特許第5847787号(P5847787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5847787導電性及び応力緩和特性に優れる銅合金板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5847787
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】導電性及び応力緩和特性に優れる銅合金板
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20160107BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20160107BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20160107BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20160107BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20160107BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20160107BHJP
   H01L 23/48 20060101ALI20160107BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20160107BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20160107BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160107BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22C9/02
   C22C9/04
   C22C9/06
   H01B5/02 Z
   H01B1/02 A
   H01L23/48 V
   H01R13/03 A
   !C22F1/08 B
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630Z
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 651Z
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694Z
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-244351(P2013-244351)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-101773(P2015-101773A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2014年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 知亮
(72)【発明者】
【氏名】波多野 隆紹
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−131829(JP,A)
【文献】 特開2005−048262(JP,A)
【文献】 特開2010−126783(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026611(WO,A1)
【文献】 特開2007−100111(JP,A)
【文献】 特許第5452778(JP,B1)
【文献】 特開2015−086462(JP,A)
【文献】 特開2015−101759(JP,A)
【文献】 特開2004−256902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag、P、Sn、FeおよびNiの一種以上を合計で0.010.48質量%含有し、かつ、Agを0.15質量%以下、Pを0.06質量%以下、Snを0.15質量%以下、Feを0.20質量%以下およびNiを0.15質量%以下それぞれ含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、80〜102%IACSの導電率および290MPa以上の0.2%耐力を有し、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下であることを特徴とする銅合金板。
【請求項2】
Crを0.1〜0.5質量%、Snを0.1〜0.5質量%、Znを0.1〜0.5質量%、Mおよびiのうちの一種以上を合計で0〜0.05質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、70〜90%IACSの導電率および290MPa以上の0.2%耐力を有し、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下であることを特徴とする銅合金板。
【請求項3】
Feを1〜3質量%、Pを0.01〜0.2質量%、Znを0.05〜0.5質量%、C、Mおよびiのうちの一種以上を合計で0〜0.06質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、60〜80%IACSの導電率および290MPa以上の0.2%耐力を有し、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下であることを特徴とする銅合金板。
【請求項4】
Niを0.5〜3質量%、Snを0.2〜2質量%、Pを0.02〜0.2質量%、Mおよびnのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、30〜60%IACSの導電率および290MPa以上の0.2%耐力を有し、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下であることを特徴とする銅合金板。
【請求項5】
Mgを0.2〜1質量%、Pを0.001〜0.1質量%、Ni、Siおよびnのうちの一種以上を合計で0〜0.16質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、50〜70%IACSの導電率および290MPa以上の0.2%耐力を有し、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下であることを特徴とする銅合金板。
【請求項6】
Znを1〜15質量%、Snを0〜0.4質量%、g、NiおよびPのうちの一種以上を合計で0〜0.13質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、30〜70%IACSの導電率および290MPa以上の0.2%耐力を有し、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下であることを特徴とする銅合金板。
【請求項7】
Niを0.1〜5質量%、Pを0.01〜0.3質量%、Feを0.01〜0.3質量%、Znを0〜0.2質量%、Mg、Sおよびnのうちの一種以上を合計で0〜0.03質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、50〜90%IACSの導電率および290MPa以上の0.2%耐力を有し、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下であることを特徴とする銅合金板。
【請求項8】
150℃で1000時間保持後の応力緩和率が30%以下である、請求項1〜の何れか1項に記載の銅合金板。
【請求項9】
請求項1〜の何れか1項に記載の銅合金板を用いた大電流用電子部品。
【請求項10】
請求項1〜の何れか1項に記載の銅合金板を用いた放熱用電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅合金板及び通電用又は放熱用電子部品に関し、特に、電機・電子機器、自動車等に搭載される端子、コネクタ、リレー、スイッチ、ソケット、バスバー、リードフレーム、放熱板等の電子部品の素材として使用される銅合金板及び該銅合金板を用いた電子部品に関する。中でも、電気自動車、ハイブリッド自動車等で用いられる大電流用コネクタや端子等の大電流用電子部品の用途、又はスマートフォンやタブレットPCで用いられる液晶フレーム等の放熱用電子部品の用途に好適な銅合金板及び該銅合金板を用いた電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電機・電子機器、自動車等には、端子、コネクタ、スイッチ、ソケット、リレー、バスバー、リードフレーム、放熱板等の電気又は熱を伝えるための部品が組み込まれており、これら部品には銅合金が用いられている。ここで、電気伝導性と熱伝導性は比例関係にある。
【0003】
近年、電子部品の小型化に伴い、通電部における銅合金の断面積が小さくなる傾向にある。断面積が小さくなると、通電した際の銅合金からの発熱が増大する。また、成長著しい電気自動車やハイブリッド電気自動車で用いられる電子部品には、バッテリー部のコネクタ等の著しく高い電流が流される部品があり、通電時の銅合金の発熱が問題になっている。発熱が過大になると、銅合金は高温環境に晒されることになる。
【0004】
コネクタ等の電気接点では、銅合金板にたわみが与えられ、このたわみで発生する応力により、接点での接触力を得ている。たわみを与えた銅合金を高温下に長時間保持すると、応力緩和現象により、応力すなわち接触力が低下し、接触電気抵抗の増大を招く。この問題に対処するため銅合金には、発熱量が減ずるよう導電性により優れることが求められ、また発熱しても接触力が低下しないよう応力緩和特性により優れることも求められている。
【0005】
一方、例えばスマートフォンやタブレットPCの液晶には液晶フレームと呼ばれる放熱部品が用いられている。このような放熱用途の銅合金板においても、応力緩和特性を高めると、外力による放熱板のクリープ変形が抑制され、放熱板周りに配置される液晶部品、ICチップ等に対する保護性が改善される、等の効果を期待できる。このため、放熱用途の銅合金板においても、応力緩和特性に優れることが望まれている。
【0006】
例えば、特開2012−177197には、Cube方位が発達し、比較的良好な応力緩和特性を有する銅合金が開示されている。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−177197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、銅合金の特性改善を結晶方位の制御により行う場合、ヤング率の低下等の必要としない特性変化が同時に生じることが多い。また、その製造プロセスにおいては、特殊な熱処理や加工を付加する必要があり、製造コストが増大することが多い。
【0009】
したがって、結晶方位の制御に頼らず、軽微な製造プロセスの調整により、銅合金の応力緩和特性を改善できれば、工業的に極めて意義深いといえる。
【0010】
そこで、本発明は、高強度、高導電性および優れた応力緩和特性を兼ね備えた銅合金板を提供することを目的とする。さらには、大電流用途又は放熱用途に好適な電子部品を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、表面の残留応力を所定の範囲となるよう調整することにより、高強度および高導電性を有する銅合金の応力緩和特性が向上することを見出した。
【0012】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、P、Si、Sn、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜20質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、30%IACS以上の導電率および290MPa以上の0.2%耐力を有し、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下である銅合金板である。
【0013】
本発明に係る銅合金板は別の一実施態様において、Ag、P、Sn、FeおよびNiの一種以上を合計で0.005〜1質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、80〜102%IACSの導電率を有する。
【0014】
本発明に係る銅合金板は更に別の一実施態様において、Crを0.1〜0.5質量%、Snを0.1〜0.5質量%、Znを0.1〜0.5質量%、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Ni、P、Si、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、70〜90%IACSの導電率を有する。
【0015】
本発明に係る銅合金板は更に別の一実施態様において、Feを1〜3質量%、Pを0.01〜0.2質量%、Znを0.05〜0.5質量%、Ag、B、Co、Cr、Mg、Mn、Ni、Si、Sn、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、60〜80%IACSの導電率を有する。
【0016】
本発明に係る銅合金板は更に別の一実施態様において、Niを0.5〜3質量%、Snを0.2〜2質量%、Pを0.02〜0.2質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、30〜60%IACSの導電率を有する。
【0017】
本発明に係る銅合金板は更に別の一実施態様において、Mgを0.2〜1質量%、Pを0.001〜0.1質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mn、Ni、Si、Sn、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、50〜70%IACSの導電率を有する。
【0018】
本発明に係る銅合金板は更に別の一実施態様において、Znを1〜15質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、P、Si、Sn、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、30〜70%IACSの導電率を有する。
【0019】
本発明に係る銅合金板は更に別の一実施態様において、Niを0.1〜5質量%、Pを0.01〜0.3質量%、Feを0.01〜0.3質量%、Ag、B、Co、Cr、Mg、Mn、Si、Sn、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなり、50〜90%IACSの導電率を有する。
【0020】
本発明に係る銅合金板は更に別の一実施態様において、150℃で1000時間保持後の応力緩和率が30%以下である。
【0021】
本発明は別の一側面において、上記銅合金板を用いた大電流用電子部品である。
【0022】
本発明は更に別の一側面において、上記銅合金板を用いた放熱用電子部品である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高強度、高導電性および優れた応力緩和特性を兼ね備えた銅合金板及び大電流用途又は放熱用途に好適な電子部品を提供することが可能である。この銅合金板は、端子、コネクタ、スイッチ、ソケット、リレー、バスバー、リードフレーム、放熱板等の電子部品の素材として好適に使用することができ、特に大電流を通電する電子部品の素材又は大熱量を放散する電子部品の素材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】残留応力の測定原理を示す平面図である。
図2】応力緩和率の測定原理を説明する図である。
図3】応力緩和率の測定原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について説明する。
(目標特性)
本発明の実施の形態に係る銅合金板は、30%IACS以上の導電率を有し、且つ290MPa以上の0.2%耐力を有する。導電率が30%IACS以上であれば、通電時の発熱量が抑制される。また、0.2%耐力が290MPa以上であれば、大電流を通電する部品の素材又は大熱量を放散する部品の素材として必要な強度を有しているといえる。
【0026】
本発明の実施の形態に係る銅合金板の応力緩和特性については、0.2%耐力の80%の応力を付加し、150℃で1000時間保持した時の銅合金板の応力緩和率(以下、単に応力緩和率と記す)が30%以下であり、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。応力緩和率を30%以下にすることで、コネクタに加工した後に大電流を通電しても接触力低下に伴う接触電気抵抗の増加が生じ難くなり、また、放熱板に加工した後に熱と外力が同時に加わってもクリープ変形が生じ難くなる。
【0027】
(合金成分濃度)
本発明の作用効果は、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、P、Si、Sn、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜20質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金において良好に発揮され、また、例えば下記のA〜Fの銅合金において特に高い効果が発揮される。
【0028】
(合金A)
Ag、P、Sn、FeおよびNiの一種以上を合計で0.005〜1質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金である。この銅合金の導電率は80〜102%IACSである。より好ましい成分は、Ag、P、Sn、FeおよびNiの一種以上を合計で0.01〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金であり、このときの導電率は83〜97%IACSである。
【0029】
(合金B)
Crを0.1〜0.5質量%、Snを0.1〜0.5質量%、Znを0.1〜0.5質量%、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Ni、P、Si、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金である。この銅合金の導電率は70〜90%IACSである。より好ましい成分は、Crを0.2〜0.4質量%、Snを0.2〜0.3質量%、Znを0.2〜0.3質量%、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Ni、P、Si、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金であり、この銅合金の導電率は70〜80%IACSである。
【0030】
(合金C)
Feを1〜3質量%、Pを0.01〜0.2質量%、Znを0.05〜0.5質量%、Ag、B、Co、Cr、Mg、Mn、Ni、Si、Sn、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金である。この銅合金の導電率は60〜80%IACSである。より好ましい成分は、Feを2〜2.5質量%、Pを0.02〜0.15質量%、Znを0.1〜0.2質量、Ag、B、Co、Cr、Mg、Mn、Ni、Si、Sn、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金であり、この銅合金の導電率は60〜75%IACSである。
【0031】
(合金D)
Niを0.5〜3質量%、Snを0.2〜2質量%、Pを0.02〜0.2質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有する銅合金である。この銅合金の導電率は30〜60%IACSである。より好ましい成分範囲は、Niを0.8〜1.2質量%、Snを0.4〜0.6質量%、Pを0.05〜0.15質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金、およびNiを0.8〜1.2質量%、Snを0.8〜1.0質量%、Pを0.05〜0.15質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、ZnおよびZrの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金であり、それぞれの銅合金の導電率は45〜55%IACSおよび35〜45%IACSである。
【0032】
(合金E)
Mgを0.2〜1質量%、Pを0.001〜0.1質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mn、Ni、Si、Sn、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金である。この銅合金の導電率は50〜70%IACSである。より好ましい成分は、Mgを0.5〜0.9質量%、Pを0.001〜0.02質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mn、Ni、Si、Sn、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金であり、この銅合金の導電率は50〜65%IACSである。
【0033】
(合金F)
Znを1〜15質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、P、Si、Sn、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.5質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金である。この銅合金の導電率は30〜70%IACSである。より好ましい成分は、Znを7〜9質量%、Snを0.2〜0.4質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、P、Si、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金、およびZnを2〜4質量%、Snを0.1〜0.3質量%、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、P、Si、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金であり、それぞれの銅合金の導電率は35〜45%IACSおよび55〜65%IACSである。
【0034】
(合金G)
Niを0.1〜5質量%、Pを0.01〜0.3質量%、Feを0.01〜0.3質量%、Ag、B、Co、Cr、Mg、Mn、Si、Sn、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金である。この銅合金の導電率は50〜90%IACSである。より好ましい成分範囲は、Niを0.5〜0.9質量%、Pを0.02〜0.2質量%、Feを0.05〜0.15質量%、Znを0.03〜0.2質量%、Ag、B、Co、Cr、Mg、Mn、Si、Sn、TiおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜0.2質量%含有し、残部が銅およびその不可避的不純物からなる銅合金であり、この銅合金の導電率は60〜80%IACSである。
【0035】
合金成分の濃度が高くなるに従い、引張強さが上昇する半面、導電率が低下する。
【0036】
(残留応力)
本発明の実施の形態に係る銅合金板は、製品表面の残留応力を200MPa以下、好ましくは100MPa以下に調整することで、応力緩和率が30%以下になる。ここで、本発明の残留応力は、X線回折法を用い、X線入射角度に対する(113)面間隔の変化を測定することにより求めるものである。測定方向としては、圧延方向と厚み方向のそれぞれに平行な面内においてX線入射角度を変化させることにより、圧延方向と平行に生じている残留応力値を求める。他の結晶面や方向に対しても残留応力値を測定することは可能であるが、当該条件で測定した場合に、測定のばらつきが最も小さく、残留応力値と応力緩和との間に最も良好な相関が得られた。なお、銅合金板の残留応力は、板の片側表面をエッチングしたときの板の反り量からの算出されることが多いが(須藤一:残留応力とゆがみ、内田老鶴圃社、(1988)、p.46.)、このエッチング法で求めた残留応力値には応力緩和との相関が認められなかった。
【0037】
(厚み)
製品の厚みは0.1〜2.0mmであることが好ましい。厚みが薄すぎると、通電部断面積が小さくなり通電時の発熱が増加するため大電流を流すコネクタ等の素材として不適であり、また、わずかな外力で変形するようになるため放熱板等の素材としても不適である。一方で、厚みが厚すぎると、曲げ加工が困難になる。このような観点から、より好ましい厚みは0.2〜1.5mmである。厚みが上記範囲となることにより、通電時の発熱を抑えつつ、曲げ加工性を良好なものとすることができる。
【0038】
(用途)
本発明の実施の形態に係る銅合金板は、電機・電子機器、自動車等で用いられる端子、コネクタ、リレー、スイッチ、ソケット、バスバー、リードフレーム、放熱板等の電子部品の用途に好適に使用することができ、特に、電気自動車、ハイブリッド自動車等で用いられる大電流用コネクタや端子等の大電流用電子部品の用途、又はスマートフォンやタブレットPCで用いられる液晶フレーム等の放熱用電子部品の用途に有用である。
【0039】
(製造方法)
以下、本発明に係る銅合金板の好適な製造方法の一例について説明する。
【0040】
純銅原料として電気銅等を溶解し、合金元素を添加し、厚み30〜300mm程度のインゴットに鋳造する。このインゴットを熱間圧延により厚み3〜30mm程度の板とした後、冷間圧延と再結晶焼鈍とを繰り返し、最終の冷間圧延で所定の製品厚みに仕上げ、最後に歪取り焼鈍を施す。最終冷間圧延で材料に導入される残留応力は、その後の歪取焼鈍により低下する。
【0041】
再結晶焼鈍では、圧延組織の一部又は全てを再結晶化させる。最終冷間圧延前の再結晶焼鈍では、製品の圧延直角断面の平均結晶粒径が50μm以下となるように、当該再結晶焼鈍後の平均結晶粒径を50μm以下に調整する。最終冷間圧延前の再結晶焼鈍には、バッチ炉を用いてもよいし、連続焼鈍炉を使用しても良い。バッチ炉では250〜600℃の炉内温度において30分から30時間の範囲で加熱時間を適宜調整することにより、また、連続焼鈍炉では450〜800℃の炉内温度において5秒から10分の範囲で加熱時間を適宜調整することにより、当該再結晶焼鈍後の平均結晶粒径を50μm以下に調整できる。
【0042】
最終冷間圧延では、一対の圧延ロール間に材料を繰り返し通過させ、目標の板厚に仕上げていく。最終冷間圧延の加工度は25〜99%とする。ここで加工度r(%)は、r=(t0−t)/t0×100(t0:圧延前の板厚、t:圧延後の板厚)で与えられる。加工度が25%未満になると、0.2%耐力を290MPa以上に調整することが難しくなる。加工度が99%を超えると、圧延材のエッジが割れることがある。
【0043】
また、最終冷間圧延では圧延ロールの径と、通板回数とを調整することにより、銅合金板の残留応力を調整することができる。一般的に使用されている大径ロールを用いて圧延した場合、表面部に引張応力、厚み方向中央部に圧縮応力が残留する。一方、小径ロールを用いて低い加工度で圧延した場合、表面部に圧縮応力、厚み方向中央部に引張応力が残留する。よって、大径ロールで圧延した後に小径ロールで軽圧下圧延を数回行えば、それまでの圧延で表面に蓄積した引張残留応力がキャンセルされ、銅合金板の残留応力は減少する。なお、本実施形態において大径ロールとは直径150〜500mmのロールを意味し、小径ロールとは直径20〜80mmのロールを意味する。
【0044】
上記小径ロールによる圧延に加え、適切な条件で歪取焼鈍を行うことにより、残留応力を200MPa以下に調整することができる。本発明の歪取焼鈍は連続焼鈍炉を用いて行う。バッチ炉の場合、コイル状に巻き取った状態で材料を加熱するため、加熱中に材料が変形を起こし材料に反りが生じる。したがって、バッチ炉は本発明の歪取焼鈍に不適である。
【0045】
連続焼鈍炉において、炉内温度を300〜700℃とし、5秒から10分の範囲で加熱時間を適宜調整し、歪取焼鈍後の0.2%耐力を歪取焼鈍前の0.2%耐力に対し10〜50MPa低い値、好ましくは15〜45MPa低い値に調整する。0.2%耐力の低下量が小さすぎると、残留応力を200MPa以下に調整することが難しくなる。0.2%耐力の低下量が大きすぎると製品の引張強さが290MPa未満になることがある。
【0046】
さらに、歪取焼鈍後では連続焼鈍炉内において材料に付加される張力を1〜5MPa、より好ましくは1〜4MPaに調整する。張力が大きすぎると、残留応力を200MPa以下に調整することが難しくなる。張力が小さすぎると、焼鈍炉を通板中の材料が炉壁と接触し、材料の表面やエッジに傷が付くことがある。
【実施例】
【0047】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0048】
溶銅に合金元素を添加した後、厚みが200mmのインゴットに鋳造した。インゴットを950℃で3時間加熱し、熱間圧延により厚み15mmの板にした。熱間圧延板表面の酸化スケールを研削、除去した後、焼鈍と冷間圧延を繰り返し、最終の冷間圧延で所定の製品厚みに仕上げた。最後に連続焼鈍炉を用い歪取焼鈍を行った。
【0049】
最終冷間圧延前の焼鈍(最終再結晶焼鈍)は、バッチ炉を用い、加熱時間を5時間とし炉内温度を250〜700℃の範囲で調整し、焼鈍後の結晶粒径と導電率を変化させた。
【0050】
最終冷間圧延の前半では、直径200mmの大径ロールを使用し、後半では直径50mmの小径ロールを用いた。後半の小径ロールによる圧延では、一回の通板当たりの加工度を3%とし、この通板の実施回数を0〜5回の範囲で変化させた。
【0051】
連続焼鈍炉を用いた歪取り焼鈍では、炉内温度を500℃とし加熱時間を1秒から15分の間で調整し、歪取焼鈍による0.2%耐力の低下量を種々変化させた。また、炉内において材料に付加する張力を種々変化させた。なお、一部の例では歪取り焼鈍を行わなかった。
【0052】
製造途中の材料および歪取焼鈍後の材料につき、次の測定を行った。
【0053】
(成分)
歪取焼鈍後の材料の合金元素濃度をICP−質量分析法で分析した。
【0054】
(最終冷間圧延前の最終再結晶焼鈍後の平均結晶粒径)
圧延方向と直交する断面を機械研磨により鏡面に仕上げた後、エッチングにより結晶粒界を現出させた。この金属組織上において、JIS H0501(1999年)の切断法に従い測定し、平均結晶粒径を求めた。
【0055】
(0.2%耐力)
最終冷間圧延後および歪取焼鈍後の材料につき、JIS Z2241に規定する13B号試験片を引張方向が圧延方向と平行になるように採取し、JIS Z2241に準拠して圧延方向と平行に引張試験を行い、0.2%耐力を求めた。
【0056】
(導電率)
歪取焼鈍後の材料から、試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように試験片を採取し、JIS H0505に準拠し四端子法により20℃での導電率を測定した。
【0057】
(残留応力)
X線回折法により、銅合金板の(113)面に対し、圧延方向と平行な方向に生じている残留応力を求めた。測定原理を以下に説明する。
例えば図1に示すように引張残留応力が存在する場合、(a)→(b)→(c)と試料面法線Nと格子面法線N’とのなす角度Ψが大きくなると、この順で格子面間隔が大きくなる。結晶面間隔は応力の大きさに比例するので、各Ψにおいて格子面間隔すなわち回折角度(2θ)を測定すると、次式により残留応力σを求めることができる。
【0058】
【数1】
ここで、σは応力、Eはヤング率、νはポアソン比、θ0は標準ブラッグ角である。また、Kは材料と測定波長により決定される定数である。2θとsin2Ψとの関係を図示して最小二乗法で勾配を求め、これにKを乗じることで残留応力値が得られる。
【0059】
(応力緩和率)
歪取焼鈍後の材料から、幅10mm、長さ100mmの短冊形状の試験片を、試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように採取した。図2に示すように、l=50mmの位置を作用点として、試験片にy0のたわみを与え、圧延方向の0.2%耐力の80%に相当する応力(s)を負荷した。y0は次式により求めた。
0=(2/3)・l2・s / (E・t)
ここで、Eは圧延方向のヤング率であり、tは試料の厚みである。150℃にて1000時間加熱後に除荷し、図3に示す永久変形量(高さ)yを測定し、応力緩和率{[y(mm)/y0(mm)]×100(%)}を算出した。
【0060】
表1、2、3、4、5、6および7は、それぞれ合金A、合金B、合金C、合金D、合金E、合金Fおよび合金Gに関する実施例である。表8には、表1〜6に記載した以外の合金の発明例を示す。これらの実施例、比較例において、最終再結晶焼鈍後の結晶粒径における「<10μm」の表記は、圧延組織の全てが再結晶化しその平均結晶粒径が10μm未満であった場合、および圧延組織の一部のみが再結晶化した場合の双方を含んでいる。
【0061】
【表1】
【0062】

【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
表1〜表8の発明例の銅合金板では、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、P、Si、Sn、Ti、ZnおよびZrのうちの一種以上を合計で0〜20質量%に調整し、最終冷間圧延前の再結晶焼鈍において、結晶粒径を50μm以下に調整し、最終冷間圧延において、加工度を25〜99%とし小径ロールによる通板を3回以上行い、歪取焼鈍において、材料を連続焼鈍炉に張力1〜5MPaで通板して0.2%耐力を10〜50MPa低下させた。その結果、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じる残留応力が200MPa以下となり、30%IACS以上の導電率、290MPa以上の0.2%耐力、30%以下の応力緩和率が得られた。
【0070】
比較例1は歪取焼鈍を行わなかったものであり、残留応力が200MPaを超え、応力緩和率が30%を超えた。
比較例2では歪取焼鈍における0.2%耐力の低下量が過小であり、比較例3、4では歪取焼鈍における0.2%耐力の低下量が過大であった。このため、残留応力が200MPaを超え、応力緩和率が30%を超えた。
比較例5〜7では、歪取焼鈍を行ったものの、炉内での材料張力が5MPaを超えたため、残留応力が200MPaを超え、応力緩和率が30%を超えた。
比較例8、9では、最終冷間圧延における小径ロールによる通板回数が過少であっため残留応力が200MPaを超え、応力緩和率が30%を超えた。
【0071】
比較例10では最終冷間圧延における総加工度が25%に満たなかったため、また比較例11では最終冷間圧延前の再結晶焼鈍上がりの結晶粒径が50μmを超えたため、歪取焼鈍後の0.2%耐力が290MPaに満たなかった。
図2
図3
図1