特許第5840283号(P5840283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5840283-受信装置 図000004
  • 特許5840283-受信装置 図000005
  • 特許5840283-受信装置 図000006
  • 特許5840283-受信装置 図000007
  • 特許5840283-受信装置 図000008
  • 特許5840283-受信装置 図000009
  • 特許5840283-受信装置 図000010
  • 特許5840283-受信装置 図000011
  • 特許5840283-受信装置 図000012
  • 特許5840283-受信装置 図000013
  • 特許5840283-受信装置 図000014
  • 特許5840283-受信装置 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5840283
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】受信装置
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/08 20060101AFI20151210BHJP
【FI】
   H03L7/08 G
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-255976(P2014-255976)
(22)【出願日】2014年12月18日
【審査請求日】2015年6月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130247
【弁理士】
【氏名又は名称】江村 美彦
(74)【代理人】
【識別番号】100167863
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 恵
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 肇
(72)【発明者】
【氏名】三輪 昌寛
(72)【発明者】
【氏名】皆川 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】三木 健一
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 禎央
【審査官】 石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−330956(JP,A)
【文献】 特開2000−092142(JP,A)
【文献】 特開2009−111652(JP,A)
【文献】 特開2002−314410(JP,A)
【文献】 特表2010−509818(JP,A)
【文献】 特開2002−271192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 1/00− 9/00
H04B 1/26− 1/28
H04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号に含まれるパイロット信号を抽出し、このパイロット信号を用いて前記受信信号を周波数変換する受信装置において、
前記パイロット信号から生成されるローカル信号に基づいて前記受信信号を周波数変換する変換手段と、
前記変換手段から出力される信号から前記パイロット信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された前記パイロット信号を逓倍して前記ローカル信号を生成し、前記変換手段に供給する逓倍手段と、を有し、
前記逓倍手段は、2つのPLL(Phase Locked Loop)が縦続接続されて構成されるとともに、1段目よりも2段目のPLLのカットオフ周波数が低くなるように設定されていることを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記抽出手段から前記変換手段までの経路上に配置され、前記パイロット信号を分周して出力する分周手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記2つのPLLの内、最終段のPLLは、電圧制御発振器として誘電体共振発振器を有することを特徴とする請求項1または2に記載の受信装置。
【請求項4】
前記2つのPLLの内、最終段のPLLは、前記誘電体共振発振器によって生成される発振信号を分周せずに位相比較器に直接入力することを特徴とする請求項3に記載の受信装置。
【請求項5】
前記抽出手段から前記変換手段までの経路上に配置され、前記パイロット信号を逓倍して出力する他の逓倍手段をさらに有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送信装置では、対象となる信号に対してパイロット信号を重畳するとともに、このパイロット信号を用いて所定の周波数に変換して送信し、受信装置では、受信した信号からパイロット信号を抽出し、このパイロット信号から生成したローカル信号に基づいて対象となる信号を元の周波数に変換する技術としては、例えば、特許文献1,2に示す技術が存在する。
【0003】
特許文献1に開示された技術では、送信装置において対象となる信号Siに対してパイロット信号Prが重畳された信号がパイロット信号を用いて高周波信号Sh&Prに周波数変換された後、送信される。特許文献1に示す受信装置より、パイロット信号を抽出し、このパイロット信号から生成したローカル信号によって周波数変換を行う中間周波数部を抜き出した構成を図11に示す。この図11に示す中間周波数部100では、周波数変換部110は、受信した高周波信号Sh&PrをVCO(Voltage Controlled Oscillator)114から供給される信号に基づいて周波数変換して中間周波数信号Si&Prを生成し、出力する。このとき、BPF(Band Pass Filter)112は、周波数変換部110から出力される中間周波数信号Si&Prからパイロット信号Prを抽出してPLL(Phase Locked Loop)113に供給する。PLL113はBPF112から供給されるパイロット信号を逓倍してVCO114に出力する。VCO114はPLL113から供給される信号に基づいて発振して得られたローカル信号を周波数変換部110に供給する。分周器115は、VCO114から出力されるローカル信号を分周してPLL113に供給する。
【0004】
また、特許文献2に開示された技術では、OFDM信号を構成するスペクトルの上側に、OFDM信号のスペクトルと少し離れた周波数となるようにパイロット信号を重畳して送信装置から送信する。すなわち、図12に示す特許文献2の受信装置211では、送信装置から送信された信号を受信空中線214によって受信し、入力フィルタ部215によって所定の周波数を抽出し、周波数変換部216に供給する。周波数変換部216は、逓倍部213から供給されるローカル信号に基づいて入力フィルタ部215から供給される信号を周波数変換して出力する。ここで、逓倍部217は周波数変換部216から供給されるパイロット信号を逓倍して出力する。比較部218は、逓倍部217から供給される信号と、ローカル発振部212から出力される信号の位相差がなくなるようにローカル発振部212を制御する。逓倍部213は、ローカル発振部12から出力される信号を逓倍して周波数変換部216に供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−92142号公報
【特許文献2】特開平11−205280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示された技術では、図11に示すように、受信装置が有する中間周波数部100には、周波数変換部110、BPF112、PLL113、および、VCO114を有する親ループと、PLL113、VCO114、および、分周器115を有する子ループとが存在する。このため、このような中間周波数部100を有する受信装置を設計するために、これら2つのループを最適設計する必要があることから、設計が煩雑となるという問題点がある。
【0007】
また、特許文献2に開示された技術では、受信装置211は、逓倍部213および逓倍部217の2つを有し、これらは閉ループを構成することから、周波数変換部216から出力されるパイロット信号が位相ノイズを有する場合には、この位相ノイズはこれらの逓倍部217,213によって増大されるとともに、閉ループ内を循環する毎に逓倍部によってさらに増大されることから、位相ノイズの影響が無視できないという問題点がある。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、設計を容易に行うとこができるとともに、位相ノイズが少ない受信装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、受信信号に含まれるパイロット信号を抽出し、このパイロット信号を用いて前記受信信号を周波数変換する受信装置において、前記パイロット信号から生成されるローカル信号に基づいて前記受信信号を周波数変換する変換手段と、前記変換手段から出力される信号から前記パイロット信号を抽出する抽出手段と、前記抽出手段によって抽出された前記パイロット信号を逓倍して前記ローカル信号を生成し、前記変換手段に供給する逓倍手段と、を有し、前記逓倍手段は、2つのPLL(Phase Locked Loop)が縦続接続されて構成されるとともに、1段目よりも2段目のPLLのカットオフ周波数が低くなるように設定されていることを特徴とする。
このような構成によれば、設計を容易に行うとこができるとともに、位相ノイズが少ない受信装置を提供することができる。
【0010】
また、本発明は、前記抽出手段から前記変換手段までの経路上に配置され、前記パイロット信号を分周して出力する分周手段をさらに有することを特徴とする。
このような構成によれば、分周手段の分周率とPLLの逓倍率とを調整することにより、所望の周波数のローカル信号を生成することができる。
【0011】
また、本発明は、前記2つのPLLの内、最終段のPLLは、電圧制御発振器として誘電体共振発振器を有することを特徴とする。
このような構成によれば、例えば、GHz帯域のような高周波のローカル信号を生成することができる。
【0012】
また、本発明は、前記2つのPLLの内、最終段のPLLは、前記誘電体共振発振器によって生成される発振信号を分周せずに位相比較器に直接入力することを特徴とする。
このような構成によれば、高い周波数での動作が困難な分周器を除外することで、設計を簡略化することができる。
【0013】
また、本発明は、前記抽出手段から前記変換手段までの経路上に配置され、前記パイロット信号を逓倍して出力する他の逓倍手段をさらに有することを特徴とする。
このような構成によれば、他の逓倍手段の逓倍率と、逓倍手段の逓倍率を調整することで所望の周波数のローカル信号を簡単に得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡易な構成によって、設計を容易に行うとこができるとともに、位相ノイズが少ない受信装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係る受信装置の構成例を示す図である。
図2図1に示すPLL13の構成例を示す図である。
図3図1に示すPLL14の構成例を示す図である。
図4】第1実施形態の動作を説明するための図である。
図5】第1実施形態の動作を説明するための図である。
図6】第1実施形態の動作を説明するための図である。
図7】第1実施形態の動作を説明するための図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る受信装置の構成例を示す図である。
図9】本発明の第3実施形態に係る受信装置の構成例を示す図である。
図10】本発明の第4実施形態に係る受信装置の構成例を示す図である。
図11】従来の受信装置の構成を示す図である。
図12】従来の受信装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
(A)本発明の第1実施形態の構成の説明
図1は、本発明の第1実施形態に係る受信装置の構成例を示す図である。この図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る受信装置10は、周波数変換部11、BPF12、PLL13、および、PLL14を有している。
【0019】
ここで、周波数変換部11は、前段の装置(例えば、図示しないアンテナ)から供給される信号Vinを入力し、PLL14から供給されるローカル信号に基づいて、周波数を変換(ダウンコンバート)して出力する。
【0020】
BPF12は、周波数変換部11より出力される信号からパイロット信号を抽出し、それ以外を減衰してPLL13に供給する。
【0021】
PLL13は、BPF12によって抽出されたパイロット信号を逓倍(N1/R1倍)してPLL14に供給する。PLL14は、PLL13から出力される信号をさらに逓倍(N2/R2倍)して周波数変換部11に対してローカル信号として供給する。
【0022】
図2は、図1に示すPLL13の詳細な構成例を示す図である。図2に示すように、PLL13は、分周器131、位相検出器132、LPF133、VCO134、および、分周器134を有している。
【0023】
ここで、分周器131は、入力された信号の周波数を1/R1に分周して出力する。位相検出器132は、分周器131から出力される信号と、分周器135から出力される信号の位相を比較して、これらの差分の信号を出力する。
【0024】
LPF(Low Pass Filter)133は、カットオフ周波数fc1を有するフィルタであり、カットオフ周波数fc1よりも周波数が低い信号成分を通過し、周波数が高い信号成分を減衰して出力する。
【0025】
VCO134は、LPF133から供給される信号の電圧に応じた周波数で発振し、発振信号を出力する。分周器135は、VCO134から出力される信号の周波数を1/N1に分周して出力する。
【0026】
図3は、図1に示すPLL14の詳細な構成例を示す図である。図3に示すように、PLL14は、分周器141、位相検出器142、LPF143、VCO144、および、分周器145を有している。
【0027】
ここで、分周器141は、入力された信号の周波数を1/R2に分周して出力する。位相検出器142は、分周器141から出力される信号と、分周器145から出力される信号の位相を比較して、これらの差分の信号を出力する。
【0028】
LPF143は、カットオフ周波数fc2を有するフィルタであり、カットオフ周波数fc2よりも周波数が低い信号成分を通過し、周波数が高い信号成分を減衰して出力する。
【0029】
VCO144は、LPF143から供給される信号の電圧に応じた周波数で発振して、発振信号を出力する。分周器145は、VCO144から出力される信号の周波数を1/N2に分周して出力する。
【0030】
(B)本発明の第1実施形態の動作の説明
つぎに、第1実施形態の動作について説明する。周波数変換部11は、図示しない前段の装置(例えば、アンテナ)から供給される信号を、PLL14から供給される所定の周波数(例えば、数GHz〜数十GHz)のローカル信号によって、これらの周波数の差分の周波数に周波数変換(ダウンコンバート)して出力する。
【0031】
BPF12は、周波数変換部11から出力される信号に含まれている所定の周波数(例えば、数百MHz)のパイロット信号を通過し、それ以外の成分は減衰してPLL13に供給する。
【0032】
PLL13の分周器131は、BPF12から供給される信号を1/R1に分周して出力する。位相検出部132は、分周器131から供給される信号と、分周器135から供給される信号の位相を比較し、これらの位相の差分に対応した信号を出力する。LPF133は、位相検出器132から出力される信号の低周波成分は通過し、高周波成分は減衰して出力する。VCO134は、LPF133から供給される信号に応じた周波数の信号を出力する。分周器135は、VCO134から出力される信号の周波数を1/N1に分周して出力する。この結果、VCO134からは、分周器131から出力される信号の周波数のN1倍の周波数の信号が出力される。すなわち、位相検出器132は、分周器131から出力される信号と、分周器135から出力される信号の位相が等しくなるように、LPF133を介してVCO134に制御信号を供給することから、VCO134は分周器131から出力される信号の周波数のN1倍の周波数の信号を出力する。このようにして出力された信号は、PLL14に供給される。
【0033】
PLL14の分周器141は、PLL13から供給される信号を1/R2に分周して出力する。位相検出部142は、分周器141から供給される信号と、分周器145から供給される信号の位相を比較し、これらの位相の差分に対応した信号を出力する。LPF143は、位相検出器142から出力される信号の低周波成分は通過し、高周波成分は減衰して出力する。VCO144は、LPF143から供給される信号に応じた周波数の信号を出力する。分周器145は、VCO144から出力される信号の周波数を1/N2に分周して出力する。この結果、VCO144からは、分周器141から出力される信号の周波数のN2倍の周波数の信号が出力される。すなわち、位相検出器142は、分周器141から出力される信号と、分周器145から出力される信号の位相が等しくなるように、LPF143を介してVCO144に制御信号を供給することから、VCO144は分周器141から出力される信号の周波数のN2倍の周波数の信号を出力する。このようにして出力された信号は、周波数変換部11に供給される。
【0034】
周波数変換部11は、前段の装置から供給される所定の周波数(例えば、数GHz〜数十GHz)の信号を、PLL14から供給されるローカル信号によって周波数変換(ダウンコンバート)して出力する。なお、このようにして出力された信号は、BPF12に供給され、前述した処理によってローカル信号が生成され、周波数変換部11に供給される。
【0035】
ところで、前述した、特許文献2に開示された技術では、2つの逓倍部217,213によってパイロット信号を逓倍してローカル信号を生成する。この場合、周波数変換部216から出力されるパイロット信号が位相ノイズを有するとき、このような位相ノイズは逓倍部217,213において増大されて出力される。例えば、これらの逓倍部217,213の双方によって周波数がN倍されるとすると、位相ノイズが20・log(N)[dB]だけ増加することになる。
【0036】
図4は、位相ノイズを示す図である。図4(A)は原信号を示す図である。この図において、横軸は周波数を示し、縦軸は電力を示す。また、中央付近の突出した1本の線分はパイロット信号を示し、短い複数の線分は位相ノイズを示す。
【0037】
図4(B)は、特許文献2において使用される逓倍器から出力される信号を示す図である。このように、逓倍器によって周波数がN倍された信号は、信号の周波数がN倍されるとともに、位相ノイズが全帯域に亘って20・log(N)dBだけ増大されて出力される。
【0038】
図4(C)は、第1実施形態において使用されるPLL13およびPLL14から出力される信号を示す図である。このように、PLL13,14から出力される信号は、PLL13,14のループ帯域内においては逓倍器と同様にN倍されて出力されるが、ループ帯域外ではループ特性に応じて減少する。より詳細には、PLL13,14のループ帯域内では、原信号に含まれる位相ノイズがN倍された値(詳細には20・log(N))が支配的となり、また、ループ帯域外では、VCO134,144が発生する位相ノイズが支配的となる。
【0039】
すなわち、特許文献2に開示された技術では、逓倍部は入力された信号に含まれる位相ノイズが周波数に拘わらず20・log(N)付加されるが、第1実施形態のPLL13,14では、20・log(N)付加されるのはループ帯域内の周波数であり、それ以外についてはVCO134,144が発生する位相ノイズが支配的となる。そこで、第1実施形態では、PLL13,14のループゲインのカットオフ周波数fsをそれぞれ適切に設定することで、入力信号に含まれる位相ノイズを低減するとともに、VCO134,144が発生する位相ノイズを小さく設定することで(低ノイズのVCOを使用することで)、装置全体としての位相ノイズを小さくすることができる。
【0040】
つぎに、PLLにおけるループゲインのカットオフ周波数fsと位相ノイズの関係を図5に示すPLLの位相ノイズモデルを用いて詳細に説明する。以下に示す式(1)は、分周器131のR1=1である場合における図5(A)に示す位相ノイズモデルにおいて、PLL13の入力信号Vinに含まれる位相ノイズNinと、出力信号Voutに含まれる位相ノイズNoutの伝達関数である。ここで、KV1/sはVCO134の変換ゲインであり、KP1は位相検出器132のゲインであり、F1(s)はLPF133の伝達関数である。
【0041】
【数1】
【0042】
また、以下に示す式(2)は、分周器131のR1=1である場合における図5(B)に示す位相ノイズモデルにおいて、VCO134から出力される信号に含まれる位相ノイズNvcoと、出力信号Voutに含まれる位相ノイズNoutの伝達関数である。
【数2】
【0043】
式(1)において、sは高い周波数において大きな値であり、F1(s)はLPFの伝達関数であることからカットオフ周波数よりも高い周波数において小さな値となる。このため、s/F1(s)はLPFのカットオフ周波数より高い周波数において大きな値となり、これが式(1)の分母において支配的に振舞い、Nout/Ninは小さい値となる。これは、高い周波数において入力信号に含まれる位相ノイズの影響を良好に低減できることを意味する。式(2)において、sは低い周波数において小さな値であり、F1(s)はLPFの伝達関数であることからカットオフ周波数よりも低い周波数において1に近い値となる。このため、F1(s)/sにKP1とKV1を乗じた値がLPFのカットオフ周波数より低い周波数において大きな値となり、式(3)の分母において支配的に振舞い、Nout/Nvcoは小さい値となる。これは、低い周波数においてVCO134に含まれる位相ノイズの影響を良好に低減できることを意味する。
【0044】
従って、これらの伝達関数のカットオフ周波数をfsとすると、fs未満では入力信号に含まれる位相ノイズの影響が支配的であり、fs以上ではVCO134に含まれる位相ノイズの影響が支配的となる。また、以上の例では、PLL13を例に挙げて説明したが、PLL14も同様である。PLL14の場合の式(1),(2)は、KV1,KP1,F1(s)を、KV2,KP2,F(s)にそれぞれ置換したものとなる。
【0045】
図6は、PLLのスペクトラムを示す図である。この図において、実線で示す曲線C1はPLLの入力信号の位相ノイズ(C/N)を示し、破線で示す曲線C2はPLLのフィードバックループをVCOより切り離し、VCOに対し理想的な直流電圧を入力した場合のVCOの位相ノイズを示し、一点鎖線で示す曲線C3はカットオフ周波数が低いLPFを有するPLLの位相ノイズを示し、二点鎖線で示す曲線C4はカットオフ周波数が高いLPFを有するPLLの位相ノイズを示す。PLLでは周波数変換が伴うため、入力信号であるC1と出力信号であるC2〜C4は周波数が異なるが、位相雑音特性の比較のため、中心周波数を横軸に揃えて示している。なお、図6においてfsは、LPFも含めたループ全体のゲインが1になる周波数を示し、Δfは中心周波数からの周波数偏移を示す。この図6に示すように、PLLの出力信号に含まれる位相ノイズは、曲線C3,C4に示すようにΔf>fsの場合にはVCOの位相ノイズである曲線C2に漸近していき、Δf<fsではフラットの区間を経て、入力信号の位相ノイズの曲線C1に漸近していく。また、曲線C3と曲線C4の比較から、LPFのカットオフ周波数fcに応じて位相ノイズの特性が変化する。より詳細には、LPFのカットオフ周波数fcを低く設定することは、Δfの大きな領域では位相ノイズが減少するので好ましいが、Δfの小さな領域では好ましくない。このため、LPFの特性は、以上のような特性を踏まえて設定する必要がある。
【0046】
前述のように、パイロット信号の逓倍にPLLを用いることで、位相雑音の低減が可能であるが、式(2)の右辺では、F(s)/sに対し除算の関係となる様にN1がある。これは、逓倍率が高い場合にはN1が大きくなりF(s)/sによるVCO134に含まれるノイズを低減させる効果が小さくなる事を意味している。そこで、第1実施形態では、PLL13およびPLL14を縦続接続し、これら2つのPLL13,14によって2段階でパイロット信号の周波数を逓倍するようにしている。これにより、各PLLにおける逓倍率を下げ、VCOの位相雑音を低減する効果を維持しつつ、受信装置全体での逓倍率を高くしている。このような構成によれば、設計を簡略化することができるとともに、PLL13およびPLL14のそれぞれを最適に設計することで位相ノイズを低減することができる。すなわち、第1実施形態では、PLL13,14を2段構成とすることで、1段構成とした場合に比較して、個々のPLLのループゲインを低く設定することができ、これによって位相余裕を持たせることにより、設計を簡易化することができる。また、2段構成とすることによって、個々のPLLのカットオフ周波数の設定の自由度を上げることにより、位相ノイズをより効果的に減少させることができる。また、2段目のPLL14は、1段目のPLL13が出力する位相ノイズをN2/R2倍して出力することから、1段目については低ノイズの部品を使用することで、装置全体としての位相ノイズを効率的に低減することができる。また、図7に示すように、1段目のPLL13の出力におけるΔfの大きな領域における位相雑音(破線の丸で示す雑音)は2段目のPLL14のフィードバックループ特性によって除去可能であることから、1段目のLPF133のカットオフ周波数fc13を高くし、2段目のLPF143のカットオフ周波数fc14をそれよりも低くなるよう、LPF133やLPF143を調整することで、Δfの小さい領域のVCO13の位相雑音の影響を低減しつつΔfが大きい領域での位相雑音を低減することが可能となる。
【0047】
以上に説明したように、本発明の第1実施形態によれば、2つのPLL13およびPLL14を縦続接続し、これら2つのPLL13,14によってパイロット信号の周波数を逓倍するようにしたので、特許文献2に示す逓倍器を用いる場合に比較して、位相ノイズを低減することができる。また、2つのPLL13,14を縦続接続することで、個々のPLLのループゲインを下げて設計を容易化することができる。また、PLL13,14のカットオフ周波数を個別に調整することで、出力される位相ノイズを一層低減することができる。
【0048】
(C)本発明の第2実施形態の説明
つぎに、本発明の第2実施形態について説明する。図8は、第2実施形態の構成例を示す図である。なお、図8において、図1と対応する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。図8に示す受信装置10Aでは、図1と比較すると、分周器20がBPF12とPLL13の間に追加されている。これ以外の構成は図1と同様である。ここで、分周器20は、BPF12から出力されるパイロット信号を分周して出力する。
【0049】
つぎに、第2実施形態の動作について説明する。第2実施形態では、BPF12から出力されるパイロット信号は、分周器20によって分周され、PLL13に供給される。PLL13は、分周器20から出力される信号の周波数を逓倍してPLL14に供給する。PLL14は、PLL13から出力される信号の周波数を逓倍して周波数変換部11にローカル信号として供給する。周波数変換部11は、PLL14から供給されるローカル信号に基づいて、入力信号の周波数を変換(ダウンコンバート)して出力する。
【0050】
なお、第2実施形態では、第1実施形態と比較すると、分周器20を有しているので、分周器20の分周率と、PLL13,14の逓倍率との組み合わせにより、様々な周波数への本発明の適用が可能になる。これにより、例えば、部品の共有化によって製造コストを低減したり、設計の負担を低減したりすることができる。
【0051】
以上に説明したように、本発明の第2実施形態によれば、第1実施形態において説明した効果に加えて、分周器20の分周率と、PLL13,14の逓倍率との組み合わせにより、様々な周波数への本発明の適用が可能になり、製造コストや設計の負担を軽減することができる。
【0052】
なお、図8の例では、分周器20をBPF12とPLL13の間に配置するようにしたが、BPF12の出力から周波数変換部11の入力までの経路上であれば、これ以外の場所に配置するようにしてもよい。
【0053】
(D)本発明の第3実施形態の説明
つぎに、本発明の第3実施形態について説明する。図9は本発明の第3実施形態の構成例を示す図である。なお、図9において、図1と対応する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。図9に示す受信装置10Bでは、図1と比較すると、PLL14がPLL24に置換されている。これ以外の構成は図1の場合と同様である。
【0054】
ここで、PLL24は、逓倍器241、SPD(Sampling Phase Detector)242、LPF243、および、DRO(Dielectric Resonance Oscillator)245を有している。ここで、逓倍器241は、PLL13から出力される信号の周波数をN2倍して出力する。SPD242は、逓倍器241から出力される信号と、DRO245から出力される信号の位相を比較し、これらの信号の差分を計算して出力する。LPF243は、SPD242から出力される信号のうち、カットオフ周波数fcよりも低い周波数の信号成分は通過させ、高い周波数の信号成分は減衰させて出力する。DRO245は、誘電体共振発振器であり、高い周波数において低ノイズの発振を行うことができる発振器である。
【0055】
つぎに、第3実施形態の動作について説明する。なお、第3実施形態は、第1実施形態と比較すると、PLL24が異なっているので、PLL24を中心に説明する。
【0056】
PLL24は、PLL14に比較すると、分周器135が除外され、逓倍器241が追加されている。PLL24では、入力された信号の周波数は逓倍器241によってN2倍に逓倍され、SPD242、LPF243、および、DRO245のループでは逓倍されない。これは、DRO245が発生する信号が、例えば、GHz帯域の高い周波数である場合、このような高い周波数に対応可能な分周器が入手困難であることによる。このため、第3実施形態では、分周器を除外して、その代わりに逓倍器241を用いることで、入力された信号を逓倍する構成としている。なお、逓倍器241では、図4(B)に示すように位相ノイズが全帯域に亘って増幅されるが、第3実施形態の場合、逓倍器241の後段にLPF243を含むループが存在するため、前述した式(1)に示す特性によって、逓倍器241から出力される位相ノイズが低減されることになる。
【0057】
以上に説明したように、本発明の第3実施形態によれば、逓倍器241を用いて入力信号の周波数を逓倍するようにしたので、DRO245が発生する高い周波数の信号に対応可能な分周器をPLL24から除外することが可能になる。これにより、設計を簡易化するとともに、製造コストを低減することができる。また、逓倍器241の後段の回路によって、位相ノイズを低減することができる。
【0058】
(E)本発明の第4実施形態の説明
つぎに、本発明の第4実施形態について説明する。図10は本発明の第4実施形態の構成例を示す図である。なお、図10において、図9と対応する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。図10に示す受信装置10Cでは、図9と比較すると、PLL24の後段に逓倍器25が追加されている。これ以外の構成は図9の場合と同様である。
【0059】
第4実施形態では、逓倍器25をPLL24と周波数変換部11の間に配置するようにしたので、逓倍器25の逓倍率と、PLL13,24の逓倍率との組み合わせにより、様々な周波数への本発明の適用が可能になり、製造コストや設計の負担を軽減することができる。また、前述したように、逓倍器241の後段の回路によって、位相ノイズを低減することができる。
【0060】
(F)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の各実施形態では、PLL13,14またはPLL13,24の2段構成としたが、3段以上の構成としてもよい。
【0061】
また、PLL13,14には、分周器131,141を設けるようにしたが、回路の条件によっては、これらの分周器131,141を有しない構成としてもよい。
【0062】
また、図8に示す第2実施形態では、分周器20は、BPF12とPLL13の間に配置するようにしたが、BPF12の出力から周波数変換部11の入力までの経路上であれば、これ以外の場所に配置するようにしてもよい。
【0063】
また、図10に示す第4実施形態では、逓倍器25は、PLL24と周波数変換部11の間に配置するようにしたが、BPF12の出力から周波数変換部11の入力までの経路上であれば、これ以外の場所に配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10,10A,10B,10C 受信装置
11 周波数変換部(変換手段)
12 BPF(抽出手段)
13,14,24 PLL(逓倍手段の一部)
20 分周器(分周手段)
25 逓倍器(逓倍手段)
131,141 分周器
132,142 位相検出器
133,143 LPF
134,144 VCO
135,145 分周器
241 逓倍器
242 SPD
243 LPF
245 DRO
【要約】
【課題】設計を容易に行うとこができるとともに、位相ノイズが少ない受信装置を提供すること。
【解決手段】受信信号に含まれるパイロット信号を抽出し、このパイロット信号を用いて受信信号を周波数変換する受信装置10において、パイロット信号から生成されるローカル信号に基づいて受信信号を周波数変換する変換手段(周波数変換部11)と、変換手段から出力される信号からパイロット信号を抽出する抽出手段(BPF12)と、抽出手段によって抽出されたパイロット信号を逓倍してローカル信号を生成し、変換手段に供給する逓倍手段と、を有し、逓倍手段は、複数のPLL13,14が縦続接続されて構成されている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12