(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ベーク処理を行う工程では、前記チャンバ内を、前記二酸化炭素に含まれる有機物成分の熱分解温度又は沸点以上に昇温することを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の超臨界乾燥方法。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、リソグラフィ工程、エッチング工程、イオン注入工程などの様々な工程が含まれている。各工程の終了後、次の工程に移る前に、ウェーハ表面に残存した不純物や残渣を除去してウェーハ表面を清浄にするための洗浄工程及び乾燥工程が実施されている。
【0003】
例えば、エッチング工程後のウェーハの洗浄処理では、ウェーハの表面に洗浄処理のための薬液が供給され、その後に純水が供給されてリンス処理が行われる。リンス処理後は、ウェーハ表面に残っている純水を除去してウェーハを乾燥させる乾燥処理が行われる。
【0004】
乾燥処理を行う方法としては、例えばウェーハ上の純水をイソプロピルアルコール(IPA)に置換してウェーハを乾燥させるものが知られている。しかし、この乾燥処理時に、液体の表面張力によりウェーハ上に形成されたパターンが倒壊するという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、表面張力がゼロとなる超臨界乾燥が提案されている。例えば、チャンバ内において、表面がIPAで濡れているウェーハを、超臨界状態とした二酸化炭素(超臨界CO
2流体)に浸漬した状態とすることで、ウェーハ上のIPAが超臨界CO
2流体に溶解する。そして、IPAが溶解している超臨界CO
2流体を徐々にチャンバから排出する。その後、チャンバ内を降圧/降温し、超臨界CO
2流体をガス(気体)へ相転換させてからチャンバ外へ排出することによりウェーハを乾燥させる。
【0006】
しかし、チャンバ内の圧力を下げて二酸化炭素を超臨界状態からガス(気体)へ相転換する際に、超臨界CO
2流体に溶解した状態でチャンバ内に残留していたIPAがウェーハ上に凝集再吸着することで生じる乾燥痕等により、ウェーハ上にパーティクルが付着するという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
まず、超臨界乾燥について説明する。
図1は、圧力と温度と物質の相状態との関係を示す状態図である。超臨界乾燥に用いられる超臨界流体の機能物質には、三態と称される気相(気体)、液相(液体)、固相(固体)の3つの存在状態がある。
【0013】
図1に示すように、上記3つの相は、気相と液相との境界を示す蒸気圧曲線(気相平衡線)、気相と固相との境界を示す昇華曲線、固相と液相との境界を示す溶解曲線で区切られる。これら3つの相が重なったところが三重点である。この三重点から蒸気圧曲線が高温側に延びると、気相と液相が共存する限界である臨界点に達する。この臨界点では、気相と液相の密度が等しくなり、気液共存状態の界面が消失する。
【0014】
そして、臨界点より高温、高圧の状態では、気相、液相の区別がなくなり、物質は超臨界流体となる。超臨界流体とは、臨界温度以上で高密度に圧縮された流体である。超臨界流体は、溶媒分子の拡散力が支配的である点においては気体と類似している。一方、超臨界流体は、分子の凝集力の影響が無視できない点においては液体と類似しているため、種々の物質を溶解する性質を有している。
【0015】
また、超臨界流体は、液体に比べ非常に高い浸潤性を有し、微細な構造にも容易に浸透する特徴がある。
【0016】
また、超臨界流体は、超臨界状態から直接気相に転移するように乾燥させることで、気体と液体の界面が存在しないように、すなわち毛管力(表面張力)が働かないようにして、微細構造を破壊することなく乾燥することができる。超臨界乾燥とは、このような超臨界流体の超臨界状態を利用して基板を乾燥することである。
【0017】
この超臨界乾燥に用いられる超臨界流体としては、例えば、二酸化炭素、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、メタン、エタン、プロパン、水、アンモニア、エチレン、フルオロメタン等が選択される。
【0018】
特に、二酸化炭素は、臨界温度が31.1℃、臨界圧力が7.37MPaと比較的低温・低圧であるので、容易に処理が可能である。本実施形態における超臨界乾燥処理は、二酸化炭素を用いたものである。
【0019】
図2に本発明の実施形態に係る超臨界乾燥システムの概略構成を示す。超臨界乾燥システムは、ボンベ201、冷却器202、203、昇圧ポンプ204、ヒータ205、バルブ206、207、気液分離器208、及びチャンバ210を備える。
【0020】
ボンベ201は液体状態の二酸化炭素を貯留する。昇圧ポンプ204は、ボンベ201から二酸化炭素を吸い出し、昇圧して排出する。ボンベ201から吸い出された二酸化炭素は、配管231を介して冷却器202に供給され、冷却されてから、配管232を介して昇圧ポンプ204に供給される。
【0021】
昇圧ポンプ204は、二酸化炭素を昇圧して排出する。例えば、昇圧ポンプ204は二酸化炭素を臨界圧力以上に昇圧する。昇圧ポンプ204から排出された二酸化炭素は配管233を介してヒータ205に供給される。ヒータ205は二酸化炭素を臨界温度以上に昇温(加熱)する。
【0022】
ヒータ205から排出された二酸化炭素は配管234を介してチャンバ210に供給される。配管234にはバルブ206が設けられている。バルブ206は、チャンバ210への二酸化炭素の供給量を調整する。
【0023】
なお、配管231〜234にはそれぞれパーティクルを除去するフィルタ221〜224が設けられている。
【0024】
チャンバ210は、SUSで形成され、所定の耐圧性を確保した密閉可能な高圧容器である。また、チャンバ210は、ステージ211及びヒータ212を有する。ステージ211は被処理基板Wを保持するリング状の平板である。ヒータ212は、チャンバ210内の温度を調整することができる。ヒータ212はチャンバ210の外周部に設けてもよい。
【0025】
チャンバ210内の気体や超臨界流体は、配管235を介して排出される。配管235にはバルブ207が設けられている。バルブ207の開度によって、チャンバ210内の圧力を調整することができる。配管235のバルブ207より下流側では、超臨界流体は気体となる。
【0026】
気液分離器208は、気体と液体を分離する。例えば、チャンバ210から、アルコールが溶解した超臨界状態の二酸化炭素が排出された場合、気液分離器208は、液体のアルコールと気体の二酸化炭素とを分離する。分離されたアルコールは再利用することができる。
【0027】
気液分離器208から排出された気体状態の二酸化炭素は、配管236を介して冷却器203に供給される。冷却器203は、二酸化炭素を冷却して液体状態とし、配管237を介して冷却器202へ排出する。冷却器203から排出された二酸化炭素も昇圧ポンプ204に供給される。このような構成にすることで、二酸化炭素を循環使用できる。
【0028】
また、
図2に示すように、超臨界乾燥システムには、チャンバ210に連結され、チャンバ210内に酸素ガスを供給する配管241と、チャンバ210内から酸素ガス等を排出する配管243とが設けられている。また、配管241、243にはそれぞれ開閉可能なバルブ242、244が設けられている。なお、
図2では、酸素ガスを貯留するボンベや、チャンバ210へ酸素を送りこむポンプ、ヒータ212を制御する制御部等の図示は省略している。
【0029】
チャンバ210内でベーク処理を行うために、チャンバ210に酸素ガスが供給される。ベーク処理により、チャンバ210内の有機物を燃焼(酸化)させて除去することができる。本実施形態では、チャンバ210へ酸素ガスを供給する場合について説明するが、オゾンガスなど他の酸化性ガスを使用してもよい。酸素ガス又はオゾンガスを供給する第3配管には酸素ガス、またはオゾンガスを活性化するUVランプを具備することもできる。
【0030】
図3に本実施形態に係る半導体基板の洗浄及び乾燥方法を説明するフローチャートを示す。
【0031】
(ステップS101)処理対象の半導体基板が図示しない洗浄チャンバに搬入される。そして、半導体基板の表面に薬液が供給され、洗浄処理が行われる。薬液には、例えば、硫酸、フッ酸、塩酸、過酸化水素等を用いることができる。
【0032】
ここで、洗浄処理とは、レジストを半導体基板から剥離するような処理や、パーティクルや金属不純物を除去する処理や、基板上に形成された膜をエッチング除去する処理等を含むものである。
【0033】
(ステップS102)半導体基板の表面に純水が供給され、半導体基板の表面に残留していた薬液を純水によって洗い流す純水リンス処理が行われる。
【0034】
(ステップS103)半導体基板の表面にアルコールが供給され、半導体基板の表面に残留していた純水をアルコールに置換するアルコールリンス処理が行われる。アルコールは、純水と超臨界二酸化炭素流体の両方に溶解する(置換しやすい)ものが用いられる。本実施形態ではイソプロピルアルコール(IPA)を用いて説明する。
【0035】
(ステップS104)表面がIPAで濡れた状態のまま、自然乾燥しないように、半導体基板が洗浄チャンバから搬出され、
図2に示す超臨界乾燥システムのチャンバ210に導入され、ステージ211に固定される。半導体基板の固定後、チャンバ210を密閉する。
【0036】
(ステップS105)ボンベ201内の二酸化炭素ガスを昇圧ポンプ204及びヒータ205により昇圧・昇温し、配管234を介して、チャンバ210内に供給する。バルブ207、242、及び244は閉じており、バルブ206は開いている。
【0037】
チャンバ210内の圧力・温度が二酸化炭素の臨界圧力・臨界温度以上になるとチャンバ210内の二酸化炭素は超臨界流体(超臨界状態)となる。また、チャンバ210に接続された配管234のうちバルブ206より下流側(バルブ206とチャンバ210との間の配管234内)においても、二酸化炭素は超臨界流体となる。なお、この時、ヒータ212を用いて、チャンバ210内の温度Tを75℃以上、かつIPAの臨界温度(235.6℃)未満にする。チャンバ210内の温度Tを前述の温度範囲にすることで超臨界乾燥を行なうが、実行的にはウェーハ表面近傍の温度がこの温度範囲になるように調整することが望まれる。なお、温度Tをこのような温度に設定する理由については後述する。
【0038】
図4は、二酸化炭素とIPAの各々についての、圧力と温度と相状態との関係を示す状態図である。
図4では、実線が二酸化炭素に対応し、破線がIPAに対応する。本ステップにおけるチャンバ210内の二酸化炭素の変化は、
図4における矢印A1に相当する。
【0039】
(ステップS106)半導体基板を、超臨界CO
2流体に所定時間、例えば20分程度、浸漬させる。これにより、半導体基板上のIPAが超臨界CO
2流体に溶解し、半導体基板からIPAが除去される。言い換えれば、半導体基板上のIPAが超臨界CO
2流体に置換される。
【0040】
この時、配管234を介してチャンバ210内に超臨界CO
2流体を供給しつつ、バルブ207を開き、配管235を介してチャンバ210内から、IPAが溶解した超臨界CO
2流体が徐々に排出されるようにする。
【0041】
また、チャンバ210内の温度Tは、ステップS105における設定温度のままとなるようにヒータ212を制御する。
【0042】
(ステップS107)バルブ207を開いて排気し、チャンバ210内の圧力を降圧する(
図4の矢印A2参照)。排気降圧時のチャンバ210内の温度が、ステップS105における設定温度を維持するようにヒータ212を制御する。
図4の矢印A2が示すように、チャンバ210内の圧力低下により、チャンバ210内の二酸化炭素は超臨界状態から気体状態に変化し、IPAは液体状態から気体状態に変化する。
【0043】
なお、降圧時のチャンバ210内の温度Tは、75℃以上、かつIPAの臨界温度(235.6℃)未満であれば多少変動してもよい。チャンバ210内の温度Tは前述の温度範囲内で超臨界乾燥は行われるが、実行的にはウェーハ表面近傍の温度がこの温度範囲になるように二酸化炭素超臨界乾燥温度を調整する。
【0044】
ステップS105〜S107において、チャンバ210内の温度Tを75℃以上と高くすることで、超臨界CO
2流体に溶け込む溶媒(IPA)のクラスターが小さくなり、ステップS107における排気降圧時に、溶媒が凝集して半導体基板に降り注ぐパーティクルを小さくできる。また、溶媒が凝集しても半導体基板に降り注ぐ前に気化させることができる。
【0045】
一方、温度TをIPAの臨界温度以上にすると、IPAが超臨界状態になり、IPAから分解した生成物が発生し、半導体基板上に形成されたタングステン、チタン、又は窒化チタンを含む金属膜がエッチングされる。ステップS105〜S107において、温度TをIPAの臨界温度未満にすることで、金属膜のエッチングを抑制し、半導体デバイスの電気的特性が劣化することを防止できる。
【0046】
(ステップS108)チャンバ210内の圧力が1MPa未満(例えば大気圧=0.1MPa)になったらバルブ206、207を閉じ、バルブ242、244を開けて、チャンバ210内に酸素ガスを供給する。そしてヒータ212を用いてチャンバ内の温度を昇温し、ベーク処理を行う。
【0047】
超臨界流体として用いられる二酸化炭素には、有機物成分(油分)が含まれており、この有機物成分が半導体基板上に吸着する。本ステップにおけるベーク処理は、この有機物成分を燃焼して除去するものである。従って、このベーク処理により、半導体基板上の有機物成分由来のパーティクルを低減することができる。
【0048】
また、このベーク処理により、チャンバ210の内壁等に付着している有機物成分も燃焼して除去することができる。燃焼した有機物成分は、配管243を介してチャンバ210から排出される。
【0049】
本ステップにおいて、チャンバ210内の温度をどの程度昇温するかは、燃焼させる有機物成分(使用する二酸化炭素に含まれる有機物成分)によって異なる。以下の表1に、市販の二酸化炭素に含まれ得る有機物成分の一例と、その熱分解温度又は沸点を示す。
【表1】
【0050】
従って、超臨界乾燥処理を行う前に、
図2に示す超臨界乾燥システムで使用されるボンベ201に含まれる二酸化炭素の有機物成分を検出しておき、ステップS108では、検出結果に基づいて有機物成分が燃焼(気化)する温度、すなわち熱分解温度又は沸点以上に昇温することが好ましい。
【0051】
(ステップS109)ベーク処理後、半導体基板を冷却チャンバ(図示せず)へ搬送して冷却する。
【0052】
ステップS108のベーク処理を行わなかった場合と、行った場合の実験結果を
図5(a)、(b)に示す。この実験では温度Tを150℃とし、二酸化炭素には4Nグレード品を使用した。また、実験に使用した半導体基板のサイズは300mmである。
【0053】
図5(a)は、ベーク処理を行わなかった場合の超臨界乾燥処理後の半導体基板の表面を示しており、サイズ40nm以上のパーティクルの数は4252個であった。
【0054】
一方、
図5(b)は、チャンバ210内の排気降圧後に酸素を供給し、295℃で5分間ベーク処理を行った場合の超臨界乾燥処理後の半導体基板の表面を示しており、サイズ40nm以上のパーティクルの数は1825個であった。ベーク処理を行うことにより、二酸化炭素中の有機物成分に起因するパーティクルの発生を抑制し、パーティクル数を低減できることがわかる。
【0055】
また、上記実施形態におけるステップS108のベーク処理を省略し、ステップS105〜S107における温度Tを40℃にした場合、75℃にした場合、97℃にした場合のそれぞれについて、乾燥処理後の半導体基板上における、サイズ40nm以上のパーティクルの数を計測した。なお、ステップS105ではチャンバ210内の圧力(二酸化炭素の分圧)を8MPa(臨界圧力以上)となるように昇圧し、半導体基板のサイズは300mmとした。
【0056】
その結果、半導体基板上のパーティクル数は、温度Tが40℃の場合において60000個以上でオーバーフロー(パーティクル測定器設定値以上)、75℃の場合において35639個、97℃の場合において9279個となった。半導体基板上のパーティクル数は少ない方がよい。温度40℃では、多数のパーティクルが半導体基板上に付着しており測定が不可能である。従って、温度Tは75℃以上が好ましく、97℃以上とすることがさらに好ましい。
【0057】
このように、本実施形態によれば、半導体基板上のIPAを超臨界CO
2流体に置換すし、排気降圧する(ステップS105〜S107)ときのチャンバ210内の温度を、75℃以上かつIPAの臨界温度(235.6℃)未満とすることで、半導体基板上に生じる、置換溶媒(本実施形態ではIPA)起因のパーティクルを低減することができる。また、半導体基板の乾燥処理中に、タングステン、チタン、又は窒化チタンを含む金属膜がエッチングされることを抑え、半導体デバイスの電気的特性の劣化を防止することができる。
【0058】
さらに、チャンバ210内の排気降圧後に、チャンバ210内に酸素等の酸化性ガスを供給し、チャンバ210内を昇温してベーク処理を行い、有機物成分を燃焼させることで、二酸化炭素に含まれる有機物成分に起因するパーティクルを低減することができる。
【0059】
上記実施形態では、ステップS108のベーク処理をチャンバ210内で行っていたが、ベーク処理は別のチャンバで行ってもよい。その場合、別チャンバに、酸素ガス又はオゾンガスを供給する機構やヒータが設けられる。このとき酸素ガス、又はオゾンガスを供給する配管には酸素ガス、又はオゾンガスを活性化するためのUVランプを具備する機構も設けることができる。
【0060】
上記実施形態ではアルコールリンス処理にIPAを使用する例について説明したが、エタノール、メタノール、フッ化アルコール等を用いてもよい。その場合、ステップS105で設定されるチャンバ210内の温度Tは、使用したアルコールの臨界温度未満となるようにする。
【0061】
上記実施形態では、ベーク処理後にチャンバ210とは異なる冷却チャンバへ半導体基板を搬送する例について説明したが、チャンバ210に冷却機構を設けて、チャンバ210内で半導体基板の冷却を行ってもよい。
【0062】
上記実施形態では、二酸化炭素を循環使用する超臨界乾燥システムについて説明したが、超臨界乾燥システムの構成はこれに限定されず、二酸化炭素を循環使用しない構成でもよい。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。