特許第5839577号(P5839577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5839577弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の製造方法
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  • 特許5839577-弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5839577
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20151210BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20151210BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20151210BHJP
   H01L 41/18 20060101ALI20151210BHJP
   H01L 41/39 20130101ALI20151210BHJP
【FI】
   H03H9/25 C
   H03H9/25 A
   H03H3/08
   H01L41/08 C
   H01L41/18 101A
   H01L41/22 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-107914(P2012-107914)
(22)【出願日】2012年5月9日
(65)【公開番号】特開2013-236276(P2013-236276A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】丹野 雅行
【審査官】 ▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−033489(JP,A)
【文献】 特開2007−261910(JP,A)
【文献】 特開2009−092712(JP,A)
【文献】 特開2010−173864(JP,A)
【文献】 特開2010−245991(JP,A)
【文献】 特開2011−135245(JP,A)
【文献】 特開2007−028538(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/046176(WO,A1)
【文献】 特開2002−009584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007−H03H3/10
H03H9/00−H03H9/76
H01L 41/09
H01L 41/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の製造方法であって、
引き上げ法により、Fe,Ni,Coの少なくとも1つ以上の元素を0.5mol%以下含む一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を得て、該一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を、複数積層して積層体を形成し、該積層体を気相平衡法により一括で化学量論組成に改質することで複数の前記弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造する際に、前記Fe,Ni,Coの少なくとも1つ以上の元素の量を調整することにより、電気機械結合係数が調整された前記弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造することを特徴とする弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を、塩化カリウム溶液又は塩化ナトリウム溶液に浸漬させた後、気相平衡法により化学量論組成に改質することを特徴とする請求項に記載の弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の結晶方位を、30°〜50°回転Yカットとすることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶、その製造方法及び弾性表面波素子用複合圧電基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話の通信システムは複数の通信規格をサポートし、各々の通信規格は複数の周波数バンドから構成される形態へと進展している。携帯電話の周波数調整・選択用の部品として、例えば圧電基板上に弾性表面波を励起するための櫛形電極が形成された弾性表面波(Surface Acoustic Wave、SAW)素子が用いられる。
【0003】
弾性表面波素子は小型で挿入損失が小さく、不要波を通さない性能が要求される。弾性表面波素子の材料としては、タンタル酸リチウム(LiTaO)などの圧電材料が用いられるが、現状より大きな電気機械結合係数を持った材料であれば、挿入損失や帯域幅などが改善されるため好ましいとされる。
【0004】
非特許文献1では、2重ルツボによる引き上げ法により作製した定比組成の38.5°回転YカットLiTaO(以下、化学量論組成LTとも記す)は、通常の引き上げ法による一致溶融組成LiTaOに比べ、20%電気機械結合係数が高いため好ましいとされている。しかし、化学量論組成LiTaOは引き上げ速度が、通常の引き上げ法に比べ1桁小さく、コスト高となり、このままでは化学量論組成LiTaOを弾性表面波素子用途に用いることは難しいとされる。
【0005】
また気相法による化学量論組成LiTaOウェーハは、特許文献1に詳細な記載がある。しかし、この気相法による化学量論組成LiTaOウェーハは、その処理の際に1炉あたりの処理量が限られる為コストが掛かり、弾性表面波素子用途には向かないという問題がある。
【0006】
なお、弾性表面波素子の電気機械結合係数が大きいことは好ましいが、通信バンド毎に合わせ、適度な電気機械結合係数に調整できることが更に好ましいとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許6,652,644B1号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ITを支えるオプトメディア結晶の実用開発」 科学技術振興調整費成果報告書 2002年 北村健二
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、弾性表面波素子用として使用可能でかつ所望の電気機械結合係数に調整ができるよう改善された熱伝導率のよいLiTaO単結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶であって、前記化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶は、引き上げ法により得られた、Fe,Ni,Coの少なくとも1つ以上の元素を0.5mol%以下含む一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶が、気相平衡法により化学量論組成に改質されたものであることを特徴とする弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を提供する。
【0011】
このような化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶であれば、一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の電気機械結合係数を100%としたとき、電気機械結合係数が100%〜約120%の範囲で所望の値に調整され、同時に、安価で熱伝導率のよい弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶となる。
【0012】
このとき、前記改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の結晶方位が、30°〜50°回転Yカットであることが好ましい。
これにより、より大きな電気機械結合係数を示す弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶となる。
【0013】
また、本発明は、弾性表面波素子用複合圧電基板であって、前記複合圧電基板は、結晶方位が異なる2種類の本発明の弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶のウェーハ同士を接合してなるものであることを特徴とする弾性表面波素子用複合圧電基板を提供する。
【0014】
これにより、弾性表面波素子の耐電力性や電気機械結合係数が向上される弾性表面波素子用複合圧電基板となる。
【0015】
また、本発明は、弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の製造方法であって、引き上げ法により、Fe,Ni,Coの少なくとも1つ以上の元素を0.5mol%以下含む一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を得て、該一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を、気相平衡法により化学量論組成に改質することで前記化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造することを特徴とする弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の製造方法を提供する。
【0016】
これにより、引き上げ速度を落とす必要がなく高い生産性で製造できるため、コストを低減でき、かつ、引き上げ法により単結晶製造時に、Fe,Ni,Coの量を調整するだけで簡単に電気機械結合係数を調整できる弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造できる。
【0017】
このとき、前記一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を複数積層して積層体を形成し、該積層体を気相平衡法により一括で化学量論組成に改質することで複数の前記化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造することが好ましい。
これにより、一括で改質できるため、より低コストで化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造できる。
【0018】
このとき、前記改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を、塩化カリウム溶液又は塩化ナトリウム溶液に浸漬させた後、気相平衡法により化学量論組成に改質することが好ましい。
このように予め処理することで、気相平衡法による改質の処理速度が飛躍的に向上して、化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶をより生産性良く製造できる。
【0019】
このとき、前記改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の結晶方位を、30°〜50°回転Yカットとすることが好ましい。
これにより、より大きな電気機械結合係数を示す弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造できる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、電気機械結合係数を所望の値に調整することが出来、同時に、安価で熱伝導率のよい弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の規格化した電気機械結合係数のYカット角依存性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
本発明の弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶は、引き上げ法により得られた、Fe,Ni,Coの少なくとも1つ以上の元素を0.5mol%以下含む一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶が、気相平衡法により化学量論組成に改質されたものである。
このような化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶であれば、一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の電気機械結合係数を100%としたとき、電気機械結合係数を100%〜約120%の範囲で所望の値に調整することが出来、同時に、安価で熱伝導率のよい弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶となる。
【0024】
気相平衡法による処理において、一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶は、Liを外部より拡散することによりLiの空位がLiで補完され化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶に変化する。これにより、Liの空位により制限されていた電気機械結合係数を、本来タンタル酸リチウム単結晶で達しうる電気結合係数へと回復することが出来ると考えられる。更に、本発明のように、Li空位をFe,Ni,Coの元素で予め占めることで、電気機械結合係数の最大性能から所望の値に当該元素の含有量によって調整可能である。
【0025】
このとき、改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶が、厚さが7mm以上であることが好ましい。
このように厚い、例えばブール形状のタンタル酸リチウム単結晶を、気相平衡法により一様に化学量論組成に改質できるので、生産性良く製造でき、安価な弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶となる。
【0026】
また、改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の結晶方位が、30°〜50°回転Yカットであることが好ましい。
これにより、より大きな電気機械結合係数が得られる弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶となる。
【0027】
図1は、Feを0.5mol%以下含む一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を改質した弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶と、Feを含まない一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を改質した化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の規格化した電気機械結合係数のYカット角依存性を示している。ここで、図1の縦軸は一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の各Yカット角における電気機械結合係数と化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の電気機械結合係数との比を表している。一方、図1の横軸は化学量論組成に改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶のYカット角を表している。
【0028】
図1に示すように、Feを含まない場合の化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の電気機械結合係数は、一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の電気機械結合係数に比べ、最大1.2倍近くとなっている。
また、Feを0.5mol%含む場合の化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の電気機械結合係数は、一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の電気機械結合係数に比べ、1.05倍程度となっている。図1に示すように、Feの含有量によって電気機械結合係数が変化していることがわかる。また、Feの含有量が0.5mol%を超えると、電気機械結合係数が一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の電気機械結合係数以下となってしまう場合があるため、Feの含有量は0.5mol%以下とする必要がある。尚、Ni,Coにおいても、上記Feと同じ傾向を示す。
【0029】
従って、これらより、Fe,Ni,Coの少なくとも1つ以上の元素を一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶に0.5mol%以下含ませることにより、改質された化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶の電気機械結合係数を、一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の電気機械結合係数の1.05倍程度から1.2倍近い値まで調整可能であることがわかる。また、一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の回転Yカット角が30°〜50°の範囲において、電気機械結合係数が最大となっていることもわかる。
【0030】
また、本発明は、結晶方位が異なる2種類の本発明の弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶のウェーハ同士を接合してなる弾性表面波素子用複合圧電基板を提供する。
このような弾性表面波素子用複合圧電基板であれば、電気機械結合係数が優れるとともに、結晶の放熱性が向上しているため、弾性表面波素子の耐電力性が向上する。更に、複合圧電基板であるが故に周波数温度特性が向上した安価な複合基板となる。
【0031】
そして、上記のような本発明の弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造する本発明の製造方法は、引き上げ法により、Fe,Ni,Coの少なくとも1つ以上の元素を0.5mol%以下含む一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を得て、これを気相平衡法により化学量論組成に改質することで弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造する。
【0032】
すなわち、一旦通常の引き上げ法で一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を得るので、引き上げ速度を落とす必要がなく高い生産性で製造できるため、コストを低減できる。また、引き上げ法により単結晶製造時に、Fe,Ni,Coの量を調整するだけで簡単に、電気機械結合係数を調整できる。
これにより、電気機械結合係数を所望の値に調整することが出来、同時に、安価で熱伝導率のよい弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を提供できる。
【0033】
この際、改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の表面の粗さ指標Rmaxを1μm以上、好ましくは5μm以上とし、この一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を複数積層して積層体を形成し、その積層体を気相平衡法により一括で化学量論組成に改質することが好ましい。
このように、一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶のウェーハの表面が粗いもの同士を重ね合わせることで、改質の際の気相反応に大きな支障が生じない。このため、一括で多数のウェーハを気相平衡法により一様に化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶に改質できる為、より安価な弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を提供することができる。
【0034】
また、改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を、厚さ7mm以上とすることが好ましい。
このように厚い、例えばブール形状のタンタル酸リチウム単結晶を、気相平衡法により一様に化学量論組成に改質できるので、生産性良く製造でき、安価な弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を提供できる。
【0035】
更に、改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶を、予め塩化カリウム溶液又は塩化ナトリウム溶液に浸漬させた後、気相平衡法により化学量論組成に改質することが好ましい。
これにより、表面を活性化することができ、気相平衡法における処理速度が飛躍的に向上するため、より生産性良く弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造できる。
【0036】
また、改質される一致溶融組成タンタル酸リチウム単結晶の結晶方位を、30°〜50°回転Yカットとすることが好ましい。
これにより、より大きな電気機械結合係数が得られる弾性表面波素子用化学量論組成タンタル酸リチウム単結晶を製造できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
引き上げ法によりFeを0.3mol%含有する一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶を作製し、これをスライスにより0.2mmtの厚さの板形状に仕上げた。この板形状のLiTaO単結晶の表面粗さを評価した所、Rmaxは3μmであった。
【0038】
前記0.2mmtの厚さの板形状のLiTaO単結晶を塩化ナトリウム溶液に浸漬させた後に、それを100枚積層して積層体を形成した。そして、該積層体を白金製の皿の上に載せ、LiO粉とTa粉を6:4のモル比で混合した気相平衡処理原料と混在させ、両者を白金の容器に入れ、当該容器を電気炉に入れ、常圧、1402℃±1℃で30時間加熱して一括処理した(気相平衡処理)。
【0039】
次に、前記積層体を、200℃、1kv、5時間の印加電圧により概略結晶のZ軸方向に電界を掛け、一括して単一分極化する処理を行った(分極処理)。
このFeを0.3mol%含有する36°回転YカットLiTaO単結晶板を20mm角に切断し、レーザフラッシュ法により熱伝導率を測定した所、その値は7.32W/(m・K)であった。
【0040】
一方、前記気相平衡処理前の、Feを0.3mol%含有する一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶からなる前記20mm角に切断したLiTaO単結晶板と同一形状の試料の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。即ち、気相平衡処理により試料の熱伝導率が向上していた。
【0041】
次に、前記気相平衡処理と分極処理を施したFeを0.3mol%含有する36°回転YカットLiTaO単結晶板を研磨してウェーハ形状に仕上げ、前記ウェーハのX軸方向を伝播方向とする中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を共振周波数と反共振周波数より求めた所、7.9%であった。
【0042】
比較の為、前記気相平衡処理前のFeを0.3mol%含有する36°回転YカットLiTaO単結晶板を上記と同様にウェーハ形状に仕上げ、上記と同様の1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を上記と同様に求めた所、7.1%であった。
【0043】
(実施例2)
引き上げ法により、Feを0.5mol%含有する一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶を作製し、これをスライスにより30mmtの厚さのブール形状に仕上げ、塩化ナトリウム溶液に浸漬させた。そして、塩化ナトリウム溶液に浸漬させたLiTaO単結晶ブールを白金製の皿の上に載せ、LiCO粉とTa粉を6:4のモル比で混合した気相平衡処理原料と混在させ、両者を白金の容器に入れ、当該容器を電気炉に入れ、常圧、1402℃±1℃で100時間加熱した(気相平衡処理)。
【0044】
次に、前記30mmtの厚さのLiTaO単結晶板を200℃、1kv、5時間の印加電圧により、概略結晶のZ軸方向に電界を掛け単一分極化する処理を行った(分極処理)。
【0045】
この気相平衡処理済のFeを0.5mol%含有する36°回転YカットLiTaO単結晶ブールをスライス加工して0.2mmtの厚さの板状に仕上げた。その表面粗さRmaxは、3μmであった。その後、20mm角に切断し、レーザフラッシュ法により熱伝導率を測定した所、その値は6.3W/(m・K)であった。
【0046】
一方、前記気相平衡処理前の、Feを0.5mol%含有する一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶からなる前記20mm角に切断したLiTaO単結晶ブールと同一形状の試料の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。即ち、気相平衡処理により試料の熱伝導率が向上していた。
【0047】
次に、前記気相平衡処理と分極処理を施したFeを0.5mol%含有する36°回転YカットLiTaO単結晶を研磨してウェーハ形状に仕上げ、該ウェーハのX軸方向を伝播方向とする中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を共振周波数と反共振周波数より求めた所、7.5%であった。
【0048】
比較の為、前記気相平衡処理前のFeを0.5mol%含有する36°回転YカットLiTaO単結晶板を上記と同様にウェーハ形状に仕上げ、上記と同様の1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を上記と同様に求めた所、7.1%であった。
【0049】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた、引き上げ法による一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶に、実施例1と同様の気相平衡処理と分極処理を施して化学量論組成LiTaO単結晶を得た。そして、得られた化学量論組成LiTaO単結晶をウェーハ形状にし、その裏面を鏡面研磨して0.19mmtの厚さのウェーハとした。
【0050】
また、引き上げ法による一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径0°回転YカットLiTaO単結晶を、実施例1と同様にして気相平衡処理する一方、分極処理は施さずに片面を鏡面とするウェーハ形状に仕上げた。
【0051】
前記の2種類の単結晶ウェーハを鏡面同士が重なるように、前記4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶のX軸と、前記の4インチ(10.16cm)径0°回転YカットLiTaO単結晶のZ軸が一致するように、常温接合法により貼り合わせた。
【0052】
前記の接合体の36°回転YカットLiTaO単結晶の表面を研磨して、該36°回転YカットLiTaO単結晶の厚みが30μmの厚さとなるように仕上げた。
前記接合基板に中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製して周波数温度特性を評価した所、共振周波数の温度係数は−12ppm/℃、反共振周波数の温度係数は−24ppm/℃であった。また、前記接合基板の熱伝導率を測定した所、7.32W/(m・K)であった。
【0053】
比較の為、実施例1と同様にして得られた一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶をウェーハ加工したもの単体に、上記と同様の中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製して周波数温度特性を評価した所、共振周波数の温度係数は−32ppm/℃、反共振周波数の温度係数は−45ppm/℃であった。また、熱伝導率を測定した所、4.51W/(m・K)であった。
【0054】
(比較例1)
引き上げ法により、Feを含まない一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶を作製し、これをスライスにより0.2mmtの厚さの板形状に仕上げた。この板形状のLiTaO単結晶の表面粗さを評価した所、Rmaxは3μmであった。前記0.2mmtの厚さの板形状のLiTaO単結晶を塩化ナトリウム溶液に浸漬させた後に、それを100枚積層して積層体を形成した。そして、該積層体を白金製の皿の上に載せ、LiO粉とTa粉を6:4のモル比で混合した気相平衡処理原料と混在させ、両者を白金の容器に入れ、当該容器を電気炉に入れ、常圧、1402℃±1℃で30時間加熱して一括処理した(気相平衡処理)。
【0055】
次に、前記積層体を200℃、1kv、5時間の印加電圧により、概略結晶のZ軸方向に電界を掛け一括して単一分極化する処理を行った(分極処理)。その後、前記36°回転YカットLiTaO単結晶板を20mm角に切断し、レーザフラッシュ法によりその熱伝導率を測定した所、その値は8.65W/(m・K)であった。この測定は前記積層体の上部、中央部、下部について評価したが、全て同じ結果が得られた。
【0056】
一方、前記平衡処理前の、一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶からなる前記20mm角に切断したLiTaO単結晶板と同一形状の試料の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。即ち、気相平衡処理により試料の熱伝導率が向上していた。
【0057】
また、前記気相平衡処理と分極処理を施した36°回転YカットLiTaO単結晶板を研磨してウェーハ形状に仕上げ、該ウェーハのX軸方向を伝播方向とする中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を共振周波数と反共振周波数より求めた所、8.4%であった。
【0058】
比較の為、前記気相平衡処理前の36°回転YカットLiTaO単結晶板を同様にウェーハ形状に仕上げ、上記と同様の1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を上記と同様に求めた所、7.1%であった。
【0059】
なお、前記気相平衡処理原料として、Ta粉の替わりにZrO粉を用い、LiCO粉とZrO粉を7:3の割合で混合した気相平衡処理原料と、前記積層体と同様の一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転Yカットタンタル酸リチウム単結晶板を積層したものとを混在させ、両者を白金の容器に入れたものを電気炉に入れ、常圧、1290℃±1℃で100時間加熱した場合についても、上記と同様に、熱伝導率と電気機械結合係数が上昇する結果が得られた。
【0060】
(比較例2)
引き上げ法によりFeを含まない一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶を作製し、これをスライスにより30mmtの厚さのブール形状に仕上げ、塩化ナトリウム溶液に浸漬させた。そして、塩化ナトリウム溶液に浸漬させたLiTaO単結晶ブールを白金製の皿の上に載せ、LiCO粉とTa粉を6:4のモル比で混合した気相平衡処理原料と混在させ、両者を白金の容器に入れ、当該容器を電気炉に入れ、常圧、1402℃±1℃で100時間加熱した。
【0061】
次に、前記30mmtの厚さのLiTaO単結晶板を200℃、1kv、5時間の印加電圧により、概略結晶のZ軸方向に電界を掛け単一分極化する処理を行った。
【0062】
次に、前記36°回転YカットLiTaO単結晶ブールをスライス加工して、0.2mmtの厚さの板状に仕上げた。この板状に仕上げたLiTaO単結晶板の表面粗さを評価した所、Rmaxは3μmであった。これを20mm角に切断し、レーザフラッシュ法により熱伝導率を測定した所、その値は8.65W/(m・K)であった。
【0063】
一方、前記気相平衡処理前の、一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶からなる前記20mm角に切断したLiTaO単結晶板と同一形状の試料の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。即ち、気相平衡処理により試料の熱伝導率が向上していた。
【0064】
次に、前記気相平衡処理と分極処理を施した36°回転YカットLiTaO単結晶板をスライス、研磨してウェーハ形状に仕上げ、該ウェーハのX軸方向を伝播方向とする中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を共振周波数と反共振周波数より求めた所、8.4%であった。
【0065】
比較の為、前記気相平衡処理を施していない36°回転YカットLiTaO単結晶板を上記と同様にウェーハ形状に仕上げ、上記と同様の1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を上記と同様に求めた所、7.1%であった。
【0066】
(比較例3)
引き上げ法により、Feを含まない一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶を作製し、これをスライス及び両面研磨により0.2mmtの厚さの板形状に仕上げた。この板形状のLiTaO単結晶の表面粗さを評価した所、Rmaxが0.001μmの鏡面であった。前記0.2mmtの厚さの板形状のLiTaO単結晶を塩化ナトリウム溶液に浸漬させた後、100枚積層して積層体を形成した。そして、該積層体を白金製の皿の上に載せ、LiCO粉とTa粉を6:4のモル比で混合した気相平衡処理原料と混在させ、両者を白金の容器に入れ、当該容器を電気炉に入れ、常圧、1402℃±1℃で30時間加熱して一括処理した(気相平衡処理)。
【0067】
次に、前記積層体を、200℃、1kv、5時間の印加電圧により概略結晶のZ軸方向に電界を掛け、一括して単一分極化する処理を行った(分極処理)。
その後、前記36°回転YカットLiTaO単結晶板を20mm角に切断し、レーザフラッシュ法によりその熱伝導率を測定した所、前記積層体の上部及び下部に位置する単結晶板では、8.65W/(m・K)であった。しかし、該積層体の中央部に位置する単結晶板の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。
【0068】
また、前記気相平衡処理前の、一致溶融組成の4インチ(10.16cm)径36°回転YカットLiTaO単結晶からなる前記20mm角に切断したLiTaO単結晶と同一形状の試料の熱伝導率を測定した所、その値は4.51W/(m・K)であった。
【0069】
次に、前記気相平衡処理と分極処理を施した36°回転YカットLiTaO単結晶板を研磨してウェーハ形状に仕上げ、前記ウェーハのX軸方向を伝播方向とする中心周波数1GHzの1ポートSAW共振子を作製し、電気機械結合係数を共振周波数と反共振周波数より求めた所、上記積層体の上部及び下部に位置する単結晶ウェーハについては8.4%であった。しかし、上記積層体の中央部に位置する単結晶ウェーハの電気機械結合係数は7.1%であった。
以上のように、鏡面の場合は、一括処理は困難であることがわかった。
【0070】
このように、実施例1〜3と比較例1〜3について、実施例1でFeを0.3mol%含有させた一致溶融組成LiTaO単結晶を用いた以外は、比較例1では実施例1と同様の処理を行った。また、実施例2でFeを0.5mol%含有させた一致溶融組成LiTaO単結晶を用いた以外は、比較例2では実施例2と同様の処理を行った。
【0071】
その結果、実施例1ではFeを一致溶融組成LiTaO単結晶に含有させて化学量論組成LiTaO単結晶に改質したことで、電気機械結合係数が7.9%となり、比較例1の場合の8.4%に比べて低い数値となった。同様の理由で、実施例2では電気機械結合係数が7.5%となり、比較例2の場合の8.4%に比べて低い数値となった。
【0072】
これにより、Feを一致溶融組成LiTaO単結晶に含有させて化学量論組成LiTaO単結晶に改質することで、改質後のLiTaO単結晶の電気機械結合係数が、改質前のFeを含まない一致溶融組成LiTaO単結晶の電気機械結合係数に対して調整できることがわかった。
【0073】
また、実施例3では、2種類の化学量論組成LiTaO単結晶を貼り合わせて得られた接合体に研磨処理を施した複合圧電基板は、有効な性質を示すことがわかった。
【0074】
一方、比較例1〜3は、いずれも処理後の電気機械結合係数が同じ値であり、所望の大きさに調整することはできなかった。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1