【実施例】
【0030】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内で、実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。なお、実施例の効果を確認するために、比較例も同様に下記に示す。
【0031】
(実施例1)
純度3Nレベルの原料銀を硝酸で浸出し、Ag濃度:60g/Lの浸出液を電解液とした。
陽極には原料銀を鋳込み板形状のものを、陰極にはチタン製の板を用い、電解温度30°C、電流密度5A/dm
2という条件で電解を行った。
陰極に電着する銀の厚さが2mm程度になると一旦電解を停止し、陰極を電解槽から引き上げて陰極から電着銀を剥がして回収した。回収後は陰極を電解槽に戻し、電解を再開し、これを繰り返した。回収した電着銀を洗浄・乾燥し、1000°Cで溶解・鋳造し、銀インゴットとした。
【0032】
この銀インゴットを圧延し、約1.5mmの厚さとし、310mm×310mmに切り出した。この表面積は961cm
2である。これをα線測定試料とした。
この試料中のPb含有量0.05ppm、U含有量<1ppb、Th含有量<1ppbとなった。
【0033】
α線測定装置はOrdela社製のGas Flow Proportional Counterモデル8600A−LBを用いた。使用ガスは90%アルゴン−10%メタン、測定時間はバックグラウンド及び試料とも104時間で、最初の4時間は測定室パージに必要な時間として5時間後から104時間後までのデータをα線量算出に用いた。
【0034】
上記試料について、溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後及び鉛の同位体
206Pbへの壊変によるα線を発生させるポロニウムの同位体
210Poがない状態において、
210Pb→
210Bi→
210Po→
206Pbの崩壊チェーンが平衡状態になる27ヶ月を過ぎた30ヵ月後にα線量を測定した結果、α線量は最大でも0.0002cph/cm
2であり、本願発明の条件を満たしていた。鉛中の同位体
210Pbの低減化は、α線量を測定することにより、確認することができる。
【0035】
また、同一試料について、1ヶ月後と6ヶ月後の5ヶ月間の、経時変化を見た場合、測定試料のα線量の双方の差は0.0001cph/cm
2であり、本願発明の条件を満たしていた。上記の通り、この測定したα線量は、α線測定装置から出るα線を除去した実質のα線量である。以下の実施例においても同様である。
【0036】
(実施例2)
純度3Nレベルの原料銀を硝酸で浸出し、Ag濃度:60g/Lの浸出液を電解液とした。陽極には原料銀を鋳込み板形状のものを、陰極にはチタン製の板を用い、電解温度30°C、電流密度1A/dm
2という条件で電解を行った。陰極に電着する銀の厚さが2mm程度になると一旦電解を停止し、陰極を電解槽から引き上げて陰極から電着銀を剥がして回収した。回収後は陰極を電解槽に戻し、電解を再開し、これを繰り返した。回収した電着銀を洗浄・乾燥し、1000°Cで溶解・鋳造し、銀インゴットとした。
【0037】
この銀インゴットを圧延し、約1.5mmの厚さとし、310mm×310mmに切り出した。この表面積は961cm
2である。これをα線測定試料とした。
この試料中のPb含有量0.05ppm、U含有量<1ppb、Th含有量<1ppbとなった。鉛中の同位体
210Pbの低減化は、α線量を測定することにより、確認することができる。
【0038】
上記試料について、溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後及び鉛の同位体
206Pbへの壊変によるα線を発生させるポロニウムの同位体
210Poがない状態において、
210Pb→
210Bi→
210Po→
206Pbの崩壊チェーンが平衡状態になる27ヶ月を過ぎた30ヵ月後にα線量を測定した結果、α線量は最大でも0.0002cph/cm
2であり、本願発明の条件を満たしていた。
【0039】
また、同一試料について、1ヶ月後と6ヶ月後の5ヶ月間の、経時変化を見た場合、測定試料のα線量の双方の差は0.0001cph/cm
2であり、本願発明の条件を満たしていた。
【0040】
(実施例3)
(0.5%Cu−3%Ag−残部Snからなる合金)
実施例1で作製した銀を準備した。また、市販の錫及び銅を電解により高純度化し、5N−Sn及び6N−Cuとした。添加元素である銀と銅を錫に添加し、260°Cで溶解・鋳造し、0.5%Cu−3%Ag−残部SnからなるSn−Cu−Ag合金インゴットを製造した。
【0041】
このインゴットを圧延し、約1.5mmの厚さとし、310mm×310mmに切り出した。この表面積は961cm
2である。これをα線測定試料とした。
この試料中のPb含有量0.05ppm、U含有量<1ppb、Th含有量<1ppbとなった。
【0042】
上記試料について、溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後及び鉛の同位体
206Pbへの壊変によるα線を発生させるポロニウムの同位体
210Poがない状態において、
210Pb→
210Bi→
210Po→
206Pbの崩壊チェーンが平衡状態になる27ヶ月を過ぎた30ヵ月後にα線量を測定した結果、α線量は最大でも0.0002cph/cm
2であり、本願発明の条件を満たしていた。また、同一試料について、1ヶ月後と6ヶ月後の5ヶ月間の、経時変化を見た場合、α線量の差は0.0001cph/cm
2となり、本願発明の条件を満たしていた。このように、鉛中の同位体
210Pbの低減化は、α線量を測定することにより、確認することができる。
【0043】
(実施例4)
(3.5%Ag−残部Snからなる合金)
実施例1で作製した銀を準備した。また、市販のSnを電解により高純度化し、5N−Snとした。添加元素である銀を錫に添加し、260°Cで溶解・鋳造し、3.5%Ag−残部SnからなるSn−Ag合金インゴットを製造した。
【0044】
このインゴットを圧延し、約1.5mmの厚さとし、310mm×310mmに切り出した。この表面積は961cm
2である。これをα線測定試料とした。
この試料中のPb含有量0.05ppm、U含有量<1ppb、Th含有量<1ppbとなった。
【0045】
上記試料について、溶解・鋳造から1週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後及び鉛の同位体
206Pbへの壊変によるα線を発生させるポロニウムの同位体
210Poがない状態において、
210Pb→
210Bi→
210Po→
206Pbの崩壊チェーンが平衡状態になる27ヶ月を過ぎた30ヵ月後にα線量を測定した結果、α線量は最大でも0.0002cph/cm
2であり、本願発明の条件を満たしていた。また、同一試料について、1ヶ月後と6ヶ月後の5ヶ月間の、経時変化を見た場合、α線量の差は0.0001cph/cm
2であり、本願発明の条件を満たしていた。このように、鉛中の同位体
210Pbの低減化は、α線量を測定することにより、確認することができる。
【0046】
(比較例1)
(0.5%Cu−3%Ag−残部Snからなる合金)
市販の銀(3Nレベル)を準備した。また、市販の錫及び銅を電解により高純度化し、5N−Sn及び6N−Cuとした。添加元素である銀と銅を錫に添加し、260°Cで溶解・鋳造し、0.5%Cu−3%Ag−残部SnからなるSn−Cu−Ag合金インゴットを製造した。この試料中のPb含有量6.9ppm、U含有量10ppb、Th含有量10ppbとなった。合金中のPbの含有は、主としてAg中に含有される不純物由来のものであった。
【0047】
上記試料について、溶解・鋳造から3週間後のα線量はバックグラウンドと同レベルであったが、溶解・鋳造から6ヵ月後は明らかに増加しており、本試料のα線量(バックグラウンドα線量との差)が0.1cph/cm
2となり、本願発明の条件を満たしていなかった。
また、同一試料について、1ヶ月後と6ヶ月後の5ヶ月間の、経時変化を見た場合、α線量の差は0.004cph/cm
2であり、これも本願発明の条件を満たしていなかった。
【0048】
これは溶解・鋳造工程でPoが昇華したため一時的にα線量が低くなったものの、Pbを多く含有し、結果として
210Pbも多く含有しているために再び崩壊チェーン(
210Pb→
210Bi→
210Po→
206Pb)が構築されてα線量が増加したためと考えられる。
【0049】
(比較例2)
(3.5%Ag−残部Snからなる合金)
市販の銀(3Nレベル)を準備した。また、市販のSnを電解により高純度化し、5N−Snとした。添加元素である銀を錫に添加し、260°Cで溶解・鋳造し、3.5%Ag−残部SnからなるSn−Ag合金インゴットを製造した。
この試料中のPb含有量5.3ppm、U含有量7ppb、Th含有量6ppbとなった。合金中のPbの含有は、主としてAg中に含有される不純物由来のものであった。
【0050】
上記試料について、溶解・鋳造から3週間後のα線量はバックグラウンドと同レベルであったが、溶解・鋳造から6ヵ月後は明らかに増加しており、本試料のα線量(バックグラウンドα線量との差)が0.03cph/cm
2となり、本願発明の条件を満たしていなかった。
また、同一試料について、1ヶ月後と6ヶ月後の5ヶ月間の、経時変化を見た場合、α線量の差は0.002cph/cm
2であり、これも本願発明の条件を満たしていなかった。
【0051】
これは、溶解・鋳造工程でPoが昇華したため一時的にα線量が低くなったものの、Pbを多く含有し、結果として
210Pbも多く含有しているために再び崩壊チェーン(
210Pb→
210Bi→
210Po→
206Pb)が構築されてα線量が増加したためと考えられる。