特許第5847104号(P5847104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5847104多結晶シリコンの製造方法及び該製造方法に還元剤として用いる水素ガスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847104
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】多結晶シリコンの製造方法及び該製造方法に還元剤として用いる水素ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/03 20060101AFI20151224BHJP
   C01B 33/035 20060101ALI20151224BHJP
   C25B 1/04 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   C01B33/03
   C01B33/035
   C25B1/04
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-32749(P2013-32749)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2013-212974(P2013-212974A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2014年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-47674(P2012-47674)
(32)【優先日】2012年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】田中 康行
(72)【発明者】
【氏名】松田 光弘
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−231005(JP,A)
【文献】 特開2010−150131(JP,A)
【文献】 特開2010−254512(JP,A)
【文献】 特開2009−091650(JP,A)
【文献】 特開2001−313057(JP,A)
【文献】 特開2002−308605(JP,A)
【文献】 特開2004−256328(JP,A)
【文献】 特開2000−080488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
C25B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸金属塩及び/又は金属水酸化物を溶質として含む水溶液を電気分解して水素を発生させる工程;
前記工程で得られた水素ガスを水洗した後、2μm以上の大きさの粒子を100%除去でき、1μmの大きさの粒子を99%以上除去できる性能を有するミストフィルターに通す精製工程;
生成された水素ガスを用いてトリクロロシランを還元して多結晶シリコンを析出する多結晶シリコン析出工程;
を含む多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
前記ミストフィルターに水を供給して該フィルターを湿潤状態に保持しながら、前記水素ガスを該フィルターに通す請求項1に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
前記精製工程において、前記水素ガスを前記ミストフィルターに通した後、該水素ガス中に含まれる水分及び酸素を除去する請求項1又は2に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項4】
前記ミストフィルターとして、ポリオレフィン製のメッシュ或いはフェルトを使用する請求項1〜3の何れかに記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項5】
無機酸金属塩及び/又は金属水酸化物を溶質として含む水溶液を電気分解して水素を発生させる工程;
前記工程で得られた水素ガスを水洗した後、2μm以上の大きさの粒子を100%除去でき、1μmの大きさの粒子を99%以上除去できる性能を有するミストフィルターに通す精製工程;
を含む多結晶シリコン製造用還元剤として用いる水素ガスの製造方法。
【請求項6】
前記ミストフィルターに水を供給して該フィルターを湿潤状態に保持しながら、前記水素ガスを該フィルターに通す請求項に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項7】
前記精製工程において、前記水素ガスを前記ミストフィルターに通した後、該水素ガス中に含まれる水分及び酸素を除去する請求項5又は6に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項8】
前記ミストフィルターとして、ポリオレフィン製のメッシュ或いはフェルトを使用する請求項5〜7の何れかに記載の水素ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリクロロシランを原料として多結晶シリコンを製造する方法及び該方法に還元剤として用いる水素ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の製造に用いられる多結晶シリコンは、高純度であることが要求される。このような高純度の多結晶シリコンの製造方法として、トリクロロシランを還元して多結晶シリコンを析出させる方法が知られている。
【0003】
この方法では、還元剤として水素ガスが使用され、トリクロロシラン(SiHCl)を1000℃以上の高温で還元することにより、主として下記式の反応によって高純度の多結晶シリコンを析出せしめるというものであり、その不純物濃度をppb〜pptレベルまで低減可能であり、また効率の良好な点で広く実用化されている。
【0004】
4SiHCl → Si+3SiCl+2H
SiHCl+H → Si+3HCl
上記のような製造方法において、高純度の多結晶シリコンを得るために、トリクロロシランや還元剤として用いる水素ガスとして高純度のものを使用するが必要である。
【0005】
例えば、トリクロロシランとしては、純度97〜99%程度の金属シリコンを原料とし、これを塩素化した後、多段階の蒸留精製等を経て得られた極めて高純度のものが使用されている(特許文献1,2参照)。
【0006】
一方、水素ガスとしては、炭化水素ガス分解法や深冷水素精製法等により得られるものが高純度であることが知られており、このような方法により得られた水素ガスが還元剤として使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−52110号公報
【特許文献2】特開平1−145302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年における半導体デバイス等に求められる高性能化に伴い、安定して高純度の多結晶シリコン(例えば純度が11N(イレブンナイン)以上のもの)を製造し得る方法が求められているが、従来公知の多結晶シリコンの製造方法では、純度の低いものが得られることがあるという問題があった。
【0009】
本発明者等は、このような多結晶シリコンの純度について検討した結果、還元剤として用いる水素ガスとして、水の電気分解によって製造された水素ガスであって一定の精製処理がなされたものを用いることにより、純度が11N以上の高純度の多結晶シリコンを安定に製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の目的は、例えば純度が11N以上の高純度の多結晶シリコンを安定に製造することが可能な方法及び該方法に還元剤として使用される水素ガスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明によれば、
無機酸金属塩及び/又は金属水酸化物を溶質として含む水溶液を電気分解して水素を発生させる工程;
前記工程で得られた水素ガスを水洗した後、ミストフィルターに通す精製工程;
生成された水素ガスを用いてトリクロロシランを還元して多結晶シリコンを析出する多結晶シリコン析出工程;
を含む多結晶シリコンの製造方法が提供される。
【0012】
本発明によれば、また、上記水素発生工程及び精製工程を含む多結晶シリコン製造用還元剤として用いる水素ガスの製造方法が提供される。
【0013】
上述した本発明の多結晶シリコン製造用還元剤として用いる水素ガスの製造方法においては、
(1)前記ミストフィルターに水を供給して該フィルターを湿潤状態に保持しながら、前記水素ガスを該フィルターに通すこと、
(2)前記精製工程において、前記水素ガスを前記ミストフィルターに通した後、該水素ガス中に含まれる水分及び酸素を除去すること、
(3)前記ミストフィルターは、2μm以上の大きさの粒子を100%除去し、1μmの大きさの粒子を99%以上除去できる性能を有するものであること、
(4)前記ミストフィルターとして、ポリオレフィン製のメッシュ或いはフェルトを使用すること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
従来公知の製造方法では、還元剤として、炭化水素ガス分解法や深冷水素精製法等により得られた水素ガスが使用されていたが、これらは何れも化石資源由来のものである。このため、かかる水素ガスは、極めて僅かではあるがカーボンを不純物として含んでおり、このような水素ガスを還元剤として使用して多結晶シリコンを製造した場合、得られる多結晶シリコン中に次第にカーボンが蓄積されていき、その純度の低下をもたらすこととなる。特に、カーボンは導電性であり、多結晶シリコン中の含有量が微量であったとしても、半導体デバイス等の特性に悪影響を与える。
【0015】
しかるに、本発明では、従来では全く検討もされていなかった水の電気分解により得られる水素ガス(以下、電解法水素ガスと呼ぶことがある)を、一定の精製処理を行った後、還元剤として使用することにより、後述する実施例に示されているように、純度が11N以上(不純物濃度が1ppt以下)の高純度の多結晶シリコンを安定に製造することに成功したのである。
【0016】
即ち、電解法水素ガスには、水の電気分解の際に副生するNaOH等の金属水酸化物が不純物として混入してしまうという問題がある。このような金属水酸化物を含む水素ガスを還元剤として多結晶シリコンを製造すると、反応容器内で該金属水酸化物が核となって微粉が発生したり、析出する多結晶シリコン中に取り込まれてしまい、この結果、得られる多結晶シリコンの純度を大きく低減させてしまう。このため、従来では、電解法水素ガスの還元剤としての使用は全く検討されていなかったのである。
【0017】
しかるに、電解法水素ガスは、化石資源を原料として使用していないため、前述したカーボンを不純物として含むことがない。本発明では、このような電解法水素ガスを、水洗及びミストフィルターを通しての精製を行った後に還元剤として使用することにより、金属成分の混入という問題を有効に回避すると同時に、カーボンを含まないという利点を最大限に活かし、高純度の多結晶シリコンを安定に製造することが可能となったのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】イオン交換膜法による水の電気分解の原理を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、水素ガスを還元剤として使用し、トリクロロシランを還元して目的とする高純度の多結晶シリコンを析出せしめるものである。
<還元剤の製造>
還元剤として使用する水素ガスは、水の電気分解により水素を発生させる工程と、この工程で得られた水素ガスを生成する精製工程を経て得られる。
【0020】
1.水素発生工程;
水の電気分解による水素の発生は、無機酸金属塩及び/又は金属水酸化物を電解質とする電解質水溶液(即ち、無機酸金属塩及び/又は金属水酸化物を溶質として含む水溶液)に電流を通じせしめて水を電気分解することによって行われる。
【0021】
上記の無機酸金属塩としては、水に溶解可能であり且つ水中で電離する化合物であれば特に限定されないが、副成する化合物の有用性が高い点で、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属の塩化水素塩(塩化物)が好ましく、塩化ナトリウム(食塩)が最も好ましい。アルカリ金属塩の場合、スケールの発生等の問題が少ないという利点もある。
【0022】
なおここで、無機酸の金属塩に限定するのは、酢酸塩などの有機酸塩を用いると、水素ガス中に炭素分が混入するおそれが高いためである。またテトラアルキルアンモニウム塩など、有機塩基の塩の場合も同様であるため金属塩を用いるものである。
【0023】
また無機酸金属塩に代えて金属水酸化物も電解質として使用可能である。当該水酸化物も、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0024】
電気分解の方法も特に限定されるものではなく、公知の電気分解の方法を適宜採用できるが、イオン交換膜法による電気分解が好ましい。
【0025】
このイオン交換膜法による水の電気分解においては、その原理を説明するための図1を参照して、陽イオン交換膜を間に挟んで陽極と陰極とが対峙して配置され、陽極を含む陽極室に電解質水溶液(例えば生成されたNaCl水溶液)を供給し、陰極を含む陰極室には純水が供給される。
【0026】
この状態で、陽極と陰極との間に電圧を印加して通電し、これにより水の電気分解が行われて水素が発生する。
【0027】
即ち、NaCl水溶液を例にとって説明すると、陽極室では、下記の電極反応によって塩素ガスが発生する。
【0028】
2NaCl→2Na+2Cl
2Cl→Cl+2e
一方、陰極室には、陽極室で発生したNa+が陽イオン交換膜を通って移行する結果、下記の電極反応によって水素ガスが発生すると同時にNaOHが生成する。
【0029】
2HO+2e→H+2OH
2Na+2OH→2NaOH
即ち、この電気分解の電極反応は、全体として次式で表される。
【0030】
2NaCl+2HO→2NaOH+Cl+H
このように、イオン交換膜法による水の電気分解では、陰極室での酸素の発生を抑え、効率よく水素ガスを生成させて回収することができる。
【0031】
本発明では、上記のようにして行われるイオン交換膜法による電気分解の中でも、所謂ゼロギャップ電解槽を用いた電気分解が好適である。即ち、この方法は、陽極及び陰極の双方がイオン交換膜に密着して設けられた状態で電気分解が行われるというものであり、エネルギー効率が高く、工業的に極めて有利である。
【0032】
2.水素ガスの精製工程;
上記のようにして得られた水素ガスの純度は、一般に、約99%であり、金属不純物(そのほとんどはNaOH等の金属水酸化物である)を含んでいる。このため、本発明では、水洗し、さらにミストフィルターを通すことにより、水素ガスの精製を行い、この金属不純物を取り除くことが必要である。
【0033】
水素ガスを水洗する方法は、特に限定されず、例えば、バブリング方式、充填塔方式、シャワー方式などの公知の方法を採用することができる。
【0034】
バブリング方式は、タンク等に張った水中に水素ガスを吹き込んでバブリングさせることにより水洗を行うというものである。
【0035】
また、充填塔方式は、粗粒の充填物の層を有する充填塔を使用し、この充填塔の上部から水を落下させると同時に、下部から水素ガスを導入し、充填物の層内で水と水素ガスとを向流接触させて、水素ガスを水洗するというものである。この充填物としては、水素ガスを汚染しない材質のものが好ましく、ポリプロピレン製や塩化ビニル製等が好適である。充填物の型式やサイズ、表面積、空隙率は特に指定はなく、一般的にガス・液向流接触式で使用されるものであれば良い。例えば、月島環境エンジニアリング社より商品名「テラレット」として市販されているもので、特に耐熱硬質塩化ビニル樹脂(HTPVC)製の樹脂製充填物などが好適に使用される。
【0036】
さらに、シャワー方式は、シャワー状に噴霧された水の中を水素ガスをくぐらせるというものである。
【0037】
特に、水洗を効果的に行うという点では、バブリング方式や充填塔方式が好ましく、洗浄の効率性および設備設置面積、設備の汎用性などを考慮すると、充填塔方式が最も好適である。
【0038】
また、上記のような水洗は多段で行うこともでき、例えば、充填塔方式で水洗を行った後に、バブリング方式により水洗を行うという2段回で水洗を行うことが、金属不純物をより効果的に除去できるという点で好ましい。即ち、充填塔方式で水洗された水素ガスには、微量ではあるが水のミストを含んでおり、この水のミスト中には金属不純物を含んでいる。このため、充填塔方式による水洗の後に、バブリングにより水洗を行うことが、水のミスト中の金属不純物をも除去できるという点で好ましい。
【0039】
上記のようにして水素ガスの水洗が行われるが、このような水洗では金属不純物の除去に限界があり、例えば11N以上の純度の多結晶シリコンを得るための還元剤としては不十分である。即ち、金属不純物の大部分は除去できるのであるが、本発明者等の研究によると、どうしても微量のNaOH等の金属不純物がミスト状に水素ガス中に残存していることが判っている。
【0040】
このため、本発明では、水洗後の水素ガスをミストフィルターに通し、残存する微量の金属不純物を濾別除去するものである。
【0041】
このようなミストフィルターは、メッシュ或いはフェルト状のものであり、これを通すことにより、微粒子状の不純物を水素ガス中から取り除くことができる。メッシュやフェルトに形成されている孔の大きさ等によって性能が異なるが、本発明では、例えば2μm以上の粒子を100%、1μmの粒子を99%以上除去できるものが好ましく、1μm以上の粒子を100%、0.5μmの粒子を95%以上除去できるものがより好ましく、1μm以上の粒子を100%、0.5μmの粒子を98%以上除去できるものが特に好ましい。
【0042】
また、上記フィルターの材質は、ガスの汚染源となりにくい点で、ポリオレフィン製が好ましく、耐久性や除去効率等も考慮するとポリプロピレン製のフェルトが最も好適である。
【0043】
このようなポリプロピレン製フェルトのミストフィルターは、例えばマツイマシン社よりキャンドルフィルターの名称で市販されている。
【0044】
上述したミストフィルターは、乾燥した状態で使用するよりも、湿潤した状態で使用することで微粒子の濾別除去効率が向上する。
【0045】
従って、本発明では、ハウジングに保持されているミストフィルターの表面に、スプレー方式等により水を常時供給して該ミストフィルターを湿潤状態に保持し、この状態でハウジング内に水素ガスを供給してミストフィルターを通すことが好ましい。
【0046】
上記のようにしてミストフィルターを通した水素ガスは、金属不純物を実質的に含んでおらず、これを還元剤としてトリクロロシランとの反応に供することができる。しかしながら、この水素ガスには、酸素、水蒸気等の気体不純物を含む場合があり、これら気体不純物はトリクロロシランと反応してしまうおそれがある。従って、還元剤としての使用に先立って、このような気体不純物を除去することが好ましい。例えば、酸素濃度は4.0ppm以下、好ましくは1.0ppm以下、より好ましくは0.8ppm以下の濃度に低減させることが望ましく、水蒸気(水分)は露点が−50℃以下、好ましくは−60℃以下、より好ましくは−70℃以下となるまで減少させることが望ましい。
【0047】
酸素及び水分の除去方法は、工業用水素を得る際に知られている公知の方法が採用できる。
【0048】
例えば、水分は、深冷による凝縮分離や乾燥剤(シリカゲル、ゼオライト(モレキュラーシーブス)、活性アルミナなど)を用いての吸着により除去することができる。なお乾燥剤を使用する際には、これら乾燥剤の微粉が水素ガス中に混入しないように留意する必要がある。このため、必要により、水分除去後の水素ガスを微粉除去用フィルターを通すことが望ましい。この微粉除去用フィルターは、乾燥剤などに由来する微粒子を除去できる性能を有するものであり、例えば日本ポール社製の商品名「ウルチポアGFプラス」の樹脂含侵グラスファイバーZH13型などがそれに適している。
【0049】
また、酸素は、パラジウム等の触媒を用い、水素との反応により水へ変換し、この水を上記の方法によって除去することによって取り除くことができる。
【0050】
上述した精製工程を経て得られる水素ガスは、例えばその純度が99.99vol%以上であり、このような高純度の水素ガスを還元剤として以下に述べるトリクロロシランの還元反応に使用することにより、純度が11N以上の多結晶シリコンを得ることが可能となる。
【0051】
3.多結晶シリコン析出工程;
多結晶シリコンの析出は、上記で得られた高純度の水素ガスを使用し、この高純度水素ガスを還元剤として、トリクロロシランを高温下で還元することにより行われる。
【0052】
この反応に用いるトリクロロシランは、公知の方法によって製造される。
【0053】
例えば、純度が98%以上の金属シリコンと塩化水素とを鉄或いはAl含有触媒などを用いて流動層で反応させることにより、下記式により、トリクロロシランを製造することができる。
【0054】
Si+3HCl→SiHCl+H
また、上記の反応では、テトラクロロシランが副生するが、このようなテトラクロロシランを使用し、上記の金属シリコンと共に、銅シリサイド触媒の存在下で水素ガスと流動層で反応させることにより、下記式により、トリクロロシランを製造することもできる。
【0055】
3SiCl+2H+Si→4SiHCl
上記で用いる水素ガスとしては、前述した方法で得られる高純度の水素ガスを用いることもできるし、化石資源から公知の方法で得られる水素ガスを用いることもできる。
【0056】
上記のようにして得られるトリクロロシランは、蒸留により、P、B等の不純物を除去し、例えば純度が99.9%以上の高純度のトリクロロシランとして、水素ガスとの反応に供される。
【0057】
上記の高純度トリクロロシランと高純度水素ガスとの反応(還元反応)は既に述べたとおりであり、1000℃以上の高温で下記式により、トリクロロシランの熱分解と共にトリクロロシランの還元が生じて多結晶シリコンが析出する。
【0058】
4SiHCl → Si+3SiCl+2H
SiHCl+H → Si+3HCl
上記のような反応により多結晶シリコンを製造する方法は、例えばジーメンス法などとして周知であるが、一例としてあげると、次のようにして行われる。
【0059】
即ち、高純度シリコンからなる芯線をベルジャー内に装着し、ヒーターにより加熱するとともに、所定温度以上に加熱された段階で該シリコン芯線に電流を流すことによって発熱させ、該シリコン芯線の表面温度を900℃〜1100℃程度の高温にしておき、高純度トリクロロシランと前記高純度水素ガスをベルジャー内へ所定比で導入する。これにより、芯線上にトリクロロシランが還元された多結晶シリコンが析出し、ロッド状のものとして多結晶シリコンが得られる。
【0060】
かくして本発明によれば、純度が11N以上の高純度の多結晶シリコンを安定に製造することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
尚、以下の例において、得られた金属シリコンの分析、並びに水素ガス及びトリクロロシランの分析は、以下の方法で行った。
金属シリコンの分析;
金属シリコンを、弗硝酸により溶解し、蒸発乾固した後、硝酸溶液にて溶解した分析溶液を調整し、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いて行った。
水素ガスの分析;
水素ガスを熱伝導度検出器式ガスクロマトグラフ(GG−TCD)にて分析した。
トリクロロシランの分析;
液体トリクロロシランを蒸発乾固させた後、硝酸溶液にて溶解した分析溶液を調整し、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いて行った。
【0063】
<実施例1>
水の電気分解;
特開2001−262387号公報に開示されているのと同様のゼロギャップ電解槽を使用し、電流密度40A/dm、電解温度85℃、苛性ソーダ濃度32wt%、塩水濃度195g/lで連続運転を行い水素を発生させた。
【0064】
ミストフィルターによるろ過;
発生した水素ガスを充填物を設置した塔内へ塔下部より導入し、塔上部より水をシャワー状に噴霧させて、充填物部分でガスと水を向流接触させる方法で水洗を実施した。さらに、水を張った槽内をバブリング通過させ、水素ガスを十分に水洗した。
【0065】
上記のようにして水洗された水素ガスをポリプロピレンフェルト製ミストフィルタ(マツイマシン社製”BECOFIL“キャンドルフィルター)を通して水酸化ナトリウム微粒子を除去した。
【0066】
尚、このミストフィルターは、1μm粒子除去率100%、0.5μm粒子除去率98%以上である。
【0067】
脱酸素;
ミストフィルターを通した水素ガスは、酸素除去用のパラジウム触媒を充填した塔内へ導入して脱酸素を行った。
【0068】
尚、反応効率を高めるため、水素ガスを85℃程度に温度上昇させた後に、塔内に導入した。
【0069】
水分除去;
脱酸素した水素を2段階の冷却にて含まれる水分の大半を除去し、最終水分除去としてアルミナおよびモレキュラシーブを充填した吸着塔を通過させて露点−70℃以下とした。
【0070】
上記各工程を経た後の精製水素ガスの純度は99.99%以上であった。
【0071】
ポリシリコン製造(ポリシリコンの析出);
上記で得られた高純度の水素ガスと別途製造された純度が11Nのトリクロロシランとを使用し、ジーメンス法で多結晶シリコンを析出させた。得られた多結晶シリコンは純度99.999999999%(11N)以上であり極めて高純度であった。
【0072】
<比較例1>
ミストフィルターを通さなかった以外は、実施例1と同様の操作で精製水素ガスを得た。この精製水素ガス中のNa濃度は0.5mg/Nmであり、ジーメンス法で純度99.999999999%(11N)以上の多結晶シリコンを得るには適さないと判断した。
図1