発明に係るコイル部品は、屈折部が磁性シートの外周に沿って複数形成されている構造の磁性シートを用いることができる。
図7は、外周側に屈折部を持つ磁性シートを用いた本実施形態のコイル部品70を示す断面図である。
図7の実施形態のコイル部品70は、磁性シート71と、磁性シート71の厚さ方向に対置された環状のコイル73と、磁気吸着手段72を備える。磁気吸着手段72はコイル73の外周側に配置されている。磁性シート71は、コイル73の側面と磁気吸着手段72の間に折り込まれるように形成された屈折部75を有する。
【0036】
屈折部75が磁化されるため、給電装置と充電装置の間に働く磁気吸着力を高めることができる。また、コイルの側面を覆うので、シールド性能を高めることができる。磁気吸着手段と磁性シートは磁気ギャップを介して配置される。磁性シートが磁気飽和しにくくなり、磁性シートの透磁率の低下を抑えられるので、ヨークとしての機能が十分に得られ、電力伝送効率の低下を極力抑制することができる。
【0037】
図8は、外周側に屈折部位79を持つ磁性シート71を、厚さ方向に見た図である。
図8(a)は、十字状の磁性シート71を用いた実施形態である。屈折部位79は、十字状の4方向に突出した外周の輪郭と破線で囲まれた部位からなる。屈折部位79の十字状に突出する方向の長さは、コイル73の厚みとほぼ同じである。破線部で折り曲げることにより、コイルの厚みとほぼ同じ高さの屈折部を形成できる。磁性シートの直線状の辺を屈折部位の先端とすることで屈折部の先端も平坦になるので、コイルと組み付けた際に、コイルの外周の側面を隙間無く覆うことができる。磁性シート71の外周に沿って複数形成された屈折部位同士の間は隙間が形成されているので、破線部で折り曲げて屈折部を形成したときに屈折部同士が重なることがなく、屈折部の側部同士が対向する略箱型の形状とすることができるので、磁性シートの外周を隙間無く覆うことができる。
図9(a)は、
図8(a)の磁性シート71と、矩形状のコイル73と矩形状の永久磁石72を組み合わせたコイル部品の実施形態である。断面図は
図7に示す断面図と同じ形態であり、省略する。コイル73の外周側に磁気吸着手段72が配置され、コイル73の外周側の側面と磁気吸着手段72の間には、屈折部75が形成されている。
【0038】
図8(b)は、
図8(a)の磁性シートに対して、スリット74が形成された磁性シート71である。屈折部位79は、
図8(a)の屈折部位と同じ大きさ、位置で形成される。
図9(b)は、
図8(b)の磁性シート71と、矩形のコイル73と矩形の永久磁石72を組み合わせたコイル部品の実施形態である。断面図は
図7に示す断面図と同じ形態であり、省略する。コイル73の外周側に磁気吸着手段72が配置され、コイル73の外周側の側面と磁気吸着手段72の間には、屈折部75が形成されている。また、磁性シート71はスリット74が形成されている。このスリット74は、コイル部品に組みつけられた状態において磁性シートの厚さ方向に見て、コイルの少なくとも一部と重なる位置に形成されている。この図においては、スリット74はコイル73の外周側から内周側までを横断するようにコイルの巻回方向と直交する方向に形成されている。スリットにより磁性シートで発生する渦電流を抑制できる。
【0039】
図8の磁性シート71は屈折部位79が外周全体にわたって形成されている。正多角形状で、かつ屈折部位79を外周全体にわたって形成することで、コイルや磁気吸着手段と組み合わせる際に、磁性シートがいずれの方向に向いていてもコイルと磁気吸着手段の間に屈折部が配置されることになるので、組立が容易になる。但し、磁性シート71は磁気吸着手段72と磁性シート71の間のみに屈折部が形成されるように屈折部位79が部分的に形成されるものでもよい。磁性シートの面積を小さくすることができ、材料コストを低下できる。どちらの形態を採用するかは適宜決定できる。
【0040】
図10は、他のコイル部品80の断面図であり、シート穴を持つ環状の磁性シート81の外周側と内周側の両方に屈折部85a、85bを形成した実施態様を示すものである。両方に屈折部85a、85bを備えているため、磁気吸着手段からの磁束を給電面、充電面側の流しやすくなるとともに、コイル83で発生する磁束が、コイル部品外部への漏洩を抑制できるのでシールド性能を高めることができる。また、磁気吸着手段82がコイル83の外周側、内周側のどちらに配置されるコイル部品でも対応が可能になり、設計が容易になる。
【0041】
図11は非接触充電装置に用いる給電装置20の一例を示す。
給電装置20のケース202は薄い非磁性樹脂板からなる上ケース202a及び下ケース202bからなる。上ケース202aの上面は給電面203を構成し、裏面は平坦である。上ケース202aの平坦な裏面中央部に、平坦な前面を有する磁気吸着手段211と、磁気吸着手段211を磁気ギャップを介して同軸的(同心円状)に囲む平面螺旋状で平坦な前面を有する一次コイル201とが固定されている。ここで、「同軸的」とは磁気吸着手段211の中心軸と一次コイル201の中心軸とが一致することを意味し、両者が円形の場合には両者は同心円となる。一次コイル201は、後述の二次コイル301との電磁結合を高めるために給電面203のできるだけ近くに配置されている。一次コイル201を厚さ寸法よりもそれに垂直な方向の寸法(外径寸法)の方が大きい平面コイルとすることにより磁気回路を薄型化でき、給電装置を低背化できる。一次コイル201を絶縁性樹脂でモールドしても良い。
【0042】
一次コイル201の後面には、一次コイル201をほぼ覆う大きさの(一次コイル201の外径より大きな外径と一次コイル201の内径とほぼ同じ内径を有する)ドーナツ板状の磁性シート212が同心円状に隣接しており、一次コイル201から発生する磁束の漏洩を防止している。磁気吸着手段211は、厚さ方向に見たとき磁気ギャップを介して磁性シート212の中央穴に同心円状に受承されている。この磁気ギャップには、磁性シート212に形成された屈折部が挿入される。磁気吸着手段211は磁性シート212に対しても同心円状に配置されている。
【0043】
下ケース202bの内面(
図11における上面)に基板218が固定されている。誘電体からなる基板218には、一次コイル201の導線端部が接続されるコイル端子27、共振用コンデンサ26、整流回路22、スイッチング回路23等が実装されている。
【0044】
図12は非接触充電装置に用いる受電装置30の一例を示す。受電装置30のケース302は、充電の際に給電装置20の給電面203に接する充電面303を有する薄い平坦な樹脂板状の下ケース302aと、液晶表示部39等を有する上ケース302bとからなる。充電面303の平坦な裏側中央に、平坦な前面を有する磁気吸着手段311と、磁気吸着手段311を磁気ギャップを介して同心円状に囲む平面螺旋状で平坦な前面を有する二次コイル301とが固定されている。二次コイル301は、一次コイル201と対向する位置で充電面303の近くに配置されている。磁気吸着手段311と二次コイル301との磁気ギャップは、二次コイル301が磁気吸着手段311の磁束の影響を実質的に受けないように大きくするのが好ましい。二次コイル301を平面コイルとすることにより磁気回路を薄型化でき、給電装置を低背化できる。二次コイル301を絶縁性樹脂でモールドしても良い。
【0045】
二次コイル301の後面には、二次コイル301をほぼ覆う大きさの(二次コイル301の外径より大きな外径と二次コイル301の内径とほぼ同じ大きさの内径を有する)ドーナツ板状の磁性シート312が同心円状に隣接しており、二次コイル301から発生する磁束の漏洩を防止している。厚さ方向に見たとき、磁気吸着手段311は磁気ギャップを介して磁性シート312の中央穴に同心円状に受承されている。従って、磁気吸着手段311は磁性シート312に対しても同心円状に配置されている。
【0046】
上ケース302bの裏面(
図11における上面)には基板318が固定されている。誘電体からなる基板318には、二次コイル301の導線端部が接続されるコイル端子37、整流回路32及び二次電池33の他に、必要に応じて駆動装置(図示せず)等が実装されている。磁性シート312は、二次コイル301から発生する磁束が漏れないように二次コイル301に隣接しているのが好ましい。基板318と磁性シート312とは固着されていなくても良い。
【0047】
給電装置20及び受電装置30のいずれの磁気回路においても、磁気吸着手段211,311の前面はコイル201,301の前面と同じ高さであるのが好ましい。つまり、磁気吸着手段211,311と伝送コイル201,301が平坦な給電面203及び充電面303の近くに配置されているのが好ましい。前面側に配置された二次コイル301は一次コイル201と電磁結合しやすく、高い電力伝送効率が得られる。また、前面側に配置された磁気吸着手段311は、給電装置20の磁気吸着手段211に対して大きな吸着力を有し、小さい永久磁石で給電装置20と受電装置30の位置決めを容易に正確に行うことができ、もって磁気吸着手段311から漏れる磁束量を減らすことができる。このため、磁性シート312の磁気飽和する範囲が小さくなり、磁性シート312の透磁率の低下を防止し、高い電力伝送効率が得られる。
【0048】
給電装置20の一次コイル201の巻数は受電装置30の二次コイル301の巻数より多くしても良い。受電装置30ほど小型化が求められない給電装置20には巻数が多い一次コイル201を用いることができ、相互誘電作用により二次コイル301に発生する電圧で二次電池33に短時間で電力を蓄えることができる。磁気吸着手段211は、受電装置30の磁気吸着手段311と同じで良い。
【0049】
コイル部品に用いる磁性シートについて説明する。磁性シートに用いる軟磁性体は、フェライト、ケイ素鋼板、ロール急冷により製造された金属薄帯およびこれらと樹脂の複合材などを用いることができる。渦電流損を低減し、充電の伝送効率を向上させるためには、軟磁性体を薄くすることが好ましい。この点、前記軟磁性体のうちロール急冷により製造される金属薄帯が特に好ましい。具体的には高飽和磁束密度を有するFe系アモルファス材料、Co系アモルファス材料、Fe系ナノ結晶材料、Co系ナノ結晶材料などからなる厚さ50μm以下の金属薄帯を用いるとよい。金属薄帯の厚さは、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。
【0050】
磁性シートは、薄板状の軟磁性体をそのまま用いても良いが、破損を防ぐために補強部材に固着されていることが好ましい。具体的には、樹脂シートなどで金属薄帯をラミネート加工した磁性シートを用いることが好ましい。磁性シートは一枚のみで使用しても良いが、樹脂シートを介して複数層重ねて構成しても良い。磁性シートに用いる全ての軟磁性体の厚さをそれぞれ足した厚さは150μm以下、さらには100μm以下とすることができる。50μm以下の薄型のものを構成することも可能である。
【0051】
磁性シートに形成するスリットは、軟磁性体に金属薄帯を用いる場合であれば、打ち抜き加工や切り込み加工によって形成すればよい。上述のように樹脂シートでラミネート加工する場合、ラミネート加工前にスリット形成してもよいし、ラミネート加工後にスリット形成してもよい。ラミネート加工前にスリット形成すれば、樹脂シートにスリットが形成されないため、磁性シートとしての強度を高く維持できる。一方、ラミネート加工後にスリット形成する方法は、特に金属薄帯を複数層積層する場合の工程簡略化に寄与する。さらに、金属薄帯を複数層積層する場合には、一層ごとにスリットの位置を変えて配置することもできる。かかる構成によれば、スリット形成による強度低下を分散させることができるとともに、スリットの形成によって磁性体に開口が生じることを防ぐこともできる。また、軟磁性体としてフェライトを用いる場合であれば、焼結前の成形体の状態で、打ち抜きやレーザー等でスリットを設けると良い。
【0052】
磁気吸着手段211,311は、(a)永久磁石と軟磁性材からなる磁気ヨーク部材とからなるか、(b)永久磁石のみからなるか、(c)磁気ヨーク部材のみからなるもののいずれも採用できる。磁気ヨーク部材として、板状の形状、カップ状の形状のものなど、適宜変更することができる。
【0053】
本発明に係るコイル部品は、上述の非接触充電用の給電装置や充電装置に限らず、コイル、磁性シールド、及び、磁気吸着部材を備える電子機器等に広く適用できる。