特許第5842629号(P5842629)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5842629差動信号伝送用ケーブル及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5842629
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】差動信号伝送用ケーブル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20151217BHJP
   H01B 7/17 20060101ALI20151217BHJP
   H01B 11/06 20060101ALI20151217BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
   H01B11/00 G
   H01B7/18 D
   H01B11/06
   H01B13/00 551Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-12848(P2012-12848)
(22)【出願日】2012年1月25日
(65)【公開番号】特開2012-169265(P2012-169265A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2014年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2011-15010(P2011-15010)
(32)【優先日】2011年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137855
【弁理士】
【氏名又は名称】沖川 寛
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
(72)【発明者】
【氏名】南畝 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 崇
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−208319(JP,A)
【文献】 特開2004−063418(JP,A)
【文献】 米国特許第05434354(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 7/17
H01B 11/06
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁体で覆って形成された絶縁電線と、
絶縁性を有する第1の基体の少なくとも一方の表面に第1の導電膜が形成され、平行して配置された一対の前記絶縁電線の周囲に、前記第1の導電膜が外側となるようにらせん状に巻き回されて配置された第1のテープと、
絶縁性を有する第2の基体の少なくとも一方の表面に第2の導電膜が形成され、前記第2の導電膜が前記第1の導電膜と接触するように前記第1のテープ上にらせん状に巻き回されて配置された第2のテープと、
を備え、10Gbps以上の差動信号の伝送に用いられる差動信号伝送用ケーブルであって、
前記第1のテープは、前記絶縁電線の長手方向を水平方向とした側面視において前記絶縁電線の上側の縁と前記第1のテープの縁とにより形成される角度のうち、前記絶縁電線の一方端部側となる第1の角度が鋭角であり、
前記第2のテープは、前記側面視において前記絶縁電線の前記上側の縁と前記第2のテープの縁とにより形成される角度のうち、前記絶縁電線の前記一方端部側となる第2の角度が鈍角であり、
前記第1のテープをらせん状に360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第1のテープが進む距離が、前記第2のテープをらせん状に360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第2のテープが進む距離と異なり、
前記第1のテープが重なり合う部分の端部に形成される段差と、前記第2のテープの重なり合う部分の端部に形成される段差との交点が、前記絶縁電線の長手方向に沿って並んでいない差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記第1のテープをらせん状に360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第1のテープが進む距離、前記第2のテープをらせん状に360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第2のテープが進む距離が、10%以上20%以下の範囲で異なる請求項1に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記第1の導電膜および前記第2の導電膜は、前記絶縁電線に巻き回されることにより、それぞれの幅の1/4以上が重なる請求項1又は2に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
導体を絶縁体で覆って形成された絶縁電線を準備する工程と、
絶縁性を有する第1の基体の少なくとも一方の表面に第1の導電膜が形成された第1のテープを、平行して配置された一対の前記絶縁電線の周囲に、前記第1の導電膜が外側となり、かつ、前記絶縁電線の長手方向を水平方向とした側面視において前記絶縁電線の上側の縁と前記第1のテープの縁とにより形成される角度のうち、前記絶縁電線の一方端部側となる第1の角度が鋭角となるようにらせん状に巻き回す工程と、
絶縁性を有する第2の基体の少なくとも一方の表面に第2の導電膜が形成された第2のテープを、前記第2の導電膜が前記第1の導電膜と接触し、かつ、前記側面視において前記絶縁電線の前記上側の縁と前記第2のテープの縁とにより形成される角度のうち、前記絶縁電線の前記一方端部側となる第2の角度が鈍角となるように前記第1のテープ上にらせん状に巻き回す工程と、
を含み、
前記第1のテープをらせん状に巻き回す工程において360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第1のテープが進む距離が、前記第2のテープをらせん状に巻き回す工程において360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第2のテープが進む距離と異なり、
前記第1のテープが重なり合う部分の端部に形成される段差と、前記第2のテープの重なり合う部分の端部に形成される段差との交点が、前記絶縁電線の長手方向に沿って並んでいない、
10Gbps以上の差動信号の伝送に用いられる差動信号伝送用ケーブルの製造方法。
【請求項5】
前記第1のテープをらせん状に巻き回す工程において360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第1のテープが進む距離、前記第2のテープをらせん状に巻き回す工程において360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第2のテープが進む距離が、10%以上20%以下の範囲で異なる請求項4に記載の差動信号伝送用ケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記第1のテープをらせん状に巻き回す工程および前記第2のテープをらせん状に巻き回す工程において、前記第1の導電膜および前記第2の導電膜は、前記絶縁電線に巻き回されることにより、それぞれの幅の1/4以上が重なる請求項4又は5に記載の差動信号伝送用ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動信号伝送用ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、平行に並べられた一対の絶縁電線に、さらに、少なくとも1本のドレイン導体を平行に並べ、この一対の絶縁電線とドレイン導体とを一括して金属箔テープで巻き回してシールド導体とし、このシールド導体の外周部を外被で覆った平行2心シールド電線が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の平行2心シールド電線は、金属箔テープの巻き回しによりシールド導体を形成するので、製造にかかる時間を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−289047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に係る平行2心シールド電線は、金属箔テープが金属箔とプラスチックテープの2層からなるため、巻き回しにより重なった部分には、金属箔、プラスチックテープ、金属箔となる積層構造が生じ、重なった部分において、金属箔と金属箔との電気的な接続をプラスチックテープにより絶縁する構造を周期的に有する。その結果、この平行2心シールド電線は、特定の周波数の伝送特性が急激に落ち込む、サックアウトが生じる問題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、伝送特性のサックアウトを抑制し、電子機器間および電子機器内の高速な差動信号伝送を可能とする差動信号伝送用ケーブル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、導体を絶縁体で覆って形成された絶縁電線と、絶縁性を有する第1の基体の少なくとも一方の表面に第1の導電膜が形成され、平行して配置された一対の絶縁電線の周囲に、第1の導電膜が外側となるようにらせん状に巻き回されて配置された第1のテープと、絶縁性を有する第2の基体の少なくとも一方の表面に第2の導電膜が形成され、第2の導電膜が第1の導電膜と接触するように第1のテープ上にらせん状に巻き回されて配置された第2のテープと、を備え、10Gbps以上の差動信号の伝送に用いられる差動信号伝送用ケーブルであって、第1のテープは、絶縁電線の長手方向を水平方向とした側面視において絶縁電線の上側の縁と第1のテープの縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線の一方端部側となる第1の角度が鋭角であり、第2のテープは、側面視において絶縁電線の上側の縁と第2のテープの縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線の一方端部側となる第2の角度が鈍角であり、前記第1のテープをらせん状に360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第1のテープが進む距離が、前記第2のテープをらせん状に360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第2のテープが進む距離と異なり、前記第1のテープが重なり合う部分の端部に形成される段差と、前記第2のテープの重なり合う部分の端部に形成される段差との交点が、前記絶縁電線の長手方向に沿って並んでいない差動信号伝送用ケーブルを提供する。
【0008】
上記の差動信号伝送用ケーブルは、第1のテープをらせん状に360°巻き回すことで絶縁電線の長手方向に第1のテープが進む距離、第2のテープをらせん状に360°巻き回すことで絶縁電線の長手方向に第2のテープが進む距離が、10%以上20%以下の範囲で異なることが好ましい。
【0009】
上記の差動信号伝送用ケーブルは、第1の導電膜および第2の導電膜は、絶縁電線に巻き回されることにより、それぞれの幅の1/4以上が重なることが好ましい。
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、導体を絶縁体で覆って形成された絶縁電線を準備する工程と、絶縁性を有する第1の基体の少なくとも一方の表面に第1の導電膜が形成された第1のテープを、平行して配置された一対の絶縁電線の周囲に、第1の導電膜が外側となり、かつ、絶縁電線の長手方向を水平方向とした側面視において絶縁電線の上側の縁と第1のテープの縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線の一方端部側となる第1の角度が鋭角となるようにらせん状に巻き回す工程と、絶縁性を有する第2の基体の少なくとも一方の表面に第2の導電膜が形成された第2のテープを、第2の導電膜が第1の導電膜と接触し、かつ、側面視において絶縁電線の上側の縁と第2のテープの縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線の一方端部側となる第2の角度が鈍角となるように第1のテープ上にらせん状に巻き回す工程と、を含み、前記第1のテープをらせん状に巻き回す工程において360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第1のテープが進む距離が、前記第2のテープをらせん状に巻き回す工程において360°巻き回すことで前記絶縁電線の長手方向に前記第2のテープが進む距離と異なり、前記第1のテープが重なり合う部分の端部に形成される段差と、前記第2のテープの重なり合う部分の端部に形成される段差との交点が、前記絶縁電線の長手方向に沿って並んでいない、10Gbps以上の差動信号の伝送に用いられる差動信号伝送用ケーブルの製造方法を提供する。
【0011】
上記の差動信号伝送用ケーブルの製造方法は、第1のテープをらせん状に巻き回す工程において360°巻き回すことで絶縁電線の長手方向に第1のテープが進む距離、第2のテープをらせん状に巻き回す工程において360°巻き回すことで絶縁電線の長手方向に第2のテープが進む距離が、10%以上20%以下の範囲で異なることが好ましい。
【0012】
上記の差動信号伝送用ケーブルの製造方法は、第1のテープをらせん状に巻き回す工程および第2のテープをらせん状に巻き回す工程において、第1の導電膜および第2の導電膜は、絶縁電線に巻き回されることにより、それぞれの幅の1/4以上が重なることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る差動信号伝送用ケーブル及びその製造方法によれば、伝送特性のサックアウトを抑制し、電子機器間および電子機器内の高速な差動信号伝送を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの斜視図である。
図2図2は、実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの長手方向の要部断面図である。
図3図3は、実施の形態に係る交点とピッチPaとの関係式の導出について説明するための概略図である。
図4図4(a)は、実施の形態に係る差分信号伝送用ケーブルの第1の金属箔テープの巻き回し工程についての概略図であり、(b)第2の金属箔テープの巻き回し工程についての概略図であり、(c)は、第1の金属箔の段差のピッチと異なるピッチで段差が形成された第2の金属箔の巻き回し工程についての概略図である。
図5図5(a)は、金属箔テープを1回巻いた差動信号伝送用ケーブルと2回巻いた差動信号伝送用ケーブルとの伝送特性に関するグラフであり、(b)は、ピッチが異なる場合の差動信号伝送用ケーブルに関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態の要約]
実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルは、導体を絶縁体で覆って形成された絶縁電線と、絶縁性を有する第1の基体の少なくとも一方の表面に第1の導電膜が形成され、平行して配置された一対の絶縁電線の周囲に、第1の導電膜が外側となるようにらせん状に巻き回されて配置された第1のテープと、絶縁性を有する第2の基体の少なくとも一方の表面に第2の導電膜が形成され、第2の導電膜が第1の導電膜と接触するように第1のテープ上にらせん状に巻き回されて配置された第2のテープと、を備え、第1のテープは、絶縁電線の長手方向を水平方向とした側面視において絶縁電線の上側の縁と第1のテープの縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線の一方端部側となる第1の角度が鋭角であり、第2のテープは、側面視において絶縁電線の上側の縁と第2のテープの縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線の一方端部側となる第2の角度が鈍角である。
【0016】
また、実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの製造方法は、導体を絶縁体で覆って形成された絶縁電線を準備する工程と、絶縁性を有する第1の基体の少なくとも一方の表面に第1の導電膜が形成された第1のテープを、平行して配置された一対の絶縁電線の周囲に、第1の導電膜が外側となり、かつ、絶縁電線の長手方向を水平方向とした側面視において絶縁電線の上側の縁と第1のテープの縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線の一方端部側となる第1の角度が鋭角となるようにらせん状に巻き回す工程と、絶縁性を有する第2の基体の少なくとも一方の表面に第2の導電膜が形成された第2のテープを、第2の導電膜が第1の導電膜と接触し、かつ、側面視において絶縁電線の上側の縁と第2のテープの縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線の一方端部側となる第2の角度が鈍角となるように第1のテープ上にらせん状に巻き回す工程と、を含む。
【0017】
[実施の形態]
(差動信号伝送用ケーブル1の構成の概要)
図1は、実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの斜視図である。この差動信号伝送用ケーブル1は、一例として、10Gbps以上の差動信号を用いたサーバ、ルータおよびストレージ等の電子機器間または電子機器内の差動信号伝送用のケーブルである。
【0018】
この差動信号伝送とは、一対の導線において、位相が180°異なる信号をそれぞれの導線に伝送し、受信装置側において、この位相が異なる2つの信号の差分を取り出すものである。この一対の導線に流れる電流は、互いに逆方向に流れているため、この電流が流れる伝送経路である導線から放射される電磁波が小さくなる。また、差動信号伝送は、外部から受けたノイズが2つの導線に等しく重畳することから、差分を取ることにより、ノイズを除去することが可能となる。
【0019】
本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1は、例えば、図1に示すように、導体2を絶縁体3で覆って形成された絶縁電線4と、絶縁性を有する第1の基体としてのプラスチックテープ51の一方の表面に第1の導電膜としての金属箔52が形成され、平行して配置された一対の絶縁電線4の周囲に、金属箔52が外側となるようにらせん状に巻き回されて配置された第1のテープとしての第1の金属箔テープ5と、絶縁性を有する第2の基体としてのプラスチックテープ61の一方の表面に第2の導電膜としての金属箔62が形成され、金属箔62が金属箔52と接触するように第1の金属箔テープ5上にらせん状に巻き回されて配置された第2のテープとしての第2の金属箔テープ6と、を備えて概略構成されている。また、第1の金属箔テープ5は、絶縁電線4の長手方向(図1に示す一点鎖線)を水平方向とした側面視において絶縁電線4の上側の縁と第1の金属箔テープ5の縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線4の一方端部(端部40)側となる第1の角度θ1が鋭角である。さらに、第2の金属箔テープ6は、側面視において絶縁電線4の上側の縁と第2の金属箔テープ6の縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線4の一方端部側となる後述する第2の角度θ2図4(b)参照)が鈍角である。
【0020】
導体2は、例えば、銅等の電気良導体の単線、または、この電気導体にメッキ等を施した単線である。なお、導体2は、例えば、屈曲特性を重視する場合、複数の導線を撚って形成する撚線を用いても良い。
【0021】
絶縁体3は、例えば、誘電率、誘電正接の小さい材料を用いて形成される。この材料は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、ポリエチレン等である。なお、絶縁体3は、誘電率、誘電正接を小さくするため、発泡絶縁樹脂を用いて形成されても良い。絶縁体3は、例えば、発泡絶縁樹脂を用いて形成される場合、樹脂に発泡剤を練り込み、成型時の温度によって発泡度を制御する方法、窒素等のガスを成型圧力で注入し、圧力解放時に発泡させる方法等を用いて形成される。
【0022】
第1の金属箔テープ5のプラスチックテープ51、および第2の金属箔テープ6のプラスチックテープ61は、例えば、同じ材料を用いて形成される。用いられる材料は、例えば、ポリエチレン等の樹脂材料である。
【0023】
金属箔52および金属箔62は、例えば、同じ材料を用いて形成される。用いられる材料は、例えば、銅またはアルミニウム等の導電性を有する材料である。
【0024】
なお、本実施の形態に係る第1の金属箔テープ5および第2の金属箔テープ6は、一方の表面に金属箔を形成したものであったが、これに限定されず、少なくとも第1の金属箔テープ5および第2の金属箔テープ6のいずれか一方の両面に金属箔を形成しても良い。
【0025】
図2は、実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの長手方向の要部断面図である。
【0026】
第1の金属箔テープ5は、例えば、図1に示すように、ピッチP1で一対の絶縁電線4の周囲に巻き回される。図2に示す段差部53は、巻き回された第1の金属箔テープ5が重なった部分(ラップ部54)の端部に形成される段差を示している。この段差部53とラップ部54の境界近傍において、第1の金属箔テープ5の金属箔52と、第2の金属箔テープ6の金属箔62と、が接触する。従って、第1の金属箔テープ5を流れる電流8は、主に、長手方向に沿って流れる。
【0027】
第1の金属箔テープ5は、例えば、その幅をW1とするとき、第1の金属箔テープ5が重なり合う部分であるラップ部54の幅W2(W1と平行)が、W1/4以上であることが好ましい。これは、第1の金属箔テープ5および第2の金属箔テープ6が巻き回されることにより、十分に接触し、かつ、絶縁電線4と一体になる必要があるからである。
【0028】
第2の金属箔テープ6は、例えば、図1に示すように、ピッチP2で一対の絶縁電線4に巻き回された第1の金属箔テープ5の周囲に巻き回される。図2に示す段差部63は、巻き回された第2の金属箔テープ6が重なった部分(ラップ部64)の端部に形成される段差を示している。この段差部63とラップ部64の境界近傍において、第1の金属箔テープ5の金属箔52と、第2の金属箔テープ6の金属箔62と、が接触する。
【0029】
また、第2の金属箔テープ6は、例えば、その幅をW3とするとき、第2の金属箔テープ6が重なり合う部分であるラップ部64の幅W4(W3と平行)は、W3/4以上であることが好ましいのは、上述のラップ部54と同じ理由による。
【0030】
なお、ピッチP1は、第1の金属箔テープ5をらせん状に360°巻き回すことで絶縁電線4の長手方向に第1の金属箔テープ5が進む距離であるものとする。また、ピッチP2は、第2の金属箔テープ6をらせん状に360°巻き回すことで絶縁電線4の長手方向に第2の金属箔テープ6が進む距離であるものとする。つまり、ピッチP1およびピッチP2とは、差動信号伝送用ケーブル1の側面視において、差動信号伝送用ケーブル1の長手方向に沿った段差部の間隔である。
【0031】
ここで、差動信号伝送用ケーブル1の1層目となる第1の金属箔テープ5と、2層目となる第2の金属箔テープ6と、が交差する点のピッチPaについて説明する。なお、このピッチPaは、交差する点と点の距離ではなく、差動信号伝送用ケーブル1の側面視において、差動信号伝送用ケーブル1の長手方向と直交し、かつ、交点を通る直線の間隔を示すものとする。
【0032】
図3は、実施の形態に係る交点とピッチPaとの関係式の導出について説明するための概略図である。図3に示す点線は、第1の金属箔テープ5の段差部53を示している。図3に示すLは、差動信号伝送用ケーブル1の側面視における差動信号伝送用ケーブル1の幅である。図3に示すx1およびx2は、段差部53と段差部63との交点を示す。図3に示す差動信号伝送用ケーブル1の長手方向に直交し、かつ、交点x2を通過する直線が、差動信号伝送用ケーブル1の図3の上部の長手方向と交差する交点をx3、下部の長手方向と交差する交点をx4とする。交点x1の段差部53の縁である点線の直線部分を延長し、この直線と交点x2を通過する直線との交点をx5とする。交点x1を形成する段差部53の図3の上部側と、差動信号伝送用ケーブル1の長手方向が交差する交点をx6とする。交点x2を形成する段差部53の図3の上部側と、差動信号伝送用ケーブル1の長手方向が交差する交点をx7とする。図3では、一例として、この交点x7が段差部53と段差部63との交点となっており、この交点x7を形成する段差部63の図3の下部側と、差動信号伝送用ケーブル1の長手方向との交点をx8とする。
【0033】
まず、図3に示すように、交点x2と交点x3との距離L1と、交点x2と交点x4との距離L2と、には、以下の式(1)の関係が成り立つ。
1+L2=L・・・(1)
また、図3に示すように、三角形x1、x6、x7と三角形x1、x4、x5が相似であり、また、三角形x1、x7、x8と三角形x1、x2、x4が相似であるので、距離L1および距離L2は、距離L、ピッチPa、ピッチP1およびピッチP2を用いて以下の式(2)および式(3)により求めることができる。
1=L×Pa/P1・・・(2)
2=L×Pa/P2・・・(3)
式(2)および式(3)を式(1)に代入し、ピッチPaについて解くと、以下の式(4)が得られる。
a=P1×P2/(P1+P2)・・・(4)
一例として、2層目の第2の金属箔テープ6のピッチP2が、1層目の第1の金属箔テープ5のピッチP1よりも10%広いとき、つまり、P2/P1=1.1が成り立つとき、式(4)を用いて以下の式(5)が得られる。
a=0.5238P1・・・(5)
ただし、小数点第5位以下は切り捨てた。
従って、式(5)より、1層目のピッチP1と2層目のピッチP2とが10%異なるとき、交点のピッチPaは、ピッチP1およびピッチP2のいずれとも異なっていて、さらに、交点のピッチPaを整数倍(例えば、2倍)しても、ピッチP1およびピッチP2のいずれとも異なっている。このため、差動信号伝送用ケーブル1の長手方向に沿って交点が並ばないことが分かる。
【0034】
以下に、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1の製造方法について説明する。なお、以下では、主に、第1の金属箔テープ5および第2の金属箔テープ6の巻き回しについて説明する。
【0035】
(差動信号伝送用ケーブル1の製造方法)
図4(a)は、実施の形態に係る差分信号伝送用ケーブルの第1の金属箔テープの巻き回し工程についての概略図であり、(b)第2の金属箔テープの巻き回し工程についての概略図であり、(c)は、第1の金属箔の段差のピッチと異なるピッチで段差が形成された第2の金属箔の巻き回し工程についての概略図である。なお、図4(a)では、一対の絶縁電線4の長手方向と第1の金属箔テープ5の一方端部側の縁との第1の角度θ1を図示しているが、端部40は、図4(a)の紙面左側に位置する。また、図4(b)および(c)では、一対の絶縁電線4の長手方向と第2の金属箔テープ6の一方端部側の縁との第2の角度θ2を図示しているが、端部40は、図4(b)および(c)の紙面右側に位置する。
【0036】
以下では、一方向に絶縁電線4を送り出しながら、第1の金属箔テープ5を一対の絶縁電線4に巻き回した後、続いて、第1の金属箔テープ5を巻き回した終端側から第2の金属箔テープ6を巻き回す製造方法について説明する。
【0037】
まず、導体2を絶縁体3で覆って形成された絶縁電線4を準備する。
【0038】
次に、図4(a)に示すように、絶縁性を有するプラスチックテープ51の表面に金属箔52が形成された第1の金属箔テープ5を、平行して配置された一対の絶縁電線4の周囲に、金属箔52が外側となり、かつ、絶縁電線4の長手方向を水平方向とした側面視において絶縁電線4の上側の縁と第1の金属箔テープ5の縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線4の一方端部側となる第1の角度θ1が鋭角となるようにらせん状に巻き回す。
【0039】
具体的には、図4(a)の紙面の右方向から左方向に、上記の一対の絶縁電線4を送り出し、この一対の絶縁電線4の周囲に第1の角度θ1、ピッチP1で、第1の金属箔テープ5をらせん状に巻き回す。
【0040】
次に、絶縁性を有するプラスチックテープ61の表面に金属箔62が形成された第2の金属箔テープ6を、金属箔62が金属箔52と接触し、かつ、絶縁電線4の長手方向を水平方向とした側面視において絶縁電線4の上側の縁と第2の金属箔テープ6の縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線4の一方端部側となる第2の角度θ2が鈍角となるように第1の金属箔テープ5上にらせん状に巻き回し、周知の工程を経ることにより、差動信号伝送用ケーブル1を得る。
【0041】
具体的には、第1の金属箔テープ5を巻き回した終端部側から、図4(b)の紙面の右方向から左方向に第1の金属箔テープ5を巻いた一対の絶縁電線4を送り出し、この一対の絶縁電線4の周囲に第2の角度θ2、ピッチP2で、第2の金属箔テープ6をらせん状に巻き回す。
【0042】
ここで、図4(b)では、絶縁電線4の上側の縁と第2の金属箔テープ6の縁とにより形成される角度のうち、他方端部側の第3の角度θ3と第1の角度θ1とが一致し、さらに、ピッチP1とピッチP2とが一致する差動信号伝送用ケーブルを図示している。また、図4(c)では、第1の角度θ1と第3の角度θ3とが同じであり、ピッチP1とピッチP2、が異なる差動信号伝送用ケーブルを図示している。
【0043】
なお、一対の導体を1つの絶縁体で覆った絶縁電線を作成し、その絶縁電線に第1の金属箔テープ5および第2の金属箔テープ6を巻き回しても良い。
【0044】
続いて、以下では、差動信号伝送用ケーブルの伝送特性の測定結果について説明する。
【0045】
(伝送特性について)
図5(a)は、金属箔テープを1回巻いた差動信号伝送用ケーブルと2回巻いた差動信号伝送用ケーブルとの伝送特性に関するグラフであり、(b)は、ピッチが異なる場合の差動信号伝送用ケーブルに関するグラフである。図5(a)および(b)は、縦軸が伝送特性(dB)であり、横軸は周波数(Hz)である。また、図5(a)に示す実線は、金属箔テープを2回巻いた差動信号伝送用ケーブルの伝送特性を示し、点線は、金属箔テープを1回巻いた差動信号伝送用ケーブルの伝送特性を示している。また、図5(b)に示す実線は、1層目(第1の金属箔テープ5)および2層目(第2の金属箔テープ6)のピッチが10%異なるピッチとなる差動信号伝送用ケーブルの伝送特性を示し、点線は、1層目および2層目のピッチが同じ差動信号伝送用ケーブルの伝送特性を示している。
【0046】
差動信号伝送用ケーブルの伝送特性の測定は、4ポートのネットワークアナライザを用いて行われる。具体的には、差動信号伝送用ケーブルの一端の2つの導体にポート1およびポート2を接続し、多端の2つの導体にポート3およびポート4を接続した後、Sパラメータの測定を各周波数、掃引して行うことにより、測定が行われる。続いて、この測定により得られたSパラメータが、適宜合成されることで、差動信号伝送用ケーブルの減衰特性、すなわち、伝送特性が得られる。ここでは、アジレントテクノロジー株式会社のネットワークアナライザ(N5230A)を用いて、ポート1およびポート2の差動入力から、ポート3およびポート4の差動出力の伝送特性(Sdd21)を求めた。
【0047】
金属箔を1層巻き回した差動信号伝送用ケーブルは、図5(a)に示すように、周波数が高い領域において、伝送特性の大きな窪み(サックアウト)が測定された。このサックアウトが生じる原因は、金属箔を1層で巻き回す場合、金属箔を形成したプラスチックテープにより、金属箔同士の接触を阻害して絶縁されている状態となり、かつ、この構造が周期的に存在するからでる。また、一般的に、巻き回しのピッチが30mm程度である差動信号伝送用ケーブルの場合、12GHz近傍の周波数にサックアウトが現れるので、10Gbps以上の差動信号伝送においては、大きな問題となる。例えば、伝送速度が25Gbpsの信号を伝送する場合、その基本波は、12.5GHzとなるので、12GHz近傍のサックアウトにより、信号が大きく減衰してしまう。
【0048】
一方、実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1は、上記に示したように、1層目の金属箔52と2層目の金属箔62とが、段差部53および段差部63においても電気的に接続するため、図5(a)に示すように、金属箔を1層巻き回した差動信号伝送用ケーブルと比べて、サックアウトが大きく抑制される。
【0049】
しかしながら、図5(a)に示すように、周波数が低い領域において、伝送特性の小さな窪み(ディップ)が観測された。この窪みは、図4(b)に示す交点7が、差動信号伝送用ケーブル1の長手方向(図4(b)に示す一点鎖線)に揃うことに起因している。つまり、第1の金属箔テープ5と第2の金属箔テープ6とにおいて、巻き回すピッチP1およびピッチP2が同じ場合、形成される交点7が、長手方向に並び、伝送特性に影響を与える。そこで、図4(c)に示すように、ピッチP1とピッチP2を10%程度ずらした差動信号伝送用ケーブル1(ピッチP3)を作成し、その伝送特性を測定した。なお、比較のため、ピッチP3の差動信号伝送用ケーブル1の第2の金属箔テープ6の巻き回しの角度は、図4(b)に示す差動信号伝送用ケーブルと同様にθ2とする。
【0050】
図4(c)に示す差動信号伝送用ケーブル1は、交点7が長手方向(図4(c)に示す一点鎖線)に沿って並んでいない。その伝送特性は、図5(b)に示すように、ピッチが同じ場合に観測されたディップが解消され、サックアウトが抑制されている。従って、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1は、ピッチP1およびピッチP2を10%以上20%以下の範囲で異なるピッチとすることが好ましい。このピッチの差が10%よりも小さい場合、上述の範囲の場合と比べて、交点のずれが小さく、サックアウトの抑制の幅が小さくなる。また、ピッチの差が20%よりも大きい場合、上述の範囲の場合と比べて、交点のずれは大きいが、ピッチの狭い方のテープを巻く工程に時間が余計に掛かり、また、ピッチの広い方のテープを巻く工程では、ピッチが広いため、テープが緩み易くなる。よって、ピッチの差は、上述の範囲であることが好ましい。
【0051】
(実施の形態の効果)
実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1によれば、伝送特性のサックアウトを抑制し、電子機器間および電子機器内の高速な差動信号伝送を可能とすることができる。つまり、差動信号伝送用ケーブル1は、らせん状の金属箔を巻き回したケーブルでありながら、巻き回すことにより生じる段差部53および段差部63において、金属箔52および金属箔62が電気的に接続するので、金属箔を1層巻いて段差部にて絶縁状態が生じるケーブルと比べて、サックアウトが抑制される。さらに、差動信号伝送用ケーブル1は、1層目と2層目との交点が長手方向に並ばないので、並ぶ場合と比べて、さらに、サックアウトが抑制される。従って、実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1は、10Gbps以上の差動信号伝送において、特に有用である。
【0052】
また、差動信号伝送用ケーブル1は、金属箔を長手方向に添えて形成されるケーブルと比べて、屈曲しても金属箔テープが、撓んだり、しわが生じたりすることが少ないため、断線がほとんど発生しない。
【0053】
さらに、差動信号伝送用ケーブル1の第1の金属箔テープ5は、絶縁電線4の長手方向を水平方向とした側面視において絶縁電線4の上側の縁と第1の金属箔テープ5の縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線4の一方端部側となる第1の角度θ1が鋭角である。また、差動信号伝送用ケーブル1の第2の金属箔テープ6は、絶縁電線4の長手方向を水平方向とした側面視において絶縁電線4の上側の縁と第2の金属箔テープ6の縁とにより形成される角度のうち、絶縁電線4の一方端部側となる第2の角度θ2が鈍角である。従って、差動信号伝送用ケーブル1は、巻き回しのピッチずれが生じた場合であっても、段差部53および段差部63において、第1の金属箔テープ5と第2の金属箔テープ6との電気的な接続が確保される。また、差動信号伝送用ケーブル1は、第1の金属箔テープと第2の金属箔テープの幅を同一とし、幅の半分のピッチを保ちながら巻き回す場合と比べて、製造工程において高い精度を必要とせず、歩留まりが向上する。
【0054】
なお、上記の差動信号伝送用ケーブル1は、導体2が単線であったが、これに限定されず、複数の導体を寄り合わせた撚線であっても良い。
【0055】
以上、本発明の実施の形態及びその変形例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び変形例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び変形例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0056】
1…差動信号伝送用ケーブル
2…導体
3…絶縁体
4…絶縁電線
5…第1の金属箔テープ
6…第1の金属箔テープ
7…交点
8…電流
40…端部
51…プラスチックテープ
52…金属箔
53…段差部
54…ラップ部
61…プラスチックテープ
62…金属箔
63…段差部
64…ラップ部
図1
図2
図3
図4
図5