(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847207
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】チタンインゴット、チタンインゴットの製造方法及びチタンスパッタリングターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 21/06 20060101AFI20151224BHJP
B22D 27/20 20060101ALI20151224BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20151224BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20151224BHJP
C22B 9/20 20060101ALI20151224BHJP
C22B 9/22 20060101ALI20151224BHJP
C22B 34/12 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
B22D21/06
B22D27/20 Z
C22C14/00 Z
C23C14/34 A
C22B9/20
C22B9/22
C22B34/12 103
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-558701(P2013-558701)
(86)(22)【出願日】2013年2月13日
(86)【国際出願番号】JP2013053307
(87)【国際公開番号】WO2013122069
(87)【国際公開日】20130822
【審査請求日】2013年11月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-29486(P2012-29486)
(32)【優先日】2012年2月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】八木 和人
(72)【発明者】
【氏名】日野 英治
(72)【発明者】
【氏名】新藤 裕一朗
【審査官】
川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−235998(JP,A)
【文献】
特開2003−253411(JP,A)
【文献】
特開平10−008245(JP,A)
【文献】
特開平05−255843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 7/00,21/06
C22C 14/00
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加元素とガス成分を除き純度が99.99質量%以上である高純度チタンインゴットであって、添加成分としてS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素を合計0.1〜100質量ppm含有し、同一インゴット内での上部、中間部、底部でのS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきが、±200%以内であることを特徴とするチタンインゴット。
【請求項2】
同一インゴット内での上部及び底部を除く中間部での非金属元素の面内(径方向)の濃度のばらつきが、±200%以内であることを特徴とする請求項1記載のチタンインゴット。
【請求項3】
異なるインゴット間でのS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきが、±200%以内であることを特徴とする請求項1又は2記載のチタンインゴット。
【請求項4】
前記S、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきが、±100%以内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のチタンインゴット。
【請求項5】
添加元素とガス成分を除き純度が99.99質量%以上である高純度チタンインゴットを製造するに際して、溶解したチタンに、非金属元素であるS、PまたはBを金属間化合物あるいは母合金として添加することを特徴とする非金属元素を0.1〜100質量ppm含有するチタンインゴットの製造方法。
【請求項6】
S、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の添加の際に、断面積が2000〜18000平方mmを有し、厚さ1〜10mmの小片を母合金として添加することを特徴とする請求項5記載のチタンインゴットの製造方法。
【請求項7】
アーク溶解法又はEB溶解法を用い作製した高純度チタンインゴットの製造方法であって、アーク溶解法又はEB溶解法の溶解開始時点において、微量元素の添加量を目標とする組成濃度の3倍まで増量し、溶解終了に近づくにつれて該添加量を目標とする組成濃度の1/3倍にまで低減させることを特徴とする請求項5又は6記載のチタンインゴットの製造方法。
【請求項8】
同一インゴット内での上部、中間部、底部でのS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきを±200%以内とすることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項記載のチタンインゴットの製造方法。
【請求項9】
同一インゴット内での上部及び底部を除く中間部での非金属元素の面内(径方向の)の濃度のばらつきを±200%以内とすることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項記載のチタンインゴットの製造方法。
【請求項10】
異なるインゴット間でのS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきを±200%以内とすることを特徴とする請求項5〜9のいずれか一項に記載のチタンインゴットの製造方法。
【請求項11】
前記S、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきを±100%以内とすることを特徴とする請求項5〜10のいずれか一項記載のチタンインゴットの製造方法。
【請求項12】
請求項5〜11のいずれか一項に記載する製造方法によって製造されたチタンインゴットを機械加工して作製することを特徴とするチタンスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非金属元素を含有する高純度チタンインゴットあるいはターゲットにおいて、インゴット内及び異なるインゴット間あるいはターゲット内、ターゲット間でのばらつきが少なく、均一な組織を有するし、強度の高い高純度チタンインゴット、その製造方法及びチタンスパッタリングターゲットに関する。なお、本明細書中に記載する不純物濃度については、全て質量ppm(massppm)で表示する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体の飛躍的な進歩に端を発して様々な電子機器が生まれ、さらにその性能の向上と新しい機器の開発が日々刻々なされている。
このような中で、電子、デバイス機器がより微小化し、かつ集積度が高まる方向にある。これら多くの製造工程の中で多数の薄膜が形成されるが、チタンもその特異な金属的性質からチタン及びその合金膜、チタンシリサイド膜、あるいは窒化チタン膜などとして、多くの電子機器薄膜の形成に利用されている。
【0003】
一般に上記のチタン及びその合金膜、チタンシリサイド膜、あるいは窒化チタン膜等はスパッタリングや真空蒸着などの物理的蒸着法により形成することができる。特に、高純度チタンは、半導体の配線材料として使用されている。
【0004】
一般に、半導体の配線はスパッタリング法により形成される。このスパッタリング法は陰極に設置したインゴットに、Ar+などの正イオンを物理的に衝突させてインゴットを構成する金属原子をその衝突エネルギーで放出させる手法である。窒化物を形成するにはインゴットとしてチタンまたはその合金を使用し、アルゴンガスと窒素の混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることによって形成することができる。
【0005】
最近では、生産効率を上げるために、高速スパッタリング(ハイパワースパッタリング)の要請があり、この場合、インゴットに亀裂が入ったり、割れたりすることがあり、これが安定したスパッタリングを妨げる要因となる問題がある。したがって、チタン自体が強度を持つことが重要である。チタンターゲット及びチタンターゲットの製造方法の先行技術文献としては、次の特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8を挙げることができる。また、高純度チタンの製造方法としては、特許文献9、特許文献10、特許文献11が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO01/038598号公報
【特許文献2】特表2001−509548号公報
【特許文献3】特開平9−25565号公報
【特許文献4】特開2000−219922号公報
【特許文献5】特開2010−235998号公報
【特許文献6】特開平10−140339号公報
【特許文献7】特許第3621582号公報
【特許文献8】特表2004−518814号公報
【特許文献9】特開平8−225980号公報
【特許文献10】特開平9−25522号公報
【特許文献11】特開2000−204494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高純度チタンにおいて、チタンの強度を向上させると共に、チタンの組織の均一化を図り、特にハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時においても亀裂や割れの発生がなく、スパッタリング特性を安定させることができる、特にチタンターゲットに有用である高品質の高純度チタンインゴットを提供することを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するために必要とされる高純度チタンインゴットは、高純度チタン中に数重量ppm〜数10重量ppm濃度の添加元素を均一に分布させた高純度チタンインゴットである。
【0009】
EB溶解法は高純度金属を効率よく溶解し、インゴットを得る目的には適した溶解法であるが、合金インゴット、特に、微量元素を含有するインゴット作製法としては適していない。その理由として、通常の合金溶解炉は、目標組成の均一な合金を得るための合金保持炉であるか、又は炉の構造の中に溶湯プールを有しているが、EB溶解炉は溶湯プールがインゴット上部のスカル部のみであり、均一な合金組成を得るためには一定組成の原料合金の供給機構が必要となる。
【0010】
また、EB溶解におけるスカル部は、常時金属融体と固体インゴットの境界である凝固界面が存在しているので、その界面において各組成金属の平衡分配係数による組成ズレ、すなわち、偏析が発生するという問題がある。また、EBの強力な加熱効果を伴うので、合金の各組成元素における蒸発速度の違いによる組成ズレが発生するという問題もある。
【0011】
本願発明では、EB溶解の利点である高純度チタンインゴットの作製が可能であるという機能を維持しつつ、EB溶解炉の上記弱点である合金溶解における課題を創意工夫により解決し、微量の添加元素を均一に分布させたEB溶解法による高純度チタンインゴットの作製を可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上から、本発明は、次の発明を提供する。
1)添加元素とガス成分を除き純度が99.99質量%以上である高純度チタンインゴットであって、添加成分としてS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素を合計0.1〜100質量ppm含有し、同一インゴット内での上部、中間部、底部でのS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきが、±200%以内であることを特徴とするチタンインゴット。
2)同一インゴット内での上部及び底部を除く中間部での非金属元素の面内(径方向)の濃度のばらつきが、±200%以内であることを特徴とする上記1)記載のチタンインゴット。
3)異なるインゴット間でのS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきが、±200%以内であることを特徴とする上記1)又は2)記載のチタンインゴット。
4)前記S、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきが、±100%以内であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一記載のチタンインゴット。
【0013】
本発明は、さらに、次の発明を提供する。
5)添加元素とガス成分を除き純度が99.99質量%以上である高純度チタンインゴットを製造するに際して、溶解したチタンに、非金属元素であるS、PまたはBを金属間化合物あるいは母合金として添加することを特徴とする非金属元素を0.1〜100質量ppm含有するチタンインゴットの製造方法。
6)S、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の添加の際に、断面積が2000〜18000平方mmを有し、厚さ1〜10mmの小片を母合金として添加することを特徴とする上記5)記載のチタンインゴットの製造方法。
7)アーク溶解法又はEB溶解法を用い作製した高純度チタンインゴットの製造方法であって、アーク溶解法又はEB溶解法の溶解開始時点において、微量元素の添加量を目標とする組成濃度の3倍まで増量し、溶解終了に近づくにつれて該添加量を目標とする組成濃度の1/3倍にまで低減させることを特徴とする上記5)又は6)記載のチタンインゴットの製造方法。
8)同一インゴット内での上部、中間部、底部でのS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきを±200%以内とすることを特徴とする上記5)〜7)のいずれか一記載のチタンインゴットの製造方法。
9)同一インゴット内での上部及び底部を除く中間部での非金属元素の面内(径方向の)の濃度のばらつきを±200%以内とすることを特徴とする上記5)〜7)のいずれか一記載のチタンインゴットの製造方法。
10)異なるインゴット間でのS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきを±200%以内とすることを特徴とする上記5)〜9)のいずれか一記載のチタンインゴットの製造方法。
11)前記S、P又はBから選択される1種以上の非金属元素の濃度のばらつきを±100%以内とすることを特徴とする上記5)〜10)のいずれか一記載のチタンインゴットの製造方法。
12)上記5)
〜11)のいずれか一記載
する製造方法によって製造されたチタンインゴットを機械加工して作製することを特徴とするチタンスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
高純度チタンインゴットあるいはターゲットは、S、P又はBから選択される1種以上の非金属元素を添加することにより、インゴット内及びインゴット間の非金属元素含有量のばらつきを減少させると共に、均一組織を備えかつ強度を向上させることができるという優れた効果を有する。
なお、本願明細書及び特許請求の範囲で記載する「非金属元素のばらつき」は、上記の通り、全て「非金属元素含有量のばらつき」を意味する。これにより、半導体のチタン配線材料として優れた材料を提供できる。特にハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時においても、亀裂や割れの発生がなく、スパッタリング特性を安定させ、高品質の成膜ができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明の高純度チタンインゴットの作製にはアーク溶解法又はEB溶解法を用いる。この中で、EB溶解はフィーダーにより供給される原料のスポンジチタンを逐次、かつ連続的に超高真空中において電子線(EB)照射を行うことで、溶融したチタンを水冷銅クルーシブルにプールさせ、下側にゆっくりと引き抜きを行うことによりチタンインゴットの作製を行う方法である。
チタンインゴットの製造では、EB溶解法は有効な方法であるが、アーク溶解法も同様な工程でチタンインゴットを製造できる。以下の説明では、代表的にEB溶解法について説明するが、必要に応じてアーク溶解法の説明も行う。
【0016】
インゴット作製速度は、EB溶解装置の規模にもよるが、おおよそ毎分1〜10kgであり、これに対して目標添加元素濃度が数10質量ppmになるように添加剤を加えるとなると毎分数0.01〜1gの添加量となる。
目標濃度が数質量ppmとなると、さらに微量の添加量となる。この程度の量の添加剤は粉末状の形態となっており、フィーダーにより搬送される直接スポンジチタンに連続的に精確な量を添加しようとしても、フィーダー装置の隙間に添加剤が落下したり、粉末が溶湯の上に浮上して、組成が変動するため、微量の添加剤を直接スポンジチタンとともにEB溶解に供することはEB溶解装置の構造上、非常に難しいという問題があった。
【0017】
このため、母合金を作製しそれをEB溶解時にスポンジチタンに添加することにより、微量添加元素を含むチタンインゴット作製を試みた。しかし、作製する母合金内の添加元素濃度は均一であることが保証されなければならない。
【0018】
このようなことから、スカル溶解法による母合金作製を行った。スカル溶解法では、電磁誘導による撹拌効果が働くので、添加元素が溶融状態のチタンに均一に混ざること、そして常時スカルが水冷銅クルーシブルに接触しているので、溶解終了後に速やかに溶融状態のチタンが冷却されるため、添加元素がチタンインゴット内に偏析することなく均一な濃度分布を有するチタンインゴットの作製が可能となる。
また、スカル溶解の利点として、セラミックルツボを用いた通常の溶解法とは異なり、ルツボ構成元素が不純物として混入することがないので、高純度なチタンインゴットを得ることが可能である。
【0019】
次に、スカル溶解により作製した母合金の切断を行った。ここで、切断する母合金片をスポンジチタンと混合しやすいサイズにする必要がある。通常、スポンジチタンは50〜150mm程度のサイズのバラツキを有する不定形状である。
したがって、切断される母合金のサイズとしては、断面積が2000〜18000平方mmを有し、厚さ1〜10mmを有する形状とした。このような形状に切断した母合金の多数の小片は、スポンジチタンと良く混合することを試験により確認した。したがって、上記母合金のサイズを上記の寸法にすることは、双方の混合を良好にし、チタンインゴットの成分組成の均質化を図るための、大きな利点の一つと言える。
【0020】
以上により、EB溶解で得られる高純度チタンインゴットに微量元素を添加する方法の開発にまで至ったが、母相金属に対する溶質元素の平衡分配係数が大きい場合、すなわちチタンに対する微量添加元素の平衡分配係数が大きい場合には、液相または固相チタン中の微量添加元素の濃度が大きく異なるので偏析現象が発生する可能性があった。
【0021】
結果として、チタンインゴットのボトム部分とトップ部分における微量添加元素濃度が均一に分布していないことが判明した。このため、インゴットからスパッタリングターゲットを作製する場合、チタンインゴットから切り出す場所によりチタンターゲットに含有される微量添加元素濃度が異なり、同品質のチタンターゲットの作製が保証されなくなる虞があった。
この問題を解決する方策として、母合金法による微量元素添加方式に、さらに改良を加えた。つまり、添加する微量元素がチタンに対して正偏析する場合には、スポンジチタンと共にEB溶解に供する母合金量を、EB溶解開始時点においては目標とする添加濃度よりも増量し、溶解終了に近づくにつれて添加量を低減させていくようにした。
本願発明の添加成分となるS、P又はBから選択される1種以上の非金属元素は、いずれも正偏析する物質である。
【0022】
この結果、チタンインゴット中において正偏析する微量添加元素の濃度勾配に対して添加量の逆勾配がかかるため、濃度勾配がキャンセルされ、インゴット上下方向での濃度勾配を均一化させることができることが分かった。
具体的には、EB溶解開始時点においては、微量元素の添加濃度を目標とする組成濃度の3倍濃度程度まで増量し、溶解終了に近づくにつれて該添加量を目標とする組成濃度の1/3倍濃度程度まで低減させていくようにした。
これにより、EB溶解法において、インゴット上下方向での濃度勾配を、ほぼ均一化させることが可能となり、偏析の少ないチタンインゴットの作製ができるという、優れた効果が得られた。
【0023】
他方、微量添加元素が母相であるチタンに対して負偏析する場合(チタンに対して負偏析する添加元素は少ない)には、添加濃度を目標とする組成濃度で行えばよい。負偏析の場合は、インゴット上下方向での濃度勾配に関しては、特に問題となることはなかった。
このような添加元素の濃度勾配の調整は、実際にEB溶解で試験的溶解を、数回行い経験的に分布を決定するのが一つの手段として有効であるが、高純度チタンインゴット溶解量及び添加元素の種類、濃度によってその条件が都度変化するので、より効率的かつ低コストな方法として、シミュレーションソフトの活用により微量元素添加を伴う仮想EB溶解を計算し、その結果から最適な添加量の分布を求めることも、効率的かつ実用的である。
【0024】
本発明の、高純度チタンインゴット又は該インゴットから作製したスパッタリングターゲットは、純度が99.99質量%以上の高純度チタンインゴットである。さらに、好ましくは99.995質量%以上である。上記チタンインゴットの純度は、添加成分とガス成分を除くことは言うまでもない。
一般に、ある程度の酸素、窒素、水素等のガス成分は、他の不純物元素に比べて多く混入する。これらのガス成分の混入量は少ない方が望ましいが、通常混入する程度の量は、本願発明の目的を達成するためには、特に有害とならない。
【0025】
なお、本願明細書で記載するインゴットは、鋳造インゴット、該インゴットを鍛造したインゴットを含むものである。また、インゴットの形状によりビレットと称する場合もあるが、これらの形状を含むものである。以下の説明においては、主としてインゴットを用いて説明するが、上記の通りスパッタリングターゲットを含むものである。
スパッタリングターゲットの場合は、インゴットを切り出して、そのまま使用するか又は圧延してターゲットにする場合がある。両者は、同じ材料なので、特別な製造工程を付加しない限り、成分組成、組織は同一のものとなる。
【0026】
本願発明において、添加成分として、S、P又はBから選択される1種以上の非金属元素を合計0.1〜10質量ppm含有するのが大きな特徴の一つである。そして、この非金属元素を含有することにより、同一インゴット内での上部、中間部、底部での非金属元素のばらつきが、±200%以内を達成したチタンインゴットを得ることができる。
【0027】
また、同一インゴット内での中間部での非金属元素の面内(径方向の)ばらつきが、±200%以内であるチタンインゴット、さらに異なるインゴット間での非金属元素のばらつきが、±200%以内であるチタンインゴットを提供することができる。
これらのチタンインゴットは、前記非金属元素のばらつきを±100%以内にまで達成できる。
【0028】
添加元素とガス成分を除き純度が99.99質量%以上である高純度チタンインゴットを製造するに際しては、溶解したチタンに、非金属元素であるS、P又はBを金属間化合物として添加する、あるいは一旦100〜10000ppmの母合金を製造することにより、非金属元素を0.1〜100質量ppm含有する99.99質量%以上である高純度チタンインゴットを製造することができる。
【0029】
溶解したチタンにS、Pを添加するだけでは、溶解工程でS、Pが揮発し、インゴットにSを残留させることはできない。金属間化合物として添加することにより、初めてS、Pを含有させることができる。金属間化合物として、MgS、CaS、ZnS、CdS、PbS、HgS、TiS
2等を用いても良い。Pも同様である。なお、この溶解時には、金属間化合物の内、S、PはTiと結びつきTiインゴットに含有されるが、Mg等は揮発する。
【0030】
一方、Bはあまり揮発しないが単体で入れると、融点がTiの1668℃と比較して約2030℃と非常に高く未溶解で残る。また、温度を高くすると、その温度以上は昇華してしまうので、チタン中に含有できない。そのため、TiB
2あるいはBが100〜10000ppm含有されている母合金の形で添加すると良い。
また、インゴット内、あるいはインゴット間のバラツキを押さえるために、一旦母合金を製造して添加すると、さらにばらつきを抑えることができる。
【0031】
また、後述する実施例に示すように、インゴットの強度が高く、かつ熱影響を受けても高い強度を有する。これによって、インゴットの亀裂や割れの発生を抑制できる大きな効果を得ることができる。同様に、S,PまたはBが均一に含有されているターゲットを製造できる。
【0032】
前述したように、S,P又はBを均一にできるのは、金属間化合物として添加し、ひいては母合金とすることにより、溶解時にS,Pは蒸発することなく、Bは未溶解あるいは揮発することなくインゴット内に含有されるからである。
【0033】
インゴットの強度が高く、かつ熱影響を受けても高い強度を示すということは、インゴットの亀裂や割れの発生を抑制できる効果を有する。しかも、この現象は、スパッタリング開始前のインゴットだけでなく、ターゲットのスパッタリング時に700°Cという高温の熱影響を受けても、ターゲットの亀裂や割れの発生を抑制できる効果を有する。また、安定したスパッタリング特性を得ることができ、成膜の均一性に効果がある。
【0034】
さらに、ターゲットの強度が高く、かつ熱影響を受けても高い強度を示すため、スパッタリング時の反り又はスパッタリングパワーのON/OFFによる熱応力、熱疲労に対して、ターゲット表面にかかる歪を小さくすることができ、ターゲットの割れを効果的に防止できる効果を有する。
【0035】
以上の効果は、チタンインゴット自体が高純度であり、かついずれも添加成分として、S、P又はBから選択される1種以上の非金属元素を合計0.1〜100質量ppm含有することにより、達成できるものであり、これらの数値範囲は、本願発明の有効性を実現できる範囲を示すものである。
下限値未満では本願発明の目的を達成できず、また上限値を超えるものは高純度インゴットとしての純度保障ができないため、上記の範囲とする。
【0036】
高純度チタンを製造するには、既に知られたクロール法あるいは溶融塩電解法を使用できる。このようにして得たチタンと上記S、P又はBから選択される1種以上の非金属元素を所定量混合してアーク溶解あるいはEB(電子ビーム)溶解し、これを冷却凝固させてインゴットを作製し、800〜950°Cで熱間鍛造又は熱間押出し等の熱間塑性加工を施してビレットを作製する。これらの加工により、インゴットの不均一かつ粗大化した鋳造組織を破壊し均一微細化することができる。
【0037】
このようにして得たビレットに対して、冷間鍛造又は冷間押出し等の冷間塑性変形を繰返し実行し、高歪をビレットに付与することにより、インゴットの結晶組織を30μm以下の均一微細組織にする。
次に、このビレットを切断し、インゴット体積に相当するプリフォームを作製する。このプリフォームにさらに冷間鍛造又は冷間押出し等の冷間塑性加工を行って高歪を付与しかつ円板形状等のターゲットに加工する。
【0038】
これらの製造工程は、本願発明の高純度チタンインゴット及びターゲットを得るための方法の一例を示すものであって、溶解したチタンに、非金属元素であるS、P又はBを金属間化合物として添加することにより、添加成分とガス成分を除き、インゴットの純度が99.99質量%以上である高純度チタンインゴットあるいはターゲットを得ることができるものであれば、上記製造工程に特に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで1例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲に含まれる実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【0040】
(実施例1)
4N5Ti中にSを添加する方法として、ZnSの金属間化合物を用いた。S添加量は1ppmとし、これを4N5Tiスポンジに均一にまぜて溶解した。溶解方法はアーク溶解とした。その結果、インゴット内のばらつきは、TOP:1.7ppm、中間:1ppm、BTM:0.5ppmとなり、±100%以内であった。前記ZnSの金属間化合物の添加物は、断面積が2000〜18000平方mmを有し、厚さ1〜10mmを有する形状とした。また、アーク溶解に際しては、溶解開始時点において、微量元素の添加濃度を目標とする組成濃度の3倍濃度まで増量し、溶解終了に近づくにつれて該添加量を目標とする組成濃度の1/3倍濃度にまで低減させた。そして、溶融したチタンを水冷銅クルーシブルにプールさせ、下側にゆっくりと引き抜きを行うことにより、チタンインゴットを作製した。
【0041】
中間の位置でのSの面内ばらつきは、端で0.6ppm、1/2R:1.0ppm、センターで1.2ppmであった。インゴット間も、平均値で1Lot目:0.7ppm、 5Lot目:1.0ppm、10Lot目:0.8ppmと±100%以内に収まった。
これより製造したターゲットも、ほとんどばらつきなく0.8〜1.0ppmとなっていた。ターゲット間も0.7〜1.0ppmと非常に均一であった。なお、EB溶解法でも同様の結果が得られた。
【0042】
(実施例2)
4N5Ti中にSを添加する方法として、200ppmのSを含有する母合金を用いて、S添加量として0.2ppmとなるように配合した。これを4N5Tiスポンジに均一にまぜて溶解した。溶解方法はEB溶解を用いた。
前記母合金は、断面積が2000〜18000平方mmを有し、厚さ1〜10mmを有する形状とした。また、EB溶解に際しては、溶解開始時点において、微量元素の添加濃度を目標とする組成濃度の3倍濃度まで増量し、溶解終了に近づくにつれて該添加量を目標とする組成濃度の1/3倍濃度にまで低減させた。
そして、溶融したチタンを水冷銅クルーシブルにプールさせ、下側にゆっくりと引き抜きを行うことにより、チタンインゴットを作製した。
【0043】
その結果、インゴット内のばらつきは、TOP:0.2ppm、中間:0.1ppm、BTM:0.1ppmとなり、±100%以内であった。中間の位置でのSの面内ばらつきは、端で0.12ppm、1/2R:0.1ppm、センターで0:25ppmであった。インゴット間も、平均値で1Lot目:0.16ppm、 5Lot目:0.20ppm、10Lot目:0.19ppmと±100%以内に収まった。なお、アーク溶解法でも、同様の結果が得られた。
【0044】
(実施例3)
4N5Ti中にSを添加する方法として、10000ppmのSを含有する母合金を用いて、S添加量として90ppmとなるように配合した。これを4N5Tiスポンジに均一にまぜて溶解した。溶解方法はアーク溶解を用いた。
前記ZnSの
母合金の添加物は、断面積が2000〜18000平方mmを有し、厚さ1〜10mmを有する形状とした。また、アーク溶解に際しては、溶解開始時点において、微量元素の添加濃度を目標とする組成濃度の3倍濃度まで増量し、溶解終了に近づくにつれて該添加量を目標とする組成濃度の1/3倍濃度にまで低減させた。そして、溶融したチタンを水冷銅クルーシブルにプールさせ、下側にゆっくりと引き抜きを行うことにより、チタンインゴットを作製した。
【0045】
その結果、インゴット内のばらつきは、TOP:120ppm、中間:90ppm、BTM:80ppmとなり、±100%であった。中間の位置でのSの面内ばらつきは、端で110ppm、1/2R:80ppm,センターで90ppmであった。インゴット間も、平均値で1Lot 目:85ppm、 5Lot目:80ppm、10Lot目:90ppmと、±100%以内に収まった。なお、EB溶解法でも同様の結果が得られた。
【0046】
(比較例1)
S単体で添加すると、ほとんど揮発しインゴットに含有することはできなった。インゴット中のS含有量は、0.01ppm以下であった。
【0047】
(比較例2)
P単体で添加すると、ほとんど揮発しインゴットに含有することはできなった。インゴット中のP含有量は、0.01ppm以下であった。
【0048】
(比較例3)
B単体で1ppm添加すると、揮発しなかったがインゴット内のばらつきが非常に大きくなった。溶解方法はEB溶解を用いた(アーク溶解法でも同等であった)。その結果、インゴット内のばらつきは、TOP:0.2〜10ppm、中間:0.1〜3ppm、BTM:<0.1〜2ppmとなり、±100%の範囲外であった。
【0049】
中間の位置でのBの面内ばらつきは、端で3ppm,1/2R:0.1ppm、センターで2.5ppmであった。インゴット間も、平均値で表すことができなく、一部未溶解もあり、その後の工程も割れが多くビレットやターゲットに加工できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
ハイパワースパッタリング(高速スパッタリング)時においても亀裂や割れの発生がなく、スパッタリング特性を安定させることのできる高品質の高純度チタンインゴットを提供することができるので、電子機器等の薄膜の形成に有用である。