特許第5845128号(P5845128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5845128
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】受信装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04J 11/00 20060101AFI20151224BHJP
   H04J 99/00 20090101ALI20151224BHJP
   H04B 7/04 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   H04J11/00 Z
   H04J15/00
   H04B7/04
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-77808(P2012-77808)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-207754(P2013-207754A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月2日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】村山 研一
(72)【発明者】
【氏名】田口 誠
(72)【発明者】
【氏名】蔀 拓也
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 一彦
【審査官】 北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−516563(JP,A)
【文献】 特開2009−130486(JP,A)
【文献】 特表2005−536103(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/098050(WO,A1)
【文献】 特表2008−514124(JP,A)
【文献】 蔀 拓也 他,次世代地上放送に向けた伝送技術 − LDPC符号を用いた偏波MIMO-超多値OFDM伝送のマルチパス環境での特性と,映像情報メディア学会技術報告,2012年 3月 9日,Vol.36, No.15,pp.1-6,BCT2012-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 11/00
H04B 7/04
H04J 99/00
CiNii
IEEE Xplore
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−2
CT WG1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌルパイロット信号が挿入されたOFDM信号を伝送するMIMOシステムにおける受信装置であって、
受信したOFDM信号を直交復調処理及びフーリエ変換処理して、複素ベースバンド信号を生成する入力処理部と、
前記複素ベースバンド信号に含まれる既知のパイロット信号を抽出し、該抽出したパイロット信号を用いて各キャリアの伝送路応答を算出する伝送路応答算出部と、
前記伝送路応答を用いて前記複素ベースバンド信号から送信信号の推定値を生成するMIMO検出部と、
前記推定値のうちのヌルパイロット信号、AC信号、及びTMCC信号の推定値を用いて、受信したOFDM信号の雑音分散であるOFDM雑音分散を算出する雑音分散算出部と、
前記雑音分散及び前記送信信号の推定値を用いて、送信された各ビットの尤度比を算出する尤度比算出部と、
前記尤度比を用いて、送信されたビットの推定値を復号する誤り訂正復号部と、
を備え
前記雑音分散算出部は、
前記推定値がヌルパイロット信号、AC信号、又はTMCC信号の推定値であるか否を判定する信号判定部と、
前記ヌルパイロット信号の推定値から、ヌルパイロット信号の雑音分散であるヌルパイロット雑音分散を算出するヌルパイロット雑音分散算出部と、
前記AC信号及びTMCC信号の推定値から、AC信号及びTMCC信号の雑音分散であるBPSK雑音分散を算出するBPSK雑音分散算出部と、
所定のOFDMシンボル内における、前記ヌルパイロット雑音分散及びBPSK雑音分散の加重平均値である帯域雑音分散を、前記OFDM雑音分散として算出する帯域雑音分散決定部と、
を備えることを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記雑音分散算出部は、前記帯域雑音分散に対して、前記伝送路応答から求まる重み付け行列によりキャリアごとに重み付けを行った雑音分散を、前記OFDM雑音分散として算出するキャリア雑音分散算出部を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
コンピュータを、請求項1又は2に記載の受信装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヌルパイロット信号が挿入されたOFDM信号を伝送するMIMO(Multiple Input Multiple Output)システムにおける、受信装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本の地上デジタル放送方式であるISDB−T(Integrated Services Digital Broadcasting - Terrestrial)は、固定受信機向けにハイビジョン放送(又は複数標準画質放送)を実現している。次世代の地上デジタル放送方式では、従来のハイビジョンに変わり、3Dハイビジョン放送やハイビジョンの16倍の解像度を持つスーパーハイビジョンなど、さらに情報量の多いサービスを提供することが求められている。
【0003】
そこで、無線によるデータ伝送容量を拡大するための手法として、複数の送受信アンテナを用いてMIMO伝送を行うMIMOシステムが提案されている。MIMOシステムでは、空間分割多重(SDM:Space Division Multiplexing)や、時空間符号(STC:Space Time Codes)が行われる。SDMの実現例としては、水平偏波及び垂直偏波の両偏波を同時に用いる偏波MIMO方式などが提案されている。
【0004】
また、デジタル伝送の誤り訂正能力を向上させるための手法として、ターボ符号やLDPC(Low Density Parity Check)符号が提案されている。これらの符号の復号処理は、対数尤度比(LLR:Log Likelihood Ratio)と呼ばれるパラメータを用いて、各ビットが0又は1である確率推定を基本原理としている。対数尤度比は受信信号の信号点とマッピング上の候補点とのユークリッド距離、及び各キャリアシンボルの雑音分散の推定値から算出される。誤り訂正能力を向上させるためには、復号過程において対数尤度比をできるだけ正確に求める必要があるが、そのためには、対数尤度比の算出に用いられる雑音分散をできるだけ正確に推定することが重要となる。雑音分散は、受信した信号の信号点と理想信号点のユークリッド距離の2乗から推定できることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−35442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
雑音分散は、本来あるべきIQ座標上の理想信号点と実際に観測した受信信号の信号点とのずれを意味し、変調誤差比(MER:Modulation Error Ratio)を求めて逆数を取ることで得られる。これは、帯域内平均電力を1とする正規化係数を乗じているためである。データ信号のMERは、キャリアシンボルの雑音が大きい場合に本来あるべきシンボル点を誤って定めてしまう可能性があるが、BPSK変調された信号は他の変調方式で変調された信号よりも誤る可能性が低い。そのため、一般的に、AC(Auxiliary Channel)信号、TMCC(Transmission and Multiplexing Configuration Control)信号といったBPSK変調された信号を用いて雑音分散を算出する。
【0007】
しかし、AC、TMCC信号の変調内容(送信側で決定される信号点)は受信側で未知であるため、雑音分散を精度よく求めるのは困難であった。また、雑音分散はガウス分布に従うため、雑音分散を推定するためにはなるべくサンプル数を多く取ることが望ましいが、1 OFDMシンボル当たりのAC、TMCC信号の数は少ないため、十分な精度を確保することができないという問題があった。
【0008】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、MIMOシステムにおいて、受信したOFDM信号の雑音分散を精度良く算出してBER(Bit Error Rate)特性を改善することが可能な受信装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る受信装置は、ヌルパイロット信号が挿入されたOFDM信号を伝送するMIMOシステムにおける受信装置であって、受信したOFDM信号を直交復調処理及びフーリエ変換処理して、複素ベースバンド信号を生成する入力処理部と、前記複素ベースバンド信号に含まれる既知のパイロット信号を抽出し、該抽出したパイロット信号を用いて各キャリアの伝送路応答を算出する伝送路応答算出部と、前記伝送路応答を用いて前記複素ベースバンド信号から送信信号の推定値を生成するMIMO検出部と、前記推定値のうちのヌルパイロット信号、AC信号、及びTMCC信号の推定値を用いて、受信したOFDM信号の雑音分散であるOFDM雑音分散を算出する雑音分散算出部と、前記雑音分散及び前記送信信号の推定値を用いて、送信された各ビットの尤度比を算出する尤度比算出部と、前記尤度比を用いて、送信されたビットの推定値を復号する誤り訂正復号部と、を備え、前記雑音分散算出部は、前記推定値がヌルパイロット信号、AC信号、又はTMCC信号の推定値であるか否を判定する信号判定部と、前記ヌルパイロット信号の推定値から、ヌルパイロット信号の雑音分散であるヌルパイロット雑音分散を算出するヌルパイロット雑音分散算出部と、前記AC信号及びTMCC信号の推定値から、AC信号及びTMCC信号の雑音分散であるBPSK雑音分散を算出するBPSK雑音分散算出部と、所定のOFDMシンボル内における、前記ヌルパイロット雑音分散及びBPSK雑音分散の加重平均値である帯域雑音分散を、前記OFDM雑音分散として算出する帯域雑音分散決定部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る受信装置において、前記雑音分散算出部は、前記帯域雑音分散に対して、前記伝送路応答から求まる重み付け行列によりキャリアごとに重み付け演算を行った雑音分散を前記OFDM雑音分散として算出するキャリア雑音分散算出部を更に備えることを特徴とする。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るプログラムは、コンピュータを、上記受信装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、MIMOシステムにおいて、受信したOFDM信号の雑音分散を精度良く算出でき、BER特性を改善することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る受信装置の構成例を示すブロック図である。
図2】ヌルパイロット信号が挿入されたOFDM信号の例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る受信装置における雑音分散算出部の構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係る受信装置における第1の態様の帯域雑音分散算出部の構成例を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係る受信装置における第2の態様の帯域雑音分散算出部の構成例を示すブロック図である。
図6】本発明の一実施形態に係る受信装置における第2の態様の帯域雑音分散算出部の動作を示すフローチャートである。
図7】ヌルパイロット信号の雑音分散を説明する図である。
図8】AC信号及びTMCC信号の雑音分散を説明する図である。
図9】本発明の一実施形態に係る受信装置によるBER特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明において、添え字のiはOFDM信号のキャリア番号を意味する。また、本実施形態では、送信アンテナ数2、受信アンテナ数2の2×2MIMOシステムにおける受信装置を例に説明する。
【0019】
水平、垂直両偏波を用いた偏波MIMO伝送において、受信装置側で偏波を分離するために、水平偏波、垂直偏波で送信するOFDM信号に挿入されるパイロット信号の挿入パターンを相違させる技術が提案されている。例えば、村山,”-次世代地上放送に向けた伝送技術-スーパーハイビジョンの地上放送を目指して-”,映像情報メディア学会技術報告,Vol.34,No.36,pp37-40,2010にて提案されている技術では、OFDM信号に、従来のパイロット信号(SP信号)に加え、ヌルパイロット信号を挿入している。ヌルパイロット信号は、無変調の振幅0の信号である。
【0020】
図2は、ヌルパイロット信号が挿入されたOFDM信号を示す図である。図2(a)は水平偏波用、図2(b)は垂直偏波用のOFDM信号であり、図中の丸印はデータ信号、二重丸印はパイロット信号(SP信号)、丸の中に×が付された印はヌルパイロット信号を意味する。この例では、ISDB−Tが採用している、キャリア方向に12キャリア周期、シンボル方向に4シンボル周期の配置パターンは変更せずに、水平偏波と垂直偏波でヌルパイロット信号を交互に挿入している。本発明の受信装置は、ヌルパイロット信号が挿入されたOFDM信号を受信するが、ヌルパイロット信号の配置はこれに限られるものではない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る受信装置の構成例を示すブロック図である。図1に示すように、受信装置1は、受信アンテナ11(11−1及び11−2)と、入力処理部12(12−1及び12−2)と、伝送路応答算出部13と、MIMO検出部14と、第1周波数デインターリーブ部15と、雑音分散算出部16と、第2周波数デインターリーブ部17と、尤度比算出部18と、ビットデインターリーブ部19と、誤り訂正復号部20と、を備える。なお、受信装置1に対応する送信装置が周波数方向にインターリーブ処理しない場合には、受信装置1は第1周波数デインターリーブ部15、及び第2周波数デインターリーブ部17を備える必要はなく、受信装置1に対応する送信装置がビット方向にインターリーブ処理しない場合には、受信装置1はビットデインターリーブ部19を備える必要はない。
【0022】
入力処理部12は、受信装置1に対応する送信装置から送信されるOFDM信号を、受信アンテナ11を介して受信し、受信したOFDM信号を直交復調処理及びフーリエ変換処理して、複素ベースバンド信号を生成する。図1に示すように、入力処理部12は、GI除去部121(121−1及び121−2)と、フーリエ変換部122(122−1及び122−2)と、パイロット信号抽出部123(123−1及び123−2)と、を備える。
【0023】
GI除去部121は、受信したOFDM信号を直交復調処理してベースバンド信号を生成し、A/D変換によりデジタル信号を生成する。続いて、GI除去部121は、ガードインターバルを除去して有効シンボル信号を抽出する。そして、有効シンボル信号をフーリエ変換部122に出力する。
【0024】
フーリエ変換部122は、GI除去部121により抽出された有効シンボル信号に対して、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理を施して周波数領域の複素ベースバンド信号yi1,yi2生成する。そして、複素ベースバンド信号yi1,yi2をパイロット信号抽出部123、及びMIMO検出部14に出力する。つまり、フーリエ変換部122−1は、受信アンテナ11−1から受信したOFDM信号をFFT処理して複素ベースバンド信号yi1を生成し、パイロット信号抽出部123−1、及びMIMO検出部14に出力する。フーリエ変換部122−2は、受信アンテナ11−2から受信したOFDM信号をFFT処理して複素ベースバンド信号yi2を生成し、パイロット信号抽出部123−2、及びMIMO検出部14に出力する。
【0025】
パイロット信号抽出部123は、フーリエ変換部122により生成された複素ベースバンド信号yi1,yi2に含まれる既知のパイロット信号を抽出する。そして、パイロット信号を伝送路応答算出部13に出力する。
【0026】
伝送路応答算出部13は、パイロット信号抽出部123により抽出されたパイロット信号を用いて伝送路応答Hを算出する。そして、伝送路応答HをMIMO検出部14、及び雑音分散算出部16に出力する。伝送路応答算出部13は、復号対象となるOFDMシンボルの前後7シンボル内のパイロット信号の振幅応答を算出して記憶し、パイロット信号の振幅応答を時間方向に1次補間することにより、復号対象シンボルの伝送路応答Hを算出する。
【0027】
2×2MIMO伝送の伝送路応答H
と表すことができる。伝送路応答Hの各要素hi11,hi12,hi21,hi22は複素数であり、hi11は送信アンテナ#1から受信アンテナ#1への伝送路の状態を表し、hi12は送信アンテナ#2から受信アンテナ#1への伝送路の状態を表し、hi21は送信アンテナ#1から受信アンテナ#2への伝送路の状態を表し、hi22は送信アンテナ#2から受信アンテナ#2への伝送路の状態を表す。
【0028】
MIMO検出部14は、フーリエ変換部122により生成された複素ベースバンド信号yi1,yi2、及び伝送路応答算出部13により算出された伝送路応答Hを用いて、ZF(Zero Forcing)、MMSE(Minimum Mean Squared Error)などの既知の手法により、複数の受信アンテナ11により受信したデータストリームを分離して送信信号の推定値x^i1,x^i2を生成する。そして、送信信号の推定値x^i1,x^i2を第1周波数デインターリーブ部15及び雑音分散算出部16に出力する。
【0029】
第1周波数デインターリーブ部15は、MIMO検出部14により生成された送信信号の推定値x^i1,x^i2に対し、周波数方向にデインターリーブ処理を行う。そして、デインターリーブ処理された送信信号の推定値x^i1,x^i2を尤度比算出部18に出力する。周波数方向のデインターリーブ処理とは、受信装置1に対応する送信装置の周波数インターリーブ部により周波数方向に並べ替えられたデータを、元の順序に戻す処理である。
【0030】
受信装置1は、復号に必要な尤度比を算出するために、受信したOFDM信号の雑音分散を算出する必要がある。第1周波数デインターリーブ部15によりデインターリーブ処理されたデータキャリアから帯域全体の雑音分散を算出してもよいが、より精度の高い雑音分散を算出するには、後述するように、データキャリアでないキャリアシンボルを用いて帯域全体の雑音分散を推定する必要がある。したがって、図1に示す受信装置1では、雑音分散算出部16を、第1周波数デインターリーブ部15と尤度比算出部18との間ではなく、第1周波数デインターリーブ部15の前に配置している。
【0031】
雑音分散算出部16は、MIMO検出部14から入力される送信信号の推定値x^i1,x^i2のうち、ヌルパイロット信号の推定値を用いて、受信したOFDM信号の雑音分散である雑音分散σi1,σi2を算出する。本明細書では、この雑音分散σi1,σi2をOFDM雑音分散と称する。そして、OFDM雑音分散σi1,σi2を第2周波数デインターリーブ部17に出力する。雑音分散算出部16の詳細については後述する。
【0032】
第2周波数デインターリーブ部17は、雑音分散算出部16により算出されたOFDM雑音分散σi1,σi2に対し、周波数方向にデインターリーブ処理を行う。そして、デインターリーブ処理されたOFDM雑音分散σi1,σi2を尤度比算出部18に出力する。
【0033】
尤度比算出部18は、第1周波数デインターリーブ部15によりデインターリーブ処理された送信信号の推定値x^i1,x^i2と、第2周波数デインターリーブ部17から入力されるOFDM雑音分散σi1,σi2とを用いて、受信信号の尤度比λを算出する。そして、尤度比λをビットデインターリーブ部19に出力する。尤度比λは誤り訂正符号の各ビットについて算出されるものであり、受信信号の確率的な信頼度情報を表す。なお、尤度比λとしては、一般的に対数尤度比(LLR)が用いられる。
【0034】
対数尤度比λは、b=0となる尤度関数とb=1となる尤度関数の比の対数で表される。つまり、対数尤度比λは、送信信号の推定値x^、及びOFDM雑音分散σを用いて、次式(1)により求められる。d,dは理想信号点と送信信号の推定値x^の信号点との間の2乗ユークリッド距離である。
【0035】
【数1】
【0036】
ビットデインターリーブ部19は、尤度比算出部18により算出された尤度比λに対し、ビット方向にデインターリーブ処理を行う。そして、デインターリーブ処理された尤度比λを、誤り訂正復号部20に出力する。ビット方向のデインターリーブ処理とは、受信装置1に対応する送信装置のビットインターリーブ部によりビット方向に並べ替えられたデータを、元の順序に戻す処理である。
【0037】
なお、受信装置1に対応する送信装置が時間インターリーブ部により時間方向にもインターリーブ処理を行う場合には、受信装置1は、更に時間デインターリーブ部(図示せず)を備える。この時間デインターリーブ部は、尤度比λを時間方向にデインターリーブ部処理し、送信装置の時間インターリーブ部により時間方向に並べ替えられたデータを元の順序に戻す。
【0038】
誤り訂正復号部20は、ビットデインターリーブ部19によりデインターリーブ処理された尤度比λを用いて、誤り訂正符号(LDPC符号やターボ符号)の復号を行い、送信装置から送信されたビットの推定値を出力する。
【0039】
次に、雑音分散算出部16の詳細について説明する。図3は、雑音分散算出部16の構成例を示すブロック図である。図3に示すように、雑音分散算出部16は、帯域雑音分散算出部161と、キャリア雑音分散算出部162と、を備える。キャリア雑音分散算出部162は必須の構成部ではないが、キャリア雑音分散算出部162を備えることにより、より雑音分散の推定精度を向上させることができる。帯域雑音分散算出部161については、以下に2つの態様を示す。
【0040】
[第1の態様の帯域雑音分散算出部]
図4は、第1の態様の帯域雑音分散算出部161−1の構成例を示すブロック図である。図4に示すように、第1の態様の帯域雑音分散算出部161−1は、信号判定部1611−1と、ヌルパイロット雑音分散算出部1612と、雑音分散決定部1613−1と、を備える。帯域雑音分散算出部161−1は、MIMO検出部14から入力される送信信号の推定値x^i1,x^i2に対してそれぞれ同じ処理を施すため、両者を区別することなく説明する。
【0041】
信号判定部1611−1は、MIMO検出部14から入力される送信信号の推定値x^(x^i1,x^i2)がヌルパイロット信号の推定値であるか否を判定する。信号判定部1611−1は、推定値x^がヌルパイロット信号の推定値であると判定した場合にのみ、該推定値x^をヌルパイロット雑音分散算出部1612に出力する。
【0042】
ヌルパイロット雑音分散算出部1612は、信号判定部1611−1から入力されるヌルパイロット信号の推定値から、ヌルパイロット信号の雑音分散σiNを算出する。そして、雑音分散σiNを雑音分散決定部1613−1に出力する。本明細書では、この雑音分散σiNをヌルパイロット雑音分散と称する。
【0043】
図7は、ヌルパイロット信号の雑音分散を説明する図であり、変調方式が16QAMのデータ信号の信号点、変調方式がBPSKのAC信号又はTMCC信号の信号点、ヌルパイロット信号の信号点、及びヌルパイロット信号の推定値の信号点を図示している。ヌルパイロット信号の推定値の信号点が(I,Q)であるとき、ヌルパイロット雑音分散σiNは次式(2)により算出される。
【0044】
【数2】
【0045】
雑音分散決定部1613−1は、ヌルパイロット雑音分散算出部1612により算出されたヌルパイロット雑音分散σiNの平均値を、受信信号の帯域雑音分散σ−2として算出する。帯域雑音分散σ−2は式(3)により算出される。ここで、NはOFDMシンボル内のキャリア本数であり、NはOFDMシンボル内のヌルパイロット信号の数である。なお、平均値は、1 OFDMシンボル単位で算出してもよいし、複数のOFDMシンボル単位で算出してもよい。
【0046】
【数3】
【0047】
ヌルパイロット信号は無変調であるため、これが観測された受信シンボルは雑音そのものであり、シンボルの判定誤りが発生することは無い。また、ヌルパイロット信号はパイロット信号を用いた等化処理に使用されないため、ヌルパイロット信号の雑音成分情報はパイロット信号を用いた等化処理後もそのまま残ることとなる。また、ヌルパイロット信号の多重位置は既知であるため、これをOFDMシンボル全体で統計的に分散を算出する事で、AC信号及びTMCC信号を使用した場合よりも雑音分散を精度良く算出することができる。
【0048】
[第2の態様の帯域雑音分散算出部]
次に、第2の態様の雑音分散算出部について説明する。図5は、第2の態様の帯域雑音分散算出部161−2の構成例を示すブロック図である。図5に示すように、帯域雑音分散算出部161−2は、信号判定部1611−2と、ヌルパイロット雑音分散算出部1612と、雑音分散決定部1613−2と、BPSK雑音分散算出部1614と、を備える。図6は、帯域雑音分散算出部161−2の動作を示すフローチャートである。図5及び図6を参照して、第2の態様の帯域雑音分散算出部161−2について説明する。
【0049】
信号判定部1611−2は、MIMO検出部14から入力される送信信号の推定値x^が非データ信号の推定値であるか否を判定する(ステップS101)。推定値x^が非データ信号の推定値であると判定した場合には(ステップS101−Yes)、さらに非データ信号がAC信号又はTMCC信号であるか否かを判定する(ステップS102)。信号判定部1611−2は、送信信号がAC信号又はTMCC信号であると判定した場合には(ステップS102−Yes)、送信信号(AC信号及びTMCC信号)の推定値x^をBPSK雑音分散算出部1613に出力する。
【0050】
信号判定部1611−2は、推定値x^がAC信号又はTMCC信号の推定値でないと判定した場合には(ステップS102−No)、推定値x^がヌルパイロット信号の推定値であるか否を判定する(ステップS104)。ヌルパイロット信号の推定値であると判定した場合には(ステップS104−Yes)、送信信号(ヌルパイロット信号)の推定値x^をヌルパイロット雑音分散算出部1612に出力する。推定値x^がAC信号、TMCC信号、又はヌルパイロット信号の推定値でない場合には、その推定値x^は雑音分散の算出には使用されない。
【0051】
ヌルパイロット雑音分散算出部1612は、信号判定部1611−2から入力されるヌルパイロット信号の推定値から、ヌルパイロット雑音分散σiNを算出する(ステップS105)。そして、ヌルパイロット雑音分散σiNを雑音分散決定部1613−2に出力する。ヌルパイロット雑音分散σiNは上記の式(2)により算出される。
【0052】
BPSK雑音分散算出部1614は、信号判定部1611−2から入力されるAC信号及びTMCC信号の推定値から、AC信号及びTMCC信号の雑音分散σiBを算出する(ステップS103)。そして、AC信号及びTMCC信号の雑音分散σiBを雑音分散決定部1613−2に出力する。本明細書では、この雑音分散σiBをBPSK雑音分散と称する。
【0053】
図8は、AC信号及びTMCC信号の雑音分散を説明する図であり、変調方式が16QAMのデータ信号の信号点、変調方式がBPSKのAC,TMCC信号の信号点、ヌルパイロット信号の信号点、及びAC,TMCC信号の推定値の信号点を図示している。AC,TMCC信号の推定値の信号点が(I,Q)であり、BPSK変調されているAC,TMCC信号の信号点が(B,0)及び(−B,0)であるとき、BPSK雑音分散σiBは次式(4)により算出される。ここで、BはAC,TMCC信号のブースト比であり、ISDB−Tの場合は4/3となる。min( )は小さいほうの値を選択することを意味する。
【0054】
【数4】
【0055】
雑音分散決定部1613−2は、ヌルパイロット雑音分散算出部1612により算出されたヌルパイロット雑音分散σiN、及びBPSK雑音分散算出部1614により算出されたBPSK雑音分散σiBを全てのキャリアについて取得すると(ステップS106−Yes)、加重平均を次式(5)により算出し、この値を受信信号の帯域雑音分散σ−2とする。ここで、NはOFDMシンボル内のAC信号及びTMCC信号の数である。
【0056】
【数5】
【0057】
このように、第1の態様の帯域雑音分散算出部161−1では、ヌルパイロット信号の推定値のみを用いて帯域雑音分散σ−2を算出したが、第2の態様の帯域雑音分散算出部161−2では、ヌルパイロット信号、AC信号、及びTMCC信号の推定値を用いて帯域雑音分散σ−2を算出する。AC信号、及びTMCC信号の推定値を用いるものの、雑音分散の算出に用いる信号数(サンプル数)を増やすことができるため、結果的に帯域雑音分散σ−2の精度を向上させることができる。
【0058】
なお、雑音分散決定部1613−2は、式(3)により算出されるヌルパイロット雑音分散σiNの平均値σiNと、式(5)により算出されるヌルパイロット雑音分散σiN及びBPSK雑音分散σiBの加重平均値のいずれか一方を、ユーザにより設定されるモードに従って出力するようにしてもよい。
【0059】
キャリア雑音分散算出部162は、伝送路応答算出部13により算出された伝送路応答Hから求まる重み付け行列Wを用いて、帯域雑音分散算出部161により算出された帯域雑音分散σ−2に対してキャリアごとの重み付けを行い、キャリアごとの雑音分散をOFDM雑音分散σとして算出する。各キャリアにおける重みWは、H−1と表せる。重みWの算出等の詳細は、例えば、大鐘・小川、「わかりやすいMIMOシステム技術」、オーム社、p.101を参照されたい。各キャリアの重み付け成分は、この対角成分で表せる。これを全キャリアで正規化し、帯域雑音分散σ−2に乗算することで重み付けを行うことができる。なお、キャリア雑音分散算出部162を備えない場合には、第2周波数デインターリーブ部17は不要となる。
【0060】
図9は、2×2のMIMOシステムにおいて、従来の受信装置によるBER特性と本発明の受信装置1によるBER特性の比較結果を示すグラフである。ここでは、遅延量0.37μs、DU比0dB、位相差0度のマルチパス波が存在する状況を想定してシミュレーションを行っている。図中の菱形印でプロットされた線は、AC信号及びTMCC信号の推定値のみから雑音分散を算出する、従来の受信装置によるBER特性である。図中の四角印でプロットされた線は、ヌルパイロット信号の推定値のみから雑音分散を算出する、第1の態様の帯域雑音分散算出部161−1を備える受信装置1によるBER特性である。図中の三角印でプロットされた線は、ヌルパイロット信号、AC信号、及びTMCC信号の推定値から雑音分散を算出する、第2の態様の帯域雑音分散算出部161−2を備える受信装置1によるBER特性である。
【0061】
シミュレーション条件は、変調方式を1024QAM、符号化率を3/4、ガードインターバル比を1/8とし、その他のFFTサイズなどはISDB−Tのモード3に準拠している。図9に示すシミュレーション結果から、本発明によれば、第1の態様の帯域雑音分散算出部161−1を備える場合、及び第2の態様の帯域雑音分散算出部161−2を備える場合のいずれにおいても、BER=1.00×10−7となるCN比を所要CN比としたときに、BER特性が向上していることが分かる。
【0062】
このように、受信装置1は、帯域雑音分散算出部161により、ヌルパイロット信号の推定値を用いて、帯域雑音分散σ−2を算出する。ヌルパイロット信号は無変調であるため、シンボルの判定誤りが発生することは無い。このため、受信装置1によれば、OFDM雑音分散σを精度良く算出することができるようになる。
【0063】
また、受信装置1は、帯域雑音分散算出部161により算出された帯域雑音分散σ−2に対して、伝送路応答Hから求まる重み付け行列Wにより重み付け演算を行った値をOFDM雑音分散σとして算出するキャリア雑音分散算出部162を更に備えることにより、OFDM雑音分散σをより一層精度良く算出することができるようになる。
【0064】
なお、上述した受信装置1として機能させるためにコンピュータを好適に用いることができ、そのようなコンピュータは、受信装置1の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを、当該コンピュータの記憶部に格納しておき、当該コンピュータのCPUによってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。
【0065】
上述の実施形態は、代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、上述の実施形態では、2×2MIMOシステムにおける受信装置を例に説明したが、アンテナ数はこれに限定されるものではなく、4×2MIMOシステムなど、あらゆるアンテナ数のMIMOシステムにおける受信装置において本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
このように、本発明は、MIMO伝送を行うMIMOシステムに有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 受信装置
11 受信アンテナ
12 入力処理部
13 伝送路応答算出部
14 MIMO検出部
15 第1周波数デインターリーブ部
16 雑音分散算出部
17 第2周波数デインターリーブ部
18 尤度比算出部
19 ビットデインターリーブ部
20 誤り訂正復号部
121−1,121−2 GI除去部
122−1,122−2 フーリエ変換部
123−1,123−2 パイロット信号抽出部
161 帯域雑音分散算出部
162 キャリア雑音分散算出部
1611−1,1611−2 信号判定部
1612 ヌルパイロット雑音分散算出部
1613−1,1613−2 雑音分散決定部
1614 BPSK雑音分散算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9