(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルコール溶媒に還元剤、炭素数1〜6の脂肪族モノカルボン酸からなる保護剤、および、銅化合物としての銅酸化物もしくはカルボン酸銅を添加して、前記アルコール溶媒中に前記銅化合物を固体状態で分散し、
前記アルコール溶媒中で分散している前記銅化合物を還元することにより、平均粒子径が1nm以上100nm以下であり、前記炭素数1〜6の脂肪族モノカルボン酸からなる保護剤で表面が被覆されて凝集が抑制されるように構成され、前記アルコール溶媒中に分散する銅微粒子を形成することを特徴とする銅微粒子分散液の製造方法。
請求項1〜3のいずれかに記載の銅微粒子分散液の製造方法により製造された銅微粒子分散液を精製して、前記脂肪族モノカルボン酸で表面が被覆された銅微粒子を得ることを特徴とする銅微粒子の製造方法。
請求項1〜3のいずれかに記載の銅微粒子分散液の製造方法により製造された銅微粒子分散液を加熱することにより、前記脂肪族モノカルボン酸を脱離させ、前記銅微粒子の表面の銅酸化物膜を除去し、
加熱後に精製することにより、前記脂肪族モノカルボン酸が脱離して前記銅酸化物膜が除去された銅微粒子を得ることを特徴とする銅微粒子の製造方法。
請求項5に記載の銅微粒子の製造方法により製造された銅微粒子を、前記脂肪族モノカルボン酸以外の保護剤を含む溶媒に添加して、前記脂肪族モノカルボン酸以外の前記保護剤を被覆し、前記脂肪族モノカルボン酸以外の前記保護剤で表面が被覆された前記銅微粒子が分散した銅微粒子分散液を形成し、
前記銅微粒子分散液を精製して、前記脂肪族モノカルボン酸以外の前記保護剤で被覆される前記銅微粒子を得ることを特徴とする銅微粒子の製造方法。
アルコール溶媒中に、平均粒子径が1nm以上100nm以下であり、炭素数1〜6の脂肪族モノカルボン酸からなる保護剤で表面が被覆されて凝集が抑制されるように構成された銅微粒子が分散しており、
前記アルコール溶媒中に、前記脂肪族モノカルボン酸が存在していることを特徴とする銅微粒子分散液。
平均粒子径が1nm以上100nm以下であり、炭素数1〜6の脂肪族モノカルボン酸からなる保護剤で表面が被覆されて凝集が抑制されるように構成されたことを特徴とする銅微粒子。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、低温で焼結し金属被膜となるため、電子実装用の配線材料や接合材料として利用されている。金属の種類としては主に金や銀が用いられる。金は価格の問題から、銀はマイグレーションの問題から、他の金属への代替が求められている。そこで、安価で耐マイグレーションに優れた金属として銅が期待されている。
【0003】
金属微粒子とは粒径1〜100nm程度の金属粒子を意味する。金属微粒子においては、粒子体積に対する表面積の急激な増加により、融点が降下する現象が知られている。融点降下現象により、金属微粒子は、バルク金属の融点よりも低い温度で粒子界面における拡散が生じ、融着が進行する。このように、金属微粒子によれば、低温で金属被膜を形成することができる。
【0004】
ただし、金属微粒子は、それ単体では非常に不安定であり、室温付近において粒子同士の凝集や粒子の融着が進行する。また、金属微粒子は酸化され、表面に酸化物膜が形成される。そのため、金属微粒子は、その表面に対して吸着性を示す保護剤と呼ばれる有機物により被覆されて、凝集、融着、酸化が抑制される。
【0005】
この保護剤に求められる機能としては、主に(1)金属微粒子への吸着性が強いこと、(2)金属微粒子の焼成の際には、低温で、金属微粒子の表面から速やかに脱離すること、などが挙げられる。以下に、それぞれの機能について説明する。
【0006】
まず、機能(1)は、金属微粒子への吸着性が強いことである。金属微粒子の製造においては、金属イオンの還元により金属核が生成されて、この金属核が凝集し、金属微粒子に成長する。この金属微粒子の成長過程において、保護剤は、金属核に吸着して金属核同士の凝集を抑制し、その成長を抑制する。すなわち、保護剤は、金属微粒子の粒子径を制御する働きを有する。そして、保護剤の金属微粒子への吸着性が強いほど、製造される金属微粒子の粒子径を微細に制御することができる。このように、金属微粒子を製造する段階では、微細な粒子を製造できる保護剤が必要とされるため、金属微粒子への吸着性が強い保護剤が使用される。
【0007】
機能(2)は、金属微粒子の焼成の際には、低温で、金属微粒子の表面から速やかに脱離することである。金属微粒子を含む金属ペーストは樹脂基板上に塗布された後に焼成されて金属被膜になるが、焼成の際に保護剤の脱離反応が速やかに起きないと、金属微粒子同士の焼結が阻害されることになる。金属微粒子が樹脂基板上への実装に用いられる場合、その焼成温度は、樹脂基板の耐熱性などが考慮されて、なるべく低温(例えば、200℃以下)であることが求められる。すなわち、保護剤は、低温で金属微粒子の表面から脱離して、分解される必要がある。低温で保護剤が脱離するためには、一般的に金属微粒子への吸着性が弱い保護剤が求められる。
【0008】
このように、保護剤には、金属微粒子の製造時には高い吸着性を示す機能(1)が求められる一方、焼成の際には低温で速やかに脱離する機能(2)が求められており、相反する機能が求められている。この条件を同時に満足する方法として、金属微粒子を含む金属
ペースト中に、保護剤に対して反応性を有する酸無水物や有機酸を添加する方法がある(例えば、特許文献1参照)。脱離剤は、保護剤の脱離を促し、強い吸着性を示す保護剤であっても、速やかに脱離させることができる。
【0009】
ところで、金属微粒子の中でも、特に銅微粒子は、酸化されやすく、表面が酸化物膜に被覆されやすい。酸化物膜は、金属微粒子の製造において、形成された金属微粒子が保護剤に被覆される前に溶媒中の酸素などと反応することによって、不可避的に生成する。この酸化物膜で被覆された金属微粒子は、大気中での焼成では焼結が困難であり、金属被膜の導電性を大きく低下させる。
【0010】
銅微粒子の製造方法において、この酸化物膜の生成を抑制する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2においては、保護剤としてクエン酸を用いて、銅源が溶解した溶媒中に不活性ガスを流入しながら還元し、銅微粒子を製造する。特許文献2によれば、クエン酸で被覆される銅微粒子を形成して、銅微粒子の酸化、および焼結により得られる銅被膜へのクエン酸の残存を抑制することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1においては、保存中に、金属微粒子を被覆する保護剤と脱離剤とが反応することによって、保護剤の脱離が促されて、金属ペーストの劣化寿命(ポットライフ)を短縮させるという問題がある。
【0013】
また、特許文献2においては、酸化物膜の生成を抑制できるが、保護剤として、沸点や分解温度の高いクエン酸を用いているため、低温での焼結が困難であり、クエン酸が銅被膜中に残存し、導電性が低下する。また、保護剤が分解されにくいため、銅微粒子同士の焼結性が低く、形成される銅被膜の接合強度が低くなると考えられる。
【0014】
本発明は、このような問題を鑑みて成されたもので、その目的は、微細な粒子径を有し、かつ低温度での焼結性に優れる銅微粒子およびその製造方法、並びに銅微粒子を含む銅微粒子分散液およびその製造方法を提供することにある。また、銅微粒子分散液、または銅微粒子を含む銅ペーストから形成され、導電性に優れた銅被膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様は、
アルコール溶媒に還元剤、
炭素数1〜6の脂肪族モノカルボン酸からなる保護剤、および、銅化合物としての
銅酸化物もしくはカルボン酸銅を添加して、前記アルコール溶媒中に前記銅化合物を固体状態で分散し、
前記アルコール溶媒中で分散している前記銅化合物を還元することにより、平均粒子径が1nm以上100nm以下であり、
前記炭素数1〜6の脂肪族モノカルボン酸からなる保護剤で表面が被覆されて凝集が抑制されるように構成された銅微粒子を形成し、
前記アルコール溶媒中に前記銅微粒子が分散していることを特徴とする銅微粒子分散液の製造方法である。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1の態様の銅微粒子分散液の製造方法において、前記脂肪族モノカルボン酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸である銅微粒子分散液の製造方法である。
【0017】
本発明の第3の態様は、第1の態様又は第2の態様の銅微粒子分散液の製造方法において、前記還元剤がアミン類またはヒドラジン類である銅微粒子分散液の製造方法である。
【0019】
本発明の
第4の態様は、
第1〜第3の態様のいずれかに記載の銅微粒子分散液を精製して、前記脂肪族モノカルボン酸で表面が被覆された銅微粒子を得ることを特徴とする銅微粒子の製造方法である。
【0020】
本発明の
第5の態様は、
第1〜第3の態様のいずれかに記載の銅微粒子分散液を加熱することにより、前記脂肪族モノカルボン酸を脱離させ、前記銅微粒子の表面の銅酸化物膜を除去し、
前記銅微粒子分散液を精製して、前記脂肪族モノカルボン酸が脱離し、前記銅酸化物膜が除去された銅微粒子を得ることを特徴とする銅微粒子の製造方法である。
【0021】
本発明の
第6の態様は、
第5の態様の銅微粒子の製造方法により製造された銅微粒子を、前記脂肪族モノカルボン酸以外の保護剤を含む溶媒に添加して、前記脂肪族モノカルボン酸以外の前記保護剤を被覆し、前記脂肪族モノカルボン酸以外の前記保護剤で表面が被覆された前記銅微粒子が分散した銅微粒子分散液を形成し、
前記銅微粒子分散液を精製して、前記脂肪族モノカルボン酸以外の前記保護剤で被覆される前記銅微粒子を得ることを特徴とする銅微粒子の製造方法である。
【0022】
本発明の
第7の態様は、
アルコール溶媒中に、平均粒子径が1nm以上100nm以下であり、
炭素数1〜6の脂肪族モノカルボン酸からなる保護剤で表面が被覆されて凝集が抑制されるように構成された銅微粒子が分散しており、
前記アルコール溶媒中に、前記脂肪族モノカルボン酸が存在していることを特徴とする銅微粒子分散液である。
【0023】
本発明の
第8の態様は、
第7の態様の銅微粒子分散液において、前記脂肪族モノカルボン酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸である銅微粒子分散液である。
【0024】
本発明の
第9の態様は、
平均粒子径が1nm以上100nm以下であり、
炭素数1〜6の脂肪族モノカルボン酸からなる保護剤で表面が被覆されて凝集が抑制されるように構成されたことを特徴とする銅微粒子である。
【0025】
本発明の
第10の態様は、
第9の態様の銅微粒子を用いて、前記銅微粒子が加熱され、前記脂肪族モノカルボン酸が脱離することにより、前記銅微粒子の表面の銅酸化物膜が除去された銅微粒子である。
【0026】
本発明の
第11の態様は、
第10の態様の銅微粒子を用いて、前記銅微粒子の表面に前記脂肪族モノカルボン酸以外の保護剤で被覆された銅微粒子である。
【0027】
本発明の
第12の態様は、
第9〜第11の態様のいずれかの銅微粒子と、溶剤組成物と、を含む銅ペーストである。
【0028】
本発明の
第13の態様は、
第7または第8の態様の銅微粒子分散液、または
第12の態様の銅ペーストを焼成し形成される銅被膜である。
【0029】
本発明の
第14の態様は、
第13の態様の銅被膜において、体積抵抗率が10
−4Ω・cm以下である銅被膜である。
【0030】
本発明の
第15の態様は、
第7または第8の態様の銅微粒子分散液、または
第12の態様の銅ペーストを塗布し、200℃以下で焼成して銅被膜を形成する銅被膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、微細な粒子径を有し、かつ低温度での焼結性に優れる銅微粒子、および銅微粒子を含む銅微粒子分散液が得られる。また、導電性に優れた銅被膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
上述したように、銅微粒子は、製造の際に不可避的に酸化され、銅酸化物膜が生成される。このため、銅微粒子は、金微粒子や銀微粒子と比較して、微細な銅微粒子を安価に製造することが困難であった。
そこで、本発明者らは、微細な銅微粒子の製造方法について、特に、銅微粒子の製造に用いる保護剤を検討した。その結果、カルボン酸は、銅に対して強い結合力(吸着性)を示し、銅微粒子の表面エネルギーを低下させ、銅微粒子の微細化(粒子径の制御)に効果的に作用することがわかった。しかも、カルボン酸は、銅微粒子の保護剤として機能するだけでなく、製造の際に、銅微粒子表面に生成する銅酸化物膜を好適に除去して、フラックス剤としても機能することがわかった。このフラックス剤は、半田で使用されるものであって、金属酸化物膜や汚れなどを除去する機能を有しており、アビエチン酸や乳酸などが含まれている。また、カルボン酸の中でも、1つのカルボキシル基を有するモノカルボン酸を用いることにより、保護剤の分解温度(脱離温度)を低減し、焼成温度を低減でき
ることがわかった。さらに、モノカルボン酸は溶媒中で容易に脱離するため、製造時に用いた保護剤としてのモノカルボン酸を、様々な特性を持つ別の保護剤に変更(置換)することができることがわかった。
そして、本発明者らは、保護剤としてモノカルボン酸を用いて銅微粒子を製造することにより、焼結性に優れ、かつ低温での焼成が可能な銅微粒子分散液を製造できることを見出し、本発明を創作するに至った。
【0034】
以下に、本発明にかかる銅微粒子分散液の製造方法の一実施形態について説明する。
【0035】
(銅微粒子分散液の製造方法)
本実施形態の銅微粒子分散液の製造方法においては、まず、溶媒に銅化合物を分散させて、この溶媒中に還元剤および保護剤を添加する。
【0036】
溶媒としては、水、アルコール類、炭化水素類を使用できる。特に、本発明の製造方法では、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコールなどの低級アルコール類を好適に使用できる。これは、アルコール類は弱い還元剤としても働くため、銅微粒子の製造時における銅化合物の還元を促進することができるためである。さらに、低級アルコール類は沸点が低いことから、精製の際に除去しやすいためである。
【0037】
銅化合物としては、溶媒に溶解し銅イオン溶液となるものではなく、溶媒中に固体状態で分散可能なものを用いることができる。溶媒に溶解し銅イオン溶液となるものは、例えば、硫黄などを含む金属錯体やハロゲンを含む塩化銅などの、アニオンを含む銅化合物が挙げられる。このような特定の銅化合物を用いる場合、Cl(塩素)やS(硫黄)などのアニオンは、銅微粒子の生成の際に副生成物となり、製造される銅微粒子に不純物として残存するおそれがある。Clなどを含む副生成物は、一般的に分解温度が高く、銅微粒子の焼成温度では分解されない。つまり、副生成物は、銅微粒子の焼成の際に残存して、銅微粒子同士の焼結を損ねるような化学種となる。
銅化合物としては銅酸化物やカルボン酸銅が望ましい。上記銅酸化物は、除去の困難なアニオンを含まず、還元時に酸素だけを発生するため、分解温度の高い副生成物を形成しない。また、カルボン酸銅は、銅酸化物と同様にアニオンを含まず、分子中に含まれているカルボン酸をそのまま保護剤として利用できるため、製造時に添加するカルボン酸化合物の添加量を低減させ、より高い濃度で銅微粒子を製造することができる。
【0038】
銅化合物の添加量は、銅濃度の値が1〜89mass%の範囲となるように設定される。ここで銅濃度は、以下の式で定義される。
銅濃度(mass%)=銅質量(g)×100(mass%)/反応溶液の質量(g)
上記式において、反応溶液は、還元剤や保護剤を含む溶媒の質量となっている。銅濃度として、より望ましい範囲は1〜65mass%の範囲である。その理由は次のように説明される。銅化合物中に含まれている銅の質量を計算すると、銅濃度が89mass%以下であるものが多く、そのような銅化合物を用いた場合、89mass%を超える銅濃度で製造することは理論上不可能である。さらに、銅微粒子を製造するためには、還元剤と保護剤とが必要であり、化学量論上、銅化合物の還元に必要な還元剤量と、銅微粒子表面を保護する保護剤量を計算していくと、銅濃度の上限は89mass%以下であり、実験上も89mass%を超えるような条件では銅化合物が還元しない結果や、あるいは粗大な銅微粒子が生成する結果となる。他方、1mass%未満では、単位時間の銅微粒子製造量が少なく、製造法として実用的ではない。したがって、使用する原料の組み合わせにもよるが、微細な銅微粒子を高い効率で得るためには、銅濃度は1〜65mass%の範囲にあることが望ましい。
【0039】
還元剤としては、溶媒中の銅イオンを還元可能な物質であって、アニオン等を含まない含窒素有機化合物が望ましい。含窒素有機化合物は、C、H、N、Oからなる有機化合物であり、銅微粒子の生成に際して、分解温度の高い副生成物を発生させない。含窒素有機化合物の中でも、アミン類やヒドラジン類などがさらに望ましい。還元剤の添加量は、銅化合物との化学反応を考慮し、化学量論的に決定すればよい。
アミン類としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ビス(2−エチルヘキシル)アミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリルモノエタノールアミン、デシルモノエタノールアミン、ヘキシルモノプロパノールアミン、ベンジルモノエタノールアミン、フェニルモノエタノールアミン、トリルモノプロパノールアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイルモノエタノールアミン、ジラウリルモノプロパノールアミン、ジオクチルモノエタノールアミン、ジヘキシルモノプロパノールアミン、ジブチルモノプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ステアリルジプロパノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、オクチルジプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン、ベンジルジエタノールアミン、フェニルジエタノールアミン、トリルジプロパノールアミン、キシリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等を用いることができる。
ヒドラジン類としては,1,1−ジメチルヒドラジン、1−エチル−2−メチルヒドラジン、1,2−ジフェニルヒドラジン、1−メチル−1,2−ジフェニルヒドラジン、1,2−ジメチル−1,2−ジフェニルヒドラジン等がある。また、異なる化合物を2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0040】
保護剤としては、脂肪族モノカルボン酸を用いる。カルボン酸は、非共有電子対を有する酸素を含む官能基として、酸性を示すカルボキシル基(−COOH)を有する。カルボン酸は、酸素原子上の非共有電子対の作用によって、銅微粒子の表面に対して配位的な吸着性を示し、保護剤として機能する。また、カルボン酸は、上述したように、銅微粒子表面に生成する酸化物膜(酸化銅)を除去するフラックス剤としても機能する。カルボン酸には、もともと、銅微粒子表面に生成する酸化物膜(酸化銅)を溶解し、銅イオンとする働きがある。カルボン酸は、銅微粒子の焼成にともなう温度上昇により、酸としての活性が高まり、銅微粒子の周囲に微量に存在する酸化銅を溶かす。溶かされた酸化銅は酸素イオンと銅イオンとに分かれ、酸素イオンは系外に放出され、銅イオンは銅微粒子に取り込まれることで銅被膜の一部となる。このように、カルボン酸は、銅微粒子を被覆する保護剤として機能するとともに、銅微粒子表面に生成する酸化物膜(酸化銅)を除去するフラックス剤としても機能する。
【0041】
カルボン酸であれば保護剤としての機能だけでなく、フラックス剤としての機能を得ることができるが、焼結の際にカルボン酸自体が低温で脱離分解する必要性があるため、本実施形態においては、カルボキシル基を1つ有するモノカルボン酸を用いる。この理由は、複数のカルボキシル基を有するジカルボン酸やトリカルボン酸は、同程度の分子量のモノカルボン酸と比較したときに、分子間の結合が強く、沸点が高いためである。具体的には、モノカルボン酸であるカプロン酸(分子量116)と、ジカルボン酸であるコハク酸(分子量118)と、を比較すると、カプロン酸の沸点が205℃であるのに対してコハク酸の沸点が235℃となっている。このことが示すように、分子量に大きな違いがないにもかかわらず、カルボキシル基の数によって、カルボン酸の沸点が大きく変化する(後述する表3を参照)。コハク酸と同様に、カルボキシル基を複数有するクエン酸、酒石酸、リンゴ酸などは、酸化物膜除去の効果を有するものの、沸点や分解温度が高く、低温度
での分解脱離が困難である。また、乳酸は、1つのカルボキシル基を有するが、ヒドロキシル基を有し、銅微粒子表面への吸着力が強い。そのため、低温度で脱離しにくい。このような保護剤を用いると、低温で銅微粒子を焼結させても、保護剤が十分に分解脱離せず、形成される銅被膜に残存することになる。その結果、銅微粒子が効率的に焼結せず、形成される銅被膜の導電性が大きく低下する。したがって、本実施形態においては、カルボン酸の中でも、沸点や分解温度が低いモノカルボン酸を用いる。
【0042】
また、モノカルボン酸の中でも、脂肪族モノカルボン酸を用いる。脂肪族モノカルボン酸は、C、H、N、Oからなる有機化合物であり、分解温度の高い副生成物を発生させない。脂肪族モノカルボン酸としては、公知のものを用いることができるが、炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸を用いることがより望ましい。炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸などがある。これらのカルボン酸化合物は沸点が200℃以下のものが多く、低温で脱離可能である。また、カルボキシル基を有するため、銅微粒子の酸化膜を除去する効果を有する。
【0043】
保護剤の添加量は、上記した銅濃度の値が1〜89mass%の範囲となるように設定することができる。より望ましい保護剤の添加量としては、銅濃度が1〜65mass%の範囲となる値である。89mass%を超えるような条件では、銅化合物に対して保護剤が不足し、粗大な銅微粒子が生成するおそれがある。他方、1mass%未満では、銅化合物に対して保護剤が過剰となり、銅濃度が低下することによって、単位時間の銅微粒子製造量が少なくなるため、製造法として実用的ではない。保護剤の添加量を、銅濃度の値が上記範囲内の数値となるように設定することによって、形成される銅微粒子の表面を被覆する量よりも多くすることができる。すなわち、銅微粒子の表面に、保護剤を十分に吸着できるとともに、余剰した保護剤(脂肪族モノカルボン酸)を、溶媒中に残存させることができる。
【0044】
続いて、銅化合物が固体状態で分散した溶媒に、熱や超音波や電磁波やレーザーなどのエネルギーを加えることで、銅化合物から銅微粒子の金属核を還元し生成する。この金属核は凝集して銅微粒子へ少しずつ成長するが、この成長過程において、保護剤の吸着が起こり、銅微粒子の成長が抑制され、粒子径が制御される。最終的に、保護剤で被覆された銅微粒子が形成されて、溶媒中に銅微粒子が分散した銅微粒子分散液が得られる。
上記還元反応においては、銅化合物(固体)を溶媒に分散した状態(固液系)で還元しており、銅化合物を溶媒に溶解させ銅イオン溶液とした状態で還元する場合と比較すると、銅金属核の生成速度が抑制され、銅微粒子の成長が抑制される。この点について、以下に説明する。
銅イオン溶液とした状態で還元する場合、還元により、銅イオンから速やかに銅金属核が生成する。また、銅イオンが溶媒中に存在しており、銅金属核の生成が溶媒全体で生じる。すなわち、銅金属核の生成は、速度が速く、かつ溶媒全体で生じるため、銅金属核の凝集が生じやすく、結果的に銅微粒子の成長が早く粗大化しやすい。これに対して、分散した状態で還元する場合、銅化合物から銅イオンを溶出させ、その銅イオンを還元するため、銅金属核の生成自体が遅い。また、溶出した銅イオンは銅化合物の周囲に存在し、そこで還元されるため、銅金属核の生成は銅化合物の周囲に限定される。
このように、分散した状態で還元する場合、銅金属核の生成自体が遅く、かつ生成が銅化合物の周囲に限定されるため、銅金属核の凝集が抑制され、銅微粒子の成長が抑制される。その結果、微細な粒子径の銅微粒子を得ることができる。また、銅化合物の銅濃度を上記数値範囲内とすることで、銅微粒子の粒子径を制御している。
したがって、本実施形態においては、銅化合物を分散した状態で還元することにより、銅微粒子の成長を抑制するため、銅微粒子の粒子径を小さく制御する吸着性の強い保護剤(例えば、クエン酸など)を用いる必要性がなく、保護剤として吸着力の弱い脂肪族モノカルボン酸を用いても、微細な粒子径の銅微粒子を得ることができる。
【0045】
上記銅微粒子の生成において、生成される銅微粒子は、表面が保護剤で被覆されるが、保護剤に被覆される前に溶媒中の酸素と反応し酸化されるため、銅微粒子の表面には銅酸化物膜が不可避的に生成される。また、銅微粒子の生成に際しては、銅微粒子以外の副生成物が発生する。この副生成物は、原料物(銅化合物、還元剤、保護剤、および溶媒)に由来する化合物となる。副生成物としては、酸性である脂肪族モノカルボン酸と、塩基性であるヒドラジンと、の反応物である塩などが含まれる。本実施形態においては、原料物が、C、H、N、Oの有機成分からなっている。このため、発生する副生成物も上記成分からなっており、その分解温度は、銅微粒子の焼成温度よりも低い。すなわち、銅微粒子を焼成し銅被膜を形成する際に、副生成物は分解されるため、銅微粒子の焼結を阻害せず、しかも銅被膜中に残存しない。
【0046】
なお、上記実施形態においては、溶媒に予め銅化合物を分散させ、その後、還元剤および保護剤を添加したが、本発明は、使用する原料物(銅化合物、保護剤、還元剤など)の添加順序やエネルギー投入の時期は任意である。また、原料の組み合わせや、その添加の時期によって、反応速度や粒子径を制御できる。
また反応温度は、保護剤、還元剤、および溶媒の沸点よりも低いことが望ましい。保護剤などの沸点を超える反応温度では、反応の最中に溶媒、保護剤、または還元剤が蒸発する。その結果、銅化合物の還元が進行しないおそれや、微細な銅微粒子を得られないおそれがある。製造時の雰囲気としては、銅微粒子の酸化を防ぐために還元雰囲気や不活性雰囲気とすることが望ましいが、原料の組み合わせによっては大気中で製造することも可能である。
【0047】
本実施形態の銅微粒子分散液の製造方法によれば、保護剤として脂肪族モノカルボン酸を用いているが、溶媒に銅化合物(固体)が分散した状態で還元することにより、銅微粒子の成長を抑制しつつ、微細な銅微粒子を形成して、銅微粒子分散液を製造することができる。
【0048】
また、製造される銅微粒子分散液は、溶媒中に、脂肪族モノカルボン酸で表面が被覆された銅微粒子が分散しており、しかも、脂肪族モノカルボン酸が残存している。この銅微粒子分散液には、原料物に由来する副生成物が含まれることになるが、副生成物は分解温度が低く、銅微粒子分散液の焼成と同時に分解除去されるため、精製を必要とせず、焼結材料としての銅ペーストとして用いることができる。この銅微粒子分散液を焼成する場合、脂肪族モノカルボン酸の分解温度が比較的低く低温度で脱離するため、銅微粒子分散液を低温度で焼成することが可能である。さらに、脂肪族モノカルボン酸が酸化物膜を除去する働きを有するため、酸化のしやすい銅微粒子であっても、酸化物膜が除去されて焼結が促進される。
これに対して、従来の銅微粒子分散液は、銅微粒子の保護剤として、例えばアミン化合物などが用いられている。アミン化合物などは、銅微粒子表面や分散液中に存在して、焼成の際に銅微粒子の焼結を阻害し、銅被膜の導電性を低下させることになる。このため、従来においては、分散液を精製して、分散液中の溶媒に含まれる保護剤を除去する必要性があった。また、銅微粒子の表面を被覆する保護剤を除去するため、高温度で焼結させる必要性があった。
このように、本実施形態の銅微粒子分散液によれば、保護剤として、脱離温度の低い脂肪族モノカルボン酸を用いており、銅微粒子の焼成時に保護剤を除去できるため、分散液の精製工程を必要としない。
【0049】
上記実施形態において、脂肪族モノカルボン酸が炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸であって、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸であることが望ましい。この構成とすることにより、用いる保護剤に対応させて、銅微粒子分散液の焼成温
度を200℃以下とすることができる。
【0050】
(銅微粒子の製造方法)
本発明においては、上述した銅微粒子分散液を
図1に示すような処理を行うことで、
図2A、
図2B、
図2Cに示す3種類の銅微粒子を得ることができる。
図2Aは、保護剤としての脂肪族モノカルボン酸で表面が被覆された銅微粒子の断面図である。
図2Bは、脂肪族モノカルボン酸が脱離するとともに、表面の銅酸化物膜が除去された銅微粒子の断面図である。
図2Cは、脂肪族モノカルボン酸が脱離するとともに、表面の銅酸化物膜が除去されて、当初被覆された脂肪族モノカルボン酸以外の保護剤により被覆された銅微粒子の断面図である。以下に、それぞれの銅微粒子の製造方法について説明する。
【0051】
まず、脂肪族モノカルボン酸で表面が被覆された銅微粒子を製造する製造方法の一実施形態について説明する。本実施形態にかかる銅微粒子の製造方法は、銅微粒子分散液を製造する工程と、銅微粒子分散液を精製し、銅微粒子を得る工程と、を有している。銅微粒子分散液を製造する工程は、上述した銅微粒子分散液の製造方法と同様である。
【0052】
銅微粒子分散液を精製し、銅微粒子を得る工程では、得られた銅微粒子分散液に有機溶媒などを添加し、ろ過することによって、銅微粒子を得る。精製により、銅微粒子に付着する原料物(溶媒など)、銅微粒子の生成に際して生じる副生成物などが取り除かれる。また、未反応の銅化合物や凝集により粗大化した銅粒子などがある場合でも、ろ過により同様に取り除かれる。銅微粒子分散液を精製することにより、保護剤としての脂肪族モノカルボン酸で表面が被覆された銅微粒子を得る。
図2Aに示すように、得られる銅微粒子1は、表面が脂肪族モノカルボン酸2で被覆されている。なお、銅微粒子1の表面には、銅酸化物膜(図示せず)が不可避的に生成している。
【0053】
上記実施形態により製造される銅微粒子は、微細な粒子径であって、分解温度が低く、かつ酸化物膜を除去する脂肪族モノカルボン酸により表面が被覆されている。脂肪族モノカルボン酸が低温度で脱離するため、銅微粒子を低温度で焼結することができる。また、脂肪族モノカルボン酸が酸化物膜を除去するため、酸化しやすい銅微粒子であっても、焼結性に優れている。
【0054】
製造される銅微粒子の粒子径は、500nm以下であることが望ましい。100nmを超える銅微粒子は理論上、融点降下を示さないが、経験的には保護剤の脱離温度(例えば、200℃以下)において焼結が可能であり銅被膜を形成することが可能である。100nmを超える銅微粒子の場合、何らかの保護剤が吸着している銅微粒子の方が保護剤の吸着していない銅微粒子と比べて、低抵抗な銅被膜を形成できる。これは保護剤の脱離や分解で発生する熱が銅微粒子の焼結を促進しているためだと考えられる。一方、100nm以下の銅微粒子は保護剤の有無に関わらず、銅微粒子の融点降下の効果によって導電性の銅被膜を形成できる。高導電性の銅被膜を形成するためには,融点降下を示す100nm以下の銅微粒子であることがより望ましい。
【0055】
次に、脂肪族モノカルボン酸が脱離するとともに、銅微粒子の表面の銅酸化物膜が除去された銅微粒子の製造方法の一実施形態について説明する。
銅微粒子分散液を加熱して、溶媒中に分散する銅微粒子の保護剤としての脂肪族モノカルボン酸を脱離、分解させる。脂肪族モノカルボン酸は、加熱により酸としての活性が高まり、銅微粒子の表面から脱離する際に、銅微粒子の表面に不可避的に生成する銅酸化物膜を除去する。そして、保護剤の脱離した銅微粒子が分散する銅微粒子分散液を精製して、保護剤で被覆されておらず、かつ銅酸化物膜が除去された銅微粒子を得る。
図2Bに示すように、得られる銅微粒子1は、保護剤で被覆されていない。銅微粒子1は、脂肪族モノカルボン酸2の脱離にともなって銅酸化物膜が除去されている。
なお、銅微粒子の製造時に用いる溶媒の沸点が脂肪族モノカルボン酸よりも低い場合は、吸着している脂肪族モノカルボン酸よりも沸点の高い溶媒を添加して、加熱することが望ましい。一方、溶媒の沸点が脂肪族モノカルボン酸よりも高い場合は、新たに溶媒を加えずにそのまま加熱するだけでカルボン酸化合物を脱離することが可能である。
【0056】
上記製造方法により製造された銅微粒子は、加熱により脂肪族モノカルボン酸が脱離され、表面が保護剤で被覆されておらず、かつ、銅酸化物膜が除去されている。この銅微粒子によれば、予め保護剤が脱離しているため、銅微粒子を焼結するだけのエネルギーを与えることで、容易に銅被膜を形成することができる。しかも、銅酸化物膜が除去されているため、銅微粒子同士が容易に焼結して、緻密な銅被膜となる。
【0057】
表面の銅酸化物膜が除去されて、当初被覆された脂肪族モノカルボン酸以外の保護剤により被覆された銅微粒子の製造方法の一実施形態について説明する。
保護剤で被覆されておらず、かつ銅酸化物膜が除去された銅微粒子を、その他の保護剤を含む溶媒中に添加して、銅微粒子の表面に、その他の保護剤を被覆させる。
図2Cに示すように、得られる銅微粒子1は、銅酸化物膜(図示せず)が除去されて、その表面がその他の保護剤3で被覆されている。すなわち、本実施形態の製造方法によれば、脂肪族モノカルボン酸で被覆される銅微粒子を出発物として、脂肪族モノカルボン酸を脱離させ、その他の保護剤で被覆しなおす(置換する)ことができる。この時、置換する保護剤の特性によって、様々な用途の銅微粒子とすることができる。
【0058】
置換する保護剤としては、公知の例に従い、特に窒素、硫黄、または酸素などの非共有電子対を有する原子を含む官能基を持つ化合物を使用できる。これらの化合物は、非共有電子対を利用して金属表面に対して配位的に吸着することが可能である。窒素、硫黄、酸素を含む官能基としてはアミン基(−NH
2)、チオール基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)などがその例である。
【0059】
アミン基を有するアミン化合物としては、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ビス(2−エチルヘキシル)アミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリルモノエタノールアミン、デシルモノエタノールアミン、ヘキシルモノプロパノールアミン、ベンジルモノエタノールアミン、フェニルモノエタノールアミン、トリルモノプロパノール、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイルモノエタノールアミン、ジラウリルモノプロパノールアミン、ジオクチルモノエタノールアミン、ジヘプロパノールアミン、ジブチルモノプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ステアリルジプロパノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、オクチルジプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン、ベンジルジエタノールアミン、フェニルジエタノールアミン、トリルジプロパノールアミン、キシリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等がある。
【0060】
チオール基を有するチオール化合物としては、例えば、プロパンチオール、シクロヘキサンチオール、チオフェノール、4−クロロチオフェノール、2−アニリンチオール、1,2−エタンジチオール、2,2′−オキシジエタンチオール、2,2′−チオジエタンチオール、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,9−ノナンジチオール、ペンタエリスリチオール、1,4−シクロヘキサンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、2,4−
トルエンジチオール、α,α′−o−キシリレンジチオール、α,α′−m−キシリレンジチオール、α,α′−p−キシリレンジチオール、1,2,6−ヘキサントリチオール等がある。
【0061】
カルボキシル基を有するカルボキシル化合物としては、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸,ドデカン二酸、フマール酸、マレイン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,3−トリカルボン酸、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸等がある。
【0062】
上記保護剤で銅微粒子の表面を被覆しなおすことによって、それぞれの保護剤の特性を有する銅微粒子を得ることができる。したがって、本実施形態の銅微粒子の製造方法によれば、容易な工程により、銅微粒子の表面を被覆する保護剤を置換し、様々な特性を有する銅微粒子を製造することができる。
【0063】
(銅ペースト)
上述した銅微粒子を含む銅ペーストについて説明する。銅ペーストは、上述した銅微粒子と溶剤組成物とを含有しており、低温度で焼成することができる銅ペーストとして用いることができる。銅微粒子としては、脂肪族モノカルボン酸で被覆された銅微粒子、脂肪族モノカルボン酸が脱離するとともに、表面の銅酸化物膜が除去された銅微粒子、表面の銅酸化物膜が除去されて、当初被覆された脂肪族モノカルボン酸以外の保護剤により被覆された銅微粒子、の3種類を用いることができる。脂肪族モノカルボン酸で被覆された銅微粒子を用いる場合、溶剤組成物中に、脂肪族モノカルボン酸をさらに添加して、フラックス効果を高めてもよい。なお、銅ペーストとしては、上述した銅微粒子分散液をそのまま用いてもよい。
【0064】
銅微粒子の含有量は、銅ペースト全質量に対して5mass%以上95mass%以下の範囲とすることが望ましい。銅微粒子の含有量が5mass%未満となると、銅ペーストを焼成した際に、割れや空孔の少ない平滑な銅被膜を得るのが困難となる。他方、銅微粒子の含有量が95mass%よりも多くなると、銅ペーストの粘度が非常に高くなり、塗布性に支障をきたすおそれがある。また、銅ペーストは焼成時に溶剤組成物や保護剤の除去に伴う体積収縮が起こるため、それを考慮し、銅微粒子の含有量は30mass%以上80mass%以下の範囲とすることがさらに望ましい。この数値範囲とすることによって、平滑な銅被膜を得ることができる。なお、銅ペーストの含有量は、目的の銅被膜厚さやペースト粘度に応じて適宜調整することが可能である。
【0065】
本発明の銅微粒子を用いた銅ペーストにおいて、利用可能な溶剤組成物の種類としては、水、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、チオール類、単糖類、多糖類、直鎖の炭化水素類、脂肪酸類、芳香族類の群から選択することが可能であり、複数の溶剤を組み合わせて使用することも可能である。上記の群の中から、銅微粒子を覆う保護剤と親和性のある溶剤を選択することが望ましい。銅ペーストをコーティング可能な適正な粘度に調整し、また室温で容易に蒸発しない、比較的高沸点な低極性溶剤あるいは非極性溶剤であることが望ましく、より具体的には、炭素数10〜16個のノルマルの炭化水素やトルエン
、キシレン、1−デカノール、テルピネオールなどを好適に用いることができる。
【0066】
(銅被膜)
上記銅微粒子分散液または銅ペーストを焼成して、銅被膜を製造する。本実施形態の銅微粒子分散液または銅ペーストによれば、銅微粒子が低温度で焼成可能であり、かつ焼結性に優れるため、形成される銅被膜は、導電性に優れる。また、銅被膜中に保護剤や副生成物が残存しないため、緻密な銅被膜となる。この銅被膜によれば、抵抗率が10
−4Ω・cm以下となり、保護剤として、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸を用いた場合の銅被膜は、抵抗率1.5×10
−5Ω・cm以下とさらに導電性に優れたものとなる。
【実施例】
【0067】
以下の方法および条件で、本発明にかかる実施例の銅微粒子分散液または銅微粒子を製造した。これらの実施例は,本発明にかかる銅微粒子分散液または銅微粒子の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0068】
(実施例1)
実施例1では、保護剤(およびフラックス剤)として酢酸を用いて、銅微粒子を製造した。
銅化合物として酸化銅(I)を0.1mol、保護剤として酢酸(沸点118℃)を50mmol、還元剤としてヒドラジンを0.1mol、溶媒としてイソプロパノールを100ml混合し、300mlのフラスコ中に加えた。この溶液を攪拌しながら、70℃で1時間加熱し、酸化銅(I)を還元させ、銅微粒子分散液を得た。この銅微粒子分散液を精製し、銅微粒子を得た。銅微粒子の製造条件を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1で得られた銅微粒子に示差熱・熱重量測定を行い、銅微粒子に吸着した保護剤の脱離温度を測定した。示唆熱・熱重量測定は「TG8120」(株式会社リガク製)を用い、TG−DTA分析することによって、保護剤の脱離温度を測定した。
図3に、実施例1の示差熱・熱重量測定の結果を示す。
図3において、熱重量測定の結果を左側の軸に示し、示差熱分析の結果を右側の軸に示す。示差熱・熱重量測定の結果によれば、実施例1の銅微粒子は、150℃付近で保護剤の酢酸が脱離し、重量の減少が停止したことがわかる。
【0071】
また、実施例1の銅微粒子を電子顕微鏡FE−SEM「S−5000」(日立製作所製)により観察した。その時の電子顕微鏡写真を
図4Aに示す。
図4Aによれば、保護剤として酢酸を用いて、微細な銅微粒子を製造できることがわかる。この平均粒子径を測定すると60nmであった。銅微粒子の平均粒子径測定には、レーザドップラー動的光散乱装
置「UPA−EX150型」(日機装製)を用い、体積平均値を平均粒子径とした。
【0072】
実施例1で得られた銅微粒子を、窒素中200℃、60分で焼結した。得られた銅被膜の電子顕微鏡写真を
図5Aに示す。
図5Aによれば、酢酸により銅酸化物膜が除去されて、銅微粒子の焼結が促進されていることがわかる。また、ネック(銅微粒子の接合部分)が成長し、銅微粒子同士が融着することによって、形成される銅被膜が緻密化されていることがわかる。
次に、得られた銅被膜の導電性を評価する。導電性は、4探針電気抵抗測定装置を用いて、銅被膜の体積抵抗率を測定した。実施例1の銅被膜の体積抵抗率を測定したところ、1.1×10
−5Ω・cmを示した。測定結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
実施例3〜6で得られた銅微粒子の粒子径は、表2に示すように、実施例3では70nm、実施例4では70nm、実施例5では70nm、実施例6では80nmであった。次に、実施例1と同様に、銅被膜を製造し、その体積抵抗率を測定したところ、表2に示すように、実施例3〜6のいずれの銅被膜も1.2×10
−5Ω・cmの体積抵抗率を示した。
【0076】
(比較例1)
比較例1では、表1に示すように、銅化合物として酸化銅(I)、溶媒としてイソプロパノール、還元剤としてヒドラジン、脂肪族モノカルボン酸は添加しなかった。300mlのフラスコに、0.1molの酸化銅(I)、100mlのイソプロパノール、0.1molのヒドラジンを加え、70℃で60分反応を行った。
得られた比較例1の銅微粒子の電子顕微鏡写真を
図4Bに示す。
図4Bに示すように、
保護剤を用いない場合、微細な粒子径の銅微粒子を製造することは困難であることがわかる。その平均粒子径は、400nmであった。
また、実施例1と同様にして、比較例1の銅微粒子を用いて銅被膜を製造した。得られた銅被膜の電子顕微鏡写真を
図5Bに示す。
図5Bに示すように、角ばった銅微粒子が観察され、この角ばりは銅微粒子の表面が焼成温度でまったく融けていない(融着してない)ことを意味している。また、製造された銅被膜の導電性を測定したところ、比較例1の銅被膜は導電性を示さなかった。比較例1の銅微粒子は、粒子径が400nmであり、融点降下現象を示さず、十分に融着が進行しなかったものと考えられる。また、銅微粒子の表面には、保護剤、フラックス剤ともに吸着していないために、酸化膜除去効果を得られないばかりか、保護剤の脱離熱を得ることができなかった。その結果、比較例1の銅微粒子は、焼結性が悪く、製造される銅被膜は導電性を示さなかった。
【0077】
(比較例2)
比較例2では、表1に示すように、実施例1の保護剤としての酢酸を、従来保護剤としてよく用いられるドデシルアミンに変更しただけで、その他の条件については実施例1と同様に製造した。比較例2の銅微粒子の粒子径は350nmであり、ドデシルアミンでは微細な粒子径の銅微粒子を製造することが困難なことがわかった。
比較例2の銅微粒子を用いて、銅被膜を製造した。得られた銅被膜の電子顕微鏡写真を
図5Cに示す。
図5Cに示すように、やや丸みを帯びた銅微粒子が観察された。この丸みは、焼成温度で銅微粒子の表面がわずかに融けていることを意味している。
製造された銅被膜の体積抵抗率を測定したところ、比較例2の銅被膜の体積抵抗率は1.1×10
−3Ω・cmを示した。比較例2の銅微粒子は、350nmであり融点降下を示さない。ドデシルアミンは酸化膜除去効果を示さないが、ドデシルアミンの脱離にともなう熱は発生すると考えられる。その結果、比較例1よりは良好で、実施例1には及ばない銅被膜が得られたと考えられる。
【0078】
(比較例3)
比較例3では、保護剤をトリカルボン酸のクエン酸に変更しただけで、その他の条件については実施例1と同様に製造した。比較例3の銅微粒子の平均粒子径は60nmであり、実施例1と同様に、微細な粒子径の銅微粒子を製造することができた。
比較例3で得られた銅微粒子に示差熱・熱重量測定を行い、銅微粒子に吸着した保護剤の脱離温度を測定した。
図7は、比較例3の示差熱・熱重量測定の結果を示す。
図7に示す示差熱・熱重量測定の結果によれば、比較例3の銅微粒子は、300℃付近で保護剤の酢酸が脱離し、重量の減少が停止したことがわかる。
比較例3の銅微粒子を窒素中200℃、60分で焼結し、銅被膜を製造した。
図8Aに、比較例3の焼結前の銅微粒子の電子顕微鏡写真を示し、
図8Bに、比較例3の銅微粒子を焼結した後の銅被膜の電子顕微鏡写真を示す。
図8Aおよび
図8Bによれば、焼成により、銅微粒子同士の焼結が進行していないことがわかる。これは、焼成温度200℃では、クエン酸が十分に脱離、分解されず、銅微粒子同士の焼結を阻害したためと考えられる。この結果、銅微粒子の融着が不十分で、銅被膜が緻密化されていないことがわかる。
また、製造された銅被膜の体積抵抗率を測定したところ、比較例3の銅微粒子で製造される銅被膜は、3.8×10
−4Ω・cmを示した。実施例1と比較して銅被膜の抵抗率が高い原因は、200℃の焼成では、脱離温度(分解温度)が300℃付近であるクエン酸を十分に分解できず、銅被膜中にクエン酸が残存し、導電性を低下させたことが考えられる。