【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
引き上げ法によりFeを0.3mol%含有する一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶を作製し、これをスライスにより0.2mmtの厚さの板形状に仕上げた。この板形状のLiTaO
3単結晶の表面粗さを評価した所、Rmaxは3μmであった。
【0038】
前記0.2mmtの厚さの板形状のLiTaO
3単結晶を塩化ナトリウム溶液に浸漬させた後に、それを100枚積層して積層体を形成した。そして、該積層体を白金製の皿の上に載せ、LiO
3粉とTa
2O
5粉を6:4のモル比で混合した気相平衡処理原料と混在させ、両者を白金の容器に入れ、当該容器を電気炉に入れ、常圧、1402℃±1℃で30時間加熱して一括処理した(気相平衡処理)。
【0039】
次に、前記積層体を、200℃、1kv、5時間の印加電圧により概略結晶のZ軸方向に電界を掛け、一括して単一分極化する処理を行った(分極処理)。
このFeを0.3mol%含有する36°回転YカットLiTaO
3単結晶板を20mm角に切断し、レーザフラッシュ法により熱伝導率を測定した所、その値は7.32W/(m・K)であった。
【0040】
一方、前記気相平衡処理前の、Feを0.3mol%含有する一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶からなる前記20mm角に切断したLiTaO
3単結晶板と同一形状の試料の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。即ち、気相平衡処理により試料の熱伝導率が向上していた。
【0041】
次に、前記気相平衡処理と分極処理を施したFeを0.3mol%含有する36°回転YカットLiTaO
3単結晶板を研磨してウェーハ形状に仕上げ、前記ウェーハのX軸方向を伝播方向とする中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を共振周波数と反共振周波数より求めた所、7.9%であった。
【0042】
比較の為、前記気相平衡処理前のFeを0.3mol%含有する36°回転YカットLiTaO
3単結晶板を上記と同様にウェーハ形状に仕上げ、上記と同様の1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を上記と同様に求めた所、7.1%であった。
【0043】
(実施例2)
引き上げ法により、Feを0.5mol%含有する一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶を作製し、これをスライスにより30mmtの厚さのブール形状に仕上げ、塩化ナトリウム溶液に浸漬させた。そして、塩化ナトリウム溶液に浸漬させたLiTaO
3単結晶ブールを白金製の皿の上に載せ、Li
2CO
3粉とTa
2O
5粉を6:4のモル比で混合した気相平衡処理原料と混在させ、両者を白金の容器に入れ、当該容器を電気炉に入れ、常圧、1402℃±1℃で100時間加熱した(気相平衡処理)。
【0044】
次に、前記30mmtの厚さのLiTaO
3単結晶板を200℃、1kv、5時間の印加電圧により、概略結晶のZ軸方向に電界を掛け単一分極化する処理を行った(分極処理)。
【0045】
この気相平衡処理済のFeを0.5mol%含有する36°回転YカットLiTaO
3単結晶ブールをスライス加工して0.2mmtの厚さの板状に仕上げた。その表面粗さRmaxは、3μmであった。その後、20mm角に切断し、レーザフラッシュ法により熱伝導率を測定した所、その値は6.3W/(m・K)であった。
【0046】
一方、前記気相平衡処理前の、Feを0.5mol%含有する一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶からなる前記20mm角に切断したLiTaO
3単結晶ブールと同一形状の試料の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。即ち、気相平衡処理により試料の熱伝導率が向上していた。
【0047】
次に、前記気相平衡処理と分極処理を施したFeを0.5mol%含有する36°回転YカットLiTaO
3単結晶を研磨してウェーハ形状に仕上げ、該ウェーハのX軸方向を伝播方向とする中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を共振周波数と反共振周波数より求めた所、7.5%であった。
【0048】
比較の為、前記気相平衡処理前のFeを0.5mol%含有する36°回転YカットLiTaO
3単結晶板を上記と同様にウェーハ形状に仕上げ、上記と同様の1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を上記と同様に求めた所、7.1%であった。
【0049】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた、引き上げ法による一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶に、実施例1と同様の気相平衡処理と分極処理を施して化学量論組成LiTaO
3単結晶を得た。そして、得られた化学量論組成LiTaO
3単結晶をウェーハ形状にし、その裏面を鏡面研磨して0.19mmtの厚さのウェーハとした。
【0050】
また、引き上げ法による一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径0°回転YカットLiTaO
3単結晶を、実施例1と同様にして気相平衡処理する一方、分極処理は施さずに片面を鏡面とするウェーハ形状に仕上げた。
【0051】
前記の2種類の単結晶ウェーハを鏡面同士が重なるように、前記4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶のX軸と、前記の4インチ(10.16cm)径0°回転YカットLiTaO
3単結晶のZ軸が一致するように、常温接合法により貼り合わせた。
【0052】
前記の接合体の36°回転YカットLiTaO
3単結晶の表面を研磨して、該36°回転YカットLiTaO
3単結晶の厚みが30μmの厚さとなるように仕上げた。
前記接合基板に中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製して周波数温度特性を評価した所、共振周波数の温度係数は−12ppm/℃、反共振周波数の温度係数は−24ppm/℃であった。また、前記接合基板の熱伝導率を測定した所、7.32W/(m・K)であった。
【0053】
比較の為、実施例1と同様にして得られた一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶をウェーハ加工したもの単体に、上記と同様の中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製して周波数温度特性を評価した所、共振周波数の温度係数は−32ppm/℃、反共振周波数の温度係数は−45ppm/℃であった。また、熱伝導率を測定した所、4.51W/(m・K)であった。
【0054】
(比較例1)
引き上げ法により、Feを含まない一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶を作製し、これをスライスにより0.2mmtの厚さの板形状に仕上げた。この板形状のLiTaO
3単結晶の表面粗さを評価した所、Rmaxは3μmであった。前記0.2mmtの厚さの板形状のLiTaO
3単結晶を塩化ナトリウム溶液に浸漬させた後に、それを100枚積層して積層体を形成した。そして、該積層体を白金製の皿の上に載せ、LiO
3粉とTa
2O
5粉を6:4のモル比で混合した気相平衡処理原料と混在させ、両者を白金の容器に入れ、当該容器を電気炉に入れ、常圧、1402℃±1℃で30時間加熱して一括処理した(気相平衡処理)。
【0055】
次に、前記積層体を200℃、1kv、5時間の印加電圧により、概略結晶のZ軸方向に電界を掛け一括して単一分極化する処理を行った(分極処理)。その後、前記36°回転YカットLiTaO
3単結晶板を20mm角に切断し、レーザフラッシュ法によりその熱伝導率を測定した所、その値は8.65W/(m・K)であった。この測定は前記積層体の上部、中央部、下部について評価したが、全て同じ結果が得られた。
【0056】
一方、前記平衡処理前の、一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶からなる前記20mm角に切断したLiTaO
3単結晶板と同一形状の試料の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。即ち、気相平衡処理により試料の熱伝導率が向上していた。
【0057】
また、前記気相平衡処理と分極処理を施した36°回転YカットLiTaO
3単結晶板を研磨してウェーハ形状に仕上げ、該ウェーハのX軸方向を伝播方向とする中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を共振周波数と反共振周波数より求めた所、8.4%であった。
【0058】
比較の為、前記気相平衡処理前の36°回転YカットLiTaO
3単結晶板を同様にウェーハ形状に仕上げ、上記と同様の1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を上記と同様に求めた所、7.1%であった。
【0059】
なお、前記気相平衡処理原料として、Ta
2O
5粉の替わりにZrO
2粉を用い、Li
2CO
3粉とZrO
2粉を7:3の割合で混合した気相平衡処理原料と、前記積層体と同様の一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転Yカットタンタル酸リチウム単結晶板を積層したものとを混在させ、両者を白金の容器に入れたものを電気炉に入れ、常圧、1290℃±1℃で100時間加熱した場合についても、上記と同様に、熱伝導率と電気機械結合係数が上昇する結果が得られた。
【0060】
(比較例2)
引き上げ法によりFeを含まない一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶を作製し、これをスライスにより30mmtの厚さのブール形状に仕上げ、塩化ナトリウム溶液に浸漬させた。そして、塩化ナトリウム溶液に浸漬させたLiTaO
3単結晶ブールを白金製の皿の上に載せ、Li
2CO
3粉とTa
2O
5粉を6:4のモル比で混合した気相平衡処理原料と混在させ、両者を白金の容器に入れ、当該容器を電気炉に入れ、常圧、1402℃±1℃で100時間加熱した。
【0061】
次に、前記30mmtの厚さのLiTaO
3単結晶板を200℃、1kv、5時間の印加電圧により、概略結晶のZ軸方向に電界を掛け単一分極化する処理を行った。
【0062】
次に、前記36°回転YカットLiTaO
3単結晶ブールをスライス加工して、0.2mmtの厚さの板状に仕上げた。この板状に仕上げたLiTaO
3単結晶板の表面粗さを評価した所、Rmaxは3μmであった。これを20mm角に切断し、レーザフラッシュ法により熱伝導率を測定した所、その値は8.65W/(m・K)であった。
【0063】
一方、前記気相平衡処理前の、一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶からなる前記20mm角に切断したLiTaO
3単結晶板と同一形状の試料の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。即ち、気相平衡処理により試料の熱伝導率が向上していた。
【0064】
次に、前記気相平衡処理と分極処理を施した36°回転YカットLiTaO
3単結晶板をスライス、研磨してウェーハ形状に仕上げ、該ウェーハのX軸方向を伝播方向とする中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を共振周波数と反共振周波数より求めた所、8.4%であった。
【0065】
比較の為、前記気相平衡処理を施していない36°回転YカットLiTaO
3単結晶板を上記と同様にウェーハ形状に仕上げ、上記と同様の1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を上記と同様に求めた所、7.1%であった。
【0066】
(比較例3)
引き上げ法により、Feを含まない一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶を作製し、これをスライス及び両面研磨により0.2mmtの厚さの板形状に仕上げた。この板形状のLiTaO
3単結晶の表面粗さを評価した所、Rmaxが0.001μmの鏡面であった。前記0.2mmtの厚さの板形状のLiTaO
3単結晶を塩化ナトリウム溶液に浸漬させた後、100枚積層して積層体を形成した。そして、該積層体を白金製の皿の上に載せ、Li
2CO
3粉とTa
2O
5粉を6:4のモル比で混合した気相平衡処理原料と混在させ、両者を白金の容器に入れ、当該容器を電気炉に入れ、常圧、1402℃±1℃で30時間加熱して一括処理した(気相平衡処理)。
【0067】
次に、前記積層体を、200℃、1kv、5時間の印加電圧により概略結晶のZ軸方向に電界を掛け、一括して単一分極化する処理を行った(分極処理)。
その後、前記36°回転YカットLiTaO
3単結晶板を20mm角に切断し、レーザフラッシュ法によりその熱伝導率を測定した所、前記積層体の上部及び下部に位置する単結晶板では、8.65W/(m・K)であった。しかし、該積層体の中央部に位置する単結晶板の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。
【0068】
また、前記気相平衡処理前の、一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO
3単結晶からなる前記20mm角に切断したLiTaO
3単結晶と同一形状の試料の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。
【0069】
次に、前記気相平衡処理と分極処理を施した36°回転YカットLiTaO
3単結晶板を研磨してウェーハ形状に仕上げ、前記ウェーハのX軸方向を伝播方向とする中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を共振周波数と反共振周波数より求めた所、上記積層体の上部及び下部に位置する単結晶ウェーハについては8.4%であった。しかし、上記積層体の中央部に位置する単結晶ウェーハの電気機械結合係数は7.1%であった。
以上のように、鏡面の場合は、一括処理は困難であることがわかった。
【0070】
このように、実施例1〜3と比較例1〜3について、実施例1でFeを0.3mol%含有させた一致溶融組成LiTaO
3単結晶を用いた以外は、比較例1では実施例1と同様の処理を行った。また、実施例2でFeを0.5mol%含有させた一致溶融組成LiTaO
3単結晶を用いた以外は、比較例2では実施例2と同様の処理を行った。
【0071】
その結果、実施例1ではFeを一致溶融組成LiTaO
3単結晶に含有させて化学量論組成LiTaO
3単結晶に改質したことで、電気機械結合係数が7.9%となり、比較例1の場合の8.4%に比べて低い数値となった。同様の理由で、実施例2では電気機械結合係数が7.5%となり、比較例2の場合の8.4%に比べて低い数値となった。
【0072】
これにより、Feを一致溶融組成LiTaO
3単結晶に含有させて化学量論組成LiTaO
3単結晶に改質することで、改質後のLiTaO
3単結晶の電気機械結合係数が、改質前のFeを含まない一致溶融組成LiTaO
3単結晶の電気機械結合係数に対して調整できることがわかった。
【0073】
また、実施例3では、2種類の化学量論組成LiTaO
3単結晶を貼り合わせて得られた接合体に研磨処理を施した複合圧電基板は、有効な性質を示すことがわかった。
【0074】
一方、比較例1〜3は、いずれも処理後の電気機械結合係数が同じ値であり、所望の大きさに調整することはできなかった。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。