【実施例】
【0171】
〔実施例1〕
(スカンジウムを添加した窒化アルミニウム薄膜の作製方法)
シリコン基板に対して、窒素雰囲気下でアルミニウムおよびスカンジウムをスパッタリングし、シリコン基板上にSc含有窒化アルミニウム薄膜を作製した。スパッタリングの条件は、アルミニウムターゲット電力密度7.9W/cm
2、スカンジウムターゲット電力密度0〜10W/cm
2、基板温度580℃、窒素ガス濃度40%、およびスパッタリング時間4時間である。なお、ターゲット電力密度0Wとは、窒化アルミニウム薄膜にスカンジウムを添加していないことを示している。
【0172】
(圧電応答性測定方法)
Sc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性は、ピエゾメーターを用いて、加重0.25N,周波数110Hzによって測定した。
【0173】
〔比較例1〕
スカンジウムの代わりにマグネシウム(Mg)を用いて、ターゲット電力密度を0〜2W/cm
2とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて窒化アルミニウム薄膜を作製し、圧電応答性を測定した。
【0174】
〔比較例2〕
スカンジウムの代わりにホウ素(B)を用いて、ターゲット電力密度を0〜7.6W/cm
2とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて窒化アルミニウム薄膜を作製し、圧電応答性を測定した。
【0175】
〔比較例3〕
スカンジウムの代わりにケイ素(Si)を用いて、ターゲット電力密度を0〜1.5W/cm
2とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて窒化アルミニウム薄膜を作製し、圧電応答性を測定した。
【0176】
〔比較例4〕
スカンジウムの代わりにチタン(Ti)を用いて、ターゲット電力密度を0〜1.8Wとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて窒化アルミニウム薄膜を作製し、圧電応答性を測定した。
【0177】
〔比較例5〕
スカンジウムの代わりにクロム(Cr)を用いて、ターゲット電力密度を0〜0.8W/cm
2とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて窒化アルミニウム薄膜を作製し、圧電応答性を測定した。
【0178】
〔実施例1および比較例1〜5の測定結果〕
実施例1における測定結果は上記において説明したため、ここではその説明を省略する。比較例1〜5における測定結果を
図10(a)〜(e)に示す。
図10(a)〜(e)は、ターゲット電力密度と圧電応答性との関係を示す図であり、(a)は、マグネシウムを添加した場合であり、(b)はホウ素を添加した場合であり、(c)はケイ素を添加した場合であり、(d)はチタンを添加した場合であり、(e)はクロムを添加した場合である。
【0179】
図10(a)〜(e)に示すように、スカンジウム以外の元素を添加しても、窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性は、減少するのみであり、向上しないことが示された。なお、
図7に示すように、電力密度が6.5〜8.5W/cm
2の範囲内、すなわちスカンジウムの含有率が35〜40原子%の範囲内の場合には、スカンジウムを含有していない窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性よりも圧電応答性が低下してしまうことが示された。
【0180】
〔実施例2〕
スカンジウムの含有量(以下、Sc含有量とも称する)を25原子%としたSc含有窒化アルミニウム薄膜における表面粗さを測定した。
【0181】
表面粗さの測定方法は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。なお、本明細書等における「表面粗さ」とは、算術平均粗さ(Ra)を意味している。
【0182】
〔比較例6〕
Scを含有しない窒化アルミニウム薄膜(Sc含有量が0原子%である窒化アルミニウム薄膜)を用いた以外は、実施例2と同様の方法によって表面粗さを測定した。
【0183】
〔比較例7〕
Sc含有量を38原子%とした以外は、実施例2と同様の方法によって表面粗さを測定した。
【0184】
〔比較例8〕
Sc含有量を42原子%とした以外は、実施例2と同様の方法によって表面粗さを測定した。
【0185】
〔表面粗さの測定結果〕
実施例2および比較例6〜8における表面粗さの結果を
図11(a)〜(d)に示す。
図11(a)〜(d)は、実施例2および比較例6〜8における表面粗さを原子間力顕微鏡を用いて観察した図であり、(a)はSc含有量を25原子%とした場合であり、(b)はSc含有量を0原子%とした場合であり、(c)はSc含有量を38原子%とした場合であり、(d)Sc含有量を42原子%とした場合である。
【0186】
Sc含有量を25原子%とした場合、すなわち
図11(a)では、表面粗さRaは0.6nmであった。それに対して、Sc含有量を0原子%とした場合、すなわち
図11(b)では、表面粗さRaは0.9nm程度であった。これによって、Scの添加量を0.5原子%〜35原子%とすることによって、表面粗さを減少できることが示された。
【0187】
Sc含有量を38原子%とした場合および42原子%とした場合、すなわち
図11(c)および(d)に示す場合の表面粗さRaは、3.5nmおよび3.0nmであり、表面粗さは、Sc含有量を25原子%とした場合に比べて約5倍以上増加することが示された。
【0188】
(金属箔電極53)
次に、金属箔電極53は、導電性を有する材料、例えば銅からなる。金属箔電極53は、少なくとも、自身と筐体2とが導通するように、AlN素子膜52に被覆されている。例えば、金属箔電極53は、自身と筐体2とが接触するように、もしくは、押し金具6が筐体2と導通した状態で設けられている場合、自身と押し金具6とが接触するように、AlN素子膜52に被覆されている。これにより、金属箔電極53は、圧電素子5に設けられているAlN素子膜52と、筐体2とを導通している、即ち、金属箔電極53と筐体2とは導通している。
【0189】
圧電素子5は、基板51の表面28aを覆うようにAlN素子膜52が成膜されている構成となるため、圧電素子5自身の小型化に伴う、AlN素子膜52の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0190】
結果、圧電素子5では、AlN素子膜52の表面積の狭小化を抑制しつつ、小型化が可能となるため、当該圧電素子5を設けた薄膜素子積層センサ1においても同様に小型化が可能となる。
【0191】
ここで、AlN素子膜52が成膜された金属製の基板51を有しており、AlN素子膜52に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電素子においては、基板51から放出される電荷を得るべく、基板51が露出する部分、即ち、薄膜素子積層センサ1において基板51と信号線41とが接触する部分を確保する必要がある。これは、AlN素子膜52に圧力が加えられると、AlN素子膜52は、基板51側および金属箔電極53側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0192】
そこで、圧電素子5では、基板51の表面28aに貫通孔8aを形成し、貫通孔8aの少なくとも壁面18を露出させることで、基板51が露出する部分を確保している。これにより、基板51から放出される電荷は、基板51の露出部分である貫通孔8aの壁面18から得られる。
【0193】
また、圧電素子5では、AlN素子膜52における基板51側からの電荷が、貫通孔8aの壁面18から放出され、AlN素子膜52における金属箔電極53側からの電荷が、金属箔電極53から放出されるが、AlN素子膜52に被覆されている金属箔電極53がもたらすシールド効果により、AlN素子膜52からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0194】
(押し金具6)
押し金具6は、薄膜素子積層センサ1の上部、即ち、筐体2の閉じていない他端側から、図示しない固定金具をねじ込むことで、絶縁板31、信号線付電極4、絶縁板32、および圧電素子5を筐体2内に圧着固定するためのものである。
【0195】
絶縁板32および押し金具6にはそれぞれ、信号線41が通すことが可能であるように、貫通孔8bが形成されている。
【0196】
(信号線41)
信号線41と押し金具6との間は、例えばアルミナにより構成されている絶縁管7により絶縁されている。信号線41は、貫通孔8aにおける基板51の露出部分、即ち、貫通孔8aの壁面18と接触することで基板51と導通しているが、基板51と接触および導通する部分を除いては、他の部材と接触していない、もしくは、他の部材と絶縁されている。金属箔電極53は、筐体2と導通している。
【0197】
なお、本発明の特徴をより明確に図示するため、
図1および後述する
図20に示す圧電センサの断面図において、信号線41の奥(信号線41よりも紙面裏側)、かつ、信号線41の近傍に位置する部材(圧電素子5、押し金具6等)については、一部図示を省略している。
【0198】
外部からの圧力が圧電素子5に加えられると、AlN素子膜52は、上述したとおり、基板51側および金属箔電極53側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有する。こうした特性を有するAlN素子膜52を、基板51の両面に成膜することで、圧電素子5では、圧力を受ける時においても、基板51側と金属箔電極53側との絶縁が可能となる。こうして、基板51と金属箔電極53とは、AlN素子膜52により絶縁されている。
【0199】
そして、基板51側から放出された電荷は、基板51の露出部分である貫通孔8aの壁面18から信号線41に供給される。一方、金属箔電極53側から放出された電荷は、金属箔電極53から筐体2(もしくは、筐体2および押し金具6)へと放出される。結果として、薄膜素子積層センサ1では、基板51からの電荷のみが圧力検出信号として信号線41に供給される構成を実現することができる。
【0200】
また、上述したシールド効果により、信号線41へは、重畳するノイズ成分が十分に除去された圧力検出信号が供給可能となる。
【0201】
なお、
図1に示す薄膜素子積層センサ1では、筐体2に圧電素子5が複数個(4個)積層されている構成であるが、これに限定されず、本発明の圧電センサでは、圧電素子5が筐体2に1個だけ設けられている構成であっても構わない。この場合であっても、本発明の圧電センサでは、基板と信号線、筐体と電極部との導通を良好なものとすることができるため、感度が向上し、結果、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となる。
【0202】
但し、
図1の薄膜素子積層センサ1に示すとおり、本発明の圧電センサは、圧電素子を複数個積層することで、圧電素子から信号線に供給される電荷量を低下させることなく、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積のさらなる狭小化が可能となり、ひいては、圧電センサから発生される電荷量を増加させることさえも可能であるためより好ましい。
【0203】
後述する、
図20に示す薄膜素子積層センサ10についても同様に、圧電素子5は、筐体2内部に1個だけ設けられている構成であっても構わないが、複数個積層されている構成であるのがより好ましい。
【0204】
図12は、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の基板51を模式的に示す平面図である。また、
図13は、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の基板51に形成された貫通孔8aを示す平面図である。また、
図14は、AlN素子膜52が成膜された基板51における当該貫通孔8aを示す平面図である。
【0205】
貫通孔8aは、口径が信号線41の直径よりも長い円孔部81の壁面、即ち、貫通孔8aの壁面18に、突起部82をさらに有する孔として、基板51に設けられている。
【0206】
また、円孔部81の開口方向に対して垂直となる面(円孔部81の壁面に対して垂直となる面)における貫通孔8aの中心Cと、当該面における突起部82の先端部分83との距離はいずれも、信号線41の半径よりも短い。
【0207】
例えば、信号線41の直径が0.6mmである場合、円孔部81の口径は0.8mm、貫通孔8aの中心と突起部82の先端部分との距離は0.5/2mm、即ち、0.25mmとするのが好ましい。
【0208】
貫通孔8aが円孔部81のみを有する丸穴として設けられる場合、信号線41と基板51の露出部分である貫通孔8aの壁面18とを確実に接触させること(
図1参照)は決して容易でない。
【0209】
そこで、信号線41と基板51の露出部分とを確実に接触させ、信号線41と基板51との導通を確実なものとするために、貫通孔8aは、円孔部81に加え、突起部82をさらに有する形状の孔(
図13参照)として設けられるのが好ましい。
【0210】
即ち、貫通孔8aの突起部82は、貫通孔8aに信号線41を挿入するときに変形し、信号線41に咬合する(即ち、咬み合う)。これにより、信号線41と基板51との導通は、確実なものとなる。
【0211】
また、
図12、3に示す基板51により、
図1に示す圧電素子5の構成を実現するためには、
図14に示すとおり、貫通孔8aの壁面18を含む基板51の所定部分が露出するように、AlN素子膜52を基板51に成膜する必要がある。
【0212】
図15は、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の製造方法を示す図であり、基板51にAlN素子膜52を成膜する様子を示す図である。
【0213】
なお、後述する薄膜素子積層センサ20の圧電素子5は、基板52の貫通孔8aの一端から基板52の外側に向けて突出する突出部84が存在していること以外は、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の構造とほとんど変らない。このため、ここで説明する製造方法により薄膜素子積層センサ20の圧電素子5を製造することも可能である。
【0214】
図15に示す、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の製造方法では、まず、貫通孔8aよりも大きな面を有する治具本体110と、治具本体110から伸びており、貫通孔8aの口径よりも若干短い口径を有する、円柱状もしくは円筒状の管部(ワイヤ部材)101と、を有する治具100を用意する(第1の工程)。次に、貫通孔8aの一端側(治具本体110と接触している基板51の表面28a側)から管部101を挿入すると共に、治具本体110に基板51を載置して、基板51を治具100に装着する(第2の工程、
図15(a)参照)。なお、参照符号54は、貫通孔8aの壁面18(
図1参照)を含む基板51の露出部分を示しており、参照符号55は、AlN素子膜52が成膜される基板51部分を示している。次に、管部101の口径よりも長い内径を有する中空のキャップ(蓋部材)102に、管部101を挿入して、キャップ102と治具本体110とにより、基板51を治具100に圧着固定する(第3の工程、
図15(b)参照)。このとき、キャップ102は、基板51の露出部分54と密着することとなる。次に、基板51が装着された治具100を逆さまにして、即ち、管部101における治具本体110と接していない端部が下向きになるようにして(
図15(c)参照)、基板51が装着された治具100を、図示しない周知のスパッタリング装置(成膜装置)に装着する(第4の工程)。次に、基板51の成膜部分55に、AlNを、スパッタリング法により成膜する(第5の工程)。次に、キャップ102を、管部101から取り外し、続いて管部101から基板51を取り外す。
【0215】
なお、この時点で、基板51は、上記成膜時において治具本体110と接触していた基板51の成膜部分55に、AlN素子膜52が成膜されていない状態となっている。
【0216】
そこで、基板51を裏返して、即ち、貫通孔8aの他端側から管部101を挿入する。さらに、治具本体110に基板51を載置して、基板51を治具100に装着する(第6の工程)。以下、上記成膜時において治具100と接触していた基板51の成膜部分55についても、上記第3の工程〜第5の工程と同様の工程により、AlN素子膜52を成膜する(第7の工程)。
【0217】
上記の方法により、露出部分54には、AlN素子膜52が成膜されておらず、成膜部分55全面には、AlN素子膜52が成膜された基板51(
図16参照)を製造することが可能となる。
【0218】
図17は、金属箔電極53の構成例を示す平面図である。
図18は、AlN素子膜52が成膜された基板51に金属箔電極53が被覆された様子を示す平面図である。
【0219】
図17に示すとおり、金属箔電極53は、貫通孔8aを露出させる孔部531と、基板51の表面よりもわずかに小さいサイズを有しており、AlN素子膜52が成膜された基板51における一方の表面28aに被覆される環状部(圧電薄膜被覆部)532と、AlN素子膜52が成膜された基板51を包みこむべく環状部532から突出して形成された突出部(折曲突出部)533とを備える構成である。また、突出部533は、AlN素子膜52が成膜された基板51における一方の表面28a側から他方の表面28a側へと折り曲げられることで、金属箔電極53をAlN素子膜52が成膜された基板51に固定することが可能なものである。
【0220】
図17に示す金属箔電極53は、AlN素子膜52が成膜された基板51に、以下の要領により被覆される。
【0221】
即ち、まずは、
図17に示す形状を有する金属箔電極53を2枚用意する。一方の金属箔電極53は、孔部531を、AlN素子膜52が成膜された基板51の貫通孔8aと一致させて、環状部532を、基板51の一方の表面28aに成膜されたAlN素子膜52と一致させる。また、他方の金属箔電極53は、孔部531を、AlN素子膜52が成膜された基板51の貫通孔8aと一致させて、環状部532を、基板51の他方の表面28aに成膜されたAlN素子膜52と一致させる。そして、一方の金属箔電極53の突出部533を基板51の他方の表面28a側に折り曲げて、AlN素子膜52を包み込むと共に、他方の金属箔電極53の突出部533を基板51の一方の表面28a側に折り曲げて、AlN素子膜52を包み込む。こうして、AlN素子膜52が成膜された基板51には、2枚の金属箔電極53が基板51の両表面から被覆される(
図18(b)参照)。このとき、一方の金属箔電極53の突出部533は、他方の金属箔電極53の環状部532に被覆されるように折り曲げられ、他方の金属箔電極53の突出部533は、一方の金属箔電極53の環状部532に被覆されるように折り曲げられる。
【0222】
なお、
図18(a)に示すとおり、AlN素子膜52が成膜された基板51に、
図17に示す金属箔電極53が1枚だけ、基板51のいずれかの面から被覆される構成の場合、即ち、突出部533がAlN素子膜52に直接的に接触する場合は、圧電素子5の加圧時において、AlN素子膜52の突出部533に接する部位に応力が集中することで生じる剪断力に起因して、圧電素子5のAlN素子膜52に絶縁破壊が発生してしまう虞がある。
【0223】
そこで、
図18(b)に示すとおり、AlN素子膜52が成膜された基板51は、2枚の金属箔電極53により被覆される。これにより、上記絶縁破壊を抑制することができる。
【0224】
また、
図19(a)は、金属箔電極53の別の構成を示す平面図である。
図19(b)は、同図(a)に示す金属箔電極53´が、AlN素子膜52が成膜された基板51に被覆された状態を示す図である。
【0225】
図19(a)に示す金属箔電極53´は、
図17に示す金属箔電極53の構成において、突出部533のかわりに、AlN素子膜52が成膜された基板51における他方の表面28aの全面もしくは略全面を被覆することが可能な程度に大きな突出部(折曲突出部)533´を備える構成である。
【0226】
図19(a)に示す金属箔電極53´を1枚用いて、AlN素子膜52が成膜された基板51における他方の表面28aの全面もしくは略全面を被覆する、
図19(b)に示す構造の場合は、応力集中する虞のある部分を形成することなく、
図17に示す電極2枚で基板51の両面から被覆される構造と同様の効果が得られる。
【0227】
図19に示す形状の金属箔電極53´を用いる場合は、1枚の金属箔電極部材を折り曲げるだけで、AlN素子膜52の大部分を被覆することができ、特定の部位での応力集中が発生しにくくなる。そのため、上下2枚の金属箔電極53をそれぞれ突出部533が基板51を挟んで反対側の金属箔電極53の上から折り曲げられる場合(
図17参照)と同じ絶縁破壊の抑制効果がある。
【0228】
そして、
図1に示す薄膜素子積層センサ1では、筐体2内部に、
図18(b)もしくは
図19(b)の構成を有する圧電素子5を積層している。これにより、上述したAlNの特性を生かして、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積を狭小化することが可能となる。
【0229】
〔実施の形態2〕
本発明の別の実施の形態について
図20に基づいて説明すると以下の通りである。
【0230】
図20は、本発明の圧電センサの別の構成を示す断面図である。
【0231】
図20に示す薄膜素子積層センサ10は、
図1に示す薄膜素子積層センサ1の構成において、以下の点が異なる構成である。
【0232】
まず、薄膜素子積層センサ10は、薄膜素子積層センサ1に係る絶縁板31、32のかわりに、絶縁板3が、信号線付電極4の下部に設けられている(即ち、絶縁板32が省略される)点が、
図1に示す薄膜素子積層センサ1と異なる。
【0233】
また、薄膜素子積層センサ10は、圧電素子5が、以下の構成を有している点が、
図1に示す薄膜素子積層センサ1と異なる。
【0234】
即ち、
図20に示す薄膜素子積層センサ10に係る圧電素子5は、基板51と、AlN素子膜52と、金属箔電極53と、を備える。但し、AlN素子膜52については、貫通孔8aの少なくとも壁面18を除く基板51の全面でなく、基板51の少なくとも側面28bを除く当該基板51の全面に成膜されている。また、
図20に示す薄膜素子積層センサ10に係る圧電素子5には、貫通孔8aが形成されているものの、この貫通孔8aは、基板51、AlN素子膜52、および金属箔電極53を貫通するように、かつ、貫通孔8aの壁面18が金属箔電極53からなるように設けられている。なお、薄膜素子積層センサ10に係る圧電素子5は、
図20に示すとおり、基板51の一方の表面28aに成膜されたAlN素子膜52にのみ、金属箔電極53が被覆されている構成であってもよい。
【0235】
また、薄膜素子積層センサ10は、AlN素子膜52が筐体2と離間されており、さらに、信号線41が金属箔電極53と導通されており、筐体2が基板51の側面28bと接触および導通されており、基板51と金属箔電極53とがAlN素子膜52により絶縁されている点が、
図1に示す薄膜素子積層センサ1と異なる。
【0236】
基板51は、少なくとも薄膜素子積層センサ10における筐体2との導通部分となる側面28bにおいて、AlN素子膜52が成膜されておらず、金属箔電極53により被覆されていない、即ち、筐体2と導通している基板51の側面28bは露出している。
【0237】
基板51側から放出された電荷は、基板51の側面28bから、筐体2(もしくは、筐体2および押し金具6)へと放出される。一方、上記AlN素子膜52の表面側から放出された電荷は、金属箔電極53を介して、信号線41に供給される。結果として、薄膜素子積層センサ10では、金属箔電極53からの電荷のみが圧力検出信号として信号線41に供給される構成を実現することができる。
【0238】
なお、薄膜素子積層センサ10に係る金属箔電極53は、自身が信号線41に咬み合って、変形することによって、信号線41と接触する構成であればよく、金属箔電極53により基板51を巻き込む必要は無い。そのため、薄膜素子積層センサ10に係る金属箔電極53は、
図17、
図19に示す金属箔電極53、53´のように、突出部533、533´を有する必要が特になく、周知の構造を有する金属箔電極部材を用いることができる。こうした薄膜素子積層センサ10に係る金属箔電極53の形状としては例えば、自身の外周が基板51の側面28bでショートしない程度の大きさの環状である形状が考えられる。
【0239】
図1に示す薄膜素子積層センサ1に対して、逆の極性が必要である場合は、
図20に示す薄膜素子積層センサ10を用いることにより、
図1に示す薄膜素子積層センサ1と同様の作用効果を得ることができるため、都合がよい。
【0240】
つまり、圧電センサに接続されている各種回路(例えば、圧電センサの外部に設けられている圧電センサの制御回路系)では、一般的に、自身の駆動に好適である当該圧電センサの極性が予め決定されており、実際の圧電センサの極性に応じて設計を変更することが非常に煩雑である。そのため、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることは、従来、決して容易ではなかった。
【0241】
一方、本発明の圧電センサでは、上記各種回路の駆動に好適である当該圧電センサの極性に応じて、薄膜素子積層センサ1および薄膜素子積層センサ10のいずれかを適宜選択することにより、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることが簡単である。
【0242】
なお、上述した
図1に係る形態と同様に、信号線付電極4は、圧電素子5を積層するときの固定に際して有用であるが、圧電素子5の金属箔電極53が信号線41への嵌合に十分な強度を有しており、かつ、基板51と筐体2との接触による積層構造が十分確保できれば、最下部に金属箔電極53を挿入するだけで、信号線付電極4は省略可能であり、この場合、圧力検出信号を伝達するための構成としては、信号線41のみで構成可能である。
【0243】
また、図示はしていないが、
図20に示す薄膜素子積層センサ10の圧電素子5においては、基板51の側面28bと筐体2との導通をより確実にするために、基板51の側面28bに突起を設けても良い。即ち、基板51の側面28bに突起を設ける構成によれば、当該圧電素子5を筐体2に積層するときに、即ち、基板51の側面28bを筐体2に接触させるときに変形し、接触された筐体2に咬合する(即ち、咬み合う)。これにより、薄膜素子積層センサ10の圧電素子5の基板51と筐体2との導通は、より確実なものとなる。
【0244】
なお、本発明の圧電センサでは、圧電素子の圧電体薄膜の材料として、AlNを用いたが、これに限定されない。即ち、圧電体薄膜の材料としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)が用いられてもよい。さらに言えば、圧電体薄膜の材料は、ウルツ鉱構造の結晶構造をもつ物質等の、キュリー点の存在しない圧電材料であればよく、他に窒化ガリウム(GaN)等が挙げられる。この種の圧電材料は、結晶が融解あるいは昇華するまで圧電性を失うことがない。こうした物質(ウルツ鉱構造の結晶構造をもつ物質)は、結晶に対称性が存在しないため圧電性を備えており、また強誘電体でないので、キュリー点が存在しない。従って、係る圧電材料からなる圧電素子は、耐熱性に優れ、圧電特性が劣化することがなく、内燃機関のシリンダーのように、500℃近い高温中に曝されたとしても、その機能を失うことがない。そのため、圧電素子の冷却手段が不要となり、温度の低い位置に圧電素子を設置しなければならないという制限もなくなるので圧電センサの構造を単純化することができる。
【0245】
また、
図1に示す薄膜素子積層センサ1において、圧電素子5に設けられる貫通孔8aは、その一例として、
図13に示すとおり、円孔部81に加え、突起部82をさらに有する形状の孔として設けられている。ここで、隣り合う2個の突起部82の間隔、突起部82の具体的な形状等については、特に限定されない。即ち、例えば、貫通孔8aは、
図13、
図14に示す形状(花形)以外にも、歯車形(即ち、各突起部82が、方形の形状を有している)、スリット付円形(即ち、隣り合う2個の突起部82の間隔が非常に狭い)といった形状を有していてもよい。
【0246】
さらに、本発明の圧電素子では、電極部として、圧電体薄膜に被覆される金属箔電極部材のかわりに、圧電体薄膜の表面に、蒸着もしくはスパッタリング法により形成した電極の膜を使用してもよい。
【0247】
〔実施の形態3〕
本発明の別の実施の形態について説明すると以下の通りである。
【0248】
ここでは、本発明の圧電体薄膜が成膜された基板(以下、「基準素子」と称する)を用いて、
1:外径7mm、内径5mmであって、一端が閉じた円筒状の筐体に基準素子を1個だけ組み込んだ圧電センサ。
【0249】
2:
図17に示す金属箔電極53と同様の形状を有しており、孔部531の直径が1.5mm、環状部532の外径が4.5mm、突出部533の寸法が1mm×1mmの正方形となる銅箔電極2枚で基準素子を被覆し、突出部533が、それぞれ基準素子における反対側の銅箔電極の上から重なるように折り返した状態のもの(圧電素子)を、筐体に1個だけ組み込んだ圧電センサ。
【0250】
3:上記銅箔電極で被覆した基準素子を、
図1に示す要領により、筐体に6個積層して組み込んだ圧電センサ。
の各圧電センサについて、90ccのツーストロークエンジンに当該圧電センサを取り付け、約1500回転毎分でエンジンを運転した場合における出力および発生電荷を計測した。
【0251】
なお、上記基準素子は、以下の要領により作製した。
【0252】
即ち、基板は、外径4.6mm、厚さ0.2mmの円形のステンレス板の中心部に、貫通孔を形成して作製したステンレス基板を用いた。ここで、貫通孔の形状は、
図13に示した貫通孔8aと同様の形状を有しており、直径約0.8mmの円孔部81に加え、先端部分と貫通孔8aの中心との距離がそれぞれ約0.25mmである6個の突起部82を有する形状を有している。また、ステンレス基板の両面には、上述した、
図15に示す圧電素子5の製造方法により、当該ステンレス基板の中心部(
図15に係る露出部分54)以外の全面にAlN薄膜を製膜して製造された素子の層、即ち、圧電体薄膜を、スパッタリング法により製膜した。なおここで、該AlN薄膜の厚さは、3μmとした。またここで、AlN薄膜の厚さ(3μm)は、基板の外径(4.6mm)に対して、無視できる程度に小さい。そこで、ここでは便宜上、上記基準素子の直径は、基板の外径と同じ4.6μmであるものとして説明を行う。
【0253】
その結果、下記の〔表1〕のように、基準素子を銅箔電極で被覆すること、および銅箔電極により被覆された基準素子を筐体内部に複数個積層することによって、大幅な感度の向上が見られることが分かった。
【0254】
【表1】
【0255】
さらに、上記〔表1〕では、比較例として、直径9mm、厚さ0.5mmのインコネル製円板の片面に、AlN薄膜を製膜した素子(比較例素子)を同一条件で測定した結果を併記した。
【0256】
〔実施の形態4〕
次に、
図21および22に基づき、本発明のさらに別の実施の形態である薄膜素子積層センサ(圧電センサ)20について説明すると以下の通りである。
図21は、本実施形態の薄膜素子積層センサ20の構成を示す図である。なお、
図21(a)は、薄膜素子積層センサ20の断面構造を模式的に示し、
図21(b)は、薄膜素子積層センサ20が備える圧電素子5における突出部84に関し、ほぼ実際の縮尺に沿った断面構造の一例(突出部84a)を示し、
図21(c)は、上記突出部の断面構造の他の一例(突出部84b)を示す。
【0257】
本実施形態の、薄膜素子積層センサ20は、上記の薄膜素子積層センサ1と比較して、以下の点が異なる。
【0258】
すなわち、(1)圧電素子5の構造が異なる点、および(2)信号線41および信号線付電極4に替えて、信号線41aを備える点である。
【0259】
(信号線41a)
図21(a)〜(c)に示すように、信号線41aの下端は、最も上側に配置する圧電素子5の突出部84、突出部84aまたは突出部84bに接触されているので、圧電体薄膜にて基板51側に発生した電荷を引き出すことが可能となっている。すなわち、複数枚の圧電素子5のそれぞれから発生された電荷は、圧力検出信号として、信号線41aを通じて伝達される。信号線41aは、薄膜素子積層センサ20の外部にまで引き伸ばされている。
【0260】
(圧電素子5)
圧電素子5は、インコネル等の耐熱性に優れた金属により構成される基板51に上述したAlN素子膜52に、金属箔電極53が被覆された構成である。
【0261】
(基板51)
基板51には、貫通孔8aが形成され、さらに、この貫通孔8aの周囲の壁面18における貫通孔8aの一端側(上端側)から基板51の外側に向けて突出する突出部84、突出部84aまたは突出部84b(以下、これらの代表として突出部84を示して説明する)が、基板51に形成されている。また、貫通孔8aの周囲の壁面18および突出部84の表面には、AlN素子膜52が成膜されていない。なお、ねじ込みを考えなければ、貫通孔8aおよび突出部84は基板51の中心付近に有る必要はない。また、突出部84の形状は、以下で説明するように花弁状の形状を為している(
図22(a)参照)が、突出部84の形状は、このような形状に限定されず、筒状に突出する筒形状であっても良い。筒形状の突出部の形状は、円筒形状であっても良く、また、多角筒形状などであっても良い。
【0262】
これにより、例えば、3枚の圧電素子5を積層した場合に、
下側に配置する圧電素子5の突出部84を、
上側に配置する圧電素子5の貫通孔8aの他端側(下端側)から嵌挿させることにより、3枚の圧電素子の貫通孔の壁面間を導通させることができる。なお、圧電素子5の枚数は、これに限定されず、2枚以上の任意の枚数を採用できるが、薄膜素子積層センサ20の小型化のためには、少ない枚数とすることが好ましい。
【0263】
上記構成によれば、最も上側に配置する圧電素子5の突出部84に信号線41aの一端を接触させることで、3枚の圧電素子5のAlN素子膜52にて基板51側に発生した電荷を引き出すことが可能となる。
【0264】
このため、上記の圧電素子5を複数枚積層するという簡単な構造とするだけで、複数枚の圧電素子5のそれぞれのAlN素子膜52にて基板51側に発生した電荷を一括して引き出すことが可能となる。すなわち、上記の薄膜素子積層センサ1における信号線41および信号線付電極4を単に信号線41aに代替えし、絶縁板32を除くことにより、構成、組み立ては極めて簡単になることから、大幅な低価格化が実現できる。
【0265】
以上の構成によれば、上述したScを含有するAlN素子膜52を3枚積層することで市販の圧電センサの約3倍の出力が得られる。積層枚数はさらに増やすことが可能で、10倍程度まで出力を上げることが可能になる。すなわち、Scを含有するAlN素子膜52の枚数は、3枚以上であることが好ましい。また、感度が上がることによって、これまで検出できなかった圧力変化もとらえることが可能になる。
【0266】
図22(a)は、薄膜素子積層センサ20が備える圧電素子5の基板51の構造の例を示す図である。なお、同図は、基板51を上側から見たときの様子を模式的に示しており、同図において、突出部84は、紙面に対して奥側に突出しているものとする。
図23は、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の基板51に形成された貫通孔8aおよび突出部84の一実施例を示す平面図である。
【0267】
貫通孔8aは、口径が信号線41aの直径よりも長い円孔部81の周囲の壁面、即ち、貫通孔8aの壁面18に、突起部82をさらに有する孔として、基板51に設けられている。
【0268】
また、円孔部81の手前側の円形の外縁に沿う面(基板51の面内方向に沿う面)における貫通孔8aの中心Cと、突起部82の先端部分83との
図22(a)における紙面に対して手前側から見たときの見かけ上の距離はいずれも、信号線41の半径よりも短い。
【0269】
例えば、信号線41aの直径が0.6mmである場合、円孔部81の口径は0.8mm、貫通孔8aの中心と突起部82の先端部分との距離は0.5/2mm、即ち、0.25mmとするのが好ましい。
【0270】
また、
下側に配置する圧電素子5の突出部84を、
上側に配置する圧電素子5の貫通孔8aの他端側(下端側)から嵌挿させることが可能なように、突出部84の外径は、円孔部81の下端部の径より小さいことが好ましい。
【0271】
(基板51の突出部の形成方法)
次に、
図22図(b)および(c)に基づき、基板51の突出部の形成方法の例について説明する。22図(b)は、突出部84aの形成方法の各工程における基板51の断面構造の変化の一例を示し、22図(c)は、突出部84bの形成方法の各工程における基板51の断面構造の変化の他の一例を示す。
【0272】
まず、円形の基板51の中心付近に予め
図12に示すような複数の
突起部82が面内方向に起立した花弁状の貫通孔を形成しておく(貫通孔形成工程)。
【0273】
次に、
図22図(b)および(c)に示すように、先端が尖った円錐状の治具(押金具)を当該貫通孔の紙面に対して上側からに挿入し、複数の
突起部82を下側に向けて押し込み、折り曲げて突出部84aおよび突出部84bを形成する(押し込み変形工程)。
【0274】
なお、上記のように、円形の基板51の中心付近に花弁状の貫通孔を形成しているのは、花弁状の複数の
突起部82であれば、単純な円孔部のみの貫通孔よりも弾性変形させ易いと考えられるためである。
【0275】
図22図(c)では、例えば、片面エッチング等の方法で、
図22図(b)(または
図12)に示す花弁状の貫通孔の壁面の上端側(貫通孔の片面側の周辺部)を減肉している。
【0276】
その理由は、
図22図(b)に示す花弁状の貫通孔では、凹部の曲率が凸部の曲率よりも小さくなるため、基板51の厚みが大きい場合、上記押金具による加圧では、複数の
突起部82を十分に折り曲げる(変形させる)ことができず、複数の圧電素子5を積層する際に、一方の圧電素子5が他方の圧電素子5に対して基板51の中央部で浮き上がり、各圧電素子5の金属箔電極53同士が密着しない可能性があるためである。
【0277】
一方、
図22図(c)に示すように、花弁状の貫通孔を形成した後に、片面エッチングの方法で、該貫通孔の壁面の上端側を減肉してやれば、凹部と凸部の曲率の差は小さくなり、複数の
突起部82の弾性変形が容易になるため、各圧電素子5の金属箔電極53同士が密着がより確実になると考えられる。
【0278】
なお、
図12に示す基板51は両面エッチングで成形している。このため、基板51の片面側に花弁状の形を形成するようなマスクを、反対側の面の側には円形の孔を形成するようなマスクをかけてやれば両面エッチングにて
図22図(c)に示す基板51の片面側の周辺部を減肉した花弁状の貫通孔の壁面を形成することもできる。
【0279】
(薄膜素子積層センサ20と市販のセンサとの比較結果)
次に、
図24は、市販のセンサ(Kistler社製6001)と本実施形態の薄膜素子積層センサ20との出力波形の比較結果を示す。カッコ内の数値は発生電荷を示す。同図に示すように、本実施形態の薄膜素子積層センサ20は、市販品の約3倍の出力があり、かつ市販のセンサでは見えない波形の細かい変化まで明瞭に観察でき、感度が高いことが分かる。
【0280】
このため、薄膜素子積層センサ20によれば、例えば、エンジン筒内の燃焼圧センサとして、特に実車に搭載して燃焼の制御を行うことが可能になり、燃焼状態の制御により、燃費の向上、排出ガスの浄化等が可能となる。
【0281】
〔本発明の別の表現〕
本発明は、以下のように表現することもできる。
【0282】
また、本発明の圧電素子は、金属製の基板と、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生するものであり、上記基板の少なくとも側面を除く、当該基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備え、上記基板の表面、上記圧電体薄膜、および上記電極部を貫通するように貫通孔が設けられており、上記貫通孔の壁面が、上記電極部からなっていても良い。
【0283】
つまり、本発明の圧電素子は、貫通孔の壁面が電極部からなっており、貫通孔を通じる圧電センサの信号線に電極部が咬合する(即ち、咬み合う)ことによって、信号線と電極部とが通電可能な構成であると解釈できる。
【0284】
上記の構成によれば、本発明の圧電素子は、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されている構成となるため、当該圧電素子自身の小型化に伴う、圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0285】
結果、本発明の圧電素子では、上記圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制しつつ、当該圧電素子の小型化が可能となるため、当該圧電素子を設けた圧電センサにおいても同様に小型化が可能となる。
【0286】
つまり、本発明の圧電素子では、発生される電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となるという効果を奏する。
【0287】
ここで、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されており、当該圧電体薄膜に電極部が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0288】
そこで、本発明の圧電素子では、基板の少なくとも側面を露出させることで、当該基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である基板の側面から得られる。
【0289】
また、本発明の圧電素子では、圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である基板の側面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜に被覆されている電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0290】
こうした圧電素子は、圧電センサに用いる場合において都合が良い。
【0291】
即ち、上記の構成によれば、壁面が電極部からなっている貫通孔に圧電センサの信号線を通すことにより、電極部と信号線とを接触および導通させることが可能となる。また、上述した、圧力が加えられる場合における圧電体薄膜の特性により、圧電素子では、基板側と電極部側とが絶縁されることとなる。さらに、圧電センサの筐体、ねじ込み等で接触する圧電センサ押し金具等と基板の側面とを接触させることにより、基板と圧電センサの筐体とを導通させることが可能となる。
【0292】
つまり、上記本発明の圧電素子が設けられた圧電センサでは、信号線が、当該圧電素子に形成された貫通孔を通じて引き出される。さらに、上記圧電素子が設けられた圧電センサでは、信号線と筐体との、圧電素子による絶縁が可能となる。
【0293】
また、上記圧電素子を複数個積層することで、圧電センサでは、圧電素子から信号線に供給される電荷量を低下させることなく、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積のさらなる狭小化が可能となり、ひいては、当該圧電センサから発生される電荷量を増加させることさえも可能である。
【0294】
さらに、本発明の圧電素子を備える圧電センサでは、圧電素子の電極部がもたらす上記シールド効果により、圧電体薄膜から圧電センサの信号線へと供給される電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0295】
また、本発明の圧電素子は、上記基板の一方の表面に成膜された圧電体薄膜にのみ、上記電極部が被覆されていても良い。
【0296】
また、本発明の圧電素子は、上記電極部は、電極の膜であっても良い。
【0297】
上記の構成によっても、本発明の圧電素子の圧電体薄膜では、電極部として金属箔電極部材を使用する場合と同様に、絶縁破壊が発生してしまう危険性を抑制する効果を得ることができ、かつ、大きな感度の低下の抑制効果が得られる。
【0298】
また、本発明の圧電センサは、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電素子が、筐体内部に設けられており、上記電荷が供給される信号線が、上記圧電素子に形成された貫通孔を通じて上記筐体外部に引き出されており、上記圧電素子は、表面に上記貫通孔が形成された金属製の基板と、上記電荷を発生するものであり、自身が上記信号線と離間されるように、上記貫通孔の少なくとも壁面を除く、上記基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備えるものであり、上記信号線が上記貫通孔の壁面と接触されており、上記筐体が上記電極部と導通されており、上記基板と当該電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されていても良い。
【0299】
上記の構成によれば、本発明の圧電センサに備えられる圧電素子は、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されている構成となるため、当該圧電素子の小型化に伴う、圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0300】
結果、本発明の圧電センサでは、上記圧電素子の圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制しつつ、当該圧電素子の小型化が可能となるため、当該圧電センサにおいても同様に小型化が可能となる。
【0301】
つまり、本発明の圧電センサでは、発生される電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となるという効果を奏する。
【0302】
ここで、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されており、当該圧電体薄膜に電極部が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0303】
そこで、本発明の圧電センサの圧電素子では、基板の表面に貫通孔を形成し、当該貫通孔の少なくとも壁面を露出させることで、基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である貫通孔の壁面から得られる。
【0304】
また、本発明の圧電センサでは、圧電素子の圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である貫通孔の壁面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜に被覆されている電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0305】
また、上記の構成によれば、信号線が貫通孔の壁面と接触および導通されており、筐体が電極部と導通されている。
【0306】
ところで、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有する。
【0307】
上記の特性を有する圧電体薄膜を、基板の両表面に成膜することで、圧電素子では、圧力を受ける時においても、基板側と電極部側との絶縁が可能となる。こうして、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。
【0308】
即ち、基板側から放出された電荷は、基板に形成された貫通孔の壁面から信号線に供給される。一方、電極部側から放出された電荷は、電極部を介して、筐体へと放出される。さらに、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。結果として、本発明の圧電センサでは、基板の露出部分からの電荷のみが信号線に供給される構成を実現することができる。
【0309】
また、こうした構成を有する、本発明の圧電センサでは、筐体内に圧電素子を複数個積層する構造を容易に適用することができる。これは、本発明の圧電センサにおいては、複数個積層された圧電素子のそれぞれにおける基板の貫通孔からの電荷のみが、当該貫通孔に通された信号線に供給可能であることによる。但し、上記圧電素子は、筐体内部に1個だけ設けられる場合であっても、基板と信号線、筐体と電極部との導通を良好なものとすることができるため、感度が向上する。
【0310】
また、本発明の圧電センサは、上記貫通孔は、口径が上記信号線の直径よりも長い円孔部の壁面に、当該円孔部の壁面に対して垂直となる面における中心と、当該面における自身の先端部分との距離が、上記信号線の半径よりも短い突起部が形成された孔であっても良い。
【0311】
貫通孔が円孔部のみを有する孔として設けられる場合、即ち、貫通孔が丸穴である場合、信号線と貫通孔の壁面とを確実に接触させることは決して容易でないため、信号線と基板とを確実に導通させることは決して容易ではない。
【0312】
そこで、信号線と貫通孔の壁面とを確実に接触させ、信号線と基板との導通を確実なものとするために、貫通孔は、円孔部に加え、突起部をさらに有する形状の孔として設けられるのが好ましい。
【0313】
上記の構成によれば、貫通孔の突起部は、貫通孔に信号線を挿入するときに変形して、挿入された信号線に咬合する(即ち、咬み合う)。これにより、信号線と基板との導通は、確実なものとなる。
【0314】
また、本発明の圧電センサは、上記電極部は、金属箔電極部材により構成されており、上記金属箔電極部材は、上記圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面に被覆されている圧電薄膜被覆部と、上記圧電薄膜被覆部から突出して形成されており、上記圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面側から他方の表面側へと折り曲げられることで、上記金属箔電極部材自身を当該圧電体薄膜が成膜された基板に固定している突出部と、を有していても良い。
【0315】
つまり、本発明の圧電センサの圧電素子は、貫通孔の壁面が電極部からなっており、貫通孔を通じる信号線に電極部が咬合する(即ち、咬み合う)ことによって、信号線と電極部とが通電可能な構成であると解釈できる。
【0316】
上記の構成によれば、本発明の圧電素子は、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されている構成となるため、当該圧電素子自身の小型化に伴う、圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0317】
結果、本発明の圧電センサの圧電素子では、上記圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制しつつ、当該圧電素子の小型化が可能となるため、当該圧電センサにおいても同様に小型化が可能となる。
【0318】
つまり、本発明の圧電センサでは、発生される電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となるという効果を奏する。
【0319】
ここで、金属製の基板の全面に圧電体薄膜が成膜されており、当該圧電体薄膜に電極部が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0320】
そこで、本発明の圧電センサの圧電素子では、基板の少なくとも側面を露出させることで、当該基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である基板の側面から得られる。
【0321】
また、本発明の圧電センサでは、圧電素子の圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である基板の側面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜に被覆されている電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0322】
また、上記の構成によれば、筐体が基板の側面と接触および導通されており、筐体が電極部を介して圧電素子の圧電体薄膜と接触されている。
【0323】
ところで、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有する。
【0324】
上記の特性を有する圧電体薄膜を、基板に成膜することで、圧電素子では、圧力を受ける時においても、基板側と電極部側との絶縁が可能となる。こうして、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。
【0325】
即ち、圧電体薄膜の表面から放出された電荷は、電極部を介して、基板に形成された貫通孔を通じる信号線に供給される。一方、基板側から放出された電荷は、筐体へと放出される。さらに、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。結果として、本発明の圧電センサでは、基板側から放出される電荷とは逆の極性となる、圧電体薄膜の表面の電荷のみが、電極部を介して信号線に供給される構成を実現することができる。
【0326】
また、こうした構成を有する、本発明の圧電センサでは、筐体内に圧電素子を複数個積層する構造を容易に適用することができる。これは、本発明の圧電センサにおいては、複数個積層された圧電素子のそれぞれにおける電極部からの電荷のみが、当該貫通孔に通された信号線に供給可能であることによる。但し、上記圧電素子は、筐体内部に1個だけ設けられる場合であっても、電極部と信号線、基板と筐体との導通を良好なものとすることができるため、感度が向上する。
【0327】
なお、本発明の圧電センサと、上述した、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電素子が、筐体内部に設けられており、上記電荷が供給される信号線が、上記圧電素子に形成された貫通孔を通じて上記筐体外部に引き出されており、上記圧電素子は、表面に上記貫通孔が形成された金属製の基板と、上記電荷を発生するものであり、自身が上記信号線と離間されるように、上記貫通孔の少なくとも壁面を除く、上記基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備えるものであり、上記信号線が上記貫通孔の壁面と接触されており、上記筐体が上記電極部と導通されており、上記基板と当該電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されている圧電センサと、は、互いに逆の極性を有する圧電センサとなる。
【0328】
圧電センサに接続されている各種回路(例えば、圧電センサの外部に設けられている圧電センサの制御回路系)では、一般的に、自身の駆動に好適である当該圧電センサの極性が予め決定されており、実際の圧電センサの極性に応じて設計を変更することが非常に煩雑である。そのため、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることは、従来、決して容易ではなかった。
【0329】
一方、本発明の圧電センサでは、上記各種回路の駆動に好適である当該圧電センサの極性に応じて、上述したいずれかの圧電センサを適宜選択することにより、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることが簡単であるため都合が良い。
【0330】
また、本発明の圧電センサは、上記突出部が、上記基板における他方の表面側に成膜された圧電体薄膜の全面もしくは略全面に被覆されていても良い。
【0331】
また、本発明の圧電センサは、上記金属箔電極部材を2枚有しており、上記2枚の金属箔電極部材におけるそれぞれの圧電薄膜被覆部は、上記圧電体薄膜が成膜された基板において、互いに異なる表面に被覆されており、かつ、上記2枚の金属箔電極部材の一方における突出部は、上記2枚の金属箔電極部材の他方における圧電薄膜被覆部に被覆されるように折り曲げられており、上記2枚の金属箔電極部材の他方における突出部は、上記2枚の金属箔電極部材の一方における圧電薄膜被覆部に被覆されるように折り曲げられていても良い。
【0332】
上記の構成によれば、圧電薄膜被覆部により被覆されない基板における面(他方の表面)が、上記突出部により被覆される。もしくは、2枚の金属箔電極部材を用いられており、当該2枚の金属箔電極部材の圧電薄膜被覆部は、上記圧電体薄膜が成膜された基板において、互いに異なる面に被覆される。即ち、一方の金属箔電極部材の圧電薄膜被覆部が一方の表面に、他方の金属箔電極部材の圧電薄膜被覆部が他方の表面に被覆される。
【0333】
これにより、本発明の圧電素子では、突出部への応力の集中を抑制することができるため、圧電体薄膜に絶縁破壊が発生してしまう危険性を抑制することができる。また、本発明の圧電素子では、圧電体薄膜と電極部との接触部分を増加させることができるため、大きな感度の低下の抑制効果が得られる。
【0334】
また、本発明の圧電センサは、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電素子が、筐体内部に設けられており、上記電荷が供給される信号線が、上記圧電素子に形成された貫通孔を通じて上記筐体外部に引き出されており、上記圧電素子は、金属製の基板と、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生するものであり、自身が上記筐体と離間されるように、上記基板の少なくとも側面を除く、当該基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備え、上記基板の表面、上記圧電体薄膜、および上記電極部を貫通するように貫通孔が設けられており、上記貫通孔の壁面が、上記電極部からなっているものであり、上記信号線が上記電極部と導通されており、上記筐体が上記基板の側面と接触されており、当該基板と当該電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されていても良い。
【0335】
つまり、本発明の圧電センサの圧電素子は、貫通孔の壁面が電極部からなっており、貫通孔を通じる信号線に電極部が咬合する(即ち、咬み合う)ことによって、信号線と電極部とが通電可能な構成であると解釈できる。
【0336】
上記の構成によれば、本発明の圧電素子は、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されている構成となるため、当該圧電素子自身の小型化に伴う、圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0337】
結果、本発明の圧電センサの圧電素子では、上記圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制しつつ、当該圧電素子の小型化が可能となるため、当該圧電センサにおいても同様に小型化が可能となる。
【0338】
つまり、本発明の圧電センサでは、発生される電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となるという効果を奏する。
【0339】
ここで、金属製の基板の全面に圧電体薄膜が成膜されており、当該圧電体薄膜に電極部が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0340】
そこで、本発明の圧電センサの圧電素子では、基板の少なくとも側面を露出させることで、当該基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である基板の側面から得られる。
【0341】
また、本発明の圧電センサでは、圧電素子の圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である基板の側面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜に被覆されている電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0342】
また、上記の構成によれば、筐体が基板の側面と接触および導通されており、筐体が電極部を介して圧電素子の圧電体薄膜と接触されている。
【0343】
ところで、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有する。
【0344】
上記の特性を有する圧電体薄膜を、基板に成膜することで、圧電素子では、圧力を受ける時においても、基板側と電極部側との絶縁が可能となる。こうして、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。
【0345】
即ち、圧電体薄膜の表面から放出された電荷は、電極部を介して、基板に形成された貫通孔を通じる信号線に供給される。一方、基板側から放出された電荷は、筐体へと放出される。さらに、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。結果として、本発明の圧電センサでは、基板側から放出される電荷とは逆の極性となる、圧電体薄膜の表面の電荷のみが、電極部を介して信号線に供給される構成を実現することができる。
【0346】
また、こうした構成を有する、本発明の圧電センサでは、筐体内に圧電素子を複数個積層する構造を容易に適用することができる。これは、本発明の圧電センサにおいては、複数個積層された圧電素子のそれぞれにおける電極部からの電荷のみが、当該貫通孔に通された信号線に供給可能であることによる。但し、上記圧電素子は、筐体内部に1個だけ設けられる場合であっても、電極部と信号線、基板と筐体との導通を良好なものとすることができるため、感度が向上する。
【0347】
なお、本発明の圧電センサと、上述した、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電素子が、筐体内部に設けられており、上記電荷が供給される信号線が、上記圧電素子に形成された貫通孔を通じて上記筐体外部に引き出されており、上記圧電素子は、表面に上記貫通孔が形成された金属製の基板と、上記電荷を発生するものであり、自身が上記信号線と離間されるように、上記貫通孔の少なくとも壁面を除く、上記基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備えるものであり、上記信号線が上記貫通孔の壁面と接触されており、上記筐体が上記電極部と導通されており、上記基板と当該電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されている圧電センサと、は、互いに逆の極性を有する圧電センサとなる。
【0348】
圧電センサに接続されている各種回路(例えば、圧電センサの外部に設けられている圧電センサの制御回路系)では、一般的に、自身の駆動に好適である当該圧電センサの極性が予め決定されており、実際の圧電センサの極性に応じて設計を変更することが非常に煩雑である。そのため、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることは、従来、決して容易ではなかった。
【0349】
一方、本発明の圧電センサでは、上記各種回路の駆動に好適である当該圧電センサの極性に応じて、上述したいずれかの圧電センサを適宜選択することにより、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることが簡単であるため都合が良い。
【0350】
また、本発明の圧電センサは、上記圧電素子は、上記基板の一方の表面に成膜された圧電体薄膜にのみ、上記電極部が被覆されていても良い。
【0351】
また、本発明の圧電センサは、上記電極部は、電極の膜であっても良い。
【0352】
上記の構成によっても、本発明の圧電センサの圧電素子の圧電体薄膜では、電極部として金属箔電極部材を使用する場合と同様に、絶縁破壊が発生してしまう危険性を抑制する効果を得ることができ、かつ、大きな感度の低下の抑制効果が得られる。
【0353】
また、本発明の圧電センサは、上記圧電素子が、上記筐体内部に複数個積層されていても良い。
【0354】
上記の構成によれば、本発明の圧電センサでは、圧電素子を複数個積層することで、圧電素子から信号線に供給される電荷量の低下をさらに抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積のさらなる狭小化が可能となり、ひいては、当該圧電センサから発生される電荷量を増加させることさえも可能である。
【0355】
また、本発明の金属箔電極部材は、上記圧電素子における上記電極部として使用される金属箔電極部材であって、上記圧電素子の基板の表面に形成された貫通孔を露出させるための孔部と、上記圧電素子の圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面に被覆される圧電薄膜被覆部と、上記圧電薄膜被覆部から突出して形成されており、上記圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面側から他方の表面側へと折り曲げられることで、上記金属箔電極部材自身を当該圧電体薄膜が成膜された基板に固定可能な突出部と、を備えても良い。
【0356】
上記の構成によれば、圧電素子の電極部として、本発明の金属箔電極部材を、圧電体薄膜が成膜された基板に被覆すると、孔部により基板に形成された貫通孔を露出させ、圧電薄膜被覆部により圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面または他方の表面を被覆して、突出部により金属箔電極自身を圧電体薄膜が成膜された基板に固定することが可能となる。つまり、本発明の金属箔電極部材は、上記の圧電素子に係る電極部として好適に用いられるものである。
【0357】
また、上記圧電体薄膜を備えていることを特徴とする圧電薄膜共振子、およびそれを備えたフィルタ、ならびに上記圧電体薄膜を備えていることを特徴とするアクチュエータ素子、およびジャイロセンサー、圧力センサおよび加速度センサなどの物理センサも本発明の範疇に含まれる。
【0358】
〔付記事項〕
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。