【文献】
J. Bioact. Compat. Polym., 2006, Vol.21, No.3, pp.221-235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記自己組織化ペプチドが、n−RLDLRLALRLDLR−c(配列番号1)、n−RLDLRLLLRLDLR−c(配列番号2)、n−RADLRLALRLDLR−c(配列番号3)、n−RLDLRLALRLDAR−c(配列番号4)、n−RADLRLLLRLDLR−c(配列番号5)、n−RADLRLLLRLDAR−c(配列番号6)、n−RLDLRALLRLDLR−c(配列番号7)、または、n−RLDLRLLARLDLR−c(配列番号8)のアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドである、請求項1から4のいずれかに記載の人工硝子体材料。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<用語の定義>
(1)本明細書において、「自己組織化ペプチド」とは、溶媒中において、ペプチド分子同士の相互作用を介して自発的に集合するペプチドをいう。相互作用としては、特に限定されず、例えば、水素結合、イオン間相互作用、ファンデルワールス力等の静電的相互作用、疎水性相互作用が挙げられる。1つの実施形態において、自己組織化ペプチドは、室温の水溶液(例えば、0.4w/v%のペプチド水溶液)中において、自己組織化してナノファイバーまたはゲルを形成し得る。
(2)本明細書において、「ゲル」とは、粘性的な性質と弾性的な性質とを併せ持つ粘弾性物質をいう。
(3)本明細書において、「親水性アミノ酸」は、アルギニン(Arg/R)、リシン(Lys/K)、ヒスチジン(His/H)等の塩基性アミノ酸、アスパラギン酸(Asp/D)、グルタミン酸(Glu/E)等の酸性アミノ酸、チロシン(Tyr/Y)、セリン(Ser/S)、トレオニン(Thr/T)、アスパラギン(Asn/N)、グルタミン(Gln/Q)、システイン(Cys/C)等の非電荷極性アミノ酸を含む。上記括弧内のアルファベットはそれぞれ、アミノ酸の三文字表記および一文字表記である。
(4)本明細書において、「疎水性アミノ酸」は、アラニン(Ala/A)、ロイシン(Leu/L)、イソロイシン(Ile/I)、バリン(Val/V)、メチオニン(Met/M)、フェニルアラニン(Phe/F)、トリプトファン(Trp/W)、グリシン(Gly/G)、プロリン(Pro/P)等の非極性アミノ酸を含む。上記括弧内のアルファベットはそれぞれ、アミノ酸の三文字表記および一文字表記である。
【0011】
<人工硝子体材料>
本発明の人工硝子体材料は、自己組織化ペプチドおよび塩を含む。本発明の人工硝子体材料は、自己組織化ペプチドおよび塩を含むことにより、眼内で長期的なタンポナーデ効果を維持することができ、かつ、操作性に優れる。
【0012】
本発明の人工硝子体材料は、浸透圧が40mOsm/kg〜200mOsm/kgである。人工硝子体材料の浸透圧が上記の範囲内であることにより、眼内でさらに長期的なタンポナーデ効果を維持することができ、かつ、操作性に優れた人工硝子体材料が得られ得る。浸透圧が200mOsm/kgを超えると、人工硝子体材料の透明性が低下するおそれがある。なお、人工硝子体材料の浸透圧は、日本薬局方に準じた凝固点降下法を用いた浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)により測定することができる。
【0013】
本発明の人工硝子体材料は、pHを生理的条件(pH7.4程度)に調整されていることが好ましく、任意のpH調整剤、または緩衝剤等を用いることにより調整され得る。
【0014】
A.塩
上記塩としては、体液(例えば、房水)に含まれる塩と類似の塩が好ましく、任意の適切な塩を用いることができる。上記塩としては、例えば、塩化ナトリウムおよび塩化マグネシウム等のイオン性の塩が挙げられる。これらの塩は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0015】
上記塩は、任意の塩を任意の溶媒に溶解した塩溶液の形態で用いてもよい。該塩溶液に用いられる溶媒としては、蒸留水等が挙げられる。該塩溶液としては、市販の塩溶液を用いてもよい。具体的には、生理食塩水、リンゲル液、オキシグルタチオン溶液等の眼内灌流液用の希釈液(例えば、日本アルコン株式会社製、商品名ビーエスエスプラス付属のオキシグルタチオン溶液用希釈液、昭和薬品加工株式会社製、商品名オペアクア(登録商標)付属のオキシグルタチオン溶液用希釈液)等が挙げられる。これらの塩溶液は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明の人工硝子体材料中の塩の割合は、得られる人工硝子体材料の浸透圧が40mOsm/kg〜200mOsm/kgとなるよう、調整され得る。
【0017】
B.自己組織化ペプチド
本発明で用いる自己組織化ペプチドとしては、生体、特に眼組織に対して毒性のないものであればよく、任意の適切な自己組織化ペプチドを用いることができる。本発明の人工硝子体材料は、自己組織化ペプチドを好ましくは0.01w/v%〜0.5w/v%、より好ましくは0.05w/v%〜0.4w/v%含む。自己組織化ペプチドを上記の範囲内で含むことにより、眼内での長期間のタンポナーデ効果を維持し、かつ、操作性に優れた人工硝子体材料が得られ得る。自己組織化ペプチドは、ドラッグデリバリーシステムの基材としても注目されている。したがって、本発明の人工硝子体材料は、眼内に注入された後、眼内に注入された薬物投与効果の低減を防止し得る。自己組織化ペプチドは、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
好ましくは、本発明で用いる自己組織化ペプチドは、下記のアミノ酸配列からなる。
アミノ酸配列:a
1b
1c
1b
2a
2b
3db
4a
3b
5c
2b
6a
4
(上記アミノ酸配列中、a
1〜a
4は、塩基性アミノ酸残基を表し;b
1〜b
6は、非電荷極性アミノ酸残基および/または疎水性アミノ酸残基を表し、ただし、そのうちの少なくとも5個は、疎水性アミノ酸残基であり;c
1およびc
2は、酸性アミノ酸残基を表し;dは、疎水性アミノ酸残基を表す)。
上記アミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドを用いることにより、眼内でより長期間のタンポナーデ効果を維持することが可能な自己組織化ペプチドが得られる。また、上記アミノ酸配列からなるペプチドは、生理条件下において、透明性および力学的強度に優れるゲルを形成し得るため、人工硝子体材料として好適に用いることができる。
【0019】
上記自己組織化ペプチドを構成するアミノ酸は、L−アミノ酸であってもよく、D−アミノ酸であってもよい。また、天然アミノ酸であってもよく、非天然アミノ酸であってもよい。低価格で入手可能であり、ペプチド合成が容易であることから、好ましくは天然アミノ酸である。
【0020】
上記アミノ酸配列中、a
1〜a
4は、塩基性アミノ酸残基を表す。塩基性アミノ酸は、好ましくはアルギニン、リシン、またはヒスチジンであり、より好ましくはアルギニンまたはリシンである。これらのアミノ酸は、塩基性が強いからである。a
1〜a
4は、同一のアミノ酸残基であってもよく、異なるアミノ酸残基であってもよい。
【0021】
上記アミノ酸配列中、b
1〜b
6は、非電荷極性アミノ酸残基および/または疎水性アミノ酸残基を表し、そのうちの少なくとも5個は、疎水性アミノ酸残基である。疎水性アミノ酸は、好ましくはアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、グリシン、またはプロリンである。非電荷極性アミノ酸は、好ましくはチロシン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、またはシステインである。これらのアミノ酸は、入手が容易だからである。
【0022】
好ましくは、b
3およびb
4は、それぞれ独立して任意の適切な疎水性アミノ酸残基であり、さらに好ましくはロイシン残基、アラニン残基、バリン残基、またはイソロイシン残基であり、特に好ましくはロイシン残基またはアラニン残基である。上記アミノ酸配列において、それぞれ6位と8位に位置するb
3とb
4が疎水性アミノ酸残基である場合、6〜8位の3つのアミノ酸残基が連続して疎水性アミノ酸残基となる。このようにアミノ酸配列の中心に形成された疎水性領域は、その疎水性相互作用等により、人工硝子体材料の強度を向上させることができ、眼内で長期的にタンポナーデ効果を維持することができると推測される。
【0023】
好ましくは、b
1〜b
6はすべて疎水性アミノ酸残基である。自己組織化ペプチドが好適にβシート構造を形成し、自己組織化し得るからである。より好ましくは、b
1〜b
6は、それぞれ独立してロイシン残基、アラニン残基、バリン残基、またはイソロイシン残基であり、さらに好ましくはロイシン残基またはアラニン残基である。好ましい実施形態においては、b
1〜b
6のうちの4個以上がロイシン残基であり、特に好ましくはそのうちの5個以上がロイシン残基であり、最も好ましくはすべてがロイシン残基である。水への溶解性に優れるため人工硝子体材料の調製が容易であり、また、人工硝子体材料の強度を向上させることができ、眼内で長期的にタンポナーデ効果を維持することができる人工硝子体材料が得られ得るからである。
【0024】
上記アミノ酸配列中、c
1およびc
2は、酸性アミノ酸残基を表す。酸性アミノ酸は、好ましくはアスパラギン酸またはグルタミン酸である。これらのアミノ酸は、入手が容易だからである。c
1およびc
2は、同一のアミノ酸残基であってもよく、異なるアミノ酸残基であってもよい。
【0025】
上記アミノ酸配列中、dは、疎水性アミノ酸残基を表す。上記のとおり、dが疎水性アミノ酸残基であり、かつ、所定の対称構造を有することにより、より力学的強度に優れた人工硝子体材料が得られ、眼内で長期的にタンポナーデ効果を維持することが可能となると考えられる。
【0026】
dは、好ましくはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、またはイソロイシン残基である。この場合、自己組織化ペプチドが形成するβシート構造の親水性面側のアミノ酸の側鎖長は非相補的となり得るが、該自己組織化ペプチドは、優れた自己組織化能を発揮し得、さらには、従来よりも力学的強度に優れ、眼内で長期的にタンポナーデ効果を維持することが可能な人工硝子体材料が得られ得る。
【0027】
上記自己組織化ペプチドに含まれるアミノ酸残基の中性領域における電荷の総和は、実質的に+2である。すなわち、上記自己組織化ペプチドは、中性領域において該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の側鎖に由来するプラス電荷とマイナス電荷とが相殺されない。加えて、N末端とC末端のアミノ酸残基がともに塩基性アミノ酸残基であることから、本発明で用いられる自己組織化ペプチドは、例えば、ペプチド間に静電的引力に加えて静電的斥力が働き、これらの微妙なバランスが保たれることで過度の会合が実質的に生じないため、生理条件下に近い中性領域で沈殿することなく安定なゲルを形成し得ると推測される。なお、本明細書において、「中性領域」とは、pH6〜8、好ましくは、pH6.5〜7.5の領域をいう。
【0028】
各pHにおける上記自己組織化ペプチドの電荷は、例えば、レーニンジャー(Lehninger)〔Biochimie、1979〕の方法に従って算出され得る。レーニンジャーの方法は、例えば、EMBL WWW Gateway to Isoelectric Point Serviceのウェブサイト(http://www.embl−heidelberg.de/cgi/pi−wrapper.pl)上で利用可能なプログラムにより行なわれ得る。
【0029】
本発明で用いられる自己組織化ペプチドとして、好ましい具体例を以下に示す。
n−RLDLRLALRLDLR−c(配列番号1)
n−RLDLRLLLRLDLR−c(配列番号2)
n−RADLRLALRLDLR−c(配列番号3)
n−RLDLRLALRLDAR−c(配列番号4)
n−RADLRLLLRLDLR−c(配列番号5)
n−RADLRLLLRLDAR−c(配列番号6)
n−RLDLRALLRLDLR−c(配列番号7)
n−RLDLRLLARLDLR−c(配列番号8)
【0030】
上記自己組織化ペプチドは、任意の適切な製造方法によって製造され得る。例えば、Fmoc法等の固相法又は液相法等の化学合成方法、遺伝子組換え発現等の分子生物学的方法が挙げられる。
【0031】
上記自己組織化ペプチドは任意の修飾がされた自己組織化ペプチド(以下、修飾ペプチドという)であってもよい。該修飾ペプチドは、自己組織化能を有し、かつ、生体、特に眼組織に対して毒性を有さない範囲で、上記自己組織化ペプチドに任意の修飾を施したペプチドである。修飾が行われる部位は、上記自己組織化ペプチドのN末端アミノ基であってもよく、C末端カルボキシル基であってもよく、その両方であってもよい。
【0032】
上記修飾としては、得られる修飾ペプチドが自己組織化能を有し、かつ、生体、特に眼組織に対して毒性を有しない範囲において任意の適切な修飾が選択され得る。例えば、N末端のアセチル化、C末端のアミド化等の保護基の導入;アルキル化、エステル化、またはハロゲン化等の官能基の導入;水素添加;単糖、二糖、オリゴ糖、または多糖等の糖化合物の導入;脂肪酸、リン脂質、または糖脂質等の脂質化合物の導入;アミノ酸またはタンパク質の導入;DNAの導入;その他生理活性を有する化合物等の導入が挙げられる。アミノ酸またはタンパク質が導入される場合、導入後のペプチドは上記自己組織化ペプチドのN末端および/またはC末端に任意のアミノ酸が付加されたペプチドであるが、本明細書においては、該付加ペプチドも修飾ペプチドに含む。修飾は1種のみ行われてもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。例えば、上記自己組織化ペプチドのC末端に所望のアミノ酸を導入した付加ペプチドのN末端をアセチル化し、C末端をアミド化してもよい。
【0033】
上記付加ペプチド(修飾ペプチド)は、全体として、上記自己組織化ペプチドの特徴を有さない場合がある。具体的には、任意のアミノ酸の付加により、7位の疎水性アミノ酸配列を中心としてN末端方向の配列とC末端方向の配列とが非対称となる場合、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とを等しい割合で有する場合等がある。このような場合であっても、上記自己組織化ペプチドが極めて優れた自己組織化能を有するので、任意のアミノ酸が付加された付加ペプチドもまた、力学的強度に優れ、眼内で長期的にタンポナーデ効果を維持することが可能な人工硝子体材料が得られ得る。
【0034】
アミノ酸またはタンパク質が導入される場合、導入後の修飾ペプチドを構成するアミノ酸残基数は、好ましくは14〜200であり、より好ましくは14〜100であり、さらに好ましくは14〜50であり、特に好ましくは14〜30、最も好ましくは14〜20である。アミノ酸残基数が200を超えると、上記自己組織化ペプチドの自己組織化能が損なわれる場合がある。
【0035】
導入されるアミノ酸の種類および位置は、修飾ペプチドの用途等に応じて適切に設定され得る。好ましくは、上記自己組織化ペプチドのN末端および/またはC末端のアルギニン残基(親水性アミノ酸)から疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になるように導入される。
【0036】
上記修飾は、その種類等に応じて、任意の適切な方法によって行われ得る。
【0037】
C.添加剤
本発明の人工硝子体材料は、上記自己組織化ペプチドおよび塩以外に、任意の添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、任意の薬剤、例えば、低分子化合物、DNAおよびRNA等の核酸、ルセンティス、アバスチン、マクジェン等の抗体等が挙げられる。
【0038】
D.人工硝子体材料の製造方法
本発明の人工硝子体材料は、任意の適切な方法で製造され得る。例えば、上記自己組織化ペプチドを所望の濃度となるよう蒸留水に溶解してペプチド水溶液を調製し、該ペプチド水溶液、上記塩および必要に応じて任意の添加剤および溶媒を任意の撹拌手段を用いて、撹拌、混合することにより人工硝子体材料が得られ得る。他の方法としては、例えば、上記ペプチド水溶液、上記塩溶液および必要に応じて任意の添加剤を任意の撹拌手段を用いて、撹拌、混合することにより人工硝子体材料が得られ得る。
【0039】
E.人工硝子体材料の使用方法
本発明の人工硝子体材料は、任意の適切な手段を用いて、眼球内に注入され得る。例えば、注射筒内に本発明の人工硝子体材料を充填した後、滅菌処理をし、注射器を用いて、眼球内に注入され得る。本発明の人工硝子体材料は、操作性に優れているため、通常眼球内への注射に使用される25ゲージの注射針よりも細い注射針であっても容易に眼球内への注入を行うことができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、人工硝子体材料の浸透圧については、以下のようにして測定した。
(浸透圧の測定)
各人工硝子体材料を溶液状態となるまで、蒸留水(株式会社大塚製薬工場製、商品名:局方大塚蒸留水)を用いて希釈した。次いで、日本薬局方に記載の浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)に準じて、浸透圧測定装置(アドバンスドインストルメンツ社製、商品名:オズモメーター3900)を用いて、希釈した人工硝子体材料の浸透圧を測定した。得られた浸透圧を希釈倍率で比例計算することにより、各人工硝子体材料の浸透圧を求めた。
【0041】
[実施例1]
自己組織化ペプチド(株式会社メニコン製、商品名:PanaceaGel SPG−178、1w/v%)を蒸留水(株式会社大塚製薬工場製、商品名:局方大塚蒸留水)と混合し、ペプチド濃度0.15w/v%のペプチド水溶液を得た。得られたペプチド水溶液と塩溶液1(昭和薬品化工株式会社製、オペアクア(登録商標)(オキシグルタチオン溶液)用希釈液、浸透圧:308mOsm/kg)を体積比2:1で混合し、人工硝子体材料1を得た。得られた人工硝子体材料中の自己組織化ペプチド濃度、塩溶液の割合および浸透圧を表1に示す。
【0042】
[実施例2]
塩溶液1に代えて、塩溶液2(日本アルコン株式会社製、商品名:ビーエスエスプラス(登録商標)(オキシグルタチオン溶液)用希釈液、浸透圧:308mOsm/kg)を用いた以外は実施例1と同様にして、人工硝子体材料2を得た。得られた人工硝子体材料中の自己組織化ペプチド濃度、塩溶液の割合および浸透圧を表1に示す。
【0043】
[実施例3]
ペプチド水溶液のペプチド濃度を0.45w/v%とした以外は、実施例2と同様にして、人工硝子体材料3を得た。得られた人工硝子体材料中の自己組織化ペプチド濃度、塩溶液の割合および浸透圧を表1に示す。
【0044】
[実施例4]
ペプチド水溶液のペプチド濃度を0.075w/v%とした以外は、実施例1と同様にして、人工硝子体材料4を得た。得られた人工硝子体材料中の自己組織化ペプチド濃度、塩溶液の割合および浸透圧を表1に示す。
【0045】
[実施例5]
ペプチド水溶液のペプチド濃度を0.25w/v%としたこと、ペプチド水溶液と塩溶液1との混合比を体積比で2:3とした以外は、実施例2と同様にして、人工硝子体材料5を得た。得られた人工硝子体材料中の自己組織化ペプチド濃度、塩溶液の割合および浸透圧を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
実施例1と同様にしてペプチド濃度1w/v%のペプチド水溶液を調製し、該ペプチド水溶液にさらに蒸留水(株式会社大塚製薬工場製、商品名:局方大塚蒸留水)を加え、自己組織化ペプチド濃度を0.1w/v%とし、人工硝子体材料C1を得た。得られた人工硝子体材料中の自己組織化ペプチド濃度、塩溶液の割合および浸透圧を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
ペプチド水溶液のペプチド濃度を1w/v%としたこと、ペプチド水溶液と塩溶液との混合比を体積比で3:7とした以外は実施例1と同様にして、人工硝子体材料C2を得た。得られた人工硝子体材料中の自己組織化ペプチド濃度、塩溶液の割合および浸透圧を表1に示す。
【0048】
(比較例3)
ペプチド水溶液のペプチド濃度を0.2w/v%としたこと、ペプチド水溶液と塩溶液との混合比を体積比で9:1としたこと以外は実施例1と同様にして、人工硝子体材料C3を得た。得られた人工硝子体材料中の自己組織化ペプチド濃度、塩溶液の割合および浸透圧を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
[評価]
実施例1〜5および比較例1〜3で得られた人工硝子体材料をインキュベーター(SANYO製、商品名:CO
2インキュベーター)を用いて、37℃まで加温し、以下の評価を行った。
<タンポナーデ効果、物性および透明性>
加温した人工硝子体材料のタンポナーデ効果、物性および透明性を目視により確認し、評価した。タンポナーデ効果については、以下のように評価した。評価結果を表2に示す。
タンポナーデ効果 ◎:高いタンポナーデ効果あり
○:タンポナーデ効果あり
×:タンポナーデ効果なし
<操作性>
加温後の人工硝子体材料を注射器(注射針:26ゲージ)に充填し、射出する際の感触(ハンドリング)により操作性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
実施例1〜5で得られた人工硝子体材料は、タンポナーデ効果を有しており、操作性にも優れていた。また、透明性も高く、人工硝子体材料として好適に用いられ得るものであった。通常、眼球への注射には25ゲージの注射針が用いられる。本発明の人工硝子体材料は、それよりも細い26ゲージの注射針を用いた場合であっても、操作性に優れていた。
【0053】
比較例1および比較例3で得られた人工硝子体材料は、液状であり、十分なタンポナーデ効果が得られるものではなかった。一方、比較例2で得られた人工硝子体材料は、タンポナーデ効果および操作性には優れるものの、透明性に劣るため、人工硝子体材料としての使用には適さないものであった。
【0054】
[試験例]家兎眼球への注入試験
体重2kgの白色家兎21検体に、ケタミン15mg/kgおよびキシラジン10mg/kgを筋肉注射し、深麻酔をかけた。角膜反射消失、および、痛み刺激に対する反応が消失していることを確認した。次いで、片眼の硝子体切除術を行い、切除後、実施例2で得られた人工硝子体材料2を注入し、手術を終了した。手術方法は、ヒト臨床において、広く普及している3ポートシステム(25G)の方法を用いた。手術の1日後、3日後、1週間後、2週間後、3週間後、1ヶ月後および3ヶ月後に人工硝子体材料を注入した眼球を細隙灯顕微鏡および眼底顕微鏡を用いて観察し、網膜電図の測定を行った。各観察日において、家兎3検体から人工硝子体材料を注入した眼球を摘出し、HE染色をし、網膜の状態を観察した。手術1週間後の眼球の前眼部の写真を
図1aに、眼底の写真を
図1bに、HE染色した網膜組織の写真を
図1cにそれぞれ示す。同様に、手術1ヶ月後の眼球の前眼部の写真を
図2aに、眼底の写真を
図2bに、HE染色した網膜組織の写真を
図2cに、手術3ヶ月後の眼球の前底部の写真を
図3aに、眼底の写真を
図3bに、HE染色した網膜組織の写真を
図3cにそれぞれ示す。
【0055】
全観察日において、水晶体および人工硝子体材料のいずれにも濁りはなく、眼底の観察が可能であった。手術1ヶ月後においても、白内障は発生しておらず、網膜組織への毒性は見られなかった。さらに、手術1ヶ月後においても、眼球内に人工硝子体材料は残存しており、良好なタンポナーデ効果が維持されていた。また、人工硝子体材料自体も硬化や、混濁することなく残存していた。手術3ヶ月後においても、白内障は発生しておらず、網膜組織への毒性は見られなかった。さらに、人工硝子体材料の硬化や懸濁も発生しておらず、良好なタンポナーデ効果が維持されていた。このように、本発明の人工硝子体材料は優れた操作性を有しており、かつ、3ヶ月という長期間経過後であっても、眼組織への毒性がなく、眼球内で良好なタンポナーデ効果を維持することができた。
【配列表フリーテキスト】
【0057】
配列番号1は、本発明で用いられる自己組織化ペプチドである。
配列番号2は、本発明で用いられる自己組織化ペプチドである。
配列番号3は、本発明で用いられる自己組織化ペプチドである。
配列番号4は、本発明で用いられる自己組織化ペプチドである。
配列番号5は、本発明で用いられる自己組織化ペプチドである。
配列番号6は、本発明で用いられる自己組織化ペプチドである。
配列番号7は、本発明で用いられる自己組織化ペプチドである。
配列番号8は、本発明で用いられる自己組織化ペプチドである。