(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
R
2T
14B型化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、ハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に使用されている。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。不可逆熱減磁を回避するため、モータ用等に使用する場合、高温下でも高い保磁力を維持することが要求されている。
【0004】
R−T−B系焼結磁石は、R
2T
14B型化合物相中のRの一部を重希土類元素RH(Dy、Tb)で置換すると、保磁力が向上することが知られている。高温で高い保磁力を得るためには、R−T−B系焼結磁石中に重希土類元素RHを多く添加することが有効である。
【0005】
しかし、R−T−B系焼結磁石において、Rとして軽希土類元素RL(Nd、Pr)を重希土類元素RHで置換すると、保磁力が向上する一方、残留磁束密度が低下してしまうという問題がある。また、重希土類元素RHは希少資源であるため、その使用量を削減することが求められている。
【0006】
従来技術として、焼結磁石表面に重希土類元素RHの酸化物、フッ化物、酸フッ化物の粉末を存在させ、当該焼結磁石の焼結温度以下の温度で真空または不活性ガス中において熱処理を施すことで、焼結磁石表面から重希土類元素RHを拡散させ、磁石の保磁力を向上させる技術として特許文献1がある。
【0007】
特許文献1では、焼結磁石表面に粉末を存在させる方法(粉末処理方法)として、酸化物、フッ化物、酸フッ化物から選ばれる1種又は2種以上を含有する重希土類元素化合物の微粉末を水あるいは有機溶剤に分散させたスラリーに焼結磁石を浸した後に熱風や真空により乾燥させる。その後、熱処理を行い、重希土類元素RHを磁石表面から導入することが記載されている。特許文献1では特にフッ素を含む化合物は磁石に高効率に吸収され、保磁力の向上効果が高いと記載されている。
【0008】
また、特許文献2では、重希土類元素RHの酸化物粉末やフッ化物粉末の中にR−T−B系焼結磁石を埋め込み、ArやHe中で500℃から1000℃で10分から8時間の熱処理を行い、焼結磁石の表層部分に絶縁層を生成させると記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のR−T−B系焼結磁石の製造方法は、DyおよびTbの少なくとも一方を含むフッ化物、酸化物、酸フッ化物の少なくともいずれかからなるRH拡散源と、前記R−T−B系焼結磁石体とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入し、前記R−T−B系焼結磁石体と前記RH拡散源とを前記処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、前記焼結磁石体および前記RH拡散源を800℃以上950℃以下の処理温度に加熱する。
【0018】
本発明であれば、DyおよびTbの少なくとも一方を含むフッ化物、酸化物、酸フッ化物の少なくともいずれかからなるRH拡散源であっても重希土類元素RHの気化(昇華)による供給とR−T−B系焼結磁石体への拡散とを同時に実行する(RH拡散処理)ことができる。
【0019】
また、本発明では、処理温度と処理時間を調整することでR−T−B系焼結磁石体へのRH拡散処理を安定して実施することができる。
【0020】
さらに、本発明では、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入し、連続的または断続的に移動させることができるので、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とを所定位置に並べる載置の時間が不要となる。
【0021】
本発明は、DyおよびTbの少なくとも一方を含むフッ化物、酸化物、酸フッ化物の少なくともいずれかからなるRH拡散源を800℃から950℃以下で連続的または断続的にR−T−B系焼結磁石体とともに移動させることで、処理室内でRH拡散源とR−T−B系焼結磁石体との接触点が増加し、重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体内部に拡散させることができる。また、800℃以上950℃以下という温度範囲が、R−T−B系焼結磁石においてRH拡散が促進される温度範囲であり、重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体内部に拡散させやすい状況でRH拡散ができる。
【0022】
また、RH拡散処理工程でのR−T−B系焼結磁石体への重希土類元素RHの供給過多がなくなり、残留磁束密度B
rが低下することがない。
【0023】
ここで、RH拡散処理工程においてR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを処理室内において連続的または断続的に移動させる方法としては、R−T−B系焼結磁石体に欠けや割れを発生させることなく、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体との相互配置関係を変動させることが可能であれば、任意の方法を採用し得る。例えば、処理室を回転、揺動したり、外部から処理室に振動を加えたりする方法を採用できる。また、処理室内に攪拌手段を設けてもよい。
【0024】
[R−T−B系焼結磁石体]
まず、本発明では、重希土類元素RHの拡散の対象であるR−T−B系焼結磁石体を準備する。このR−T−B系焼結磁石体は、以下の組成からなる。
希土類元素R:12〜17原子%
B(Bの一部はCで置換されていてもよい):5〜8原子%
添加元素M(Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種):0〜2原子%
T(Feを主とする遷移金属であって、Coを含んでもよい)および不可避不純物:残部
ここで、希土類元素Rは、主として軽希土類元素RL(Nd、Pr)から選択される少なくとも1種の元素であるが、重希土類元素を含有していてもよい。なお、重希土類元素を含有する場合は、DyおよびTbの少なくとも一方を含むことが好ましい。
上記組成のR−T−B系焼結磁石体は、公知の製造方法によって製造される。
【0025】
[RH拡散源]
RH拡散源は、重希土類元素RH(Dy、Tbの少なくともいずれか)とFおよびOの少なくともいずれかとの化合物である。Fと重希土類元素RHとの化合物はRHF
3が主であるが、RHF
3に限定されない。Oと重希土類元素RHとの化合物はRH
2O
3が主であるが、RH
2O
3に限定されない。例えばRH
4O
4、RH
4O
7等を用いることができる。FとOを含む酸フッ化物では、RHOFが主であるがRHOFに限定されない。例えば、希土類酸化物と無水フッ化水素気流とを高温で加熱している過程でできる生成物であるRH
2O
3にFが微量に含まれた酸フッ化物や、逆にFを多く含んだ酸フッ化物であってもよい。
【0026】
重希土類元素RH(Dy、Tbの少なくとも一方)による本発明の効果を損なわない限りにおいて、Nd、Pr、La、Ce、Zn、Zr、SnおよびCoからなる群から選択された少なくとも1種を含有してもよい。また、Alなどの遷移金属の少なくとも1種を含んでいてよい。
【0027】
RH拡散源の形態は、例えば、球状、線状、板状、ブロック状、粉末など任意である。また、RH拡散源の形状・大きさは、特に限定されない。DyおよびTbの少なくとも一方を含むフッ化物、酸化物、酸フッ化物のRH拡散源が数μmの粉末であっても、数百μmの粉末やさらに大きな塊状であってもよい。以下にRH拡散源の製造方法を示すが、製造方法は記載した方法に限定されない。他の方法で製造してもよい。
【0028】
重希土類元素の酸化物は、例えば、希土類元素無機塩の水溶液にアンモニウム及び炭酸水素アンモニウムまたは炭酸アンモニウムを加えて希土類元素炭酸塩を晶出させ、ろ過、水洗した後、該炭酸塩に有機溶剤を加えて加熱、水分を留去し、該炭酸塩を含む層から有機溶剤を分離し、該炭酸塩を減圧、乾燥し、焼成することによって作製される。
【0029】
重希土類元素のフッ化物も、例えば、希土類元素の水酸化物の沈殿を含むゾル又はスラリー状の溶液に、フッ化水素酸又は水中で解離してフッ化水素を発生することのできる化合物を加えて、沈殿物をフッ素化した後、濾別、乾燥、更に必要により700℃以下の温度で仮焼し、作製する。
【0030】
重希土類元素の酸フッ化物は、例えば、希土類酸化物と無水フッ化水素気流とを高温(例えば750℃)に加熱すること、またはフッ化物を高温に加熱することにより作製される。
【0031】
RH拡散源は重希土類元素RHのフッ化物、酸化物、酸フッ化物の少なくともいずれか2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
[攪拌補助部材]
本発明の実施形態では、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源に加えて、攪拌補助部材を処理室内に導入することが好ましい。攪拌補助部材はRH拡散源とR−T−B系焼結磁石体との接触を促進し、また攪拌補助部材に一旦付着した重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体へ間接的に供給する役割をする。さらに、攪拌補助部材は、処理室内において、R−T−B系焼結磁石体同士やR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源との接触による欠けを防ぐ役割もある。
【0033】
攪拌補助部材は処理室内で運動しやすい形状にし、その攪拌補助部材をR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源と混合して処理室の回転、揺動、振動を行うことが効果的である。ここで運動しやすい形状との例として、直径数百μmから数十mmの球状、楕円状、円柱状等が挙げられる。
【0034】
攪拌補助部材は、比重が6g/cm
3以上かつRH拡散処理中にR−T−B系焼結磁石体およびRH拡散源と接触しても反応しにくい材料から形成されることが好ましい。セラミックスの攪拌補助部材としてはジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素並びに窒化硼素、または、これらの混合物のセラミックスから好適に形成され得る。
【0035】
また、R−T−B系焼結磁石体およびRH拡散と反応しにくい金属材料の攪拌補助部材としては、Mo、W、Nb、Ta、Hf、Zrとを含む金属、または、これらの混合物からも形成され得る。
【0036】
[RH拡散処理工程]
図1を参照しながら、本発明による拡散処理工程の好ましい例を説明する。
図1に示す例では、R−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2がステンレス製の筒3の内部に装入されている。また、図示していないが、ジルコニア球などを攪拌補助部材として筒3の内部に装入されていることが好ましい。この例では、筒3が「処理室」として機能する。筒3の材料は、ステンレスに限定されず、800℃以上950℃以下の温度に耐える耐熱性を有し、R−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2と反応しにくい材料であれば任意である。例えば、Nb、Mo、Wまたはそれらの少なくとも1種を含む合金を用いてもよい。筒3には開閉または取り外し可能な蓋5が設けられている。また筒3の内壁には、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とが効率的に移動と接触を行い得るように、突起物を設置することができる。筒3の長軸方向に垂直な断面形状も、円に限定されず、楕円または多角形、あるいはその他の形状であってもよい。
図1に示す状態の筒3は排気装置6と連結されている。排気装置6の働きにより、筒3の内部は減圧され得る。筒3の内部には、不図示のガスボンベからArなどの不活性ガスが導入され得る。
【0037】
筒3は、その外周部に配置されたヒータ4によって加熱される。筒3の加熱により、その内部に収納されたR−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2も加熱される。筒3は、中心軸の回りに回転可能に支持されており、ヒータ4による加熱中も可変モータ7によって回動することができる。筒3の回転速度は、例えば筒3の内壁面の周速度を毎秒0.01m以上に設定され得る。回転により筒内のR−T−B系焼結磁石体同士が激しく接触して欠けないよう、毎秒0.5m以下に設定するのが好ましい。
【0038】
図1の例では、筒3は回転するが、本発明は、このような場合に限定されない。RH拡散処理工程中に筒3内でR−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2とが相対的に移動可能かつ接触可能であればよい。例えば、筒3は、回転することなく揺動または振動してもよいし、回転、揺動および振動の少なくとも2つが同時に生じてもよい。
次に、
図1の処理装置を用いて行うRH拡散処理の動作を説明する。
【0039】
まず、蓋5を筒3から取り外し、筒3の内部を開放する。複数のR−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2を筒3の内部に装入した後、再び、蓋5を筒3に取り付ける。排気装置6を接続して筒3の内部を真空排気する。筒3の内部圧力が充分に低下した後、排気装置6を取り外す。加熱後、必要圧力まで不活性ガスを導入し、モータ7によって筒3を回転させながら、ヒータ4による加熱を実行する。
【0040】
RH拡散処理時における筒3の内部は不活性雰囲気であることが好ましい。本明細書における「不活性雰囲気」とは、真空、または不活性ガスを含むものとする。また、「不活性ガス」は、例えばアルゴン(Ar)などの希ガスであるが、R−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2との間で化学的に反応しないガスであれば、「不活性ガス」に含まれ得る。不活性ガスの圧力は、大気圧以下であることが好ましい。本実施形態においては、RH拡散源2とR−T−B系焼結磁石体1とが近接または接触しているため、高い圧力でRH拡散処理ができる。また、真空度と重希土類元素RHの供給量との相関は比較的小さく、真空度を更に高めても、重希土類元素RHの供給量(保磁力の向上度)に大きく影響しない。供給量は、雰囲気圧力よりもR−T−B系焼結磁石体の温度に敏感である。
【0041】
本実施形態では、重希土類元素RHであるDyおよびTbの少なくとも一方を含むフッ化物、酸化物、酸フッ化物の少なくともいずれかからなるRH拡散源2とR−T−B系焼結磁石体1とを筒(処理室)3内にて連続的または断続的に移動させながら、前記R−T−B系焼結磁石体1および前記RH拡散源2を800℃以上950℃以下の処理温度に加熱することにより、前記RH拡散源2から前記重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体1の表面に直接供給しつつ、内部に拡散させることができる。
【0042】
拡散処理時における処理室の内壁面の周速度は、例えば0.01m/s以上に設定され得る。回転速度が低くなると、R−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2との接触部の移動が遅くなり、溶着が発生しやすくなる。このため、拡散温度が高いほど、処理室の回転速度を高めることが好ましい。好ましい回転速度は、拡散温度のみならず、RH拡散源の形状やサイズによっても異なる。
【0043】
本実施形態では、RH拡散源2およびR−T−B系焼結磁石体1の温度を800℃以上950℃以下の範囲内に保持する。この温度範囲は、重希土類元素RHがR−T−B系焼結磁石体1の粒界相を伝って内部へ拡散するのに好ましい温度領域である。
【0044】
RH拡散源2はDyおよびTbの少なくとも一方を含むフッ化物、酸化物、酸フッ化物の少なくともいずれかからなり、800℃以上950℃以下の処理温度では重希土類元素RHが供給過多にならない。本発明ではRH拡散源2の粒径は100μm超であってもRH拡散処理の効果が得られる。RH拡散処理の時間は、例えば10分以上72時間以下である。好ましくは1時間以上12時間以下である。
【0045】
保持時間は、RH拡散処理工程をする際のR−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2の投入量の比率、R−T−B系焼結磁石体1の形状、RH拡散源2の形状、および、RH拡散処理によってR−T−B系焼結磁石体1に拡散されるべき重希土類元素RHの量(拡散量)などを考慮して決められる。
【0046】
RH拡散処理工程時における雰囲気ガスの圧力(処理室内の雰囲気圧力)は、例えば10
−3Paから大気圧の範囲内に設定され得る。筒3の回転は装入されたR―T−B系焼結磁石体への均質なRH拡散のためRH拡散処理工程中行われているが、RH拡散処理工程後に回転を止めてもよいし、後述する第1熱処理、第2熱処理を行っている間も回転を続けてもよい。
【0047】
[第1熱処理]
RH拡散処理工程後に、拡散された重希土類元素RHをより均質化する目的でR−T−B系磁石体1に対する第1熱処理を行っても良い。熱処理は、RH拡散源を取り除いた後、重希土類元素RHが実質的に拡散し得る800℃以上950℃以下の温度で実行される。この第1熱処理では、R−T−B系焼結磁石体1に対して重希土類元素RHの供給は生じないが、R−T−B系焼結磁石体1の内部において重希土類元素RHの拡散が生じるため、焼結磁石の表面側から奥深くに重希土類元素RHを拡散し、磁石全体として保磁力を高めることが可能になる。第1熱処理の時間は、例えば10分以上72時間以下である。好ましくは1時間以上12時間以下である。ここで、第1熱処理を行なう熱処理炉の雰囲気圧力は、大気圧以下である。好ましいのは100kPa以下である。
【0048】
[第2熱処理]
また、必要に応じてさらに第2熱処理(400℃以上700℃以下)を行うが、第2熱処理(400℃以上700℃以下)を行う場合は、第1熱処理(800℃以上950℃以下)の後に行うことが好ましい。第1熱処理(800℃以上950℃以下)と第2熱処理(400℃以上700℃以下)は、同じ処理室内で行っても良い。第2熱処理の時間は、例えば10分以上72時間以下である。好ましくは1時間以上12時間以下である。ここで、第2熱処理を行う熱処理炉の雰囲気圧力は、大気圧以下である。
【実施例】
【0049】
(実験例1)
まず、組成比Nd=26.0、Pr=4.0、Dy=0.5、B=1.0、Co=0.9、Al=0.1、Cu=0.1、Ga=0.1、残部=Fe(質量%)のR−T−B系焼結磁石体を作製した。これを機械加工することにより、7.4mm×7.4mm×7.4mmの立方体のR−T−B系焼結磁石体を得た。作製したR−T−B系焼結磁石体の磁気特性をB−Hトレーサによって測定したところ、熱処理(500℃)後の特性で保磁力H
cJは1050kA/m、残留磁束密度B
rは1.42Tであった。
【0050】
次に、
図1の装置を用いてRH拡散処理を実行した。筒の容積:128000mm
3、R−T−B系焼結磁石体の投入重量:50g、RH拡散源の投入重量:50gであった。RH拡散源は不定形のものを用いた。
【0051】
種々のRH拡散源(サンプル1から11)を用いてRH拡散処理を行ったところ、表1の結果となった。実質的には数μmサイズであったがサンプル1から8、11はJIS規格 Z−8801による目開き25μmのふるいを通ったRH拡散源を用いた。サンプル9は106μmから150μmのサイズのRH拡散源を用いた。サンプル10は、250μmから325μmのサイズのRH拡散源を用いた。
【0052】
RH拡散処理時における処理室の温度は、
図2に示すように変化した。
図2は、加熱開始後における処理室温度の変化(ヒートパターン)を示すグラフである。
図2の例では、ヒータによる昇温を行いながら、真空排気を実行した。昇温レートは、約10℃/分である。処理室内の圧力が所望のレベルに達するまで、例えば約600℃に温度を保持した。その後、処理室の回転を開始する。RH拡散処理温度に達するまで昇温を行った。昇温レートは約10℃/分であった。RH拡散処理温度に達した後、所定の時間だけ、その温度に保持した。その後、ヒータによる加熱を停止し、室温程度まで降温させた。その後、ヒータによる加熱を停止し、室温程度まで降温させた。その後、
図1の装置から取り出した焼結磁石体を別の熱処理炉に投入し、RH拡散処理時と同じ雰囲気圧力で第1熱処理(800℃〜950℃×4時間〜6時間)を行い、さらに拡散後の第2熱処理(450℃〜550℃×3時間〜5時間)を行った。ここで、第1熱処理と第2熱処理の処理温度と時間は、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源の投入量、RH拡散源の組成、RH拡散温度等を考慮し設定された。
【0053】
表1中磁気特性はRH拡散処理後における磁石体の各面を0.2mmずつ研削し、7.0mm×7.0mm×7.0mmの立方体に加工した後、B−Hトレーサにてその磁石特性を評価している。表では、「RH拡散源」の欄には、拡散処理工程で使用したRH拡散源の組成およびサイズが示されている。「周速度」の欄には、
図1に示す筒3の内壁面の周速度が示されている。「RH拡散温度」の欄には、拡散処理中において保持される筒3内の温度が示されている。「RH拡散時間」の欄は、RH拡散温度を保持した時間が示されている。「雰囲気圧力」は拡散処理開始時の圧力を示している。RH拡散処理後の保磁力H
cJ増加量を「ΔH
cJ」、RH拡散処理後の残留磁束密度B
r増加量を「ΔB
r」で示している。マイナスの数値はRH拡散処理前のR−T−B系焼結磁石体の磁気特性より低下したことを示している。
【0054】
【表1】
【0055】
表1からわかるように、本発明の範囲では、残留磁束密度の低下を抑え、かつ保磁力が向上していた。サンプル1、2よりRH拡散処理時間を変えるだけでRH拡散処理後の保磁力H
cJ増加量を調整できることがわかった。保磁力のサンプル7、8より本発明の効果は雰囲気圧力が高くとも得られることがわかった。また、サンプル9、10よりRH拡散源のサイズに関係なく本発明の効果が得られることがわかった。
【0056】
(実験例2)
ここで、直径5mmのジルコニア球を重量50g、攪拌補助部材として追加してRH拡散処理、第1熱処理を行った以外は、実験例1と同じ条件でRH拡散処理を行い、磁気特性を評価したところ、表2の結果となった。実質的には数μmサイズであったがサンプル12から18、21はJIS規格 Z−8801による目開き25μmのふるいを通ったRH拡散源を用いた。サンプル19は106μmから150μmのサイズのRH拡散源を用いた。サンプル20は250μmから325μmのサイズのRH拡散源を用いた。
【0057】
表2の通り、サンプル12から20はサンプル1から10と比べてRH拡散処理時間が半分になったにも関わらず、短時間でH
cJの向上効果があり、かつB
rがほとんど低下していないことがわかった。
【0058】
また、表2のサンプル12と表1のサンプル2との比較より直径5mmのジルコニア球の投入のある方が単位時間あたりのRH向上効果が向上することがわかった。これは、ジルコニア球からなる攪拌補助部材が、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体との接触を促進し、かつ攪拌補助部材に付着した重希土類元素RHを焼結磁石体へ間接に供給する効果によるものと考える。欠けの発生も実験1と比べ抑制されていることがわかった。
【0059】
また、サンプル21では、サンプル12で用いたDyF
3からなるRH拡散源とサンプル14で用いたDy
2O
3からなるRH拡散源を混合し用いた。その混合比率は1:1である。サンプル21においても残留磁束密度の低下を抑え、かつ保磁力が向上していた。
【0060】
【表2】
【0061】
以上のことから分かるように、DyおよびTbの少なくとも一方を含むフッ化物、酸化物、酸フッ化物のいずれかからなるRH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とを加熱した処理室内で接触させ、かつ、その接触点が固定されないようにすると、量産に適した方法で重希土類元素RHを効果的に焼結磁石体の粒界内に導入し、それによって磁石特性を向上させることが可能である。
【0062】
なお、本発明の拡散処理で実行可能なヒートパターンは、
図2に示す例に限定されず、他の多様なパターンを採用することができる。また、真空排気は拡散処理が完了し、焼結磁石体が充分に冷却されるまで行ってもよい。