特許第5848711号(P5848711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5848711
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】銀粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20160107BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20160107BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20160107BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20160107BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20160107BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160107BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20160107BHJP
【FI】
   B22F9/24 E
   B22F1/00 K
   B22F9/00 B
   H01B5/00 A
   H01B1/22 A
   H01B13/00 501Z
   H01B1/00 A
   B22F1/00 L
   B22F1/00 M
   B22F9/24 B
   B22F9/24 C
【請求項の数】1
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-542897(P2012-542897)
(86)(22)【出願日】2011年11月4日
(86)【国際出願番号】JP2011075508
(87)【国際公開番号】WO2012063747
(87)【国際公開日】20120518
【審査請求日】2013年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-250251(P2010-250251)
(32)【優先日】2010年11月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100125793
【弁理士】
【氏名又は名称】川田 秀美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 友之
(72)【発明者】
【氏名】吉井 明人
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/127349(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/127343(WO,A1)
【文献】 特開2006−183092(JP,A)
【文献】 特開2007−138250(JP,A)
【文献】 特開2007−138249(JP,A)
【文献】 特開2009−013449(JP,A)
【文献】 特開2006−193795(JP,A)
【文献】 特開2006−097086(JP,A)
【文献】 特開2006−002228(JP,A)
【文献】 特開2001−107101(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/096569(WO,A1)
【文献】 特開昭53−021068(JP,A)
【文献】 特表平11−505884(JP,A)
【文献】 特表2009−527640(JP,A)
【文献】 特開2008−115439(JP,A)
【文献】 特開平08−311659(JP,A)
【文献】 特開2006−152344(JP,A)
【文献】 Yujiang SONG, Ying‐Bing JIANG, Haorong WANG, Donovan A. PENA, Yan QIU, James E. MILLER, John A. SHE,Platinum nanodendrites,Nanotechnology,2006年 4月13日,Vol.17 No.5,1300-1308
【文献】 Yujiang SONG, Yi YANG, Craig J. MEDFORTH, Eulalia PEREIRA, Anup K. SINGH, Huifang XU, Yingbing JIANG,Controlled Synthesis of 2-D and 3-D Dendritic Platinum Nanostructures,J. Am. Chem. Soc.,2004年 1月21日,Vol.126 No.2,635-645
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の開放連通多孔体である銀粒子の製造方法であって、
前記銀粒子は、画像解析式粒度分布測定法による体積累積粒径D50が、0.5〜9μmであり、
タップ密度が1.8〜4.5g/cmであり、
BET法により測定した比表面積が2〜6m/gであり、
画像解析式粒度分布測定法による体積累積粒径D50を粒子直径dとし、銀粒子の理論密度をρとして下記式(1)で表される比表面積SSと、BET法により測定した比表面積BSとから算出される、下記一般式(2)で表される数値Kが、3≦K≦15であり、
SS=6/ρd ・・・(1)
(SS/BS)×100=K ・・・(2)
硝酸銀と、クエン酸とを液相中で混合する工程と、次いで、核物質を別途添加することなく、アスコルビン酸又はその異性体を添加して、銀粒子を析出させる工程と、析出した銀粒子を乾燥する工程とを含み、混合する工程及び析出する工程における温度が10〜30℃であり、乾燥する温度が0〜80℃である、銀粒子の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無核かつ球状の開放連通多孔体である、金属粒子及びその製造方法に関する。更には、本発明は、核物質を必要とせず、中心から外方に向かって均一に樹状に結晶成長し、球面に微細な凹凸構造を有する金属粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解法により樹状(デンドライト状)に銀や銅等の結晶を極板上に成長させて得られた微粒銀粉が知られている(特許文献1)。また、無電解法により核物質を中心として核物質から樹状(デンドライト状)に銀や銅等の結晶を成長させて、放射状に延設された凸部と、当該凸部の間隙に凹部を備えた金属粒子(特許文献2)や、栗のイガ状に突き出した複数の突起を有する金属粒子(特許文献3)等が知られている。また、無電解湿式プロセスにより得られるデンドライト状の銀粉も知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−204795号公報
【特許文献2】特開2004−149903号公報
【特許文献3】特開2009−144196号公報
【特許文献4】特開2005−146387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている微粒銀粉は、電解法により極板に析出した銀粒子を極板から掻き落とし、さらに電解して樹状銀粉を得ている。このため、樹状成長が比較的不均一であり、真球状の微粒銀粉が得られない。加えてタップ密度が小さいため、均一な焼結膜が生成しにくい。
【0005】
特許文献2に記載されている金属粒子は、核物質を中心に樹状に結晶成長させているため核物質が必ず必要となり、得られた金属粒子は、球の体積を100容量%としたときに凹部からなる空隙率が好ましくは40容量%を超える比較的疎な構造となる。
【0006】
特許文献3に記載されている金属粒子も、核物質を中心に樹状に結晶成長させているため、核物質が必ず必要となり、得られた金属粒子は、栗のイガ状の多数の突起を有しているため、栗のイガ状の突起同士が絡まりあって、粒子同士の凝集が起こりやすくなる。
【0007】
特許文献4に記載されている銀粉は、核物質は必要としないものの、樹状部が薄く針状に結晶成長させているため、薄く針状の樹状部が絡まりあって、銀粉同士の凝集が起こりやすくなる。また、この銀粉は、樹状部が薄く針状に結晶成長しているため、比較的疎な構造であり、タップ密度も0.4〜0.7g/cmと小さい。
【0008】
本発明は、金属粒子同士の結合や凝集が起こりにくく、分散性に優れ、適度なタップ密度を有し、比表面積が大きく、比表面積に対して密度が大きい、金属粒子及びその製造方法を提供することを課題とする。本発明は、導電性ペースト等の導電性組成物に用いた場合に、比較的低温(例えば120〜200℃)で硬化させることができ、十分な導電性が得られ、比重や抵抗値の調整が容易となる硬化体を得ることができる、金属粒子及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決する本発明は、特定の形状を有する金属粒子であり、金属粒子同士の結合や凝集が起こりにくく、分散性に優れ、適度なタップ密度を有し、比表面積が大きく、比表面積に対して密度が大きく、導電性ペースト等の導電性組成物に用いた場合に、比較的低温(例えば120〜200℃)で硬化させることができ、十分な導電性が得られ、比重や抵抗値の調整が容易となる硬化体を得ることができる。
したがって、本発明は、無核かつ球状の開放連通多孔体であることを特徴とする金属粒子に関する。
本発明は、画像解析式粒度分布測定法による体積累積粒径D50が、0.1〜15μm、タップ密度が1〜6g/cm、BET法により測定した比表面積が0.25〜8m/gである上記金属粒子に関する。
本発明は、画像解析式粒度分布測定法による体積累積粒径D50を粒子直径dとし、金属粒子の理論密度をρとして下記式(1)で表される比表面積SSと、BET法により測定した比表面積BSとから算出される、下記一般式(2)で表される数値Kが、3≦K≦72である、上記金属粒子に関する。
SS=6/ρd ・・・(1)
(SS/BS)×100=K ・・・(2)
本発明は、倍率20,000倍の走査型電子顕微鏡で撮影した金属粒子の断面の画像を画像処理して得られる空隙部分の領域SAが、20≦SA≦40である、上記金属粒子に関する。
本発明は、倍率20,000倍の走査型電子顕微鏡で撮影した画像における、外観形状が毬藻状である、上記金属粒子に関する。本発明は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡で撮影した画像における、断面形状が無核の珊瑚状である、上記金属粒子に関する。
本発明は、倍率20,000倍の走査型電子顕微鏡で撮影した断面構造が図1に示す構造を有する、上記金属粒子に関する。
本発明は、銀、銅、金、ニッケル及びパラジウムからなる群より選ばれる、上記金属粒子に関する。
【0010】
また、本発明は、無核かつ球状の開放連通多孔体である金属粒子と、樹脂とを含む導電性組成物、この導電性組成物を硬化させてなる、硬化体からなる導電体、及びこの導電体を有する電子部品に関する。
【0011】
本発明は、金属塩と、ポリカルボン酸とを液相中で混合する工程と、次いで還元剤を添加して、金属粒子を析出させる工程と、析出した金属粒子を乾燥する工程とを含む金属粒子の製造方法に関する。
本発明は、混合する工程及び析出する工程における温度が10〜30℃であり、乾燥する温度が0〜80℃である、上記金属粒子の製造方法に関する。
本発明は、金属塩を構成する金属が、銀、銅、金、ニッケル及びパラジウムからなる群より選ばれ、金属塩が、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び塩化塩からなる群より選ばれる、上記金属粒子の製造方法に関する。
本発明は、ポリカルボン酸が、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸及びマロン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリカルボン酸である、上記金属粒子の製造方法に関する。本発明は、還元剤が、アスコルビン酸又はその異性体である、上記金属粒子の製造方法に関する。
【0012】
さらに、本発明は、上記金属粒子の製造方法により得られた金属粒子に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、無核かつ真球に近い球状の開放連通多孔体である金属粒子であり、核物質を必要とせずに中心から外方に向かって均一に樹状に結晶成長してなる金属粒子を包含するものである。本発明によれば、金属粒子は、球面に微細な凹凸構造を有するように放射状に結晶成長した樹状部を有するため、金属粒子同士の結合や凝集が起こりにくく、分散性に優れ、適度なタップ密度を有し、比表面積が大きく、かつ、比表面積に対して密度が大きい。本発明は、本発明による金属粒子を導電性ペースト等の導電性組成物に用いた場合に、比較的低温(例えば120〜200℃)で硬化させることができ、十分な導電性を有する硬化体を得ることができ、比重や抵抗値の調整が容易となる、金属粒子及びその製造方法を提供することができる。
【0014】
また、本発明は、金属塩と、ポリカルボン酸とを液相中で混合し、反応させた後、還元剤を添加することによって、無核かつ球状の開放連通多孔体である金属粒子を得ることができ、核物質を必要とせず、中心から外方に向かって均一に樹状に結晶成長してなり、球面に微細な凹凸構造を有する金属粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の金属(銀)粒子の断面の倍率20,000倍のSEM写真である。
図2】本発明の金属(銀)粒子の断面の倍率10,000倍のSEM写真である。
図3】本発明の金属(銀)粒子の倍率10,000倍のSEM写真である。
図4】本発明の金属(銀)粒子の倍率20,000倍のSEM写真である。
図5】本発明の金属(銀)粒子の倍率40,000倍のSEM写真である。
図6】本発明の金属(銀)粒子の倍率5,000倍のSEM写真である。
図7】本発明の金属(銀)粒子の倍率2,000倍のSEM写真である。
図8】画像処理により空隙部分の領域SAを示す、本発明の金属(銀)粒子の断面の倍率20,000倍のSEM写真である。
図9】本発明の方法によって製造される金属(銀)粒子の成長状態を示す概念図である。
図10】本発明の金属(銀)粒子の倍率5,000倍のSEM写真拡大図である。
図11】本発明の金属(銀)粒子の倍率5,000倍のSEM写真拡大図である。
図12】比較例1の方法によって製造される金属(銀)粒子の成長状態を示す概念図である。
図13】比較例1の金属(銀)粒子の倍率5,000倍のSEM写真である。
図14】比較例2の金属(銀)粒子の倍率5,000倍のSEM写真である。
図15】鱗片状銀粒子の倍率5,000倍のSEM写真である。
図16】体積累積平均粒径の異なる金属(銀)粒子の分析値及び倍率10,000倍、倍率5,000倍、倍率2,000倍、倍率20,000倍のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の金属粒子の断面を、倍率20,000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)で画像を示す。本発明の金属粒子は、断面構造が図1に示す構造を有する。
【0017】
図1に示すように、本発明の金属粒子は、無核かつ球状の開放連通多孔体であり、核物質を必要とせずに、中心から外方に向かって均一に樹状に結晶成長してなるものも包含する。本発明の金属粒子は、薄い針状ではなく、球面に微細な凹凸構造を有するように放射状に結晶成長した樹状部を有している。なお、本明細書において、「無核」とは、核発生のために別途添加する核物質が存在しないことを意味する。
【0018】
図2は、本発明の金属粒子の断面を、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡で撮影したSEM写真である。図2に示すように、本発明の金属粒子は、断面形状が無核の珊瑚状である。
【0019】
図3、4、5は、走査型電子顕微鏡(SEM)で、それぞれ倍率10,000倍、20,000倍、40,000倍で、本発明の金属粒子を撮影した画像である。図4に示すように、本発明の金属粒子は、外観形状が毬藻状である。
【0020】
図3、4、5に示すように、金属粒子は、ほぼ真球状であり、放射状にほぼ均一結晶成長した樹状部を有しているため、球面に微細な凹凸を有する。本発明の金属粒子の球面の凹凸は、凸部と凸部の間(凹部)の微細な構造を有している。
【0021】
図6、7は、それぞれ倍率5,000倍、倍率2,000倍で走査型電子顕微鏡(SEM)で、本発明の金属粒子を撮影した画像である。図6、7に示すように、本発明の金属粒子は、金属粒子同士の結合や凝集が起こりにくく、容易に分散可能であり分散性に優れている。このように金属粒子同士の結合や凝集が起こりにくいのは、本発明の金属粒子が、緻密かつ均一に結晶成長した樹状部を有し、凹凸形状が微細なため、球面の凹凸構造が噛み合わず結合や凝集が起こりにくくなっていると推測される。また、中心から外方に向かって放射状に結晶成長するため、金属粒子同士の結合が妨げられ、反発する応力が結晶成長の際に発生するため、金属粒子同士の結合力が弱い。
【0022】
このように、本発明の金属粒子は、金属粒子同士の結合や凝集が起こりにくいことから、樹脂等の媒体中への分散性に優れ、かつ、分散時に樹状部が折れることがなく、樹脂等に分散させて導電性ペースト等の導電性組成物とする場合に、比重や抵抗値の調整が容易となることが推測される。さらに、本発明の金属粒子は、ほぼ真球状である金属粒子の球面に微細な凹凸部が形成されている。この微細な凹凸構造によって、低温(例えば80〜100℃)で融解する。そのため、本発明の金属粒子を用いた導電性ペースト等の導電性組成物は、比較的低温(例えば120〜200℃)の加熱で金属粒子が溶融して、優れた導電性を発揮すると推測される。一方、従来のデンドライト状の金属粒子は、比較的疎な状態で、先端が尖った針状に結晶成長した樹状部を有する。このため、先端が尖った針状の樹状部同士が絡まり合い、強固に融着し、凝集し易くなり、樹脂等への分散性が劣る。また、先端に尖った針状部等が樹脂への混合時に折れ易くなることが推測され、比重や抵抗値の調整が困難となることが推測される。
【0023】
本発明の金属粒子は、画像解析式粒度分布測定法による体積累積粒径D50が、好ましくは0.1〜15μmであり、より好ましくは0.3〜10μmであり、さらに好ましくは0.5〜9μmである。
ここで画像解析式粒度分布測定法とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で所定倍率で撮影した金属粒子の画像の画像処理を行い、画像解析式粒度分布システム(例えば、商品名:マックビュー ver1.00、マウンテック社製)を用いて測定する方法であり、体積累積粒径D50とは、画像解析式粒度分布測定法により測定した体積累積50%における粒径をいう。
【0024】
また、本発明の金属粒子は、画像解析式粒度分布測定法による体積累積粒径D90が、好ましくは0.5〜12μm、より好ましくは0.99〜11μmであり、画像解析式粒度分布測定法による体積累積粒径D10が、好ましくは0.45〜7.8μmであり、より好ましくは0.47〜7.5μmである。体積累積粒径D90、D10は、それぞれ画像解析式粒度分布測定法により測定した体積累積90%、10%における粒径をいう。
【0025】
画像解析式粒度分布測定法により測定したD50に対するD90の割合(D90/D50)が、好ましくは1.2〜1.98、より好ましくは1.22〜1.65である。また、画像解析式粒度分布測定法により測定したD10に対するD50の割合(D50/D10)が、好ましくは1.05〜1.5、より好ましくは1.06〜1.45である。このように本発明の金属粒子は、粒径のばらつきが非常に小さく、ほぼ均一な粒径を有し、粒度分布がシャープであるため、形状保持性に優れているため、分散性に優れる。
【0026】
本発明の金属粒子は、タップ密度が、好ましくは1〜6g/cm、より好ましくは1.5〜5.5g/cm、さらに好ましくは1.8〜4.5g/cmである。タップ密度は、タップ密度測定器(蔵持科学機器製)を用いて、試料10gを10mL沈降管に精し、400回タッピングを行い、タップ密度を算出した値をいう。本発明の金属粒子は、無核かつほぼ真球の球状の開放連通多孔体であるため、内部に空隙部を有していない同じ直径の金属粒子と比較して、タップ密度が小さくなる。一方、薄く針状に結晶成長した樹状部を有する金属粒子に対して、本発明の金属粒子は、均一かつ緻密な樹状部を有するため、薄く針状に結晶成長した樹状部を有する金属粒子よりもタップ密度が大きくなる。本発明の金属粒子は、適度なタップ密度を有するため、導電性ペースト等の導電性組成物に用いた場合には、内部に空隙を有していない同一直径の金属粒子と比較して、小さい含有率で、十分な導電性を有する。
【0027】
本発明の金属粒子は、BET法により測定した比表面積が、好ましくは0.25〜8m/g、より好ましくは0.5〜7m/g、さらに好ましくは2〜6m/gである。このように、本発明の金属粒子は、BET法により測定した比表面積が上記範囲であるため、樹脂中に分散した時の分散性に優れるため好ましい。
【0028】
本発明の金属粒子は、画像解析式粒度分布測定法による体積累積粒径D50を粒子直径dとし、金属粒子の理論密度をρとして下記式(1)で表される比表面積SSと、BET法により測定した比表面積BSとから算出される、下記一般式(2)で表される数値Kが、好ましくは3≦K≦72、より好ましくは3≦K≦15である。
SS=6/ρd ・・・(1)
(SS/BS)×100=K ・・・(2)
【0029】
上記式(2)で表される数値Kが上記範囲内であると、樹脂中に分散した時の分散性に優れるため好ましい。
【0030】
本発明の金属粒子は、倍率20,000倍の走査型電子顕微鏡で撮影した金属粒子の断面の画像を画像処理して得られる空隙部分の領域SAが、好ましくは20≦SA≦40である。ここで、空隙部分の領域SAは、倍率20,000倍の走査型電子顕微鏡で撮影した金属粒子の断面画像を、画像解析ソフトウエア(三谷商事株式会社製 商品名:「WinROOF」)に取り込み、空隙部分と空隙部分以外の部分を解析することにより測定した値をいう。図8は、倍率20,000倍の走査型電子顕微鏡で撮影した金属(銀)粒子の断面画像を、画像処理し、空隙部分の領域SAには色が付され、空隙以外の部分は、白く撮影されている。
【0031】
本発明の金属粒子は、微細な開放連通孔を多数有しており、この開放連通孔は、中心から外方に向かって樹状に結晶成長した樹状部の間隙によって形成されるものであり、多数の開放連通孔が中心から外方に向かって金属粒子の内部に均一に成形されている。
【0032】
本発明の金属粒子は、銀、銅、金、ニッケル及びパラジウムからなる群より選ばれる金属粒子であることが好ましい。特に好ましくは、銀又は銅である。
【0033】
次に、本発明の金属粒子を製造する一実施の形態について説明する。
本発明の金属粒子の製造方法は、金属塩と、ポリカルボン酸とを液相中で混合する工程と、次いで還元剤を添加して、金属粒子を析出させる工程と、析出した金属粒子を乾燥する工程とを含む。
【0034】
金属塩と、ポリカルボン酸とを液相中で混合する工程の温度は、好ましくは10〜30℃であり、より好ましくは15〜25℃である。金属塩と、ポリカルボン酸とを液相中で混合する際の時間は、金属塩とポリカルボン酸が均一に混合されればよく、特に反応時間は限定されないが、好ましくは1分間〜1時間程度であり、より好ましくは5分間〜40分間程度である。
【0035】
還元剤を添加して、金属粒子を析出させる工程の温度は、好ましくは10〜30℃であり、より好ましくは15〜25℃である。還元剤を添加する時間は、特に限定されないが、還元剤は、金属塩とポリカルボン酸とを液相中で混合した混合液を撹拌しながら、一括で添加することが好ましい。還元剤を添加した後に、混合物を撹拌する時間も特に限定されないが、好ましくは還元反応に伴う発泡現象が終了した後、3分間〜1時間程度撹拌を継続することが好ましい。撹拌を停止し、混合液を静置すると、析出した金属粒子が沈殿する。
【0036】
析出した金属粒子は、濾過して採取した後に乾燥することが好ましい。乾燥温度は特に限定されないが、好ましくは0〜80℃であり、より好ましくは10〜60℃である。乾燥時間は、乾燥温度によって異なり、特に限定されないが、好ましくは1〜20時間、より好ましくは3〜18時間である。
【0037】
金属塩を構成する金属は、銀、銅、金、ニッケル及びパラジウムからなる群より選ばれる金属である。これらの金属であれば、本発明の特徴を有する金属粒子を得ることができる。金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び塩化塩からなる群より選ばれるものであることが好ましく、より好ましくは硝酸塩である。金属塩は、具体的には、硝酸銀、硝酸銅、硝酸金、硝酸ニッケル、硝酸パラジウム、硫酸銀、硫酸銅、硫酸金、硫酸ニッケル、硫酸パラジウム、炭酸銀、炭酸銅、炭酸ニッケル、塩化銀、塩化銅、塩化金、塩化ニッケル及び塩化パラジウムからなる群より選ばれるものであることが好ましい。金属塩は、より好ましくは硝酸銀、硝酸銅、硝酸金、硝酸ニッケル又は硝酸パラジウムであり、さらに好ましくは硝酸銀、硝酸銅又は硝酸金である。
【0038】
ポリカルボン酸は、特に限定されないが、脂肪族ポリカルボン酸、例えばジカルボン酸やオキシポリカルボン酸等が挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられ、ポリカルボン酸としては、例えば酒石酸、リンゴ酸等のオキシジカルボン酸や、クエン酸等のオキシトリカルボン酸が挙げられる。中でも、ポリカルボン酸としては、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、及びマロン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリカルボン酸であることが好ましく、より好ましくは、クエン酸、リンゴ酸又はマレイン酸である。ポリカルボン酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
金属塩と、ポリカルボン酸を混合する液相は、金属塩、ポリカルボン酸がともに可溶な溶媒であり、好ましくは純水、イオン交換水である。
【0040】
還元剤は、アスコルビン酸又はその異性体であることが好ましい。アスコルビン酸の異性体としては、L−アスコルビン酸、イソアスコルビン酸が挙げられる。還元剤は、アスコルビン酸又はその異性体の1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
金属塩、ポリカルボン酸、還元剤は、それぞれ純水又はイオン交換水に溶解して、水溶液として使用することが好ましい。金属塩水溶液の濃度は、好ましくは3〜20mol%/Lである。ポリカルボン酸水溶液の濃度は、好ましくは0.7〜40mol%/Lである。さらに還元剤水溶液の濃度は、好ましくは3〜10mol%/Lである。
金属塩水溶液、ポリカルボン酸水溶液、還元剤水溶液の濃度が上記範囲内であると、核物質を添加する必要なく、無核かつ球状の開放連通多孔体である金属粒子を得ることができ、中心から外方に向かって均一に樹状に結晶成長してなる金属粒子を得ることができる。
【0042】
金属塩とポリカルボン酸と還元剤の配合割合(固形分換算)は、それぞれの濃度にもよるが、例えば金属塩100質量部に対して、ポリカルボン酸を10〜100質量部配合することが好ましい。また、例えば金属塩100質量部に対して、還元剤を60〜600質量部配合することが好ましい。また、金属塩とポリカルボン酸と還元剤の合計量(固形分換算)を100質量%とした場合、金属塩の配合割合が10〜60質量%であり、ポリカルボン酸の配合割合が10〜40質量%であり、還元剤の配合割合が30〜80質量%であることが好ましい。
【0043】
また、本発明の金属粒子の製造方法において、必要に応じて添加剤を添加してもよい。
【0044】
添加剤としては、高級アルキルモノアミン塩、アルキルジアミン塩、4級アンモニウム塩等のカチオン系分散剤、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン系分散剤、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0045】
図9は、本発明の方法によって製造される金属粒子の成長状態を示す概念図である。また、図10図11は、それぞれ本発明の金属粒子の倍率5000倍のSEM写真拡大図である。
【0046】
図9に示すように、本発明の方法によって製造される金属粒子は、核物質を別途添加することなく、金属塩とポリカルボン酸とを含む混合液中に還元剤を添加することによって、溶液中で金属粒子が析出し、次いで析出した金属が中心から外方に向かって均一に樹状に結晶成長する。中心から外方に向かって放射状に、球面に微細な凹凸構造を有するように結晶成長する。図10図11に示すように、無核かつ球状の開放連通多孔体である金属粒子同士の樹状部の先端部が絡まり合うことなく、しかも隣接する金属粒子同士の境目で金属粒子同士が分割し易くなる。そのため本発明の金属粒子は、金属粒子同士の強固な金属粒子同士の結合や凝集が起こりにくく、分散性に優れている。また、樹脂等の媒体中への分散時に、樹状部の先端部等が折れることなく、樹脂等の媒体中に分散させて導電ペースト等を製造する場合に、比重や抵抗値の調整が容易となることが推測される。さらに、本発明の製造方法によって得られる金属粒子は、ほぼ真球状である金属粒子の球面に樹状部によって微細な凹凸が形成されているため、比較的低温で融解し、優れた導電性を発揮することが推測される。
【0047】
さらに、本発明は、無核かつ球状の開放連通多孔体である金属粒子と、樹脂とを含む導電性組成物、及びこの導電性組成物を硬化させてなる、硬化体からなる導電体、並びにこの導電体を有する電子部品である。
【0048】
導電性組成物に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリエステル、ポリスルホン、フェノキシ樹脂、ポリイミド等が例示される。熱硬化性樹脂としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂のようなアミノ樹脂;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、脂環式等のエポキシ樹脂;オキセタン樹脂;レゾール型、ノボラック型のようなフェノール樹脂;シリコーンエポキシ、シリコーンポリエステルのようなシリコーン変性有機樹脂等が好ましい。これらの樹脂は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
導電性組成物は、金属粒子と樹脂との重量比が、好ましくは90:10〜70:30である。金属粒子と樹脂との重量比が上記範囲内であると、導電性組成物を基板に適用して塗膜を形成し、この塗膜を加熱して得られた金属膜は、望ましい比抵抗値を維持することができる。
【0050】
また、本発明は、金属塩と、ポリカルボン酸とを液相中で混合し、反応させた後、還元剤を添加することによって、核物質を必要とせず、中心から外方に向かって放射状に、球面に微細な凹凸構造を有するように結晶成長した樹状部を有するため、金属粒子同士の結合や凝集が起こりにくく、比較的低温(例えば120〜200℃)で金属粒子が容易に融解し、金属粒子と樹脂の重量比が70:30と金属粒子の含有量が比較的少ない場合であっても、優れた比抵抗値を維持することができる。
【0051】
本発明の導電性組成物は、さらに溶媒を含むことができ、例えば、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらに対応する酢酸エステルのようなエステル類、テルピネオール等が挙げられる。溶媒は、金属粒子及び樹脂の合計100質量部に対して、2〜10質量部で配合することが好ましい。
【0052】
本発明の導電性組成物は、さらに、無機顔料、有機顔料、シランカップリング剤、レべリング剤、チキソトロピック剤及び消泡剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のものを含むことができる。
【0053】
本発明の導電性組成物は、無核かつ球状の開放連通多孔体である金属粒子と、樹脂と、その他の成分とを、星型撹拌機、ディソルバー、ビーズミル、ライカイ機、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー等の混合機に投入し、混合して製造することができる。このようにしてスクリーン印刷、浸漬、他の所望の塗膜形成方法に適する見かけ粘度を有する導電性組成物に調製することができる。
【0054】
本発明の導電性組成物を導電性ペーストとして用いて、ポリエチレンテレフタレート(PET)や酸化インジウムスズ(ITO)等の基材に、印刷、塗布等の方法により適用して塗膜を形成し、この塗膜を例えば150℃で硬化した硬化体からなる導電体を得ることができる。硬化体からなる導電体の比抵抗値は、35×10−4Ω・cm以下であることが好ましい。導電性組成物を加熱する温度は、導電性組成物を構成する樹脂によって異なり、特に限定されないが、樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、好ましくは60〜350℃、より好ましくは80〜300℃で加熱し、樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、好ましくは60〜350℃、より好ましくは80〜300℃で加熱する。
【0055】
このように、本発明の導電性組成物は、無核かつ球状の開放連通多孔体である金属粒子を含むことによって、比較的低温(例えば120〜200℃)で金属粒子が溶融し、均一な厚さ25μm程度の薄膜状であり、かつ優れた導電性を有する硬化体からなる導電体を形成することができる。
【0056】
本発明の導電性組成物は、電子回路や電極のような導電体、特に基材表面のパターン状の導電体としを有効に形成することができる。また、本発明の導電性組成物は、メッキ下地用、抵抗用、電極用、導電ペースト、半導体封止剤、ダイアタッチ剤等の導電性接着剤として好適に用いることができる。
【0057】
本発明の導電性組成物を硬化させてなる、硬化体からなる導電体は、チップコンデンサ、チップ抵抗の端面下地電極、可変抵抗器、フィルム基板回路等の電子部品として有用である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって、本発明を更に詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
硝酸銀水溶液10kg(濃度10mol%/L)、クエン酸水溶液4kg(濃度10mol%/L)、25℃の純水20kgをそれぞれ秤量した後、50リットル(L)のステンレス製タンクに投入し、室温(25℃±10℃)で、撹拌機(島崎製作所製、商品名:ジェット式アジター)を用いて30分撹拌し、硝酸銀及びクエン酸の混合液を調製した。
次に、アスコルビン酸水溶液17kg(L−アスコルビン酸水溶液;濃度5mol%/L)、25℃の純水300kgをそれぞれ秤量した後、450リットルのステンレス反応タンクに投入し、室温(25℃±10℃)で、撹拌機(島崎製作所製、商品名:ジェット式アジター)を用いて30分撹拌し、調製した。
次に、600mm径のステンレス製4枚羽根を有する撹拌機(500rpm)を用いて、調製したアスコルビン酸水溶液に、硝酸銀及びクエン酸の混合液を一括投入し、硝酸銀及びクエン酸の混合液とアスコルビン酸水溶液とを混合した。
硝酸銀及びクエン酸の混合液に、アスコルビン酸水溶液を添加した後、数秒後に還元反応が始まり、還元反応に伴う発泡現象が終了した後、30分間撹拌を継続し、その後、撹拌を停止した。還元反応後における硝酸銀、クエン酸及びアスコルビン酸の混合液のpHは2であった。
反応液を静置後、上澄み液を除去し、沈殿している銀粒子をヌッチェを用いて濾過し、濾過した銀粒子をステンレスバット上に広げ、60℃に保持した乾燥機中で15時間乾燥した。乾燥後、BET法による比表面積が3.2m/gであり、図1〜8、図10、11のSEM写真に示す銀粒子が得られた。倍率20,000倍のSEMで撮影した各銀粒子の断面画像を、画像解析ソフトウエア(商品名:WinROOF、三谷商事株式会社製)を用いて画像処理を行って測定したSA値は30であった。図8に示すように、倍率20,000倍の走査型電子顕微鏡で撮影した銀粒子の断面画像は、画像処理により、空隙部分の領域SAに色が付され、空隙以外の部分が白く撮影されている。
【0060】
図1〜8、図10,11に示すように、実施例1の銀粒子は、無核かつ球状の開放連通多孔体であり、中心から外方に向かって、球面に微細な凹凸構造を有するように均一に結晶成長した樹状部を有するため、金属粒子同士の結合や凝集が起こりにくい。
【0061】
(比較例1)
硝酸銀水溶液(濃度0.15mol/L)6リットルとアンモニア水(濃度25wt%)200mlとを混合して反応させ銀アンミン錯体水溶液を得て、これに還元剤として水和ヒドラジン(濃度80wt%)20gを添加することにより銀粒子を還元析出させ、濾過、洗浄、乾燥させて球状銀粉を得た。還元反応後における銀アンミン錯体とヒドラジンとを含む混合液のpHは2であった。
【0062】
図12は、比較例1の従来方法によって製造される金属粒子の成長を推測した概念図である。また、図13は、比較例1の銀粒子の倍率5,000倍のSEM写真である。
図12に示すように、従来の方法によって製造される金属粒子は、粒子が樹状ではなく、層を重ねて太るように成長しているので、図13に示すように、比較例1の銀粒子は、粒径にばらつきが生じ、また、銀粒子同士が表面で強固に融着し、凝集が起こり易くなる。比較例1の銀粒子は、樹状に結晶成長しておらず、金属粒子内に空隙が殆どないため、SA値を測定することができなかった。
【0063】
(比較例2)
硝酸銀水溶液10kg(濃度10mol%/L)、25℃の純水20kgを秤量した後、50リットルのステンレス製タンクに投入し、室温(25℃±10℃)で、撹拌機(島崎製作所製、商品名:ジェット式アジター)を用いて30分撹拌した。
次に、アスコルビン酸水溶液17kg(L−アスコルビン酸水溶液;濃度5mol%/L)、25℃の純水300kgをそれぞれ秤量した後、450リットルのステンレス反応タンクに投入し、室温(25℃±10℃)で、撹拌機(島崎製作所製、商品名:ジェット式アジター)を用いて30分撹拌し、調製した。
次に、600mm径のステンレス製4枚羽根を有する撹拌機(島崎製作所製、商品名:ジェット式アジター)、500rpmを用いて、調製したアスコルビン酸水溶液に、純水中に溶解させた硝酸銀水溶液を一括投入し、硝酸銀水溶液とアスコルビン酸水溶液とを混合した。
アスコルビン酸水溶液を添加した後、数秒後に還元反応が始まり、還元反応に伴う発泡現象が終了した後、30分間撹拌を継続し、その後、撹拌を停止した。還元反応後における硝酸銀とアスコルビン酸とを含む混合液のpHは2であった。
反応液を静置後、上澄み液を除去し、沈殿している銀粒子をヌッチェを用いて濾過し、濾過した銀粒子をステンレスバット上に広げ、60℃に保持した乾燥機中で15時間乾燥した。その際、得られた銀粒子は、図14のようなデンドライト形状であった。
【0064】
図14は、比較例2の銀粒子の倍率5,000倍のSEM写真である。図14に示すように、ポリカルボン酸を添加せずに製造した銀粒子は、中心から外方に向かって、比較的疎な状態で、先端が尖った針状に結晶成長した樹状部を有するため、先端が尖った針状の樹状部同士が絡まり合い、凝集し易くなる。また、先端に尖った針状部等が樹脂への混合時に折れ易くなることが推測され、比較例2の銀粒子を導電性ペーストに用いた場合に、比較的低温では均一な金属膜が形成されず、十分な導電性が得られず、比重や抵抗値の調整が困難となることが推測される。
【0065】
実施例1、比較例1、2の銀粒子について以下の測定を行った。結果を表1に示す。
・BET法による比表面積
・タップ密度測定器(蔵持科学機器製)を用いて、試料10gを10mL沈降管に精し400回タッピングを行い算出したタップ密度
・画像解析式粒度分布測定法(画像解析式粒度分布システム、商品名:マックビュー ver1.00、マウンテック社製)による体積累積粒径D10、D50、D90
・粒度分布D90/D50、D50/D10
・倍率20,000倍のSEMで撮影した各銀粒子の断面画像を、画像解析ソフトウエア(商品名:WinROOF、三谷商事株式会社製)を用いて画像処理を行って測定したSA値
・画像解析式粒度分布測定法による体積累積粒径D50を粒子直径dとし、金属粒子の理論密度ρとして下記式(1)で表される比表面積SSと、BET法により測定した比表面積BSとから算出される、下記一般式(2)で表されるK値
SS=6/ρd ・・・(1)
(SS/BS)×100=K ・・・(2)
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、実施例1の銀粒子は、比較例1、2の金属粒子よりも大きな比表面積を有する。また、実施例1の銀粒子は、緻密かつ均一に結晶成長した樹状部を有しているため、樹状に結晶成長していない比較例1の銀粒子よりもタップ密度が小さく、薄い針状に結晶成長するために空隙の大きい比較例2の銀粒子よりもタップ密度が大きくなる。さらに、実施例1の銀粒子は、比較例2の銀粒子の約3倍の比表面積を有しているにもかかわらず、粒子直径dと理論密度ρから算出される比表面積とBET法により測定した比表面積との比を表すK値は、比較例2とほぼ同程度の値を示している。この値から、実施例1の銀粒子は、比較例2の金属粒子と比べて、比表面積が大きく、かつ、比表面積に対して密度が大きく、緻密かつ均一に結晶成長した樹状部を有していることが確認できる。また、実施例1の銀粒子は、シャープな粒度分布を有している。
【0068】
次に、実施例1、比較例1の銀粒子及び鱗片状銀粒子(比較例3)とフェノキシ樹脂とを、銀粒子とフェノキシ樹脂の重量比(銀粒子/フェノキシ樹脂)で90/10、80/20、70/30、60/40、50/50となるように混合した導電性組成物の比抵抗値を以下の方法により測定した。比較例3として用いた鱗片状(フレーク状)銀粒子の平均粒径は10μmである。ここで鱗片状銀粒子の平均粒径とは、その扁平面の平均直径をいう。なお、表2中、通電しない場合には、「通電しない」と表示した。図15に、鱗片状(フレーク状)銀粒子の倍率5,000倍のSEM写真を示す。
【0069】
〔比抵抗値〕
20mm角アルミナ基板上に、250メッシュステンレス製スクリーンを用いて、実施例1、比較例1及び比較例3の銀粒子を用いた導電性組成物を用いて、71mm×1mmジグザグパターン印刷を行い、150℃30分の加熱条件で硬化させた。硬化後に、LCRメーター4端子法で温度20±3℃、相対湿度50±15%にて測定した。比抵抗値と硬化膜厚み(硬化膜の厚み30μm)より、比抵抗値を求めた。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すように、実施例1の銀粒子を用いた導電性組成物は、銀粒子とフェノキシ樹脂(銀粒子:フェノキシ樹脂)の比が70:30と、銀粒子の重量比が比較的少ない場合に、比較例1、3の銀粒子を用いた導電性組成物よりも優れた比抵抗値を示し、実施例1の導電性組成物を硬化させてなる、硬化体からなる導電体の比抵抗値は24.51×10−4Ω・cm以下であった。
【0072】
さらに、体積累積粒径D50が異なる銀粒子(実施例2、3、4)を以下の方法により作製した。得られた実施例2、3、4の銀粒子の比表面積、タップ密度、K値、体積累積粒径D10、D50、D90を実施例1と同様の方法によって測定した。実施例2、3、4の比表面積、タップ密度、K値、体積累積粒径D10、D50、D90と、倍率10,000倍、倍率5,000倍、倍率2,000倍、倍率20,000倍のSEM写真を図16に示す。
【0073】
(実施例2)
還元反応後における硝酸銀、クエン酸及びアスコルビン酸の混合液のpHを3を超えるように調整した以外は、実施例1と同様にして、体積累積粒径D50が0.67μmの銀粒子を得た。実施例1と同様にして測定した実施例2の銀粒子のSA値は20であった。
【0074】
(実施例3)
還元反応後における硝酸銀、クエン酸及びアスコルビン酸の混合液のpHを2を超えて3以下となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、体積累積粒径D50が3.32μmの銀粒子を得た。実施例1と同様にして測定した実施例の銀粒子のSA値は28であった。
【0075】
(実施例4)
還元反応後における硝酸銀、クエン酸及びアスコルビン酸の混合液のpHを2以下となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、体積累積粒径D50が7.97μmの銀粒子を得た。実施例1と同様にして測定した実施例の銀粒子のSA値は39.5であった。
【0076】
図16に示すように、体積累積粒径D50が異なる場合であっても、実施例2〜4の銀粒子は、無核かつ球状の開放連通多孔体であり、中心から外方に向かって放射状に、球面に微細な凹凸構造を有するように結晶成長した樹状部を有する。図16に示すように、実施例2〜4の銀粒子は、樹状部の先端部が絡まり合うことなく、しかも隣接する銀粒子同士の境目で銀粒子同士が分割し易くなる。そのため実施例2〜4の銀粒子は、銀粒子同士の結合や凝集が起こりにくく、分散性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の金属粒子は、無核かつ球状の開放連通多孔体である金属粒子であり、中心から外方に向かって均一に樹状に結晶成長してなり、球面に微細な凹凸構造を有するように放射状に結晶成長した樹状部を有する金属粒子である。本発明の金属粒子は、金属粒子同士の結合や凝集が起こりにくく、分散性に優れ、各粒子の平均粒径が均一であり、適度なタップ密度を有し、比表面積が大きく、かつ、比表面積に対して密度が大きく、導電性ペースト、焼結助剤、半導体封止剤、導電性接着剤、触媒、医薬品等の用途に好適に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16