特許第5839905号(P5839905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5839905
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】被加工物の切削方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20151210BHJP
【FI】
   H01L21/78 Q
   H01L21/78 F
   H01L21/78 M
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-200733(P2011-200733)
(22)【出願日】2011年9月14日
(65)【公開番号】特開2013-62429(P2013-62429A)
(43)【公開日】2013年4月4日
【審査請求日】2014年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】洪君偉
【審査官】 竹口 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−316174(JP,A)
【文献】 特開2004−142428(JP,A)
【文献】 特開2011−159679(JP,A)
【文献】 特開平09−141646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/301、21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着シート上に貼着された被加工物を切削ブレードで切削する被加工物の切削方法であって、
第1粘着シート上に被加工物の裏面側を貼着して被加工物の表面側を露出させる貼着ステップと、
該第1粘着シート上に貼着された被加工物の表面側から切削予定ラインに沿って第1切削ブレードで被加工物を切削して第1切削溝を形成する第1切削ステップと、
該第1切削ステップを実施した後、被加工物の表面側から第2切削ブレードで該第1切削溝の底部を切削して第2切削溝を形成するとともに被加工物の裏面側に残存部を形成する第2切削ステップと、
該第2切削ステップを実施した後、被加工物の表面側を第2粘着シート上に貼着するとともに被加工物の裏面側に貼着されている第1粘着シートを被加工物の裏面上から除去して被加工物の裏面側を露出させる転写ステップと、
該転写ステップを実施した後、被加工物の裏面側から第3切削ブレードで該切削予定ラインに沿って該残存部を切削して該第2切削溝に貫通させる第3切削ステップと、
を具備し
前記第1切削ブレードは前記第2切削ブレードより厚い厚みを有し、
前記第3切削ブレードは前記第1切削ブレードで兼用されることを特徴とする被加工物の切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシングテープに貼着された被加工物を切削ブレードで切削して個々のチップに分割する被加工物の切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエーハにIC、LSI等のデバイスが複数形成された半導体ウエーハや、電子部品に使用される各種セラミック基板、樹脂基板、ガラス基板、サファイア基板等の被加工物はダイシング装置(切削装置)によって個々のチップに分割され、分割されたチップは各種電子機器に広く利用されている。
【0003】
分割された個々のチップのハンドリングを容易にするために、分割に際して被加工物は粘着シートであるダイシングテープに貼着されて環状のダイシングフレームで支持され、被加工物とダイシングフレームが一体化される。
【0004】
一般にダイシングテープはポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の基材と、基材上に形成されたアクリル系やゴム系の糊層とで構成され、被加工物は糊層上に貼着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−141306号公報
【特許文献2】特開2010−50295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、被加工物を支持する糊層は軟らかいため、被加工物の厚みに対してチップサイズが小さい場合や、難切削剤からなる被加工物の場合には、切削中に糊層上に貼着された被加工物が切削負荷によって動き、切削断面が垂直に形成されない所謂斜め切り等の異形状が生じることがある。
【0007】
通常、切削ブレードで被加工物が切削されてチップが切り離される際にチップが動くと斜め切りが生じるため、チップの粘着シート貼着面側がチップ上面に対して寸法が大きくなる。例えば、チップの外径寸法が重要である場合には、チップの切削断面が垂直に形成されないと非常に問題となる。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、斜め切りを発生させることのない被加工物の切削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、粘着シート上に貼着された被加工物を切削ブレードで切削する被加工物の切削方法であって、第1粘着シート上に被加工物の裏面側を貼着して被加工物の表面側を露出させる貼着ステップと、該第1粘着シート上に貼着された被加工物の表面側から切削予定ラインに沿って第1切削ブレードで被加工物を切削して第1切削溝を形成する第1切削ステップと、該第1切削ステップを実施した後、被加工物の表面側から第2切削ブレードで該第1切削溝の底部を切削して第2切削溝を形成するとともに被加工物の裏面側に残存部を形成する第2切削ステップと、該第2切削ステップを実施した後、被加工物の表面側を第2粘着シート上に貼着するとともに被加工物の裏面側に貼着されている第1粘着シートを被加工物の裏面上から除去して被加工物の裏面側を露出させる転写ステップと、該転写ステップを実施した後、被加工物の裏面側から第3切削ブレードで該切削予定ラインに沿って該残存部を切削して該第2切削溝に貫通させる第3切削ステップと、を具備し、第1切削ブレードは第2切削ブレードより厚い厚みを有し、第3切削ブレードは第1切削ブレードで兼用されることを特徴とする被加工物の切削方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の切削方法によると、被加工物の表面側から二度に分けて切削するため、切削負荷が低減されて斜め切りの発生を抑制することができる。更に、被加工物の裏面側に切り残し部を形成した後、裏面側から切り残し部を切削してチップへと分割するようにしたため、チップの異形状を発生させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の切削方法を実施するのに適した切削装置の斜視図である。
図2】被加工物の一例であるガラス基板の斜視図である。
図3】貼着ステップを示す斜視図である。
図4図4(A)は第1切削ステップを示す一部断面側面図、図4(B)は第2切削ステップを示す一部断面側面図である。
図5図5(A)は転写ステップを示す一部断面側面図、図5(B)は第3切削ステップを示す一部断面側面図である。
図6図6(A)は第2実施形態における第1切削ステップを示す一部断面側面図、図6(B)は第2実施形態における第2切削ステップを示す一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、本発明の被加工物の切削方法を実施するのに適した切削装置(ダイシング装置)2の斜視図が示されている。
【0014】
切削装置2は2スピンドルタイプの切削装置であり、チャックテーブル4において被加工物を吸引保持し、チャックテーブル4が切削送り方向(X軸方向)に往復移動しながら、割り出し送り方向(Y軸方向)及び切り込み送り方向(Z軸方向)に移動する第1の切削手段6及び第2の切削手段8の作用により被加工物が切削される構成となっている。
【0015】
例えば、半導体ウエーハWをダイシングする場合は、図1に示すように、ダイシングテープTを介して環状フレームFに保持された半導体ウエーハWが、チャックテーブル4に載置されて吸引保持される。
【0016】
チャックテーブル4は切削送り手段10によってX軸方向に移動可能となっており、第1の切削手段6と一体に形成された第1カメラ(第1撮像手段)13を有する第1のアライメント手段12及び第2の切削手段8と一体に形成された第2カメラ(第2撮像手段)15を有する第2のアライメント手段14によって、チャックテーブル4に吸引保持されたウエーハWの切削すべき領域であるストリートが検出され、そのストリートと切削ブレードとのY軸方向の位置合わせがなされた後に、切削が行われる。
【0017】
切削送り手段10は、X軸方向に配設された一対のX軸ガイドレール16と、X軸ガイドレール16に摺動可能に支持されたX軸移動基台18と、X軸移動基台18に形成されたナット部(図示せず)に螺合するX軸ボールねじ20と、X軸ボールねじ20を回転駆動するX軸パルスモータ22とから構成される。
【0018】
チャックテーブル4を回転可能に支持する支持基台24はX軸移動基台18に固定されており、X軸パルスモータ22に駆動されてX軸ボールねじ20が回転することによって、チャックテーブル4がX軸方向に移動される。
【0019】
一方、第1切削手段12及び第2切削手段14は、ガイド手段26によってY軸方向に割り出し送り可能に支持されている。ガイド手段26は、チャックテーブル4の移動を妨げないようにX軸に直交するY軸方向に配設される垂直コラム28と、垂直コラム28の側面においてY軸方向に配設された一対のY軸ガイドレール30と、Y軸ガイドレール30と平行に配設された第1のボールねじ32及び第2のボールねじ34と、第1のボールねじ32に連結された第1のY軸パルスモータ36と、第2のボールねじ34に連結された第2のY軸パルスモータ38とから構成される。
【0020】
Y軸ガイドレール30は、第1の支持部材40及び第2の支持部材42をY軸方向に摺動可能に支持しており、第1の支持部材40及び第2の支持部材42に備えたナット(図示せず)が第1のボールねじ32及び第2のボールねじ34にそれぞれ螺合している。
【0021】
第1のY軸パルスモータ36および第2のY軸パルスモータ38に駆動されて第1のボールねじ32及び第2のボールねじ34がそれぞれ回転することにより、第1の支持部材40及び第2の支持部材42がそれぞれ独立してY軸方向に移動される。
【0022】
第1の支持部材40及び第2の支持部材42のY軸方向の位置はリニアスケール44によって計測され、Y軸方向の位置の精密制御に供される。なお、リニアスケールを各支持部材ごとに別個に設けることも可能ではあるが、一本のリニアスケール44で第1の支持部材40及び第2の支持部材42の双方の位置を計測するほうが、両者の間隔を精密に制御することができる。
【0023】
第1の支持部材40には、第1の切削手段6が取り付けられた第1の移動部材46が上下方向(Z軸方向)に摺動可能に取り付けられており、第1のZ軸パルスモータ48を駆動すると、第1の移動部材46がZ軸方向に移動される。
【0024】
同様に、第2の支持部材42には、第2の切削手段8が取り付けられた第2の移動部材50が上下方向(Z軸方向)に摺動可能に取り付けられており、第2のZ軸パルスモータ52を駆動することにより、第2の移動部材50がZ軸方向に移動される。
【0025】
第1切削手段6は、回転駆動されるスピンドルの先端部に第1切削ブレード70が装着されて構成され、第2切削手段8は、回転駆動されるスピンドルの先端部に第2切削ブレード72(図4参照)が装着されて構成されている。
【0026】
図2を参照すると、被加工物の一種であるガラス基板11の斜視図が示されている。ガラス基板11を切削するにあたり、切削装置2のコントローラに所定ピッチの切削予定ライン17を登録する。
【0027】
本発明の切削方法は、被加工物がガラス基板11に限定されるものではなく、半導体ウエーハ、セラミック基板、樹脂基板等の他の被加工物にも同様に適用可能であり、パターンの有無や材質は問わないものである。
【0028】
本発明の切削方法では、まず図3に示すように、第1粘着シートT1上にガラス基板11の裏面11b側を貼着してガラス基板11の表面11aを露出させる貼着ステップを実施する。
【0029】
第1粘着シートT1はポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の基材上にアクリル系やゴム系の糊層を配設したものであり、第1粘着シートT1の外周部は環状フレームFに貼着される。
【0030】
切削装置2では、切削加工に際して、事前に切削装置2に搭載された第1カメラ13の基準線と第1切削ブレード70の中心線を合わせる作業(ヘアライン合わせ)を実施する。同様に、第2カメラ15の基準線と第2切削ブレード72の中心線を合わせる作業を実施する。
【0031】
このヘアライン合わせ作業は、具体的には一度第1切削ブレード70でウエーハWの上面に切削溝を形成し、その切削溝を撮像して画像処理を行って切削溝の中心を検出し、この溝の中心位置と第1カメラ13の基準線位置とのずれ量を算出し、このずれ量を座標位置に加減することにより、切削溝の中心位置と第1カメラ13の基準線位置とを合致させた原点位置を切削装置2のコントローラに記憶させることで行っている。第2切削ブレード72についても同様な作業によりヘアライン合わせを実施する。
【0032】
ヘアライン合わせ実施後、図4(A)に示すように、第1粘着シートT1上に貼着されたガラス基板11の表面11a側から予め登録された切削予定ライン17に沿って第1切削ブレード70で第1切削溝19を形成する第1切削ステップを実施する。
【0033】
第1切削ステップを実施した後、第2カメラ15で第1切削溝19を撮像し、第2切削ブレード72の中心を第1切削溝19の中心に合わせるアライメントを実施する。このようなアライメント実施後、図4(B)に示すように、ガラス基板11の表面11a側から第2切削ブレード72で第1切削溝19の底部を切削して第2切削溝21を形成するとともにガラス基板11の裏面11b側に残存部23を形成する第2切削ステップを実施する。
【0034】
分割予定ライン17のピッチずつ第2切削ブレード72をY軸方向に割り出し送りして、第1の方向に伸長する全ての第1切削溝19の底部に第2切削溝21を形成する。次いで、チャックテーブル4を90度回転してから、第1の方向に直交する第2の方向に伸長する全ての第1切削溝19の底部に同様な第2切削溝21を形成する。
【0035】
第2切削ステップを実施した後、図5(A)に示すように、ガラス基板11の表面11a側を第2粘着シートT2に貼着するとともに、貼着ステップでガラス基板11の裏面11b側に貼着した第1粘着シートT1をガラス基板11の裏面11b上から除去して、ガラス基板11の裏面11b側を露出させる転写ステップを実施する。
【0036】
このような転写ステップを実施した後、第1カメラ13でガラス基板11の裏面11b側から第1切削溝19を撮像し、第1切削ブレード70の中心を第1切削溝19の中心に合わせるアライメントを実施する。
【0037】
アライメント実施後、図5(B)に示すように、ガラス基板11の裏面11b側から第3切削ブレード(本実施形態では第1切削ブレード70)で分割予定ライン13に沿って残存部23を切削して第3切削溝25を形成し、第2切削溝21に貫通させる第3切削ステップを実施する。
【0038】
この第3切削ステップを、第1の方向に伸長する全ての分割予定ライン13に沿って実施した後、チャックテーブル4を90度回転してから、第1の方向に直交する第2の方向に伸長する全ての分割予定ライン13に沿って実施することにより、ガラス基板11は個々のチップに分割される。
【0039】
上述した実施形態では、第1切削ブレード70は第2切削ブレード72より厚い厚みを有しており、第3切削ブレードは第1切削ブレード70で兼用されている。そして、第1乃至第3切削ステップを同一の切削装置2で実施している。
【0040】
しかし、本発明の切削方法はこれに限定されるものではなく、第1乃至第3切削ブレードを全て同一の切削ブレードで兼用してもよい。或いは、第1及び第2切削ブレードを同一の切削ブレードで兼用し、第3切削ブレードは第1及び第2切削ブレードよりも厚い厚みを有していても良い。
【0041】
更に、第1切削ステップ、第2切削ステップ及び第3切削ステップを全て異なる切削装置で実施してもよい。或いは、第1及び第2切削ステップを同じ切削装置で実施し、第3切削ステップを別の切削装置で実施するようにしてもよい。
【0042】
上述した実施形態では、被加工物が透明体であるガラス基板11から構成されているため、第1カメラ13で第1切削溝19を撮像して切削予定ライン17を検出するアライメントを実施しているが、被加工物が透明体でない場合には、IRカメラを用いることにより第3切削ステップ前のアライメントを実施する。或いは、被加工物の外周エッジから切削予定ライン位置を予め検出しておくことにより、アライメントを実施するようにしてもよい。
【0043】
上述した実施形態では、全切削予定ライン17に対して第1切削ステップを実施した後、全切削予定ライン17に対して第2切削ステップを実施しているが、図6に示すように、切削予定ライン17毎に第1切削ステップと第2切削ステップを繰り返し、第1切削溝19及び第2切削溝21を連続して形成するようにしてもよい。
【0044】
或いは、第1切削ブレード70で切削予定ライン17に沿って第1切削溝19を形成した後、隣接する分割予定ライン13に沿って第1切削ブレード70で第1切削ステップを実施するのと同時に、第2切削ブレード72で第1切削溝19が形成されている分割予定ライン13に沿って第2切削ステップを実施して第2切削溝21を形成するようにしてもよい。
【0045】
上述した実施形態の切削方法によると、ガラス基板11の表面11a側から二度に分けて第1切削溝19及び第2切削溝21を形成するため、切削負荷が低減されて斜め切りの発生を抑制することができる。更に、ガラス基板11の裏面11b側に切り残し部23を形成した後、裏面11b側から切り残し部23を切削してチップへと分割するようにしたため、チップの異形状を発生させることがない。
【符号の説明】
【0046】
4 チャックテーブル
6 第1切削手段
8 第2切削手段
11 ガラス基板
13 第1カメラ(第1撮像手段)
15 第2カメラ(第2撮像手段)
17 切削予定ライン
19 第1切削溝
21 第2切削溝
23 切り残し部
25 第3切削溝
70 第1切削ブレード
72 第2切削ブレード
図1
図2
図3
図4
図5
図6