【文献】
B.K Tay, et al.,On the properties of nanocomposite amorphous carbon films prepared by off-plane double bend filtered cathodic vacuum arc,Thin Solid Films,2002年,Volumes 420-421,Pages 177-184
【文献】
P. Zhanga,et al.,Surface energy of metal containing amorphous carbon films deposited by filtered cathodic vacuum arc,Diamond and Related Materials,2004年,Volume 13,Pages 459-464
【文献】
Yu-Hung Lin,et al.,Annealing effect on the structural, mechanical and electrical properties of titanium-doped diamond-like carbon films,Thin Solid Films,2009年,Volume 518,Pages 1503-1507
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属クロム皮膜を用いた従来のマウントでも、ユーザがレンズ交換を繰り返すことによって、金属クロム層が摩耗して下地の真鍮が露出したり、傷が生じるなどの損傷を発生することがあり、表面硬度や耐久性が必ずしも十分とは言い難いという課題があった。
【0007】
また、環境問題の高まりから、人体にとって有害化学物質である六価クロムを用いる湿式のメッキ工程を回避することが社会的使命となっており、ドライプロセスで所要の要求を満足し得る新たな皮膜形成技術が求められていた。
【0008】
摺動材料のコーティング材として耐摩耗性、低摩擦摺動特性を有する硬質炭素膜が知られている。例えば、特許文献2は、優れた耐摩耗性と高い導電性とを併せ持つ硬質炭素膜を提供するために、TiやMoを不純物元素として用いてプラズマCVD法、スパッタ法、イオンプレーティング法によりメタンガスから硬質炭素膜を形成する方法を開示している。この文献には、得られた硬質炭素膜の構造が開示されていないが、後述する本発明者の実験結果からすれば、sp
2結合(混成軌道)が主体のダイヤモンドライクカーボンに近い構造かあるいは、水素を多く含むsp
3結合(混成軌道)が主体の炭素膜であることが分かっている。
【0009】
しかしながら、水素を多く含むsp
3結合が主体の炭素膜の場合、耐食性に問題があり、また、高温雰囲気下で水素が気化するために炭素膜の付着力が低下するという問題がある。また、sp
2結合が主体のダイヤモンドライクカーボンでは、耐摩耗性や硬度という点でカメラのマウントの用途には適さない。
【0010】
近年、低摩擦摺動部材を、フィルタードカソーディックバキュームアーク法(FCVA)を用いて、水素を含まずにsp
3結合をsp
2結合に対して比較的多く含むテトラヘデラルアモルファスカーボン(ta−C)から製造することが知られている(特許文献3)。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、特にカメラ用マウントの表面処理に好適であり、耐摩耗性が高く、摺動性が良好であり、且つ、電気信号を伝達し得る導電性を有した接続部材用の導電性摺動膜及び接続部材を提供することを目的とし、そのような接続部材をドライプロセスで製造し得る製造方法を提供することを目的とする。さらには、本発明は、そのような導電性摺動膜及び接続部材を備えるカメラ用マウント部材のような部材、カメラボディ及びレンズユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様に従えば、相対摺動する部材の表面に施される導電性摺動膜であって、前記導電性摺動膜は、金属がドープされたテトラヘドラルアモルファスカーボンから形成されており、該導電性摺動膜の抵抗率が10
2〜10
−4[Ωcm]の範囲にある導電性摺動膜が提供される。
【0013】
上記態様において、ドープされる金属元素がチタンであり、当該チタンの含有率が1〜33[at%]、特に1〜20[at%]にし得る。
【0014】
第2の態様に従えば、上記のような第1の態様の導電性摺動膜が表面に形成された部材が提供される。第1の態様の導電性摺動膜が、他の部材の接続面と相対摺動して接続される接続面に形成された部材に成り得る。この部材は、金属材料により形成された基材の表面に前記のような導電性摺動膜が形成されて構成され得る。
【0015】
上記部材は、相対摺動して接続する第1接続部材及び第2接続部材の少なくとも一方であり、第1接続部材の接続面と第2接続部材の接続面とが相対摺動して係合接続されたときに、第1接続部材と第2接続部材とが機械的に接続されるとともに、電気的に接続され得る。
【0016】
第3の態様に従えば、カメラボディに対してレンズユニットが着脱交換可能に構成されたカメラシステムに用いられるボディ側及び/またはレンズ側のマウント部材であって、基材と、前記基材上に形成された導電性摺動膜とを有し、該導電性摺動膜は、金属がドープされたテトラヘドラルアモルファスカーボンから形成され且つ、10
−2〜10
−4[Ωcm]の抵抗率、10〜30[GPa]の表面硬度、及び0.15未満の動摩擦係数を有するカメラ用マウント部材が提供される。
【0017】
第4の態様に従えば、第3の態様のカメラ用マウント部材が設けられたカメラボディが提供される。
【0018】
第5の態様に従えば、第3の態様のカメラ用マウント部材が設けられたレンズユニットが提供される。
【0019】
第6の態様に従えば、導電性摺動膜の製造方法であって、相対摺動する部材を真空チャンバ内に設置し、金属または金属炭化物を含有させたグラファイトターゲットを原料とし、フィルタードカソーディックバキュームアーク(適宜、「FCVA」と略する)法により、接続部材の表面に、導電率が10
2〜10
-4[Ωcm]の範囲にあり、表面硬度が10〜30[GPa]の範囲にある金属ドープテトラヘドラルアモルファスカーボン(ta-C:M)の皮膜を形成する導電性摺動膜の製造方法が提供される。ターゲットは実質的に水素を含まないターゲットであることが望ましい。なお、本願においてFCVA法は、狭義のFCVA法のみならず、特定のイオン化された炭素等の元素を分別する機能(フィルター機能)を有するカソーディックバキュームアーク法またはバキュームアーク法並びにそれに類似する方法、例えば、アークイオンプレーティング(Arc Ion Plating:AIP)法も包含するものとする。
【発明の効果】
【0020】
上記態様によれば、耐摩耗性が高く、摺動性が良好であり、且つ、電気信号を伝達し得る導電性を有した導電性摺動膜及び部材、特にカメラ用マウントに適した部材を提供することができる。また、このような部材を、メッキ法を用いることなく、FCVA法で製造するので、環境的問題を生じることがない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
<テトラヘドラルアモルファスカーボン>
本発明に用いられるテトラヘドラルアモルファスカーボンについて説明する。
図2にsp
3結合からなる炭素(sp
3−C)、sp
2結合からなる炭素(sp
2−C)、Hの三成分(三元)系からなる炭素−水素組成状態図を示す。図において、三角形の各辺に付記した数値は、下辺が水素Hの組成比、右辺はsp
3−Cの組成比(濃度)、左辺はsp
2−Cの組成比(濃度)である。また、図中のPECVDはメタンを原料とするプラズマCVD法、IPはベンゼンを原料としたイオンプレーティング法を意味し、それらの方法で製造された炭素−水素組成が図中に四角で示されている。
【0024】
この状態図において、三角形の各頂点は純粋な単一成分(及び結合)の物質であり、上方の頂点に位置するsp
3結合の炭素sp
3-Cはダイヤモンド、左下の頂点に位置するsp
2結合の炭素sp
2-Cはグラファイト(黒鉛)、右下の頂点に位置するHは水素である。sp
3−Cのダイヤモンドとsp
2-Cのグラファイトとは、成分元素はともに炭素であるが、原子間の結合状態の相違から結晶構造が明確に異なっている。
【0025】
三つの頂点を除いた三角形の各辺上の組成物は各々二成分系のアモルファスであり、上方の頂点(sp
3-C)と左下の頂点(sp
2-C)との間を結ぶ左辺上には、その軸上の位置に応じた組成比でsp
3-Cとsp
2-Cとがランダムに混じり合った炭素組成物が形成される。この水素を含まない炭素組成物を「アモルファスカーボン」と呼び、「a-C」と表記される。
【0026】
アモルファスカーボンa−Cのうち、sp
3-Cの組成比が高い(50〜90%程度の)炭素組成物を、特に「テトラヘドラルアモルファスカーボン(tetrahedral amorphous carbon)」と呼び、「ta-C」と表記される。テトラヘドラルアモルファスカーボンは実質的に水素を含まず、sp
3-Cとsp
2-Cから構成される。実質的に水素を含まないとは、測定装置由来の水素の検出量より低い量(例えば、0.3at%以下)でしか水素を含まないことを意味する。アモルファスカーボン膜の組成を測定しようとしたときに、バッググラウンドとして測定装置由来の水素(例えば、測定装置に吸着していた水素)が検出されることがあるが、このような場合には水素は実質的に含まないものと扱う。このようなテトラヘドラルアモルファスカーボンは、FCVA法により製造することができるが、従来型のCVD法では製造することができない。
【0027】
三辺に囲まれた三角形の内側領域には、sp
3-C、sp
2-C、及び水素がランダムに混じり合った三元系の炭素−水素組成物が形成される。このように水素を含む炭素−組成物を「水素化アモルファスカーボン」と呼び、「a-C:H」と表記される。この水素化アモルファスカーボンa-C:Hのうち、sp
3-Cの組成比が高い炭素−水素組成物(状態図において三角形の上方内部領域)を「水素化テトラヘドラルアモルファスカーボン」と呼び、「ta-C:H」と表記される。ta-C:Hは水素を含むために、摺動性材料に用いる摺動性(摩擦係数)が水素を含まないta-Cよりも劣ることが分かっている。また、硬度及び耐熱性についてもta-C:Hはta-Cよりも劣ることが分かっている。
【0028】
よく知られるように、sp
3-Cであるダイヤモンドは、硬度が極めて高く、可視光領域で透明であり、電気的に絶縁物である。一方、sp
2-Cであるグラファイトは軟らかく、可視光領域で不透明(黒色)であり、自己潤滑性がある(低摩擦係数である)という特徴を有している。すなわち、ダイヤモンド(sp
3-C)とグラファイト(sp
2-C)とは、いずれも炭素組成物でありながら対照的な特徴を有している。
【0029】
状態図においてsp
3-C(ダイヤモンド)とsp
2-C(グラファイト)とを結ぶ線上に位置するアモルファスカーボンa-Cは、両者の特徴を併せ持った中間的な特性を有しており、組成比に応じていずれかの特徴が強くなる。そのため、sp
3-Cを多く含むテトラヘドラルアモルファスカーボンta-Cの膜は、高い硬度に基づく耐摩耗性を有し、低摩擦係数に基づく良好な摺動性を獲得し得ることが推察される。参考のため、
図2には、PECVD法、IP法及びFCVA法でそれぞれ形成されたアモルファスカーボンの摩擦係数の範囲を示した。FCVA法で形成されたテトラヘドラルアモルファスカーボンであってもsp
3-Cの配合割合が高くなると摩擦係数が低くなることが分かる。
【0030】
アモルファスカーボンa-Cにより、仮に両者の特徴を併有して耐摩耗性と良好な摺動性とを獲得できても、金属クロムのように、電気信号をやり取りできるような導電性を持たせることは不可能とされてきた。また、a-C膜によって所望の金属的な外観を獲得することも困難であると考えられてきた。これは、ダイヤモンドの極めて高い硬度を実現する理由が自由電子をもたない炭素原子間の共有結合による一方、導電性や金属光沢は多数の自由電子を有することにより実現されるからである。本発明では、そのようなアモルファスカーボンa-Cのうち、特にテトラヘドラルアモルファスカーボンに金属をドープすることで、良好な耐摩耗性、摺動性及び導電性を備えた摺動膜を製造することに成功した。
【0031】
<ドープする金属>
テトラヘドラルアモルファスカーボンにドープする金属として、摺動膜の耐摩耗性、摺動性及び導電性、特に導電性という観点からすれば、Ti、Ni、Cr、Al、Mg、Cu、Fe、Ag、Au、Pt等が挙げられる。このうち、Ti、Cr、Ni、Feが好ましい。金属の摺動膜中の含有量(ドープ量)は、摺動膜の耐摩耗性、摺動性及び導電性を適度に維持するためには、1〜33at%、特に1〜20at%が望ましい。含有量が1at%未満であると導電性が不十分であり、摺動膜の電気抵抗が高くなる。含有量が20at%を超えると、摺動膜の硬度が低下して耐摩耗性が悪化する傾向にある。
【0032】
<カメラのマウント用途における特性>
本発明の実施形態に従う摺動膜は、抵抗値が10
2〜10
−4[Ωcm]、特に10
−2〜10
−4[Ωcm]、さらには10
−3〜10
−4[Ωcm]の範囲の値を達成している。このため、例えば、オートフォーカスなどのレンズの自動制御可能なカメラのマウントにこの摺動膜を用いることにより、レンズ部とカメラボディとの間での電気信号の通信を摺動膜を介して行うことができる。また、このようなカメラのマウントに用いる場合には、ユーザによってはレンズ部やストロボなどをカメラボディから頻繁に着脱することがあり、このような着脱を繰り返すことにより、マウントの摺動部に設けられた摺動膜が剥がれることがある。しかし、そのような剥がれが生じると、前述の摺動膜を通じたレンズ部とカメラボディとの導通ができなくなってしまう。それゆえ、摺動膜の耐摩耗性や硬度も必要である。また、レンズ部をカメラボディから着脱するのはユーザの手作業であるために、摺動膜を介したレンズ部とカメラボディとの間の着脱はスムーズに行われる必要があり、このため摺動膜の動摩擦を低下することも必要である。このように、カメラのマウントに使用される摺動部には、i)低い電気抵抗値、ii)適度な硬さ(耐摩耗性)及びiii)低い動摩擦係数が同時に要求されている。しかし、電気抵抗値を下げるためには金属ドープ量を増やすと、硬度が低下して膜が剥がれやすくなる。一方、硬度をあまり高くすると、動摩擦係数も高くなり、摺動性が低下する。このため、カメラのマウントの摺動膜には、上記3つの特性をバランスよく満たす必要がある。
【0033】
本発明者の実験によると、テトラヘドラルアモルファスカーボンを主体とする摺動膜をカメラのマウントに使用する場合には、抵抗値が10
−2〜10
−4[Ωcm]であり、表面硬度が10〜30[GPa]であり、且つ動摩擦係数が0.15未満であると、レンズユニットのカメラボディに対する着脱が5000回を超える耐久性を有することが分かった。特に、ドープする金属にTiを用いる場合には、その含有量が1〜25at%であると、上記カメラのマウントに適した抵抗値、表面硬度及び動摩擦係数を満足することができることが後述の実施例を通じて分かっている。
【0034】
<摺動膜の製造方法>
基材上に導電性摺動膜を形成する成膜方法の一例として、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法及びその方法を実施する成膜装置1の概要構造を
図3を参照しながら説明する。
【0035】
FCVA成膜装置1は、主に、アークプラズマ生成部10と、フィルタ部20と、成膜チャンバ部30とから構成される。アークプラズマ生成部10と成膜チャンバ部30とがダクト状のフィルタ部20により接続され、図示省略する真空装置により成膜チャンバ部30の圧力が10
−5[Torr]程度の真空度に設定される。
【0036】
アークプラズマ生成部10には、ターゲット11を挟んでアノード(ストライカー)とカソードが設けられており、ストライカーをターゲット11に接触させて直後に離すことによってアーク放電を生じさせる。ta-C膜を成膜する場合には、ターゲット11としてグラファイトが用いられ、アーク放電によりアークプラズマ(炭素プラズマ)が発生される。アークプラズマにより生成された中性粒子及び+イオン化された炭素は、成膜チャンバ部30に向けてフィルタ部20を飛翔する。上記実施形態の金属ドープされたta-C膜からなる摺動膜を製造するには、金属を含み且つ水素を含まないグラファイトのターゲットを用いる。金属種は前述のようにTi、Ni、Cr、Al、Mg、Cu、Fe、Ag、Au、Ptなどが挙げられる。
【0037】
フィルタ部20には、ダブルベンド電磁石コイル21が巻かれたダクト23及びイオンスキャン用コイル25が設けられている。ダクト23は、アークプラズマ生成部10と成膜チャンバ部30との間で、直交する二方向に2度曲折されており、その外周にダブルベンド電磁石コイル21が巻き付けられている。ダクト23がこのような屈曲構造(ダブルベント構造)を有することにより、ダクト23内を流動する粒子は内壁面に衝突するか壁面に沿って流動する。ダブルベンド電磁石コイル21に電流を流すことによりダクト23内部を飛翔する荷電粒子にローレンツ力を作用させ、飛翔経路を変化させるようになっている。
【0038】
そのため、ダブルベンド電磁石コイル21に印加する電力を、イオン化された炭素の質量に対して最適化することにより、これより軽い荷電粒子や重い荷電粒子、及びローレンツ力により曲がらない中性粒子をダクト23の内壁に堆積させることで除去し、イオン化された炭素だけを高効率で成膜チャンバ部30に導くことができる。すなわち、このダブルベンド電磁石コイル21とダクト23が、目的とする粒子のみを高効率で通過させる狭帯域の電磁気空間的フィルタを構成する。
【0039】
イオンスキャン用コイル25は、上記のようにしてダブルベンド電磁石コイル21を通り成膜チャンバ部30に入るイオン化された炭素のビームをスキャンし、ホルダ31に保持された基材32,33の表面に一様なa-C膜(ta-C膜、ta-C:M膜)を形成する。基材は、樹脂等の有機材料や、金属やセラミックなどの無機材料からなる任意の形状の材料を使用することができる。摺動膜がカメラ用のマウントの摺動部に使用される場合には、樹脂などのプラスチックや真鍮などの金属が用いられる。
【0040】
成膜チャンバ部30には、フィルタ部20の出口と対向するプレート状のホルダ31が設けられ、このホルダ31の表面に基材32,33がセットされる。ホルダ31はモータ35によりその回転軸を中心として回転可能である。ホルダ31には電源37によって任意のバイアスを設定可能になっており、例えば、目的とするta-C膜の組成比(sp
3-Cとsp
2-Cとの比率)に応じた適切な負のバイアス電圧をかけることにより、高効率で任意の組成比のta-C膜を形成することができる。
【0041】
<摺動膜を有する部材>
本実施形態によれば、上記のような摺動膜を有する部材もまた提供される。本実施形態の摺動膜は、摺動膜の有する高い耐摩耗性、良好な摺動性及び導電性(低い電気抵抗)という観点から様々な用途の部材または部品に使用することができるが、特に、他の部材に相対して摺動する部材や、他の部材に相対して摺動しながら他の部材に接続または結合する部材に好適である。また、相対して摺動し合う一対の部材やまたは相対して摺動しながら互いに接続または結合する部材セットやキットにも好適である。特に、レンズユニットがカメラボディから着脱可能なカメラのレンズユニット側のマウント部材及び/またはカメラボディ側のマウント部材に好適である。それらのマウント部材について
図4及び5(a)及び(b)を参照しながら簡単に説明する。カメラ40は、互いに着脱可能なカメラボディ41と交換レンズ42を有する。カメラボディ41と交換レンズ42とはそれぞれバヨネット式マウント(以下、適宜「マウント」という)を備える。交換レンズ42の雄マウント52には爪部53が突出して設けられる。カメラボディ41の雌マウント51には、雄マウント52の爪部53が挿入される挿入部54と、爪部53が係止される係止部55とが設けられている。爪部53及び係止部55の一方又は双方には、弾性部材等を利用した係止機構(不図示)が設けられている。
【0042】
カメラボディ41に交換レンズ42を装着するには、雄マウント52の爪部53を雌マウント41の挿入部54に挿入して、雄マウント52の当接面56を雌マウント41の受け面57に当接させ、カメラボディ41に対して交換レンズ42を回転させる。このとき、当接面56と受け面57とは互いに当接した状態で摺動する。その後、更に回転させて、雄マウント52の爪部53を雌マウント51の係止部55に係止させることで装着が完了する。このとき、爪部53の表面と係止部55の表面とは互いに当接した状態で摺動する。また、カメラボディ41から交換レンズ42を離脱させるときは、これらを逆の順序で行う。そのため、このようなカメラボディ41の雌マウント51及び交換レンズ42の雄マウント52は、交換レンズ42を交換する度に、互いに当接した状態で摺動される。
【0043】
これらの雌マウント51及び雄マウント52では、
図6に示すように、各マウント51、52の形状を有する基材60の表面に、本実施形態の摺動膜50が形成されている。基材60は、金属、樹脂、セラミックス等から形成され、典型的には、真鍮から形成されている。摺動膜50は、前述のFCVA法により基材60の表面に十分な付着力で成膜され、複数の被覆層が積層された多層膜でもよい。多層膜の場合、最上層が本実施形態の摺動膜となる。
【0044】
図4及び5に示すようなカメラボディ及び/またはレンズユニットも本実施形態に包含される。なお、レンズユニット側のマウント部材及び/またはカメラボディ側のマウント部材はバヨネット式に限らず、ねじ込み式でも構わない。
【0045】
[実施例]
以下に、本発明の導電性摺動膜及びそれを用いた部材の製造方法を記載するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1〜8
図3に示すようなFCVA成膜装置1を用いて導電性摺動膜を形成した実施例を以下に示す。本実施例では、金属元素を含むターゲット11としてTiを2.15[at%]含有した焼結グラファイトターゲットを用い、基材表面にta-C:Ti膜(チタンドープテトラヘドラルアモルファスカーボン膜)を作製した。なお、焼結グラファイトターゲットは脱水処理したものを用いた。後述するように、ta-C:Ti膜の薄膜抵抗率、硬度及び弾性率、膜の組成、摩擦係数及び耐摩耗性などを個別に評価するため、基材の種類を使い分けた以外は同じ条件で複数回に分けてta-C:Ti膜を形成した。具体的には、基材は、薄膜抵抗率を測定するためにSiO
2ガラス基板を用い、耐摩耗性を評価するときに真鍮のカメラマウント部材を用い、それ以外はSi基板を用いた。
【0047】
ta-C:Ti膜の成膜時におけるFCVA成膜装置1(
図3参照)の典型的な運転条件として、アークプラズマ生成部10におけるバキュームアーク電源(カソード側電源)のアーク電流を50A、フィルタ部20におけるダブルベンド電磁石コイル21の電流(フィルタ電流)を13A、アークプラズマ生成部10におけるアノード側電源の電流(アノード電流)を8A、イオンスキャン用コイル25の電圧(ダクト電圧)を0.2Vとした。バイアス電源の電圧及び1500Hzの周波数にて実際に基材に印加されるバイアス電圧(実バイアス電圧)については、実施例1〜8について、
図4に示すような値をそれぞれ用いた。なお、放電は、600秒間の放電を5回繰り返して行った。
【0048】
上記のようにして各実施例でSi基板上に形成した膜について、ラザフォード後方散乱法により測定し、膜中に含まれている炭素(C)、チタン(Ti)、酸素(O)及び水素(H)の含有量を求めた。結果を
図7の表中に示す。実施例1から8の膜では、水素含有量が0.1〜0.4[at%]であったが、ターゲット11に水素が含まれておらず、ターゲットを脱水処理していることからすれば、これは測定装置に由来の水素(バックグラウンド)と考えられる。
【0049】
次に、得られた膜について、X線光電子分光により膜中に含まれている炭素のsp
2-C結合(混成軌道)とsp
3-C結合(混成軌道)の割合について分析した。結果を
図7の表中に示す。実施例1〜8の膜では、sp
3-C結合は炭素の結合全体(sp
2-C+sp
3-C)に対して53at%〜73at%であり、実施例1〜8で得られた膜は、テトラヘデラルアモルファスカーボンであることが分かる。
【0050】
実施例9
金属元素を含むターゲット11としてTiを2.15[at%]含有した焼結グラファイトターゲットを脱水処理せずに用い、FCVA成膜装置1の運転条件を
図7に示した値に変更した以外は、実施例1と同様にして成膜した。基材上に成膜速度0.12[nm/s]で、膜厚365[nm]の膜が形成された。
【0051】
得られた膜について、実施例1と同様にしてラザフォード後方散乱法により膜を構成する成分を分析した。結果を
図7の表中に示す。なお、この実施例で得られた膜については、実験の都合上、水素については測定できなかった。また、この実施例で得られた膜の深さ方向の化学組成を
図9に示す。
図9のグラフにおいて、横軸は皮膜表面から膜厚方向への深さ、縦軸は原子比(組成)である。この測定結果から、膜に含まれる炭素C、チタンTi、酸素Oが深さ方向で各元素の組成比率がほぼ一定であることがわかる。この実施例で得られた膜に、酸素が含まれているのは、用いたターゲットを脱水処理しなかったことによるものと考えられる。
【0052】
次に、得られた膜について、X線光電子分光により膜中に含まれている炭素のsp
2-C結合とsp
3-C結合の割合について実施例1と同様にして分析した。結果を
図7の表中に示す。実施例9の膜では、sp
3-C結合は炭素の結合全体(sp
2-C+sp
3-C)に対して56at%であることからすれば、おそらく、テトラヘデラルアモルファスカーボンが形成されていると考えられる。
【0053】
比較例1
金属元素を含むターゲット11としてTiを含有していない焼結グラファイトターゲットを用い、FCVA成膜装置1の運転条件(バイアス電圧)を
図7に示した条件に変更した以外は、実施例1と同様にして膜厚300nmの膜を成膜した。
【0054】
上記のようにしてSi基板上に形成した膜について、ラザフォード後方散乱法により分析し、膜中に含まれている炭素が99.9at%であることが分かった(
図7の表参照)。
【0055】
次に、得られた膜について、X線光電子分光により膜中に含まれている炭素のsp
2-C結合とsp
3-C結合の割合について分析した。
図7の表中に示すように、sp
3-C結合は炭素の結合全体(sp
2-C+sp
3-C)に対して84at%であったので、比較例1で得られた膜は、テトラヘデラルアモルファスカーボン(ta−C)である。なお、比較例1で得られた膜の組成は、
図2の状態図のsp
2−Cとsp
3−Cを結ぶ線上に現れる。
【0056】
比較例2
ベンゼン蒸気(C
6H
6)を原料としてイオンプレーティング法により、400度に加熱した基板上にアモルファスカーボン膜を膜厚300nmとなるように成膜した。後述するように、硬度及び弾性率、膜の組成、並びに摩擦係数などをそれぞれ評価するため、実施例1と同様に基材の種類を使い分けた以外は、同じ条件で複数回に分けて成膜した。
【0057】
上記のようにしてSi基板上に形成した膜について、ラザフォード後方散乱法により測定し、膜中に含まれている炭素が99.6at%、水素が0.4at%であることが分かった(
図7の表参照)。
【0058】
次に、得られた膜について、赤外線分光により膜中に含まれている炭素のsp
2−C結合とsp
3−C結合の割合について分析した。
図7の表中に示すように、sp
2−C結合は炭素の結合全体(sp
2−C+sp
3−C)に対して85.2at%であり、比較例2で得られた膜は、アモルファスカーボン(ta−C)であることが分かる。比較例2で得られた膜の組成を、
図2の状態図にIP a−Cとして表した。
【0059】
比較例3
基板の温度を200℃に変更した以外は、比較例2と同様にしてイオンプレーティング装置を用いて成膜した。Si基板上に形成した膜について、ラザフォード後方散乱法により測定し、膜中に含まれている炭素が75.2at%、水素が24.8at%であった。X線光電子分光により膜中に含まれている炭素のsp
2−C結合とsp
3−C結合の割合について分析したところ、
図7の表中に示すように、sp
2−C結合は炭素の結合全体(sp
2−C+sp
3−C)に対して83at%であり、さらに水素を24.8%含有するので、比較例3で得られた膜は、水素化アモルファスカーボン(a−C:H)であることが分かる。
【0060】
比較例4
メタンガス(CH
4)を原料とするプラズマCVD法により、100℃に加熱した基板上に炭素膜を膜厚300nmとなるように成膜した。後述するように、硬度及び弾性率、膜の組成、並びに摩擦係数などをそれぞれ評価するため、実施例1と同様に基材の種類を使い分けた以外は、同じ条件で複数回に分けて成膜した。
【0061】
上記のようにしてSi基板上に形成した膜について、ラザフォード後方散乱法により測定し、膜中に含まれている炭素が58.8at%、水素が41.2at%であることが分かった(
図7の表参照)。
【0062】
次に、得られた膜について、X線光電子分光により膜中に含まれている炭素のsp
2−C結合とsp
3−C結合の割合について分析した。
図7の表中に示すように、sp
3−C結合は炭素の結合全体(sp
2−C+sp
3−C)に対して78at%であり、比較例4で得られた膜は、水素化アモルファスカーボン(a−C:H)であることが分かる。比較例2で得られた膜の組成を、
図2の状態図にPECVD a−C:Hとして表した。
【0063】
実施例1〜9及び比較例1〜4で得られた膜について、物理的特性として薄膜抵抗率、硬度及び弾性率、並びに摩擦係数などを以下のようにして測定した。
【0064】
(1)薄膜抵抗率
薄膜抵抗率(体積抵抗率)は、SiO
2ガラス基板上に形成したta-C:Ti膜等の膜を四端子法により測定した。測定値を
図8の表に示す。実施例1〜9で得られた膜の薄膜抵抗率は、いずれも1×10
−4 〜1×10
−3
[Ωcm]であった。金属元素がドープされていないta-C膜(比較例1)は、薄膜抵抗率が1×10
8[Ωcm]オーダーの高い値であった。このことから、金属あるいは金属炭化物を含有させたグラファイトターゲットを原料とし、FCVA法により成膜することによって、良好な導電性を有するta-C:M膜が形成されることが理解される。
【0065】
(2)硬度及び弾性率
硬度及び弾性率は、Si基板上に形成したta-C:Ti膜をナノインデンテーション(nanoindentation)法により複数のサンプリング位置で測定した。測定された実施例1〜9及び比較例1〜4の膜の硬度及び弾性率を
図8の表に示した。実施例1〜8の膜の硬度が11〜13[GPa]の範囲にあり、弾性率が120〜153[GPa]の範囲にあることが分かる。なお、参考のため、従来用いられてきた真鍮を基材とする金属クロム膜の硬度はおよそ8[GPa]程度である。従って、本発明の態様の製造方法により作製されたta-C:Ti膜は、従来の金属クロム膜よりかなり高く、実施例1〜8の膜では1.5倍程度の高い硬度を有することが確認された。
【0066】
(3)摩擦係数
次に、Si基板上に形成された実施例1〜9及び比較例1〜4の膜について摩耗特性を、ボールオンディスク法により測定した。測定にはアルミナボールを使用し、荷重200[gf]、回転半径2[mm]、回転数100[rpm]とした。実施例1〜9及び比較例1〜4の膜について、動摩擦係数の時間に対す得る平均値を求め、
図8の表中に示した。この測定結果から、実施例1〜9の膜はいずれも動摩擦係数が0.08(0.1未満)であり、実施例のta-C:Ti膜が、ta-C膜より更に低い摩擦係数であること、すなわち良好な摺動性を有していることがわかる。なお、
図10のグラフに、実施例9及び比較例1の膜について動摩擦係数の測定結果を示す。
図10のグラフにおいて、横軸は時間、縦軸は動摩擦係数である。比較例2から4で得られた膜については、SUS420J2ボールを用いて上記と同様にして動摩擦係数の平均値を求めた。比較のために実施例6の膜について、アルミナボールに加え、SUS304ボール及びSUS420J2ボールを用いて上記と同様にして動摩擦係数の平均値を求めたところ、それぞれ0.07及び0.065であった(SUS420J2ボールを用いて得られる動摩擦係数はアルミナボールを用いて得られる動摩擦係数よりも小さい)。
図2の状態図には、比較例1〜4で得られた膜及び種々の組成のテトラヘドラルアモルファスカーボン膜の動摩擦係数の範囲について表されている。水素を含まないアモルファスカーボン(a−Cまたはta−C)は水素化アモルファスカーボン(a−C:H)よりも動摩擦係数が小さく、水素を含まないアモルファスカーボンの中でも、テトラヘドラルアモルファスカーボンの動摩擦係数が小さく、sp
3−C結合の割合が増えると動摩擦係数が小さくなることが分かる。
【0067】
(4)摺動耐久性
Si基板上に形成された実施例1〜9及び比較例1〜4の膜について、ボールオンディスク法により摺動耐久性を測定した。SUS420J2ボールを使用し、荷重1000[gf]、回転半径2[mm]、回転数100[rpm]の条件下、膜剥離に至る時間を計測した。結果を
図8の表に示す。FCVA法を用いて製造した実施例1〜8及び比較例1の摺動膜については20000秒以上であったが、別の方法を用いて製造した比較例2〜4の膜は、1300秒未満であり、特に、比較例3及び4の水素化アモルファスカーボン膜の摺動耐久性は劣っていた。
【0068】
(5)内部応力
実施例及び比較例で得られた膜について内部応力
を測定した。内部応力は、触針式表面形状測定器を用いて成膜前後の基板の曲率半径をそれぞれ計測し、基板のヤング率等から算出した。結果を
図8の表に示す。表中、内部応力の符号が負になっているのは、応力が圧縮応力であることを示す。実施例1〜8で得られたta-C:Ti膜は比較例1で得られたta-C膜と比較して圧縮応力が小さいので、機械的な耐久性が要求される用途により適している。
【0069】
(6)耐熱性
実施例及び比較例で得られた膜について、耐熱性を昇温脱離法により評価した。実施例および比較例1ではテトラヘドラルアモルファスカーボンの構造に起因して耐熱性が850℃と高かったのに対して、比較例2〜4はそれぞれ、700℃未満、400℃未満、300℃未満であった。
【0070】
実施例9で得られたta-C:Ti膜の外観写真を
図1に示す。1×10
−3[Ωcm]という高い導電率からも裏付けられる通り、金属薄膜と同等の、自由電子に起因する金属光沢を有する高反射膜であった。実施例1〜8の膜についても同様の金属光沢を有していた。一方、比較例1で得られたta-C膜は透明であり、膜厚に対応した干渉色が認められた。
【0071】
実施例10〜14
FCVA装置の運転条件を
図11の表に示したような値にした以外は、実施例1と同様にして異なるTi/C原子比率のta-C:Ti膜を形成した。得られた膜のTi/C原子比率を
図11の表に示す。なお、Tiの膜中の原子比(at%)も併せて表記した。また、得られたta-C:Ti膜の体積抵抗率、硬度及び動摩擦係数について実施例1〜9と同様にして測定し、結果を
図11の表に示す。なお、参考のため、実施例6及び9で得られた膜の各物性についても
図11の表に示した。
【0072】
着脱耐久試験(耐摩耗性の評価)
次にカメラのバヨネットの摺動膜としての性能を以下のようにして評価した。実施例6、9及び10〜14におけるFCVA装置の運転条件で、ta-C::Ti膜を真鍮製のレンズ側のマウント及びカメラボディ側のマウント上に、それぞれ膜厚2ミクロンで摺動膜を成膜した。また、比較例として、真鍮製のレンズ側のマウント及びカメラボディ側のマウント上に六価クロムメッキ法により金属Cr膜を膜厚4ミクロンで成膜したものを用意した(比較例5)。これらをカメラボディ及びレンズユニット(交換レンズ)に取り付けて着脱を繰り返す実機テストを行い、皮膜が完全に剥離して基材が露出するまでの着脱回数を計数した。結果を
図11の表中に示す。この結果から、比較例5の従来の金属Cr膜と比較して、実施例のta-C:Ti膜は、遥かに高い耐摩耗性を有していることが確認できる。特に、硬度が10〜30GPaであり且つ動摩擦係数が0.15未満であると、レンズユニットのカメラボディに対する着脱が5000回を超える耐久性を有することが分かる(実施例6、10〜12)。カメラのレンズユニットとボディユニットとは電導性が必要であるので、導電率を上げる(抵抗率を下げる)には金属元素のドープ量を増やせばよい。しかし、
図11の表から分かるように、Tiのドープ量が増すと体積抵抗率は低下するが、硬度が低下して動摩擦係数が増加する。このため、導電率、硬度及び動摩擦係数を適度にバランスする必要があることが分かる。このような特性が要求されているカメラのマウント用の摺動膜としては、ドープする金属がTiの場合には、Tiの含有量が25at%以下にすることで、好適な導電率を維持しつつ耐摩耗性に優れることが分かる。
【0073】
以上の評価結果に示された通り、実施例のta-C:Ti膜は、ta-C膜と同等の高い硬度に基づく耐摩耗性、低い摩擦係数に基づく良好な摺動性を有し、なお且つ、電気信号を伝達可能な良好な導電率、及び外観品質を好適に確保する金属光沢を備えている。すなわち、従来は相矛盾して同時に達成が困難と考えられていた、これらの特性を同時に呈する新規な導電性摺動膜(導電性硬質低摩擦係数薄膜)を実現することに成功したのである。
【0074】
このような導電性摺動膜が表面に形成された部材は、金属光沢による高い外観品質をもち高い耐摩耗性により長期間外観品質を保持することができる。また、他の部材の接続面と相対摺動して接続される接続面に形成された接続部材は、良好な摺動性により係脱操作が容易であり、相対摺動を伴う係脱を繰り返しても高い耐摩耗性により損耗を抑制することができる。導電性摺動膜が金属材料製の基材の表面に形成されるような構成によれば、複雑な構造や高精度の接続部を容易に形成しつつ、金属皮膜では実現不可能な高硬度の接続面を有した接続部材を得ることができる。一方、導電性摺動膜が樹脂材料製の基材の表面に形成されるような構成によれば、樹脂製部品では実現不可能な高硬度かつ導電性の接続面を有する接続部材を容易かつ安価に提供することができる。
【0075】
接続部材が、相対摺動して係脱自在に接続する第1接続部材及び第2接続部材からなり、これらが相対摺動して係合接続されたときに、第1,第2接続部材が機械的に接続されるとともに、電気的に接続されるような構成は、上記実施例の導電性摺動膜が実現した高硬度、低摩擦係数、導電性の特性を好適に利用して、大きな効果を享受することができる。例えば、カメラボディに対してレンズユニットが着脱交換可能に構成されたカメラシステムにおけるボディ側のマウント部材や、レンズ側マウント部材、フラッシュ等が係脱されるアクセサリーシュー(ブラケット)等は、外観品質を含めて、最も好適な適用例の代表である。
【0076】
上記実施例の導電性摺動膜は、FCVA法により実施することができ、これはドライプロセスであり、人体にとって有害な化学物質も成膜プロセスで使用しない。従って、環境に負荷を与えることなく導電性摺動膜を作成することができる。特に、FCVA法によれば、金属材料、樹脂材料、無機材料など多種多様な基材上に、抵抗率が10
2〜10
−4[Ωcm]の範囲であり、かつ、表面硬度が10〜30[GPa]の範囲にあるような所要組成の導電性摺動膜を高効率で形成することができる。特に、カメラ用マウントに好適である、抵抗率が10
−2〜10
−4[Ωcm]の範囲にあり、表面硬度が10〜30[GPa]の範囲にあり、且つ動摩擦係数が0.15未満である特性を備えた電導性摺動膜を提供することができる。
【0077】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、ta-C:Mの金属ドープ元素Mの一例としてチタンを示したが、以上の説明から当業者であれば理解されるように、金属ドープ元素はta-Cを基本とする皮膜に導電性を付与する役割を果たせばよく、他の金属元素、例えばNi、Cr、Al、Mg、Cu、Fe、Ag、Au、Pt等であってもよい。
【0078】
また、相対摺動して接続される接続部材の具体的な適用例として、カメラボディに対してレンズユニットが着脱自在なシステムカメラ(銀塩・デジタルのスチルカメラやビデオカメラ等)のマウントを例示したが、本発明はかかる形態に限られるものではなく、広範な用途に適用することができる。その一例を例示すれば、電気コネクタや、スリップリング、連結機器、カメラや携帯電話等の機器の外装部材などが挙げられ、同様の効果を得ることができる。