特許第5842794号(P5842794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5842794アルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5842794
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】アルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/52 20100101AFI20151217BHJP
【FI】
   H01M4/52
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-254507(P2012-254507)
(22)【出願日】2012年11月20日
(65)【公開番号】特開2014-103004(P2014-103004A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2014年10月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】岡東 寿明
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 知倫
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 英雄
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−147857(JP,A)
【文献】 特開2012−091955(JP,A)
【文献】 特開2004−071304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯粒子とその表面に形成された被覆層で構成されたアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末であって、芯粒子が水酸化ニッケル及び被覆層がコバルト化合物からなり、全炭素含有量が1000質量ppm以下であり、被覆水酸化ニッケル粉末10gに対して水10mlを加えて懸濁液としたとき、オキソニウムイオン、水酸化物イオン及び炭酸イオンを除くイオンの総溶出量が7mmol/l以下であることを特徴とするアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末。
【請求項2】
前記懸濁液中のナトリウムイオンの溶出量が4.0mmol/l以下であることを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末。
【請求項3】
ナトリウム含有量が250質量ppm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末。
【請求項4】
前記懸濁液中の硫酸イオンの溶出量が1.5mmol/l以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末。
【請求項5】
硫酸基含有量が0.40質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末。
【請求項6】
被覆水酸化ニッケル粉末1gに対して水10mlを加えて懸濁液とし、10分間静置後の上澄み部のJIS K0101に規定される濁度が300度(カオリン)以上となることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末。
【請求項7】
前記コバルト化合物が、水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルト、又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載したアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法であって、ニッケル含有水溶液にアルカリ水溶液を供給し、水酸化ニッケル粒子を中和晶析させて芯粒子を得る晶析工程と、芯粒子の表面にコバルト化合物からなる被覆層を形成する被覆工程と、得られた被覆水酸化ニッケル粉末を洗浄する洗浄工程と、洗浄後の被覆水酸化ニッケル粉末を乾燥する乾燥工程を具え、全炭素含有量が1000質量ppm以下であるアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法であって、
洗浄工程において、被覆水酸化ニッケル粉末に対して質量比で4倍以上の水を用いて洗浄し、
乾燥工程において、被覆水酸化ニッケル粉末を炭素含有ガス分圧が15Pa以下の脱炭酸雰囲気中で乾燥することを特徴とするアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法
【請求項9】
前記乾燥工程において、二酸化炭素分圧が10Pa以下の脱炭酸大気雰囲気中で乾燥することを特徴とする、請求項に記載のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ二次電池用正極活物質である水酸化ニッケル粉末、特に粒子間の導電性を確保して、電池の利用率と寿命特性、出力特性を高めるために、コバルト化合物で被覆した被覆水酸化ニッケル粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポータブル機器やハイブリッドカー搭載用向けに二次電池の需要が高まると共に、その高容量化が強く求められている。そのため、アルカリ二次電池正極材料用の水酸化ニッケル粉末においても、高温での利用率を改善するために水酸化ニッケル粉末にコバルトを固溶させたり、寿命特性を改善するために水酸化ニッケル粉末に亜鉛やマグネシウムを固溶させたりする改善が行われている。
【0003】
特にハイブリッドカー用電源等のハイパワー用途のアルカリ二次電池に用いる水酸化ニッケル粉末においては、上述した高温での利用率の向上や寿命特性の改善のみならず、出力特性の改善も強く求められてきている。しかしながら、アルカリ二次電池正極材料用の水酸化ニッケル粉末は、電気的に絶縁体であるため導電性に乏しく、電流が水酸化ニッケルに十分行き渡らないために、水酸化ニッケルの電気化学的利用率が低くなってしまうという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、導電材として酸化コバルトや水酸化コバルトなどのコバルト化合物で水酸化ニッケル粒子の表面を被覆して、水酸化ニッケル粒子間の導電性を確保することが行われている。この水酸化ニッケル粒子の表面に被覆されたコバルト化合物によって電気導電性が発現され、水酸化ニッケル粒子間の導電ネットワークが形成される。
【0005】
例えば、特許文献1には、主成分が水酸化ニッケルの粒子にβ型水酸化コバルトの薄層を形成した蓄電池用ニッケル活物質が提案されている。このニッケル活物質は、アルカリ水溶液中でニッケル塩から水酸化ニッケル粉末を析出させた後、その水酸化ニッケル粉末を硫酸コバルト塩あるいは硝酸コバルト塩の水溶液中に浸漬し、次にアルカリ水溶液で中和することで得られるとされている。
【0006】
また、水酸化コバルトで被覆した水酸化ニッケル粉末の製造方法として、特許文献2には、水酸化ニッケル粉末を含有し苛性アルカリでpH11〜13に調整された水溶液に、コバルトを含む水溶液とアンモニウムイオン供給体とを同時に連続的に定量供給することが記載されている。
【0007】
更に、特許文献3には、水酸化ニッケル原料粉末の懸濁液のpH、温度、アンモニウムイオン濃度を所定値に維持しながら、ニッケルイオン濃度が10〜50mg/l及びコバルトイオン濃度が5〜40mg/lとなるように、水酸化ニッケル原料粉末1kgに対してコバルト換算で0.7g/分以下の供給速度でコバルトイオンを含む水溶液を供給すると共に、アンモニウムイオンを含む水溶液を該懸濁液に供給する方法が提案されている。
【0008】
上記コバルト化合物を被覆した水酸化ニッケル粉末を用いたアルカリ二次電池用の正極は、一般的に、水酸化ニッケル粉末とバインダーである有機物ポリマーを溶媒と混合してペースト化し、これを発泡ニッケル等の三次元金属多孔体に充填した後、乾燥、プレス等の工程を経て製造されている。しかしながら、コバルト化合物を被覆した水酸化ニッケル粉末は一般的にペースト中での分散性が悪く、正極作製時における発泡ニッケル等への充填密度が低下するため、期待される電池特性を発揮できないという問題があった。
【0009】
この問題に対し、一般にタップ密度が高いほど高密度充填が可能とされ、電池容量の向上が見込めるため、芯材となる水酸化ニッケル粉末の高タップ密度化が検討されている。例えば、特許文献4には、ニッケルを含む水溶液と苛性アルカリ水溶液とアンモニウムイオン供給体とを、同時に連続的に供給して水酸化ニッケルを晶析させることで粒径の肥大化を可能とし、2.1〜2.3g/mlの高タップ密度の水酸化ニッケル粉末を得ることが記載されている。また、特許文献5には、タップ密度が1.9g/ml以上、平均粒径が3〜25μmの高密度水酸化ニッケル粉末が記載されている。
【0010】
このように、コバルト化合物を被覆した被覆水酸化ニッケル粉末の高タップ密度化による高密度充填の提案はなされているものの、ペースト中での分散性の改善については有効な提案がなされておらず、正極作製時における発泡ニッケル等への充填密度は満足できる水準に達していないという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−152866号公報
【特許文献2】特開平07−133115号公報
【特許文献3】特開2000−149941号公報
【特許文献4】特開平07−245104号公報
【特許文献5】特開平10−012237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑み、ペースト化した際の分散性を改善して、アルカリ二次電池用の正極作製時に発泡ニッケル等の三次元金属多孔体への高密度充填が可能な被覆水酸化ニッケル粉末及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため、ペースト作製時に被覆水酸化ニッケル粉末が凝集して分散性が低下する原因について鋭意研究を進めた結果、溶媒である水中に被覆水酸化ニッケル粉末を分散させた際に溶出するイオン量が凝集発生に大きく影響していることを見出した。更に、被覆水酸化ニッケル粉末の製造過程において、乾燥時の雰囲気が上記イオン溶出量に影響していることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0014】
即ち、本発明によるアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末は、芯粒子とその表面に形成された被覆層で構成されたアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末であって、芯粒子が水酸化ニッケル及び被覆層がコバルト化合物からなり、被覆水酸化ニッケル粉末10gに対して水10mlを加えて懸濁液としたとき、オキソニウムイオン、水酸化物イオン及び炭酸イオンを除くイオンの総溶出量が6.5mmol/l以下であることを特徴とする。
【0015】
上記本発明のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末においては、前記懸濁液中のナトリウムイオンの溶出量が4.0mmol/l以下であることが好ましい。また、上記本発明のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末は、ナトリウム含有量が250質量ppm以下であることが好ましい。
【0016】
上記本発明のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末においては、前記懸濁液中の硫酸イオンの溶出量が1.5mmol/l以下であることが好ましい。また、上記本発明のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末は、硫酸基含有量が0.40質量%以下であることが好ましい。
【0017】
上記本発明のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末においては、被覆水酸化ニッケル粉末1gに対し水10mlを加えて懸濁液とし、10分間静置後の上澄み部のJIS K0101に規定される濁度が300度(カオリン)以上となることが好ましい。また、上記本発明のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケルは、全炭素含有量が1000質量ppm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明によるアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法は、上記したアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法であって、ニッケル含有水溶液にアルカリ水溶液を供給し、水酸化ニッケル粒子を中和晶析させて芯粒子を得る晶析工程と、芯粒子の表面にコバルト化合物からなる被覆層を形成する被覆工程と、得られた被覆水酸化ニッケル粉末を洗浄する洗浄工程と、洗浄後の被覆水酸化ニッケル粉末を乾燥する乾燥工程を具え、
洗浄工程において、被覆水酸化ニッケル粉末に対して質量比で4倍以上の水を用いて洗浄し、
乾燥工程において、被覆水酸化ニッケル粉末を炭素含有ガス分圧が15Pa以下の脱炭酸雰囲気中で乾燥することを特徴とする。
【0019】
また、上記本発明のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法においては、前記乾燥工程において、二酸化炭素分圧が10Pa以下の脱炭酸大気雰囲気中で乾燥することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ペースト作製時に被覆水酸化ニッケル粉末の凝集発生を抑制することができる。従って、本発明の被覆水酸化ニッケル粉末を用いることにより、アルカリ二次電池用の正極を作製する際に発泡ニッケル等の三次元金属多孔体に被覆水酸化ニッケル粉末を均一に充填することができるため、正極を高密度化することが可能となり、放電容量などの電池特性の向上を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発泡ニッケル等の三次元金属多孔体への被覆水酸化ニッケル粉末の充填性については、溶媒とバインダーの有機物ポリマーを混合してペースト化した際の粉末粒子の分散性が重要な要件となる。即ち、分散性が悪いペーストとは粉末が凝集して塊を生じている状態であり、この状態のペーストを発泡ニッケル等に充填した場合には均一な充填が困難になる。その結果として、発泡ニッケル等に被覆水酸化ニッケル粉末を充填して作製したアルカリ二次電池用の正極は、充填密度が低い正極となってしまう。
【0022】
一般にペースト化した際の粒子の分散性に影響する因子は、粒子の粒径や比表面積、結晶性等さまざまであるが、被覆水酸化ニッケル粉末においては溶出イオン濃度の影響が大きい。被覆水酸化ニッケル粉末の溶媒中での凝集は、ゼータ電位等の粒子が帯びる電位により影響を受け、その電位は溶出イオンの増加に伴い変化する。従って、ペースト化に用いる溶媒中での溶出イオン濃度を適正に制御することによって、その溶媒中での被覆水酸化ニッケル粉末の凝集を抑制することが可能となる。
【0023】
アルカリ二次電池では水系ペーストが一般的に用いられることが多いため、被覆水酸化ニッケル粉末10gに対して水10mlを加えて懸濁液としたときに、その懸濁液のオキソニウムイオン、水酸化物イオン及び炭酸イオンを除くイオンの総溶出量を6.5mmol/l以下となる被覆水酸化ニッケル粉末を用いることで、一般的に用いられる水系ペースト中での被覆水酸化ニッケル粉末の凝集を抑制できることが分かった。尚、オキソニウムイオン、水酸化物イオン及び炭酸イオンは、通常の状態でもペースト中に含まれており、粒子の凝集に及ぼす影響が小さい。
【0024】
ペースト中でのイオンの総溶出量は被覆水酸化ニッケル粉末と溶媒の比率によって初期の値は変化するが、通常用いられるペースト組成の範囲では、上記総溶出量を示す被覆水酸化ニッケル粉末を用いることにより粒子の凝集が抑制される電位で安定するため、凝集が抑制されて粒子の分散性に優れたペーストが得られる。尚、上記懸濁液中での総溶出量は、懸濁液作製直後は変動するが、1分以上保持することでpHが安定する。従って、被覆水酸化ニッケル粉末の懸濁液においては、被覆水酸化ニッケル粉末と水を混合して1分以上撹拌した後、総溶出量を測定することが好ましい。ただし、撹拌を10分以上行っても溶出量に変化がなく無駄であるため、10分以下とすることが好ましい。
【0025】
被覆水酸化ニッケル粉末の製造工程では、原材料や添加剤として硫酸基やナトリウムが含まれるものが用いられることが多く、また晶析工程及び被覆工程においてpH調整剤として水酸化ナトリウムや硫酸が用いられることが多い。そのため、上記ペースト中に溶出するイオンとしては、ナトリウムイオンあるいは硫酸イオンの溶出量が多くなる傾向にあり、これらのイオンの溶出量を低減することで凝集を効果的に抑制することができる。
【0026】
従って、上記懸濁液中のナトリウムイオンの溶出量は、4.0mmol/l以下にすることが好ましく、3.0mmol/l以下にすることがより好ましい。ナトリウムイオンの溶出量が4.0mmol/lを超えると、イオンの総溶出量が6.5mmol/lを超えてしまい、ペーストとした場合に被覆水酸化ニッケル粒子が凝集することがある。
【0027】
上記ナトリウムイオンの溶出量を低減させるためには、被覆水酸化ニッケル粉末のナトリウム含有量を低減させることがより効果的であり、具体的にはナトリウム含有量が250質量ppm以下であることが好ましい。被覆水酸化ニッケル粉末のナトリウム含有量が250質量ppmを超えると、上記懸濁液としたときナトリウムイオンの溶出量が4.0mmol/lを超えることがあるため好ましくない。
【0028】
一方、上記懸濁液中の硫酸イオンの溶出量は、1.5mmol/l以下であることが好ましく、1.0mmol/l以下であることがより好ましい。硫酸イオンの溶出量が1.5mmol/lを超えると、イオンの総溶出量が6.5mmol/lを超えてしまい、ペーストとした場合に被覆水酸化ニッケル粒子が凝集することがある。
【0029】
上記硫酸イオン溶出量の低減にも、被覆水酸化ニッケル粉末の硫酸基含有量を低減させることがより効果的であり、具体的には硫酸基含有量が0.40質量%以下であることが好ましい。硫酸基含有量が0.40質量%を超えると、硫酸イオンの溶出量が1.5mmol/lを超えることがあるため好ましくない。
【0030】
本発明の被覆水酸化ニッケル粉末においては、上記のごとくナトリウムや硫酸基の含有量が少ないほど好ましいが、これらは原材料や添加剤から混入するものであり、これらを極度に低減するためには原材料や添加剤からこれらを排除したり、洗浄を数多く繰り返したりする必要があり、コストも大幅に増加するため工業的には非現実的である。従って、工業的に低減できる含有量の下限は、ナトリウムについては100質量ppm程度、及び硫酸基については0.25質量%程度である。
【0031】
更に、本発明の被覆水酸化ニッケル粉末においては、全炭素含有量が1000質量ppm以下であることが好ましく、800質量ppm以下であることがより好ましく、500質量ppm以下であることが更に好ましい。全炭素含有量は、主に被覆水酸化ニッケル粒子表面に付着した二酸化炭素などの炭素含有ガスに由来するものであり、炭素含有ガスは粒子に付着しているイオンとイオン交換を生じ、被覆水酸化ニッケル粉末からのイオン溶出を促進する作用があると考えられる。従って、炭素含有ガスの付着量、即ち全炭素含有量を低減することで、ペースト中でのイオン溶出量を低減して、被覆水酸化ニッケル粒子の凝集を抑制することができる。
【0032】
分散性の悪い粒子の場合、溶媒中での凝集によって沈降性が高くなり、濁度が低下するため、懸濁液の濁度はペースト中での被覆水酸化ニッケル粉末の凝集の指標となる。被覆水酸化ニッケル粉末においても、ペースト化される際の溶媒である水に懸濁させた懸濁液の濁度が高いほど、ペースト中での被覆水酸化ニッケル粉末の凝集が抑制され、発泡ニッケル等への均一な充填が可能となるため、充填密度が高い正極が得られるが確認された。具体的には、被覆水酸化ニッケル粉末1gに対し水10mlを加えて懸濁液とし、10分間静置後の上澄み部の濁度(JIS K0101に規定)を300度(カオリン)以上とすることが好ましい。上記懸濁液の濁度が300度(カオリン)未満になると、ペースト中で被覆水酸化ニッケル粉末が凝集して、正極の充填密度が不十分になりやすい。
【0033】
上記した本発明の被覆水酸化ニッケル粉末は、後述する製造方法によって被覆水酸化ニッケル粉末のペースト中での分散性を改善向上させたものであり、上記分散性を改善向上させる要素以外、例えば芯粒子である水酸化ニッケルと被覆層であるコバルト化合物の組成や粒径などについては従来知られている被覆水酸化ニッケル粉末に準じたものでよい。
【0034】
被覆水酸化ニッケル粉末の芯粒子である水酸化ニッケル粒子としては、アルカリ二次電池正極活物質用として公知のものを使用できるが、その中でも特に一般式:Ni1−x−yCo(OH)(但し、xは0.005〜0.05、yは0.005〜0.05、MはCa、Mg、Znのうちの1種以上である)で表される水酸化ニッケルを用いることが好ましい。
【0035】
上記一般式において、コバルトの含有量を表すxが0.005未満ではコバルトの添加により達成される充電効率の向上効果が得られず、逆に0.05を超えると放電電圧の低下が発生して電池性能が低下する。また、添加元素Mの含有量を表すyが0.005未満では元素Mの添加効果である充放電時における水酸化ニッケルの体積変化の低減効果が発揮されず、逆に0.05を超えると体積変化の低減効果以上に電池容量の低下を招き、電池性能が悪化するため好ましくない。
【0036】
被覆水酸化ニッケル粉末において水酸化ニッケルの粒子表面を被覆するコバルト化合物は、水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトであるか、又はこれらの混合物であることが好ましい。このようなコバルト化合物で水酸化ニッケル粒子を被覆することによって、粒子間に電気導電性が発現され、水酸化ニッケルの電気化学的利用率を高くすることができる。
【0037】
被覆水酸化ニッケル粉末において、その被覆層に含有されるコバルト量は芯粒子である水酸化ニッケル粒子と被覆層の合計に対して3〜7質量%の範囲が好ましい。上記被覆層中のコバルト量が3質量%未満では、コバルト化合物としての被覆量が不足し、水酸化コバルト粒子表面の被覆効果が十分に発揮されない。一方、上記被覆層中のコバルト量が7質量%を超えても、コバルト化合物の被覆量が増えるだけで被覆効果の更なる向上は認められない。
【0038】
また、被覆水酸化ニッケル粉末の平均粒径は、レーザー回折散乱法による体積50%累積径で5〜15μmであることが好ましく、6〜12μmであることがより好ましい。上記平均粒径が5μm未満では正極への充填密度が低下することがあり、15μmを超えると電池での電気化学的利用率が低下することがある。
【0039】
次に、本発明のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法について説明する。本発明の被覆水酸化ニッケル粉末の製造方法は、ニッケル含有水溶液にアルカリ水溶液を供給し、水酸化ニッケル粒子を中和晶析させて芯粒子を得る晶析工程と、芯粒子の表面にコバルト化合物からなる被覆層を形成する被覆工程と、得られた被覆水酸化ニッケル粉末を洗浄する洗浄工程と、洗浄後の被覆水酸化ニッケル粉末を乾燥する乾燥工程とを具えている。
【0040】
上記晶析工程において、ニッケル含有水溶液としては、不純物の混入を防止するため、硫酸ニッケル水溶液を用いることが好ましい。電池特性を改善するために添加元素を加える場合は、添加元素を含む水溶液をニッケル含有水溶液に混合して用いることができる。また、アルカリ水溶液としては、不純物混入の抑制とコストの観点から、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0041】
上記晶析工程においては、中和反応中にアンミン錯体を形成させて中和反応を安定化し、晶析する水酸化ニッケル粒子の粒度分布や密度などの粉体特性を改善するために、更にアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を添加することができる。アンモニウムイオン供給体は、特に限定されるものではなく、反応水溶液中でニッケルアンミン錯体を形成可能なものであればよい。例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどが挙げられるが、アンモニアを用いることが好ましい。
【0042】
アンモニウムイオン供給体としてのアンモニアの添加量は、反応水溶液中においてニッケルイオンなどの金属イオンと結合して錯体を形成するのに十分な量であればよく、反応水溶液中の濃度で5〜20g/lとすることが好ましく、8〜15g/lとすることがより好ましい。反応水溶液中のアンモニアの濃度が5g/l未満では、錯体を形成する金属イオンの溶解度が低いため、水酸化ニッケル粒子の粒度分布が広くなったり、粒径が小さくなり過ぎたりすることがある。逆に20g/lを超えると、金属イオンの溶解度が高くなりすぎ、スラリーの液成分中にニッケルが残留して原料ロスが多くなることがある。また、添加元素を加えた場合には、ニッケルと添加元素の組成比のずれが発生することがある。
【0043】
中和晶析時のpHは、液温25℃基準で10〜13の範囲を維持するように制御することが好ましく、10.5〜12.5の範囲が更に好ましい。pHが10未満では、粒径の大きな粒子を得やすいが、晶析後のスラリーの液成分中にニッケルが残留することがある。また、pHが13を超えると、水酸化ニッケルの晶析速度が速くなりすぎるため、水酸化ニッケルの微粒子が多くなり、粒度分布が悪化したりするため好ましくない。
【0044】
上記晶析工程では、ニッケル含有水溶液にアルカリ水溶液とアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を直接添加してもよいが、粉体特性に優れた水酸化ニッケル粒子を得るためには、反応液中にニッケル含有水溶液とアルカリ水溶液及びアンモニウムイオン供給体を供給して中和晶析させることが好ましい。ニッケル含有水溶液とアンモニウムイオン供給体を含む水溶液は、混合液として供給することもできるが、pHが上昇して混合液中で水酸化ニッケル粒子が生成することがあるため、アルカリ水溶液も含めて個別に反応液に供給することが好ましい。
【0045】
晶析工程に用いる装置は一般的な晶析反応槽を用いることができ、連続方式又はバッチ方式のいずれの反応槽を用いてもよいが、均一に反応させることができるように撹拌装置付きの反応槽を用いることが好ましい。また、中和反応を安定化するためには温度制御することが好ましいため、温度調整機能付きの反応槽を用いることが好ましい。更に、晶析工程で得られた水酸化ニッケル粉末は、含まれる不純物を低減するため水洗することが好ましい。これにより、最終的な被覆水酸化ニッケル粉末としての上記イオンの総溶出量を低減することができる。
【0046】
次の被覆工程においては、上記晶析工程で得られた水酸化ニッケル粉末の粒子表面にコバルト化合物からなる被覆層を形成する。具体的には、芯粒子となる水酸化ニッケル粉末のスラリーにコバルト塩水溶液及びアルカリ水溶液を撹拌しながら供給し、スラリーのpHを25℃基準で8〜11.5の範囲に保持して、中和晶析する水酸化コバルトで水酸化ニッケル粒子の表面を被覆することにより、粒子表面が水酸化コバルトで被覆された被覆水酸化ニッケル粉末が得られる。
【0047】
上記スラリーのpHは、25℃基準で8〜11.5の範囲に保持することが好ましく、9.5〜10.5の範囲に保持することがより好ましい。上記スラリーのpH値が8未満では水酸化コバルトの析出が遅すぎるため生産性が低下し、逆にpH値が11.5を超えると生成する水酸化コバルトがゲル状となりやすいため良好な被覆が困難になることがある。尚、水酸化ニッケル粉末のスラリーのpHが11.5を超えないように、供給するコバルト塩に含まれるカチオンで構成される無機酸により上記範囲に調整することが好ましい。
【0048】
また、上記スラリーのpHは、25℃基準で8〜11.5の範囲内で一定値に保持し、変動幅±0.2の範囲内で制御することが好ましい。pHの変動幅が上記範囲を超えると、水酸化コバルトによる被覆量が変動する恐れがある。尚、上記スラリーのpHは、例えば、ガラス電極法を用いたpHコントローラーで連続測定しながら、pHの変動幅が上記範囲で一定となるように、供給するアルカリ水溶液の流量をpHコントローラーにより連続的にフィードバック制御することが好ましい。
【0049】
上記被覆工程では、コバルト塩水溶液の供給部での高濃度コバルト塩領域の形成や急激なpH上昇によって水酸化コバルトが単独で析出し易くなり、近くに水酸化ニッケル粒子が存在していなくても水酸化コバルトの単独析出が始まり、密着性と均一性の悪い水酸化コバルトが水酸化ニッケル表面粒子に付着しやすくなる。そのため、スラリーの撹拌やコバルト塩水溶液とアルカリ水溶液の供給口の距離を制御して、水酸化コバルトの単独析出を抑制することが好ましい。
【0050】
上記スラリーの水酸化ニッケル濃度は400〜1200g/lの範囲が好ましい。水酸化ニッケル濃度が400g/l未満では、水酸化コバルトの析出場所となる水酸化ニッケル粒子表面の活性点が不足し、液中で水酸化コバルトが単独で析出することがある。一方、水酸化ニッケル濃度が1200g/lを超えると、スラリーの粘度が上昇して撹拌が十分行えなくなり、水酸化コバルトの被覆が不均一になることがある。
【0051】
上記コバルト塩は、特に限定されるものではなく、pH制御により水酸化コバルトが生成される水溶性のコバルト化合物であればよい。具体的には、硫酸コバルトや塩化コバルトが好ましく、ハロゲンによる汚染のない硫酸コバルトがより好ましい。また、上記アルカリとしては、特に限定されるものではないが、水溶性の水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが好ましく、コストの観点から水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0052】
上記スラリーの温度は、コバルト塩水溶液及びアルカリ水溶液の添加前後で30〜60℃の範囲であることが好ましい。温度が30℃未満では反応速度が低下するため水酸化コバルトの析出が遅くなり、逆に60℃を超えると反応速度が速すぎるため、水酸化ニッケル粒子表面への水酸化コバルトの析出が不均一になりやすいからである。また、上記スラリーの温度は、上記温度範囲内の一定値に保持し、変動幅が±1℃の範囲内となるように制御されることが好ましい。温度が上記変動幅を超えると、析出する水酸化コバルト中の不純物濃度に変動が生じるため、電池に用いられたときの特性が安定しない恐れがある。
【0053】
上記被覆工程によって、粒子表面に水酸化コバルトの被覆層が均一且つ強固に形成された被覆水酸化ニッケル粉末が得られる。また、上記被覆工程においてスラリー中で水酸化ニッケル粉末の粒子表面に水酸化コバルトを被覆した後、更にスラリーを撹拌しながら空気や酸素を供給するか若しくは酸化剤を添加するなどの方法により、被覆層である水酸化コバルトを酸化させてオキシ水酸化コバルトにすることも可能である。
【0054】
上記水酸化コバルト被覆層の酸化は、水酸化ニッケル粒子への被覆と連続的に行ってもよい。例えば、水酸化ニッケル粒子への被覆を行う第1反応槽(被覆槽)と水酸化コバルトの酸化を行う第2反応槽(酸化槽)をカスケード接続し、第1反応槽(被覆槽)において水酸化コバルトで被覆された被覆水酸化ニッケル粉末を連続的に第2反応槽(酸化槽)に供給して酸化し、オキシ水酸化コバルトで被覆された水酸化ニッケル粒子を得ることができる。
【0055】
上記被覆工程で得られた被覆水酸化ニッケル粉末は、次の洗浄工程において洗浄することにより、含有されているナトリウムや硫酸基などを除去して、被覆水酸化ニッケル粉末10gに対して水10mlを加えて懸濁液としたとき、その懸濁液へのオキソニウムイオン、水酸化物イオン及び炭酸イオンを除くイオンの総溶出量を低減させることができる。
【0056】
洗浄工程においては、被覆水酸化ニッケル粉末に対して質量比で4倍以上、好ましくは5倍以上の水を用いて洗浄することが好ましい。質量比で4倍以上の水を用いて洗浄することにより、上記ナトリウムイオン及び硫酸基などの不純物含有量を十分に低減することができ、イオンの総溶出量を低減することができる。不純物含有量やイオンの総溶出量の低減目的のみであれば、洗浄に用いる水の量に上限はないが、多量の水で洗浄することは無駄であり、質量比で15倍以下の水量で洗浄することが現実的である。また、同じ量の水を用いる場合には、複数回に分けて洗浄することが効果的であって好ましい。ただし、質量比で4倍未満の水では、上記イオンの総溶出量を低減できないことがある。
【0057】
また、上記晶析工程においてアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を用いた場合には、添加されたアンモニウムイオン供給体が水酸化ニッケル粉末中にアンモニアとして残留して、洗浄後の乾燥で酸化されて窒素酸化物となり、この窒素酸化物が懸濁液中に硝酸イオンや亜硝酸イオンとなって溶出する。そのため、被覆水酸化ニッケル粉末10gに対して水10mlを加えて懸濁液としたとき、懸濁液中へのオキソニウムイオン、水酸化物イオン及び炭酸イオンを除くイオンの総溶出量が増加して、6.5mmol/lを超えることがある。
【0058】
このような場合には、上記被覆工程で得られた被覆水酸化ニッケル粉末を、洗浄後の被覆水酸化ニッケル粉末10gに対して水10mlを加えて懸濁液としたときの懸濁液中へのアンモニウムイオン溶出量が0.4mmol/l以下になるまで、洗浄工程において洗浄することが好ましい。アンモニウムイオンの溶出量が0.4mmol/l以下になるまで洗浄することにより、被覆水酸化ニッケル粉末10gに対して水10mlを加えて懸濁液としたとき懸濁液中への上記イオンの総溶出量を十分に低減することができる。
【0059】
上記アンモニウムイオンの溶出量は、被覆水酸化ニッケル粉末に対する量であるため、湿潤状態の被覆水酸化ニッケル粉末で評価する場合には、あらかじめ含水量を求めておき、加える水量を調整することで正確な溶出量を測定することができる。また、湿潤状態の被覆水酸化ニッケル粉末を一旦乾燥させる場合には、アンモニアが化学変化せず含有量が変化しない条件、例えば30℃程度の温度で不活性雰囲気中において乾燥させればよい。
【0060】
上記洗浄工程では、乾燥工程前の被覆水酸化ニッケル粉末に含有されるアンモニアを、アンモニウムイオンとして上記範囲に低減すればよい。被覆水酸化ニッケル粉末に含有されるアンモニアは晶析工程で用いられるアンモニウムイオン供給体に由来するため、芯粒子である水酸化ニッケル粉末を十分に洗浄してアンモニアを除去することによっても、被覆水酸化ニッケル粉末中のアンモニア含有量を低減して上記溶出量を制御することが可能である。
【0061】
一方、被覆水酸化ニッケル粉末の粒子表面近傍に存在するアンモニウムイオンが、乾燥工程で酸化されて上記イオンの総溶出量に影響を及ぼすと考えられるため、被覆工程後に洗浄して表面近傍のアンモニウムイオンを除去することが効率の点で好ましい。また、被覆工程でアンモニウムイオン供給体を用いる場合もあるが、その場合にも被覆工程後に洗浄して表面近傍のアンモニウムイオンを除去することが好ましい。
【0062】
洗浄方法としては、アンモニウムイオンやナトリウムイオンなどの不純物を除去できる方法であればよく、撹拌槽を用いて洗浄水中で撹拌するバッチ方式のレパルプ洗浄や、フィルタープレスへの通水による洗浄、ロータリーフィルターなどによる連続方式などを用いることができる。
【0063】
その後、乾燥工程において、洗浄後の湿潤状態の被覆水酸化ニッケル粉末を乾燥して被覆水酸化ニッケル粉末を得る。この乾燥工程において、炭素含有ガス分圧が15Pa以下の脱炭酸雰囲気中で乾燥することにより、被覆水酸化ニッケル粉末10gに対して水10mlを加えて懸濁液としたとき、オキソニウムイオン、水酸化物イオン及び炭酸イオンを除くイオンの総溶出量を6.5mmol/l以下に低減することができる。
【0064】
乾燥時の雰囲気中に存在する炭素含有ガスは、被覆水酸化ニッケル粒子に付着しているナトリウムイオンや硫酸イオンなどの不純物イオンとイオン交換を生じ、被覆水酸化ニッケル粉末からのイオン溶出を促進する作用があると考えられる。従って、乾燥時の雰囲気を炭素含有ガス分圧15Pa以下の脱炭酸雰囲気とすることで、上記イオン交換を抑制することができ、被覆水酸化ニッケル粉末を懸濁液とした際のイオンの総溶出量を6.5mmol/l以下に制御することができる。
【0065】
上記乾燥時の雰囲気については、一般的に非還元性雰囲気であればよく、不活性ガス雰囲気や大気雰囲気が用いられるが、取扱いやコスト面から脱炭酸処理した大気雰囲気とすることが好ましい。また、上記炭素含有ガスとしては、二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素などがあるが、大気雰囲気中の炭素含有ガスは、その大部分を二酸化炭素が占めるため、脱炭酸大気雰囲気中の二酸化炭素分圧を10Pa以下とすることが好ましく、5Pa以下とすることがより好ましい。二酸化炭素分圧が10Paを超えると、大気雰囲気における炭素含有ガス分圧が15Paを超えることがある。
【0066】
上記本発明の製造方法によって得られる被覆水酸化ニッケル粉末は、粒子分散性に優れているため、ペースト作製時の凝集発生を抑制することができる。従って、アルカリ二次電池用の正極作製の際に発泡ニッケル等の三次元金属多孔体に均一に充填することができ、充填密度が高い正極を得ることが可能となるため、アルカリ二次電池の放電容量など電池特性の向上に極めて有効である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明する。尚、実施例及び比較例において、懸濁液中のカチオンの分析はICP発光分析法により、アニオンの分析はイオンクロマトグラフィによって行った。また、全炭素量の分析は燃焼赤外線吸収法にて行った。懸濁液の濁度は、被覆水酸化ニッケル粉末1gに対し水を10ml加えて懸濁液とし、10分間静置後の上澄み部の濁度をJIS K0101に規定される方法によりカオリンを基準物質として測定した。
【0068】
[実施例1]
(晶析工程)
工業用硫酸ニッケル6水和物134.3kgと、工業用硫酸コバルト7水和物4.6kgと、硫酸マグネシウム4.0kgとを水に溶解した後、全量を300lに調整してニッケル含有水溶液を調製した。また、48質量%工業用水酸化ナトリウム溶液100lを水で希釈して、全量200lの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
【0069】
次いで、オーバーフロー口までの容量が9lの反応槽に水を張った後、恒温水槽の中に反応槽を入れ、50℃に調整して保温した。更に、反応槽内を撹拌しながら、上記ニッケル含有水溶液と工業用25質量%アンモニア水を連続的に反応槽内へ供給すると共に、pHコントローラーを用いて反応槽内の反応液のpH(25℃基準)を上記水酸化ナトリウム溶液で11.8に制御した。
【0070】
反応槽内の反応液のpH、温度、アンモニウムイオン濃度及びスラリー濃度が一定値になるまで撹拌操作を続け、その後オーバーフロー口から生成物を回収した。得られた回収物を水洗して付着している陰イオン等の不純物を除去し、芯粒子となる水酸化ニッケル粉末(Ni0.94Co0.03Mg0.03(OH))を得た。
【0071】
(被覆工程)
得られた水酸化ニッケル粉末を水に分散させ、水酸化ニッケル粒子の固形分濃度で1000g/lの水酸化ニッケルスラリーを得た。また、工業用硫酸コバルト7水和物4.8kgを水に溶解した後、全量を10lに調整して硫酸コバルト水溶液を得た。
【0072】
得られた水酸化ニッケルスラリーを、被覆を行う反応槽へと移した後、恒温水槽の中に反応槽を入れ、50℃に調整して保温した。次に、反応槽内の水酸化ニッケルスラリーを撹拌しながら、上記硫酸コバルト水溶液を80ml/分で添加した。また、上記水酸化ナトリウム水溶液を供給することで、pHを25℃基準で10.0に調整した。ここで、反応槽内のスラリーのpHを、pH電極でpHを測定しながらpHコントローラーを用いて、上記水酸化ナトリウム水溶液の供給流量を調整することで制御した。尚、上記コントローラーによるpHの制御の精度は±0.1であった。
【0073】
硫酸コバルト水溶液を全量滴下した後、25℃基準でのpHが9.5となるように調整した。更にスラリーを撹拌しながら反応槽の底から4時間空気を吹き込み、水酸化ニッケル粒子表面に析出した水酸化コバルトを酸化させてオキシ水酸化コバルトとした。上記酸化反応中は、反応槽内のスラリーは50±0.5℃に保持されていた。反応後のスラリーを固液分離して得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末は52.0kgであった。
【0074】
(洗浄工程及び乾燥工程)
得られた湿潤状態のオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を、100lの水中に分散させる水洗−ろ過のレパルプ洗浄を3回繰り返した後、固液分離し、105℃に設定した真空乾燥機を用いて15時間乾燥して、オキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を得た。上記真空乾燥では、大気雰囲気から排気することにより二酸化炭素分圧を10Paまで減圧し、乾燥中はこの脱炭酸大気雰囲気を保持した。
【0075】
得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末10gに、水10mlを加えてに5分間撹拌して分散させ、懸濁液を作製した。この懸濁液中に溶出したオキソニウムイオン、水酸化物イオン及び炭酸イオンを除くイオンの総量は、2.3mmol/lであった。また、ナトリウムイオンと硫酸イオンの溶出量は、それぞれ2.0mmol/lと0.07mmol/lであった。更に、粒子の凝集の指標として懸濁液の濁度を測定したところ、512度(カオリン)であった。
【0076】
また、得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末は、ナトリウム含有量が190質量ppm、硫酸基含有量が0.32質量%及び全炭素含有量が280質量ppmであった。上記測定結果の一部を下記表1に示した。
【0077】
[実施例2]
乾燥工程において、105℃に設定した定置乾燥機を用い、二酸化炭素分圧5Paの脱炭酸大気雰囲気中において15時間乾燥した以外は上記実施例1と同様にして、オキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を得た。
【0078】
得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末について、その懸濁液の溶出イオンの総量は2.2mmol/lであった。また、ナトリウムイオンと硫酸イオンの溶出量は、それぞれ1.9mmol/lと0.08mmol/lであった。懸濁液の濁度は499度(カオリン)であった。
【0079】
更に、得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末は、全炭素含有量が200ppmであった。上記測定結果を下記表1に示した。
【0080】
[比較例1]
乾燥工程において、105℃に設定した定置乾燥機を用い、二酸化炭素分圧20Paの脱炭酸大気雰囲気中で15時間乾燥した以外は上記実施例1と同様にして、オキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を得た。
【0081】
得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末について、その懸濁液の溶出イオンの総量は7.9mmol/lであった。また、ナトリウムイオンと硫酸イオンの溶出量は、それぞれ4.7mmol/lと1.8mmol/lであった。懸濁液の濁度は144度(カオリン)であった。
【0082】
更に、得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末は、全炭素含有量が1200ppmであった。上記測定結果を下記表1に示した。
【0083】
[比較例2]
乾燥工程において、80℃に設定した定置乾燥機を用い、脱炭酸しない大気雰囲気中で15時間乾燥した以外は上記実施例1と同様にして、オキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を得た。
【0084】
得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末について、その懸濁液の溶出イオンの総量は6.8mmol/lであった。また、ナトリウムイオンと硫酸イオンの溶出量は、それぞれ4.3mmol/lと1.1mmol/lであった。懸濁液の濁度は217(カオリン)であった。
【0085】
更に、得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末は、全炭素含有量が1100ppmであった。上記測定結果を下記表1に示した。
【0086】
[比較例3]
乾燥工程において、140℃に設定した定置乾燥機を用い、脱炭酸しない大気雰囲気中で15時間乾燥した以外は上記実施例1と同様にして、オキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末を得た。
【0087】
得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末について、その懸濁液の溶出イオンの総量は8.6mmol/lであった。また、ナトリウムイオンと硫酸イオンの溶出量は、それぞれ4.5mmol/lと2.4mmol/lであった。懸濁液の濁度は150(カオリン)であった。
【0088】
更に、得られたオキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末は、全炭素含有量が1200ppmであった。上記測定結果を下記表1に示した。
【0089】
【表1】
【0090】
上記表1から分かるように、実施例1及び2に比べて、比較例1、2及び3では明らかに濁度が低下しており、オキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粉末の凝集が増加している。以上の実施例及び比較例の結果から、被覆水酸化ニッケル粉末の懸濁液中へのイオンの総溶出量、特に溶出の割合の大きいナトリウムイオンと硫酸イオンを抑制することによって、被覆水酸化ニッケル粉末をペースト化する際の凝集を抑制して、発泡ニッケル等への被覆水酸化ニッケル粉末の充填性を改善することが可能であることが分かる。