特許第5843198号(P5843198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5843198圧電素子およびその製造方法、ならびに圧電センサ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5843198
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】圧電素子およびその製造方法、ならびに圧電センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 23/10 20060101AFI20151217BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20151217BHJP
   H01L 41/29 20130101ALI20151217BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20151217BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20151217BHJP
   G01L 9/08 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
   G01L23/10
   H01L41/113
   H01L41/29
   H01L41/187
   C23C14/06 A
   G01L9/08
【請求項の数】24
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2012-11525(P2012-11525)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-148562(P2013-148562A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岸 和司
(72)【発明者】
【氏名】秋山 守人
(72)【発明者】
【氏名】田原 竜夫
【審査官】 公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−288144(JP,A)
【文献】 特開2009−010926(JP,A)
【文献】 特開平04−132917(JP,A)
【文献】 特開平04−116990(JP,A)
【文献】 特開平11−238918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/16
G01L 7/00−23/32
G01L 27/00−27/02
H01L 41/00−41/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔が形成された金属製の基板と、
上記貫通孔の周囲の壁面、または、上記基板における上記貫通孔の周囲の壁面の裏側に当たる面のいずれかを少なくとも除く、上記基板の全面に成膜されており、スカンジウムを含有する窒化アルミニウム薄膜からなる圧電体薄膜と、
導電性を有しており、上記圧電体薄膜の少なくとも一部を被覆している電極部と、を備え、
上記圧電体薄膜に含まれるスカンジウムの原子数とアルミニウムの原子数との総量を100原子%としたとき、上記スカンジウムの含有率が、0.5〜50原子%の範囲内であり、
上記壁面に対して略垂直方向に起立して花弁状の貫通孔を形成する複数の突起部が折り曲げられて上記基板の外側に向けて突出するように形成された複数の突出部が、上記基板に形成され、
上記突出部の表面に、上記圧電体薄膜が成膜されていないことを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
上記電極部は、上記基板における上記貫通孔の周囲の壁面の裏側に当たる面を少なくとも被覆していることを特徴とする請求項に記載の圧電素子。
【請求項3】
上記電極部は、上記貫通孔の周囲の壁面の一部を少なくとも被覆していることを特徴とする請求項に記載の圧電素子。
【請求項4】
上記貫通孔の周囲の壁面に対して略垂直方向に起立する突起部が、当該壁面に形成されていることを特徴とする請求項1からまでのいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項5】
上記電極部は、金属箔電極部材により構成されており、
上記金属箔電極部材は、
上記圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面を被覆する圧電薄膜被覆部と、
上記圧電薄膜被覆部から突出して形成されており、上記圧電体薄膜が成膜された上記基板における一方の表面側から他方の表面側へと折り曲げられることで、上記金属箔電極部材を当該基板に固定している折曲突出部と、を有していることを特徴とする請求項1からまでのいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項6】
上記折曲突出部が、上記基板における他方の表面側に成膜された圧電体薄膜の全面もしくは略全面を被覆していることを特徴とする請求項に記載の圧電素子。
【請求項7】
上記金属箔電極部材を2枚有しており、
上記2枚の金属箔電極部材におけるそれぞれの圧電薄膜被覆部は、上記圧電体薄膜が成膜された基板において、互いに異なる表面を被覆しており、かつ、
上記2枚の金属箔電極部材の一方における折曲突出部は、上記2枚の金属箔電極部材の他方における圧電薄膜被覆部を被覆するように折り曲げられており、
上記2枚の金属箔電極部材の他方における折曲突出部は、上記2枚の金属箔電極部材の一方における圧電薄膜被覆部を被覆するように折り曲げられていることを特徴とする請求項に記載の圧電素子。
【請求項8】
上記圧電体薄膜における上記スカンジウムの含有率が、0.5〜35原子%または40〜50原子%の範囲内であることを特徴とする請求項1からまでのいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項9】
上記窒化アルミニウム薄膜は基板上に設けられており、上記窒化アルミニウム薄膜と上記基板との間には、少なくとも1層の中間層が設けられていることを特徴とする請求項1からまでのいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項10】
上記圧電体薄膜における上記スカンジウムの含有率が、15〜45原子%の範囲内であることを特徴とする請求項に記載の圧電素子。
【請求項11】
上記圧電体薄膜における上記スカンジウムの含有率が、10〜35原子%の範囲内であることを特徴とする請求項10に記載の圧電素子。
【請求項12】
上記圧電体薄膜における上記スカンジウムの含有率が、40〜50原子%の範囲内であることを特徴とする請求項11に記載の圧電素子。
【請求項13】
上記中間層は、窒化チタンまたはスカンジウムの含有率の異なる窒化アルミニウム薄膜であることを特徴とする請求項または10に記載の圧電素子。
【請求項14】
請求項に記載の圧電素子を備えた圧電センサであって、
上記圧電素子を収容する導電性の筐体と、
一方の端子が上記筐体の外部に引き出され、他方の端子が上記貫通孔の周囲の壁面と接触させられた、導体からなる信号線と、を備え、
上記筐体が、上記基板における上記貫通孔の周囲の壁面の裏側に当たる面を被覆している上記電極部の部分と導通されており、上記基板と上記電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されていることを特徴とする圧電センサ。
【請求項15】
請求項に記載の圧電素子を備えた圧電センサであって、
上記圧電素子を収容する導電性の筐体と、
一方の端子が上記筐体の外部に引き出され、他方の端子が上記貫通孔の周囲の壁面の一部を被覆している上記電極部の部分と接触させられた、導体からなる信号線と、を備え、
上記筐体が上記基板の上記貫通孔の壁面の裏側に当たる面と導通されており、上記基板と上記電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されていることを特徴とする圧電センサ。
【請求項16】
貫通孔が形成された金属製の基板と、
上記貫通孔の周囲の壁面、または、上記基板における上記貫通孔の周囲の壁面の裏側に当たる面のいずれかを少なくとも除く、上記基板の全面に成膜されており、スカンジウムを含有する窒化アルミニウム薄膜からなる圧電体薄膜と、
導電性を有しており、上記圧電体薄膜の少なくとも一部を被覆している電極部と、を備え、
上記圧電体薄膜に含まれるスカンジウムの原子数とアルミニウムの原子数との総量を100原子%としたとき、上記スカンジウムの含有率が、0.5〜50原子%の範囲内であり、
上記貫通孔の周囲の壁面における上記貫通孔の一端側から上記基板の外側に向けて突出する突出部が、上記基板に形成され、
上記突出部の表面に、上記圧電体薄膜が成膜されていない圧電素子を少なくとも2つ備えた圧電センサであって、
上記少なくとも2つの圧電素子を収容する導電性の筐体と、
一方の端子が上記筐体の外部に引き出され、他方の端子が上記2つの圧電素子のうちの一方の圧電素子の突出部と接触させられた、導体からなる信号線と、を備え、
上記2つの圧電素子のうちのもう一方の圧電素子の突出部が、上記一方の圧電素子の貫通孔に嵌挿されており、
上記筐体が上記電極部と導通されており、上記基板と上記電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されていることを特徴とする圧電センサ。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法であって、
上記貫通孔よりも大きな面を有する治具本体と、当該治具本体における貫通孔よりも大きな面から伸びており、上記貫通孔を通ずることが可能なワイヤ部材と、を備える治具を用意する第1の工程と、
上記貫通孔の一端側から上記ワイヤ部材を挿入すると共に、上記治具本体に上記基板を載置して、当該基板を上記治具に装着する第2の工程と、
上記ワイヤ部材を中空の蓋部材に挿入すると共に、当該蓋部材と上記治具本体とにより上記基板を圧着固定する第3の工程と、
上記第3の工程により、上記基板を圧着固定した上記治具を、成膜装置に装着する第4
の工程と、
上記成膜装置により、上記基板に、上記圧電体薄膜を成膜する第5の工程と、を含むことを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項18】
上記貫通孔の他端側から上記ワイヤ部材を挿入すると共に、上記治具本体に上記基板を載置して、当該基板を上記治具に装着する第6の工程と、
上記第6の工程の後に、上記第3の工程から上記第5の工程までを順次実施する第7の工程と、をさらに含むことを特徴とする請求項17に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項19】
上記第5の工程は、少なくとも窒素ガスを含む雰囲気下で、アルミニウムと、スカンジウムとを同時にスパッタリングするスパッタリング工程を含み、かつ、上記スパッタリング工程における上記スカンジウムの電力密度が、0.05〜10W/cmの範囲内であることを特徴とする請求項17または18に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項20】
上記スパッタリング工程における上記スカンジウムの電力密度が、0.05〜6.5W/cmまたは8.5〜10W/cmの範囲内であることを特徴とする請求項19に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項21】
少なくとも窒素ガスを含む雰囲気下で、アルミニウムと、スカンジウムとを同時にスパッタリングするスパッタリング工程を含み、
上記スパッタリング工程の前に、上記基板上に中間層を形成する中間層形成工程をさらに含み、上記スパッタリング工程における上記スカンジウムの電力密度が、0.05〜10W/cmの範囲内であることを特徴とする請求項19に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項22】
上記スパッタリング工程における上記電力密度が、2〜6.5W/cmの範囲内であることを特徴とする請求項20に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項23】
上記スパッタリング工程における上記電力密度が、9.5〜10W/cmの範囲内で
あることを特徴とする請求項20に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項24】
上記スパッタリング工程における上記基板の温度が20〜600℃の範囲内であることを特徴とする請求項19から23のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電体薄膜を備えた圧電素子およびその製造方法、ならびに圧電センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃焼圧センサなどに使用される圧電センサは、脆性材料である水晶やセラミックスの単結晶をかまぼこ型に加工して3個の素子を三角形に組み合わせる、あるいは、結晶軸をそろえて切り出した薄い板を積層する等の複雑な構造であり、かつ、出力が小さいためアンプ等の使用条件に制限があるという問題点がある。
【0003】
このような問題点を解決する手法として、特許文献1に開示された圧電素子、および特許文献2に開示された圧電体薄膜がある。
【0004】
上記特許文献1に開示された圧電素子は、表面に貫通孔が形成された金属製の基板と、貫通孔の、少なくとも壁面を除く、基板の全面に成膜されているAlN素子膜と、導電性を有しており、AlN素子膜を被覆する金属箔電極と、を備えている。
【0005】
同圧電素子は、上記の構成を採用することにより、圧電センサが挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化を可能にしている。
【0006】
また、上記特許文献2に開示された圧電体薄膜は、窒化アルミニウム薄膜に対してスカンジウムを添加することにより、圧電応答性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−10926(2009年1月15日公開)
【特許文献2】特開2009−288144(2009年12月10日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年のエンジンの更なる低燃費化、排気ガスの浄化のため、エンジン燃焼圧の制御は極めて重要な課題となっており、これに伴って、これまで得られなかった情報、例えば、クリーンディーゼルエンジン等での多段噴射時の燃焼状態の把握等が求められている。しかしながら、現在の圧電センサではこれらのニーズに対して十分満足できるような感度(圧電応答性)を有していないという問題点がある。
【0009】
例えば、上記特許文献1に開示された圧電素子における窒化アルミニウム薄膜は、他の圧電材料に比べて、その圧電定数が低いという問題点がある。具体的には、窒化アルミニウム薄膜の圧電定数d33が5.1〜6.7pC/N程度であるのに対して、酸化亜鉛薄膜の圧電定数d33は9.9〜12.4pC/N程度であり、ニオブ酸リチウム薄膜の圧電定数d33は6〜12pC/N程度であり、そしてチタン酸ジルコン酸鉛薄膜の圧電定数d33は97〜100pC/N程度である。すなわち、窒化アルミニウム薄膜は、他の圧電材料の1/2〜1/20程度の圧電定数しか有していない。
【0010】
また、燃費削減のためには、エンジンの燃焼圧を直接モニターしてフィードバックし、燃焼を制御することが非常に有効であるが、そのためには、圧電センサの小型化とともに制御系を含めた環境での使用に耐え得る高い出力が必要となるが、現在の圧電センサは十分なものとは言えない状況にある。例えば、上記特許文献2に開示された技術では、圧電体薄膜の圧電応答性を向上させる点については考慮されているものの、圧電センサの小型化については、考慮されていない。
【0011】
さらに、自動車や船舶、建設機械等で使用されるエンジンに実装するためには、低価格なものでなければならないが、現在の圧電センサは、上述のように、脆性材料である水晶やセラミックスの単結晶をかまぼこ型に加工して3個の素子を三角形に組み合わせる、あるいは、結晶軸をそろえて切り出した薄い板を積層する等の複雑な構造で、素子自体非常に高価なものとなっている。
【0012】
本発明は、上記の問題に鑑みて為されたものであり、その目的は、圧電応答性を向上させつつ、高出力化、小型化、低価格化を実現することができる圧電素子などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の圧電素子は、上記の課題を解決するために、貫通孔が形成された金属製の基板と、上記貫通孔の周囲の壁面、または、上記基板における上記貫通孔の周囲の壁面の裏側に当たる面のいずれかを少なくとも除く、上記基板の全面に成膜されており、スカンジウムを含有する窒化アルミニウム薄膜からなる圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜の少なくとも一部を被覆している電極部と、を備え、上記圧電体薄膜に含まれるスカンジウムの原子数とアルミニウムの原子数との総量を100原子%としたとき、上記スカンジウムの含有率が、0.5〜50原子%の範囲内であることを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、基板は、金属製であり、貫通孔が形成されている。また、圧電体薄膜は、上記貫通孔の周囲の壁面(以下、単に「貫通孔の壁面」という)、または、(上記基板の面内方向に対して)上記貫通孔の壁面の裏側に当たる面のいずれかを少なくとも除く、上記基板の全面に成膜されている。
【0015】
これにより、圧電素子は、少なくとも金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されている構成となるため、当該圧電素子自身の小型化に伴う、圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0016】
結果、本発明の圧電素子では、上記圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制しつつ、当該圧電素子の小型化が可能となるため、当該圧電素子を設けた圧電センサにおいても同様に小型化が可能となる。
【0017】
つまり、本発明の圧電素子では、発生される電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となる。
【0018】
また、上記の圧電素子を複数個積層するという簡単な構造とし、後述する圧電センサの信号線を複数個の圧電素子のそれぞれの貫通孔に嵌挿させることで、複数個の圧電素子のそれぞれの圧電体薄膜にて基板側に発生した電荷を一括して引き出すことが可能となる。このため、圧電素子の小型化、高出力化、低価格化を実現することができる。
【0019】
ところで、圧電材料の圧電応答性を向上させる方法として、本発明者らは、窒化アルミニウムにスカンジウムを適当量添加することによって、窒化アルミニウムの結晶構造を変化させることができ、その圧電応答性を向上させることができるものと考え、スカンジウムの添加量を鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0020】
また、窒化ガリウムおよび窒化インジウムは、発光ダイオードなどの発光デバイスにおいて非常に注目を集めている素材であり、発光デバイスの小型化および省電力化を実現するために研究が盛んに行われている。一方、バンドギャップが広い窒化アルミニウムは、
可視光において発光しないため、窒化ガリウムを発光デバイスとして用いるためのバッファ層として用いられており、窒化アルミニウムの圧電応答性を向上させる研究は、ほとんど行われていない。
【0021】
そこで、本発明の圧電素子では、圧電体薄膜を、スカンジウムを含有する窒化アルミニウム薄膜を含む構成とし、上記スカンジウムの原子数と上記窒化アルミニウム薄膜におけるアルミニウムの原子数との総量を100原子%としたとき、上記スカンジウムの含有率を、0.5〜50原子%の範囲内としている。
【0022】
窒化アルミニウム薄膜に含有されるスカンジウムの含有率を上記範囲とすることによって、窒化アルミニウム薄膜の有する弾性波の伝播速度、Q値(機械的品質係数)、および周波数温度係数の特性を失うことなく、圧電応答性を向上させることができる。
【0023】
また、AlN薄膜素子で高出力を得るためには表面積を増加させる必要があり、小さな外形で表面積を座生化するためには積層構造にする必要があるが、素子1枚当たりの発生電荷が増えれば少ない枚数で高出力を得ることが可能になる。
【0024】
これにより、従来の圧電素子で検出できなかった細かい圧力変化まで検出することが可能になる。従来の圧電素子は、水晶(セラミックス)を素子として使用していることから、素子の破壊を防ぐために緩衝材を使用する等の感度の低下をもたらす構造を採らざるを得ないが、本発明の圧電素子ではそのような構造を採る必要が無く、非常に高感度で、市販のセンサでは検出できない細かい圧力変化まで検出することが可能になる。
【0025】
以上により、圧電応答性を向上させつつ、高出力化、小型化、低価格化を実現することができる。
【0026】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記貫通孔の周囲の壁面における上記貫通孔の一端側から上記基板の外側に向けて突出する突出部が、上記基板に形成され、上記突出部の表面に、上記圧電体薄膜が成膜されていなくても良い。
【0027】
上記の構成によれば、貫通孔の周囲の壁面における貫通孔の一端側から基板の外側に向けて突出する突出部が、基板に形成されている。また、突出部の表面には、圧電体薄膜が成膜されていない。
【0028】
これにより、例えば、2枚の圧電素子を積層した場合に、下側に配置する圧電素子の突出部を、上側に配置する圧電素子の貫通孔の他端側から嵌挿させることにより、2枚の圧電素子の貫通孔の壁面間を導通させることができる。このため、上側に配置する圧電素子の突出部に後述する信号線の一端を接触させることで、圧電体薄膜にて基板側に発生した電荷を引き出すことが可能となる。
【0029】
このため、上記の圧電素子を複数個積層するという簡単な構造とするだけで、複数個の圧電素子のそれぞれの圧電体薄膜にて基板側に発生した電荷を一括して引き出すことが可能となる。すなわち、上記特許文献1に開示された圧電センサにおける信号線付電極を単に信号線に代替えし、絶縁板を除くことにより、構成、組み立ては極めて簡単になることから、大幅な低価格化が実現できる。
【0030】
ここで、圧電体薄膜が、貫通孔の周囲の壁面を少なくとも除く、基板の全面に成膜されているケースでは、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、基板における貫通孔の周囲の壁面の裏側に当たる面を電極部によって少なくとも被覆することが好ましい。
【0031】
ここで、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されており、電極部によって当該圧電体薄膜が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0032】
そこで、本発明の圧電素子では、基板に貫通孔を形成し、基板における当該貫通孔の周囲の壁面を少なくとも露出させることで、基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である貫通孔の周囲の壁面から得られる。
【0033】
また、本発明の圧電素子では、圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である貫通孔の周囲の壁面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜を被覆している電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。こうした圧電素子は、圧電センサに用いる場合において都合が良い。
【0034】
即ち、上記の構成によれば、貫通孔に圧電センサの信号線を通すことにより、基板と信号線とを接触および導通させることが可能となる。また、上述した、圧力が加えられる場合における圧電体薄膜の特性により、圧電素子では、基板側と電極部側とが絶縁されることとなる。さらに、例えば、圧電センサの筐体、ねじ込み等で接触する圧電センサの押し金具等と電極部とを接触させることにより、電極部と圧電センサの筐体とを導通させることが可能となる。
【0035】
つまり、上記本発明の圧電素子が設けられた圧電センサでは、信号線が、当該圧電素子に形成された貫通孔を通じて引き出される。さらに、上記圧電素子が設けられた圧電センサでは、信号線と筐体との、圧電素子による絶縁が可能となる。
【0036】
また、上記圧電素子を複数個積層することで、圧電センサでは、圧電素子から信号線に供給される電荷量を低下させることなく、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積のさらなる狭小化が可能となり、ひいては、当該圧電センサから発生される電荷量を増加させることさえも可能である。
【0037】
さらに、本発明の圧電素子を備える圧電センサでは、圧電素子の電極部がもたらす上記シールド効果により、圧電体薄膜から圧電センサの信号線へと供給される電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0038】
一方、圧電体薄膜が、上記基板における上記貫通孔の周囲の壁面の裏側に当たる面を少なくとも除く、上記基板の全面に成膜されているケースでは、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、貫通孔の周囲の壁面の一部を電極部で被覆することが好ましい。
【0039】
これにより、貫通孔を通じる圧電センサの信号線に電極部が咬合する(即ち、咬み合う)ように電極部で被覆する部分を設計することで、信号線と電極部とが通電可能な状態となる。
【0040】
上記の構成によれば、本発明の圧電素子は、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されている構成となるため、当該圧電素子自身の小型化に伴う、圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0041】
結果、本発明の圧電素子では、上記圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制しつつ、当該圧電素子の小型化が可能となるため、当該圧電素子を設けた圧電センサにおいても同様に小型化が可能となる。
【0042】
つまり、本発明の圧電素子では、発生される電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となる。
【0043】
ここで、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されており、当該圧電体薄膜に電極部が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0044】
そこで、本発明の圧電素子では、基板の少なくとも側面(貫通孔の周囲の壁面の裏側に当たる面)を露出させることで、当該基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である基板の側面から得られる。
【0045】
また、本発明の圧電素子では、圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である基板の側面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜を被覆している電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0046】
こうした圧電素子は、圧電センサに用いる場合において都合が良い。
【0047】
即ち、上記の構成によれば、壁面の一部が電極部によって被覆されている貫通孔に圧電センサの信号線を通すことにより、電極部と信号線とを接触および導通させることが可能となる。また、上述した、圧力が加えられる場合における圧電体薄膜の特性により、圧電素子では、基板側と電極部側とが絶縁されることとなる。さらに、圧電センサの筐体、ねじ込み等で接触する圧電センサ押し金具等と基板の側面とを接触させることにより、基板と圧電センサの筐体とを導通させることが可能となる。
【0048】
つまり、上記本発明の圧電素子が設けられた圧電センサでは、信号線が、当該圧電素子に形成された貫通孔を通じて引き出される。さらに、上記圧電素子が設けられた圧電センサでは、信号線と筐体との、圧電素子による絶縁が可能となる。
【0049】
また、上記圧電素子を複数個積層することで、圧電センサでは、圧電素子から信号線に供給される電荷量を低下させることなく、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積のさらなる狭小化が可能となり、ひいては、当該圧電センサから発生される電荷量を増加させることさえも可能である。
【0050】
さらに、本発明の圧電素子を備える圧電センサでは、圧電素子の電極部がもたらす上記シールド効果により、圧電体薄膜から圧電センサの信号線へと供給される電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0051】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記貫通孔の周囲の壁面に対して略垂直方向に起立する突起部が、当該壁面に形成されていても良い。
【0052】
上記構成によれば、貫通孔の突起部は、貫通孔に後述する圧電センサの信号線を挿入するときに変形して、挿入された圧電センサの信号線に咬合する(即ち、咬み合う)。これにより、圧電センサの信号線と基板との導通がとり易くなる。
【0053】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記電極部は、金属箔電極部材により構成されており、上記金属箔電極部材は、上記圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面を被覆する圧電薄膜被覆部と、上記圧電薄膜被覆部から突出して形成されており、上記圧電体薄膜が成膜された上記基板における一方の表面側から他方の表面側へと折り曲げられることで、上記金属箔電極部材を当該基板に固定している折曲突出部と、を有していても良い。
【0054】
上記の構成によれば、電極部は、圧電薄膜被覆部と折曲突出部とを有する金属箔電極部材を含んで構成されている。そして、折曲突出部は、上記圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面側から他方の表面側へと折り曲げられる、即ち、折曲突出部が折り返されることによって、金属箔電極部材自身と圧電素子の筐体との導通を良好なものとすることができる。
【0055】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記折曲突出部が、上記基板における他方の表面側に成膜された圧電体薄膜の全面もしくは略全面を被覆していても良い。もしくは、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記金属箔電極部材を2枚有しており、上記2枚の金属箔電極部材におけるそれぞれの圧電薄膜被覆部は、上記圧電体薄膜が成膜された基板において、互いに異なる表面を被覆しており、かつ、上記2枚の金属箔電極部材の一方における折曲突出部は、上記2枚の金属箔電極部材の他方における圧電薄膜被覆部を被覆するように折り曲げられており、上記2枚の金属箔電極部材の他方における折曲突出部は、上記2枚の金属箔電極部材の一方における圧電薄膜被覆部を被覆するように折り曲げられていても良い。
【0056】
ここで、圧電体薄膜が成膜された基板に、1枚の金属箔電極部材が、基板の一方の表面または他方の表面から被覆されている構成の場合は、圧電素子自身の加圧時において、圧電体薄膜の折曲突出部に接する部位に応力が集中することで剪断力が生じ、この剪断力に起因して、圧電体薄膜に絶縁破壊が発生してしまう虞がある。即ち、圧電センサにおいて、圧電素子を複数個積層する構造をより有効に機能させるためには、複数個の圧電素子を加圧して当該圧電素子同士を密着させる必要があるが、このとき、加圧力を高めると、圧電体薄膜の折曲突出部に接する部位に応力が集中して絶縁破壊が発生してしまう虞がある。
【0057】
このため、上記の構成によれば、圧電薄膜被覆部により被覆されない基板における面(他方の表面)が、上記折曲突出部により被覆される。もしくは、2枚の金属箔電極部材を用いられており、当該2枚の金属箔電極部材の圧電薄膜被覆部は、上記圧電体薄膜が成膜された基板において、互いに異なる面に被覆される。即ち、一方の金属箔電極部材の圧電薄膜被覆部が一方の表面に、他方の金属箔電極部材の圧電薄膜被覆部が他方の表面に被覆される。
【0058】
これにより、上記の構成によれば、折曲突出部への応力の集中を抑制することができるため、圧電体薄膜に絶縁破壊が発生してしまう危険性を抑制することができる。また、上記の構成によれば、圧電体薄膜と電極部との接触部分を増加させることができるため、大きな感度の低下の抑制効果が得られる。
【0059】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記圧電体薄膜における上記スカンジウムの含有率が、0.5〜35原子%または40〜50原子%の範囲内であっても良い。
【0060】
上記の構成によれば、圧電体薄膜は、スカンジウムを0.5〜35原子%または40〜50原子%の範囲内で含有する窒化アルミニウム薄膜からなる。特に、基板上にスカンジウムを含有する窒化アルミニウム薄膜を直接形成する場合に、窒化アルミニウム薄膜に含有されるスカンジウムの含有率を上記範囲とすることによって、窒化アルミニウム薄膜の有する弾性波の伝播速度、Q値、および周波数温度係数の特性を失うことなく、圧電応答性を向上することができる。
【0061】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記窒化アルミニウム薄膜は基板上に設けられており、上記窒化アルミニウム薄膜と上記基板との間には、少なくとも1層の中間層が設けられていても良い。
【0062】
基板と窒化アルミニウム薄膜との間に中間層を設けることによって、中間層を設けない場合に生じる圧電応答性の低下を抑制させることができる。すなわち、スカンジウム濃度が35原子%よりも大きく40原子%よりも小さい場合に生じる圧電応答性の低下を抑制させることができる。
【0063】
これによって、組成を厳密に管理する必要がなくなるため、圧電応答性を向上した窒化アルミニウム薄膜を容易に得ることができる。
【0064】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記圧電体薄膜における上記スカンジウムの含有率が、15〜45原子%の範囲内であっても良い。
【0065】
上記の構成によれば、基板と窒化アルミニウム薄膜との間に中間層を設けた場合であっても。窒化アルミニウム薄膜の有する弾性波の伝播速度、Q値、および周波数温度係数の特性を失うことなく、圧電応答性を向上させることができる。
【0066】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記圧電体薄膜における上記スカンジウムの含有率が、10〜35原子%の範囲内であっても良い。
【0067】
窒化アルミニウム薄膜に含有されるスカンジウムの含有率を上記範囲とすることによって、表面粗さを低減できる。すなわち、圧電体薄膜の膜厚の均一性を向上させることができる。
【0068】
一般的に、フィルタなどの共振周波数は、膜厚の厚さによって決定されている。したがって、圧電体薄膜を、例えば、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイスに用いることによって、膜厚の精度を向上し、伝搬損失を抑制できる。これによって、挿入損失がより少なく、かつノイズを低減したSAWフィルタを実現できる。また、上記圧電体薄膜における表面粗さを低減させることによって、多結晶における粒界を消滅させ、圧電体薄膜を高密度化できる。これによって、圧電体薄膜を、例えばFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)フィルタに用いる場合には、窒化アルミニウム薄膜を電極によって挟む際の短絡を防止することができる。
【0069】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記圧電体薄膜における上記スカンジウムの含有率が、40〜50原子%の範囲内であっても良い。
【0070】
窒化アルミニウム薄膜に含有されるスカンジウムの含有率を上記範囲とすることによって、窒化アルミニウム薄膜の有する特性を失うことなく、圧電応答性をより一層向上させることができる。
【0071】
これによって、圧電体薄膜は、従来の窒化アルミニウムを備えた圧電体薄膜ではなし得なかったより一層の効果を奏する。具体的には、上記構成の窒化アルミニウムを備えた圧電体薄膜をデバイス、例えばRF−MEMS(Radio Frequency−Micro Electro Mechanical System)デバイスに備える場合には、より一層の低電圧での作動を実現できる。また、上記デバイスがアクチュエータの場合には、その可動領域をより一層拡大し、フィルタの場合には、挿入損失をより一層低減できる。したがって、上記圧電体薄膜を備えるデバイスにおけるより一層の小型化および省電力化を実現するとともに、その性能をより一層向上させることができる。また、圧電体薄膜をジャイロセンサーおよび圧力センサ、加速度センサなどの物理センサに応用した場合は、検出感度をより一層向上させることができる。
【0072】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記中間層は、窒化チタンまたはスカンジウムの含有率の異なる窒化アルミニウム薄膜であっても良い。
【0073】
また、本発明の圧電センサは、上記の構成に加えて、上記圧電素子を備えた圧電センサであって、上記圧電素子を収容する導電性の筐体と、一方の端子が上記筐体の外部に引き出され、他方の端子が上記貫通孔の周囲の壁面と接触させられた、導体からなる信号線と、を備え、上記筐体が、上記基板における上記貫通孔の周囲の壁面の裏側に当たる面を被覆している上記電極部の部分と導通されており、上記基板と当該導電体被覆膜とが上記圧電体薄膜により絶縁されていても良い。
【0074】
ここで、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されており、電極部によって当該圧電体薄膜が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0075】
そこで、本発明の圧電センサが備える圧電素子では、基板に貫通孔を形成し、基板における当該貫通孔の周囲の壁面を少なくとも露出させることで、基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である貫通孔の周囲の壁面から得られる。
【0076】
また、本発明の圧電センサが備える圧電素子では、圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である貫通孔の周囲の壁面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜を被覆している電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。こうした圧電素子は、圧電センサに用いる場合において都合が良い。
【0077】
即ち、上記の構成によれば、貫通孔に圧電センサの信号線を通すことにより、基板と信号線とを接触および導通させることが可能となる。また、上述した、圧力が加えられる場合における圧電体薄膜の特性により、圧電素子では、基板側と電極部側とが絶縁されることとなる。さらに、例えば、圧電センサの筐体、ねじ込み等で接触する圧電センサの押し金具等と電極部とを接触させることにより、電極部と圧電センサの筐体とを導通させることが可能となる。
【0078】
つまり、上記本発明の圧電センサでは、信号線が、当該圧電素子に形成された貫通孔を通じて引き出される。さらに、上記圧電素子が設けられた圧電センサでは、信号線と筐体との、圧電素子による絶縁が可能となる。
【0079】
また、上記圧電素子を複数個積層することで、圧電センサでは、圧電素子から信号線に供給される電荷量を低下させることなく、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積のさらなる狭小化が可能となり、ひいては、当該圧電センサから発生される電荷量を増加させることさえも可能である。
【0080】
さらに、本発明の圧電センサでは、圧電素子の電極部がもたらす上記シールド効果により、圧電体薄膜から圧電センサの信号線へと供給される電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0081】
また、本発明の圧電素子は、上記の構成に加えて、上記圧電素子を備えた圧電センサであって、上記圧電素子を収容する導電性の筐体と、一方の端子が上記筐体の外部に引き出され、他方の端子が上記貫通孔の周囲の壁面の一部を被覆している上記電極部の部分と接触させられた、導体からなる信号線と、を備え、上記筐体が上記基板の上記貫通孔の壁面の裏側に当たる面と導通されており、上記基板と当該被覆導電体膜とが上記圧電体薄膜により絶縁されていても良い。
【0082】
なお、本発明の圧電センサと、上述した、圧電素子が、筐体内部に設けられており、上記電荷が供給される信号線が、上記圧電素子に形成された貫通孔を通じて上記筐体外部に引き出されており、上記圧電素子は、表面に上記貫通孔が形成された金属製の基板と、上記電荷を発生するものであり、自身が上記信号線と離間されるように、上記貫通孔の少なくとも壁面を除く、上記基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜を被覆する電極部と、を備えるものであり、上記信号線が上記貫通孔の壁面と接触されており、上記筐体が上記電極部と導通されており、上記基板と当該電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されている圧電センサと、は、互いに逆の極性を有する圧電センサとなる。
【0083】
圧電センサに接続されている各種回路(例えば、圧電センサの外部に設けられている圧電センサの制御回路系)では、一般的に、自身の駆動に好適である当該圧電センサの極性が予め決定されており、実際の圧電センサの極性に応じて設計を変更することが非常に煩雑である。そのため、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることは、従来、決して容易ではなかった。
【0084】
一方、本発明の圧電センサでは、上記各種回路の駆動に好適である当該圧電センサの極性に応じて、上述したいずれかの圧電センサを適宜選択することにより、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることが簡単であるため都合が良い。
【0085】
また、本発明の圧電センサは、上記の構成に加えて、上記圧電素子を少なくとも2つ備えた圧電センサであって、上記少なくとも2つの圧電素子を収容する導電性の筐体と、一方の端子が上記筐体の外部に引き出され、他方の端子が上記2つの圧電素子のうちの一方の圧電素子の突出部と接触させられた、導体からなる信号線と、を備え、上記2つの圧電素子のうちのもう一方の圧電素子の突出部が、上記一方の圧電素子の貫通孔に嵌挿されており、上記筐体が上記電極部と導通されており、上記基板と当該被覆導電体膜とが上記圧電体薄膜により絶縁されていても良い。
【0086】
これにより、例えば、圧電センサの筐体内部において、2枚の圧電素子を積層した場合に、上側に配置する圧電素子の突出部を、下側に配置する圧電素子の貫通孔の他端側から嵌挿させることにより、2枚の圧電素子の貫通孔の壁面間を導通させることができる。このため、上側に配置する圧電素子の突出部に信号線の一端を接触させることで、圧電体薄膜にて基板側に発生した電荷を引き出すことが可能となる。
【0087】
よって、上記の圧電素子を複数個積層するという簡単な構造とするだけで、複数個の圧電素子のそれぞれの圧電体薄膜にて基板側に発生した電荷を一括して引き出すことが可能となる。すなわち、上記特許文献1に開示された圧電センサにおける信号線付電極を単に信号線に代替えし、絶縁板を除くことにより、構成、組み立ては極めて簡単になることから、大幅な低価格化が実現できる。
【0088】
また、本発明の圧電素子の製造方法は、上記貫通孔よりも大きな面を有する治具本体と、当該治具本体における貫通孔よりも大きな面から伸びており、上記貫通孔を通ずることが可能なワイヤ部材と、を備える治具を用意する第1の工程と、上記貫通孔の一端側から上記ワイヤ部材を挿入すると共に、上記治具本体に上記基板を載置して、当該基板を上記治具に装着する第2の工程と、上記ワイヤ部材を中空の蓋部材に挿入すると共に、当該蓋部材と上記治具本体とにより上記基板を圧着固定する第3の工程と、上記第3の工程により、上記基板を圧着固定した上記治具を、成膜装置に装着する第4の工程と、上記成膜装置により、上記基板に、上記圧電体薄膜を成膜する第5の工程と、を含んでいても良い。
【0089】
上記の方法によれば、信号線と接触する基板における貫通孔の壁面に、圧電体薄膜が成膜されていない基板を製造することが可能となる。このため、本発明の圧電素子の製造方法は、上述した、表面に貫通孔が形成された金属製の基板と、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生するものであり、上記貫通孔の少なくとも壁面を除く、上記基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備える圧電素子を製造するのに都合が良い。従って、本発明の圧電素子の製造方法は、圧電センサに設けられた場合において、信号線に供給する電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積を狭小化することを可能とする圧電素子を製造するのに都合が良い。
【0090】
また、本発明の圧電素子の製造方法は、上記貫通孔の他端側から上記ワイヤ部材を挿入すると共に、上記治具本体に上記基板を載置して、当該基板を上記治具に装着する第6の工程と、上記第6の工程の後に、上記第3の工程から上記第5の工程までを順次実施する第7の工程と、をさらに含んでいても良い。
【0091】
上記の方法によれば、基板における貫通孔の壁面と、蓋部材と治具本体とにより基板を圧着している部分を除く全面に圧電体薄膜を成膜することができる。
【0092】
また、本発明の圧電素子の製造方法は、上記第5の工程は、少なくとも窒素ガスを含む雰囲気下で、アルミニウムと、スカンジウムとを同時にスパッタリングするスパッタリング工程を含み、かつ、上記スパッタリング工程における上記スカンジウムの電力密度が、0.05〜10W/cmの範囲内であっても良い。
【0093】
上記の方法によれば、少なくとも窒素ガスを含む雰囲気下で、スカンジウムを上記範囲の電力密度によりスパッタリングすることによって、窒化アルミニウム薄膜のスカンジウムの含有率を0.5〜45原子%とすることができる。したがって、スカンジウムの含有率が、0.5〜45原子%である窒化アルミニウム薄膜を備えている圧電体薄膜と同様の効果を奏する圧電素子を製造することができる。
【0094】
また、本発明の圧電素子の製造方法は、上記スパッタリング工程における上記スカンジウムの電力密度が、0.05〜6.5W/cmまたは8.5〜10W/cmの範囲内であっても良い。
【0095】
上記の方法によれば、スカンジウムを上記範囲の電力密度によりスパッタリングすることによって、窒化アルミニウム薄膜のスカンジウムの含有率を0.5〜35原子%または40〜45原子%の範囲内とすることができる。したがって、スカンジウムの含有率が、0.5〜35原子%または40〜45原子%の範囲内である窒化アルミニウム薄膜を備えている圧電体薄膜と同様の効果を奏する圧電素子を製造することができる。
【0096】
また、本発明の圧電素子の製造方法は、少なくとも窒素ガスを含む雰囲気下で、アルミニウムと、スカンジウムとを同時にスパッタリングするスパッタリング工程を含み、上記スパッタリング工程の前に、上記基板上に中間層を形成する中間層形成工程をさらに含み、上記スパッタリング工程における上記スカンジウムの電力密度が、0.05〜10W/cmの範囲内であっても良い。
【0097】
上記の方法によれば、スカンジウムを上記範囲の電力密度によりスパッタリングすることによって、中間層上に形成される窒化アルミニウム薄膜のスカンジウムの含有率を15〜45原子%の範囲内とすることができる。これによって、中間層上に形成された、スカンジウムを15〜45原子%の範囲内で含む窒化アルミニウム薄膜と同様の作用効果を奏する圧電素子を製造することができる。
【0098】
また、本発明の圧電素子の製造方法は、上記スパッタリング工程における上記電力密度が、2〜6.5W/cmの範囲内であっても良い。
【0099】
上記の方法によれば、スカンジウムを上記範囲の電力密度によりスパッタリングすることによって、窒化アルミニウム薄膜のスカンジウムの含有率を10〜35原子%の範囲内とすることができる。したがって、スカンジウムの含有率が、10〜35原子%の範囲内である窒化アルミニウム薄膜を備えている圧電体薄膜と同様の効果を奏する圧電素子を製造することができる。
【0100】
また、本発明の圧電素子の製造方法は、上記スパッタリング工程における上記電力密度が、9.5〜10W/cmの範囲内であっても良い。
【0101】
上記の方法によれば、スカンジウムを上記範囲の電力密度によりスパッタリングすることによって、窒化アルミニウム薄膜中のスカンジウムの含有率を40〜45原子%の範囲内とすることができる。したがって、スカンジウムの含有率が40〜45原子%の範囲内である窒化アルミニウム薄膜を備えている圧電体薄膜と同様の効果を奏する圧電素子を製造することができる。
【0102】
また、本発明の圧電素子の製造方法は、上記スパッタリング工程における上記基板の温度が20〜600℃の範囲内であっても良い。
【0103】
上記の方法によれば、アルミニウムおよびスカンジウムを付着させる基板の温度を上記範囲とすることによって、スカンジウムを含有する窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性をより一層向上させることができる効果を奏する圧電素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0104】
本発明の圧電素子は、以上のように、貫通孔が形成された金属製の基板と、上記貫通孔の周囲の壁面、または、上記基板における上記貫通孔の周囲の壁面の裏側に当たる面のいずれかを少なくとも除く、上記基板の全面に成膜されており、スカンジウムを含有する窒化アルミニウム薄膜からなる圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜の少なくとも一部を被覆している電極部と、を備え、上記圧電体薄膜に含まれるスカンジウムの原子数とアルミニウムの原子数との総量を100原子%としたとき、上記スカンジウムの含有率が、0.5〜50原子%の範囲内である構成である。
【0105】
これにより、圧電応答性を向上させつつ、高出力化、小型化、低価格化を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0106】
図1】本発明における圧電センサの実施の一形態の構成を示す断面図である。
図2】スカンジウムの含有率とSc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性との関係を示す図である。
図3】上記圧電センサに関し、圧電体薄膜の一例を示す概略断面図である。
図4】上記圧電センサに関し、圧電体薄膜他の一例を示す概略断面図である。
図5】中間層を設けた場合における、スカンジウムの含有率とSc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性との関係を示す図である。
図6】上記圧電体薄膜の具体的な例を示す図であり、(a)は中間層を設けない場合であり、(b)は中間層としてSc0.40Al0.60N層を設けた場合であり、(c)は中間層としてSc0.42Al0.58N層を設けた場合であり、(d)はSc含有窒化アルミニウム薄膜としてSc0.50Al0.50Nを用いた場合に、中間層としてSc0.42Al0.58N層を設けた場合であり、(e)は中間層が複数層からなる場合である。
図7】スカンジウムのターゲット電力密度と、スカンジウムの含有率と、Sc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性との関係を示す図である。
図8】基板温度とSc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性との関係を示す図である。
図9】中間層を備えた圧電体薄膜における、スカンジウムのターゲット電力密度と、スカンジウムの含有率と、Sc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性との関係を示す図である。
図10】ターゲット電力密度と、圧電応答性との関係を示す図であり、(a)は窒化アルミニウム薄膜にマグネシウムを添加した場合であり、(b)はホウ素を添加した場合であり、(c)はケイ素を添加した場合であり、(d)はチタンを添加した場合であり、(e)はクロムを添加した場合である。
図11】Sc含有窒化アルミニウム薄膜または窒化アルミニウム薄膜の表面形状を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観測した図であり、(a)はSc含有量を25原子%とした場合であり、(b)はSc含有量を0原子%とした場合であり、(c)はSc含有量を38原子%とした場合であり、(d)Sc含有量を42原子%とした場合である。
図12】本発明における圧電素子の実施の一形態の構成要素である基板の構造を模式的に示す平面図である。
図13】上記圧電素子に設けられている貫通孔を示す平面図である。
図14】上記圧電体薄膜が成膜された上記基板における上記貫通孔を示す平面図である。
図15】上記圧電素子の製造方法を示す図であり、(a)は、管部を基板の貫通孔に挿入した状態を示す図であり、(b)は、蓋部を、管部に嵌め込み、蓋部により、基板を治具に圧着固定した状態を示す図であり、(c)は、上記(b)を逆さまにした状態を示す図である。
図16】上記の製造方法により、上記圧電体薄膜が成膜された上記基板を示す図である。
図17】上記圧電素子の構成要素である金属箔電極の構成を示す平面図である。
図18】上記圧電体薄膜が成膜された上記基板に上記金属箔電極が被覆された様子を示す平面図であり、(a)は、上記圧電体薄膜が成膜された上記基板の片面に1枚の上記金属箔電極が被覆された様子を示す平面図であり、(b)は、上記圧電体薄膜が成膜された上記基板の両面に2枚の上記金属箔電極が被覆された様子を示す平面図である。
図19】(a)は、上記金属箔電極の別の構成を示す平面図であり、(b)は、上記(a)に示す金属箔電極が、上記圧電体薄膜が成膜された上記基板に被覆された状態を示す図である。
図20】本発明における圧電センサの別の実施形態の構成を示す断面図である。
図21】本発明における圧電センサのさらに別の実施形態の構成を示す図であり、(a)は、上記別の実施形態の断面構造を模式的に示し、(b)は、上記別の実施形態の圧電センサが備える圧電素子における突出部に関し、ほぼ実際の縮尺に沿った断面構造の一例を示し、(c)は、上記突出部の断面構造の他の一例を示す。
図22】本発明における圧電素子の別の形態の構成要素である基板の構造およびその突出部の形成方法の例を示す図であり、(a)は、基板を上側から見たときの様子を模式的に示し、(b)は、上記突出部の形成方法の各工程における上記基板の断面構造の変化の一例を示し、(c)は、上記突出部の形成方法の各工程における上記基板の断面構造の変化の他の一例を示す。
図23】上記圧電体薄膜が成膜された上記基板における貫通孔および突出部を示す平面図である。
図24】市販のセンサとAlN薄膜を3枚積層した図21に示す圧電センサとの出力波形の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0107】
本発明の一実施形態について図1図24に基づいて説明すれば、次の通りである。以下の特定の実施形態で説明する構成以外の構成については、必要に応じて説明を省略する場合があるが、他の実施形態で説明されている場合は、その構成と同じである。また、説明の便宜上、各実施形態に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0108】
〔実施の形態1〕
(薄膜素子積層センサ1)
図1は、本発明における圧電センサの実施の一形態である薄膜素子積層センサ(圧電センサ)1の構成を示す断面図である。図1に示すように、薄膜素子積層センサ1は、筐体2の内部に、絶縁板31、信号線付電極4、絶縁板32、複数個(本実施の形態および後述する実施の形態では4個)の圧電素子5、および押し金具6が順次積層された構成である。
【0109】
(筐体2)
筐体2は、耐熱性に優れた金属により構成された、中空かつ一端が閉じた形状を有する部材、即ち、底面21を有する中空の部材である。なお、薄膜素子積層センサ1は、筐体2の底面21側から、例えば図示しないシリンダー(自動車等の内燃機関のシリンダー)に挿入されるものである。
【0110】
(絶縁板31、32)
絶縁板31、32は、例えば酸化アルミニウム(いわゆる、アルミナ)により構成されている。絶縁板31は、信号線付電極4を、筐体2と絶縁するために設けられている。また、絶縁板32は、信号線付電極4を、圧電素子5と絶縁するために設けられている。
【0111】
(信号線付電極4)
信号線付電極4は、信号線41が引き出された電極層であり、圧電素子5から発生された電荷を、圧力検出信号として、信号線41を通じて伝達するものである。信号線付電極4から引き出された信号線41は、絶縁板32に形成された貫通孔8bと、圧電素子5の基板51に形成された貫通孔8aと、を通じて、薄膜素子積層センサ1の外部にまで引き伸ばされている。
【0112】
なお、信号線付電極4は、圧電素子5を積層するときの固定に際して有用であるが、必須の構成ではなく、圧電素子5の基板51が信号線41への嵌合に十分な強度を有していれば省略可能である。つまり、この場合、圧力検出信号を伝達するための構成としては、信号線41のみで構成可能である。同様に、圧電素子5の基板51が信号線41への嵌合に十分な強度を有している場合、信号線付電極4と圧電素子5とが離間さえされていれば、絶縁板32についても省略可能である。
【0113】
(圧電素子5)
圧電素子5は、インコネル等の耐熱性に優れた金属により構成される基板51に成膜された窒化アルミニウム(AlN)素子膜(圧電体薄膜)52に、金属箔電極(電極部、金属箔電極部材)53が被覆された構成である。
【0114】
(基板51)
基板51には、信号線41を通すことが可能であるように、具体的には、貫通孔8aを通じた信号線41と基板51とが接触するように、貫通孔8aが形成されている。ここで、貫通孔8aの周囲の壁面18(以下、単に、貫通孔8aの壁面18という)については、少なくともAlN素子膜52が成膜されておらず、基板51が露出している(後述する露出部分54参照)。露出した貫通孔8aの壁面18は、貫通孔8aを通じる信号線41と接触しており、これにより、信号線41と基板51とを接触および導通させている。
【0115】
なお、貫通孔8aは、基板51の表面28aに形成されている。ここで、基板51の表面28aとは、薄膜素子積層センサ1(または、後述する薄膜素子積層センサ10)が挿入される方向に対して垂直となる基板51の面を意味する。一方、薄膜素子積層センサ1(または、後述する薄膜素子積層センサ10)が挿入される方向に沿った基板51の面は、基板51の側面28bである。つまり、貫通孔8aは、薄膜素子積層センサ1が挿入される方向に対して、平行または略平行となる方向に、貫通する孔となる。
【0116】
(AlN素子膜52)
AlN素子膜52は、圧電特性を有するものであり、外部からの圧力を受けることによって電荷を発生するものである。即ち、AlN素子膜52には、基板51から伝達される圧力に付随して、撓みが発生する。そして、この撓みに応じて、AlN素子膜52の内部には、圧縮応力および引張応力が発生する。この内部応力の働きによって、AlN素子膜52からは、電荷が発生される。こうして、AlN素子膜52は、圧力を受けることによって、その圧力に応じた電荷を発生する。なお、AlN素子膜52は、AlNを、スパッタリング法で成膜することが好ましい。
【0117】
なお、AlN素子膜52の厚さについては、特に限定されない。
【0118】
但し、AlN素子膜52は、薄くし過ぎると、該AlN素子膜52自身が剥離し易くなったり、該AlN素子膜52の成膜が不完全な部分もしくは該AlN素子膜52が成膜されない部分が生じやすくなったりする、という欠陥が発生する虞がある。また、該欠陥に起因して、基板51と金属箔電極53との間においては、ショートが発生しやすくなるという問題が発生する。
【0119】
一方、該AlN素子膜52(15μm以上)を厚くすることは、技術的に困難である。また、該AlN素子膜52は、厚くし過ぎると、圧電特性の劣化が発生する虞がある。
【0120】
これらのことを考慮すると、AlN素子膜52の厚さは、0.1μm〜10μm程度とするのが好ましい。
【0121】
また、AlN素子膜52は、上記基板51が露出している部分を除く、基板51部分に成膜されており、かつ、貫通孔8aを通ずる信号線41と離間されるように基板51の略全面に成膜されている。
【0122】
つまり、AlN素子膜52は、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生するものであると共に、貫通孔8aの少なくとも壁面18を除く、基板51の全面に成膜されているものである。
【0123】
(AlN素子膜52の具体例)
次に、AlN素子膜52の具体例について、図2および3を参照して以下に説明する。
【0124】
なお、本発明の圧電体薄膜は、圧電現象を利用した圧電素子に用いる場合、その具体的な用途は特に限定されるものではない。例えば、圧電体薄膜は、SAWデバイスまたはRF−MEMSデバイスに利用することができる。ここで、本明細書等における「圧電体」とは、力学的な力が印加されることにより電位差を生じる性質、すなわち圧電性(以下、圧電応答性とも称する)を有する物質を意味する。また、「圧電体薄膜」とは、上記性質を有する薄膜を意味する。
【0125】
また、本明細書等における「原子%」とは、原子百分率を指しており、具体的には、スカンジウム原子数とアルミニウム原子数との総量を100原子%としたときのスカンジウム原子の数またはアルミニウム原子の数を表す。すなわち、スカンジウムを含有した窒化アルミニウムにおけるスカンジウム原子およびアルミニウム原子の濃度と言い換えることもできる。また、本実施形態においては、スカンジウムの原子%を、窒化アルミニウムに対するスカンジウムの含有率として以下に説明する。
【0126】
本実施の形態に係るスカンジウムを含有した窒化アルミニウム薄膜(以下、Sc含有窒化アルミニウム薄膜とも称する)は、一般式を用いて、ScAl1−xN(式中、xはスカンジウムの含有率(濃度)を示し、0.005〜0.5の範囲である)と表すこともできる。例えば、スカンジウムの含有率が10原子%である窒化アルミニウム薄膜の場合には、Sc0.1Al0.9Nと表す。
【0127】
(圧電応答性を向上するスカンジウムの含有率)
図2に示すように、Sc含有窒化アルミニウム薄膜に含有されるスカンジウムの含有率を変化させることによって、Sc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性(圧電性)を向上させることができる。図2は、スカンジウムの含有率とSc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性との関係を示す図である。図2に示すように、スカンジウムの含有率が0%である場合に比べて、スカンジウムをわずかでも含有する場合は圧電応答性が向上している。具体的には、スカンジウムの含有率を0.5〜35原子%または40〜50原子%の範囲内とすることによって、Sc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性を向上させることができる。スカンジウムの含有率を上記範囲とすることによって、Sc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性は6〜24.6pC/N程度となる。一般的な窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性は、5.1〜6.7pC/N程度であるため、スカンジウムの含有率を上記範囲内とすることによって、圧電応答性を1.4〜4倍程度向上させることができる。
【0128】
これによって、スカンジウムの含有率が上記範囲内であるSc含有窒化アルミニウム薄膜を備えている圧電素子5を、RF−MEMSデバイスに備える場合には、低電圧での作動を実現できる。また、圧電素子5を、RF−MEMSアクチュエータに備える場合には、その可動領域を拡大し、FBARフィルタに備える場合には、挿入損失を低減できる。また、圧電素子5をジャイロセンサー、圧力センサ、および加速度センサなどの物理センサに応用した場合には、その検出感度を向上させることができる。
【0129】
したがって、スカンジウムの含有率が上記範囲内であるとき、Sc含有窒化アルミニウム薄膜を備えている圧電体薄膜を有するデバイスにおける小型化および省電力化を実現するとともに、その性能を向上させることができる。
【0130】
(圧電応答性をさらに向上させるスカンジウムの含有率)
圧電応答性のさらなる向上の観点によれば、スカンジウムの含有率は、40〜50原子%の範囲内であることが好ましい。図2に示すように、Sc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性は、スカンジウムの含有率が45原子%(Sc0.45Al0.55N)であるとき、最大値を示し(約24.6pC/N)、スカンジウムを含有しない窒化アルミニウムの圧電応答性の約4倍となる。なお、圧電応答性を最大とするスカンジウムの含有率は、測定条件などの条件により±5原子%程度の誤差を示す。
【0131】
したがって、スカンジウムの含有率が上記範囲内であるとき、Sc含有窒化アルミニウム薄膜を備えている圧電体薄膜を有するデバイスにおける小型化および省電力化をより一層実現するとともに、その性能をより一層向上させることができる。
【0132】
なお、上述した効果は圧電体薄膜に限定されるものではなく、スカンジウムの原子数とアルミニウムの原子数との総量を100原子%としたとき、0.5〜35原子%または40〜50原子%の範囲内のスカンジウムを含有する窒化アルミニウムを備えた圧電体であっても、本実施形態に係る圧電体薄膜と同様の効果を得ることができる。
【0133】
(圧電素子5の構成)
ここで、圧電素子5の一構成例について、図3を参照してより具体的に説明する。圧電素子5は、図3に示すように、基板51上にスカンジウムを含有した窒化アルミニウム薄膜(以下、Sc含有窒化アルミニウム薄膜とも称する)52を備えている。AlN素子膜52は、スカンジウムの原子数とアルミニウムの原子数との総量を100原子%としたとき、0.5〜50原子%の範囲内のスカンジウムを含有している。図3は、圧電素子5の概略断面図である。
【0134】
(基板51)
基板51は、AlN素子膜52を変形することなく保持する。基板51の材質としては、特に限定されるものではなく、シリコン(Si)単結晶、またはSi単結晶などの基材の表面にシリコン、ダイヤモンドおよびその他の多結晶膜を形成したものを用いることができる。
【0135】
(AlN素子膜52)
AlN素子膜52は、スカンジウムを含む窒化アルミニウム薄膜であり、圧電応答性を有する。
【0136】
(圧電素子の変形例)
次に、図4〜6を参照して圧電素子の変形例(圧電素子5b)について説明する。
【0137】
(圧電素子5bの構成)
図4に示すように、本実施形態に係る圧電素子5bは、基板51とAlN素子膜52との間に中間層9が形成されている。すなわち、圧電素子5bにおいて、AlN素子膜52は、基板51に中間層9を介して設けられている。基板51およびAlN素子膜52は実施形態1において説明したので、ここではその詳細な説明を省略する。したがって、本実施形態では、中間層9についてのみ以下に説明する。図4は、圧電素子5bの概略断面図である。
【0138】
(中間層9)
中間層9は、AlN素子膜52と相互作用を引き起こすために設けられている。中間層9の材質としては、AlN素子膜52および基板51の双方と相互作用を引き起こしやすい材質であることが好ましい。中間層9の材料としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化スカンジウム(ScN)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ルテニウム(Ru)、酸化ルテニウム(RuO)、クロム(Cr)、窒化クロム、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)およびニッケル(Ni)などを用いることができる。
【0139】
例えば、AlN素子膜52としてSc0.45Al0.55Nを用いた場合には、中間層9として窒化スカンジウム(ScN)を用いることにより、中間層を設けない場合と比較して、圧電応答性を約4pC/N向上させることができる。
【0140】
(圧電応答性を向上するスカンジウムの含有率)
中間層9を備えている場合の圧電素子5bの圧電応答性の変化について、図5を参照して以下に説明する。図5は、中間層9を備えている場合のスカンジウムの含有率とAlN素子膜52の圧電応答性との関係を示す図である。
【0141】
図5に示すように、中間層9を設けることにより、スカンジウムの含有率が35原子%よりも大きく40原子%よりも小さい場合であっても、圧電素子5bの圧電応答性を向上させることができる。すなわち、図3に示す圧電素子5において問題となっていた圧電応答性の低下を抑制することができる。これによって、圧電体薄膜を製造する際に、AlN素子膜52の組成を厳密に管理する必要がなくなるため、圧電応答性を向上した圧電体薄膜の製造を容易にすることができる。
【0142】
また、スカンジウムの含有率を15〜45原子%の範囲内とすることによって、窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性を向上させることができる。スカンジウムの含有率を上記範囲とすることによって、AlN素子膜52の圧電応答性は6〜18pC/N程度となる。一般的な窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性は、5.1〜6.7pC/N程度であるため、スカンジウムの含有率を上記範囲内とすることによって、圧電応答性を1.1〜3倍程度向上させることができる。
【0143】
これによって、スカンジウムの含有率が上記範囲内であるAlN素子膜52を備えている圧電素子5bを、RF−MEMSデバイスに備える場合には、低電圧での作動を実現することができる。また、圧電素子5bをRF−MEMSアクチュエータに備える場合には、その可動領域を拡大し、FBARフィルタに備える場合には、挿入損失を低減することができる。また、圧電素子5bをジャイロセンサー、圧力センサ、および加速度センサなどの物理センサに応用した場合には、その検出感度を向上させることができる。
【0144】
したがって、スカンジウムの含有率が上記範囲内であるとき、AlN素子膜52を備えている圧電素子5bを有するデバイスにおける小型化および省電力化を実現するとともに、その性能を向上させることができる。
【0145】
(中間層9の変形例)
中間層9は、図6(b)〜(e)に示すように、AlN素子膜52と組成の異なるSc含有窒化アルミニウム薄膜としてもよい。中間層9として組成の異なるSc含有窒化アルミニウム薄膜を用いることにより、圧電素子5bの圧電応答性を向上させることができる。
【0146】
例えば、図6(a)に示すように、AlN素子膜52としてSc0.47Al0.53N層を用いた圧電素子5は約7pC/Nの圧電応答性を示す。これに対して、図6(b)に示すように、Sc0.47Al0.53N層と基板51との間に、中間層9としてSc0.40Al0.60N層を設けることにより、圧電素子5bの圧電応答性は約10pC/Nに向上する。また、図6(c)に示すように、中間層9としてSc0.42Al0.58N層を設けることにより、圧電素子5bの圧電応答性を25pC/Nに大幅に向上させることができる。
【0147】
また、基板51上にAlN薄膜52としてSc0.50Al0.50N層を設けた圧電素子5の圧電応答性は、0pC/Nである。しかし、図6(d)に示すように、基板51とAlN薄膜52との間に中間層9としてSc0.42Al0.58N層を設けることにより、圧電応答性を0pC/Nから14pC/Nに向上させることができる。
【0148】
すなわち、組成の異なるSc含有窒化アルミニウム薄膜を中間層9として用いることにより、圧電体薄膜の圧電応答性を大幅に向上させることができる。
【0149】
また、中間層9として用いる組成の異なるSc含有窒化アルミニウム薄膜は、1層に限定されるものではなく、複数層備えられていてもよい。
【0150】
例えば、図6(e)に示すように、AlN薄膜52としてSc0.47Al0.53Nを用い、中間層9として、基板側から順に、Sc0.40Al0.60N層、Sc0.42Al0.58N層、およびSc0.45Al0.55N層の3層を用いた圧電素子5bは、約19pC/Nの圧電応答性を示す。このように、中間層9が複数の層からなる場合であっても、圧電素子5bの圧電応答性を向上させることができる。
【0151】
このように、AlN素子膜52を中間層9を介して基板51に設けることによって、圧電素子5bの圧電応答性の向上だけでなく、スカンジウムの含有率がわずかに変化することにより圧電体薄膜自体の圧電応答性が大きく低下することを抑制することができる。すなわち、中間層9を設けることにより、物性の一定した圧電体薄膜の製造を容易にすることができる。なお、図6(a)〜(e)では、基板51としてSi基板を用いているが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0152】
(圧電素子5の製造方法)
次に、圧電素子5の製造方法の一実施形態について、図7を参照して以下に説明する。なお、Sc含有窒化アルミニウム薄膜は、圧電現象を利用した圧電素子に用いるのであれば、その具体的な用途は特に限定されるものではない。例えば、Sc含有窒化アルミニウム薄膜を備えている圧電体薄膜をSAWデバイスまたはRF−MEMSデバイスに利用することができる。また、本実施形態において、実施形態1と同一の用語は同一の意味として用いる。
【0153】
圧電素子5の製造方法は、窒素ガス(N)雰囲気下、または窒素ガス(N)およびアルゴンガス(Ar)混合雰囲気下において、基板51(例えばシリコン(Si)基板)にスカンジウムおよびアルミニウムを同時にスパッタ処理するスパッタリング工程を含む。これによって、密着性に優れ、純度の高いAlN素子膜52を形成することができる。また、スカンジウムとアルミニウムとを同時にスパッタリングすることによって、窒化スカンジウムおよび窒化アルミニウムが一部に偏在することなく、均一に分布したAlN素子膜52とすることができる。
【0154】
(圧電応答性を向上する電力密度の範囲)
スパッタリング工程において、アルミニウムのターゲット電力密度を7.9W/cmの範囲内と固定した場合、スカンジウムのターゲット電力密度は、0.05〜6.5W/cmまたは8.5〜10W/cmの範囲内となる。
【0155】
なお、本明細書等における「電力密度」とは、スパッタリング電力をターゲット面積で割った値である。また、本発明の圧電体薄膜の製造方法では、スカンジウムとアルミニウムとを同時にスパッタリングするため、スカンジウムのターゲット電力密度と、アルミニウムのターゲット電力密度との2種類のターゲット電力密度がある。本明細書等において、単に「ターゲット電力密度」と称する場合には、スカンジウムのターゲット電力密度のことを指す。
【0156】
ターゲット電力密度を0.05〜6.5W/cmまたは8.5〜10W/cmの範囲内とすることによって、Sc含有窒化アルミニウム薄膜における圧電応答性を向上させることができる。
【0157】
すなわち、図7に示すように、ターゲット電力密度が0.05〜6.5W/cmの範囲内である場合には、スカンジウムの含有率が0.5〜35原子%の範囲内である場合に対応し、8.5〜10W/cmの範囲内である場合には、含有率が40〜50原子%の範囲内である場合に対応する。図7は、ターゲット電力密度と、スカンジウムの含有率と、Sc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性との関係を示す図である。
【0158】
図7に示すように、ターゲット電力密度を0.05〜6.5W/cmまたは8.5〜10W/cmの範囲内とすることによって、スカンジウムの含有率は、0.5〜35原子%または40〜50原子%の範囲内となり、6〜24.6pC/N程度の圧電応答性を得ることができる。したがって、ターゲット電力密度を0.05〜6.5W/cmまたは9.5〜10W/cmの範囲内とすることによって、0.5〜35原子%または40〜50原子%の範囲内のAlN素子膜52を備えている圧電素子5と同様の効果を得ることができる。
【0159】
なお、スパッタリング工程において、ターゲット電力密度が上記範囲内であれば、その他の条件は、特に限定されるものではない。例えば、スパッタリング圧力およびスパッタリング時間は適宜設定することができる。
【0160】
(圧電応答性を向上する基板温度の範囲)
スパッタリング工程において、ターゲット電力密度を0.05〜6.5W/cmまたは8.5〜10W/cmの範囲内としたとき、基板温度を変化させることによって、AlN素子膜52の圧電応答性をさらに向上させることができる。基板温度とAlN素子膜52の圧電応答性との関係について図8に示す。
【0161】
図8に示すように、スパッタリング工程において、基板の温度を20〜600℃の範囲内、より好ましくは200〜450℃の範囲内、さらに好ましくは400〜450℃の範囲内とすることによって、AlN素子膜52の圧電応答性を向上させることができる。具体的には、基板の温度を20〜600℃の範囲内とすることによって、圧電応答性を15〜28pC/N程度とすることができ、200〜450℃の範囲内とすることによって、圧電応答性を26〜28pC/N程度とすることができる。なお、基板温度を400〜450℃の範囲内としたときには、AlN素子膜52の圧電応答性を最大(約28pC/N)とすることができる。
【0162】
したがって、スパッタリング工程における基板温度を上記範囲内とすることによって、作製したAlN素子膜52を備えた圧電素子5を有するデバイスをより一層小型化および省電力化することができるとともに、その性能をより一層向上させることができる。
【0163】
(圧電応答性をさらに向上する電力密度の範囲)
圧電応答性のさらなる向上の観点によれば、ターゲット電力密度は、上記範囲の中でも9.5〜10W/cmの範囲内であることが好ましく、10W/cmであることがより好ましい。図7に示すように、ターゲット電力密度を5〜10W/cmの範囲内とすることによって、圧電応答性はより向上する。特に、ターゲット電力密度が10W/cmであるとき、AlN素子膜52におけるスカンジウムの含有率は45原子%となり、圧電応答性が最大値(24.6pC/N)を示す。すなわち、ターゲット電力密度が10W/cmである場合には、スカンジウムの含有率が45原子%であるときと同様の効果を得ることができる。
【0164】
なお、圧電応答性を最大とするスカンジウムの含有率は、測定条件などの条件により、±5原子%程度の誤差を示す。
【0165】
(中間層9を備えた圧電素子5bの製造方法)
上記では、圧電素子5の製造方法について説明したが、圧電素子5bであっても同様の製造方法により製造することができる。
【0166】
圧電素子5bは、基板51に中間層9を形成する中間層形成工程をさらに含む点が異なるのみである。中間層9の形成方法は、中間層9として用いる材質に応じて適宜設定することができる。例えば、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング、化学的気相成長法(CVD)、モレキュラービームエピタキシー(MBE)、レーザーアブレーション、メッキなどを挙げることができる。
【0167】
中間層9を設けた圧電素子5bにおける、スカンジウムのターゲット電力密度と、スカンジウムの含有率と、Sc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性との関係を、図9に示す。なお、図9は、中間層9として窒化チタン(TiN)を用いた場合の図である。
【0168】
図9に示すように、中間層9を設けることにより、中間層9を設けない場合に圧電応答性の低下していた、スカンジウムの含有率が35原子%よりも大きく、40原子%よりも小さい場合、すなわち、ターゲット電力密度が6.5W/cmより大きく、8.0W/cmよりも小さい場合における圧電応答性の低下を抑制することができる。
【0169】
なお、中間層9を、AlN素子膜52と組成の異なるSc含有窒化アルミニウムとする場合には、AlN素子膜52の形成方法と同様の方法を用いればよい。
【0170】
以下、実施例を示し、本発明の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な様態が可能である。
【実施例】
【0171】
〔実施例1〕
(スカンジウムを添加した窒化アルミニウム薄膜の作製方法)
シリコン基板に対して、窒素雰囲気下でアルミニウムおよびスカンジウムをスパッタリングし、シリコン基板上にSc含有窒化アルミニウム薄膜を作製した。スパッタリングの条件は、アルミニウムターゲット電力密度7.9W/cm、スカンジウムターゲット電力密度0〜10W/cm、基板温度580℃、窒素ガス濃度40%、およびスパッタリング時間4時間である。なお、ターゲット電力密度0Wとは、窒化アルミニウム薄膜にスカンジウムを添加していないことを示している。
【0172】
(圧電応答性測定方法)
Sc含有窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性は、ピエゾメーターを用いて、加重0.25N,周波数110Hzによって測定した。
【0173】
〔比較例1〕
スカンジウムの代わりにマグネシウム(Mg)を用いて、ターゲット電力密度を0〜2W/cmとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて窒化アルミニウム薄膜を作製し、圧電応答性を測定した。
【0174】
〔比較例2〕
スカンジウムの代わりにホウ素(B)を用いて、ターゲット電力密度を0〜7.6W/cmとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて窒化アルミニウム薄膜を作製し、圧電応答性を測定した。
【0175】
〔比較例3〕
スカンジウムの代わりにケイ素(Si)を用いて、ターゲット電力密度を0〜1.5W/cmとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて窒化アルミニウム薄膜を作製し、圧電応答性を測定した。
【0176】
〔比較例4〕
スカンジウムの代わりにチタン(Ti)を用いて、ターゲット電力密度を0〜1.8Wとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて窒化アルミニウム薄膜を作製し、圧電応答性を測定した。
【0177】
〔比較例5〕
スカンジウムの代わりにクロム(Cr)を用いて、ターゲット電力密度を0〜0.8W/cmとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて窒化アルミニウム薄膜を作製し、圧電応答性を測定した。
【0178】
〔実施例1および比較例1〜5の測定結果〕
実施例1における測定結果は上記において説明したため、ここではその説明を省略する。比較例1〜5における測定結果を図10(a)〜(e)に示す。図10(a)〜(e)は、ターゲット電力密度と圧電応答性との関係を示す図であり、(a)は、マグネシウムを添加した場合であり、(b)はホウ素を添加した場合であり、(c)はケイ素を添加した場合であり、(d)はチタンを添加した場合であり、(e)はクロムを添加した場合である。
【0179】
図10(a)〜(e)に示すように、スカンジウム以外の元素を添加しても、窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性は、減少するのみであり、向上しないことが示された。なお、図7に示すように、電力密度が6.5〜8.5W/cmの範囲内、すなわちスカンジウムの含有率が35〜40原子%の範囲内の場合には、スカンジウムを含有していない窒化アルミニウム薄膜の圧電応答性よりも圧電応答性が低下してしまうことが示された。
【0180】
〔実施例2〕
スカンジウムの含有量(以下、Sc含有量とも称する)を25原子%としたSc含有窒化アルミニウム薄膜における表面粗さを測定した。
【0181】
表面粗さの測定方法は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。なお、本明細書等における「表面粗さ」とは、算術平均粗さ(Ra)を意味している。
【0182】
〔比較例6〕
Scを含有しない窒化アルミニウム薄膜(Sc含有量が0原子%である窒化アルミニウム薄膜)を用いた以外は、実施例2と同様の方法によって表面粗さを測定した。
【0183】
〔比較例7〕
Sc含有量を38原子%とした以外は、実施例2と同様の方法によって表面粗さを測定した。
【0184】
〔比較例8〕
Sc含有量を42原子%とした以外は、実施例2と同様の方法によって表面粗さを測定した。
【0185】
〔表面粗さの測定結果〕
実施例2および比較例6〜8における表面粗さの結果を図11(a)〜(d)に示す。図11(a)〜(d)は、実施例2および比較例6〜8における表面粗さを原子間力顕微鏡を用いて観察した図であり、(a)はSc含有量を25原子%とした場合であり、(b)はSc含有量を0原子%とした場合であり、(c)はSc含有量を38原子%とした場合であり、(d)Sc含有量を42原子%とした場合である。
【0186】
Sc含有量を25原子%とした場合、すなわち図11(a)では、表面粗さRaは0.6nmであった。それに対して、Sc含有量を0原子%とした場合、すなわち図11(b)では、表面粗さRaは0.9nm程度であった。これによって、Scの添加量を0.5原子%〜35原子%とすることによって、表面粗さを減少できることが示された。
【0187】
Sc含有量を38原子%とした場合および42原子%とした場合、すなわち図11(c)および(d)に示す場合の表面粗さRaは、3.5nmおよび3.0nmであり、表面粗さは、Sc含有量を25原子%とした場合に比べて約5倍以上増加することが示された。
【0188】
(金属箔電極53)
次に、金属箔電極53は、導電性を有する材料、例えば銅からなる。金属箔電極53は、少なくとも、自身と筐体2とが導通するように、AlN素子膜52に被覆されている。例えば、金属箔電極53は、自身と筐体2とが接触するように、もしくは、押し金具6が筐体2と導通した状態で設けられている場合、自身と押し金具6とが接触するように、AlN素子膜52に被覆されている。これにより、金属箔電極53は、圧電素子5に設けられているAlN素子膜52と、筐体2とを導通している、即ち、金属箔電極53と筐体2とは導通している。
【0189】
圧電素子5は、基板51の表面28aを覆うようにAlN素子膜52が成膜されている構成となるため、圧電素子5自身の小型化に伴う、AlN素子膜52の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0190】
結果、圧電素子5では、AlN素子膜52の表面積の狭小化を抑制しつつ、小型化が可能となるため、当該圧電素子5を設けた薄膜素子積層センサ1においても同様に小型化が可能となる。
【0191】
ここで、AlN素子膜52が成膜された金属製の基板51を有しており、AlN素子膜52に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電素子においては、基板51から放出される電荷を得るべく、基板51が露出する部分、即ち、薄膜素子積層センサ1において基板51と信号線41とが接触する部分を確保する必要がある。これは、AlN素子膜52に圧力が加えられると、AlN素子膜52は、基板51側および金属箔電極53側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0192】
そこで、圧電素子5では、基板51の表面28aに貫通孔8aを形成し、貫通孔8aの少なくとも壁面18を露出させることで、基板51が露出する部分を確保している。これにより、基板51から放出される電荷は、基板51の露出部分である貫通孔8aの壁面18から得られる。
【0193】
また、圧電素子5では、AlN素子膜52における基板51側からの電荷が、貫通孔8aの壁面18から放出され、AlN素子膜52における金属箔電極53側からの電荷が、金属箔電極53から放出されるが、AlN素子膜52に被覆されている金属箔電極53がもたらすシールド効果により、AlN素子膜52からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0194】
(押し金具6)
押し金具6は、薄膜素子積層センサ1の上部、即ち、筐体2の閉じていない他端側から、図示しない固定金具をねじ込むことで、絶縁板31、信号線付電極4、絶縁板32、および圧電素子5を筐体2内に圧着固定するためのものである。
【0195】
絶縁板32および押し金具6にはそれぞれ、信号線41が通すことが可能であるように、貫通孔8bが形成されている。
【0196】
(信号線41)
信号線41と押し金具6との間は、例えばアルミナにより構成されている絶縁管7により絶縁されている。信号線41は、貫通孔8aにおける基板51の露出部分、即ち、貫通孔8aの壁面18と接触することで基板51と導通しているが、基板51と接触および導通する部分を除いては、他の部材と接触していない、もしくは、他の部材と絶縁されている。金属箔電極53は、筐体2と導通している。
【0197】
なお、本発明の特徴をより明確に図示するため、図1および後述する図20に示す圧電センサの断面図において、信号線41の奥(信号線41よりも紙面裏側)、かつ、信号線41の近傍に位置する部材(圧電素子5、押し金具6等)については、一部図示を省略している。
【0198】
外部からの圧力が圧電素子5に加えられると、AlN素子膜52は、上述したとおり、基板51側および金属箔電極53側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有する。こうした特性を有するAlN素子膜52を、基板51の両面に成膜することで、圧電素子5では、圧力を受ける時においても、基板51側と金属箔電極53側との絶縁が可能となる。こうして、基板51と金属箔電極53とは、AlN素子膜52により絶縁されている。
【0199】
そして、基板51側から放出された電荷は、基板51の露出部分である貫通孔8aの壁面18から信号線41に供給される。一方、金属箔電極53側から放出された電荷は、金属箔電極53から筐体2(もしくは、筐体2および押し金具6)へと放出される。結果として、薄膜素子積層センサ1では、基板51からの電荷のみが圧力検出信号として信号線41に供給される構成を実現することができる。
【0200】
また、上述したシールド効果により、信号線41へは、重畳するノイズ成分が十分に除去された圧力検出信号が供給可能となる。
【0201】
なお、図1に示す薄膜素子積層センサ1では、筐体2に圧電素子5が複数個(4個)積層されている構成であるが、これに限定されず、本発明の圧電センサでは、圧電素子5が筐体2に1個だけ設けられている構成であっても構わない。この場合であっても、本発明の圧電センサでは、基板と信号線、筐体と電極部との導通を良好なものとすることができるため、感度が向上し、結果、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となる。
【0202】
但し、図1の薄膜素子積層センサ1に示すとおり、本発明の圧電センサは、圧電素子を複数個積層することで、圧電素子から信号線に供給される電荷量を低下させることなく、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積のさらなる狭小化が可能となり、ひいては、圧電センサから発生される電荷量を増加させることさえも可能であるためより好ましい。
【0203】
後述する、図20に示す薄膜素子積層センサ10についても同様に、圧電素子5は、筐体2内部に1個だけ設けられている構成であっても構わないが、複数個積層されている構成であるのがより好ましい。
【0204】
図12は、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の基板51を模式的に示す平面図である。また、図13は、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の基板51に形成された貫通孔8aを示す平面図である。また、図14は、AlN素子膜52が成膜された基板51における当該貫通孔8aを示す平面図である。
【0205】
貫通孔8aは、口径が信号線41の直径よりも長い円孔部81の壁面、即ち、貫通孔8aの壁面18に、突起部82をさらに有する孔として、基板51に設けられている。
【0206】
また、円孔部81の開口方向に対して垂直となる面(円孔部81の壁面に対して垂直となる面)における貫通孔8aの中心Cと、当該面における突起部82の先端部分83との距離はいずれも、信号線41の半径よりも短い。
【0207】
例えば、信号線41の直径が0.6mmである場合、円孔部81の口径は0.8mm、貫通孔8aの中心と突起部82の先端部分との距離は0.5/2mm、即ち、0.25mmとするのが好ましい。
【0208】
貫通孔8aが円孔部81のみを有する丸穴として設けられる場合、信号線41と基板51の露出部分である貫通孔8aの壁面18とを確実に接触させること(図1参照)は決して容易でない。
【0209】
そこで、信号線41と基板51の露出部分とを確実に接触させ、信号線41と基板51との導通を確実なものとするために、貫通孔8aは、円孔部81に加え、突起部82をさらに有する形状の孔(図13参照)として設けられるのが好ましい。
【0210】
即ち、貫通孔8aの突起部82は、貫通孔8aに信号線41を挿入するときに変形し、信号線41に咬合する(即ち、咬み合う)。これにより、信号線41と基板51との導通は、確実なものとなる。
【0211】
また、図12、3に示す基板51により、図1に示す圧電素子5の構成を実現するためには、図14に示すとおり、貫通孔8aの壁面18を含む基板51の所定部分が露出するように、AlN素子膜52を基板51に成膜する必要がある。
【0212】
図15は、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の製造方法を示す図であり、基板51にAlN素子膜52を成膜する様子を示す図である。
【0213】
なお、後述する薄膜素子積層センサ20の圧電素子5は、基板52の貫通孔8aの一端から基板52の外側に向けて突出する突出部84が存在していること以外は、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の構造とほとんど変らない。このため、ここで説明する製造方法により薄膜素子積層センサ20の圧電素子5を製造することも可能である。
【0214】
図15に示す、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の製造方法では、まず、貫通孔8aよりも大きな面を有する治具本体110と、治具本体110から伸びており、貫通孔8aの口径よりも若干短い口径を有する、円柱状もしくは円筒状の管部(ワイヤ部材)101と、を有する治具100を用意する(第1の工程)。次に、貫通孔8aの一端側(治具本体110と接触している基板51の表面28a側)から管部101を挿入すると共に、治具本体110に基板51を載置して、基板51を治具100に装着する(第2の工程、図15(a)参照)。なお、参照符号54は、貫通孔8aの壁面18(図1参照)を含む基板51の露出部分を示しており、参照符号55は、AlN素子膜52が成膜される基板51部分を示している。次に、管部101の口径よりも長い内径を有する中空のキャップ(蓋部材)102に、管部101を挿入して、キャップ102と治具本体110とにより、基板51を治具100に圧着固定する(第3の工程、図15(b)参照)。このとき、キャップ102は、基板51の露出部分54と密着することとなる。次に、基板51が装着された治具100を逆さまにして、即ち、管部101における治具本体110と接していない端部が下向きになるようにして(図15(c)参照)、基板51が装着された治具100を、図示しない周知のスパッタリング装置(成膜装置)に装着する(第4の工程)。次に、基板51の成膜部分55に、AlNを、スパッタリング法により成膜する(第5の工程)。次に、キャップ102を、管部101から取り外し、続いて管部101から基板51を取り外す。
【0215】
なお、この時点で、基板51は、上記成膜時において治具本体110と接触していた基板51の成膜部分55に、AlN素子膜52が成膜されていない状態となっている。
【0216】
そこで、基板51を裏返して、即ち、貫通孔8aの他端側から管部101を挿入する。さらに、治具本体110に基板51を載置して、基板51を治具100に装着する(第6の工程)。以下、上記成膜時において治具100と接触していた基板51の成膜部分55についても、上記第3の工程〜第5の工程と同様の工程により、AlN素子膜52を成膜する(第7の工程)。
【0217】
上記の方法により、露出部分54には、AlN素子膜52が成膜されておらず、成膜部分55全面には、AlN素子膜52が成膜された基板51(図16参照)を製造することが可能となる。
【0218】
図17は、金属箔電極53の構成例を示す平面図である。図18は、AlN素子膜52が成膜された基板51に金属箔電極53が被覆された様子を示す平面図である。
【0219】
図17に示すとおり、金属箔電極53は、貫通孔8aを露出させる孔部531と、基板51の表面よりもわずかに小さいサイズを有しており、AlN素子膜52が成膜された基板51における一方の表面28aに被覆される環状部(圧電薄膜被覆部)532と、AlN素子膜52が成膜された基板51を包みこむべく環状部532から突出して形成された突出部(折曲突出部)533とを備える構成である。また、突出部533は、AlN素子膜52が成膜された基板51における一方の表面28a側から他方の表面28a側へと折り曲げられることで、金属箔電極53をAlN素子膜52が成膜された基板51に固定することが可能なものである。
【0220】
図17に示す金属箔電極53は、AlN素子膜52が成膜された基板51に、以下の要領により被覆される。
【0221】
即ち、まずは、図17に示す形状を有する金属箔電極53を2枚用意する。一方の金属箔電極53は、孔部531を、AlN素子膜52が成膜された基板51の貫通孔8aと一致させて、環状部532を、基板51の一方の表面28aに成膜されたAlN素子膜52と一致させる。また、他方の金属箔電極53は、孔部531を、AlN素子膜52が成膜された基板51の貫通孔8aと一致させて、環状部532を、基板51の他方の表面28aに成膜されたAlN素子膜52と一致させる。そして、一方の金属箔電極53の突出部533を基板51の他方の表面28a側に折り曲げて、AlN素子膜52を包み込むと共に、他方の金属箔電極53の突出部533を基板51の一方の表面28a側に折り曲げて、AlN素子膜52を包み込む。こうして、AlN素子膜52が成膜された基板51には、2枚の金属箔電極53が基板51の両表面から被覆される(図18(b)参照)。このとき、一方の金属箔電極53の突出部533は、他方の金属箔電極53の環状部532に被覆されるように折り曲げられ、他方の金属箔電極53の突出部533は、一方の金属箔電極53の環状部532に被覆されるように折り曲げられる。
【0222】
なお、図18(a)に示すとおり、AlN素子膜52が成膜された基板51に、図17に示す金属箔電極53が1枚だけ、基板51のいずれかの面から被覆される構成の場合、即ち、突出部533がAlN素子膜52に直接的に接触する場合は、圧電素子5の加圧時において、AlN素子膜52の突出部533に接する部位に応力が集中することで生じる剪断力に起因して、圧電素子5のAlN素子膜52に絶縁破壊が発生してしまう虞がある。
【0223】
そこで、図18(b)に示すとおり、AlN素子膜52が成膜された基板51は、2枚の金属箔電極53により被覆される。これにより、上記絶縁破壊を抑制することができる。
【0224】
また、図19(a)は、金属箔電極53の別の構成を示す平面図である。図19(b)は、同図(a)に示す金属箔電極53´が、AlN素子膜52が成膜された基板51に被覆された状態を示す図である。
【0225】
図19(a)に示す金属箔電極53´は、図17に示す金属箔電極53の構成において、突出部533のかわりに、AlN素子膜52が成膜された基板51における他方の表面28aの全面もしくは略全面を被覆することが可能な程度に大きな突出部(折曲突出部)533´を備える構成である。
【0226】
図19(a)に示す金属箔電極53´を1枚用いて、AlN素子膜52が成膜された基板51における他方の表面28aの全面もしくは略全面を被覆する、図19(b)に示す構造の場合は、応力集中する虞のある部分を形成することなく、図17に示す電極2枚で基板51の両面から被覆される構造と同様の効果が得られる。
【0227】
図19に示す形状の金属箔電極53´を用いる場合は、1枚の金属箔電極部材を折り曲げるだけで、AlN素子膜52の大部分を被覆することができ、特定の部位での応力集中が発生しにくくなる。そのため、上下2枚の金属箔電極53をそれぞれ突出部533が基板51を挟んで反対側の金属箔電極53の上から折り曲げられる場合(図17参照)と同じ絶縁破壊の抑制効果がある。
【0228】
そして、図1に示す薄膜素子積層センサ1では、筐体2内部に、図18(b)もしくは図19(b)の構成を有する圧電素子5を積層している。これにより、上述したAlNの特性を生かして、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積を狭小化することが可能となる。
【0229】
〔実施の形態2〕
本発明の別の実施の形態について図20に基づいて説明すると以下の通りである。
【0230】
図20は、本発明の圧電センサの別の構成を示す断面図である。
【0231】
図20に示す薄膜素子積層センサ10は、図1に示す薄膜素子積層センサ1の構成において、以下の点が異なる構成である。
【0232】
まず、薄膜素子積層センサ10は、薄膜素子積層センサ1に係る絶縁板31、32のかわりに、絶縁板3が、信号線付電極4の下部に設けられている(即ち、絶縁板32が省略される)点が、図1に示す薄膜素子積層センサ1と異なる。
【0233】
また、薄膜素子積層センサ10は、圧電素子5が、以下の構成を有している点が、図1に示す薄膜素子積層センサ1と異なる。
【0234】
即ち、図20に示す薄膜素子積層センサ10に係る圧電素子5は、基板51と、AlN素子膜52と、金属箔電極53と、を備える。但し、AlN素子膜52については、貫通孔8aの少なくとも壁面18を除く基板51の全面でなく、基板51の少なくとも側面28bを除く当該基板51の全面に成膜されている。また、図20に示す薄膜素子積層センサ10に係る圧電素子5には、貫通孔8aが形成されているものの、この貫通孔8aは、基板51、AlN素子膜52、および金属箔電極53を貫通するように、かつ、貫通孔8aの壁面18が金属箔電極53からなるように設けられている。なお、薄膜素子積層センサ10に係る圧電素子5は、図20に示すとおり、基板51の一方の表面28aに成膜されたAlN素子膜52にのみ、金属箔電極53が被覆されている構成であってもよい。
【0235】
また、薄膜素子積層センサ10は、AlN素子膜52が筐体2と離間されており、さらに、信号線41が金属箔電極53と導通されており、筐体2が基板51の側面28bと接触および導通されており、基板51と金属箔電極53とがAlN素子膜52により絶縁されている点が、図1に示す薄膜素子積層センサ1と異なる。
【0236】
基板51は、少なくとも薄膜素子積層センサ10における筐体2との導通部分となる側面28bにおいて、AlN素子膜52が成膜されておらず、金属箔電極53により被覆されていない、即ち、筐体2と導通している基板51の側面28bは露出している。
【0237】
基板51側から放出された電荷は、基板51の側面28bから、筐体2(もしくは、筐体2および押し金具6)へと放出される。一方、上記AlN素子膜52の表面側から放出された電荷は、金属箔電極53を介して、信号線41に供給される。結果として、薄膜素子積層センサ10では、金属箔電極53からの電荷のみが圧力検出信号として信号線41に供給される構成を実現することができる。
【0238】
なお、薄膜素子積層センサ10に係る金属箔電極53は、自身が信号線41に咬み合って、変形することによって、信号線41と接触する構成であればよく、金属箔電極53により基板51を巻き込む必要は無い。そのため、薄膜素子積層センサ10に係る金属箔電極53は、図17図19に示す金属箔電極53、53´のように、突出部533、533´を有する必要が特になく、周知の構造を有する金属箔電極部材を用いることができる。こうした薄膜素子積層センサ10に係る金属箔電極53の形状としては例えば、自身の外周が基板51の側面28bでショートしない程度の大きさの環状である形状が考えられる。
【0239】
図1に示す薄膜素子積層センサ1に対して、逆の極性が必要である場合は、図20に示す薄膜素子積層センサ10を用いることにより、図1に示す薄膜素子積層センサ1と同様の作用効果を得ることができるため、都合がよい。
【0240】
つまり、圧電センサに接続されている各種回路(例えば、圧電センサの外部に設けられている圧電センサの制御回路系)では、一般的に、自身の駆動に好適である当該圧電センサの極性が予め決定されており、実際の圧電センサの極性に応じて設計を変更することが非常に煩雑である。そのため、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることは、従来、決して容易ではなかった。
【0241】
一方、本発明の圧電センサでは、上記各種回路の駆動に好適である当該圧電センサの極性に応じて、薄膜素子積層センサ1および薄膜素子積層センサ10のいずれかを適宜選択することにより、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることが簡単である。
【0242】
なお、上述した図1に係る形態と同様に、信号線付電極4は、圧電素子5を積層するときの固定に際して有用であるが、圧電素子5の金属箔電極53が信号線41への嵌合に十分な強度を有しており、かつ、基板51と筐体2との接触による積層構造が十分確保できれば、最下部に金属箔電極53を挿入するだけで、信号線付電極4は省略可能であり、この場合、圧力検出信号を伝達するための構成としては、信号線41のみで構成可能である。
【0243】
また、図示はしていないが、図20に示す薄膜素子積層センサ10の圧電素子5においては、基板51の側面28bと筐体2との導通をより確実にするために、基板51の側面28bに突起を設けても良い。即ち、基板51の側面28bに突起を設ける構成によれば、当該圧電素子5を筐体2に積層するときに、即ち、基板51の側面28bを筐体2に接触させるときに変形し、接触された筐体2に咬合する(即ち、咬み合う)。これにより、薄膜素子積層センサ10の圧電素子5の基板51と筐体2との導通は、より確実なものとなる。
【0244】
なお、本発明の圧電センサでは、圧電素子の圧電体薄膜の材料として、AlNを用いたが、これに限定されない。即ち、圧電体薄膜の材料としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)が用いられてもよい。さらに言えば、圧電体薄膜の材料は、ウルツ鉱構造の結晶構造をもつ物質等の、キュリー点の存在しない圧電材料であればよく、他に窒化ガリウム(GaN)等が挙げられる。この種の圧電材料は、結晶が融解あるいは昇華するまで圧電性を失うことがない。こうした物質(ウルツ鉱構造の結晶構造をもつ物質)は、結晶に対称性が存在しないため圧電性を備えており、また強誘電体でないので、キュリー点が存在しない。従って、係る圧電材料からなる圧電素子は、耐熱性に優れ、圧電特性が劣化することがなく、内燃機関のシリンダーのように、500℃近い高温中に曝されたとしても、その機能を失うことがない。そのため、圧電素子の冷却手段が不要となり、温度の低い位置に圧電素子を設置しなければならないという制限もなくなるので圧電センサの構造を単純化することができる。
【0245】
また、図1に示す薄膜素子積層センサ1において、圧電素子5に設けられる貫通孔8aは、その一例として、図13に示すとおり、円孔部81に加え、突起部82をさらに有する形状の孔として設けられている。ここで、隣り合う2個の突起部82の間隔、突起部82の具体的な形状等については、特に限定されない。即ち、例えば、貫通孔8aは、図13図14に示す形状(花形)以外にも、歯車形(即ち、各突起部82が、方形の形状を有している)、スリット付円形(即ち、隣り合う2個の突起部82の間隔が非常に狭い)といった形状を有していてもよい。
【0246】
さらに、本発明の圧電素子では、電極部として、圧電体薄膜に被覆される金属箔電極部材のかわりに、圧電体薄膜の表面に、蒸着もしくはスパッタリング法により形成した電極の膜を使用してもよい。
【0247】
〔実施の形態3〕
本発明の別の実施の形態について説明すると以下の通りである。
【0248】
ここでは、本発明の圧電体薄膜が成膜された基板(以下、「基準素子」と称する)を用いて、
1:外径7mm、内径5mmであって、一端が閉じた円筒状の筐体に基準素子を1個だけ組み込んだ圧電センサ。
【0249】
2:図17に示す金属箔電極53と同様の形状を有しており、孔部531の直径が1.5mm、環状部532の外径が4.5mm、突出部533の寸法が1mm×1mmの正方形となる銅箔電極2枚で基準素子を被覆し、突出部533が、それぞれ基準素子における反対側の銅箔電極の上から重なるように折り返した状態のもの(圧電素子)を、筐体に1個だけ組み込んだ圧電センサ。
【0250】
3:上記銅箔電極で被覆した基準素子を、図1に示す要領により、筐体に6個積層して組み込んだ圧電センサ。
の各圧電センサについて、90ccのツーストロークエンジンに当該圧電センサを取り付け、約1500回転毎分でエンジンを運転した場合における出力および発生電荷を計測した。
【0251】
なお、上記基準素子は、以下の要領により作製した。
【0252】
即ち、基板は、外径4.6mm、厚さ0.2mmの円形のステンレス板の中心部に、貫通孔を形成して作製したステンレス基板を用いた。ここで、貫通孔の形状は、図13に示した貫通孔8aと同様の形状を有しており、直径約0.8mmの円孔部81に加え、先端部分と貫通孔8aの中心との距離がそれぞれ約0.25mmである6個の突起部82を有する形状を有している。また、ステンレス基板の両面には、上述した、図15に示す圧電素子5の製造方法により、当該ステンレス基板の中心部(図15に係る露出部分54)以外の全面にAlN薄膜を製膜して製造された素子の層、即ち、圧電体薄膜を、スパッタリング法により製膜した。なおここで、該AlN薄膜の厚さは、3μmとした。またここで、AlN薄膜の厚さ(3μm)は、基板の外径(4.6mm)に対して、無視できる程度に小さい。そこで、ここでは便宜上、上記基準素子の直径は、基板の外径と同じ4.6μmであるものとして説明を行う。
【0253】
その結果、下記の〔表1〕のように、基準素子を銅箔電極で被覆すること、および銅箔電極により被覆された基準素子を筐体内部に複数個積層することによって、大幅な感度の向上が見られることが分かった。
【0254】
【表1】
【0255】
さらに、上記〔表1〕では、比較例として、直径9mm、厚さ0.5mmのインコネル製円板の片面に、AlN薄膜を製膜した素子(比較例素子)を同一条件で測定した結果を併記した。
【0256】
〔実施の形態4〕
次に、図21および22に基づき、本発明のさらに別の実施の形態である薄膜素子積層センサ(圧電センサ)20について説明すると以下の通りである。図21は、本実施形態の薄膜素子積層センサ20の構成を示す図である。なお、図21(a)は、薄膜素子積層センサ20の断面構造を模式的に示し、図21(b)は、薄膜素子積層センサ20が備える圧電素子5における突出部84に関し、ほぼ実際の縮尺に沿った断面構造の一例(突出部84a)を示し、図21(c)は、上記突出部の断面構造の他の一例(突出部84b)を示す。
【0257】
本実施形態の、薄膜素子積層センサ20は、上記の薄膜素子積層センサ1と比較して、以下の点が異なる。
【0258】
すなわち、(1)圧電素子5の構造が異なる点、および(2)信号線41および信号線付電極4に替えて、信号線41aを備える点である。
【0259】
(信号線41a)
図21(a)〜(c)に示すように、信号線41aの下端は、最も上側に配置する圧電素子5の突出部84、突出部84aまたは突出部84bに接触されているので、圧電体薄膜にて基板51側に発生した電荷を引き出すことが可能となっている。すなわち、複数枚の圧電素子5のそれぞれから発生された電荷は、圧力検出信号として、信号線41aを通じて伝達される。信号線41aは、薄膜素子積層センサ20の外部にまで引き伸ばされている。
【0260】
(圧電素子5)
圧電素子5は、インコネル等の耐熱性に優れた金属により構成される基板51に上述したAlN素子膜52に、金属箔電極53が被覆された構成である。
【0261】
(基板51)
基板51には、貫通孔8aが形成され、さらに、この貫通孔8aの周囲の壁面18における貫通孔8aの一端側(上端側)から基板51の外側に向けて突出する突出部84、突出部84aまたは突出部84b(以下、これらの代表として突出部84を示して説明する)が、基板51に形成されている。また、貫通孔8aの周囲の壁面18および突出部84の表面には、AlN素子膜52が成膜されていない。なお、ねじ込みを考えなければ、貫通孔8aおよび突出部84は基板51の中心付近に有る必要はない。また、突出部84の形状は、以下で説明するように花弁状の形状を為している(図22(a)参照)が、突出部84の形状は、このような形状に限定されず、筒状に突出する筒形状であっても良い。筒形状の突出部の形状は、円筒形状であっても良く、また、多角筒形状などであっても良い。
【0262】
これにより、例えば、3枚の圧電素子5を積層した場合に、下側に配置する圧電素子5の突出部84を、上側に配置する圧電素子5の貫通孔8aの他端側(下端側)から嵌挿させることにより、3枚の圧電素子の貫通孔の壁面間を導通させることができる。なお、圧電素子5の枚数は、これに限定されず、2枚以上の任意の枚数を採用できるが、薄膜素子積層センサ20の小型化のためには、少ない枚数とすることが好ましい。
【0263】
上記構成によれば、最も上側に配置する圧電素子5の突出部84に信号線41aの一端を接触させることで、3枚の圧電素子5のAlN素子膜52にて基板51側に発生した電荷を引き出すことが可能となる。
【0264】
このため、上記の圧電素子5を複数枚積層するという簡単な構造とするだけで、複数枚の圧電素子5のそれぞれのAlN素子膜52にて基板51側に発生した電荷を一括して引き出すことが可能となる。すなわち、上記の薄膜素子積層センサ1における信号線41および信号線付電極4を単に信号線41aに代替えし、絶縁板32を除くことにより、構成、組み立ては極めて簡単になることから、大幅な低価格化が実現できる。
【0265】
以上の構成によれば、上述したScを含有するAlN素子膜52を3枚積層することで市販の圧電センサの約3倍の出力が得られる。積層枚数はさらに増やすことが可能で、10倍程度まで出力を上げることが可能になる。すなわち、Scを含有するAlN素子膜52の枚数は、3枚以上であることが好ましい。また、感度が上がることによって、これまで検出できなかった圧力変化もとらえることが可能になる。
【0266】
図22(a)は、薄膜素子積層センサ20が備える圧電素子5の基板51の構造の例を示す図である。なお、同図は、基板51を上側から見たときの様子を模式的に示しており、同図において、突出部84は、紙面に対して奥側に突出しているものとする。図23は、薄膜素子積層センサ1の圧電素子5の基板51に形成された貫通孔8aおよび突出部84の一実施例を示す平面図である。
【0267】
貫通孔8aは、口径が信号線41aの直径よりも長い円孔部81の周囲の壁面、即ち、貫通孔8aの壁面18に、突起部82をさらに有する孔として、基板51に設けられている。
【0268】
また、円孔部81の手前側の円形の外縁に沿う面(基板51の面内方向に沿う面)における貫通孔8aの中心Cと、突起部82の先端部分83との図22(a)における紙面に対して手前側から見たときの見かけ上の距離はいずれも、信号線41の半径よりも短い。
【0269】
例えば、信号線41aの直径が0.6mmである場合、円孔部81の口径は0.8mm、貫通孔8aの中心と突起部82の先端部分との距離は0.5/2mm、即ち、0.25mmとするのが好ましい。
【0270】
また、下側に配置する圧電素子5の突出部84を、上側に配置する圧電素子5の貫通孔8aの他端側(下端側)から嵌挿させることが可能なように、突出部84の外径は、円孔部81の下端部の径より小さいことが好ましい。
【0271】
(基板51の突出部の形成方法)
次に、図22図(b)および(c)に基づき、基板51の突出部の形成方法の例について説明する。22図(b)は、突出部84aの形成方法の各工程における基板51の断面構造の変化の一例を示し、22図(c)は、突出部84bの形成方法の各工程における基板51の断面構造の変化の他の一例を示す。
【0272】
まず、円形の基板51の中心付近に予め図12に示すような複数の突起部82が面内方向に起立した花弁状の貫通孔を形成しておく(貫通孔形成工程)。
【0273】
次に、図22図(b)および(c)に示すように、先端が尖った円錐状の治具(押金具)を当該貫通孔の紙面に対して上側からに挿入し、複数の突起部82を下側に向けて押し込み、折り曲げて突出部84aおよび突出部84bを形成する(押し込み変形工程)。
【0274】
なお、上記のように、円形の基板51の中心付近に花弁状の貫通孔を形成しているのは、花弁状の複数の突起部82であれば、単純な円孔部のみの貫通孔よりも弾性変形させ易いと考えられるためである。
【0275】
図22図(c)では、例えば、片面エッチング等の方法で、図22図(b)(または図12)に示す花弁状の貫通孔の壁面の上端側(貫通孔の片面側の周辺部)を減肉している。
【0276】
その理由は、図22図(b)に示す花弁状の貫通孔では、凹部の曲率が凸部の曲率よりも小さくなるため、基板51の厚みが大きい場合、上記押金具による加圧では、複数の突起部82を十分に折り曲げる(変形させる)ことができず、複数の圧電素子5を積層する際に、一方の圧電素子5が他方の圧電素子5に対して基板51の中央部で浮き上がり、各圧電素子5の金属箔電極53同士が密着しない可能性があるためである。
【0277】
一方、図22図(c)に示すように、花弁状の貫通孔を形成した後に、片面エッチングの方法で、該貫通孔の壁面の上端側を減肉してやれば、凹部と凸部の曲率の差は小さくなり、複数の突起部82の弾性変形が容易になるため、各圧電素子5の金属箔電極53同士が密着がより確実になると考えられる。
【0278】
なお、図12に示す基板51は両面エッチングで成形している。このため、基板51の片面側に花弁状の形を形成するようなマスクを、反対側の面の側には円形の孔を形成するようなマスクをかけてやれば両面エッチングにて図22図(c)に示す基板51の片面側の周辺部を減肉した花弁状の貫通孔の壁面を形成することもできる。
【0279】
(薄膜素子積層センサ20と市販のセンサとの比較結果)
次に、図24は、市販のセンサ(Kistler社製6001)と本実施形態の薄膜素子積層センサ20との出力波形の比較結果を示す。カッコ内の数値は発生電荷を示す。同図に示すように、本実施形態の薄膜素子積層センサ20は、市販品の約3倍の出力があり、かつ市販のセンサでは見えない波形の細かい変化まで明瞭に観察でき、感度が高いことが分かる。
【0280】
このため、薄膜素子積層センサ20によれば、例えば、エンジン筒内の燃焼圧センサとして、特に実車に搭載して燃焼の制御を行うことが可能になり、燃焼状態の制御により、燃費の向上、排出ガスの浄化等が可能となる。
【0281】
〔本発明の別の表現〕
本発明は、以下のように表現することもできる。
【0282】
また、本発明の圧電素子は、金属製の基板と、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生するものであり、上記基板の少なくとも側面を除く、当該基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備え、上記基板の表面、上記圧電体薄膜、および上記電極部を貫通するように貫通孔が設けられており、上記貫通孔の壁面が、上記電極部からなっていても良い。
【0283】
つまり、本発明の圧電素子は、貫通孔の壁面が電極部からなっており、貫通孔を通じる圧電センサの信号線に電極部が咬合する(即ち、咬み合う)ことによって、信号線と電極部とが通電可能な構成であると解釈できる。
【0284】
上記の構成によれば、本発明の圧電素子は、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されている構成となるため、当該圧電素子自身の小型化に伴う、圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0285】
結果、本発明の圧電素子では、上記圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制しつつ、当該圧電素子の小型化が可能となるため、当該圧電素子を設けた圧電センサにおいても同様に小型化が可能となる。
【0286】
つまり、本発明の圧電素子では、発生される電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となるという効果を奏する。
【0287】
ここで、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されており、当該圧電体薄膜に電極部が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0288】
そこで、本発明の圧電素子では、基板の少なくとも側面を露出させることで、当該基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である基板の側面から得られる。
【0289】
また、本発明の圧電素子では、圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である基板の側面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜に被覆されている電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0290】
こうした圧電素子は、圧電センサに用いる場合において都合が良い。
【0291】
即ち、上記の構成によれば、壁面が電極部からなっている貫通孔に圧電センサの信号線を通すことにより、電極部と信号線とを接触および導通させることが可能となる。また、上述した、圧力が加えられる場合における圧電体薄膜の特性により、圧電素子では、基板側と電極部側とが絶縁されることとなる。さらに、圧電センサの筐体、ねじ込み等で接触する圧電センサ押し金具等と基板の側面とを接触させることにより、基板と圧電センサの筐体とを導通させることが可能となる。
【0292】
つまり、上記本発明の圧電素子が設けられた圧電センサでは、信号線が、当該圧電素子に形成された貫通孔を通じて引き出される。さらに、上記圧電素子が設けられた圧電センサでは、信号線と筐体との、圧電素子による絶縁が可能となる。
【0293】
また、上記圧電素子を複数個積層することで、圧電センサでは、圧電素子から信号線に供給される電荷量を低下させることなく、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積のさらなる狭小化が可能となり、ひいては、当該圧電センサから発生される電荷量を増加させることさえも可能である。
【0294】
さらに、本発明の圧電素子を備える圧電センサでは、圧電素子の電極部がもたらす上記シールド効果により、圧電体薄膜から圧電センサの信号線へと供給される電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0295】
また、本発明の圧電素子は、上記基板の一方の表面に成膜された圧電体薄膜にのみ、上記電極部が被覆されていても良い。
【0296】
また、本発明の圧電素子は、上記電極部は、電極の膜であっても良い。
【0297】
上記の構成によっても、本発明の圧電素子の圧電体薄膜では、電極部として金属箔電極部材を使用する場合と同様に、絶縁破壊が発生してしまう危険性を抑制する効果を得ることができ、かつ、大きな感度の低下の抑制効果が得られる。
【0298】
また、本発明の圧電センサは、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電素子が、筐体内部に設けられており、上記電荷が供給される信号線が、上記圧電素子に形成された貫通孔を通じて上記筐体外部に引き出されており、上記圧電素子は、表面に上記貫通孔が形成された金属製の基板と、上記電荷を発生するものであり、自身が上記信号線と離間されるように、上記貫通孔の少なくとも壁面を除く、上記基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備えるものであり、上記信号線が上記貫通孔の壁面と接触されており、上記筐体が上記電極部と導通されており、上記基板と当該電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されていても良い。
【0299】
上記の構成によれば、本発明の圧電センサに備えられる圧電素子は、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されている構成となるため、当該圧電素子の小型化に伴う、圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0300】
結果、本発明の圧電センサでは、上記圧電素子の圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制しつつ、当該圧電素子の小型化が可能となるため、当該圧電センサにおいても同様に小型化が可能となる。
【0301】
つまり、本発明の圧電センサでは、発生される電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となるという効果を奏する。
【0302】
ここで、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されており、当該圧電体薄膜に電極部が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0303】
そこで、本発明の圧電センサの圧電素子では、基板の表面に貫通孔を形成し、当該貫通孔の少なくとも壁面を露出させることで、基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である貫通孔の壁面から得られる。
【0304】
また、本発明の圧電センサでは、圧電素子の圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である貫通孔の壁面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜に被覆されている電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0305】
また、上記の構成によれば、信号線が貫通孔の壁面と接触および導通されており、筐体が電極部と導通されている。
【0306】
ところで、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有する。
【0307】
上記の特性を有する圧電体薄膜を、基板の両表面に成膜することで、圧電素子では、圧力を受ける時においても、基板側と電極部側との絶縁が可能となる。こうして、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。
【0308】
即ち、基板側から放出された電荷は、基板に形成された貫通孔の壁面から信号線に供給される。一方、電極部側から放出された電荷は、電極部を介して、筐体へと放出される。さらに、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。結果として、本発明の圧電センサでは、基板の露出部分からの電荷のみが信号線に供給される構成を実現することができる。
【0309】
また、こうした構成を有する、本発明の圧電センサでは、筐体内に圧電素子を複数個積層する構造を容易に適用することができる。これは、本発明の圧電センサにおいては、複数個積層された圧電素子のそれぞれにおける基板の貫通孔からの電荷のみが、当該貫通孔に通された信号線に供給可能であることによる。但し、上記圧電素子は、筐体内部に1個だけ設けられる場合であっても、基板と信号線、筐体と電極部との導通を良好なものとすることができるため、感度が向上する。
【0310】
また、本発明の圧電センサは、上記貫通孔は、口径が上記信号線の直径よりも長い円孔部の壁面に、当該円孔部の壁面に対して垂直となる面における中心と、当該面における自身の先端部分との距離が、上記信号線の半径よりも短い突起部が形成された孔であっても良い。
【0311】
貫通孔が円孔部のみを有する孔として設けられる場合、即ち、貫通孔が丸穴である場合、信号線と貫通孔の壁面とを確実に接触させることは決して容易でないため、信号線と基板とを確実に導通させることは決して容易ではない。
【0312】
そこで、信号線と貫通孔の壁面とを確実に接触させ、信号線と基板との導通を確実なものとするために、貫通孔は、円孔部に加え、突起部をさらに有する形状の孔として設けられるのが好ましい。
【0313】
上記の構成によれば、貫通孔の突起部は、貫通孔に信号線を挿入するときに変形して、挿入された信号線に咬合する(即ち、咬み合う)。これにより、信号線と基板との導通は、確実なものとなる。
【0314】
また、本発明の圧電センサは、上記電極部は、金属箔電極部材により構成されており、上記金属箔電極部材は、上記圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面に被覆されている圧電薄膜被覆部と、上記圧電薄膜被覆部から突出して形成されており、上記圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面側から他方の表面側へと折り曲げられることで、上記金属箔電極部材自身を当該圧電体薄膜が成膜された基板に固定している突出部と、を有していても良い。
【0315】
つまり、本発明の圧電センサの圧電素子は、貫通孔の壁面が電極部からなっており、貫通孔を通じる信号線に電極部が咬合する(即ち、咬み合う)ことによって、信号線と電極部とが通電可能な構成であると解釈できる。
【0316】
上記の構成によれば、本発明の圧電素子は、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されている構成となるため、当該圧電素子自身の小型化に伴う、圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0317】
結果、本発明の圧電センサの圧電素子では、上記圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制しつつ、当該圧電素子の小型化が可能となるため、当該圧電センサにおいても同様に小型化が可能となる。
【0318】
つまり、本発明の圧電センサでは、発生される電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となるという効果を奏する。
【0319】
ここで、金属製の基板の全面に圧電体薄膜が成膜されており、当該圧電体薄膜に電極部が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0320】
そこで、本発明の圧電センサの圧電素子では、基板の少なくとも側面を露出させることで、当該基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である基板の側面から得られる。
【0321】
また、本発明の圧電センサでは、圧電素子の圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である基板の側面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜に被覆されている電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0322】
また、上記の構成によれば、筐体が基板の側面と接触および導通されており、筐体が電極部を介して圧電素子の圧電体薄膜と接触されている。
【0323】
ところで、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有する。
【0324】
上記の特性を有する圧電体薄膜を、基板に成膜することで、圧電素子では、圧力を受ける時においても、基板側と電極部側との絶縁が可能となる。こうして、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。
【0325】
即ち、圧電体薄膜の表面から放出された電荷は、電極部を介して、基板に形成された貫通孔を通じる信号線に供給される。一方、基板側から放出された電荷は、筐体へと放出される。さらに、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。結果として、本発明の圧電センサでは、基板側から放出される電荷とは逆の極性となる、圧電体薄膜の表面の電荷のみが、電極部を介して信号線に供給される構成を実現することができる。
【0326】
また、こうした構成を有する、本発明の圧電センサでは、筐体内に圧電素子を複数個積層する構造を容易に適用することができる。これは、本発明の圧電センサにおいては、複数個積層された圧電素子のそれぞれにおける電極部からの電荷のみが、当該貫通孔に通された信号線に供給可能であることによる。但し、上記圧電素子は、筐体内部に1個だけ設けられる場合であっても、電極部と信号線、基板と筐体との導通を良好なものとすることができるため、感度が向上する。
【0327】
なお、本発明の圧電センサと、上述した、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電素子が、筐体内部に設けられており、上記電荷が供給される信号線が、上記圧電素子に形成された貫通孔を通じて上記筐体外部に引き出されており、上記圧電素子は、表面に上記貫通孔が形成された金属製の基板と、上記電荷を発生するものであり、自身が上記信号線と離間されるように、上記貫通孔の少なくとも壁面を除く、上記基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備えるものであり、上記信号線が上記貫通孔の壁面と接触されており、上記筐体が上記電極部と導通されており、上記基板と当該電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されている圧電センサと、は、互いに逆の極性を有する圧電センサとなる。
【0328】
圧電センサに接続されている各種回路(例えば、圧電センサの外部に設けられている圧電センサの制御回路系)では、一般的に、自身の駆動に好適である当該圧電センサの極性が予め決定されており、実際の圧電センサの極性に応じて設計を変更することが非常に煩雑である。そのため、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることは、従来、決して容易ではなかった。
【0329】
一方、本発明の圧電センサでは、上記各種回路の駆動に好適である当該圧電センサの極性に応じて、上述したいずれかの圧電センサを適宜選択することにより、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることが簡単であるため都合が良い。
【0330】
また、本発明の圧電センサは、上記突出部が、上記基板における他方の表面側に成膜された圧電体薄膜の全面もしくは略全面に被覆されていても良い。
【0331】
また、本発明の圧電センサは、上記金属箔電極部材を2枚有しており、上記2枚の金属箔電極部材におけるそれぞれの圧電薄膜被覆部は、上記圧電体薄膜が成膜された基板において、互いに異なる表面に被覆されており、かつ、上記2枚の金属箔電極部材の一方における突出部は、上記2枚の金属箔電極部材の他方における圧電薄膜被覆部に被覆されるように折り曲げられており、上記2枚の金属箔電極部材の他方における突出部は、上記2枚の金属箔電極部材の一方における圧電薄膜被覆部に被覆されるように折り曲げられていても良い。
【0332】
上記の構成によれば、圧電薄膜被覆部により被覆されない基板における面(他方の表面)が、上記突出部により被覆される。もしくは、2枚の金属箔電極部材を用いられており、当該2枚の金属箔電極部材の圧電薄膜被覆部は、上記圧電体薄膜が成膜された基板において、互いに異なる面に被覆される。即ち、一方の金属箔電極部材の圧電薄膜被覆部が一方の表面に、他方の金属箔電極部材の圧電薄膜被覆部が他方の表面に被覆される。
【0333】
これにより、本発明の圧電素子では、突出部への応力の集中を抑制することができるため、圧電体薄膜に絶縁破壊が発生してしまう危険性を抑制することができる。また、本発明の圧電素子では、圧電体薄膜と電極部との接触部分を増加させることができるため、大きな感度の低下の抑制効果が得られる。
【0334】
また、本発明の圧電センサは、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電素子が、筐体内部に設けられており、上記電荷が供給される信号線が、上記圧電素子に形成された貫通孔を通じて上記筐体外部に引き出されており、上記圧電素子は、金属製の基板と、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生するものであり、自身が上記筐体と離間されるように、上記基板の少なくとも側面を除く、当該基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備え、上記基板の表面、上記圧電体薄膜、および上記電極部を貫通するように貫通孔が設けられており、上記貫通孔の壁面が、上記電極部からなっているものであり、上記信号線が上記電極部と導通されており、上記筐体が上記基板の側面と接触されており、当該基板と当該電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されていても良い。
【0335】
つまり、本発明の圧電センサの圧電素子は、貫通孔の壁面が電極部からなっており、貫通孔を通じる信号線に電極部が咬合する(即ち、咬み合う)ことによって、信号線と電極部とが通電可能な構成であると解釈できる。
【0336】
上記の構成によれば、本発明の圧電素子は、金属製の基板の両表面に圧電体薄膜が成膜されている構成となるため、当該圧電素子自身の小型化に伴う、圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制することが可能となり、これにより、発生する電荷量の減少の抑制が可能となり、感度の低下の抑制が可能となる。
【0337】
結果、本発明の圧電センサの圧電素子では、上記圧電体薄膜の表面積の狭小化を抑制しつつ、当該圧電素子の小型化が可能となるため、当該圧電センサにおいても同様に小型化が可能となる。
【0338】
つまり、本発明の圧電センサでは、発生される電荷量の低減を抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積の狭小化が可能となるという効果を奏する。
【0339】
ここで、金属製の基板の全面に圧電体薄膜が成膜されており、当該圧電体薄膜に電極部が被覆されている圧電素子においては、当該基板から放出される電荷を得るべく、当該基板が露出する部分を確保する必要がある。これは、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有することによる。
【0340】
そこで、本発明の圧電センサの圧電素子では、基板の少なくとも側面を露出させることで、当該基板が露出する部分を確保している。これにより、基板から放出される電荷は、基板の露出部分である基板の側面から得られる。
【0341】
また、本発明の圧電センサでは、圧電素子の圧電体薄膜における基板側からの電荷が、基板の露出部分である基板の側面から放出され、圧電体薄膜における電極部側からの電荷が、電極部から放出されるが、圧電体薄膜に被覆されている電極部がもたらすシールド効果により、圧電体薄膜における基板側からの電荷に重畳するノイズ成分の除去が可能となる。
【0342】
また、上記の構成によれば、筐体が基板の側面と接触および導通されており、筐体が電極部を介して圧電素子の圧電体薄膜と接触されている。
【0343】
ところで、圧電素子の圧電体薄膜に圧力が加えられると、圧電体薄膜は、基板側および電極部側のうちの、一方から正極の電荷を発生し、他方から負極の電荷を発生する特性を有する。
【0344】
上記の特性を有する圧電体薄膜を、基板に成膜することで、圧電素子では、圧力を受ける時においても、基板側と電極部側との絶縁が可能となる。こうして、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。
【0345】
即ち、圧電体薄膜の表面から放出された電荷は、電極部を介して、基板に形成された貫通孔を通じる信号線に供給される。一方、基板側から放出された電荷は、筐体へと放出される。さらに、基板と電極部とは、圧電体薄膜により絶縁されている。結果として、本発明の圧電センサでは、基板側から放出される電荷とは逆の極性となる、圧電体薄膜の表面の電荷のみが、電極部を介して信号線に供給される構成を実現することができる。
【0346】
また、こうした構成を有する、本発明の圧電センサでは、筐体内に圧電素子を複数個積層する構造を容易に適用することができる。これは、本発明の圧電センサにおいては、複数個積層された圧電素子のそれぞれにおける電極部からの電荷のみが、当該貫通孔に通された信号線に供給可能であることによる。但し、上記圧電素子は、筐体内部に1個だけ設けられる場合であっても、電極部と信号線、基板と筐体との導通を良好なものとすることができるため、感度が向上する。
【0347】
なお、本発明の圧電センサと、上述した、自身に加えられた圧力に応じて電荷を発生する圧電素子が、筐体内部に設けられており、上記電荷が供給される信号線が、上記圧電素子に形成された貫通孔を通じて上記筐体外部に引き出されており、上記圧電素子は、表面に上記貫通孔が形成された金属製の基板と、上記電荷を発生するものであり、自身が上記信号線と離間されるように、上記貫通孔の少なくとも壁面を除く、上記基板の全面に成膜されている圧電体薄膜と、導電性を有しており、上記圧電体薄膜に被覆されている電極部と、を備えるものであり、上記信号線が上記貫通孔の壁面と接触されており、上記筐体が上記電極部と導通されており、上記基板と当該電極部とが上記圧電体薄膜により絶縁されている圧電センサと、は、互いに逆の極性を有する圧電センサとなる。
【0348】
圧電センサに接続されている各種回路(例えば、圧電センサの外部に設けられている圧電センサの制御回路系)では、一般的に、自身の駆動に好適である当該圧電センサの極性が予め決定されており、実際の圧電センサの極性に応じて設計を変更することが非常に煩雑である。そのため、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることは、従来、決して容易ではなかった。
【0349】
一方、本発明の圧電センサでは、上記各種回路の駆動に好適である当該圧電センサの極性に応じて、上述したいずれかの圧電センサを適宜選択することにより、実際の圧電センサの極性と、当該各種回路の駆動に好適である圧電センサの極性と、を一致させることが簡単であるため都合が良い。
【0350】
また、本発明の圧電センサは、上記圧電素子は、上記基板の一方の表面に成膜された圧電体薄膜にのみ、上記電極部が被覆されていても良い。
【0351】
また、本発明の圧電センサは、上記電極部は、電極の膜であっても良い。
【0352】
上記の構成によっても、本発明の圧電センサの圧電素子の圧電体薄膜では、電極部として金属箔電極部材を使用する場合と同様に、絶縁破壊が発生してしまう危険性を抑制する効果を得ることができ、かつ、大きな感度の低下の抑制効果が得られる。
【0353】
また、本発明の圧電センサは、上記圧電素子が、上記筐体内部に複数個積層されていても良い。
【0354】
上記の構成によれば、本発明の圧電センサでは、圧電素子を複数個積層することで、圧電素子から信号線に供給される電荷量の低下をさらに抑制しつつ、圧電センサ自身が挿入される方向に対して垂直となる面の面積のさらなる狭小化が可能となり、ひいては、当該圧電センサから発生される電荷量を増加させることさえも可能である。
【0355】
また、本発明の金属箔電極部材は、上記圧電素子における上記電極部として使用される金属箔電極部材であって、上記圧電素子の基板の表面に形成された貫通孔を露出させるための孔部と、上記圧電素子の圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面に被覆される圧電薄膜被覆部と、上記圧電薄膜被覆部から突出して形成されており、上記圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面側から他方の表面側へと折り曲げられることで、上記金属箔電極部材自身を当該圧電体薄膜が成膜された基板に固定可能な突出部と、を備えても良い。
【0356】
上記の構成によれば、圧電素子の電極部として、本発明の金属箔電極部材を、圧電体薄膜が成膜された基板に被覆すると、孔部により基板に形成された貫通孔を露出させ、圧電薄膜被覆部により圧電体薄膜が成膜された基板における一方の表面または他方の表面を被覆して、突出部により金属箔電極自身を圧電体薄膜が成膜された基板に固定することが可能となる。つまり、本発明の金属箔電極部材は、上記の圧電素子に係る電極部として好適に用いられるものである。
【0357】
また、上記圧電体薄膜を備えていることを特徴とする圧電薄膜共振子、およびそれを備えたフィルタ、ならびに上記圧電体薄膜を備えていることを特徴とするアクチュエータ素子、およびジャイロセンサー、圧力センサおよび加速度センサなどの物理センサも本発明の範疇に含まれる。
【0358】
〔付記事項〕
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0359】
本発明の圧電センサは、自動車等の内燃機関のシリンダー内に設けられる燃焼圧センサ等に好適に用いられるものである。
【符号の説明】
【0360】
1、10、20 薄膜素子積層センサ(圧電センサ)
2 筐体
3、31、32 絶縁板
4 信号線付電極
5、5b 圧電素子
6 押し金具
7 絶縁管
8a、8b 貫通孔
9 中間層
18 壁面
28a 表面
28b 側面
41、41a 信号線
51 基板
52 AlN素子膜(圧電体薄膜)
53、53´ 金属箔電極(電極部、金属箔電極部材)
81 円孔部
82 突起部
83 先端部分
84、84a、84b 突出部
100 治具
101 管部(ワイヤ部材)
102 キャップ(蓋部材)
110 治具本体
531 孔部
532 環状部(圧電薄膜被覆部)
533、533´ 突出部(折曲突出部)
図1
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図3
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