特許第5849259号(P5849259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5849259
(24)【登録日】2015年12月11日
(45)【発行日】2016年1月27日
(54)【発明の名称】触媒およびアルコールの合成法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/18 20060101AFI20160107BHJP
   C07C 29/34 20060101ALI20160107BHJP
   C07C 31/12 20060101ALI20160107BHJP
   C01B 25/32 20060101ALI20160107BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160107BHJP
【FI】
   B01J27/18 Z
   C07C29/34
   C07C31/12
   C01B25/32 Y
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2009-38455(P2009-38455)
(22)【出願日】2009年2月20日
(65)【公開番号】特開2009-220105(P2009-220105A)
(43)【公開日】2009年10月1日
【審査請求日】2012年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2008-40675(P2008-40675)
(32)【優先日】2008年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000130776
【氏名又は名称】株式会社サンギ
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】恩田 歩武
(72)【発明者】
【氏名】小河 脩平
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 和道
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第99/038822(WO,A1)
【文献】 特開2006−022253(JP,A)
【文献】 特開昭63−023744(JP,A)
【文献】 SUGIYAMA, S. et al,Cation effects in the conversion of methanol on calcium, strontium, barium and lead hydroxyapatites,Catalysis Letters,2002年 1月,Vol.81, No.1-2,p.77-81,doi: 10.1023/A:1016012106985
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
JSTPlus(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr10(PO(OH)で表されるリン酸ストロンチウムアパタイトを触媒活性成分とすることを特徴とするエタノールからブタノールを合成するための触媒。
【請求項2】
エタノールと請求項1に記載の触媒を接触させる工程を含むことを特徴とするエタノールからブタノールを合成するアルコールの合成法。
【請求項3】
エタノールと請求項1に記載の触媒を接触させて得られるブタノールを主成分とする反応生成物から、少なくともブタノールを連続的又は間欠的に反応系外に取り出す工程を含むアルコールの合成法。
【請求項4】
エタノールと前記触媒を200℃〜350℃下で接触させる請求項2又は3に記載のアルコールの合成法。
【請求項5】
エタノールがバイオマスを原料として製造されたものであって、前記エタノール中の含水率が10%以下である請求項2から4のいずれかに記載のアルコールの合成法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルコール合成用触媒およびアルコールの合成法に関する。さらに詳しくは、特定のSr/Pの原子比を有するリン酸ストロンチウムアパタイトを含むエタノールからブタノールを合成するための触媒および同触媒を用いるアルコールの合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として、カーボンニュートラルのバイオ燃料が注目されている。その中でも、特にバイオエタノールが注目されている。バイオエタノールは、そのままガソリンの代替として使用される場合もあるが、通常は石油系のガソリンと混合して使用される。しかし、エタノールとガソリンを混合すると、相分離を起こしやすいという欠点があった。その解決策が、ブタノールなどのエタノールより炭素数が多く、ガソリンと混合しやすい(相分離しにくい)アルコールを利用することである。しかし、ブタノールをバイオ資源から得る方法は限られている。すなわち、とうもろこしやジャガイモのでんぷんや、さとうきびなどから得られる糖を、酵素を用いて発酵させ、エタノールを得る方法はある程度確立されているが、発酵によりブタノールを効率よく製造する酵素は知られていない。
そこで、一旦得られたバイオエタノールを、触媒を用いてブタノールに変換し、バイオブタノールを得るという着想に基づいて開発された技術が本発明である。一方、類似技術として、リン酸カルシウムアパタイトを用いた気相反応プロセスによる、エタノールからアセトアルデビド、ブタジエン、1−ブタノール、ハイオク燃料及びそれらの混合物を得る方法がある(特許文献1、2)。
しかし、これらの方法を本目的に応用しても、工業化を図る上ではまだ充分なブタノール選択率とは言えず、より高い選択率で、エタノールからブタノールを合成する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−217343号公報
【特許文献2】WO2006/059729A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、エタノールからブタノールを高い選択率で合成するための触媒及びブタノールの合成法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような状況を鑑み、本願発明者は鋭意検討した結果、リン酸ストロンチウムアパタイトに着目し、エタノールからブタノールの直接合成反応用の触媒として、特にブタノールの選択率に優れる触媒を見出し、本願発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(5)
(1)Sr10(PO(OH)で表されるリン酸ストロンチウムアパタイトを触媒活性成分とすることを特徴とするエタノールからブタノールを合成するための触媒、
(2)エタノールと上記(1)に記載の触媒を接触させる工程を含むことを特徴とするエタノールからブタノールを合成するアルコールの合成法、
(3)エタノールと上記(1)に記載の触媒を接触させて得られるブタノールを主成分とする反応生成物から、少なくともブタノールを連続的又は間欠的に反応系外に取り出す工程を含むアルコールの合成法、
(4)エタノールと前記触媒を200℃〜350℃下で接触させる上記(2)又は(3)に記載のアルコールの合成法、
(5)エタノールがバイオマスを原料として製造されたものであって、前記エタノール中の含水率が10%以下である上記(2)から(4)のいずれかに記載のアルコールの合成法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の触媒を用いた本発明の方法によりエタノールからブタノールを高い選択率で合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ブタノール生成のメカニズムを示す反応スキームである。
図2】リン酸ストロンチウムアパタイト触媒を使用した反応におけるブタノール収率の温度依存性を示すグラフである。
図3】リン酸ストロンチウムアパタイト触媒を使用した反応におけるブタノール選択率の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)Sr/Pの原子比は1.5〜2.0であり、好ましくは1.60〜1.75であり、代表的な例はSr10(PO46(OH)2である。前記Sr/Pの原子比の範囲を外れるとブタノール選択率やブタノール収量が低下する恐れがある。
(2)リン酸ストロンチウムアパタイト以外のアパタイト化合物ではブタノール選択率やブタノール収率が低くなる恐れがある。
(3)好ましくは、前記(1)又は(2)に記載の、Sr/Pの原子比が1.6〜1.7のリン酸ストロンチウムアパタイトである。
(4)収率向上に特に有効であるという観点からアパタイト化合物の比表面積は0.5m2/g以上、好ましくは10m2/g以上である。
なお、本発明でいうブタノールは主としてn-ブタノールを意味する。
【0010】
本発明において、触媒として使用されるアパタイト化合物はリン酸ストロンチウムアパタイトを主成分とし、リン酸カルシウムアパタイトのような種々のアパタイト化合物を含んでいても良い。
リン酸ストロンチウムアパタイトは、Sr10(PO46(OH)2であり、Sr/P=1.67となる。
アパタイト化合物の製造方法は特に限定されるものではなく、水熱合成法、乾式固相反応法、湿式沈殿反応法等の公知の合成方法を採用することができる。
また、リン酸ストロンチウムアパタイト化合物の作製時にSr/Pのモル比を適宜変動させることができる。例えば、NaOHで塩基性にしたリン酸塩の水溶液(濃度0.01〜2M)程度、好ましくは0.05〜0.5M)とSr塩の水溶液(濃度0.01〜3M程度、好ましくは0.08〜0.8M)を混合し、できた懸濁液をオートクレーブに入れて50〜300℃程度、好ましくは、100〜200℃、圧力1×105〜1×107Pa程度、好ましくは、1×105〜2×106Paで水熱処理し、洗浄、乾燥して使用する。触媒の組成および目的に応じ、触媒合成に用いるストロンチウム塩とリン酸塩の仕込み量を、Sr/Pのモル比が1.5〜2.0、好ましくは1.6〜1.75になるよう調整して使用する。
使用するSr塩としてSr(NO32、リン酸塩として五酸化二リンP25が挙げられる。アパタイト化合物のSr/Pのモル比の制御はSr塩とリン酸塩の調合比で行うか、合成時に加えるアルカリの濃度を調整することにより行なう。
例えば前記Sr(NO32、P25を出発物質として用いる場合、アルカリ濃度をOH/Pのモル比で3より濃くすれば、アパタイト化合物が生成し、通常は水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような強アルカリを用い、OH/Pのモル比で3.5〜14のアルカリ濃度に調整する。
本発明において触媒として使用されるアパタイト化合物はアルミナのような担体に担持させて用いても良い。
【0011】
前記のような物性を有するリン酸ストロンチウムアパタイトを主成分として含む本発明のアルコール合成用触媒を用い、エタノールからブタノールを製造するには両者を適切な温度で接触させれば良い。好ましくは前記温度が200〜350℃であり、ブタノール選択率を高くするためには、特に250〜300℃が好ましい。温度を200℃以上とすることにより、エタノールの転化率が高められ、350℃以下とすることにより、副反応(例えば、高級アルコールや炭化水素等の生成)を抑制しブタノールの選択率の低下を防ぐことができる。
エタノールと本発明のリン酸ストロンチウムアパタイトを接触させて得られる、ブタノールを主成分とする反応生成物から、ブタノールや副生する高級アルコール等を反応系外へ取り出すことで、ブタノールの収率は高くなる。
また、反応器の後段でブタノールを分離することで高濃度のブタノールが得られ、エタノールをリサイクルすることで原料の利用率を高めることができる。
【実施例】
【0012】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[試料の調製]
本発明の触媒および比較用の触媒は以下のようにして合成した。
【0013】
(1)比較用触媒〔試料(1)〕の調製
室温で調製した濃度1Mの水酸化ナトリウム水溶液7ミリリットルに五酸化二リンP25の0.142gを室温で溶解させ、Ca/Pが1.67となるように硝酸カルシウムCa(NO32・4H2Oの0.789gを溶解させた水溶液8ミリリットルを加えることにより懸濁液が得られた。
得られた懸濁液をテフロン(登録商標)内張りオートクレーブに導入し、110℃で14時間撹拌しながら水熱処理を行なった。その間、オートクレーブ内の圧力は1×105〜2×105Paであった。その後、オートクレーブから取り出して遠心分離、水洗し、60℃で乾燥後、Ca、PO4を含有した粉末状の比較用触媒組成物(Ca-P)を得た。
【0014】
(2)本発明の触媒〔試料(2)〕の調製
室温で調製した濃度1Mの水酸化ナトリウム水溶液7ミリリットルに五酸化二リンP25の0.142gを室温で溶解させ、Sr/Pが1.67となるように硝酸ストロンチウムSr(NO32の0.706gを溶解させた水溶液8ミリリットルを加えることにより懸濁液が得られた。得られた懸濁液をテフロン(登録商標)内張りオートクレーブに導入し、110℃で14時間撹拌しながら水熱処理を行なった。その間、オートクレーブ内の圧力は1×105〜2×105Paであった。
その後、オートクレーブから取り出して遠心分離、水洗し、60℃で乾燥後、Sr、PO4を含有した粉末状の触媒組成物(Sr-P)を得た。
【0015】
(3)比較用触媒〔試料(3)〕の調製
室温で調製した濃度1Mの水酸化ナトリウム水溶液7ミリリットルに五酸化二リンP25の0.142gを室温で溶解させ、Pb/Pが1.67となるように硝酸鉛Pb(NO32の1.105gを溶解させた水溶液8ミリリットルを加えることにより懸濁液が得られた。
得られた懸濁液をテフロン(登録商標)内張りオートクレーブに導入し、110℃で14時間撹拌しながら水熱処理を行なった。その間、オートクレーブ内の圧力は1×105〜2×105Paであった。その後、オートクレーブから取り出して遠心分離、水洗し、60℃で乾燥後、Pb、PO4を含有した粉末状の比較用触媒組成物(Pb-P)を得た。
【0016】
(4)比較用触媒〔試料(4)〕の調製
室温で調製した濃度2Mの水酸化ナトリウム水溶液7ミリリットルに五酸化二バナジウムV25の0.182gを溶解させ、Ca/Vが1.67となるように硝酸カルシウムCa(NO32・4H2Oの0.789gを溶解させた水溶液8ミリリットルを室温で加えることにより懸濁液が得られた。
得られた懸濁液をテフロン(登録商標)内張りオートクレーブに導入し、110℃で14時間撹拌しながら水熱処理を行なった。その間、オートクレーブ内の圧力は1×105〜2×105Paであった。その後、オートクレーブから取り出して遠心分離、水洗し、60℃で乾燥後、Ca、PO4を含有した粉末状の比較用触媒組成物(Ca-V)を得た。
【0017】
(5)比較用触媒〔試料(5)〕の調製
室温で調製した濃度2Mの水酸化ナトリウム水溶液7ミリリットルに五酸化二バナジウムV25の0.182gを溶解させ、Sr/Vが1.67となるように硝酸ストロンチウムSr(NO32の0.706gを溶解させた水溶液8ミリリットルを室温で加えることにより懸濁液が得られた。
得られた懸濁液をテフロン(登録商標)内張りオートクレーブに導入し、110℃で14時間撹拌しながら水熱処理を行なった。その間、オートクレーブ内の圧力は1×105〜2×105Paであった。その後、オートクレーブから取り出して遠心分離、水洗し、60℃で乾燥後、Sr、PO4を含有した粉末状の比較用触媒組成物(Sr-V)を得た。
【0018】
(6)比較用触媒〔試料(6)〕の調製
室温で調製した濃度2Mの水酸化ナトリウム水溶液7ミリリットルに五酸化二バナジウムV25の0.182gを溶解させ、Pb/Vが1.67となるように硝酸鉛Pb(NO32の1.105gを溶解させた水溶液8ミリリットルを室温で加えることにより懸濁液が得られた。
得られた懸濁液をテフロン(登録商標)内張りオートクレーブに導入し、110℃で14時間撹拌しながら水熱処理を行なった。その間、オートクレーブ内の圧力は1×105〜2×105Paであった。その後、オートクレーブから取り出して遠心分離、水洗し、60℃で乾燥後、Pb、VO4を含有した粉末状の比較用触媒組成物(Pb-V)を得た。
【0019】
(7)比較用触媒〔試料(7)〕の調製
比較用触媒である試料(7)は4HTC:Mg/Al比が4/1のハイドロタルサイト化合物である。
室温で調製した濃度7Mの水酸化ナトリウム水溶液と濃度2Mの炭酸ナトリウム水溶液の混合水溶液50ミリリットルに濃度4Mの硝酸マグネシウムMg(NO32と濃度1Mの硝酸アルミニウムAl(NO32の混合水溶液50ミリリットルを室温で攪拌しながら混ぜ、得られた懸濁液を60℃で12時間静置した。その後、遠心分離、水洗し、60℃で乾燥後、ハイドロタルサイト構造を有するMg/Al比4の粉末状の比較用触媒組成物(4HTC)を得た。
【0020】
(8)比較用触媒〔試料(8)〕として市販の酸化マグネシウムMgOを準備した。
(9)比較用触媒〔試料(9)〕として市販の水酸化カルシウムCa(OH)2を準備した。
【0021】
[合成時の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の濃度を変えた触媒の調製]
(10)本発明の触媒〔試料(10)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、使用する水酸化ナトリウム水溶液(7ミリリットル)の濃度を1Mから1.143Mに変えた以外は同じ方法で試料(10)を調製した。
(11)本発明の触媒〔試料(11)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、使用する水酸化ナトリウム水溶液(7ミリリットル)の濃度を1Mから2Mに変えた以外は同じ方法で試料(11)を調製した。
(12)本発明の触媒〔試料(12)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、使用する水酸化ナトリウム水溶液(7ミリリットル)の濃度を1Mから4Mに変えた以外は同じ方法で試料(12)を調製した。
【0022】
[合成時の水熱処理温度を変えた触媒の調製]
(13)本発明の触媒〔試料(13)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、水熱処理温度を110℃から150℃に変えた以外は同じ方法で試料(13)を調製した。
(14)本発明の触媒〔試料(14)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、水熱処理温度を110℃から200℃に変えた以外は同じ方法で試料(14)を調製した。
(15)本発明の触媒〔試料(15)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、水熱処理温度を110℃から220℃に変えた以外は同じ方法で試料(15)を調製した。
【0023】
[合成時の水酸化ナトリウム水溶液の濃度と水熱処理温度を変えた触媒の調製]
(16)本発明の触媒〔試料(16)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、使用する水酸化ナトリウム水溶液(7ミリリットル)の濃度を1Mから2Mに変え、水熱処理温度を110℃から50℃に変えた以外は同じ方法で試料(16)を調製した。
(17)本発明の触媒〔試料(17)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、使用する水酸化ナトリウム水溶液(7ミリリットル)の濃度を1Mから2Mに変え、水熱処理温度を110℃から150℃に変えた以外は同じ方法で試料(17)を調製した。
【0024】
[合成時のアルカリの種類と濃度を変えた触媒の調製]
(18)本発明の触媒〔試料(18)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、使用する水酸化ナトリウム水溶液(7ミリリットル)を水酸化カリウム(KOH)水溶液に変え、濃度を1Mから2Mに変えた以外は同じ方法で試料(18)を調製した。
(19)本発明の触媒〔試料(19)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、使用する水酸化ナトリウム水溶液(7ミリリットル)をアンモニア(NH3)水溶液に変え、濃度を1Mから2Mに変えた以外は同じ方法で試料(19)を調製した。
(20)本発明の触媒〔試料(20)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、使用する水酸化ナトリウム水溶液(7ミリリットル)を水酸化リチウム(LiOH)水溶液に変え、濃度を1Mから2Mに変えた以外は同じ方法で試料(20)を調製した。
(21)本発明の触媒〔試料(21)〕の調製
前記試料(2)の調製方法において、使用する水酸化ナトリウム水溶液(7ミリリットル)を水酸化ルビジウム(RbOH)水溶液に変え、濃度を1Mから2Mに変えた以外は同じ方法で試料(21)を調製した。
【0025】
<実施例1>
上記試料(1)〜(9)の微粉末を250〜500μmの板状ペレット形状に成型した。この成型体(触媒)0.5gをガラス管(長さ50cm、直径10mm)に充填し、前処理として、キャリアガス(Ar:流量30ミリリットル/分)雰囲気下、550℃で3時間加熱(脱水)処理を行った。加熱(脱水)処理終了後、反応温度300℃でエタノール濃度1.5モル%(エタノール分圧=1.56kPa)、キャリアガス流量30ミリリットル/分の条件で常圧にて反応させた。反応時間は2時間に設定した。
反応ガス成分の同定にはガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS、測定条件は下記)を用い、エタノールの転化率および合成ガスの選択率測定にはガスクロマトグラフ(GC、測定条件は下記)(検出器:FID)を用い、各成分のピーク面積値から次式によって計算した。
ブタノール収率(C-%)
=100×(ブタノールのGC面積値)/(反応前のエタノールガスのGC面積値)
ブタノール選択率(C-%)
=100×(ブタノールのGC面積値)/(生成物の総GC面積値)
エタノール転化率(%)=
100×(生成物の総GC面積値)/(反応前のエタノールガスのGC面積)
結果〔種々の触媒によるブタノールの収率と選択率〕を表1に示す。表1において、試料(2)のSr-Pが本発明のブタノールを合成するための触媒の主成分であるリン酸ストロンチウムアパタイトである。
なお、実施例1におけるW/F〔触媒重量(g)/エタノール流量(g/h)〕は8.8h(時間)である。
【0026】
(1)水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフ(GC-FID)
GC-14B(島津製作所製)を用いて反応生成物の分析を行った。カラムはDB-WAXを用いた。キャリアガスはN2を用い、圧力は100kPaとした。分析条件は下記の通りである。
注入温度:250℃
検出器温度:200℃
オーブン温度:50℃(5分)→5℃/分→200℃(5分)
(2)質量分析検出器付ガスクロマトグラフ (GC-MS)
ヒューレットパッカード社製HP5890(GC)、HP5972(MSD)を用いて反応生成物の分析を行った。カラムはDB-624を用いた。キャリアガスは高純度ヘリウムHeを用い、流速は2.34ミリリットル/分とした。
分析条件は以下の通りである。
注入温度:250℃
検出器温度:250℃
オーブン温度:40℃(5分)→10℃/分→240℃(5分)
【0027】
<実施例1の結果の考察>
触媒として前記のように調製した種々のアパタイト化合物(Ca-P、Sr-P、Pb-P、Ca-V、Sr-V、Pb-V)、並びにMg-Al系ハイドロタルサイト(4HTC:Mg/Al=4)および市販の触媒としてCa(OH)2、MgOを用いて上記の条件で反応を行った結果を示した表1より以下のことが明らかである。
ブタノールの収率および選択率はアパタイト触媒の構成元素に依存し、Ca-PやSr-P触媒において高い収率および選択率が得られている。これらの触媒は酸と塩基の両方の触媒作用を有しており、どちらも比較的弱いことが示唆されている。そのため、エタノールからブタノールを合成するには比較的弱い酸点と塩基点を有する触媒が適していると考えられる。酸点と塩基点の両方を持つとされるMg-Al系ハイドロタルサイト触媒(4HTC)においてもブタノールが生成したことからも、酸と塩基の両方の作用が必要であることが示唆されている。これらの中では本発明の触媒の主成分であるリン酸ストロンチウムアパタイト(Sr-P)がもっとも高いブタノールの選択性を示していることがわかる。
【0028】
<実施例2>
本発明の触媒の主成分である試料(2)のリン酸ストロンチウムアパタイトの成型体(触媒)を用い、実施例1において、触媒量(0.5g〜2.0g)と流量(30〜60ミリリットル/分)を変えることにより、エタノール(分圧=1.56kPa)の転化率を変化させ、その時の生成物分布を観察した。反応時間は2時間に設定した。
結果を表2に示す。
【0029】
<実施例2の結果の考察>
転化率が増えるほどアセトアルデヒド、2-ブテン-1-オールの選択率は低下している。一方、ブチルアルデヒドおよびC6以上のアルコールの選択率は増加している。ブタノールの選択率は接触時間の増加とともに一旦増加した後、減少している。また、反応初期においてのみクロトンアルデヒドは極微量検出された。
これらの結果から図1のようなアルドール反応を経由する反応機構(Guerbet反応:〔1〕)であると考えられる。なお、図1における「進入禁止マーク」は起こり難い反応であることを示す。
図1における〔2〕はブタノールから高級アルコールが生成する反応式であることを示す。
図1に示されているように、まず、エタノールの脱水素反応によってアセトアルデヒドが生成する。次に、生成したアセトアルデヒドがアルドール縮合し、アルドールの脱水を経由してクロトンアルデヒドを生成する。基本的にどの条件でもアルドール、クロトンアルデヒドの生成が確認されていないことから、中間体として存在するには不安定であると考えられ、すぐに脱水、水素化が進行していると考えられる。水素化される点として、二重結合とカルボニル基の2ヶ所があるが、2-ブテン-1-オールが転化率の少ない条件で多く見られることから、2-ブテン-1-オールを経由していると思われる。最後に、2-ブテン-1-オールの水素化を経てブタノールが生成している。ブチルアルデヒドはブタノールの脱水素反応(逐次反応)によって生成していると思われ、ブタノールの生成には関与せず、ブタノールからC6以上のアルコールへの反応の中間体であると考えられる。
アパタイトの酸点は脱水反応に、塩基点は脱水素反応とアルドール縮合に作用していると考えられる。
【0030】
<実施例3>
試料2のリン酸ストロンチウンムアパタイトの成型体を用い、実施例1と同じ条件にて、触媒量と温度を変えることで、n−ブタノールの収率と選択率の温度変化を観察した。結果を図2および3に示す。
【0031】
<実施例3の結果の考察>
ブタノールの収率および選択率をさらに向上させるため、Sr-P触媒を用い、反応温度、触媒量を変化させて反応条件の最適化を試みた。ブタノールの収率と選択率の変化を示した図2および3によれば、触媒量0.5gではブタノールの収率は反応温度とともに増加し、350℃で約15C-%が得られているが、400℃では逆に減少している。選択率も温度の増加とともに増え、300℃で約80C-%となったが、350℃以上では副反応や逐次反応のために減少している。反応温度250℃では触媒量の増加とともにブタノール収率は向上し、選択率も同様に増加している。一方、反応温度300℃では収率は1gと2gでほとんど差がなく、選択率は触媒量の増加に伴って減少している。
また、反応温度が高いほどエタノールの転化が進みブタノールの生成速度は速くなるが、同時に逐次反応(高級アルコール等の生成)や副反応(エチレン等の生成)なども増加する。そのため、高い選択率でブタノールを得るためには250-300℃が最適であると思われる。一方、触媒量も反応温度と同様の影響を与えるため、反応温度250℃では2gが、300℃では1gが適していると考えられる。また、条件を変化させても、ブタノールの収率は15C-%程度で頭打ちとなっている。これは生成したブタノールが逐次反応を起こしていることが原因と考えられる。逐次反応は原料のエタノールとの競争反応のため、導入するエタノール濃度を増やすことで収率を上げられると考えられる。以上の検討の結果、反応温度300℃、触媒量1gの条件で、ブタノール収率15C-%、選択率75C-%が得られている。
【0032】
<実施例4>
上記試料(1)、(2)および(10)〜(21)の微粉末を250〜500μmの板状ペレット形状に成型した。この成型体2.0gをガラス管(長さ50cm、直径10mm)に充填し、前処理として、キャリアガス(He:流量30ミリリットル/分)雰囲気下、550℃で3時間加熱(脱水)処理を行った。加熱(脱水)処理終了後、反応温度300℃でエタノール濃度16.1モル%、キャリアガス(He)流量30ミリリットル/分の条件で常圧にて反応させた。
なお、この時のW/F〔触媒重量(g)/エタノール流量(g/時)〕は2.8時間である。その他の分析条件、方法は実施例1と同様である。
なお、試料(19)については、エタノール濃度16.1モル%、キャリアガス流量20ミリリットル/分とし、W/F〔触媒重量(g)/エタノール流量(g/時)〕は4.2時間という条件で反応させた。
さらに、試料(20)については、エタノール濃度16.1モル%、キャリアガス流量10ミリリットル/分とし、W/F〔触媒重量(g)/エタノール流量(g/時)〕は8.4時間という条件で反応させた。
触媒の種類、調製条件、反応条件および結果を下記の表3に示す。
表3中の反応条件は以下の通りである。
*1)触媒量:2.0g、温度:300℃、エタノール濃度:16.1vol-%( He balance)、全流量:35.8ミリリットル/分、 W/F=2.8時間 、反応時間:3時間
*2)触媒量:2.0g、温度:300℃、エタノール濃度:16.1vol-%( He balance)、全流量:23.8ミリリットル/分、 W/F=4.2時間 、反応時間:3時間
*3)触媒量2.0g、温度:300℃、エタノール濃度:16.1vol-%(He balance)、全流量:11.9ミリリットル/分、W/F=8.4時間、反応 時間:3時間
【0033】
<実施例4の結果の考察>
表3に示されている結果から以下のことが確認される。
基本触媒であるSr−Pアパタイト触媒〔試料(2)〕調製時のアルカリ量や、水熱処理温度、アルカリの種類等を変更したが、いずれの方法においても、比較用触媒であるCa−Pアパタイト触媒〔試料(1)〕より高選択率にて目的化合物であるブタノールを得ることができた。
なお、ブタノール収率はCa−Pアパタイト触媒〔試料(1)〕を使用した場合に劣るが、工業化時には未反応物をリサイクルして使用することができるため、問題はなく、約9〜16%も選択率の高い試料(10)〜(21)の触媒は副生物が少なく、非常に優れた触媒である。
【0034】
本実施例、比較例で用いた試薬等は以下の通りである。
<試料作製用(アパタイト固溶体の製造他)>
Ca(NO32・4H2O:純度98.5%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
Sr(NO32:純度98.0%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
Pb(NO32:純度99.5%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
Al(NO33・9H2O:純度98.0%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
Mg(NO32・6H2O:純度99.5%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
25:純度99.0%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
25:〔純度98.0%、試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
(NH42HPO4:純度99.0%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
NH4F:純度97.0%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
NaOH:純度97.0%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
NH3水(25質量%):純度25.0%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
Ca(OH)2:純度96.0%〔試薬特級、和光純薬工業(株)製〕
高純度超微粉マグネシア(MgO):〔宇部マテリアルズ(株)製〕
【0035】
<ガスクロマトグラフ>
ヘリウム(He):土佐酸素(株)製
Ar:土佐酸素(株)製
2:土佐酸素(株)製
2:土佐酸素(株)製
高純度He:太陽日酸(株)製
<エタノールからブタノールの合成>
エタノール(脱水):純度99.5%〔有機合成用、和光純薬工業(株)製〕
Ar:土佐酸素(株)製
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の触媒を用いた方法によりエタノールからブタノールを高い選択率で合成することができ、バイオ燃料の分野等で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
なし
図1
図2
図3