(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長尺体を巻き出す巻出ロールと、長尺体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつ回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールと対向する側に配置された熱負荷を伴う成膜手段とを真空チャンバー内に備え、ロール・ツー・ロール方式により搬送されてくる長尺体を冷却キャンロールの外周面に巻き付けると共に、冷却キャンロールの外周面と接していない長尺体表面に上記成膜手段により薄膜を形成する真空成膜装置において、
上記冷却キャンロールと巻取ロール間を搬送される長尺体の表面近傍位置に設けられかつ130K以下に冷却可能な冷凍機を有する冷却パネルと、搬送中の上記長尺体表面と冷却パネルとの間に冷却ガスを導入する冷却ガス導入手段とを具備し、上記冷却ガス導入手段が、冷却パネルの上記長尺体と対向する側に取付けられかつ接続されたガス導入管から冷却ガスが導入される中空構造体と、中空構造体の上記長尺体と対向する側に開設された複数の冷却ガス放出孔とで構成されていることを特徴とする真空成膜装置。
真空チャンバー内の上流側に設けられた巻出ロールから巻き出された長尺体を回転駆動される冷却キャンロールの外周面に巻き付け、冷却キャンロールと対向する側に配置された熱負荷を伴う成膜手段により冷却キャンロールの外周面と接していない長尺体表面に薄膜を形成すると共に、薄膜が形成された上記長尺体を真空チャンバー内の下流側に設けられた巻取ロールに巻き取るロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法であって、
薄膜が形成された上記長尺体を、冷却キャンロールと巻取ロール間に配置されかつ130K以下に冷却可能な冷凍機を有する冷却パネルの近傍を該冷却パネルに接触させることなく通過させると共に、冷却ガス導入手段から通過中の長尺体表面と冷却パネルとの間に冷却ガスを導入して薄膜が形成された長尺体を冷却するロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法において、
上記冷却ガス導入手段が、冷却パネルの上記長尺体と対向する側に取付けられかつ接続されたガス導入管から冷却ガスが導入される中空構造体と、中空構造体の上記長尺体と対向する側に開設された複数の冷却ガス放出孔とで構成されていることを特徴とするロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法。
上記冷却パネルのパネル温度を、冷却ガス導入手段により導入される冷却ガスの圧力条件下において冷却ガスの平衡蒸気圧曲線に従い該冷却ガスが凝集する温度よりも高く設定することを特徴とする請求項4または5に記載のロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、フレキシブル配線基板が用いられている。フレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムから作製される。近年、フレキシブル配線基板に形成される配線パターンはますます微細化、高密度化しており、金属膜付耐熱性樹脂フィルム自体が皺等のない平滑なものであることがより一層重要になってきている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、接着剤により金属箔を耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法と称される)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法と称される)、乾式めっき法(真空成膜法)若しくは乾式めっき法(真空成膜法)と湿式めっき法との組み合わせにより耐熱性樹脂フィルムに金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法と称される)等が従来から知られている。また、メタライジング法における上記乾式めっき法(真空成膜法)には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
上記メタライジング法については、特許文献1に、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2に、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングで形成した第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングで形成した第二の金属薄膜とが、この順でポリイミドフィルム上に積層されたフレキシブル回路基板用材料(すなわち、銅張積層樹脂フィルム基板)が開示されている。尚、ポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルムに真空成膜を行って金属膜付耐熱性樹脂フィルムを製造する場合、以下に述べるスパッタリングウェブコーターを用いることが一般的である。
【0005】
そして、上述したスパッタリング法は、一般に、成膜された金属薄膜等の密着力に優れる利点を有する反面、真空蒸着法に比べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムに皺が発生し易くなることも知られている。
【0006】
この皺の発生を防ぐため、スパッタリングウェブコーターでは、ロール・ツー・ロール等により搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムを、冷却機能を備える冷却キャンロールに密着させながら巻き付けることで成膜中の耐熱性樹脂フィルムを裏面側から冷却する方式が採用されている。
【0007】
ところで、成膜中の耐熱性樹脂フィルムを冷却キャンロールにより裏面側から冷却する方式が採られているとしても、冷却キャンロールから搬出される成膜直後における耐熱性樹脂フィルムのフィルム温度は常温よりも高温になっている。そして、真空チャンバー内において、冷却キャンロールから搬出され巻取ロールの位置まで搬送される間に上記耐熱性樹脂フィルムのフィルム温度が常温まで低下することはないため、巻取ロールに巻き取られた後において耐熱性樹脂フィルムに皺等が生ずることがあった。すなわち、常温以上に加熱された耐熱性樹脂フィルムが巻取ロールに巻き取られた後、耐熱性樹脂フィルムのフィルム温度が常温まで低下すると、その温度差による熱膨張係数に依存してフィルムの巻きがきつくなり(「巻き締まり」と一般に称される)、このことが原因となって巻き取られたフィルム同士が張り付き、あるいはフィルムに皺等が生ずることがあった。
【0008】
そこで、冷却キャンロールから巻取ロールまでの搬送路間に冷却ロールを付設し、この冷却ロールに接触させることにより、巻き取り前の耐熱性樹脂フィルムを冷却する真空成膜装置が提案されている。
【0009】
以下、冷却キャンロールから巻取ロールまでの搬送路間に上記冷却ロールが付設された真空成膜装置(スパッタリングウェブコーター)の一例について
図1に示す。
【0010】
この真空成膜装置(スパッタリングウェブコーター)は、成膜前の耐熱性樹脂フィルム(長尺体)13を巻き出すための巻出ロール14を有する巻き出し室10と、マグネトロンスパッタリングカソード32、33、34、35と冷媒(冷却水)により冷却された冷却キャンロール23を有し、巻き出し室10から搬入された耐熱性樹脂フィルム13に成膜を行なう成膜室11と、冷媒(冷却水)により冷却された冷却ロール28、29と巻取ロール31を有し、成膜室11から搬入された成膜後の耐熱性樹脂フィルム13を巻取ロール31に巻き取る巻き取り室12を備えている。
【0011】
上記巻き出し室10において、成膜前の耐熱性樹脂フィルム13は巻出ロール14から巻き出され、張力センサーロール15を通過し、かつ、耐熱性樹脂フィルム13を乾燥させるためのヒーター17、18が入ったヒーターボックス16を通過した後、フリーロール19を通過して成膜室11へ搬出される。
【0012】
上記成膜室11において、巻き出し室10から搬入された耐熱性樹脂フィルム13はフリーロール20、張力センサーロール21を通過し、かつ、前フィードロール22、冷却キャンロール23、後フィードロール24を経由し、張力センサーロール25、フリーロール26を通過して巻き取り室12へ搬出される。尚、上記前フィードロール22を介し冷却キャンロール23の外周面に巻き付けられた耐熱性樹脂フィルム13は、冷却キャンロール23により裏面側から冷却されながら、耐熱性樹脂フィルム13の表面にスパッタリングカソード32、33、34、35により薄膜が形成される。
【0013】
上記巻き取り室12において、成膜室11から搬入された耐熱性樹脂フィルム13はフリーロール27、冷却ロール28、29を通過し、張力センサーロール30を経由して、巻取ロール31に巻き取られる。
【0014】
この真空成膜装置(スパッタリングウェブコーター)においては、各張力センサーロール15、21、25、30の張力値により、巻出ロール14、前フィードロール22、冷却キャンロール23、後フィードロール24、冷却ロール28、29を回動させるモーターの回転数、モータートルク等が制御されて、耐熱性樹脂フィルム13に対する所定の張力範囲を維持して搬送するようになっている。
【0015】
尚、
図1は、耐熱性樹脂フィルム13の搬送方向を変えるためのフリーロールの一部と真空排気設備の図示を省略している。
【0016】
ところで、この真空成膜装置(スパッタリングウェブコーター)において、耐熱性樹脂フィルム13は巻き出し室10のヒーター17、18により加熱され、冷却キャンロール23により裏面側から冷却されてはいるが、成膜室11のスパッタリングカソード32、33、34、35により熱負荷を受けるため、成膜直後における耐熱性樹脂フィルム13のフィルム温度は60℃以上にもなっていることがある。このフィルム温度を保持した状態で、耐熱性樹脂フィルム13が巻き取り室12の巻取ロール31に巻き取られた場合、上述したようにフィルム温度が常温まで冷えると、その温度差による熱膨張係数に依存してフィルムの巻きがきつくなり(巻き締まり)、これによりフィルム同士が張り付き(ブロッキング)、皺等を生ずる原因になることがある。例えば、耐熱性樹脂フィルムであるポリイミドフィルムの代表的な線熱膨張係数は12ppm/Kであることから、1000mm当たり10℃温度低下で0.12mm縮む計算になる。
【0017】
そこで、冷却キャンロールから巻取ロールまでの搬送路間に上記冷却ロールを付設したこの真空成膜装置(スパッタリングウェブコーター)においては、巻き締まり、ブロッキング、皺等の発生を防止するため、巻き取り室12の冷却ロール28、29に接触させて耐熱性樹脂フィルム13のフィルム温度を常温付近まで冷やしてから、巻取ロール31に巻き取るようになっている。
【0018】
しかし、冷媒(冷却水)で冷却される上記冷却ロール28、29は、ロール内部に冷媒(冷却水)を循環させる必要があるため複雑な構造となり、かつ、循環させる冷媒(冷却水)に起因して回転抵抗が大きいため、モーターを具備しないフリーロールで上記冷却ロール28、29を構成することはできず、モーターを具備した駆動ロールとなる。
【0019】
このため、巻き取り室に上記冷却ロールを具備しない既存の真空成膜装置に、後から冷却ロールを追加改造することは極めて難しい。すなわち、冷却ロールを具備しない既存の真空成膜装置を改造するとなれば、減圧状態を維持する巻き取り室12(減圧容器)に、外部モーターに接続させる冷却ロール28、29の軸穴を開設する必要が生じ、かつ、駆動ロールの追加によるフリーロールの追加等搬送経路の変更も必要となる。そして、空間スペースに余裕のない巻き取り室12に上記軸穴の開設や搬送経路の追加等を行なおうとすると、最終的には巻き取り室12の拡張等大規模な改造が必要となり、巻き取り室12の減圧状態の維持が困難となる問題が存在する。更に、既に設置された巻き取り室12の正確な位置に、現場において軸穴等を開設することは極めて難しく現実的でない。また、耐熱性樹脂フィルム13を冷却ロール28、29に接触させて直接冷やした場合、冷却ロール28、29上において熱膨張係数に依存した収縮が起こるため、耐熱性樹脂フィルム13に傷が生ずることもあった。更に、追加する駆動ロールに起因して、長尺状耐熱性樹脂フィルム(長尺体)における搬送制御系の追加改造が必要となる問題も存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明はこのような問題点に着目してなされたものであり、その課題とするところは、巻取ロールを有する巻き取り室に樹脂フィルム等長尺体を冷却する冷却手段が付設されていない既存の真空成膜装置に対しても、大規模な改造、改変を加えることなく冷却手段を付設することが可能な真空成膜装置を提供し、かつ、薄膜が形成された樹脂フィルム等長尺体を巻取ロールに巻き取った後において、巻き取られた長尺体に皺等が発生し難い真空成膜装置と真空成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
そこで、本発明者が上記課題を解決するため鋭意研究を行なった結果、冷媒で冷却する従来の冷却ロール構造に代え、130K以下に冷却可能な冷凍機を有する冷却パネルと冷却ガス導入手段とで構成される冷却手法を採用することで、既存の真空成膜装置に対して大規模な改造、改変を加えることなく長尺体の皺等が生じ難い真空成膜装置が得られることを見出すに至った。
【0023】
すなわち、請求項1に係る発明は、
長尺体を巻き出す巻出ロールと、長尺体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつ回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールと対向する側に配置された熱負荷を伴う成膜手段とを真空チャンバー内に備え、ロール・ツー・ロール方式により搬送されてくる長尺体を冷却キャンロールの外周面に巻き付けると共に、冷却キャンロールの外周面と接していない長尺体表面に上記成膜手段により薄膜を形成する真空成膜装置において、
上記冷却キャンロールと巻取ロール間を搬送される長尺体の表面近傍位置に設けられかつ130K以下に冷却可能な冷凍機を有する冷却パネルと、搬送中の上記長尺体表面と冷却パネルとの間に冷却ガスを導入する冷却ガス導入手段とを具備
し、上記冷却ガス導入手段が、冷却パネルの上記長尺体と対向する側に取付けられかつ接続されたガス導入管から冷却ガスが導入される中空構造体と、中空構造体の上記長尺体と対向する側に開設された複数の冷却ガス放出孔とで構成されていることを特徴とする。
【0024】
また、請求項2に係る発明は、
長尺体を巻き出す巻出ロールと、長尺体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつ回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールと対向する側に配置された熱負荷を伴う成膜手段とを真空チャンバー内に備え、ロール・ツー・ロール方式により搬送されてくる長尺体を冷却キャンロールの外周面に巻き付けると共に、冷却キャンロールの外周面と接していない長尺体表面に上記成膜手段により薄膜を形成する真空成膜装置において、
上記冷却キャンロールと巻取ロール間を搬送される長尺体の表面近傍位置に設けられかつ130K以下に冷却可能な冷凍機を有する冷却パネルと、搬送中の上記長尺体表面と冷却パネルとの間に冷却ガスを導入する冷却ガス導入手段とを具備し、上記冷却ガス導入手段が、冷却パネルの上記長尺体と対向する側に取付けられかつ接続されたガス導入管から冷却ガスが導入される多孔質構造体で構成されていることを特徴とし、
請求項
3に係る発明は、
請求項1
または2に記載の真空成膜装置において、
熱負荷を伴う上記成膜手段が、マグネトロンスパッタリングであることを特徴とする。
【0025】
次に、請求項
4に係る発明は、
真空チャンバー内の上流側に設けられた巻出ロールから巻き出された長尺体を回転駆動される冷却キャンロールの外周面に巻き付け、冷却キャンロールと対向する側に配置された熱負荷を伴う成膜手段により冷却キャンロールの外周面と接していない長尺体表面に薄膜を形成すると共に、薄膜が形成された上記長尺体を真空チャンバー内の下流側に設けられた巻取ロールに巻き取るロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法
であって、
薄膜が形成された上記長尺体を、冷却キャンロールと巻取ロール間に配置されかつ130K以下に冷却可能な冷凍機を有する冷却パネルの近傍を該冷却パネルに接触させることなく通過させると共に、冷却ガス導入手段から通過中の長尺体表面と冷却パネルとの間に冷却ガスを導入して薄膜が形成された長尺体を冷却するロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法
において、
上記冷却ガス導入手段が、冷却パネルの上記長尺体と対向する側に取付けられかつ接続されたガス導入管から冷却ガスが導入される中空構造体と、中空構造体の上記長尺体と対向する側に開設された複数の冷却ガス放出孔とで構成されていることを特徴とする。
【0026】
また、請求項
5に係る発明は、
真空チャンバー内の上流側に設けられた巻出ロールから巻き出された長尺体を回転駆動される冷却キャンロールの外周面に巻き付け、冷却キャンロールと対向する側に配置された熱負荷を伴う成膜手段により冷却キャンロールの外周面と接していない長尺体表面に薄膜を形成すると共に、薄膜が形成された上記長尺体を真空チャンバー内の下流側に設けられた巻取ロールに巻き取るロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法であって、
薄膜が形成された上記長尺体を、冷却キャンロールと巻取ロール間に配置されかつ130K以下に冷却可能な冷凍機を有する冷却パネルの近傍を該冷却パネルに接触させることなく通過させると共に、冷却ガス導入手段から通過中の長尺体表面と冷却パネルとの間に冷却ガスを導入して薄膜が形成された長尺体を冷却するロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法において、
上記冷却ガス導入手段が、冷却パネルの上記長尺体と対向する側に取付けられかつ接続されたガス導入管から冷却ガスが導入される多孔質構造体で構成されていることを特徴とし、
請求項
6に係る発明は、
請求項
4または5に記載のロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法において、
上記冷却パネルのパネル温度を、冷却ガス導入手段により導入される冷却ガスの圧力条件下において冷却ガスの平衡蒸気圧曲線に従い該冷却ガスが凝集する温度よりも高く設定することを特徴
とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る真空成膜装置は、
長尺体を巻き出す巻出ロールと、長尺体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつ回転駆動される冷却キャンロールと、冷却キャンロールと対向する側に配置された熱負荷を伴う成膜手段とを真空チャンバー内に備え、ロール・ツー・ロール方式により搬送されてくる長尺体を冷却キャンロールの外周面に巻き付けると共に、冷却キャンロールの外周面と接していない長尺体表面に上記成膜手段により薄膜を形成する真空成膜装置において、上記冷却キャンロールと巻取ロール間を搬送される長尺体の表面近傍位置に設けられかつ130K以下に冷却可能な冷凍機を有する冷却パネルと、搬送中の上記長尺体表面と冷却パネルとの間に冷却ガスを導入する冷却ガス導入手段とを具備することを特徴としている。
【0028】
そして、本発明に係る真空成膜装置によれば、
冷媒で冷却する従来の冷却ロール構造に代え、130K以下に冷却可能な冷凍機を有する冷却パネルと冷却ガス導入手段とで構成される上記冷却手法を採用しているため、既存の真空成膜装置に対して大規模な改造、改変を加えることなく長尺体の皺等が生じ難い真空成膜装置を簡便に提供できる効果を有している。
【0029】
また、本発明に係るロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法によれば、
真空チャンバー内の上流側に設けられた巻出ロールから巻き出された長尺体を回転駆動される冷却キャンロールの外周面に巻き付け、冷却キャンロールと対向する側に配置された熱負荷を伴う成膜手段により冷却キャンロールの外周面と接していない長尺体表面に薄膜を形成すると共に、薄膜が形成された上記長尺体を真空チャンバー内の下流側に設けられた巻取ロールに巻き取るロール・ツー・ロール方式による真空成膜方法において、薄膜が形成された上記長尺体を、冷却キャンロールと巻取ロール間に配置されかつ130K以下に冷却可能な冷凍機を有する冷却パネルの近傍を該冷却パネルに接触させることなく通過させると共に、冷却ガス導入手段から通過中の長尺体表面と冷却パネルとの間に冷却ガスを導入して薄膜が形成された長尺体を冷却しているため、巻取ロールに巻き取られた長尺体の巻き締まり、ブロッキング、皺等の発生を防止できる効果を有している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
図2は、巻き出し室110と成膜室111と巻き取り室112を備えた本発明に係る真空成膜装置の概略構成を示している。
図2において、巻き出し室110、成膜室111および巻き取り室112の各室は、説明の都合上、仕切り(壁)で区画された構造になっているが、仕切り(壁)を設けない構造を採用してもよい。
【0033】
また、長尺体の一例として長尺状の耐熱性樹脂フィルム113を挙げ、この耐熱性樹脂フィルム113表面に、マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133により薄膜を形成する真空成膜装置(スパッタリングウェブコーター)を例に挙げて説明する。尚、スパッタリングウェブコーターは、ロール・ツー・ロール方式で搬送される耐熱性樹脂フィルム(長尺体)表面に、連続的に効率よく成膜処理を施す場合に好適に用いられる装置である。
【0034】
(1)真空成膜装置(スパッタリングウェブコーター)
このスパッタリングウェブコーターは、
図1に示した装置と同様、
図2に示すように成膜前の耐熱性樹脂フィルム113を巻き出すための巻出ロール114を有する巻き出し室110と、マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133と冷媒(冷却水等)により冷却された冷却キャンロール123を有し、巻き出し室110から搬入された耐熱性樹脂フィルム113に成膜を行なう成膜室111と、冷媒を用いて冷却する冷却ロール手段に代えて130K以下に冷却可能なクライオ冷凍機135を有する冷却パネル134等から成る冷却手段と巻取ロール129を有し、成膜室111から搬入された成膜後の耐熱性樹脂フィルム113を巻取ロール129に巻き取る巻き取り室112とでその主要部が構成されている。
【0035】
上記巻き出し室110の巻出ロール114から成膜室111の冷却キャンロール123までの搬送路には、耐熱性樹脂フィルム113を案内するフリーロール119、120と、耐熱性樹脂フィルム113の張力測定を行う張力センサーロール115、121がこの順で配置されている。また、張力センサーロール121から送り出されて冷却キャンロール123に向かう耐熱性樹脂フィルム113は、冷却キャンロール123の近傍に設けられたモーター駆動の前フィードロール122によって冷却キャンロール123の周速度に対する調整が行われ、冷媒(冷却水等)が内部に循環して温度が一定に保たれる冷却キャンロール123の外周面に耐熱性樹脂フィルム113を密着させることができる。
【0036】
また、上記巻出ロール114から冷却キャンロール123までの搬送路には、スパッタリング成膜前に耐熱性樹脂フィルム113を乾燥させるためのヒーター117、118を内蔵するヒーターボックス116が配置されている。上記ヒーター117、118にはシースヒーター、カーボンヒーター、ランプヒーター等があるが、耐熱性樹脂フィルム113の水分を除去できるものであればいずれも適用することができる。
【0037】
また、上記冷却キャンロール123から巻き取り室112の巻取ロール129までの搬送路にも、上記同様に、冷却キャンロール123の周速度に対する調整を行うモーター駆動の後フィードロール124、耐熱性樹脂フィルム113の張力測定を行う張力センサーロール125、128、および、耐熱性樹脂フィルム113を案内するフリーロール126、127がこの順に配置されている。
【0038】
上記巻出ロール114および巻取ロール129においては、パウダークラッチ等によるトルク制御によって耐熱性樹脂フィルム113の張力バランスが保たれている。また、冷却キャンロール123の回転とこれに連動して回転するモーター駆動の前フィードロール122並びに後フィードロール124により、巻出ロール114から耐熱性樹脂フィルム113が巻き出されて巻取ロール129に巻き取られるようになっている。
【0039】
また、冷却キャンロール123の外周面上に画定される搬送路内の耐熱性樹脂フィルム113が巻き付けられる位置に対向する位置には、熱負荷を伴う成膜手段としてマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133が設けられている。
【0040】
尚、
図1と同様、
図2でも耐熱性樹脂フィルム113の搬送方向を変えるためのフリーロールの一部と真空排気設備の図示を省略している。
【0041】
また、マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133が設けられた成膜室111は、スパッタリング成膜を行なうために到達圧力10
-4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガス導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素等のガスが添加される。成膜室111を構成する真空チャンバーの形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定されず、種々のものを使用することができる。そして、真空チャンバー内を減圧してその状態を維持するため、図示外のドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されている。
【0042】
尚、金属膜のスパッタリング成膜の場合には、板状のターゲット(図示せず)を使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題となる場合には、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率が高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。また、
図2に示す真空成膜装置(スパッタリングウェブコーター)は、熱負荷を伴う成膜手段としてスパッタリングを想定したものであることからマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133が示されているが、熱負荷を伴う成膜手段が蒸着処理等他のものである場合は、板状ターゲットに代えて他の成膜手段が設けられる。尚、熱負荷を伴う他の成膜手段として、CVD(化学的気相成長)や真空蒸着等がある。
【0043】
(2)成膜後における耐熱性樹脂フィルムのフィルム温度
図2に示したスパッタリングウェブコーターを使用し、成膜中に全てのマグネトロンスパッタリングカソードを耐熱性樹脂フィルムが通過した時のフィルム温度を、耐熱性樹脂フィルムに熱電対を貼り付けて測定する。ここでは、冷却キャンロールの温度60℃、マグネトロンスパッタへの投入総電力が70kW、フィルム搬送速度8m/分の時、フィルム温度は110℃に達したが、耐熱性樹脂フィルム113は冷却キャンロール123に強く接触しているため冷却キャンロール123により冷却され、冷却キャンロール123から離れた位置ではフィルム温度は約60℃まで低下していた。このことから、冷却キャンロール123から巻取ロール129までの搬送路中に存在するロールに冷却機構を設けない場合、成膜直後におけるロール温度は低いが、成膜後の耐熱性樹脂フィルム113から熱が伝わって次第に温度が上昇し、巻取ロール129に巻き取られた耐熱性樹脂フィルム113のフィルム温度が40℃以上になることもあった。
【0044】
ところで、巻取ロール129に巻き取られた耐熱性樹脂フィルム113のフィルム温度の上昇を回避するため、冷却キャンロールの温度を−30℃まで冷却する方法も考えられるが、成膜された薄膜(金属膜)と耐熱性樹脂フィルムとの熱膨張率の違いから皺等が発生する問題がある。このような理由から、冷却キャンロールを冷却し過ぎることにも問題があるため、冷却キャンロールの温度は−10〜80℃に制御することが一般的である。耐熱性樹脂フィルムは、一旦冷却キャンロールの温度になり、これに成膜の熱負荷によりフィルム温度が上昇し、冷却キャンロールで冷却できなかった温度差が加わったフィルム温度になって冷却キャンロール123を離れる。
図2に示したスパッタリングウェブコーターの場合、上述したように耐熱性樹脂フィルム113は冷却キャンロール123に強く接触しているため、冷却キャンロール123により冷却されて、冷却キャンロール123から離れた位置でのフィルム温度は約60℃まで低下している。
【0045】
(3)冷却パネル等から成る冷却手段
次に、成膜後の耐熱性樹脂フィルム113を巻き取る巻取ロール129が配置された巻き取り室112に設けられる冷却パネル等から成る冷却手段について説明する。
【0046】
この冷却手段は、冷媒を用いて冷却する従来の冷却ロール構造に代えて、
図2示すように130K以下に冷却可能なクライオ冷凍機135を有しかつ冷却ボックス136内に配置された冷却パネル134と、搬送中の耐熱性樹脂フィルム113と冷却パネル134との間に冷却ガスを導入する
図3〜
図5に示す冷却ガス導入手段とで構成されている。
【0047】
以下、上記冷却ガス導入手段の詳細について説明する。真空(減圧)空間は熱伝導が低いため、熱伝導を高めるために冷却ガスを導入する。搬送中の耐熱性樹脂フィルムと冷却パネルとの間に冷却ガスを導入する方法としては、例えば、ガスノズルを用いて冷却ガスを導入する
図3に示す方法、冷却パネルに取付けられた中空構造体の冷却ガス放出孔から冷却ガスを導入する
図4に示す方法、および、冷却パネルに取付けられた多孔質構造体から冷却ガスを導入する
図5に示す方法がある。
【0048】
図3では、クライオ冷凍機(図示せず)により冷却されかつ冷却ボックス202内に配置された冷却パネル201と耐熱性樹脂フィルム200との間に、ガスノズル203、204のノズル先端から冷却ガスを導入している。
【0049】
図4では、クライオ冷凍機(図示せず)により冷却されかつ冷却ボックス232内に配置された冷却パネル221の耐熱性樹脂フィルム220と対向する側に取付けられ、かつ、内部にガス導入路236が設けられると共に、ガス導入路236に接続されたガス導入管233、234から冷却ガスが導入される中空構造体(ガス導入板)235と、中空構造体(ガス導入板)235とガス導入路236の耐熱性樹脂フィルム220と対向する側にそれぞれ開設された複数の冷却ガス放出孔237とで冷却ガス導入手段を構成し、搬送中の耐熱性樹脂フィルム220と冷却パネル221との間に上記冷却ガス放出孔237から冷却ガスを導入している。上記冷却ガス放出孔237は、耐熱性樹脂フィルム220と冷却パネル221間を均一なガス分圧とするため、微細な孔が多数開いている方がよく、直径100〜500μm孔が数mm間隔で開設されていることが望ましい。尚、ガス導入路236の組み込みを省略した構造の中空構造体(ガス導入板)235としてもよい。
【0050】
図5では、クライオ冷凍機(図示せず)により冷却されかつ冷却ボックス242内に配置された冷却パネル241の耐熱性樹脂フィルム240と対向する側に取付けられ、かつ、内部にガス導入路246が設けられると共に、ガス導入路246に接続されたガス導入管243、244から冷却ガスが導入される多孔質構造体(ガス導入多孔質板)245により冷却ガス導入手段を構成し、搬送中の耐熱性樹脂フィルム240と冷却パネル241との間に上記多孔質構造体(ガス導入多孔質板)245から冷却ガスを導入している。多孔質構造体(ガス導入多孔質板)245は、耐熱性樹脂フィルム240と冷却パネル241間を均一なガス分圧とするため、微細な孔が多数開いている方がよく、数〜数10μmの孔が開いている多孔質板を使用することが望ましい。尚、ガス導入路246の組み込みを省略した構造の多孔質構造体(ガス導入多孔質板)245としてもよい。
【0051】
また、導入する冷却ガスは、熱伝導性のよい、水素、ヘリウム、アルゴン、酸素等があり、望ましくは、冷却ボックスから冷却ガスが漏れた際に、成膜に影響を与えないガスがよく、ヘリウム、アルゴンが好ましい。但し、上記成膜室111と巻き取り室112がスリットローラーや差動排気等により完全にガス遮断されている場合には、導入する冷却ガスに制限は無い。
【0052】
そして、冷却パネルは、以下の2つの効果により耐熱性樹脂フィルムを冷却する。
(3−1)冷却パネルと耐熱性樹脂フィルムの温度差による輻射冷却
(3−2)冷却パネルで冷やされた冷却ガスを耐熱性樹脂フィルムに噴き付けることによるガス冷却
【0053】
上記輻射冷却を行うためには、冷却パネルと耐熱性樹脂フィルムとの温度差が高い程、効率がよい。スパッタリング成膜後における冷却キャンロールから離れるときの耐熱性樹脂フィルムのフィルム温度は約330K(57℃)であるので、冷却パネルと耐熱性樹脂フィルムの温度差を少なくとも200K以上得るためには、冷却パネルを130K以下にする必要がある。
【0054】
また、真空成膜装置(スパッタリングウェブコーター)内の空間を有効に利用するためには、耐熱性樹脂フィルムの搬送方向(冷却パネルの縦方向)における冷却パネルの長さ寸法は10cm〜50cmである。そして、長さ10cm〜50cmの冷却パネルにより加熱された耐熱性樹脂フィルムを室温までに冷却するには、冷却パネルは、130K以下に冷却可能な冷凍機を備える必要がある。尚、冷却パネルの幅寸法(耐熱性樹脂フィルムの幅方向)は、耐熱性樹脂フィルムの幅より広いことを条件に適宜選択できる。
【0055】
上記冷却パネルを130K以下に冷却するには、130K以下に冷却可能な冷媒が循環する冷凍機を冷却パネルに備える必要がある。真空成膜装置では、耐熱性樹脂フィルムの脱着のために真空成膜装置が大気開放され、大気開放の手順の一部には、大気開放前に冷却パネルは露点以上に加熱される。冷凍機の冷媒は、この加熱の際の温媒ともなり、冷却と加熱の熱サイクルに耐えられる必要がある。このような熱サイクルに耐えられる冷媒としてはHeやフロン等がある。また、冷凍機には、上述したクライオ冷凍機を用いることができる。
【0056】
但し、冷却パネルを極端に冷却してしまうと、冷却パネルと耐熱性樹脂フィルム間に導入する冷却ガスが冷却パネルに凝縮してしまうことがある。冷却パネルと耐熱性樹脂フィルム間に導入された冷却ガスの圧力は、平衡蒸気圧曲線に従い冷却パネルのパネル温度における平衡蒸気圧よりも低くなればならない。別な言い方をすれば、冷却パネルのパネル温度は、導入された冷却ガスの圧力条件下において冷却ガスの平衡蒸気圧曲線に従い該冷却ガスが凝集する温度より高い温度でなければならない。
【0057】
すなわち、冷却パネルのパネル温度は、冷却パネルと耐熱性樹脂フィルム間に導入された冷却ガスの圧力により定まる。例えば、冷却パネルのパネル温度は、100PaのArガス圧力ならば55K以上とし、100kPaのArガス圧力ならば85K以上となる。同様に、冷却パネルのパネル温度は、100PaのO
2ガス圧力ならば55K以上とし、100kPaのO
2ガス圧力ならば90K以上となる。また、冷却パネルのパネル温度は、100PaのHeガス圧力ならば15K以上とし、100kPaのHeガス圧力ならば25K以上となる。
【0058】
導入する冷却ガスの温度は室温より低ければよく、冷却パネルによりすぐにパネル温度近傍の温度に冷却される。また、冷却ガスの圧力は、冷却パネルと耐熱性樹脂フィルムの熱伝導を効率よく行うため、100Pa〜5000Paが望ましい。一方、冷却ガスの圧力が100kPaを越えると、大気圧近傍または大気圧以上の導入ガスの圧力となり、真空成膜装置に導入するガス圧力として不適切である。
【0059】
(4)長尺体と銅張積層樹脂フィルム基板
(4-1)長尺体
金属膜等成膜処理の対象となる長尺体は、長尺状の樹脂フィルム、金属箔、金属ストリップ等が挙げられる。そして、樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような長尺樹脂フィルムや、ポリイミドフィルムのような長尺耐熱性樹脂フィルム等が例示される。
【0060】
(4-2)銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)基板
本発明に係る真空成膜装置および真空成膜方法を用いて、フィルム皺等の不具合の無い銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)基板を製造することができる。
【0061】
上記銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)基板としては、耐熱性樹脂フィルム表面にNi、Ni系合金、Cr等からなる下地金属層と、下地金属層の表面に積層された銅薄膜層とで構成された構造体が例示される。このような構造を有する銅張積層樹脂フィルム基板は、サブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板に加工される。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記銅薄膜層)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0062】
上記Ni合金等からなる層はシード層(下地金属層)と呼ばれ、銅張積層樹脂フィルム基板の電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性によりその組成が選択される。そして、シード層には、Ni−Cr合金またはインコネル、コンズタンタンやモネル等の各種公知の合金を用いることができる。また、銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)基板の金属膜(銅薄膜層)を更に厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いて金属膜を形成することがある。尚、電気めっき処理(すなわち、電解めっき処理)のみで金属膜を形成する場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合もある。湿式めっき処理は、常法による湿式めっき法の諸条件を採用すればよい。
【0063】
また、上記銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)に用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる樹脂フィルムが挙げられ、銅張積層樹脂フィルムとしての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
【0064】
尚、上記銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)として、長尺耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例示したが、上記金属膜以外に、目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を用いることも可能である。
【実施例】
【0065】
巻き出し室110と成膜室111と巻き取り室112を備え、かつ、従来の冷却ロール構造に代えて冷却パネル134が巻き取り室112に組み込まれた
図2に示す真空成膜装置(スパッタリングウェブコーター)を用い、長尺状の耐熱性樹脂フィルム113には、幅500mm、長さ1000m、厚さ25μmの東レ・デュポン株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「カプトン(登録商標)」を使用した。
【0066】
また、冷却キャンロール123は、直径800mm、幅800mmで、キャンロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。
【0067】
前フィードロール122は、IH(誘導加熱)方式の加熱ロールで構成し、直径が150mm、有効幅500mmである。上記前フィードロール122の周速度は、冷却キャンロール123外周面に耐熱性樹脂フィルム113を強く密着させるため基準速度となる冷却キャンロール123の周速度より0.1%遅い速度で回転させている。また、冷却キャンロール123のロール温度は60℃に設定され、かつ、巻き出し室110のヒーターボックス116内に配置されたヒーター117、118の温度は100℃に設定されている。
【0068】
また、上記耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)113に成膜される金属膜はシード層であるNi−Cr膜の上にCu膜を成膜するものとし、かつ、マグネトロンスパッタリングカソード(ターゲット)130にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタカソード(ターゲット)131、132、133にはCuターゲットを用い、更に、アルゴンガスを300sccm導入し、各カソードへの印加電力は電力制御で成膜を行った。
【0069】
また、上記巻出ロール114と巻取ロール129の張力は100Nとした。巻出ロール114に上記耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)113をセットし、かつ、冷却キャンロール123を経由して上記耐熱性ポリイミドフィルム113の先端部を巻取ロール129に取り付けた。
【0070】
また、巻き出し室110、成膜室111および巻き取り室112を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
-3Paまで排気した。
【0071】
そして、耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)113の搬送速度を設定した後、各マグネトロンスパッタカソード130、131、132、133にアルゴンガスを導入して電力を印加し、シード層を構成するNi−Cr膜と、このNi−Cr膜上に形成するCu膜の成膜を開始した。
【0072】
そして、耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)113の長さ1000m分の成膜を完了させた後、各マグネトロンスパッタカソード130、131、132、133への印加電力を停止し、アルゴンガスの導入も停止し、かつ、耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)113の搬送を停止した。この後、上記巻き出し室110、成膜室111および巻き取り室112に対し、複数台のドライポンプ、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを停止して、巻き出し室110、成膜室111および巻き取り室112に大気を導入し、成膜後の耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)113を取り出した。
【0073】
尚、以下に述べる
参考例1、実施例2〜3において、シード層であるNi−Cr膜の膜厚は10nm、マグネトロンスパッタリングカソード(ターゲット)130には1枚のNi−Crターゲットを用い、また、上記Cu膜の膜厚は100nm、マグネトロンスパッタリングカソード(ターゲット)131、132、133には3枚のCuターゲットを用い、かつ、成膜速度が8m/分のとき、スパッタリングカソードへの印加総電力は70kWであった。
【0074】
そして、耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)113に貼り付けた熱電対により、耐熱性ポリイミドフィルム113が、60℃に温度制御された冷却キャンロール123を出た直後におけるフィルム温度と、冷却ボックス136を通過した直後におけるフィルム温度をそれぞれ測定した。また、巻き取り室112から巻取ロール129を取り出し、室温(22℃)になった時点で、耐熱性ポリイミドフィルム113の縦皺(円周方向の皺)の有無を観察した。
【0075】
[
参考例1]
参考例1においては、
図2に示す冷却パネル134と耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)113との間に冷却ガスを導入する方法として、ガスノズルを用いた
図3に示す方法が採られている。
【0076】
すなわち、
参考例1では、
図3に示すようにクライオ冷凍機(図示せず)により冷却されかつ冷却ボックス202内に配置された冷却パネル201と耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)200との間に、ガスノズル203、204のノズル先端から冷却ガスとしてAr、O
2、Heガスをそれぞれ導入している。
【0077】
そして、図示外のクライオ冷凍機にはアルバッククライオ社製「RS80T」を用い、冷却パネル201には銅製のパネル(幅600mm×縦200mm×厚1mm)を採用した。また、冷却ガスの導入量は、冷却ボックス202に取り付けられた圧力計(図示せず)で制御し、また、冷却パネル201の制御温度は、各冷却ガス(Ar、O
2、Heガス)の平衡蒸気圧曲線(
図6のグラフ図参照)から、上記圧力条件下における冷却ガスの凝縮温度以上となるように選定している。
【0078】
そして、冷却パネル201と耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)200の間隔を200μmとし、冷却ガス(Ar、O
2、Heガス)、冷却ボックス202内の圧力(50、500、5000Pa)、冷却パネル201の温度(Ar:90、130、300K、O
2:100、130、300K、He:50、130、300K)の条件毎に、耐熱性ポリイミドフィルム200が、60℃に温度制御された冷却キャンロールを出た直後におけるフィルム温度と冷却ボックス202を通過した直後におけるフィルム温度をそれぞれ測定し、かつ、巻き取り室112から巻取ロール129を取り出し、室温(22℃)になった時点で、耐熱性ポリイミドフィルム200の縦皺(円周方向の皺)の有無を観察した。
【0079】
これ等の結果を、表1(Ar)、表2(O
2)、表3(He)にそれぞれ示す。
【0080】
そして、冷却パネル201の温度が130K以下に設定されている場合に耐熱性ポリイミドフィルム200を効率よく冷却していることが確認され、また、冷却ボックス202を通過した直後におけるフィルム温度の数値から、巻取ロール129に巻き取られる耐熱性ポリイミドフィルム200の温度が30℃未満の場合、耐熱性ポリイミドフィルム200に縦皺が発生しないことも確認された。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
[実施例2]
実施例2においては、
図2に示す冷却パネル134と耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)113との間に冷却ガスを導入する方法として冷却パネルに取付けられた中空構造体(ガス導入板)と冷却ガス放出孔を用いた
図4に示す方法が採られている。
【0085】
すなわち、
図4に示す方法は、クライオ冷凍機(図示せず)により冷却されかつ冷却ボックス232内に配置された冷却パネル221の耐熱性ポリイミドフィルム220と対向する側に取付けられ、かつ、内部にガス導入路236が設けられると共に、ガス導入路236に接続されたガス導入管233、234から3種類の冷却ガス(Ar、O
2、Heガス)が導入される中空構造体(ガス導入板)235と、中空構造体(ガス導入板)235とガス導入路236の耐熱性ポリイミドフィルム220と対向する側にそれぞれ開設された複数の冷却ガス放出孔237とで冷却ガス導入手段を構成し、搬送中の耐熱性ポリイミドフィルム220と冷却パネル221との間に冷却ガス放出孔237から冷却ガスとしてAr、O
2、Heガスをそれぞれ導入している。尚、ガス導入路236の直径は3mm、冷却ガス放出孔237における孔の直径は200μm、孔の間隔は10mmである。
【0086】
そして、図示外のクライオ冷凍機にはアルバッククライオ社製「RS80T」を用い、冷却パネル221には銅製のパネル(幅600mm×縦200mm×厚1mm)を採用した。また、冷却ガスの導入量は、冷却ボックス232に取り付けられた圧力計(図示せず)で制御し、また、冷却パネル221の制御温度は、各冷却ガス(Ar、O
2、Heガス)の平衡蒸気圧曲線(
図6のグラフ図参照)から、上記圧力条件下における冷却ガスの凝縮温度以上となるように選定している。
【0087】
そして、冷却パネル221と耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)220の間隔を200μmとし、冷却ガス(Ar、O
2、Heガス)、冷却ボックス232内の圧力(50、500、5000Pa)、冷却パネル221の温度(Ar:90、130、300K、O
2:100、130、300K、He:50、130、300K)の条件毎に、耐熱性ポリイミドフィルム220が、60℃に温度制御された冷却キャンロールを出た直後におけるフィルム温度と冷却ボックス232を通過した直後におけるフィルム温度をそれぞれ測定し、かつ、巻き取り室112から巻取ロール129を取り出し、室温(22℃)になった時点で、耐熱性ポリイミドフィルム220の縦皺(円周方向の皺)の有無を観察した。
【0088】
これ等の結果を、表4(Ar)、表5(O
2)、表6(He)にそれぞれ示す。
【0089】
そして、冷却パネル221の温度が130K以下に設定されている場合に耐熱性ポリイミドフィルム220を効率よく冷却していることが確認され、また、冷却ボックス232を通過した直後におけるフィルム温度の数値から、巻取ロール129に巻き取られる耐熱性ポリイミドフィルム220の温度が30℃未満の場合、耐熱性ポリイミドフィルム220に縦皺が発生しないことも確認された。
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
[実施例3]
実施例3においては、
図2に示す冷却パネル134と耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)113との間に冷却ガスを導入する方法として、冷却パネルに取付けられた多孔質構造体(ガス導入多孔質板)を用いた
図5に示す方法が採られている。
【0094】
すなわち、
図5に示す方法は、クライオ冷凍機(図示せず)により冷却されかつ冷却ボックス242内に配置された冷却パネル241の耐熱性樹脂フィルム240と対向する側に取付けられ、かつ内部にガス導入路246が設けられると共に、ガス導入路246に接続されたガス導入管243、244から3種類の冷却ガス(Ar、O
2、Heガス)が導入される多孔質構造体(ガス導入多孔質板)245により冷却ガス導入手段を構成し、搬送中の耐熱性樹脂フィルム240と冷却パネル241との間に上記多孔質構造体(ガス導入多孔質板)245から冷却ガスとしてAr、O
2、Heガスをそれぞれ導入している。多孔質構造体(ガス導入多孔質板)245は耐熱性樹脂フィルム240と冷却パネル241間を均一なガス分圧とするため微細な孔が多数開いている方がよく、直径10μmのアルミナ粒子の焼結体から成る多孔質板を使用した。
【0095】
そして、図示外のクライオ冷凍機にはアルバッククライオ社製「RS80T」を用い、冷却パネル241には銅製のパネル(幅600mm×縦200mm×厚1mm)を採用した。また、冷却ガスの導入量は、冷却ボックス242に取り付けられた圧力計(図示せず)で制御し、また、冷却パネル241の制御温度は、各冷却ガス(Ar、O
2、Heガス)の平衡蒸気圧曲線(
図6のグラフ図参照)から、上記圧力条件下における冷却ガスの凝縮温度以上となるように選定している。
【0096】
そして、冷却パネル241と耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)240の間隔を200μmとし、冷却ガス(Ar、O
2、Heガス)、冷却ボックス242内の圧力(50、500、5000Pa)、冷却パネル241の温度(Ar:90、130、300K、O
2:100、130、300K、He:50、130、300K)の条件毎に、耐熱性ポリイミドフィルム240が、60℃に温度制御された冷却キャンロールを出た直後におけるフィルム温度と冷却ボックス242を通過した直後におけるフィルム温度をそれぞれ測定し、かつ、巻き取り室112から巻取ロール129を取り出し、室温(22℃)になった時点で、耐熱性ポリイミドフィルム240の縦皺(円周方向の皺)の有無を観察した。
【0097】
これ等の結果を、表7(Ar)、表8(O
2)、表9(He)にそれぞれ示す。
【0098】
そして、冷却パネル241の温度が130K以下に設定されている場合に耐熱性ポリイミドフィルム240を効率よく冷却していることが確認され、また、冷却ボックス242を通過した直後におけるフィルム温度の数値から、巻取ロール129に巻き取られる耐熱性ポリイミドフィルム240の温度が30℃未満の場合、耐熱性ポリイミドフィルム240に縦皺が発生しないことも確認された。
【0099】
【表7】
【0100】
【表8】
【0101】
【表9】