特許第5840694号(P5840694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5840694複合構造体、それを用いた包装材料および成形品、ならびに、それらの製造方法およびコーティング液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5840694
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】複合構造体、それを用いた包装材料および成形品、ならびに、それらの製造方法およびコーティング液
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20151210BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20151210BHJP
   B65D 30/02 20060101ALI20151210BHJP
   B65D 81/24 20060101ALI20151210BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20151210BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20151210BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20151210BHJP
   C09D 201/08 20060101ALI20151210BHJP
   C09D 183/02 20060101ALI20151210BHJP
   C09D 185/00 20060101ALI20151210BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20151210BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20151210BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B65D65/40 D
   B65D30/02
   B65D81/24 E
   C09D183/04
   C09D7/12
   C09D201/02
   C09D201/08
   C09D183/02
   C09D185/00
   C09D129/04
   C09D201/00
【請求項の数】38
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2013-537428(P2013-537428)
(86)(22)【出願日】2012年10月5日
(86)【国際出願番号】JP2012006432
(87)【国際公開番号】WO2013051286
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-221074(P2011-221074)
(32)【優先日】2011年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】表田 護
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 航
(72)【発明者】
【氏名】柴田 学
(72)【発明者】
【氏名】尾下 竜也
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/125800(WO,A1)
【文献】 特表2007−523769(JP,A)
【文献】 特表2003−508627(JP,A)
【文献】 特許第4961054(JP,B2)
【文献】 特表2002−503387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B65D 30/00−33/38
B65D 65/00−65/46
C08J 7/04− 7/06
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
C23C 24/00−30/00
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(X)と、前記基材(X)に積層された層(Y)とを含む複合構造体であって、
前記層(Y)は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)と化合物(L)との混合物を含み、
前記リン化合物(B)が、前記金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する化合物であり、
前記化合物(L)が、Si原子と、Si原子に結合した、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む化合物であり(ただし、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる)、
前記層(Y)における前記金属酸化物(A)に由来する金属原子(M)のモル数をNとし、前記層(Y)における前記化合物(L)に由来するSi原子のモル数をNSiとしたときに、NSiおよびNが、0.01≦NSi/N≦0.30を満たし、
前記層(Y)における前記リン化合物(B)に由来するリン原子のモル数をNとしたときに、NおよびNが、0.8≦N/N≦4.5を満たす、複合構造体。
【請求項2】
前記化合物(L)が、以下の式(I)で表される少なくとも1種の化合物(L)および/または以下の式(II)で表される少なくとも1種の化合物(L)である、請求項1に記載の複合構造体。
SiX(4−r) (I)
[上記式(I)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(I)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。rは1〜4の整数を表す。]
SiX(4−p−q) (II)
[上記式(II)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Zは、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、水酸基、およびクロロ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する有機基である。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(II)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(II)において複数のZが存在する場合には、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(II)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。pは1〜3の整数を表す。qは1〜3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。]
【請求項3】
SiおよびNが、0.04≦NSi/N≦0.25を満たす、請求項1または2に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記化合物(L)が前記化合物(L)を含み、
前記化合物(L)が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項2または3に記載の複合構造体。
【請求項5】
前記化合物(L)が前記化合物(L)を含み、
前記式(II)のZに含まれる前記官能基が、アミノ基および/またはイソシアネート基である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項6】
前記化合物(L)が前記化合物(L)を含み、
前記化合物(L)が、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、およびγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項5に記載の複合構造体。
【請求項7】
前記化合物(L)が前記化合物(L)を含み、
前記化合物(L)に含まれるSi元素のモル数をNSi2としたときに、NSi2およびNが、0.01≦NSi2/N≦0.10を満たす、請求項2〜6のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項8】
前記層(Y)が反応生成物(R)を含み、
前記反応生成物(R)は少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項9】
前記金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した前記金属原子(M)を含有する化合物(L)の加水分解縮合物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項10】
前記化合物(L)が、以下の式(III)で示される少なくとも1種の化合物(L)を含む、請求項9に記載の複合構造体。
(n−m) (III)
[上記式(III)中、Mは、Al、Ti、およびZrからなる群より選ばれる。Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(III)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(III)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。nはMの原子価に等しい。mは1〜nの整数を表す。]
【請求項11】
前記化合物(L)が、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリs−ブトキシドから選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、請求項10に記載の複合構造体。
【請求項12】
前記リン化合物(B)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項13】
前記層(Y)は、1080〜1130cm−1の範囲に赤外線吸収ピークを有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項14】
前記層(Y)が、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(f)を含有する重合体(C)をさらに含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項15】
前記重合体(C)が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の塩、ポリメタクリル酸、およびポリメタクリル酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体である、請求項14に記載の複合構造体。
【請求項16】
前記基材(X)が層状である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項17】
前記基材(X)が、熱可塑性樹脂フィルム層、紙層、および無機蒸着層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む、請求項16に記載の複合構造体。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、包装材料。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、成形品。
【請求項20】
縦製袋充填シール袋、真空包装袋、スパウト付パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、容器用蓋材、紙容器または真空断熱体である、請求項19に記載の成形品。
【請求項21】
基材(X)と前記基材(X)に積層された層(Y)とを含む複合構造体の製造方法であって、
金属化合物(A)と、前記金属化合物(A)と反応可能な部位を含有するリン化合物(B)と、化合物(L)と、溶媒とを少なくとも混合することによって、前記金属化合物(A)、前記リン化合物(B)、前記化合物(L)、および前記溶媒を含むコーティング液(U)を調製する工程(I)と、
前記基材(X)上に前記コーティング液(U)を塗布することによって、前記基材(X)上に前記層(Y)の前駆体層を形成する工程(II)と、
前記前駆体層を110℃以上の温度で熱処理する工程(III)とを含み、
前記化合物(L)が、Si原子と、Si原子に結合した、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む化合物であり(ただし、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる)、
前記コーティング液(U)において、前記金属酸化物(A)に含まれる金属原子(M)のモル数をNとし、前記化合物(L)に含まれるSi原子のモル数をNSiとしたときに、NSiおよびNが、0.01≦NSi/N≦0.30を満たし、
前記コーティング液(U)において、前記リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数をNとしたときに、NおよびNが、0.8≦N/N≦4.5を満たす、製造方法。
【請求項22】
前記化合物(L)が、以下の式(I)で表される少なくとも1種の化合物(L)および/または以下の式(II)で表される少なくとも1種の化合物(L)である、請求項21に記載の製造方法。
SiX(4−r) (I)
[上記式(I)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(I)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。rは1〜4の整数を表す。]
SiX(4−p−q) (II)
[上記式(II)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Zは、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、水酸基、およびクロロ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する有機基である。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(II)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(II)において複数のZが存在する場合には、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(II)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。pは1〜3の整数を表す。qは1〜3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。]
【請求項23】
SiおよびNが、0.04≦NSi/N≦0.25を満たす、請求項21または22に記載の製造方法。
【請求項24】
前記化合物(L)が前記化合物(L)を含み、
前記化合物(L)が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項22〜23のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項25】
前記化合物(L)が前記化合物(L)を含み、
前記式(II)のZに含まれる前記官能基が、アミノ基および/またはイソシアネート基である、請求項22〜24のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項26】
前記化合物(L)が前記化合物(L)を含み、
前記化合物(L)が、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、およびγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項25に記載の製造方法。
【請求項27】
前記化合物(L)が前記化合物(L)を含み、
前記化合物(L)に含まれるSi元素のモル数をNSi2としたときに、NSi2およびNが、0.01≦NSi2/N≦0.10を満たす、請求項22〜26のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項28】
前記金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(L)の加水分解縮合物である、請求項21〜27のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項29】
前記化合物(L)が、以下の式(III)で示される少なくとも1種の化合物(L)を含む、請求項28に記載の製造方法。
(n−m) (III)
[上記式(III)中、Mは、Al、Ti、およびZrからなる群より選ばれる。Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(III)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(III)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。nはMの原子価に等しい。mは1〜nの整数を表す。]
【請求項30】
前記化合物(L)が、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリs−ブトキシドから選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、請求項29に記載の製造方法。
【請求項31】
前記リン化合物(B)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項21〜30のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項32】
前記層(Y)が、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(f)を含有する重合体(C)をさらに含む、請求項21〜31のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項33】
前記重合体(C)が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の塩、ポリメタクリル酸、およびポリメタクリル酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体である、請求項32に記載の製造方法。
【請求項34】
前記工程(I)が、
前記金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する工程(a)と、
前記リン化合物(B)を含む溶液(T)を調製する工程(b)と、
前記液体(S)と前記溶液(T)とを混合する工程(c)とを含む、請求項21〜33のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項35】
前記工程(a)は、前記化合物(L)および前記化合物(L)の加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合して前記金属酸化物(A)を得る工程を含む、請求項34に記載の製造方法。
【請求項36】
前記工程(b)において前記化合物(L)が前記溶液(T)に混合されるか、または、前記工程(c)において前記液体(S)と前記溶液(T)と前記化合物(L)とが混合される、請求項34または35に記載の製造方法。
【請求項37】
前記熱処理の時間が0.1秒〜1時間の範囲にある、請求項21〜36のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項38】
金属酸化物(A)と、前記金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有するリン化合物(B)と、化合物(L)と、溶媒とを含むコーティング液であって、
前記化合物(L)が、Si原子と、Si原子に結合した、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む化合物であり(ただし、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる)、
前記金属酸化物(A)に含まれる金属原子(M)のモル数をNとし、前記化合物(L)に含まれるSi原子のモル数をNSiとしたときに、NSiおよびNが、0.01≦NSi/N≦0.30を満たし、
前記リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数をNとしたときに、NおよびNが、0.8≦N/N≦4.5を満たす、コーティング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造体、それを用いた包装材料および成形品、ならびに、それらの製造方法およびコーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
食品などの様々な物品を包装するための包装材料には、酸素等のガスバリア性が要求されることが多い。ガスバリア性が低い包装材料を用いると、酸素による酸化や微生物の繁殖による食品の腐敗などが生じて内容物が劣化する場合がある。このため、従来の包装材料は、一般的に、酸素等の透過を防止するためのガスバリア層を含んでいる。
【0003】
このようなガスバリア層の例には、ビニルアルコール系重合体(たとえばポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体)からなる層が含まれる。これらのビニルアルコール系重合体からなる層は、透明で、且つ、廃棄面での問題も少ないという利点を有するが、水蒸気バリア性が低いという欠点がある。
【0004】
また、酸素および水蒸気バリア性を有するガスバリア層として、金属酸化物(酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等)を高分子フィルム上に蒸着したフィルムが知られている。しかし、金属酸化物の蒸着層は、包装材の変形や衝撃によって蒸着層にクラックが発生し、ガスバリア性が著しく低下する場合がある。一方、包装材の変形や衝撃によるバリア性の低下を抑制するために、特開2006−175784号公報(特許文献1)には、無機蒸着層の上に有機化合物からなる保護層を形成したガスバリアフィルムが開示されている。しかし、このフィルムでは、ガスバリア性の低下の抑制は十分ではなかった。
【0005】
一方、リン化合物やケイ素化合物を含むコーティング層として、特表2008−516015号公報(特許文献2)には、有機溶媒中にアルミニウム塩およびリン酸エステルを含む溶液を用いてコーティング層を形成する方法が開示されている。また、国際公開WO2009/125800パンフレット(特許文献3)には、シランおよびアルミニウムアルコキシドを含む溶液を用いてコーティング層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−175784号公報
【特許文献2】特表2008−516015号公報
【特許文献3】国際公開WO2009/125800パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、酸素バリア性および水蒸気バリア性に優れ、変形や衝撃によるバリア性低下の小さい包装材料が求められているが、上記従来の技術ではこのような要求を十分に満足することができなかった。
【0008】
そこで本発明の目的の1つは、ガスバリア性および水蒸気バリア性のいずれにも優れ、屈曲後においても両バリア性を高いレベルで維持することができる複合構造体を提供することである。また、本発明の目的の他の1つは、当該複合構造体を用いて形成される成形品を提供することである。また、本発明の目的の他の1つは、上記複合構造体を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明者らは、特定のコーティング液を用いることによって、ガスバリア性および水蒸気バリア性のいずれにも優れ、屈曲後においても両バリア性を高いレベルで維持することのできるコーティング層を形成できることを見出した。そのコーティング液は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子を含む化合物の加水分解縮合物と、金属原子を実質的に含まないリン化合物と、加水分解可能な特性基が結合したSi原子を有する化合物とを添加することによって得られたものであり、とりわけ、特定の構造を有するSi化合物を特定の量の範囲で添加することで屈曲後もバリア性が高いレベルで維持されることが明らかとなった。この新たな知見に基づいてさらに検討を重ねることによって、本発明者らは本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明の複合構造体は、基材(X)と、前記基材(X)に積層された層(Y)とを含む複合構造体であって、前記層(Y)は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)と化合物(L)との混合物を含み、前記リン化合物(B)が、前記金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する化合物であり、前記化合物(L)が、Si原子と、Si原子に結合した、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む化合物であり(ただし、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる)、前記層(Y)における前記金属酸化物(A)に由来する金属原子(M)のモル数をNとし、前記層(Y)における前記化合物(L)に由来するSi原子のモル数をNSiとしたときに、NSiおよびNが、0.01≦NSi/N≦0.30を満たし、前記層(Y)における前記リン化合物(B)に由来するリン原子のモル数をNとしたときに、NおよびNが、0.8≦N/N≦4.5を満たす。
【0011】
前記化合物(L)は、以下の式(I)で表される少なくとも1種の化合物(L)および/または以下の式(II)で表される少なくとも1種の化合物(L)であってもよい。
SiX(4−r) (I)
[上記式(I)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(I)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。rは1〜4の整数を表す。]
SiX(4−p−q) (II)
[上記式(II)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Zは、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、水酸基、およびクロロ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する有機基である。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(II)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(II)において複数のZが存在する場合には、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(II)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。pは1〜3の整数を表す。qは1〜3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。]
【0012】
SiおよびNは、0.04≦NSi/N≦0.25を満たしてもよい。
【0013】
前記化合物(L)は、前記化合物(L)を含んでもよい。この場合、前記化合物(L)が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。
【0014】
前記化合物(L)は、前記化合物(L)を含んでもよい。この場合、前記式(II)のZに含まれる前記官能基が、アミノ基および/またはイソシアネート基であってもよい。
【0015】
前記化合物(L)は、前記化合物(L)を含んでもよい。この場合、前記化合物(L)が、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、およびγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0016】
前記化合物(L)は、前記化合物(L)を含んでもよい。この場合、前記化合物(L)に含まれるSi元素のモル数をNSi2としたときに、NSi2およびNが、0.01≦NSi2/N≦0.10を満たしてもよい。
【0017】
前記層(Y)は、反応生成物(R)を含んでもよい。反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。すなわち、層(Y)に含まれる金属酸化物(A)とリン化合物(B)とは反応していてもよい。また、層(Y)に含まれる金属酸化物(A)とリン化合物(B)と化合物(L)とは、反応していてもよい。
【0018】
前記金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した前記金属原子(M)を含有する化合物(L)の加水分解縮合物であってもよい。たとえば、前記化合物(L)が、以下の式(III)で示される少なくとも1種の化合物(L)を含んでもよい。
(n−m) (III)
[上記式(III)中、Mは、Al、Ti、およびZrからなる群より選ばれる。Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(III)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(III)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。nはMの原子価に等しい。mは1〜nの整数を表す。]
【0019】
前記化合物(L)が、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリs−ブトキシドから選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでもよい。
【0020】
前記リン化合物(B)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。
【0021】
前記層(Y)は、1080〜1130cm−1の範囲に赤外線吸収ピークを有してもよい。
【0022】
前記層(Y)は、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(f)を含有する重合体(C)をさらに含んでもよい。たとえば、前記重合体(C)は、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の塩、ポリメタクリル酸、およびポリメタクリル酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体であってもよい。
【0023】
前記基材(X)は、層状であってもよい。この場合、前記基材(X)は、熱可塑性樹脂フィルム層、紙層、および無機蒸着層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含んでもよい。
【0024】
本発明の包装材料は、本発明の複合構造体を含む。また、本発明の成形品は、本発明の複合構造体を含む。本発明の成形品は、縦製袋充填シール袋、真空包装袋、スパウト付パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、容器用蓋材、紙容器または真空断熱体であってもよい。
【0025】
基材(X)と前記基材(X)に積層された層(Y)とを含む複合構造体を製造するための本発明の方法は、金属化合物(A)と、前記金属化合物(A)と反応可能な部位を含有するリン化合物(B)と、化合物(L)と、溶媒とを少なくとも混合することによって、前記金属化合物(A)、前記リン化合物(B)、前記化合物(L)、および前記溶媒を含むコーティング液(U)を調製する工程(I)と、前記基材(X)上に前記コーティング液(U)を塗布することによって、前記基材(X)上に前記層(Y)の前駆体層を形成する工程(II)と、前記前駆体層を110℃以上の温度で熱処理する工程(III)とを含む。前記化合物(L)は、Si原子と、Si原子に結合した、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む化合物である(ただし、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる)。前記コーティング液(U)において、前記金属酸化物(A)に含まれる金属原子(M)のモル数をNとし、前記化合物(L)に含まれるSi原子のモル数をNSiとしたときに、NSiおよびNが、0.01≦NSi/N≦0.30を満たす。そして、前記コーティング液(U)において、前記リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数をNとしたときに、NおよびNが、0.8≦N/N≦4.5を満たす。
【0026】
本発明の製造方法では、前記化合物(L)が、以下の式(I)で表される少なくとも1種の化合物(L)および/または以下の式(II)で表される少なくとも1種の化合物(L)であってもよい。
SiX(4−r) (I)
[上記式(I)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(I)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。rは1〜4の整数を表す。]
SiX(4−p−q) (II)
[上記式(II)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Zは、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、水酸基、およびクロロ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する有機基である。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(II)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(II)において複数のZが存在する場合には、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(II)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。pは1〜3の整数を表す。qは1〜3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。]
【0027】
本発明の製造方法では、NSiおよびNが、0.04≦NSi/N≦0.25を満たしてもよい。
【0028】
本発明の製造方法では、前記化合物(L)が前記化合物(L)を含んでもよい。この場合、前記化合物(L)が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。
【0029】
本発明の製造方法では、前記化合物(L)が前記化合物(L)を含んでもよい。この場合、前記式(II)のZに含まれる前記官能基が、アミノ基および/またはイソシアネート基であってもよい。
【0030】
本発明の製造方法では、前記化合物(L)が前記化合物(L)を含んでもよい。この場合、前記化合物(L)が、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、およびγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0031】
本発明の製造方法では、前記化合物(L)が前記化合物(L)を含んでもよい。この場合、前記化合物(L)に含まれるSi元素のモル数をNSi2としたときに、NSi2およびNが、0.01≦NSi2/N≦0.10を満たしてもよい。
【0032】
本発明の製造方法では、前記金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(L)の加水分解縮合物であってもよい。この場合、前記化合物(L)が、以下の式(III)で示される少なくとも1種の化合物(L)を含んでもよい。
(n−m) (III)
[上記式(III)中、Mは、Al、Ti、およびZrからなる群より選ばれる。Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(III)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(III)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。nはMの原子価に等しい。mは1〜nの整数を表す。]
【0033】
本発明の製造方法では、前記化合物(L)が、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリs−ブトキシドから選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでもよい。
【0034】
本発明の製造方法では、前記リン化合物(B)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。
【0035】
本発明の製造方法では、前記層(Y)が、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(f)を含有する重合体(C)をさらに含んでもよい。
【0036】
本発明の製造方法では、前記重合体(C)が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の塩、ポリメタクリル酸、およびポリメタクリル酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体であってもよい。
【0037】
本発明の製造方法では、前記工程(I)が、前記金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する工程(a)と、前記リン化合物(B)を含む溶液(T)を調製する工程(b)と、前記液体(S)と前記溶液(T)とを混合する工程(c)とを含んでもよい。この場合、前記工程(a)は、前記化合物(L)および前記化合物(L)の加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合して前記金属化合物(A)を得る工程を含んでもよい。
【0038】
本発明の製造方法では、前記工程(b)において前記化合物(L)が前記溶液(T)に混合されるか、または、前記工程(c)において前記液体(S)と前記溶液(T)と前記化合物(L)とが混合されてもよい。
【0039】
本発明の製造方法では、前記熱処理の時間が0.1秒〜1時間の範囲にあってもよい。
【0040】
本発明のコーティング液は、金属酸化物(A)と、前記金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有するリン化合物(B)と、化合物(L)と、溶媒とを含む。前記化合物(L)は、Si原子と、Si原子に結合した、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む化合物であり(ただし、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる)、前記金属酸化物(A)に含まれる金属原子(M)のモル数をNとし、前記化合物(L)に含まれるSi原子のモル数をNSiとしたときに、NSiおよびNが、0.01≦NSi/N≦0.30を満たし、前記リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数をNとしたときに、NおよびNが、0.8≦N/N≦4.5を満たす。
【発明の効果】
【0041】
本発明の複合構造体は、ガスバリア性および水蒸気バリア性のいずれにも優れ、屈曲処理後においても両バリア性を高いレベルで維持できる。また、本発明によれば、外観に優れる複合構造体を得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、上記複合構造体を容易に製造できる。なお、この明細書において「ガスバリア性」とは、特に説明がない限り、水蒸気以外のガスをバリアする性能を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお以下の説明において特定の機能を発現する材料として具体的な材料(化合物等)を例示する場合があるが、本発明はそのような材料を使用した態様に限定されない。また例示される材料は、特に記載がない限り、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0043】
[複合構造体]
本発明の複合構造体は、基材(X)と、基材(X)に積層された層(Y)とを含む。層(Y)は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)と化合物(L)との混合物を含む。リン化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有するリン化合物である。化合物(L)は、Si原子と、Si原子に結合した、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む化合物である(ただし、Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる)。別の観点では、(L)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有するケイ素化合物である。層(Y)における金属酸化物(A)に由来する金属原子(M)のモル数をNとし、層(Y)における化合物(L)に由来するSi原子のモル数をNSiとしたときに、NSiおよびNが、0.01≦NSi/N≦0.30を満たす。また、層(Y)におけるリン化合物(B)に由来するリン原子のモル数をNとしたときに、NおよびNが、0.8≦N/N≦4.5を満たす。なお、金属原子(M)は、金属酸化物(A)に含まれるすべての金属原子を意味する。
【0044】
金属酸化物(A)とリン化合物(B)と化合物(L)との混合物は反応生成物(R)を含んでもよい。すなわち、上記混合物に含まれる金属酸化物(A)とリン化合物(B)とは反応していてもよい。また、上記混合物に含まれる金属酸化物(A)とリン化合物(B)と化合物(L)とは、反応していてもよい。さらに、上記混合物に含まれる金属酸化物(A)、リン化合物(B)及び化合物(L)はそれぞれその全量が反応していてもよく、全ての金属酸化物(A)とリン化合物(B)と化合物(L)とが反応していてもよい。この場合、混合物が反応生成物(R)のみ、又は反応生成物(R)と化合物(L)のみからなっていてもよい。
【0045】
[化合物(L)]
化合物(L)は、以下の式(I)で表される化合物(L)、以下の式(I’)で表される化合物(L’)、および、以下の式(II)で表される化合物(L)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。また、化合物(L)は、以下の式(I)で表される少なくとも1種の化合物(L)および/または以下の式(II)で表される少なくとも1種の化合物(L)であってもよい。
【0046】
化合物(L)は、次に示す化学式(I)で表される少なくとも1種の化合物である。
SiX(4−r) (I)
[上記式(I)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(I)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。rは1〜4の整数を表す。]
【0047】
化合物(L’)は、次に示す化学式(I’)で表される少なくとも1種の化合物である。
SiR(3−r)−G−SiX(3−r) (I’)
[上記式(I’)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。Gは、アミノ基、置換基が結合していてもよいアルキレン基またはスルフィド基を示す。式(I’)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(I’)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。rは1〜3の整数を表す。]
【0048】
は、たとえば炭素数が1〜10のアルキル基であり、好ましくは炭素数が1〜4のアルキル基である。好ましい一例では、Xがハロゲン原子または炭素数が1〜4のアルコキシ基(RO−)であり、Siに結合するRが炭素数が1〜4のアルキル基であり、rが3または4である。特に好ましい一例では、Xがハロゲン原子または炭素数が1〜4のアルコキシ基(RO−)であり、rが4である。
【0049】
化合物(L)の例には、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、クロロトリメトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、およびビニルトリクロロシランが含まれる。これらの中でも、屈曲後のバリア性が高いレベルで維持される複合構造体を得るための化合物(L)の好ましい例として、テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランが挙げられる。
【0050】
化合物(L’)の例には、1,6−ビス(トリメトキシシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(トリエトキシシシリル)ヘキサン、ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミンが含まれる。これらの中でも、屈曲後のバリア性が高いレベルで維持される複合構造体を得るための化合物(L’)の好ましい例として、1,6−ビス(トリメトキシシシリル)ヘキサン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィドおよびビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドが挙げられる。
【0051】
本発明の効果が得られる限り、化合物(L)に占める化合物(L)の割合は、特に制限はない。一例では、化合物(L)は化合物(L)のみからなる。
【0052】
化合物(L)は、次に示す化学式(II)で表される少なくとも1種の化合物である。
SiX(4−p−q) (II)
[上記式(II)中、Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Zは、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、水酸基、およびクロロ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する有機基である。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(II)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(II)において複数のZが存在する場合には、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(II)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。pは1〜3の整数を表す。qは1〜3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。]
【0053】
は、たとえば炭素数が1〜10のアルキル基であり、好ましくは炭素数が1〜4のアルキル基である。Zに含まれる官能基は、たとえば、アミノ基および/またはイソシアネート基である。好ましい一例では、Xがハロゲン原子または炭素数が1〜4のアルコキシ基(RO−)であり、Zがイソシアネート基またはアミノ基で置換された炭素数が1〜4のアルキル基であり、Siに結合するRが炭素数1〜4のアルキル基であり、pが2または3であり、qが1または2であり、3≦(p+q)≦4である。特に好ましい一例では、Xがハロゲン原子または炭素数が1〜4のアルコキシ基(RO−)であり、Zが炭素数1〜4のアミノアルキル基または炭素数1〜4のイソシアネートアルキル基であり、pが3であり、qが1である。
【0054】
化合物(L)の例には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリクロロシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリクロロシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリクロロシラン、γ−ブロモプロピルトリメトキシシラン、γ−ブロモプロピルトリエトキシシラン、γ−ブロモプロピルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリクロロシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリクロロシランなどが含まれる。好ましい化合物(L)の例には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランが含まれる。これらの中でも、屈曲後のバリア性が高いレベルで維持される複合構造体を得るための化合物(L)の好ましい例として、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、およびγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0055】
SiおよびNが、0.01≦NSi/N≦0.30(たとえば0.02≦NSi/N≦0.28)を満たすことによって、本発明の複合構造体は、屈曲処理後においても優れた酸素バリア性および水蒸気バリア性を示す。屈曲処理後にさらに優れた性能を示す複合構造体を得るためには、NSiおよびNが、0.04≦NSi/N≦0.25(たとえば0.05≦NSi/N≦0.24)を満たすことが好ましい。
【0056】
層(Y)における化合物(L)に由来するSi元素のモル数をNSi2としたときに、NSi2および上記Nが、0.01≦NSi2/N≦0.10を満たすことが好ましい。これを満たすことによって、屈曲処理前の性能を高めることができる。
【0057】
なお、化合物(L)は、層(Y)中において、金属酸化物(A)および/またはリン化合物(B)と反応していてもよいし、反応していなくてもよいが、反応している方がより耐屈曲性が向上する場合がある。
【0058】
[金属酸化物(A)]
金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)としては、原子価が2価以上(たとえば、2〜4価や3〜4価)の金属原子を挙げることができ、具体的には、例えば、マグネシウム、カルシウム等の周期表第2族の金属;亜鉛等の周期表第12族の金属;アルミニウム等の周期表第13族の金属;ケイ素等の周期表第14族の金属;チタン、ジルコニウム等の遷移金属などを挙げることができる。なおケイ素は半金属に分類される場合があるが、本明細書ではケイ素を金属に含めるものとする。金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。これらの中でも、金属酸化物(A)を製造するための取り扱いの容易さや得られる複合構造体のガスバリア性がより優れることから、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムであることが特に好ましい。
【0059】
金属原子(M)に占める、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムの合計の割合は、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、または100モル%であってもよい。また、金属原子(M)に占める、アルミニウムの割合は、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、または100モル%であってもよい。
【0060】
金属酸化物(A)としては、液相合成法、気相合成法、固体粉砕法などの方法により製造されたものを使用することができるが、得られる金属酸化物(A)の形状や大きさの制御性や製造効率などを考慮すると、液相合成法により製造されたものが好ましい。
【0061】
液相合成法においては、加水分解可能な特性基が金属原子(M)に結合した化合物(L)を原料として用いてこれを加水分解縮合させることで、化合物(L)の加水分解縮合物として金属酸化物(A)を合成することができる。また化合物(L)の加水分解縮合物を液相合成法で製造するにあたっては、原料として化合物(L)そのものを用いる方法以外にも、化合物(L)が部分的に加水分解してなる化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)が完全に加水分解してなる化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)が部分的に加水分解縮合してなる化合物(L)の部分加水分解縮合物、化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したもの、あるいはこれらのうちの2種以上の混合物を原料として用いてこれを縮合または加水分解縮合させることによっても金属酸化物(A)を製造することができる。なお、化合物(L)の加水分解縮合物(A)は、実質的に金属酸化物とみなすことが可能である。そのため、この明細書では、化合物(L)の加水分解縮合物(A)を「金属酸化物(A)」という場合がある。すなわち、この明細書において、「金属酸化物(A)」を、「化合物(L)の加水分解縮合物(A)」と読み替えることが可能であり、「化合物(L)の加水分解縮合物(A)」を「金属酸化物(A)」と読み替えることが可能である。上記の加水分解可能な特性基(官能基)の種類に特に制限はなく、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I等)、アルコキシ基、アシロキシ基、ジアシルメチル基、ニトロ基等が挙げられるが、反応の制御性に優れることから、ハロゲン原子またはアルコキシ基が好ましく、アルコキシ基がより好ましい。
【0062】
化合物(L)は、反応の制御が容易で、得られる複合構造体のガスバリア性が優れることから、以下の式(III)で示される少なくとも1種の化合物(L)を含むことが好ましい。
(n−m) (III)
[上記式(III)中、Mは、Al、Ti、およびZrからなる群より選ばれる。Xは、F、Cl、Br、I、RO−、RCOO−、(RCO)CH−、およびNOからなる群より選ばれる。Rは、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(III)において複数のXが存在する場合には、それらのXは互いに同一であってもよいし異なってもよい。式(III)において複数のRが存在する場合には、それらのRは互いに同一であってもよいし異なってもよい。nはMの原子価に等しい。mは1〜nの整数を表す。]
【0063】
が表すアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。Rが表すアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基等が挙げられる。Rが表すアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等が挙げられる。Rが表すアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基等が挙げられる。Rは、例えば、炭素数が1〜10のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1〜4のアルキル基であることがより好ましい。Xは、F、Cl、Br、I、RO−であることが好ましい。化合物(L)の好ましい一例では、Xがハロゲン原子(F、Cl、Br、I)または炭素数が1〜4のアルコキシ基(RO−)であり、mはn(Mの原子価)と等しい。金属酸化物(A)を製造するための取り扱いの容易さや得られる複合構造体のガスバリア性がより優れることから、MはAl、TiまたはZrであることが好ましく、Alであることが特に好ましい。化合物(L)の一例では、Xがハロゲン原子(F、Cl、Br、I)または炭素数が1〜4のアルコキシ基(RO−)であり、mはn(Mの原子価)と等しく、MはAlである。
【0064】
化合物(L)の具体例としては、例えば、塩化アルミニウム、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリノルマルプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリノルマルブトキシド、アルミニウムトリs−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトキシド、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムアセチルアセトネート、硝酸アルミニウム等のアルミニウム化合物;チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ(2−エチルヘキソキシド)、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンアセチルアセトネート等のチタン化合物;ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のジルコニウム化合物が挙げられる。これらの中でも、化合物(L)としては、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリs−ブトキシドから選ばれる少なくとも1つの化合物が好ましい。化合物(L)は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0065】
本発明の効果が得られる限り、化合物(L)に占める化合物(L)の割合に特に限定はない。化合物(L)以外の化合物が化合物(L)に占める割合は、例えば、20モル%以下や10モル%以下や5モル%以下や0モル%である。一例では、化合物(L)は化合物(L)のみからなる。
【0066】
また、化合物(L)以外の化合物(L)としては、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、例えばマグネシウム、カルシウム、亜鉛、ケイ素等の金属原子に、上述の加水分解可能な特性基が結合した化合物などが挙げられる。
【0067】
化合物(L)が加水分解されることによって、化合物(L)が有する加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に置換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属原子(M)が酸素原子(O)を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物が形成される。なお、このようにして形成された金属酸化物(A)の表面には、通常、水酸基が存在する。
【0068】
本明細書においては、金属原子(M)のモル数に対する、M−O−Mで表される構造における酸素原子(O)のように、金属原子(M)のみに結合している酸素原子(例えば、M−O−Hで表される構造における酸素原子(O)のように金属原子(M)と水素原子(H)に結合している酸素原子は除外する)のモル数の割合([金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)のモル数]/[金属原子(M)のモル数])が0.8以上となる化合物を金属酸化物(A)に含めるものとする。金属酸化物(A)は、上記割合が0.9以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、1.1以上であることがさらに好ましい。上記割合の上限は特に限定されないが、金属原子(M)の原子価をnとすると、通常、n/2で表される。
【0069】
上記の加水分解縮合が起こるためには、化合物(L)が加水分解可能な特性基(官能基)を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないか極めて緩慢になるため、目的とする金属酸化物(A)の調製が困難になる。
【0070】
加水分解縮合物は、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法により特定の原料から製造することができる。当該原料には、化合物(L)、化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)の部分加水分解縮合物、および化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したものからなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「化合物(L)系成分」と称する場合がある)を用いることができる。これらの原料は、公知の方法で製造してもよいし、市販されているものを用いてもよい。特に限定はないが、例えば、2〜10個程度の化合物(L)が加水分解縮合することによって得られる縮合物を原料として用いることができる。具体的には、例えば、アルミニウムトリイソプロポキシドを加水分解縮合させて2〜10量体の縮合物としたものを原料の一部として用いることができる。
【0071】
化合物(L)の加水分解縮合物において縮合される分子の数は、化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合する際の条件によって制御することができる。例えば、縮合される分子の数は、水の量、触媒の種類や濃度、縮合または加水分解縮合する際の温度や時間などによって制御することができる。
【0072】
上記したように、本発明の複合構造体が有する層(Y)は、反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。このような反応生成物は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とを混合し反応させることにより形成することができる。リン化合物(B)との混合に供される(混合される直前の)金属酸化物(A)は、金属酸化物(A)そのものであってもよいし、金属酸化物(A)を含む組成物の形態であってもよい。好ましい一例では、金属酸化物(A)を溶媒に溶解または分散することによって得られた液体(溶液または分散液)の形態で、金属酸化物(A)がリン化合物(B)と混合される。
【0073】
金属酸化物(A)の溶液または分散液を製造するための好ましい方法を以下に記載する。ここでは、金属酸化物(A)が酸化アルミニウム(アルミナ)である場合を例にとってその分散液を製造する方法を説明するが、他の金属酸化物の溶液や分散液を製造する際にも類似の製造方法を採用することができる。好ましいアルミナの分散液は、アルミニウムアルコキシドを必要に応じて酸触媒でpH調整した水溶液中で加水分解縮合してアルミナのスラリーとし、これを特定量の酸の存在下に解膠することにより得ることができる。
【0074】
アルミニウムアルコキシドを加水分解縮合する際の反応系の温度は特に限定されない。当該反応系の温度は、通常2〜100℃の範囲内である。水とアルミニウムアルコキシドが接触すると液の温度が上昇するが、加水分解の進行に伴いアルコールが副生し、当該アルコールの沸点が水よりも低い場合に当該アルコールが揮発することにより反応系の温度がアルコールの沸点付近以上には上がらなくなる場合がある。そのような場合、アルミナの成長が遅くなることがあるため、95℃付近まで加熱して、アルコールを除去することが有効である。反応時間は反応条件(酸触媒の有無、量や種類など)に応じて相違する。反応時間は、通常、0.01〜60時間の範囲内であり、好ましくは0.1〜12時間の範囲内であり、より好ましくは0.1〜6時間の範囲内である。また、反応は、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴンなどの各種気体の雰囲気下で行うことができる。
【0075】
加水分解縮合の際に用いる水の量は、アルミニウムアルコキシドに対して1〜200モル倍であることが好ましく、10〜100モル倍であることがより好ましい。水の量が1モル倍未満の場合には加水分解が充分進行しないため好ましくない。一方200モル倍を超える場合には製造効率が低下したり粘度が高くなったりするため好ましくない。水を含有する成分(例えば塩酸や硝酸など)を使用する場合には、その成分によって導入される水の量も考慮して水の使用量を決定することが好ましい。
【0076】
加水分解縮合に使用する酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、酪酸、炭酸、シュウ酸、マレイン酸等を用いることができる。これらの中でも、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸、酪酸が好ましく、硝酸、酢酸がより好ましい。加水分解縮合時に酸触媒を使用する場合には、加水分解縮合前のpHが2.0〜4.0の範囲内となるように酸の種類に応じて適した量を使用することが好ましい。
【0077】
加水分解縮合により得られたアルミナのスラリーをそのままアルミナ分散液として使用することもできるが、得られたアルミナのスラリーを、特定量の酸の存在下に加熱して解膠することで、透明で粘度安定性に優れたアルミナの分散液を得ることができる。
【0078】
解膠時に使用される酸としては、硝酸、塩酸、過塩素酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などの1価の無機酸や有機酸を使用することができる。これらの中でも、硝酸、塩酸、酢酸が好ましく、硝酸、酢酸がより好ましい。
【0079】
解膠時の酸として硝酸、塩酸を使用する場合、その量はアルミニウム原子に対して0.001〜0.4モル倍であることが好ましく、0.005〜0.3モル倍であることがより好ましい。0.001モル倍未満の場合には解膠が充分に進行しない、または非常に長い時間を要するなどの不具合を生じる場合がある。また0.4モル倍を超える場合には得られるアルミナの分散液の経時安定性が低下する傾向がある。
【0080】
一方、解膠時の酸として酢酸を使用する場合、その量はアルミニウム原子に対して0.01〜1.0モル倍であることが好ましく、0.05〜0.5モル倍であることがより好ましい。0.01モル倍未満の場合には解膠が充分に進行しない、または非常に長い時間を要するなどの不具合を生じる場合がある。また1.0モル倍を超える場合には得られるアルミナの分散液の経時安定性が低下する傾向がある。
【0081】
解膠時に存在させる酸は、加水分解縮合時に添加されてもよいが、加水分解縮合で副生するアルコールを除去する際に酸が失われた場合には、前記範囲の量になるように、再度、添加することが好ましい。
【0082】
解膠を40〜200℃の範囲内で行うことによって、適度な酸の使用量で短時間に解膠させ、所定の粒子サイズを有し、粘度安定性に優れたアルミナの分散液を製造することができる。解膠時の温度が40℃未満の場合には解膠に長時間を要し、200℃を超える場合には温度を高くすることによる解膠速度の増加量は僅かである一方、高耐圧容器等を必要とし経済的に不利なので好ましくない。
【0083】
解膠が完了した後、必要に応じて、溶媒による希釈や加熱による濃縮を行うことにより、所定の濃度を有するアルミナの分散液を得ることができる。ただし、増粘やゲル化を抑制するため、加熱濃縮を行う場合は、減圧下に、60℃以下で行うことが好ましい。
【0084】
[リン化合物(B)]
リン化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有し、典型的には、そのような部位を複数含有する。好ましい一例では、リン化合物(B)は、そのような部位(原子団または官能基)を2〜20個含有する。そのような部位の例には、金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(たとえば水酸基)と反応可能な部位が含まれる。たとえば、そのような部位の例には、リン原子に直接結合したハロゲン原子や、リン原子に直接結合した酸素原子が含まれる。リン化合物(B)としては、例えば、ハロゲン原子または酸素原子がリン原子に直接結合した構造を有する化合物を用いることができる。そのようなリン化合物(B)は、金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基と縮合(加水分解縮合)することによって、金属酸化物(A)と結合する。リン化合物(B)は、1つのリン原子を含有するものであってもよいし、2つ以上のリン原子を含有するものであってもよい。
【0085】
リン化合物(B)は、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。ポリリン酸の例としては、ピロリン酸、三リン酸、4つ以上のリン酸が縮合したポリリン酸などが挙げられる。上記の誘導体の例としては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸およびホスホン酸の、塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(塩化物等)、脱水物(五酸化二リン等)などが挙げられる。また、ホスホン酸の誘導体の例には、ホスホン酸(H−P(=O)(OH))のリン原子に直接結合した水素原子が、種々の官能基を有していてもよいアルキル基に置換されている化合物も含まれ、例えば、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)等も含まれる。また、そのような化合物の、塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物および脱水物も、ホスホン酸の誘導体の例に含まれる。さらに、リン酸化でんぷんなど、リン原子を含有する有機高分子も、リン化合物(B)として使用できる。これらのリン化合物(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのリン化合物(B)の中でも、リン酸を単独で使用するか、またはリン酸とそれ以外のリン化合物とを併用することが好ましい。リン酸を使用することによって、後述するコーティング液(U)の安定性が向上させること、および、より優れたバリア性を有する複合構造体を得ることができる。
【0086】
層(Y)におけるリン化合物(B)に由来するリン原子のモル数をNとしたときに、上記NおよびNが、0.8≦N/N≦4.5を満たす。NおよびNは、好ましくは1.0≦N/N≦3.6を満たし、より好ましくは1.1≦N/N≦3.0を満たす。N/Nの値が3.0を超える場合、金属酸化物(A)がリン化合物(B)に対して過剰となるために、金属酸化物(A)の粒子同士の結合が不十分となる傾向がある。また、この場合には、金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基の量が多くなる。その結果、バリア性および耐熱水性が低下する傾向がある。一方、N/Nの値が0.80未満である場合には、リン化合物(B)が金属酸化物(A)に対して過剰となるために、金属酸化物(A)との結合に関与しない余分なリン化合物(B)が多くなる。また、この場合には、リン化合物(B)由来の水酸基の量が多くなりやすい。その結果、バリア性および耐熱水性が低下する傾向がある。
【0087】
層(Y)において、化合物(L)に由来するSi原子のモル数NSiと、リン化合物(B)に由来するリン原子のモル数Nとは、1<NSi/Nであってもよいが、0≦NSi/N≦1を満たすことが好ましい。この範囲を満たすことによって、より優れたバリア性を有する複合構造体を得ることができる。
【0088】
層(Y)は、1080〜1130cm−1の範囲に赤外線吸収ピークを有することが好ましい。当該赤外線吸収ピークは、バリア性と耐熱水性により優れる複合構造体が得られることから、1085〜1120cm−1の範囲にあることが好ましく、1090〜1110cm−1の範囲にあることがより好ましい。
【0089】
一般に、金属化合物とリン化合物とが反応することによって、金属化合物を構成する金属原子(M)とリン化合物に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合したM−O−Pで表される結合が生成する場合について考える。この場合、M−O−Pで表される結合に基づく特性ピークが赤外線吸収スペクトルに現れるが、そのピークは、当該結合の周囲の環境や構造などの影響を受けて特定の波数に生じる。検討の結果、本発明者らは、M−O−Pの結合に基づく吸収ピークが、1080〜1130cm−1の範囲にある場合に、優れたバリア性と耐熱水性とを有する複合構造体が得られることを見出した。
【0090】
[重合体(C)]
層(Y)は、特定の重合体(C)をさらに含んでもよい。重合体(C)は、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(f)を有する重合体である。
【0091】
水酸基を有する重合体(C)の例としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの部分けん化物、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、でんぷん等の多糖類、多糖類から誘導される多糖類誘導体などが挙げられる。カルボキシル基、カルボン酸無水物基またはカルボキシル基の塩を有する重合体(C)の例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(アクリル酸/メタクリル酸)およびそれらの塩などを挙げることができる。また、官能基(f)を含有しない構成単位を含む重合体(C)の例としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、エチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体のけん化物などが挙げられる。より優れたバリア性および耐熱水性を有する複合構造体を得るために、重合体(C)は、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の塩、ポリメタクリル酸、およびポリメタクリル酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体であることが好ましい。
【0092】
より優れたバリア性および耐熱水性を有する複合構造体を得るために、重合体(C)の全構成単位に占める、官能基(f)を有する構成単位の割合は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であってもよい。
【0093】
重合体(C)の分子量に特に制限はない。より優れたバリア性および力学的物性(落下衝撃強さ等)を有する複合構造体を得るために、重合体(C)の数平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。重合体(C)の数平均分子量の上限は特に限定されず、例えば、1,500,000以下である。
【0094】
複合構造体中の層(Y)は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応生成物(R)とSi化合物のみから構成されていてもよいし、重合体(C)などのその他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0095】
上記の他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩等の無機酸金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;アセチルアセトナート金属錯体(アルミニウムアセチルアセトナート等)、シクロペンタジエニル金属錯体(チタノセン等)、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(C)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤などが挙げられる。
【0096】
複合構造体中の層(Y)における上記の他の成分の含有率は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
【0097】
[層(Y)の厚さ]
本発明の複合構造体が有する層(Y)の厚さ(複合構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、4.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることがさらに好ましく、0.9μm以下であることが特に好ましい。層(Y)を薄くすることによって、印刷、ラミネート等の加工時における複合構造体の寸法変化を低く抑えることができ、さらに複合構造体の柔軟性が増し、その力学的特性を、基材自体の力学的特性に近づけることができる。本発明の複合構造体では、層(Y)の厚さの合計が1.0μm以下(例えば0.5μm以下)の場合でも、40℃、90/0%RH(相対湿度)の条件下における透湿度を5g/(m・day)以下とし、且つ、20℃、85%RH(相対湿度)の条件下における酸素透過度を1ml/(m・day・atm)以下とすることが可能である。ここで「90/0%RH」とは複合構造体に対して一方の側の相対湿度が90%で他方の側の相対湿度が0%であることを意味する。また、層(Y)の厚さ(複合構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.1μm以上(例えば0.2μm以上)であることが好ましい。なお、層(Y)1層当たりの厚さは、本発明の複合構造体のバリア性がより良好になる観点から、0.05μm以上(例えば0.15μm以上)であることが好ましい。層(Y)の厚さは、層(Y)の形成に用いられる後述するコーティング液(U)の濃度や、その塗布方法によって制御することができる。
【0098】
[基材(X)]
本発明の複合構造体が有する基材(X)の材質に特に制限はなく、様々な材質からなる基材を用いることができる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス;金属;金属酸化物などが挙げられる。なお、基材は複数の材質からなる複合構成または多層構成のものであってもよい。
【0099】
基材(X)の形態に特に制限はなく、フィルムやシート等の層状の基材であってもよいし、球、多面体およびパイプ等の立体形状を有する各種成形体であってもよい。これらの中でも、層状の基材は、食品等を包装するための包装材料に複合構造体(積層構造体)を用いる場合に、特に有用である。
【0100】
層状の基材としては、例えば、熱可塑性樹脂フィルム層、熱硬化性樹脂フィルム層、繊維重合体シート(布帛、紙等)層、木材シート層、ガラス層、無機蒸着層および金属箔層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む単層または複層の基材が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂フィルム層、紙層および無機蒸着層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む基材が好ましく、その場合の基材は単層であってもよいし、複層であってもよい。そのような基材を用いた複合構造体(積層構造体)は、包装材料への加工性や包装材料として使用する際の諸適性に優れる。
【0101】
熱可塑性樹脂フィルム層を形成する熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂などの熱可塑性樹脂を成形加工することによって得られるフィルムを挙げることができる。食品等を包装するための包装材料に用いられる積層体の基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6、またはナイロン−66からなるフィルムが好ましい。包装材料以外の用途では、上記熱可塑性フィルム層を形成する熱可塑性樹脂に加えて、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸メチル/スチレン共重合体、シンジオタクチックポリスチレン、環状ポリオレフィン、環状オレフィン共重合体、ポリアセチルセルロース、ポリエチレンナフタレート、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリメチルペンテンなども好ましい。
【0102】
熱可塑性樹脂フィルムは、延伸フィルムであってもよいし無延伸フィルムであってもよい。得られる複合構造体の加工適性(印刷やラミネートなど)が優れることから、延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれかの方法で製造された二軸延伸フィルムであってもよい。
【0103】
紙層に用いられる紙としては、例えば、クラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙などが挙げられる。紙層を含む基材を用いることによって、紙容器用の積層構造体を得ることができる。
【0104】
無機蒸着層は、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性を有するものであることが好ましく、より好ましくは透明性を有するものである。無機蒸着層は、基体の上に無機物を蒸着することにより形成することができ、基体の上に無機蒸着層が形成された積層体全体を、多層構成の基材(X)として用いることができる。無機蒸着層としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫、またはそれらの混合物等の無機酸化物から形成される層;窒化ケイ素、炭窒化ケイ素等の無機窒化物から形成される層;炭化ケイ素等の無機炭化物から形成される層などが挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される層は、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性が優れる観点から好ましい。
【0105】
無機蒸着層の好ましい厚さは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、通常、2〜500nmの範囲内である。この範囲で、複合構造体のバリア性や機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層の厚さが2nm未満であると、酸素ガスや水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層の厚さが500nmを超えると、複合構造体を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。無機蒸着層の厚さは、より好ましくは5〜200nmの範囲にあり、さらに好ましくは10〜100nmの範囲にある。
【0106】
無機蒸着層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)などを挙げることができる。これらの中でも、生産性の観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着を行う際の加熱方式としては、電子線加熱方式、抵抗加熱方式および誘導加熱方式のいずれかが好ましい。また、無機蒸着層が形成される基体との密着性および無機蒸着層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を採用して蒸着してもよい。また、無機蒸着層の透明性を上げるために、蒸着の際に、酸素ガスなどを吹き込んで反応を生じさせる反応蒸着法を採用してもよい。
【0107】
基材(X)が層状である場合、その厚さは、得られる複合構造体の機械的強度や加工性が良好になる観点から、1〜200μmの範囲にあることが好ましく、5〜100μmの範囲にあることがより好ましく、7〜60μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0108】
[接着層(H)]
本発明の複合構造体において、層(Y)は、基材(X)と直接接触するように積層されていてもよいが、基材(X)と層(Y)との間に配置された接着層(H)を介して層(Y)が基材(X)に積層されていてもよい。この構成によれば、基材(X)と層(Y)との接着性を高めることができる場合がある。接着層(H)は、接着性樹脂で形成してもよい。接着性樹脂からなる接着層(H)は、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理するか、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗布することによって形成できる。当該接着剤としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また、アンカーコーティング剤や接着剤に、公知のシランカップリング剤などの少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤の好適な例としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基などの反応性基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。基材(X)と層(Y)とを接着層(H)を介して強く接着することによって、本発明の複合構造体に対して印刷やラミネートなどの加工を施す際に、バリア性や外観の悪化をより効果的に抑制することができる。
【0109】
接着層(H)を厚くすることによって、本発明の複合構造体の強度を高めることができる。しかし、接着層(H)を厚くしすぎると、外観が悪化する傾向がある。接着層(H)の厚さは0.03〜0.18μmの範囲にあることが好ましい。この構成によれば、本発明の複合構造体に対して印刷やラミネートなどの加工を施す際に、バリア性や外観の悪化をより効果的に抑制することができ、さらに、本発明の複合構造体を用いた包装材料の落下強度を高めることができる。接着層(H)の厚さは、0.04〜0.14μmの範囲にあることがより好ましく、0.05〜0.10μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0110】
[複合構造体の構成]
本発明の複合構造体(積層体)は、基材(X)および層(Y)のみによって構成されてもよいし、基材(X)、層(Y)および接着層(H)のみによって構成されていてもよい。本発明の複合構造体は、複数の層(Y)を含んでもよい。また、本発明の複合構造体は、基材(X)、層(Y)および接着層(H)以外の他の部材(例えば熱可塑性樹脂フィルム層、紙層、無機蒸着層等の他の層など)をさらに含んでもよい。そのような他の部材(他の層など)を有する本発明の複合構造体は、基材(X)に直接または接着層(H)を介して層(Y)を積層させた後に、さらに当該他の部材(他の層など)を直接または接着層を介して接着または形成することによって製造できる。このような他の部材(他の層など)を複合構造体に含ませることによって、複合構造体の特性を向上させたり、新たな特性を付与したりすることができる。例えば、本発明の複合構造体にヒートシール性を付与したり、バリア性や力学的物性をさらに向上させたりすることができる。
【0111】
特に、本発明の複合構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、複合構造体にヒートシール性を付与したり、複合構造体の力学的特性を向上させたりすることができる。ヒートシール性や力学的特性の向上などの観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、複合構造体の力学的特性を向上させるために、他の層として、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、ポリアミドとしてはナイロン−6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。なお各層の間には必要に応じて、アンカーコート層や接着剤からなる層を設けてもよい。
【0112】
本発明の複合構造体は、一方の表面または両方の表面に配置された表面保護層を含んでもよい。表面保護層としては、傷がつきにくい樹脂からなる層が好ましい。また、太陽電池のように室外で利用されることがあるデバイスの表面保護層は、耐候性(たとえば耐光性)が高い樹脂からなること好ましい。また、光を透過させる必要がある面を保護する場合には、透光性が高い表面保護層が好ましい。表面保護層(表面保護フィルム)の材料の例には、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4−フッ化エチレン−パークロロアルコキシ共重合体、4−フッ化エチレン−6−フッ化プロピレン共重合体、2−エチレン−4−フッ化エチレン共重合体、ポリ3−フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルが含まれる。一例の複合構造体は、一方の表面に配置されたアクリル樹脂層を含む。なお、表面保護層の耐久性を高めるために、表面保護層に各種の添加剤(たとえば紫外線吸収剤)を添加してもよい。耐候性が高い表面保護層の好ましい一例は、紫外線吸収剤が添加されたアクリル樹脂層である。紫外線吸収剤の例には、公知の紫外線吸収剤が含まれ、たとえば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケル系、トリアジン系の紫外線吸収剤が含まれる。また、他の安定剤、光安定剤、酸化防止剤などを併用してもよい。
【0113】
表面保護層は、基材とバリア層との積層膜(以下では、「バリアフィルム」という場合がある)に積層される。バリアフィルムに表面保護層を積層する方法に限定はなく、たとえば接着層を用いて両者を接着してもよい。接着層は、表面保護層の種類に応じて選択すればよい。たとえば、表面保護層がアクリル樹脂フィルムの場合には、接着層として、ポリビニルアセタール(たとえばポリビニルブチラール)を用いてもよい。この場合、バリアフィルムと表面保護層とを、接着層を介して熱ラミネートすることが可能である。
【0114】
本発明の複合構造体は、少なくとも1層の層(Y)と、少なくとも1層の他の層(基材を含む)とを積層することによって形成できる。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層(顔料含有ポリオレフィン層、耐熱性ポリオレフィン層、または2軸延伸耐熱性ポリオレフィン層であってもよい)、水酸基含有ポリマー層(たとえばエチレン−ビニルアルコール共重合体層)、紙層、無機蒸着フィルム層、熱可塑性エラストマー層、および接着層などが含まれる。複合構造体が基材および層(Y)を含む限り、これらの他の層および層(Y)の数および積層順に特に制限はない。なお、これらの他の層は、その材料からなる成形体(立体形状を有する成形体)に置き換えてもよい。
【0115】
本発明の複合構造体の構成の具体例を、以下に示す。なお、以下の具体例において、各層は、その材料からなる成形体(立体形状を有する成形体)に置き換えてもよい。また、複合構造体は接着層(H)等の接着層を有していてもよいが、以下の具体例において、当該接着層の記載は省略している。
(1)層(Y)/ポリエステル層、
(2)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)、
(3)層(Y)/ポリアミド層、
(4)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)、
(5)層(Y)/ポリオレフィン層、
(6)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)、
(7)層(Y)/水酸基含有ポリマー層、
(8)層(Y)/水酸基含有ポリマー層/層(Y)、
(9)層(Y)/紙層、
(10)層(Y)/紙層/層(Y)、
(11)層(Y)/無機蒸着フィルム層/ポリエステル層、
(12)層(Y)/無機蒸着フィルム層/ポリアミド層、
(13)層(Y)/無機蒸着フィルム層/ポリオレフィン層、
(14)層(Y)/無機蒸着フィルム層/水酸基含有ポリマー層、
(15)層(Y)/ポリエステル層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(16)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(17)ポリエステル層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(18)層(Y)/ポリアミド層/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(19)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(20)ポリアミド層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(21)層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(22)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(23)ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(24)層(Y)/ポリオレフィン層/ポリオレフィン層、
(25)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(26)ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(27)層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(28)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(29)ポリエステル層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(30)層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(31)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(32)ポリアミド層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(33)層(Y)/ポリエステル層/紙層、
(34)層(Y)/ポリアミド層/紙層、
(35)層(Y)/ポリオレフィン層/紙層、
(36)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(37)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(38)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(39)紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(40)ポリオレフィン層/紙層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(41)紙層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(42)紙層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(43)層(Y)/紙層/ポリオレフィン層、
(44)層(Y)/ポリエステル層/紙層/ポリオレフィン層、
(45)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/水酸基含有ポリマー層、
(46)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層、
(47)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリエステル層。
【0116】
本発明によれば、以下の性能の少なくとも1つを満たす複合構造体を得ることが可能である。好ましい一例では、層(Y)の厚さ(複合構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)が1.0μm以下(たとえば0.9μm以下や0.8μm以下や0.5μm以下)である複合構造体が、以下の性能の少なくとも1つを満たす。
(性能1)40℃、90/0%RHの条件下における透湿度が5g/(m・day)以下である。
(性能2)20℃、85%RHの条件下における酸素透過度が、1ml/(m・day・atm)以下である。
【0117】
[用途]
本発明の複合構造体は、ガスバリア性および水蒸気バリア性のいずれにも優れ、屈曲処理後においても、両バリア性を高いレベルで維持できる。また、本発明によれば、外観に優れる複合構造体を得ることができる。そのため、本発明の複合構造体は、様々な用途に適用できる。本発明の複合構造体は、包装材料として特に好ましく用いられる。包装材料以外の用途の例には、LCD用基板フィルム、有機EL用基板フィルム、電子ペーパー用基板フィルム、電子デバイス用封止フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、ICタグ用フィルム、太陽電池用バックシート、太陽電池用保護フィルムなどの電子デバイス関連フィルム、光通信用部材、電子機器用フレキシブルフィルム、燃料電池用隔膜、燃料電池用封止フィルム、各種機能性フィルムの基板フィルムが含まれる。
【0118】
本発明の複合構造体は、太陽電池の表面を保護するガラスの代わりに用いることが可能である。すなわち、本発明の複合構造体を用いることによって、可撓性を実質的に有さない厚いガラス基板の使用を避けることが可能である。ただし、厚いガラス基板を含む太陽電池に本発明の複合構造体を用いてもよい。
【0119】
太陽電池の所定の面に本発明の保護フィルムを固定することによって、本発明の太陽電池が得られる。保護フィルムを固定する方法に特に限定はない。保護フィルムは公知の方法で固定してもよく、たとえば、OCA(OPTICAL CLEAR ADHESIVE)などの接着層を用いて固定(接着)してもよい。具体的には、保護フィルムとは別の接着層を用いて積層してもよいし、接着層を含む保護フィルムを用いて積層してもよい。接着層に特に限定はなく、公知の接着層や、上述した接着層を用いてもよい。接着層の例には、接着層として機能するフィルムが含まれる。
【0120】
本発明の複合積層体が用いられる太陽電池に特に限定はない。太陽電池の例には、シリコン系太陽電池、化合物半導体太陽電池、有機太陽電池などが含まれる。シリコン系太陽電池の例には、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、非晶質シリコン太陽電池などが含まれる。化合物太陽電池の例には、III−V族化合物半導体太陽電池、II−VI族化合物半導体太陽電池、I−III−VI族化合物半導体太陽電池などが含まれる。また、太陽電池は、複数のユニットセルが直列接続された集積形の太陽電池であってもよいし、集積形の太陽電池でなくてもよい。
【0121】
この包装材料は、様々な用途に適用することができ、酸素や水蒸気に対するバリア性が必要となる用途や、包装材の内部が各種の機能性ガスによって置換される用途に好ましく用いられる。例えば、本発明の包装材料は、食品用包装材料として好ましく用いられる。食品用包装材料として用いる場合には、スタンドアップパウチなどの、折り目を有する形態に特に好適に用いられる。また、本発明の包装材料は、食品用包装材料以外にも、農薬、医薬等の薬品;医療器材;機械部品、精密材料等の産業資材;衣料などを包装するための包装材料として好ましく用いることができる。
【0122】
本発明の成形品は、本発明の包装材料を用いて形成される。本発明の成形品は、縦製袋充填シール袋、真空包装袋、スパウト付パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、容器用蓋材、紙容器または真空断熱体であってもよい。また、本発明の成形品は、真空断熱体以外の成形品であってもよい。
【0123】
本発明の成形品(たとえば縦製袋充填シール袋など)では、ヒートシールが行われる。ヒートシールが行われる場合には、通常、成形品の内側となる側、あるいは成形品の内側となる側および外側となる側の両方に、ヒートシール可能な層を配置することが必要である。ヒートシール可能な層が、成形品(袋)の内側となる側にのみある場合は、通常、胴体部のシールは合掌貼りシールとなる。ヒートシール可能な層が、成形品の内側となる側および外側となる側の両方にある場合は、通常、胴体部のシールは封筒貼りシールとなる。ヒートシール可能な層としては、ポリオレフィン層(以下、「PO層」と記載することがある)が好ましい。
【0124】
本発明の成形品は、たとえば、液体、粘稠体、粉体、固形バラ物、または、これらを組み合わせた食品や飲料物などを包装する縦製袋充填シール袋であってもよい。本発明の縦製袋充填シール袋は、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、屈曲処理後でもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が小さい。そのため、該縦製袋充填シール袋によれば、内容物の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。
【0125】
以下では、基材(X)と基材(X)に積層された層(Y)とを含む多層膜を、バリア性多層膜という場合がある。このバリア性多層膜も、本発明の複合構造体の1種である。バリア性多層膜には、様々な特性(たとえば熱シール性)を付与するための層が積層されていてもよい。たとえば、本発明の複合構造体は、バリア性多層膜/接着層/ポリオレフィン層、または、ポリオレフィン層/接着層/バリア性多層膜/接着層/ポリオレフィン層、といった構成を有してもよい。すなわち、本発明の複合構造体は、一方の最表面に配置されたポリオレフィン層を含んでもよい。また、本発明の複合構造体は、一方の最表面に配置された第1のポリオレフィン層と、他方の最表面に配置された第2のポリオレフィン層とを含んでもよい。第1のポリオレフィン層と第2のポリオレフィン層とは同じでもよいし、異なってもよい。
【0126】
縦製袋充填シール袋は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、紙層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
【0127】
縦製袋充填シール袋として特に好ましい複合構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、バリア性多層膜/PO層、PO層/バリア性多層膜/PO層という構成が挙げられる。これらの構成において、バリア性多層膜の基材として、たとえばポリアミドフィルムを用いることができる。該縦製袋充填シール袋は、製袋後、加熱殺菌後、加熱殺菌/輸送後のガスバリア性と水蒸気バリア性に特に優れる。上記縦製袋充填シール袋を構成する各層の層と層の間には、接着層を設けてもよい。また、本発明の複合構造体の層(Y)が基材の片面にある場合、層(Y)は、該縦製袋充填シール袋の外側および内側のいずれの方向を向いていてもよい。
【0128】
本発明の成形品は、固形分を含む食品などを包装する真空包装袋であってもよい。該真空包装袋は、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、屈曲処理後にもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が小さい。そのため、該真空包装袋は、真空包装・加熱殺菌処理時における変形によるガスバリア性と水蒸気バリア性の低下はほとんどない。該真空包装袋は柔軟であり、固形分を含む食品に容易に密着するため、真空包装時の脱気が容易である。そのため、該真空包装袋は、真空包装体内の残存酸素を少なくでき、食品の長期保存性に優れる。また、真空包装後に、角張ったり、折り曲がったりした部分が生じにくいため、ピンホールやクラックなどの欠陥が発生しにくい。また、該真空包装袋によれば、真空包装袋同士や、真空包装袋とダンボールとの擦れによってピンホールが発生することを抑制できる。また、該真空包装袋は、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れるため、内容物(たとえば食品)の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。
【0129】
真空包装袋は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
【0130】
真空包装袋として特に好ましい複合構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。これらの構成において、バリア性多層膜の基材として、たとえばポリアミドフィルムを用いることができる。このような複合構造体を用いた真空包装袋は、真空包装後や、真空包装・加熱殺菌後のガスバリア性に特に優れる。上記各層の層間には接着層を設けてもよい。また、層(Y)が基材の片面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対して真空包装袋の外側にあってもよいし内側にあってもよい。
【0131】
本発明の成形品は、様々な液状物質を包装するスパウト付パウチであってもよい。該スパウト付パウチは、液体飲料(たとえば清涼飲料)、ゼリー飲料、ヨーグルト、フルーツソース、調味料、機能性水、流動食等の容器として使用できる。また、該スパウト付パウチは、アミノ酸輸液剤、電解質輸液剤、糖質輸液剤、輸液用脂肪乳剤などの液状の医薬品の容器としても好ましく使用できる。該スパウト付パウチは、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、屈曲処理後にもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が小さい。そのため該スパウト付パウチを用いることによって、輸送後、長期保存後においても、内容物の酸素による変質を防ぐことが可能である。また、該スパウト付パウチは透明性が良好であるため、内容物の確認や、劣化による内容物の変質の確認が容易である。
【0132】
スパウト付きパウチは、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
【0133】
スパウト付パウチとして特に好ましい複合構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には接着層を設けてもよい。また、層(Y)が基材の片面のみに積層されている場合、ガスバリア層は、基材に対してスパウト付パウチの外側にあってもよいし内側にあってもよい。
【0134】
本発明の成形品は、化粧品、薬品、医薬品、食品、歯磨などを包装するラミネートチューブ容器であってもよい。該ラミネートチューブ容器は、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、屈曲処理後でもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が小さく、使用時にスクイーズ(squeeze)された後でも優れたガスバリア性と水蒸気バリア性を維持する。また、該ラミネートチューブ容器は透明性が良好であるため、内容物の確認や、劣化による内容物の変質の確認が容易である。
【0135】
ラミネートチューブ容器は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリアミド層、ポリオレフィン層(顔料含有ポリオレフィン層であってもよい)、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
【0136】
ラミネートチューブ容器として特に好ましい構成としては、PO層/バリア性多層膜/PO層、および、PO層/顔料含有PO層/PO層/バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を配置してもよい。また、層(Y)が基材の片面のみに積層されている場合、ガスバリア層は、基材に対してスラミネートチューブ容器の外側にあってもよいし内側にあってもよい。
【0137】
本発明の成形品は、輸液バッグであってもよく、たとえば、アミノ酸輸液剤、電解質輸液剤、糖質輸液剤、輸液用脂肪乳剤などの液状の医薬品が充填される輸液バッグであってもよい。該輸液バッグは、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、屈曲処理後でもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が小さい。そのため、該輸液バッグによれば、加熱殺菌処理前、加熱殺菌処理中、加熱殺菌処理後、輸送後、保存後においても、充填されている液状医薬品が酸素によって変質することを防止できる。
【0138】
輸液バッグは、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、熱可塑性エラストマー層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
【0139】
輸液バッグとして特に好ましい複合構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を配置してもよい。また、層(Y)が基材の一方の表面のみに積層されている場合、ガスバリア層は、基材に対して輸液バッグの外側にあってもよいし内側にあってもよい。
【0140】
本発明の成形品は、畜肉加工品、野菜加工品、水産加工品、フルーツなどの食品が充填される容器の蓋材であってもよい。該容器用蓋材は、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、屈曲処理後でもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が小さいため、内容物である食品の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。そして、該容器用蓋材は、食料品などの内容物の保存用に使用される容器の蓋材として、好ましく用いられる。
【0141】
容器用蓋材は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、ポリエステル層、紙層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
【0142】
容器用蓋材として特に好ましい複合構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられるである。これらの構成において、バリア性多層膜の基材として、たとえばポリアミドフィルムを用いることができる。このような構成を有する蓋材は、加熱殺菌後や、加熱殺菌/輸送後のガスバリア性に特に優れる。上記各層の層間には、接着層を設けてもよい。また、複合構造体の層(Y)が基材の片面にある場合、層(Y)は、基材よりも内側(容器側)にあってもよいし、基材よりも外側にあってもよい。
【0143】
本発明の成形品は、紙容器であってもよい。該紙容器は、折り曲げ加工を行ってもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が少ない。また、該紙容器は層(Y)の透明性が良好であるため、窓付き容器に好ましく用いられる。さらに、該紙容器は、電子レンジによる加熱にも適している。
【0144】
紙容器は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層(耐熱性ポリオレフィン層または2軸延伸耐熱性ポリオレフィン層であってもよい)、無機蒸着フィルム層、水酸基含有ポリマー層、紙層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
【0145】
紙容器として特に好ましい複合構造体の構成としては、耐熱性ポリオレフィン層/紙層/耐熱性ポリオレフィン層/バリア性多層膜/耐熱性ポリオレフィン層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を配置してもよい。上記の例において、耐熱性ポリオレフィン層は、たとえば、2軸延伸耐熱性ポリオレフィンフィルムまたは無延伸耐熱性ポリオレフィンフィルムのいずれかで構成される。成型加工の容易さの観点から、複合構造体の最外層に配置される耐熱性ポリオレフィン層は無延伸ポリプロピレンフィルムであることが好ましい。同様に、複合構造体の最外層よりも内側に配置される耐熱性ポリオレフィン層は無延伸ポリプロピレンフィルムであることが好ましい。好ましい一例では、複合構造体を構成するすべての耐熱性ポリオレフィン層が、無延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0146】
本発明の成形品は、保冷や保温が必要な各種用途に使用することができる真空断熱体であってもよい。該真空断熱体は、長期間にわたって断熱効果を保持できるため、冷蔵庫、給湯設備および炊飯器などの家電製品用の断熱材、壁部、天井部、屋根裏部および床部などに用いられる住宅用断熱材、車両屋根材、自動販売機などの断熱パネルなどに利用できる。
【0147】
真空断熱体は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
【0148】
真空断熱体として特に好ましい複合構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を設けてもよい。また、層(Y)が基材の一方の表面のみに積層されている場合、ガスバリア層は、基材に対して真空断熱体の外側にあってもよいし内側にあってもよい。
【0149】
太陽電池の保護フィルムとして特に好ましい複合構造体の構成の好ましい例を以下に示す。なお、複合構造体は基材とバリア層との間に接着剤層(H)を有していてもよいが、以下の具体例において当該接着剤層(H)の記載は省略している。
(1)バリア層/基材/バリア層
(2)基材/バリア層/接着層/表面保護層
(3)バリア層/基材/バリア層/接着層/表面保護層
【0150】
上記の構成の例(1)〜(3)における好ましい一例では、基材がポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリカーボネートフィルムである。上記の構成の例(2)および(3)における好ましい一例では、接着層がポリビニルアセタール(たとえばポリビニルブチラール)であり、表面保護層がアクリル樹脂層である。また、上記の構成の例(2)及び(3)における他の好ましい一例では、接着層がポリウレタンであり、表面保護層がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体である。上記(2)および(3)の構成は、太陽電池の保護フィルムとして好ましい。
【0151】
[複合構造体の製造方法]
以下、本発明の複合構造体の製造方法について説明する。この方法によれば、本発明の複合構造体を容易に製造できる。本発明の複合構造体の製造方法に用いられる材料、および複合構造体の構成等は、上述したものと同様であるので、重複する部分については説明を省略する場合がある。たとえば、金属酸化物(A)、リン化合物(B)、重合体(C)、化合物(L)、化合物(L)、化合物(L’)、化合物(L)、および化合物(L)について、本発明の複合構造体の説明における記載を適用することが可能である。なお、この製造方法について説明した事項については、本発明の複合構造体に適用できる。また、本発明の複合体について説明した事項については、本発明の製造方法に適用できる。
【0152】
本発明の複合構造体の製造方法は、工程(I)、(II)および(III)を含む。工程(I)では、金属酸化物(A)と、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有するリン化合物(B)と、化合物(L)と、溶媒とを少なくとも混合することによって、金属酸化物(A)、リン化合物(B)、化合物(L)、および溶媒を含むコーティング液(U)を調製する。工程(II)では、基材(X)上にコーティング液(U)を塗布することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する。工程(III)では、当該前駆体層を110℃以上の温度で熱処理する。
【0153】
コーティング液(U)において、金属酸化物(A)に含まれる金属原子(M)のモル数をNとし、化合物(L)に含まれるSi原子のモル数をNSiとしたときに、NSiおよびNが、0.01≦NSi/N≦0.30を満たす。また、コーティング液(U)において、リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数をNとしたときに、NおよびNが、0.8≦N/N≦4.5を満たす。
【0154】
[工程(I)]
工程(I)では、金属酸化物(A)と、リン化合物(B)と、化合物(L)と、溶媒とを少なくとも混合する。1つの観点では、工程(I)では、リン化合物(B)と、化合物(L)と、溶媒とを含む原料の少なくとも一部を、溶媒中で反応させる。当該原料は、金属酸化物(A)、リン化合物(B)、および化合物(L)の他に、他の化合物を含んでもよい。典型的には、金属酸化物(A)は粒子の形態で混合される。
【0155】
コーティング液(U)において、化合物(L)に含まれるSi原子モル数NSiと、リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数Nとは、1<NSi/Nであってもよいが、0≦NSi/N≦1を満たすことが好ましい。
【0156】
工程(I)は、以下の工程(a)〜(c)を含むことが好ましい。
工程(a):金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する工程。
工程(b):リン化合物(B)を含む溶液(T)を調製する工程。
工程(c):上記工程(a)および(b)で得られた液体(S)と溶液(T)とを混合する工程。
【0157】
工程(b)は、工程(a)より先に行われてもよいし、工程(a)と同時に行われてもよい。以下、各工程について、より具体的に説明する。
【0158】
工程(a)では、金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する。液体(S)は、溶液または分散液である。当該液体(S)は、例えば、公知のゾルゲル法で採用されている手法によって調製できる。例えば、上述した化合物(L)系成分、水、および必要に応じて酸触媒や有機溶媒を混合し、公知のゾルゲル法で採用されている手法によって化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合することによって調製できる。化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合することによって得られる、金属酸化物(A)の分散液は、そのまま金属酸化物(A)を含む液体(S)として使用することができる。しかし、必要に応じて、当該分散液に対して特定の処理(上記したような解膠や濃度制御のための溶媒の加減等)を行ってもよい。
【0159】
工程(a)は、化合物(L)および化合物(L)の加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合(たとえば加水分解縮合)して金属酸化物(A)を得る工程を含んでもよい。具体的には、工程(a)は、(L)、化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)の部分加水分解縮合物、および化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したものからなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合または加水分解縮合する工程を含んでもよい。
【0160】
工程(b)において化合物(L)が溶液(T)に混合されるか、または、工程(c)において液体(S)と溶液(T)と化合物(L)とが混合されてもよい。
【0161】
また、液体(S)を調製するための方法の別の例としては、以下の工程を含む方法が挙げられる。まず、熱エネルギーによって金属を金属原子として気化させ、その金属原子を反応ガス(酸素)と接触させることによって金属酸化物の分子およびクラスターを生成させる。その後、それらを瞬時に冷却することによって、粒径が小さい金属酸化物(A)の粒子を製造する。次に、その粒子を水や有機溶媒に分散させることによって、液体(S)(金属酸化物(A)を含む分散液)が得られる。水や有機溶媒への分散性を高めるため、金属酸化物(A)の粒子に対して表面処理を施したり、界面活性剤等の安定化剤を添加したりしてもよい。また、pHを制御することによって、金属酸化物(A)の分散性を向上させてもよい。
【0162】
液体(S)を調製するための方法のさらに別の例としては、バルク体の金属酸化物(A)をボールミルやジェットミル等の粉砕機を用いて粉砕し、これを水や有機溶媒に分散させることによって、液体(S)(金属酸化物(A)を含む分散液)とする方法を挙げることができる。ただし、この場合には、金属酸化物(A)の粒子の形状や大きさの分布を制御することが困難となる場合がある。
【0163】
工程(a)において使用できる有機溶媒の種類に特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール等のアルコール類が好適に用いられる。
【0164】
液体(S)中における金属酸化物(A)の含有率は、0.1〜30質量%の範囲内であることが好ましく、1〜20質量%の範囲内であることがより好ましく、2〜15質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0165】
工程(b)では、リン化合物(B)を含む溶液(T)を調製する。溶液(T)は、リン化合物(B)を溶媒に溶解することによって調製できる。リン化合物(B)の溶解性が低い場合には、加熱処理や超音波処理を施すことによって溶解を促進してもよい。
【0166】
溶液(T)の調製に用いられる溶媒は、リン化合物(B)の種類に応じて適宜選択すればよいが、水を含むことが好ましい。リン化合物(B)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は、メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホランなどを含んでもよい。
【0167】
溶液(T)中におけるリン化合物(B)の含有率は、0.1〜99質量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜95質量%の範囲内であることがより好ましく、0.1〜90質量%の範囲内であることがさらに好ましい。また、溶液(T)中におけるリン化合物(B)の含有率は、0.1〜50質量%の範囲内にあってもよく、1〜40質量%の範囲内にあってもよく、2〜30質量%の範囲内にあってもよい。
【0168】
工程(c)では、液体(S)と溶液(T)とを混合する。液体(S)と溶液(T)との混合時には、局所的な反応を抑制するため、添加速度を抑え、撹拌を強く行いながら混合することが好ましい。この際、撹拌している液体(S)に溶液(T)を添加してもよいし、撹拌している溶液(T)に液体(S)を添加してもよい。また、混合時の温度を30℃以下(例えば20℃以下)に維持することによって、保存安定性に優れたコーティング液(U)を得ることができる場合がある。さらに、混合完了時点からさらに30分程度撹拌を続けることによって、保存安定性に優れたコーティング液(U)を得ることができる場合がある。ホモジナイザー等強いせん断をかけることが可能な撹拌機を使用しても良い。
【0169】
工程(b)において、化合物(L)が溶液(T)に混合されてもよい。あるいは、工程(c)において、液体(S)と溶液(T)と化合物(L)とが混合されてもよい。この場合、液体(S)および溶液(T)を混合する前にそれらのうちのいずれかに化合物(L)を添加してもよいし、液体(S)および溶液(T)の混合液に化合物(L)を添加してもよい。
【0170】
また、コーティング液(U)は、重合体(C)を含んでもよい。コーティング液(U)に重合体(C)を含ませる方法は、特に制限されない。例えば、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液に、重合体(C)を粉末またはペレットの状態で添加した後に溶解させてもよい。また、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)の混合液に、重合体(C)の溶液を添加して混合してもよい。また、重合体(C)の溶液に、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液を添加して混合してもよい。溶液(T)に重合体(C)を含有させることによって、工程(c)において液体(S)と溶液(T)とを混合する際に、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応速度が緩和され、その結果、経時安定性に優れたコーティング液(U)が得られる場合がある。
【0171】
コーティング液(U)は、必要に応じて、酢酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸から選ばれる少なくとも1種の酸化合物(D)を含んでもよい。以下では、当該少なくとも1種の酸化合物(D)を、単に「酸化合物(D)」と略称する場合がある。コーティング液(U)に酸化合物(D)を含ませる方法は、特に制限されない。例えば、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液に、酸化合物(D)をそのまま添加して混合してもよい。また、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液に、酸化合物(D)の溶液を添加して混合してもよい。また、酸化合物(D)の溶液に、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液を添加して混合してもよい。溶液(T)が酸化合物(D)を含むことによって、工程(c)において液体(S)と溶液(T)とを混合する際に、加水分解縮合物(A)とリン化合物(B)との反応速度が緩和され、その結果、経時安定性に優れたコーティング液(U)が得られる場合がある。
【0172】
酸化合物(D)を含むコーティング液(U)においては、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応が抑制され、コーティング液(U)中での反応物の沈澱や凝集を抑制することができる。そのため、酸化合物(D)を含むコーティング液(U)を用いることによって、得られる複合構造体の外観が向上する場合がある。また、酸化合物(D)の沸点は200℃以下であるため、複合構造体の製造過程において、酸化合物(D)を揮発させるなどすることによって、酸化合物(D)を層(Y)から容易に除去できる。
【0173】
コーティング液(U)における酸化合物(D)の含有率は、0.1〜5.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.5〜2.0質量%の範囲内であることがより好ましい。これらの範囲では、酸化合物(D)の添加による効果が得られ、且つ、酸化合物(D)の除去が容易である。液体(S)中に酸成分が残留している場合には、その残留量を考慮して、酸化合物(D)の添加量を決定すればよい。
【0174】
工程(c)における混合によって得られた液は、そのままコーティング液(U)として使用できる。この場合、通常、液体(S)や溶液(T)に含まれる溶媒が、コーティング液(U)の溶媒となる。また、工程(c)における混合によって得られた液に処理を行って、コーティング液(U)を調製してもよい。たとえば、有機溶媒の添加、pHの調製、粘度の調製、添加物の添加等の処理を行ってもよい。
【0175】
工程(c)の混合によって得られた液に、得られるコーティング液(U)の安定性が阻害されない範囲で有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤の添加によって、工程(II)における基材(X)へのコーティング液(U)の塗布が容易になる場合がある。有機溶剤としては、得られるコーティング液(U)において均一に混合されるものが好ましい。好ましい有機溶剤の例としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルビニルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホランなどが挙げられる。
【0176】
コーティング液(U)の保存安定性、およびコーティング液(U)の基材に対する塗工性の観点から、コーティング液(U)の固形分濃度は、1〜20質量%の範囲にあることが好ましく、2〜15質量%の範囲にあることがより好ましく、3〜10質量%の範囲にあることがさらに好ましい。コーティング液(U)の固形分濃度は、例えば、シャーレにコーティング液(U)を所定量加え、当該シャーレごと100℃の温度で溶媒等の揮発分の除去を行い、残留した固形分の質量を、最初に加えたコーティング液(U)の質量で除して算出することができる。その際、一定時間乾燥するごとに残留した固形分の質量を測定し、連続した2回の質量差が無視できるレベルにまで達した際の質量を残留した固形分の質量として、固形分濃度を算出するのが好ましい。
【0177】
コーティング液(U)の保存安定性および複合構造体のバリア性の観点から、コーティング液(U)のpHは0.5〜6.0の範囲にあることが好ましく、0.5〜5.0の範囲にあることがより好ましく、0.5〜4.0の範囲にあることがさらに好ましい。
【0178】
コーティング液(U)のpHは公知の方法で調整することができ、例えば、酸性化合物や塩基性化合物を添加することによって調整することができる。酸性化合物の例には、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、酪酸、および硫酸アンモニウムが含まれる。塩基性化合物の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリメチルアミン、ピリジン、炭酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムが含まれる。
【0179】
コーティング液(U)は、時間の経過とともに状態が変化し、最終的にはゲル状の組成物となるか、または沈殿を生じる傾向がある。そのように状態が変化するまでの時間は、コーティング液(U)の組成に依存する。基材(X)上にコーティング液(U)を安定して塗布するためには、コーティング液(U)は、長時間にわたってその粘度が安定していることが好ましい。溶液(U)は、工程(I)の完了時の粘度を基準粘度として、25℃で2日間静置した後においても、ブルックフィールド粘度計(B型粘度計:60rpm)で測定した粘度が基準粘度の5倍以内となるように調製されることが好ましい。コーティング液(U)の粘度が上記の範囲にある場合、貯蔵安定性に優れるとともに、より優れたバリア性を有する複合構造体が得られることが多い。
【0180】
コーティング液(U)の粘度が上記範囲内になるように調整する方法として、例えば、固形分の濃度を調整する、pHを調整する、粘度調節剤を添加する、といった方法を採用することができる。粘度調節剤の例には、カルボキシメチルセルロース、でんぷん、ベントナイト、トラガカントゴム、ステアリン酸塩、アルギン酸塩、メタノール、エタノール、n−プロパノール、およびイソプロパノールが含まれる。
【0181】
本発明の効果が得られる限り、コーティング液(U)は、上述した物質以外の他の物質を含んでもよい。例えば、コーティング液(U)は、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩等の無機金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;アセチルアセトナート金属錯体(アルミニウムアセチルアセトナート等)、シクロペンタジエニル金属錯体(チタノセン等)、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(C)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤などを含んでいてもよい。
【0182】
[工程(II)]
工程(II)では、基材(X)上にコーティング液(U)を塗布することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する。コーティング液(U)は、基材(X)の少なくとも一方の面の上に直接塗布してもよい。また、コーティング液(U)を塗布する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗布したりするなどして、基材(X)の表面に接着層(H)を形成しておいてもよい。
【0183】
また、コーティング液(U)は、必要に応じて、脱気および/または脱泡処理してもよい。脱気および/または脱泡処理の方法としては、例えば、真空引き、加熱、遠心、超音波、などによる方法があるが、真空引きを含む方法を好ましく使用することができる。
【0184】
コーティング液(U)を基材(X)上に塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。好ましい方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法などが挙げられる。
【0185】
通常、工程(II)において、コーティング液(U)中の溶媒を除去することによって、層(Y)の前駆体層が形成される。溶媒の除去方法に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用することができる。具体的には、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法などの乾燥方法を、単独で、または組み合わせて適用することができる。乾燥温度は、基材(X)の流動開始温度よりも0〜15℃以上低いことが好ましい。コーティング液(U)が重合体(C)を含む場合には、乾燥温度は、重合体(C)の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低いことが好ましい。乾燥温度は70〜200℃の範囲にあることが好ましく、80〜180℃の範囲にあることがより好ましく、90〜160℃の範囲にあることがさらに好ましい。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。また、後述する工程(III)における熱処理によって、溶媒を除去してもよい。
【0186】
層状の基材(X)の両面に層(Y)を積層する場合、コーティング液(U)を基材(X)の一方の面に塗布した後、溶媒を除去することによって第1の層(第1の層(Y)の前駆体層)を形成し、次いで、コーティング液(U)を基材(X)の他方の面に塗布した後、溶媒を除去することによって第2の層(第2の層(Y)の前駆体層)を形成してもよい。それぞれの面に塗布するコーティング液(U)の組成は同一であってもよいし、異なってもよい。
【0187】
立体形状を有する基材(X)の複数の面に層(Y)を積層する場合、上記の方法でそれぞれの面ごとに層(層(Y)の前駆体層)を形成してもよい。あるいは、コーティング液(U)を基材(X)の複数の面に同時に塗布して乾燥させることによって、複数の層(層(Y)の前駆体層)を同時に形成してもよい。
【0188】
[工程(III)]
工程(III)では、工程(II)で形成された前駆体層(層(Y)の前駆体層)を、処理することによって層(Y)を形成する。前駆体層を処理する方法としては、熱処理、紫外線等の電磁波照射などが挙げられる。工程(III)で行われる処理は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とを反応させる処理であっても良い。たとえば、工程(III)で行われる処理は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とを反応させることによって、リン化合物(B)に由来するリン原子を介して金属酸化物(A)の粒子同士を結合させる処理であってもよい。通常、工程(III)は、前記前駆体層を110℃以上の温度で熱処理する工程である。
【0189】
工程(III)では、金属酸化物(A)の粒子同士がリン原子(リン化合物(B)に由来するリン原子)を介して結合される反応が進行する。別の観点では、工程(III)では、反応生成物(R)が生成する反応が進行する。当該反応を充分に進行させるため、熱処理の温度は、110℃以上であり、120℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度が低いと、充分な反応度を得るのにかかる時間が長くなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度の好ましい上限は、基材(X)の種類などによって異なる。例えば、ポリアミド系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は190℃以下であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は220℃以下であることが好ましい。熱処理は、空気中、窒素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下などで実施することができる。
【0190】
熱処理の時間は0.1秒〜1時間の範囲にあることが好ましく、1秒〜15分の範囲にあることがより好ましく、5〜300秒の範囲にあることがさらに好ましい。一例の熱処理は、110〜220℃の範囲で0.1秒〜1時間行われる。また、他の一例の熱処理では、120〜200℃の範囲で、5〜300秒間(たとえば60〜300秒間)行われる。
【0191】
複合構造体を製造するための本発明の方法は、層(Y)の前駆体層または層(Y)に紫外線を照射する工程を含んでもよい。紫外線照射は、工程(II)の後(たとえば塗布されたコーティング液(U)の溶媒の除去がほぼ終了した後)のいずれの段階で行ってもよい。その方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。照射する紫外線の波長は170〜250nmの範囲にあることが好ましく、170〜190nmの範囲および/または230〜250nmの範囲にあることがより好ましい。また、紫外線照射に代えて、電子線やγ線等の放射線の照射を行ってもよい。紫外線照射を行うことによって、複合構造体のバリア性能がより高度に発現する場合がある。
【0192】
基材(X)と層(Y)との間に接着層(H)を配置するために、コーティング液(U)を塗布する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗布したりする場合には、熟成処理を行うことが好ましい。具体的には、コーティング液(U)を塗布した後であって工程(III)の熱処理工程の前に、コーティング液(U)が塗布された基材(X)を比較的低温下に長時間放置することが好ましい。熟成処理の温度は、110℃未満であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。また、熟成処理の温度は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。熟成処理の時間は、0.5〜10日の範囲にあることが好ましく、1〜7日の範囲にあることがより好ましく、1〜5日の範囲にあることがさらに好ましい。このような熟成処理を行うことによって、基材(X)と層(Y)との間の接着力がより強固になる。
【0193】
工程(III)の熱処理を経て得られた複合構造体は、そのまま本発明の複合構造体として使用できる。しかし、当該複合構造体に、上記したように他の部材(他の層など)をさらに接着または形成して本発明の複合構造体としてもよい。当該部材の接着は、公知の方法で行うことができる。
【0194】
[コーティング液]
本発明で用いられるコーティング液は、上述したコーティング液(U)である。すなわち、本発明のコーティング液は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)と化合物(L)と溶媒とを含む。上述したように、本発明のコーティング液は、重合体(C)および酸化合物(D)からなる群より選ばれる少なくとも1つをさらに含んでもよい。本発明のコーティング液(U)で形成された層を110℃以上の温度で熱処理することによって、層(Y)を形成できる。
【実施例】
【0195】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって限定されない。なお、実施例および比較例における各測定および評価は、以下の(1)〜(6)の方法によって実施した。
【0196】
(1)層(Y)(または層(Y’))の赤外線吸収スペクトル
実施例で形成される層(Y)の赤外線吸収スペクトル、および比較例で形成される層(Y’)の赤外線吸収スペクトルは、以下の方法で測定した。
【0197】
まず、基材として延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を用いた複合構造体について、フーリエ変換赤外分光光度計(Perkin Elmer社製、「Spectrum One」)を用いて、層(Y)(または層(Y’))の赤外線吸収スペクトルを測定した。赤外線吸収スペクトルは、ATR(全反射測定)のモードで、700〜4000cm−1の範囲で測定した。層(Y)(または層(Y’))の厚さが1μm以下である場合には、ATR法による赤外線吸収スペクトルでは基材(X)由来の吸収ピークが検出され、層(Y)(または層(Y’))のみに由来する吸収強度を正確に求めることができない場合がある。このような場合には、基材(X)のみの赤外線吸収スペクトルを別途測定し、それを差し引くことで層(Y)(または層(Y’))由来のピークのみを抽出した。PET以外の基材(延伸ナイロンフィルムなど)を用いた複合構造体についても、上記と同様に測定した。
【0198】
(2)屈曲処理前の酸素バリア性
酸素透過度(OTR)は、酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20」)を用いて測定した。具体的には、酸素供給側に層(Y)(または層(Y’))が向き、キャリアガス側に後述するCPPの層が向くように複合構造体をセットし、温度が20℃、酸素供給側の湿度が85%RH、キャリアガス側の湿度が85%RH、酸素圧が1気圧、キャリアガス圧力が1気圧の条件下で酸素透過度(単位:ml/(m・day・atm))を測定した。キャリアガスとしては2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。
【0199】
(3)屈曲処理前の水蒸気バリア性
透湿度(水蒸気透過度:WVTR)は、水蒸気透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON PERMATRAN3/33」)を用いて測定した。具体的には、水蒸気供給側に層(Y)(または層(Y’))が向き、キャリアガス側に後述するCPPの層が向くように複合構造体をセットし、温度が40℃、水蒸気供給側の湿度が90%RH、キャリアガス側の湿度が0%RHの条件下で透湿度(単位:g/(m・day))を測定した。
【0200】
(4)屈曲処理
物理的な衝撃および変形を積層体に与えるために、ゲルボフレックステスター(理学工業株式会社製)を用いて複合構造体に屈曲を施した。具体的には、複合構造体をA4サイズにカットし、ゲルボフレックステスターで50サイクルの屈曲を施した。屈曲を施した複合構造体の中央部を、酸素透過速度および水蒸気透過量測定用のサンプルとして切り出した。
【0201】
(5)屈曲処理後の酸素バリア性
上記の「(2)屈曲処理前の酸素バリア性」と同じ条件で、屈曲処理後の複合構造体の酸素透過度を測定した。
【0202】
(6)屈曲処理後の水蒸気バリア性
上記の「(3)屈曲処理前の水蒸気バリア性」と同じ条件で、屈曲処理後の複合構造体の透湿度を測定した。
【0203】
[実施例1]
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、アルミニウムイソプロポキシド88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の凝集体を解膠させた。こうして得られた分散液を、アルミナ当たりの固形分濃度が10質量%になるように濃縮することによって、分散液(S1)を得た。
【0204】
次に、分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.41質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S1’)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T1)として準備した。続いて、分散液(S1’)を撹拌した状態で、溶液(T1)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.05質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U1)を得た。
【0205】
次に、基材として、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、「ルミラーP60」(商品名)、厚さ12μm、以下では「PET」と略記することがある)を準備した。その基材(PET)上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコータによってコーティング液(U1)をコートし、100℃で5分間乾燥することによって層(Y1)の前駆体層を形成した。得られた積層体に対して、乾燥機を用いて180℃で1分間の熱処理を施し、層(Y1)(厚さ:0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A1)を得た。得られた複合構造体(A1)について、上記した方法によって、層(Y1)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0206】
続いて、無延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ株式会社製、「RXC−21」(商品名)、厚さ50μm、以下では「CPP」と略記することがある)を準備した。このCPPの上に、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、「A−520」(商品名)および「A−50」(商品名))をコートして乾燥させた。そして、これと複合構造体(A1)とをラミネートした。このようにして、層(Y1)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B1)を得た。得られた複合構造体(B1)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0207】
[実施例2]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水12.82質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S2)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T2)として準備した。続いて、分散液(S2)を撹拌した状態で、溶液(T2)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.64質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U2)を得た。
【0208】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U2)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y2)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A2)を得た。得られた複合構造体(A2)について、上記した方法によって、層(Y2)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0209】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A2)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y2)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B2)を得た。得られた複合構造体(B2)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0210】
[実施例3]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.34質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S3)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T3)として準備した。続いて、分散液(S3)を撹拌した状態で、溶液(T3)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.11質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U3)を得た。
【0211】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U3)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y3)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A3)を得た。得られた複合構造体(A3)について、上記した方法によって、層(Y3)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0212】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A3)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y3)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B3)を得た。得られた複合構造体(B3)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0213】
[実施例4]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水12.91質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S4)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T4)として準備した。続いて、分散液(S4)を撹拌した状態で、溶液(T4)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.55質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U4)を得た。
【0214】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U4)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y4)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A4)を得た。得られた複合構造体(A4)について、上記した方法によって、層(Y4)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0215】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A4)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y4)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B4)を得た。得られた複合構造体(B4)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0216】
[実施例5]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.00質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S5)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T5)として準備した。続いて、分散液(S5)を撹拌した状態で、溶液(T5)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.46質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U5)を得た。
【0217】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U5)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y5)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A5)を得た。得られた複合構造体(A5)について、上記した方法によって、層(Y5)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0218】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A5)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y5)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B5)を得た。得られた複合構造体(B5)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0219】
[実施例6]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.00質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌し、分散液(S6)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T6)として準備した。続いて、分散液(S6)を撹拌した状態で、テトラエトキシシラン0.46質量部を滴下し、さらに、溶液(T6)1.10質量部を滴下した。得られた液体に、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U6)を得た。
【0220】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U6)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y6)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A6)を得た。得られた複合構造体(A6)について、上記した方法によって、層(Y6)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0221】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A6)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y6)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B6)を得た。得られた複合構造体(B6)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0222】
[実施例7]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.29質量部およびメタノール4.40質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S7)を得た。続いて、分散液(S7)を撹拌した状態で、リン酸トリメチル1.33質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.46質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U7)を得た。
【0223】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U7)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y7)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A7)を得た。得られた複合構造体(A7)について、上記した方法によって、層(Y7)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0224】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A7)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y7)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B7)を得た。得られた複合構造体(B7)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0225】
[実施例8]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.00質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S8)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T8)として準備した。続いて、分散液(S8)を撹拌した状態で、溶液(T8)1.10質量部を滴下し、さらに5%PAA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.46質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U8)を得た。
【0226】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U8)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y8)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A8)を得た。得られた複合構造体(A8)について、上記した方法によって、層(Y8)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0227】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A8)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y8)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B8)を得た。得られた複合構造体(B8)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0228】
[実施例9]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.40質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S9)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T9)として準備した。続いて、分散液(S9)を撹拌した状態で、溶液(T9)1.10質量部を滴下し、5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン0.05質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U9)を得た。
【0229】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U9)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y9)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A9)を得た。得られた複合構造体(A9)について、上記した方法によって、層(Y9)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0230】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A9)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y9)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B9)を得た。得られた複合構造体(B9)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0231】
[実施例10]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.24質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S10)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T10)として準備した。続いて、分散液(S10)を撹拌した状態で、溶液(T10)1.10質量部を滴下し、5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン0.22質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U10)を得た。
【0232】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U10)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y10)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A10)を得た。得られた複合構造体(A10)について、上記した方法によって、層(Y10)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0233】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A10)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y10)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B10)を得た。得られた複合構造体(B10)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0234】
[実施例11]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.05質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S11)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T11)として準備した。続いて、分散液(S11)を撹拌した状態で、溶液(T11)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにγ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン0.41質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U11)を得た。
【0235】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U11)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y11)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A11)を得た。得られた複合構造体(A11)について、上記した方法によって、層(Y11)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0236】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A11)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y11)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B11)を得た。得られた複合構造体(B11)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0237】
[実施例12]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.29質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S12)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T12)として準備した。続いて、分散液(S12)を撹拌した状態で、溶液(T12)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにビニルトリエトキシシラン0.17質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U12)を得た。
【0238】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U12)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y12)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A12)を得た。得られた複合構造体(A12)について、上記した方法によって、層(Y12)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0239】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A12)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y12)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B12)を得た。得られた複合構造体(B12)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0240】
[実施例13]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.13質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S13)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T13)として準備した。続いて、分散液(S13)を撹拌した状態で、溶液(T13)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.10質量部およびγ−アミノプロピルトリメトキシシラン0.23質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U13)を得た。
【0241】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U13)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y13)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A13)を得た。得られた複合構造体(A13)について、上記した方法によって層(Y13)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0242】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A13)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y13)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B13)を得た。得られた複合構造体(B13)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0243】
[実施例14]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)8.58質量部に対して、蒸留水10.12質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S14)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T14)として準備した。続いて、分散液(S14)を撹拌した状態で、溶液(T14)0.75質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.70質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U14)を得た。
【0244】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U14)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y14)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A14)を得た。得られた複合構造体(A14)について、上記した方法によって、層(Y14)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0245】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A14)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y14)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B14)を得た。得られた複合構造体(B14)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0246】
[実施例15]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.30質量部に対して、蒸留水13.29質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S15)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T15)として準備した。続いて、分散液(S15)を撹拌した状態で、溶液(T15)1.13質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.43質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U15)を得た。
【0247】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U15)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y15)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A15)を得た。得られた複合構造体(A15)について、上記した方法によって、層(Y15)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0248】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A15)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y15)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B15)を得た。得られた複合構造体(B15)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0249】
[実施例16]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)9.18質量部に対して、蒸留水9.55質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S16)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T16)として準備した。続いて、分散液(S16)を撹拌した状態で、溶液(T16)0.68質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.75質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U16)を得た。
【0250】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U16)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y16)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A16)を得た。得られた複合構造体(A16)について、上記した方法によって、層(Y16)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0251】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A16)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y16)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B16)を得た。得られた複合構造体(B16)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0252】
[実施例17]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)4.70質量部に対して、蒸留水13.86質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S17)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T17)として準備した。続いて、分散液(S17)を撹拌した状態で、溶液(T17)1.20質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.38質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U17)を得た。
【0253】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U17)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y17)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A17)を得た。得られた複合構造体(A17)について、上記した方法によって、層(Y17)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0254】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A17)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y17)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B17)を得た。得られた複合構造体(B17)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0255】
[実施例18]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)10.07質量部に対して、蒸留水8.68質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S18)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T18)として準備した。続いて、分散液(S18)を撹拌した状態で、溶液(T18)0.57質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.82質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U18)を得た。
【0256】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U18)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y18)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A18)を得た。得られた複合構造体(A18)について、上記した方法によって、層(Y18)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0257】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A18)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y18)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B18)を得た。得られた複合構造体(B18)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0258】
[実施例19]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.30質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S19)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(T19)として準備した。続いて、分散液(S19)を撹拌した状態で、溶液(T19)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにγ−アミノプロピルトリメトキシシラン0.16質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(U19)を得た。
【0259】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(U19)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y19)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A19)を得た。得られた複合構造体(A19)について、上記した方法によって、層(Y19)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0260】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(A19)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(Y19)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(B19)を得た。得られた複合構造体(B19)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0261】
[比較例1]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水13.46質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(SC1)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(TC1)として準備した。続いて、分散液(SC1)を撹拌した状態で、溶液(TC1)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(UC1)を得た。
【0262】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(UC1)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(YC1)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(AC1)を得た。得られた複合構造体(AC1)について、上記した方法によって、層(YC1)(層(Y’))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0263】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(AC1)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(YC1)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(BC1)を得た。得られた複合構造体(BC1)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0264】
[比較例2]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水12.66質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(SC2)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(TC2)として準備した。続いて、分散液(SC2)を撹拌した状態で、溶液(TC2)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.80質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(UC2)を得た。
【0265】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(UC2)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(YC2)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(AC2)を得た。得られた複合構造体(AC2)について、上記した方法によって、層(YC2)(層(Y))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0266】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(AC2)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(YC2)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(BC2)を得た。得られた複合構造体(BC2)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0267】
[比較例3]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)5.60質量部に対して、蒸留水12.61質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(SC3)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(TC3)として準備した。続いて、分散液(SC3)を撹拌した状態で、溶液(TC3)1.10質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.57およびγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン0.27質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(UC3)を得た。
【0268】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(UC3)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(YC3)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(AC3)を得た。得られた複合構造体(AC3)について、上記した方法によって、層(YC3)(層(Y’))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0269】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(AC3)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(YC3)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(BC3)を得た。得られた複合構造体(BC3)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0270】
[比較例4]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)2.24質量部に対して、蒸留水16.24質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(SC4)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(TC4)として準備した。続いて、分散液(SC4)を撹拌した状態で、溶液(TC4)1.49質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.18質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(UC4)を得た。
【0271】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(UC4)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(YC4)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(AC4)を得た。得られた複合構造体(AC4)について、上記した方法によって、層(YC4)(層(Y’))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0272】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(AC4)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(YC4)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(BC4)を得た。得られた複合構造体(BC4)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0273】
[比較例5]
実施例1と同様の方法によって調製した分散液(S1)11.19質量部に対して、蒸留水7.60質量部およびメタノール4.70質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(SC5)を得た。また、85質量%のリン酸水溶液を、溶液(TC5)として準備した。続いて、分散液(SC5)を撹拌した状態で、溶液(TC5)0.44質量部を滴下し、さらに5質量%PVA溶液0.15質量部を滴下した。得られた液体に、さらにテトラエトキシシラン0.91質量部を滴下した後、滴下完了後からさらに30分間撹拌を続けることによって、コーティング液(UC5)を得た。
【0274】
コーティング液(U1)の代わりにコーティング液(UC5)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(YC5)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(AC5)を得た。得られた複合構造体(AC5)について、上記した方法によって、層(YC5)(層(Y’))の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0275】
続いて、複合構造体(A1)の代わりに複合構造体(AC5)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法によって、層(YC5)/PET/接着剤/CPPという構造を有する複合構造体(BC5)を得た。得られた複合構造体(BC5)について、上記した方法によって、屈曲処理前後の酸素バリア性および水蒸気バリア性を評価した。
【0276】
実施例および比較例について、製造条件および評価結果を表1に示す。
【0277】
【表1】
【0278】
表1において、「−」は、「使用していない」、「計算できない」、「実施していない」、「測定できない」等を意味する。
【0279】
表1から明らかなように、実施例の複合構造体は、屈曲処理前だけでなく屈曲処理後も、優れた酸素バリア性および水蒸気バリア性を示した。実施例13の複合構造体は、他の実施例の複合構造体に比べて、屈曲後においてより高い酸素バリア性および水蒸気バリア性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0280】
本発明の複合構造体は、ガスバリア性および水蒸気バリア性のいずれにも優れ、屈曲後においても、両バリア性を高いレベルで維持することができる。また、本発明の複合構造体は外観に優れる。そのため、本発明の複合構造体は、食品、薬品、医療器材、産業資材、衣料等の包装材料として好ましく使用できる。それらの中でも、本発明の複合構造体は、酸素と水蒸気の両方に対するバリア性が要求される食品用包装材料を形成する用途に特に好ましく使用できる。