(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
R
2T
14B型化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に使用されている。
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。不可逆熱減磁を回避するため、モータ用等に使用する場合、高温下でも高い保磁力を維持することが要求されている。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、R
2T
14B型化合物相中のRの一部を重希土類金属RHで置換すると、保磁力が向上することが知られている。高温で高い保磁力を得るためには、R−T−B系焼結磁石に重希土類金属RHを多く含有させることが有効である。
しかし、R−T−B系焼結磁石において、Rとして軽希土類元素RLを重希土類元素RHで置換すると、保磁力(以下H
cJ)が向上する一方、残留磁束密度(以下B
r)が低下してしまうという問題がある。また、重希土類元素RHは希少資源であるため、その使用量を削減することが求められている。
【0004】
そこで、近年、B
rを低下させることなく、かつより少ない重希土類元素RHによってR−T−B系焼結磁石のH
cJを向上させることが検討されている。
【0005】
特許文献1には、R−T−B系焼結磁石体と重希土類元素RHの金属または合金からなるRH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入する工程と、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを処理室内で連続的または断続的に移動させながら、500℃以上850℃以下の熱処理を10分以上行うRH拡散工程とにより、B
rを低下させることなくDyやTbの重希土類元素RHを磁石素材の表面から内部に拡散させ、H
cJを向上させるR−T−B系焼結磁石の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、希土類磁石の焼結体に、Dyの鉄化合物又はTbの鉄化合物を含む重希土類化合物を付着させる第1工程と、前記重希土類化合物が付着した希土類磁石の焼結体を熱処理する第2工程により、H
cJを向上させる希土類磁石の製造方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のRH拡散源は、
0.2質量%以上18質量%以下の軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも一種からなる)、
40質量%以上70質量%以下のFe、
残部が重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一種からなる)からなる合金であり、
かつ前記重希土類元素RHと前記Feの質量比がRH:Fe=3:2から3:7である。
【0022】
本発明のR−T−B系焼結磁石の製造方法は、
R−T−B系焼結磁石体(Rは希土類元素、TはFeを主とする遷移金属元素)を準備する工程と、
0.2質量%以上18質量%以下の軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも一種からなる)、
40質量%以上70質量%以下のFe、
残部に重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一種からなる)からなる合金であり、
かつ前記重希土類元素RHと前記Feの質量比がRH:Fe=3:2から3:7であるRH拡散源を準備する工程と、
前記R−T−B系焼結磁石体と前記RH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入し、前記R−T−B系焼結磁石体と前記RH拡散源とを前記処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、前記R−T−B系焼結磁石体および前記RH拡散源を700℃以上1000℃以下の処理温度に加熱するRH拡散工程と、を包含する。
【0023】
本発明の製造方法は、上記RH拡散工程にてRH拡散源自体から液相が生成され、その液相を介して重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体内部に拡散させることができる。
【0024】
また、RH拡散工程における処理温度である700℃以上1000℃以下という温度域は、R−T−B系焼結磁石体内部へのRH拡散処理が速やかに進行する温度範囲であり、重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体内部に拡散させやすい条件でRH拡散工程を実施することができる。
【0025】
このRH拡散工程では、例えば、処理室を回転または揺動させたり、処理室に振動を加えたりすることにより、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを前記処理室内にて連続的にまたは断続的に移動して、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源との接触部の位置を変化させたり、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを近接・離間させながら、重希土類元素RHの供給とR−T−B系焼結磁石体内部への拡散とを同時に実行する。
【0026】
[RH拡散源]
RH拡散源は、
0.2質量%以上18質量%以下の軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも一種からなる)、
40質量%以上70質量%以下のFe、
残部が重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一種からなる)からなる合金であり、
かつ前記重希土類元素RHと前記Feの質量比がRH:Fe=3:2から3:7である。
【0027】
上記組成からなるRH拡散源を用いることで、700℃以上1000℃以下で実施されるRH拡散工程により、効率よくH
cJが向上する。また、このとき溶着の発生もない。この効果は、RH拡散工程中にRH拡散源から軽希土類元素RLを主な成分とする液相が生成し、重希土類元素RHを速やかにR−T−B系焼結磁石体へ供給する一方、RH拡散源内のRHとFeの質量比を3:2から3:7の範囲とすることでRH拡散源内にRHFe
2、RHFe
3、RH
6Fe
23の化合物が存在し、処理中も固相として残存するために溶着が発生しないと推察される。また、本発明のRH拡散源は前記化合物に軽希土類元素RLが固溶しないことから、繰り返し使用してもRH拡散源の初期の能力を維持することができる。
【0028】
ここで、RH拡散源中の軽希土類元素RLの含有量が0.2質量%未満であると、RH拡散工程中にRH拡散源から生成される液相が少なく、RH拡散源中の重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体に効率的に導入することができない。一方、RH拡散源中の軽希土類元素RLの含有量が18質量%を超えると、850℃を超える高温のRH拡散工程を行う場合にR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とが溶着することがある。また、RH拡散源中の軽希土類元素RLの含有量が18質量%を超えると、相対的にRH拡散源中の重希土類元素RHの供給量が減り、H
cJ向上効果が小さくなる場合がある。
【0029】
ここで、RH拡散源のFeの含有量が40質量%未満であると、RH拡散工程中に多くの液相が生成するので、850℃超の高い温度でRH拡散をするとR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とが溶着することがある。一方、Feの含有率が70質量%を超えると、相対的に重希土類元素RHの供給量が低下するので、RH拡散処理をしてもH
cJの向上効果が小さくなる。
【0030】
また、重希土類元素RHとFeとの質量比が3:2から3:7とすることで、前述のように広い温度範囲で溶着することなく、RH拡散工程を実施することができる。Feの質量比が2未満であると溶着が発生し、Feの質量比が7を超えるとRH拡散源中の重希土類元素RHが少ないので、重希土類元素RHの供給量が減少しH
cJ向上効果が小さくなる。
【0031】
本発明のRH拡散源は、少なくとも一部に軽希土類元素RL(PrおよびNdの少なくとも一種からなる)を主とする相を有する。このことで、RH拡散工程においてRH拡散源から液相が生成され、重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石体内部への導入を促進すると考えられる。
【0032】
RH拡散源の形状・大きさは、特に限定されない。RH拡散源の形態は、例えば、球状、線状、板状、粉末など任意である。球状や線状を有する場合、その直径は例えば1mm〜20mmに設定される。粉末の場合、その粒径は、例えば、0.05mm以上5mm以下の範囲に設定される。
【0033】
RH拡散源の作製方法は、一般的な合金溶製法の他、還元拡散法なども利用できる。
合金溶製法は、前記所定の組成になるように原料合金を溶解炉に投入し、溶解した後、冷却して作製される。
一例として、合金溶製法の一種であるストリップキャスティング法ではロール表面速度が0.1m/秒以上10m/秒以下の範囲で回転する銅製の水冷ロールに所定の組成の溶湯を接触させ急冷凝固合金を形成する。得られた急冷凝固合金を機械的方法や水素粉砕法など種々の方法で粉砕する。
他の例として、他の合金溶製法であるインゴット法では、所定の組成の溶湯を水冷銅鋳型に流し込み冷却し、合金インゴットを鋳造する。得られた合金インゴットは機械的方法や水素粉砕法など種々の方法で粉砕する。
RH拡散処理をするR−T−B系焼結磁石体の大きさに照らし、使いやすい大きさとするためにさらにふるいにより粒度調整をしてもよい。
【0034】
[R−T−B系焼結磁石体]
本発明で準備するR−T−B系焼結磁石体は公知の組成からなる。例えば、以下の組成からなる。
希土類元素R:12原子%以上17原子%以下
B(Bの一部はCで置換されていてもよい):5原子%以上8原子%以下
添加元素M(Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種を含む):0原子%以上2原子%以下
T(Feを主とする遷移金属元素)および不可避不純物:残部
ここで、希土類元素Rは、主として軽希土類元素(Nd、Prの少なくとも1種を含む)から選択される少なくとも1種の元素であるが、重希土類元素を含有していてもよい。なお、重希土類元素を含有する場合は、DyおよびTbの少なくとも一方を含むことが好ましい。
上記組成のR−T−B系焼結磁石体(RH拡散工程を実施する前の磁石)は、公知の希土類焼結磁石の製造方法によって製造される。
【0035】
[攪拌補助部材]
本発明の実施形態では、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源に加えて、攪拌補助部材を処理室内に装入することが好ましい。攪拌補助部材はRH拡散源とR−T−B系焼結磁石体との接触を促進し、また攪拌補助部材に一旦付着した重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体へ間接的に供給する役割をする。さらに、攪拌補助部材は、処理室内において、R−T−B系焼結磁石体同士やR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源との接触による欠けを防ぐ役割もある。
【0036】
攪拌補助部材は、RH拡散工程中にR−T−B系焼結磁石体およびRH拡散源と接触しても、反応しにくい材料から形成されることが好ましい。攪拌補助部材としてはジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素並びに窒化硼素、または、これらの混合物のセラミックスから好適に形成され得る。また、Mo、W、Nb、Ta、Hf、Zrとを含む族の元素、または、これらの混合物からも形成される。
【0037】
[RH拡散工程]
RH拡散工程において、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを処理室内に連続的または断続的に移動させる方法は、R−T−B系焼結磁石体に欠けや割れを発生させることなく、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体との相互配置関係を変動させることが可能であれば、公知の方法が採用される。例えば、処理室を回転したり、揺動したり、外部から処理室に振動を加えたりする方法が採用できる。また、処理室を固定し処理室内に設けた攪拌手段による方法でもよい。
【0038】
図3を参照しながら、本発明によるRH拡散工程の好ましい例を説明する。
図3に示す例では、R−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2がステンレス製の筒3の内部に装入されている。この例では、筒3が「処理室」として機能する。筒3の材料は、ステンレスに限定されず、RH拡散工程における処理温度に耐える耐熱性を有し、R−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2と反応しにくい材料であれば任意である。例えば、Nb、Mo、Wまたはそれらの少なくとも1種を含む合金を用いてもよい。筒3には開閉または取り外し可能な蓋5が設けられている。また筒3の内壁には、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とが効率的に移動と接触を行い得るように、突起物を設置することができる。筒3の長軸方向に垂直な断面形状も、円に限定されず、楕円または多角形、あるいはその他の形状であってもよい。
図3に示す状態の筒3は排気装置6と連結されている。排気装置6の働きにより、筒3の内部は減圧され得る。筒3の内部には、不図示のガスボンベからArなどの不活性ガスが導入される。
【0039】
次に、
図3の処理装置を用いて行うRH拡散工程の操作手順を説明する。
まず、蓋5を筒3から取り外し、筒3の内部を開放する。複数のR−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2を筒3の内部に装入した後、再び、蓋5を筒3に取り付ける。筒3の内部を排気装置6により真空排気する。筒3の内部圧力が充分に低下した後、真空排気を止め、必要圧力まで不活性ガスを導入し、モータ7によって筒3を回転させながら、ヒータ4による加熱を実行する。
【0040】
RH拡散工程における筒3の内部は不活性雰囲気であることが好ましい。本明細書における「不活性雰囲気」とは、真空、または不活性ガス雰囲気を含むものとする。また、「不活性ガス」は、例えばアルゴン(Ar)などの希ガスであるが、R−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2との間で化学的に反応しないガスであれば、「不活性ガス」に含まれ得る。不活性ガスの圧力は、大気圧以下であることが好ましい。筒3の内部においてRH拡散源2とR−T−B系焼結磁石体1とが近接または接触しているため、1Pa以上の高い雰囲気圧力でも効率よくRH拡散工程ができる。また、雰囲気圧力と重希土類元素RHの供給量との相関は比較的小さく、H
cJの向上度にあまり影響しない。R−T−B系焼結磁石体への重希土類元素RHの供給量は、雰囲気圧力よりもR−T−B系焼結磁石体の温度に敏感である。
RH拡散工程時における雰囲気ガスの圧力(処理室内の雰囲気圧力)は、例えば0.1Paから大気圧の範囲内に設定される。
【0041】
筒3は、その外周部に配置されたヒータ4によって加熱される。筒3の加熱により、その内部に収納されたR−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2も加熱される。筒3は、中心軸の回りに回転可能に支持されており、ヒータ4による加熱中もモータ7によって回転することができる。筒3の回転速度は、例えば筒3の内壁面の周速度が毎秒0.01m以上に設定される。回転により筒内のR−T−B系焼結磁石体同士が激しく接触して欠けないよう、毎秒0.5m以下に設定するのが好ましい。
図3のRH拡散処理装置を用いたRH拡散工程時における処理室の内壁面の周速度は、例えば0.01m/s以上に設定される。回転速度が小さくなると、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とが接触したままになり、溶着が発生しやすくなる。このため、処理温度が高いほど、処理室の回転速度を高めることが好ましい。好ましい回転速度は、処理温度のみならず、R−T−B系焼結磁石体の形状、大きさおよびRH拡散源の形状、大きさによって決まる。
【0042】
ヒータ4を用いた加熱により、RH拡散源2およびR−T−B系焼結磁石体1の処理温度を700℃以上1000℃以下の範囲内に保持する。この温度範囲は、重希土類元素RHがR−T−B系焼結磁石体内部へ速やかに拡散するのに好ましい温度領域である。好ましくは800℃以上1000℃以下である。さらに好ましくは850℃以上1000℃以下である。処理温度が1000℃を超えると、RH拡散源2とR−T−B系焼結磁石体1とが溶着してしまう問題が生じ、一方、処理温度が700℃未満では、処理に長時間を要する。また、700℃未満で長時間RH拡散をするとB
rが低下する恐れもある。
【0043】
RH拡散工程の時間は、例えば10分から72時間である。好ましくは1時間から12時間である。保持時間は、RH拡散工程をする際のR−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2の装入量の比率、R−T−B系焼結磁石体1の形状、RH拡散源の形状、および、RH拡散処理によってR−T−B系焼結磁石体1に拡散されるべき重希土類元素RHの供給量などを考慮して決められる。
【0044】
[第1熱処理]
RH拡散工程後に、拡散された重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体1内により奥深くまで拡散する目的でR−T−B系焼結磁石体1に対する第1熱処理を行っても良い。第1熱処理は、R−T−B系焼結磁石体をRH拡散源から分離した後、重希土類元素RHがR−T−B系焼結磁石体内部に拡散し得る700℃以上1000℃以下の範囲で行い、より好ましくは800℃以上950℃以下の温度で実行される。この第1熱処理では、R−T−B系焼結磁石体1に対して重希土類元素RHの更なる供給は生じないが、R−T−B系焼結磁石体の表面側から奥深くに重希土類元素RHを拡散し、磁石全体としてH
cJを高めることが可能になる。第1熱処理の時間は、例えば10分から72時間である。好ましくは1時間から12時間である。ここで、第1熱処理を行なう処理室内の雰囲気は不活性雰囲気で、雰囲気圧力は特に限定されないが大気圧以下が好ましい。第一熱処理は、RH拡散処理で用いた装置内で行ってもよいし、別の熱処理装置で行ってもよい。
【0045】
[第2熱処理]
また、必要に応じてさらに第2熱処理(400℃以上700℃以下)を行うが、第2熱処理を行う場合は、第1熱処理の後に行うことが好ましい。第2熱処理の時間は、例えば10分から72時間である。好ましくは1時間から12時間である。ここで、第2熱処理を行なう処理室内の雰囲気は不活性雰囲気で、雰囲気圧力は特に限定されないが大気圧以下が好ましい。また、第1熱処理と第2熱処理とは、同じ熱処理装置で行っても良いし、別の熱処理装置で行ってもよい。
【0046】
(実験例1)(RH拡散処理の効率)
まず、組成比Nd=28.5、Pr=1.0、Dy=0.5、B=1.0、Co=0.9、Al=0.1、Cu=0.1、残部=Fe(質量%)のR−T−B系焼結磁石体を作製した。これを機械加工することにより、7.4mm×7.4mm×7.4mmの立方体のR−T−B系焼結磁石体を得た。作製したR−T−B系焼結磁石体の磁気特性をB−Hトレーサによって測定したところ、熱処理(500℃×1時間)後の特性でH
cJは960kA/m、B
rは1.41Tであった。この値を以下各実験例の特性評価の基準とした。
【0047】
RH拡散源は、表1に記載の所定の組成になるようにNd、Dy、Feを秤量し、高周波溶解炉で溶解した後、ロール表面速度が2m/秒で回転する銅製の水冷ロールに溶湯を接触させ急冷凝固合金を形成し、スタンプミル、水素粉砕などで粉砕し、ふるい目で3mm以下に粒度調整をして作製した。
【0048】
次に、
図3の装置を用いてRH拡散工程を実行した。筒の容積:128000mm
3、R−T−B系焼結磁石体の投入重量:50g、RH拡散源の投入重量:50gであった。RH拡散源は直径3mm以下の不定形のものを用いた。
【0049】
RH拡散工程は、処理室内を真空排気した後、アルゴンガスを導入し処理室内の圧力を5Paとし、その後、処理室を回転させながら、RH拡散温度(820℃)に達するまでヒーター4により昇温を行った。昇温中の圧力変動に対してはArガスの放出又は供給を適宜行い、5Paを維持した。昇温レートは約10℃/分であった。RH拡散温度に達した後、所定の時間、その温度に保持した。その後、加熱を停止し、室温まで降温させた。その後、
図3の装置からRH拡散源を取り出した後、残ったR−T−B系焼結磁石に対し雰囲気圧力5PaのAr中で第1熱処理(900℃、3時間)を行ない、ひきつづき拡散後の第2熱処理(500℃、1時間)を行なった。
【0050】
ここで、磁気特性はRH拡散処理後におけるR−T−B系焼結磁石体の各面を0.2mmずつ研削し、7.0mm×7.0mm×7.0mmの立方体に加工した後、B−Hトレーサーにてその磁石特性を評価した。表1では、「RH拡散源」の欄には、使用したRH拡散源の組成が示されている。
「RHに対するFeの比率」の欄には、RH拡散源に含まれる重希土類元素RHを質量比で3としたときのFeの質量比を示している。「周速度」の欄には、
図3に示す筒3の内壁面の周速度が示されている。「RH拡散温度」の欄には、RH拡散処理の温度が示されている。「RH拡散時間」の欄は、RH拡散温度を保持した時間が示されている。「雰囲気圧力」はRH拡散工程における筒3内の雰囲気圧力を示している。
【0051】
表1に記載の通り、サンプル1、2、3、4は、本発明のRH拡散源を用いて、周速度、RH拡散処理温度、雰囲気圧力を同一としてそれぞれ2時間、4時間、6時間、8時間と異なる処理時間にてRH拡散工程を行った。そのときのB
r、H
cJの値は表2の通りである。サンプル5、6、7、8は軽希土類元素RLを含まないこととDy量を除いて、それぞれサンプル1、2、3、4と同じ条件にてRH拡散工程を行った。サンプル1から4を本発明1、サンプル5から8を比較例1としてΔH
cJの値の変化を
図1にて示す。
図1より本発明のRH拡散源を用いた場合、短時間のRH拡散工程でH
cJが向上することがわかった。
なお、いずれのサンプルについてもB
rの変化はなく、RH拡散工程中の溶着も発生しなかった。
【0054】
(実験例2) (溶着の有無、RH拡散の温度)
表3に記載の条件で、記載のない条件、方法は実験例1と同様にR−T−B系焼結磁石を作製した。
RH拡散工程を異なる温度(600℃、700℃、800℃、850℃、900℃、1000℃、1020℃)で行ったときの溶着の有無は表3の結果となった。
サンプル9から17は本発明のRH拡散源を用いたものであり、サンプル18から30は比較例である。
表3において、RH拡散工程後のH
cJ増加量を「ΔH
cJ」、RH拡散工程後のB
r増加量を「ΔB
r」で示している。マイナスの数値はRH拡散処理なしのR−T−B系焼結磁石体の磁気特性より低下したことを示している。「溶着の有無」で、有はRH拡散工程後RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とが溶着したことを示している。
【0055】
表3より、サンプル10から14に示すように700℃から1000℃の範囲では溶着が発生しないことがわかった。表3のサンプル9からサンプル30までのB
r、H
cJの値は表4の通りである。
【0056】
本発明のRH拡散源を用いても、1020℃でRH拡散工程を行った場合、サンプル9に示したように溶着が発生した。従って、1000℃以下でRH拡散工程をする必要がある。
一方、本発明のRH拡散源を用いても、600℃でRH拡散工程を行った場合、サンプル15に示したようにH
cJ向上効果が小さかった。従って、RH拡散工程の温度は、700℃以上1000℃以下が適正範囲であると判断できる。
【0057】
一方、Dyを拡散源として用いた場合、サンプル18から23に示すように850℃、900℃、1000℃では溶着が発生した。Dy−Fe合金を拡散源として用い、拡散工程を行った場合、サンプル25から29に示すように700℃から1000℃の範囲では溶着が発生しなかったが、サンプル10から14に比べ、いずれもΔH
cJは小さかった。
サンプル24は1020℃で拡散工程を行った場合を示し、溶着が発生した。サンプル30に示すように600℃でRH拡散工程をした場合、H
cJ向上効果が小さかった。
【0058】
サンプル10から14を本発明2、サンプル18から22を比較例2、サンプル25から29を比較例3としてΔH
cJの値の変化を
図2にて示す。
図2より本発明2は、比較例2、3と比べ700℃から1000℃の範囲の広い温度範囲で高いΔH
cJ向上効果があることがわかる。
【0059】
また、サンプル14のRH拡散処理時間を15時間にしたサンプル16の磁気特性は、サンプル14と比べてややΔH
cJが向上していた。
【0060】
サンプル17は600℃のRH拡散工程において、RH拡散処理時間を15時間にしたものである。サンプル17の磁気特性を測定したところ、サンプル15と比べてΔH
cJはわずかに向上したがB
rが低下し、本発明のRH拡散源を用いても600℃でRH拡散工程を長時間行うと、重希土類元素RHが焼結磁石体表層付近の主相中心部付近まで主相に溶け込み、B
rが低下する。
【0061】
なお、Dyが100%であるDyメタルは酸化しやすく、大気中での取り扱いでは発火の問題がある等、作業性に困難が伴うので好ましくない。
【0064】
(実験例3)(RH拡散処理時間の影響)
表5に記載の条件以外は、実験例1と同じ条件、方法にてR−T−B系焼結磁石を作製した。
RH拡散処理時間の影響について、表5の通りRH拡散処理時間を変えてRH拡散処理を行ったところ、900℃のRH拡散工程では4時間以降はΔH
cJに大きな変化がなかった(サンプル33から36)。表5のサンプル31からサンプル36までのB
r、H
cJの値は表6の通りである。
【0067】
(実験例4) (軽希土類元素RLの適正量)
表7に記載の条件以外は、実験例1と同じ条件、方法にてR−T−B系焼結磁石を作製した。
Nd量を0質量%、0.2質量%、1質量%、3質量%、6質量%、9質量%、12質量%、18質量%、24質量%、30質量%と変え、RHとFeの比率を変えたRH拡散源を用いて、RH拡散工程を行い、磁気特性を測定した。
検討した結果は表7の通りである。表7のサンプル37からサンプル46までのB
r、H
cJの値は表8の通りである。
【0070】
Nd量が0.2質量%以上18質量%以下のRH拡散源にてRH拡散工程を950℃、4時間行ったサンプル38から44は、Nd量が0質量%のRH拡散源にてRH拡散工程を4時間行ったサンプル37と比べ、高いΔH
cJを得ることができ、いずれも良好な磁気特性が得られた。
【0071】
0.2質量%以上18質量%以下のNdが含まれていることでDy量が少なくても効率よくDyをR−T−B系焼結磁石体に導入できた。
【0072】
一方、サンプル45、46では溶着が発生し、磁気特性を測定できなかった。
【0073】
(実験例5)(RH拡散処理時の雰囲気圧力の影響)
表9に記載の条件以外は、実験例1と同じ条件、方法にてR−T−B系焼結磁石を作製した。
RH拡散時の雰囲気圧力の影響について、表9の通り種々の雰囲気圧力でRH拡散工程を行ったところ、雰囲気圧力が0.1Paから100000Paの間(サンプル47から56)では、圧力に関係なくH
cJが向上した。表9のサンプル47からサンプル56までのB
r、H
cJの値は表10の通りである。
【0076】
(実験例6)(RHとFeの比率)
表11に記載の条件以外は、実験例1と同じ条件、方法にてR−T−B系焼結磁石を作製した。表11のサンプル57からサンプル64までのB
r、H
cJの値は表12の通りである。
920℃でRH拡散工程を行ったところ、Nd量が0.2質量%以上18質量%以下であり、重希土類元素RHであるDyとFeとの比率が3:2から3:7である本発明のRH拡散源(サンプル58から62)では、溶着がなくRH拡散処理できることがわかる。
Dyに対するFeの質量比が、2未満であるサンプル57では溶着が発生し、7を超えるサンプル63、64はNdを添加したことによるH
cJ向上効果が小さかった。
【0078】
実験例6の結果より、本発明のRH拡散源は、RHとFeとの質量比を3:2から3:7にすることで溶着もなく、効率よくRH拡散をすることができた。
【0080】
(実験例7)(NdをPrに置換、DyをTbに置換)
表13に記載の条件以外は、実験例1と同じ条件、方法にてR−T−B系焼結磁石を作製した。表13のサンプル65からサンプル68までのB
r、H
cJの値は表14の通りである。
サンプル40のRH拡散源中のNdをPrに全部置換したところ(サンプル65)、RH拡散工程による保磁力向上効果はサンプル40と同じであった。
サンプル41のRH拡散源中のNdをPrに一部置換したところ(サンプル66)、RH拡散工程による保磁力向上効果はサンプル41と同じであった。
サンプル40のRH拡散源中のDyを一部Tbに置換したところ(サンプル67)、Tbに置き換わったことによってサンプル40よりもH
cJが高まった。
サンプル40のRH拡散源中のDyをTbに全部置換したところ(サンプル68)、Tbに置き換わったことによってサンプル40よりもH
cJがさらに高まった。
【0083】
(実験例8)(RH拡散処理容器の周速度の影響)
表15に記載の条件以外は、実験例1と同じ条件、方法にてR−T−B系焼結磁石を作製した。
RH拡散時のRH拡散処理容器の周速度の影響について、表15の通り周速度を変えてRH拡散処理を行ったところ、920℃のRH拡散工程では周速度を0.01m/sから0.50m/sの間(サンプル69から74)で変えても、H
cJの向上効果に大きな影響がなかった。表15のサンプル69からサンプル74までのB
r、H
cJの値は表16の通りである。
【0086】
なお、本発明の拡散処理で実行可能なヒートパターンは、実験例に限定されず、他の多様なパターンを採用することができる。また、真空排気は拡散処理が完了し、焼結磁石体が充分に冷却されるまで行っても
よい。