特許第5847308号(P5847308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5847308酸化亜鉛系焼結体、該焼結体からなる酸化亜鉛系スパッタリングターゲット及び該ターゲットをスパッタリングして得られた酸化亜鉛系薄膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847308
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】酸化亜鉛系焼結体、該焼結体からなる酸化亜鉛系スパッタリングターゲット及び該ターゲットをスパッタリングして得られた酸化亜鉛系薄膜
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/453 20060101AFI20151224BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20151224BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   C04B35/00 P
   C23C14/34 A
   C23C14/08 C
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-519327(P2014-519327)
(86)(22)【出願日】2013年9月2日
(86)【国際出願番号】JP2013073482
(87)【国際公開番号】WO2014054361
(87)【国際公開日】20140410
【審査請求日】2014年5月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-220320(P2012-220320)
(32)【優先日】2012年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】高見 英生
(72)【発明者】
【氏名】奈良 淳史
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/023482(WO,A1)
【文献】 特開2009−173962(JP,A)
【文献】 特開2009−263709(JP,A)
【文献】 特開2009−167515(JP,A)
【文献】 特開2009−295545(JP,A)
【文献】 特開2000−340033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/22
C04B 35/453
C23C 14/00−14/58
C22C 1/05
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、酸化亜鉛に対してn型ドーパントとなるガリウム(Ga)又はアルミニウム(Al)又はホウ素(B)を含有し、n型ドーパントがガリウム(Ga)の場合は、亜鉛とGaと酸素の原子数の合計に対するGa濃度が1〜7原子%であり、n型ドーパントがアルミニウム(Al)の場合は、亜鉛とAlと酸素の原子数の合計に対するAl濃度が0.5〜3.5原子%であり、n型ドーパントがホウ素(B)の場合は、亜鉛とBと酸素の原子数の合計に対するB濃度が0.5〜5.5原子%であると共に、カーボンを10〜300wtppm含有し、かつ、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、金(Au)から選択した金属元素Mの1種以上を含有し、金属Mは少なくとも一部或いは全て金属として焼結体中に残留し、酸化亜鉛系焼結体を構成する亜鉛とn型ドーパントと全金属元素に対する金属Mの濃度を0.05〜25.0原子%に調整した酸化亜鉛系焼結体。
【請求項2】
金属Mの平均粒子径が1〜10μmであることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系焼結体。
【請求項3】
前記請求項1又は2のいずれか一項に記載の酸化亜鉛系焼結体からなるスパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項3記載の酸化亜鉛系焼結体からなるスパッタリングターゲットをスパッタリングして得られた薄膜。
【請求項5】
膜の熱浸透率が1600(J/sec0.5K)以上であることを特徴とする請求項4記載の薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化亜鉛を主成分とする酸化亜鉛系焼結体、該焼結体からなる酸化亜鉛系スパッタリングターゲット及び該ターゲットをスパッタリングして得られた酸化亜鉛系薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ヘッドを必要とせずに書き換え可能な高密度光情報記録媒体である高密度記録光ディスク技術が開発され、急速に商品化されている。特に、CD−RWは、書き換え可能なCDとして1977年に登場し、現在、最も普及している相変化光ディスクである。このCD−RWの書き換え回数は1000回程度である。
また、DVD用としてDVD−RWが開発され商品化されているが、このディスクの層構造は基本的にCD−RWと同一又は類似するものである。この書き換え回数は1000〜10000回程度である。
これらは、光ビームを照射することにより、記録材料の透過率、反射率などの光学的な変化を生じさせて、情報の記録、再生、追記を行うものであり、急速に普及した電子部品である。
【0003】
一般に、CD−RW又はDVD−RW等に使用される相変化光ディスクは、Ag−In−Sb−Te系又はGe−Sb−Te系等の記録薄膜層の両側を、ZnS・SiO等の高融点誘電体の保護層で挟み、さらに銀若しくは銀合金又はアルミニウム合金反射膜を設けた四層構造となっている。また、繰返し回数を高めるために、必要に応じてメモリ層と保護層の間に界面層を加えることなどが行われている。
反射層と保護層は、記録層のアモルファス部と結晶部との反射率の差を増大させる光学的機能が要求されるほか、記録薄膜の耐湿性や熱による変形の防止機能、さらには記録の際の熱的条件制御という機能が要求される(非特許文献1参照)。
【0004】
最近では、大容量、高密度の記録を可能とするために、片面2層光記録媒体が提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1では、レーザー光の入射方向から、基板1上に形成された第一情報層と基板2上に形成された第二情報層があり、これらが中間層を介して互いに情報層が対向するように張り合わされている。
この場合、第一情報層は記録層と第1金属反射層からなり、第二情報層は第1保護層、
第2保護層、記録層、第2金属反射層から構成されている。この他に、傷、汚れ等から保護するハードコート層、熱拡散層等の層を任意に形成しても良いとされている。また、これらの保護層、記録層、反射層などに、多様な材料が提案されている。
【0005】
高融点誘電体からなる保護層は、昇温と冷却による熱の繰返しストレスに対して耐性をもち、さらにこれらの熱影響が反射膜や他の箇所に影響を及ぼさないようにし、かつそれ自体も薄く、低反射率でかつ変質しない強靭さが必要である。この意味において、誘電体保護層は重要な役割を有する。また、当然ではあるが、記録層、反射層、干渉膜層なども、上記に述べたCD、DVD、Blu−ray(登録商標)等の光記録媒体において、それぞれの機能を発揮する意味で、同様に重要であることは論を俟たない。
【0006】
これらの多層構造の各薄膜は、通常スパッタリング法によって形成されている。このスパッタリング法は正の電極と負の電極とからなる基板とターゲットを対向させ、不活性ガス雰囲気下でこれらの基板とターゲットの間に高電圧を印加して電場を発生させるものであり、この時電離した電子と不活性ガスが衝突してプラズマが形成され、このプラズマ中の陽イオンがターゲット(負の電極)表面に衝突してターゲット構成原子を叩きだし、この飛び出した原子が対向する基板表面に付着して膜が形成されるという原理を用いたものである。
【0007】
従来、上記保護層は可視光域での透過性や耐熱性等を要求されるため、ZnS−SiO 等のセラミックスターゲットを用いてスパッタリングし、500〜2000Å程度の薄膜が形成されている。これらの材料は、高周波スパッタリング(RF)装置、マグネトロンスパッタリング装置を使用して成膜される。
しかし、ZnS−SiOは、絶縁性の材料であるため高価なRF電源を必要とし、尚且つZnS−SiO膜は、硫化物を含むため隣接する金属層(特にAg合金反射層)を腐食する問題があり、更に熱伝導率が低いため高速記録に適さないという問題があった。
【0008】
発明者らは、酸化亜鉛をベースとするホモロガス化合物を利用したスパッタリングターゲット(特許文献2参照)や、酸化錫をベースとしたスパッタリングターゲット(特許文献3参照)を開発したが、これらは硫化物を含まずにZnS−SiOと同等の特性を有するものの、熱伝導率が高いものは得られていない。また、酸化亜鉛をベースとする焼結体は、製造過程或いはスパッタ中に割れ易いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−79710号公報
【特許文献2】特開2009−062618号公報
【特許文献3】特開2005−154820号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】技術雑誌「光学」26巻1号、頁9〜15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
導電性を保有し、且つ熱浸透率が高い酸化亜鉛系薄膜、同薄膜の製造に適した酸化亜鉛系焼結体、該焼結体からなる酸化亜鉛系スパッタリングターゲットを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行い、その結果、酸化亜鉛をベースとした材料に金属を選択して酸化亜鉛へ添加することで、加熱成膜で結晶性を向上させずとも高い熱浸透率を持つ酸化物薄膜を得ることができ、尚且つ製造過程或いはスパッタ中に割れ難い焼結体を得るとの知見を得た。
【0013】
熱伝導はフォノン及び伝導電子が担うが、アルミナ等の絶縁性が高い材料は伝導電子がほとんど存在しないためフォノンのみが寄与する。また通常の常温によるスパッタリング成膜で得られる膜は結晶性が悪いため、フォノンを介した伝導も低くなるのが一般的である。
【0014】
このような状況の中、本発明者らは常温のスパッタでも結晶化し易い酸化亜鉛系の薄膜に注目し、更にドーパントを添加することで、伝導電子を増加し、更に熱伝導率の高い金属を添加して熱浸透率(熱伝導率)を高くする方法を考えた。そのため、熱伝導率が80W/mK以上の金属で且つ、酸化亜鉛の焼結温度(約1000℃)より融点が高い金属が望ましい。さらに、平均粒径範囲が0.5〜50μmに調整された粉末を添加することで、添加金属の一部或いは全てを焼結体中に均一に金属として分散残留させることが出来、また微量のカーボン粉末を添加することで、添加金属表面の酸化層を還元除去し、また酸化亜鉛も若干還元される効果により焼結体のバルク抵抗率が低くなり、割れにくい焼結体となることが判った。
なお、添加金属Mの残留確認は、EPMAの簡易定量分析で行う。通常は、焼結体中の金属Mの粒子の中心付近で95質量%以上の金属Mの存在と酸素量が3質量%以下の範囲にあるか否かで判断する。
【0015】
本願は上記の知見に基づき、下記の発明を提供する。
1)酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、酸化亜鉛に対してn型ドーパントとなるガリウム(Ga)又はアルミニウム(Al)又はボロン(B)を含有すると共に、カーボンを10〜300wtppm含有し、かつ、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、金(Au)から選択した金属元素Mの1種以上を含有し、金属Mは少なくとも一部或いは全て金属として焼結体中に残留し、酸化亜鉛系焼結体を構成する亜鉛とn型ドーパントと全金属元素に対する金属Mの濃度を0.05〜25.0原子%に調整した酸化亜鉛系焼結体。
【0016】
2)n型ドーパントがガリウム(Ga)の場合は、亜鉛とGaと酸素の原子数の合計に対するGa濃度が1〜7原子%であることを特徴とする上記1)記載の酸化亜鉛系焼結体。
3)n型ドーパントがアルミニウム(Al)の場合は、亜鉛とAlと酸素の原子数の合計に対するAl濃度が0.5〜3.5原子%であることを特徴とする上記1)記載の酸化亜鉛系焼結体。
4)n型ドーパントがボロン(B)の場合は、亜鉛とBと酸素の原子数の合計に対するB濃度が0.5〜5.5原子%であることを特徴とする上記1)記載の酸化亜鉛系焼結体。
【0017】
5)金属Mの平均粒子径を1〜10μmの範囲に調節することを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一項に記載の酸化亜鉛系焼結体。
6)上記1)〜5)のいずれか一項に記載の酸化亜鉛系焼結体からなるスパッタリングターゲット。
7)上記6)記載の酸化亜鉛系焼結体からなるスパッタリングターゲットをスパッタリングして得られた薄膜。
8)膜の熱浸透率が1600(J/sec0.5K)以上であることを特徴とする上記7)記載の薄膜。
【発明の効果】
【0018】
本発明はn型ドーパントを添加した酸化亜鉛系薄膜に対して、熱伝導率が80W/mK以上で、且つ酸化亜鉛の焼結温度(約1000°C)より融点が高い金属を適切濃度添加することで、酸化亜鉛系薄膜の熱浸透率を飛躍的に高めるという効果を有し、透明或いは半透明の酸化物で高熱浸透率を可能にするものである。
これによって、従来の酸化亜鉛系を含む材料系では実現できなかった高熱浸透率を有する薄膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
酸化亜鉛(ZnO)を主成分とする焼結体であって、酸化亜鉛に対してn型ドーパントとなる元素を含有すると共に、カーボンを焼結体総量に対して10〜300wtppm含有し、熱伝導率が80W/mK以上で、酸化亜鉛の焼結温度(約1000°C)より融点が高い金属Mを含有し、酸化亜鉛系薄膜を構成する亜鉛とn型ドーパントと全金属元素に対する金属Mの濃度が0.05〜25.0原子%である酸化亜鉛系薄膜形成用スパッタリングターゲットを提供する。
【0020】
上記ターゲットのn型ドーパントとして、ガリウム(Ga)を使用することができ、亜鉛とGaと酸素の原子数の合計に対する濃度が1〜7原子%とするのが好適である。また、n型ドーパントとしてアルミニウム(Al)やボロン(B)を使用することができる。
この場合、亜鉛とAlと酸素の原子数の合計に対する濃度が0.5〜3.5原子%、亜鉛とBと酸素の原子数の合計に対するB濃度が0.5〜5.5原子%とする。金属Mとしては、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)又は銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、金(Au)が好適であり、これらから選択した元素の1種以上を用いることができる。
酸化亜鉛系薄膜の形成に際しては、酸化亜鉛系薄膜の組成と同一組成の一体型スパッタリングターゲットを形成し、これをスパッタリングすることにより、ターゲットの成分が得られる膜に反映され、ほぼ同一の成分組成の酸化亜鉛系薄膜を形成することが可能である。
【0021】
さらに、酸化亜鉛粉末と、酸化亜鉛に対してn型ドーパントとなる元素の酸化物粉末と、カーボン粉を10〜300wtppm含有し、熱伝導率が80W/mK以上で、酸化亜鉛の焼結温度(約1000℃)より融点が高い金属Mの粉末とを、酸化亜鉛系薄膜を構成する亜鉛とn型ドーパントと全金属元素に対する金属Mの濃度が0.05〜25.0原子%となるように、それぞれの原料粉末を秤量し、これらを混合した後、加圧焼結して焼結体とした酸化亜鉛系薄膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法を提供する。
【0022】
この酸化亜鉛系薄膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法において、n型ドーパントがガリウム(Ga)であって、亜鉛とGaと酸素の原子数の合計に対するGa濃度が1〜7原子%となるように酸化ガリウム粉末を混合して用いることができる。
また、このn型ドーパントについては、アルミニウム(Al)を使用し亜鉛とAlと酸素の原子数の合計に対するAl濃度が0.5〜3.5原子%となるように酸化アルミニウム粉末を混合することができる。同様に、ボロン(B)を使用し亜鉛とBと酸素の原子数の合計に対するB濃度が0.5〜5.5原子%となるように酸化ボロン粉末を混合することもできる。
【0023】
カーボン粉は、総量に対して10〜数千wtppm添加することができるが、粉末調整中或いは焼結中に酸化物の還元に使われることを考慮し、焼結体中の残留カーボン量は10〜300wtppmになるように調整する。さらに、金属Mとしてコバルト(Co)粉、ニッケル(Ni)粉、鉄(Fe)粉、銅(Cu)粉、モリブデン(Mo)粉、ルテニウム(Ru)粉、ロジウム(Rh)粉、タングステン(W)粉、イリジウム(Ir)粉、金(Au)粉から選択した1種以上の粉末を用いることができる。
【0024】
本発明の薄膜は、酸化亜鉛にn型ドーパントを添加することで、ドーパントから供給される電子が熱伝導に寄与するため、熱伝導率が上がるが、その際のn型ドーパントとして、候補となるのは亜鉛の格子位置に入って、電子を放出する必要があるために、亜鉛より価数が大きい3価や4価の原子価を有する元素であるが、中でも電子放出のし易さやドーパントとなる元素の不純物準位の観点から、GaやAlが最も適切である。
【0025】
Gaを用いた場合は、亜鉛とGaと酸素の原子数の合計に対する濃度が、1原子%未満であると、ドーパントから放出される電子濃度が充分に高くならないために、熱浸透率増加効果が少ない。しかし、7原子%を超えると、イオン化せずに中性のままで電子放出を行わずに酸化亜鉛中に存在して、フォノンや伝導電子を散乱するため、熱浸透率が低くなってしまう。従って、n型ドーパントとしてのGa濃度の適切値は、亜鉛とGaと酸素の原子数の合計に対して1〜7原子%の範囲である。同様の理由により、n型ドーパントとしてのAl濃度の適切値は0.5〜3.5原子%の範囲、B濃度の適切値は0.5〜5.5原子%の範囲である。これらのGa、Al、Bのn型ドーパントの含有量の適正値は、いずれも多数の実験値により確認したものである。
【0026】
また、熱浸透率を向上させるために添加する金属Mが、酸化亜鉛系薄膜を構成する亜鉛とn型ドーパントと金属Mの原子数の合計に対して、0.05原子%未満であると、熱浸透率向上効果が少なくなってしまい、逆に、25.0原子%を超えると、結晶粒界内部への侵入も起こってきて、酸化亜鉛の結晶性を乱して熱浸透率の低下を招いてしまう。
【0027】
さらに、添加する金属Mは酸化亜鉛と異なり、導電性は有するものの透明性は有しないために、高濃度に添加すると透過率が減少してしまい、透明性が悪くなってしまう。従って、添加する金属Mの濃度は、酸化亜鉛系薄膜を構成する亜鉛とn型ドーパントと金属Mの原子数の合計に対して0.05〜25.0原子%の範囲が適切である。この添加する金属Mの含有量の適正値は、多数の実験により確認したものである。
【0028】
本発明の酸化亜鉛系薄膜を作製するには、物理的蒸着法を用いることができる。物理的蒸着法には、蒸着法、反応性プラズマ蒸着法、スパッタ法、レーザーアブレーション法などがあるが、大面積に比較的均一成膜可能で、ターゲット組成と膜組成とのずれが少なく生産性に優れている点ではスパッタ法が適当である。
スパッタ法におけるターゲットは一体型のターゲットとすることができるが、モザイク状のターゲットを組み合わせることや、酸化亜鉛、n型ドーパント、金属のそれぞれのターゲットを独立配置してスパッタして膜組成を最終的に所定の範囲とすることもできる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例に基づいて本発明を説明する。以下に示す実施例は、理解を容易にするためのものであり、これらの実施例によって本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術的思想に基づく変形及び他の実施例は、当然本発明に含まれる。
【0030】
(実施例1)
平均粒径5μmの酸化亜鉛、酸化ガリウム(Ga)及び添加金属MとしてCu(平均粒径10μm)の各原料粉末を、94.9:5.0:0.1(wt%)となるように秤量し、更に平均粒径1μmのカーボン粉末を、全量に対して150wtppmとなるように追加して乾式のボールミルで約10時間混合した。
【0031】
次に、直径170φmmのダイスに混合した原料分を1000g充填し、アルゴン(Ar)ガスをフローさせながら、室温から5°C/minで温度を上昇させ、1000°Cになった後、30分間そのまま保持してから、圧力を300kgf/cmまで30分間かけて加圧した。
その後、1000°C、圧力300kgf/cmの状態を2時間保持した後、炉の加熱を止め、圧力を300kgf/cm〜0kgf/cmまで30分間かけて下げていった。炉から取り出したターゲットは直径152mm、厚み5mmの円盤状の形状に加工し、スパッタリングターゲットとした。
【0032】
出来たターゲットは割れなどの問題も無く、その成分を分析したところ、カーボンは一部が焼結中に還元され50wtppmとなり、全金属原子に対する金属M(Cu)の濃度が0.1原子%、亜鉛とGaと酸素の原子数の合計に対するGa濃度が2.2原子%であった。又、焼結体中の金属M(Cu)の粒子の中心付近で95質量%以上の金属M(Cu)が存在し、酸素は3質量%以下となったので、添加金属M(Cu)の残留を確認した。
ターゲットの一部、10mmΦ×1mmtのサンプルを加工してレーザーフラッシュ法で熱伝導率を測定したところ、42W/mKであった。また、ターゲット表面の抵抗率を4端子法で測定したところ、500μΩ・cmであった。
【0033】
得られたターゲットを直径4インチ厚み0.7mmのコーニング#1737ガラスを基板として、Ar雰囲気0.5Pa、Ar流量50sccm、スパッタパワー500Wとして、膜厚が約1000nmとなるように成膜時間を調整してスパッタ成膜を行った。さらにそのサンプル上に、Moを同条件で100nm成膜した。得られた膜を10mm角程度に調整し、熱物性顕微鏡で熱浸透率を測定したところ、1700(J/s0.5K)であった。以上の結果を、表1に示す。
【0034】
(実施例2)
平均粒径5μmの酸化亜鉛、酸化アルミニウム(Al)及び添加金属MとしてCo(平均粒径10μm)の各原料粉末を、94:1:5(wt%)となるように秤量し、更に平均粒径1μmのカーボン粉末を、全量に対して500wtppmとなるように追加して乾式のボールミルで約10時間混合した。
【0035】
次に、直径170φmmのダイスに混合した原料分を1000g充填し、アルゴン(Ar)ガスをフローさせながら、室温から5°C/minで温度を上昇させ、1000°Cになった後、30分間そのまま保持してから、圧力を300kgf/cmまで30分間かけて加圧した。
その後、1000°C、圧力300kgf/cmの状態を2時間保持した後、炉の加熱を止め、圧力を300kgf/cm〜0kgf/cmまで30分間かけて下げていった。炉から取り出したターゲットは直径152mm、厚み5mmの円盤状の形状に加工し、スパッタリングターゲットとした。
【0036】
出来たターゲットは割れなどの問題も無く、その成分を分析したところ、カーボンは一部が焼結中に還元され280wtppmとなり、全金属原子に対する金属M(Co)の濃度が6.7原子%、亜鉛とAlと酸素の原子数の合計に対するAl濃度が0.8原子%であった。実施例1同様に、添加金属M(Co)の残留を確認した。
ターゲットの一部、10mmΦ×1mmtのサンプルを加工してレーザーフラッシュ法で熱伝導率を測定したところ、45W/mKであった。また、ターゲット表面の抵抗率を4端子法で測定したところ、400μΩ・cmであった。
【0037】
得られたターゲットを直径4インチ厚み0.7mmのコーニング#1737ガラスを基板として、Ar雰囲気0.5Pa、Ar流量50sccm、スパッタパワー500Wとして、膜厚が約1000nmとなるように成膜時間を調整してスパッタ成膜を行った。さらにそのサンプル上に、Moを同条件で100nm成膜した。得られた膜を10mm角程度に調整し、熱物性顕微鏡で熱浸透率を測定したところ、2000(J/s0.5K)であった。以上の結果を、表1に示す。
【0038】
(実施例3)
平均粒径5μmの酸化亜鉛、酸化ガリウム(Ga)及び添加金属MとしてNi(平均粒径10μm)の各原料粉末を、77:4:19(wt%)となるように秤量し、更に平均粒径1μmのカーボン粉末を、全量に対して100wtppmとなるように追加して乾式のボールミルで約10時間混合した。
【0039】
次に、直径170φmmのダイスに混合した原料分を1000g充填し、アルゴン(Ar)ガスをフローさせながら、室温から5°C/minで温度を上昇させ、1000°Cになった後、30分間そのまま保持してから、圧力を300kgf/cmまで30分間かけて加圧した。
その後、1000°C、圧力300kgf/cmの状態を2時間保持した後、炉の加熱を止め、圧力を300kgf/cm〜0kgf/cmまで30分間かけて下げていった。炉から取り出したターゲットは直径152mm、厚み5mmの円盤状の形状に加工し、スパッタリングターゲットとした。
【0040】
出来たターゲットは割れなどの問題も無く、その成分を分析したところ、カーボンは30wtppm、全金属原子に対する金属M(Ni)の濃度が24.7原子%、亜鉛とGaと酸素の原子数の合計に対するGa濃度が2.1原子%であった。実施例1同様に、添加金属M(Ni)の残留を確認した。
ターゲットの一部、10mmΦ×1mmtのサンプルを加工してレーザーフラッシュ法で熱伝導率を測定したところ、55W/mKであった。また、ターゲット表面の抵抗率を4端子法で測定したところ、200μΩ・cmであった。
【0041】
得られたターゲットを直径4インチ厚み0.7mmのコーニング#1737ガラスを基板として、Ar雰囲気0.5Pa、Ar流量50sccm、スパッタパワー500Wとして、膜厚が約1000nmとなるように成膜時間を調整してスパッタ成膜を行った。さらにそのサンプル上に、Moを同条件で100nm成膜した。得られた膜を10mm角程度に調整し、熱物性顕微鏡で熱浸透率を測定したところ、2500(J/s0.5K)であった。以上の結果を、表1に示す。
【0042】
(実施例4)
平均粒径5μmの酸化亜鉛、酸化ボロン(B)及び添加金属MとしてCo(平均粒径10μm)の各原料粉末を、95:2:3(wt%)となるように秤量し、更に平均粒径1μmのカーボン粉末を、全量に対して150wtppmとなるように追加して乾式のボールミルで約10時間混合した。
【0043】
次に、直径170φmmのダイスに混合した原料分を1000g充填し、アルゴン(Ar)ガスをフローさせながら、室温から5°C/minで温度を上昇させ、1000°Cになった後、30分間そのまま保持してから、圧力を300kgf/cmまで30分間かけて加圧した。
その後、1000°C、圧力300kgf/cmの状態を2時間保持した後、炉の加熱を止め、圧力を300kgf/cm〜0kgf/cmまで30分間かけて下げていった。炉から取り出したターゲットは直径152mm、厚み5mmの円盤状の形状に加工し、スパッタリングターゲットとした。
【0044】
出来たターゲットは割れなどの問題も無く、その成分を分析したところ、カーボンは一部が焼結中に還元され50wtppmとなり、全金属原子に対する金属M(Co)の濃度が4.0原子%、亜鉛とBと酸素の原子数の合計に対するB濃度が2.3原子%であった。実施例1同様に、添加金属M(Co)の残留を確認した。
ターゲットの一部、10mmΦ×1mmtのサンプルを加工してレーザーフラッシュ法で熱伝導率を測定したところ、43W/mKであった。また、ターゲット表面の抵抗率を4端子法で測定したところ、600μΩ・cmであった。
【0045】
得られたターゲットを直径4インチ厚み0.7mmのコーニング#1737ガラスを基板として、Ar雰囲気0.5Pa、Ar流量50sccm、スパッタパワー500Wとして、膜厚が約1000nmとなるように成膜時間を調整してスパッタ成膜を行った。さらにそのサンプル上に、Moを同条件で100nm成膜した。得られた膜を10mm角程度に調整し、熱物性顕微鏡で熱浸透率を測定したところ、1900(J/s0.5K)であった。以上の結果を、表1に示す。
【0046】
(比較例1)
平均粒径5μmの酸化亜鉛と酸化アルミニウム(Al)(平均粒径10μm)の各原料粉末を、99:1(wt%)となるように秤量し、乾式のボールミルで約10時間混合した。この場合、金属Mは添加しなかった。
【0047】
次に、直径170φmmのダイスに混合した原料分を1000g充填し、アルゴン(Ar)ガスをフローさせながら、室温から5°C/minで温度を上昇させ、1000°Cになった後、30分間そのまま保持してから、圧力を300kgf/cmまで30分間かけて加圧した。
その後、1000°C、圧力300kgf/cmの状態を2時間保持した後、炉の加熱を止め、圧力を300kgf/cm〜0kgf/cmまで30分間かけて下げていった。炉から取り出したターゲットは直径152mm、厚み5mmの円盤状の形状に加工し、スパッタリングターゲットとした。
【0048】
その成分を分析したところ、全金属原子に対する金属Mの濃度は0原子%、亜鉛とAlと酸素の原子数の合計に対するAl濃度が0.8原子%であった。
ターゲットの一部、10mmΦ×1mmtのサンプルを加工してレーザーフラッシュ法で熱伝導率を測定したところ、40W/mKであり、実施例に比べて低下した。また、ターゲット表面の抵抗率を4端子法で測定したところ、500μΩ・cmであった。
【0049】
得られたターゲットを直径4インチ厚み0.7mmのコーニング#1737ガラスを基板として、Ar雰囲気0.5Pa、Ar流量50sccm、スパッタパワー500Wとして、膜厚が約1000nmとなるように成膜時間を調整してスパッタ成膜を行った。さらにそのサンプル上に、Moを同条件で100nm成膜した。得られた膜を10mm角程度に調整し、熱物性顕微鏡で熱浸透率を測定したところ、1400(J/s0.5K)となり、実施例に比較して低下した。以上の結果を、表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
以上に示したように、n型ドーパントがGaであってもAlであってもBであっても、本願発明で規定した金属(M)を所定濃度範囲添加することで、酸化亜鉛系薄膜の熱浸透率を向上することができた。これは、本願発明の大きな特徴の一つである。なお、本願の特許請求の範囲で規定する他の金属元素Mについては、特に実施例を示さないが、上記実施例と同様の効果を発揮することを確認した。
また、上記実施例1〜4は、代表的な成分組成の実験データに基づくものであるが、本願の特許請求の範囲に規定する成分組成の範囲であれば、実施例1〜4と同様の効果が得られることを、多数の実験で確認している。
【産業上の利用可能性】
【0052】
上記で説明したように、本発明によれば、従来の方法では実現できなかった透明で高熱浸透率である薄膜を酸化亜鉛系ターゲットのスパッタ成膜によって実現可能とする点で、光記録媒体、磁気記録媒体、透明導電体のヒートシンク用材料として非常に有用である。