特許第5841128号(P5841128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5841128
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】脂肪酸アミド加水分解酵素の調節因子
(51)【国際特許分類】
   C07D 405/12 20060101AFI20151217BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 1/08 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
   C07D405/12
   A61K31/496
   A61P43/00 111
   A61P25/22
   A61P25/24
   A61P29/00
   A61P25/02 101
   A61P25/20
   A61P3/04
   A61P21/00
   A61P35/04
   A61P31/18
   A61P17/02
   A61P9/00
   A61P25/16
   A61P25/14
   A61P27/02
   A61P25/00
   A61P1/00
   A61P1/08
   A61P15/00
   A61P25/18
   A61P27/06
   A61P1/12
   A61P37/00
   A61P1/04
   A61P19/02
   A61P29/00 101
   A61P9/12
   A61P35/00
   A61P1/16
   A61P37/08
   A61P37/02
   A61P3/10
   A61P17/04
   A61P19/10
   A61P3/00
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-509137(P2013-509137)
(86)(22)【出願日】2011年5月2日
(65)【公表番号】特表2013-534905(P2013-534905A)
(43)【公表日】2013年9月9日
(86)【国際出願番号】US2011034755
(87)【国際公開番号】WO2011139951
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2014年4月8日
(31)【優先権主張番号】61/330,522
(32)【優先日】2010年5月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397060175
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカ エヌ.ベー.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】キース,ジョン,エム.
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ジン
【審査官】 井上 典之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−526755(JP,A)
【文献】 特表平09−511764(JP,A)
【文献】 再公表特許第2008/023720(JP,A1)
【文献】 特表2007−519628(JP,A)
【文献】 特表2000−513009(JP,A)
【文献】 特表2006−517218(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/037271(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 405/
A61K 31/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド又はその薬学的に許容できる塩である化合物。
【請求項2】
前記塩が、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの塩酸塩である、請求項1に記載の薬学的に許容できる塩。
【請求項3】
前記塩酸塩がビス塩酸塩である、請求項2に記載の薬学的に許容できる塩。
【請求項4】
−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド及びその薬学的に許容できる塩のうちの少なくとも1つを含む、FAAH活性阻害剤
【請求項5】
(a)治療上有効な量の、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド又はその薬学的に許容できる塩と、
(b)薬学的に許容できる賦形剤と、を含む医薬組成物。
【請求項6】
FAAH活性により媒介される疾患、障害、又は病状を治療するための医薬組成物であって、前記疾患、障害、又は病状が、不安症、鬱病、疼痛、睡眠障害、摂食障害、炎症、運動障害、HIV消耗性症候群、閉鎖性頭部外傷、脳卒中、学習及び記憶障害、アルツハイマー病、てんかん、トゥレット症候群、ニーマン・ピック病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、視神経炎、自己免疫性ブドウ膜炎、薬物離脱の症候、悪心、嘔吐、性機能障害、心的外傷後ストレス障害、脳血管痙攣、緑内障、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、免疫抑制、胃食道逆流症、麻痺性イレウス、分泌性下痢、胃潰瘍、関節リウマチ、望まない妊娠、高血圧症、癌、肝炎、アレルギー性気道疾患、自己免疫糖尿病、難治性掻痒症、神経炎症、糖尿病、メタボリックシンドローム、及び骨粗鬆症からなる群から選択されるものである、請求項5に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記疾患、障害、又は病状が、疼痛又は炎症である、請求項6に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記疾患、障害、又は病状が、不安症、睡眠障害、摂食障害、又は運動障害である、請求項6に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記疾患、障害、又は病状が、多発性硬化症である、請求項6に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記疾患、障害、又は病状が、エネルギー代謝又は骨ホメオスタシスである、請求項6に記載の医薬組成物
【請求項11】
水素添加条件下において、2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルバルデヒドピペラジンとを反応させて得られる下記:
【化1】
の化合物と、
3−アミノ−4−クロロピリジンを、フェニルクロロホルメート及びピリジンで処理して得られる下記:
【化2】
の化合物とを反応させることにより、
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドを合成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2010年5月3日出願の米国仮出願第61/330,522号の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、化合物4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−塩素−ピリジン−3−イル)−アミド、前記化合物を含有する医薬組成物、前記化合物を合成する方法に関し、脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)活性により媒介される疾患状態、障害、及び状態を治療するために前記化合物を使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
何世紀にもわたって、アサ属の植物に起因する薬効が利用されてきた。アサ属の主要な生物活性成分は、Δ9−テトラヒドロ−カンナビノール(THC)である。THCの発見により、最終的に、その薬理作用を担う2つの内因性カンナビノイド受容体、即ち、CBCB1及びCB2の同定に至った(Goya等、Exp.Opin.Ther.Patents,2000,10,1529)これらの発見は、THCの作用部位を確立しただけでなく、これらの受容体、即ち「内在性カンナビノイド」の内因性のアゴニストの究明をも促した。同定された最初の内在性カンナビノイドは、脂肪酸アミドアラキドニルエタノールアミド又はアナンダミド(AEA)であった。AEAは、それ自体、外因性のカンナビノイドの薬理効果の多くを誘発する(Piomelli等、Nat.Rev.Neurosci.,2003,4(11),873)。
【0004】
AEAの異化は、主に、AEAをアラキドン酸及びエタノールアミンに加水分解する内在性膜結合タンパク質脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)に起因する。FAAHは、Cravatt及び共同研究者によって、1996年に特性評価された(Cravatt et al.,Nature,1996,384,83)。FAAHは更に、別の主要な内在性カンナビノイドである2−アラキドノイルグリセロール(2−AG)(Devane等、Science,1992,258,1946〜1949);睡眠誘導物質であるオレアミド(Cravatt等、Science,1995,268,1506);食欲抑制剤であるN−オレオイルエタノールアミン(OEA)(Rodriguez de Fonesca,Nature,2001,414,209);及び抗炎症剤であるパルミトイルエタノールアミド(PEA)(Lambert等、Curr.Med.Chem.,2002,9(6),663)を含む、多数の重要な脂質シグナル伝達脂肪酸アミドの異化に関与していることが後に判明した。
【0005】
FAAHの小分子阻害剤は、これらの内因性のシグナル伝達脂質の濃度を上昇させ、これによって、その関連する有益な薬理効果をもたらすはずである。前臨床モデルにおける、種々のFAAH阻害剤の効果の報告がある。
【0006】
特に、FAAHの2つのカルバミン酸系阻害剤は、動物モデルにおいて鎮痛特性を有することが報告された。ラットにおいて、以下に示す構造を有するBMS−1(国際公開第02/087569号を参照のこと)は、神経因性疼痛の脊髄神経結紮(Chung)モデル及び急性温痛覚のハーグリーブス試験において、鎮痛効果を有することが報告された。URB−597は、ラットにおける不安症の、ゼロプラス迷路モデルでの有効性、並びにラットのホットプレート及びホルマリン試験での鎮痛有効性を有することが報告された(Kathuria等、Nat.Med.,2003,9(1),76)。尿素,4−(3−フェニル−[1,2,4]チアジアゾール−5−イル)−ピペラジン−1−カルボン酸フェニルアミドは、神経因性疼痛の脊髄神経結紮(Chung)モデル及び急性火傷痛の穏熱傷モデルの両方において有効であることが見出された(Karbarz等、Anesth Analg.,2009,108(1),316〜329)。FAAH酵素の他の強力な尿素阻害剤が報告されている(国際公開第06/074025号)。また、スルホニルフルオリドAM374も、多発性硬化症の動物モデルである慢性再発性実験的自己免疫脳脊髄炎(CREAE)マウスにおいて、痙性を大幅に軽減することが示された(Baker等、FASEB J.,2001,15(2),300)。
【0007】
【化1】
【0008】
更に、オキサゾロピリジンケトンOL−135は、ラットにおける温痛覚のホットプレート及び尾浸漬試験の両方で鎮痛活性を有するFAAHの強力な阻害剤であることが報告されている(国際公開第04/033652号)。
【0009】
【化2】
【0010】
特定の外因性カンナビノイドの効果に関する研究結果により、FAAH阻害剤が、種々の状態、疾患、障害、又は症状を治療するのに有用であり得ることが明らかになっている。これらとしては、疼痛、悪心/嘔吐、拒食症、痙性、運動障害、てんかん及び緑内障が挙げられる。これまでに認可されているカンナビノイドの治療用途としては、癌患者の化学療法により誘発された悪心及び嘔吐の軽減、並びに消耗性症候群の結果として拒食症を経験するHIV/AID患者における食欲増強が挙げられる。これらの適応症に関して、一部の国々では2つの製品、即ち、ドロナビノール(マリノール(登録商標))及びナビロンが市販されている。
【0011】
認可された適応症とは別に、カンナビノイドの使用に関して多くの注目を集めている治療分野は、鎮痛、即ち、疼痛の治療である。5つの小規模無作為化対照試験では、THCがプラセボに勝り、用量関連性の鎮痛をもたらすことが示された(Robson等、Br.J.Psychiatry,2001,178,107〜115)。Atlantic Pharmaceuticalsは、経口活性鎮痛剤及び抗炎症剤としての、テトラヒドロカンナビノールのカルボン酸代謝産物の1,1−ジメチルヘプチル誘導体である、合成カンナビノイド、CT−3の開発を報告する。CT−3による慢性神経因性疼痛のパイロット第II相試験が、2002年5月ドイツで開始されたことが報告された。
【0012】
多発性硬化症等の自発運動活性関連疾患を有する多くの人々が、疾患に関連する疼痛及び痙性の両方に対して、アサ属の有益性を訴えており、小規模対照試験で裏付けられている(Croxford等、J.Neuroimmunol,2008,193,120〜9;Svendsen,Br.Med.J.,2004,329,253)。同様に、対麻痺等の脊髄損傷の種々の被害者は、疼痛性の痙攣が、マリファナの喫煙後に緩和されるということを報告している。カンナビノイドが、多発性硬化症のCREAEモデルにおいて、痙性及び振戦を制御すると考えられることを示す報告は、これらの効果がCB1及びCB2受容体によって媒介されることを示した(Baker,Nature,2000,404,84〜87)。テトラヒドロカンナビノール/カンナビジオール(THC/CBD)の低割合の混合物を用いて、多発性硬化症及び脊髄損傷患者おいて第III相試験が行われている。FAAHノックアウトマウスは、常に、野性型対照よりも優れた臨床スコアまで回復し、この改善は、抗炎症活性の結果ではなく、酵素の欠損による幾つかの神経保護又は再ミエリン化促進効果を反映している可能性があることが報告されている(Webb等、Neurosci Lett.,2008,vol.439,106〜110)。
【0013】
カンナビノイドの、他の潜在的な商業的用途を調べるための小規模対照試験の報告がなされている。ボランティアにおける試験では、経口、注射、及び喫煙されたカンナビノイドが、用量に関連して眼圧(IOP)を軽減し、したがって、緑内障の症状を緩和し得ることが確認されたと報告されている。眼科医は、他の薬剤では十分に眼圧を制御することができなかった緑内障患者に対してアサ属を処方している(Robson等、2001、上記)。
【0014】
小分子阻害剤を使用するFAAHの阻害は、直接作用するCB1アゴニストによる治療と比較して有利であり得る。外因性CB1アゴニストの投与は、痛覚の軽減、カタレプシー、低体温、及び摂食行動の増加を含む様々な反応をもたらし得る。特にこれら4つは、「カンナビノイド四徴症」と称される。FAAH−/−マウスを用いた実験では、痛覚試験において反応の軽減を示すが、カタレプシー、低体温、又は摂食行動の増加は示さなかった(Cravatt等、Proc.Natl.Acd.Sci.USA,2001,98(16),9371)。絶食により、AEAレベルがラット辺縁系前脳において増加したが、他の脳領域では増加せず、これは、AEA生合成の刺激が、標的であるCNS経路に解剖学的に割り当てられ得るという証拠を提供する(Kirkham等、Br.J.Pharmacol.,2002,136,550)。AEAの増加が全身性ではなく、脳内に局在するという所見は、所与の病態生理学的状態でこれらシグナル伝達分子の合成及び放出が行われる組織領域において、小分子によるFAAH阻害が、AEA及び他の脂肪酸アミドの作用を増強し得ることを示唆する(Piomelli等、2003、上記)。
【0015】
AEA及び他の内在性カンナビノイドに対するFAAH阻害剤の効果に加え、他の脂質メディエーターのFAAH異化の阻害剤を特定の他の治療適応症の治療に使用することができる。例えば、PEAは、炎症(Holt等、Br.J.Pharmacol.,2005,146,467〜476)、免疫抑制、鎮痛、及び神経保護(Ueda等、J.Biol.Chem.,2001,276(38),35552)の動物モデルにおいて生物学的効果を示した。FAAHの別の基質であるオレアミドは、睡眠を誘導する(Boger等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2000,97(10),5044;Mendelson等、Neuropsychopharmacology,2001,25,S36)。また、FAAHの阻害は、認知(Varvel等、J.Pharmacol.Exp.Ther.,2006,317(1),251〜257)及び鬱病(Gobbi等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2005,102(51),18620〜18625)にも関与している。
【0016】
FAAHに関する2つの更なる効能は、FAAH基質活性化受容体が、エネルギー代謝、及び骨ホメオスタシスに重要であることを示す最近のデータによって支持される(Overton等、Br.J.Pharmacol.,2008,153 Suppl 1,S76〜81;及びPlutzky等、Diab.Vasc.Dis.Res.,2007,4 Suppl 3,S12〜4)。FAAHによって異化された前述の脂質シグナル伝達脂肪酸アミドのうちの1つであるOEAは、近年脱オーファン化されたGPCR 119(GPR119)(グルコース依存性インスリン分泌性受容体とも称される)の最も活性の高いアゴニストのうちの1つであることが示されている。この受容体は、ヒトの膵臓で主に発現し、活性化は、膵臓のβ細胞におけるグルコース依存性インスリン放出を介してグルコースのホメオスタシスを改善する。GPR119アゴニストは、経口グルコース負荷試験中に投与した際のグルコース移動を抑制することができ、また、OEAは、げっ歯類に投与した際、独立して摂食及び体重増加を制御することが示されており、これは、インスリン耐性及び糖尿病等のエネルギー代謝疾患において有望な利益を示す。FAAH基質であるPEAは、PPARα受容体におけるアゴニストである。PPARαアゴニストであるフェノフィブラートを用いたヒト研究において代替マーカーから得られた証拠は、PPARαアゴニズムが、脂質代謝異常を改善し、炎症を抑制し、メタボリックシンドローム又は2型糖尿病患者におけるアテローム性動脈硬化症を制限し得る、協調的なPPARα反応を誘導するための可能性を提供するという概念を裏付ける。アナンダミドは、PPARγ受容体におけるアゴニストである。アナンダミド治療は、3T3−L1の脂肪細胞への分化、並びにトリグリセリド滴蓄積及びアディポネクチンの発現を誘導する(Bouaboula等、E.J.Pharmacol.,2005,517,174〜181)。低用量カンナビノイド療法は、マウスにおいてアテローム性動脈硬化症を軽減することが示されており、更に、異脂肪血症、脂肪肝、脂肪性肝炎、肥満、及びメタボリックシンドロームにおけるFAAH阻害の治療的有益性を示唆する(Steffens等、Nature,2005,434,782〜6)。
【0017】
骨粗鬆症は、最も一般的な変性疾患のうちの1つである。これは、骨折の危険性の増加を伴う、骨ミネラル密度(BMD)の低下を特徴とする。CB2欠損マウスでは、加齢性海綿骨喪失及び皮質拡大が顕著に加速された。CB2選択的アゴニストは、皮質内骨芽細胞数及び活性を増強し、海綿骨破骨細胞形成を抑止し、卵巣摘出によって誘導される骨喪失を減弱させる(Ofek等、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2006,103,696〜701)。BMDに対するかなりの遺伝的関与が存在しているが、ヒト骨粗鬆症の病原に関与する遺伝因子は大部分が不明である。ヒトBMDへの適用性は、ヒト染色体1p36のCNR2遺伝子を包含する単一の多型性及びハプロタイプの有意な関連性が見出された遺伝学研究によって示唆され、これは、骨粗鬆症の病因における末梢で発現したCB2受容体の役割を実証する(Karsak等、Hum.Mol.Genet,2005,14,3389〜96)。
【0018】
したがって、小分子FAAH阻害剤は、種々の病因の疼痛、不安症、多発性硬化症、及び他の運動障害、悪心/嘔吐、摂食障害、てんかん、緑内障、炎症、免疫抑制、神経保護、鬱病、認知増強、並びに睡眠障害の治療に有用であるはずであり、潜在的に、外因性カンナビノイドによる治療よりも副作用が少ないはずである。
【0019】
多くのヘテロアリール置換尿素が、種々の刊行物で報告されている。FAAH調節因子としての特定のピペラジニル及びピペリジニル化合物は、国際公開第2006/074025号、国際特許出願第,PCT/US2009/065757号、同第PCT/US2009/065752号、米国特許出願公開第2009/0062294号、及び米国仮出願第61/263,477号に記載されている。特定のピペラジン−1−カルボキサミド及びピペリジン−1−カルボキサミド誘導体は、国際公開第2008/023720号に記載されている。特定のアリールオキシブチルピペリジン、アリールオキソブチルピロリジン、及びアリールオキソブチルピペラジンは、国際公開第2001/005763号に記載されている。特定のピペリジン誘導体は、国際公開第99/50247号に報告されている。特定のピペラジン誘導体は、国際公開第99/42107号に記載されている。特定のN−アラルキルピペラジンは、国際公開第98/37077号に記載されている。特定のアリール置換複素環式尿素誘導体は、米国仮出願第61/184606号に記載されている。しかし、好適な薬学的性質を有する強力なFAAH調節因子に対する要望が存在する。
【0020】
本発明の特徴及び利点は、当業者に明らかである。発明の概要、詳細な説明、背景技術、実施例、及び特許請求の範囲を含むこの開示に基づいて、当業者は、変更、並びに様々な条件及び用途に対する適応を行うことができるであろう。本明細書に記載する刊行物は、参照することにより全体が組み込まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
FAAH調節活性を有することが見出されている4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド、及びその薬学的に許容できる塩が、本明細書に記載される。本発明は、参照することにより本明細書に組み込まれる添付の独立及び従属請求項によってそれぞれ定義される、一般的及び好ましい実施形態を対象とする。
【0022】
本発明は、本発明の化学物質が、比較化合物と比較したとき、CYP2D6阻害においてより高いIC50値を示すことを示す実験的証拠を提供する。更に、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドは、ラットにおける一次観察(Irwin)において比較化合物と比較したとき、化合物投与の結果として、改善された挙動及び生理学的機能副作用を示した。
【0023】
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドのCYP2D6阻害のIC50活性は、比較化合物として本明細書に記載される、既に記載されているピペラジニル尿素化合物4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸ピリジン−3−イルアミドと比べて改善される(国際公開第2006/074025号、実施例150を参照されたい)。4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドは、それぞれ基質として用いられるブフラロール又はデキストロメトルファンを用いて、比較化合物に対して7.5〜5.5倍高いIC50を示した。
【0024】
更に、本発明の化学物質は、比較化合物と比較したとき、ラットにおける一次観察(Irwin)試験において予測されていない特徴を示す。特に、比較化合物4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸ピリジン−3−イルアミドは、10mg/kgの用量で試験した全てのラットにおいて接触に対する反応性を高めたが、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドは、同じ用量で試験した4匹のラットのうちの1匹でしか反応性を誘導しなかった。比較化合物は、60mg/kgで試験した全てのラットにおいて、15〜120分間隔で鎮静を誘導し、処理の15分後に異常歩行(ローリング)を誘導したが、このような観察結果は、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドで処理したラットでは明らかでなかった。また、60mg/kgの用量において明らかに、比較化合物は、60〜120分間隔で全てのラットにおいて筋緊張を低下させたが、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドは、処理した4匹のラットのうちの1匹のみで腹筋緊張を上昇させた。最後に、60mg/kgの用量で、比較化合物は、15〜60分及び180分間隔でラット被験体において低体温を誘導したが、この観察結果は、本発明の化合物で処理したラットではみられなかった。
【0025】
1つの一般的な態様では、本発明は、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの化合物を目的とする。特定の実施形態では、化合物は、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの塩酸塩である。
【0026】
また、本発明は、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に許容できる塩、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に許容できるプロドラッグ、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に許容できる代謝産物に関する。
【0027】
更なる一般的な態様では、本発明は、各々、(a)治療上有効な量の、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に許容できる塩、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に許容できるプロドラッグ、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に許容できる代謝産物のうちの少なくとも1つと、(b)薬学的に許容できる賦形剤と、を含む医薬組成物に関する。
【0028】
別の態様では、本発明の実施形態は、FAAH調節因子として有用である。したがって、本発明は、治療上有効な量の、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に許容できる塩、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に許容できるプロドラッグ、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に活性のある代謝産物のうちの少なくとも1つに、FAAHを曝露することを含む、FAAH活性を調節する方法を目的とする。
【0029】
別の一般的な態様では、本発明は、脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)活性により媒介される疾患、障害、若しくは病状に罹患しているか又は診断された被験体を治療する方法であって、有効な量の4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド及びその薬学的に許容できる塩、薬学的に許容できるプロドラッグ、及び薬学的に活性のある代謝産物から選択される少なくとも1つの剤をその治療を必要としている被験体に投与することを含む方法を目的とする。本発明の方法の好ましい実施形態において、前記疾患、障害、又は病状は、不安症、鬱病、疼痛、睡眠障害、摂食障害、炎症、多発性硬化症及び他の運動障害、HIV消耗性症候群、閉鎖性頭部外傷、脳卒中、学習及び記憶障害、アルツハイマー病、てんかん、トゥレット症候群、ニーマン・ピック病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、視神経炎、自己免疫性ブドウ膜炎、薬物又はアルコール離脱の症候、悪心、嘔吐、性機能障害、不安症、心的外傷後ストレス障害、脳血管痙攣、緑内障、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、免疫抑制、掻痒、胃食道逆流症、麻痺性イレウス、分泌性下痢、胃潰瘍、関節リウマチ、望まない妊娠、高血圧症、癌、肝炎、アレルギー性気道疾患、自己免疫糖尿病、難治性掻痒症、神経炎症、糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症、異脂肪血症、脂肪肝、及び脂肪性肝炎から選択される。
【0030】
別の一般的な態様では、本発明は、単一工程の水素添加反応において、2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルバルデヒド及びピペラジンを用いて、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドを合成する方法を目的とする。
【0031】
以下の詳細な説明及び本発明の実施によって、本発明の追加的実施形態、特徴及び利点が明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、以下の用語集及び実施例を含む、以下の発明を実施するための形態を参照することによって、より完全に理解されるであろう。簡潔さの目的で、本明細書に示す刊行物の開示は引用することによって本明細書に組み入れられる。
【0033】
本明細書で用いられる用語「包含」、「含有」及び「含んでなる」を本明細書では幅広い非限定的意味で用いる。
【0034】
本明細書に示される構造式はまた、該化合物の非標識形態、並びに同位体標識形態を表すことが意図される。同位体標識化合物は、1個以上の原子が、選択される原子質量又は質量数を有する原子に置き換わっていることを除き、本明細書に示す式で表される構造を有する。本発明の化合物に組み込むことができる同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、又はフッ素の同位体、例えば、それぞれ2H、3H、11C、13C、14C、15N、18O、17O及び18Fが挙げられる。このような同位体標識化合物は、代謝研究(好適には14Cを用いた)、反応速度論研究(例えば、2H又は3Hを用いた)、薬剤又は基質組織分布アッセイを含む検出若しくは画像化技術[陽電子放出断層撮影(PET)又は単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)等]、又は患者の放射線治療で用いるのに有用である。特に、18F−又は11C−標識化合物が、PET又はSPECT試験に好適であり得る。更に、重質同位体、例えば、重水素(即ち2H)などによる置換を行うと、生体内半減期が長くなるか、又は必要な投薬量が少なくなる等代謝安定性がより高くなることから、結果として特定の治療的利点を得ることができる。本発明の同位体標識化合物及びこれらのプロドラッグは、一般に、本スキーム又は本実施例に開示する手順を実施し、容易に入手可能な同位体標識試薬を同位体標識されていない試薬の代わりに用いて以下に記述する調製を行うことで調製できる。
【0035】
1つの一般的な実施形態では、本発明は、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド、並びにこのような化合物の薬学的に許容できる塩、薬学的に許容できるプロドラッグ、及び薬学的に活性のある代謝産物に関する。別の一般的な実施形態では、本発明は、各々、治療上有効な量の、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド、並びにこのような化合物の薬学的に許容できる塩、薬学的に許容できるプロドラッグ、及び薬学的に活性のある代謝産物から選択されるFAAH調節剤を含む医薬組成物に関する。
【0036】
また、本発明は、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に許容できる塩に関する。「薬学的に許容できる塩」は、非毒性である、生物学的に許容できる、又は他の点で被験体に対して投与するのに生物学的に好適である4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの化合物の遊離酸又は塩基の塩を意味することを意図する。一般的に、G.S.Paulekuhn,et al.,「Trends in Active Pharmaceutical Ingredient Salt Selection based on Analysis of the Orange Book Database」,J.Med.Chem.,2007,50:6665〜72,S.M.Berge,et al.,「Pharmaceutical Salts」,J Pharm Sci.,1977,66:1〜19,and Handbook of Pharmaceutical Salts,Properties,Selection,and Use,Stahl and Wermuth,Eds.,Wiley−VCH and VHCA,Zurich,2002を参照されたい。薬学的に許容できる好ましい塩とは、薬理学的に有効であり、過度の毒性、刺激又はアレルギー反応を起こすことなく患者の組織に接触するのに適したものでなければならない。薬学的に許容できる塩の例としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、蟻酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオール酸塩、蓚酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン−1,4−二酸塩、ヘキシン−1,6−二酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸、フタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、γ−ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタン−スルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩及びマンデル酸塩が挙げられる。
【0037】
特定の実施形態では、化合物4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドは、塩酸塩である。
【0038】
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの化合物は、十分に塩基性基を有し得るので、多数の無機及び有機酸と反応して、薬学的に許容できる塩を形成し得る。
【0039】
本発明の化合物は、少なくとも1つの塩基性窒素を含有するので、望ましい薬学的に許容できる塩は、当該技術分野で利用可能な適切な方法のいずれか、例えば、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、硝酸、ホウ酸、リン酸など)で、又は有機酸(例えば、酢酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、ステアリン酸、乳酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、イセチオン酸、コハク酸、吉草酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ピラノシジル酸(pyranosidyl acid))(例えば、グルクロン酸又はガラクツロン酸)、アルファ−ヒドロキシ酸(例えば、マンデル酸、クエン酸又は酒石酸)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸)、芳香族酸(例えば、安息香酸、2−アセトキシ安息香酸、ナフトエ酸又は桂皮酸)、スルホン酸(例えば、ラウリルスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、又はエタンスルホン酸)で、又は当該技術分野の技術の通常のレベルに照らして等価物又は許容できる代替物であるとみなされる任意の他の酸及びこれらの混合物で遊離塩基を処理することにより調製することができる。
【0040】
また、本発明は、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に許容できるプロドラッグに関する。「プロドラッグ」という用語は、被験体への投与後に、例えば、加溶媒分解又は酵素分解のような化学的又は生理学的プロセスを介してインビボにおいて、あるいは生理学的条件下で(例えば、プロドラッグを生理学的pHにすると実施例1の化合物に変換される)特定の化合物を生ずる化合物の前駆体を意味する。「薬学的に許容できるプロドラッグ」とは、非毒性である、生物学的に許容できる、又は他の点で被験体に対して投与するのに生物学的に好適であるプロドラッグである。適切なプロドラッグ誘導体の選択及び調製の例示的な手順は、例えば、「Design of Prodrugs」,ed.H.Bundgaard,Elsevier,1985に述べられている。
【0041】
プロドラッグの例としては、1つのアミノ酸残基、又は4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの遊離アミン基にアミド又はエステル結合を通して共有結合している2以上の(例えば、2、3、又は4つの)アミノ酸残基のポリペプチド鎖を有する化合物が挙げられる。アミノ酸残基の例としては、天然に存在する20種類のアミノ酸(一般に3文字の記号で表わされる)、並びに4−ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシン、デモシン、イソデモシン、3−メチルヒスチジン、ノルバリン、β−アラニン、γ−アミノ酪酸、シトルリン、ホモシステイン、ホモセリン、オルニチン及びメチオニンスルホンが挙げられる。例えば、遊離アミンをアミド、スルホンアミド、又はホスホンアミドとして誘導体化することにより、別の種類のプロドラッグを生成することもできる。
【0042】
また、本発明は、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬学的に活性のある代謝産物に関する。「薬学的に活性のある代謝産物」は、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド又はその塩の、体内代謝による薬学的活性産物を意味する。化合物のプロドラッグ及び活性のある代謝産物は、当該技術分野で公知又は利用可能な常規技術を用いて求めることができる。例えば、Bertolini et al.,J.Med.Chem.1997,40,2011〜2016;Shan et al.,J.Pharm.Sci.1997,86(7),765〜767;Bagshawe,Drug Dev.Res.1995,34,220〜230;Bodor,Adv.Drug Res.1984,13,224〜331;Bundgaard,Design of Prodrugs(Elsevier Press,1985);及びLarsen,Design and Application of Prodrugs,Drug Design and Development(Krogsgaard−Larsen et al.,eds.,Harwood Academic Publishers,1991)を参照されたい。
【0043】
本発明の4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの化合物及びその薬学的に許容できる塩、薬学的に許容できるプロドラッグ、及び薬学的に活性のある代謝産物(総じて「活性剤」)は、本発明の方法においてFAAH阻害剤として有用である。用語「阻害剤」は、FAAHの発現又は活性を低下、阻止、不活化、減感、又はダウンレギュレートする化合物を指す。活性剤は、本明細書に記載されるものなどの、FAAHの阻害若しくは調節によって媒介される病状、疾患、又は障害の治療のために本発明の方法において使用することができる。したがって、本発明に係る活性剤は、鎮痛剤、抗鬱剤、認知増強剤、神経保護剤、鎮静剤、食欲刺激剤/抑制剤、又は避妊薬として使用され得る。
【0044】
FAAH活性によって媒介される例示的な病状、疾患、及び障害としては、不安症、鬱病、疼痛、睡眠障害、摂食障害、炎症、多発性硬化症及び他の運動障害、HIV消耗性症候群、閉鎖性頭部外傷、脳卒中、学習及び記憶障害、アルツハイマー病、てんかん、トゥレット症候群、てんかん、ニーマン・ピック病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、視神経炎、自己免疫性ブドウ膜炎、薬物又はアルコール離脱の症状、悪心、嘔吐、性機能障害、心外傷後ストレス障害、脳血管痙攣、糖尿病、メタボリックシンドローム並びに骨粗鬆症が挙げられる。
【0045】
したがって、活性剤は、このような疾患、障害、又は状態であると診断された、又はこれらに罹患している患者を治療するために使用され得る。本明細書で使用するとき、用語「治療する」又は「治療」とは、FAAH活性の阻害により、治療効果をもたらす目的で、本発明の剤又は組成物を被験体に投与することを指すことが意図される。治療には、FAAH活性の調節によって媒介される疾患、障害、若しくは状態又はかかる疾患、障害、若しくは状態の1つ以上の症状を好転させる、改善する、軽減する、進行を阻害する、重篤度を低下させる、発生率を減少させる、又は予防することが含まれる。用語「被験体」とは、ヒト等の、かかる治療を必要とする哺乳類患者を指す。「調節因子」は、阻害剤及び活性化物質の両方を含み、ここにおいて「阻害剤」はFAAHの発現又は活性を低下、阻止、不活化、減感、又はダウンレギュレートする化合物を指し、「活性化物質」はFAAHの発現又は活性を増加、活性化、促進、増感、又はアップレギュレートする化合物を指す。
【0046】
したがって、本発明は、不安症、疼痛、睡眠障害、摂食障害、炎症、運動障害(例えば、多発性硬化症)、グルコース及び脂質代謝(例えば、糖尿病)、並びに骨ホメオスタシス(例えば、骨粗鬆症)等の、FAAH活性によって媒介される疾患、障害、又は状態であると診断された、又はこれらに罹患している被験体を治療するために、本明細書に説明する活性剤を使用する方法に関する。
【0047】
症状又は疾患状態は、「病状、障害、又は疾患」の範囲内に含まれることを意図する。例えば、疼痛は、種々の疾患、障害、又は状態に関連する場合があり、種々の病因を含み得る。本発明に係るFAAH調節剤(本明細書における一例においては、FAAH阻害剤)で治療可能な例示的な種類の疼痛としては、癌痛、術後痛、消化管痛、脊髄損傷痛、内臓過敏痛、視床痛、頭痛(ストレス性の頭痛及び偏頭痛を含む)、腰痛、頸部痛、筋骨格系疼痛、末梢神経障害性疼痛、中枢神経因性疼痛、神経変性疾患関連疼痛、及び月経痛が挙げられる。HIV消耗性症候群には、食欲喪失及び悪心等の関連する症状が含まれる。パーキンソン病には、例えば、レボドパ誘導性の運動障害が含まれる。多発性硬化症の治療には、痙性、神経因性疼痛、中枢性疼痛、又は膀胱機能障害等の症状の治療が含まれてよい。薬物離脱の症状は、例えば、アヘン又はニコチンへの依存症によって引き起こされる場合がある。悪心又は嘔吐は、化学療法、術後、又はオピオイド関連の原因によるものである場合がある。性機能障害の治療には、性欲の向上又は射精の遅延を含み得る。癌の治療は、神経膠腫の治療を含み得る。睡眠障害には、例えば、睡眠時無呼吸症、不眠症、及び鎮静若しくは麻薬型の効果を有する剤を用いた治療を要する障害が含まれる。摂食障害には、例えば、癌若しくはHIV感染/AIDS等の疾患に関連する、拒食症又は食欲喪失が含まれる。
【0048】
本発明に係る治療方法では、有効な量の本発明に係る少なくとも1つの活性剤をこのような疾患、障害、又は状態に罹患しているか、又はそうであると診断された被験体に投与する。「治療上有効な量」又は「有効な量」とは、一般的に、FAAH活性によって媒介される疾患、障害、又は状態の治療を必要とする患者において望ましい治療効果をもたらすのに十分なFAAH調節剤の量又は用量を意味する。本発明の活性剤の有効な量又は用量は、常規方法、例えば、モデリング、用量漸増試験又は臨床試験などにより、及び投与の方法若しくは経路、又は薬剤送達などの常規要因、剤の薬物動態、疾患、障害、又は状態の重篤度及び過程、被験体が以前又は現在受けている治療、被験体の健康状態及び薬物に対する反応、並びに治療を施す医者の判断などを考慮に入れることで確定することができる。例示的な用量は、1日につき被験体の体重1kgあたり約0.0001〜約200mgの活性剤の範囲、好ましくは、約0.001〜100mg/kg/日、又は約0.01〜35mg/kg/日、あるいは単回又は分割用量単位(例えば、BID、TID、QID)で毎日約0.1〜10mg/kgである。70kgのヒトの場合、適切な投薬量の例示的な範囲は、約0.05〜約7g/日又は約0.2〜約5g/日である。患者の疾患、障害、又は状態の改善がみられたら、用量を、維持治療のために調節してもよい。例えば、用量若しくは投与頻度、又は両方は、症状に応じて、所望の治療効果が維持されるレベルに減じてもよい。無論、症状が適切なレベルまで改善した場合は、治療を止めてもよい。しかし、何らかの症状が再発した際には、患者に長期的に断続的治療を受けさせる必要がある。
【0049】
加えて、本発明の活性剤を、上記状態の治療において更なる活性成分と組み合わせて用いることも可能である。更なる活性成分は、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの活性剤とは別々に共投与されてもよく、又は本発明に係る医薬組成物中にこのような剤とともに含まれてもよい。例示的な実施形態において、更なる活性成分は、FAAH活性によって媒介される状態、障害、又は疾患の治療に有効であることが知られているか見出されているもの、例えば、別のFAAH調節因子、又は特定の状態、障害、又は疾患に関連する別の標的に対して活性のある化合物である。組み合わせにより、有効性を増加させる(例えば、本発明に係る活性剤の効力又は有効性を高める化合物を組み合わせに含めることによって)、1つ以上の副作用を低下させる、又は本発明に係る活性剤の必要量を減少させることができる。1つの例示的な実施形態において、本発明に係る組成物は、オピオイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(例えば、イブプロフェン、シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)阻害剤、及びナプロキセン)、ガバペンチン、プレガバリン、トラマドール、アセトアミノフェン、及びアスピリンから選択される1つ以上の更なる活性成分を含有し得る。
【0050】
本発明の活性剤は、本発明の医薬組成物を処方するために、単独で又は1つ以上の更なる有効成分と組み合わせて用いられる。本発明の医薬組成物は、(a)有効な量の本発明に係る有効量の少なくとも1つの活性剤と、(b)薬学的に許容できる賦形剤とを含む。
【0051】
「薬学的に許容される賦形剤」とは、薬理学的組成物に添加されるか、あるいは剤の投与を容易にするためにビヒクル、担体又は希釈剤として用いられかつ該剤と適合する、非毒性である、生物学的に許容できる、又は他の点で被験体に対して投与するのに生物学的に好適である物質、例えば不活性物質を指す。特定の薬学的に許容できる賦形剤は、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」,6th ed.,Pharmaceutical Press,2009に概説されている。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、各種糖類及び各種デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0052】
1投与単位以上の活性薬を含有する医薬組成物の送達形態は、好適な医薬賦形剤及び公知の又は当業者に利用可能である配合技術を用いて調製することができる。本発明の方法では、組成物は、適切な送達経路、例えば、経口、非経口、直腸、局所又は眼経路などにより、あるいは吸入によって投与してもよい。
【0053】
このような製剤の形態は、錠剤、カプセル、小袋、糖衣錠、粉末、顆粒、トローチ剤、再構成用粉末、液状製剤又は座薬であってもよい。好ましくは、本組成物は、静脈内輸液、局所投与又は経口投与用に製剤化される。
【0054】
経口投与の場合、本発明の活性剤は、錠剤又はカプセルの形態で、あるいは溶液、乳液又は懸濁液として提供してもよい。経口組成物を調製するために、活性剤は、例えば、単回投与又は分割投与にて、1日あたり約5mg〜5g又は1日あたり約50mg〜5gの投薬量をもたらすように製剤化され得る。例えば、1日あたり約5mg〜5gの合計日用量は、1日あたり1回、2回、3回、又は4回投与することによって達成され得る。
【0055】
経口錠剤は、適合し得る薬学的に許容できる賦形剤、例えば希釈剤、崩壊剤、結合剤、滑剤、甘味剤、香味剤、着色剤及び防腐剤などと混合された活性成分を含んでもよい。好適な不活性充填剤としては、炭酸ナトリウム及びカルシウム、リン酸ナトリウム及びカルシウム、ラクトース、デンプン、糖、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール及びソルビトールが挙げられる。例示的な液体経口賦形剤としては、エタノール、グリセロール及び水等が挙げられる。デンプン、ポリビニルピロリドン(PVP)、デンプングリコール酸ナトリウム、微結晶性セルロース及びアルギン酸が例示的な崩壊剤である。結合剤にはデンプン及びゼラチンが含まれ得る。滑剤は、存在する場合、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクであってもよい。必要に応じて、錠剤は、胃腸管内での吸収を遅らせるためにモノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの材料でコーティングしたり、腸溶性コーティングでコーティングしたりしてもよい。
【0056】
経口投与用カプセルには、硬質及び軟質ゼラチン製カプセルが含まれる。硬質ゼラチンカプセルの調製では、活性成分を固体状、半固体状又は液状の希釈剤と混合してもよい。軟質ゼラチンカプセルは、活性成分を、水、落花生油又はオリーブ油などの油、液状パラフィン、短鎖脂肪酸のモノ及びジグリセリド混合物、ポリエチレングリコール400、又はプロピレングリコールと混合することにより調製することができる。
【0057】
経口投与用の液体は、懸濁液、溶液、乳液又はシロップの形態であってもよく、凍結乾燥させるかあるいは使用前に水又は他の適切なビヒクルで再構成するための乾燥製品として提示してもよい。このような液体組成物は、場合により、薬学的に許容できる賦形剤、例えば懸濁剤(例えばソルビトール、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲルなど);非水性ビヒクル、例えば油(例えばアーモンド油又は分別ヤシ油)、プロピレングリコール、エチルアルコール又は水;防腐剤(例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチル又はプロピル又はソルビン酸);湿潤剤、例えばレシチンなど;及び必要ならば香味又は着色剤を含有してもよい。
【0058】
また、本発明の活性剤は、非経口経路で投与することも可能である。例えば、組成物を直腸投与するために座薬として製剤化してもよい。静脈内、筋肉内、腹腔内又は皮下経路を含む非経口用途の場合、本発明の剤を適切なpH及び等張性になるように緩衝しておいた無菌の水溶液若しくは懸濁液、又は非経口的に許容できる油として提供してもよい。好適な水性ビヒクルとしては、リンゲル溶液及び等張性塩化ナトリウムが含まれる。このような形態を単位剤形、例えばアンプル又は使い捨て可能注射デバイス、複数回使用形態、例えば適切な用量を取り出すことが可能なバイアルなど、又は注射可能製剤を調製するために使用可能な固体形態若しくは予濃縮液の形態で提供してもよい。例示的な輸液用量は、数分間から数日間の範囲の期間にわたって、医薬担体と混合された剤約1〜1000μg/kg/分の範囲である。
【0059】
局所投与の場合には、薬物のビヒクルに対する薬剤の濃度が約0.1%〜約10%になるように医薬担体と混合してもよい。本発明の剤を投与する別の方法では経皮送達を行うためにパッチ製剤を利用してもよい。
【0060】
あるいは、本発明の方法では、例えば適切な担体を更に含有するスプレー製剤で経鼻又は経口経路を介した吸入によって活性剤を投与することも可能である。
【0061】
次に、本発明の方法に有用な例示的な活性剤を、以下のそれらの一般的な調製に関する合成スキーム、並びに下記の具体的な実施例を参照することによって説明する。
【0062】
上記化合物は、当該技術分野内の並びに/又は以下のスキーム及び実施例に記載されるプロセスに従って製造することができる。特定の反応スキームは、適切な場合、保護とともに行ってもよく、保護を行わなくてもよい。これは、従来の保護基、例えば、「Protective Groups in Organic Chemistry」,ed.J.F.W.McOmie,Plenum Press,1973;及びT.W.Greene & P.G.M.Wuts,「Protective Groups in Organic Synthesis」,3rd ed.,John Wiley & Sons,1999等に記載の保護基を用いて実現可能である。保護基は、都合のよい後続段階で、当技術分野にて公知の方法を用いて除去されうる。あるいは、最終的に所望される置換基の代わりに、反応スキーム全体にわたって保持されかつ所望される置換基と適宜置換され得る適切な基を用いる必要がある場合もある。このような化合物、前駆体、又はプロドラッグも本発明の範囲内である。
【0063】
本発明を説明するために以下の実施例を記載する。これらの実施例は、本発明を限定するものではない。これらの実施例は、本発明を実施する方法を示唆するものにすぎない。当業者は、本発明を実施する他の方法を見出すことができ、このことは当業者にとって明らかである。しかしながら、これらの方法は本発明の範囲に含まれるものとみなされる。
【0064】
次いで、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの合成について、それを調製するための例示的な合成スキーム及び具体的なプロトコールを参照して説明する。当業者であれば、本明細書に示す様々な化合物を得るために、出発物質を好適に選択し、その結果、所望の生成物を得るために適切な場合保護を行って又は行わずに、反応スキーム全体を通じて最終的な所望の置換基が保持されることを理解するであろう。あるいは、最終的に所望される置換基の代わりに、反応スキーム全体にわたって保持されかつ所望される置換基と適宜置換され得る適切な基を用いることが必要であるか又は望ましい場合がある。
【0065】
【化3】
【0066】
スキームAを参照すると、水素添加条件下で、2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルバルデヒドとピペラジンとを反応させることにより、中間体1を得た。反応は、MeOH、EtOH、又はAcOH等の溶媒中で、触媒としてPd(OH)2、Pt、又はPdを用いて実施することができる。反応は、20〜80℃の温度で実施することができる。許容できるH2圧は、0.1〜6MPa(1〜60bar)であってもよい。2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルバルデヒドのピペラジンに対する量は、典型的に、1〜6当量である。反応は、バッチ式水素添加装置又はフロー式水素添加装置で実施することができる。
【0067】
【化4】
【0068】
反応スキームBを参照すると、3−アミノ−4−クロロピリジン及び中間体1から4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドが調製された。3−アミノ−4−クロロピリジンを、トルエン等の溶媒中でフェニルクロロホルメート及びピリジンで処理して、中間体2の化合物を得た。中間体2を中間体1と直接反応させて、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドを得た。
【0069】
化学:
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド及び以下の比較例の調製において、以下の一般的な実験及び分析方法を用いた。
【0070】
反応混合物は、別途記載しない限り、窒素雰囲気下で撹拌した。溶液又は混合物を濃縮する場合、これらは通常、ロータリーエバポレーターを使用して減圧下で濃縮した。
【0071】
質量スペクトルは、別途、指示しない限り、正イオンモードでエレクトロスプレーイオン化(ESI)を使用して、Agilentシリーズ1100 MSD上で得た。
【0072】
NMRスペクトルは、BrukerモデルDPX400(400MHz)、DPX500(500MHz)、DRX600(600MHz)スペクトロメーターのいずれかを用いて得た。以下の1H NMRデータのフォーマットは、テトラメチルシラン標準のppmダウンフィールドでの化学シフトである(多重度、結合定数J(Hz)、積分)。
【0073】
化学名は、ChemDraw Ultra 6.0.2(CambridgeSoft Corp.,Cambridge,MA)又はACD/Nameバージョン9(Advanced Chemistry Development,Toronto,Ontario,Canada)を使用して作成した。
【0074】
中間体1:1−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン。
【0075】
【化5】
【0076】
2Lの三角フラスコに、ピペラジン(185.1g、2.15mol)、2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルバルデヒド(100.0g、0.537mol)、及びメタノール(1.08L)を充填した。溶液を18時間室温で撹拌し、次いで、以下の設定で、新しい20% Pd(OH)2/C MidiCartカートリッジを備えるH−Cube Midi(商標)(ThalesNano,Budapest,Hungary)に2回通した:70℃、圧力1atm、流量6mL/分、及び10%過剰H2で生成した。アルデヒド出発物質は、HPLC分析により示される通り、1回目のパス後に>90%消費され、2回目のパス後に完全に消費された。メタノールを蒸発させ、トルエン(1.20L)を添加し、混合物を18時間室温で撹拌した。生じた白色の懸濁液を濾過し、固体をトルエン(200mL)ですすいだ。合わせた濾液を水(2×300mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮して、無色の油状物として生成物を得た。油状物をヘプタン(100mL)に溶解させ、生成物を室温で結晶化させた。後続の合成実験のために、少量のシード結晶を添加して、結晶化プロセスを加速させた。懸濁液を0℃に冷却し、濾過し、固体を50℃の真空オーブンで24時間乾燥させて、白色の固体(108.0g、78%)として表題化合物を得た。ヘプタン濾液を約20mLまで濃縮し、次いで、生成物のシード結晶を添加した。次いで、溶液を一晩撹拌した。濾過及び乾燥後、白色の固体として表題化合物の第1のバッチを得た(6.7g、5%)。合わせた収量は、(115g、83%)であった。MS(ESI+):計算値C1214222 m/z 256.1、実測値256.9(M+H)+1H NMR(400MHz,CDCl3)δ:7.11(d,J=0.9Hz,1H),6.99(dd,J=9.0,0.9Hz,1H),6.95(d,J=9.0Hz,1H),3.45(s,2H),2.92−2.83(m,4H),2.39(s,4H);13C NMR(101MHz,CDCl3)δ:143.89,142.72,134.68,131.65(t,JC−F=255.3),123.88,110.13,108.82,63.10,54.38,46.07。
【実施例】
【0077】
実施例1:4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド。
【0078】
【化6】
【0079】
窒素雰囲気下で機械的撹拌機、熱電対、及び添加漏斗を備える2Lの3つ口Mortonフラスコに、3−アミノ−4−クロロピリジン(35.0g、272mmol)及びトルエン(740mL)を充填した。茶色の溶液を2℃に冷却した。ピリジン(25.3mL、310mmol)を1度に添加し、次いで、30分間かけてフェニルクロロホルメート(32.6mL、259mmol)を滴下した。最大内部温度は5℃であった。2〜5℃で7時間撹拌した後、反応混合物は濃い黄色の懸濁液になった。冷たいK2CO3(53.6g、388mmol)の水(216mL)溶液を3分間かけて添加し、その間の最大内部温度は6℃であった。次いで、1−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン(66.3g、259mmol)を1分間かけて固体として添加した。混合物をゆっくりと室温に加温し、15時間撹拌した。水(200mL)を添加し、トルエン層を分離し、水性HCl(1.8M、600mL)で抽出した。水性抽出物をトルエン(2×300mL)で洗浄した。MeOH(500mL)を水層に添加し、溶液を5℃に冷却した。NaOH溶液(50重量%、約50mL)を添加することにより、pHをpH 8〜9に調整した。最大内部温度が17℃を超えない速度で添加した。得られた懸濁液を2時間5℃で撹拌した。生成物を濾過により回収し、MeOH/H2O(1:1、70mL)ですすいだ。固体を24時間50℃で真空オーブン内にて乾燥させて、黄色/緑色の固体(73g、69%)として表題化合物を得た。
【0080】
撹拌棒、熱電対、及び還流冷却器を備える1Lの3つ口Mortonフラスコに、粗4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド(98g、239mmol)及びイソプロピルアセテート(318mL)を充填した。懸濁液を65℃に加熱し、活性炭(10.0g)で処理し、65℃で1時間撹拌した。次いで、混合物を80℃に加熱し、薄いセライトパッドで素早く濾過した。濾液をゆっくりと室温に冷却し、次いで、30分間氷浴中に置いた。固体を濾過により回収し、冷iPrOAc(10mL)ですすぎ、乾燥させて、黄色の固体(72g、73%)として生成物4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドを得た。
【0081】
機械的撹拌機、熱電対、及び還流冷却器を備える2Lの3つ口Mortonフラスコに、粗生成物4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド(191g、465mmol)及びイソプロピルアセテート(705mL)を充填した。懸濁液を65℃に加熱し、活性炭(11.2g)で処理し、65℃で1時間撹拌した。次いで、混合物を75℃に加熱し、素早く濾過した。濾液を一晩かけてゆっくりと室温に冷却し、次いで、30分間氷浴中に置いた。固体を濾過により回収し、冷iPrOAc(40mL)ですすぎ、50℃で72時間真空オーブン内で乾燥させた。わずかに黄色の固体(161g、84%)として、生成物4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドを得た。MS(ESI+):計算値C1817ClF243 m/z 410.1,実測値411.1(M+H)+。分析計算値C1817ClF243:C,52.63;H,4.17;N,13.64。実測値:C,52.73;H,4.15;N,13.62;1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:9.36(s,1H),8.19(d,J=5.2Hz,1H),7.29(dd,J=5.3,0.3Hz,1H),7.13(d,J=0.9Hz,1H),7.02−6.98(m,2H),6.84(s,1H),3.58−3.54(m,4H),3.53(s,2H),2.54−2.48(m,4H);13C NMR(151MHz,CDCl3)δ:153.49,144.02,143.88,143.28,142.98,134.05,133.09,131.66(t,JC−F=254.6Hz),131.55,123.89,123.53,110.03,109.02,62.28,52.47,44.23。
【0082】
実施例1A:4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド,ビスヒドロクロリド。
【0083】
【化7】
【0084】
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド(5.0g、12mmol)及びエタノール(200mL)からなる溶液を飽和水性HCl(3.0mL、3当量)で処理した。溶媒を真空下で除去し、エタノール(100mL)を添加し、懸濁液を0℃に冷却し、濾過した。生じた白色の固体を冷エタノール(25mL)ですすぎ、真空下で乾燥させて、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドビス−ヒドロクロリド(4.25g、72%)を得た。1H NMR(400MHz,DMSO)δ 11.61(br s,1H),8.98(s,1H),8.65(s,1H),8.37(d,J=5.4Hz,1H),7.78(d,J=1.4Hz,1H),7.69(d,J=5.4Hz,1H),7.52(d,J=8.3Hz,1H),7.46(dd,J=8.3,1.5Hz,1H),4.39(s,2H),4.28−4.12(m,2H),3.49−3.26(m,4H),3.03(s,2H)。
【0085】
比較化合物:4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸ピリジン−3−イルアミド。
【0086】
【化8】
【0087】
ピリジン−3−イル−カルバミン酸フェニルエステル:0℃のCH3CN(80mL)中のピリジン−3−イルアミン(9.49g、101mmol)及びピリジン(8.77g、111mmol)からなる溶液に、フェニルクロロホルメート(15.8g、101mmol)を滴下した。反応混合物を室温に加温し、2時間撹拌した。反応をH2O(200mL)でクエンチし、生じた沈殿物を濾過し、真空下で乾燥させて、黄褐色の固体(17.34g、80%)として表題化合物を得た。MS(ESI+):計算値C121022 m/z 214.07,実測値215.3(M+H)+1H NMR(500MHz,d6−DMSO):10.46(s,1H),8.69(d,J=2.4Hz,1H),8.27(dd,J=4.7,1.4Hz,1H),7.93(d,J=8.4Hz,1H),7.47−7.41(m,2H),7.37(dd,J=8.4,4.7Hz,1H),7.31−7.22(m,3H)。
【0088】
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸ピリジン−3−イルアミド:ピリジン−3−イル−カルバミン酸フェニルエステル(9.08g、42.4mmol)のDMSO(84mL)溶液に、1−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン(11.4g、44.5mmol)を添加した。反応混合物を室温で16時間撹拌し、次いで、水(130mL)で処理した。生じた固体を濾過により単離し、水(4×50mL)ですすぎ、真空下で乾燥させた。固体を再結晶化させて(EtOH−H2O)、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸ピリジン−3−イルアミド(13.4g、84%)を得た。MS(ESI+):計算値C1818243 m/z 376.13、実測値377.1(M+H)+1H NMR(CDCl3):8.46(d,J=2.5Hz,1H),8.23−8.21(m,1H),7.99−7.96(m,1H),7.22−7.19(m,2H),7.11(s,1H),6.99−6.98(m,2H),3.54−3.52(m,4H),3.49(s,2H,2.46−2.44(m,4H)。
【0089】
生物学的試験:
・アッセイ方法1
A.ヒトFAAHを用いた細胞のトランスフェクション
SK−N−MC細胞のコンフルエント単層を含む10cmの組織培養皿を、トランスフェクションの2日(d)前に分割した。滅菌技術を使用して培地を除去し、トリプシンの添加により皿から細胞を剥離した。次いで、細胞の5分の1を新しい10cm皿に入れた。10%ウシ胎仔血清を含むイーグル最小必須培地(Minimal Essential Media Eagle)中で、5% CO2の37℃のインキュベータで細胞を増殖させた。2日後、細胞は約80%コンフルエントであった。これらの細胞をトリプシンで皿から除去し、臨床用遠心分離機でペレット化した。ペレットを400μLの完全培地に再懸濁させ、電極間に0.4cmの空隙を有する電気穿孔法キュベットに移した。スーパーコイル化したヒトFAAHのcDNA(1μg)を細胞に添加し、混合した。電気穿孔法の電圧を0.25kVに設定し、電気容量を960μFに設定した。電気穿孔法後、細胞を完全培地(10mL)で希釈し、4つの10cm皿に蒔いた。電気穿孔法の効率における変動性のため、異なる4つの濃度の細胞をプレーティングした。使用された比率は1:20、1:10、及び1:5で、残りの細胞を第4の皿に添加した。細胞を24時間回復させてから、選択培地(600μg/mLのG418を含む完全培地)を添加した。10日後、細胞の生存コロニーについて皿を分析した。十分に単離したコロニーを含む皿を使用した。個々のコロニーから細胞を単離し、試験した。アナンダミド加水分解により測定される通り、最も高いFAAH活性を示すクローンを更なる研究に使用した。
【0090】
B.FAAHアッセイ
T84凍結細胞ペレット又はトランスフェクトされたSK−N−MC細胞(1×15cmの培養皿の含有量)を、50mLのFAAHアッセイバッファー(125mMトリス、1mM EDTA、0.2%グリセロール、0.02%トリトンX−100、0.4mMヘペス、pH 9)中でホモジナイズした。アッセイ混合物は、50μLの細胞ホモジネート、10μLの試験化合物、及び最後に添加された40μLのアナンダミド[1−H−エタノールアミン](H−AEA、Perkin−Elmer、10.3C/mmol)からなり、最終トレーサー濃度は80nMであった。反応混合物を室温で1時間インキュベートした。インキュベーション中、96ウェルのMultiscreenフィルタプレート(カタログ番号MAFCNOB50、Millipore,Bedford,MA,USA)に25μLの活性炭(Multiscreenカラムローダー、カタログ番号MACL09625、Millipore)をロードし、100μLのMeOHで1回洗浄した。また、インキュベーション中、96ウェルのDYNEX MicroLiteプレート(カタログ番号NL510410)に、100μLのMicroScint40(カタログ番号6013641、Packard Bioscience,Meriden,CT,USA)をロードした。1時間のインキュベーション後、60μLの反応混合物を炭プレートに移し、次いでCentrifuge Alignment Frames(カタログ番号MACF09604、Millipore)を使用して、DYNEXプレートの上部に集めた。未結合の標識エタノールアミンを遠心分離して、上記の通りシンチラントを予めロードしておいた下部プレートに通した(2000rpmで5分)。プレートを封止して室温で1時間放置してから、Hewlett PackardのTopCountで計数した。
【0091】
・アッセイ方法2
A.ラットFAAHを用いた細胞のトランスフェクション
SK−N−MC細胞のコンフルエント単層を含む10cmの組織培養皿を、トランスフェクションの2日(d)前に分割した。滅菌技術を使用して培地を除去し、トリプシンの添加により皿から細胞を剥離した。次いで、細胞の5分の1を新しい10cm皿に入れた。10%ウシ胎仔血清を含むイーグル最小必須培地(Minimal Essential Media Eagle)中で、5% CO2で37℃のインキュベータで細胞を増殖させた。2日後、細胞は約80%コンフルエントであった。これらの細胞をトリプシンで皿から除去し、臨床用遠心分離機でペレット化した。ペレットを400μLの完全培地に再懸濁させ、電極間に0.4cmの空隙を有する電気穿孔法キュベットに移した。スーパーコイル化したヒトFAAHのcDNA(1μg)を細胞に添加し、混合した。電気穿孔法の電圧を0.25kVに設定し、電気容量を960μFに設定した。電気穿孔法後、細胞を完全培地(10mL)で希釈し、4つの10cm皿に蒔いた。電気穿孔法の効率における変動性のため、異なる4つの濃度の細胞をプレーティング。使用された比率は1:20、1:10、及び1:5で、残りの細胞を第4の皿に添加した。細胞を24時間回復させてから、選択培地(600μg/mLのG418を含む完全培地)を添加した。10日後、細胞の生存コロニーについて皿を分析した。十分に単離したコロニーを含む皿を使用した。個々のコロニーから細胞を単離し、試験した。アナンダミド加水分解により測定される通り、最も高いFAAH活性を示すクローンを更なる研究に使用した。
【0092】
B.FAAHアッセイ
トランスフェクトされたSK−N−MC細胞(1×15cmの培養皿の含有量)を、50mLのFAAHアッセイバッファー(125mMトリス、1mM EDTA、0.2%グリセロール、0.02%トリトンX−100、0.4mM Hepes、pH 9)中でホモジナイズした。アッセイ混合物は、50μLの細胞ホモジネート、10μLの試験化合物、及び最後に添加された40μLのアナンダミド[1−H−エタノールアミン](H−AEA、Perkin−Elmer、10.3C/mmol)からなり、最終トレーサー濃度は80nMであった。反応混合物を室温で1時間インキュベートした。インキュベーション中、96ウェルのMultiscreenフィルタプレート(カタログ番号MAFCNOB50、Millipore,Bedford,MA,USA)に25μLの活性炭(Multiscreenカラムローダー、カタログ番号MACL09625、Millipore)をロードし、100μLのMeOHで1回洗浄した。また、インキュベーション中、96ウェルのDYNEX MicroLiteプレート(カタログ番号NL510410)に、100μLのMicroScint40(カタログ番号6013641、Packard Bioscience,Meriden,CT,USA)をロードした。1時間のインキュベーション後、60μLの反応混合物を炭プレートに移し、次いでCentrifuge Alignment Frames(カタログ番号MACF09604、Millipore)を使用して、DYNEXプレートの上部に集めた。未結合の標識エタノールアミンを遠心分離して、上記のシンチラントを予めロードしておいた下部プレートに通した(2000rpmで5分)。プレートを封止して室温で1時間放置してから、Hewlett PackardのTopCountで計数した。
【0093】
これらのアッセイで試験された化合物についての結果を、得られた結果の平均として表1に要約する。化合物は、遊離塩基又は塩酸塩の形態のいずれかで試験した。比較化合物、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸ピリジン−3−イルアミドは、国際公開第2006/074025号の実施例150に記載の通り合成した。
【0094】
【表1】
【0095】
薬物−薬物相互作用(DDI)アッセイ
ヒト肝臓ミクロソーム及び特定のCYPプローブ基質と共に様々な濃度の化合物をインキュベートすることにより、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミド及び比較化合物4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸ピリジン−3−イルアミドがヒトシトクロムP−450アイソザイム(CYP)を阻害する能力について調べた(表2)。CYP阻害は、他の薬物分子の代謝に干渉することにより薬物物質の安全性プロファイルに影響を与え得る。
【0096】
アッセイの準備を行い、37℃に設定されたCytomat振盪インキュベータ(Thermo Electron Corp.,Bellefonte,PA)が組み込まれたBiomek FXpロボット液体処理ワークステーション(Beckman Coulter Corp.,Fullerton,CA)を用いて実施した。50人のドナーに由来し、プールされ、BD Gentest(カタログ番号457111、ロット01220、250mMスクロース中20mg/mL)によって特性評価されたヒト肝臓ミクロソームのバッチを使用した。各基質を、総インキュベート体積0.16mL中0.1、0.15、又は0.2mg/mLのタンパク質濃度でインキュベートした。5mMの塩化マグネシウム及び1mMのEDTAを添加した100mMのリン酸カリウムバッファ(pH 7.4)中でインキュベート物を調製した。キニジンをCYP2D6に対するポジティブコントロール阻害剤として用いた。キニジンを有機溶媒の希釈標準溶液として調製し(主にメタノール、二次溶媒としてDMSO及びアセトニトリルを用いる)、ミクロソーム懸濁液に添加して、望ましい濃度レベルを得た。次いで、更なるミクロソーム懸濁液で溶液を順次希釈して、8つの濃度レベルを得た。最終有機物含量は、0.07%未満であった。試験化合物の原液を、溶解度制限に依存して、可能な場合、適切な有機溶媒(DMSO、メタノール、又はアセトニトリル)中で、50mM以上の濃度で調製した。原液をメタノールで順次希釈し、次いで、ミクロソーム懸濁液に添加して、比較化合物については0、0.1、0.3、1、3、10、30、及び100μM、並びに4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドについては0、0.06、0.18、0.6、1.8、6、18、及び60μMの最終インキュベート濃度を得た。最終有機物含量は、0.2%であった。インキュベートは、各プローブ基質についてトリプリケートで実施した。
【0097】
対照阻害剤(キニジン)及びマーカー基質(デキストロメトルファン又はブフラロール)をインキュベート容器に移した(各60μLのアリコート)。37℃のプレインキュベート期間後、NADPH再生系(BD Gentest)の40μLのアリコートを添加することにより反応を開始させた。40μLのアリコート(インキュベーションバッファで6:19希釈)から、1.3mM NADP+、3.3mMのグルコース−6−ホスフェート及び0.4U/mLのグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼの最終濃度を得た。インキュベート時間は、デキストロメトルファン及びブフラロールの両方について12分間であった。アセトニトリル(160μL)をインキュベーションミックスに直接添加することにより反応を終結させ、次いで、更なるアセトニトリル(400μL)を含有するプーリングプレートに移した。
【0098】
等濃度の試験化合物又は対照阻害剤によりインキュベーション反応をプールし、アセトニトリル及び内部標準(0.5〜2.8μM:ヒドロキシブフラロール−d9、デキストロルファン−d3の濃度範囲の変性化合物の混合物100μL)を含有するPhenomenex Strata(商標)衝撃タンパク質沈殿フィルタプレートに移した。生じた濾液を窒素流下で蒸発乾固させ、次いで、250μLの移動相(1:1メタノール:水、0.1%酢酸を含有)に再構成した。サンプル及び標準をSciex API4000トリプル四重極質量分析計で分析した。Analyst 1.4.1(Applied Biosystems/MDS Sciex)でデータを取得した。IC50アッセイでは、代謝産物及び内部標準のクロマトグラフィーピークの面積比をSigmaPlot(バージョン8.0)に転送し、半対数目盛でプロットして(残存活性率対阻害剤濃度)IC50値を求めた。
【0099】
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドは、試験基質としてブフラロールを用いて24μM、及び試験基質としてデキストロメトルファンを用いて11μMのIC50値でCYP2D6を阻害した。4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドは、試験基質としてブフラロールを用いて3.2μM、及び試験基質としてデキストロメトルファンを用いて2.0μMのIC50値でCYP2D6を阻害した比較化合物と比べて好ましかった。これら結果は、比較化合物に比べて、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドの薬物−薬物相互作用のリスクが潜在的に低いことを示す。
【0100】
【表2】
【0101】
ラットにおける一次観察(Irwin)試験
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドヒドロクロリド及び比較化合物の塩酸塩について、挙動及び生理学的機能に対するこれらの一般的な効果を評価するために、一次観察(Irwin)試験において経口投与を用いて調べた。Irwin et al.,Psychopharmacologia,1968,13,222〜257に記載されている第1の毒性用量、活性用量範囲、並びに挙動及び生理学的機能に対する試験物質の主な効果を検出する方法に従う。ラットに試験物質を投与し、ビヒクルを投与した対照群との同時比較において観察した(非盲検条件)。処理群の全ての動物を同時に観察した。Irwinによる標準化された観察グリッドに従って、挙動の変化、生理学的及び神経毒性症状、直腸温度、及び瞳孔径を記録した。グリッドは、以下の項目を含有する:死亡、痙攣、振戦、挙尾、活性変化、跳躍、異常歩行(ローリング、爪先立ち)、協調性のない運動、腹筋緊張の変化、把握の喪失、運動不能、カタレプシー、牽引の喪失、平衡感覚障害、前肢の踏みつけ、身悶え、立毛、常同(嗅ぐ動作、咀嚼、頭部運動)、頭部痙攣、引っ掻き、呼吸変化、攻撃性、恐怖/驚愕の変化、接触に対する反応性の変化、眼瞼下垂、眼球突出、正向反射の喪失、角膜反射の喪失、鎮痛、排便/下痢、唾液分泌、流涙、直腸温(低体温/高体温)、及び瞳孔径(縮瞳/散瞳)。試験物質を2用量(10及び60mg/kg)、試験直前p.o.投与で評価し、ビヒクル対照群と比較した。試験物質/ビヒクルの投与15、30、60、120、及び180分後、また24時間後に観察を実施した。
【0102】
【表3】
【0103】
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドヒドロクロリドにより、Irwin試験において10〜60mg/kgの用量範囲にわたって1匹のラットのみで弱くかつ一過性の効果が引き起こされた(表3)。10mg/kgでは、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドヒドロクロリドは、180分において4匹のラットのうちの1匹で接触に対する反応性を高めた。60mg/kgでは、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドヒドロクロリドは、60分において4匹のラットのうちの1匹で腹筋緊張を上昇させ、60及び180分において4匹のラットのうちの1匹で接触に対する反応性を高めた。60mg/kgにおける腹筋緊張の一過性且つ不定期な高まりの他には、投与24時間後までに他の徴候は観察されなかった。
【0104】
4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドヒドロクロリドは、両用量でIrwin試験において比較化合物HClとは異なる好ましい差を示した。4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドヒドロクロリドは、10mg/kgにおいて4匹のラットのうちの1匹でしか接触に対する反応性を高めなかったが、比較化合物HClは、3匹全てのラットで接触に対する反応性を高めた。60mg/kgでは、比較化合物HClは、3匹全てのラットで15〜120分において鎮静状態を誘導し、15分で異常歩行(ローリング)を誘導した。比較化合物HClは、30分において1匹のラットで、3匹全てのラットで60〜120分で筋緊張を低下させた。また、15〜60分及び180分において低体温を誘導した。これらの結果は、60mg/kg p.o.の比較化合物HClでは、4−(2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルメチル)−ピペラジン−1−カルボン酸(4−クロロ−ピリジン−3−イル)−アミドヒドロクロリドではみられなかった鎮静/抑制作用(鎮静状態、運動徴候、及び低体温)の存在を示唆する。